超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
神生オデッセフィアへの…イリゼからの、招待。初め俺は、行こうとは思っていなかった。行かない理由、行けない理由、行きたくない理由…真っ当なものから今思えば馬鹿馬鹿しいものまで、断る理由なら幾らでもあった。恐らくイリゼも、食い下がる事はなかっただろう。
だが、俺は今来ている。イリゼの招待に応じ、神生オデッセフィアに…俺の次元と対極の未来を、明日を手に入れた世界へと。確たる理由があった訳じゃない。何故来る事を決めたのかと訊かれれば、「さぁな」としか返せない。それ程までに、俺自身にとっても来ようと思った、決めた理由は曖昧模糊で……それでも理由を言葉にするとしたら、きっと…見てみたかった、からだろう。イリゼの歩む、イリゼの創る、未来を。
そして、その判断は、そう思った心は、間違いではなかった。最初の一日で俺はそう感じ、もう少し居てもいいと思えた。時には明るい場所で、眩しさを感じる時間を過ごすのも悪くないじゃないかと…そう、思っていたというのに──。
「嘘、でしょ……」
「そんな…馬鹿な……」
他に倒れ伏す、少女達の姿。瞳も、声も、信じ難い…認める事など出来よう筈もない現実を前に、震え、力を失っていく。
それは、蹂躙だった。手を抜いていた素振りも、油断していた様子も、一切なかった。にも関わらず、全員が全力で戦ったにも関わらず、あまりにも一方的な…いっそ暴力的な程の『差』を、『結果』を見せ付けられ、刻み付けられ…一度足りとも可能性が生まれる事なく、終わった。彼女達は強い。力だけでなく、心の強さも持ち合わせている。それでも折れてしまうのではないかと思う程の……蹂躙だった。
「あははははははははっ!さぁどうする?もう終わり?それともまだ立ち上がる?…どっちでもいいよ?好きな方を選べばいいよ?どっちを選んでも…今負けて終わるか、もっと敗北を重ねて負けるかの違いでしかないんだから」
高笑いが、響く。彼女達と正対する…否、彼女達が倒れ伏すまでは正対していた存在が、理不尽な程の力を振るった非常識そのものが、余裕に満ちた笑い声を響かせる。
誰が、こうなる事を想像しただろうか。誰が想像出来ただろうか。明るく、優しく、温かい…そんなひと時が、無残にも崩れ落ち、戦慄が空気を支配するなどという事を。嗚呼、本当に…どうしてこうなってしまったのか。
*
時間は、少し前へと遡る。それは、一行が昼食を終え、次は何をするかという話に入った、その時だった。
「ね、皆。昨日はスポーツより遊びの方が…ってなったけど、一応球技系の道具は幾つか用意してあるから、これを使ってくれても構わないよ」
発言と共に並べられる、複数種のボールや道具。どれどれ、と並べられた道具を各々が見に行き、尚且つ触れる。
「今いるのは十八人だから……あ、野球をフルメンバーで出来るな。…って思うと、ほんとに多いな人数……」
「あ、野球じゃなくてサッカーだったら、僕の代わりにエースバーンのバックスに出てもらってもいいのかなぁ…絶対僕より上手くやれるだろうし…」
「球技、私はどれもあんまりやった事ないな…ケイドロよりルールもきっちりしてる筈だし、私は遠慮しておこうかな……」
「いやいやルナ、そうとも限らないかもしれないよ?もしかしたらここから、サポートしてくれるメカもイリゼが出して、エクストリームでハーツなスポーツをって流れも……」
「うん、残念だけどそこまではないかな…あってもルール面の問題は解決しないし……」
「単純なルールの球技であれば、ドッジ……あ、やっぱり何でもないです…」
カイトがバットを、愛月がサッカーボールを持ち、それぞれに呟く。ルナにネプテューヌ、イリゼのやり取りを聞いていたビッキィは、ドッジボールと言おうとしだが、身体能力のばらつきが大き過ぎるこの面々でボールのぶつけ合いをしようものなら、大変な事になると気付いて撤回。それは他の皆にも伝わったらしく、確かになぁ…と全員で苦笑。
「球技…となると、ルールの他にも人数や、道具の数の問題もありますね。全員で何か一つを、というのも良いですが、各々やりたいと思ったものを行う、或いはのんびりと眺めるというのも選択肢としては有りかと」
「確かにねー。何か一つを全員でやらなきゃ、なんて決まりはないし、やりたいようにするのがいいんじゃない?」
「だったら私は、少し休憩させてもらおうかしら。さっきまでと同じ調子で球技までやってたら、今は良くても後が大変になりそうだし…」
「私も取り敢えずはそうしようかな…風が気持ち良いし、のんびりするのも一興…なんてね」
顎に手を当てて言ったワイトの発言に、エストが同意。それを受け、イヴとピーシェは眺める事を選び…ケイドロの際も初めは遠慮する事を考えていた二人は、気が合うな、と軽く肩を竦め合う。
「ディール、これは手袋?…固い……」
「それはグローブっていう、ボールを取る為の道具だよ。…あ、違う違う。取るのはその大きいボールじゃなくて、この小さいボールでね……」
「凄く平和な光景だ…。…いやほんと、誰かが落ちてくる訳でも、帰る手段を探す必要がある訳でもないって、平和だ……」
「だなー。けど、前の時に色々あった騒ぎの内一つは、ビッキィが原因じゃなかったか?」
「それは……か、返す言葉もない…」
「…おや?イリゼ君、それは…テニスのラケットか」
「うん、そうだよ。私、テニスは得意だからね」
ふと向けられた問いに対し、素振りをしながら答えたのはイリゼ。やる?とイリゼが返せば、ズェピアは曖昧な笑みで遠慮をし、代わりに茜が声を上げる。
「そういえばぜーちゃん、テニスゲームの時は物凄く強かったもんねー。手合わせの時も結局負けちゃったし、ここは一つ、テニスでリベンジさせてもらおーかな?」
「え?…や、私はいいけど…リベンジって事なら、お勧めはしないよ?私、ほんとテニスに関しては負ける気がしないし」
「おー、言うねぇぜーちゃん。ならリベンジはまた別の機会に、って事にして、取り敢えず軽くやろ?」
(さらっとリベンジを取り下げたな…イリゼの口ぶりから危険察知したって事なのか、それとも単に気分で言ってるだけなのか……)
発言の内容に影が思考する中、茜はラケットを一つ手に取り、自身の能力を用いて地面へ正確なコートを描く。その間にイリゼはネットを張り、簡易的なテニスコートを作り…テニス開始。
「まずはちょっとラリーしよっか。はいっ」
「だねー、ほいっ」
「楽しそうだねぇ…よーし、わたしはサッカーやろーっと。愛野ー、サッカーやろうぜー」
「なんか違うの混じってる気がするよお姉ちゃん…でも二人だけじゃ足りなくない?」
「なら、俺もいいか?テニス見てるのも悪くないが…やっぱり、自分も何かした方が楽しいだろうしさ」
「わたしもいいですか?わたしも見てるよりはやりたいタイプですので」
「だったら俺も…って思ったけど、それじゃ五人か…ルナー、ルナも一緒にどうよ?」
「私も?…うーん、いいけどあんまり期待しないでね?」
軽快な音と共に、テニスボールが行き来する。それを見ていたネプテューヌが愛月を誘った事を切っ掛けに、別の場所では六人の小規模サッカーが開始される。イリスが球技の道具へ本格的な興味を示し始めた事で、ディールとエストは解説をしており、残りの者はそれ等を眺めながら軽く雑談、という構図が出来上がり、また和気藹々とした時間が流れる…かと、思われた。
「そろそろゲームに移ってみる?茜、最初のサーブは譲るよ?」
「そう?じゃ、まずはこの辺りに……」
「──ふ…ッ!」
「えっ?」
だが、和やかな雰囲気は一瞬固まる。小手調べのように放たれたサーブに対し、これまでとは一変した速度で反応したイリゼがラケットを振り抜き、間髪入れずに茜側のコートへボールを叩き付けた事で。
その豹変した動きに、目を丸くする茜。対するイリゼは小さく息を吐くと、「さぁ、続きやろ?」と軽く言い…この時点で、茜は理解していた。イリゼの言葉に、態度に、嘘や誇張は一切ないと。そして数分後…早くも1ゲームが終了する。イリゼの、ストレート勝ちという結果と共に。
「ふぅ、流石茜。攻守共に緻密さが凄いね」
「は、はは…どうしよう、ぜーちゃんの言葉が嫌味にしか聞こえない……」
余裕綽々且つ、清々しそうな表情でイリゼは言う。言葉そのものは彼女らしい、しかし結果と合わせるといっそ嘲笑してるとすら思えそうな発言には、流石の茜も普段の朗らかな様子では返せず…そのすぐ後に、気付く。イリゼはまだ何も言っていない。だが…その顔付きには、まだまだやりたいという感情が醸し出されている事に。
「え、えー君ヘルプミー…ってうとうとしてる!?まさかさっき、調子に乗って食べさせ過ぎたから、血糖値が上がって…?」
「あ、そういえば影さっき、『インスリンが…血糖値の急上昇による反応が……』って、某スーパーリケイ人みたいな事言ってたわね」
「やっぱりぃ…ならせーちゃん…は、普通にぜーちゃんの味方っぽいし……」
「…え、ウチッスか?なんか面倒な事になりそうッスし、あんまり気乗りしないんッスけど……」
「助太刀って事なら、二人同時でも構わないよ?一人でも二人でも変わらないからね」
「……前言撤回ッス。なら言葉通り、二人でやらせてもらおうッスかねぇ…」
「ふーむ、珍しく煽るねイリゼ君…単にテンションが上がっている、という訳ではないようだが、さて…」
ベンチから立ち上がり、軽く首を回しながらテニスラケットを手に取るアイ。あ、乗るんだ…とイヴやピーシェが見る中、アイは茜と同じコートに立つ。
「ふふん、シノちゃんとなら余裕…と、言いたいところだけど、しょーじきぜーちゃんの動きは色々おかしいからね…絶対油断しちゃ駄目だよ?」
「おかしい、っていうのは見た目以上に…茜から見ても、って事ッスか?…なら、茜には後衛を頼むッス。後ろから指示を出してくれれば、出来る限り合わせるッス」
「りょーかい、それじゃあ…本当に一人でも二人でも変わらないかどうか、試させてもらうよぜーちゃん!」
前後に分かれた二人が構える。イリゼも構え直し、二ゲーム目という事で、イリゼのサーブから始まり…鋭く放たれたそれを、茜が返す。
「ほッ!」
「お、っとぉ!」
「やるね!」
「……!シノちゃん前!弱いの来るよ!」
指示を受けたアイが前に跳べば、イリゼは敢えて弱く、相手コートの前方へ落とすような打ち方で返す。狙った通りの返球を、アイは掬うように打ち返し、ラリーが続く。
「つぁ…!これ、コート上だと…余計無茶苦茶に、見えるッスね…!」
「そう、でしょ…?…あ、シノちゃん左!左前…じゃない!ちょっと戻って!」
「うぇっ!?こ、のぉ…!」
「へぇ、今のを返すんだ…ならこれはどうかなッ!」
「なッ……」
的確な指示と女神ならではの身体能力、反応速度を用いてアイは次々と打ち返す…が、次第に茜の指示が間に合わなくなり、ギリギリで返して体勢を崩したアイの逆サイドへと鋭いスマッシュが打ち込まれた。
追い付かない茜の指示。だがそれも当然の事。後衛故の広い視野と、二人である事による心身の余裕で動きを見切る事は出来ても、それを正確にしている内にボールが返ってきてしまうのだから。
そしてその読みも、イリゼのおかしい…速い、や巧み、の域を超えた、いっそ異常な動きの前には対応し切れず、段々と二人は追い詰められていく。それでも何とか、それぞれが持ち味を活かして喰らい付いていくが……
「ふふっ、やっぱりテニスはボールが返ってきてこそだよね。まだまだギア上げていくよッ!」
「え、ちょっ…まだギア上がるの!?」
ラインギリギリに打たれたボールを、間一髪茜が拾い、次なる一手をアイが渾身の力で打ち込む。
前方寄りだったイリゼの逆を突く、後方へ向けた強力な一発。それは常人には勿論、女神であっても位置の関係上対応するのは難しい攻撃であり……しかしイリゼの姿がブレたように見えた直後、打ち込まれていたボールは茜・アイ組の方へと戻ってきていた。唖然とする二人の視界の中では、既にイリゼがラケットを振り終えていた。
「…茜が、視界の中の動きを捉え切れていない…?…動体視力を遥かに超えた動き…いや、違う…これはそんな、論理的な説明の付く事象じゃない……」
「…それは、論理的な説明が付かない…という事かい?……というか、起きてたんだね影君…」
「俺にもまだよく分からない、今のところはそう思った…というだけだ。…後、別に寝てない。眠くはなっていたが」
((あ、そこ気にする(のか・のね・んだ)……))
ぼそっ、と呟き付け加えた影。その間もテニスは続いており…言葉通りにギアの上がったイリゼの動きに、いよいよ二人は追い付かなくなる。一対二をものともしないどころか、圧倒すらし始めるイリゼの動きは、確かに論理的な説明が出来そうもない程であり…二ゲーム目も、終わる。
「……っ…二人掛かりでも、ストレート…?」
「あれだけ無茶苦茶な動きをされたのに、まだ全然底が見えないなんて…どうなってるの、ぜーちゃん……」
「ふふふっ、付き合ってくれてありがと二人共。けど、取り敢えず私はもういいかな。それなりに楽しめたし、折角色んな人がいるのに私とテニスばっかりじゃ勿体ないでしょ?」
歴戦の女神と、幾度も死線を潜り抜けてきた勇士。どちらも自他共に認める実力者であり、対等な条件であればそうそう土をつけられる事などない…仮にそうなったとしても、一矢足りとも報いず終わりなどはしないアイと茜。…だからこそ、そんな二人であるが故に、その場の誰よりも目の前の現実に愕然としていた。対等どころか有利な条件ですら、届かない…下手すると、全力を引き出し切れてすらいない現実に、動揺を隠せず……そんな中でイリゼが発した、感謝と気遣いの言葉。イリゼからすれば、他意はなかったのかもしれないが…その言葉に、二人は肩を震わせた。
「…ぜーちゃん、今のは聞き捨てならないかなぁ…。それなりに楽しめた、って…余興程度だって言ってるようなものだよね?」
「へ?あ、いや…そういうつもりで言った訳じゃ……」
「無自覚、ッスか…それで『もういい』とか、正直気に食わないッスね」
「うん、気に食わないね。ぜーちゃんには悪いけど」
アイコンタクトを取るように、頷き合う二人。どうやら本当に無自覚だったらしいイリゼが言葉に詰まる中、二人は構え直し…続行の意思を見せる。
そうして始まる三ゲーム目。連続で行っている分の疲労は確かにある筈だが、茜もアイもそんな素振りを見せる事はなく、機敏な動きで打っては返す。
「ぜーちゃんのペースになったら勝てない…だからどんどん攻めていくよ!」
「ウチは最初から、そのつもり…ッスよ!」
攻めるの言葉通り、二人は次々と仕掛けていく。ライン際を狙った打ち込みは勿論、緩急を付けた返球や、時には意表を突いてイリゼの足元へとスマッシュを放つなど、攻撃の手を緩めない。
前のめりな攻勢故に、失点のペースは先程より早い。だが二人は気にしていない。守りに入り、ジリジリと追い詰められていくよりは、仕掛け続け、攻め続けて流れを変える事を、待つのではなく自ら突破口を作り、こじ開ける事を選んでいた。
「ここなら、どうッ!?」
「お、っとと…なら私も、そーれぇッ!」
「おわッ!?」
二人いる事も活かし、アイは打ち返す…と見せかけて横へ避ける。直後、その背後にいた茜が打ち返し、連携技で惑わされたイリゼは反応が一瞬遅れる……が、打ち損じ気味だった筈のボールは、何故か空中で加速し戻ってくる。反射的にアイは打つも、ボールは明後日の方向に行ってしまい…茜・アイチームは連敗を喫する。
「今の、よく打てたね…やっぱり反射神経が凄い相手だと、油断出来ないや…」
「だから何ッスかその気遣い風煽りは!ほんとにわざとじゃないんッスよねぇ!?」
「え、えぇ!?いや、その…ごめんね?」
「うーん、このぜーちゃんはタチが悪い…シノちゃん、まだやれる?」
「当然!こうなったら徹底的にやってやるッスよ!」
すぐに二人は次戦への意欲を見せる。連戦でも疲労を見せない事に加え、連続で完敗しようとも気力が減衰しないどころか増していくさまは、やはり二人が強者である事を示している…が、それでもイリゼとの差は埋まらない。それどころか、勝負を重ねる毎にイリゼはイリゼで調子が上がっているようで、二人の攻勢が跳ね返される。ボールもイリゼ自身もしばしば動きがおかしくなり、異常な挙動に二人は翻弄されてしまう。
「んなぁ!?い、今ボールが二つになってなかったッスか!?」
「さ、錯覚とかじゃないよね!?今一瞬、ほんとに二つになってたよね!?なんで!?」
「何言ってるの二人共。それよりまだやる?やるならもっと、二人の力を見せてくれるかな?…それなりに楽しめた、なんかじゃ終わらせないんでしょ?」
明らかにおかしい事象が起きようと、イリゼは平然と勝負を続ける。それもまた二人の調子を狂わせ、見せる事はなくとも連戦の疲れは少しずつ蓄積していき、気持ちとは裏腹に陰り始める二人の攻勢。
対照的にイリゼの調子は上がる一方であり、段々とラリーが続かなくなる。数度の往復で、イリゼ側に点が入ってしまうようになる。そして……
「これで何連勝目、だったかな。…ま、いいや。二人共、そろそろマンネリしてきたし…ちょっと趣向を凝らしてみようか」
『趣向…?』
「ほら、よくあるでしょ?これに勝ったら○○〜、って。そうだなぁ、二人には…そうだ、私…っていうか信次元じゃ暫く前から女神が時々コンサートしてるの話したっけ?折角だから、それに付き合ってよ。勿論色々と配慮はするからさ」
ひらひらとラケットを揺らしながら、趣向を凝らすと言うイリゼ。思い付きで言っているらしい彼女の言葉に、二人は呆気に取られる…が、さも当然の様にイリゼは続ける。
「あ、心配しないで。何も私だって、一勝でそうしてもらおうとは思ってないから。三連勝…いや、五連勝でどう?」
「…………」
「…………」
「…二人共?もしかして、気乗りしない感じ?まあ、それなら仕方ないよね。言っておいてアレだけど、連勝してる時に連勝を条件に出したって、普通に出来る事を要件にしてるのと大差ないし……」
「…はッ、誰が気乗りしないって言ったと?」
「そういうとこ、ぜーちゃんも女神だよねぇ…いいよ、その話に乗ってあげる。けど…そういう事言えば言う程、知らぬ間に自分も追い詰められてくって事は知っておくべきじゃないかな」
イリゼに言い切らせる事なく、アイが言葉を跳ね除ける。茜も軽く肩を竦めた後、ほんのりと冷ややかな…抜き身の戦意とでも言うべき気迫を見せる。
言い方はどうあれ、イリゼの態度は二人を下に見たものであり…それが二人の心を燃え上がらせる。圧倒されるだけならともかく、軽んじられてそれをただ流すような二人ではない。
「アイがああやって乗るのは珍しいわね…普段はもっと、飄々と面倒事は回避している感じなのに…」
「イリゼさんの言い方が、分かり易く煽ってるとかじゃなくて、和やかに腹立たしい事を言ってきてる感じだから、かもしれませんね。…普段よりイラっとする態度なのは間違いないですし」
「ふむ…茜君も、普段はそういうタイプじゃないのかな?」
「えぇ、私の知る限りでは、彼女は明るいですがもっと冷静なタイプですね」
「…だが、茜は基本的に激情家だ。確かに普段は内心一歩下がって冷静さを保つタイプだが、許容範囲を超えればむしろ冷静さなんて自分から投げ捨てるさ」
ある意味挑発に乗ったとも取れる二人の様子へ、見ている面々は言葉を交わす。その間に三人は構え直し…ネット越しに、正対。
「茜、連勝だけはさせない…なーんてちっぽけな事は言わないッスよねぇ?」
「勿論。いい加減ぜーちゃんの鼻を明かすよ、シノちゃん!」
ここまでで一番と言っても過言ではない闘志を見せる二人。士気は十分、勝利への意思は十二分。二人の雰囲気にイリゼも表情を引き締める中、精細さを取り戻した二人の動きは幾度となくイリゼを攻め立て……
「あははっ!今のは少しばかりひやっとさせられたけど、この勝負も、私の勝ち。だからこれで、私の五連勝だよ?」
……結果、それすらイリゼは捩じ伏せていた。確かに二人の調子は戻り、士気も上々だったが、イリゼの調子は際限知らずだった。加えて態度的な意味でも、調子は乗っていく一方だった。
「うぅ…お煎餅好きな忍者女子高生みたいな事言われた…しかも、勝っておいてそれって……」
「ほんとなんッスかイリゼの動きは…掌握空域か何かでも使ってるんスか…?」
疲労と負担から膝を突いた二人の口から漏れるのは、信じられないという声音の言葉。実際、おかしさを増すイリゼの動きは、技術や駆け引きでどうこう出来るレベルではない…「そういうもの」と捉えるしかないと、二人共薄々気付き始めていた。単純に実力差があるだけならともかく、相手だけ違うルールやシステムで戦っているように思えてしまえば、二人もやり切れない気持ちになるというものである。
「ほらほら、どうする?止める?まだ続ける?でも流石に、続けるんだったらインターバルは入れた方が良いと思うな。二人だって、休憩したりじっくり作戦考えたりする時間、欲しいでしょ?」
「……っ…ほんと、余裕綽々だねぜーちゃんは…」
「まぁ、実際のところ余裕はあるからね。ほら、私の事は気にせず休憩しよ?それとも、敢えてこのままやる?それならそれで、二人の踏ん張る姿を見られて素敵だから、私としては構わないけど…」
ころころと表情を変えながら、至極楽しそうにイリゼは提案。まだ薄っすらと醸し出されている程度だった煽りの雰囲気は、最早隠す気がなさそうなレベルに達しており…それでもイリゼに直接問えば、彼女はきょとんとした顔を浮かべるだろう。タチの悪い、無自覚な煽り。今のイリゼは、完全にその状態だった。
しかし、言っている本人は無自覚でも、傍から見れば明らかな煽り。そして当然、イリゼの声は対戦相手の二人だけに届いている訳ではなく…暫く三人のままだったコートの中へ、新たな人影が現れた。
「…イリゼさん。この勝負、私も混ぜてもらっていいですか?」
「…ピーシェ?急に、何のつもりッスか…?ウチ等を助太刀すると…?」
「いえ。…あ、いや、形としてはそうですが、別にお二人へ助力したくなったから…という訳ではありません。ただ、このままだと本格的にイリゼさんがウザ…こほん、調子に乗ってきそうなので」
((今、ウザいって言いかけた(ッス)ね、(ぴぃちゃん・ピーシェ)…))
真顔で言いかけたピーシェに、茜もアイも内心で乾いた苦笑を漏らす。一方ピーシェはイリゼを見やり…イリゼは、頷く。
「あぁ、そうだイリゼさん。先程イリゼさんは自分が連勝した場合の事を言っていましたが、逆に負けた場合の事は言ってませんでしたよね?それは不公平なのでは?」
「それはそうだね。でも…必要かな?まあまず起きない事への言及は、し始めたらきりがないでしょ?」
「…前言撤回、もう手遅れだった……」
返された言葉に、ピーシェは片手で額を押さえる。対してイリゼは、まだ参加する者は?と問うように見回し…そこでひらりと、飴色の髪が舞う。
「イリスちゃんの興味に付き合ってる間に、こんな凄い事になってるなんてね…。ディーちゃん、あの時の雪辱…ここで晴らすわよ!」
「え、わたしは別に……」
「えー、ほんとディーちゃんってばそういうとこドライっていうか、乗ってくれないよね。…ま、半分位は予想してたしいいけど」
「エストちゃん…やるのは私が幻次元に行った時ぶりだよね?なら、ピーシェ含め取り敢えずはお手並み拝見…かな。四人相手なら、さっきより色々面白くなりそうだし」
「うっわ、四対一でもまあ勝てる、って前提で話してる感じ?これは雪辱とか関係なしに、普通に今のイリゼおねーさんには負けたくないかも」
ピーシェに続いて参加を表明したエストを見て、イリゼは楽しそうに口角を上げる。確かにその様子には、四人相手だろうと何ら問題はないとばかりの雰囲気が漂っており…エストもエストで、臨戦態勢の面持ちを見せる。
「それじゃあ……」
「待ったぜーちゃん。このコート、四人じゃ少し狭いし、書き直してもいいかな?勿論ぜーちゃんの方はそのままで良いからさ」
「あー、そういえば水中バレーした時はそれで負けたし、幻次元の時も同じ問題が起きてたね。いいよ、けどコートの広さが敵味方で違うと色々面倒だし、こっちもその広さにしよっか」
広くなろうと自分には大した差にならないとばかりにイリゼは返し、早速ネットの調整に入る。いちいち反応していてはキリがない、と四人の側もそれは流す事にして、茜の計測で地面にコートを引き直す。
「四対一…これで勝ってもすっきりする気はしないッスが、この際もう関係ないッス。とにかく、全力で…イリゼを張っ倒すッスよ」
「えぇ。実際に勝負していたお二人には言うまでもない事かもしれませんが、イリゼさんの動きは色々とおかしいです、おかしいとしか言いようがありません。それを踏まえ、イリゼさんがどうこうではなく、各々が全力を尽くす事を考えるべきかと」
「じゃ、ポジションとか作戦とかはどうする?一応四人でテニスやった事あるけど、決めとかないとほんとぐっちゃぐちゃになっちゃうわよ?」
「うーん…ここはコートを四つに分けて、きっちり自分のところは自分がやる!…って感じにするのはどう?際どいとこでも皆ならすぐ見切れるだろうし、無理そうならすぐ無理!…って言って、その時はフォローする…みたいな感じでさ」
広いコートに作り直したところで、四人は軽く話し合う。とはいえまともな戦術が通用する勝負でない事はもう明白であり、コートを分割する事で負担と対応の難度を落とし、その上で純粋に力の限りを叩き付ける…そんなシンプルながらも現実的な作戦が固まると、四人はコートの四方に分かれる。
「さーって、それじゃあ…勝負よ、おねーさんッ!」
緩く上げられ、勢い良く放たれるボール。イリゼが素早く返せば、それをアイが打ち返し、次はピーシェが、茜がと順に返ってくるボールをラケットで叩く。
「うん、流石に四人が相手だと厳しいね…どこ打っても余裕で返される、そんな気がするよッ!」
「そう言う割には、まだ余裕そうッス…ねッ!」
コートの奥、四人側から見て左端へ飛んだボールへ地面を蹴って追い付き、ラケットを左手に持ち帰ると同時に裏拳の要領で返すイリゼ。逆回転のかけられたボールは四人側のコートへ落ちると同時に急減速するも、同じく地を蹴ったアイは跳んだままコンパクトな振りでネット近くへ素早く落とす。
端から端への、際どい攻撃。だがイリゼは女神の速力で間に合わせると、相手陣の中央…誰のエリアになるのか、最も判断が難しくなる場所へと打ち込み……
「甘いッ!」
地面に落ちた直後、ほんの僅かにでも早ければアウトとなるタイミングでボールの横へと身を踊らせ、下から上へ当てたピーシェの一手。それは殆ど力の込められていない、本当にただ「当てた」だけのリターンであり、ラケットに当たった反動だけで飛ぶボールは不規則な動きのまま、ネットを超えた時点ですぐ落ちる。その返しにイリゼは間に合わず…新体制での初得点は、四人側のものとなった。
「ナイスぴぃちゃん、まずはこっちのポイント、だね。先取出来たのは、幸先が良い…って言えるかな」
「そうですね。けど……」
「イリゼ、ウチ等へ順番にボールを飛ばしてたッスね…きっちり小手調べしやがったって事ッスか…」
先取点を掴んだピーシェを三人は労う…が、無邪気に喜んでもいられない様子。というのもアイの言う通り、最後の一手以外は順番にボールを、それぞれの動きや守備範囲を見定めるようなリターンをイリゼは行っていたのであり、それもあってかこれまでの異常な動きは今回然程見られなかった。それを踏まえ、先取点となりつつも茜達は警戒を解かず…まあでも、とそこでエストが肩を竦める。
「確かに手放しで喜べる訳じゃないけど、点を取ったのは事実でしょ?しかもこれはおねーさんのミスじゃなくて、こっちでもぎ取った先取点。だったら……」
「それを楔にすれば良い、って事ッスか。まぁ、油断出来る訳じゃないとはいえ、前向きに捉えられる結果なのは事実ッスね」
「多分ぜーちゃんは色々把握してから動き出すんだろうけど…分かるっていうのは、何も良い事ばっかりじゃないもんね。分かった事で焦ったり、考え過ぎたりする事もあるし…これ以上、ぜーちゃんの思い通りにはさせないよ!」
「それでは…イリゼさんには、そろそろ大人しくなってもらいましょうか」
冷淡にピーシェが言い放つと共に、四人はラケットを下へ向けて軽く振るう。それはまるで、刀に付いた血糊を落とし、次なる戦いに臨む武人であり…相対するイリゼもまた、鋭い視線で四人を見ていた。
やはりイリゼがまた勝つのか、それとも四人が遂に連勝を止めるのか。四人側の先取点により、これまでで最大の緊迫感を放つ中、サーブが放たれ…大勝負が、幕を開けた。
*
……と、いうのがここまでの経緯。そして、時系列は冒頭に、今に戻る。…突き付けられた、結果と共に。
「ほらほら、取り敢えず立って?皆が這い蹲ってる姿なんて、とても見てられないもん。ショックかもしれないけど、皆はよく頑張ってたよ。何度もひやりとさせられたし、今回は運が良かったって部分も多分あるんだから…顔上げて、胸張ろう?」
地面に倒れ伏す茜達とは対照的に、今も尚イリゼは健在。流石に本気は出していただろうし、余裕とまでは言えない表情だが…四人との差は、歴然。そして何より…煽りが酷い。あからさまに相手を嘲笑している訳じゃなく、むしろ一見相手を気遣っているような言葉なのが、余計に酷い。…テニスを始めた直後までは、まだいつものイリゼだったというのに…一体何がどうしてこうなるんだ、イリゼ……。
「マジで、なんなんッスかこのイリゼ……調子乗りまくってる時のノワール並みって、ほんとにイリゼッスか…?」
「どうしよ、おねーさんの事殴りたくなってきた…割とがっかりなテニスみたいにラケットで叩くのは有りかしら……」
「このイリゼさんほんとやだ…いや、ちょっと…本当に嫌悪感しかないんだけど……」
「うぅぅ…正気に戻ってよぜーちゃん!今ぜーちゃん凄まじく不評だよ!?私も皆と同意見だよ!?後……まずはその豪華な椅子に座るのは止めようよ!?どこから持ってきたのそれ!?」
コートから聞こえる怨嗟の声もまるで届いていないのか、周囲からの引いた視線もまるで意に介していないのか、イリゼは玉座風の謎の椅子で片肘を突きながら、見せ付けるように脚を組み直す。
(…さて、どうしたものかな)
ここまでは観戦に徹していた俺だが、こうも茜を貶されるのは…いや、形的には貶してないが…とにかく良い気分じゃない。今のイリゼを見ているのも、精神衛生上良くない。
されど、問題はどうするか…だ。実力行使するのが一番手っ取り早いが、テニスそのものは正々堂々やったイリゼに実力行使をしたところで、俺の自己満足にしかならない。というより、そんな事をすればそれこそこの場の雰囲気は最悪になるだろう。恨みや憎しみを向けられるのは慣れたものだが、悪化するだけで何も解決しないんじゃ本末転倒も甚だしい。
であれば、今のイリゼを言葉で窘め、制止したらどうか…とも思うが、それも言葉の上じゃ気遣っている以上は難しい。姉であるセイツなら…というのも考えたものの、横を見てみたら「やっばぁ…こんなイリゼの感情見るの初めてぇ…♡四人も色んな感情がごちゃ混ぜになった心の揺らめきをしてるし、眼福過ぎるのぉぉ……♡」……と、訳の分からない事を言っていたし、これは駄目だろう。こっちはこっちで出来るだけ視界に入れたくない。
「ネプギアと同じ位…というか、メカオタじゃない分ネプギアよりまともかと思ってたけど…蓋を開けてみたら、とんでもない一面があった訳ね……」
「他の女神、を私はあまり知らないが…イリゼ君が中々愉快な性格をしているのは事実だよ。…まぁ、流石に今のイリゼ君を、愉快というのは些か違うと思うけどね」
「……イリゼ、さっきから嫌な感じ…いつものイリゼの方がいい…」
「そう、ですね…イリゼ様、この辺りでテニスはお開きにしてもらえませんか?何もずっとやる必要は……」
これ以上は、続ける事自体が悪手。そう判断したのか、イリゼへ呼び掛けを行ったのはワイト。確かに悪くなるばかりの状況からすれば、巻き返しを諦めてでも打ち切っておくのは堅実な考え方であり…だがそこで、一人の少女がコートに入る。
「…ディールちゃん?」
「ディーちゃん…?…やりたくなかったんじゃ……」
「うん、こうなる気がしてたし、やりたくなかったよ。けど…ちょっと、イラっとしたから」
剣呑な雰囲気と共にコートへ入った少女ディールは、すぐにでも始められそうな素振りを見せる。
既にまともにやって勝てる勝負じゃないのは明白な中で、それでも敢えて参加の選択をしたのは、何か策があっての事なのか、衝動故か、はたまたテニスで決着を付ける必要があると思ったのか。何れにせよ、茜側のチームが四人から五人になった事は事実で……いや、違う。
「では、わたしもやらせてもらいます。ピーシェ様をコケにされた以上、黙ってはいられませんから」
「俺もいいか?イリゼ。俺も少しばかり、これには『関係のないやり取りだ』…って考えでスルーしたくはなくなってきたからな」
「じゃ、俺も〜っと。イリゼとテニスなら、俺だって思うところがあるしなー」
「おー、仲間が続々参戦なんて、なんかラスボス戦みたいになってきたねぇ。…って訳で…わたしもこの決戦、絡ませてもらうよ!なんたってわたしは主人公、愛と正義とプリンのヒロイン、ネプテューヌさんなんだから!」
ついさっきまで、サッカーをしていた面々。全員でこそないものの、その面々が次々と参加を表明し、茜達の方へ立っていく。手を差し出し、四人を引き上げ、共に並び立っていく。
数は倍へ、四人から八人へ。最早違う競技をやった方がいいんじゃないかという人数になった今の状態だが…単に数が増えただけじゃない。イリゼという共通の相手を前に、別々の次元や世界から来た、昨日会ったばかりの関係だって複数ある八人が、今この瞬間団結している。
「…本来、イリゼもそっち側で、俺みたいな奴が敵側にいるべきだろうにな…全く、本当に訳が分からない状況になったもんだ」
「えー君…まさか、えー君も……?」
「ああ。それにどうやら、総力戦になりそうだ」
偶には乗るのも良いかもしれない。そんな風に思いながら、俺もラケットを手に取る。更に雰囲気に当てられたのか、はたまたそれぞれの思惑があるのか、最終的にはセイツを除く全員が茜達の側に立ち…セイツも、落ち着いた面持ちで「なら、わたしは見届けさせてもらうわ」と言いながら、どちらでもない側へと立った。…一周回って冷静になったのだろうか、この女神は…。
「そっか、そっか……なら皆、場所を移そうか。こうなるともう、ここじゃ私が本気で戦えないからね」
それはハッタリか、気が大きくなっているが故の発言か、或いは本気で言っているのか。それは分からないものの、これまでの妙なテンションとは違う、静かな…既に全身全霊を込める事を決めたような声音で、イリゼは俺達へと言い…俺達も、それに応じる。
そうして訪れたのは、人気のない荒野。テニスをするのに、こんな場所に移動する必要があるのだろうか…という問いは誰も口にせず、やはりテニスというには広過ぎるコートを地面に作り、ネット越しに互いを見合う。
「多分、これが最後の勝負になるだろうね。…私は勝つよ。これまで通り、最後まで……圧倒的にねッ!」
本気の表れという事なのか、イリゼは女神化。何を言うでもなく、こちらもそれぞれが全力を出せる姿となり…始まった、最後の戦い。激戦中の激戦、死闘と言っても過言ではない程の激突。俺達もイリゼも、ただひたすらに勝利を目指し、力を振り絞り──そしてその果てに、終わる。
*
「……ふ、ふふ…見事…ッ!」
満足したような、充足感の伴った声。小さな笑いと共に、イリゼは見事と言い……倒れた。…巨大なクレーター、その中心で。
「いやなんでこうなったッ!?」
「わぁ!?…え、影さん…?どう、しました…?」
思わず、ほんと思わず全力で突っ込んでしまった俺。近くにいたルナにぎょっとされたが、これは突っ込まざるを得ない。でなければ、これを読んでいる多くの人が置いてけぼりを喰らうだろう。
や、うん…この面子で、各々が加減無しの本気出したらクレーターの一つや二つ出来るだろうさ。普通にイリゼのとこ以外にも、地面が抉れてたり亀裂が走ってたりする所は色々あるし、何なら俺も黒切羽で全方位攻撃とか仕掛けた気がする。どう考えたってルール違反な事した気がするし、それをイリゼはリターンで、打ち返したボールの跳ね返りで全基撃ち落とした上にこっちのコートへボールを落とすっていう意味不明な事してきた気もするし……ほんとなんだこれ!?現実か!?仮想空間とか、精神世界の話じゃないのか!?
「か、勝った…勝ったよ皆!もうテニスで勝ったのかどうかよく分からないけど、とにかく勝ったよ!」
「勝ったッスね!最早やっていたのがテニスかどうかも怪しいッスけど、まあ勝ちは勝ちッス!」
湧き上がるのは、混乱混じりの歓声。特に最初からやっていた茜と、二人目であるアイの喜びは一入らしく、凄まじく首を傾げながらも嬉しさを表情で表していた。
…が、当然全員が手放しで喜べる訳じゃない。これだけの激戦となれば、疲労困憊になる面々もいる訳で…例えばそれは、この少年。
「つ、疲れたぁぁ…疲れたし、もう途中から何が何だか分からなかったよ……」
「愛月君お疲れ〜。大丈夫、立てる?」
「お疲れ、愛月も結構頑張ってたな」
尻餅をつくようにして座り込んでいた愛月へ、ネプテューヌとカイトの二人が手を差し出す。それぞれの手を握って立ち上がった愛月は、疲労もあってかふにゃーっとした顔で感謝を伝え…それからまた、ぐてっとしていた。
一番疲労が見えるのは彼だが、他の面子もそれなり以上に疲労している。それ程までの激戦だった。十六対一のテニスで疲労…?とも思うが……いや、よそう。これはテニス、テニスだったんだ。もう、そういう事にしておこう。
「すっごい大変だった……けど、やっぱり…楽しかったぁ…」
「ふふっ、良かったわねイリゼ。わたしからも、楽しんでる事は伝わってきたわよ」
「けど、態度に関してはもう少し自重するべきだったと思うよ。あれでは折角の君の善性が損なわれてしまう」
「うっ…確かに言われてみたら、おかしいテンションでおかしな事言ってたかも…ごめん、皆……」
訳の分からない激戦を終え、得たのは勝利。だがそれだけでなく、負けた事で…或いは満足して気が抜けた事で、イリゼも我に返っていた。全く、世話の焼ける女神だな…本当に。
「…理性的に、現実的に生きるばかりが人ではない。馬鹿馬鹿しくとも、しょうもない事でも、やってみれば意外と糧になったり、楽しかったりもする…ケイドロや昼食も含め、女神様達や彼等は、そう思わせてくれるね」
「……そうだな。あのタイミングで中止にしても良かっただろうし、そもそも遊びとして始めた事なんだから、ムキになる事自体が間違ってる…そう言って片付けていたら、確かにこれはなかった光景だ」
暫し眺めていた俺にかけられた、ワイトからの言葉。軽く笑って言う彼の言葉に、俺は少しだけ考え…頷いた。
多分これは、嘗ての俺にはなかった…気付く事も、感じる事もなかった答えの一つだ。今でこそ、これも一つの答えだと思えるが、前の俺なら、冷めた目で一蹴していた事だろう。
別に、それを俺は否定しない。目の前にある光景は、偶々出来たものでしかないし、答えの一つであって絶対的な正解じゃない。だが……これだけは言える。時にはこういう事もして、心に余裕を作った方が…意外と、楽に進めるかもしれないな、と。
(そしてもし、もしも嘗ての俺が、少しでも心に余裕を持てていたら……)
つい、考えてしまう。自然に視線が、ネプテューヌやディール、エストに向かう。だが……止めよう。今は頭の片隅に置いておこう。忘れる事は出来ないが、したくないが、して良い訳がないが…それを考えるのは、今じゃない。
「…さて、もうかなり時間も経ったし、そろそろ帰るのはどう?疲れ過ぎて動けない、って人はわたしが抱えていってもいいわよ?」
「まあ、そうですね。取り敢えずは、多少は溜飲も下がりましたし?」
「い、いやほんとごめんね、皆…今日は私の楽しみに付き合ってもらったし、今度は皆のやりたい事に付き合うから、何かあったらその時は言ってね?」
女神化を解いたイリゼは、ピーシェからのほんのり毒を混ぜた発言でもう一度謝罪をしながら立ち上がる。それから今度は皆に付き合うと言い、皆もそれに頷いて、この大変トンチキなテニスとそれに纏わる事態は終わりを迎え……
「あ、それならイリゼ、ウチ早速付き合ってほしい事があるんッスよねぇ」
「ん、何かな?私に出来る範囲なら付き合うよ?」
「お、言ったッスね?三人共、今のちゃんと聞いたッスか?」
『勿論』
「え…?」
……なかった。和やかな雰囲気の中、言質を取った、とばかりにアイが言った瞬間、イリゼを囲うように茜、ピーシェ、エストが展開し…イリゼは固まる。
「いや、あの…皆……?」
「で、その付き合ってほしい事なんスけど、映画鑑賞なんッスよね。信次元のとびきり怖いホラー映画鑑賞会ッス」
「んなぁ…ッ!?ほ、ほらっ、ホラー映画って……」
「ほーら、行きましょイリゼおねーさん。映画って長いんだから、早く行かないと…ね?」
「け、けど私はまだ見るとは言ってな……」
「出来る範囲なら付き合う、と言いましたよね?まさかイリゼさん、嘘吐いたんですか?」
「う"…そ、それは……」
「うんうん、ぜーちゃんはこういう時に嘘吐いたりしないもんね。ほらほら、行くよー?」
「ひぃッ!だ、誰か助け……うわぁ担ぎ上げられた!?」
まるで捕まった獲物が如く、担ぎ上げられ連行されるイリゼ。どうもホラー系が苦手なのか、イリゼは助けを求める…が、きょとんとするイリスを除き、周りは苦笑いをするだけで応えはしない。そうして最後にイリゼと目があったっぽいのはディールであり、イリゼはディールを見つめる……が、「自業自得です」の言葉で轟沈。そして……
「あ、あぁ…ぁ……いぃやあぁああぁぁぁぁああああああぁッッ!!」
──その日の夜、神生オデッセフィア教会には、それはもう凄いイリゼの悲鳴が響くのだった。
「ぐすっ、うぇ…うぇぇ…ふぇぇぇぇ……」
「ま、まさかイリゼさんがここまで苦手だったとは…もうずっと泣きっ放しって……」
「もー、泣かないのおねーさん。もう映画終わったから、ね?」
「前にお化け屋敷…みたいな所に入った時もそうだったけど、ここまで泣かれると流石に申し訳なくなるね…はは……」
「そッスね…やったウチ等が言うのもアレッスけど…落ち着くまで一緒にいてあげるッスからね…」
今回のパロディ解説
・エクストリームでハーツなスポーツ
Extreme Hearts及び、作中の同名の競技の事。ゲイムギョウ界だったら、エクストリームギアとかもありそうですよね。人型のロボットとかはある訳ですし。
・「〜〜愛野ー、サッカーやろうぜー」
サザエさんに登場するキャラの一人、中島弘の代名詞的な台詞のパロディ。加えてサッカーやろうぜ、だとイナズマイレブンの円堂守のパロディっぽくもなりますね。
・某スーパーリケイ人
理系が恋に落ちたので証明してみた。における、作中キャラに対する作者の表現の事。実際彼は理系でしょうね。色々作ってたりもしますし。
・お煎餅大好きな忍者女子高生
閃乱カグラシリーズに登場するキャラの一人、夜桜の事。わしの勝ちで宜しいですね?…を意識はしたものの、あんまりそれっぽい感じになりませんでした…。
・掌握空域
惑星のさみだれの主人公、雨宮夕日の掌握領域(特殊能力)の事。勿論イリゼは相手の動きを阻害してたりはしませんし、そもそも特殊能力を使用している訳でもありません。
・「〜〜何度もひやり〜〜運が良かった〜〜」
ポケモンシリーズの登場キャラの一人、ダンテのアニメ版における台詞の一つのパロディ。圧勝でしたからね。そして勿論、イリゼも他意なくこれを言ってたりします。
・割とがっかりなテニス
ギャグマンガ日和シリーズにおける短編の一つ、ゲーム大好き兄弟の中で登場したゲーム、割とテニス
・「〜〜皆、場所を移そう〜〜戦えないからね」
BLEACHの主人公、黒崎一護の台詞の一つのパロディ。愛染との最終決戦時の台詞の一つですね。別にイリゼは最後の女神化を習得したとかではありませんが。
今後の合同コラボの展開の一つとしてリクエストがきましたので、参加して下さっている作者の皆様にご質問します。現在参加しているメンバー同士で(男女分かれて)恋バナ、更に集まっているメンバーの中だと、彼(女)はこういうところが魅力だよね、という会話をする…みたいな展開はどうでしょうか?どう、というか、そういうやり取りはしても大丈夫でしょうか?
また、OEを読んで下さった方であればお分かりだとは思いますが、現在信次元には、うずめとくろめが存在しています。彼女達と会った場合、作品によっては今後の展開(VⅡ(R)編を書く予定でしたら)に影響を及ぼしてしまうかと思うのですが、彼女達の登場に関しては、控えた方が宜しいでしょうか?又は、問題ないでしょうか?
上記の二点を、何かしらの形でご返答して下さると助かります。