超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第十七話 興味が満たされる国

 先日アイは、他の人達と一緒にルウィーに行った。理由はまあ、分かる。ブラン目当てだろうし、何か面白い事が起きそうだ、って考えていたのかもしれない。彼女は気分屋だもの、ノリで行っていたとしてもおかしくないわ。

 それを知って、特に何か思った訳じゃない。ただ、でも…イリゼに「イヴはどこか行ってみたい?」と問われた事で、少し考えて…それなら、と答えた。それなら、ラステイションに…と。

 

「到着、っと。イヴは勿論だけど、グレイブ君もここまで来るのは初めてだったよね?」

 

 教会の敷地内に降り立ったイリゼは、私と彼…同行者であるグレイブの方を見ながら言う。問われたグレイブは、その質問に首肯を返す。

 

「あぁ、前は遠目に見るだけだったからな。ここにゃどんな変わった女神がいるのか楽しみだぜ」

「あ、変わってる前提なんだ……」

 

 遠慮も何もないグレイブの発言に、イリゼは苦笑い。まぁ、確かに変わってないとは言えないわね、と私は思いつつ…訪れた国、信次元のラステイションをぐるりと見回す。

 工業が盛んな国、ラステイション。それは信次元も同じなようで、感じる雰囲気も何となく似ている。けれど違う部分も幾つかあって…例えばこっちのラステイションには、あの特徴的な巨大パラボラアンテナがない。というかあれ、大き過ぎやしないかしら…。

 

「こほん、まぁ取り敢えず入ろっか。ノワールもユニも、待ってくれてるみたいだからさ」

「わざわざ待ってくれてるのね」

「別次元からの客人は直々にもてなしたい、って事なんだって」

 

 それは何ともノワールらしい理由。という事は、性格も概ね私の知ってるノワールと同じなんだろうか。そんな事も思いながら、私は二人と共に教会裏手へ。イリゼが連絡を取った後、裏手側の出入り口で待っていると…中から扉が開けられる。

 

「あ…いらっしゃいませ、イリゼさん。それに…初めまして。アタシはラステイションの女神候補生、ブラックシスターことユニです」

「初めまして…えぇ、こちらこそ初めまして。イヴォンヌ・ユリアンティラよ」

「グレイブだ。えーと、女神候補生って事は…あれ?女神候補生も、女神…なんだよな?」

「うん、そうだよ。女神の候補生、じゃなくて守護女神の候補生、だからね」

 

 どうやら連絡を受けてユニが出迎えに来てくれたらしくて、私達は玄関で軽く自己紹介。それからユニに案内される形で、教会の中を進んでいく。

 

(よく考えたら、女神が直々に…なんて凄いものね)

 

 普通に考えれば、候補生とはいえ女神が出迎えて中を案内なんてする訳がない。公務じゃなく、女神個人としてのお客だから、という事だとは思うけど…改めて考えると、自分も随分偉い人間になったものだと思う。…実際には、偉いだなんて微塵も思わないけど。

 そうして案内されたのは、教会の応接室。ユニが扉を開けて、まずイリゼが、次にグレイブが、その後に私が入って…そこで待っていたのは、ユニ同様私にとっては見慣れた相手。

 

「お待たせ、二人を連れてきたよノワール」

「みたいね。ユニもご苦労様。…私がブラックハート、ノワールよ」

 

 自己紹介と共に、ノワールはツインテールの右側を手で掬ってなびかせる。その何とも「らしい」行動に、いつの間にか私は少し笑っていたみたいで、ノワールからは早速怪訝な顔をされてしまった。

 咳払いを一つして、ノワールにも自己紹介。ユニの時もそうだったけど、知っている相手に初めましてと言われたり、自己紹介し合ったりするのは少し違和感があるもので…これも回数を重ねれば慣れるのかしら。慣れる程何度も、別次元に行ったりするかどうかは分からないけど。

 

「守護女神が相手だからって威儀を正す必要はないわ。コーヒーを淹れるから、寛いでいて頂戴……って、二人共あんまり緊張してる感じないわね…」

「んー、まぁ俺にとっちゃ女神が偉い存在だって事自体、あんま実感ないからな。何せ全然違う世界から来てるし」

「私も貴女じゃない貴女とは、接する機会が多いのよ。…もう少し、緊張していた方が良かった?」

「いや、いいわ…ちょっと想定と違っただけで、別に緊張してほしい訳じゃなかったし…」

 

 そう言いつつも、何とも言えない表情でノワールはコーヒーを淹れてくれる。どうするかと訊かれたから、私はカフェオレで、と答え、イリゼとグレイブはコーヒー牛乳で、と返答。淹れてもらったカフェオレを私達は口に付け…一息吐いたところで、ユニが口を開いた。

 

「えと、それでお二人はどうしてラステイションに?」

「単に来てみたかったからだな。前は遠目に見ただけだし、またあのロボットを見てみたいし」

「ロボット…MGの事?」

 

 尋ねるユニに対して、それなら…と答えたのはイリゼ。何でも前に信次元に来た時、飛んでいる機体を見たらしくて…奇想天外な彼だけど、またロボットを見てみたいというのは見た目相応というか、少年らしい。……まぁ、私も気にならないのかと言われると…気にはなる。ロボット…というか、ラステイションの科学技術が。

 

「それじゃあ…イヴォンヌ…だったわよね。貴女は?」

「イヴで良いわ。私はもっと漠然とした理由よ。単純に、信次元のラステイションがどんな国なのか見てみたかったから…もう少し言うと、こっちの技術を見てみたかったから、ね」

「…もしかして、イヴさんはネプギアと同じ……」

「別に機械オタクな訳じゃないわ。自分で色々作ったりはするけど、基盤を可愛く感じたりはしないもの」

「基盤を可愛く…?なんだそりゃ」

「と、思うでしょ?けどそれを本気で言うのがネプギアなのよね…」

 

 そう言ってユニは肩を落とす。ネプギアの変な一面を知っている私達は苦笑いし…グレイブは一人、怪訝な顔をしていた。

 

「…って、訳だけど…どうしよう?」

「あ、ノープランなのね…」

「だってほら、ラステイションの事なら私が決めるよりノワールやユニに訊いた方が良いと思って」

「ま、それはそうね。…なら、折角だしちょっと見学してく?MGの、演習風景を」

 

 立ち上がり、片手を腰に当てて言うノワール。演習という言葉に、グレイブは分かり易く興味を抱いた表情を浮かべて…どうする?という視線が私に向かう。

 

「…それは、見てもいいものなの?」

「幾ら別次元や別世界からの貴重な客人でも、門外不出のものを見せたりはしないわ。安全面もあるから、ある程度離れた距離での見学にはなるけどね」

「けど、迫力は保証しますよ?何せMGは、ラステイションが発祥ですから」

「そういう事なら…見せてもらうわ。そんな自信有り気に言われたら、一層気になるし」

 

 ちょっぴり口角を上げ、胸を張るユニからは、これにかけてはラステイションが一番だ、とばかりの自信を感じる。自分から提案してきたノワールだけじゃなく、ユニまでそう言うのなら…見てみたくなる。期待の気持ちが湧いてくる。

 私は乗り気で、グレイブも初めからその気。だからここからは、MGの、ラステイションの技術の粋を見に行く事に決定。…さて…それじゃ、メモの準備でもしておこうかしら。ロボットだったら、ネプギアは勿論、うずめも興味を持ちそうだもの…ね。

 

 

 

 

 遠くからでも聞こえる轟音と、離れていても見える砂煙。巨大な鉄の塊が、素早く地上を、空を駆けて……激突する。

 

「おお…おおぉ……!」

「ふふっ、楽しんでくれてるみたいね」

「まぁな!」

 

 引き抜いた棒っぽい物からビームの剣を出力して、その剣同士で斬り結ぶ二機のロボット…じゃなくて、MG。激突の瞬間、俺は自分でも気付かない内に声を出していて…ユニの言葉にも、素早く返す。

 

「…あれ、ホログラムとかじゃなくて本当に出力してるビームよね?演習…模擬戦であんな物使って大丈夫なの?」

「大丈夫よ。出力は最低レベルまで落としてあるし、今は機体に触れたら即座にエネルギーの配給がカットされるように設定されているもの。…勿論、私がそのシステムを組んだ訳じゃないけど」

「それは分かってるわ。…けど、凄いわね…操縦者の技量次第ではあるんだろうけど、腕部も脚部も自在に動いてるみたいだし……」

「でしょう?それはね……」

 

 横から聞こえるのは、イヴとノワールのやり取り。イヴは技術者…ってやつなのか、模擬戦の光景よりその中での動きや使われている物が気になっているようで、ノワールに訊く以外にも、時々「へぇ…」とか、「成る程、これは…」とか、一人でぶつぶつ呟いていた。

 でもってイリゼは、ってかイリゼはイリゼで、考え込むような顔をしながら模擬戦を見ている。難しそうな表情だが、一体何を考えてるんだろうな。

 

「…………」

「…貴方、何か今企んでなかった?」

「…驚いた。ラステイションの女神は心を読む能力があったのか…」

「いやないわよそんな能力…てか、やっぱりなんか企んでたのね…」

 

 誰にも気付かれないよう、死んだふりしてトロッコを目指す主人公位静かに少しずつ移動していたのに、なんと気付かれてしまった。しかも俺が、思考に耽ってそうなイリゼに軽く悪戯してやろうと思っていたのが見抜かれていた。…侮れねぇな、女神候補生ユニ……。

 

「…なんか、変に高い評価されてる気がするから言っておくけど、悪戯好きなアタシの友達と似たような顔してたから、そうなんじゃないかと思っただけよ?」

「なんだ、そういう事かよ…」

「うん、それでグレイブ君は私に何しようとしてたのかな?」

「そりゃ、後ろから膝カックンとか……ってイリゼ、いつの間に…!?」

「ほほぅ、膝カックンねぇ…?」

 

 単に似た例を知っていただけか、と思ったのも束の間、いつの間にか話に加わっていたイリゼに俺は仰天。しかも、今の会話で悪戯しようとしていた事もバレたみたいで…ちぇ、上手くいかないもんだなぁ…。

 

「…あっちは賑やかね」

「まぁ、年齢層的に…ね?…あ、ところで知ってる?イリゼってあぁ見えて、目覚めてからの時間的には私達よりもずっとユニ達の方が近いのよ?」

「目覚めてからの時間…?」

「えぇ。…って、あれ…?イヴはイリゼが目覚めた経緯とか、どういう存在なのかって……」

「彼女が原初の女神の複製体だって事や、神生オデッセフィアがその原初の女神の力で創り変えられた大陸の国だって事は知ってるけど…多分、ノワールの言っている事は初耳よ」

「そ、そう…知らなかったのね、失礼したわ…」

「いや、まぁ…ある意味ノワールらしいし、それは別に構わないわ」

「それはそれでちょっと不服ね…」

 

 まあそれはそれとしてイリゼやユニと話していたら、向こうの二人のやり取りも聞こえてきた。でもって、なんだかやり取りが上手くいっていないようだった。

 

「なんだ、あれか?ノワールは早とちりしがちなのか?」

「いや、そんな事はないんだけど…多分、別次元からのお客って事で変に張り切っちゃってたのかも。ノワールって基本しっかりしてるんだけど、考えて動くタイプだからこそ、変に張り切って感情が先行すると空回りし易いっていうか……」

「あー、つまりイリゼと同じって事だな」

「そうそう私と…って失礼な!私はそんな……タイプかもしれないけど、だとしても失礼な!」

「あ、否定はしないんですね…」

 

 否定したって別にいいのに、律儀に認めるイリゼ。ま、そういうところが信用出来るとも言えるんだけどな。後、話してて面白いし。

 

「えー、と…まあじゃあそれは、私が語るのも変だからイリゼに話してもらうとして……そろそろもっと凄い物が出てくるわよ?」

「もっと凄い物……更なる空回りって事か?」

「違うわよ、なんで自分の空回りを予告しなきゃいけないのよ!…こほん。そうじゃなくて……あれよ」

 

 見事な突っ込みを見せてくれた後、ノワールは演習場…ってか、基地?…のある場所を指差す。そこは一見、何もないエリアで……だが俺達が見つめる中で、そこに変化が現れる。重い音と共に、舗装されていた場所が左右に割れて…中から巨大な艦が、姿を現わす。

 

「……!…凄ぇ…でっけぇ……」

「…もしかして、あれは…空中艦…?」

「あら、よく分かったわね。もしかして、貴女の次元にも空中艦はあるの?」

「あるといえばある、けど……確かに凄いわね…」

 

 空中、って事は…飛ぶのか?あれが?…と思う中、本当にその艦は大きな音を立てながら、浮上する。ゆっくりとだが、空に向けて浮かんでいき…段々と、加速していく。

 黒いボディにゴツい外観の空中艦は、見るからに強そう。あれ、どんだけの火力があって、どれ位の防御力があるんだろうな…あんだけデカいってなると、流石に普通のポケモンの技じゃそう簡単にゃダメージも入らないかもしれねぇな……。

 

「あるといえばある…っていうと、非戦闘用の艦船ならあるけど…みたいな感じですか?」

「いいえ、私が知ってるのは戦闘用も戦闘用…殺意満々の巨大戦艦よ。全長は……2㎞位あったかしらね…」

「へぇ、2㎞……え、2㎞!?2㎞ぉ!?」

 

 ほんと大きいなぁ、多分プラズマフリゲートより大きいんだろうなぁ…と思いながら俺が見ていると、ユニのやたら驚いた声が聞こえてきた。なんだなんだと思って見れば、イリゼやノワールもぎょっとしていた。

 

「2㎞って…こっちの要塞艦を余裕で超えてきてるじゃない……」

「うん……え、イヴもゲイムギョウ界の住人だよね…?第一次星間大戦の起こった世界とかじゃないよね…?」

「いやそんな、流石にあのクラスの戦艦が大量生産されているような世界には住んでいないわ…。…でももし、あの時止められていなかったら……」

『……?』

「…なんでもないわ」

 

 ふっ…と数秒曇る、イヴの顔。だが俺達が「うん?」と思って見ていると、気付いたイヴは何でもないと言って視線を飛行する空中艦に戻した。ずっと大きい船を知ってるらしいイヴだが、それでも興味深そうに空飛ぶ船を見上げていた。…流石にイヴには膝カックンしようとはしない。だってほら、まだイリゼ程はイヴの事知らないし。

 

「知ってたとしてもやらないでほしいんだけどなぁ…?」

「安心しろってイリゼ。今はもう気付かれてるんだからやらねぇよ」

「気付いてない時にもやらないでほしいんだけどなぁ…!」

「…ふふっ」

 

 イリゼが見せてくれる、予想通りの反応。こういう反応をしてくれるからイリゼと話すのは楽しい。こんな面白いイリゼが国のリーダーをしてるんだから、神生オデッセフィアが明るさを感じる国なのも納得ってもんで……そんな風に思っていたところで、聞こえてきたのはイヴの笑い声。

 

「うん?なんだよ急に」

「あ、ううん。単に二人は仲が良いのね、って思っただけよ」

「今のを見てそう思ったんだ…。…まぁ、仲は良いよ。かれこれ次元や世界を超えて会うのは四度目だし、最初の時は色々お世話になったし…それに、リベンジを果たしたい相手でもあるからね」

「その分料理とか、前の愛月の件とかで俺も色々世話になってるけどな、てか今もそうだし。…あーでも、そういう意味じゃちょっと申し訳ないなぁ。なにせ色々世話になってるイリゼのリベンジは、何度やっても果たされないだろうしよ」

「言うねぇグレイブ君。でも、気にする事はないよ。乗り越える壁は、高ければ高い程越えた時に爽快感があるんだもん」

「…ほんと、仲が良いのね。アイともそうだし、これだけ多くの次元や世界から人を招待するだけの事はあるわ」

 

 にっ、と軽く挑発するように笑い合う俺達二人。俺達のやり取りを見ていたイヴは、さっき笑った時と同じような、柔らかい表情をしていて…それを見たイリゼは、頬に指を当てて「んー…」と声を漏らす。

 

「…どうかした?」

「いや、大した事じゃないよ?ただ、イヴはもっと笑った方が可愛いのになぁって思っただけ」

「そ、そう。まぁ…それについては、なんというか……」

「まあ勿論、イヴももっと親しい相手、付き合いの長い相手の前では、普段から沢山笑ってるんだと思うけどね。…だから、私もそういう相手の内の一人になれるよう、頑張りたいな…とも思いました、以上!」

「…それは、嫌じゃない…けど、こうも面と向かって言われると、こっちの方が逆にちょっと気恥ずかしくなるわね……」

「イリゼって、こういう類いの話は結構躊躇いないっていうか、割とぐいぐい来るのよね。ネプテューヌに比べると言い方は控えめだけど、積極性は負けず劣らず…っていうか」

 

 もっと仲良くしよう、仲良くなりたい。…イリゼがイヴに言ったのは、よーするにこういう感じの事なんだろう。それに、ノワールの言う事も分かる。イリゼがるーちゃんと仲良くなれたのも、愛月が割と早い内から信用してたっぽいのも、イリゼがこういう性格してるからだろうし、な。

 と、そんな会話をしている内に、空中艦は大分遠くまで行ってしまった。少し惜しいが…代わりに今は、空で翼を持ったMGが飛び回り、素早い機動で模擬弾とかいう弾丸を撃ち合っている。これもかなり格好良くて…ポケモンに乗るみたいに、MGの上にも乗ってみたいなぁ…。

 

「…さてと。まだ暫く模擬戦は続くけど、どうする?もし宜しければ、食事をご馳走するわよ?」

「食事かぁ…あ、そうだ。折角だしさイリゼ、今度信次元の美味いカレーを教えてくれないか?もしそれをキャンプでも作れるなら、今後の旅の食事がより楽しみに──」

「ふっ…よく訊いてくれたわねグレイブ。けど、美味しいカレーは何か…そんなのアタシからすれば、考えるだけ不毛ってものよ。だって、カレーのポテンシャルは無限大。カレーとしての最低限のラインさえ超えているなら、後は全てにそれぞれの良さがあるんだもの。甘い辛いだけじゃない、ルーや食材だけでもない、どんな些細な違いでも完成した時の在り方に変化として表れるのが、その変化がアレンジに、その人やその家だけの味になるのが……全てに染まりつつも、全てを飲み込み包容するのが、カレーってものなのよ!」

「お、おぅ……なぁイリゼ、いきなりユニの性格が変わったっていうか、圧が凄くなったんだが…あれか?カレーの精か何かに乗っ取られたのか…?」

「あぁ…多分、単にカレーには拘りがあるっていうか、一家言あるからだと思うわよ。そうでしょ?ノワール」

「まぁ、ね。…で、それを知っているって事は、そっちのユニもカレーが好きなのね…趣味や好みも同じなんて思うと、別次元っていうのはよく似た別の世界じゃなくて、大元になる本流とか始点とかがあって、そこから枝分かれしてるものなんじゃ…なんて思うわ」

「…なんか、やたらと話が変わったね…元は食事の誘いだったのに……」

 

 そういやそうだった、とイリゼの呟きに俺達は苦笑。いきなりの豹変にゃ流石にちょっとビビったが…こんだけ熱量があるユニからは、きっと色んなカレーの事が聞けるんだろう。そう思うと、ちょっとわくわくする俺だった。

 

「…ま、カレーの話が出たし、カレーにでもする?勿論貴女達がそれで良ければ、だけど」

「私はそれで良いわ。なんか、ユニが語るのを聞いていたらカレーを食べたくなってきたし」

「お、奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」

「じゃ、カレーに決定かな?これは中々期待値上がってるよ?ユニ」

「任せて下さい。皆さんを唸らせるカレーを、約束しますから」

 

 自信に満ちた顔で笑うユニを見て、本当に期待値が上がっていく。その様子にくすりも笑う…同じ笑い顔をするノワールは、まぁ当然だがユニと似ていて…兄弟とか姉妹とかってのも良いよなぁ、なんて思ったりもした。んまぁ、偶に愛月は俺の弟かと思われたりするらしいがな。

 で、この後俺達はユニにもう少し具体的な要望を訊かれて、それに合った店に案内された。そこで食べたカレーは…めっちゃ美味かった。ちょっと辛めだったが、それがまた食欲を誘う辛さだった(因みにイリゼだけは甘口を食べていた)。そのカレーにはイヴも満足気な顔をしていて……ラステイションはカレーが美味い国。そんなイメージが、俺の中で出来るのだった。……なーんて、な。

 

 

 

 

 鼻腔を擽る、品と深みを兼ね備えた匂い。器の中で悠然と佇む、赤く透き通った至高の一品。

 

「…御見逸れしたよ。いやはや、完全に君の実力を…理解の深さを読み違えていた。まさか、信次元でここまで味わい深い一杯と巡り合う事が出来るとは……」

「お気に召して頂けたようで良かったですわ。それに、これの良さが分かるとは…貴方もかなりの通ですわね」

 

 特に理由がない限り、俺は肯定的な表現を選ぶ。そこまで親しくない相手なら、尚更そうする。コミュニケーションの基本は相手を否定しない事だし、肯定し相手が良い気分になったのならその後の話はスムーズに進むんだから、処世術としては基本中の基本。処世術って言っていいのかも怪しいレベルの、当然の事。

 だが今は誇張なく、一切のお世辞もなく、心から…全身全霊で、そう感じていた。美味いと思っていた。彼女…ベールの淹れてくれた一杯に。差し出された、紅茶に。

 

「ふふ、分かるとも。キャンディをベースに様々な品種をブレンドしているところでベール君の『好き』を詰め込んだのが分かるし、淹れる前にカップを温めている事や、淹れる際の湯の温度等、細かい部分にも気を配っている点にも紅茶好きとしては好感を持てるね」

「えぇ、わたくし好きな事には妥協したくありませんもの。因みに、ズェピアさんはどの味を特に感じまして?わたくしこのブレンドには、まだまだ改良の余地があると思っていますの」

「わぁ…凄い、大人の雰囲気がすっごい……」

「確かに、そんな感じが凄いわね。…これに乗れないのがちょっとだけ悔しいわ…」

 

 偶々その場にいた事で誘われた、リーンボックスへの来訪。折角の機会だ、神生オデッセフィア以外の国を見てみるのも悪くないだろう、とリーンボックスへ行く事を希望した愛月君、その案内を務めるセイツ君と共に、リーンボックスの教会を訪れ、迎えてくれたベール君に紅茶とお茶菓子を振る舞われ…その時感じたね。あぁ、彼女は私と同じだと。紅茶に愛を、熱意を注ぐ存在なんだ…って。

 まあそれはそうと、隣から聞こえてくるのは、全然違う雰囲気のやり取り。蚊帳の外…といっても、二人ずつなら外も中もない気がするが…ともかく、普段の俺なら会話に加われないのを分かってて無視するような事はしない。……が、今は、今だけは少し待っていてくれ給え、愛月君、セイツ君。紅茶について語り合える相手は、割と少ないんだ…!結構貴重な巡り合わせなんだ……!

 

「そうだね…絶妙な配分でどの風味も主張し過ぎず、けれど確かにそれぞれを感じさせる味わいになっていたと思うよ。ただその上で、敢えて言うなら…ウバ、かな」

「あぁ、やはりそう思いまして?元々癖の強い紅茶故に、割合が難しいんですのよね…勿論量を抑えれば主張も控えめになりますけれど、わたくしとしてはウバもしっかり感じられる味わいにしたいというか……」

「うん、分かるよベール君。だからここは、ウバではなく他の茶葉の種類や割合を調整してみるのはどうだろう。押して駄目なら引いてみろ…ではないけど、別の方向からアプローチをするのも一考だと私は思うよ」

「…………」

「ん、やっぱり紅茶と合うのは甘みが強いお菓子よね。マドレーヌの場合はこのしっとり感も中々…って、どうかしたの?」

「あー、いや…ズェピアさんとベールさんが今、紅茶の…ブレンド?の話をしてるでしょ?それを聞いてたら何となく、ポロックとかポフィンとか…あ、どっちも木の実を使って作るお菓子なんだけど…を、思い出したっていうか…紅茶のブレンドって、面白いのかな…面白いならやってみたいなぁ……」

『……!』

 

 私見を伝えている中で、不意に聞こえた愛月君の言葉。自分もやってみたい…その言葉が聞こえた瞬間、ベール君もぴくりと肩を震わせて…どうやらお互い、同じ事を思ったらしい。

 

「面白いよ、愛月君。何が、と言われたら色々あるが、一番はやはり、自分が好きだと思える味や香りを作れる事、自分オリジナルの紅茶を作り出せる事だね」

「それに、オリジナルブレンド作りは決して難しいものではありませんわ。勿論凝ろうと思えば凝る事も出来ますが、良いと思った二つの紅茶を組み合わせる…それだけでも、立派なブレンドティーですもの」

「…つまり、ドリンクバーで複数の飲み物をミックスする位の感覚でやってもいい、って事かしら?」

「あまり良い例えではないが…うん、そうだね。完成した物を混ぜるか、混ぜてから飲み物にするか、取り敢えずはそれ位の違いでしかないと思ってくれて構わないよ」

 

 振り向き、ベール君と共にブレンドの良さを、それは決してハードルの高いものではないのだという事を語る。彼女の言った通り、ブレンドはただ混ぜればそれで良いという訳ではないし、順番の件も分かり易さ重視で「それ位の違いでしかない」と言ったに過ぎないが…折角興味を持ってくれたのに、その興味に冷や水を浴びせたり、ましてや訳知り顔で「半端な気持ちで入ってくるなよ…紅茶の世界によぉ!」…なんて事を言ったりするのは愚の骨頂。それに、大切なのは正しい手順を踏むだとか、セオリーを重んじるとかじゃなく、自分が満足出来るように…やりたいって思う自分の気持ちを大切にする事ってもんさ。…うん、我ながら今良い事を言ったぞ。多分。

 

「そうなんだ…よし、じゃあやってみる!」

「うふふ、その意気ですわ」

「まずはやってみる、やってみようと思う…良い事だよ、愛月君」

「へへ…あっ、セイツもやる?」

「わたし?わたしは…そうね、わたしもやってみようかしら。ここで一人だけ見学だなんて、寂しいもの」

 

 セイツ君もやる気になり、紅茶のブレンド体験会が今ここに開催。とはいえ、早速ブレンド…という訳ではない。

 

「ではまず、方向性を決めると致しましょうか」

『方向性?』

「どんな紅茶にしたいか、という事ですわ。すっきりした飲み口が良い、香りに拘りたい、リラックス出来るような紅茶にしたい…内容はなんであれ、それを決めなくては始めようがありませんもの」

「あ、それは確かにそうね。ゴールを決めなきゃ行き当たりばったりになるのは明らかだし。…因みに、味が良くて香りも良い、おまけに健康にも役立つ…みたいな、欲張った紅茶を作る事も出来るの?」

「それは、何を以って良しとするかにもよるね。例えば有名どころであるアールグレイ…まぁ、アールグレイはフレーバーティーといって、茶葉そのものの種類ではないんだけど…ともかくアールグレイは、柑橘系の風味がするんだ。そしてもし、香り目当てでアールグレイを選んだ場合、柑橘系の風味も好きならそれは『味も香りも良い』と言えるけど、逆に嫌いなら『香りは良いけど味は…』という評価になるだろう?」

 

 自分にとってのベストを作るのもブレンドの醍醐味なんだから、そういう意味じゃ欲張った紅茶を目指すのは当然…というか、それを目指すのがブレンドじゃないか。…とは言わない。落ち着け、冷静な思考を心掛けるんだぞ俺。ブレンドってやっぱりほんとは難しいんだ…なんて思われたら、折角抱いてくれた興味が台無しになる…!

 

「そっかぁ、うーん…どうしようかな……」

「遠慮する事はないよ、愛月君。君が望む、作りたいと思う紅茶を言ってくれればいい。それを実現出来るよう私は最大限努力するし、ベール君もきっとそうだろう」

「無論ですわ。折角またわたくしに会いに来てくれた愛月君の為に、わたくし頑張る気満々ですもの」

「ズェピアさん、ベールさん…それなら……やっぱり、ポケモンが飲める紅茶が良いなっ!」

『それは……』

 

 ぱっ、と表情を明るくした愛月君のリクエスト。それを聞いた俺とベール君は顔を見合わせ…どうしたものかと頬を掻く。さて困ったな、いきなりハードルが跳ね上がりましたよ奥さん…流石にポケモンが飲めるかどうかは分からない。多分大丈夫だと思うけどゲーム…じゃなかった、別世界の不思議な生物と紅茶との相性は分かりかねるよ……。

 

「あはは…ごめんなさい二人共。飲めるかどうかはちゃんと僕が確かめるから、そこは気にしないで」

「…こほん、そうしてくれると助かるよ。では、他に何かあるかな?」

「えと、僕はグレイブとよく旅をしてるから、疲れてる時とかほっとしたい時に良い紅茶にしたいな。味は、あんまり苦くない方がよくて…あっ、後暑い時とかでも飲めるように、アイスティーにしても美味しい紅茶とか…出来る?」

「ふむふむ、分かりましたわ。それと愛月君、紅茶は大体の種類がホットにもアイスにも向いている…というか、ホットで美味しいと感じられた種類の紅茶なら、殆どはアイスにしても美味しいものですから、最後のリクエストは恐らく意識しなくても満たされると思いますわよ」

「そうなの?わっ、やった…!」

「あらあら、愛月君の無邪気に喜ぶ様子は愛らしいですわね。うふふっ」

「あ、分かるわ。純粋ってだけじゃなく、純粋で無邪気な心をしてるのが愛月君の素敵なところよね」

「え、えぇ…?」

 

 分かる分かる、と微笑むベール君にセイツ君が頷いていると、愛月君は困惑しつつちょっと照れたような表情を浮かべる。……そういえば愛月君がリーンボックスに来たかったのは、前にもここ…というか、ベール君にお世話になったかららしいが…少年に彼女は少々刺激的過ぎるんじゃないだろうか。これを言い出すと、女神が女神化した時の格好も大分刺激が強過ぎる気がするが…まあ、今は触れないでおこう。全然違う話だし。

 

「では、セイツ君はどうかな?」

「わたしも苦味が強いものよりは、飲み易い方が良いわ。香り…は、しっかりしてる方が良くて……でも一番重視したいのは、ミルクティー向きの紅茶、って事かしら」

「ミルクティー…イリゼはミルクティーにして飲むのが好きでしたわね。つまり、セイツは妹の為のブレンドを作りたいんでして?それとも、セイツ自身もミルクティーが好きなのかしら?」

「どっちもよ。別にミルクティーは邪道、なんて言わないでしょ?…言わないわよね?」

「まさか。ミルクティーもれっきとした楽しみ方の一つだし…というか、私の世界における紅茶の本場では、むしろミルクティーの方が主流だと言っても過言ではない位だからね。…さて、それではベール君」

「今のリクエストを元に、それぞれに合いそうな茶葉やフレーバーティーを選出、ですわね」

 

 我が意を得たり、流石はベール君。彼女はもう、信次元における俺の同士と言えるかもしれないな。……なーんて事を思いつつ、俺達はベール君が持ってきてくれた茶葉のストックから選出を開始。同時に愛月君、セイツ君が興味を持った種類について説明したり、紅茶に纏わる豆知識を語ったりして、二人にも選んでいる間の時間を楽しんでもらう。

 

「…取り敢えずはこんなものかな。色々用意はしたが、まずはこれとこれを」

「…飲めば良いの?」

「そうですわ。ブレンドのベースになる物を知っていなければ、そこから何をどうするかも判断出来ませんもの」

 

 小首を傾げる愛月君にベール君が返し、俺達は少しだけ淹れた紅茶数杯を二人の前に。

 一つは、愛月君の要望…疲れている時に向いているという点で選出したダージリン。一つは、ミルクティーにして飲みたいという要望に合わせたアールグレイ。更にそこへ、数種類の紅茶を差し出す。

 

「アールグレイ…さっき例えに出てきた紅茶ね。これが一番ミルクティー向きなの?」

「いいえ、一番という訳ではありませんわ。先程ズェピアさんが言った通り、何を良しとするかによりますもの」

「愛月君に出したダージリンもそうだが、今回はリクエストに添いつつも、出来る限り有名な…知名度の高い茶葉で選んでみたのさ。紅茶好きでないと知らないような茶葉では、仮に良いブレンドが出来たとしても、今後君達が作ろうとした際、茶葉の調達に苦労してしまうかもしれないからね」

「そしてこれ等が順に、アッサム、ルフナ、ニルギリ、ウバですわ。ウバも先程少し名前が出ましたわね」

「…アッザムに、ルキナ?」

「言うと思いましたわ……」

「ニルギリ、ウバ…ニダンギルとウパーみたいな名前だなぁ…」

 

 うん、俺も言うと思った。俺も似た名前のポケモンいるよねと思った。そんな事を思いつつも、計六種類の紅茶から漂うそれぞれの匂いに俺は内心リラックス。

 続けて見せた四種類は、癖がない分ブレンドのベースに良さそうだったり、多少は最初の二種より知名度で劣っていても、リクエスト内容には向いているものだったりと、十分選択肢たり得る紅茶達。一通り説明を終えると、二人は紅茶を順々に飲んで…はふぅ、と小さく息を漏らす。

 

「どれも美味しいわ。…けど、だからこそ逆に選ぶのが難しいわね…というかわたしの場合、ミルクティーを想定しているんだからこのまま飲んでも意味がないような……」

「そんな事はないよ。ミルクを入れれば、当然その分紅茶そのものの風味は感じ辛くなる。ベール君の言ったように、まずは『元の味』を知らないと…ね?」

「どの紅茶も美味しかったけど…この中だと、これとこれ、それにこれが好き…かな。…えっと、そしたらこれを同じ量で混ぜれば良いの?」

「それでも良いですし、飲んで感じた特徴を元に調節するのも一手ですわ。例えば、好きな味だけど薄く感じた…というものであれば多めにする、逆に濃過ぎだと思ったものは少なめにして、他の味を隠してしまわないようにする…といった感じでブレンドしていくと、より自分好みになりますもの」

「あ、そっか、そうだよね。うーんと、それなら……」

 

 知ってもらったところで、ブレンド開始。あまり選択肢が多過ぎても迷うだろうという事で、まずは六種類で限定して色々と二人に試してもらう。

 

「こ、これは……凄い、思っていた以上に美味し…いと思ったけど、後味が微妙ね…」

「あぁ、分かる。私もそうなる時があるよ。…ふむ、この場合は何かを足すのではなく、全体的に分量を減らしてみてはどうだろうか」

「ベールさんベールさん、これはどうかな?」

「うふふ、愛月君の自信作かしら?…ほぅ…これは中々良いですわね。すっきりした飲み口で、疲れている時にも飲み易そうですし。…これにしまして?」

「ううん、良い感じだと思ったから飲んでほしかっただけ。もう少し色々やってみるよ」

「…二人共、楽しんでくれているようだね」

「ですわね。貴方の知識量と穏やかな接し方のおかげですわ」

「いやいや、それはこちらの台詞だよ。加えて茶葉は全て君が用意してくれた訳だからね」

 

 組み合わせを変え分量を変え、次々と試す二人を試作紅茶(淹れた物を残したくはないからね)を飲みつつ眺める。昔は自分もこうして手探りで試した、あの頃は楽しかった…まあ、今でもブレンドする時間は楽しいんだが。そんな感じの事を思いながら、良いブレンドが作れるように祈りながら作業を見つめる。

 

「なんかこれ、ゲームの調合とか錬金みたいだなぁ…」

「あ、分かりますわ。…そういえば、ズェピアさんの世界も魔法や魔術があるとの事ですけど、であれば錬金術もあるんでして?」

「あるというか、私自身が錬金術師だよ」

「……!つまり、手合わせ錬成やぐるこん一級を……」

「出来ないしそんな資格…資格?…は持っていないよ…というか後者は錬金術『士』だろうベール君……」

 

 さらりと出てきたボケに辟易しながら突っ込む俺。道中セイツ君から聞いていたが…確かに彼女も中々ボケる女性のようだ。何となく娘を思い出す外見と紅茶の件で先に好感を持っていたからいいものの、もっと早くこういう面を知っていたら、印象がそこそこ変わっていたかもしれないと思う。

 

(しかしまあ…穏やかなものだ)

 

 前回飛ばされた時にも全体的には穏やかだったが、今回はそれ以上。暫く前とはいえ、幾つもの別世界にすら影響を及ぼす、世界全土を巻き込むレベルの戦いがあったとは思えない程、ミクロの視点でもマクロの視点でもこの世界の今は穏やかで……良く言えば、それだけこの次元の在り方が、人々が良いものなのだという事だろう。そして、悪く言えば…この世界は、信次元は、可能性の幅が狭いのかもしれない。

 可能性は、混沌としている世界にこそ多い。混沌とは即ち、正も負も、良い未来も悪い未来も、凡ゆる可能性に溢れるからこそ生まれ出ずるものであり、調和の行き届いた世界は良い未来が安定している分、可能性自体は狭まっていくものなのだから。…まぁ、これは今の俺の主観でしかないけどね。全く異なる法則で回る世界に対して、俺の知識や常識を当て嵌めている時点で真理とは言い難いし、仮に安定した良い未来があるのだとして、それを俺が非難するとしたら……それは『ズェピア』に対する最大の皮肉…いや、冒涜だろう。それに安定云々はともかく、良い未来を掴み取ったのは、その為に努力したのは、他ならぬイリゼさん達であり、この次元の人々だ。それは決して、その思いは断じて、否定されるべきものではない。

 

「…ズェピアさん、どうかしまして?」

「いや何、戯言を考えていただけさ。それよりも……」

 

 今は不要な思考を頭の隅に放り投げて、意識を目の前の事へと戻す。

 色々試していた二人の表情は、真剣そのもの。どうやら最終調整…微妙な部分を整える段階に入ったようで、もう俺達は何も言わずにそれを見守る。嗅いで、飲んで、考えて、少し変えてを繰り返して……そうして二人は、口に付けたカップを置く。

 

「…出来た…出来たよベールさん、ズェピアさん!」

「わたしも後は、改めてミルクを淹れてみて……うん、これだわ。ほんの少し足りないと思ってた甘みが、やっと出てくれた…!」

「おめでとう、二人共。…では、味見させてもらってもいいかな?」

『勿論!』

 

 力強く頷いた二人に微笑み、二人が淹れ直してくれた紅茶もミルクティーのカップを持つ。淹れた時点でふわりと広がっていた香りを感じつつ、注がれた二杯の色も楽しみつつ、ゆっくりと飲み…また、笑う。

 

「良いね、どちらもとても美味しいよ。贔屓目無しに、良い出来だと私は思う」

「わたくしもそう思いますわ。よく頑張りましたわね」

「わわっ…きゅ、急に撫でないでよ〜…!」

「はぅっ…!二人の温かい賛辞の心と、愛月君の恥ずかしがる感情…やっと完成してほっとしてる時に、こんな不意打ちみたいに素敵な感情が来るなんて…!」

「あぁ、うん…それは良かったね、セイツ君……」

 

 紅茶はそのままでも美味しい。余程変な組み合わせでもしない限り、適当なブレンドでも最低限の美味しさはある。だがそんな事は関係なく、素直に二人のブレンドした紅茶とミルクティーは美味しいと思った。妥協などない、これだと思える物が出来るまで頑張ったからこその味だと、そう感じた。

 それから俺は、微笑みながら愛月君を撫でるベール君に苦笑した後、何やらノっているセイツ君に内心で呆れる。…薄々思ってはいたけど、この妙なテンションは魔王少女を思い出すな…。

 

「もー、怒るよベールさん!」

「それは喜ばしくない事ですわね。申し訳ありませんわ、愛月君」

「あ、う、うん…何だろう、止めてもらえたのに何か敗北感が……」

「ふぅ…ともかく、二人共ありがとう。わざわざわたし達の為に一から教えてくれた事、感謝するわ」

「あっ…僕も、ありがとう!今日教えてもらった事は、ちゃんと覚えておくね!…そうだ、取り敢えず茶葉の名前とか分量とかをメモしておかないと……」

「いえいえ、感謝などいりませんわ。わたくしこそ、楽しい時間を過ごせましたもの」

「私もだよ、セイツ君、愛月君。私は君達に、自分の好きなものに対して興味と関心を持ってもらえた。それがどれだけ嬉しい事なのかは…君達も、分かるだろう?」

 

 この言葉もまた、素直な思いから出たもの。俺にとって今の時間は、ベール君と語らうのと同じ位有意義であり…俺も帰ったらまた、新しいブレンドでも試してみよう。

 

「よーし、次の旅に備えて茶葉は多めに用意しておかないと…」

「これで完成だけど…一先ずこれはプロトタイプ、って事にしようかしら。あくまで今回は、初心者向けコースでブレンドするなら…って内容だったんでしょ?」

「まあ、そうだね。だからって玄人が作るものに劣るとは思わないけど…今回使わなかった茶葉を試してみたり、ロイヤルミルクティーにしてみたりと、まだまだやれる事は沢山あるよ」

「とはいえ、今は完成したブレンドティーの余韻を楽しむのも良いと思いますわ。このまま飲みつつ雑談するのも良いですし、飲みながらゲームというのも一興ですわよ?」

「ゲーム…ベールさんって確か、ゲームも好きだったよね?僕、ゲームのお勧めも知りたいなっ」

「確かにそれも一興だ。しかしまずは、まだ飲み切れていない試作品を片付けるとしようか」

「あ…そ、そうだったわね。こっちもちゃんと飲まないと……」

 

 そうしてブレンド体験会は閉幕。四人で試作ブレンドを片付けた後は、ベール君お勧めのゲーム(青少年に宜しくないゲームも色々見えたが、そこはセイツ君と共にばっちり止めた)、更にはリーンボックスがどんな国なのかをベール君から聞く等をして、充実した時間を過ごした。

 元々は折角誘われたのだからという、その程度の理由で訪れたリーンボックス。しかし同じ紅茶好きであるベール君との邂逅を始め、振り返ってみれば非常に価値のある来訪となった。いやはや全く、世の中はどこでどんな喜びがあるか分からないものだね。




今回のパロディ解説

・第一次星間大戦
マクロスシリーズにおける出来事の一つの事。マクロスシリーズで2㎞の艦船というと、ゼントラーディのスヴァール・サラン級がそれに当たりますね。

・「〜〜全てに染まり〜〜飲み込み包容する〜〜」
家庭教師(かてきょー)ヒットマンREBORN!に突如する要素の一つ、大空の炎に対する表現のパロディ。ユニはカレーが流行しているガラルに興味を持ちそうです。

・「半端な気持ちで〜〜世界によぉ!」
遊☆戯☆王5D'sに登場するキャラの一人、鬼柳京介の代名詞的な台詞の一つのパロディ。ズェピアがいきなりこんな事を言ったら全員ぎょっとする事間違いなしですね。

・アッザム
機動戦士ガンダムに登場するMAの一つの事。アッザムでは淹れられませんね。操縦するマ・クベなら美味しい紅茶を振る舞ってくれるかもしれませんが。

・ルキナ
ファイヤーエムブレムシリーズに登場するキャラの一人の事。ルキナで紅茶…へ、変な意味っぽくなりますね。彼女も王家の人間なので、良い紅茶は知ってそうですが。

・手合わせ錬成
鋼の錬金術師における、錬成術の一つの通称の事。しかしズェピアであれば、手合わせ…というか、その場でぽんっと何かを作れたりはすると思います。

・ぐるこん一級、錬金術『士』
アトリエシリーズの主人公の一人、ソフィー・ノイエンミュラーのスキルの一つ及び、アトリエシリーズにおける職業の一つの事。これは結局、資格…なんですかね?
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