超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第十三話 関わりの多い国

 ルウィーに行く事になった。

 これはつまり、またこっちのブランやミナ、ロムやラムに会えるという事。とても嬉しい。

 

「えー、本日この面々でルウィーに行く訳だけど……」

「結構多くなりましたね…」

 

 イリゼが喋って、ディールも喋る。ゆっくりイリゼは見回していて、イリスも見回して見る事にする。

 確かに、沢山いる。イリゼと、ディールと、エストと、アイと、ワイトと、茜と、影…後、イリス。皆、ルウィーに行きたいらしい。ルウィーは、人気。

 

「ディールちゃんエストちゃんイリスちゃんは分かるし、ワイト君も自分の次元における母国だから分かるけど…アイと茜、影君はルウィーに何か思い入れがあるんだっけ?」

「アイ様は、ブラン様と仲が良いらしいですよ」

「そッスそッス。信次元に来た理由の八割は、こっちのブランちゃんに会う為と言っても過言ッスからね」

「そこまでなの!?そこまでブランに…って否定形じゃなかった!?過言ならわざわざ言わないでよ……」

「あははー。私に関しては、えー君の付き添いかな。で、えー君は……」

「…アイじゃないが、俺も会ってみたいから…かな。……多分、いや間違いなく、後悔するだろうが…会わなくたって、後悔するんだろうな、俺は…」

「えぇー…やらずに後悔するよりやって後悔する方が、なーんて言葉があるけど、あれって言い方変えるとこんな鬱屈とした感じになるのね…」

「ま、まぁ後悔するかもしれなくても、やりたいって思える事は時にあるものだしね…。…こほん、とにかく行こうか」

 

 少し黙った後に影が喋ると、皆変な顔をした。

 でも、イリスにはよく分からない。…ので、黙っていると、イリゼが行こうと言った。イリスは早く行きたかったので、勿論頷く。

 

「こっちのロムとラムに会うのも久し振りよね。ちょっとは成長してたりするのかしら」

「いや、二人共女神なんだから、そうそう変わる事は…と、思ったけど、内面はちょっと変わってるかも?同じロムちゃんラムちゃんって言っても、わたし達の次元とは起こってる事柄が違う訳だし…」

「……?エスト、ディール、それはどういう話?」

「あー…えっと、二人にまた会うのが楽しみ…みたいな…?」

「そう。なら、イリスも一緒」

「かなり無理のある纏め方したわねディーちゃん…まぁ、間違ってるとは言わないけど……」

 

 外に出て、ルウィーに向かう。

 神生オデッセフィアは…浮遊大陸?…なので、途中からは段々降りていく形になった。

 飴玉みたいに小さかった建物が、少しずつ大きくなるのは面白い。ルウィーを上から見るのも、不思議で面白い。

 

「よ、っと。やっぱり信次元のルウィーは超次元と同じで、教会が城になってたりはしないんッスね」

「え、シノちゃんの次元のルウィーって、教会がお城になってるの?」

「そッスよー。中をモンスターがたむろしてたり、地下牢があったりする、素敵なお城ッス」

『えぇぇ…?』

「素敵なお城…その文脈だと、素敵が皮肉の意味で言っているようにしか聞こえないな…というか、そういう意味で言っているのか…?」

「あっはっは」

 

 到着したイリス達は、早速中へ。出発の前にイリゼが連絡をしているから、そのまま入っても大丈夫らしい。

 

「そういえば、イリスちゃんは来た事あるんだっけ?」

「うん、ある。イリスは皆より詳しいので、困った事があればイリスにお任せ」

「はは、頼もしいね。なら出入り口が分からなくなったらイリスさんに……」

「あ、もう来てたのね!」

「イリスちゃん…と、ディールちゃんと、エストちゃん…と、後は…知らない、人…?」

 

 イリスがエストに答えると、ワイトが小さく笑って…それから聞こえたのは、元気な声と、ちょっと大人しい感じの声。イリスがよく知っている声。

 

「いらっしゃい、皆。よく来てくれたわ」

「……っ…ロム、ラム…ブラン…」

「初めまして、ブラン様。私は……」

「……?…ミスミ・ワイトでしょう?貴方の事は…じゃないわね。全員、イリゼから聞いているわ」

「お、気が利くッスねイリゼ」

「ふふ、そういう事じゃないわよ?こういう事があった、こんな出会いをした…って、イリゼが嬉々として話してくれた事がある…って事だもの」

「ちょっ、ブラン!?」

 

 くすりとブランは笑って、何故かイリゼはあたふたとする。

 それから影は、最初辛そうな顔をしていた。…やっぱり、影は不思議な人。

 

『へぇ〜』

「に、にまにまするなぁ…!」

「ねーねーそれより今日はあそべるんでしょ?」

「でしょ…?(わくわく)」

「あ、うん。そもそも信次元に来た事自体、遊びに来たようなものだし…」

「じゃ、決定ね!イリスちゃんも行きましょ!」

「ん、分かった。イリスも遊ぶ」

 

 手をラムに握られて、連れて行かれる。

 けどイリスも遊ぶのは賛成なので、問題はない。…ぎゅっ、と少し強めに握るのは、このラムも、いつも一緒にいるラムも、同じ。

 

「ディールちゃんも、行こ?」

「わっ…べ、別にわたしの手は握らなくても……」

「……え、あれ?わたしは…?」

「はは…エストちゃんも呼ばれてると思うよ、引っ張られてないだけで…。…えーと、ロムちゃんラムちゃんにもてなしを頼むって訳にもいかないし、こっちに私も行くから、そっちは頼めるかな?」

「こっちこそ、そっちは頼むわ」

 

 後ろから、ディール達も付いてくる。

 ラムは何をする気だろう。ゲーム?お絵かき?絵本?

 と、思っていたら外に出る。

 

「お出掛け?」

「んーん。今日はね、雪だるまを作ろうと思ってたのよ!」

「雪だるま…って、皆が集まってる時にわざわざやる事かしら…」

「…エストちゃんは、やりたくない…?」

「う…そ、そういう事じゃないわ。やりたいなら、別にわたしもいいと思うし…」

 

 じっと見つめられたエストは、頬を掻きながら言葉を返す。

 この反応も、少し不思議。まだまだイリスには、よく分からない反応が多い。なので、興味深い。

 

「……?…えと、イリスちゃん?何…?」

「観察中」

「あ、そ、そう…」

「えー、っと…それで、どう遊ぶの?六人で、大きい雪だるまでも作る?」

「ふふん、よく聞いてくれたわね!せっかく六人なんだから、三チームに分かれてしょーぶしましょ!」

「ふぇ?そうするの…?」

「そうするの!」

『あぁ、その辺り話してなかった(んだ・のね)…』

 

 どうやら雪だるまは、三組に分かれてやるらしい。

 多分、ロムとラムはチームになる。ディールとエストもチームになる。つまり、イリスはイリゼと?

…と、思ってイリゼに聞いたら、いいよ、と笑ってくれた。

 

「まあ、勝負は別にいいけど、勝ったチームへのご褒美とか、負けたチームへの罰ゲームとかは考えてあるの?」

「それは……む、むむ…」

「あ、考えてなかったんだね…。…なら、私が勝ったチームにお菓子を作ろっか?私もイリスちゃんとやるし、がっつり時間は取れないだろうから、ぱぱっと作れる物になっちゃうけど…」

「イリゼさん、いいの…?」

「さっすがイリゼちゃん、たよりになるわね!じゃあ、えっと…けーひ?…で、落としてくれていいわ!」

「けーひ…?ラム、けーひとは何?」

「えっ?…けーひは……ケーキの、友達…?」

「なるほど」

 

 ケーキの友達には、けーひというものもあるらしい。イリスは新たな学びを得る事が出来た。

 けどその後、すぐにイリゼ達から「いやいや違うからね…?」と訂正を受けた。

 けーひ…経費とは、仕事や作業などをする時の費用の事。ラムは間違っていたけど、ラムが言ってくれなければ知る事も出来なかったので、やはり感謝。

 

「じゃあ、始めよっか。頑張るよ、イリスちゃん」

「イリス、頑張る。目指せ雪だるまチャンピオン」

「そんなチャンピオンないと思うけど…。…エスちゃん、普通に雪だるま作る?」

「まさか。遊びとはいえ勝負なんだから、勝てる雪だるま作りをするに決まってるじゃない」

 

 そうして雪だるま作りを開始。ディールとエストは話ながら教会の裏の方に行って、ロムとラムはもう雪玉を転がし始める。

 イリスもイリゼに呼ばれて、ちょっと離れたところへ。イリゼが雪玉を二つ作ってくれて、それをイリゼと一緒にごろごろ。

 

「ごろごろ、ごろごろ」

「…イリスちゃん、楽しい?」

「楽しい。一回転するとほんの少しだけど大きくなる、それが雪玉。達成感がある」

「そ、そっか…なんか、ドリルで天を突きそうな表現だね…」

 

 並んで二人で転がしていると、雪玉も同じ位に大きくなる。イリスの雪玉は、イリゼと同じ。…やはり、楽しい。

 

「…っと、そうだ。取り敢えずは転がして大きくするにしても、ただ雪玉を重ねるだけじゃ味気ないよね」

「味気ない?…イリゼ、雪だるまを食べる…?」

「あはは、味がないじゃなくて味気ない、だよ。木の枝とか木の実とか、バケツとか手袋とかを使って、雪だるまを飾り付けした方が楽しそうでしょ?」

「それは確かに。雪だるま、何もなしは…寂しい」

「うん、そうだね。それじゃあ雪だるまを重ねた後は、飾り付けに使える物を探そっか」

 

 こくりと頷いて、ごろごろを続ける。

 あっちへごろごろ、こっちへごろごろ。

 段々重くなってきて、少し大変…だけど、その分達成感も大きい。これが、積み重ねというもの?

 

 それからも転がし続けて、大きいイリスの雪玉と、イリスより少し長く転がして、イリスより少し大きくなったイリゼの雪玉が完成した。

 

「よーし、後は合体だね。よいしょ、っと」

「おぉ、イリゼは力持ち…これも女神の力?」

「まあ、そうだね。女神化しなくたって、女神は強いから」

 

 ちょっと笑ったイリゼがイリスの雪玉を乗せて、雪だるまの形になる。

 でもまだ、完成ではない。ここからは、飾り付け。

 

「…これは、良さそう。これも、良さそう」

 

 使えそうな木の枝や、木の実を拾う。拾って、歩いて、また拾って、歩いて……

 

「あれ、イリスちゃん?」

「……?エスト?」

 

 呼び掛けられて顔を上げたら、目の前にエストがいた。ちょっと離れた所に、ディールもいた。二人共、不思議そうな顔でイリスを見ている。

 

「エストとディールも、こっちに来た?」

「こっち、っていうのがどこかは分からないけど…多分、イリスちゃんの方がわたし達の近くに来たんじゃないかな」

 

 そう言って、ディールは後ろを指差す。

 振り向くと、そこには長く続く足跡があった。

 これは、イリスのもの。つまり、イリスはいつの間にか裏の方まで来てしまった?

 

「しまった、気付いていなかった…」

「あぁ、やっぱり…気を付けなきゃ駄目よ?うっかり教会の外に出ちゃったら、通行人の邪魔になるかもしれないし、外に出なくても集中し過ぎて木に頭ぶつけたりとかしたら嫌でしょ?」

「それは…うん、エストの言う通り。…なので、気を付ける」

「そうしてね。…それは、雪だるまの飾りに使うの?」

「そう。これを使って、イリゼと飾り付け。とても良い雪だるまになる…予定」

『そっかそっか』

 

 イリスが肯定すると、ディールもエストもちょっぴり笑って、それからイリスを撫でてくる。

 似てるけど違う、ディールとエストの手。ロムとラムに似てる…でも、ほんの少し違う、二人の手。

 でも、好き。ロムとラムの手と同じで、ディールとエストの手も…心地良い。

 

「じゃあ、また後で」

 

 二人にばいばいと手を振って、イリスは戻る。

 

…あ、二人がどんな雪だるまを作っているのか、見ていなかった…。

 けど、どちらにせよ後で分かる。だから、後のお楽しみという事にする。

 

「…あ、イリスちゃんお帰り。結構沢山取ってきてくれたんだね」

「うん、沢山取ってきた。イリスは採取上手」

「ふふ、私も色々借りてきたよ?」

 

 戻るとイリゼはもう雪だるまの前で待っていた。イリゼも飾り付けの道具を沢山用意していた。

 集めた材料を使って、雪だるまを飾っていく。

 まずは頭にバケツを載せて、次は木の実と枝で顔を作る。目指すは笑顔の雪だるま。

 

「むむ…口が、難しい…。笑顔にしたいのに、枝が折れる……」

「そういう時は、木の実をカーブ状に付けていけば……」

「おお、笑顔になった。流石イリゼ、賢い」

「ふふふっ、ありがとね。じゃあ次は、この太い枝で腕を作ろっか」

 

 顔の後は、身体。枝で腕を作って、ゴム手袋を先端に被せる。

 少しずつ、雪だるまの見た目が良くなっていく。正面で枝と木の実を組み合わせると、服を着ているようにも見える。

 

「…………」

「ふー、大分様になってきたよね。結構可愛らしい雪だるまになったし、後は……」

「…これも、付ける」

 

 近付いて、『それ』も雪だるまに付けてあげる。

…うん、良くなった。こっちの方が、良い。

 

「…イリスちゃん…それは、いいの?」

「うん、いい。帰るまで、貸してあげる」

「そっか。良かったね、雪だるま君」

「これは、イリスの大事なもの。汚したら、駄目。分かった?」

 

 ぽふん、と頭を触ったイリゼに続いて、イリスは注意。

 借りたものは、大切に使う。これは、とても重要。イリスもそうしている。

 

 雪だるまからの、返事はない。…でも…にっこりしている雪だるまは、嬉しそう。イリスには、そう見えた。

 

「イリゼ、イリゼ」

「うん?どうしたの、イリスちゃん」

「雪だるま作り、面白かった」

「それは良かった。ただ転がしてるだけでも案外面白いものだよね」

「うん。それと…イリゼと作る雪だるま作り、楽しかった」

「…ふふっ。私もだよ、イリスちゃん」

 

 楽しかったと伝えたら、私もだよと返してくれた。

 とても、嬉しい。同じ気持ちだと思うと、心がぽかぽかする。

 だから後は、この雪だるまで勝負に勝つだけ。雪だるま、君に決めた。

 

 

 

 

 雪だるま作りを始めて数十分。遊びだろうと勝負なら妥協しない、というエスちゃんの熱意に付き合って、何とかわたし達は雪だるまを完成させた。…疲れた……。

 

「〜〜♪」

「ご機嫌だね、エスちゃん」

「えぇ、満足のいく雪だるまが出来たもの。それに…久し振りにやったら、意外と楽しかったし」

「それはまぁ、確かに…」

 

 今エスちゃんが言った通り、思ったより雪だるま作りは楽しかった。エスちゃんのやる気に付き合った、みたいな雰囲気を出してはいるけど、実はわたしも、途中からは楽しくなって凝り出した部分が…ない事もない。

 

「あ、来たね二人共」

「お待たせ、おねーさん。皆いるって事は…わたし達が最後なのね」

 

 教会の庭、最初に勝負の話をした所まで歩いて戻ると、もう四人はいた。ラムちゃんは自信満々そうな顔をしていて、ロムちゃんはそんなラムちゃんを見ながらにこにこしていて、イリスちゃんは歩いてくるわたし達をじーっと見ていた。……イリゼさん?イリゼさんは…いつも通りかな。

 

「さーって、それじゃあ二人も来たし、どの雪だるまが一番か決めるわよ!」

「あ、そういえばその事なんだけど、一番は誰が決めるの?自分達で決める場合、普通は自分の作った雪だるまを選ばない?」

「そこは公平に選ぼうよ。意地張らずに、凄いって思えたものを選んで、それが自分達で作ったものじゃないなら、素直に褒める…その方が、皆楽しく見られるでしょ?」

「…ですね。じゃあ、最初はイリゼさんとイリスちゃんの…かな。もう、見えてるし」

 

 公平に決めよう。公平に決めて、いいと思ったのを選んで、褒めよう。その方が楽しいから。イリゼさんの言葉は結局のところ、各々に任せてるようなもので…でも、イリゼさんらしいとも、わたしは思った。だからわたしは頷いて…近くに立っている雪だるまを見る。

 イリゼさんとイリスちゃんが作ったのは、わたし達と同じ位の背丈をした、シンプルな雪だるま。飾りに使われているのも、よくある雪だるまって感じのもの。笑っている表情は可愛いし、イリスちゃんが一生懸命転がしたりさっきみたいに飾りを拾ったりしてる姿を想像すると、なんだかほっこりするけど、特別目を引く何かがあるかっていうと……

 

「…あれ?このマフラー…さっきまで、イリスちゃんがしてなかった?」

「うん。これ、イリスちゃんのマフラー…だよね…?(きょとん)」

「ううん、違う。これは、ブランのマフラー。ミナがくれたものを、今は雪だるまに貸してあげている」

「へー、そうだったのね。たしかにこれ、おねえちゃんが選びそうかも…」

 

 そう言って、ラムちゃんがマフラーに触れる。…わたしも、そう思う。意外とブランさんは赤も似合うというか、実際神次元では赤が目を引く服を普段着にしていたし。

 

「どう?凄い?」

「うん、凄いし可愛いと思うな」

「イリスちゃん、あんまり雪だるま作った事ないんでしょ?それなのにこんなしっかり作れたならすごいって思うわ!」

「…うん、イリスは凄い。ふふん」

 

 首肯したわたしとラムちゃんの言葉で、イリスちゃんは気分が良さそうになる。実際には無表情だから、確信はないけど…気分が良さそうに見えた、そんな気がした。

 

「でもイリスちゃん、わたしたちの雪だるまもすっごいのよ?」

「うん、堂々のできばえ(ふんす)」

「ロムとラムの自信作?それは気になる、早く見てみたい」

 

 腰に手を当て、揃って胸を張るロムちゃんとラムちゃん。二人の自信にイリスちゃんも興味を示して、それから三人は軽快に走って行ってしまう。

 

「ふふっ、なんか妹みたいねイリスちゃん。ラムなんてさっきからずっとお姉ちゃんぶってるし」

「少しほっこりする光景ではあるよね。…ロムちゃんとラムちゃんを見て、わたしやエスちゃんがほっこりする、っていうのも変な話だけど…」

「二人は視点が完全に大人だねぇ。一緒に走って行っても良いんだよ?」

「じゃ、おねーさんは一人でゆっくり来てくれて構わないからね」

「先行きますね、イリゼさん」

「えっ?あ…も、もう!」

 

 ちらり、とエスちゃんと目を見合わせて、直後にわたしとエスちゃんも走る。するとイリゼさんは、数秒ぽかんとした顔をしていて…その後、ちょっと怒りながら走ってきた。…この何とも言えない弄り易さは変わらないなぁ…ふふっ。

 

「ところでエスちゃん、二人はどんなの作ったと思う?」

「そうねぇ。二人の事だからやたら派手な飾りをしてそうな気もするけど、案外シンプル方面で……へぇ」

 

 走りながら、エスちゃんと話すのは雪だるまの事。二人なら雪だるま作りも慣れてるだろうし、中々凄いのを作ってるかも。そんな風に思いながら、わたし達はイリスちゃん達三人と、二人の作った雪だるまの所にまで到達して…エスちゃんが、感嘆混じりの声を漏らす。

 その理由は、わたしにも分かった。エスちゃんが感嘆の声を漏らしたのは、雪だるまに対してで…一見すると、二人の作った雪だるまはイリゼさん達のものと似た、よくある雪だるまのイメージから外れていないもの。でも…質が違った。作りの緻密さが、丁寧さが、気付いた次の瞬間には「凄い」と思わせるようなものだった。

 

「…これは…綺麗だね、二人共…。どっちも真ん丸っていうか、全然ぼこぼこしてないっていうか……」

「わたしたち、がんばったの(にこにこ)」

「ふふーん、きれいでしょ〜」

「ほんとに綺麗だね…びっくりしちゃった…」

 

 普通、雪玉は転がしていると自然にぼこぼこしてきちゃう。ゆっくり慎重にやってもある程度凹凸は出来ちゃうものだし、そうならないよう気を付けていると中々大きく出来ないから、焦れったくなる。で、二人は…特にラムちゃんは、焦れるような作業は苦手だろうから、それを我慢して真ん丸にし続けるのは相当な苦労があった筈。

 けれど二人は、二つの雪玉を真ん丸に作り上げた。慣れててコツを掴んでるから、っていうのもあるだろうけど、それを差し引いても…やっぱり、凄い。

 

「やるじゃない。少なくとも、作りの丁寧さじゃわたし達よりも上ね」

「…総合的には、自分達の方が上だって口振りだね、エストちゃん」

「まあ、見てみれば分かるわ。ね?ディーちゃん」

「…まぁ、ね」

 

 振り向いたエスちゃんの言葉に、小さく肩を竦める。次はわたし達の番、と雪だるまがある裏手へと歩き始める。

 イリゼさんとイリスちゃんのは可愛かった。ロムちゃんとラムちゃんのは素直に凄いと思った。でも…エスちゃんじゃないけど、わたしにも正直自信があった。それ位のものを作った自負があった。

 

「ディールとエストの雪だるまは、どんなもの?」

「それは見てのお楽しみ、だよ」

 

 隣に来て、じっと見てくるイリスちゃんに小さく笑って、角を曲がる。そこで止まって、エスちゃんと一緒に道を開ける。そして…見てもらう。建物の影に隠れていた、わたし達の力作を…雪だるまを。

 

『わっ…これ、って……』

「…大きい……」

 

 見上げるイリスちゃんの呟きに、わたし達は首肯。その通り、わたし達が作ったのはイリゼさんよりもずっと大きい、巨大雪だるま。大きい雪玉は転がすのも合体させるのも大変だけど、そこはまぁ魔法で身体能力を上げればカバー出来るからそんなに苦労しなかった。むしろ苦労したのは別の部分で…でも苦労したからこそ、見てもらいたいって気持ちもある。だからわたしは、エスちゃんと頷き合って…大きさへの驚きが少し収まったところで、本当の見所を四人に見せる。

 

「ふふ、凄いでしょ?でも、これだけじゃないのよ?」

「よく見ててね?せー、のっ」

 

 皆が見つめる中、わたしはエスちゃんと一緒に力を込める。魔法を、魔力を雪だるまへと流し込み……そして雪だるまは、輝き出す。色取り取りの光が、煌びやかに。

 

「わぁ…きれい……」

「うん、きれい…(きらきら)」

「光る雪だるま…初めて見た…」

「イルミネーション、みたいだね…これも、魔法…?」

「そうですよ。雪だるま作りより、術式を組み込む方が大変でした…」

「けど、これだけ綺麗になったんだから、頑張った甲斐があるってものよ」

 

 建物の影に設置したのは、暗い方がより綺麗に見えるから。大変だったけど、イリゼさん達が夢中になってくれてるのを思うと、確かに頑張った甲斐がある。それに、やっぱり…エスちゃんも一緒に何かを作り上げるというのは、楽しかったし達成感があった。

 

「……さて、それじゃあどの雪だるまが一番か決めよっか。皆、どうする?もう一回見る?じっくり考える?」

「…大丈夫。イリスはもう、決めてる」

「…うん、わたしも(こくこく)」

「むむむ…わたしもー……」

 

 真っ先に答えたイリスちゃんに続いて、ロムちゃんとラムちゃんも答える。ロムちゃんは数度頷いて、ラムちゃんはちょっと悔しそうに…でも、もう決めてるとイリゼさんに返す。

 

「じゃあ、チームに分かれて、それから一斉に良かったチームを指差す事にしようか。ディールちゃんとエストちゃんも大丈夫?」

「えぇ、構わないわ」

「大丈夫です、わたしも決めてます」

「なら、せーの!」

 

 イリゼさんの掛け声で、わたし達は揃って指差す。わたしが指したのはロムちゃんとラムちゃんチームで、エスちゃんが指したのはイリゼさんとイリスちゃんチーム。そして、四人の指が向いていたのは…わたしとエスちゃんの方。

 

「えー、っと…一票対一票対四票で、雪だるま勝負はディールちゃん、エストちゃんチームの勝利だね。皆、拍手!」

「あ、いや、拍手なんて…」

「ふふ、まあ当然の結果ってとこかしら。それじゃあおねーさん、悪いけどご褒美のお菓子お願いね?」

「任せて。ぱぱーっと作っちゃうから、皆はその間待っててね?」

 

 拍手を受けて、ちょっぴり感じる照れ臭さ。でもエスちゃんの方は平然としていて…早速ご褒美の話を持ち出した辺り、ある意味しっかりしてるなぁと思う。…あ、そういえば……

 

「…エスちゃん、自分の雪だるまは選ばなかったんだね」

「ん、まーね。ディーちゃんこそ、どうしてロムとラムのにしたの?」

「いや、だってほら…改めて考えると、わたし達のは魔法が凄いのであって、雪だるまは単に大きいだけでしょ?だから雪だるま対決としては二人の方が良いかな、ってね。…エスちゃんがイリゼさんとイリスちゃんのを選んだ理由は?」

「…聞きたい?」

「言いたくないの?」

 

 さっきは「まーね」で済ませていたし、何か深い理由があるのかな?と思って訊き返すと、エスちゃんは小さく肩を竦める。それから「言いたくない訳じゃないわ」と言って…教えてくれた。

 

「…なんていうか…わたし達がまだ小さかった頃…いや、今も外見はそんな変わってないけど…とにかく今より色々と幼かった頃、ロムちゃんと作ってた雪だるまは、こんな感じだったかな…って思ったのよ。ただ、それだけ」

「そっか。…うん、そうだったかもね」

 

 そうかもしれない。そう言ってわたしは頷いた。わたしとエスちゃんにも…確かにそんな頃が、あったんだから。

 それからわたし達は建物の中に戻って、五人で雑談をしていた。雑談っていうか、ロムちゃんとラムちゃんに色々訊かれて、それにわたし達が答えてたって感じで…暫くしたところで、やってきたイリゼさんに呼ばれる。

 

「お待たせ〜。今回作ったのは…じゃん、ういろうです!」

『おー』

 

 扉を開けて入ってきたイリゼさんが、手に持つお皿に載せていたのは、切り分けられた甘そうなお菓子。可愛…くはないけど、白と薄い赤のういろうは綺麗で、見てすぐに「美味しそう」だとわたしは思った。

 

「ういろう…クッキーとかケーキとかを想像してたけど、まさかういろうとはね…これって、作るの大変じゃないの?」

「と、思うでしょ?でもういろうって、拘らなければかなり簡単に作れるんだよね。むしろクッキーとかケーキの方が手間かかるだろうし。ささ、ういろうは日持ちするものじゃないから食べちゃって」

「あ、そうなんですね。それなら早速……」

 

 元からすぐに食べるつもりではあったけど、作ってくれたイリゼさんが言うなら尚更置いておく訳にはいかない。

 という事で、わたしとエスちゃんは手を合わせてまずは一口。切り分けられた内の一つを口に運ぶと、濃いめの甘さとしっとりした食感が口の中に広がって……うん、美味しい。

 

「はふぅ…雪だるま作りで程々に疲れたし、甘いものが沁みるわ…」

「エスちゃん、言い方がお婆ちゃんみたいになってるよ…?」

「ま、わたしも色々経験してるしねー」

「…いいなぁ……」

「おいしそう…」

「…………」

 

 甘さとしっとり感で何だか緩い気持ちになりながら、エスちゃんと食べ進める。わたし達が食べる様子を、イリゼさんは機嫌良さそうに見てて…けれど段々、感じ始める。何とも羨ましそうな、じーっとわたし達を見る三人の視線を。

 

「…え、えっと…三人も、食べる…?」

「え、ディールちゃんいいの?」

「でも、わたしたちがもらったら、ディールちゃんの分ちょっとになっちゃうよ…?」

「わたし…があげても、かなり減るのは変わらないわね…おねーさん、もし無理じゃなかったら、もう少しういろうを……」

「ふっ…安心して二人共。こうなると思って…実は全員分作っておいたよ」

 

 小さく笑い、廊下に出るイリゼさん。何だろうと思って見ていると、イリゼさんは廊下に用意していた物を取ってきただけらしくて…数秒後、戻ったイリゼさんの手には、沢山のういろうが載ったお皿があった。

 二人分から六人分へと変わったういろう。それをわたし達は、皆で談笑しながら食べる。全員分用意したら、勝者のご褒美感が…なんて事は言わない。確かにそれはなくなったけど……皆で楽しく食べられるのが、一番だもんね。

 

 

 

 

 早かれ遅かれ、えー君はルウィーに行ってみたいって言うだろうなぁ、と思っていた。ルウィーに行きたいっていうか、ブランちゃん達に会いたいっていうか…とにかくそう言うと思ってたし、だからルウィーに行く機会が出来たのはありがたかった。ちょっと意外だったのは、結構人数が多くなった事だけど…理由を聞いたら納得だよね。っていうか、ブランちゃんは人気だねぇ。

 

「お、ブラン饅頭じゃないッスか。やっぱり信次元のルウィーにもこの商品はあるんッスね」

「という事は、貴女の次元にもあるのね。まあ、次元が違うとはいえ同一人物が考えたなら、同じものが生まれるのもそう不思議ではないんじゃないかしら」

 

 で、ぜーちゃん達と分かれた私達が今いるのは、教会の応接室。ブラン饅頭かぁ…自分の顔が描かれたお饅頭を商品にするなんて、よく考えたらかなり大胆だよね、流石女神。

 

「さて…それで貴女達はルウィーに訪れてくれた訳だけど、どこか行きたい所はある?あるなら、案内するわ」

「いえ、女神様直々に案内してもらうなど…」

「けどワイト、既に神生オデッセフィアでは女神直々の案内受けてるッスよね?」

「そ、それはまあ、そうなのですが…」

「ふふ、確か貴方はルウィーの軍人なのよね?つまりわたしとイリゼでは、畏れ多さに差があるという事じゃないかしら」

(わー、ぜーちゃんが聞いたらなんて言うかな今の……)

 

 さらりと言うブランちゃんに、わたしは苦笑い。言われたワイトさんの方は、返答に困ったようなをしていて…ほんとワイトさんは真面目だよねぇ。軍人だから、立場的に下手な事は言えないって部分もあるんだろうけど。

 

「っと、そうだ。先に確認させて頂戴。貴女がアイで、貴女が茜、そして貴方が影で合ってる?」

「そッスよー、ブランちゃん。ブランちゃんの親友で有名な篠宮アイッス」

「名前まで知ってるって事は、ぜーちゃんってば余程しっかり話してたんだね」

「…みたいだな」

 

 ぜーちゃんが楽しそうに話している姿はすぐに想像出来る。それは微笑ましいし…やっぱり、嬉しいよね。誰かに話したくなる程、ぜーちゃんにとって私達との出会いは大切な思い出なんだって事だもん。

 

「…しかし、まぁ……」

『……?』

「なんでもないわ。で、話を戻すけど、貴女達は何をしにルウィーに来たの?わたしに何か出来る事はある?」

「サービス精神旺盛だねぇ、ブランちゃん。私の知ってるブランちゃんも優しいけど…貴女の方がもっと気さく、かも?」

「当然よ。だって貴女達は、神生オデッセフィア以外で最初に訪れようと思ったのがルウィーな訳でしょ?なら女神として、気分が良くなるに決まってるもの」

 

 あ、だからなんだ、と私はブランちゃんの返しで納得。…因みに帰る前にこっそり「さっきのしかしまぁ、ってなーに?」って訊いたら、「女性陣と男性陣で目から感じる明るさが違い過ぎると思って…」っていう返答が返ってきた。これには苦笑いするしかなかったね。

 

「何か出来る事…っていっても、正直ウチはブランちゃんに会えた時点で目的はほぼ完遂してるというか、このまま駄弁るだけでも満足なんスよね」

「私もえー君の付き添いだから、特別何かやりたい…って事はないかなぁ」

「そう。なら、貴方達二人は?」

「…俺も、似たようなものだ」

「私もこちらのブラン様に挨拶をしておきたかった、というのが実際のところでして……」

「あ、貴方達も…?…まさかルウィーじゃなく、わたし目的が殆どだったとは…それはそれで嬉しいような、反応に困るような……」

『あはは…』

 

 流石にぽかんとしたブランちゃんに、私達は頬を掻く。でも確かに、そうなると「じゃあこれからどうするの?」ってなっちゃう訳で…ロムちゃんラムちゃん達がいたら、話題には事欠かなかったんだろうなぁ…。

 

「…あ、そういえばシノちゃんって、どんな感じでブランちゃんと友達になったの?」

「馴れ初めッスか?切っ掛けは…ウチが迷った時に、偶々会ったって感じッス。そこからはまあ、とんとん拍子に仲良くなって……あ、因みにウチ的には、茜の事も結構好きッスよ」

「馴れ初めって……」

「あ、そうなの?えへへー、じゃあ友情の証としてこのブラン饅頭をあげるね」

「いやぁ、どうもどうもッス。ならお礼に、ウチもこっちのブラン饅頭をプレゼントするッスよ」

「いやあの、それは意味がないのでは…?」

『ない(ッス)ね!』

 

 ブランちゃんが半眼でシノちゃんを見る中、私達はブラン饅頭とブラン饅頭(勿論どっちも同じ味)をトレード。うん、無意味だよ?でも何となく面白いから問題はなし!

 

「あ、それと答えてくれたお返しに、私はえー君とブランちゃんがどう出会ったかを話そうかな。っていっても、境遇が似てた幼馴染み…って感じなんだけどね。因みに私はその前に出会ってるから、言うなれば私がファースト幼馴染み、ブランちゃんがセカンド幼馴染みかな!」

「なんで茜が俺とブランの出会いを話すんだ…まぁ、いいが」

「いいんだね、影君……うん?幼馴染み…?」

「そうそう、幼馴染み。私の次元は色々ごちゃごちゃしてる…というか、ごちゃごちゃしちゃったからその辺りの説明は省くけど、ブランちゃんも他の女神も、立場としての女神になる前は学生だったんだ」

 

 そう言いながら、私は思い出す。あの頃を、もう随分昔に感じる…未熟で、青くて、今よりずっと可能性に溢れていた時の事を。……まぁ、私は皆との学生生活なんて送ってないんだけども…。

 

「学生、ね…わたしは生まれてからずっと女神だから、少しそっちのわたしが羨ましいわ。勿論、今の立場を投げ出す気なんて毛頭ないけど」

「ブラン様…。…アイ様も、確か初めから女神だった訳ではない、のでしたよね?」

「そッスよ、神次元は女神メモリーで女神に『なる』次元ッスからね。…あ、でもウチも学生だった頃とかないッスよ。代わりに七賢人っていう、ヘンテコ組織の一員をやってたッス」

「あら、そっちにも七賢人があるのね。…学生というのは、楽しいものなの?それとも、窮屈なもの?」

 

 多分、ブランちゃんに気遣って話を変えたワイトさん。でも話は戻っちゃって…私はまた、頬を掻く。

 

「いやぁ、実は私も語れるような学生生活はなくて…教師生活ならあるんだけどね」

「低いわね、就学率…女性陣全滅じゃない……」

「…そう楽しいものじゃないさ。少なくとも、誰にとっても楽しいなんてものじゃなかった。……今思えば、何一つ楽しい訳じゃなかった…なんて事も、ないんだけどな」

「ありきたりな回答になりますが…楽しい事もあれば窮屈に感じる事もある、といったところですね。ただ…学校だから経験出来る事、学生だからこそ感じられるものというのは、確かにあったと思います」

「…そうなのね。二人共、答えてくれてありがとう」

 

 答えようがない私達の代わりに言った二人の回答は、どっちも一歩引いた感じの答えで…でもそんな答えだから本心なんだろうなって思えるし、訊いたブランちゃんも何となく納得したような、そんな顔をしていた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……およ?なんかディールとエストは雪だるま作ってるみたいッスね。やけに雪玉が大きい気はするッスけど」

 

……のは、良いんだけど…話が途切れてしまった。シノちゃんは特に気にせず、窓の外を見てたりするけど…そっちじゃ話は広がらないよね…。

 

「えー、っと…ブランちゃん、他に何か質問ある?今なら別次元の事、訊き放題だよ?」

「他の質問?…そうね、だったら…印象深い出来事を教えてくれないかしら。戦闘、自然現象、文化…内容はなんだっていいわ。信次元にもある事かもしれない…そんなのは気にせず、話してくれたら嬉しいわ」

「…別次元の事を知りたい、という訳ですか?」

「えぇ、別次元なんて執筆のネタの宝庫……こほん、女神として見識を広げるのに越した事はないもの」

((物凄く堂々と言い直した……))

 

 凄いというか、なんというか…女神ってこういうとこあるよねぇと思いながら、私は考える。

 話すのはいいけど、流石に内容は選ばないといけない。幾ら特徴的だからって、私の次元のブランちゃんは今…なんて事を話したら、空気が凍り付く事間違いなしだもん。ロムちゃんラムちゃんの話までしようものなら、えー君と揃って追い出されちゃうかもしれないし。

 

「……あっ、じゃあ細かい描写がないから本当にそれなのか、それともそれっぽい物なのか分からない、更に言うと私もその場にいた訳じゃないから私が知ってるのもどの程度真実なのか怪しーところな、討滅兵装の話でも……」

「そ、それは遠慮しておくわ。丁重に遠慮させてもらうわ…」

「印象深い事、ねぇ…それでいうと、うち…あ、今のはウチじゃなくてうちッスよ?…の国民の中には、ウチに蹴られたいっていう相当物好きな人がいるとかいないとか……」

「訊いたのはわたしとはいえ、そんな話をされても返答に困るわ…後、ウチじゃなくてうち、を言葉で言われても分かり辛いし……」

「えー、分からないッスか?ウチがウチの事を指す時はウチで、エディンの事を指す時はうちで、つまりうちの国はウチの国でもあって……」

「待て待てアイ、ウチがゲシュタルト崩壊する…!皆の顔を見ろ、目が点になってるだろう…!俺の演算の方にも訳の分からない負荷がかかってる、だから止めろ…!」

「メガテン?ウチはニュートラル派ッス」

「そんな話はしてないんだけどなぁ…!」

 

 あれ、ウチってなんだっけ…ウチって何、新時代を創る歌姫だっけ…?…と、頭がぐーるぐーるするようなやり取りの中、えー君がシノちゃんへがっつり突っ込む。えー君、基本はクールだけど、偶にしっかり突っ込み入れたりもするんだよねぇ。

 

「…はぁ…アイといいイリゼといい、どうしてこうも別次元にしかいない女神は変な性格を……」

『……?』

「…前言撤回、別次元じゃなくても変な性格の割合は多かったな……」

「……ふふ」

「…ワイト?」

 

 がっくりとえー君が項垂れる中、聞こえてくる小さな笑い。誰かと思えばそれはワイトさんで、えー君が怪訝な顔をしながら見れば、ワイトさんは「申し訳ない」と肩を竦める。

 

「別に、嘲笑した訳ではないんだよ。ただ…茜さんもそうだけど、君は女神様達と親しいんだなと思ってね」

「…まあ、否定はしない。しないが、それと笑みとに何の関係が?」

「女神…いや、為政者というのは、ともすれば孤立し孤独になりがちだからね。たとえ仲間が周囲にいたとしても、それが心置きなく話せる、為政者ではなく個人として見てくれる相手だとは限らない。だから君達の様に、或いはここに来てはいない人達の様に、別次元には女神様にとって気を許せる相手がいるんだと思うと…少しだけ、安心したのさ」

「…ワイトは、違うのか?」

「どう、だろうね。私としては、そう在りたいと思っているけれど…私は軍人で、ブラン様は女神だ。明確な上下関係が、立場の違いがある以上、一線を超えられていなかったとしても……それは、仕方のない事だよ」

 

 仕方ない。そう語るワイトさんの顔は…なんていうか、大人って感じ。良く言えば弁えてる、悪く言えば…踏み出さないで、そのままでいる事を選んでる、って感じかなぁ。そんな、最近のえー君みたいな雰囲気があって…数秒後、今度はえー君が肩を竦めた。

 

「…ブランは基本物静かなタイプだが、本質はむしろ逆、熱い人間…もとい、女神だ。常識も節度も合理性も理解した上で、必要とあらば蹴っ飛ばすタイプだ。そっちの次元のブランがどうかは分からないが…俺の知るブランなら、真摯に思ってくれる近衛の長に、一線を引いて接するなんて事、しないだろうが…な」

「……そうだね。うん、そうだろう。まさかブラン様の事で、私がこうも言われてしまうとは…これでは帰った後、ブラン様に『お前もまだまだわたしの事を分かってねぇな』と言われてしまうだろうね」

「…ワイトは大人として、軍人として、無難な答えを選んだだけだろう。それを分かっていながら、思わず余計な口を挟んだ。茜、どうやら俺もまだまだ大人としては未熟らしい」

「え、今更……」

「…素の反応は止めてくれ…普通に刺さる……」

「でも大人っぽさばっかりのえー君より、どこか大人になり切れないえー君の方が素敵だと思うゾ!」

「あぁ、うん…茜はほんと、昔から変わらないな……ある意味、昔から大人だったって事かな…」

 

 やっぱりブランちゃんの事だからか、珍しい事を言ったえー君。その言葉通りなら、ワイトさんは敢えて、当たり障りのない言い方をしたって事で…そーかもしれないね。多分ワイトさんは、私達より大人だし。後、私が昔から大人だったとは…漸く気付いたんだね、えー君…!……なーんて、ね。

 

「…さっきのアイと茜もそうだけど…次元を超えた繋がりとか友情とかっていいわね。イリゼが嬉々として話すのも理解出来るわ」

「そッスね、いいもんだと思うッスよ。…ところで…影、ウチのどこが変な性格だって言うんッスか?」

「どこ?どこも何も……」

「何も…?」

「…いや、いい。変である事は悪ではないし、女神となればそれも時に長所だろうさ。気付かずにいられるなら、それも一つの正解だ」

「いや、深い事を言ってるようでその実かなりふわっとした発言ッスね!具体的な内容皆無ッスよ!?後、指摘された時点で気付かずに、はもう無理なんスけど!?」

「…ふぅ……」

「なんでこの流れで呑気に茶しばいてるんスかねぇ!?さっきの意趣返しッスか!?」

「茶をしばくって…さっきの馴れ初めもそうだけど、貴女時々言葉のチョイスがおかしくない…?」

 

 多分その通り。やっぱりまた大人になり切れないみたいで、さっきのお返しをしているえー君。で、なんかすぐ話がシフトしちゃったけど…ブランちゃんの言葉には、私も同感かな。

 

「…さて、では改めて、私も印象的だった事を話しましょうか。ですが、私の次元は人同士の争いも多く、あまり愉快な話題は出来ません。それでも宜しいですか?」

「構わないわ。でも、お手柔らかにね」

「じゃ、その次はえー君だね。お茶菓子も出してもらったんだから、ちょっと位は話をしなきゃ駄目だよ?」

「俺にそんな話なんて…と、思ったが…学生だった頃の、比較的マシな話位はしてみるか…」

 

 それからは、ワイトさんとえー君が自分の経験の事を話す。前置きの通り、ワイトさんの話はゾンビ…的な存在との戦いっていう、きょーみは引かれるけど全然明るくはない話で、えー君もえー君で何故か麻雀っていう学生生活とはかけ離れた事を話していて、全体的に盛り上がる感じはなかったけど…ブランちゃんはどっちの話も、しっかりと聞いていた。そして……

 

「ふぅ…濃ゆいわね、どっちの話も。やっぱり聞いてみて正解だったわ」

「確かに濃かったッスねぇ、まさかワイトの話だけでなく、影のどうでも良さそうな話すら、段々深くなっていくとは……」

「世の中何があるか分からない…まさにその通りだったわね。だから…ワイト、影、話してくれてありがとう」

「…いえ。私も信次元のブラン様と話す事が出来て幸せです」

「俺は礼を言われる程の話はしてないんだが、な。…少し、席を外す」

 

 二人の事を見て、真っ直ぐお礼を言ったブランちゃんに、ワイトさんはこちらこそ、と返す。えー君の方は、いつも通りの返し方で…でもその後、おもむろに立って廊下へ行く。

 それに私は、何となく感じるものがあった。だから私も「ちょっとごめんね」と言って、えー君を追う。追って、廊下で呼び止める。

 

「…えー君、大丈夫?」

「…何がだ、茜」

「心が、だよ。…どっちにしても後悔するだろうとは言ってたけど…こっちの方が、より後悔する選択じゃ…なかった?」

 

 前に立って、じっとえー君の目を見つめる。見返すえー君の目は、私の方を向いているけど、どこか遠くを見ている感じで…ぽつりと呟くように、言う。

 

「…正直、思っていた以上に…覚悟していた以上に、辛いものがある。ありがとうなんて…感謝の言葉で潰されてしまいそうになるなんて、思いもしなかった……」

「えー君…」

「それに…やっぱり、堪えるな…またブランと話せるのは、手を伸ばせば届く場所にブランがいるのは……」

 

 語るえー君の顔は辛そうで、声は普通…のようで、どこか震えてるような感情が乗っていて…けど、続ける。でも、と言って…えー君の言葉は、続く。

 

「…でも、大丈夫だ。分かったから、伝わったから。…ここにいるのは、信次元のブランだ。同じブランではあっても、俺の知っている…俺が過去にしてしまった、ブランじゃない」

 

 ロムもラムもそうだ。皆きっと、そうなんだろうな。…そう言って、えー君は小さく笑った。

 きっと誰も、この笑みの意味は分からない。でも、私には分かる。…ちゃんと、しっかりと、違うって分かったからこそ…自分の業を、背負ったものを、降ろそうとしないで済みそうだって。それは安心して笑うなんて…ほんと、えー君はえー君だね。

 

「…じゃ、戻ろうか。あんまり長いと、心配されちゃうよ?」

「まだ出て数分も経ってないだろ…まぁ、そんな長く離れてるつもりもないんだけどな」

「あ、それか外でやってるっていう、雪だるま作りに参加する?大人気なく、やたら凄いの作っちゃう?」

「そんな恥ずかしい事誰がするか…後、面子的に返り討ちになるかもしれないぞ…?」

 

 そんな風に、ちょっと冗談めかして私はえー君と応接室に戻る。えー君の答えを聞いて安心したし…確かにそうだって、私も思った。…私だって、色々思う事はあるけど…私より辛いえー君がそう答えを出したんだもん、私もしっかりしないとだよね。

 そうして戻った後、また私達は暫く話をした。戻った時三人は、それぞれのルウィーの違いについて話していて、これが意外と盛り上がっていた。だから私達もそれに参加して…雪だるま作りの後、ういろうを食べたらしいぜーちゃん達がまた来るまで、その話は続くのだった。ルウィーの違いなんて、そこまで凄い話じゃないけど…悪くない話だよね。だってこれも、私達が信次元に来たから…次元を超えた繋がりがあっての話なんだから。




今回のパロディ解説

・「〜〜一回転すると〜〜それが雪玉〜〜」
天元突破グレンラガンの主人公、シモンの名台詞の一つのパロディ。いつしかイリスも手を変化させたドリルで天を…突いたりする事はないでしょう。多分。

・雪だるま、君に決めた
ポケモンシリーズ全体における、代名詞的なフレーズの一つのパロディ。特にタイトルのパロディですね。しかし雪だるまといっても、ガラルヒヒダルマではありません。

・ファースト幼馴染み、セカンド幼馴染み
IS〈インフィニット・ストラトス〉のヒロインの一人(二人)、篠ノ之箒と凰鈴音の事。しかし性格的には、一人目二人目が逆の方がパロディ元と近そうですね。

・討滅兵装
デート・ア・ライブに登場する兵器の一つ、リコリス・シリーズの事。デート・ア・ライブが好きな私としては、中々記憶に残っている展開だったりします。

・新時代を創る歌姫
ONE PIECEに登場するキャラの一人、ウタの事。ウタとウチ、二文字の内片方が同じだけなら色々ありそうですが、タとチなので、実はやっぱり近い訳ですね。

・メガテン、ニュートラル
女神転生シリーズ及び、その作中におけるルートの一つの事。女神なのにニュートラル…というのは、私の勝手なイメージです。そもそもロウは色々極端ですしね。

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