超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第二十九話 運と資産と実力を賭けて

 続く、仮想空間での活動。現実の一日だけじゃ終わらないこの活動をする間、わたし達はプラネタワーに泊まる形になっていて…今日もまた、朝を迎える。

 

「さぁて皆、この活動も後半戦。それぞれ色んな事をしてきたと思うけど、やり残しはないかしら?あるのなら、終わる前に…勝利の為にやれる事があるなら、後悔する前にやり切らなきゃ駄目よ?」

『おー』

 

 ぴっ、と人差し指を立てながらわたしが言えば、返ってくるのは緩めの反応。…まあ、別に最終日って訳じゃないし、わたしもさらっと言っただけなんだから、反応なんてこんなものよね。

 

「…あ、でもこの部屋まで来てあれだけど、そろそろ小休憩とかじゃなくて、一日丸々お休みとかにする?というか、別に毎日毎回参加しなくても良いんだからね?」

「そうはいきませんよ。お休みしたら、その分遅れを取る訳ですし」

「だよね〜、というかゲームみたいなものだし、自分は毎日でも全然問題ないね!」

 

 イリゼがふと思い出したように訊くと、すぐにビッキィが、続けてネプテューヌも返答をする。他の皆も概ね同じ反応で、わたしとしては嬉しいところ。だってこれは、皆が楽しめている、楽しんでいるって事だもの。なら、皆を信次元に招いたホスト側としては、嬉しいってものよ。

 

「では、そんな皆さんに朗報ですっ」

「お、何ッスか?」

「イリゼさん達から聞いていると思いますが、一発逆転可能な大イベントの準備が出来たんです」

 

 と、そこで準備をしてくれたネプギアが声を上げる。声音からして、そのイベントの中で得られるデータが楽しみだって感じで…ネプギアもまた、連日モニタリングをしてくれている。となればネプギアだって疲れがあってもおかしくないんだけど…ネプギアは、全くそれを感じさせない。毎日始まる前は得られるデータに期待していて、終わった後は得られたデータに満足気な顔をしている…そんなネプギアは、ある意味この活動を一番楽しんでいるのかもしれない。

 

「一発逆転、かぁ…一体どんなイベントなんだろうね」

「愛月、イリスはTVで見たから知っている。これはきっと、最終問題だけ点数がおかしいクイズ。丁度逆転出来る位の点数か、それまでのクイズが全部意味なくなる位の高得点が設定されている」

「なんて身も蓋もない言い方を…まぁ、現状最下位の人でもトップに躍り出る事が出来るレベルであるなら、得られるのは確かにこれまでの事が無駄に思える程の高ポイントなんでしょうが…」

「まあ、それは実際に見てのお楽しみ、じゃないかな。負けないよっ、ピーシェ!」

「…ふふっ。それは私もだよ、ルナ」

 

 そうしてわたし達は、大イベントの内容やどれ程のポイントが得られるのかに興味を抱き、今日もまた機材へと身体を預ける。わたしも横になろうとして…ネプギアに、呼び止められた。

 

「あの、イリゼさん、セイツさん」

「うん、どうしたのネプギア」

「さっきは言わなかったんですけど…今のところ、仮想空間の中では順調にシステムが発展、多様化しています。それは望んでいた通りの形なんですが…正直言うと、予想以上の結果なんです」

「あら、それは嬉しい誤算……とも、言い切れない様子ね」

 

 何か懸念が?…という含みを持たせてわたしが言えば、ネプギアはこくりと頷く。

 それは、分かる。嬉しい誤算であったとしても、誤算は誤算。他の事ならともかく、今回の事…精密機械が絡む事となると、嬉しい誤算は何かの切っ掛けで悪い誤算になる事もあり得る訳だから、その方面に詳しいネプギアが手放しで喜べる訳じゃないのも理解出来る。

 

「そういう事ですので、ここからはより念入りにモニタリングしようと思います。何かあれば連絡を入れますので、出来る限りいつでも受けられる状態にしておいて下さいね」

「えぇ、分かったわ。ネプギアも頑張ってね?」

 

 今度はわたし達が頷きを返し、改めて機材に横になる。力を抜いて、システムが起動するのを待つ。

 

(予想以上の結果…やっぱり色んな次元や世界から人が集まっているから…間接的に幾つもの次元、世界が接続しているから、かしら)

 

 じゃあ、ここから何か不味い事が起こるとしたら、目覚めた時には仮想空間が何故かギャヲス的な次元になってたり、仮想空間の中で(ハイロゥ)が開いてどこかの次元と直結してしまったりするのかしら。……って、何考えてるのよわたし…もし本当にそういう系の事が起きたら、わたしのこれがフラグになったって事じゃない…うん、止め止め。そんな事よりわくわくしてるネプギアの心に思いを馳せる方がずっと有意義だわっ!

 とまぁ、そんな事を考えている内に準備が済み、ネプギアからの呼び掛けがくる。それにわたし達は応答して、目を閉じる。…さて、これから始まる大イベント…さっきも話題になってたけど、一体なんなのかしら、ね。

 

 

 

 

 意識が現実から仮想空間内へと移るのは、眠りから目覚めるようなもの…だけど、少し違う。違うんだけど、例えとして一番近いと思えるのが、起床の感覚。ともかく、そういう感覚を経て、わたしの意識は仮想空間へと移行した。

 

「……あら?」

 

 目を開けて、最初に抱いたのは疑問。これまではゲームのセーブ&ロードの様に、現実に戻る直前にいた場所から再開されていたんだけど…今回いるのは、街中の野外。

 

「ねぷ?知らない天井、じゃなくて知らない街並み…でもないや。えーっと、ここはどの辺りだったかな……」

「うーんと、確か教会からちょっと離れた、あんまり施設のない場所だったような…って、あれ?グレイブがいない…」

「グレイブどころか、まあまあな人数がいないな…昨日はここで終わった覚えもないし、俺達の方が間違ってここに転送されてんじゃないか?」

「…いや、そういう訳でもなさそうッスよ?」

 

 ここにいるのは、ネプテューヌにアイ、ルナにイリスちゃん、カイトにワイトに愛月君、そしてわたしを含めた八人。妙な状況にわたし達が小首を傾げる中、含みのある感じで声を上げたのはアイ。何かと思えば、アイはある方向を、後ろ側を指差していて……

 

『わっ……』

 

 振り向いたわたし達は、驚愕した。そこにあったものに。見るからに豪華で、視界に入れれば否が応でも意識を引かれるような…巨大な施設に。

 

「…大きい…ピカピカしている…これは、ゲームセンター…?」

「ゲームセンター?…あぁ、言われてみると確かに、この照明は少しゲームセンターを思わせるね。けれどこれは、ゲームセンターというより…カジノ、かな」

 

 少し考えてから言ったワイトの言葉に、わたしも頷く。この派手な輝きを始めとする、外観から伝わってくる豪勢感は、カジノ施設を思わせる。

 そして、昨日まで仮想空間の中に、カジノなんてなかった筈。少なくとも、この施設はなかった。規模からして、あればどこかのタイミングで見かける位はしていた筈だから。

 

「…どうやらこれが…というかここが、大イベントの舞台みたいね」

「カジノ…って、トランプとかスロットとかをする場所だよね?…私、スロットなんてした事ないし、トランプもちょっとしか経験ないし、どうしよう……」

「ルナ、大丈夫。イリスも一緒」

 

 励まし(?)の言葉と共にルナの手を握るイリスちゃんを見て、わたし達は微笑ましさを抱きつつ苦笑。まあでも今思った通り、ここが逆転も狙える大イベントの舞台なら、誰でも参加出来るようにルールや説明はきっちりとしているわよね。

 

「まあそれはそれとして、いない面々は結局どういう事ッスかね」

「他にもイベントは用意されていて、いない面々はそっちに振り分けられた…とかかもしれません。連絡を取れば分かる事とは思いますが」

「でもま、不具合ならネプギアから何か言ってくる筈だと思うし、大丈夫だとは思うわよ。…にしても、カジノね…ふふ、腕が鳴るわ」

「俺もカジノはゲームとかでしかやった事ないから楽しみだ」

 

 そんな感じで取り敢えず状況を把握したわたし達は、カジノ…と思われる施設へ向かう。このイベントに参加するかどうかは自由だし、実際全員が全員やる気満々って訳ではないけど、別行動を選んだ人は誰もいなくて…わたし達は、揃って入店。

 

「わぁ…凄い、お城みたい……」

「確かにお店とは思えない豪華さだよねぇ。カジノってお金持ちが行くところのイメージあるし、そういう意味ではやっぱりかー、って感じもあるけどさ」

 

 深紅のロングカーペットに、シャンデリア。数々の高級そうな陶器や絵画。今愛月君の言った通り、中は城か宮殿の様で…今のところ、ゲームやボードは見当たらない。逆に目立つのは、曲線を描く二つの階段と幾つかの扉で…どうもここは、エントランスらしい。

 

「作りからして、あの奥の扉がカジノの会場に繋がってるんだろうね。…しかしまさか、次元を超えた先でカジノに訪れる事となるとは……」

「他の扉は、どこに繋がっている?」

「どこだろーね。…そうだ、ちょっと探検してみる?」

「あ、僕も探検したいな」

 

 言うが早いか、ネプテューヌはイリスと愛月君を連れて階段を登っていく。え、稼がなくていいの?…と一瞬思ったけど…まあ別に、ここに来たなら稼がなきゃいけないって訳じゃない。それより興味のある事、やりたい事があるなら、そっちを優先させたって何も問題ないものね。

 それにしても、エントランスがここまで豪華だった事は、きっと会場も格調高い感じよね。だったら……。

 

「アイはカジノに詳しかったりする?」

「何となくルールを分かってるって位ッスね。まあ別に、ここで大敗しようと現実に影響がある訳じゃないッスし、気楽にやれば良いと思うッスよ」

 

 残る四人は、普通に会場へ繋がっているであろう扉の方へと歩き出す。勿論わたしも、会場に向かうつもりだけど…その前に、とアイとルナを呼び止める。

 

「待った。その前に一つ、しておいた方がいい事…あると思わない?」

「あれッスか?裏技を利用して、取り敢えず838861枚程コインを確保してから入ろうって話ッスか?」

「違うわよ!?違うし出来ないわよ!?どんだけ仮想空間形成装置のスペックが低いと思ってるの!?」

「なら…大負けしたらリセット出来るように、ここでセーブを…?」

「しないから、それも出来ないから…」

 

 二人のボケに突っ込んだわたしは、それからがっくりと肩を落とす。完全に油断していた、とわたしが反省すれば、アイは愉快そうに、ルナは苦笑い気味に小さく笑う。

 だけどまあ、こんなのは日常茶飯事。この程度を、一々引き摺ったりはしない。だからわたしは気を取り直し…会場へ入る前に、と二人をある部屋へと誘った。

 

 

 

 

 カジノはゲームで賭けをする場所。それは知ってるし、トランプとかルーレットとかを使うって事も知っているけど、それは全部何となくの知識だから、私は楽しみって気持ちと、不安って気持ちが半々ずつだった。

 そんな気持ちを抱きながら、一度最初の部屋から移動していた私達は、戻ってきてから奥の扉の前へ。ぐっ、とアイが扉を開けて…カジノの会場へ、私達は足を踏み入れる。

 

「おぉー…!」

 

 中へと入った途端に聞こえてきたのは、賑やかな音。人の声に、スロットマシンの効果音に、カードやボール、それぞれが出す音。大きいけど五月蝿くない、初めて来たのに「これぞカジノ!」って思わせる音が色んな方向から聞こえてきて…ちょっぴり圧倒されちゃった。

 

「活気があるわね。声は殆どがNPCだろうけど」

「そう考えると少し寂しいもんだな。普通のゲームだってそうじゃねぇかと言われたら、それまでだけどよ」

 

 うわぁ、すっごい…と思ってる私とは対照的に、アイとセイツさんは普段通り。流石は国を守る女神様だなぁ、私とは全然違うなぁ、なんて二人の様子に私は思っていて…そんな中、私達は声を掛けられる。

 

「ふふ、よく来たね三人共。カイト君とワイト君はもうプレイ中だよ?」

「あ、イリ…ゼ……?」

 

 それは聞き慣れた、イリゼの声。なんだ、イリゼは先に来てたんだ。そう思いながら私は声のした方へ振り向いて……固まる。

 そこにいたのは、イリゼ。女神化してるけど、確かにイリゼ。だからそれ自体に驚きはない。けどイリゼの格好は、今のイリゼは──うさぎさんだった。

 

「お、おおぉ…これは、また……」

 

 予想を大きく超えた、初めて見るイリゼの姿に、アイも呆気に取られる。私達の視線に気付いたイリゼは、ふふんと軽く胸を揺らす。

 今のイリゼはうさぎさん。長くて真っ白な、髪と同じ色をしたうさ耳のあるうさぎ女神様。…でも、小さくて丸っこいうさぎじゃない。ぴったりと身体のラインが分かる、イリゼの出るところはしっかり出て引っ込むところはしっかり引っ込んでいるスタイルを余すところなく伝えてくれる、淡い黄色のボディースーツに、それとは繋がっていない…普通に考えたら何の意味もないのに、今はそれがなくっちゃね!…と思わせてくれるカフスと付け襟。胸元から上と、背中は大胆に見えていて、柔らかそうな胸の膨らみも、余計なものなんて何もない肩の曲線も、包み隠さず拝ませてくれる。イリゼは髪が長いから、背中は見えない事もあるけど、だからこそ逆に背中や頸が見え隠れする度どきりとする、させてくれる。

 上半身だけでもこんなに魅力的なのに、視線を下に向ければ飛び込んでくるのは目の荒い編みタイツ。肌の綺麗さがよく分かる、それでいて荒目の網に包まれた事でなんだかイケナイ感じも醸し出される黒と肌色のコントラストがそこにはあって、その先にあるハイヒールは、ヒールの高さがイリゼの美女らしさを足元から際立たせていた。更に、少ししてから気付いたけど、腰の後ろの辺りにはふわっとしたうさぎの尻尾もあって……その姿は正に、バニーガールさん。多分、世の中でもトップクラスに偉い、偉くて美しいバニー女神様。

 

「イリゼ、その姿…って事は……」

「そういう事さ、セイツ。ここはカジノで、今の私はこのカジノを取り仕切る者の一人。であれば、それに相応しい装いをするのが道理というものだろう?」

「いや、それは分からねーでもねぇが…ロイヤルバニー感が凄ぇな……」

「それは褒め言葉として受け取っておこう。…しかし、気品という意味では君達もではないかな?」

 

 自信と余裕たっぷりのイリゼは、アイの言葉にも薄く笑みを浮かべる。それから言葉を続けて…ふっ、と笑みを深める。

 そう。どこからどう見ても神々しい、圧倒されるような綺麗さのイリゼだけど、ここにいるのは…一周半回ってやっぱりはっとするような美しさを纏っているのは、イリゼだけじゃない。実は今、セイツさんは女神化していて、女神の姿になっていて……そのセイツさんが身に付けているのは、純白のドレス。首から広がるようにしてすっと降りていく、胸の内側が薄っすらシースルーになっている、太腿丈のスカートとロング丈のオーバースカートを組み合わせた、ちょっぴりウェディング衣装にも見えるドレス。それ自体が感じさせてくれる清楚で穢れのない感じと、イリゼと同じ位のスタイルを持つセイツさんの組み合わせは、上品で美しい…でもそれだけじゃない艶かしさを私の心に、見ている人に響かせる。

 素肌が見える訳じゃない、シースルーの胸元は、露出した肩や腋と引き立て合って、どっちが良いかなんて考えられない。どっちも良い、良過ぎるとしか思えなくなる。オーバースカートで品位とシルエットを高めて、太腿丈のスカートで可愛らしさとそこから伸びる素足の艶っぽさを両立しているさまは、もう芸術的としか言えなくなる。全体としてのウェディングっぽさも、特別な瞬間を、今しかない時を見せてくれているような感じに溢れていて…美の女神がいるなら、きっとこんな感じなんだと思う。むしろセイツさんがそうだとしてもおかしくない。

 

「ありがと、イリゼ。これだけ雰囲気のある施設なら、ドレスコードがなかったとしても、品位ある装いをしてこそ女神だもの。…でもまさか、イリゼも同じ考えをしてたなんて…ふふっ。やっぱり姉妹ね、わたし達」

「うん、姉妹だもんね。…と、なると…二人のドレスも、セイツが?」

「正解。わたしの見立てたドレス、凄く似合ってるでしょ?」

 

 似合ってるでしょ?…そう問うセイツさんの言葉に、強く頷く。ぶんぶんと、何度も頭を縦に振る。これは私へ向けた質問ではないけど、頷かない訳にはいかない。今のアイの姿を見れば、頷かずにはいられない。

 アイも今は女神の姿。最初は「えー、女神化する必要あるッスか…?」って感じで乗り気じゃなかったアイだけど、セイツさんの見立てたドレスの内、アイも気に入ったものは、悉く胸周りに布の余りが…ってなってすったもんだ起きた末、キレ気味にアイは女神化をして…そんなアイが、人の姿よりメリハリのある肢体にアイが纏うのは、セイツさんとは対照的な漆黒のドレス。きゅっと締まった胸の上から、足元まで隙なくドレスが身を包んでいるような装いは、安易に肌を見せたりしない…そんな事をしなくても、身体のラインだけで幾らでも目を奪えるような自信と美麗さを表しているようで…けれどやっぱり一番目を、心を奪われてしまうのは、太腿の辺りからの深いスリットと、そこから覗くしなやかな脚。

 艶のある肌、緩やかな曲線、絶妙な肉付き。非の打ち所がない、どんなに言葉を尽くしても言い表せないような、至上の脚線美。普段はプロセッサで殆ど分からない『美』そのものが、今はスリットから時にちらりと、時に大胆に見えて、隠れて、また見えて…じろじろ見るのが失礼なんじゃない、目を離す事こそが失礼なんだとすら私は感じる。仮に目を離したとしても、ドレスと同じ黒の長手袋が生み出す妖艶さも上にはあって…くすみのない肌と、目が覚めるような髪の紅と、落ち着きを思わせる黒…全部が全部を引き立ている。無駄や余計は、一つもない。

 

「正直、仮想空間で一々そこまで気にする事はねーだろと思ってたが…実際こういう格好をして来るのは、気分としちゃ悪くないな」

「でしょ?ローズハートの姿のアイは、クール系や綺麗系のドレスだったら何でも似合っちゃうから、逆に選ぶのが難しかったわ」

「そういややたら真剣だったな…そうまでして選んでもらったんだ。今日は徹頭徹尾これで通してやるよ」

「うん、私もその方が良いと思う…三人共、今日は出来る限りその姿でいる事が神生オデッセフィアとエディンの両国から望まれていると思う…!」

『わっ…きゅ、急に喋った(な・わね)、ルナ……』

「…あ、そうだ三人共。えっと…そこに並んでもらっていいかな」

 

 しっかりと、しっかりとやり取りを交わす三人の姿を目に焼き付けた私。でも、これじゃ足りない。これだけ綺麗で麗しい女神様三人がいる光景なのに、目に焼き付けるだけじゃ惜し過ぎる。そう感じていた私はある事を思い付いて…ぐるりと見回す。見回して、丁度良さそうな柱を見つけて、そこに並んでくれるようイリゼ達に頼む。

 派手で豪華な会場の内装。でもそれに負けないどころか、煌びやかさで軽くそれを上回っている、三人の女神。その三人、イリゼとアイとセイツさんに並んでもらった私は、愛用のカメラを取り出して…ぱしゃり。

 

「…ふぅ…家宝にさせて頂きます」

『何が!?』

 

 以上、大変貴重な一枚を得る事が出来た私でした。近付き並ぶ最中、三人の露出した肩が触れそうになった時には、遂に鼻血すら出そうでした。それではまた、次回。

 

「いやまだ終わらないよ!?…こ、こほん。ルナも、よく似合っているよ」

「え?あ、うんありがとう。お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいな」

「お世辞ではないよ。というか、そんな軽々しく自分を過小評価するのも良くないよ、ルナ」

「そうは言っても…だってほら、この場だと比較対象が皆になるんだよ?イリゼこそ、自分のポテンシャルを甘く見ちゃ駄目だよ?」

「えぇ…?…まさか、そんな返しをされるとは……」

 

 片手を腰に当てるイリゼに、私は返す。まあ、イリゼの言う事も分かる。軽々しく自分を過小評価するのは良くないって事位は私も知っている。けど、ここにいるのは綺麗で華麗で大人っぽさも可愛さもある、ほんとに私とは別次元の領域にいる感じの女神様達な訳で…一応私もセイツさんにドレスを見立ててもらったし、鏡で見た時は「意外と可愛い…かも?」…とも思ったけども、流石に…っていうか普通に三人には敵わない。敵わないっていうか、比較にならない。なる訳がない。私程度で比較なんて、最早失礼ってレベル。って訳で、如何にイリゼやアイ、セイツさんがビューティーでセクシーで魅力がアンストッパブルなのかを小一時間程言って伝えよう…と、思ったんだけど……

 

「…似合ってるよね?可愛いよね?」

「えぇ、わたしも似合うって思ったんだからこのドレスを選んだんだもの。カクテルドレス…カラードレスとも言うんだったわね。…の良い意味で雰囲気が出過ぎない、重くなり過ぎない感じがルナには似合うと思ったし、ドレスの青色がプラチナブランドの髪を際立たせつつ、ちょっぴり大人っぽい感じにもなってると思わない?それに今はボレロで隠れてるけど、ルナのドレスは肩紐で支えるタイプだから、首筋と肩が分かれてそれぞれの良さ、ルナの女の子的魅力がはっきり分かるようにもなってるのよ?」

「普段のルナはどっちかっていうと可愛い、ってタイプだが、こういう格好すると途端に化けるな。可愛いのに大人っぽいってか、可愛さの中から大人っぽさが滲み出てるってか…あぁ後あれだ。これはもう見た目の話じゃねーが、このドレスを着た後は暫く鏡の前で自分をまじまじと見ていたり、くるっと回ってスカートを軽く浮かせたりする姿も良かったと思うぞ。ヒールに慣れてねーからか、直後によろけてたのも含めて、な」

「ふぇ…!?ちょ、み、見てたの!?」

「見てたも何も、同じ部屋にいたんだから見えるに決まってるだろ…」

「うっ…言われてみれば、確かに……」

 

 ぐうの音も出ないアイの返しに、私は肩を落とす。…だ、だって…ほんと、意外と可愛いとは思ったんだもん…こんな服を着る機会なんて滅多にないんだから、くるっと回ってみたくなったりもするよ…。

…で、でも…私が、大人っぽい…?可愛いとは思ったけど、大人っぽいなんて、そんな……。…だけど、言ってるのは女神様な訳だし…考えてみたら、今の私は女神のセンスによる格好な訳だし…今の私は、ちょっとは大人っぽい…大人のレディっぽくなってる、のかな…?…もし、そうなら…ふふ、ふふふふふふ……。

 

「ルナー…?顔が凄くにやけてるよー…?」

「は……ッ!?…こ、こほん。それより…えっと、何をしにここに来たんだっけ…?」

『こんな分かり易くカジノ感出てる会場で忘れる…?』

「で、ですよねー…誤魔化そうとしただけです、はい…」

 

 恥ずかしさと動揺から話を逸らそうとした私だけど、即玉砕。三人に怪訝な顔をされた事で、余計恥ずかしくなって…でもその後、イリゼは私を見て頷いてから、仕切り直すように口を開いた。

 

「さて、ここで賑やかに話すのも悪くない…が、やはり取り仕切る者としては、カジノとして楽しんでもらいたいところ。ここにはバカラにポーカー、ルーレットにスロットと言った定番のゲームは勿論、レースの勝敗予想や、お客のリクエストに合わせたゲームでディーラーと勝負をする事も出来る。もし君達に意欲があるのであれば、楽しくスリリングな勝負を提供すると約束しよう」

 

 さっきまでの柔らかな表情から、最初の…余裕ある女神の表情になったイリゼは、私達を見てもう一度笑う。薄い、自信に満ちた笑みで、私達を誘う。

 

「スリリング、ね…ハードルは高ぇぞ?イリゼ…いや、オリジンハート」

「わたしも、期待させてもらうわよ?稼ぎ云々は勿論だけど…ゲームも、勝負自体も…ね」

 

 勝ち気に、強気に笑みを返すアイとセイツさん。一見全員冷静な…でももうバチバチしている感じの、三人の雰囲気。そして、そこに一緒にいる私はといえば……

 

(格好良いなぁ…こういうところも含めて、『女神様』なんだもんなぁ……)

 

 笑みを浮かべ合う三人を、眼福眼福と思いながら眺めるのだった。…あ、そうだ。これも撮っておこうかな…。

 

 

 

 

 軽く見て回って見たが、確かにイリゼの言った通り、このカジノには多くのゲームがある。トランプ一つを取っても、ゲームの内容は多種多様。

 なら、その内何を選ぶか。少なくとも、スロットは選ばない。目押しが出来んなら別だが、そうじゃねーならどうしたって確率次第になる。そういうのは、気が向かない。理由はどうあれ、わざわざ女神の姿になってるってのに、確率に任せるんじゃ面白くない。同じように、ディーラー側が回すルーレットなんかも、女神の宝の持ち腐れになる。…ってなりゃまぁ、選ぶのは当然…直接勝負のゲームだわな。

 

「ようこそ、トランプコーナーへ。ここではトランプを用いたゲームが出来るよ。さあ、どんなゲームをご所望かな?」

「出来るよも何も、トランプコーナーの時点で当たり前では?」

 

 余裕たっぷりの雰囲気での問い掛けと、淡々とそれに突っ込む声。ここはカード勝負のコーナーであり…ここはズェピアとビッキィが取り仕切っているらしい。

 

「なら、ポーカーで」

「了承した。ビッキィ君、任せても良いかな?」

「貴方は何をするので?」

「私はイカサマの監視かな。よく出来たもので、ここのNPCはイカサマをしてくる者もいるし……」

 

 そう言って、言い切る事なくこちらを見てくるズェピア。…イカサマ、ねぇ……。

 

「イカサマはむしろお手のもの、みたいな見た目をしてよく言うぜ。…ところでビッキィ、さっきから気になってたんだが……」

「はい、なんでしょう?」

「…なんで男装してんだ…?」

 

 むしろズェピアはイカサマする方だろう、多分。…と思った後、視線をビッキィへと移す。移し…流石にスルー出来なかった事を、突っ込む。

 イリゼがカジノって事でバニーの格好をしていたように、ズェピアも店員らしいスーツを身に纏っている。それは良い、それは良いんだが…どういう訳か、ビッキィも同じスタイル。完全に男装の麗人状態。…どうしたビッキィ…あれか?妙な点を作って、プレイヤーの気を散らす作戦か…?

 

「あぁ、これはこっちの方が良いからです。バニーは論外として、タイトスカートとかも嫌ですし」

「そういう事か。んまぁ、スカートが好きになれないってのは分かるな(論外って言われてんぞ、イリゼ…)」

 

 今はドレスっていう、スカートになってる服装をしてるじゃねーか、ってのはさておき(いーんだよ、気分だ気分)、取り敢えずはビッキィの説明に納得。

 って訳で、気持ちを切り替えゲームに入る。トランプを出し、手際良く切ったトランプをビッキィが分け…ゲーム開始。

 

(つっても、相手はNPCなんだよな…ま、肩慣らしといくか)

 

 相手が実在しない、データ上の存在なら、ソロプレイのゲームと変わらない。…なんて事はない。何せ普通のゲームと違って、仮想空間内の身体を相手が持っていて……だからこそ、『動き』も『表情』もある訳だからな。

 素早くカードを確認し、コイン…ではなくポイントをベット。カード交換を行い、改めてベット。その間、今回は三人いる対戦相手へと常に目を走らせ、観察し……

 

「ツーペア、ワンペア、ブタ、ワンペア…アイさんの勝利です」

「まずは一勝、勿論続けてやれるんだよな?」

「無論、気の済むまで続けてくれて構わないよ。気が済むか、賭けられるものが尽きるかするまでは、ね」

 

 想定通りの一勝。特に危なくもなかった勝利。スリリングさにはちと欠けたが…それは今後に期待するまで。

 そうしてポーカーでの勝負を続ける。思考を巡らせ、相手をつぶさに観察し、時に勝負し、時に降りる。偶に脚を組み替えつつ、勝負を続け……数十分が、経過した。

 

「アイさんの勝利です。ちょくちょく降りているとはいえ、連戦連勝…流石ですね」

「勝っていく内にNPCの動きも分かり辛くなってはいたが…それでもバレバレなんだよ。バレバレっつーか、わざとらしいっつーか……ま、『そういう動き』まで再現出来てる辺りは、大したもんだがな」

 

 雑に言えばヒリヒリする程の相手じゃない。そう思いながら、テーブルに右手で頬杖を突く。

 カードを確認する目の動き、手札の強さを把握した時の表情の動き、カード交換やベットをする際の意欲や躊躇い…情報源は幾つもある。手札にどの程度の自信があるのかは、ベット額以外でも予測出来る。勿論どんな手札か、どんな役が出来てるかまでは分かる訳がねーが…考える時間は十分にある。読みをミスっても、それが死に直結する事もない。…実戦に比べれば、これは遥かに余裕のある勝負。なら、順調に勝てるのも当然だわな。相手も生粋のギャンブラーだってなら、話は別だが…相手はギャンブラーどころか、本当の人間ですらない。あくまでプログラムだっつー事を考えりゃ、見えるのは再現の動き…つまりは実際にカードを見て考えているんじゃなく、プログラムが判断し『人ならどうするか』を出力しているだけな以上、わざとらしさもあるってもんだ。

 でもってズェピアは、気が済むまでやってくれて構わないと言った。その言葉を撤回しねーなら、このままどんどん稼ぐ事も、まあ無理な話じゃねぇ。出来ない事はねーが……

 

「……んで、後何連勝したらそっちは痺れを切らして出てきてくれるよ?トランプコーナーのディーラーさん」

 

 頬杖を突いたまま、笑みを浮かべる。言い切り、その笑みを深める。ただ稼ぐだけなら、このまま続けりゃ良いが……ただ稼ぐだけなんざ、何も面白くねぇ。

 

「…それは、私達への挑戦状として受け取ればいいのかな?」

「二人がどう思ってるかは知らねーが、こっちは楽しくスリリングな勝負を出来ると聞いてるからな。ま、別に跳ね除けてくれたって構わねーよ。その場合はこれまで通り、気が済むまで稼がせてもらうからよ」

「……ディーラーとの勝負はハイレートだ、破産する覚悟はあるかい?」

「させられるもんならさせてみろよ。出来るなら、な」

「…宜しい、ならば私が相手を務めさせて頂こう」

 

 そう言って、ズェピアは恭しく一礼した後、ウチとはテーブルを挟んた反対側の席に座る。これまでと同じ、一切変わらない、穏やかな雰囲気のまま…されどその奥に、底知れない何かを潜ませながら。

 

「さて、では賭け金…もとい賭けポイントだけど……」

「好きに決めてくれて構わねーよ。こっちの軍資金全部だろうと何だろうとな」

「凄まじい自信だね。初めからそう言われてしまうと、戦々恐々とせざるを得ないね」

「全く表情が変わらない戦々恐々なんざあるかよ…」

 

 あまりにも白々しい返答に、思わず呆れ気味の突っ込みを入れてしまう。これは揺さ振りなのか、単に芝居掛かった態度が好きなだけなのか。まあどちらにせよ、相手はこれまでとはレベルが違う。こっちも出し惜しみなんざしてる余裕は……

 

「あぁ、そうだアイ君。淑女に対してこのような事を言うのは申し訳ないのだが──君が太腿に隠したカードは、テーブルの脇に置いておいてくれないかな」

 

 直後、ぴしりと固まる空気。何の話だ?…そう尋ねるようにウチは視線を向けるも、ズェピアは和やかな表情のまま…閉じられた目でありなから、射抜くような視線をウチに浴びせ続け…数秒後、ウチは立ち上がる。立ち上がり……左脚に巻いておいたカードホルダーを、テーブルに置く。

 

「ちっ、ご明察だよ吸血鬼。よく見てやがんな」

「君がそのドレスで脚を組んでいるのが些か気になってね。とはいえ女性のスカートの内側に言及するなど真摯にあるまじき行為、謝罪をさせてもらうよ」

 

 全く以ってその通り。スリットのない左脚側にホルダーを巻き、ホルダーを内股側にセットし、脚を組む事で隠しつつスリットのある右脚側からカードを引く算段だったが、どうもズェピアにはお見通しだったらしい。ゲーム開始前に指摘したのは、実際にやるタイミングを指摘出来る自信はなかったからなのか、それともその程度の策は通用しない、と警告する為なのかは分からねーが…後者だとしたら、随分と舐められたもんだ。

 

「謝罪なんざ要らねーよ。…ああ、けど代わりに一ついいか?」

「うん、何かな?」

「ウチの後ろ左側、そいつを退場させろ。…そっちの仕込みなんだろ?」

 

 先に一杯食わされた。完全に上回られ、してやられた。…だが、ただでやられるつもりはない。元々指摘する気はあったが、先にやられたからこそ、そこへ意趣返しの意図も込めて、言ってのける。サムズアップの要領で、後ろを振り返る事なく観客の一人を指差し…ズェピアへと視線を放る。

 数秒の沈黙、肩を竦めるズェピア。そして……背後から、気配が一つ消える。

 

「…お見事。どうやら君に下手な策は通じないようだね」

「お互いに、な」

 

 互いに策を用意していた。互いにそれを見破った。そうして今度こそ…勝負開始。

 

(ワンペア、か…初手の時点で弱いとはいえ役が出来てるのは悪くねぇ。悪くはねぇが……)

 

 配られた五枚のカードを確認し、ズェピアの反応を見つつ考える。ワンペアっつーのは、役としちゃ最弱だが…当たり前だが、交換したからと言って手札の強さが必ず上がる訳じゃない。より強い役を期待して交換した結果、弱くなるどころか役無し…ブタになる事だって十分あり得る。だからこそ、ワンペアは残しつつ、残りの二枚か三枚を交換に出すのが定石っつーか、まともな判断だが…まともな判断で、ズェピアに勝てるだろうか。仮にイカサマをしなかったとしても、何か勝率を上げる…或いはほぼ確定レベルの何かを出来そうな気がする吸血鬼相手に、それが通用するだろうか。

 

「迷っているね、アイ君」

「そりゃ迷うさ。さっきはノリで賭けポイントは何でもっつったが、それで負けた挙句血でも要求されて、女神から吸血鬼の眷属にジョブチェンジなんて御免だからな」

「ははは、安心し給え。確かに君は魅力的な女性ではあるが、私は基本的に吸血をしないのでね」

「そうかい。んじゃ…ベット、でもって四枚交換だ」

「ほぅ…?」

 

 結局ズェピアはレートについて何も言っていないが、つまりそれは無制限、って事なんだろう。だからウチはこれまでで最大額をベットし、更に手札を一枚だけ残して交換。その判断に、ズェピアはぴくりと眉を動かし…ズェピアもベット。一度カードに視線を戻し……交換なしを宣言する。

 

「…一枚も出さねぇとは、随分と自信があるんだな」

「中々に良い引きでね。アイ君こそ、一枚残したという事は…エース、或いはワイルドカードなのかな?」

「さて、ね。…ところでビッキィ、さっきも少し服装の事を言ったが……」

「言いましたね、それが何か?」

「…正直、凄く似合ってる。男装を似合うっつーのは、褒め言葉にゃならねーかもしれねぇが…ぶっちゃけ好みだ。…好きだ」

 

 隙を見せないズェピアから目を離し、視線をビッキィに。渡されたカードを山に加えてシャッフルするビッキィに話し掛け、見つめ…そして、言う。姿勢を正して、出来る限りの感情を込めて…好きだと、告げる。

 

「…………」

「…………」

「無駄だよ、アイ君。カードにおいて、ビッキィ君は恐らく私以上の手練れ。デラックスエディン代表にして、新エディンの王であり、デュエルマスターの証を持つ…かもしれない者。そんな彼女のシャッフルを、言葉一つで崩す事など出来やしないさ」

「いやそれ全部トランプじゃなくてTCGじゃねーか…後新エディンの王だったとしたら、クーデターか何か起こしてるじゃねーかビッキィ…」

 

 また思わず突っ込んでしまう。だがイリゼじゃねーが、流石にこれは突っ込まざるを得ない。…うん?あぁ、別に嘘は言ってねーぞ?実際ビッキィの事は好きだからな、ライク的な意味で。

 と、ウチが思っていると、ビッキィは手を止め、トランプの山を二つに分けてテーブルに置く。それからそれぞれの端を指で持ち上げ…二つの山を高速で、交互に混ぜ合わせていく。

 

「…ショット・ガン・シャッフルはカードを傷めるぜ?」

「知ってます、けどここは仮想空間ですし…」

「ですし?」

「…ちょっと、やってみたい欲求が……」

「因みにカジノにおいてこのシャッフルは普通に使われていたりするよ」

 

 そんな最後の知識以外は毒にも薬にもならなそうなやり取りを経て、四枚のカードが配られる。

 これが唯一の交換。この結果を確認した後は、後は更に賭けるか、降りるかの二択のみ。…だが、ウチに降りるという選択肢はない。ない、ってか…選ぶ気がない。はっきり言って、ここまでの駆け引きでも十分ヒリヒリしたものを感じられた以上は、最悪負けても構わないし、仮に弱い手札だったとしても、降りるよりは、その手札でどうなるかという緊迫感を味わいたい。……ま、これも仮想空間の、破産しようが現実への影響はないカジノだからこそだけどな。

 

(さぁて、ワンペアを崩してまで行った交換の結果は……)

 

 裏向きで配られたカードを、ズェピアに見えないようにしつつ、ゆっくりと開く。左から順に確認し、残していた一枚と合わせ……そして、笑う。

 

「…どうやら君も、良い手札になったようだね」

「実はその逆で、ハッタリを仕掛けただけかもしれねーぞ?」

「いいや違うね。君の手札は強い。スリーカード…いや、それよりも強い役だろう?」

「…………」

 

 一度目の言葉には、すぐに返した。二度目の言葉には、何も返さなかった。二度目の沈黙を、ズェピアはどう捉えるか。それはズェピア次第で…こっちも予想し切れない。

 だから後は、オープン前最後のベットのみ。その最後のベットに…ウチは、賭ける。

 

「オールインだ。…けど、まだ足りねぇ。これじゃまだ賭け足りねぇ」

「ならば、どうする?」

「イリゼから聞いたが、ここじゃポイント以外も賭けられるらしいからな。だからこの勝負に、オールインに加えて……ヤマトの魂も賭ける」

 

 選ぶのは、最大の一手。勝てば破格のポイントを得る事が出来る、負ければポイントの全てを失う、そしてどんな結果になろうともヤマトから半眼で呆れられる事間違いなしな、文字通りの賭け。

 

「……いや、それは…えぇー…?」

「うーん、これは予想外…」

「で、どうするよ?手は読めてるんだろ?コールするか、フォールするか……さぁ、選びなズェピア」

 

 もう出来る事はない。後は待つのみ。ズェピアの選択を。オープンを。その結果どうなろうとも…ウチはそれを受け入れる他ない。

 ズェピアは動きを止める。元から目は閉じられているが、そこから更に目を閉じたような…そんな風な雰囲気を纏い、五秒、十秒と沈黙し、沈黙し続け……

 

「…お見それしたよ、アイ君。君の実力の高さは理解しているつもりだったが…それは違った。君の実力は、私の理解以上だった。──フォール。私の負けだよ」

 

 ズェピアは、カードを置いた。カードを置き、勝負から降りた。負けを……認めた。

 

「……っ…たーっ、勝ったぁ…」

「っと…大丈夫ですか、アイさん」

「あー、大丈夫だ大丈夫…でももう、ポーカーは満足だな…満足ってか、疲れたからちょっと会場内を散歩してくるか…」

 

 ふっ、と緊張が解け、テーブルに胸から上を預ける。ビッキィの言葉にひらひらと手を振り、それからカードを裏のまま置いて、立ち上がる。ズェピアには良い勝負だったと、ビッキィには良いディーラーだったと伝えて、一応カードホルダーも回収してその場を去る。

 フォールである以上、稼ぎはそんなに多くない。だが、勝ちは勝ち。それも、手札で勝った訳じゃない。手札ではなく、駆け引きと精神でズェピアに競り勝った。向こうの態度からして、観念したってより、勝ちを譲ったって感じだが…十分に、十二分に、スリリングな勝負が出来たんだから……やっぱりウチの、完勝だな。

 

 

 

 

「凄い勝負でしたね。見ているこっちまで緊張してしまいました」

「だろう?その表情で?…と言うかもしれないが…私もかなり緊張したよ」

「その表情で…?」

 

 アイ君が立ち去ってから数十秒後の事。そっくりそのまま返された事で、俺はついつい苦笑いを浮かべてしまう。…まあ、ポーカーフェイスは得意だし、これを疑われるのはポーカーフェイスを評価されているのと同義な訳だから、悪い気はしない。

 

「でも、本当に凄かったです。あれだけの自信があった訳ですし、アイさんは余程強い手札だったんでしょうね…」

「まぁね。あ、因みにアイ君の手札は、左から順にハートのエース、2、8、クイーン、キングだよ。フラッシュだから、まあ強くはあるね」

「へ……?」

 

 回収も兼ねてカードを見ようとしたビッキィ君に、俺は言う。言われたビッキィ君は目を丸くし、確認し…次にこちらへ向けてきたのは、唖然とした表情。

 

「ふふふ、この位造作もない事だよ。ところでビッキィ君、先程シャッフルの方法を途中で変えたのは……」

「あ、あぁ…あれは流石に、というか普通に動揺して、あのままだとカードを吹っ飛ばしそうな気がしたので、仕切り直そうと思いまして……」

「おや、動揺していたんだね。それをああも誤魔化すとは、君も流石だよ」

「それはどうも…っていやいや、そうじゃなくて!分かってたんですか…?ならあれは、単に自分より強いと分かっていたから……」

「いいや、違うよ。見ての通り、私の手札はフルハウスだったからね」

 

 そうではないよ、と私も裏にしていたカードを開く。本当にフルハウス…フラッシュよりも強い役である事をビッキィ君に示す。

 やはりと言うべきか、そりゃそうだよなぁって感じというか、俺の手札を知って固まるビッキィ君。そうして彼女が向けてきたのは、「何故?」という視線。それを受けた俺は、一つ頷き…言う。

 

「そう、私は勝てると分かっていた。何せアイ君の手札が分かっていたんだからね。…けれど私は、不安を、疑念を抱いてしまった。私には知る術がある。無数の可能性を把握し、99.9%間違いないという段階まで把握が出来ていた。…それなのに、その私が、アイ君の言動で…全ての言葉と行動、選択によって思ってしまったんだよ。ひょっとしたら、アイ君は0.1%の確率を手にしているのかもしれない…或いはそもそも、99.9%という確率すら、正しくないのかもしれない…とね」

「…だとしても、十中八九これだって手札が分かっていて、しかも自分の手札がフルハウス…十分強い手札になっているんだとしたら、勝負をしても良かったのでは…?」

「そうだね、賭けとしてはその通りだ。…けれど私は、いや恐らくアイ君も、ポーカーを介した駆け引きの勝負を…読み合い騙し合いを楽しんでいたのさ。そしてその勝負において、私は自らが絶対だと思っていた力に、自信に、揺らぎが生じてしまった。だから…その時点で、私の負けだったんだよ」

 

 初めの挑戦状的挑発も、最後の問い掛けに至るまでの全ての発言、一挙手一投足も、各フェイズでの選択も…何ならふざけてるような発言や、ビッキィ君とのやり取りすら、きっとアイ君の仕掛けであり、駆け引きだった。本当に俺は、「もしかしたら…」と思わされたし…感服した。…ビッキィ君も言ったが…本当に、凄かった。

 

「それにねビッキィ君。これはもう完全に駆け引きではなくなってしまうからやらなったが…アイ君の手札は、確認しようと思えば出来たんだ」

「え?…うわっ、客が何人か消えた…。…この消え方は、さっきと同じ…って、事は…さっきアイさんが見抜いたのは、ズェピアさんの仕掛けの一人に過ぎなかった…と…?」

「正確には、わざと見抜かせた一人だよ。人は一度イカサマを見抜いてしまえば、同じ手を更に使ってくるだなんて思わないものだからね。…まあもしかすると、全員見抜かれていて、動かした瞬間に指摘されてたかもしれないけど…流石にそれは、私でも何とも言えないね」

「そこまでしてるなんて、エゲツない…。…うん?でも、見抜かれてるかもしれない策を出して、『確認しようと思えば出来た』って言うのは、負け惜しみでは…?」

「む…言われてみると、確かに……」

 

 感服し、敬意と賞賛を示す形としてフォールしたつもりだったが…ちょっと悔しかったのかもしれない。っていうか…まあ、悔しいっちゃ悔しい。何せ勝ってはいたからね。ポーカー自体に拘れば、アイ君を素寒貧に出来てた訳だからね…!…って、これじゃ本当に負け惜しみだ…落ち着け、冷静になれズェピア・エルトナム。

 

「…こほん。ともかくアイ君との勝負は終わったが、まだまだカジノは営業中だ。お客様を楽しませつつも、上手く我々が一番な儲けを得られるよう、巧みに立ち回ろうではないか」

「そうですね…ズェピアさんがそう言うと、凄く悪い事しそうですが…」

「うん、何ならここに私の偽物を置き、私自身は客に扮して、私の偽物経由でカジノから毟り取る事も出来るよ。ククク…普通なら結局店員サイドである私自身にもダメージが来る訳だが、そこは上手くイリゼさん辺りを最高責任者という事にして……」

「…あの、わたし別のテーブルでディーラーやってもいいですか…?貴方と一緒だと思われたくないので……」

「冗談だよビッキィ君…冗談だから、そんな心底嫌そうな顔をしないでくれ……」

 

 そんなこんなで私達は営業に戻る。NPC相手に、ディーラーとしてゲームを回しつつ、上手い事稼いでいく。

 さてさて、次に現れるのは誰か。普通に楽しんでくれるだけでも気分は良いが…折角だ、また全力を向けられるような相手と勝負をしたいものだね。

 

 

 

 

 カジノというものに、これまではあまり縁がなかった。少なくとも、何度も行くような人生…いや、女神生?いやそもそも、女神に『生』って言葉は……って、そこは別に今掘り下げることでもないわね。…こほん。

 だからわたしは、駆け引きは勿論だけど、カジノそのものも楽しみたいと思っていた。そう思うからこそ、逆に何のゲームをするか迷った。迷って…決め手となったのは、どのゲームにするかっていう思考じゃない。どれ、じゃなくて誰…それが、わたしがルーレットを選んだ理由。

 

「お隣、宜しいかしら?」

「えぇ、どうぞお座り下さい」

 

 呼び掛け、返答を受け、座る。それからわたしは横を向いて、隣の人物…既にここでゲームをしていた彼、決して堅苦しくはない、けれどラフさからは離れた、絶妙なラインのジャケットを羽織ったワイトへと微笑む。…多分、彼も衣装室を見つけて選んだのね。

 一人でやっても、皆でやっても楽しいのがゲーム。賭け事となると、そうも言い切れなくなるだろうけど…だとしても、誰かとやるゲームに魅力を感じたから、わたしはワイトの隣へと座った。

 でも、ワイトだけじゃない。このルーレットを選んだ理由は…『誰と』の部分は、もう一つある。

 

「いらっしゃい、セイツ。わたしとディーちゃんのルーレットコーナーへよく来てくれたわ!」

「ここではルーレットを…って、テーブルを見れば分かりますよね」

 

 片や明るく、片や丁寧に話す二人の店員。彼女達が、わたしがここを選んだもう一つの理由である…ディールちゃんと、エストちゃん。二人は店員サイドらしくて…でも、ただの店員じゃない。

 

「ねぇ、ディールちゃん、エストちゃん。多分、もう誰かに言われてると思うけど…質問しても良いかしら?」

「あー、もしかしてディールちゃんの事?そうよねぇ、ディールだからディーラー?って訊きたくなるわよね」

「いやそこじゃなくて…まあそこも気にはなったけど……」

「なら、トランプゲーム担当じゃなくていいの?ディールシャッフルしなくていいの?って話?」

「それでもなくて…二人の見た目よ、見た目。…成長、してない…?」

 

 そう。ここにいるのは、ディールちゃんとエストちゃんで間違いない。見た目も声も、正しくそう。…まぁ、見た目も声もロムちゃんとラムちゃんがいる以上、その可能性も浮かびはするけど…二人は今、仮想空間に来ていない筈。だからやっぱり、ここにいるのは幻次元からの二人な訳で…でも、見た目が違う。さっきと話が違うように思えるだろうけど、違う。…サイズ感が、違う。

 わたしの知る二人は、文字通り小さい子って感じの見た目をしている。見た目をしていた。でも、今の二人はそれよりも明らかに背の高い…ネプギア位の背丈になっていた。成長していた。更に言うと、胸も大きくなっていた。……二人の間で、格差のある形で。

 

「あー、成長期よ成長期」

「成長期…!?め、女神なのに…!?」

「いやセイツ様、今はそれより『この短期間で?』と返すべきでは…?」

「まあ、嘘ですけどね。成長期じゃなくて、変身魔法です。それも、使用者の未来の姿に変化する、っていうタイプの」

「あ、あー、そういう…。…未来の?…って事は……」

「察しが良いわね、セイツ。それ以上言ったら出禁にするわよ」

 

 にこり、と笑みを浮かべたまま…笑みなのに睨んでいるような雰囲気を見せるエストちゃんに、わたしは威圧感を覚えながら頷く。ワイトは先に聞いていた(というか多分同じ質問をした)らしく、既に理解している様子だった。…女神は普通の成長なんてしないし、これは『未来の姿(仮定)』なのかしらね。

 

「って訳で、疑問は晴れた?」

「え、えぇ…でも、うん、なんていうか……」

『……?』

「…とっても、似合ってるわ」

 

 これにて背丈の話は解決。でも実は、背丈だけが気になった訳じゃなくて……わたしを驚かせたもう一点に対し、わたしはサムズアップ。

 長い耳、ふわふわの尻尾。胸元と肩書き大胆に露出したスタイル。それは所謂、バニースタイル。ディールちゃんに、エストちゃん…二人は今、イリゼと同じバニーガールになっていた。なっていたけど…まるっきり同じという訳じゃない。例えばイリゼは目の荒い網タイツを履いていたけど、二人が履いているのは隙のないストッキング。隙のない、ぴっちりと脚を覆うストッキングで…けれど薄っすらと見える二人の脚が、はっきりではなく薄っすらだからこその、上手く言葉に出来ない艶かしさを醸し出している。そこから上、腰から胸周りまでに纏ったボディスーツは同じデザインの色違いで、ディールちゃんは白に淡い青、エストちゃんは白に淡い赤というカラーリング。ペアルックの可愛さは勿論、ボディラインを全く隠さないからこそ、ディールちゃんは胸が強調され、エストちゃんもスレンダーな魅力が前面に出てきていて、普段の二人からは予想も付かない程の、色香とでも言うべきものを纏っている。

 ウサミミや、白色は普段の二人と合っている。でもそれだけじゃない、バニーガールという普段の二人からはかけ離れた…所謂禁忌感すらあるギャップと、成長した見た目による『似合っている格好』とが、本来両立なんて出来ない筈の要素二つが、全く阻害し合わないまま共存していて、カフスやネクタイといった衣装も純粋な見た目の良さを後押ししていて…そこへ更に、大人しいディールちゃんと明るいエストちゃんという、元々の『二人だからこその、一層の魅力』までもが組み合わさった結果、一粒で二度美味しいどころじゃない、十度位美味しそうな、心惹かれるものが、そこには……ダブルバニーガールとなった二人にはあった。

 

「…って、ここで美味しそうって表現は変な意味っぽくなるわね……」

「…セイツさん?」

「あ…な、なんでもないわ。…じゃあ、改めて…わたしもゲームに参加させてもらってもいいかしら?」

「勿論です。わたしもさっき始めたばかりのディーラーなので、あまり上手くはないですが…楽しんで下さいね」

 

 何とも良い子なディールちゃんの言葉に、自然と口元へ笑みが浮かぶ。…だけど、緩い気持ちでいるのはここまで。ここはカジノであり、わたしはゲームの席に座った以上…ここからは、真剣に勝ちにいく。

 

「ルールは分かってる?」

「えぇ、要は止められるまでに、球がどこに入るかを予想して賭けるゲームでしょ?」

「そういう事よ。まあこれは誰かとの対戦って訳でもないし、のんびりやってくれて構わないわ」

 

 のんびり賭けるというのは賭け事としてあり得るのか、それとものんびり出来る位の気持ちでやった方が良い、っていうエストちゃんからのアドバイスなのか。まあそれはともかくとして、初回という事でわたしは一番確率が高く、倍率の低い『二倍』のエリアの二ヶ所へ少しずつポイントを賭ける。複数ある二倍エリアの内、二ヶ所を選んでベットする。

 

「…慎重、っていうか面白みのない賭け方ね。セイツってもっと積極的なタイプだと思ってたわ」

「あら、わたしは積極的なタイプよ?けど、初手から飛ばす程向こう見ずでもないの。たっぷり楽しむ為には、ちゃんとまず身体を温めないといけないでしょ?」

「では、私はこことここで」

 

 にぃ、とわたしが笑って見せれば、ふぅん…とエストちゃんも軽く笑う。そんなやり取りをしている間に、ワイトも賭けていて…見れば彼は、九倍と十八倍のエリアに置いていた。当然ながら、倍率が高い程確率も低いのがルーレットな訳で…ワイトは結構勝負をしていた。

 

「…ワイト、貴方ここまでの戦歴は……」

「今は何とか持ち直していますが、少し前までは大損状態でしたね。我ながらかなり焦りました」

「…驚いたわ。もしかして貴方、実は結構なギャンブラーなの?」

 

 堅実派であり、コツコツ稼ぐタイプだと思っていたわたしは、ディールちゃんがルーレットを回して球を入れる中驚いた、とワイトに返す。そういう人はそもそもカジノに客としては来ないでしょ、というのはともかく、このプレイスタイルは本当に驚きで…そんなわたしへ、ワイトは肩を竦めて言う。

 

「堅実な策だけでは、多くの人間を指揮する事など出来ない。それは軍人も女神も同じでしょう?…というのはさておき…金銭面に関しては、セイツ様の思った通り、ギャンブルをするような人間ではありません」

「なら、どうして?ここが仮想空間だから?」

「まあ、そういう事になりますね。というか、身も蓋もない言い方になりますが、そもそもギャンブルを行う施設は店側が最終的には儲け易いように出来ているのですから、ギャンブルで稼ごうという発想自体が賢明ではないのです。一部のプロを除き、基本的には稼ごうとして損するのがギャンブルなのですから、私はここで稼ごうなどとは微塵も思っていません」

「ほ、本当に身も蓋もないわね…逆転イベントの存在否定じゃない……」

 

 はっきり言い切ったワイトは、わたしの返しにはははと苦笑。ただ、それで終わったら説明にならない訳で…ワイトは続ける。

 

「ただ、セイツ様の言う通り、ここは仮想空間です。ゲーム…ではありませんが、現実ではない場所の、実際の資産を用いている訳ではないカジノです。ならば普段は出来ない事、やろうとは思わない事をしてみるのも一興ではないだろうか…そう思って、少しばかりギャンブルに興じているのです」

「ははぁ、つまり貴方は…ううん、貴方もカジノを『手段』ではなく『目的』として捉えているのね」

「貴方も、ですか?」

「わたしもそうだし、多分わたし達以外もそう考えている人はいる、って事よ。まあ、わたしは稼ぐ事だって考えてるけど」

 

 結局考える事は皆同じというか、仮想空間だからこそそういう思考にもなるというか。何にせよ納得したわたしは、テーブルに…回るルーレットに視線を戻す。

 

「あれ?でも、最初は手堅く賭けてなかった?」

「えぇ、流石に最初から勝負に出るのは気が引けましたからね。で、段々分かってきて、そろそろ良いかと思ったところで……」

「読み違えて、さっきの大損って訳ね」

「けど、持ち直している訳ですし、掴んではきているのでは?…ノー・モア・ベット、賭けるのはここまでです」

 

 遠慮なく言うエストちゃんのフォローをするように、ディールちゃんは言って…それからふっと真面目な表情へと変わり、受付終了を宣言する。

 とならば後は、待つのみ。初めは素早く回っていた球が、今はかなり速度を落としていて、その内ルーレットの端から内側へと移動していって……止まる。

 

「赤の20…という事は……」

「おめでとう、セイツ。偶数だったからセイツは二倍で……あ」

「ワイトさんは、九倍ですね…」

「九倍…やるわね……」

 

 取り敢えず一勝したわたし。あまり多くは賭けてないけど、より多く賭けていた方が当たったから、少しだけど稼ぐ事が出来た。……と思っていたのも束の間、ワイトは九倍を当てるっていう、中々の引きを見せていた…見ればワイトは、ほんの少し…ほんのちょっぴりだけど、口元を緩めて笑っていた。…大人の男性の、微かな笑み…カジノって事もあって、割と絵になるわね…。

 

「二人共、次はどうする?まだやる?」

「勿論。一回で終わりだなんて、物足りな過ぎるわ」

「私も続けます。分かってきたというのもですが、楽しくもなってきましたので」

 

 まだ終わる気なんてない、とわたしは返し、ワイトも頷く。今度はエストちゃんが回す役になって、わたし達はまた賭ける。賭けて、結果に一喜一憂しながら、二度目、三度目、四度目と何度も続けていく。

 

「…あ、やった、また当たりだわ。…けど、倍率の低い賭け方だと勝ってももやもやするわね…このゲームもよく出来たものだわ…」

「そうですね。…外れたか…今回はポイントを少なめに賭けておいて正解だった」

 

 

「これは…いける、いけるわ…!…ってあれ!?そこで止まるの!?いきなり勢い落ちてない!?」

「あぁ、私も先程そういう事がありました。…六倍勝ち、やはり何となく流れが来ているな…来ているが、油断は禁物……」

 

 

「セイツさんは現状プラマイゼロ気味、ワイトさんは…さっきから伸びに伸びてますね」

「ここには女神が三人もいる訳だし、幸運が舞い降りてるのかも?…なーんて、ね」

 

 

「ふふふ、今度こそやったわ!負けないわよ、ワイト!」

「これは勝負ではないのですが…そう簡単に追い付かれる程、私も甘くはありませんよ?」

 

 

「ノー・モア・ベット。さぁ、次はどうなるかし──」

「いや待って!?ちょっ…これ話として面白いの!?え、この流れは物語的に大丈夫!?」

 

 幾度目かのゲーム中。ワイトは本当に運を味方に付けているかのような状態で、わたしも少しずつ伸びてきた。そんな中で…わたしは突っ込む。突っ込んで、ストップを賭ける。…じゃなくて、掛ける。

 

「えぇぇ…?いきなりですね、セイツさん…」

「でも、そうでしょう…?このまま続けてても、絶対面白くないわよ…?」

「と言っても、ルーレットって基本プレイヤーやディーラーとの勝負じゃないですし…」

「んー…なら、どうしてわたし達が店員やってるかの話でもする?」

「あ、それは私も気になっていました。お二人は他の方々は、初めからカジノの中にいたんですか?」

 

 無茶苦茶言ってる自覚はあるけど、言わずにはいられないんだから仕方ない。そう思っていると、エストちゃんが話のネタを提供してくれた。ワイトもそれに興味を示し、問い掛けると、エストちゃんは一つ頷く。

 

「そうよ。で、ここの説明と店員側のポジションについて聞いて、それも面白そうだって思ったから、店員として立ち回ってる訳」

「それは…稼げるの?いや、稼げるルールにはなってるのよね?」

「なってるわよ?他のコーナーみたいにお客と勝負して直接稼ぐ事も出来るし、最終的にカジノ側が黒字になれば、成果に応じてやっぱりポイントが得られる…ってルールだからね」

「だから、ディーラーに徹していても稼ぐ事は可能なんです。他のコーナーで大赤字になって、最終的に黒字になりませんでした、とかになったら別ですが」

「ま、わたし達はバイトだから、その辺りは関係ないんだけどねー」

『バイト…?』

「そ、バイト。責任はずっと軽いし、赤字になっても決められた通りのポイントは給料として得られるのよ。代わりにどれだけ黒字に貢献しても、給料は同じままなんだけど」

 

 そんな経緯やルールがあったのか、とわたし達は納得。バイトに関しても、イメージ通りのポジションらしい。そもそもなんでバイトっていうポジションまで…?とは思ったけど、それもまぁ、そういう仕様なんでしょうねって事で納得出来る。ただ、バイトに関しては別方面での疑問もあって…どうやら同じ事を考えていたらしいワイトが、それについて訊く。

 

「…因みに、お二人は何故正規職員ではなくアルバイトに?」

「え、だって…一応今は姿が違うとはいえ、わたし達の見た目でカジノの正規職員やるっていうのは、なんか…ねぇ?」

『あー……』

「それで言うなら、そもそもわたしはバイトもあんまりやりたくなかったんだけど…しかも、こんな格好だなんて……」

「でもディーちゃん、おねーさんに『ふふっ、一緒だね』って言われた時、満更でも無さそうな顔してたわよね?」

「あ、あれは…見るからに嬉しそうな顔されたら、それは悪い気なんてしないし…後、あの時はエスちゃんだってにこにこしてたじゃん…」

「するわよ、時々子供っぽくなるところ含めて、おねーさんは楽しい人だし。…っと、話が逸れちゃったわね。説明はこんな感じかしら」

 

 こちらは視線を戻してきたエストちゃんにわたし達は首肯。確かに逸れてはいたけど…それはそれで聞けて良かった。だってその場面を想像したら、心が温まってくるんだもの。

 

「あ…それと、ここではプレイヤー側にポイントを貸し出す仕組みもあって、それも稼ぎになるらしいです」

「けど、お勧めはしないわよ?借りれる額は結構凄いらしいけど、代わりに取り立ても凄いとかで、もし返せなかったらその分を返すまで出られない地下で労働させられたり、ここじゃ言えないようなあーんな事とか、こーんな事とかをさせられる……かもしれないみたいだから」

「な、なんでそんなシビアな部分まであるのよ…」

「その情報、定かではないんですね……」

 

 冗談なのか、それとも本当なのか。本当だとしたら、ネプギアやこのイベントを用意した人は何を考えているのか。…まあとにかく、借りるのは避けておきたいわね…。

 という訳で、話を終えたわたし達は、ゲームを再開するのだった。わたしも何となく掴めてきた気がするし、ここからはもっと意欲的にいこうかしら、ね。

 

…………。

 

「……って、これもこれでどうなのよ!?オチはこれなの!?」

「んもー、まだ不満な訳?だったらもう、セイツが地下労働に飛び込んでみるオチとかにしたら?」

「それは嫌よ!嫌っていうか…本当にあったらどうする気!?全員素直に楽しめなくなるわよ!?」

「じゃあ、勝敗予想をするゲームにディーちゃんとおねーさんが、格好を活かして兎跳びでレースに参戦するオチとか?」

「なんでわたしが…!?そ、そういう力任せなのはエスちゃんの領分でしょ…!?」

「ちょっと、それじゃまるでわたしが脳筋みたいじゃない」

「でもエスちゃん、正体を明かす前後でちょいちょい出てきた最強発言、あれは少なくとも知的っぽい感じじゃないと思うよ…?」

「うぐっ…ま、まさかそんな返しをされるなんて……」

 

 意外にも切り返したディールちゃんの発言で、エストちゃんは言葉に詰まる。そして訪れる、変な沈黙。わたしとしても予想していなかったこの変な沈黙は、何とも居心地が悪く……それが少しの間続いた末、ゆっくりと手を挙げたワイトが、言った。

 

「…別に今回が山場でも大詰めでもないのですから、普通に終わっても良いのでは…?」

「…………」

「…………」

「…………」

 

『…ですよねー』

 

 ご尤もな…大変ご尤もなワイトの発言。それにわたし達は顔を見合わせ…揃って声を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

「…っと、ディール様、エスト様。こちらを」

「え?これはワイトさんのジャケットに……」

「確か、そのジャケットの前に着てた上着よね?これがどうかしたの?」

「お二人の格好が、衣装である事は重々承知です。ですが、肩や腕周りが少々肌寒いかと思い、お渡しさせて頂きました。とはいえこれは、恐らく余計な行為。私の勝手な判断ですので、不要でしたらどうぞ破棄して下さい」

「…え、やだ、普通に格好良いんだけど……」

「ワイトさん、多分今仮想空間に来てる大人の中じゃ、一番まともだもんね…」




今回のパロディ解説

・ギャヲス
ねぷねぷ☆コネクト カオスチャンプルの舞台となる世界の事。まあでも既に、今回のコラボの面子はカオス感ありますね。…コラボに参加しているある作品には、実際「カオス」というキャラもいますが…。

(ハイロゥ)
アンジュ・ヴィエルジュシリーズにおける用語の一つの事。えぇはい、新作が複数あるのでシリーズという表現にさせて頂きました。またその内ネプテューヌコラボがあるのかどうかも気になる私です。

・デラックスエディン代表
ヴァンガードシリーズにおける用語の一つのパロディ。より正確には、overDressシリーズの二期(will+Dress)のネタですね。カードという事で、またTCGパロ連打です(アンジュもTCGですが)。

・新エディンの王
ビルディバイドのアニメにおける用語の一つのパロディ。この辺りのパロネタの中では、一番ネタ元が分かり辛いですね。後細かい事を言うと、ビッキィの場合は女王ですね。

・デュエルマスターの証
デュエル・マスターズシリーズのアニメや漫画における用語の一つのパロディ。ここだけは上手い事パロネタに変換出来ず、そのままの内容となってしまいました。

・「…ショット・ガン・シャッフルはカードを傷めるぜ?」
遊戯王シリーズの主人公の一人、武藤遊戯(闇遊戯)の名台詞の一つの事。ですが作中でやったシャッフル方法は、正しくはリフル・シャッフルと呼ばれるものです。

・「〜〜ヤマトの魂も賭ける」
ジョジョの奇妙な冒険 スターダスト・クルセイダーズの主人公、空城承太郎の名台詞の一つのパロディ。ポーカーという事で入れました。…因みに、作者的にも勝手にヤマトの魂を賭けました、はい。

・「〜〜もし返せなかったら〜〜労働させられたり〜〜」
カイジシリーズにおける、地下帝国のパロディ。こちらもギャンブル的には入れておきたいネタでした。実際にあるかどうかは…ここではノーコメントとしておきます。
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