超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
聞いた話だけど、最強じゃなくて最速を決める勝負があったんだとか。これにグレイブが参加しなかったのは、最強ならまだしも、最速にはそんなに興味がないから…とかじゃなくて、単に知らなかっただけなんじゃないかなぁ、と思う。
けどまぁ、それはどうでもいい話。グレイブが出なかった理由はそこまで気になる訳じゃないし、僕が出てもまず勝てなかったと思うから、そういうのがあったんだ、凄いなぁ…で終わる話。それよりも…僕にはこれから勝負がある。僕にも、勝負がある。──誰が一番速いかを決める、もう一つの勝負が。……なーんてね。
「ワイトさんにグレイブに愛月、それにネプテューヌか…相手にとって不足なし、だな」
「へへ、悪いが勝つのは俺だぜ?カイト」
まだ始まっていないのに、もうバチバチとした雰囲気を見せる二人。いつも通りって言えばいつも通りなグレイブと、勝負が楽しみだ…って感じの雰囲気をしたカイトさん。どっちも準備万端、用意ばっちりみたいで…そのやり取りに、ネプテューヌお姉ちゃんも入っていく。
「ちょっとちょっとー?盛り上がってるみたいだけど、こういう時に勝つのは何だかんだ言って主人公…つまり、このねぷ子さんなんだからね?」
「いや、俺も主人公だし」
「グレイブはそういう事を、ほんと平然と言うよな…平然っていうか、真顔っていうか……」
「自分が言うのもアレだけど、グレイブ君はある意味凄まじいよねぇ…」
さらっと返すグレイブに、二人は苦笑い。いやほんと、グレイブは『ある意味』凄まじいんだよなぁ…と思いながら眺めていると、後ろから声を掛けられた。
「愛月くんは、一緒に話さないのかい?」
「あ、ワイトさん…僕はそれよりも、これからの勝負に意識を集中させたいなー…みたいな…?」
「おっと、なら話し掛けない方が良かったね。すまない愛月君」
「ううん、大丈夫。大丈夫っていうか……向こうの話が段々気になってきて、あんまり集中出来てなかったし…」
「はは…確かに近くでされたら、気になってしまう話だね」
あはは、と僕もワイトさんと苦笑い。グレイブは勿論、他の三人も強敵だし、ちょっとでも集中しておきたかったんだけど…この調子じゃ無理かなぁ…。
とかなんとか思っている内に、開始の時間になって…スタート地点への道が開く。
「やっとか、待ちくたびれたぜ」
「ほんとに?グレイブ君、まだまだ元気一杯だよね?」
「じゃ、待ち…待ち…この場合、何が良いんだ?」
「待ちに待った、でいいんじゃないかな?」
あ、それだ!と言いながらグレイブは真っ先に駆けていって、助言したワイトさんや、聞いていた僕達もそれに続く。
ここは、凄く広いレース会場。単に楕円形のコースを回るだけじゃない、レースゲームみたいなコース。そして勿論、これは勝負で…だけど、ただの競争じゃない。
「よ、っと。目指すは勝利の一択…なんてな」
カイトさんの横に現れる、楔みたいな形をしたボード。それをカイトさんが押すと、ボードは倒れて…けれど地面には落ちずに、ふわりと浮く。カイトさんはそれに乗って、ボードの後ろにあるブースターみたいなところから軽く炎を噴射して、その場で軽々横回転。
「ふふーん、いくよ相棒(仮)!」
『仮…?』
ちょっと気になるお姉ちゃんの発言…はともかくとして、お姉ちゃんはカイトさんの時と同じように現れた、紫のバイクに乗り込む。それは横に…N?のマークが付いてて、前にはお姉ちゃんの髪飾りによく似た模様のある、がっしりした見た目のバイクで…よく分からないけど、お姉ちゃんはそのバイクを「凄く親近感が湧く!まるで自分みたいな気がする!」…って事で選んでいた。
そう。これは自分で走ったり飛んだりする競争じゃない。競争は競争でも、何かに乗って競い合うレース。
「頼むぜブラスト!」
ひょい、っとグレイブが投げるボール。そこから出てくるのは、もうきんポケモンであるムクホークのブラスト。ばさり、と一つ羽ばたいて着地したブラストの目はやる気に溢れていて、それを見たグレイブは自信満々な様子で笑う。
ここで何に乗るかは、エントリーのタイミングで選択肢が出てきて、その中から選ぶ…ってシステムになっている。で、内容は一人一人違うみたいで、僕とグレイブの場合は、ポケモンも選択肢に入っていた。…そう、グレイブだけじゃなくて、僕も。
「頑張ろうね、ティガ」
レースに僕が選んだのは、でんせつポケモン(伝説のポケモンじゃないよ)のウインディで、ニックネームはティガ。がっしりとした身体と鬣が目立つ、四足歩行のポケモンで、勿論走るのは大の得意。…というか、全力で掴んでないと吹っ飛んじゃうかもしれない…。
「ムクホークにウインディか…グレイブ、ルート無視して空からゴールに一直線、とかはするなよ?」
「しないって、そんな事して勝っても面白くないしな」
「バイクに空飛ぶボード、格好良い感じの二匹のポケモン…いやぁ、バラエティ豊かだねぇ。でもって、こうなるとワイトさんのマシンに期待が高まるよね!ワイトさんは一体何に乗るのかなー…、って……」
確かに皆違うもんなぁ、と僕はネプテューヌお姉ちゃんの言葉に頷く。バイクはほんとにレースっぽいし、カイトさんのボードもどんな感じになるのか凄く気になる。だからこのレースで勝負するもう一人、ワイトさんはどんなマシンに乗るんだろう、って僕も思って、一緒に振り返ったんだ、けど……
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕達二人、それを見て黙り込む。グレイブとカイトさんも、黙り込む。
そこに、ワイトさんの隣にあったのは…ううん、ワイトさんが隣に立っていたのは、巨大な人型の機械。自然と見上げちゃうような、僕の何倍も大きい存在。それをゆっくり見上げた僕達は、それからゆっくりと視線をワイトさんに戻して…言った。
『ろ…ロボットぉ!?』
驚く僕達に対し、ははは…とワイトさんは頬を掻きながら笑う。…これが神生オデッセフィアの軍隊で使われている、マエリルハっていうロボットなんだと知ったのは、この少し後の事だった。……まさか、ワイトさんが一番びっくりなマシンを出してくるなんて…。
「うぅ…さっきまではまだセーフだったけど、こうなると自分だけ地味な気がしてきた…自転車とかの方がまだインパクトあったかな……」
「いや、逆にこの面子だとバイクも目立つんじゃねーの?」
「自転車って…。…しかし、ロボットとレースか…ポケモンもだが、ほんと他じゃ経験出来ないレースになりそうだな…」
なんだかちょっとお姉ちゃんが気にし始めたり、グレイブはもういつもの調子に戻り始めてたり、カイトさんは楽しそうな顔をし始めたり。…僕?僕は…一回落ち着く為に、温かくてふさふさなティガの鬣を撫でてたかな…。
なんて、そんな事をしている内に始まったカウントダウン。その音を聞いた僕達は意識を切り替えて、僕はティガに跨がる。
(よーし…目指せ、一位!)
ぐっ、と右手を握って、心の中で言い切る。そしてカウントは3に、2に、1になって……勝負は、始まった。
「よっしゃあ!初っ端からぶっち切るぜブラスト!」
「そうはいかないよ、グレイブ!」
スタートダッシュを掛ける僕。皆も同じように動くけど、一番前に出たのは僕とティガ。これはスピードゼロの状態から、一気に加速する事だってティガが得意だったからこそ出来た事。…でも、すぐに皆も迫ってくる。
「ふふん!第一コーナーを先に曲がった方が先行だからね!…なんちゃって!……あっ、折角だからカードの時にもこれ乗りたかったなぁ…」
「何が言いたいのかイマイチ分からないが…第一コーナーは貰ったッ!」
後ろからお姉ちゃんの声が聞こえて、最初の曲がり角が近付く。そこから遠過ぎず近過ぎずの距離でティガは曲がり始めて……そんな中で僕の目に映ったのは、燃え盛る炎。それと共に、サーフィンをするみたいにカイトさんがコーナーギリギリの位置へ滑り込んでくる。
(……!なんて火力…じゃなくて、出力…!)
身体もボードもカーブの内側に向けて大きく傾けたカイトさんの、ドリフトばりのコーナーイン。そのブースターから噴き出る炎は、高威力の炎タイプ技を想像する程に激しくて…あ、違うよ?ブースターで炎タイプだからって、ほのおポケモンの方を言ってるんじゃないよ?…こほん。
とにかく、凄い出力と勢いで滑り込んできたカイトさんは、そのままコーナーを曲がろうとしていた僕達を抜いていく。これにはティガも驚いていて…でも、次の瞬間にはティガも地面を蹴って、鋭くカーブを曲がっていく。炎タイプとして負けられない…そんな風に、迫っていく。
「やっぱ炎組は速いな…さぁて、ならどう攻めていくか……」
「しまった、完全に序盤のインパクトを持っていかれちゃったよ…ならちょっとクールダウンして、こっちは純粋なマシンである事を活かそうかな…!」
声からして、グレイブとネプテューヌお姉ちゃんがそれぞれ三番手と四番手。すぐにグレイブが突っ込んでこないのは、ちょっと驚きだけど…グレイブの事だから、気持ち良く走れれば、じゃなくて飛べればそれで満足なんて思ってる訳がない。今はまだ静かなだけで、絶対どこかで仕掛けてくる。
それなら、お姉ちゃんの言う事も分かる。ポケモンに乗ってる僕やグレイブは勿論、カイトさんのボードも、カイトさんの炎の力を吸収して噴射してるらしいから、頑張れば頑張っただけ疲れてスピードが出辛くなる。でもお姉ちゃんのはバイクだから、「息切れ」とか「疲れる」とかって事がない。だからお姉ちゃんの事は、後半戦になればなる程脅威になる…と、思う。多分。
「…って、あれ?ワイトさんは……」
前を行くカイトさんの事は見えてるし、迫ってくるグレイブやお姉ちゃんの事も感じている。このレースは、全員が強敵。…と、思ってたんだけど…そこで、ワイトさんは?ってなる。インパクト的には一番大きかった、何気に一番ズルい気もするワイトさんとロボットの事は、ここまでは全く勝負に入ってなくて……けれど次の瞬間、僕の耳に轟音が響く。
「ねぷぅ!?」
「うぉわっ!?」
凄まじい音と、二人の仰天したような声。それが何なのか考えるより前に、僕の横をそれが…ワイトさんの操縦するマエリルハが駆け抜けていく。
速い。速いし…プレッシャーが、凄い。後から分かった事だけど、ここまで全然勝負に入ってこなかったのは、段違いに大きい分、加速能力じゃ劣っていたから。だけど今の通り、一度スピードに乗っちゃえば、一気に前に出られるだけの性能がマエリルハにはある。それが今、分かった。
「ワイトさん…!負けません、よ…ッ!」
「更に加速してくるか…いや、恐らく君だけじゃないだろうね…!」
どんどん進んでいくワイトさんは、カイトさんにも追い付き…かけたところで、更にカイトさんの火力は増す。加速して、ワイトさんを引き離して……僕も、動く。
「一位を取り返すよ!ティガ、神速!」
呼び掛けに応じて吠えるティガ。出来る限り僕が身体を密着させた次の瞬間、ティガは強く、思いっ切り地面を踏み締めて…加速する。でもそれは、ただの加速なんかじゃなくて……一気に、一瞬で、僕とティガはワイトさんを抜く。そのままカイトさんにも追い縋る。
「来たか愛月…!そうだよな、ウインディといえばその技だもんな…!」
「割と早くから使ってきたなー。今回は愛月も本気って訳か」
出来ればカイトさんも抜きたかったけど、一歩届かなかった。…けど、大丈夫。まだまだティガは元気一杯なんだから。
…と、思っていた中で、また聞こえてくるグレイブの声。もう追い上げてきたのか、と思って振り返ると、そこには強く羽ばたくブラストの姿があって…その周りには、そこだけ強い風が吹いていた。
一瞬で分かった。それは一時的に味方の素早さを上げる、『追い風』という技の効果だって。
「追い風…でもそれだけじゃ、ティガの神速には届かないよ!」
「だろうな!だが、神速は乱発出来る技じゃねぇし、一回毎の効果時間も追い風の方が長い!だから使い所次第って事だ、お互いになッ!」
そう言って、少しずつグレイブは迫ってくる。今グレイブが言った通り、神速と追い風は全然種類の違う技。それに、お姉ちゃんもカイトさんもワイトさんも…それぞれ得意分野は違う。だから、そこも考えてティガに指示しなきゃいけないし…これはただの、普通のレースでもない。
「ティガ、そのまま真っ直ぐ!そこのぼんやり光ってる床の上を通って!」
何度かコーナーを曲がった後の、直線。その中間辺りにぽつぽつと配置してある、見るからに「何かある」感じの床。その内の一つを、ティガはしっかりと踏んで…次の瞬間、僕の手元にぽんっとプリンが現れる。やけにデカい、バケツプリン位ありそうなプリンが。
でもこれは、食べる用じゃない。これはレースを盛り上げるアイテムの一つで…使った瞬間、ティガは加速。
「っと、愛月は加速アイテムか…よっと!」
その加速で、遂に僕は一位を奪還。そのままティガにジャンプ台を駆け上がってもらって、大きく跳躍。で、着地したところで、カイトさんの声がして…ぴゅーんと、頭の上を通ってバナナの皮が飛んできた。
落ちたバナナの皮は、その場に残る。僕はそれをよく見て、ティガに指示を出して…避ける。
「…まぁ、避けるよな」
「普通に落ちてるだけだからね」
足元に落とされたら危なかったけど、まあまあ遠くへ落ちたから、回避も余裕。カイトさんも声からして、あんまり驚いていない感じ。
…と、そこで一度振り返ってみる僕。すぐ後ろに迫るカイトさんの後ろでは、グレイブとワイトさんが競り合っていて、ジャンプ台から飛んだところでグレイブが一歩リード。その先にあるバナナの皮に対しては、グレイブは横ギリギリを通って避けて、ワイトさんも…えっと、噴射炎?…を出しながら機体を大ジャンプさせる事で飛び越え……
「んな……ッ!?」
……あ、コケた。空中で、するーんってマエリルハがバランス崩して転んだ。
「く、ぅぅ…!避けたのに、何故…!」
「ジャンプで上を通ろうとすると引っ掛かる、アイテムがあるタイプのレースゲームあるあるだね!ひゃっほーう!」
墜落直前で立て直すワイトさんと、分かる分かるって感じの事を言っていたお姉ちゃん。それから最後尾のお姉ちゃんは、ジャンプ台から跳んだ瞬間ポーズを取っていて…その瞬間、ちょっぴり速くなった。…気がした。
「なんだかよく分からないが、置いてくぜワイト!」
「まさか軍用機がバナナの皮一つで姿勢を崩すとは…。やはりこの場においては性能や通常の物理法則よりも、レースのルールや仕様が優先されるという事か…」
((冷静だなぁ……))
巨大ロボットがバナナの皮でコケるっていう、ここでしかあり得ないような展開への、妙に落ち着いたワイトさんの考察。そうなんだ…と思ったところで僕は視線を前に戻して、ティガに細かく指示を出す。色んな方向を見て、追いかけてくる四人の事も意識して、ティガが全力で走れるようにサポートする。
そして、ここまでは…っていうかジャンプ台までは普通のレーシングコースみたいな道だったけど、ここからは自然の中を通るコースだし、その先には峠も見える。コースはどんどん難しくなっていく。
「流石はウインディ…けど、離されて…堪るかよ…ッ!」
「(ここで振り切れば、ティガの自信に繋がる筈。だったら…)ティガ、もう一度いくよ!神そ──」
炎の音がすぐ側にまで近付いてきている。ここから引き離すには神速を使うしかなくて、でもここで引き離せれば、きっと大きなプラスになる。何回もは使えない神速だからこそ、ここぞって時に使っていきたい。
決めたら後は使うだけ。並ばれる前に引き離す。僕はまた身体を密着させて、ティガに神速と言った…ううん、神速って言いかけた……その時だった。
「退いた退いたー!退かないと吹っ飛ばしちゃうよー!」
『うわっ!?』
何か不味い。普段からしょっちゅう無茶苦茶な事をするグレイブと色んな旅している内に自然と身に付いた、僕の危険察知能力がそう感じ取った。そして、反射的にティガに横へ跳ぶよう指示をして、ティガが跳んだ次の瞬間…お姉ちゃんが、駆け抜けた。…虹色に輝く、物凄く目立ちそうなお姉ちゃんが。
「え、ね、ネプテューヌお姉ちゃん…!?」
「ゲーミングネプテューヌ、ここに見参!そしてさらば!」
「…あー、そっか…ネプテューヌ、最下位でアイテムを取った訳か…」
障害物を跳ね飛ばしながらどんどん先を行くお姉ちゃんに、僕もティガも唖然となる。カイトさんの方は、何となく理解していたみたいだけど…え、もしかしてあれ?他のアイテムと一緒に、エントリーする時の情報で見た、順位が低ければ低い程出易くなる、一定時間加速&無敵を得られるスペシャルアイテムを取ったって事?…使ったらあんな、信じられない見た目になるの…?
「道を阻む物は片っ端からぶっ壊すよー!……あっ、切れ──ねぷぅぅっ!」
『あ、クラッシュした……』
加速と無敵でどんどん距離を開けていくお姉ちゃんだったけど、障害物の看板を突っ切ろうとした瞬間に効果が終了して、正面衝突。しかも慌ててブレーキを掛けたんだろうね、慌てた結果変な操作しちゃったみたいで、バイクはウィリー状態になっちゃって、そのまま激突。それはもう派手にクラッシュして…後々この時の事は、『ねぷ子屋ウィリー事件』として語られるのだった…(byグレイブ)。
*
レースに軍用機など、大人気ないにも程がある…表示された選択肢を見た瞬間、私はそう思った。巨大ロボットを用いたレース、というのは創作の世界では偶にあったりする訳だが、それはあくまでロボット『同士の』レースであって、でなければレースなど成立する筈がない。……と、初めは思った訳だが…よくよく考えたら、これは普通のレースではない。普通のレースになる訳がない。であれば、大人気ないなど考えず、最も良いと思えるマシンを選ぶべきだろう。…でなければ勝てないどころか、最悪勝負にならないかもしれない。割と、冗談抜きに。
そしてその点においても、シミュレーターで何度も操縦の経験をしていたのは良かったと言える。良かったというか、その経験がある為に、選択肢にMGが表示されたのだろうが…全く世の中というものは、いつどこで、どんな経験が活きるか分からないというものだ。
「…これは…こちら、だな」
障害物が多く、見通しもやや悪い森林エリアを抜ける。その直前にアイテムを取得出来るパネルの上を通り…出てきたのは、バナナランチャーという装備。それを得た私は、機体…神生オデッセフィアの主力量産機であるマエリルハの右腕部で保持し、正面に向けたところで数秒考え…反転。機体を回し、左右腰部に搭載されたスラスターで姿勢制御を行いながら、今来た道へとランチャーを放つ。トリガーを引いた瞬間、散弾の様にバナナ…の皮が飛び出し、それが道へと散布された。
もしこれを進行方向に放っていた場合、マシンのサイズが桁違いな私は、自分の設置した罠を避け切れずにまた姿勢を崩していた事だろう。
「うわ、道がバナナの皮だらけに…!ここに来て細かいドラテクが求められるなんて…!」
「申し訳ありません、ネプテューヌ様。しかし、勝負ですので…!」
後方のネプテューヌ様を妨害し、機体の向きを戻す。スラスターを吹かし、速度を上げる。
マシンのサイズの大きい私にとって、森林エリアは不利な地形だった。だが、ここから先の峠はカーブこそあれど、コース上の障害物は少なく視界も悪くない。つまり、森林エリアで三人に差を付けられ、激しくクラッシュし大きな遅れを取ったネプテューヌ様と最下位争いをしていた今の状態からでも…まだ、逆転の可能性はゼロではない。
(山脈に沿う形での、緩いカーブと急カーブの連続…常にコース片側は何もない、コースアウトが落下に直結するコース……ならば…!)
先行する三人は、距離はあるがまだ見えている。フルスロットルで追い掛ければ少しずつ距離を縮める事も出来るだろうが、そんな事をすればカーブを曲がり切れずに壁面にぶつかるか、落下で大幅なタイムロスをするかの二択。
だが、それは普通に走った場合の話。軽快なこの機体の持ち味を活かす方法は…そしてレーシングの醍醐味は…他にもある…!
「峠攻め…緊張でヒリヒリするが、悪くねぇ…!」
「うん?そういや俺の場合、飛んでるんだから転落なんてしない訳だが、コースアウトした場合どういう扱いに…ってあっつ!カイトの後ろあっぶな!」
「そりゃ炎出てるんだから危ないに決まってるでしょ…ティガ、またカーブだよ!気を付けて!」
一歩リードする愛月くんと、彼を猛追するカイトくんとグレイブくん。急カーブで彼等の姿は一度見なくなり、自分もそこを曲がればまた見えて、次の急カーブに至るとまた同じ状態となる。その内に一位はグレイブくんとなり、気合いを入れるようにブラストが高く鳴く。
仕掛けるなら、ここ。峠の形が変わる手前で、一気に詰める。その意思の下、私はスラスターを全開で加速。その状態のまま、コースアウト必至の勢いのまま急カーブへと突入し……飛ぶ。
「届け……ッ!」
走り高跳びの様に脚部で踏み切ると共に、スラスターの向きを斜め上へと可動させ、コースからその外へと、空へと飛び上がる。脚部と左右腰部のスラスターを全開にし、姿勢制御用スラスターもフル稼働させて、より高く、より遠くへと機体を飛ばす。本来この機体は支援無人機を兼ねる大型バックパックや、各部に追加装甲や武装を施す重装パックを装備して運用する機体であり、前者があれば余裕で飛び続けられる訳だが…無い物ねだりをしても仕方がない。
目指す先は、次の急カーブ。通常、山に沿って進まなければいけないところを、スラスター全開での大跳躍によって短縮するのが私の狙い。つまりはレースゲームの醍醐味である…ショートカット。
(……ッ、僅かに足りないか…?…いや、届かせる…!)
今の装備では完全な飛行には至れず、初めは斜め上方へと向かっていたマエリルハの高度は少しずつ落ち始める。まだ足りない、僅かだが目指す先には届かない。ショートカットは叶わず転落…そんな文字通りの『オチ』が一瞬脳裏をよぎり…だが私は手を伸ばす。機体の腕部を突き出し、マニピュレーターを広げ、伸ばし……崖を、掴む。それと同時に脚部を前に振り出し、逆噴射の要領で岩壁への衝突の勢いを和らげ、ぶら下がった状態から再度スラスターを全開噴射。飛んだ先のコースへ…そしてカイトくん達の前へと躍り出る。
「な……ッ!?ワイトさん!?」
「え、し、下から来た!?」
「そんな馬鹿な…ってそうか飛んできたのか!しまった、なんで俺は素直にコース通りの道を進んでたんだ…!」
頭部を回して三人の位置を確認しつつ、機体はすぐさま走らせる。岩壁への衝突で胴体部や脚部の前面装甲にはかなりダメージが入っているが、行動には問題ない。
ここまでは張り出す形となった山脈に沿うコースだった。だがここからは地形が変わる。緩いカーブの下り道になる。それは即ち、同じ手はもう使えないという事。だからこそ、自分はあのタイミングで実行した。どの程度飛行能力があるか分からないカイトくんはまだしも、完全に飛行しているグレイブくんには即座に真似されてもおかしくないのだから。
(開始前に見たマップの通りなら、峠エリアの残りはこの下り坂だけ。そしてそこを抜ければ、そう長くはない最後のエリアで終わる。逃げ切れるか…?)
そう考えながらアイテムパネルの上を通り、出てきた直線攻撃用アイテムを後ろに向けて放つ。それは軽く避けられ、逆にグレイブくんから撃ち込まれた追尾型攻撃アイテムが迫ってくるが、私は当たる直前でカーブを曲がり、追尾能力を利用する事でアイテムを壁へと衝突させる。タイミングを合わせる為に若干スピードを落とした結果、後ろとの距離は縮んでしまったが、攻撃が直撃するよりはずっと良い。
この機体は高機動型…とまでは言わずとも、一位を望めるだけの推力はある。不利な森林エリアは既に終わっている。だが相手は最大出力未知数のカイトくんに、まだ色々と未知なポケモンを駆るグレイブくん愛月くんに、色々な意味で未知…というか予想の付かないネプテューヌ様。全員揃って「こうだろう」が通用しない以上、何か手を打っておきたいところ。
「もうそんなに長くはない…だったらそろそろ、こっちも仕掛けるか…!」
噂をすれば影が差す…とは違うものの、まるで私の思考が引き寄せたかのように、カイトくんが二人を抜く。やはり全力を隠していたのか、それとも単に直線や緩いカーブが続くコースでないと曲がり切れなくなるリスクを背負うからなのか…何れにせよ、カイトくんはこれまでで最高と思える速度で迫ってくる。
だがグレイブくん達も負けていない。グレイブくんはブラストに翼を畳ませ、愛月くんもカイトくんの背後を取ってスリップストリームを図っている。どちらも凄いもので、グレイブくんはそこまで急ではない坂で翼を畳ませ落下による加速を得るという、判断を間違えれば…否、一瞬遅れるだけでも墜落するという危険極まりない選択をしているし、愛月くんに至っては噴出する炎の真後ろに陣取っている。どうも体勢からしてティガが炎を受け止めているようであり、そのティガは割と平気そうではあるが…だとしても、炎の中を突っ切るなんてそうそう出来る事じゃない。全く…大した度胸をしているよ、君達は…!
「特性のもらいびか、対カイトにゃぴったりの特性だな…!」
「ひぇっ、地面スレスレ…今更だけど、グレイブは感覚とか感性のネジが吹っ飛んでるんじゃないの…?」
それぞれがそれぞれの形で、自分との距離を縮めてくる。今はまだ大丈夫だが、恐らくこの調子だと最終エリアで追い付かれる。そして、この場で私が打てる手はない。つまり…勝負は最終エリアでの選択次第。
「見えた……あれか!」
下り坂が終わり、そのまま峠エリアも抜ける。その先にあるのは広い、とにかく広いドームの様なエリアであり…だが、長くはない。真っ直ぐ突っ切れば、一分もかからず最終エリアの端にあるゴール地点に着くだろう。…突っ切る事が、出来たのなら。
「ティガ、神速!終わった瞬間にもう一度だよ!」
私が最終エリアに入った数秒後、愛月くんは瞬く間に追い付く一歩手前まで迫ってきた。更にたった今使った超高速移動を再度使用し、私を抜いて最終エリアの半ば辺りまで一気に駆ける。
一見すればそれは、決着にも等しい展開。彼の勝利はほぼ決まったようなもの。だが……
「このまま何とか…おわわっ!?」
ゴールまで駆け抜けようとした愛月くん。されどその前に…超高速移動が切れる前に、不意に現れた「それ」が、愛月くんを横から襲う。間一髪、彼とティガは避けたものの、そこで超速度は切れ、更に進路も阻まれてしまう。
それは、鎖に繋がれた一体の猛獣。モンスターにも見えるそれこそが、最終エリア唯一の障害にして、このレース最大の関門。
「ぐッ……(あの速度に対応した時点で分かっていたが、反応が凄まじく早い…!)」
四足歩行の猛獣が愛月くんの方を見ている内に、と後ろ側から突破を図るも、瞬時に気付かれ一瞬で肉薄される。はっきり言って、女神より速い。瞬間移動してるとしか思えない…というより、恐らく本当に瞬間移動している。一体の生物ではなく、生物の形をした妨害プログラムという事なのか、常識が通用しない。…そして、恐ろしいのは速度だけではない。
「だったらギリギリまで高く飛んで…ってやっぱり届くよなぁ…!」
ならば、と同じく最終エリアに到達したグレイブくんは、上から突破をしようとする。されど猛獣の鎖の長さは高度限界に合わされているらしく、瞬時の跳躍でグレイブくんの事も阻む。
純粋な速度でも、死角を突く事も、上から抜ける事も通用しない、情け容赦ゼロの障害。この障害があるが為に、真っ直ぐ突っ切る事は不可能。
よって、この場における選択肢は二つ。それでも無理して中央突破を図るか、躱す事は諦め大きく回り込むかの、勝敗を左右する大きな二択。
(普通に考えれば、中央突破に賭けるべき状況。速度的に、安全策で勝つのは厳しい。…だがもし、誰も中央突破出来ないとしたら?……もしそうなれば、むしろ勝負を決めるのは、如何に速く『回り込む』という選択肢に踏み切れるかどうか。故に真に勇気が必要となるのは、もしも誰かが中央突破出来てしまったら…そんな不安を抱えながらも踏み切らなければいけない後者…!)
カイトくんも到達し、四人それぞれに突破を図るも、やり過ごせる気配は一向にない。突破には何か条件があるのではないか、欠点や弱点を突かない限りはどうやっても突破出来ない障害なのではないのか…そんな風にすら思える状況だからこそ、妥協ではなく先を読んだ判断としての迂回が選択肢として現実味を帯びる。
ここで求められるのは即断即決。この選択は後になればなる程失敗の確率が、誰かしらが中央突破を成功させてしまう可能性が高くなるのであり、そうでなくとも誰かに先を越されれば終わり。だが幸いにも、即断即決は慣れたもの。思い付き、それが今の最善と思えるのなら、迷わずするだけ。そしてその為に、私は機体の向きを変えようとした…その時だった。
「…あれ…?門が、閉まってない…?」
不意に聞こえた、愛月くんの発言。反射的に私が見たのは、ゴールを兼ねているエリア端の門。そこを潜ればゴールとなる、このレースの終着点を担う門が…確かにこの時、閉まっていた。硬く閉ざされていた。
一瞬、開閉を繰り返すギミックがあるのかと思った。…が、違う。門は閉じたまま動かない。
「おいおいどういう事だよこりゃ…」
「…そういえば…や、でも……」
「カイトくん、何か思い当たる節があるのかい?」
何かに気付いた様子のカイトくんへと問い掛ける。何気なく訊いた訳だが、今は勝負中な以上カイトくんに答える義理はなく…しかし彼は答えてくれる。
「…俺、エントリーの後時間があったんで、コースとかアイテムの情報以外も、さらっと説明全体を読んでたんです。で、確かなんですけど…レースモードとは別の、チャレンジモードっていうので、この…敵?…を倒すとクリアになるやつがあったような……」
「…つまり、倒さなくてはゴール出来ないという事か?いや、だが、カイトくんの言う通りなら、それは今関係ない筈……」
「はい。それに、倒すのもアイテムパネルから出てくる攻撃アイテムを使ったり、ダッシュパネルでの加速を繰り返しての体当たりだったりをしていく必要がある筈なんですけど……」
「アイテムパネルもダッシュパネルもないよ…?え、待って、道を戻ってアイテム取って来なきゃいけないって事…?」
「いーや、それも無理みたいだぜ愛月。…入り口の方も、何故か閉まってやがる」
言われて振り返ってみれば、このエリアと峠エリアとの境にも、膜の様な壁が出来ている。向こう側は見える…が、あれは引き返しを封じるものと見て間違いない。
閉ざされたゴール。倒す事の出来ない障害。そして引き返す事も不可能。…おかしい、明らかにおかしい。
(やはり何かギミックがあるのか?何らかの手段で門を開けなくてはいけないという事か?だが、だとしてもそのギミックはどこにある。それにそもそも、これはレースじゃないのか?ギミックを起動させなければ先に進めない…それはレースゲームではなくRPGやアクションゲームの領分だろうに…!)
ゲームが多種多様化した現代において、ジャンルや要素の垣根は大分甘くなっている。…が、だとしてもこれはおかしい。あまりにも唐突過ぎる上、こんな形での足止めなど、レースゲームとしては台無しもいいところ。
なら、これは何だ。何がどうしてこうなり、どうすれば突破出来るのか。…そんな思考に、気を取られたのが不味かった。
『ワイト(さん)!』
「……ッ!しまっ……」
猛獣の動きを伺う為に動き回る最中、猛獣のテリトリー…攻撃範囲内へと入ってしまう。平時ならともかく、思考によってほんの少し気が散っていた私は、猛獣の動きに反応が一瞬遅れてしまう。
反射的に機体のバランサーを切り、敢えて姿勢を崩した事で、何とか初撃は避けられたが、姿勢が崩れている為に次の行動へは瞬時に移れず、当然立て直しも相手の方がずっと早い。そしてすぐさま放たれた二撃目、今度こそそれに対処する方法はなく……
「せー…のぉッ!」
──その時だった。フルスロットルで突っ込んできた…ウィリー状態となったバイクが、猛獣の横っ面に浮いた前輪を叩き付けたのは。
「わっ、とと…大丈夫?ワイトさん」
「た、助かりましたネプテューヌ様…。…いや、待った…ネプテューヌ様、どうやってここへ?あの壁を突っ切ってきたんですか?」
「え?うん、普通に通れたよ?」
某健康優良不良少年ばりのスライドブレーキで止まったネプテューヌ様に返答すると共に、バランサーを再起動させ機体を起こす。即座に猛獣の届く範囲から離脱しつつ、浮かんだ疑問を口にする。
まさかと思って峠エリアとの境まで行くも、やはり壁になっているらしく、通過は出来ない。という事は恐らく、この壁は一方通行。
「えっと…で、皆はここで何してるの?ゴールはあっち…ってあれ?閉まってる?」
「うん、それが……」
困惑するネプテューヌ様へ、愛月くんが簡単に説明。するとネプテューヌ様は目を瞬かせると、あっけらかんとした顔で言う。
「なーんだ、そういう事なら簡単じゃん」
「簡単?簡単とは、何が……」
「だって、ゴールへの門は閉まってて、目の前にはあからさまに強敵!…って感じの存在がいるんでしょ?だったらそんなの、そいつを倒せば門が開く系のギミックに決まってるって!」
これ位常識だよ常識!…とばかりに言い切るネプテューヌ様。…言いたい事は分かる。特定の敵を倒すと扉が開くというのは、それこそRPGやアクションゲームにおける定番のギミック。だがそれは、ある前提を満たしていなければ通用しない。その敵を倒せるという、大前提を。
「…ネプテューヌ、もしかして攻撃系アイテムをストックしてたりするのか?じゃなきゃ攻撃は……」
「ううん、してないよ。でもさ、今自分のアタックは通用したよね?あんまりダメージ受けてる感はないけど、当たった瞬間こっちがクラッシュしたとか、跳ね返されてとかはなかったよね?…なら、可能性はあるとは思わない?絶対いけるとは言えないけど…可能性がゼロじゃないなら、試す価値はあるって自分は思うな」
再びあっけらかんと、何でもない事の様にネプテューヌ様は言う。いとも簡単に…されど適当ではない、可能性があるなら試してみたい、と心から思っている事が分かる声音で、私達へ向けて。
一応、根拠も上げている。しかしそれは、確たる証拠と言える程のものではない。つまりこれは、乗るかどうかというより、ネプテューヌ様の言う可能性を信じるかどうか。…であれば、答えは一つ。
「…確かにそうですね。上手くいくかは分かりませんが…ただ手をこまねいているよりは、遥かに意味がありましょう」
「だよな。邪魔されないよう遠回りをして〜…ってのも癪だし、やってやろうじゃねぇか!」
「一旦勝負はお預けで、ここからは共闘だな」
「よーし、皆頑張ろう!」
ぐっ、と拳を突き上げた愛月くんに、ネプテューヌ様が同調。それを見ていたカイトくんとグレイブくんはにっと笑っており……共闘、か。ここに狡猾な者がいたのなら、協力を装いつつも上手く出し抜いて、扉に近い位置取りをしておくところだろうが…きっと彼等はしないのだろう。
「では、私が奴を引き付けます。皆さんは攻撃を!」
「ワイトさん、いいの?」
「見ての通り、私が乗っているのは装甲に覆われたロボットだからね。囮役なら私が適任だよ…!」
心配は必要ない、と愛月くんに言葉を返しつつ、早速私は突撃開始。まずはギリギリまで突っ込み、仕掛けられた後は腰部と脚部のスラスターを前向きにして正対しつつ引き付ける。
猛獣の耐久性がどれ程のものかは分からないが、攻撃役は四人もいれば十分だろう。…と、思っていた私だったが……
「あれ!?刀が出てこない!?」
「こっちもだ…ここに来るまでにも一回試したが、炎もブースター以外からは出せねぇ…!」
「じゃあ攻撃出来ないじゃん!ちょっと!?成立しない作戦の提案したの誰!?」
……いきなり想定外の事が起きた。攻撃面は間違いなく女神級、場合によってはそれ以上かもしれないカイトくんと、女神であるネプテューヌ様が、攻撃役になれないという事実が判明した。…提案したのは貴女です、ネプテューヌ様…。
(何か武器は…ビームサーベル、これだけか……ッ!)
だが、出せないものは仕方ない。そう意識を切り替えて、私はこの機体の装備を確認…したが、外見からも半ば分かっていた通り、あったのは近接戦用の荷電粒子収束剣だけ。…いや、よくよく考えたらこれだけでもあるのが驚きだが。レースなのに武装を積んでる時点でおかしいのだが。まあ、未使用時は両肩部に装着される関係で、一つの武装ではなく機体の一部として認識されたのだろう。とにかくないよりはマシだ、まともな武器である以上ずっとマシだ。
「グレイブくん、愛月くん、君達は攻撃出来そうかい?」
「問題ねぇ、技が使えるのはもう分かってる事だしな」
「こっちも大丈夫!」
「では、慎重に攻めようか。現実ではないとはいえ、十分気を付けるように!」
右腕部で一本を引き抜き、改めて突撃。真っ直ぐ突っ込み刺突を掛けるが、猛獣には躱され、逆に爪を振るわれる。私はそのままスピードを落とさず、駆け抜ける形で反撃を避ける。
(やはり速い…が、奴に向かっていく分には非常識な反応も動きもしてこないか。ならば勝機は……)
ある、と思いたいところだったが、そんな余裕は与えないとばかりに次々と攻撃をされる。非常識でないと言っても速いものは速く、単発の攻撃は対応出来ても、連撃をされるとあっという間に追い詰められる。端的に言って…不味い…!
「そっちばっか見ていていいのかよ。ブラスト、燕返し!」
「こっちもいくよ、ウインディ、炎の牙!」
しかし次の瞬間、二つの攻撃が猛獣を左右から挟撃。鋭い翼の一撃と、燃え盛る牙の一撃が同時に猛獣を襲い、猛獣は叫びを上げる。
直後に振り払われるグレイブくんと愛月くん達。…だが、今ので分かった。間違いなく奴は、ダメージを受けている。倒せる可能性は…確かに、ある。
「ふー……」
「…もしかして、何かする気?」
「あぁ。攻撃出来なくとも、やれる事はある筈だからな」
「うん、いいねそういうの。自分も言い出しっぺとして、見てるだけなんて事は…出来ない、かな…!」
立て直し、次なる攻撃のチャンスを伺う中、凄まじい勢いで突っ込んで来たのはカイトくんとネプテューヌ様。なんという無茶を、そしてやっぱり提案者を覚えてるじゃないですかネプテューヌ様…という声を上げるよりも速く、二人は猛獣に肉薄し…左右に離脱。ギリギリで攻撃を躱し、尚且つ猛獣の注意を引き…猛獣から隙を引き出す。
「そこだ…ッ!」
その隙を突く形で急接近を掛け、荷電粒子収束剣ですれ違いざまに一撃。光学の刃は猛獣の胴体を強かに斬り裂き…しかし、かなり深く入ったにも関わらず、猛獣は倒れない。加えて傷痕も残らない。…が、傷痕に関してはそれもゲームの様なものと思えば納得出来る。
陽動としてカイトくん達が動き、隙を突いて私達が仕掛ける。五対一という事もあってこの戦法は上手く刺さり、次々と攻撃が当たる。攻撃を受ける度、猛獣は激しく唸る。されど、中々倒れない。倒れないどころか……
「こいつ、段々動きが激しくなってないか…!?」
「体力が減ると攻撃が激しくなるのはボスキャラのよくあるパターンだけど…実際に相手にすると不条理感凄いね!?体力減ったら普通動き鈍くなる筈だもん!」
歯噛みするようなグレイブくんの声と、慌てて逃げるネプテューヌ様の叫び。
今二人が言った通り、猛獣の動きは最初より激しくなっている。より素早く、より苛烈になっていて、次第に攻撃のチャンスがなくなっていく。前向きに捉えれば、それだけ追い詰めているとも考えられるが…追い詰めるだけでは意味がない。倒さなければ、結果は同じ。
「くっ、ぅぅ…!なんとか、一発…少しずつでも、ちょっとずつでも……!」
「…いや、駄目だ愛月君!少しずつダメージを与える形では、更に動きが激しくなって、完全に付け入る隙がなくなる可能性がある!」
「じゃあ、どうすれば…!」
「ははぁ、そういう事か。逆だ愛月、少しずつ積み重ねるんじゃなくて…これ以上激しくならないよう、大技で一気に決めるんだよ!」
これであっているだろ?…と言うようにこちらを見てくるグレイブ君へ、そうだと返す。あくまで推測でしかないが、もし猛獣の体力が残り少ないなら、少ないからこその苛烈さなら、一気に決める事へ賭けるのは間違いじゃない。
だが同時に、これは危険を伴う策でもある。大技は往々にして自分に隙を生み出してしまうものなのだから、失敗すればダメージを与えられないまま返り討ちになる事もあり得る。故に、部隊…もとい、面子によっては選べない選択でもあるのだが…ありがたい事に、今ここにいるのは全員が度胸と勇気を持った者達。彼等なら…彼等とであれば、やれる…!
「よっしゃ、愛月!ワイト!斬り込み役は頂くぜ?」
「任せたよグレイブ!」
「いや、それは私が…と思ったが、頼むとしようか…!」
恐らく斬り込み役が一番危険なのだから自分が…と思っていたが、先を越される。その声に籠もった気概に、そうしようと思わされる。彼は自分の世界における、あるチャンピオンとの事だが…流石、頂点を獲った少年だよ、君は…!
グレイブくんの意思を組み、もう一度カイトくんとネプテューヌ様が陽動をかける。今回は私もそれに続き、ある方向からカーブし突進。そして猛獣に突っ込まれる直前に機体を飛び上がらせる事で回避し…同時に、開く。この機体を壁にする事で猛獣から隠していた、グレイブくんの為の道を。
「さぁて、おねんねの時間だ!ブラスト、ブレイブバードッ!そして…イン、ファイトォッ!」
私が進路を開けた次の瞬間には、グレイブくんとブラストが急加速。ブラストは輝きを放ちながら、猛烈な勢いで突進し…猛獣が振るった爪と激突する。激突し、跳ね除け、そのまま突進を喰らわせる。
それだけではない。仰け反りながらも噛み付こうとした猛獣を制するように、ブラストはその強靭な脚と翼を用いて、猛獣の胴へ乱打を叩き込む。翼で、脚で、鉤爪で叩き、蹴り、何度も何度も打撃を浴びせ、更にはそこへ拳も混ざって……
「オラオラオラオラオラオラぁッ!」
『いやなんでグレイブ(君)まで殴りまくってるの!?』
「やれる事をやる、そんだけだッ!後、突っ込んでる場合じゃねぇだろ愛月!行けッ!」
「あ…うんッ!ティガ、まだ後一回はいけるよね?やるよ、神速ッ!」
はっとした愛月君がかける追撃。最後の一撃だとばかりに拳と蹴りを叩き付け吹っ飛ばしたグレイブくんとブラストの背後を、愛月くんとティガは圧倒的な速度で追い抜き、猛獣へと追い縋り、突進を浴びせる。先の一撃を即座に再現するような、されどグレイブくんの時以上の速度でぶつかったティガの上で、愛月くんは猛獣を見据え…炎が煌めく。
「全力全開!炎の…牙ッ!」
声が響くと共に、ティガは猛獣の喉元に喰らい付く。牙が食い込むと共に炎が吹き上がり、尚且つその状態で自身より数段大きい猛獣を引き摺り回す。全くもって容赦のない…しかしだからこそ、残る体力を確かに、一気に削り取るような攻撃が猛獣を襲う。
されどそれでも、猛獣はまだやられない。初めは中々の速度だった引き摺り回しもその勢いが落ち始める。…だが、それならば私が決めるだけ。先に十分なダメージを与えてくれた二人に応える為にも、責任を持って仕留めるまで。
(終わらせる…!)
推力全開で、猛獣へ迫る。二人の様に鮮やかな攻撃は出来ないが、それで良い。確実に、着実に倒す…プロに必要なのは、ただそれだけ。
愛月くんとティガが、離脱する。入れ替わる形で、別方向から私が襲う。迫り、近付き、どんどん距離を詰めていき……次の瞬間、目が合う。
「な……ッ!?」
息が、詰まる。側面から仕掛けていたにも関わらず、視界の外にいた筈にも関わらず、猛獣はこちら振り向いていた。モニター越しに、猛獣の目が見えていた。
猛獣の前脚がぴくりと動く。間違いなく、次の瞬間には攻撃がくる。そして最大推力で突っ込んでいる今、避けられる見込みは薄い。仮に避けられたとしても、畳み掛けなければいけないこの状況でそれは不味い、不味過ぎる。
ならばどうする、刺し違える覚悟でこのまま突進をかけるか。正直、それが上手くいく気はしない。だがだとしても、今はやるしかない。一か八かやるしか、それしか──
「させる、かよ…ッ!行って下さい──ワイトさんッ!!」
……そう思った、そう思っていた直後、ティガとは違う炎が…もう一つの火炎が駆け抜ける。空へ舞い上がるように、炎の噴射で彼が…カイトくんが飛び上がり、蹴り込むようにボードを放つ。これまでで一番の、爆音轟く炎をなびかせながら、ボードは猛獣に衝突し…大きく、仰け反る。
生まれたのは、最大級の隙。最高のチャンス。されどカイト君は、このままいけば確実に墜落し、地面に激突する。この隙を活かし、仕留めるという事は、それを分かっていながら見過ごす事。彼の決死の行動を、『犠牲』とする事。……なんて、思う必要はなかった。そんな決断は、そんな覚悟は必要ないとばかりに…紫の一閃が、輝く。
「格好良いね、カイト。でも、そういうのは……一言言ってからにしてほしいわ」
落下するカイトくん、その先へと駆けるのはネプテューヌ様。落ちる、地面にぶつかる…その寸前でネプテューヌ様は追い付き、バイクを手放し、身体を倒し…女神化。直後に砂煙が舞い…直前に見えたのは、後は任せたというサムズアップ。
それを受けた時、私が猛獣の…仰け反り、それでもこちらを見ようとする奴の眼前にいた。…終わらせる為に。今度こそ、本当に…任された責任を果たす為に。
「これで……ッ!」
機体を大跳躍させると共に、下から上に剣を突き出す。顔の下、顎の裏に荷電粒子収束剣を突き刺し…そのまま私はマエリルハを空へ。猛獣の、上へ。
機体に備えられた全てのスラスターを駆使し、宙で回転。素早く、鋭く、一瞬で背面宙返りを掛け、機体のカメラと自分の目とで猛獣を見据える。それと共に、もう一振りの剣を抜き放ち、推進器を焼き切る覚悟で吹かし続け…突き下ろす。猛獣に飛び乗り、頭頂部へ刃を突き立て……押し込む。
「終いだッ!」
顎と頭頂、上下から立て続けに突き刺され、貫かれたにも関わらず、猛獣は暴れる。狂ったように、割れんばかりの絶叫を上げながら、暴れ続ける。
だとしても、離すつもりはない。全身全霊で猛獣の上に留まり、荷電粒子収束剣で貫き続ける。そして長く猛獣は暴れた末…動きが弱まり始める。力が抜けるように、燃え尽きるように、段々と弱まり、その一方で何故か赤く点滅し始め……
(ま、まさか…自爆……!?)
咄嗟に、反射的に、機体の緊急脱出システムを起動。そんな馬鹿なとは思うものの、身体に染み付いた感覚が、考えるより先に私へ脱出を選択させ…コックピットブロックが、機体の背部から射出される。尚且つ備えられた小型スラスターで、コックピットブロックは飛んでいく。そうして私が宙を舞う中……事切れるように一鳴きした猛獣は、爆発した。
『…えぇぇ……?』
危なかった、助かった…そんな感情より早く、何故猛獣が爆発を…?という疑問の方が上回る。それはグレイブくん達も思ったようで、地面に落ちたコックピットブロック内の私と声が重なる。
「……っ…!そ、そうだ、二人は…!」
「ふふっ…安心しなさい、無事よ」
「やりましたね、ワイトさん」
その困惑が通り過ぎた直後、思考を掛けるのは二人の安否。先程グレイブくん達に言った通り、ここは仮想空間内とはいえ…それでも現実と見紛う程リアルな空間故に、私は焦りを抱きながら声を上げた。
そんな私の言葉に答える、二人の声。気付けば砂煙は晴れており、二人はサムズアップをしていた。そして……
「おっし、そんじゃ倒した事だしレース再開……って、うん?なんだこの音…」
「この何とも軽快な音は……あ」
聞こえてきたのは、ファンファーレの様な音。なんだなんだと皆が見回す中、私もコックピットブロックから出て、地面に降り……気付いた。いつの間か…恐らくは猛獣の爆発と共に開いた門。その内側に…ゴール地点に、自分がいた事に。
*
「あー、面白かった。レースもだが、最後にあんなバトルが起こるとは思わなかったぜ」
「だな。けど…幾ら何でもズルいぞワイト〜。あんなさらーっとゴールするとか、大人なのにセコくねーか?」
「ははは…すまない、でもわざとではないんだよ……」
レースを終え、大会のロビーフロアに私達は戻った。そこで私は、不満そうなグレイブくんから軽く睨まれ、頬を掻く。…まさか、偶然とはいえ自分が狡猾な人間となってしまうとは……。
「…こほん。では、お詫びと言ってはなんだけど、今回の勝利で得たポイントで食事でもどうかな?」
「お、太っ腹だな。そういう事なら許すけど…代わりにがっつり食べさせてもらうぜ?」
「それって勿論自分達もだよね?スイーツもありだよね?」
「あ、スイーツなら僕も賛成!…と、思ったけど…疲れたし、今はお肉も食べたいな…どうしよう…」
「…奢り…そういえば……」
「ああ。先日と違って、今回は私が一位だからね。これなら君も気兼ねないだろう?」
そんなやり取りをしつつ、私達は外に出る。中々ハードなレースだけあって、得られたポイントはかなりのもの。ここで仮に四人に食事を奢っても十分お釣りは来るだろうし…仮に今回のポイントを全て使う事になったとしても、彼等が楽しんでくれるのなら、不満はない。
「それにしても、最後のはなんだったんだろうね。あれは普通じゃなかったんでしょ?」
「読んだ説明の通りならな。だから説明が間違ってたか、それともこのレース…というか、大会のシステム?…が実は未完成で、そのせいでおかしくなってたとか……」
「うーん…一個、思い付いたのがあるんだけど……」
結果的に私がズルい勝ち方をしてしまった訳だが、猛獣に対する勝利自体は全員で掴んだもの。その清々しさは確かに心の中にあり…だがそれはそれとして、疑問は残る。武器や炎が出せなかった事、ポケモンは攻撃が出来た事については、先程他のポケモンは出せなくなっていた、と言うのを聞いたのもあって、人や女神に対しては攻撃関連の制限がされていた(グレイブくんは殴ってもいたが…)と考える事も出来るが、この点に関しては、本当におかしいと思う。
結局どういう事なのか。おかしな事もあったものだ…そんな感想で片付けていいのだろうか。そう私が考える中、何とも言えない表情をしたネプテューヌ様は、そっと右手を顔の横側辺りまで上げる。そして私達が見つめる中、「もしかしたら、もしかしたらだよ?」…という前置きをした上で……ネプテューヌ様は、言った。
「……これ、信次元の自分がノリで作ったか提案したかしたのを、そのまま組み込んだとかだったり…?」
『あー……』
全会一致の、全員揃っての、あー。確かな証拠がある訳ではない…なのに妙に説得力のある言葉。
ここで全員が何となく納得出来た辺り、信次元のネプテューヌ様は…それに恐らくはカイトくんの次元のネプテューヌ様も、私の知るネプテューヌ様と似たような性格なのだろう。…非常に失礼ながら、そう思う私であった。……割と本当に、そういう事をしそうな女神様ですから…。
今回のパロディ解説
・「〜〜第一コーナーを先に曲がった方が先行〜〜」
遊戯王シリーズにおける、ライディングデュエルのルールの一つのパロディ。カードバトルじゃないんですから、先行も何もないですね。先に曲がった方が先行してる、とは言えますが。
・ねぷ子屋ウィリー事件
水曜どうでしょうにおける、代名詞的な出来事の一つのパロディ。そういえばグレイブは前のコラボでもどうでしょうパロをしていましたね。…と、ふと今思い出しました。
・某健康優良不良少年
AKIRAの主人公、金田正太郎の事。お分かりの方もいるかもしれませんが、作中のスライドブレーキは、AKIRAの代名詞とも言えるアレです。折角バイクを出したので、このネタも入れてみました。
・(何か武器は…ビームサーベル、これだけか……ッ!)
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの台詞の一つのパロディ。元ネタと違い、本当に火器無しの一種類だけです。ビームサーベルなので近接武器としては十分でしょうが。
この他、アイテムを中心にマリオカートの要素(パロディ)を幾つか入れさせて頂きました。