超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
もしも、ここで私達が優勝して、別荘と土地が手に入ったらどうするか。んー…そりゃ、嬉しくはあるよね。管理関連のあれこれをこっちでしなくても良いなら、手に入れた事で何か困ったり手間が増えたりする訳じゃないんだし。それに別荘なんて、素敵だもん。
ただまあ、私とえー君の場合、別次元…って問題を抜きにしても、別荘があっても来れない、使えない事情があるんだよね。どんな事情?っていうのは置いておくにしても、来たい時に来られる日が来るのかどうか…何ならゆーちゃんにプレゼントする方がまだ使う機会あるのかも?って感じなのが、実際のところ。
だとしても、貰えるなら貰っておきたいし、えー君と掴む優勝…っていうのはほんとに魅力的。皆と競い合っての結果って意味でも達成感があるだろうし…とにかくそういう訳で、私は頑張るよー!
「よい、しょっとぉ!」
「わっ、とと…まさか空中で踏み込んでくるなんて、ねッ!」
擬似魔力の粒子を固めて作った即席の足場。そこへ強く踏み込んで、その分の勢いを加算しての大剣逆袈裟。防御はされたけど、相手…えすちゃんの体勢を崩して弾き飛ばす事には成功……いや、違う。弾いたには弾いたけど、これは向こうも距離を取る為にわざと弾かれたらしい。
「ふッ!ほいっと!」
追撃しようとしたところで、防御体勢のままえすちゃんが持っていた…右手で持った大剣の影から投げられる手裏剣。更にそれへ続く、氷の魔法。
飛来する攻撃の内、手裏剣は大剣の腹で弾いて、魔法は避ける。最小限の動きで対処して……
「そこッ!」
「…を、狙ってくるよねッ!」
回避先…それも遠距離攻撃で私を誘導した先に、肉薄からの上段斬りを打ち込んできたえすちゃん。…でも、それは分かっていた。分かっていたから、しっかりと私は受けて、斬り結ぶ。
「…こうも余裕で防がれるなんて…と、いうより…なーんか技とか動きを読まれてる感じね…。ざっくりと聞いてはいたけど、茜の力がどういうものなのか、段々分かってきたわ」
「ふふっ、凄いでしょ?頭の中まで覗ける訳じゃないけど、『察する』レベルなら精神状態も分かるし、私に隠し事なんてほぼ通用しないよ?…後、比喩じゃなくて物理的な意味でなら、頭の中も覗ける、かなッ!」
「わー…凄い能力だけど、それは羨ましくないわね…!」
力の掛かり具合を読んだ私は、その方向へ逸らす形で身体を回してえすちゃんを斜め後方へ流す。でも距離が開く前に今度は私が仕掛けて、数度大剣を振る…けど、凌ぎ切られてまたえすちゃんは距離を取る。今度は急降下の形で一気に距離を取って、尚且つ大剣を投擲。
後方宙返りを掛けて投擲を避けた私へ、次に迫ってきたのは魔法。だけど、今度はさっきの出の早いものとは違う。今放たれたのは、威力も攻撃範囲も広い、制圧力の高い攻撃。大小様々な氷弾に、風の刃に、魔力ビーム。その場で足を…あ、違う。空中だから、翼を、かな?…止めたえすちゃんは、色んな魔法で畳み掛けてきて……私がそれの対処に専念。
「…やるねぇえすちゃん。それは私に対する、正解の一つだよ」
えすちゃんの鋭さに感心しながら、私は攻撃を捌く。捌きながら、小さく呟く。
私は大概の事が分かる。戦闘で言うなら、攻撃の性質も、相手の重心や狙う先も、全部読める。でも、だからって無敵な訳じゃないんだよね。だって、『読める』と『対処出来る』はイコールじゃないから。読めたって高威力過ぎる攻撃は防げないし、広範囲過ぎる攻撃は避けられないし、私の理解や思考が及ばない攻撃は『訳の分からない何かをされる』って認識にしかならない、っていうか出来ない。皆だって、ここを攻撃するよ、って言われたら避けるのは簡単かもしれないけど、それがひっきりなしに続いたら、疲労とか集中力とか体勢とかの問題で、いつかは対処し切れなくなるよね?私だって、それは同じ。だから私の能力はただ、分かるだけ。…まぁ、それだけでも凄いアドバンテージだけど、ね。
そんな訳で、広範囲且つ威力もそれなりにある…というか、高威力のものとそうじゃないものを混ぜる事で連射性もある程度確保してるえすちゃんの攻撃は、正直厄介。今のところ対処出来てるし、えすちゃんだって今のペースで攻撃し続けるのは大変だろうと思うけど…根比べも、出来れば避けたい。
「…ふぅ、やっぱりまだこっちの方が有効みたいね。けどこれだけで押し切れる気もしないし、どうしようかしら」
…と、思っていたらえすちゃんは面制圧攻撃を止める。それは丁度、投げた大剣が落ちてきたタイミングで…キャッチしながら、えすちゃんの着地。私も降りる事を選んで、私達はお互いに構え直す。
まだ私は余裕。えすちゃんも、まだ余裕。どっちもここまでは小手調べってところで、探り合いの段階。
(距離を開けられると、どーしても向こうがちょっと有利になっちゃうんだよね。でもえすちゃん、近接戦も好きみたいだし、ここは誘って……)
「茜、この辺りにしておこう。もう大方の事は分かった」
「あ、そう?そっか、もうかぁ……」
次の手を考える中、聞こえてきたのはえー君の声。スピーカー状態にした携帯端末からの、えー君の言葉。それを聞いた私は一瞬考えて…それから構えを解く。
「えすちゃん、ごめんね。今回のしょーぶは、お流れにさせてもらうよ!」
「お流れ?…って、ちょっと!?」
軽く笑って肩を竦めた後、私は魔力弾をえすちゃんの足元に一発放って反転。回避してる間に全力で離脱しつつ、背後へ魔力の壁を適当に作って障害物に。雑に配置してるから、効果はちょっぴりしかないと思うけど…それで十分。多分、えすちゃんは即追い付ける状況じゃないなら追ってこないだろうし……ん、やっぱり追ってこなかった。
「お疲れ、茜。話には聞いていたが、思った以上に接近戦の割合が多いな。それでいて遠近の切り替えタイミングも的確で、冷静に戦闘を組み立てている。であれば、強いと言って差し支えないだろう」
「…でも、えー君的にはむしろやり易い相手でしょ?」
「…まあ、な」
暫く飛んだ先、私が着地したのはえー君が戦いを観測していた場所。私が装備を解きながら聞けば、えー君は一拍置いてから頷く。まぁ、やり易いのと勝てるかどうかはまた別なんだけどね。特にえすちゃんとディールちゃんの場合、決着が付く前にえー君の心が折れそうだし…。
「…っていうか、えー君どこで事前情報を得たの?あ、ボーイズトーク?夜に男の子同士で色々情報交換してたの?」
「俺はもう少年なんて歳じゃないんだが…。…普通にイリゼから聞いただけだ。皆の事を知りたいと言ったら、ぺらぺら話してくれたよ」
「あー、うん。ぜーちゃんなら言うよね…後、言い方が悪役のそれになってるよー、えー君…」
多分、純粋にぜーちゃんは「えー君が周りと交友を深めようとしている」と捉えて言ったんだと思う。何なら友達の事を話せて嬉しい、みたいな雰囲気だったんじゃないかな。
「あー、まあでも今のところ、言い方以前にやってる事が悪役のそれだったね」
「…茜、何か怒ってるか?」
「怒ってるっていうか…不満なんだよ、ふ・ま・ん。そりゃえー君のプランは分かるし、えー君のお願いなら即断即決即実行の一択だけど、それはそれとして、毎回『燃えてきたね、ここからペース上げていくよ!』…ってタイミングで撤退させられてたら、あかねぇ欲求不満になっちゃうよ?この辺りで解消させてくれないと、その内爆ぜちゃうよ?」
「欲求不満って…そんなバトルジャンキーだったか…?」
「バトルジャンキーじゃなくてもなるよ!焦らし?焦らしなの?そういう事なの?」
「違う違う焦らしじゃない…一応別方向の情報収集もしておいて正解だったな…」
ちょっと不満をぶつけてみると、何やらえー君は気になる発言を返してくれる。うんうん、やっぱり不満は口にするべきだね。後、今のやり取りはゆーちゃんには見せられないかなぁ…。
「何か見つけたの?」
「これだ。パンチングマシンならぬ、斬撃の威力を図るスラッシュチャレンジ…とか言うらしい」
「へぇ、確かにこれは面白そうだね。えー君もやる?」
「いや、俺はいい。一発の威力を計測するタイプなら、茜に勝ち目はないしな」
そんなやり取りを交わしながら、私は内容を確認。どうもスコアによって景品…得られるポイントが変わるらしくて、一回ごとの費用より多くのポイントが得られるなら、体力の続く限り稼ぐ事が出来る…んだと思ったけど、一日(仮想空間の中での、だよ?)で出来る回数は限られてるみたい。まあでも、それはそうだよね。
「よーし、それじゃあベストスコア更新しちゃうよー!」
「この仮想空間が今回の件の為に形成されたものなら、そもそもベストスコアどころか、これまでのスコア自体存在しているかどうか分からないけどな」
「そーゆー事は気にしなくていいの、気分なんだから」
相変わらず冷めてるえー君に軽く返した後、私はその施設へ向けて出発。えー君は別行動をするみたいだけど…まぁ、いっか。何かあれば、連絡してくれるだろうし。
「えーっと…ここだね」
街中に戻った私は、急がず歩いて移動し、施設の前に到着する。ぱっと見普通のお店っぽいけど、場所はここで間違いない筈。そう思いながら、私は歩みを進めて……
「へー、ここがその場所なのね。じゃあ早速……あっ」
「あっ」
…えすちゃんに、再会した。施設の前、入ろうとした瞬間に…ばったり再会した。
「あれ、あ…こんにちは、茜さん」
「こんにちは」
「う、うん…こんにちは、ディールちゃん、すーちゃん…(わー、これは気不味い…気不味いというか、さっきの事追求されたら困る…)」
こんな形で、しかもすぐにまた会うなんて…と、一緒にいた二人に挨拶を返しながらも内心で私はちょっと焦る。私が威力偵察をして、それをえー君が観測してました…なんて言えないし…。
「ここにいるって事は…茜もわたしと同じ事をしに来たのかしら?」
「あははー、まあそんなところかな…」
「ふーん。…で、さっきのあれは何だったの?」
「…気になる?」
「むしろ気にならないと思う?自分から仕掛けてきて、お互いまだまだやれる状況なのに退くなんて、何か意図がありますって言ってるようなものでしょ?」
「だよね…えと……あっ!あんな所に……」
やっぱり訊いてくるえすちゃんに、ご尤もな返しに追い詰められる私。うぅ、しまった…最初はもうちょっと誤魔化しながら退いてたけど、何人もそれを繰り返してたから、今思うとえすちゃんの時なんてかなり誤魔化しをおざなりにしちゃってた気がする…。
…なんて後悔しても、もう今はどうにもならない。だから、ピンチの私は思わず適当な方向を見て……
「…ぜーちゃん!?」
「ふぇ?茜…に、ディールちゃんエストちゃんイリスちゃん?」
なんと、ぜーちゃんを発見した。私の見た方向にあった、十字路、そこから普通にぜーちゃんが出てきた。…び、びっくりしたぁ……。
「イリゼ。イリゼは今、何をしている?」
「私はギルドに行くところだったんだけど…もしかして、この近くで何か大会でもあるの?」
「じ、実はそうなんだ!そうだ、ぜーちゃんもどう?これは勝負だけど、友達同士で皆で色々やるのも楽しいでしょ?」
「それは…うん、同感だよ茜。だから…内容にもよるけど、私も一緒にやらせてほしいな」
さらっと始まったすーちゃんとぜーちゃんの会話で「いける、この流れならいける!」と感じた私は、便乗&誘導。期待通りの反応をしてくれたぜーちゃんを、そのまま私は店舗の中に連れていって…うんまぁ、その間感じはしたよね。えすちゃんの、じとーっとした視線は。
「あ、中はこうなってるんだ」
「思ったより広いですね…」
外から見たら、ただのお店。でも入ってみたら、中にあったのは外観よりどう見ても広い空間。ここは仮想空間…つまりはデータの世界だから、現実と違って中がよく分からない場所も結構あるんだよね。分からないっていうか、見えても理解出来ないっていうか…。
「あそこでエントリーして、あっちでやる訳ね。…んー、折角だし勝負にしない?」
『勝負?』
「何回かやって、一番良いスコアを出した人がポイント総取り、みたいなルールでやるのはどう?って話よ。嫌なら個人個人で普通にやっても良いけどね」
けど、こっちの方が面白そうでしょ?そんな風に、小さく笑って見せるえすちゃん。その言葉に、私はぜーちゃんと顔を見合わせて…頷く。
「いーよ。さっきは半端なところで中断させちゃったし、ここでその続きを…なんて、ね」
「幾らエストちゃんが接近戦もやるって言ったって、斬撃なら私や茜の方が間違いなく上手。その上で勝負を申し込まれたのなら…女神として、蹴る訳にはいかないね」
「…蹴る?イリゼ、駄目。エストを蹴ったら、イリス怒る」
「へっ?あ、今のはそういう意味じゃなくて……」
自信を帯びた笑みで返すぜーちゃんだったけど、イリスちゃんの勘違いで途端にその表情は崩れてしまう。そんなぜーちゃんを見て、ディールちゃんとえすちゃんはくすくす笑い合っていて…いやぁ、なんだかほっこりしちゃうね。
でも、ベストスコア更新っていうスタンスは変えないよ?ポイントもそうだけど…私はここで、不完全燃焼分をきっちり燃やし尽くすつもりなんだからっ!
*
街の中にいる人達…NPCって言えば良いのかな?…の会話は、近くにいると聞こえてくる。それはまあ、現実と同じで…聞こえてくる会話の中には、大会の情報だったり、知っておくと便利な知識だったりするものも多くて、スラッシュチャレンジを知ったのもそういう人達からの情報。…まあ時々、「そんな会話わざわざする…?」みたいなやり取りの事もあるけど…それは仕方ないよね。わたし達に教える為の演出みたいなものだろうし。
で、その店舗に行って、そこで茜さん、イリゼさんと遭遇したわたし達は、エスちゃんの思い付きで勝負をする事になった。けど別に、驚きはない。だって、エスちゃんらしい提案だったから。
「それじゃあ確認だよ?順番に、一人一回ずつチャレンジをして、それを三周したところで一番良いスコアを出せた人が、ポイント総取り…これで問題ないね?」
「分かった。でも、イリスは見学する。よく見て斬撃を学びたい」
「そう言われちゃったら、恥ずかしい事は出来ないよね。私はそれでだいじょーぶだよ」
「これって、もし最高スコアが同点だった場合はどうするの?」
「その場合は…どうしよっか。同点の人同士でもう一回ずつやって、勝敗を決めるとか?」
それで良いんじゃないかな、と思ったわたしはイリゼさんの言葉に首肯。エスちゃんや茜さんもそれに頷いて、訊いたルナさんは「それも同点だったら…って、流石にそれはないよね…」と苦笑いをして……
『って、ルナ(さん・ちゃん)!?』
「え?あ、うん。ルナだよ」
『い、いつの間に……』
「いつの間にも何も、さっきからいたよね…?私から声掛けたし、勝負に誘ってくれたのは皆だよね…?」
……自然に、それはもう自然に会話へ参加していた、この場にいたルナさんに仰天した。…言われてみれば確かに、さっきからいたんだっけ…でも、物語的には今さっき登場したばかりだし…。
「…ディールちゃん、私が言うのもアレだけど、もうかなり信次元に毒されちゃってるね…。…いや、毒されてるって表現も信次元の女神的には避けたいところだけど……」
「うぅ、酷い…さっきまで普通に話してたのに、いきなり『急に現れた』みたいな反応するなんて……」
「めげちゃ駄目よ、ルナ。ここは動じず、『\ここにいるぞ!/』って返さなくっちゃ」
「えぇ…?それなんか、殺伐とした展開にならない…?」
「ここにいる…あなたは、そこにいますか?」
『イリスちゃん!?』
冗談でエスちゃんがルナさんを困惑させる中、不意にイリスが言った言葉に、わたし達は揃ってぎょっとする。イリスちゃんが無表情なのは普段の通りなんだけど…今は恐ろしさが凄い。物凄い。な、何か変なの受信してない…!?
「……?まだやらないの?」
「あ、う、うん…やろうか。じゃ、順番は……」
小首を傾げていたイリスちゃんに問われる形で、脱線していた話が進む。当たり前だけど、皆経験なんてない訳だから、最初にやる人は何も参考にするものがないままやらなくちゃいけない。だから三回チャンスがあるとはいえ、最初の人はちょっと不利で…そんな一番手になったのは、茜さん。
「一番最初は私…何にも分からない状態だけど、全力でやれば間違いないよね。…あれ?」
「茜さん、どうかしましたか?」
「いや、見えない壁…みたいなのがあって、ここから進めないっていうか……あ、でも見えるよ?私的には見えるんだけど、とにかく進めなくて…」
「や、ややこしいね…いや、茜の言ってる事は分かるんだけど…。…けど、斬撃のチャレンジなのに、マシンに近付けないなんて、どういう事なんだろう……」
「んー……あっ、もしかして斬撃は斬撃でも、遠距離からの…って事じゃない?」
うーん、とルナさんが考え込む中、同じように考えていたエスちゃんが、閃いたように言う。言われてみると確かに、チャレンジの機械はボウリングのレーンみたいな作りになっていて、遠くから飛ばして斬る…っていうのもしっかりくる。
という訳で、茜さんはその場で大剣を構えて離れた的をじっと見つめる。それからゆっくりと振り上げて……振り抜く。
「はぁぁぁぁッ!」
覇気の籠った声と共に、振るわれた大剣。その軌道が実体を持ったみたいに、紅い斬撃が大剣から放たれて……的を両断。綺麗に、気持ち良い位にすぱっと斬れた光景に、わたし達は「おぉー」と揃って拍手をし…茜さんが照れる中、斬れた的の上にスコアが出る。
「12062…うーん、えー君の言った通りこれまでのスコアが何にもないから、これが凄いのか凄くないのか分からないや…けどきっと、良い記録だよね」
「うん、きっとそうだよ。というか、今のを下手だと計測したなら、システム修正が必要だね」
「うぅ、あかねぇはちょっと遠回しにべた褒めしてくれるぜーちゃんの気持ちが嬉しいよ…!」
「あはは…でも私も、今のは凄かったって思います。…参考にしたいけど…出来るかな…」
ぶんぶん、とイリゼさんの手を握って振る茜さんに、わたし達は苦笑い。ただまあ実際、上手かった。上手いのは間違いなくて…二番手のルナさんは、そんな茜さんの次って事もあってか、少し緊張している様子。
「大丈夫よ、ルナ。さっきおねーさんはああ言ったけど、こういうのって必ずしも上手さがスコアに直結する訳じゃないもの」
「…そうなの?」
「えぇ。ほら、パンチングマシンってあるでしょ?あれも衝撃…つまりは威力を計測してるタイプと、的が倒れる速度でスコアを出してるタイプがあるのよ。で、前者は実力が結果に直結するけど、後者の場合は威力じゃなくて速度を見ている訳だから、重くて強いパンチより、雑でも速さはあるパンチの方がハイスコアになったりするのよね」
「んーと…えすちゃんの言ってるそれって、カラオケでその歌の歌手が歌っても、100点を取れなかったりするのと同じ感じ?」
「あー…まぁ、本来求められるものとは違う『コツ』があるって意味じゃ近いかもね」
ちょっぴり表情が硬いルナさんに、エスちゃんがアドバイス。絶対そうだって話ではないけど…もしエスちゃんの言う通りなら、これにもコツがあるのかもしれない。…それを数回で見抜くのも大変な気はするけど、それはそれ、これはこれ。気持ちの問題だよね。
「そっか…そうだよね、総合得点じゃなくて、三回の内で出せた一番良い点で勝負するんだもんね…それなら…!」
一回目はコツを見つける、コツへの手掛かりを探る為に使っても良い。そんな雰囲気を言葉から醸したルナさんは、茜さんと入れ替わる形で前に出て、小さく深呼吸。そこから一振りの剣…
「てぇいッ!」
放たれたのは、三日月を思わせる黄色の斬撃。茜さんの時と同じように、斬撃は新しく出てきていた的を真っ二つにして…スコアが出る。
「10016…何とか1万は超えたけど、うーん……」
「ええっと…だ、大丈夫だよルナ!まだ二回残ってるし、勝負はここから……」
「…茜さんと、2000位しか変わらない…これは結構光栄な事じゃ…?だってほら、あの茜さんとだし…!」
「…ルナが思ったより前向きで、私は安心したよ…」
「あの茜さん…あはは、そう言われると何だか照れ臭いね」
少し差のあるスコアに、ルナさんは気落ち…していたかと思いきや、実際には何やら嬉しそうな様子。逆に励まそうとしていたイリゼさんは、何とも言えない表情になっていて…それにわたしとエスちゃんは苦笑い。
「じゃ、次はわたしねー。…ふーむ……」
「エスト、どうかした?」
「や、ほら、さっきパンチングマシンの例えを出したでしょ?あれから考えてたんだけど、これが何を計測してるのか考えてたのよ。斬撃の破壊力か、速度か、それとも斬れ味か…それによって、使う魔法も変わってくるしね」
立てた右手の人差し指をくるくると軽く回しながら、イリスちゃんの声に応えるエスちゃん。あー、とわたし達も反応し、何を計測してるんだろうと考えるけど…まぁ、分からない。
「ま、それを見抜けるかどうかも含めて勝負よね。けど皆にプレッシャーもかけておきたいし……」
考えるのを止めて前に出たエスちゃんは、茜さんの物とは違う形の大剣を持って床を踏み締める。さっきまでは軽く笑っていた表情が引き締まって、大剣を脇構えで持つと少しだけ前傾姿勢を取る。…ところで脇構えって、名前のイメージとは違って実際には腰の辺りで構えるんだよね。…腋じゃなくて脇だから、って言ったらそれまでだけど。
「ふー…せぇいッ!」
静かに息を吐き、一歩前に踏み込んだエスちゃんの、斜め上へ斬り上げる一撃。先の二人とは少し違う、衝撃波の様な淡い赤の斬撃は的へと勢い良く伸びていって…破壊。二つに裂かれた切り口は、茜さんやルナさんの斬撃よりは荒い感じだけど、的の損傷はエスちゃんの方が上で……すぐにスコアも表示される。
「結果は…11430…むー、あんまり伸びなかったっていうか…正直微妙ね…。もっと低ければ今のやり方じゃ駄目だったんだって分かるのに、これだとどっちとも言えないじゃない……」
「…ディール、エストも茜も、大きい剣を使っている。どっちも凄かった。どっちも的が簡単に壊れた。なのにどうして、点数が632も違う?上と下の違い?」
「え?…うーん、と…なんでだろうね。ぱっと見じゃ分からない何かを、計測しているから…かも?」
「…ディールにも分からない?そんな事があるの?」
「あはは、あるよ。わたしはイリスちゃんより、ちょっとは色んな事を知ってるけど、わたしだって知らない事、分からない事は沢山あるし…わたしが知らなくて、イリスちゃんが知っている事も、あると思うな」
「…そう。なら、イリスが知っててディールが知らない事は、イリスが教えてあげる。そうすればイリスもディールも、もっと賢くなれる」
お互い賢くなれればとてもお得。そう言うように、イリスちゃんは得意げな顔をした…ような、気がした。実際には全く変わらない表情なんだけど、それでもそんな気が、わたしはした。
「さて、やっと私の番だね。三人の結果を元に最適な一撃を…と、言いたいところだけど……」
「何が最適か分からない、とか…?」
「まぁ、正直言うと…ね。さっきエストちゃんも少し言ってたけど、点数に極端な開きがない分、三人の内容を比較するのも難しいし」
その言葉と共に、イリゼさんも攻撃を放つ為の位置へ。イリゼさんが手にしているのは、いつも使っているのとはまた別っぽい…多分シェアエナジーで精製したバスタードソードで……って、あれ?
「そういえば、イリゼさんって斬撃を飛ばすような事出来ましたっけ…?」
「出来るかって言われれば、多分出来ると思う…けど、やった事はないね。だから……」
これまでの三人とは違う構えを見せるイリゼさん。腕を曲げて、半身になった状態で的を見据えると、そこから更に手首を捻る事でバスタードソードの角度を変えて…右手を、横に振り出す。
「ふ……ッ!」
小さく息を吐くような声と共に、バスタードソードは投げ放たれる。真っ直ぐに、一直線に的へと飛来して…直撃。突き刺さるどころか貫通して、鍔の辺りまで深々と貫いて…ワンテンポ遅れて的も倒れる。
…でも、スコアは出てこない。これまでは当たった後すぐに出ていた表示が、何故か出なくて…数秒後、やっと出たと思ったら、表示されていたのはこれまでとは違うマークと文面。
「…バツ?え、やり直して下さい…?」
どういう訳か、エラー扱いになったイリゼさんの一発目。小首を傾げながらも、イリゼさんはもう一度投げて…けれどやっぱり、結果はエラーになってしまう。
「おかしいなぁ…機材に何か不具合が起きてるとか…?」
「茜、茜ならそういうのも分かったりしない?」
「んー、と…そんな感じはないけど、自信もないなぁ。確かにプログラムは見えてるけど、プログラムが正常かどうかは、プログラミングの知識がないと判別出来ないし」
「ま、一応ネプギアに状態を伝えたら?時間の流れが違うって言っても、連絡不可能とかではないんでしょ?」
エスちゃんの言葉に頷いて、イリゼさんはメッセージをネプギアちゃんへと送った様子。となると次の問題は、待っている間どうしようって事で…そこでふと、イリスちゃんが声を上げた。
「…投げるのは、有りなの?」
『え?』
多分、深い意味や意図はない、単なる質問。別にいいんじゃないかな?…わたしはそう思ったし、皆も目をぱちくりさせたり顔を見合わせてたりして……
「…いや、でも…まさか……」
けれど、そうなのかもしれない。ぽつりと呟いたのはイリゼさんで…わたしも、多分皆も、同じ事を考えていた。
先の三人は斬撃を飛ばしていて、イリゼさんだけが斬撃ではなく剣の投擲を行った。そしてエラーになったのは、イリゼさんだけ。ならもしかしたら、もしかするのかもしれない。
「けど、どうしよう…やった事ないし、やるってなったら多分女神化する必要あるし…でも女神化してやるのは、ちょっとズルい気がするし……」
「え、じゃあおねーさん、まさかの棄権?んもう、剣からビーム位出せなきゃ駄目よ。斬撃はビームじゃないけど」
「いやそんな事言われても…ビームとか斬撃とか飛ばさなくても、武器そのものを射出する遠隔攻撃でこれまで事足りてた訳だし……」
それは流石に理不尽だよ…とわたしがエスちゃんを見ると、エスちゃんは何でもない様子で軽く肩を竦める。…でも、単にイリゼさんを困らせたかっただけみたいじゃなくて、エスちゃんは何やらごそごそとしだす。
「もー、しょうがないおねーさんね。じゃあほら、でろでろでろでろでろでろでろでろ、でーん。おねーさん向けの魔導具〜」
「え、何それ…っていうか今の音違くない!?凄い呪われた感じの、セーブデータが消える感じの音じゃなかった!?」
「あ、おねーさん突っ込みの体でのボケフォローありがと」
「まぁ、音ネタは活字だと分かり辛いからね…って別に突っ込みの体取った訳じゃないよ…!?普通に突っ込まずにはいられなかっただけだからね…!?」
「えと…それで、その魔導具っていうのは……」
「今言った通り、おねーさん向けの魔導具よ。分かり易く言えば、魔力の代わりにシェアエナジーを注ぐ事で魔法が発動するアイテム…ってところね」
取り出された小さな石を気になる様子で見るルナさんに、エスちゃんが説明。
因みにその石は、三人で鉱石採取をしていた時に見つけたもの。何かに使えそう、面白そうって事で、エスちゃんが拾ってたんだけど…魔道具に加工してたんだ…。
「これにシェアエナジーを経由させて刃物を作れば、魔法の斬撃が放てる武器になる筈よ。おねーさんが武器精製する時の細かい原理とか工程はよく知らないから、上手くいくかどうかまでは分からないけどね」
「そっか…試しても良い?」
受け取ったイリゼさんに、エスちゃんは首肯。石を掌に乗せると、暫くイリゼさんは見つめていて、その後は何度か手をぐーぱーさせて…そこから更に十数秒したところで、ふっと現れる一本の剣。その剣から感じるのは…魔法の力。
「あ、ぜーちゃん出来た感じ?それを振れば飛ぶ斬撃が出せるのかな?」
「上手く出来ていれば、ね。…けど、エストちゃんいいの?魔導具って事は、道端で拾ったとかじゃないんでしょ?」
「いーの。試しに作ってみただけだし、わたしやディーちゃんにとってはあっても使いどころがない物だし。それにおねーさんが棄権になった場合、参加者が減って総取りになるポイントの量も減っちゃうでしょ?」
「エストちゃん…そういう事なら、ありがたく使わせてもらおうかな」
にやり、と笑って言うエスちゃんに、イリゼさんも小さな…楽しげな笑みを返す。今のは試しの一本だったって事なのか、イリゼさんは剣を消しつつ的がある方へと戻っていって…けど再精製をする前に、立ち止まって振り返る。
「…ところで、これって一応…じゃなくて、ちゃんとした魔法になるんだよね?なら、技の名前が必要だったり…?」
「必要ないのでは?わたし達だって別に、全部の魔法で常に技名を言っている訳じゃないですし」
「でも折角だし、何か言ってみてもいいのかも?フラガッハとか」
「いやそれ技名っていうか武器の名前じゃん…しかも偽物疑惑がある方だし……けど、うん…やっぱある方が良いよね、折角の魔法だもんね…」
茜さんの肯定を受けて、イリゼさんはぶつぶつと呟き始める。それから意を決したみたいな顔をすると、今度こそ的の前に立って…武器を精製。
でも、作ったのはバスタードソードではなく、何故か槍。え、どうして槍?というわたし達の視線に気付かないのか、集中した面持ちのイリゼさんは両手で持った槍を振り上げて……
「イリボルグッ!」
『イリボルグ!?』
……謎の掛け声(技名…?)と共に、槍を振り抜いた。い、イリボルグって…自分の名前付けたんですか…?
「お、おぉぉ…!出来たっ、ほんとに魔法の斬撃が出たよ皆っ!」
「え?あ、うん…や、やけにテンション高いね、イリゼ……」
「だって、これ私にとっては初めての魔法だもん!これまでは全くもって使えなかったんだもん!」
「あ、そうだったの?…そんなに喜んでくれるなら、あげた甲斐がある…ってえぇっ!?」
「エスちゃん…?」
はしゃぐイリゼさんに柔らかな笑みを浮かべたエスちゃん…だったけど、次の瞬間エスちゃんは仰天。なんだと思ってわたしがエスちゃんを、エスちゃんの見ている方向を見ると、そこには斬り裂かれた的と、今度はちゃんと出てきたスコアがあって…わたしも、驚いた。24220という、飛び抜けたその点数に。
「おお…イリゼ、凄い。凄く高い点数」
「う、うん…流石はイリゼだね!よっ、女神様!」
「あ、ありがとう二人共…けどまさか、こんな高得点が出るとは……」
これにはイリゼさん自身も驚きみたいで、半ば困惑したように頬を掻く。そしてその時には…というか、斬撃を放った時点で精製した槍は消えていた。多分だけど、槍から斬撃を放ったっていうより、魔導具を経由して精製された槍のシェアエナジーが、斬撃に変換された事で消えたんだと思う。
ともかくこれで、イリゼさんがトップになった。ルナさんはそれを、楽しそうに讃えていて、イリゼさんも嬉しそうな様子。けどやっぱりというか、エスちゃんはむむ…っとしていて、茜さんは苦笑気味。
「おねーさんの事だから、高得点は出すと思ってたけど…これじゃ敵に塩っていうか、高級岩塩を送っちゃった形だわ……」
「実際に送ったのは魔導具の石だけどねぇ。…手を抜いた訳じゃない一発目で一万二千と少しだった訳だから、これは全力を出さないと勝てないや……」
予想外だなぁ、と言うようだった苦笑から、真剣な表情に変わった茜さんは二度目に入るべくまた的の前へ。雰囲気から感じるのは、茜さんの本気さで…皆が見つめる中での、二回目の斬撃。一度目と同じ様に、紅い斬撃は的を両断して…けれどスコアは、12038。
「うぇ?さっきより力を込めたのに、上がるどころかちょっぴり落ちるなんて…どういう事かにゃぁ……」
「あ、今の可愛い」
「うん、今の可愛い」
「…実はわたしも、ちょっとそう思ったり…」
「え、そう?それはまぁ、悪い気はしないかなー!…っていやいや、そうじゃなくて……」
脱力気味に出てきた「にゃぁ」に、イリゼさんとルナさんが続けて反応。わたしも小声で同感すると、茜さんは一回笑って…でもその後、手を横に振ってから落ちた理由を考え始める。
「…っと、次は私の番か…よーし、今度こそ……!」
次はルナさんの番。エスちゃんや茜さんと違ってイリゼさんへの対抗心を燃やしている訳じゃないみたいだけど、それはそれとしてやる気を漲らせるルナさんは、さっきとは違う体勢で剣を構える。
縦ではなく横の、薙ぎ払うような黄色の斬撃。月明かりのような輝きを持つ三日月型の斬撃は、的のやや上部分を斬って…出てきたスコアに各々注目。
「10994…やった、さっきより結構上がった!…けど、まだ私が最下位かぁ……」
「一回目より力が入ってたっぽい茜の成績が若干落ちて、逆に真ん中からはちょっとズレたルナの成績はむしろ上がってる…むー、ほんとに何をどう判定してるのかよく分からないわね…。全力を尽くすしかない、って事かしら……」
暫く考え込んでから、的の前に立つエスちゃん。一番イリゼさんへの対抗心を抱いているのがエスちゃんで、もうその目付きは完全に臨戦体勢。流石にイリゼさんに斬り掛かる事はないだろうけど…斬撃に力を込め過ぎて、何か機材の方に不具合を発生させたりしないか、それだけがちょっと不安だったり…。
と、そんな事をわたしが思う中での、エスちゃんの二度目。力強い、でも力任せではない斬撃が、淡い赤の魔力が二度目もきっちり的を裂いて…でもその結果に、エスちゃんが浮かべたのは不満顔だった。
「ぐぬぬ…ちょっと上がったけど、11656じゃ話にならないじゃない…何?わたしとおねーさんで、何がそこまで違うっていうの…?」
「えっと…エスちゃん、これは実戦じゃないんだし、そこまで深刻に考えなくても……」
「だとしても、勝負は勝負でしょ?自分で言い出して、自分で納得もしてるルールで惨敗なんて…そんなの絶対悔しいじゃない…」
「それは…その通り、だけど……」
少し落ち着いた方が…と思って声を掛けたわたしだけど、エスちゃんからの返答で逆に言葉に詰まる。
確かにそれはそう。本気で、真剣に勝負をしてるなら、負けるのは悔しいし、惨敗になるとしたら尚更そう。…参ったな…本気だからこそ悔しいし勝ちたいって事なら、凄く真っ当な感情だし応援する事以外わたしも出来ない…。
「…ごめん、ディーちゃん…ちょっと熱くなってたわ…」
「ううん、それは別にいいよ。…まだ後一回あるんだし、焦らないで。ね?」
「…えぇ、分かってるわ。最後に逆転すればそれで勝利…元からそういうルールだもの」
ただでも、声を掛けた意味はあったみたいで、少しエスちゃんの顔にも余裕が戻る。…けど、それはそれとしてまだまだエスちゃんは思案顔。ついでに次の番になるイリゼさんの動きもしっかり観察する様子だった。
「ふふ…これをくれたエスちゃんには感謝しかないけど、それと勝負とは別問題。このままトップを独走させてもらうよッ!」
新しく作った、二本目の槍を構えたイリゼさんは、暫定トップって事もあるみたいで、余裕綽々のまま槍を振り抜く。声音は余裕って感じだけど、動きはしっかりしていて、そこはやっぱり真剣な動き。そうして白い斬撃が的を捉えて……
『……え?』
……数秒後、出てきたスコアに皆目が丸くなった。…8888という、これまた予想外な二度目のスコアに。
「…全部、8…あ、ある意味凄い…!」
「た、確かにこれはこれで、狙ってやれる事じゃないけど……え、四桁…?さっきの半分すら大きく下回るって…ど、どういう事…?」
「…どういう事?」
「いやそんな、二人してわたしに訊かれても……」
今ルナさんが言った通り、これもある意味では凄い。だけど当然、望まれるようなスコアではなくて…混乱しているのか、イリゼさんはわたしに理由を求めてきた。ついでにイリスちゃんも訊いてきた。
「これは思わぬ失速ね…いやでも、勝つ為には超えなきゃいけないスコアは変わってないって考えると…すぅ、はぁ……」
「えすちゃん?…いや、私も人の事気にしていられる状況じゃないか…私だって、勝ちを目指してるんだから」
精神集中の為か目を閉じたエスちゃんと、三回目…最後のチャレンジに向かう茜さん。悔いのない結果を出す、勝利を目指す…雰囲気こそ違うけど、きっと二人の思いは同じで、それはルナさんもそう。二人程の熱量は感じないけど、ベストを尽くそうとしているのは、わたしにも分かる。
(…皆、頑張って)
心の中で呟くのは、そんな皆へ向けたエール。勿論誰を一番応援するかって言ったら、エスちゃんになるけど…茜さんやルナさんだって、暫定トップのイリゼさんだって、わたしは応援したい。…友達、だから。
そして、最後となる三巡目。全員が全力の、全身全霊の斬撃を放ち、自分のベストを…この勝負に勝つ事を目指す。茜さんが、ルナさんが、エスちゃんが…最後はイリゼさんが放って、四人のターン、その全てが終わる。
「くぅっ、9586…一体どうして最初だけ……」
「だけど、一番高いのはイリゼの一回目だった。だから、イリゼが勝利」
「それはそう、なんだけど…なんかこう、すっきりしないっていうか、まぐれで勝ったみたいだっていうか……」
最後の一回は、イリゼさん以外全員が自己ベストを更新した。でも、イリゼさんの一回目…というか、二万台に乗るスコアは結局出なくて、勝負としてはイリゼさんの勝ち…って事になった。…んだけど、当のイリゼさん自身が、あまりこの結果には納得していない様子。
「…けど、ほんと不思議だよね。どうして一回目だけ、あんなに凄かったんだろう…」
「それか、二回目三回目はどうして下がっちゃったのかだけど…多分、一回目に何か理由があるんだろうねぇ。…悔しいなぁ、こんなに大差付けられて負けちゃうなんて……」
「…おねーさんだけじゃなくて、茜にも勝てなかった…わたしもまだまだ、って事ね…」
「いやいや、長距離になったらえすちゃんの方がずっと強いんだし、それで近距離…っていうか、大剣の扱いまで負けちゃったら、私の立場がないって」
結果は認めるけど、気持ちまでは飲み込めない。そんな様子のエスちゃんに、わたしはなんて声をかけようか迷う。別に声をかけなきゃいけない訳じゃないけど、声をかけないなんて事は……そう思っている中で、不意に横からかけられる声。
「…ディールは、やらないの?」
「ふぇ?わたし…?」
「あ、そういえば…ディールちゃんも、刀剣の扱いは出来たよね?」
「いや、まぁ…扱えなくはないですけど……」
重ねて訊いてくるイリゼさんに、わたしは頬を掻きつつ答える。
出来るかどうかで言えば出来る。でも、わたしが勝てるとは思わない。やる前から云々とかじゃなくて、剣の扱いはわたしの本分じゃない…ただ、そういう事。
「…そうよ、まだディーちゃんがいるじゃない…ディーちゃん、わたしの…わたしの無念を晴らして頂戴…!」
「無念って……え、本気で言ってる?」
「ううん、冗談半分よ。だって、自分の無念は自分で晴らしたいし。けどそれはそれとして、ディーちゃんがやるのも見てみたいって訳」
「イリスも見てみたい。ディールの、ちょっといいとこ見てみたい」
「イリスちゃん、それどういう場面の台詞か知ってる…?…まあ、でも…一回位は、やってみようかな……」
やる気はなかった…けど、エスちゃんやイリスちゃんに見てみたいと言われたら、正直断り辛くて、わたしは一度だけやろうと決める。でも大方最下位、良くてイリゼさんの二回目以降より少し上位じゃないかな…。
「…あれ?ディールちゃん、それ新しい武器?」
「いえ、違いますよイリゼさん。色々あって前に使っていた物は今使えないので、今はこの空間で作った…というか、ある道具屋で協力を受けて制作したこれを使っているんです」
そうイリゼさんに答えてから、わたしは仕込み杖に手を掛ける。的を見据えて、ゆっくりと深呼吸をする。
多分勝てないけど、やるって決めた以上はちゃんとやりたい。四人が真剣にやった後で、わたしだけ適当にやるなんて、それはわたしも嫌だから。
(見てた限り、当たった位置はあんまり関係なさそうだった…だから当たりさえすれば良い。とにかく全力で、魔力を込められるだけ込めて……)
これに制限時間はない。つまり、ゆっくりじっくり溜める時間があるって事で、わたしは杖に、そこに込める魔力に集中する。目を閉じて、溜めて、収束させて、更に溜めて……目を開く。的をしっかりと捉えて、杖の先を握り締めて……抜き、放つ…ッ!
「盤上の煌めき、牡丹…ッ!」
振り抜いた仕込み杖…ううん、抜き放った刀の刀身から放つ、円状の斬撃。青白い光の刃となった魔力は、煌めきながら飛翔し…回りながら、高速での回転をしながら、捌く。綺麗に的を斬り飛ばす。
「…ふぅ、こんなもの…かな」
「チャクラムみたいに飛ぶ斬撃…今の格好良いね、ディールちゃん!名前の方も、何となくディールちゃんって感じだし!」
「え、ええっとそれは…ど、どうも…?」
格好良いだけなら褒め言葉として受け取れるけど、そこから先はどう受け取ったものか。一息吐いたところでわたしは困惑し、それからスコア確認をしていなかった事を思い出す。でもまあ、そんなに期待はしていない。というか、取り敢えずこれかな、って技を使ってはみたけど、普通の斬撃とは(いや普通の斬撃は飛ばないけど)少し違う訳だから、もしかしてエラーになってたり……あ、しなかった。普通に32196点だった。わぁ、思ったより高い…これはちょっと嬉しい、ね。
…………。
………………。
……………………。
『32196点!?』
点数を視認してから、そのスコアが意味する事を理解するまで約十秒。わたしは驚いた。皆も驚いた。嘘ぉ!?…って感じの声が、イリスちゃん以外の全員で完全にハモった。うん、いや…それは驚くよ!自分の事だけど、仰天するよ!さ、32196点って…何がどうしてこうなったの!?
「ぬ、抜かれた…私の最高スコアを、更に軽々超えられた……」
「す、凄い…凄いわディーちゃん!凄いじゃない!けど、どうして!?どうやったの!?どんなトリック!?」
「そ、そんなのわたしには分からないよ…!や、やっぱりこれエラーじゃない…?何か壊れた結果、変な点数が出たとかじゃないの…?(おろおろ)」
「まさかディールちゃんがこんなハイレベルの刀剣使いだったなんて…魔法の扱いも上手だし、サポートも凄いし、隙がないっていうのは正にこういう事を言うんだね…!」
「あぁっ、自分でも全然納得してない結果でわたしの評価が上がってる…!ま、待って下さいルナさん、これはほんと何かカラクリがあるんですって…!わたしにも分からない、何らかのカラクリが…!」
自分でも分からないカラクリって何?…我ながらそう思うけど、そうとしか思えないんだから仕方ない。そして、何度確認してもエラーの表示は出ていない。出てないけど…これがちゃんとした結果だなんて、そっちの方が無理筋だって…!
「いや、でもほんと…これどういう事…?実はディーちゃんの方が上手かったって事なら、それはそれで認めるけど…幾ら何でもこんな、ここまでの差があるんだとしたら…流石にちょっと、自信なくなるわよ……」
「え、エスちゃん……」
「えーっと…そうだ、すーちゃんは何か分からない?ぜーちゃんのエラーの原因を見抜いたすーちゃんだったら、何か気付いてたりしない?」
「イリス?イリスは……」
肩を落とす…いつもの雰囲気がまるでなくなるエスちゃんに、心が締め付けられる。でもそうなった原因は、他でもないわたしのスコアな訳で、わたしはなんて声をかけたらいいのか分からない。だからわたしも黙っちゃって…空気が重くなり始める中、茜さんがイリスちゃんへと振る。ちょっと無茶振り気味に振って、振られたイリスちゃんは少しの間考えて…おもむろに、言う。
「…イリゼの技の名前、格好良かった。でも、ディールの技の名前の方が、もっと格好良かった」
「あ、あー…うん、そうだね…それは私もさっき言ったし、名前って結構大事……って…」
『…名前……?』
ゆっくりと、静かに顔を見合わせるわたし達。思い出す。思い返す。わたしは技名を口にした。イリゼさんも口にしていた。段違いのスコアを出したのはわたし達二人で、技名を言っている事が共通点で…イリゼさんに関して言えば、二回目以降は技名を言わずにやっていた。その結果、スコアはがくんと落ちていた。…まさか……。
「…た、試して…みる……?」
ぽつり、と呟くように言ったルナさんの言葉に、わたし達は首肯。そして、試してみた結果……
……えぇはい、全員二万を余裕で超えました。色々考えたり、よく捻った技名を付けてみた時には、三万オーバーになったりもしました。少なくとも、技名が判定基準の内に入っている事は、間違いありませんでした。…えぇー……。
*
「『なんかこのチャレンジ、名前勝負みたいな感じだったよ!後、最後に一回だけやったディールちゃんがポイント総取りになっちゃった、残念…でも、楽しかったよ!』…か…名前勝負って、なんだそりゃ…何かバグってるんじゃないのか、それは……」
茜から送られてきたメッセージの内容に、溜め息を吐く。別に名前勝負だろうがなんだろうが、どうだっていいが……最後の最後でそれが明らかになったとしたら、やってる側は脱力感が半端ないだろうな…。
…と、思ったところで俺は携帯端末を仕舞い、顔を上げる。それから……言い放つ。
「いい加減、出てきたらどうだ」
側から見れば俺は、突然何を言っているんだ、と思われるのだろう。だが、これは意図あっての言葉。そして実際、俺が言った数秒後…背後に明確な気配が現れる。
「流石は影君。お見通しだったという訳だね」
「よく言う…気付かせる為に、わざと気配を消し切らなかったんだろう?」
「ふふ、それはどうだろう」
振り向けば、そこにいたのは吸血鬼ズェピア・エルトナム。恐らく今回訪れた者の中で、最も腹の中が読めない……あ、いや、違う。それに関しては、イリスの方が読めないな…こっちは駆け引きを重ねれば読めるかもしれないが…イリスの方は何をしても読める気がしない…。
「…で、何用だ。俺の記憶が正しければ、ズェピアはルナとの行動を基本にしていた筈だが」
「ああ、けれど常に一緒にいる訳ではないよ。ルナ君には極力協力してあげたいところだけど、何も常に同行する事だけが協力ではないからね」
「そうか。ならさしずめ、嗅ぎ回る事に釘を刺しにでも来たか?」
「いいや、その逆だよ影君」
「逆?」
今俺がいるのは、あるビルの屋上。ここは申し込み、応じられなければ直接対決の出来ないエリアだが…彼ならそのルールの穴を突いて、或いはルールを捻じ曲げて仕掛ける事も出来そうな気がする。故に警戒を解く事は出来ない。
そう考える俺に対し、ズェピアは肩を竦めて軽く笑う。そう身構えないでくれと言うような雰囲気で、俺と正対し……閉じられたままの目で、されど俺に視線を感じさせながら、言う。
「私は一つ試してみたい事があるんだが、何分私だけでは些か心許なくてね。だから…手を組まないかい、影君。この勝負という舞台を、私達で更に盛り上げてみようじゃないか」
一体、どこまでが本気なのか。全て嘘か、それとも実は本当により面白くしたいだけなのか。それを判断するには、あまりにも情報が少なく…だが今求められているのは、その言葉に対する真偽ではない。
(盛り上げる、ね…)
目的や内容はともかく、彼は強敵である事は間違いない。強敵故に、手を組めるのならそれは大きな利になるかもしれないし、下手に応じれば足元を掬われるかもしれない。逆に、手を組む事で今は見えないズェピアの目論見が見えてくる可能性もある。
現状では、全てが仮定。かもしれないの域を出ない。ならばこそ、目を向けるのは「今」ではなく、「これから」であり……返答を待つ彼に対し、俺はゆっくりと息を吐きながら答えるのだった。
今回のパロディ解説
・\ここにいるぞ!/
三国志に登場する人物(キャラ)の一人、馬岱の台詞の一つの事。流石に分かると思いますが、『\』と『/』は台詞ではなく、ネタとしての表現です。
・「〜〜あなたは、そこにいますか?」
蒼穹のファフナーシリーズにおける、代名詞的なフレーズの事。それとは別に、ファフナーの作中にも「ここにいるぞ」という台詞はありますね。
・「〜〜凄い呪われた〜〜感じの音じゃなかった!?」
ドラクエシリーズきおいて、ぼうけんのしょが消える際や呪われた装備をセットしてしまった際の音の事。これ、ほんと活字で表現すると分かり辛いですね。
・フラガッハ
千年戦争アイギスに登場するユニットの一人、シビラのネタの一つの事。イリボルグは異母妹であるパテルのゲイボルクを意識したものです。パテボルグ…的な感じです。