超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
ポイントを一番多く手に入れた人が優勝。景品は、別荘と土地…或いはそれ位の、イリゼさんやセイツさんが用意出来る物、事。…実際景品目当てで頑張っている人がどれだけいるかは分からないけど…その優勝を目指して、皆頑張っている。
ただ、頑張っていると言っても、やり方は同じじゃない。やり方はそれぞれで、少しずつ違っている。
「現状目立った動きをしているのはまずカイトさんですね。彼は道場破りレベルで色んな施設の大会やゲーム、イベントに出ています。まあ、連戦連勝ではないようですが」
「ふむふむ、他には?」
「逆にあまり目立った動きをしていないのは、イヴさんとワイトさんです。イヴさんは何か目的があるようで、様々な店舗を回っていて…ワイトさんは一見カイトさんに遅れを取るような動きですが、個人的にはこちらの方が油断ならないかと。目立つ動きをしていないにも関わらず、しれっと三位を何度も取っていたりしますし」
「目立たない立ち回りをしつつも三位…何か、仕事は真面目でそつなくこなすけど、今一つ情熱のない振る舞いをしてそうな……」
「だとしたら油断ならないどころか、ラスボス級の脅威ですから……」
そんな事があって堪るもんですか、とばかりに半眼で私を見てくるビッキィの視線。いや冗談だから、と私は返し、会話を続行。
「こほん。じゃあ、ギルド…クエストを活用しているのは?」
「そちらは愛月、グレイブのチームと、ルナさん、ズェピアさんのチーム、それにディールさん、エストさん、イリスさんのチームが目立ちますね。ディールエストイリスチームは、見たところかなり効率良くクエストを受けて、しかも採取活動もしているみたいです。逆に愛月グレイブチームは効率なんか考えていない様子で……例の如く、グレイブの動きが凄まじいです。カイトさんが大会荒らしなら、グレイブはクエスト荒らしかと」
「どちらもイメージ通りというか、なんというか…あれ、じゃあルナとズェピアさんのチームはどんな動きを?」
「正直、二人は普通というか、堅実に進めてるような感じですけど……」
「嘘だ、ルナはそうかもしれないけど、ズェピアさんが何も企んでない筈がない」
「ですよね、絶対何か策略巡らせてますよ。証拠はないですけども」
うんうん、と二人頷き合う。…まあ、流石に少し失礼かもしれないけど…全く気取られずに策謀を張り巡らせる位の事、彼なら出来てもおかしくない…気がする。
「…となると、今上がらなかった人達は……」
「はい。他の方…イリゼさんにセイツさん、ネプテューヌさんにアイさん、そして茜さんは、他でも稼ぎつつ、直接対決も積極的に行っていますね。ただ、中でもネプテューヌさんとセイツさんは満遍なく色んな事をしている一方で、イリゼさんとアイさんは大会での勝負含め色んな形でやり合ってますし、茜さんは相手を問わず仕掛けては程々で引いていく、よく分からないスタイルを見せています。というか、わたしも一回仕掛けられました」
「返り討ちじゃなくて、自分から引いてるなら、こっちも何か思惑がありそうな……と、いうか…一名足りなくない?」
「影さんですか?…彼は姿が見えないというか、多分隠れてるというか…。…どこかで狙撃態勢を取りつつ、『では、お手並み拝見だ』みたいな事言ってるんじゃ……」
いやそんな馬鹿な…と言いたいところだけど、確かにそういう事してそうなイメージがあるから困る。姿が見えるけど何か企んでそうなズェピアさんに、そもそも姿の見えない影さん…この二人は特に注意しておいた方がいいかもしれない。競う上で強敵になる事間違いなしな人は他にもいるけど、何をしてるか、何をしようとしているかが分からない相手の方が、対処対応は難しいものだし。
「…まぁ、それはともかく…これにて報告を終わります、ピーシェ様」
「えぇ、お疲れ様ビッキィ。流石に忍者なだけあって、諜報はお手の物みたいですね」
「勿論です。わたしに掛かれば大概の動きは筒抜けですからねっ」
そう言ってビッキィは胸を張る。彼女は本当に自信満々で、実際それに見合うだけの仕事をしている。短い時間で、しっかり情報を集めてきてくれた。……まぁ、実を言うと後々、仕掛けてきたらしい茜さん以外にも、何人かにバレていたって事が判明して、ビッキィはちょっと凹む事になるんだけど…これを糧に、更なる精進をしてほしい。頑張れビッキィ。
「…にしても…少し意外です。ピーシェ様がこんなにも意欲的になるなんて…」
「…意欲的に見える?」
「見えるというか、意欲がなければこんな情報収集はしませんよね?」
訊き返してきたビッキィの発言に、確かに、と私は思った。…まあ、別に隠す事でもないし…いいか。
「別に、優勝したいとか、景品が欲しいとかじゃないです。でも、協力すると決めたのに、何もせずだらだらしてるというのは、不誠実でしょう?」
「あぁ…わたし、ピーシェ様のそういう誠実なところ、良いと思います」
「…何かちょっとからかってない?」
「いえいえまさか。…というか…イリゼさんやセイツさんの説明からして、適当に遊んでいてもそれはそれでデータを得られるのでは?多分、適当に過ごして、って言われてもわたし達が困るから、『勝負』っていう分かり易い目的を用意してくれたんだと思いますし」
「…………」
普段は考えるより先に動くタイプなのに、なんでこういう時だけ鋭いのか。…いやまあ、普段はそうなだけで、考えるのが苦手なタイプだとは思ってないけども。
「…まあ、意欲云々はどうでもいいんです。今重要なのは、意欲があるかどうかではなく、現状を踏まえて何をするか、ですから」
「えー……まぁ、そうですね。じゃあ、ピーシェ様は何を?」
「まず、直接対決はしません。後々やるかもしれませんが、今はやりません。いつやってもリスクがあるなら、リターンが多くなる頃の方が良いですからね」
稼ぐ手段は多種多様だけど、直接対決はイベント参加やクエスト等で稼ぐのと違って、賭けのようなもの。仕掛けようが仕掛けられようが負ければ逆に失うし、時間が経てば経つ程リスクもリターンも増えていく。お互い手持ちが少ない序盤より、手持ちの増えている後々の方が、賭けられる額も増加するから。
「では、何かに参加したり、クエストをしたり?」
「そういう事です。ただ出来れば、クエストもまずは控えておきたいですね。街中で出来るクエストは、低難度で報酬も少ないか、内容が特殊で一筋縄ではいかないものかですし、逆に街の外に出るクエストだと、不意打ちで直接対決を仕掛けられる可能性がありますから」
「という事は、イベントや大会ですね。…なら、さっきちょっと面白そうなイベントを見つけましたよ?」
「面白そうなイベント…?」
そう言ってビッキィは、楽しみそうな表情を浮かべる。一体なんなのかと私が思えば、ビッキィは携帯端末を取り出し、それでビッキィが見つけたというあるイベントについて教えてくれた。
「こ、これは……」
表示されていたのは、スポーツじゃない。大食い対決とか、クイズ大会とか、そういうものでもない。けれど現実にもある、現実でも賞金や景品が用意されるような大会で……見せてくれたビッキィは、言った。一緒に出てみませんか?…と。
*
『ゲートオープン!スタンドアップ・THE・
物事には、掛け声が必要。なくても何とかなる場合が多いけど…あった方が盛り上がると、私は思う。少なくとも、これから始まるこのイベント…いや、ショップ大会においてはそう。……まあ、色々混ざり過ぎてる気はするけども!後、分かる人はこの時点で何の大会か分かるんだろうけども!
「ふっふっふ…マナーを守って楽しく無双しちゃうよー!」
「楽しく無双するって…その発言だけだとどことなくバーサーカー感があるね……」
自信満々の声と、それに呆れ気味の突っ込みを入れる声。ネプテューヌさんのボケと、イリゼさんの軽い突っ込み。今回私とビッキィがエントリーした大会には、この二人も参加していた。…マナーを守るバーサーカーって何だろう…。…と、いうか……
「参加人数、四人……?」
「世知辛い…世知辛い上にリアルなショップ大会感が凄い……」
念の為、ぐるりと見回しながら言った私の言葉に、ビッキィが呟くような声で返す。元から定員の少ない、一店舗での小規模な大会とはいえ……やろうと思えば人数の水増しなんて余裕そうな仮想空間で、参加人数四人の大会というのは、あまりにも虚しいものがあった。
「ま、まあほら、その分上位入賞し易い訳でもあるし、ね…?」
「それはそうですが…それはそれで、悲しくありませんか…?」
「うっ…確かに……」
競う相手が少なければ、自然と順位は上がるし、上位入賞の賞金…賞金?この仮想空間の場合は、賞ポイント?…を得られる可能性も上がる。…でも、それで得た順位や賞ポイントなんて、尚更虚しい訳で…ビッキィの返しは、全くもってその通りというもの。
「イリゼ、大事なのは結果じゃなくて過程なんだよ。イリゼの元同僚も、止めとけ止めとけって言いながらそれを教えてくれたでしょ?」
「うん…っていや、私にそんな事言う元同僚はいないよ!?後それ、違う同僚が混ざってない!?」
「まあまあそれより早くやろうよ!わたしはもう、準備運動ばっちりだよっ!」
そう言って、素早くドローをする練習…の様な事をするネプテューヌさん。その練習にどれだけの意味があるかはさておき、エントリーはもうしているんだから、四人でも大会は成り立つんだから、あーだこーだ言ってないでさっさと始める方が時間も無駄になったりはしない。そう思って私は頷き、ビッキィやイリゼさんも了承して……勝負、開始。
「私の相手はイリゼさんですか…宜しくお願いします」
「うん、こちらこそ宜しくね。…ゲームであっても勝負は勝負、知略を駆使して勝たせてもらうよ?」
「意気込むのは良いですけど…お互い速攻型で、運の勝負になるとかかもしれませんよ?」
「その時はその時だよ、運も実力の内って言うしね」
まずは向かい合って、ちゃんと挨拶。それから軽く言葉を交わしつつ…手にしたカードの束を、デッキをシャッフルする。
そう。ここで行われるのは、カードゲーム…所謂TCGのショップ大会。カードは今回の仮想空間の『仕様』という形で、レンタルだったり規定の範囲内でオリジナルのカードを作ったりしていて……え、機材で形成した仮想空間の中のカードなら、TCGじゃなくてDCGじゃないのかって?…そこは解釈次第ですよ、えぇ。
「さて、ではまずは先攻後攻ですが…まあ、普通にジャンケンですかね」
「だね。じゃんけん、ぽんっ。…あ、負けた」
「ふぅ、対戦ありがとうございました」
「次は負けないよ…ってちょっと!?今のは先行後攻を決めるじゃんけんだよね!?ジャンケンでゲームそのものの勝敗を決めるって…それが許されるカードゲームはデンジャラスなギャグ漫画位なものだからね!?」
「いや冗談ですって…(軽いボケ一つにこれだけの突っ込みを…こっちとしては面白いけど、割りに合わない事してるな…)」
今位のボケなら、もっと適当に流しても良いのに…と思いつつ、山札から引いた初手を確認。さてと…相手はイリゼさんだ、油断せずにやらないと…。
「私のターン。まずはド「自分のターン!ドローッ!」……予想通りといえば予想通りですが…ネプテューヌさんはノリノリですね…」
いきなり掻き消される私の声。向こうも多分1ターン目なのに、ネプテューヌさんは終盤…それも逆転を懸けた最後のターンであるかのようなテンションでドローをしていた。…向こう、ちゃんとゲームが成り立つのかな…ちょっと気になるし、少し見てみたり……
「いくよビッキィ!まずは手札から、見るからに強欲そうな顔の付いた壺を使って二枚ドロー!」
「早速禁止カード!?」
「ふっ…手札に封印されてるっぽい五種類のカードが揃った!自分の勝ちだよ!」
「先行1ターン目で!?そんな馬鹿な!」
「…あれ?なんでだろ、勝ちにならないや。まあいっか!そして最後の一枚はこれ!主に月刊誌の付録で付いてくるジャンボカード!」
「A5サイズ!?え、それどこにありました!?初手!?さっき引いたカードの内のどちらか!?いやどちらだとしても、今までどうやって偽装を!?」
…………。
……うん、向こうは気にしないでおこう。自分の勝負に集中集中。
「気を取り直して…私のターン。私はコストゼロのピョリッとした子と、コスト軽減で1になったポムっとした子を出してターンエンドです」
手札から出した、二枚のカード。するとイラストが実体化するかのように…というか実体化して、出した二体が現れる。
でも別に、驚きはしない。だって予めその説明は聞いていたし、ここは仮想空間の中なんだから。…うん、可愛い…イラストの時から思ってたけど、やっぱり両方、可愛い。
「先行はアタック出来ない、カードゲームの定番だね。私のターン。ドローして、行動に必要なエネルギーを一枚配置してターンエンド」
「私のターンですね。なら、今度はレモン色のカモノハシらしき子を出します」
「次は私のターン…引いて、エネルギーを溜めてエンド」
「では私のターン、マジックの本を使用してドロー。更にやたらデカい向日葵の乗った城門を配置し、余力でレベルアップもさせます」
「むむ…私のターン。エネルギーをセットしターンエン……って、ゲームスピード!ゲームスピードが違い過ぎるんだけど!?」
「えぇ……?」
これじゃ勝負にならないよね!?…と文句を言ってくるイリゼさん。流石にそれは難癖過ぎる…と言いたいところだけど、確かにこっちは低コストとはいえそれなりに展開してるし、手札も潤沢だし、ここから更に動く準備もある。一方イリゼさんの方はまだほぼ何もしていない訳で……普通のゲームでも、短期決戦型と長期戦型じゃ展開速度に差があるのは当然だとしても、これはその域を超えてしまっている気がした。…けど、だからってどうしろと…?
「えぇい、私もここから動いていくよ!私は超える感じの名前をした騎士から、うさ耳の諜報部隊長に強化!騎士を後方に配置し直して、支援を受けてアタック!」
「そういえば、最初からその騎士いましたね…ポムっとした子でブロックです」
いきなり動き出したイリゼさんからの攻撃を防いだカードが、パワーの差で撃破される。やっとカードゲームらしい展開が一つ起こって…そこから私達は、お互いターンを重ねていく。
「…味方との連携を重んじる、黄金の騎士団…イリゼさんらしいといえば、イリゼさんらしいですね。…あ、メロンの妖精みたいな子と、雀みたいな子を出しますね」
「そう?ピーシェは……なんていうか、全体的に黄色くて可愛いね…」
「何か問題でも?」
「いや、問題はないけど……」
何やら怪訝な顔をしてくるイリゼさんに、こっちも怪訝な顔になる。…いいじゃない、別に。琴線に触れたカードでデッキを作る、それが一番でしょうに。
「…こほん。それじゃあ私のターン。ピーシェ、ここからが本当の勝負だよ!」
「その口振り…エースの登場という訳ですか」
「そういう事。さぁ、いくよ?…発現せよ、仮想のこの身に宿りし新たなる力!旭光の女神・オリジンハート!」
手札から引き抜かれ、妙に力の入った腕の振り抜きで登場した一枚のカード。まるで…というか、明らかな口上と共に登場したそのカードに描かれていたのは…鎧姿のイリゼさん。
「って、自分じゃん!鎧風のプロセッサ…いや、プロセッサ風の鎧…?…まあそれはともかく、女神化した自分がイラストになってるって…何それ!?」
「いやまぁ、やろうと思えば出来るからね。ピーシェもやる?」
「あ、いえ、それはしません。恥ずかしいので」
「なっ、し、失礼な…って、それはいいの!旭光の女神のスキル!私は左右に、頼もしい私の味方を展開するよ!」
自分で自分をカードのイラストにって…と私が返すと、イリゼさんは軽くダメージを受けた後にカードの持つ効果を使用。
何かちょっと緩い感じになってしまったけど、イリゼさんの言葉は自信満々。という事は、出てくるのは強力なパワーや効果を持つカードか。それともコンボに適したカードなのか。何れにせよ、油断出来る要素なんてある筈が……
「私が展開するのはこの子達!おいで、ライヌちゃん、るーちゃん!出番だよ!」
「ぬらぬらー!」
「ちるる〜!」
「…………」
……えぇー…?…いや、ちょっ…いやうん、私も似たような子達を展開してるとはいえ…頼もしい味方って、それ…?
「あ、今ライヌちゃんとるーちゃんを馬鹿にしたね?」
「い、いや馬鹿になんてしてませんよ?…驚きはしましたが……」
「ふぅん…まあでも良いよ。擬似牙王フォーメーション…そしてライヌちゃんるーちゃんの力を、これから目の当たりにしてもらうから」
何やら自信あり気なイリゼさんを見て、私は少しだけ気を引き締める。確かに見た目で判断するのは良くない。…と、いうか…これ普通だったら、カードの持つ効果は確認させてもらえるよね…雰囲気的に今はしないけど。
「それでは私のターン。最大レベルまで上げたカモノハシっぽい子でライヌちゃんにアタックです」
取り敢えず対処として選んだのは攻撃。一先ずパワーではこちらが上回っているし、仮に何かの効果でこっちがやられても、それはそれで何とかなる。そして私の攻撃指示により、私のカードがライヌちゃんを襲い……
「ぬ、ぬらぁ…!?」
【ライヌちゃんは、怯えて泣きそうになっている!これは攻撃が出来ない!】
「え!?ら、ライヌちゃんにアタック……」
【こんなに怯えているライヌちゃんには攻撃出来ない!】
「まさか力ってこれ!?…な、ならるーちゃんの方に攻撃……」
「ちる?ちっる〜、ちるる〜ち〜♪」
【るーちゃんは、遊びに誘った!仲良く遊び始めてしまった為、攻撃は成立しない!】
「こっちもそういう系なの!?」
ぷるぷる震えて涙を浮かべたライヌちゃんと、仲良く戯れ始めてしまったるーちゃん。何なのかよく分からない表示の通り、どちらにも攻撃が出来ず…イリゼさんは、得意気な顔をしていた。イリゼさんと、イラストが実体化したオリジンハートの両方が、ドヤ顔だった。…厄介といえば厄介だけど…何だろう、凄く拍子抜け感が……。
(…っと、いけない。いつの間にかイリゼさんのペースに乗せられてる…ほんと、気を引き締めないと)
「ふふ…油断はしてないみたいだね。けれど、甘いよピーシェ。ライヌちゃんとるーちゃんが単に、場持ちの良いだけの存在だと思ってるなら、それは大間違いだよ」
「…それって…まさか……」
「そう、場持ちの良さはもう一つの力を活かす為のもの!そして、私のターン!私はライヌちゃんとるーちゃんでジェネレーションゾーンを構築!
「こ、これは…これは……ッ!」
跳ね上がり、飛び上がり、光に包まれるそれぞれの姿。二つの光は一つになり、そして……
「降臨せよ、我の側で花咲く力!ライヌちゃん・オン・るーちゃん!」
ちょこん、と羽ばたくるーちゃんの上に、ライヌちゃんがライド。…以上。終了。そんな姿を見て…私は言う。
「……えっ、上に乗っただけでは?」
「なっ、し、失礼な!上に乗った以外にも、るーちゃんはチルタリスの姿になってるし!ライヌちゃんも、…えと、目つきがさっきよりキリッとしてるし…!」
「あ、あー…そうですねー…」
「くっ、軽んじられてる気がする…だったらこれならどう!ライヌちゃん・オン・るーちゃんの効果で、コットン・トークンを配置!更に私と共にアタック!」
精製される、多分盾用の綿。続けて行われた攻撃は(ライヌちゃん・オン・るーちゃんが割と高パワーだった事もあって)中々強力で、私は大きく削られる。ならば、と返しのターンに私も連続で攻撃を掛けるも、さっきのトークンは勿論、オリジンハートの方も防御で活きる効果を持っていた為にいまいち攻撃が通らない。…突っ込みどころは多かったけど…意外と、強い…!
「…やりますね、イリゼさん。油断はしていなかった筈ですが…正直少し、序盤からさっさと仕掛けていれば良かったと感じています」
「へぇ?…でもその顔、まだ諦めた訳じゃなさそうだね」
「それは勿論。私は序盤から動けたのに、必要以上には動かなかった…それがまさか、二の足を踏んでいただけだとでも?」
当然だ、とばかりに私は口角を上げる。所詮は遊び、所詮は小さな勝負の一つに過ぎない。…けど、だからって負けていいかどうかは別。少なくともイリゼさんは本気で勝負をしている訳で…それに応える位の気概なら、私にもある。
「では、始めましょうか。いえ、終わらせましょうか。…これが、私の切り札。これまで展開してきたカードを元に…召喚!──無情の理想 シャングリラ・エディン…!」
イリゼさんの様に、口上を述べたりはしない。…だから、そういうのはちょっと恥ずかしいし…。…まあ、でも、召喚する為の腕の振り抜きだけは少しだけ力を込めて……私は超重量級の、私のデッキのエースを登場させた。
「これが、ピーシェの……って、なんかゴツい!名前の時点でゴツいし、実体化した姿は尚更ゴツい!えぇ!?何そのラスボスみたいな見た目のカード!ピーシェこれまでとカードの方向性違い過ぎない!?」
「そこは別にいいじゃないですか。さて、シャングリラ・エディンでアタックします」
「相変わらず冷めてるね…けど、ライヌちゃん・オン・るーちゃんになっても場持ちの良さは健在だよ!トークンも絡めた防御力なら幾ら超大型だって…ってあれ!?効果が発動しない…!?」
「えぇ、当然じゃないですか。『無情』ですよ?」
我ながらこれは言ったもの勝ちな気が…とも思うけど、それも含めて仮想空間。私はこのアタックで防御を真正面から突破し、更にバトルではなく効果でライヌちゃん・オン・るーちゃんも退ける。
「言っておきますが、防御においてもこのカードは強力ですよ?勿論バトル以外での除去は普通に通用しますが……」
「その場凌ぎにしかならない、って訳ね…。まさか、そんなカードを隠し持ったいたとは…ちょっと、いやかなり予想外だよ、ピーシェ」
「切り札は重要な時まで温存して、隠しておくものですからね」
まあ、逆に先んじて見せる事で、相手に警戒させたり行動を躊躇わせたりする使い方も時にはあるけど。そんな事も思いつつ、私は残る手札を見て、ここからの展開を考える。
まさかイリゼさんが、このまま降参なんてする訳がない。打ち破れるかどうかは別として、絶対何かしてくる筈。ならば冷静に、確実に対処するだけ。
カードゲームも、実戦も同じ。勝つ為に必要なのは、その為の札を揃える事と、油断せずその時々の最善を選択する事と、相手の次の手を考えて、その対策も練る事。当然そんなのは向こうも分かってるだろうし……だからこそ、最後まで本気の勝負が出来る事を期待してますよ、イリゼさん。
*
女神は強い。凄く、強い。勝つ事なんて絶対無理…ではないのかもしれないけど、普通にやったら勝てない。有利な状況、有利なルールがなければ勝ち目はない…そう思える程の力が、強さが、女神にはある。わたしの知る女神は…皆、そう。
でも、今は違う。この勝負では違う。この勝負なら…カードなら、互角…ッ!
「いくよビッキィ!海竜星 ネプチューンでアタック!」
「ここは…受けます!くぅぅっ!」
「よぉし、追い詰めたよ!最後の一撃は……」
「いいえ、そうはいきません!ダメージを受けた事で、伏せていたカードを発動!その効果で、ネプテューヌさんの最後の一体を破壊!」
「な……っ!」
攻勢により、一気に追い詰められる。追い詰めるだけじゃなくて、このままゲームエンドまで持っていく算段だったネプテューヌさん。でも、わたしもこのままやられる気はない。ネプテューヌさんならじっくりじゃなくて、準備が出来たら一気に決めにくると分かっていたから…攻撃された時じゃなくて、攻撃が成立して、ダメージを受ける事が条件になるカードを用意しておいた。そのカードの効果でわたしは攻撃を凌ぎ…更に追加効果で、山札からカードをドロー!
「そして、わたしのターン!わたしは追憶者BKのアサシドラを召喚して、アタック!」
「……?そんなちっこい子でアタックだなんて…さては何かする気だね!いいよ、ひっくり返せるならひっくり返してみるがいい!」
「えぇ、ひっくり返してみせますよ!アタックのタイミングで、わたしは手札から効果発動!契約に従い、アサシドラを太陽槍龍ガングニル・クロウドラゴンにッ!」
「アタックのタイミングで、手札からカードを重ねる…これが、侵略…!?」
「あ、いえ、違いますよ?確かに似てますけど、普通に違うゲームです。…こほん、クロウドラゴンで改めてアタック!」
「ふふん、残念だけどわたしは防御策を既に用意していたのさ!無駄に手札を見せちゃったね!わたしは伏せていた──」
「クロウドラゴンの効果発動!伏せカード含め、出していたカードを一枚破壊する!そしてもう一つの効果により、クロウドラゴンの攻撃能力は今の倍になるッ!いけぇぇぇぇッ!」
「な、なにぃぃぃぃぃぃッ!」
防御無し、がら空きとなったネプテューヌさんに叩き込むダイレクトアタック。それが成立した瞬間、ネプテューヌさんは迫真の表情になって、仰け反って…崩れ落ちる。そして、わたしとネプテューヌさんの勝負は…完結する。
「…対戦、ありがとうございました」
「…さっきの伏せてたカード、ビッキィが序盤仕掛けてる時にセットしたものだったから、追撃用だと思ってたけど、まさか防御用だったなんて……最後のターンもそうだし、完全にビッキィの読みが上だったね。…完敗だよ」
「いえ。このターンで勝てなければ、きっと負けていたのはわたしの方でした。だって、ネプテューヌさんも真の切り札はまだ残してましたよね?」
「あ、それも分かっちゃう感じ?いやぁ、やっぱり一番の切り札を出さずに終わるのは悔しいなぁ…でも、楽しかったよビッキィ!」
「ふふ、わたしもですよ、ねぷ姉さん」
立ち上がり、にこっと笑ったネプテューヌさんから差し出される手。その手にわたしは応えて…握手。
「よーし、楽しかったけど出せなかった事への無念さもある!って事で、もう一回勝負!」
「え?…あの、今は大会中……」
「あっ……」
「あっ、って…ボケじゃなくてシンプルに忘れてたんですね…」
凄いうっかりしてるなぁ…と頬を掻くネプテューヌさんにわたしは苦笑。それからわたしは、視線をもう一方の勝負に向ける。
四人だから、次が決勝戦。ピーシェ様とイリゼ様、どっちも…というかわたし以外全員女神で、だからどっちが勝ち上がってきても強敵なのは間違いない。でも、だからこそ燃える決勝戦が出来るというもの。…そんな思いでわたしが見た時……ピーシェ様とイリゼさんの勝負もまた、終わっていた。
「……っ…対戦ありがとう、ございました」
「うん、こっちこそありがとう。ふー…ひやひやしたよ、最初から最後までずっと、ね」
「それも勝負の醍醐味ですね。…向こうは…ビッキィの勝利ですか。…ビッキィも、強いですよ?」
「ふふ、だとしても私は勝つよ?ピーシェに勝ったんだから、それに恥じない勝負を……って、あー…ピーシェ的にはむしろ、ビッキィに勝ってほしいか…」
「いやまぁ…少なくとも、イリゼさんの負けを望む、なんて事はしませんよ。ですから、頑張って下さいね」
どちらが勝者か。そんなものは、会話を聞いていれば誰にでも分かる。つまり、決勝戦の相手は…イリゼさん。
驚きはなかった。強い人同士の勝負なんだから、どっちが勝ってもおかしくないし、どちらが相手でも激戦は確実。
(…でも、折角だから、ピーシェ様と勝負したかったな……)
別にイリゼさんとの勝負に不満はないけど…カードとはいえ、ピーシェ様との勝負なんて滅多にない事。だからそんな事を、ふとわたしは思って……
「ビッキィもお疲れ様。ネプテューヌさんに勝ったんですね」
「あ…はい。ギリギリ勝てました」
「そっか。……」
「ピーシェ様…?」
「…私、負けちゃった。やっぱりちょっと、悔しいね」
「ピーシェ様……」
やれる事はやった上での負けなんですけどね。…そう続けて、ピーシェ様は軽く肩を竦めた。まるで、まだまだ自分も子供だな、と言うかのように。
それを見て、それを聞いて…わたしは決める。意思を、この瞬間生まれた新たな思いを。
「…勝ちますよ、ピーシェ様。わたしが、ピーシェ様の一番槍、ビッキィ・ガングニルが…イリゼさんに勝ちます」
「ビッキィ…。…それだと私、間接的にビッキィより弱い事に……」
「あっ……」
「あっ、って…」
うっかりしていた発言を指摘されるわたし。完全にさっきのネプテューヌさんと同じような状態で…それを見るピーシェ様も、隣で見ていたネプテューヌさんも、さっきのわたしの様に苦笑していた。うぅ、これは締まらない…何かもっと他の言葉を言うべきだっ……
「でも、それなら…期待してるからね、ビッキィ」
「……!はいっ!」
──ピーシェ様の、柔らかい…ほんのちょっぴり悔しさを残した、けれど本当にわたしに期待を、頑張ってって思いを向けてくれてるんだって事が分かる、にこりとした笑み。そんなの、そんなの見せられたら……目一杯応える以外の、選択肢なんてないッ!
「ビッキィ、自分も応援してるからね!勝利への、栄光への道を駆け抜けろ、ビッキィ!」
「ねぷ姉さんまで…分かりました、絶対に勝ちます!二人の分まで、わたしが!」
「それじゃあビッキィ…これを」
「わたしからも、これを!」
「え…?これって……」
もう一度差し出される手と、渡される物。それにわたしが目を瞬かせると、二人は無言で頷いて……わたしは、応える。
「…あれ…なんか私、打倒すべき悪役みたいになってない…?」
「勝つべき、負けられない強敵だとは思ってますよ、イリゼさん」
「そ、それならまぁ良いんだけど…だったら、始めようか」
ぽつーんとなっていたイリゼさんに挑戦の視線を向ければ、イリゼさんもやる気を帯びた表情に変わる。そしてわたし達は、向かい合う。
「では、私は静かに観戦を……」
「さぁ、遂に始まる決勝戦!勝つのはピィー子を打ち破ったイリゼか、それとも自分を乗り越えたビッキィか!期待の募る決勝戦、実況は自分ことネプテューヌが、解説はピィー子でお送りするよ!」
「え、何故に私が解説…って、いつの間に実況席が…!?」
デッキをシャッフル。相手にデッキを渡して、裏にしたまま並びを軽く変えて、わたしはイリゼさんに、イリゼさんはわたしに返還。そこから最初の手札を引いて、準備を整えて……勝負、開始。
イリゼさんに恨みはない、勿論ない。けれど、勝たせてもらいますよ。応援してくれるねぷ姉さんと…期待してくれる、ピーシェ様の為に!
*
決勝戦の序盤は、静かな攻防戦になった。攻撃型デッキのわたしが自ターンの度に仕掛けて、防御型デッキのイリゼさんが毎回きっちり凌ぐ…序盤から中盤の途中までは、殆どその繰り返しだった。
こっちからの攻撃は、イリゼさんが意図的に通したもの以外は殆ど通っていない。でも逆に、イリゼさんも自分のターンは態勢の立て直しが基本になって、わたしへのカウンターにまでは至っていない。
だから、少しずつ行動の為の総エネルギーが溜まっていく。段々お互いに、大きい動きが出来る段階になっていって…先に動き出したのは、イリゼさんだった。
「さぁ、ここから攻めていくよ!開け、神国の門!オデッセフィア・ゲート!開かれた門より、神生オデッセフィアの守り手マエリルハと、神剣の精霊シモツマキを展開!続けてライヌちゃん・オン・るーちゃんとオリジンハートでビッキィにアタック!」
「来ましたね…!わたしはイエロー忍者の効果発動!効果で手札を一枚捨てる事で、山札から忍者を一枚防御役として召喚し、更にイエロー忍者自体でも防御!」
「これまで山札からの追加召喚用に使っていたカード自体でもガード…って事は……」
「えぇ、わたしも準備が整ったという事です!」
察したイリゼさんに大きく頷き、わたしは自分のターンを開始。ここまでは攻めても消耗をさせるだけで、突破までには至らなかった。けど…ここからは、違う!
「現れよ、ガングニル・クロウドラゴン!更にビクトリィーファイアでシモツマキを手札に送還!ついでにこれは炎!その炎が引火する事で、コットン・トークンは全て焼けて消失だッ!」
「あーっと出たー!ビクトリィーファイア!一体退かした上に、多分カードに書いてない効果で防御用のコットンを全部処理したー!」
「えぇぇ…?…というか、ビクトリィー…?ビクトリーでもヴィクトリーもなくビクトリィー…?」
「ゲイムギョウ界ではビクトリィーなんだよピィー子!わたしはゲイムギョウ界に住んでる訳じゃないけどね!」
ここまでわたしの攻撃を阻んでいたのは、次々と展開される防御能力の高いカードと、ライヌちゃん・オン・るーちゃんの展開するトークン。これをちまちま処理していたんじゃ、本当に削り切れない。だからわたしが選んだのは、思い切った攻撃。
「いきます!ガングニル・クロウドラゴンでアタック!効果対象は、ライヌちゃん・オン・るーちゃん!」
「そうはいかないよ!ライヌちゃん・オン・るーちゃんの特技、飛行!敵の攻撃の回避確率25%!……って当たったぁ!?ら、ライヌちゃーん!るーちゃーん!」
「あ、ちょっと低いですね確率。というか、1/4の確率じゃ普通に回避失敗する事の方が多いでしょうし、まあ妥当な結果かと」
「くっ…マエリルハでブロック!」
ドラゴンVS巨大ロボット。中々迫力のあるバトルがアタックとブロックで繰り広げられ、けどパワーの差でこっちが勝利。
このターンも、イリゼさんにダメージは与えられなかった。けどバトルや除去を駆使する事でイリゼさんのフィールドは壊滅。オリジンハートは残っているけど…オリジンハートの効果は登場時や防御時に機能する能力や、味方の展開に伴って発動する能力が基本。つまり、次のターン…味方がいない状態での攻撃は、はっきり言って怖くない。
「やってくれたねビッキィ…ある程度は削られると思ってたけど、折角の防御態勢をここまで切り崩されるとは……」
「そうしなければ、イリゼさんには勝てませんから。…でも、まだまだです!わたしの攻撃は、まだまだ……」
こんなものじゃない。わたしはターンを渡しつつ、そう言おうとして……気付く。イリゼさんは驚いてはいても、焦ってはいない事に。それどころかむしろ…ほんの少し、口角が上がっている事に。
「ビッキィの反撃で戦況が変化したー!これは遂にビッキィの攻撃がイリゼの防御を上回ったって事だよね、ピィー子!」
「…いえ、まだです。確かにここまでの防御は崩せたのかもしれません…けど、来る…!」
聞こえてきたのは、緊迫感あるピーシェ様の声。それは何故か。それが何を意味しているのか。考え自然とわたしも緊張する中、イリゼさんが一枚のカードを使う。
「流石だね、ビッキィ。一気に私のプランを狂わせてくるなんて。…けど、1ターン遅かったかな。もう1ターン前なら不味かったけど、もう1ターンあれば更に確実な状態に出来たけど……既に機は熟している!まずは手札から発動!超次元ゲイム・ホール!このカードの効果で二体を展開!そして──」
さっきとは別のカードで、再び二枚を同時展開するイリゼさん。味方を展開した事に対し、わたしが来るんじゃないかと思ったのはオリジンハートとのコンボ。
だけど、違う。イリゼさんがしようとしているのは、イリゼさんの真の一手は……
「天に座する聖霊の王、世界包みし守護の刃、数多を導く救世の神。純白にして高潔なる翼を広げ、限りなき真の光を以って、全てを守り、照らし、そして統べよ!創聖霊神 グラン・メサイアルカディア!」
──顕現する、眩い光。オリジンハート含む、三枚が一つに光になって降臨した、果てない光の如き存在。降り立つその存在を見て、わたしは確信する。これこそが、イリゼさんの最後にして最大の切り札だと。
「やっぱりきた…!私の時も、戦況を完全に覆したカード…!」
「という事は、これがイリゼの奥の手かー!?っていうか、でっかい!でかいし眩しい!これよく隣でやってたのに、自分とビッキィ気付かなかったよね!」
「グラン・メサイアルカディアの効果発動!ビッキィの伏せているカードを、そのまま封じ込める!そしてグラン・メサイアルカディアが存在する限り、光やそれに類する属性のカード以外は召喚や発動が不能となる!」
「……ッ!結構えげつないというか、口上の割に思いっ切り圧政敷いてきますねイリゼさん…!」
「圧政?違うよビッキィ、このカードが縛るのは不浄の存在、人という光に仇成す存在。…まあ、カードゲームだからルール的には光にも攻撃出来るんだけどねッ!」
中々テンションが上がっている様子のイリゼさんは、ガングニル・クロウドラゴンへの攻撃を選択。対抗しなければ、わたしのエースカードはやられる。でも、グラン・メサイアルカディアの効果で伏せていたカードも手札で温存していたカードも使えず、そのままクロウドラゴンは倒されてしまう。
それだけじゃない。イリゼさんのターンはそれで終わって、次はわたしのターンだけど……わたしは、何も出来ない。
「……ッ…ターンエンド、です…」
「不味い…ビッキィのデッキは私と違って光系のカードがあんまり入ってない以上、出された時点でほぼ動けない…!」
「なんという容赦ないロック!コントロール!流石はイリゼってところだけど……これもう完全に悪役ムーブだよね?さっきイリゼ自身が言及してたけど、悪役っていうかラスボス状態だよね?」
「まあでも実際、イリゼさんってそういうところありますし…」
「あ、そーなの?そっかぁ…イリゼって、新たな闇を生む強過ぎる光系だったんだ……」
「そこ五月蝿いよ!?後、新たな闇ならそれも照らし、全てを光に変えるまで!私のターン!」
((ほんとにテンション上がってるなぁ……))
今わたしは凄まじくピンチなのに、攻めてるイリゼさんな微妙に締まらないのは…やっぱりイリゼさんらしいというか、なんというか。
ただ、そこでちょっとほっこりしても、状況は変わらない。…と、いうか…情けない、情けないけど…本当にもう、今わたしが自分から出来る事は、完全にゼロ。
「封じるだけがグラン・メサイアルカディアじゃないよ!グラン・メサイアルカディアは味方が行動不能になる事で自身が、味方の封印と解放を同一ターン中に行う事でその味方を再行動可能状態する。その意味は……」
「全体での、連続攻撃…!?」
「そういう事!さぁて、このターンで終わらせてあげる!グラン・メサイアルカディアでビッキィにアタック!エクシードライブチェック!出たカードの効果で自身を強化!勿論この強化は、連続攻撃時にも乗るよッ!」
はっきり言ってもうオーバーキルになるんじゃないかと思うような、イリゼさんの攻勢。対するわたしの、打てる手は無し。迫る攻撃に、何も出来ない。
(…負け、る…?このまま、わたしは……)
このままじゃ、負ける。でも、どうしようもない。だってこっちから出来る事はないんだから。打てる手無しじゃ、どうにもならないんだから。
悔しい。悔しいけど、同時にもう、仕方ないじゃんって気持ちもある。そう思う方が簡単で、そう思った方が楽で…頑張りようがないのに、まだ前を向いてどうするの?…そんな思いすら、生まれ始める。そしてそんな思いに流されるように、わたしは項垂れ、下を……
「…諦めないで…まだ諦めないで、ビッキィ!」
「……っ!?…ピーシェ、様…?」
「そうだよ、そうだよビッキィ!まだ終わってないよ、負けそうかもしれないけど…まだ負けてなんかいないんだよ、ビッキィ!」
「ねぷ、姉さん…でも、もう……」
『違うよ!まだ可能性は…残ってる!』
そんなわたしへ届いた、響いた、二人の声。顔を上げれば、わたしの目に映ったのは…まだわたしを信じる、二人の姿。
…あぁ、そうだ…その通りだ。まだ終わってない、また決着が付いた訳じゃない。可能性なんてほぼゼロだけど……ゼロじゃ、ない。
「ノー、ガード!ライフで受けるッ!」
「…ここに来て、その気概…良いね、天晴れだよビッキィ!でも、このまま終わらせるッ!」
直撃する、グラン・メサイアルカディアの攻撃。続く味方の攻撃も、そこからの連続攻撃も、全て受ける。今のわたしに出来るのは、それしかない。
受ける度、可能性は生まれる。それ等は空振りだったり、封じられる対象だったりで、どんどんわたしは追い詰められていく。でも諦めない。わたしは諦めない。二人が信じてくれる限り、わたしが諦める事はない。
それでも終わりは近付く。減って、減って、僅かになって…だけどわたしは前を見続ける。可能性に手を伸ばし続ける。そして、最後の攻撃…可能性が完全に消えて、わたしの負けが確定する直前……それは、現れた。
「……──ッ!来た…!オーバーショットシールドトリガー…発動ッ!もうこれ以上、イリゼさんの攻撃は…通りませんッ!」
最後の最後、ギリギリのギリギリ。そこでわたしは可能性を掴んだ。可能性に、手が届いた。
けれどまだ、ピンチを一旦凌いだだけ。今のままじゃまだ、負けが先送りになっただけ。だから……逆転するのは、ここからだ…!
「…驚いた、ここで防がれるなんて…けれどビッキィの手札でやれる事はゼロ、そうでしょう?ならターン開始時のドロー一つで、ここからひっくり返すなんて……」
「いいや、出来る!なんたって、最強デュエリストのデュエルは全てが必然なんだからね!」
「ビッキィはデュエリストなのか、これはデュエルと呼べるのか激しく謎ですが…今だけはネプテューヌさんの言う通りです!ビッキィ、運命を切り開くドローを!」
「やってみせます、やってみせますよ!たとえこの指がぺっきり折れようとも…わたしは、引き当てるッ!わたしのターン、ドローッ!」
渾身の力を込めた…まあ後から思えば、我ながら「これ必要だった…?」と思うような行為だけど…ともかく全力を賭けた、最後になるかもしれないドロー。わたしは腕を振り抜き、裏になっているカードを表にし……笑みと共に、掲げる。
「漸く来てくれた…最高のタイミングですよ、ピーシェ様!わたしはこのカードで…わたしはここから、イリゼさんに勝つ!現れるのは、わたしの信じる強き光!わたしはこの光と、共に歩む!召、喚!理想への努力 イエローハートッ!」
「……!?これまでと、全然系統の違うカード…!?」
「あれは、私がビッキィに託した…って、名前が変わってる!?イラストも私になってる!?ちょっ、いつの間に入れ替えたのビッキィ!恥ずかしいんですけどぉ!?」
そう。わたしが引き当てたのは、ピーシェ様に託された、ピーシェ様のカード。封じられる事のない…(多分)光系に属する、イエローハート。
「しまった、イエローだから出せたのか…!」
「わたしも正直『え、いけるの?だとしたら結構判定雑じゃない?』…と思いましたが…出せた以上は出せるって事です!そしてイエローハートの効果発動!エースの登場により、アサルト…じゃなかった、ぷるるとテリトリーを展開!これはそもそもカードのタイプ的に封じる事が出来ない、そうでしょうイリゼさん!」
「確かに、その通り…でも、その程度で……」
「そう、この程度で終わりはしません!ぷるるとテリトリーの効果で更に、竜星 ビヴロストを特殊召喚!そして、ぷるるとテリトリーにビヴロストをチューニング!」
追加で召喚したのは、今度こそ普通に光属性を持つカード。イエローハートが切り開いた道を二枚のカードが駆け抜け、速く高く空へ舞い……更なる力が、イエローハートの隣に立つ。
「これはわたしのもう一つの光!わたしはこの光を、忘れはしない!クロス・オーバーシンクロ!冥竜星 パープルハートッ!」
「キター!わたしも登場したよ!さっきは出さなかった、自分の真のエース事自分自身が遂に登場!共闘だね、ピィー子!」
「…ふふっ、そうですね。でも、まだ足りない…これだと、まだ…!」
黄色の光と、紫の光。輝く爪と、煌めく刃。頼もしい、本当に頼もしい二人の姿が、二人の背中が、わたしの前に並んで立ち…だけど、ピーシェ様の言う通り。これだとまだ、足りない。
「ふー…いきますッ!イエローハートとパープルハートで、攻撃!」
「防御よりも、攻撃を選んだ?確かに防御しても後に続く状態じゃないとはいえ……いや、だとしてもやる事は同じ!仕掛けてくるなら、防ぎ切る!」
強力なパワーを持つ二枚の攻撃で、イリゼさんの防御を蹴散らす。蹴散らし更にダメージも与える。
この攻撃をしても、足りないまま。今のわたしが出来る事をしても、足りはしない。しないからこそ…後は、賭け。
「まだ諦めていない、まだ勝ってやる…って顔をしてるね。…もしかして、実はまだ手札に使えるカードが残ってる?さっきの何もしなかったターンは、逆転の可能性は来るって信じて、打てる手があったけど温存してた…そういう事?」
「それはどうでしょう?因みにわたしはそういう読み合いがそんなに得意ではないので、勘弁してほしいです」
「あ、自分で言っちゃうんだ……なら、わたしが選ぶのは…防御を固め直す事と、パープルハートへの攻撃!」
(来た……!)
軽く呆れ顔をしたイリゼさんは、堅実な一手を選ぶ。わたしが持つかもしれない可能性を考えて、このターンで終わらせる事よりも、次のターンに繋げる事を選択する。
そして、撃破されるパープルハート。わたしは守らなかった、守れなかった。……でも…!
「…信じてましたよ、イリゼさん」
「…え?」
「わたしは信じていた。イリゼさんがその選択をする事を。何も効果を使っていないパープルハートを警戒して、攻撃してくれる事を!だから……パープルハートの、効果発動ッ!」
光に飲まれる、パープルハートの姿。だけど消える直前、パープルハートはこちらを見て、小さく頷いたような気がして…わたしはそれに、頷きで返す。返し…パープルハートの持つ、二つの力を宣言する。
「パープルハートは撃破された時、二つの力を発動させる!まずは一つ目の効果により、限界突破!この効果によって、グラン・メサイアルカディアの効果は全て無効化される!」
「無効化…!?って、事は……!」
「そして、もう一つの効果!撃破された段階から見て、次に来るわたしのターンの終了時まで…あるカードを、特殊召喚する!」
これまでは、グラン・メサイアルカディアの効果で殆ど動けなかった。それがある限り、勝ちはどうしても掴めなかった。
でも、それもこれまで。イエローハートが作った道の先に立つパープルハート、そのパープルハートが切り開いた勝利への道を駆け抜けるのは……赤き炎。
「わたしは決める!わたしが決める!このカードで…このカードと、イエローハートでッ!ひと時の力、されどそれは尽きぬ力!駆け抜けよ!覇天赤龍 ドライグニック・ウェルシュデウス!」
「待ってたよ、待ってたよビッキィ!これがビッキィに渡した、最後の一枚!さぁ我が弟よ、イエローハートと…ピィー子といっけぇッ!」
「うぇぇっ!?い、いや、その…こんな形で登場する……?」
それはきっと、天にも届く赤い龍。ネプテューヌさんの弟を思わせる、勝利への最後のピース。
後はもう、何もいらない。後はもう……駆け抜ける、だけッ!
「イエローハート、ドライグニック・ウェルシュデウス…どっちも単体じゃイリゼさんの防御を崩してゲームエンドまで持っていく事は出来ません。…けどッ、ドライグニック・ウェルシュデウスの効果発動!自身の効果でブーストを得て、その力でイエローハートを強化!そしてその力で、イエローハートを限界まで…ううん、限界の先、グレードレベル5まで、オーバーグロウッ!グレードレベル5となったイエローハートは、防御を貫通するッ!」
「な……ッ!?」
「届けッ!ドライグニック・ウェルシュデウスのブースト!イエローハートで、イリゼさんをアタックッ!」
パープルハートからドライグニック・ウェルシュデウスに、そしてイエローハートに託された力。その力を纏い、折れない一本の槍…光の槍の様になったイエローハートの、貫通攻撃。防御要員は勿論、手札からの迎撃もイエローハートを阻む事は出来ず…一気にイリゼさんを、削る。
「なんて能力…!だけど後一歩、後一歩足りなかったねビッキィ!これでビッキィのターンは終了、そして私のターンで勝負は……」
「いいえ、まだ終わりません!これがわたしの、最後の一手!手札から、シノビ・ストライクを発動ッ!」
振り抜くようにして見せる、一枚のカード。これも、パープルハートの効果で使えるようになったカード。
名前は、『リメイク ここからもう一度歩み出す』。効果は……行動を終えたカードの、回復!
「もう一度歩む、今後こそ掴むッ!これがわたしの…わたし達の、力だぁああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
「く、ぅッ…うあぁぁぁぁああああああッ!」
今一度、もう一度羽ばたく、黄と赤の翼。重なった二つの光は、更に強い槍になって、天を超え……貫く。
イリゼさんは、何もしなかった。ただ真っ直ぐと、攻撃を、わたしを見つめ……そして、爆発。決勝戦は…戦いは、終わる。
「…って、えぇぇぇぇぇぇッ!?爆発したぁああああッ!?」
「二回目の、最後の貫通攻撃が決まったーッ!勝者は、優勝者はビッキィ!おめでとーっ!」
高く突き上げる拳。わたしなりの、勝利の宣言。余韻に浸り、ゆっくりと息を吐き、二人にサムズアップをして……あぁそうだ、まだもう一つ…やらないと、ね。
「…負けたよ、ビッキィ…凄かった、本当に…凄かった」
「いいえ、それはわたしの台詞です。…対戦ありがとう、ございました」
爆煙の中から煤だらけの状態で出てきたイリゼさんに、わたしは手を差し出す。それを見たイリゼさんは、小さく笑って…しっかりと、握手。そうして本当に…勝負は、終わる。
「あ、無事なんだ…ほんとさっきの爆発はなんなの…?」
「お約束だよお約束。いやぁ…でも、ほんっと良い勝負だったよ二人共!良かったし、こんなの見せられたら燃えない訳がないって!今度こそ、もう一回勝負だよ!」
「あはは、まあ落ち着いてネプテューヌ。気持ちは分かるけど…まずは大会の景品を貰おうよ、ね?」
「そうですね。元々その為の大会でしたし」
飛び跳ねそうなネプテューヌさんを、苦笑気味にピーシェ様とイリゼさんが落ち着かせる。それにわたしも笑い…それからイリゼさんの言う通り、景品を貰う。
まず、全員で参加賞を。それからわたしは、優勝者のみ貰える…限定カードを。
「おー、参加賞の方も結構良いね。でもこれ、仮想空間の中だけのカードなんだよね……」
「…イリゼさん、これ画像データとして持ち帰る位の事は出来るのでは?」
「うん?まあ、その位なら良いよ?…勿論、他のカードもね」
「あ、そうなんです?じゃあわたしもお願いします!」
今回のゲームは、無茶苦茶過ぎてここでなきゃ出来ないだろうし、そもそも実在しないカードだらけなんだから、仮に持って帰れたところで観賞用にしかなりはしない。
でも、楽しかったのは事実。熱い、燃え上がるような勝負だったのは、わたしにとって間違いのない真実。だから…画像データでも、欲しいなってわたしは思った。
そして、そのやり取りを最後にわたし達はまたデッキを構えて……今度は単純に、楽しむ為の勝負を交わすのだった。
『……って、あれ!?景品、ポイントじゃなくてカードなの!?』
今回のパロディ解説
・「〜〜仕事は真面目で〜〜今一つ情熱のない〜〜」
ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けないに登場するキャラの一人、吉良吉影…の同僚の台詞のパロディ。やたら有名なモブキャラの一人ですね。
・「〜〜『では、お手並み拝見だ』〜〜」
Fateシリーズに登場する主人公の一人、衛宮切嗣の台詞の一つのパロディ。CMで活用された台詞な分、比較的認知度は高いのかなと思います。
・「〜〜ルールを守って楽しく無双〜〜」
遊戯王シリーズのアニメにおける、本編とは直接関係せずとも代名詞的と言えるフレーズの一つのパロディ。多分ルールは守られています、無茶苦茶なルールでしょうが。
・「〜〜イリゼ、大事なのは〜〜教えてくれたでしょ?」
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風に登場するキャラの一人、
レオーネ・アバッキオの嘗ての同僚の名台詞のパロディ。…ですが、先程の吉良の同僚が混ざってますね。
・「〜〜デンジャラスなギャグ漫画〜〜」
絶体絶命でんぢゃらすじーさんの事。作中で言っているのは、校長カードファイターズの事です。勝利条件は勿論ですが、カードも変なのが結構あるんですよね。
・「〜〜発現せよ、仮想〜〜オリジンハート!」
カードファイト‼︎ヴァンガードGシリーズの登場キャラの一人、明日川タイヨウの台詞の一つのパロディ。グルグウィント にライドする際の口上です。
・擬似我王フォーメーション
バディファイトシリーズの主人公、未門我王の戦法のパロディ。色々ごちゃ混ぜになっているカードゲーム状態なので、擬似我王フォーメーションは利点も欠点も謎です。
・「〜〜ライヌちゃん・オン〜〜回避率25%!」
遊戯王シリーズの主人公の一人、武藤遊戯が砦を守る翼竜を使った際の代名詞的な台詞の一つのパロディ。砦を守る翼竜ならぬ、砦を守るーちゃん…じょ、冗談です。
・「〜〜最強デュエリスト〜〜必然なんだからね!」
遊戯王ZEXALシリーズの登場キャラの一人、アストラルの名台詞の一つのパロディ。但し今回の話では、カードの創造はしてません。託されたカードを引いています。
・「〜〜たとえこの指がぺっきり折れようとも〜〜」
デュエマシリーズの主人公の一人、切札勝太の代名詞的な台詞の一つのパロディ。こちらは直前の「運命のドロー」と同様、現実でも一応はあり得るドローですね。
この他、『遊☆戯☆王OCG』『デュエル・マスターズ』『カードファイト‼︎ヴァンガード』『バトル・スピリッツ』『フューチャーカード バディファイト』『ウィクロス』『ビルディバイド』『アンジュ・ヴィエルジュ』から、色々なカードや効果、用語等をパロディネタとして使っております。