超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
「という訳で、ピーシェを呼んだわ。さあ、神次元の女神交流会よ!」
『え、どういう訳で…?』
明日は客を呼ぶから、ちょっと付き合ってほしい。昨日そう言われて、何だろうと思いつつ今日を迎えたら…リビングで変な会が始まった。
因みに今セイツさんが言った『ピーシェ』は私の事じゃない。信次元と交流の深い神次元にいるピーシェの事で…つまりは、別次元の私。
「そんな事はどうでもいいのよ。要はこの段階に至るまでを割愛する為の発言だもの」
「うわ、言い切った…」
「うちのせーつがすみません……」
何となくそんな気もしていたけど…まさかすぐに言うとは思わなかった。驚いて思わず呟いてしまって…別次元の私に、謝られた。…自分と同じ顔の相手に謝られるのって、何か凄く反応に困る……。
「ま、それは良いッスよ別に。それより、交流会って何するんッスか?」
「というか、わたしは女神じゃないんですけど…」
神次元の女神交流会、というだけあって、アイさんも呼ばれていた。一方本人も言った通り、何故か女神でないビッキィも誘われていた。もしかすると、重要なのは『神次元』の方であって、女神の方はそこまでじゃないのかもしれない。
「えぇ、分かってるわよビッキィ。でも交流会って言ったって、真面目な話をする訳じゃないんだから、女神かどうかに拘る必要はないわ」
(あ、思った通りだった…)
「つまり、この機会だからこそ出来る面子で話してみたかった…みたいな感じッスか?」
「そういう事よ。ふふっ、今ので伝わるなんて、以心伝心ね」
「あー、まぁ、それもそうッスねー。…にしても…まさか成長してるピーシェとまた出会うなんて思ってなかったッス。ひょっとして、うちの神次元の方が特殊なんスかねぇ」
うーむ、と腕を組んで首を傾げるアイさん。それからアイさんは私ともう一人の私へ視線を送ってくる…けど、こっちに答えを求められても困る。私も自分の次元の事以外は殆ど分からないんだから。
「えぇ、と…成長してるぴぃ、っていうと…?」
「あ、こっちのピーシェは一人称がそのままなんッスね。うちの知ってるピーシェは、これ位の背丈なんッスよ」
「えっ、ピーシェ様にそんな小さな頃が…!?」
「…もしかして、馬鹿にしてます?」
「すみません、冗談です…」
「…でも、まるっきり変な発言でもないんじゃない?だってわたしや信次元の女神…先天的な女神は、初めから成長した姿で生まれるんだもの」
それは聞いた事があるから知っている。けど、今のビッキィの発言は間違いなく冗談な訳で…まぁ、別に良いんだけど。徹頭徹尾きっちりしてるビッキィなんて、むしろ違和感凄そうだし。
「こ、こほん。…でも、ほんと似ている…というか、そっくりですね……」
「それはそうでしょう、同一人物なんですから」
「けど何となく、ピーシェよりピーシェの方が大人っぽい雰囲気あるッスよね。……って、このままだと分かり辛いッスね…」
「なら、ピーシェ様の方はイエローハート様と……あ、でも…」
「うん、ぴぃも女神の姿の時はイエローハートって呼ばれてるし、やっぱり分かり辛いかも」
「そうねぇ…次元の名前で判別、って事も出来ないし…もういっそ、ピーシェA、ピーシェBとか……」
『そんなグループで出てきたモンスターみたいな呼び方は御免(です・だよ)』
「ま、まぁそうよね、言ってみただけだから安心して……」
「凄い、今のは圧が二倍以上あった気がする……」
今度はセイツさんが下らない事を口にした。半眼で言葉を返したら、ものの見事にもう一人の私と声がハモった。語尾以外はぴったりだった。
こういう事は偶にあるし、同じ自分なんだからハモるのはそこまで不思議な事じゃない…とも思うけど、いざハモると何とも言えない感情があって…しかもそれは向こうも感じていたらしく、私達は顔を見合わせ互いに軽く会釈し合った。
「…あ、けど、考えてみたらピーシェ達はあんまり似てない方かもしれないわよ?」
「そうですか?わたしからすれば、『影分身だッ!』って言われても納得しそうな位そっくりに見えるんですけど…」
「いや、それの場合はそもそも影分身出来る事に驚くべきじゃ…?」
「ふっ…影分身は高等忍術に見えて、意外とそうでもないんですよ?勿論実体があり、能力や思考の面でも本体と遜色無い分身を作るのは難しいですが、逆に言えば『ぱっと見の外見』以外の再現を削ぎ落とすだけ削ぎ落とせば、影分身の難易度は大きく下がるんです」
「えぇ…?…待って、えと…びっきぃ?…は、忍者か何かなの…?」
「えぇ、実は忍者か何かですよ」
「忍者か何かじゃなくて、ちゃんと忍者ですよピーシェ様…。…それはそれとして、ピーシェ様じゃないピーシェ様からの、ちょっと響きが違う『ビッキィ』も悪くないな……」
「というか、あれよあれよと話が脱線し過ぎじゃないッスかね…。…え、まさかこの面子だと、ウチが突っ込み担当になるんッスか…?」
わたしを何だと思ってるんですか…と言いたげな目で見てくるビッキィに内心でちょっと笑っていると、アイさんから半眼を受ける事に。まあ確かに、脱線に脱線を重ねていた感は否めない。後、セイツさんが言いたい事も気になるし、ここは話を戻すとしよう。
「それで、私達が似てない…というのは?」
「あ、うん。例えばだけど、ネプテューヌだったら見た目は勿論、性格や言動だって大体同じでしょ?ネプテューヌ以外でも、そういう例って思い付かない?」
「言われてみれば確かに、ブランちゃん達他の女神も概ね同じような性格してるッスね。逆にイストワールみたいに、見た目は違っても性格はそっくり…ってタイプもいたりするッスけど」
「でしょ?けど、さっきアイも言ってたけど、ここにいる二人のピーシェは見た目こそ同じでも、雰囲気の面は結構違う…そうは思わない?」
「…それは……」
「…まぁ……」
それは、と言った私に、もう一人の私が続く。特に深く考えてはいなかったけど、私ともう一人の私とで雰囲気に違いがある事は認識していて…って表現すると、少し変か…自分がどんな雰囲気してるかなんて、自分からはよく分からないものだし。
ただ、自分の雰囲気がどんなものかは分からなくても…ここにいるもう一人の私が、私と違う雰囲気なのは分かる。もう一人の私は…多分私より、明るい。明るく…まともだ。
「…まあ、違うって言ってもそれは表面的な部分の話に過ぎないけどね。一見違うように見えても、本質的には同じ…っていう事は十分あり得るだろうし」
「それを知るには、お互いまだ色々と知らな過ぎますけどね」
「ぴぃなんて、さっき会ったばかりだしね…」
「…………」
「……?…どうかした…?」
「い、いや…別に……(言えない…一人称が『ぴぃ』なのが気になる、とは言えない……)」
「あ…それでいうと、セイツさんには分からないんですか?確か、感情や気持ちを感じるのが好き…なんですよね?」
「残念だけど分からないわ。感じるのは好きだけど、わたしが感じているのは漠然とした感情だけ…言ってみれば多分感受性が豊かの範疇であって、心が読めるとかのレベルじゃないもの」
((感受性が豊かの範疇…?))
昔は自分もそう言っていた気がするとはいえ…というか、そう言っていた気がするからこそ、今の自分とほぼ同じ見た目をしているもう一人の自分が、「ぴぃ」と言っている事が気になる。気になって仕方がない。
…と、思っていた中での、何気ない様子のセイツさんの発言。彼女は恐らく、本当にそう思っているようで…でも私からすれば、軽く唖然とするレベルの発言だった。…いや、うん…私というか、私達からすれば、かな…同じようにセイツさんを見ている皆の顔を見れば、訊くまでもないし…。
「なんであれ、知らないならこれから知っていけば良いだけッスよ。というか、ウチも正直セイツやビッキィの事はまだよく分からない部分も多いッスし、ピーシェにしたってよく知ってるのは二人とは違うピーシェッスからね」
「知らないなら、これから知っていけば良いだけ…良い事言うわね、アイ。折角の機会だし、わたしももっと皆の事を知って、仲を深められたら嬉しいわ。…勿論、ピーシェともね」
「いや、ぴぃはせーつの事なら大体知ってるし良いんだけど…けど、確かに三人の事は知りたい、かな。…ま、まあ、わざわざ信次元に来たのに、何も残らないような雑談だけして終わりじゃ色々割りに合わないし?」
「ははぁ…今一つ分かったッス。こっちのピーシェは、ちょっと素直じゃない一面があるんッスね」
「いや、ピーシェ様も似たようなところありますよ?偶に素直じゃない発言したり、変なところで意地を張ったり、基本はクールでもふとした時に愛らしい一面が……むぐぐ…」
「…うちのビッキィが失礼しました。彼女は時々訳の分からない事を言うんです。今のも恐らくそうなので、気にしないで下さい」
「ふふっ…仲良いわねぇ、二人は」
「良いッスねぇ、ピーシェとビッキィは」
無言でビッキィの口を塞ぐ私。けれど一歩遅く、セイツさんとアイさんからは生暖かい目で見られてしまった。…え、違いますよ?恥ずかしくなって口封じしたとかじゃなく、ビッキィの沽券の為に封じたんです。いきなりこんな事を言い出したら、何だこいつ…と思われるのが関の山ですから。えぇ、ビッキィの為ですビッキィの為。…ビッキィの、為、です。
「ぷはっ…ぴ、ピーシェ様何を……」
「…………」
「…話しましょうか、ピーシェさんに……」
「…はっきりしてるわね、上下関係…女神とその従者なんだから、当然ではあるけど……」
「…こほん。…けど、困ったな…自分に対して話す話ってなんだ…?」
『…自問自答…?』
「いやいやいや…今それをしてどうしろと…?」
全員揃っての、首を傾げながらの言葉に、いやいや…と私は手を振る。確かに自分との対話って言ったら自問自答が思い付くけど…そもそも同一人物ではあっても、別次元の自分は『自分自身』ではないんだから、自問自答というのも違う…気がする。
「まあ、ではピーシェ様は一旦保留という事で…わたしから話すとしましょう。というか、訊きたい事とかありますか?」
「えー、と…そうだ。さっき忍者か何かって言ってたけど…忍者、なの?」
「忍者です、忍者か何かじゃなくてれっきとした忍者です…。…何か忍術見せましょうか?」
「あ、なら腹いせで生み出されたらしい、性別を反転させる術を見てみたいッス」
「いやあれは忍者じゃなくて妖の術…って、そんな術やれてもやりませんよ!?だ、誰にやれと!?」
「っていうか、なんであいが答えたの……」
そんな事を思っていたら、話はビッキィが受け継ぐ形に。漫才みたいなやり取りの後、ビッキィは部屋の中…という事で、威力はほぼない風遁を披露。
「どうです?今はそよ風程度ですが、その気になれば突風の一つや二つ起こせますよ?」
「おぉ…。……忍術って、魔法とどう違うんだろう…」
「えぇ…?…忍術を披露した結果の感想がそれって……」
「…実際、どう違うの?」
「しかもピーシェ様まで…!?…どう、って…わたしも知りませんよ、だって魔法は使えないんですから…!」
じぃっ、とビッキィを見ながら訊いてみたら、ビッキィは「そんな事訊かないで下さいよ…!」とばかりの顔をしていた。
因みに後で知ったけど、イリゼさんの友達の忍者(勿論ビッキィじゃないですよ?)が使う忍術は、魔法の一種…というか、呼び方が違うだけで似たようなものなんだとか。
「に、忍術と魔法の話は良いんですよ。第一それはわたしの話じゃないですし…」
「言われてみればそうね。なら……あっ、そうだ。前にイリゼが言ってたけど、ビッキィってマジェコンヌのところでバイトしてた事があるの?」
『えっ?』
「あー…はは、ありましたよ…えぇ、ありました……」
初耳らしいアイさんともう一人の私が目を丸くする中、乾いた笑い声を漏らしながら頷くビッキィ。…残業代は出ないし、賄いも訳ありのナス一本だけなんだっけ…うん、そりゃ遠い目もするよね……。
「マジェ姉さんがバイトを雇う…奇妙な次元もあったもんッスね…」
『マジェ姉さん…?』
「マジェ姉さんはマジェ姉さんッスよ。そっちの神次元にもいるんッスよね?」
「え?あ、うんいるよ。最近は……タレントが『うまーい!』って言うグルメ番組で紹介されてたんだったかな」
「そ、そんな馬鹿な…あんなブラック農家がTVに出るなんて……」
「マジェコンヌっていうと、信次元にもいるわよ?ええと確か、前にイリゼから送ってもらった集合写真の中に、彼女も写ってた筈……あ、あったわ」
『……?どこにマジェ(コンヌ・姉さん)が…って、この人ぉ!?嘘ぉッ!?』
落ち着いた銀色の髪に、穏やかな顔付き。セイツさんが指し示したのは、ぱっと見普通の美人にしか見えない人物で…それがあのマジェコンヌだと知った私達は、仰天した。仰天するしかなかった。…別人だって…これはもう別人でしかないって……。
「な、何があったらマジェ姉さんがこうなるんスか…或いは何があったら、ここからマジェ姉さんになるんッスか…?ある意味ヤマト並みの外見変化じゃないッスか……」
「というか今度はまじぇこんぬの話になってる…」
「やたら飛びますね、話…。……ところでアイさんは確か、エディンの女神…なんですよね?」
「そッスよ。色々あって女神ッス」
このままマジェコンヌの話で盛り上がるのは何か嫌だ。そう思った私は話題を探し…ふと、思い出した事を口にする。
「…建国も、アイさんが?」
「いんや、建国に関しては……あー、でも別に隠す事でもないッスかね…」
『……?』
「何でもないッス。エディンの建国はウチじゃなくてピーシェッスよ。まぁ、ピーシェが建国したというより、ピーシェを…擁立?…した形ッスけど。それから何やかんやあってエディンは新生エディンとして、今度はウチが守護女神として再発足したんッス。だからウチは二代目ッスね」
「色々とか何やかんやとか、ふわっとした部分多いですね…」
「そこはご愛嬌、乙女の秘密ッスよビッキィ」
『…乙女……?』
「うっわ、冗談とはいえ全員にぽかんとされると傷付くッスね…分かってくれとは言わないッスけど、そんなにウチは乙女じゃないッスかね?」
「…ローズハートの子守唄?」
すぐに違う話になってしまったものの、アイさんの説明でそちらの神次元、そちらのエディンでも元々の女神は私…イエローハートであると分かった。
訊いたのは、単なる興味。別に知らなきゃいけない訳じゃないけど…やっぱり、気になったから。……因みに、肩を竦めたアイさんにセイツさんが返答すると、「おぉ、流石セイツ!イリゼの姉だけあって、ノリの良さはバッチリッスね!」…と何やら機嫌良くハイタッチしていた。しかも、機嫌良さそうにした時点じゃセイツさんはテンションが上がっていたのに、恐らく反射的にハイタッチに応じた瞬間、途端に「はきゅぅぅ……」とか言ってへろっへろになっていた。…この人の事は、よく分からない。
「せーつ、そうなるのは分かってるんだからハイタッチは応じなきゃいいのに…。…そっちのぴぃは、エディンの女神を止めちゃったの?」
「止めたというか…さっきも言った通り、うちの次元のピーシェは子供ッスからね」
「あー…。…いやでも、ねぷてぬやぷるるとが女神でもプラネテューヌは一応成り立ってた事を思えば……」
「うーむむ、そう言われると補佐次第でギリ何とかなりそうな気もするのがまた……」
「はは…。…けど、やっぱり意外ですね…ピーシェ様以外が治めているエディンだなんて……」
「あー…それで言うと、ぴぃもエディンの女神ではなかったり…というかそもそも、建国の経験自体もなかったり……」
『え?』
頬を掻きつつ言ったもう一人の私の言葉に、私達三人は目を瞬く。てっきり、もう一人の私はエディンの女神かと思っていたけど…どうやら根本的に勘違いをしていたらしい。
「ぴぃとしては、むしろ別次元の自分が建国してたり、国を主導してたりする事の方が驚きというか…。…自分の国を導くのって、良いものなの?」
「良いもんッスよ。そりゃ大変ッスし、いつでも悩みはあるッスけど…やっぱり嬉しいんスよ。自分の理想を、自分や仲間と築いていくのは。その理想を好きだって、そんな理想の国にいたいって思ってくれる人がいるのは」
「…そっか。ぴぃもぴぃなりにプラネテューヌを支えている…ううん、ぷるるとを手伝ってるつもりだし、その中で充実してるって感じる事もあるけど…やっぱりそういう立場だからこその部分もあるんだ…」
小さく…優しく笑うアイさん。語られた思いを聞いて、納得した顔をするもう一人の私。そのやり取りを、二人を見て…私は、思う。
(…輝いてるな……)
女神である事、国を守り導く事への喜び。それを素直に良い、と思える心。それはどちらも、私からすれば輝いて見える。輝いて見えるし…私はそれに、素直には賛同出来ない。理解は出来るけど…納得は、し切れない。
二人は、人の明るい面しか、綺麗な面しか知らないから、そう思えるんだろうか。それとも汚い面も禄でもない本性も知った上で、その上でそう思えてるんだろうか。或いはイリゼさんの様に、善悪や良し悪し以前の段階から人を信じようとしているのか。…もし、二人が一番目だとしたら……
「…ピーシェ様」
「…え?あ、何…?」
「表情が硬くなってますよ?」
隣からの声で、我に返る。幸い三人には気付かれていなかったようだけど…ビッキィには気付かれたというか、察されたらしい。…基本こういう、心の機微には疎いタイプな筈なんだけどな、ビッキィ…何だかんだ言っても、忍者は伊達じゃない、って事かな…。
「大丈夫だと思いますよ。アイさんは何となくですが、色々と経験している…ような気がしますし、ピーシェさんに関しては…何せピーシェ様の同一人物、別次元のピーシェ様な訳ですからね」
「…理由が思ったよりふわっとしてる……」
「うっ…わたしも言ってから『根拠がイメージしかないな…』とは思いましたけども…!」
「ふふっ…すみません。それと…ありがとう、ビッキィ」
鋭いなと思いきや、やっぱりビッキィはビッキィだって。それがおかしくて、私は少し笑い…それから気を遣わせた事への謝罪と、気を遣ってくれた事への感謝を伝えた。
根拠はともかくとして、私は二人の事をまだ深く知った訳じゃない。二人の事も、二人の住む神次元の事も、全然知らない。だというのに、勝手に…それこそイメージで不安感を抱くのは、余計なお世話というものだ。
「二人共、どうかしたの?」
「何でもないですよ、セイツさん。ところでセイツさん、何気なくここにいる訳ですけど、セイツさんはどういう女神なんですか?確か案内の時に、前は神次元で活動してたって言ってましたけど……」
「よくぞ訊いてくれたわ、ビッキィ!」
何でもないと返した流れのまま、セイツさんへ尋ねるビッキィ。問われたセイツさん(いつの間にか復活していた)は、待っていたとばかりに返す。…よくぞ、って言う程かな、今のって……。
「あ、それは言ってみたかっただけだから気にしないで頂戴」
「そ、そうですか(さらっと地の文を読まれた…何ならこっちの方が気になる…)」
「こほん。どういう女神かといえば、それは勿論信次元の女神であり、神次元の女神でもあるって事よ」
「つまり、どっち付かずって事ッスか」
「日和見女神って事なんですね」
「なんでいきなりそんな酷い変換を!?…冗談の言の葉が鋭いわよ二人共…」
「まあまあせーつ、説明を続けなよ」
「ピーシェもまあまあ、で片付けようとしないで頂戴…まぁ、いいけど…。…わたしにとって信次元は生まれ故郷みたいなものだし、妹の国がある次元だし、神生オデッセフィアの皆はわたしの事も女神として思ってくれている…そんな、かけがえのない場所よ。でもそれは、神次元も同じ事。あの時皆と共に闘って在るべき未来を取り戻したのも、眠りから目覚めて現代の皆と出会ったのも、その皆と一緒に進めるのも、わたしにとっては全部が唯一無二なの。だから、わたしはどちらの女神でもある。それがわたしのベストよ」
ベターじゃ満足出来ないもの。そう言ってセイツさんは笑った。彼女の妹、イリゼさんによく似た…自信と前向きさに満ちた笑みで。
「…姉ですね、イリゼさんの」
「……?えぇ、姉よ」
「お母さんの姉…叔母さん……」
『叔母さん…?』
ふっ…と笑いながら言うビッキィの発言に、私以外は小首を傾げる。…まあ、伝わらないよねこれは。
「…まぁともかく…少しは分かりました?」
「あ…うん。色々知れた…とは思う」
「ウチもウチで、そこそこ知れた気がするッス。妙ちきりんな会だと思ってたッスけど、やってみると案外悪くなかったッスね」
「妙ちきりんって…でも、そう思ってもらえたのなら何よりよ」
「…あっ、でも……」
「……?もしかして、まだ何か知りたい事が?」
「えと…知りたいといえば、そう…かな。…いや、でも…どちらだとしても、むしろ知らずにいた方がいいのかも…?」
今度はビッキィが小首を傾げ、もう一人の私が返答する…けど、何やら歯切れの悪い様子。何だろうかと思って私達が注目すれば、もう一人の私は頬を掻きつつ、少し躊躇った後に言う。
「あの、もう一人のぴぃにお願いがあるんだけど…ちょっと、女神化してもらってもいい?」
「え?」
「…あー…うん、何となく分かったわ…」
突然の頼み…それも理由が全く分からない女神化の要望を受けて、私は困惑。ビッキィやアイさんも似たような反応をする中、セイツさんだけは何か分かったように…そして何とも言えない風な表情を浮かべて、わたしからもお願いするわ、と言った。
一体これはどういう事なのか。やるやらない以前に、意図の部分が微塵も見えず…私はビッキィと、顔を見合わせるのだった。
*
ピーシェ様ではないピーシェ様という、摩訶不思議な…って言っても、次元超えてる時点で十分摩訶不思議だけど…相手と会って、セイツさんやアイさんも交えたやり取りを色々して、そこそこ話したなぁ…なんて感じ始めたところでの、ピーシェさんからの変なお願い。それを受けて、というかピーシェ様が了承をして…わたし達は、教会の庭へと出た。
(別次元とはいえ、自分の女神の姿を見てどうするんだろう…そもそもなんで見たいんだろう……)
単に見たいだけなら鏡を使えば良いだけの筈。実は吸血鬼だから鏡には映らないとかじゃあるまいし。……そういえば、ズェピアさんは鏡に映らないんだっけ…?
「それで、私は単に女神化すれば良いんですか?」
「うん、お願い。…っていうか…女神の姿になる事に、特に抵抗は……」
「……?ありませんけど?」
「ないんだ…いやまぁ、ぴぃだって別に嫌いじゃないよ…?なんだかんだ言っても『自分』だし、スタイルに関しては文句なしだし…」
ぶつぶつと呟くピーシェさん。何を言いたいのかよく分からないけど…何か、女神化関係でコンプレックスがある様子。
「まあ、とにかく女神化すればいいんですね?では……」
そう言って、ピーシェ様は女神化。光に包まれ、光は散っていって…その光が収まった時、ピーシェ様の姿は、女神のそれに。よりメリハリのある、イエローハートとしての姿に。
「はい、へんしんかんりょー!これでいーの?」
「あ、う、うん。…やっぱり、違う次元のぴぃも、女神の姿はこれなんだ…なんだろう、ほっとしたような、でも知ってどうすんだって感じでもあるような……」
「おー、人の姿は成長していても、女神の姿は同じなんッスね。やっと馴染みあるピーシェと会えた感じッス」
普段はクールなピーシェ様だけど、女神化すると…なんというか、子供っぽくなる。見た目は大人っぽい…っていうか、グラマラス…?…になるのに、言動とか表情はむしろ元気一杯な子供って感じで…ミスマッチが凄い。ネプ姉さん位、ギャップが半端ない。
「あ、ねえねえせっかくだから、あなたのへんしんも見ーせてっ!」
「え、ぴぃも…?」
「いいんじゃない?今は貴女のお願いに応えてもらったんだから、そのお礼として丁度良いでしょ?」
「それはそうだけど…。…ま、まぁ…いいか…」
テンションの高いピーシェ様は、ぎゅっとピーシェさんの手を握ってお願い。一瞬躊躇う様子を見せたピーシェさんだったけど、セイツさんに言われた事でまあいいかと首肯。
因みにここで先に言っておくけど、ピーシェさんも女神化するとピーシェ様みたいになるらしい。同一人物なだけあって、女神の姿も同じらしい。…で、何故先に言ったかというと……
「あははははっ!ぴぃが二人、二人いるー!」
「どっちがはやいかな?どっちがすっごいパンチできるかな?しょーぶしよしょーぶ!」
……ご覧の通り、無邪気な子供っぽいピーシェ様が二人になった事で、物凄くきゃっきゃしてる光景が完成していた。…いや、うん…それだけなら和気藹々としてるようにも見えるかもしれないよ?けど、両方女神だからね…女神のフルパワーを無邪気に振るってる訳だから、実は今見えてる光景って、色々凄まじい感じになってるんだよね…はは……。
「いやぁ…ネプテューヌが二人いると騒がしさが半端ないと思ってたッスけど、これはこれで強烈ッスね……」
「同感よ。でも…凄く楽しそうだわ、二人共っ!元々女神化したピーシェは感情が爆発してて素敵だけど、そのピーシェが二人になった事で相乗効果を生み出しているっていうかなんていうか…Whoo!」
「うわっ、セイツさんが興奮のあまりパリピみたいに…!」
いきなり変な発言…発言?叫び?…を上げたセイツさんに、アイさんと揃ってぎょっとする。なんかもう、雰囲気から予想はしてたけど…結果はその斜め上だった。これは予想出来る訳ないって…。
「…というか、これ良いんです?今は空で競争してる訳ですけど、これを街の人に見られたら騒ぎになるんじゃ……」
「や、大丈夫だと思うッスよ?ウチ等はまだ目で追えるッスけど、普通はピーシェ二人が飛んでるなんて視認出来ないと思うッスし、仮に見えても大概の人は見間違いだと思うんじゃないッスかね」
「んふぅ…っていうか、ビッキィも目で追えるのね。ケイドロの時も思ったけど、大したものだわ」
「えぇ、忍者ですから」
「…忍者って、職業というか生業としての括りであって、『忍者=超人』とは限らないわよね…?」
「いや、ひょっとするとビッキィやピーシェの次元では、超人の称号だとか、超人でないとなれない仕事みたいな扱いなのかもしれないッスよ…?」
大したものだと言われれば悪い気はしない…けど、ここで調子に乗ったりはしないのが忍者というもの。だから澄まし顔でわたしが返すと、二人は何やらひそひそと話していた。
「それに、わたしなんてまだまだです。例えば同じ忍者でも、世の中には車ごと分身する事が出来たりする人がいますし、その人が属する組織の指令に至っては女神の様な力を持つ能力者六人を相手にしてもまだ余裕を見せたりしますから」
『えぇー……』
「…まあ、女神云々は例えであって、ピーシェ様やお二人と同じ位の強さとは限りませんけどね」
そう、わたしは普通の人間よりは強くても、まだまだ未熟。上には上がいるし、高みというのは果てしないもの。…その高みに向かっていくと段々ギャグみたいになるっていうか、我ながらちょっと「既にギャグの域に片脚突っ込んでるような…」って思う時があったりしなくもないけど…それでも目指す先は、低いより高い方が良い。…と、思う。
「…けど、っていうかだとしてもビッキィが中々の実力なのは事実ッスし、それを思えばピーシェに付き従うより楽に稼げる仕事とかもありそうなもんッスけどねぇ」
「そこは忠義故じゃない?又は友情とか、親愛とか」
「…そうですね、そんなものです。わたしも昔は色々ありましたが…今は純粋に、ピーシェ様を支えたい…側で、力になってあげたいから、こうしてるんです」
稼ぐ事には興味ない。最低賃金以下で働かされるとかは流石に嫌だけど、逆にいえば最低限の収入があればそれで良いし、昔は自分の中の黒くどろどろしたものを理由に戦っていた事もあったけど…今はもう、違う。今はただ、ピーシェ様の支えになりたいだけで…それで十分というか、そこに自分なりの充実感があるのが今の自分。今のビッキィ・ガングニル。
(…それに、ああ見えてピーシェ様は根っからの強い人じゃないっていうか、頑張ってそう在ろうとしてる人だからこそ、支えたいと思う…って言ったらまた怒られそうだから、黙っておこうかな)
触らぬ神…じゃなくて女神に祟りなし、って事でわたしは黙っておく事を選択。これは心に仕舞っておこう、そうしようと決めて、ちょっと笑って…当然その理由の分からないセイツさんとアイさんは、「……?」と小首を傾げていた。
「とうちゃーく!せーつせーつ、ぴぃとぴぃね、引きわけだった!」
「あ、お帰りピーシェ。…まあ、そうよね。だって同じピーシェだもの」
「だからねっ、こんどは四人できょーそーしよっ!ねっ、ねっ!」
「四人…あぁ、女神で勝負って訳ッスね。…ま、ちょっと位は付き合うッスよ」
それから十数秒後にピーシェ様とピーシェさんが戻ってきて…でも二人共、まだまだやる気が有り余っている様子。ピーシェ様からの誘いを受けたアイさんは肩を竦めながら頷いて、それにセイツさんも苦笑を浮かべながら同意。セイツさんアイさんも女神化をし、今度は女神四人の競争に。
「子供相手に本気になるのは大人気ない…が、どっちも人としちゃもう子供でもねーみたいだしな。手加減なんて期待すんなよ?」
「ふふふっ、楽しみだわ。競争の中で、皆がどんな感情を見せてくれるのかが!」
「よーし、それじゃあいっくよー!」
「よーい、どんっ!」
ピーシェさんの掛け声で始まる、空の勝負。言葉通りアイさんも、変なところに期待しているセイツさんも飛行速度に遠慮はなく…けれどピーシェ様達も負けていない。…改めて見ると、一層凄い光景だな…あの姿って意味じゃ、ピーシェ様はなりふり構わずって訳じゃないんだろうけど…競争へのやる気がほんと凄い…。
…と、ちょっと呆気に取られるわたしではあったけど、本当に楽しそうなピーシェ様を見て、こうも思った。こっちに来て、ピーシェ様は肩の力を抜けてるというか、楽しめてそうだな…と。さっきみたいに、ふとした時に難しい顔をする事もあるけど…それでも最後に振り返った時、楽しめてたと思えるなら、良い休暇だったと言えるなら、わたしとしても文句なしだ。…わたしだって、結構楽しめてるんだしね。
…………。
………………。
……………………。
「……って、あれ!?わたし、置いてかれてない!?」
……まさか、最後の最後で今の自分の状態に気付いて、一人叫ぶ事になるなんて思いもしないわたしだった…。
*
迫り来る弾丸。飛来するミサイル。接近を阻み、敵対する者を撃滅せんとする武力の連打を、スラスターを噴かす事で避ける。左へ右へ、上へ下へ、細かく切り返す事で狙いを付けさせない、偏差射撃を成り立たせない事を兼ねた回避運動を繰り返し、同時に撃ち返す。手数ではなく質で、一発一発を隙を突く形で撃ち込み、確実に相手の数を減らしていく。
「良い火器だ。初めは半端な射程距離だと思っていたが…慣れると中々どうして悪くない…!」
無理に攻める事はしない。確実に減らすというのは、逆に言えば迎撃の砲火に晒される時間が長くなるという事でもあるが、この程度なら恐ろしくはない。油断は出来ないが、これより過酷な、これより冷や汗が止まらなくなるような弾雨をこれまでに幾度も経験をしている。それに何より……今の私は、死ぬ事はない。
「…攻撃目標、捕捉」
展開していた最後の一機を撃ち抜き、推力全開でこの場を離脱。逃げる攻撃目標へ追走し、速度の差で一気に距離を縮めていく。甘めに一発撃つ事で回避を誘発し、その回避行動によって更に目標の速度を落とす。
最後の障害、攻撃目標の護衛機が離れてこちらへ向かってくる。二機による迎撃の内、片方は避け、片方は盾で受けて、固定装備の砲で反撃。避けた事で道が開けた瞬間、携行火器の追加砲身をパージし、推力最大のまま砲口を向け、有効射程圏に入った瞬間連射。先とは対照に、射撃のブレを連射によって強引に補い……撃墜。攻撃目標が爆散した瞬間、自機は操作不能になり、ブザーが鳴り…モニターに、作戦終了の表示が映る。
それから十数秒後、戦闘内容を分析した情報と、総合結果を見やってから……私は機材の中から出る。
「お疲れ様、ワイト君。流石は近衛隊長だね」
何となく凝った気がする身体を解すように動かしたところで、声を掛けられる。
声の主は、私を誘ったイリゼ様。信次元に来てから三日目の夜、私は軍用シミュレーターの存在をイリゼ様から聞き、使用する事を誘われ…今に至るまで、何度かこの機材でシミュレーションを行ってきた。
「いえ、お褒め頂く程ではありません。総合成績もBでしたし」
「いやいや、幾ら操作を簡略化した訓練用とはいえ、これは十分に練習をした上でやるものだからね?それをこの短期間でやれるようになるなんて、凄いを超えて普通の域じゃない、ってレベルなんだからね?」
何を言うか、とイリゼ様は手を横に振りつつ否定。それに対して、私は「では、先程の褒め言葉は素直に受け取っておきます」と返答した後一つお辞儀。
実際のところ、謙遜はしていた。流石に自分も、経緯を踏まえた自分の成績が誰でも取れるようなものではないのだろう、と位には思っていた。というより、誰もが同程度の訓練で動かせるようになるのだとしたら、信次元の人間は基礎能力が高過ぎる。自分や同僚がこれまでしていた訓練が虚しくなってしまう。
「…まぁ、それでも私がそれなりに動かせた一番の理由は、アームズ・シェル…私の次元の兵器とこちらの兵器…MGでしたか。…の操縦系が、そこそこ似ているからでしょう。同じように人型で、携行装備の他固定装備や推進器も備える作りの時点で、多少は似ていてもおかしくはないと思いましたが……」
「そこは私も驚きなんだよね。同じ女神が生まれるように、似たような機械が発明されたりするように、同じ『ゲイムギョウ界』だから、ロボットの操縦方法も近いものになった…って事なのかな」
「さぁ?その辺りは、技術者の視点や開発の歴史も関わってくるので何とも…」
「ま、そうだよねぇ」
何故違う次元でありながら、操縦系が似ているのか。これを調べるのも面白いかもしれない…が、わざわざ調べてみようとは思わない。少なくとも今は…それより気になる事がある。
「…して、イリゼ様。今日は何か、これ以外にも用事があるのではなくて?」
「うん?どうしてそう思うの?」
「ただの勘です。何となく、そう思った…それ以上の理由はありません」
一拍置いて呼び掛けた私は、問う。小首を傾げるイリゼ様へ、勘だと言い切る。
本当に、勘以上の理由はない。ただそう思っただけであり…だがこうして訊いてみる程度には、何かありそうだと思っていた。
私がイリゼ様を見つめ、イリゼ様も見返してくる事数秒。沈黙の末、イリゼ様は肩を竦め…軽く笑う。
「いやほんと、流石ワイト君だね。私もまだまだかなぁ…」
「そんな事はないかと。もし『気のせいじゃない?』と言われていれば、私は『やっぱりそうか』と思って終わりだったでしょうし……イリゼ様自身、別段隠す気はなかったのでは?」
「まぁ、ね。…じゃ、ここじゃゆっくり話せないし、場所を移そっか」
その言葉に頷き、私はイリゼ様の後に続いて機材のあった部屋を出る。
因みに今いるのは軍の施設ではなく教会。何故教会内に軍用シミュレーターが?…という問いも当然したが、それに対する答えは「必要があるからだよ」というものだった。少々ぼかしたような回答だったが…その意味を問う事はしなかった。これももしかすると、訊けば答えてくれたのかもしれないが…ぼかしたという事は、そこには何かしら意味がある筈。であれば下手に探るべきではないというもの。
「さ、どうぞワイト君。今日はバスクチーズケーキを作ってみたんだ」
「わ、わざわざありがとうございます」
移動した先は、イリゼ様の執務室。ここという事は、かなり重要な話かもしれない…そう思いながらソファに座ると、イリゼ様からケーキを差し出された。
ありがたくはある。趣味の一環だとしても、女神様から直々にケーキを作ってもらえるなど、人によってはそれだけで感激だろうし、実際美味しくもある。……が、一度や二度ならともかく、何度も頂いているとなると、何かあった時に断り辛そうな気がする訳で…もしそれを狙っての事であったら、強かだと言わざるを得ない。誠実なイリゼ様がそんな事をするだろうかとも思うが…今や彼女も国の長。それ位考えていてもおかしくはない。
「…これは…美味しいです。美味しいですし、ワインに合いそうな気もします」
「それは良かった。…そういえば、前に一回ノンアルコールを飲みながら話した事もあったよね。今度は他にも飲める人呼んで、飲み会でもしてみる?」
「…いや、まぁ…止めはしませんが、飲み会と言うには些か以上に癖の強い会になりそうな気がしますよ…?」
「…確かに……」
チーズケーキのしっとりした舌触りと甘み、そこへ表面の焦げ目が生み出すほろ苦さが加わる事で、チーズケーキらしい美味しさと、普通のチーズケーキにはない美味しさが共に味わえる。イリゼ様の作ってくれたバスクチーズケーキは、そんな一品だった。
それを食しながらの、前の事を思い出しての会話。癖が強くなる一因は私にもありますが、と内心で呟きながら、私はイリゼ様につられる形で苦笑いし…バスクチーズケーキを半分程食べたところで、自分から話を切り出す。
「…イリゼ様」
「何かな、ワイト君」
「そろそろ、話をしても良い頃合いでは?」
言葉と共に、再び見つめる。先程と同じように、数秒の沈黙が訪れ…それからイリゼ様は、頷く。
「…ワイト君には、うちの軍も少し見てもらったよね。神生オデッセフィアの軍は、ワイト君の目にはどう映った?」
「良い軍だと思いますよ。軍にとって重要な要素の一つである士気…いえ、今は平時なので、もっと単純にやる気と言うべきですが…ともかく活力を感じる光景を色々と見る事が出来ました」
「そっか。なら、これまでシミュレーターで使ってきた機体…マエリルハについては?」
「そちらも良い機体だと思います。挙動が素直ですし、軽快なので新兵にとっては動かし易い、熟練のパイロットにとっても動きのもたつきに苛立つ事が少ない機体ではないかと。…勿論、トップエース級ともなると、物足りない面があるかもしれませんが…そこまでカバーするのは、主力量産機に必須の事ではありませんしね」
これを訊きたかったのか、それともこれは前置きなのか…そんな事は分からない。分からないが、それはそれとして問いに答える。
嘘は言わない。謙遜ではなく、本当に軍も機体も良いと感じた。特に活力に関しては、街中で感じたものと似ているとも思った。新国家ならではの、自分達で選んだ、自分達で盛り上げていく国なのだという思いが、活気が、側から見ているだけでも感じられた。
そんな風に私は語り、イリゼ様は頷きながら聞いていた。私が言い終えると、イリゼ様はまた一つ、ゆっくりと頷いて…それからまた、訊く。
「ありがとう、ワイト君。…じゃあ、今の答えを聞いた上で改めて訊くね。……神生オデッセフィアの軍を、違う次元の、違う国の軍人である…近衛の指揮官であるワイト君は、どう思った?」
それは、今さっきと同じ質問。全く同じ回答をしても成り立つ問い。…だが、違う意図がある。恐らくは私の考えていた事を見抜いた…或いは見抜いたとまでは言わずとも、何かしら察した上での問いであり……ならばと、私も言う。今一度…答える。
「…まだまだですね。建国したばかりの国の軍である以上、それは当然の事ですが…軍としての、組織としての、暴力装置としての強さは、発展途上そのものです」
「…良かった、正直に言ってくれて。言うべき時は相手が女神でもきちんと言う…そういうところ、人としても軍人としても信頼出来るよ、ワイト君」
「ここで建前を言うのはむしろ失礼だと思った、それだけです。…それに、イリゼ様はここで怒るような方ではないという事も、知っていますから」
返答として口にしたのは、マイナスの評価。よく言えば伸び代がある、悪く言えば完成度が低いというのが、私の抱いた正直な感想。……本当に、嘘は言っていない。先程は、プラスに感じた部分のみを言っただけ。
とはいえ、発展途上である事は悪でも欠点でもない。ここから軍としての質が良くなっていくのなら、何の問題もない。そうなる前に大きな戦いが起きた場合は、その限りではないが…それはもう、仕方のない事。建国と同時に強靭な軍隊を作れるのなら、軍備で苦労する国はない。
(…これを、聞きたかったという事だろうか)
浮かぶのは、もしかしたら…という発想。成る程確かに、これは気軽には訊けないだろう。というより、私も何気なく訊かれたとしたら困る。失礼だと思ったから返したまでと…そう言いはしたものの、今の流れがあっても少しばかり緊張した位なのだから。
だが、重大な話ではないようで安心もした。緊張はしたが、これだけならばほっともす──
「…うん、そう。ワイト君の言う通り、神生オデッセフィアの軍はまだまだ発展途上だよ。軍だけじゃなくて、経済も、科学技術も、インフラだって発展途上。資源はあるけど、軍事力も、国としての積み重ねも、人材すらも足りていない。今の信次元には五つの国家があるけど、五大国家じゃなくて、四大国家+αより少しは良いって程度なのが、神生オデッセフィアの現状なの。…だからね、ワイト君……──私の為に、戦ってくれる気はない?」
「な……ッ!?」
それを、その言葉を聞いた瞬間、私は絶句した。絶句し、唖然とし…正気かと、思った。冗談だとしたら、とんでもないが…冗談としか思えないような、そんな問いだった。
されど、冗談ではない。私に向けられるイリゼ様の眼差しは…真剣そのもの。
「勿論、ただでとは言わないよ?ワイト君が神生オデッセフィアに来てくれるなら、私は最高の待遇を約束する。例えば…ワイト君の階級は、大佐だよね?だから神生オデッセフィアの軍には、准将として歓迎するよ」
「准、将…?それは、そんな……」
「突然やってきた人間が、いきなり将官だなんて受け入れられる訳ない?…それは確かにね。でも、神生オデッセフィア…というか信次元において『准』の階級は、元々特別なの。功績や人望から佐官や将官待遇にしたいけど、その人物の真価を発揮するにはしがらみの多い階級だと困る…みたいな時に使われたりするの。だから准将に任命しても問題ないし…ワイト君の実力と人柄なら、すぐに皆認めてくれる筈だよ。…それに、准将は取り敢えずの階級であって、ワイト君にその気があるならその後は更に上に昇進させたって良いんだしね」
イリゼ様は、普段通りの調子で語る。まるで部活やクラブチームに誘うかのように、別次元の人間を、自国の軍に…それも将官、謂わば軍の幹部クラスとして迎えると、そう言う。しかし、軽くはない。普段通りでありながら、もしここで私が首肯すれば、明日には神生オデッセフィアのどこかしらの基地に、自分の席があるんじゃないか…そう思えるような雰囲気も、確かに今のイリゼ様にはあった。
それに、今の口ぶりからは、イリゼ様に軍の人事権がある…或いは人事に上から命令を出せるようにも思える。軍の人事側が忖度する、ではなく、文字通り上の命令系統に、最上位に女神が位置しているような…そんな風に感じられる。まさかとは思うが…思い返すと、信次元において三権分立は過去のものだと、嘗てイリゼ様自身が言っていた。だとしたらこれも…あり得ない事ではない。
「それだけじゃないよ?住まいを始めとする生活に必要なもの、ワイト君が欲しいと思うものは片っ端から用意したって良いし、今は軍人になる場合の話をしたけど、あくまで外部の顧問として、別の立場で招いたって構わない。流石に最低限の条件として、軍事には関わってもらうけどね。それに、ワイト君が望むなら定期的に帰れるように手配もする。ブランとの話も、私が付ける。ワイト君が一切後ろ指を指されるような事がないよう…いや勿論、ブランがそういう事するとは思わないけど…ともかくワイト君の名誉が一切傷付かないような形で信次元に来られるよう取り計らうから、そこは安心して」
更にイリゼ様は言葉を重ねる。迷いなく、淀みなく、私を誘う。
待遇だけを考えるなら、確かに文句なしだろう。一個人に国の長がそこまでして大丈夫なんだろうか、と逆に心配になる程の、手厚い歓迎をイリゼ様は口にした。…だが、それより…そんな事よりも、私はまず、訊かなくてはいけない事がある。だから私は、イリゼ様の話が途切れたところで、訊く。
「…どうして、私にそこまでの待遇を?何故、そこまでして私を神生オデッセフィアに誘うのですか?」
「言ったでしょ?今の神生オデッセフィアには、何もかも足りてないって。新国家なんだから当たり前ではあるけど、これから伸ばしていけば良いっていうのもその通りだけど…それは私だから言える事。私が、第三者だから思える事。幾らこれから伸ばせるって言ったって、それは希望だとしたって、今不足してるのは事実で…そんな中に、神生オデッセフィアの皆はいるんだもん。たとえ望んで来てくれた人だとしても、私は国民の皆に、一日でも早く、今より豊かで強靭な国での日々を過ごしてほしい。これが神生オデッセフィアだと、胸を張れるようにしてあげたい。…その為に、私は貴方が、ミスミ・ワイトという人材が欲しいの。軍人としての能力も、人としての信頼も間違いないって思える、私が直接思ったワイト君を、私は迎えたいの。…私は、精一杯の事をするよ?ワイト君が神生オデッセフィアの一員になってくれたなら…その時はもう、ワイト君も私が幸せにしたい国民の一人なんだから」
何故?その問いに対する答えは、真摯な思いそのものだった。国民を思い、未来だけでなく今この時も大事にする、尊敬の念を抱ける女神の意思、心だった。
私は受け止める。それが誠意だと、イリゼ様への敬意だとして、きちんと受け止め、イリゼ様を見つめ……そうして、答えた。
「…イリゼ様。イリゼ様の思いは分かりました。貴女がそこまで私を評価して下さった事には、感謝をお伝えします。嘗てイリゼ様に話した面を踏まえても尚、そう思って下さるのなら、それがイリゼ様の本心であるのなら、私は心から光栄に思います」
「……じゃあ、答えは?」
「はい。ですが…いえ、そこまで私を思って下さるのなら、尚更私の答えは一つです。──ブラン様への、私の信仰を、忠誠を、思いを……これ以上、愚弄しないで頂きたい」
見つめ、見据え、はっきりと言い切る。きっぱりと断る。自分にそんなつもりはないと。馬鹿にするな、と。
軍人というのが職業である以上、待遇で誘おうとするのは間違っていない。日々の生活の事も、立場も、これまでの日々の事も、全部取り計らってくれるのだとしたら、こんなにも美味しい話はない。…だが、この誘いには、最も重要な部分が抜け落ちている。心の部分が欠如している。そして私にとってそれは、唯一最大と言っても過言ではない要素。ブラン様の盾として、剣として、支え、尽くし、共に歩む…それこそが私の望みであり、願い。それをなくして、私に満足などある筈がなく……それをなしに私が応じると思われていたのだとしたら、流石に不愉快というものだ。
そうして訪れた、三度目の沈黙。イリゼ様は、なんと返すのだろうか。突っ撥ねた事への後悔はないが、もっと穏便な言葉の方が良かったかもしれないと反省はしている。しかしそれでも、私はイリゼ様から目を離す事なく…長い時間が経った末に、イリゼ様は吐息を漏らす。
「…そっか、やっぱりそうだよね…うん、ごめんねワイト君。気に障るような提案をした事を、謝罪するよ」
下げられる頭。その直前に発されたのは、提案を取り下げると言ったも同然の言葉。そのあまりにも潔い引き際に…思わず私は、数秒程ぽかんとしてしまった。
「……随分と、あっさりしているんですね…」
「ま、予想通りの返答だったからね」
「予想していたのに、言ったのですか…」
「それだけワイト君が魅力的な人材だって事だよ。99.99%無理でも、残りの0.01%を試してみる価値はある…って思える位に、ね」
「そこまで言われると、流石に少し気恥ずかしいですね。…ですが、一点間違っていますよ、イリゼ様」
「え…って、いうと…?」
「99.99%ではなく、100%です」
「あ、あー…そういう……」
何とも言えない風な表情を浮かべるイリゼ様。因みに後から知ったが、この時私は真顔で言っていたんだとか。
「…このような話を、他の方には?」
「何人かにはしたよ?でも、ワイト君含めて全部空振り。うーん、上手くいかないものだね…」
「人にとって移住は、ハードルの高い…新生活とも言うように、新たな人生を歩み出すようなものですからね。…まあ、なんと言いますか…イリゼ様の勧誘は聞けませんが、ブラン様には神生オデッセフィアを良い国だと、友好的な関係を築いた方がお互いの益になると伝えておきますよ」
「あはは、ありがと。それはそれで結構ありがたいから助かるよ」
肩を落とすイリゼ様へのフォロー。これもまた、嘘ではない。発展途上である事と、良し悪しは別の話。そして、私は神生オデッセフィアを良い国だと…そう、思う。これから神生オデッセフィアが栄えていってほしいとも、純粋に思う。
「じゃ、この話は終わり。付き合ってくれてありがとね」
「こちらこそ、貴重な経験を色々とありがとうございます」
貴重な経験。それは勿論、シュミレーターやこちらの軍を見られた事を指している訳だが、それだけではない。こちらでののんびり…というには少々刺激の多い出来事も多いが、それを含めて良い休暇が取れている。有り体な言葉にはなってしまうが……楽しいものだ、こちらでの時間は。
そして私は残りのバスクチーズケーキも食べ終え、ソファから立つ。イリゼ様も出るようなので、先に扉の前に行き、開けようと思って扉に手を掛け…ふと、思い出した事を訊く。
「…ところでイリゼ様。気になっていたのですが…他国の、別次元の軍人である私に、軍用シミュレーターを使わせても良かったので?」
「あぁ、それなら問題ないよ。確かに一切の情報が流出しないとは言えないけど、内容はチェックしてあるし、操縦方法やコックピットの内装に関しては、同じところと違うところ、良いところと悪いところは分かっても、その中身までは分からないでしょ?アイディア程度の事は得られても、技術者じゃないワイト君には、システムまでは分からない…違う?」
「それは、確かにそうですね。であれば問題は……」
「──それに、もし仮にワイト君が機密情報を得て、そっちのルウィーに持ち出したとしたら、その内容はどうあれうちとルウィー…信次元とそっちの次元の関係は良くないものになる。険悪になるかもしれないし、国と国の関係な以上、最悪の場合戦争にもなり得る。ワイト君の評価はその通りだけど…そちらへ流れ込んだのより、文字通り桁違いに多い数の負常モンスターを相手にして、次元の未来を守り切った信次元と戦争になるリスクを背負ってまで、そんな事をワイト君はする?」
「…まさか。そんな割の合わない事はしませんよ。しませんし、信用に仇で返すような事をするなと、ブラン様に怒られてしまいます」
「だよね、私も冗談…というか、例えばの話をしただけだから気にしないで。…あ、でもこっちの技術を持っていくなら、代わりにこっちも色々見させてほしいかな。それならお互いの為にもなるでしょ?」
じっ…と私を見つめるイリゼ様の瞳。脅しにも似た、問いの言葉。私の返答を受けた後は、すぐに朗らかな調子に戻ったものの……国の長の本気を、イリゼ様の意思の一端が見えた…そんなような、気がする。
(…見縊るなというのも、お互い様だな…)
軽んじたつもりはない。実力も実績も知っているからこそ、オリジンハートという女神を軽んじられる筈がない。だがそれでも、これまで感じていた、思っていた以上のものを、今日の自分は見た訳で…だからこそ、思った。イリゼ様だけに限った話ではないが……やはり、守護女神というものは凄い、と。
今回のパロディ解説
・『そんなグループで出てきたモンスター〜〜』
ドラクエシリーズにおける、同種族モンスターが出てきた際の表示の事。ピーシェの群れが現れた!…とかでしょうか。誰だろうと、同一人物が群れで現れたら驚きますね。
・「〜〜腹いせで生み出され〜〜反転させる術〜〜」
あやかしトライアングルに登場する秘術の一つ、性醒流転の事。忍者で性転換といえば、忍ネプのゴウを連想しますね。彼女の場合はまた設定面での事情が違いますが。
・「〜〜タレントが〜〜グルメ番組〜〜」
満点☆青空レストランの事。マジェコンヌ及び彼女が経営しているナス畑が登場してるシーンを想像したら、ふふっとなりますね。
・「〜〜分かってくれとは〜〜じゃないッスかね?」、「…ローズハートの子守唄?」
ギザギザハートの子守唄及び、その歌詞の一部のパロディ。別にアイは不良じゃありませんけどね。女神化すると言動はかなり不良っぽくなりますが。
・「〜〜車ごと分身〜〜まだ余裕を見せたり〜〜」
シンフォギアシリーズに登場するキャラの一人(二人)、緒川慎次と風鳴弦十郎の事。女神と弦十郎ならどうなるか、それは分かりません。いや、だって別作品ですし。