超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第十四話 煌めきの開花

 アイドル。人々から注目を集め、期待と声援を浴び、憧れの対象として…時に偶像として、思いを受け取りその思いに応える存在。その在り方は、ある意味で女神の持つ『理想の体現者』という側面とよく似ている。それ故に、信次元の女神は犯罪組織との戦いの後、疲弊した人々と社会を元気付ける為、偶像(アイドル)としての活動に踏み切った。それは同時に、犯罪組織の残党を誘い出し、残り僅かな戦力を一掃する作戦の為でもあったが…大規模なライブは、期待した通りに、想定した以上の結果を収める事に成功した。

 当初の目的は、その成功一つで達成していた。幾らシェアエナジー獲得の面でも親和性が高いといっても、女神の本分は守護者であり指導者なのだから、続ける必要性はなかった。…だが、女神達はそうしなかった。散発的にではあるが、女神達は一度限りの機会とはせず、続ける事を選んだ。それは続ける事を望んだ者が多く居たからであり、想定以上の社会的効果を得られたからでもあり…何やり女神達自身が、アイドル活動に…女神としての活動とは違う思いを浴びる事に、舞台上で感じる熱量に、嘗てない高揚感を抱き、続けたいと思ったからであった。

 そうして時に各国それぞれで、時に合同で、不定期ながらも続けられているアイドル活動。そしてその活動は今…新たなステージへと踏み込んだ。……の、かもしれない。

 

 

 

 

 折角信次元に来たんだから、毎日充実した時間を過ごしたいよね!…と思ってる私だけど、意外とそれも難しい。というか、一日中充実してる…っていうのは、流石に無理。

 でも別に、無理に充実させなくたっていいよね、とも思う。何気ない時間を過ごすのも良いと思う。例えば…神生オデッセフィア教会の中で、のんびりするとかしても…ね。

 

「違う次元でも、同じようにTVがあって、内容は違ってても、同じようなジャンルがある…こういうのって言い出したらキリがないけど、何だか不思議だなぁ…」

 

 柔らかいソファに座って、私は呟く。ぽちぽちとリモコンを操作しながら、のーんびりと。

 

「あ、ルナ。何してるの?」

「あ、ピーシェにビッキィ。見ての通り、TV見てるんだ。色々やってるよ?」

『こちらが話題の唐揚げです!どうやらこのソースにはある秘密があるらしいですが…早速頂いてみましょう!』

『そう、この時間帯でそれが出来たのは一人しかいない。…無差別連続膝カックン事件、犯人は貴方だ!』

『まだまだ私、ルーラードオリジンの防衛ロードは続く!応援してくれる皆の為に、続けてみせよう!』

『絶賛放送したいアニメ、双極の理創造はスポンサーや製作委員会を募集中!ついでに文庫化やらその他諸々も募集中だ!』

「……普通の休日感が凄いな…」

 

 何か見る?と思って小首を傾げたら、ビッキィに苦笑いをされた。…まぁ、否定はしないけど……。

 

「…一応言っておくけど、何もずっとTV見てる訳じゃないよ?色々検索してみたり、本棚を漁ったり、今日は色んな事してるんだから」

『尚更普通の休日が凄い……』

 

 二人の反応に、なんだか不服な気分になる私。別に非難されてる訳じゃないけど、何かこう…見返したい気持ちが湧いてくる。むむむ…のんびりしてたのは事実だけど、ただだらだらしてた訳じゃないんだからね…!…そうだ、さっき面白い動画見つけたし、それを見せれば少しは見方も変わってくる筈…!えーっと、さっきの動画は確か……。

 

「…って、あれ…?なんだろうこの、急上昇検索動画って…えっと、何かのPV……」

「……?ルナ、いきなり固まってどうし──」

「えぇぇぇぇぇぇッ!?」

『えぇぇッ!?な、何!?』

 

 怪訝そうなビッキィの声が聞こえた直後、私は叫ぶ。びっくりして、仰天して、思わず持っていたタブレット端末を落っことしそうになった位、びっっくりする。

 それに、私の叫びに二人も驚く。続けて「いきなり何!?」って視線を向けられるけど…仕方ない、仕方ないもん!だって、だって……

 

「これ、茜とイリゼとアイじゃん!え、な、何…三人共、アイドルデビューしたの!?」

『はい!?』

 

 答えなんか返ってくる訳ないのに、それでも私は端末の画面に向けて問う。その結果、二人には余計唖然とされる。

 勘違いじゃない。見間違いでもない。確かに、間違いなく…PVというカテゴリになっているその動画に映っていたのは、私の知る三人だった。その映像の中で三人がしているのは……どう見ても、アイドルっぽい歌と踊りだった。

 

 

 

 

 教会の一角、多目的ホール。文字通り、色々な目的で使うこの部屋に今、私はある二人と共にいる。

 

「さて、と。まずは来てくれてありがとね、アイ、茜」

 

 最初に来て待っていた私は、来てくれた二人に対して感謝を伝える。これから行う事に参加してくれる…私と同じ立場に立ってくれる、二人に向けて。

 

「でも、本当に良かったの?誘った私が訊くのもアレだけど、二人共そんなに乗り気じゃなかったよね?」

「ううん、私的には割と面白そうだって思ってたよ?ただ、誘われた時点じゃぜーちゃんの態度がね……」

「翌日も翌日で変な態度だったから気が乗らなかったッスけど、ウチもやる事そのものはそんな嫌じゃないって感じッスね。注目を浴びるのはもう慣れっこッスし」

「う…いやほんと、あの時はごめんね…」

 

 ねぇ?…と顔を見合わせる二人に対し、私は謝る。本当に、我ながら何故あんな態度になってしまったのか…。…まぁ、この件自体あの場のテンションから思い付いたようなものだし、そういう意味じゃ完全な失敗とも言い切れないんだけど…。

 

「なら、改めて…二人共。私と一緒に立ってくれる?私とトリオユニットを…組んでくれる?」

「勿論ッス」

「こっちこそお願いね、ぜーちゃん」

 

 こくり、と深く頷く二人。その反応に、肯定に、私は安堵し…心の中で、燃え始める。二人がその気になってくれたんだから、これは成功させたいって思いが。まだ、どこをゴールにするかは決めていないけど…二人と共に、歌いたいって気持ちが。

 

「…けど、幾ら何でも即本番とかじゃないよね?ぜーちゃんやシノちゃんは注目を浴びる事に慣れてるかもしれないけど、私は一応普通の…あー、いや……」

『……?』

「…とにかく、即本番は流石に無理かな。音楽の先生だったって訳でもないし」

「や、ウチだって歌や踊りには慣れてないッスよ。そういう事とは、これまで無縁だったッスからね」

「いやいや、流石に私もそんな事は言わないって。やる以上は、胸を張れる内容にしたいし…誰かに見てもらう、聞いてもらう為のものなら、手抜きなんてしたくないからね」

「ならそこは安心だけど…歌とか踊りとかって、ぜーちゃんが教えてくれるの?」

「あ、うん。一応曲は、私のシングルである『New Past Alternative』のアレンジバージョンにしようと思ってて、基本は私が教えるつもりだけど…実はこれの為に、強力な助っ人を用意しててね」

『助っ人?』

 

 小首を傾げる二人に対し、私はふっ…と笑う。私の人脈を駆使して集めた、信頼のおける助っ人がいるのだと、二人に言い切る。

 そして私は、待機してもらっていた助っ人を呼ぶ。入ってきて、そう私が呼び掛けると、扉が開き…助っ人が、選りすぐりのスタッフが、姿を現す。

 

「まずは一人目…マネージャーの、影君だよ!」

『いきなり身内!?』

 

 綺麗にハモった突っ込みの中、平然と入ってくる影君。…別に、ギャグじゃない。一回冗談を挟んでからちゃんとした人を紹介するとか、そういう事ではない。

 

「今回君達のマネージャーを務める事になった凍月影だ、宜しく頼む」

「わー、既にキャラ作ってきてる…えー君がマネージャー…?いや、マネジメントは出来ると思うけど…」

「茜に恥をかかせる訳にはいかないからな。やれる限りの事はやるさ」

「マネージャーッスか…頼むッスよ、影。昨今のマネージャーは担当してたアイドルの幽霊が見えたり、嘘を輝きとして見抜けたりと多彩ッスから、影にもそれ位のポテンシャルを期待してるッス」

「何故初めに求めるのがそんな飛び道具なんだ…まあ、嘘位なら大体は見抜けるが」

「…どの位見抜けるんッスか?」

「まぁ、私とぜーちゃんなら高確率で見抜かれるんじゃないかな。シノちゃんはまだ読み辛い方だと思うけど、気を付けないとあっという間に手玉に取られちゃうよ〜」

「えぇ…?なんでマネージャーの最初の情報が、『油断すると手玉に取られる』なんスか……」

「っていうか私は高確率で見抜かれるの…?」

 

 変なやり取りから、いつものように脱線…と思っていたら、何故か流れ弾が私の方へ。…いや、まぁ…確かに本気で駆け引きしようと思ってない限りは、見抜かれそうな気もするけど…それはそれとして、明言はされたくなかった……。

 

「それよりイリゼ、まだ紹介が残っているんだろう?」

「あ…う、うん。じゃあ、次は二人目……トレーナーの、ワイト君!」

『と、トレーナー…?』

 

 気を取り直し、私は二人目を…二人目の助っ人を呼ぶ。するとすぐに、ワイト君は入ってきて…頬を掻いた。本当にやるんですね、とばかりの表情と共に。

 

「えー…トレーナーを仰せつかりました、ミスミ・ワイトです。芸能関係は全くの素人な筈ですが……イリゼ様たっての頼みという事で、やる以上は尽力させて頂こうと思います」

「トレーナー…ワイトっていうと、前の時のスパルタっぷりを思い出すッスね……」

「っていうか、トレーナーなのにいぶ君とかあい君じゃないんだね」

「や、二人は『ポケモン』トレーナーだし…ポケモン感覚で指導されたい…?」

「逆に軍人さんからの指導ならいいの?」

「……ま、まあほら!ワイト君も、芸能は素人でも指導の経験自体は結構あるって話だし!適切な休息の取り方とかストレッチの仕方とか、そういう方面での指導も期待出来るし…!」

「…あの、イリゼ様…何気にハードル上がっていません…?」

『けどまぁ、ワイト(さん)なら何だかんだ上手くやってくれそうなイメージはある(ッス)ね』

「意図的にハードルを上げるのも止めて頂けませんか…!?」

 

 何か、二人目にして無理な人選みたいな雰囲気になっちゃったけど、一応二人も納得してくれたみたいだから問題なし。…いや、ほんとふざけてないよ?私本気だよ?本気なら尚更その道のプロに…っていうのもご尤もだけど、さっき言った通り指導はある程度私も出来るからね?トリオ用への組み直しの方は、流石にプロに依頼済みだし。

 

「皆さん、努力はしますがあまり期待はし過ぎないで頂けると助かります……」

「大丈夫ですよ、最終的に頑張るのも、指導をプラスに出来るようにするのも私達の方ですから。…こほん。三人目、最後の助っ人は…プロデューサーの、ズェピア君です!」

『ずぇ…ズェP!?』

「ズェPは止めてくれ給え…そんな力の抜けそうな呼び方は御免被るよ……」

 

 三人目にして遂にボケに転じる二人。流石は二人というかなんというか、妙な呼ばれ方をされたズェピア君は何とも言えない顔をしていた。…ズェP…変だけど、ちょっと言いたくなる響きではあるかも…。

 

「…では、改めて…今回は監督ではなくプロデューサーとなったズェピア・エルトナムだ。役目は違えど同じ舞台を作る裏方として、最大限助力させてもらうよ」

「監督…そういえば、カットとかリメンバとか言ってたッスね。つまりこの中じゃ一番今回の事に精通してる訳ッスか」

「演出という意味では、多少はね。後、リメンバではなくリテイクだね。それではどこぞのカードになってしまう」

「プロデューサーかぁ…マントでいいの?」

「ははは、愉快な事を言うね。カーディガンを羽織っているプロデューサーなんて今の時代いないだろうに」

「え、いないの…?」

『えぇぇ……?』

「いやでも確か、最近もプロデューサーというだけでその姿を想像される刀剣が話題に……」

「それもイメージの話だからね、ぜーちゃん…」

 

 分かってる、それがレトロスタイルだって事は。けど今も、一つのスタイルとして継承されている筈…だってレトロという事は、それだけ歴史があるんだから…!……と、思った私に向けられる、呆れ気味の視線。…むぅ…ちょっと誤解してただけなのに…。

 

「で、最後って事は、助っ人はこの三人なんッスか?」

「あ…うん。マネージャーに、トレーナーに、プロデューサー…戦力としては、十分でしょう?」

「何を以って十分なのかはさっぱりだけど…えー君達が協力してくれるなら、尚更頑張らないとだね」

「うんうん、その意気だよ茜。…二人は素人だし、私としても楽しくやれればそれで、って感じもあるけど…やる以上は手抜きなしで、本気でやりたいって思ってる。だから…二人共、ついてこれる?」

「あはは、やだなぁぜーちゃん。私の事、軽く見てっちゃ困るよ?」

「そこで無理そうだからやっぱり止める、っていうウチじゃないッスよ。やるなら半端な気持ちより、本気でやった方が何でも面白いッスしね」

 

 ついてこれる?…そう問いた私へと返ってきたのは、自信を帯びた小さな笑み。それは私の期待した通りの答えで…楽しみだ、そう素直に私は思える。私だって別にこの道のベテランとかじゃないし、どの程度までやれるか分からないけど…だからこそ、挑戦し甲斐があるというもの。どこまで行けるか分からない…それは、未知数って事でもあるんだから。

 

「こほん、じゃ…影君、ワイト君、ズェピア君…この通り、私達はプロを目指す…訳じゃないけど、本気だよ。だから、変な遠慮とかせず、びしばし指導してね?」

「言われなくてもそのつもりだ。加減は苦手だからな」

「イリゼ様自身がそう仰るのでしたら…そうさせて頂きます」

「ふふ、そう言われてしまったら手抜きは出来ないね」

 

 予想通りの、三人の反応。成功にはこっちサイドのやる気や努力は勿論だけど、手助けしてくれる人達の力も必要不可欠。だから私は頭を下げ、お願いし…了解を受け取る。

 そうして、まずは私の曲を聴いてもらい…そこから私達が活動が始まった。

 

 

 

 

「最後にここで…ターン!」

「ほっ…!」

「よっ…!」

 

 曲のラスト、ターンと共に私達は中央に集まる。位置、タイミング、速度、角度…どれか一つでも誤れば締まらない、或いはぶつかってしまう難所の一つで……けれど完璧に、狂いなく最後のターンが決まる。

 

「…流石は皆さんですね。ダンスに関しては、非の打ち所がありません」

「ふぅ…ありがとう、ワイト君。けど、本当に大丈夫だった?」

「えぇ。ですが、今のはあくまで目立つ問題点はないという意味です。お三人の身体能力を考えればまだまだ伸び代はある筈ですし、更に練習は重ねるべきかと」

「ま、そッスよねぇ…」

 

 トレーナーであるワイト君の言葉を受けながら、私達は小休憩。ぐっ、とスポーツドリンクを飲んだアイは、ワイト君の指摘に頷いてから後頭部を掻く。

 

「歌唱練習の方は、上手くいっていないので?」

「や、上手くいってない訳じゃないッスよ?ただ、ダンスの様にはいかないというか…」

「うん、分かる。ダンスは割と感覚でいけるんだけど、歌はそうもいかないんだよねぇ」

 

 アイの言葉に、茜も続く。それを聞いて、私もうんうんと頷きを返す。

 分かる。戦闘とダンスは色々違うけど、手や足の先まで意識を向ける事や、相手や味方との距離を掴んで位置取りを行う事みたいに、戦闘技術を活かせる部分は色々あるし、その戦闘において二人は卓越した力を持っている訳だから、上手く進められるのも納得のところ。けどダンスが順調に出来れば出来る程、絶対的に見たら悪くなくても、相対的に見れば歌の上達が鈍いように感じられるのも仕方のない事で…それは私も通った道。というか、今現在の私だって少なからず同じ感覚は持っている。

 そして、私はこの感覚への対処方法を、今も見つけられていない。歌唱練習だけしていれば差は縮まるけど、振り付け練習はやらない、というのは解決策として明らかに悪手。だからとにかくやる、大丈夫だって自分に言い聞かせる位しか対策もなくて……

 

「なら、良い方法がある」

『わっ…!』

 

 いきなり背後から聞こえた声。びっくりした私達が振り向けば、部屋の入り口…開いた扉に軽く背を預けた影君が、腕を組んで立っていた。…い、いつの間に……。

 

「マネージャー君、良い方法って?」

「…マネージャー君…?」

「折角だからそう呼んでみようかな〜ってね」

「そうか…まあ、悪くはない」

「いや、夫婦仲良しアピールしてないで、良い方法について話してくれないッスかね…」

 

 にこっと朗らかに笑う茜に対し、影君は小さく…微かに笑う。けどまあアイの言う通り、私達としてはそれを見せられても仕方がない訳で…言われた影君は、こほんと一つ咳払い。

 

「歌の上達が芳しくないように感じている理由は、単純明快。三人が自分達の歌を、技術力を正確に把握していないからだ」

「それはまあ、そうッスね」

「という訳で、これだ」

 

 そう言って、影君が出したのはバケツ。一見どこにでもありそうな、青いバケツで…あ、そういえばバケツを被って歌うと、自分の歌がよく聞こえるって言うよね。……って、

 

『方法が超基本的!?』

「基本を疎かにする者に上達はない。だろう、トレーナー」

「あ、影君もそれに乗るんだね…えぇ、彼の言う通りです。小手先の技で飾り立てるより、基本の部分から鍛える方が余程お三人の為になるかと」

「や、それはそうだけど……二人共、やる…?」

 

 二人の言う事は正しいと思うけど、バケツを被る事には抵抗がある。だってバケツだし。某大作RPG的に言うと、かっこよさが−40位になりそうだし。…けど、私も二人もやれる事があるのにやらない、というのは嫌で…だから意を、決する。

 

「あぁそうだ、そのままで振り付けの練習もするといい」

『このままで!?』

「いいですね。どちらにせよ最終的には目で立ち位置や動きを逐一確認せずともやれるようになる必要があるでしょうし、お三人なら出来る筈です」

『えぇぇ……』

 

 違う、そうじゃない。バケツを被って踊るのが恥ずかしいんだ。…いや、出来る出来ないの問題もあるけど。……と、いう視線で私達はトレーナーとマネージャーを見るものの、二人の方はどこ吹く風。アイと茜はともかく、私に関しては協力を頼んだ側な以上、無茶苦茶過ぎる事でもなければ突っ撥ねるのも気が引けて…結果、やる事になってしまった。バケツ被りガールズトリオになってしまった。

 

「ウチ、外見は気にしない方ッスけど…流石にこれは分かるッス、絶対ないって……」

「これあれかな、こんな恥ずかしい格好を続けたくないなら、さっさと上達する事だっていう、そういう意味での指導かな……」

 

 げんなりした顔でアイも茜もバケツを被り、私も乾いた笑い声を漏らした後にバケツを被る。既に私達は最初のポジションについていて…聞こえてきた曲に合わせ、歌と振り付けを開始。

 そうして聞こえてくる、バケツ内で反響した自分の声。確かに普通に歌うより、ずっと自分の声がよく分かって…思っているよりは、上手く歌えている…ような、気がする。

 

(……っ、危な…っ!)

 

 曲は進み、サビの部分へ。歌もダンスも一番激しく、難度も高い部分に入って…ある時、不意に感じた危機感。反射的にスピンを、元の振り付けから離れ過ぎない程度にそれから避ける動きを取れば、靴のゴムと床とが擦れるキュキュッとした音と、素早く何かが動くような風を感じて…大体分かった。アイと茜、どっちかまでは分からないけど、私は接触しかけたんだって。

 危なかった。見えない状況で接触すれば、お互い転んでた可能性も高い。…でも、同時に良い経験になった。見えている時は気付けない、曲の中での『ぶつかり易い場面』を、視界を塞ぎ、音も自分の声以外は聞き取り辛い状況を作る事で、身を以て把握する事が出来た。…もしかすると、この把握も二人の狙っていた事…かもしれない。

 

「ふー、何とか踊り切れた…って、わー…やっぱりそこそこズレてるね…」

「ま、そこは仕方ないッスよ。第一メインは歌の方ッスし」

 

 普段より長く感じる時間を経て、曲が終わる。今のがどの程度プラスになったかはまだ分からないけど、いつもよりは自分の歌がよく聞こえたし、学びもあった。終わった瞬間の位置が多少ずれてしまっているのも、バケツを被ってた事を思えばむしろ上出来って程度にしか狂ってなくて……

 

「諸君、お疲れ様。顔を隠そうと、溢れ出る魅力は隠せない…そう思わせてくれる光景だったよ」

『うわぁ!?』

 

 バケツを取り、見ていた二人にどうだったか訊こうとする、訊こうとしたその時、再び聞こえたこの場にいない筈の声。そして開けた視界で見れば、見ているのは二人しかいない筈のこの場にズェピア君が、三人目がいて……私達は仰天した。するよ、そりゃ仰天する。だってバケツを被ってる間に、一人増えてたんだから。

 

「おっと、驚かせてしまったかな?」

「しまったかな?じゃないよ…!?影君もだけど、なんで普通に入ってこないかなぁ…!?」

「いや、普通に扉から入ってきたんだが…」

「入室方法じゃない事位分かってるよねぇ…!?」

 

 びっくりして危うく尻餅を突きかけた私達を尻目に、助っ人三人は何やらコンピューターを操作中。そんな三人を私達が恨めしさを込めてじーっと見ていると、影君はこほんと一つ咳払いし、想定外の事を言ってくる。

 

「さて、ここで一つ謝罪する。基本を掴む方法としてバケツを出したが…あれは嘘だ」

『へ…?』

「だからここからはこの映像を見てもらって……」

「ちょ、ちょちょちょ!いや、何がどうして『だから』なの!?説明は!?」

「見れば分かる」

「うっわ…典型的な、学ばさせるのに説明を使わないタイプッスね……」

「うん、えー君はそういうタイプだからね…」

「ははは、では私が代わりに説明しよう。…と、いってもそう複雑ではなくてね。君達が通しでやっている間、その姿を撮らせてもらっていたんだ」

 

 軽く笑い、代わりに話してくれるズェピア君。撮っていた、という事に対して私達が「何故?」と思えば、だろうねとばかりな説明が続く。

 

「自分の事を知るには、自分を客観的に見るのが一番良い…というのは分かるね?」

「…つまり、考え方じゃなくて、実際に映像で自分達を客観的に見ろ、と?」

「そういう事だよ、イリゼさん。という訳で、ご覧あれ」

 

 くるり、と私達側に向けられるコンピューター。納得のいく説明を受けた私達は、その画面に映る自分達を……

 

「…って、うん…?」

「いや、これ…なんでフルCG化されてるんッスか…?」

 

…と、思いきや、映っていたのは私達の面影ゼロなCG三体。…訳が分からない…。

 

「まあ、一先ず見て下さい。これに関しては、今はまだ説明する訳にはいかないんです」

 

 私達は困惑する一方、三人の方は全員ちゃんと分かっている様子。訳有りなら仕方ない、と取り敢えず私達は見る事にし…次第に、気付く。

 

「…これ、声は間違いなくウチ等、ッスよね…?」

「うん…結構、上手いね……」

 

 呟く二人に、私も頷く。声は確かに私達のものだけど、見た目が丸っきり違うから…というか、丸っきり違う分、余計に「あれ?これ、私の歌?」…って感じる。自分で想像していたよりも、上手だって感じられる。

 

「自分を客観的に見る…これは言葉で言うよりもずっと難しい事だからな。…だが、それならば別人にしてしまえばいい」

「見た目が完全な別人なら、自分への思い込みなく見る事が出来る…これはワイト君の発想でね。その為のプログラムを、私と影君で組んでみたという訳だよ」

「そういう事だったんだ…じゃあ、バケツは要らなかったんじゃ…?」

「バケツは撮影用のカメラや、撮る事で客観視するという目的を隠す為の小道具です。知ってしまっていると、自然な動きや思考の邪魔になりますからね」

「はえ〜…でもそれなら、目隠しとかでも良かったんじゃないかな?バケツだと、声がくぐもっちゃって聞き取り辛いもん」

「目隠しでは、皆さん『何かある』と思われるでしょうから…それに何より、目隠しして踊る女性三人を撮るという、非常に宜しくない状況が生まれてしまうので……」

『あー……』

 

 バケツ被った女性を撮るのも相当なもの…というのはさておき、それは確かに…と私達は揃って苦笑。何にせよ、三人の計らいによって私達は、自分達の歌をかなりまっさらに近い状態で聞く事が出来て……なんだか、自信が持てた。私もだけど、完全に素人な二人はもっと、確かな自信を得られたと思う。

 

「…よし、じゃあ練習続けよっか。建前だったとはいえ、バケツの反響で分かった改善点とかもあるだろうしさ」

「だね。もっと完成度を高めてきたいし、ビシビシ指導お願いね?」

「プラスになるんだったら、色々試してくれても構わないッスよ」

 

 映像を見終わった私達は頷き合い、早速練習続行への意思を見せる。勿論、とばかりに助っ人三人も頷いてくれる。

 この意欲、このやる気がありがたかった。元々のセンスとか、身体能力の高さありきな部分もあるだろうけど、熱意を失ったり後ろ向きになったりせず、頑張ってくれる二人だから、私も絶対成功させたいって思えて…それをサポートしてくれる三人の存在も、やっぱりありがたい。

 だからこそ、私は思う。二人に声を掛けて良かったって。三人に助っ人を頼んで、正解だっ……

 

「…なら、次は外だな。どれだけ緊張感を持とうとしても、屋内じゃ失敗しても、何かミスしても困らないという意識が生まれる」

『え?』

「確かにそれもそうですね。バケツを被っていれば誰なのかは分かりませんし、周りもストリートパフォーマンスの一種だと思ってくれるでしょう」

『え…?』

「いやはや、お二人共中々厳しいね。…ならば、万一に備えて対策はしておこう。怪しい輩に絡まれる程度の問題なら、どうとでもなるように、ね」

『え……?』

 

 ぽかんとした顔で私達が固まる中、何やらどんどん進む次の訓練計画。私達からの意見は聞かないまま…というか、挟む間もなく内容は決まっていき……再び差し出されるバケツ。

 

…………。

 

「…ろ、ロケの練習しようかロケの練習!こういう今はまだ不要に思える事でも、意外と今の自分の成長に直結したりするものだし!」

「そッスね、ウチ前から食レポに興味があるような気がしてたんスよね!」

「そうと決まれば善は急げ!マネージャー君達、私達ちょっと行ってく──」

「仕方ないな。じゃあ今後に向けてより多くの意見を得る為に、今し方撮った映像の無加工版を配信するとしよう。ついでに各次元にも送り付けてみるか…」

『ちょっと!?』

 

 顔を見合わせ、全会一致で逃走を図る事にした私達。けれど次の瞬間、私達にとっては赤っ恥な映像の流出を…それも普通に外でやるより遥かに広範囲に広がりそうな可能性を示唆されて私達は戦慄。いやいやまさか、流石にそれは本気じゃない筈…と思いたい私だけど、ここにいるのはスパルタ実績のあるワイト君に、容赦も遠慮も皆無な影君に…なんというか、その気になったらほんとにどんな事でもしそうな気がするズェピア君。この三人を思えば、更に私自身が「遠慮せず」と初めに言った事を考えれば、ちゃんとプライバシーは保護される前提で流出位しそうなもので……人選を間違えたかもしれない。冷や汗が垂れるのを感じながら、ここにきて私はそう思うのだった。

 

 

 

 

 グラビアじゃないんだから、歌と踊りは必須。…まぁ、二人ならそっち方面でも申し分なしにいけるとは思うけど、取り敢えず今回するのはそういう事じゃない。

 でも、歌と踊りだけあればいい訳でもない。真に実力のある人なら、それ以外で飾ったりなんてしない…とは微塵も思わないし、それ以外の部分でもやれる事は全部やってこそ「全力を尽くす」と言えると思う。つまり、どういう事かっていうと……

 

「じゃん!こちらが本番用の衣装になります!」

『おぉー!』

 

 二人から上がる、驚きと歓声の混じったような声。歌も踊りも大事だけど…見てもらうなら、衣装だって大事だよね。

 

「凄いねぜーちゃん、ばっちり衣装!って感じだよ!」

「うんまあ衣装だからね。デザインも製作もプロの仕事だから、質の高さは保証するよ?」

「イリゼ、とことん本気ッスねぇ…曲のアレンジもプロがやってるって話ッスし、結構出費があるんじゃ……」

「大丈夫、元は取れる自信あるから」

『えっ?』

「…なんて、ね。まあ私の衣装はそのまま今後も使えるし、曲のアレンジも最悪別のメンバーでやる時に流用出来るだろうから、そこら辺は気にしないで」

 

 まさか長期的な活動を前提に…?…という顔になった二人に対し、冗談だよとばかりに私は肩を竦める。……本音を言えば、今回のアレンジは私達のもの、って事で軽く流用したくはないけど…それはまた別の話。

 

「それより二人共、一回着てみてもらえる?サイズは勿論だけど、動き辛かったり、細部の意匠が見えなくなってたりしないかを確認しないといけないからさ」

「あー、そりゃそうッスね。それじゃあ早速…」

「…うーん…分かってはいたけど、ぜーちゃんのだけ胸元の布が多い……」

「それに関しては、どうにもならないからね…」

 

 むー…という視線を向けられ、頬を掻きつつ目を逸らす私。因みに普段は女神の姿で活動している訳だけど、今回は当然女神化出来ない茜もいる訳で、その茜が浮かないよう人の姿でやる事に決めた。

 

(…ふふっ、やっぱり衣装を着ると、実感湧いてくるな)

 

 服を脱いで、下着姿になって、衣装へと袖を通す。用意した衣装は黄色と赤を基調とした、高貴さと軍服っぽさを併せ持つデザインのもので…けれど勿論、一人一人仕様は違う。

 私の衣装は黄色の割合が多目で、細部には金色もあしらえている。トップスにおける二人との違いは、胸元は少し、肩は腋までしっかりと出している事で、サイズも動き易さもダンスどころか戦闘だって出来そうな位にばっちりな仕上がり。胸に関しては、二人に配慮して出さないようにする事も考えたけど…止めた。そういう思考での妥協はしたくないし、普段の衣装だって私は開いたりしている訳だから。

 より二人と違うのはボトムスの方で、こっちは私の普段着と同じように、ミニスカートとブーツのセット。ソックスはブーツから出ない長さで注文していて…自分から発信するのは流石にちょっとアレだけど、脚は出来る限り見せていくつもり。胸や腋を見せると見せかけて、こっちでも魅せるのが私のスタンス。…ほんと、自分から言ったりするのはアレだけど…。

 

「ふふふっ、こんな格好する日が来るなんて思わなかったなぁ…♪」

 

 隣から聞こえるのは、嬉しそうな声。楽しみながら着替えているのが分かる、茜の声。

 黄色がやや多かった私とは対照的に、茜の衣装は赤が多めで、細部を彩る色は黒。私達の中じゃ唯一二の腕までの袖になっている茜は、そこから先をロンググローブで包んでいて、そこに茜が普段から時偶に見せる大人っぽさが…私やアイにはない類の魅力が表れている。胸から首にかけての部分も、私程じゃないにしろ開いていて、そこでも大人っぽさが感じられる。

 同じくボトムスも、私とは対照的。ミニスカートにブーツっていうのは同じだけど、茜はニーハイを履いていて…ニーハイに包まれた脚と、そのニーハイとスカートの合間に見える素肌の太腿、その両方が魅力的。ニーハイの脚は綺麗で、太腿に至っては…眩しい。そう表現するべき光景じゃないか…そう思わせる魅力が茜には、茜と茜の衣装にはあった。

 

「…………」

「…アイ?」

「…や、分かってはいた事ではあるんッスけど…こういうの、ウチに似合うッスかね…?」

「何言ってるのシノちゃん。そんなの考えるまでもなく、似合うに決まってるよ」

「うんうん、疑う余地なしだよね」

 

 早々に着替えた私達と違って、アイは躊躇っている…訳じゃないにしろ、自分に対して懐疑的。けど私達からすれば、そんな訳ない事であって…返しを受けたアイは、そういう事なら…と衣装に着替えていく。

 黄色と赤の割合が大体同じなアイの衣装、その細部に施された色は緑。トップスは一見、私達の中じゃ一番肌の露出が少なくて…というか実際少なくはあるけど、実はお臍が見えるデザインになっている。このチラリと見えるデザインが良くて、なまじ他の部分は隠れている部分、見えているお臍と、きゅっとしたお腹の破壊力は凄い。私が複数の魅力を同時に用いてるとするならば、アイの魅力は研ぎ澄まされた一点集中。

 そしてアイのボトムスは、私達の中で唯一のショートパンツスタイル且つ、右はサイハイソックス、左は私と同じくブーツに隠れる丈のソックスというアシンメトリー。ショートパンツなのはアイの希望で、アシンメトリースタイルに関しては、素肌の脚とソックスに包んだ姿の脚、そのどちらかにしてしまうのは勿体ないという意見で満場一致となったからであり…それはどう見ても大正解。

 

「うん、やっぱり可愛い…ううん、カッコ可愛いよシノちゃん!…っていうか、普段ももっと女の子らしい服着たりしてもいいと思うなぁ」

「…まぁ、似合ってるなら良いッスけど…普段は流石に勘弁ッスね。飾りが多いと引っ掛かり易そうッスし、ウチにはやっぱり普段のスタイルが一番性に合うんスよ」

「そう?…でもさぜーちゃん、こういう女の子程、恋すると変わったりするものだよねぇ」

「うー、ん…それは何とも言えないけど…お洒落してるアイは見てみたいよね」

「えー……」

『わー、本気で面倒そうな顔…』

 

 なんでそんな事をウチが…とばかりの顔をするアイ。いや、アイだって女の子でしょうに…とは思うけど、本人にやる気がないんじゃ仕方ない。

 

「というか、お洒落云々で言うならイリゼのそれはお洒落なんッスか?所謂、お洒落は我慢…とかいうアレで?」

「……?どういう事?」

「や、恥ずかしくないんスかね、と」

「……喧嘩売ってる?」

「あー、今回は単純な疑問ッス。だから不快だったら謝るッスよ、イリゼ」

「あ、今回は…なんだ。…二人って、妙なタイプの仲良しだよね……」

 

 それそれ、とアイが指し示してくるのは肩やら脚やら、要は肌が出ている部分。それを言うなら今のアイだって…と返したいところだけど、普段は違うと言われればそれまでだし、実際私の装いは普段の格好を踏襲している訳だから……まぁ、アイの言いたい事は分かる。

 

「…恥ずかしくないのか、って訊かれたら…それは別にって感じかな。流石に胸を大胆に出すとか、下着が見えてるとかレベルになったら私も恥ずかしいけど、肩に関しては出したところで恥ずかしくないし、脚は……」

『脚は?』

「…苦手、なんだよね…丈の長いパンツとか、今茜が履いてるようなソックスって……」

「…なんか、訊いちゃって申し訳ないッス…」

「い、いや違うよ!?脚だって別に、恥ずかしいけど無理してこういう格好してる訳じゃないからね!?いいんですー、私は女神として自分に自信があるからこういう格好も出来るんですー!」

「あはは、意地悪だなぁシノちゃんは」

「イリゼはこういうとこ真面目ッスからねぇ」

「あ……た、謀ったねアイ!」

 

 二人の反応でからかわれていた事に気付いて、かぁっと熱くなる私の頬。愉快そうにしながら距離を取るアイを追おうとした私だけど、そこで茜にまぁまぁ…と宥められる。むぅぅ…この衣装を傷付けたくはないし、茜に免じて今回は矛を収めてあげるけど…次があったらその時はしっかりお返しさせてもらうんだからね…!

 

「…でもほんと、こんな格好する事になるなんて思わなかったなぁ…ある意味、次元を超える事よりびっくりかも」

「…そこまで意外だったの?」

「意外だったの。…私、こういう華やかな世界とは無縁だったし、これからもそうなんだろうなぁって思ってたから」

『茜……』

「…まぁ、それはそれでえー君だけの花、えー君だけの私って感じで良かったんだけどね。うぅ、ごめんねえー君。私はもう、皆のあかねぇになっちゃうの…!」

 

 ちょっぴりしんみりした雰囲気を帯びる、茜の言葉。言葉の裏にある感情を感じ取った私達は、茜を見つめ…るのも束の間、急転直下で茜は影君大好き愛してるモードに。その恐るべき切り替え速度に、私とアイは苦笑い。

 

「…茜は時々、どこまでが狙ってて、どこまでが素なのか分からなくなるッスよね……」

「うん…でも多分、今は100%素じゃないかな…だってほら、煩悩…っていうか、恋愛脳が全開になってるし……」

「言われてみれば確かに…そこまで良いものなんッスかねぇ、恋って……」

「良いものだよ、シノちゃん!とても、良いもの、だよっ!」

「お、おおぅ…茜にとって凄く良いものだって事は、取り敢えず伝わってきたッス……」

 

 がしっ、と両肩を掴んで、ずいっ、と顔を近付ける茜の勢いに気圧され、アイはゆっくりと数度頷く。…まぁ、愛も恋も『誰かを思う気持ち』な訳で、そういう意味じゃ良いものであり強いもの、っていうのは至極当然な事…だよね。

 

「…っと、そうだ。二人共、動き辛いところがあったり、ここはもう少しこうしてほしい…みたいな部分はなかった?」

「ほぇ?あ、私はだいじょーぶだよ」

「こっちも特に問題無しッス」

「なら良かった。…じゃ、どうする?この格好で一回やってみる?」

 

 衣装は本番の為のものだから、不要な時は仕舞っておくのが普通。とはいえ普段練習で着てるトレーニングウェアとは色々な面が違う訳で、その感覚の違いは、衣装でダンスをする時の感じは把握しておいた方が良い。そう思って私が提案すれば、二人は顔を見合わせた後頷いて…今日もまた、練習を重ねる。

 実はもう、本番の日は確定している。どういう形で行うかも決めてある。一応、どうしてもって場合はまだ変更出来るけど…皆変えるつもりはない。…二人も私も、本気だから。プロじゃないけど…それでもその日までに完璧に仕上げて、最高のパフォーマンスを披露するって…三人で、決めているから。

 

 

 

 

 マネージャー、トレーナー、プロデューサー。それぞれ役割を設定した上で頼んだのは…実をいうと、その方が雰囲気出ると思ったから。早い話が、ノリ優先で設定した。…でも、私が助っ人を頼んだ三人は、本当に頑張ってくれた。影君は私達のパフォーマンスを細かく分析して適宜改善案を出してくれたり、私達が伸び悩めばすぐそれに気付いてくれたりしたし、ワイト君はわざわざ歌やダンスの指導について調べてくれて、元々知識のあったストレッチや、精神面含めたコンディション調整に関しては懇切丁寧に説明と指導をしてくれたし、ズェピア君は本番やそこに至るまでの行程について色々提案してくれたり…というか、私が練習に時間を避けるよう、やるべき事を色々先回りして必要な資料や情報を纏めたりとかしてくれた。頼んだ役職らしい事を、期待した以上に三人はしてくれた。……斜め上というか、常人なら無理だよねぇ!?…と言いたくなる事も、ちょくちょく強いられたりしたけど…仕方ないといえば仕方ない。だってコンセプトもスケジュールも、本業の方からしたら「舐めてんのか」って言われそうなものなんだし。だからそれを実現に持っていこうとしてくれた三人には、やっぱり感謝する他ない。…ほんと、その場その場では「それは勘弁して…!」って思ったけど。

 そんな三人の協力があって、仕事として依頼した外部のプロの力も得て、何より二人が最初から最後まで真剣に、本気で取り組んでくれて……遂に私達は、その日を迎えた。

 

「うー…流石にちょっと緊張してきた……」

「大丈夫ッスよ、茜。失敗しても恥ずかしいだけ、誰かが傷付いたり命の危機に陥ったりはしないッス」

「いやそれはそうだけども、フォローが物々し過ぎるよアイ……」

 

 舞台袖。ステージが目と鼻の先にある、演者にとっては最後の待機場所。そこに今、私達はいる。

 

「そう不安がる必要はないよ。緊張は、集中力を高める側面もある。だから少し位は緊張しておいた方がいい」

「プロデューサー…」

「いつの間にか君までその呼び方になったね、イリゼさん…」

 

 いつもの穏やかな雰囲気で舞台袖に訪れた、ズェピア君の言葉。彼に続くように、影君とワイト君も現れ、私達と三人とは向き合う形に。

 

「うん、それは分かってるんだけど…ね。…ねぇ、マネージャー…ううん、えー君。私に、勇気を頂戴。最後まで歌い続ける勇気を…」

「茜……。…いや、そんな最終決戦直前みたいな場面じゃないだろう、今は」

「むー、えー君のけち〜」

「後、一応今は三人全員のマネージャーだからな。六割の意識は茜に向けているとしても、表立って一人だけ優遇する訳にはいかん」

『六割!?過半数を茜に向けてた(の・んスか)!?』

 

 冗談なのか本当なのか分からない影君の発言。茜といい影君といい、ほんとこの夫婦はさらっと言ってくるから困るよ…!

 

「というか茜、実はもう緊張解れつつあるッスね…?」

「へへ〜、えー君が来た時点で吹っ飛んでたかなっ」

「凄まじい愛ですね…。…しかし、イリゼ様とアイ様は流石です。この段階に至っても、普段とまるで変わらないとは」

「ま、こういう類の緊張には慣れてるッスからね」

「私の場合、それに加えて初めてでもないし、ね。…けど、それでも嬉しいものだよ?こうやって、最後まで気にかけてくれるのは」

「当然です。これは皆さんだけでなく、私達にとっても『本番』なんですから」

 

 真剣な面持ちでそう言うワイト君に、それもそうだと私は頷く。舞台に出るのは、パフォーマンスするのは私達だけど、その私達を今の状態まで仕上げたのは三人の力でもあって…言うなれば私達は、三人の作り上げた作品でもあるっていう事。そして始まってしまえば、三人は何も出来ない訳で…ならきっと、私達とは違う緊張を、三人だって抱いている。

 

「じゃ、折角ッスし最後に何か一言貰うッス」

「ははは、貰う前提とはね。…けれど、そのつもりだよアイ君。…君達はここまでよく頑張ってきた。元から高いセンスを持っていた上で、現状に甘んじる事も増長する事もなく、自分を磨き続けてきた。ならば、きっと成功するだろうさ。それだけの積み重ねが、君達にはある」

「…まあ、そう気負う必要もないさ。今更出来る事はないし、あったとしても今からじゃ大した効果はない。ここまで来たらなるようにしかならないし……やれるだけの事はやった、そう言い切れる筈だ、今の三人なら。…曲がりなりにもマネージャーをやった身として…期待は、してる」

「頑張って下さい、応援しています。…では、淡白ですね…。…私は門外漢で、色々調べた今も感覚的にはまだ『合わない』と感じているようなものですが…だとしても、皆さんのパフォーマンスが素晴らしい事を知っています。断言出来ます。…一番近くで、見てきましたからね」

 

 軽いノリでアイが求めた『最後に一言』。でも返ってきたのは、軽さゼロな…本気で私達を信じてくれている三人の言葉。

 それは三人からの、真っ直ぐな思い出…熱くなる。心の中がきゅっとなる。…頑張りたいって、心から思える。思わせてくれる。

 

「…ぜーちゃん、シノちゃん、どうしよ。私さっきまでえー君の為に歌う気だったのに、今は皆の為に歌いたくなってきちゃった」

「別にいいんじゃないッスか?…ウチも、同じ気持ちッスからね」

「え!?し、シノちゃんも最初はえー君の為に…!?」

「や、違うッスけど?」

「だよね〜」

「もう完全に緊張消え去ってるね、茜…。……届けよう、三人に。私達の成果を、感謝を」

 

 スタッフさんからの、準備完了しましたという呼び掛け。それを受けて、私達は三人で、向かい合って小さな円陣を組む。

 

「信じてるよ、アイ、茜」

「こちらこそッス」

「大丈夫、私達なら…やれる!」

 

 頷き合い、私達は舞台へ上がる。中央に、スポットライトの当たる場所に…トライアングルを描いて立つ。

 視界に映る光景に、一般のお客さんはいない。何故ならこれはPV撮影であり、こちらを向いているのは撮影用の機材と、スタッフだけ……って、いつの間にかもう三人も向こうに移動してる…というか感じる。影君からの、茜への猛烈な視線が…!

 

(これが最終的に、どうなるか分からない。この場で成功するかどうかも、まだ分かりはしない。でも、今は…取り敢えず今は、二人と最後まで駆け抜けたい…!)

 

 湧き上がる情熱を感じながら、私は正面を見据える。クールに、余裕たっぷりに、でもほんの少しだけ柔らかな笑みを口元に浮かべて……アイと共に、茜の左右後方から斜め前へ。そして私達は…私達の、幕を開ける。私達が主役の、舞台の幕を。

 

 

 

 

「──可憐に過激に咲き誇る」

「──熾烈で熱烈な覇天の華」

「──ついてこれる?私達の…ヴィオレンスブルームの、ステージに!」

 

 

 

 

 熱く、熱く、熱く熱い時間。歌い、踊り、二人と心を重ねる、倒すのではなく魅了する戦い。実際には十分にも満たない、けれどその何倍にも感じる時間の中で、力の限りに私達は駆け抜け……そして、幕は降りる。

 

『はっ…はっ……』

 

 ラストのシーン、ターンし一ヶ所に集まったところで、二人の息遣いが聞こえてくる。触れる寸前まで来てやっと微かに聞こえる…その息遣いが曲へ入ってしまわないよう、限界まで押し殺した二人の息遣いと、同じように漏れる私の息の音が重なり……数秒後、撮影終了の声が上がった。

 

「……っ…ぷはぁ…!お、終わったぁぁ……」

「思わず120%位の力が出てきた気がするッス…二人共、お疲れ……」

「アイ、茜…お疲れ様ぁーっ!」

『わぁぁっ!?』

 

 終わった瞬間解ける、緊張の糸。張り詰めた状態から解き放たれ、三人全員軽くよろけて……でもその直後に、私は両手を広げて二人に抱き付いていた。再集合するように、私は二人を抱き締める。

 

「い、イリゼ?なんかテンション高いッスね…!」

「高いよ、そりゃ高くなるよ!だって分かるもん、最高のパフォーマンスが出来たって!最高の曲になったって!」

「ぜーちゃん…うぅ、そう言われると私まで感極まってきちゃうかも…!」

「わぷっ、茜までッスか…!?……でも、そッスよね…今喜ばないで、いつ喜ぶんだって話…ッスよね!」

 

 自分でも、ハイテンションになっているのは分かる。でも嬉しいんだから仕方ない。喜びたいんだからいいじゃない。そう思って抱き締めていると、茜も同じように腕を回してきてくれて…ちょっぴり肩を竦めた後、笑ったアイも続いてくれた。三人でぎゅっと、がっしりと私達は抱き締め合う。

 さっきアイが言った通り、私も二人も、全力以上の力が出ていた。これまでの限界を超えていた。結果、私達は全員汗びっしょりで、その状態で抱き締め合うっていうのはなんともまぁアレな感じがあって…でも今は気にしない。気になんてならない。

 

「ほんっ…と、楽しかったッス…!そりゃやりたくなる訳ッスよ、こんなにも高揚感に包まれるなら…!」

「すっごい疲れたけど…それ以上にじゅーじつ感がすっごいもんね!あーどうしよ、私暫く落ち着けないよ…!」

「でしょ?でしょ?…けど、ライブは…お客さんの前は、こんなものじゃないよ?もっと、もっと……凄いんだからね?」

 

 肌に張り付いた髪に、高揚した頬に、そこを流れる汗。女の子としては、あんまり積極的には見せたくない顔になっている私達だけど、その顔を見合わせ、笑い合う。思いを伝え合い、互いに残る熱を感じ合う。

 そして終わった、私達の最初のステージ。これが一度切りの『もしも』で終わるか、それとも次があるのか…そんなものは、今はまだ分かりはしない。でも…間違いなくこれは、忘れられない思い出になる。そんな確信が、私にはあって……後の事は、撮影したPVの反響次第…かな。




今回のパロディ解説

・双極の理創造
私のオリジナル作品です。完全に単なる紹介になっていますが、まあ一応パロディなので解説しております。もっと時間があれば、(完結していますが)続きを書きたいです。


・「〜〜担当していたアイドルの幽霊が見えたり〜〜」
IDOLY PRIDEに登場するキャラの一人、牧野航平の事。しかし彼は別に、その能力(?)をマネジメントに活かしたりはしてませんね。勿論助言を受けたりはしてますが。

・「〜〜嘘を輝きとして見抜けたり〜〜」
シャインポストの主人公、日生直輝の事。こちらは活用していますが、どう嘘なのか、嘘を吐く理由は何なのかまでは分からない辺り、活用するには工夫が必要な力ですね。

・「〜〜プロデューサーと〜〜刀剣〜〜」
刀剣乱舞に登場するキャラの一人、歌仙兼定の事。…と、いってもこれだけではよく伝わらないと思います。アイマスシリーズの一つ、デレステ関係の話ですし。

・「〜〜あれは嘘だ」
コマンドーの主人公、ジョン・メイトリックスの代名詞的な台詞のパロディ。この台詞、汎用性が高いですね。実際前にもパロネタで使った気がします。

・「〜〜ねぇ、マネージャー〜〜歌い続ける勇気を…」
マクロスfrontierのヒロインの一人、シェリル・ノームの台詞の一つのパロディ。これだと命の危機に瀕してそうですが、ご覧の通り茜は非常に元気です。
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