超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
仮想空間。ゲーム好きならきっと誰もが一度は想像する、そのゲームの中に入って『自分自身』としてプレイしてみたい、が実現するような…っていうか、実際ゲームっぽい部分もちょっとあったりする空間。そんなの面白そうに決まっていて、楽しみじゃない訳がなくて……けれど、自分は気付いた。気付いてしまった。ここには、違う楽しみ方もある事に。仮想空間だからこそ出来る、夢の様な体験に。
「んん〜♪非っ常においしー!」
口の中で弾ける、濃厚な甘さ。外はぷるぷる、中はしっとりの上品な舌触りと、ひんやりさが生む爽快感。クリームにクッキーにさくらんぼ、それぞれと合わせて食べる事で、また違った美味しさを見せてくれるそれに…自分の大好物、キングオブスイーツとしてねぷ子さんが愛するプリンに、自分は思いっ切り舌鼓。
そう、これだよこれ!ねぷ子さんは気付いちゃったんだよ…仮想空間で、美味しいものを食べる魅力に!何せここは、食べても太ったり、虫歯になったりはしないからね!少なくとも、現実の自分の身体には一切影響しないからね!好きなもの、美味しいものを、気兼ねなく食べられる…これがどんなに楽しく、嬉しい事か!
「…ネプテューヌさん、それ幾つ目ですか?」
「え?…んとね、わたしが初めてプリンを知ったのは今から……」
「そんな人生全体を振り返るレベルの質問はしてません…今日、ここで、幾つ注文したのか訊いたんです……」
「あんたは幾つプリンを食べたんだ、今日、ここで?」
「あー…はい、そうです。それでいいです…」
プリンの美味しさと糖分で頭が冴えに冴えてる自分の、華麗なる連続ボケ。それにピィー子は気圧されちゃったみたいで……え、普段からこれ位普通にボケてる?んー、言われてみるとそうかも?後、美味しさはともかく糖分は得られてないね。だってここ、仮想空間だし。実際に食べてる訳じゃないし。
「んもうピィー子、折角スイーツ食べに来たんだから、もっと明るい顔しようよ。このプリンおいしーよ?」
「…ネプテューヌさん。確認ですけど、ネプテューヌさんは優勝を狙ってるんですよね?」
「それは勿論。勝負なら 優勝狙うの 普通でしょ」
「何故川柳に…まあそれはともかく、だったら無駄遣いは避けるべきでは?」
釈然としない感じの顔で、ピィー子はそう言う。…まあ、言いたい事は分かるかなぁ…実際これを買うのには、稼いだポイントを使ってる訳だしね。
「うん、それは分かるよ。でもさ、ズェピアさんも言ってたじゃん。見届けさせてもらおう。世界を超えた友人として、君達のプレイングの行き着く先を…って」
「はい?…あ、あー…全然、何もかも関係ない、そして言ってもいない発言を唐突に入れてこないで下さい…最初、ほんとに何が何だか分からなかったんですから……」
「いやでも、金髪の吸血鬼って共通点はあるよね?…まあ冗談はさておき、形だけでも食事をするのとしないのとじゃ違うって言ってたじゃん?勝つ為に一生懸命になるのは良いけど、その為に徹底し過ぎたら、休息を取っててもその内疲れちゃうよ?」
「…まあ、ネプテューヌさん自身、分かった上で食べているなら良いですけど……」
「優勝に直結はしなくても、これは無駄遣いじゃないんだよ、うん。それに……ビッキィだって、ほら」
この美味しいって感じる気持ちは、感じられた事は無駄なんかじゃないもんね。そう思いながら、自分はピィー子に言葉を返して…ここにいるもう一人へと、視線を向ける。
「はふぅ……♪」
「見てごらんよピィー子。苺アイスを食べて幸せそうにするビッキィの顔を」
「私はその顔よりも、積み上がったアイスの器の方が気になりますけどね…後でお腹壊しても知らな……うん?…仮想空間でも、お腹壊すって事はあるのかな…」
ほんとビッキィは美味しそうに食べるよねぇ…と思いながら、更にプリンを食べる手を進める。そうして自分とビッキィは、心ゆくまでスイーツを堪能して、満足した思いでお店を出た。
「よーっし、元気満タンになったし、ここからまた頑張るよー!」
「ふふ…ネプテューヌさん気付きませんか?わたしとネプテューヌさんは同じ様に食べていましたが、一つ辺りの値段はこちらの方が安かった…つまり、今はわたしがちょっぴりリードしているんですよ」
「な、なにぃ…!?くっ、そこまで考えて食べてたなんて…!」
「いや、五十歩百歩でしょうに…というか何故、ネプテューヌさんは私達に同行を?」
「え、駄目?嫌だった?」
「い、嫌ではないですけど…」
「なら良いでしょ?二人も優勝を狙うなら、競う相手にもなるけど…それはそれ、これはこれ。協力も競い合いも、仲良くやれた方がきっと楽しいもん」
競い合いって言ったって、元々これは遊びみたいなもの。なら楽しむのが、楽しめるのが一番だって思いながら自分が言えば、ピィー子は小さい声で「やっぱり、調子が狂う…」なんて言いながら、でもそんな嫌そうじゃない顔で頬を掻いていた。ふふ、ピィー子のこういう反応は可愛いよねぇ。…って言ったらピィー子拗ねちゃうかもだから、言わないけどさ。
「でさ、二人はこれからどうする予定だったの?」
「情報収集ですね」
「情報収集?ガンガン大会に出たりクエストしたりして稼いだりはしないの?」
「でもその結果、またポイントではなくカードとか手に入れてしまっても困るので…」
「あー…それはまぁ、うん……」
ビッキィからの答えに首を傾げた自分だけど、実例…というか皆が経験した実体験をピィー子に出されて即納得。あれはあれで楽しかったし良いんだけど、毎回景品がポイント以外になっちゃうとかになったら…ねぇ。
「ただでもピーシェ様、そんなに罠みたいな大会やクエストがあったりするでしょうか。イリゼさんがそういう事する印象は、あんまりないのですが…。…あ、1300ポイント拾いました」
「確かにイリゼさん自身が考えていたり、チェックしていたりする場合は、ね。けれどもし、これが自動生成されているのだとしたら?」
「自動生成…入る度に作りが変わるダンジョン的な?…お、福引券ゲット〜」
「まあ、そんな感じです。もしもそうならチェックはされていないかされていても甘いでしょうし、情報収集をする事で、判別方法や傾向が分かってくるかもしれませんから。…後、全然関係ないですが私も福引券見つけました」
「そっかぁ、けど自動生成だったらそれはそれで何かわくわくするよね。何が出てくるか分からないって感じでさ。……あれ?これは…やった、わたしも道端でどら焼きはっけーん!」
『それは腐ってるのでは…?』
自動生成…普通にゲームシステムであったりもするけど、なんか格好良い響きがあるよね。後多分、このどら焼きは腐ってない!自分はそういう事にしておきます!
まあそんな訳で、自分達は街中を散策。大会や挑戦っぽいのを見つけてもすぐにやったりはせず、それがどんなものか調べたり、街で話を聞いたり(というか、立ち聞きしたり?)して、とにかく情報を集めていく。
といっても、そんなに有益な情報は得られたりしていない。ただ、気になる話はちょっと聞けて……
『店主が可愛い道具屋…?』
これまで得られたものとは方向性が違う情報に、自分達は三人で首を傾げた。
何が違うかっていうと、情報の内容。これまでは、○○の大会が□□って所でやるらしい、とか、あそこじゃ◇◇が買える、みたいな、そこに何があるのか、何が出来るのかがはっきりしてる情報が殆どだったんだけど、これはそういう情報が全然ない。ただそういう道具屋があるってだけで…明らかに、この情報だけ浮いている。
「気になりますね…」
『え、可愛い店主が?』
「これだけ全然違う、って事がです…!というか、二人共分かってて言いませんでした…!?」
「それは…ねぇ?」
「どうでしょう、ねぇ?」
「うぐぐ…絶対分かってて言ってるよこの二人……」
ピィー子とアイコンタクトするように「ねぇ?」と言い合えば、ビッキィは恨めしそうな目で自分達の方を見てくる。それを華麗にスルーして、自分達は話を続行。
「まあでも気にはなるよね。これだけ違うって事は、きっと何かあるんだろうし」
「…では、行ってみます?」
「あ、ピィー子もそれで良いの?」
「何かありそう、というのは私も同感ですから」
三人全員気になるって事で、そのお店へ行く事に決定。場所は大体の情報しかなかったから、最後は見て回るしかないんだけど…それはそれで楽しいってもの。
「ねぇねぇ、可愛い店主さんってどういう事かな?あ、もしかして動物かな?頭の上が定位置のアンゴラウサギかな?」
「いやそんな事は…無いとも言い切れませんね…だってここ、仮想空間ですし……」
「頭の上と言えば、るーちゃんもそうでしたね。グレイブと愛月から聞いたんですけど、るーちゃん…チルットというモンスターは、頭の上で綿帽子の様に振る舞うのが好きなんだとか」
『へぇ〜』
探しながら、自分達は会話を交わす。想像していく内に、どんどんほっこりした気分になっていく。いやぁ、楽しみだなぁ〜。一体どんな可愛い店主さんがいるのかな〜。
「…あ、ひょっとしてあそこでは?」
そう言って、ビッキィが指差した一軒のお店。道路に面した所にある、個人経営っぽい感じのお店で、色が濃いから入れる事は間違いない。
見つけたんだから、勿論自分達は入ってみる。ここはどういう道具屋なのか。そして可愛い店主さんっていうのは一体どんな店主さんなのか。そこに興味と期待を抱きながら、自分達は中に入る。
「こんにちは〜、大将やってるー?」
「いやなんで居酒屋の常連みたいな言い方を…しかもありもしない暖簾まで捲って……」
「いらっしゃ……あら、ネプテューヌにピーシェ、ビッキィじゃない」
半眼のピィー子に突っ込まれながら、自分はお店の中をぐるりと見回す。道具屋って事だったけど、機械とか武器とかも売ってて、結構商品の幅は広い感じ。
と、そこで聞こえてきた挨拶の声。あれ、聞き覚えがある…と思ってそっちを見ると、そこにいたのはなんとイヴ。んーと…今、イヴは「いらっしゃい」って言おうとしてたよね?で、ここにイヴ以外で店員さんっぽい人の姿はない、って事は…イヴが店主さん?あ、なーんだそういう事かぁ。ここはイヴのお店で、自分達が探していた店主がイヴ……
『って、えぇぇぇぇええええッ!?』
「え、な、何…?突然何……?」
時間差。予想外過ぎた事による、すっごい時間差を経て、やっと自分達は状況を理解した。理解して、それはもうびっくりした。いや、だって…店主がまさかの信次元来訪メンバーの一人だったんだよ?さも当然の様にお店開いてるんだよ?しかも話を聞く位には有名にもなってるんだよ?そんなの驚くよ、驚くって…。…というか…可愛い店主さん、だったよね…可愛い店主さん、可愛い…可愛い……。
「……うん、可愛い店主さんだね」
「えぇ、ですね」
「わたしもそう思います」
「可愛い店主…?」
店主さんがイヴだった事はびっくりだけど、情報は間違っていなかった。だってイヴ、可愛いもんね。
って訳で、自分はイヴに情報の話を伝える事にした。理由?それは勿論…その方が面白そうだからっ!
「そうそう、可愛い店主。自分達街中で、可愛い店主さんのいる道具屋があるって話を聞いて、探しに来たんだ〜。で、入ってみたらほんとに可愛い店主さんがいたって事で今に至る!」
「か、可愛い店主って…また適当な事を吹聴した人がいるのね…人がっていうか、システムがって言うべきなのかもしれないけど……」
「適当?真実だよね?」
『真実ですね』
「じ、自信を持って頷くのは止めて頂戴…」
こくり、と二人がばっちり頷くと、イヴはちょっぴり恥ずかしそうに顔を赤くしながら視線を逸らす。ほら〜、やっぱり可愛いじゃん。これを見られただけでも、価値はあるよね。
「ねぇねぇイヴ、折角だし服装も変えてみたら?私服もクールな感じで格好良いけど、可愛い店主さんに寄せた格好にした方が人気出ると思うよ?」
「だから可愛いなんて…。…百歩譲ってそうだとしても、そうする気はないわ。仮にそれで客足が増えても、複雑な気持ちになるだけだし」
「まあ、それはご尤もですね。ネプテューヌさんも冗談半分だと思うのでそれは置いておくとして…そもそも何故道具屋を?」
「私なりに稼ぐ方法を考えた結果よ。…と、いうのは半分の理由で…もう半分は、ここでなら資源とかリスクとかを気にせず開発実験が出来るからね」
どちらかというとこっちの方が本命。ピィー子からの問いに対して、そんな風にイヴは言う。と、同時に自分も「あー」と納得した。言われるまでは思い付きもしなかったけど…現実と同じような方法で稼げるなら、お店を構えたり自分で物を作ったりして、それを売る事でも当然稼げる筈だよね。…でもそれ、凄く大変っていうか、少額の景品とかクエストの報酬とかをコツコツ積み上げるより大変なよーな…あ、そっか。だから開発実験の方が本命なんだ。
「…あ、じゃあイヴさんが色々な店舗に出入りしていたのは……」
「開発の材料を集めたり、作った物を売ったりする為よ。…にしても、よく知ってるわね…」
今度はビッキィが言う中で、自分は並べられている売り物を物色。機械の方は、何だかよく分からない物も多いけど…ってあれ?武器の方も、よく見たら改造されてるっていうか、機械のパーツが追加されてる…?
「イヴ、これって全部イヴが作ったの?イヴって鍛冶屋さんだっけ?」
「武器に関しては、それそのものは買った物よ。私はそれをカスタマイズしたり、改造したりしてるだけ。現実でこんな売り方をするのは色々問題があるけど…ここはその辺りが緩いみたいで助かっているわ」
「だけ、っていうにはかなり凄いような…この、炎が出るらしい剣もそうなの?実は旅人が売りに来たとか、ストックして持ち越す事で金策になるとかじゃなくて?」
「いやネプテューヌさん、後半は全然関係なくなってますから…」
「あー…それは少し違うわ。それはあるお客にオーダーメイドの仕込み杖を頼まれた時、協力してもらって作ったものよ。だから私が作ったというか、向こうの比重が大きい合作…って感じね」
あ、じゃあこれは純イヴ製じゃないんだ…と思った自分だけど、だとしても凄い。剣にしろ銃にしろ、武器をカスタマイズ出来るだけでもかなりの技術だった事は、素人の自分にだって分かる。
「…これは、グローブ…いえ、ガントレットですか。他のもそうですが…これは特にメカメカしいですね…」
「それには色んな機能があると自分は見るね!仕込んである刃が出てくるとか、力が倍増されるとか、アビリティカードをセット出来るとか!」
「そんな機能はないけど、色々機能を付与してる…というのは正解よ。脈拍の常時計測に、レーダー用電波の送信機能に、展開式の小口径砲。これはそのままだと単発装填しか出来ないけど、オプションとしてマガジンをセットすれば、その分装弾数を増やせるわ」
まあ、マガジンを付けるとガントレット本来の機能が使い辛くなるんだけどね。…そう言って、イヴは肩を竦める。因みになんで最初だけ健康器具みたいな機能なのか訊いたら、前腕に装着する物だからって事と、他二つの機能を入れたらスペースに余裕がなくなったから…っていうのが理由なんだとか。
「ガントレット本来の、防具としての機能も最低限維持しつつ、取り回しが悪くならないよう厚みや幅も出来る限り抑えて、その上で実用的な機能を盛り込む…妥協すれば機能なんて楽に沢山搭載出来るけど、脆い上に取り回しも最悪な装備なんて、使いたくないでしょう?」
「えぇ、そうですね。…と、いうか…イヴさんはもしや、所謂メカオタ……」
「違うわ、私はただの技術者よ。技術者であり…今は私を頼ってくれる人を、支える人間でもある…なんて、気取り過ぎかしらね」
「そんな事はないと思います。誰かを支えたいと思うその気持ちは、尊いものですから」
メカオタじゃないと言いつつ、イヴの語りからは熱を感じる。オタかどうかはともかく、普段から熱意を持ってやって作ったり、改造したりしてるんだろうなぁ、と思う声で…気取り過ぎかしらと自嘲気味に笑ったイヴへ、ピィー子は首を横に振った。自分もそれに、頷いた。
「ビッキィは、イヴの気持ちが分かったりするんじゃない?」
「…はい、分かります。わたしもそうありたいと思ってますし……え、あれ?今の、支える云々についての事ですよね…?メカに対する熱の話じゃないですよね…?」
「いやいや違うって…この流れでそっちのパターンになる可能性があると思う…?」
「でもねぷ姉さんの思考はわたしじゃ及びも付かない次元なので…。……ところでイヴさん、わたしも一ついいですか?」
「えぇ、何かしら?」
「そもそもの話として、 こういうのって売れるんです…?今仮想空間の中にいるのって、イヴさん除くと十七人しかいない訳ですし……」
あ、そういえばそうじゃん。お店なんだから、買いに来てくれる人がいなきゃ成立しないじゃん。…ビッキィの質問を聞いてすぐに、自分もそう思って…でもそれなら問題ない、とイヴはすぐに返す。
「と、思うでしょう?けど……あ、丁度来たみたいね」
丁度来た、とイヴが言った直後、お店の扉が開く。誰だろう、と思った自分が見ると、入ってきたのは知らない人。多分その人は、この仮想空間のNPCで…カウンターに行くと、イヴと会話。その中では「この商品を買わせてもらうよ」っていう言葉も出てきて…自分達は理解する。どうやって、このお店が成り立っているのかを。
「…こんな風に、買いに来る人がちらほらといるのよ。まぁ、これまでちゃんと見てくれた人はごく僅かで、大概は即カウンターに来て、商品を見ないで購入の話をしてくる辺り、独自の思考プログラムで動いてる訳じゃなくて、他のお店の店員なんかと同じ、選択肢毎に決められた反応と行動をするだけなんだと思うけど、ね」
これじゃあ味気ないし、いまいち売っている気もしないわ、とイヴはまた肩を竦める。うーん…確かにそれじゃ詰まらないよね。ほんと、作業的に売買を成立させてるだけっていうか、見てても接客感はなかったし…。…あ、でも逆に言えば、それだから一人でもお店を回せるのかな?商品説明とかしなくていいなら、その分改造とかカスタマイズとかに時間を割ける訳だもんね。
「よーするに、イヴはちょっと思うところもあるけど、独自の形で仮想空間を楽しんでいる店主なんだね」
「どうしてジャパリパーク風に言ったのかは分からないけど…そういう事よ。さっきも少し言ったけど、ここは色々試すのに丁度良い場所だもの」
「あ、言ってましたね。仮想空間だから色々気にせず出来る…んでしたっけ?」
「そうよ、ビッキィ。けど、理由はもう一つあって…これは言うより見てもらった方が早いかしら」
付いてきて。そう言って、イヴはお店の奥へ向かう。なんだろうと思って付いていくと、奥にあったのは、作業場って感じの部屋。…あ、ここは工房って表現した方が格好良いかな?
「今からこれを軽く改造するわ。見ていて頂戴」
イヴが取り出したのは、拳銃。それを作業机に置くと、イヴは作業を始める。
(銃の改造なんて見た事ないから、ちょっと楽しみだなぁ)
見た事はないけど、集中しなきゃいけない事なんだろうなぁっていうのは想像が付く。だから自分は静かに見ている事にする。ピィー子とビッキィも、黙って見ている。で、自分達が見ていると、途中でイヴの前に…ウィンドウって言えば良いのかな?ゲームとかPCとかの表示みたいなのが出てきて、それをイヴが操作すると、銃が凄い勢いで動き出して……
「…はい、改造完了よ」
『へ…?』
触れてもいないのに動く、パーツが外れたり装着されたりしていく拳銃。そうしてその、謎の現象が止まった時…拳銃には、ナイフの刃っぽいのが付いていた。銃剣になった拳銃、拳銃剣になっていた。
「い、いやあの…勝手に動いてませんでした…?…ポルターガイスト現象…?」
「まさか。怪奇現象じゃないし、私が念力か何かで動かしていた訳でもないわ。そういう事じゃなくて…必要な資材やパーツを用意して、改造の内容を入力すれば、後は仮想空間側が自動且つ高速でやってくれるのよ。まあ、私の知識や考えている手順を読み取ってるって事だから、何でも出来る訳じゃないんだけどね」
「えーっと…つまりゲームで言う、オートモードとかお任せ○○、みたいな感じ?」
「多分そんな感じね。普通なら何時間も、何日もかかるような事でも、あっという間にやってくれるから、次々と試す事が出来るって訳よ。…ちょっと使ってみる?」
ぽかんとしたピィー子の問いに答えて、イヴは何が起きたのか教えてくれる。ついでに試し撃ち&試し斬りもさせてくれる。
「おー、これは…格好良いけど、ちょっと使い辛いね。慣れればもっと上手く使えるのかな?」
「…これ使うなら、二丁拳銃&双剣スタイルで使ってみたいような……」
「あ、分かる!すっごい分かるよビッキィ!」
「さっきはさらっと説明してましたけど、自動且つ高速って、凄まじい事ですよね…。仮想空間とはいえ、よくそんな事が……」
「いや、案外驚く事じゃないのかもしれないわよ。だってほら、計算やデータの複製、転写だって、機械は人が手作業でするより遥かに早くやれるでしょ?」
「…それは、確かに」
「設計図や入力した内容通りにやるなら速くて当然だと私は思うわ。それより難点は、プランに問題があっても失敗するまで分からない事ね。手作業なら感覚で不味そうだって分かる事も、自動にしておくと勝手に駄目になるまで進めちゃうから、そこは気を付けないといけないわ」
自分とビッキィがテンションを上げる中、ピィー子とイヴは会話を続行。それから一頻り試して満足したところで、自分達は奥から店頭に戻る。
「いきなり来たのに色々教えてくれてありがとうございました」
「気にしなくて良いわ、ピーシェ。今のところはそんなに客の入りが多い訳でもないし…」
「あはは…でもなんか、話を聞いてたら自分も作ってみたくなっちゃったなぁ。マイ箸感覚で自分も試してみようかなぁ」
「マイ箸感覚で作れる武器って…。…試しても、イヴさんの言う通りなら失敗して終わるだけだと思いますよ?」
酷い、やる前から失敗するだなんて!…と言いたいところだけど、確かにイヴの話からすれば、失敗するような気がする。だって、武器の改造なんてやった事もないんだし。
…と、自分が思っていると、顎に指を当てていたイヴが不意に声を上げた。
「…あ、それ良いかも」
『……?』
え、どれが?どれがどう良いの?…そんな風に自分達が困惑する中、イヴは一人「これなら今より客の入りが良くなるかもしれないし、私にはない発想も云々」…と呟いていて、余計に困惑。何かしら閃いたっていうのは分かる。でもそれだけ分かっても、むしろ余計に訳が分からなくなるだけで……結局イヴは何を閃いたのか。それを自分達が知ったのは、(仮想空間の中での)翌日、街中で「カスタマイズ体験が出来る、店主が可愛い道具屋」の噂を耳にした時だった。
*
「…やっぱり、ポケモンという存在…貴方達の世界のやり方から少し離れた方がいいんじゃないかしら。勿論、それに拘る…というか、そのやり方を貫く事に意味があるなら、そっちでもう少し考えてみるけど」
考えて、試して、結果を分析する。その後はまた考えて、試してみる。物を作る上で…ううん、何かを進める上で、共通してこの流れは必要になる。
そして重要なのは、見直す事。目の前の失敗、その何が駄目だったかだけじゃなく、時にはもっと前…そもそもの発想やコンセプトを見直す事もしなくちゃいけない。幾ら枝葉を整えても、根や幹が痛んでいるなら草木は弱ってしまうのと同じように、ね。
「うーん、そうだよね…こっちのモンスターとポケモンは、同じ『モンスター』でも色々違うもんね…」
「けど、ただ捕まえるだけなら最悪力尽くでも良いんだよなぁ。でも、それじゃあ詰まんないっていうか…折角の仮想空間なのに、そんな方法じゃ味気ないだろ?」
「味気ないどころか、むしろ一番過激な気がするけど…だとすれば後は、魔法かしら…」
「だよなぁ。…よし愛月、魔法使えるメンバーに片っ端から話を付けてくるぞ!」
「あ、うん。それじゃあまた来るね、イヴさん」
そうと決まれば行動するだけだ。そう言わんばかりにグレイブは出ていき、愛月は慣れた様子で追い掛けていく。二人の事を見送って…ふぅ、と一つ息を漏らす。
「モンスターを捕まえられるボール…面白い試みではあるけど、流石に私一人じゃ手に余るわ……」
先日受けた、魔法の使用を前提にした仕込み杖の製作協力と、遊びに来た(…のよね…?)ネプテューヌ達三人とのやり取りで思い付いた、カスタマイズ体験。単に依頼を受けて、私が作るんじゃなく、依頼者と話ながら、トライ&エラーまで内容に組み込んだ体験は、客足を増やす事に成功したし、私としても色々な考え方を知る機会にもなっているけど…この通り、時々難し過ぎる依頼が入ってくる事もある。それもリアルと言えばリアルだけど…何だかこのまま続けていたら、技術者としての能力より店員としてのスキルの方が磨かれそうな気がしてきたわ…。
(…いや、でも…よく考えたら、捕まえる技術というか、使役する技術はある筈よね…真っ当な技術だとは思えないけど、その方向からアプローチするというのは……)
思い出すのは、自分の経験。決して良い思い出じゃないけど、参考にはなるかもしれない。
けれど問題は、その具体的な方法、手段はさっぱり分からないという事。仮想空間だからって何でも出来る訳じゃないのは、自動カスタマイズ機能ではっきりしている事だし、仮にその方向でアプローチするとしても、もっと考えを詰めないと……
「ここが例のお店ね…店主さん、いるかしら?」
そう思っていたところで、新たなお客が来店した。聞き覚えのある声だと感じながら出入り口に目を向ければ、そこにいたのはセイツ。
「いらっしゃい。購入目的かしら?それとも体験依頼?」
「え、イヴ?」
どうして?そう言いたげな顔で、セイツは目を丸くする。予想通りの、これまで来た知り合い皆が例外なくしたのと同じ顔を見せるセイツに対して、私は軽く説明を返す。ここなら色々試せそうな事、素材やベースとなる物を買う為のポイント工面の為に、販売を行っていた事、その内にこの空き店舗の存在を知って、購入を決意した事、そして購入でポイントが底を尽きたから、改めてポイント獲得に勤しんでいる事……改めて振り返ると、我ながら楽しんでいるのかいないのかよく分からない自分の経緯を話すと、セイツはふむふむと頷きながらそれを聞いていた。
「そういう訳だったのね。じゃあ、イヴが店主で間違いないかしら?」
「間違いないわ。見ての通り店員は私一人だから、そもそも選択肢はないんだけどね」
現状一人だし、今のところ増員する気もない。…と、私が思っていると、セイツは私をじーっと見つめ…それから言う。
「確かに、可愛く美しい店主ね…うん、噂通りだわ!」
「ちょっと待って、貴女もその口なの…?というか、形容詞が増えてない…!?」
「そうなの?でも、実際可愛いし美しいじゃない。平常時や何かに取り組む時の熱心な貴女の感情は美しいし、弄られたりした時のイヴの心は可愛いもの」
「そんな視点で人を見るのは、貴女位なものよ…」
可愛い、だけでも妙な噂が流れたものだと思ったのに、いつの間にか美しいまで付いているだなんて。一体誰が、こんな噂を流しているのか。噂だけじゃなく、した覚えのない宣伝までされているみたいだし、店を開いた時点でこの仮想空間側がその辺りのサポートをしてくれてるんだろうけど…一体どんなプログラムを組んだらこんな噂が流れるのか、逆に気になってきたわ…。
「…じゃあ、セイツは私目当てでここに?」
「店主目当てで行くお店って、バーとか小料理屋みたいね…正直その通りだけど、体験の方も気になるわ。何でも出来るの?」
「私が分かる範囲なら、ね」
そこは要相談よ、と言って私は席をセイツへと進める。店では武器類、特に銃器類を取り扱っているけど、私は鍛冶屋や武器職人じゃないから、出来れば機械類の体験相談であってほしい。
「それじゃあ取り敢えずは、機体の性能が数倍に跳ね上がる、凄い回路を……」
「シェア欠乏症ならうちじゃどうしようもないわ、ごめんなさい」
「じょ、冗談よ…冗談だから、真顔で謝るのは止めて頂戴……」
「…もしかして、何も思い付いてないの?」
「そ、そんな事はないわ。わたしだって、常日頃から機械関係じゃ色々困ってるもの」
「…と、いうと?」
「えっと…フィルムがどうしてもちょっとズレちゃうとか、ハードを複数置いておくと配線がこんがらがるとか、ボタンが凹んだまま動かなくて、でも押せばちゃんと反応するから逆に何とも言えない気持ちになるとか……」
捻り出すように言うセイツ。けれど何と言うか、セイツの困り事は私の予想の斜め下で…内心辟易としてしまう。最後のはまだ、実物があるなら修理を試してみてもいいけど、前者二つは機械絡みであっても、工学部分とは全く関係がない。それはもう違う知恵の領分だし、仮に引き受けたらもう道具屋じゃなくて万屋になってしまう。…尤も、道具屋に拘るつもりもないけど。
「思い付かないなら、無理に捻り出そうとしなくてもいいわ」
「い、いや出るわ!もう出かかってるから、ここまで来てるから!」
「ここまでって…首?」
「そ、そう首よ首!……足首だけど…」
「じゃあまだ『何かあった気がする』レベルじゃない…」
「うぐっ……あ…そうだわ!大丈夫、今度こそ思い付いたから!」
そこまで無理して考えなくても良いのに。…と、思いはしたけど、ここまで来ると止めるのももう失礼というもの。そう思って私が見ていれば、今度こそ、とセイツは言って自らの発想を口にする。
「グレネードランチャー、ってあるわよね?あれの銃剣バージョンって、作れないかしら」
「グレネードランチャーの銃剣…?」
いきなり出てきた、銃火器を改造する提案。出来る出来ない以前に私が思ったのは「何故?」という事であり、まずはそれを解消すべく訊き返すと、すぐにセイツは答えてくれた。
「わたしは戦う時、技の一つとして圧縮したシェアエナジーを撃ち出すのよ。で、シェアエナジーは圧縮状態が解けると、爆ぜるように周囲へ広がるの。そしてシェアエナジー弾を撃ち出す時は、基本的に剣を芯にしたシェアエナジーのバレルを使うから……」
「それをここで再現したい、だから銃剣型グレネードランチャーを…って訳ね」
「そういう事よ。出来そう?」
「出来るかどうかで言えば、出来るわ。簡単…というと少し語弊があるけど、単に改造するだけで済むもの」
納得のいく返答を受け、今度は私がセイツからの問いに返す。
話を聞く限り、セイツが考えているのはライフルのアタッチメントとして装着するようなグレネードランチャーではなく、グレネードランチャーそのものに銃剣を装着するというもの。要はライフルがランチャーに置き換わっているだけだから、具体的な方法もすぐに浮かぶ。
「…なんだか、含みのある言い方ね。何か懸念点があるの?」
「懸念というか、実用的じゃない気がするのよ。一応訊くけど、セイツが考えている銃剣っていうのは、ナイフ位の刃物が付いてるタイプじゃなくて、ネプギアのM.P.B.Lみたいな、しっかりした刃があるタイプよね?」
「えぇ、出来れば銃に剣が付いているというより、剣にグレネードランチャーが付いてるような形にしたいところだけど…それは流石に難しいでしょ?」
「単発撃ち切り型ならともかく、二発以上ってなると…出来なくはないけど、凄く使い辛い代物になるわね。…話を戻すけど、グレネード弾は普通の弾丸…いや、普通の弾丸って言っても種類があるけど…より癖の強い、射撃よりも爆撃に近い運用をする弾頭よ。だからグレネードと剣を適宜切り替えて戦う場面なんてそうそうないだろうし、正直グレネードランチャーはグレネードランチャー、剣は剣で持ってた方が使い勝手は良いと思うの。セイツがそれを実現してるのも、単に『剣+グレネード』って説明じゃ収まらない、色んな要素があるからだと思うし」
作るのは、すぐにでも出来る。だけど、作れるかどうかと、出来たものが依頼人の希望通りのものになるかどうかは全くの別。仮にリクエスト通りの物を作っても、依頼人が漠然としたイメージしか持っていなかったり、詳しくなかったりする場合は、「思っていたのと違う…」ってなる可能性は十分にあるし…私も作る以上は、満足してもらえるものにしたい。そしてその為には、要望を真っ向から否定する形になってでも、自分の見解を述べるべきだと…私は思う。思うから、言った。
「うーん…言われてみると確かにそうかもしれないわね…じゃあイヴ的には、止めておいた方が良いと思う?」
「少なくとも、普段のやり方と同じように使える武器にはならないと思うわ。…でも、止めておいた方がいいかどうかは別ね」
セイツの想像した通りのものには、きっとならない。でも、私は止めるべきだとは思っていない。…それは、何故か。それを伝える為に、私は続ける。
「だってここは仮想空間で、改造もかなりの時間短縮が出来るんだもの。現実でやったら無駄の多い事でも、ここなら良い経験にする事が出来る。それに、作って使ってみたら、意外な利点が見つかった…なんて事になる可能性もゼロじゃないもの。セイツだって別に、自分の新たな相棒になる武器を作る為に提案してきた訳じゃないでしょ?」
「それはまあ、そうね。言い方は悪いけど、遊び感覚というか、折角だから思い付いた事を試してみたいだけというか……」
「なら、作ってみても良いと思うわ。興味を、思いを形にする…それは、それだけでも価値のある事だって、私は思うもの」
「イヴ……」
これは全て、私の本音。良い事も悪い事も、実際に作るまでは100%分かる訳じゃないし、試す事は、形にしてみる事は、それだけでも価値がある。その結果が大きな一歩になったとしても、派手に転ぶ形になったとしても…前には進んでいるんだから。…まあ、周りも巻き込んだ大事故になるようなレベルだと、流石にその限りじゃないけども。
とにかく、私からの意見は伝えた。後はセイツが試すか止めるかを決めるだけ。そして私を見つめていたセイツは、ゆっくりと一つ頷いて……
「思いを形にするだけでも価値がある…なんだか恋愛におけるプレゼントみたいね」
「…あのねぇ……」
「ふふっ、ふざけてごめんなさい。…イヴ。初めは本当に思い付きだったけど、折角貴女が色々考えてくれたんだもの。だから…やってみたいわ」
「…分かったわ。それじゃあ、改造体験開始ね」
またそういう話を…と一度呆れた後、真剣な顔で返してくれたセイツへ首肯。彼女からの依頼を請け負った私は、手始めにグレネードランチャーに関するもっと詳しい説明をする。種類や構造を伝え、一通り話した後は、設計の段階に移る。
手っ取り早く完成させるなら、私一人でやる方が良い。でもこれは改造体験。私は教えるだけで、やってみるのはセイツ自身。だからこそ、尚更やってみる価値はあると思う。
「えぇ、と…ここにこれを取り付けて……」
「そこは下からじゃなくて横よ。スライドさせて嵌め込む溝があるでしょ?」
「あ、ほんとだ。…それにしても、真剣なイヴ良いわ…!さっきは美しいって言ったけど、それだけじゃない情熱を感じるというか、ひたむきな格好良さが……」
「変な事言ってないで、きちんと嵌め込んで頂戴。どこか一つでも雑にすると、それだけで壊れたり怪我に繋がったりする事位は貴女も分かるわよね?」
「あ、はい…ごめんなさい……」
作った改造プランを見ながら行っている関係で、今は自動機能が起動しない。けど他にお客もいないから、私はセイツの指導に専念。
そうして改造依頼を受けてから暫くの時間が経ち…銃剣型グレネードランチャーは、完成する。
「ふぅぅ…出来たわ……」
「お疲れ様。流石は女神なだけあって、集中し始めてからは凄かったわね」
「ありがとう、イヴ。でもそれも、良いアドバイザーがいてくれたからよ」
伸びをした後笑うセイツに、私も笑みを返す。今回は元から仕入れてあった剣とグレネードランチャーをベースにして、必要なパーツは基本私が作ったから、セイツがしたのは主にパーツの細かい調整や最終的に行う組み立て。それでも楽な事ではないし、本当にセイツの集中力は凄かった。
「しかし…思っていた以上にゴツくなったわね」
「でもその分、なんだか格好良さもある気がするわ。ねぇイヴ、これ少し試しても良いかしら?」
「勿論構わないわ。それは貴女の物だもの。…まあ、材料費含めて支払いはちゃんとしてもらうけど」
「当然ね。それじゃあ……」
きちんとポイントの支払いを受けて、私は正式に銃剣型グレネードランチャーをセイツへ渡す。完成品を見てもやっぱり実用性に難があるかもしれないけど…それでもセイツ自身が満足してくれるのなら、それで良い。
そうして受け取ったセイツは、早速試しに…と行きかけたところで、また新たな来客が訪れた。
「へぇ、見た目は普通…って、うん?セイツにイヴ?」
その来客はカイト。ぐるりと店内を見回した彼は、私達に気付いて小首を傾げる。…なんで噂に私の名前は組み込まれないのかしら…。
「二人もここの情報を聞いて来たのか?」
「ううん、わたしはそうだけど、イヴはその情報の当人、可愛く美しい店主さんよ」
「その紹介は止めて頂戴…それ私が流した訳でも認めてる訳でもないんだから……」
「可愛く美しい…?」
「……?…もしかしてカイト、情報の内容が違ってたの?」
何やら怪訝な顔をするカイトを見て、私は気付く。気付くと共に、安堵する。良かった、やっと変な噂が修正され……
「ああ、俺が聞いたのは『明るく、激しく、可愛く、そして美しい店主の道具屋』って情報だった」
「それは最早プロレス団体みたいになってるじゃない…何よ、激しい店主って…気性が激しいの?だとしたら店主として問題よ……」
「え、突っ込むところそこ…?他の…というか、可愛く美しいはもういいの…?」
えぇ…?…という顔をセイツにされる私だけど、もうそこまで突っ込む気力はない。違うには違うけど、まさか悪化してるなんて…なんかもう、変な疲れが出てきたわ……。
「…ところでセイツ、それは?」
「あ、気になる?これはイヴに協力してもらって作ってみたのよ。…そうだ、ちょっとこれを試すのに付き合ってくれないかしら。何なら直接対決の形にしても構わないわ」
「うん?それ位なら別に、対決云々なしにも手伝うぞ?見た目銃剣っぽいけど、どんな武器か気になるしな」
それは楽しみだ、とばかりの顔をするカイトと共に、セイツは出ていく。気落ちした気分を一旦切り替えて、私は試しに向かう二人を見送る。
後々…試したセイツ自身が教えてくれた事だけど、やっぱり銃剣型グレネードランチャーは使い辛いとの事だった。取り回しの面は勿論だけど、他にもシェアエナジー弾の強みである視認性の低さがなかったり、ランチャー主体の作りと剣術主体なセイツの戦法自体が噛み合ってなかったりと、武器単体として見れば、残念ながら失敗と言わなくちゃいけないような結果だった。
でも、セイツは言ってくれた。これはこれで貴重な体験が出来た、と。これそのものは使い辛くても、得られた情報と経験は何かに活きそうな気がする、と。…そう言ってもらえただけでも、やっぱり嬉しかった。
(銃剣型グレネードランチャー…今回は失敗だったけど、まだ練りが甘かっただけの可能性もあるわよね。だから…例えば、剣を芯にパージ前提のランチャーを被せるとか、いっその事剣で刺して、丸ごと手放して、相手に超至近距離からグレネードを浴びせる武器みたいな、コンセプトから見直して考えてみれば……)
「戻ったぜ、イヴ!」
「わっ…!?…は、早いわね……」
それからまた少ししたところで、魔法を使える面々と話してきたらしいグレイブが再び来店。遅れる形で、へろへろになった愛月も到着。別に私は逃げないんだから、そんなに急がなくても…と思ったけど、言うのは止めた。それが意欲から、早く作りたいって思いから出た行動なら、水を差すのは悪いもの。
「麻痺させる魔法、サイズを変える魔法、相手の精神に干渉する魔法…とにかく役に立ちそうな魔法な事を、片っ端から聞いてきたからな。参考になりそうなのがあったら言ってくれ」
「はぁ、ふぅ…それと、そもそもの話だけど、僕達の持ってるモンスターボールは参考にならないかな…?僕等は細かい事なんて分からないけど、イヴさんなら何か分かったりしない…?」
「あ…そうね、言われてみればその通りだわ…。なんで私、そのボールの構造を調べる発想が出なかったのかしら……」
灯台下暗し。モンスターを捕まえるボールを作りたいなら、まずは別世界のモンスターを捕まえられるボールを参考にすればいいのに、まさかそんな初歩的な事を失念していただなんて。…そう私は反省すると共に、改めて思った。これはまたちょっと違うけど…やっぱり、一人で黙々と考えるより、誰かの意見を聞いた方が、考えは広く大きく変化すると。
「そういえばさ、もし仮にボールが出来たら、どんな名前にするのがいいかな?
「そりゃ、イヴが作ってくれる…あーいや、協力してくれる?…まあどっちでもいいか。…ボールなんだから、ガンテツならぬイヴボールか、ユリアンティラボールだろ」
「まだ名前の話をする段階じゃ…というか、どっちも止めて…恥ずかしいから絶対止めて……」
そんな名前を付けられたら、恥ずかしくて仕方がない。もしうずめ辺りに知られたら、なんか妙に生暖かい目でからかわれる事間違いない。だから私は、断固拒否し……それからまた、二人の要望に応えられるよう、頭を捻るのだった。
……因みに、最終的に噂は『あなたの心にいゔはーと!』になっていた。…もう、好きにして…。
今回のパロディ解説
・「〜〜非っ常においしー!」
俳優やコメディアンである、財津一郎こと財津永栄さんのギャグの一つの事。もしかしたら、あのポーズもしていた…のかもしれません。
・「〜〜見届けさせて〜〜行く先を〜〜」
軌跡シリーズに登場するキャラの一人、紅のローゼリアの台詞の一つのパロディ。ズェピアであれば、言いそうな気がしないでもないような台詞ですね。
・頭の上が定位置のアンゴラウサギ
ご注文はうさぎですか?に登場するキャラの一人(一匹)、ティッピーの事。直後のシーンでも触れていますが、イリゼの頭の上はるーちゃんの特等席です。
・「〜〜炎が出るらしい〜〜金策になる〜〜」
ドラクエシリーズに登場する武器の一つ、破邪の剣の事。更に言うと、ドラクエ4におけるネタのパロディでもありますね。
・「〜〜機体の性能〜〜凄い回路を……」、「シェア欠乏症なら〜〜」
機動戦士ガンダムに登場するキャラの一人、テム・レイ及び彼の開発した回路の事。シェア欠乏症…実際そんな事になったら、女神は存在としての危機です。
・「〜〜明るく、激しく、可愛く、そして美しい〜〜」
プロセス団体の一つ、スターダムのキャッチフレーズのパロディ。最早道具屋要素が吹っ飛んでいますね。元からあんまりその要素はなかった気もしますが。
・あなたの心にいゔはーと!
Vtuber、いるはーとのキャッチフレーズのパロディ。「る」と「ゔ」は子音が同じなので、割と響きは悪くないですね。イヴ本人は絶対言うの拒否しそうですが。