超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第二十六話 最速を求めて

「誰が一番強いか。最強は誰か。誰しも一度は思う事よね。考えるし、想像するし、時には自分こそがってその高みへ、頂点の座へ挑もうとする。…けれど、気になるのは、知りたいのはそれだけ?答えが出る瞬間を見たいのは、最強の座だけで良いの?わたしはそうは思わないわ。それだけじゃ満足しないわ。皆だって、気にならない?──最速は、誰だって」

 

 会場に響く、セイツの声。その声に、無数の答えが、反響もまた響き渡る。それをじっくりと、たっぷりと時間を掛けて聞いた後…セイツは再び口を開く。

 

「えぇ、そうよ!最強だけじゃない、最速だって知りたい、それが決まる瞬間を見てみたい!それに答えを出す時が、来たわッ!」

 

 心を昂らせているかのような声と共に、セイツは手を振る。振るった先、スポットライトの当たる舞台を指し示す。

 

「この答えに、この戦いに挑む四人を紹介するわ!まずは神生オデッセフィアの守護女神にしてわたしの妹、イリゼ!新進気鋭の守護女神として凡ゆる事へ挑んでいく彼女は、最速の座も見逃す事なんて毛頭ないわ!そうでしょう?イリゼ!」

「ふふ、ありがとうセイツ。…最速の座、これを今まで求めた事、意識した事はないが…それを決めんとするならば、勝負というのであれば、ここに私が立つのは必然。そして向かう先は…言うまでもないだろう?」

「ふふっ、言うまでもないわね!それじゃあ二人目、別次元からの来訪者にして幾つもの次元を、世界を渡り歩いた女神、エスト!魔導においては双子の姉共々他の追随を許さない彼女は、純粋な速さにおいても追随を許さないのか、さぁ教えて頂戴!」

「他の追随を許さない、ね…中々良い紹介をしてくれるじゃない。まあそれはともかく、ここできっちり二冠に輝かせてもらうとするわ。わたしのものに決まってる最強と、これからわたしが掴む最速の、二冠に…ね」

「自信に溢れる彼女の速さ、これは注目必須ね!さぁ、続けて三人目、同じく来訪者であり、他とは違う在り方を持つ守護女神、篠宮アイ!何者にも囚われない、掴ませなどしない唯一性を持つ貴女は、やっぱりぶっちぎりの最速を狙うのかしら?」

「はッ、そりゃ何であれ勝負する以上、半端な勝ちなんて狙わねぇよ。相手も女神?全員強敵?…上等だ、誰が相手だろうと捩じ伏せてやる。正々堂々、小細工なしに…文句なんざ欠片も付けられねぇ位にな」

「早くも臨戦態勢、ここでも速さを見せ付けてくれるわね!最後に紹介するのは、今回この勝負の為だけに来てくれた女神、オレンジハートこと天王星うずめ!どうしてこれだけの為に来たのか…それは皆の目で確かめて頂戴!きっとすぐに分かる筈よ!」

「ふふーん、遂にうずめも登場だよ〜!うずめってあんまり速いイメージないかもしれないけど、そんな事ないんだからねー!うずめの速さと凄さを、これから皆に見せちゃうよー♪」

 

 一人一人に光が集まる度、四人の挑戦者は高らかに声を上げる。誰一人として、声音に不安の色はない。勝つのは自分である…その意思を示す四人には次々と声援が上がり、その声援に四人が返したのは自信と闘志に満ちた笑み。

 今、最速の座に挑むのは全員が女神。であれば激戦は…必至。

 

「皆の思いは十分伝わったかしら?伝わったわよね?なら、これ以上の言葉は必要ない、ここから先は勝負あるのみ、そうでしょう?だから……」

 

 そこで一度言葉を切るセイツ。それからセイツは大きく息を吸い……言った。

 

「42.195…なんて中途半端な事は言わないわ!キリ良く、激しく……42195㎞最速決定戦、これより開幕よッ!」

『いや、長ぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

 そうして始まる、最速を決める為の戦い。最速の座を、などと大層な表現をしているが……要は、やたら距離の長い競争である。

 

 

 

 

 仮想空間での時間が、日数が進み、各々がポイントを重ねていくにつれ、仮想空間内のイベントや依頼の内容、規模も次第に大きくなっていった。より大規模なものが増えていった。

 これも、その一つ。常人どころか、超人の域へ片足突っ込んだ程度の存在をも置き去りにするような勝負に対し、意気揚々と挑戦の意思を示したのが、全員女神であった事は…ある意味で、必然というもの。

 

「この世紀の一戦…になるかもしれない勝負の実況は、わたしセイツが、解説にズェピアを、ゲストにイリスちゃんを迎えてお送りするわ!」

「よく分からないけど、呼ばれたから来た」

「これは中々の激戦になりそうだね。ところで、セイツ君は参加しようとは思わなかったのかな?」

「思ったわ。でも、良い感じにテンションの高い実況の出来る人材って、限られてるから……」

「あぁ…演者は時に脚本に振り回されてしまうもの。頑張り給え、セイツ君」

 

 開始までの、少し長めのカウントダウン。少し落ち着いたやり取りが実況席で行われる中、スタート地点でもやり取りが交わされる。

 

「観客の人数凄いわねー。けど、これも全部NPCみたいなものって思うと、ちょっと虚し…くもないわね。演出だって思えば、そんなものかで済ませられるし」

「実際演出みたいなものじゃないかな、そういう仕様の仮想空間な訳だし」

「ま、そこは勝負にゃ関係ねーな。ところで、ここに来ていきなり参加なんて、どんな風の吹き回しだようずめ」

「深い意味はないよ〜。面白そうだからうずめもちょっとやってみたいな〜って思ってて、入ってみたらこの競争のエントリー期間中だったから、えいやって参加してみたの♪」

 

 一見すれば緊張感のない…しかし裏を返せば余裕を失っていない四人の会話。穏やかなやり取りに見えて、その実互いの腹を探り合っている…という事はなく、どうやら本当にただ会話を交わしている様子。

 だがそれも、開幕が迫るにつれて減っていく。段々と四人の表情は引き締まり、最後には離れて進路を見据える。そして……

 

「さあ皆、見届ける準備は良いかしら?5、4、3、2、1…スタートよッ!」

『……ッ!』

 

 セイツが腕を振り上げると共に、四人は一斉に舞台の床を蹴る。翼を広げ、飛び上がり、遥か彼方のゴールへ向けて空を駆け始める。

 

「まずは一斉にスタートダッシュ…いいえ、スタートフライを駆けた四人!速度は同等、横並びで……あっとでもイリゼが抜け出したわね!圧縮シェアエナジーの開放を利用した加速で、トップに躍り出たわ!」

「早速ただ飛ぶだけじゃない技術を駆使し始めた訳だね。アイ君、うずめ君は横並びのまま追随を掛けて…最後尾はエスト君か。彼女はじっくりと攻めるつもりかな」

「四人共、凄く速い。これが目にも留まらぬ……」

『……?』

「…留まらぬ?速いのに、留まる?目にも映らぬ、ではなく?」

「それはまぁ、うん…。…良かったよ、君が某暗殺チームの一員の様に、諺や言い回しの気になる点について突然キレながら文句を言ったりする性格でなくて……」

 

 実況席で語られる通り、イリゼは圧縮シェアエナジーを加速に用いる事で先行し、三人が続く。ルートは直線ではなく、既に数度の曲がり角を抜けているが、四人は全員が力で強引に慣性を捩じ伏せる事で、殆ど速度を落とさず曲がり角を抜けていく。

 

「むー、いりっちやっぱり速いぃ…!」

「けど、そいつは乱用出来るような手段じゃねぇ。おまけに負担を重ねれば、コーナーを無理矢理曲がるのがキツくなる…そうだろ?イリゼ」

「よく分かってるね、流石はアイ…けど、これだけ先行出来たなら十分…!」

 

 アイが指摘した数秒後、イリゼは圧縮シェアエナジーによる加速を止める。それにより今以上の距離は開かなくなるが、加速によって得られた優位は変わらずそのままイリゼが先行する。

 とはいえこれは、ただ速度を競うだけの勝負ではない。それを示すように、最初の『障害』がイリゼ達の視界に入る。

 

「全員第一関門エリアに入ったわね!この勝負を盛り上げる為のギミック、一つ目は宙に浮かぶリングよ!」

「規定数潜り抜ける事がこの関門の条件。リングの大きさは様々だけど、無駄のない距離で行こうとすればする程配置されているリングも小さくなっているね」

「けど、皆その小さいリングを通っている。皆小さいリングも一気に……うん?…アイが、少しずつ速くなっている…?」

 

 近道をして狭いリングを選ぶか、多少遠回りでも大きく通り易いリングを選ぶか。その選択を求められる四人だったが、全員迷う事なく最短距離での突破を図る。そして全員、狭いリングだろうと難なく抜けていく…が、そこで少しずつ、アイがイリゼに迫り始めている事にイリスが気付く。

 

(…おかしいわね、アイったら脚がリングに引っ掛かってるのに遅くなるどころか速くなって…いや、違う…これは、むしろ……)

 

 最後尾の、三人全員を見える位置にいるエストもアイの変化に気付き、初めは変に思ったが、何度もリングを潜る姿を見る事で、理解する。…これは、引っ掛かっているのではなく、引っ掛けているのだと。

 足技を得意とする女神、ローズハートことアイ。彼女のプロセッサは蹴撃に重点を置いた作りとなっており、それ故に下半身を覆うユニットは特に重厚且つ鋭利。それを活かす形で、アイは意図的に細かな突起をリングへと引っ掛けており…それによって、方向転換を行っていた。引っ掛ける事でアイだけは一切力を割く事なく方向転換をこなし、尚且つ絶妙なタイミングで脚の角度を変える事で、『引っ掛ける』が『引っ掛かる』に変わる寸前で的確に脚を離していた。

 それによって得られるのは、僅かな…本当に僅かな効果。しかし、女神同士の勝負においては、僅かな効果であろうとそれは大きな力となる。

 

「このまま先行する気だったか?はッ…逃す訳ねぇだろうが…ッ!」

「アイ…!…ふふ、そうこなくては…迫ってくれなければ、折角の勝負が面白くない…ッ!」

 

 第一関門突入時、イリゼと三人との間にあった差。それを少しずつだが着実にアイは詰めていき、第一関門を抜けた時にはイリゼの間近にまで迫っていた。

 

「四人全員が第一関門を突破!順位は突入前とほぼ変わらないけど、前と後ろで組が二つに分かれたわね!」

「アイ、凄い。でも、三人も凄い。イリスがやったら、きっとぶつかっていた…」

「全員巧みの動きだったね。…さて、エスト君うずめ君は一歩遅れる形だけど、イリゼさんはスタート直後、先行と引き換えに軽く負担を負った。アイ君の技術も、何もない空中では発揮出来ない。となれば先行する二人が優勢…とは言い切れないだろう」

 

 実況席からここまでの事を振り返り、落ち着いた声音で分析をするズェピア。その言葉通り、イリゼとアイの表情には決して油断の表情はなく、エストとうずめの顔にも焦りの色はない。まだまだ勝負はここから、全員がそう思っており…順位は変動する事なく、四人は第二関門へ向かっていく。

 

「…湖?」

「そう、第二関門は潜行よ!飛んで抜けるのは勿論、水上を駆けるのもなし!空だけじゃなく、水中でも速いんだって事を見せて頂戴!」

 

 小首を傾げ呟いたイリスに答える形で、セイツが第二関門を軽く解説。そしてその説明が終わるか終わらないかのタイミングで、先行する二人が、続けて後追いの二人も水の中へと突入する。

 

(そろそろもう一度加速を…いや、駄目だ。抵抗の大きい水中で圧縮シェアエナジーを開放しても、空中程の効果は得られない…!)

(ちっ、どうしたって速度は落ちるな…っと…!水中にも障害物はある訳か…!)

(うー、まだ追い付けそうにないや…だけど、めげちゃ駄目駄目!チャンスはこれからきっとあるよね、うん!)

 

 激しい水飛沫を上げながら突入した四人は、水中に配置された障害物を躱しつつ進む。流石に飛行中よりは全員速度が落ちているものの、それでも恐るべき速度で第二関門の終了地点へと邁進する。

 イリゼ、アイ、うずめと、三人は揃ってこの関門内では堅実に進む事を選択していた。空中よりも自由が効かない、動き辛い水中で無理に前へ出ようとするより、第二関門突破後へ向けて負荷を抑える事を優先していた。…だが……

 

「……!?」

 

 凡そ半分を過ぎ、第二関門も後半戦。そうなったところで、うずめはそれまで背後に感じていた気配が横に移動していくのを感じ…次の瞬間、驚愕する。ここまでは一貫して最後尾にいたエスト…彼女がここに来て加速し、自分を抜いた上で更に先行する二人にも迫っていく姿を見て目を見開く。

 

「おお、エストが速くなった。エストは、泳ぐのが得意?」

「はは、泳いではいないけど、速くなったのは確かだね。…ふむ…周囲の水を魔術…もとい魔法で操作し退かしている訳か。完全に水を割っている訳ではないにしろ、かなり抵抗は減っているんだろうね。…因みに完全に割った場合はルール違反になるのかな?」

「なるわね、それじゃあ水中を移動してる事にはならないもの。だからエストちゃんの判断はばっちりって訳よ!」

 

 水中での動きも、映像に映し出される事によって実況席ではやり取りが交わされる。その間もエストは先行する二人を追い上げていき、気配で気付いた二人も加速を掛ける…が、速度の差は歴然。全力を出そうとも距離の維持すら出来ず、みるみる内に距離は縮まっていき……

 

『……ッ!抜けたぁッ!』

「くっ、ギリギリで追い付けなかった…でも、ここまで詰められれば十分…!」

 

 間一髪、追い付かれる寸前で水中エリアを抜けた事で、イリゼとアイは急速浮上。再び水を噴き上がらせながらまず二人が、直後にエストが水中から宙へとその姿を現し、一歩遅れる形でうずめが空に舞い上がる。

 

「アイだけじゃなく、エストちゃんにまでこうも距離を詰められるとは…けど、ならば…ッ!」

「ちっ、やっぱ使っ……うん?」

「あれ?」

 

 抵抗の多い水中から空へ戻った事で、イリゼは再度圧縮シェアエナジーを用いた加速を使用。これにより、二人との距離を今一度開け始めるイリゼだが……直後、アイとエストは目を瞬かせる。イリゼもまた、一度目の解放を行ったところで…気付く。第二関門から第三関門、その間にあったのはトンネルであった事に。

 各関門の間は、ただ速く飛べば良い訳ではない。関門と言う程でないだけで、それぞれに障害物や方向転換を求められる地点はあり…ここで求められるのは、低空飛行。地上にあるトンネルを抜けていく事。それ自体は別段難しくもない事だったが、トンネルに気付く寸前にイリゼは解放を、斜め上方への加速をしてしまったが為に、地上のトンネルからはほんの少し遠ざかってしまう。

 

(しまった…!)

 

 即座に二度目の解放を行うイリゼ。それは加速ではなく、軌道修正の為の解放であり、力尽くでイリゼは最短ルートへ身体を滑り込ませるも、その一瞬のミスを見逃す者はここにいない。イリゼの一瞬の隙で、アイは横並びの状態から単独トップに、追う形だったエストもほぼ横並びの状態になる。相対的に、うずめとの距離も縮まる。

 

「如何に速くとも…いや、速ければ速い程、小さなミスでも響いてしまう。今はイリゼさんがそうなった訳だが…これは全員に起こり得る事だね、うん」

「その通り、誰にもミスは起こり得るし、ミス一つが勝敗を左右する可能性だって十分あるわ!だからこそ緊張するし、見てる方もハラハラするってものよ!」

 

 低空飛行へと移行した四人が次々と突入するのは、薄暗く、広い訳でもないトンネル。しかし四人は殆ど速度を落とさずに駆け抜けていく。

 それは突入前、空中から見た地形的に角度の強いカーブはないと分かっていた為。そしてその見立て通り、緩いカーブこそあれど、鋭い旋回を必要とするようなカーブはなく…速度も順位も変わらないまま、四人はトンネルを抜けて外に。

 

「次の関門は…おや?」

「セイツ、あれも関門?」

 

 当然次に待つのは第三関門。しかしトンネルを抜けた先に見えるのは、何の変哲もない舞台と少しの機材だけであり、関門どころか何の障害にもなりそうにないその存在にイリスはセイツへ疑問を呈する。するとセイツは一つ頷き、にっと笑みを浮かべて答えた。

 

「気になる?気になるわよね?えぇ、あれも関門よ!あれが第三の関門、そして求められるのは…ベストショットよ!」

「ベストショット…機材からして、写真かい?」

「ご明察。競争とはいえ、折角全員が女神なのに、ただスピードを競うだけじゃ勿体ないでしょう?だからもっと素敵な勝負にする為に、こういう関門も用意されたのよ。……多分」

『多分?』

「いやだって、わたしが用意した訳じゃないもの」

 

 非常にご尤もな返しを受け、ズェピアとイリスがそれもそうかと納得する中、四人は第三関門へと向かっていく。トップとなったアイが第三関門へ突入し……そのまま、駆け抜ける。

 

「…アイ、通り過ぎた…?アイは、やる事が分かっていなかった……?」

「…いや、違うわ…違うわイリスちゃん。これは……!」

 

 一見それは、関門の放棄。或いはイリスの言うように、関門で求められている事を理解していないかのような行動。

 だが、違う。一見すればそうでも、セイツは…女神の目は、捉えていた。確かにそこでの真実を捉え…そして、言う。

 

「写ってる…ちゃんと取っているわ!ポーズを取って、撮られているのよ!一瞬で、あの舞台を通るタイミングでのみ、的確に…ッ!」

 

 やたらと迫真の顔で、そうではないのだと言い切るセイツ。変わらずイリスは目を瞬かせていたが、直後にモニターに映る映像が変わり…セイツの言った一瞬が、映し出される。

 

「凄い…凄いわアイ!勝気なつり目に挑戦的な笑み、水に濡れて艶めく深紅の髪に、何よりこの踏み付けるような下からのアングル!プロセッサ越しでも分かる脚の艶かしさと、普段目にする事はない見上げるアングルでのプロポーション!苛烈な言動でいながら、こんな破壊力のある…こんなにも心揺さぶるワンショットを作ってくるなんて!くぅっ、感情抜きにゾクゾクするわ…!」

「…セイツ……?」

 

 立ち上がり、熱く激しくセイツは語る。突然の語りにイリスは唖然としている…ような気がしないでもない視線を向け、それからセイツとワンショットとを見比べる。

 と、そこでイリゼとエストもほぼほぼ同着で第三関門へと到達。この二人も止まる事なく、側から見れば関門を無視したかのような勢いで通り過ぎ……だがやはり、二人もきちんと関門を理解していた。だからこそ、映し出される光景はアイからイリゼとエストに移行。

 

「あぁ、イリゼったらなんて事を…!余裕と自信たっぷりな表情と、それを加速させる悠然とした腕組み!そこで存在感を見せ付ける胸に、視線を脚へと引き付ける仁王立ち!水の滴る肌なんていっそ優美な位だし、ほんと圧倒的だわ!美しく格好良く麗しい…お姉ちゃんはそんな貴女が大好きよ、イリゼッ!」

「セイツがおかしくなった…どうしよう、イリスには何が起きているか理解出来ない……」

「…と、思っているところにそんなの駄目よエストちゃん…!視線ばっちりのウインクと、快活さの中に勝気さを含ませた笑顔。半身で指鉄砲を作ったポーズ、そこから見えるハリのある肩!可愛いのに可愛いだけじゃない、濡れた頬が醸す禁断の魅惑!こんなの注目するに決まってるじゃない!きっとこの後は、からかうように『ばーん♪』って言うんだろうなって想像しちゃうじゃないッ!」

「はは…確かにこれは、セイツ君でないと出来ない実況だね…改めて君である理由を理解したよ…。…というか彼女達は、超高速で飛んでいるのに一体何故肌や髪に水滴が残っているんだろうか…」

 

 初めにイリゼの、続けてエストのワンショットが映し出され、それにもセイツは隙なく熱弁。イリスが困惑を深める一方、ズェピアは乾いた笑い声を漏らし……そうして四人目、最後尾のうずめもまた、止まる事なく第三関門の舞台を疾駆。無論、彼女もそこですべき事は理解しており…最後のワンショットもモニターに映る。

 

「いいじゃない、トリに相応しいわうずめ!喜色満面が示してくれる明るさに、なびく髪が見せてくれる躍動感!前傾姿勢でそれぞれ強調される胸とお尻に、極め付けはうずめらしい裏ピース!明るく可愛く、だけどそこにうつつを抜かした次の瞬間にはドキっとさせてくれる二段構えの強力な魅力!この愛らしさは真似しようとしても出来ない、しようがないってものよッ!」

「…まあ何にせよ、四人共魅力に溢れているね。加えて自分の持ち味を理解し、それを活かせる構図やポーズを作っている。自己プロデュース力もまた女神の武器になるのだとよく分かる、良い関門だったよ」

 

 四人の、それぞれがそれぞれに自分の持ち味を最大限発揮したワンショットと、それを力強く言い表したセイツの実況。総括をするズェピアは穏やかな様子であり……語りを終えたセイツは、少し恥ずかしそうにしていた。ふ、二人は一貫して普段の調子のままなのね…と、自分だけ飛び抜けて高いテンションを見せていた、というより実況としてそう振る舞っていた結果の温度差に、ちょっぴり頬を赤くしていた。

 

「…こ、こほん。とにかくこれで第三関門は皆突破!ここまで皆は順調そのもの!でも、油断しちゃ駄目よ?次の関門は、この勝負の山場と言っても過言じゃないんだから!」

 

 第三関門と第四関門の間を四人が駆けていく中、咳払いを一つしてセイツは実況を仕切り直し。山場という言葉にズェピアとイリスはそれぞれ興味を示し、さて内容は、と注目する。

 

「(さぁて、ルート的にゃそろそろ次の関門がある筈だが……って、なんだ?急に船…いや、艦みたいなものが現れ──)うぉッ!?」

 

 一見何もない、だだっ広いだけのように見える陸地。しかしそこに、突然幾つもの小さな…されど距離を思えば、相当な巨体を持つ存在が現れ…その内の一つから輝きが見えた直後、膨大な出力を持つ光芒が空を駆け抜けた。

 輝きが見えた時点で、直感的に避けていたアイ。彼女が直前までいた空間を、光芒は貫き…改めての視認と共に、アイは理解した。それが、砲撃であると。見えたのは全て、戦闘艦だと。

 

「おいおい艦隊って…これが第四関門だってのか…!?」

「……ッ!信国連艦隊…!?」

「信国連…って事は、各国の正規軍…の再現データな訳ね…!」

 

 初撃を避けた後もすぐに、同じ艦から、更には別の艦からも次々と砲撃が放たれる。一撃一撃がまともに受ければ女神であっても一堪りもない、プロセッサなど一瞬で消し飛ぶような光芒と砲弾がアイを襲う。後を追うイリゼとエストも、各艦の射程圏内に入った瞬間標的と認識され、砲火に晒される。

 

「艦隊による対空砲火…中々壮観だね。国軍が女神に砲撃を行うのは問題がありそうだけど…というか、あれには神生オデッセフィアの軍もいるのでは?」

「いるわね、けど問題ないわ!だってただのデータ、言ってみれば戦闘シュミレーションみたいなものよ!」

「凄い爆発をしている…あれは当たったら痛そう……」

『いや、痛いどころの話じゃないけどね…』

 

 三人に続きうずめも第四関門に到達し、四人は砲火を避けながら進む。荷電重粒子砲に電磁投射重砲、更には収束魔力砲による超出力の砲撃に続き、各艦から放たれる多数のミサイルが猛烈な勢いで四人の女神へ襲い来る。

 とはいえ、四人はひやりとしつつも然程焦ってはいない。だがそれもその筈で、今のところ撃ち込まれているのは全て対艦用の…言うなれば同じ艦船や、それに匹敵する巨大な存在へ有効打を与える為の兵装。威力や口径こそ脅威になれど、女神という人と変わらない背丈を持つ存在は、標的としてはあまりにも小さ過ぎるのであり、四人からすれば「気を付けていれば普通に避けられる」攻撃でしかないのである。

 そう。主砲や副砲、収束魔力砲に長距離対艦ミサイルといった兵装は、小さく素早い存在への攻撃には向いていない。だが…戦闘艦の有する火器は、戦闘艦の持つ力は、それだけではない。

 

「ふふん、この程度の弾幕じゃわたしは止められな……っと、とと…ッ!」

 

 砲撃を躱し、ミサイルを魔法で叩き落とし、不敵な笑みを浮かべたエスト。そこに誇張はなく、事実通りではあったが、そこでエストはいつの間にか、先行するアイとの距離が縮まっている事に気付く。一瞬それを、遠隔攻撃能力…特に対ミサイルにおける迎撃の面で自分が彼女より長けているからだと考えたが、すぐにそれだけではないと感じ…すぐに、真の理由を理解する。

 電磁投射により超高速で放たれた弾頭を、バレルロールの軌道で背にするようにして避けたエストは、それによって速度を落とす事なく更に前へ突進しようとした。だが、そこでエストが目にしたのは、これまでとは明らかに密度の違う弾幕。反射的に大きく回避運動を取った事で弾幕に飲み込まれる事からは逃れたものの、すぐに弾幕は迫ってくる。文字通り幕の様に弾丸と光弾が殺到し、エストは勿論競り合っていたイリゼの進路も力技で阻む。

 

「全員艦隊の近接迎撃が届く距離に入ったわね!第四関門の真の脅威は、ここからよ皆!」

 

 実況するセイツの言う通り、近接迎撃距離での弾幕は段違い。光実織り混ざった機銃と、迎撃用の小型ミサイル。艦体各部から放たれるそれ等が嵐の様に四人の女神へ殺到し、ここまでは最小限の動きで進んでいた四人を一気に削る。

 そして、それだけではない。単艦で小規模艦隊と正面戦闘をし得る戦闘能力を求められて開発された艦同士による艦隊による、単純な数以上の火力を感じさせる迎撃と共に、各艦のゲートが開き、カタパルトに光が灯り、そこから艦載機が…各国のMGが出撃していく。

 

「戦闘艦隊に巨大人型兵器の大部隊…ふんッ、出る作品間違ってそうだな!」

「それは流れ弾喰らう人達が微妙にいるからそれ以上は言わないでもらえるかなぁ!?」

「いりっち、この中でも突っ込む余裕あるなんてさっすがー♪」

「余裕があるから突っ込んでる訳じゃないんだけどね…ッ!」

 

 艦から飛び立ち、地や空を駆けながら銃口を向けるMG部隊。隊列を組み、攻撃を開始した事により、更に四人の速度は落ちる。

 圧倒的な火力を持つ艦隊の砲撃と、自在に動き回り、四方八方から仕掛けるMG部隊。その迎撃は正に雨、文字通りの弾雨。

 

「五つの国家が誇る有志達、それを相手にするとこうも雄々しく強大なのか…!それぞれの国のみでも強い者達が手を取り合い、協力する事で、更なる力を実現する…再現データとはいえ、それをまたこの目で見られた事が、私は嬉しい…!」

「おねーさん楽しそうね、やっぱ実は余裕あるんじゃない?」

「てか実際、この関門はちっとばかりイリゼが有──んなッ、なんだこいつ速ぇ…!」

 

 ミサイルとMG部隊の両方に追われながらも、イリゼが上げる嬉々とした声。それをエストがからかうように指摘すれば、神生オデッセフィアの軍は勿論、他国の事も多少なりともイリゼには知識があるであろう事へアイが言及し…直後、一条のビームがアイへ迫る。それを躱し、その射手も軽く振り切る…かに思われたが、アイを狙った射手は、彼女の髪と同じ深紅のカラーリングを持つその機体は、重厚な見た目からは想像も出来ない程の高機動で以ってアイを猛追。

 

「あ、あれは…あの総帥が乗っていそうな機体は…!」

「え?ズェピア、あの機体を知っているの?」

「知っているというか、なんというか…もしかすると今のは、ここ最近で一番の驚きかもしれない……」

 

 追撃を今度こそ振り切るべくアイが縦横無尽に飛び回る中、ズェピアは「よく見ると色々違う…パチモンか?だとしても明らかに似てるのがある辺り、ゲイムギョウ界怖っ…」と、内心で思いつつ驚愕。

 更に、女神へ追い縋るのはその一機のみではない。航空形態で突撃する一部隊を魔法で次々迎撃するエストは、道を開くべく別方向からの一機も撃ち墜とそうとする…が、パープルとライトグレーの機体はロールで回避。その挙動を見たエストは回避先へ、予測される場所へ置くようにして魔力の光芒を撃ち込むも、その機体はロールの終盤、回り切る直前で変形を掛け、抵抗による強引な急ブレーキを掛ける事によって、エストの第二射すらも紙一重で躱す。

 

「わたしが外した…!?何よこの機体…!」

「……ッ!データとしては知ってたけど…なんて変則的な動き…!」

「わわっ、こっちも速いぃぃ…!」

 

 変形からの反撃にエストは対処。イリゼも特異な武装構成を持つ、二機で組んで仕掛ける機体への対応を余儀無くされ、うずめもまた、ある漆黒の機体がコンテナから引き出した長距離砲とロケットランチャーの同時使用を受け、回避先を着実に潰されていく。女神側に被弾はなく、多数のMGや艦隊の砲撃を躱しながらも凌いでいる辺り、やはり女神の力は圧倒的なのだが、セイツが『山場』と言っていたのも頷けるような猛攻が女神達を抑えていた。

 

「皆、大変そう。エスト、頑張れ。イリゼも頑張れ。アイもうずめも、頑張れ…ふぁいと、ふぁいと?」

「なんだかSTRが上がりそうな応援ね…ここまでは出し惜しみなしで四人の女神に喰らい付いて言った信国連艦隊。でも、逆に言えば次々手札を見せていったとも言えるわよね?となればここからは……」

 

 最後までは言わず、代わりにセイツは小さく笑う。このまま突破出来ずに終わる筈なんてない…そんな風に視線を送る。そして、それに答えるように…少しずつ、状況は動き始める。

 

「ほにゃーっ!よーっし、ここから突破するよ〜!」

 

 初めに動きを見せたのはうずめ。メガホン越しの音波攻撃で道を開いたうずめは、そこへ突っ込むと共にシェアエナジーを用いた防御を展開。左腕の盾より出力される、外部へ向けて渦巻くシェアエナジーのシールドは、射撃やミサイルを弾き、流し、うずめは作り出した道が塞がれる前に駆け抜けていく。

 その後を追うように、エストも魔力障壁を張り、MGの間を縫うように飛びながら着実に前へと進んでいく。どちらも主砲・副砲クラスの攻撃は防ぎ切れないという事なのか、或いは防げても負担が大きく非効率という事なのか、攻撃によっては回避を優先してはいたが、それでもある程度の攻撃はそのまま突破してしまえるというのは大きく、段々と二人の速度は増す。

 では、残る二人…イリゼとアイはといえば、こちらもこちらで中々のもの。エストとうずめは比較的威力の低い攻撃を纏めて防いでいるのとは対照的に、イリゼは斬り払う事で、アイは蹴り砕く事で、ある程度の威力がある攻撃を真正面から迎え討ち、前者二人程ではないにしろ速度が戻り始める。始めるのだが……

 

「ふ…ッ!」

「くぁ…ッ!?イリゼテメェ、斬った砲弾の破片がこっち飛んできたじゃねぇか!」

「あ、ごめん…」

「ちっ…ま、わざとじゃねーなら許してやるよ。自分の事で必死なイリゼを咎めるのも可哀想だしな」

「…へぇ…いやいや、ほんと申し訳ない事してしまったよ、重ねて謝罪させてほしい。アイが破片一つで流れが狂う程一杯一杯だったとは、微塵も気付いていなかった」

「…………」

「…………」

 

 

「上等だコラァ!」

「はっ、それはこっちの台詞だ…ッ!」

 

 好戦的な女神の性という事なのか、嘗ての全身全霊を尽くした引き分け以降張り合いがちな二人故か、互いに吠えると両者は遠隔攻撃を一切合切容赦無く放つ。弾幕など知った事かとばかりに、双方瞬く間に速度を上げる。

 

「こ、これはまた……うずめとエストちゃんが冷静に効率良く進んでる一方で、イリゼとアイは冷静さも効率も投げ捨てたわね…」

「しかし、上手い事互いの攻撃が相手の周囲の機体やミサイルを吹き飛ばしているというか、アシストし合っているようにも見えるね…」

 

 二人の行動には流石に実況席でも苦笑が漏れる…が、中々どうしてその結果は悪くない。何度も攻撃が掠め、プロセッサに弾痕こそ残るものの、それはそれとして進んでいく。

 間違いなく、ここまでで最大の障害となった第四関門。それでも女神の前進を、その飛翔を阻み切る事は出来ず…遂に四人は、信国連艦隊の猛攻を突破。

 

「ふっふっふー、遂にうずめが一番〜♪」

「…と、思った?でもすぐ後ろにわたしがいるんだからね…!」

 

 防御にかけては彼女の方が上手だったという事なのか、僅かにうずめが先行する形で、まずは二人が迎撃を抜ける。それに少し遅れる形で、イリゼとアイも迎撃を振り切る。

 四人全員、ここまでくると疲労や消耗も否めないという事なのか、スタート直後に比べると多少ながらスピードは落ち、正面に先行する二人が見えているからか、追い掛ける二人は張り合いを止めて逆転へと意識を向ける。そうして見えてくるのは、第五の関門。

 

「漸くここまで辿り着いたわね!次が最後の関門にして、ゴールが併設された終着点よ、皆!」

「そういえば…今更ながらセイツ君、段々と実況というより、四人への呼び掛けが主体になっているね」

「あら、貴方だって解説というか、考察担当みたいになってるじゃない」

「おっと、それは確かに。ではお互い様という事か」

 

 ゴールが併設されている…それはつまり、ここでの結果が最終的な勝利へ直結をするという事。それがあってか、四人はまたスピードを上げていく。残りの力を注ぐように、速度を上げ…しかし全員がその判断をしている為に、順位は変わらない。変わらぬままに第五関門へと近付いていき…四人が目にしたのは、第三関門を思い出させるような舞台。一見素通り出来そうな、簡素な場所。

 

「……?ここでは何を…ほにゃぁ!?」

「へ?何よ急に止まっ……わっ!?」

 

 舞台上へと辿り着いた瞬間、突然急ブレーキを掛けるうずめと、それに疑問を抱いた直後、同じ行動を見せるエスト。

 何故二人が急に止まったのか。それは、二人の眼前に、止まるよう指示する表示が出た為。いきなり眼前に表れた事もあり、取り敢えず二人は急減速を選び…イリゼとアイも同様にストップ。全員が困惑する中、表示の内容は変わり、四人はスタート前の様に並び立つ。

 

「これは…セイツ君、どういう事かな?」

「休憩?沢山飛んだから、ここで少し休む?」

「焦らないで、説明を……いや、するまでもないわね。まずは後ろのボタンと正面のフラッグを確認して頂戴」

 

 実況席にも困惑が生まれる中、セイツはより直接的に四人へと呼び掛ける。言われた四人が振り返れば、そこには四つの台とボタンが、正面には舞台上に置かれた一本の小さな旗があり…だがそれを確認したところで、困惑は晴れない。だからこそ四人と実況席の二人、計六人がセイツに注目する中、セイツは息を吸い……言う。

 

「さてと、準備はいいわね!第五関門に四人全員が揃ったって事で…第五関門、早押しフラッグ勝負よ!」

『早押しフラッグ勝負?』

「その名の通り、これから出されるクイズに早押しで答えて、正解したらフラッグを取って舞台の端にあるゴールに向かうって事よ!最後は身体的な速度だけじゃなく、思考速度も求められるって訳ね!」

『って、事は……じゃあ今までの競争は何ッ!?』

 

 内容を把握し、理解した次の瞬間…どうも説明を聞く限り、全員揃うまではここで待つ必要があったらしい事に対して四人は突っ込みながらずっこける。これにはズェピアも「えぇー……」という表情であり、ここまでの勝負は何だったんだと四人からの猛抗議が入るも、セイツは「だって、そういうルールだし…わたし変だなとは思ったけど、あくまで実況の役をしてるだけだし…」という言葉で一蹴。そう言われてしまえば…というか、事実実況してるだけのセイツに言っても仕方ないと判断した四人は、渋々ながらもそれを受け入れ、第五関門へと意識を戻す。

 実際問題、トップでなかった三人にとっては、むしろありがたいルールでもあった。逆にうずめからすれば不利益なルールではあったが、彼女は彼女でポイントを稼ぎ優勝するという全体の勝負ではなく、単にこの勝負にのみ飛び入り参加しているスタンスである為、勝利よりも内容を重視している部分が強く(勿論勝利も狙ってはいるが)、実はそこまで不満もなかった。そのような背景も手伝う事で、四人は納得したのである。

 

「こほん、それじゃあ皆、当たり前だけど一度しか言わないし、分かった時点で押していいんだから、心して聞いて頂戴」

 

 落ち着いた声音で語り掛けるセイツの言葉を受け、四人の表情も引き締まる。早押しならば、勝負は一瞬で決まる事も十分にあり得る。その思いが、再び四人へ緊張感を抱かせ……問題は、明かされた。

 

「問題!──今、何問目?」

『一問目にそれ出す!?』

「あ、皆答え言っちゃった」

 

 ずさーっ、とヘッドスライディングばりに再びずっこける四人。イリスが淡々とコメントする中、はっとした顔になった四人は跳ね起き、イリゼとうずめは引っ叩くように、アイは跳ね起きざまの横蹴りを触れさせる形で、そしてエストは持っていた杖で最早半ば殴り付けるようにボタンを押し、ほぼほぼ同時に「一問目!」と回答。直後に正誤の判断を待つ事なく舞台の床を蹴り、置かれたフラッグへ向けて飛び込む。

 杖を介した事で一番のリーチを得たエストが、僅かに…本当に僅かな距離ながらもリード。続くのは脚という手よりも長い部位を利用したアイであり、イリゼとうずめはそこへ続く。

 またもやヘッドスライディングか、とばかりの飛び込みで、床を蹴った四人は手を伸ばす。元々ボタンからの距離はそう遠くなかった事もあり、僅かでも先行していたエストの指が、置かれたフラッグの柄に触れる。…が……

 

「取っ……られたぁ!?」

「悪ぃな、けどこれは貰っ…ぬわっ!?」

「フラッグゲット〜!これはうずめ……」

「ではなく私の…あぁっ!?」

 

 思わず掲げてしまったエストの手から、アイがフラッグを奪取…するもすぐにうずめに取られ、しかしうずめもイリゼに取られる。即座にイリゼは飛び立とうとするが、当然三人がそれを許す筈もなく、そこからフラッグは取り合いに。

 あっという間に巻き起こる、揉みくちゃの状態。四者それぞれに違う魅力を持つ四人の取り合いは、ともすればキャットファイトと形容する事も出来そうなものだが…実際に起きているのは、あまりにも激しい攻防戦。その白熱(?)した取り合いに、ある意味実況席は息を呑む。

 

「凄い戦い…これが早押しフラッグ勝負……」

「うん、違うよイリス君。本来こんなクイズ…クイズ?競技?…はないし、仮にあったもしてもこれは例外中の例外だと思うよ」

「えっと…でぃ、ディールちゃん!一応救護担当者として向かってくれる?多分大丈夫だと思うけど、一応…」

「あ、はい。…巻き込まれたくはないなぁ……」

「……ディール君、いたんだね…」

 

 煙が巻き起こり、顔や手足が時々見えては煙の中に引っ込むという漫画やアニメ的表現すら何故か出てくる程の、四人のフラッグ攻防戦。それは長く、やたら長い間続き、そして……

 

『…折れた……』

 

……その煙が収まった時、四人は何とも言えない顔をしていた。四人の手にはそれぞれフラッグの破片が…イリゼの手には柄の上部、アイの手には柄の下部、エストの手にはフラッグの土台部分、うずめの手には柄の先端と布部分が握られており、見るからにぼろぼろの姿で「これはどうすれば…?」という視線を実況席に向けていた。…そんな四人は、取り合っている内に移動してしまったようで……全員ゴール地点に立っていた。

 

「あー…っと、セイツ君。この場合どうするかのルールは……」

「そんなの想定されてないわね…ど、どうしようかしら……」

「…全員持ってるから、皆仲良くゴール?」

「…………」

「…………」

 

『…それかなぁ……』

『えぇぇ…!?』

 

 それ以外だと何にしても荒れそうだし…と、何とも消極的なテンションで肯定を示す二人。だがそれは、競い合っていた四人にとっては全く望んでいない形であり……そんなぁ、とがっくり肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 全員フラッグ(の一部)を持っているし、もうゴール地点に入っているし、これで決着。ポイントは山分けという事で…という形にされてしまった。…不満ッス。凄まじーく不満ッス。

 

「んもう、いい加減機嫌直して頂戴。というかこの決着は、何故かまあまあな距離移動しちゃった貴女達にも責任はあるのよ?」

「そうかもしれないけど…しれないけどぉ……」

「それはそれ、これはこれッスよ…こんだけ全力でやった結果が、こんななし崩し的な終わり方だなんて……」

 

 イリゼと二人、はぁ…と大きく溜め息を吐く。まあもう、エストはウチ等共々手当てを受けた後はすぐに行っちゃったッスし、うずめも「折角だし、このポイントで軽く遊んでくるかな」とか言って街に繰り出していったッスし、もう再戦も叶わない訳ッスけど…。

 

「…なら何か、別の勝負でもする?わたしも実況の報酬でポイントを得たけど、あんまり多くないし…何より、あんな熱戦を見せられたら、燃えるに決まってるもの」

「って言われても…別の勝負をしたとしても、多分消化不良になる気がするんッスよね…」

「同感…とはいえ、何もしなかったらもっと消化不良な訳だし…うーん……」

 

 今度はイリゼと肩を竦め合う。にしてもほんと、第五関門は妙というか、色々おかしかったッスね…ギャグといえばギャグッスけど、それにしてもおかしいというか…。

 

「おや、また何か勝負をするのかい?流石は女神殿、まだ余力を残していたとは」

 

 と、そこで不意に聞こえてきた声。この声は…と思いながらそっちを向けは、いたのは解説を務めていたズェピア。

 

「…ふむ、エスト君たちはもう行ってしまっているようだね」

「そうだけど…ズェピア君、どうかしたの?」

「いや、君達に一つ、提案があってだね。良い舞台を見せてくれたお礼、という訳ではないが…再勝負の前に、リフレッシュをするのはどうかな?」

『リフレッシュ…?』

 

 なんだか胡散臭い雰囲気で話され、ウチ等は困惑。いや、だって…普段からマントを羽織ってて、いつも目を閉じてて、全体的に芝居掛かった話し方をする吸血鬼ッスよ?これを胡散臭いと言わないのなら、某月外縁機動統合艦隊の司令も胡散臭くない大人になるッスよ。…まあ、胡散臭いだけの男って訳でもないようッスけど。…こほん。

 それはともかく、言っている内容的には気になるものがある。そう思ってウチ等が訊き返すと、ズェピアはこくりと一つ頷き…『それ』の事を、語った。




今回のパロディ解説

・某暗殺チームの一員
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風に登場するキャラの一人、ギアッチョの事。要は目に留まらない(視界に収められない)程の速さ、という事なのでしょう。

・総帥
ガンダムシリーズ(宇宙世紀)に登場するキャラの一人、シャア・アズナブルの事。まあ、ズェピアからすればこの反応は当然かもしれないですね。

・「わたしが外した…!?何よこの機体…!」
機動戦士ガンダム00に登場するキャラの一人、ロックオン・ストラトス(兄)の台詞の一つのパロディ。回避の仕方はグラハムのそれを意識しています。可変機ですしね。

・STR
原作シリーズにおける、キャラクターの能力値の一つの事。要は力、とか物理攻撃力ですね。パロディではないですが、一応解説として入れました。

・某月外縁起動統合艦隊の司令
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場するキャラの一人、ラスタル・エリオンの事。ロボット要素があったからですが、今回はガンダムパロが多くなりました。
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