超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第三十話 狂いに狂って番狂わせ

 お客と店員。このカジノにおいて、参加者である私達に取れる選択肢はこの二つ。お客としてカジノに来るか、店員として迎えるかの二択。…尤も、私やビッキィ達と違って、カジノの外からスタートしたらしいルナやセイツさん達は、事実上のプレイヤー一択だったようだけど。

 ただ、枠組みにおいては二択でも、実際にはもう少し選択肢がある。例えばお客側なら、どのゲームをするか、誰と対戦するかは完全に自由。そこでの選択肢は、多いと言っていいと思う。

 そして、店員側もある程度幅がある。分かり易いのは、バイトという枠組みで…けれど、それだけでもない。

 

「店長、トム・アンド・ジェリーを二つお願いします」

「二つか、分かった」

 

 カウンター越しに、声を掛ける。私からのオーダーを受けた店長は、さっそく作り始める。彼が作り、注いだ飲み物…カクテルをトレイに載せて、注文したお客の元へ持っていく。

 ここは、カジノ内に設置されたバー。私の役割はウェイトレス。…これが、運営でもディーラーでもない、そちら側のバイトでもない…カジノ内の店員であっても、賭け事の店員ではないという、選択肢。

 

「お帰り〜、ごめんねぴぃちゃん。ゲームテーブルから注文するお客さんの方は全部任せちゃって」

「気にしないで下さい。逆にカウンターの方は全て任せてる訳ですし、それに……」

「それに?」

「…いえ、何でもないです」

「そう?…あ、えー君えー君…じゃなくてマスター!あーん」

「あぁ、ん……美味いな。だが、アルコールのお供としては、もう少し濃い味付けの方が良いんじゃないか?」

「あー、やっぱり?そっかそっか、ありがと〜」

(…こんなちょいちょいイチャつきが発生する場所にずっといたら、メンタルが持たない…とは言えない……)

 

 夫婦の仲が良いのは素敵だと思うけど、それは近くで見るものじゃない。特にイチャつきなんて、どんな内容であろうとずっと見ていたら胸焼けどころじゃ済まなくなる。…それをまさか、こんな場所で知る事になるとは…。

 とまぁ、今のやり取りで分かってもらえたとは思うけど、バーの店員をしているのは私だけじゃない。茜さんと影さん…この男女で対照的な性格をした夫婦も同じバーで店員をしていて…一応役回りとしては、私がウェイトレス、茜さんがウェイトレス兼シェフ(といっても軽食が殆どだけど)で、影さんが店長という事になっている。

 

「ピーシェ、次の注文は?」

「取り敢えず、今は無いです。また一通り回ってきますか?」

「んー、ぴぃちゃんは色んなとこ歩き回ってた訳だし、ちょっと休憩しても良いんじゃないかな?って訳で、ぴぃちゃんもどーぞ」

「あ、どうも」

 

 お皿に載せた状態で差し出されたフライドポテトを、一本食べる。さっきのアドバイスを受けて調整したのか、味は少し濃くて…でも、美味しい。凄く美味しい!って訳じゃないけど、料理慣れしてるっていうか、きっと普段から色々作ってるんだろうなと感じる味で……どうしよう。さっきまでもそうだったけど、尚更夫婦経営の所でバイトしてる感が……。

 

「そーいえばぴぃちゃんは、どうしてこっちに来たの?多分だけど、ここじゃそこまでは稼げないっていうか、ディーラーの方が沢山稼げる可能性高いと思うよ?」

「かもしれませんね。けど、それは関係ないんです。私はカジノが嫌いなので」

「嫌い?」

 

 そうなの?と目を瞬かせる茜さんに私は首肯。そして隠す事でもないし…という事で、言葉を続ける。

 

「カジノ…いえ、賭け事は人を狂わせます。本人は勿論、周りの人も不幸にします。そんなもので稼いでいる人もまた、心に歪みが生じていきます。だから私は嫌いなんです。趣味の範囲でとか、生活に無理のない程度にだとか、条件付きで肯定する意見もありますし、そういう考え方自体を否定する気はありませんが…理解は、出来ません」

「そ、っか…それはまた、嫌なイベントに当たっちゃったね…」

「…なのに、参加自体はしたんだな」

「それは、まぁ…。…一人だけ別の所で黙々と稼ぐっていうのも、何だか物悲しいですし……」

 

 それはそれで複雑だから、と私は締め括る。…別に、積極的に参加している皆へどうこう言う気はない。何せここで得られるのは、仮想通貨ですらないポイントなんだから。…だとしても、私はお客にも、店員にもなりたいとは思わなかったけど。

 

「お二人こそ、どうしてバーに?お二人は…少なくとも茜さんは、本気で優勝を狙っていたのでは?」

「そーだよ。でもねぇ、私の場合フェアじゃないっていうか…嫌味に聞こえるかもだけど、私が賭け事をしたら、一方的に勝つに決まってるんだよね」

「それはまた…言い切っちゃうんですね…」

 

 茜さんが天然…というか、真っ直ぐな性格なのは知っていた。知っていたけど…まさか、こうも言い切るとは。女神化してる時の女神(一部除く)みたいな事を言うとは。そう思って私が驚いていると、茜さんは軽く笑う。

 

「うん、言い切っちゃう言い切っちゃう。例えばルーレットってあるでしょ?あれ、ディーラーがノー・モア・ベットって言うまでは、回ってる最中も追加で賭けたり変更したり出来るんだけど…私の場合、回り出した時点でどこに止まるか分かっちゃうんだよね」

「…未来予知、みたいな?」

「ううん、視界の中のあれやこれやを過程も理屈もすっ飛ばして『分かる』力だよ。で、ルーレットの球は物理ほーそくに従って動くし、風が吹いて動きが変わる〜、なんて事もないから、簡単に分かるの。スロットだって、当たり易い台がどれか分かるし…トランプ系なんて、相手の手札も山にあるカードの順番も分かっちゃうんだから、そんな状態でやっても相手に申し訳ないっていうか、虚しいと思わない?」

「確かにそれなら、稼ぐ事は出来ても『ゲーム』としては空虚でしょうね…。…因みに、その力を使わないでやる気は…?」

「使わないも何も、茜のそれはオンオフが出来ない…何でもかんでも分かりっ放しのものだ。使わないでいられるなら、当然そうしているに決まってるさ」

「あはは、まあそういう事。だから勝負は勿論、ディーラーが進行に徹するタイプでも、『あ、この人は外れてる。こっちの人が勝つんだ〜』って片っ端から分かっちゃうから、私にとってカジノはドキドキ感が何にもないんだよねー」

 

 中々に凄い事を、あっけらかんと茜さんは言う。シェイカーを振りながら、影さんも時々会話に入ってくる。…過程も理屈もすっ飛ばして分かる、か…便利な能力に感じるけど、分かりっ放しというのはきっと辛いんだろう。だってそれは、余計なものも…分かりたくないものも分かってしまうのだろうから。

 

「あ、ついでに言うとえー君も似たような事出来るよ?えー君の場合は観察して、推測して、計算して答えを導き出すって形だから、流石に何でもかんでも、とまではいかないけどね」

「…と、言いつつ『凄いでしょ〜』って顔になっているのは……」

「実際凄いからね!後正直、バーにしたのはマスターの格好してシェイカー振ってるえー君を見たかったから、っていうのも大きかったり!」

 

 それはもう満足そうな顔で言う茜さんへ、私は良かったですねと軽く首肯。…これ、もしかして惚気話になる流れだったり…?だとしたらどうしよう、楽しそうな顔で語り始めちゃったら、私も断り辛いし……。

 

「へー、でも茜とピィー子のウェイトレス姿も、自分は似合うと思うな〜」

「そ、そうですか?それはどうも…って、ネプテューヌさん!?いつの間に!?」

「セイツが『この流れは物語的に大丈夫!?』…的な突っ込みをしてた辺りから?」

「前話!?」

 

 突然に、不意打ちのように聞こえたネプテューヌさんの声。びっくりして振り向けば、いつの間にかネプテューヌさんはカウンター席に座っていて…無茶苦茶な事を言っていた。いつの間に?に対する答えが突飛過ぎる…。

 

「あ、ねぷちゃんいらっしゃい。注文は何にする?」

「そうだね…マスター、こちらのお客にプリンジュースを」

「こちらって…自分を指差しながら何を……」

「…奢って♪」

『しかも図々しい……』

 

 バーのお約束的発言をするのかと思いきや、ただでプリンジュースを貰おうとしているだけだった。これには私だけじゃなく、茜さんも呆れ気味の声が漏れていた。そして私と茜さんは顔を見合わせ…苦笑い。

 

「もー、ねぷちゃんってば。割引してあげるから、ちゃんと自分のポイントで注文しよ?」

「あははっ、冗談だって。ちょっとイリスちゃんと愛月君にジュースを買ってあげようと思っただけだし、普通に注文する気はあるから安心して……って、え?」

 

 両腰に手を当てて言う茜さんに対して、ネプテューヌさんは笑いつつ今さっきの要求を撤回。それからメニュー表に目を…やったところで、ネプテューヌさんの前へ中身の入ったグラスが一つ差し出される。

 プリンらしき色合いの物が入ったグラス。そのグラスの差出人は、影さん。え?とネプテューヌさんが目を丸くすると、影さんは少しだけ黙った後に、「…気分だ」と言った。

 

「…いいの?」

「いいも何も、もう淹れたんだから飲んでもらわなきゃ困る」

「それはまあ、そうかもだけど…そっか。じゃあ…ありがと、頂くね」

 

 理由はよく分からないけど、静かな様子で影さんは差し出した。その様子と差し出された事実に対して、ネプテューヌさんは数秒程考えるような顔を見せて…それから受け取った。ありがとうと言って、ぐっと一気に喉へと流し込んで……

 

「…むぐぅ!?けほけほっ…な、何これ!?液体じゃないよ!?ほぼプリンっていうか、ぐずぐすになっただけのプリンみたいな感じなんだけど!?」

「生憎プリンジュースは取り扱ってないからな。だからプリンシェイクだ」

「あ、そっかぁプリンシェイク…だとしてももう少し滑らかさがあっても良いんじゃない!?え、これほんとにプリンシェイク!?どうやって作ったの!?」

「シェイカーでプリンを振った。だからプリンシェイク──」

「じゃないよ!?だとしたらそれはシェイカーを使っただけの、クラッシュプリンだからね!?」

 

……何故か、コントみたいなやり取りが繰り広げられるのだった。ネプテューヌさんが完全に突っ込み役になっていた。…シェイカーでプリンをって…ボケなのかな…ボケ、なんだよね…?

 

 

 

 

 カジノという場所に、初めて来た。

…来た?ここは、仮想空間…と言うらしい。ゲームの中みたいなものらしい。

 では、これは『来た』と言う?

 

「愛月、イリスは今、カジノに来ている?」

「へ?…来てる、よね…?」

「分かった。ありがとう、愛月」

 

 確認完了。イリスは今、カジノに来ている。

 誰かといるのは、良い。疑問が生まれた時、すぐに訊いてみる事が出来る。

 辞書も色々な学びをイリスに与えてくれる。けど、ただの言葉ではない意味は、やはりイリスより賢い人に訊くのが一番。

 

 という訳で、イリスは今、カジノにいる。

 来てから、まずは愛月と、ネプテューヌと一緒に、探検をした。特に凄いものはなかったけど、二人との探検は、楽しかった。

 それからイリス達は、会場に入って…スロット、という機械の前に来た。

 

「愛月君は、スロットやった事あるの?」

「旅の中で、何度かゲームコーナーに寄る事があってね。でも暫く前から、何故か見なくなったなぁ、ゲームコーナー……」

 

 そう言って、愛月は遠くを見るような目をする。理由は、よく分からない。

 

 やった事ある?と訊いたのはルナ。会場に入った後、少し中を回って、スロットをやろうって事になって、そこでネプテューヌが飲み物を買いに行った。入れ違いで、ルナと会って、一緒にスロットをする事になった。…スロット、楽しみ。

 

「では、早速…」

 

 少し高い席に座って、ポイントを払う。すると画面の中の…輪っか?…の様なものが回り出す。おおぉ、これは…凄い。

 確か、これをボタンで止めて数字や絵を揃えるゲームだと言っていた。つまり、よく見る事が重要。よく見て、ちゃんと揃うように…じっと見て…じーっと見て……

 

「……ぅ…」

「おわっ、イリスちゃん大丈夫!?」

「目が、ぐるぐるする……」

「あ、あぁ…凄く見つめてるなぁと思ったけど、目を回しちゃったんだね…」

 

 ふらっとしたイリスは、二人に支えられる。愛月からの声に、今のイリスの状態を話すと、ルナは「目を回した」と言った。

 これが、目を回すという事…うぅ、これは気分が良くない…けど、学びになった……。

 

「そうやって見つめても無駄ですよお客様。目押しというのは、最初から出来るようなものではないですからね」

「その声は…グレイブ?」

 

 回復の為に下を向いていたところで、聞こえてきた声。それに愛月がまず反応して、イリスも振り返る。

 すると、そこにはグレイブがいた。愛月の言う通り、グレイブがいて…けれど仮想空間に入る前と、服が違う。

 

「その声は、か…この呼び方って創作の世界じゃよくあるけど、実際に呼ばれるとちょっと気分良いな…こほん。お客様、スロットコーナーへようこそ」

「あ、うん…。…えと、グレイブ君…その格好に、その口調は……」

「ディーラーですので」

『い…違和感が、凄い……』

 

 グレイブが着ているのは、TVのニュースに出ている人が着るような服。名前は確か、スーツ。黒色の目立つ、真面目そうな服。

 服と話し方が違うだけで、グレイブは顔も、声も同じ。でもまるで、今のグレイブは違う人のよう。

 

「ディーラー…ディーラーというのは、そういう格好をするもの?」

「そうですよ。それに、ルナさんも普段とは違う格好ですしね」

「…ルナもディーラーだった…?」

「そ、そういう事じゃないよー、イリスちゃん…。…そうだ、イリスちゃんもお着替えしてみる?愛月君は男の子だし、私が一緒に行く訳にはいかないけど、イリスちゃんなら一緒に見てあげられるよ?…まぁ、私のセンスで良い服を選べるかは分からないけど…」

「着替え…?…いい」

「いいの?イリスちゃん可愛いし、ドレスとかもきっと似合うと思うよ?それか、私じゃ不安ならセイツさんに頼んで……」

「いい。イリス、この服が好き。…だから、別の服は…嫌」

 

 ふるふると、首を横に振る。

 これは、ミナが選んでくれた服。マフラーは、ブランが前に使っていた物。

 どれも、イリスのお気に入り。だから、この服のままでいたい。

 

「…そっか。ごめんねイリスちゃん。イリスちゃんは、そのままでもすっごく可愛かったもんね」

「うん。可愛い…かどうかは分からない。でも、イリスはそのままが一番」

「うんうん、その服似合ってるもんね。…で、グレイブはさっき、目押しが云々って言ってたけど…アドバイスしてくれるの?」

「勿論。店員として、お客様に楽しんで頂く…それが今の、私の目標です」

「……本音は?」

「楽しんでもらいつつ、上手い事スロットに嵌ってもらって、最終的には客の儲けよりカジノの儲けが多くなるよう誘導出来たら最高だな」

「グレイブ……」

「まあまあ、ちゃんとアドバイスはしますよ。自分のアドバイスで成功して、喜んでもらえる…それも私の目指すところですから」

 

 一度普段の話し方に戻ったグレイブは、悪い顔をしていた。それを見た愛月は、呆れた顔をしていた。

 イリスには、今のやり取りの意味は分からない。でも、グレイブは優しく、イリスより賢い。…ので、イリスはアドバイスを聞こうと思う。

 

「グレイブ、これはどうしたらいい?」

「スロットの目押しは、回数を重ねる事が大切です。まずは比較的見易い、回っていても分かり易い絵柄を狙い、少しずつ目を慣らしていくんです」

「結構具体的なアドバイスだね…あれ、でもそれってつまり、慣れるまではあんまり揃わないって事…?」

「何事も慣れるまでは上手くいかないものですよ、ルナさん」

「そ、そっか。それはそうだよね…。…本当に違和感が凄い…多分今ここにいる女神の誰よりも変化のギャップが凄過ぎる……」

「正直僕、さっきの本音がなかったらきっと、グレイブの双子か、グレイブに変身したポケモンかと思ってたんじゃないかな…」

 

 まずは慣れる事。それを意識して、イリスはもう一度挑戦。

 一番見易いのは、果物の絵。それを狙って、じっと見る。じっと、じーっと……あ。

 

「グレイブ、グレイブ」

「なんですか?」

「また、目が回りそう…すぐ目の回るイリスには、向いていない…?」

「あぁ、何も絵柄を目で追う必要はないですよ。絵柄を追うのではなく、回ってくる速度、タイミングを意識するんです。そしてもう一つ、押してから止まるまでの時間も把握する…それがスロットの基本です」

 

 更にアドバイスを貰って、イリスはタイミングを意識。絵が見えなくなってから次に見えるまでを、何回も確認して…試しに押す。左、真ん中、右の順に押して……外れ。

 でもグレイブは言っていた。回数を重ねる事が大切だと。

 歩く時も、そうだった。何回も転んで、けれど止めなかった結果、イリスは歩けるようになった。…だから、続ける。

 

「…………」

「イリスちゃん、凄く集中してるね」

「僕もそろそろやろっかな…」

 

 二回目。またよく見て、さっき得た情報を元に押して…また失敗。

 三回目。二度の失敗を活かして、左を狙い通りの位置へ止める事に成功。でも真ん中からは失敗して、またまた外れ。

 そうして四回目。ぐるぐる回る映像をしっかり見て、一つ一つのタイミングを意識して……

 

「……!グレイブ、愛月、ルナ。三つ揃った。イリス、成功した」

「え、ほんと?」

「ふふっ、やったねイリスちゃん!」

 

 一列揃った果物の絵。イリスが報告すると、愛月とルナが来てくれて、にこにこした顔を見せてくれる。…これは、嬉しい。ポイントも手に入ったけど、それより二人の笑顔が嬉しい。

 

「四回目で目押しを成功させる…中々やりますね、イリスさん」

「イリス、頑張った。でもこれは、グレイブのおかげ。だから、ありがとう」

「どう致しまして。…では、次はもっと難しい絵柄ですね?」

「もっと難しい絵柄…分かった、イリス挑戦する」

 

 こくりと頷いて、イリスは続行。

 違う絵柄を狙ってみると、また失敗してしまう。でも、問題はない。今のイリスはチャレンジャー。トライアンドエラーで突き進む。

 

「…あれ?これって、もしかして…わっ…!」

「愛月君、どうかしたの?」

「あ、うん。これね、僕が知ってるスロットと多分同じやつなんだ〜。へへへー、色違いが出てきたからこれは大儲け出来るかも…!」

「そうなんだ、良かったね。…うん?なんか私も出てきた…グレイブ君。なんかアニメが始まっちゃったんだけど、これは何?このスロットはサービスでアニメを見せてくれるの?」

「それはボーナス演出ですね。早い話が大当たりするかもという事です」

 

 スロットをしながら聞こえてくるのは、二人の声。愛月は調子が良さそうで…ルナも、大当たりするかもしれないらしい。

 これは、負けていられない。イリスも、もっと頑張る。

 

「グレイブ、これには…ボーナス演出、ない?」

「ありますよ。ですが、意図的に出せるものではありません。やっていく内に、ランダムで出てきてくれるのがボーナス演出です」

「そう…なら、じっくり続ける」

「それが良いですよ。賭け事は運ではなく、経験と落ち着いた心が勝利を呼ぶのです」

 

 またグレイブからアドバイスを貰って、続ける。

 経験…は、まだ浅いので、これから積んでいく。

 落ち着いた心…は、ブランを参考にする。ブランはとても落ち着いているので、参考にするには打って付け。…時折落ち着かない話し方になるけど、それはそれ。

 

…と、思いながら何度も回していると、また愛月とルナの声が聞こえてきた。

 

「…グレイブ君って、意外と面倒見が良いよね」

「意外だよね。でも、ポケモンバトルはポケモンの事をよーく知るのが大切で、その為にはポケモンと向き合って、気持ちを込めてじっくり育てていかなきゃいけないから、そのバトルでチャンピオンになってるグレイブが意外と面倒見が良いのは、よくよく考えたら意外でもないのかも…って、僕は思うんだ。……あ、別にイリスちゃんもポケモンみたいなもの、って言ってる訳じゃないよ?」

「あはは、分かってるよ。……でも、なんていうか…ちょーっとだけ、怪しい先生感もあるかなぁ…」

「それは僕も思ったよ…なんかこう、変な勧誘してきそうな感じの喋り方っていうかなんていうか……」

 

 

「…グレイブは、怪しい勧誘、する?」

「はっはっは、まさかまさか。……はっはっは」

『その笑いは何……!?』

 

 何故だか笑うグレイブ。唖然とした顔をしていた、愛月とルナ。何故笑うのか、何故驚くのか。どれも、イリスにはよく分からない。その意味、理由が分かる日はいつか来るのか。…来てほしいので、イリスはこれからも学びを続ける。

 ただ、それはそうと、今はスロットに集中する。スロットぐるぐる。ボタンぽちぽち。外れて、当たって、当たって外れて。

 ぐるぐる、ぽちぽち、ぐるぐるぽちぽち。

 

 そうこうしてたら、ネプテューヌが戻ってきて、イリスがここまでの結果を報告したらびっくりしていた。びっくりして、グレイブに「小さい子をギャンブル好きにさせようとするのはどうかと思うよ!?…いや、グレイブ君もまだ子供だけども!」…と言っていた。

 でも、イリスが「グレイブは色々教えてくれた。優しいグレイブを怒るのは、イリス好きじゃない」と言ったら、おおぅ…と呟いていた。グレイブもグレイブで、なんとも言えない顔をしていた。…やはり、人のやり取りというのは難しい。

 

 

 

 

 カジノというと、トランプにルーレット、そしてスロットのイメージがある。RPGやアクションゲーム内のミニゲームとしてあるカジノを考えると、もう少し思い付くが…現実のカジノだと?…と言われると、やっぱりこの辺りかな、と思う。…現実のカジノには、行った事ないが。

 だからこそ、見つけた時は少し意外だった。このカジノに、『それ』があった事に。

 

「……うん?」

 

 ここに来てから、まあまあな時間が経った。スロットコーナーで見覚えのある台に驚いたり、レースコーナーで競馬や競艇に嵌る気持ちが何となく理解出来たり、色んなコーナーを渡り歩いている内に少しずつポイントが減っていって焦りを感じたり…そんなこんなしている内に、俺はあるコーナーを見つけた。

 各コーナーには、目立つようにそこで使う道具が掲示されている。でもって、俺が見つけたのは…サイコロのマーク。

 

(サイコロ…って、カジノにもあるのか……)

 

 初めに感じたのは驚き。カジノには、サイコロを使うゲームもあるのかと、そう思った。よくよく考えると、チンチロリンの様にサイコロを使った賭け事自体は思い付くが、それとカジノとは、これまで頭の中で結び付かなかった。

 見つけて、驚いて、次に抱いたのは興味。ここではサイコロでどんなゲームを出来るのだろうと思った俺は、サイコロコーナーの方へ歩いていき…足を止める。

 

「セブンアウト。このシリーズは終了です」

 

 NPCであるお客を前に、ゲームの進行を行うディーラー。ここに来るまでも、色々なコーナーで見てきた光景で…だが、客はNPCでも、ディーラーは違う。ここのディーラーを務めているのは、イヴ。

 

「…結構繁盛してるな」

「え?あぁ、カイト。…えぇ、おかげさまでね」

 

 今し方ゲームを終え、去っていく客とすれ違いながら、イヴのいるテーブルへ向かう。ディーラーのイヴが着ているのは白のシャツに黒のベストとタイトスカートという、ディーラーのイメージ通りの服装。黒と白の装いは、イヴの黒い髪と合わさる事で…なんというか、普段よりも大人な雰囲気になっていた。大人っぽく、格好良さもある…そんな姿。

 

「もう分かっているだろうけど、ここはサイコロを使ってのゲームが出来る場所よ。どう?貴方も何かやっていく?」

「そのつもりだ。…って言っても、サイコロを使ったカジノゲームは殆ど知らないんだけどさ」

「大丈夫よ、私もあんまり知らないから」

「知らないのにディーラーやってるのか…?」

「ちゃんと自分が取り仕切るゲームは調べてるわ。さ、どうする?私が分かるものなら、カジノっぽくないサイコロゲームでも相手になるわよ」

 

 そう言って、イヴは幾つかのゲームの名前を挙げていく。それ等はどれも、聞き覚えのないゲームで…興味は湧く。湧くが…それより今は、気になる事がある。

 

「イヴ。ゲームの前に、一ついいか?」

「何かしら?」

「…トニカクカワイスギディーラー」

「ぶ……ッ!?」

 

 ぼそり、と呟くように言う俺。その瞬間、イヴは目を見開き、咽せ…何でそれを知ってるの!?…とばかりの表情を俺に向けてくる。…やっぱりかぁ…。

 

「さっきすれ違った客から、今のワードが聞こえたんだが…まだ続いてたんだな、イヴの噂……」

「止めて…その名前につられて来たお客がいるとかのレベルなのよ…だから貴方まで言うのは止めて……」

「客が来るのはありがたい事だと思うんだが…」

「ありがたさより恥ずかしさが遥かに上回るのよ…なんで、なんで私だけ……」

 

 最初の大人っぽさはどこへやら、イヴは両手で顔を隠して嘆く。…まあ、なんというか…苦労してるんだな。

 

「…一度、席を外した方がいいか?」

「それはそれで居た堪れなくなるからここにいて頂戴…。……こほん。…こほんっ」

 

 気を取り直すように、イヴは咳払い。…したが、一度じゃ取り直し切れなかったのか、もう一度咳払い。それから表情が元に戻って、改めて俺にどうするか訊く。

 

「そうだな…聞いた感じじゃ、シックボーってのはさっきやったルーレットと似てるみたいだし、クラップスは基本客とディーラーの一対一でやるタイプじゃないんだろ?なら……あ」

「何か思い付いた?」

「別に、決まったゲーム以外でもいいんだよな?なら…丁半って分かるか?」

「丁半…確かサイコロを中が見えないコップみたいなのに入れて、出目を予測する賭けよね?」

「ああ。さっきイヴが挙げてくれたゲームの中じゃ、シックボーに似てるな」

 

 何気に似てるゲームが多いな、シックボー…と思いながら、俺は首肯。因みに後で知ったが、あの振る時のコップっぽいものは、ツボと言うらしい。

 

「さっきまでやってたクラップスは正直、進行以外あんまりやる事なかったし…面白そうね。それじゃあ丁半で相手になるわ」

 

 少し考えた後イヴは了承し、丁半での勝負に決定。バーからコップを一つ借りてくる事でツボの代わりにして…早速ゲームスタート。

 まずはイヴが二つのサイコロをコップに入れ、振り、それからテーブルに伏せる。多分細かいところは本来の丁半と違うんだろうが、俺達は両方そのつもりでやってるんだから問題ない。そしてコップを伏せてからが、賭けのターン。

 

「…半で」

「…理由を訊いてもいい?」

「何となくだ。元々丁か半、偶数か奇数の二択でしかないしな」

「ま、それもそうね。なら私は丁で…って、一対一だし、私は言わなくてもいいか…」

 

 同じ方に賭けたら勝負にならないものね、とイヴは呟き、それからコップを上げる。その下、中にあったサイコロの数字は…二と四。

 

「二四の丁。まずは私の勝ちね」

「みたいだな。けどまだ一回目、勝負はこれからだ」

 

 細工やイカサマでサイコロを操作しない限り、このゲームの勝ち負けは半々。だから気にする事はない、とすぐに俺は次の勝負へ。

 二度目はまた半に賭けた俺が勝利。三度目は丁…にしようと思ったが、何となくまた半に賭けた結果、再び勝利。三度やって、三回共半に賭けて、今のところは二勝一敗。

 

「三回目も半なんて、ちょっと勇気があるわね」

「何もなく、もう一回半にしてみようと思っただけなんだけどな…というか、もうこの際、一々丁半選ばないで、半なら俺の、丁ならイヴの勝ちって事でどうだ?」

「それは構わないけど…いいの?もし私に出目を操作する手段があった場合、貴方の勝ち目はなくなるわよ?」

「かもな。けど、さっきイヴはあんまり知らないって言ってたし、出目を操作出来る程丁半に精通してるなら、丁半も出来るって先に紹介するんじゃないか?」

「確かにそれは言ったし、理解出来る考えね。…けど、そう思わせる作戦だったとしたら?私だって、嘘や隠し事位出来るわ」

「だが…あー、いや…これは探ってもキリがないな…」

「というか、ここで読み合っても仕方ないでしょ…いいわ、私が丁で、カイトが半ね?」

 

 言われてみればその通り。カジノは心理戦や駆け引きが重要なんだと思うが、ここで駆け引きしたって意味がない。そしてイヴはそれを指摘しつつも俺の提案を了承し、四回目のゲームに入る。

 

「さ、いいわね?それじゃあ……あっ」

 

 コップに二つのサイコロを入れ、俺に見せる。俺が頷くと、イヴはコップを揺らして中のサイコロを振り、ある程度したところでテーブルに伏せ……ようとしたところで、ツボからサイコロが一つ転がり出た。

 

「…………」

「…………」

「…さっきの今でそれは、わざとらしいな…」

「ち、違うわよ…!?どうやら丁半は素人で間違いないようだな、って思わせる為の演技じゃないからね…!?」

 

 半眼で俺が言うと、イヴはちょっと顔を赤くしながら反論。慌ててサイコロを回収するが…まあ、振り直しは間違いない。

 というか、実はかなり意外だった。あんまり知らないとは言っていたものの、ここまで声も表情も落ち着き払っていたし、服装もあってイヴからはプロっぽさが感じられていたからこそ、ミスには意外性があって……

 

(…これが、ギャップってやつか)

「…何?」

「いや、何でもない」

 

 ほんの少しだが、どうしてイヴにばかり噂が立つのか分かったような気がした俺だった。

 

「さっきのミスは失礼したわ。改めて振るわね」

 

 今度はサイコロが飛び出る事なくテーブルへと伏せられるツボ。丁半を固定した事で少しだけ進行は速くなり…開かれたツボの中で出ていた目は、二つ共四。四のゾロ目。つまりこれは…イヴの勝ち。

 

「これで二勝二敗。でもポイントの移動的には、ほんの少しだけカイトが勝っているわね」

「ああ。念の為、今回は賭ける額を減らしておいて良かったぜ」

「…そういう割には、複雑そうな顔じゃない」

「負けは負けだからな。後、丁半を固定した途端に二敗目っていうのも、幸先が悪いっていうか…」

 

 そう言いながら、俺は頬を掻く。今言った理由もそうだし、自分から過程を言い出しておきながら、何か不安になって賭け額を減らし、結果負けた事でその判断が合っていた、という流れも…なんというか、格好悪い。

 けど、それはそれ。これはこれ。まだ大損した訳でもないんだから、と俺は切り替え勝負を続ける。

 

「…………」

「…イヴ?」

「…今思ったんだけど、丁半とは別に、出る目自体も予想してみるのはどう?」

「それは良いが…なんでだ?」

「だって今のルールだと、貴方は幾ら賭けるか…って事しかアクションがないでしょ?それだけでも賭け事としては成立するけど…物足りなくない?」

「あー…それはそうだな」

 

 まだ丁半を固定してから一度しかしていなかったから気付かなかったが、確かにこのまま続けると、少し物足りなくなるかもしれない。

 という訳で、イヴと話し合ってルールを追加。まず、使うサイコロは二つの見分けが付くように、色違いの物を一つずつに変更。予想出来るのは一回につき一度だけで、両方外れた場合賭けたポイントは次回に持ち越し。そして予想出来るのは、丁半関係なし…つまり、俺が偶数になる組み合わせを予想する事も、イヴが奇数の組み合わせを予想する事も出来る。ただまあ、そのパターンで仮に当たったとしても、その時は同時に丁半で負けている訳で…そこの判断も、難しい。

 

「…さて、どうする?」

「うー、ん…まあ取り敢えず、一のゾロ目で」

「じゃ、私は二のゾロ目にしようかしら。…あ、同じ数字を予想するのはどうする?当たった場合は山分け?」

「それはなんか、面白みがないな。無しでもいいか?」

「ま、そうよね」

 

 俺は根拠無しの勘で言った。多分イヴの方もそうで…結果は、お互い外れ。ついでに出た目の和は偶数、丁で、イヴの勝ち。

 そこからも、勝負を続ける。五回、六回、七回、八回…一回当たりの時間が短い分、ゲームはすぐに回数が重なっていき…十回目の勝負が終わる。

 

「…全然当たらないな」

「全然当たらないわね…というか、よく考えたら毎回確率は36分の1、どっちかが当たる確率だって18分の1なんだから、そうそう当たらないわよね……」

 

 折角追加したルールだが、全く以って上手くいかない。…が、別にイヴが悪い訳じゃない。イカサマ無しで出目を当てるなんて、まあまず出来る事じゃないのだから。

 

(…そう、なんだよな。これはイヴが、俺が物足りなくならないようにと追加してくれたルールなんだ。なら……)

 

 ここまで俺は、程々に賭けてきた。テンポ良く進むし、ちょっとずつ賭ければいいか、と考えてきた。…だが、それは面白いのだろうか?勝っても負けてもそこそこの上下をするだけ、追加ルールの予想も毎回外れ…堅実な賭けなんてそんなもんなのかもしれないが、これで俺は楽しめているのか。

 詰まらなくは、ない。当たれば嬉しいし、外れれば残念に思う。持ち越しのポイントは貯まれば貯まる程、期待とイヴに当てられたら…という緊張感は増している。…けど、だとしても……

 

「…イヴ、こっちからも一つ提案いいか?」

「あら、何かしら?」

「このままじゃ出目の予想は持ち越しが続くだけだ。だから…倍賭ける事で、予想を更に一つ出来るってルールを追加したい」

 

 俺は提案する。それ自体はそこまで突破でも、独創的でもない追加ルールを。それを聞いたイヴは、俺の顔を見ながら数秒考え…頷く。

 

「…悪くないルールね、いいわ」

「なら、まずは二倍だ。これで予想を一つ増やして…ここから更に、二倍賭ける」

「え?」

 

 倍賭ける。そこから更に、倍賭ける。そう言った瞬間、イヴは驚いた。驚き、すぐに理解した。

 そう。俺は別に、倍賭けによる予想追加は一ゲーム中一回だけ、なんて言っていない。倍賭けた上で、更に倍賭ければ…賭けた分だけ、予想を増やせる。そして…まだ、これだけじゃない。

 

「もう一度倍、もう二度倍、もう三度倍…俺のポイントをありったけ賭けて、倍プッシュだ!」

「カイト、貴方……」

 

 二倍、四倍、八倍。賭ける度に必要額が増えていく。当たる確率が上がるのと引き換えに、外れた場合の損失も増していく。

 どこまで、なんて線引きはしない。敢えて言うなら、今の俺の、今のポイントの続く限りで賭け続ける。そして……

 

「…ギリギリ18通り、か…だがこれで、確率は2分の1だ」

「……本当にほぼ全賭けって…カイト、貴方って相当なギャンブラーね…」

 

 呆れたような声音で言うイヴに、まぁな…と俺は軽く返す。我ながら、やってしまったという感覚も少しあって…だからか身体から力が抜ける。

 ギャンブル経験なんてこれまでなかった。2分の1とはいえ、リスクが大き過ぎる賭けだって事も分かってる。それでも俺がそうした理由は、ただ一つ。やるんだったら、中途半端な真似はしたくない。現実の金じゃない、仮想空間内でのポイントなんだから……なりふり構わず、全力で賭けてみたい。

 

「…ふぅ…これはとんでもないお客に当たっちゃったわね。私はあんまり、ギャンブルしたい方じゃないんだけど……」

「……?」

「曲がりなりにも今の私はディーラーよ。ディーラーとして、お客の貴方と勝負している身。だから…こっちも全力で、迎え撃たせてもらうわ」

 

 そう言って、口角を上げるイヴ。それからイヴは、イヴも倍で賭けていく。倍を重ねていく。

 全力。その言葉通り、イヴに途中で止める気配はない。イヴ自身のポイントから出しているのか、カジノから出しているのかは分からないが、イヴは倍を重ね、予想出来る数を増やし続け……最後に、笑う。

 

「…これで、私も18通りよ。私が18通り、カイトも18通り……」

「俺とイヴとで、36通りぜんぶ揃う訳か。…決戦だな」

 

 冷や汗が、一筋垂れる。さっきまでも、2分の1でこれまでの持ち越しポイント総取りになり、2分の1で今あるポイントのほぼ全てが手元から離れる状態だった。だが、イヴも同額を賭けた事で、勝った場合に得られるポイントは跳ね上がり、逆に負けた場合はイヴに完敗するといえ、勝っても負けてもさっきまで以上の結果になる事が確定した。

 こうなるともう、丁半自体の予想は二の次になる。それはそれでどうかと思うが…まあ、いい。今は、この勝負に…決戦に集中するのみ。

 

「…いいわね?」

 

 神妙な面持ちと共にツボを見せたイヴへ、俺は頷く。イヴは振り、素早く裏返し、ツボを伏せる。

 36通りの内、18通りずつ俺達は賭ける。イヴにここから出目を細工する手段がないなら、もう結果は決まっているという事になる。そしてこの時点でもう…いや、そもそも俺には、何へどう賭けるかという選択肢しかない。…だからこそ、ヒリヒリする。勝敗を、運も勘に任せるという、戦いとはまた違う緊張感が、俺を包む。

 

「…カイト。貴方はどうして、追加で賭ける度に倍になるルールでの提案をしたの?」

「うん?…最初と同じ額を賭けるルールでも良かったんじゃないか、って話か?」

「そういう事よ。もしかして、私に同じ事を躊躇わせる為の作戦だった?」

「…別に、作戦なんてものじゃないさ。ただ俺は、ギリギリの勝負がしてみたかっただけさ」

「…清々しいわね、そういうのは嫌いじゃないわ。…現実でやってたら、ちょっと不安にもなるけど」

「流石に俺も現実ではやらねぇよ…」

 

 いやいや、と俺は否定した後、お互い軽く苦笑い。そのやり取りの間は、空気も緩み…だがイヴが、一度手を離していたツボへ再び触れた事で、緊張感が戻る。

 勝つのは俺か、イヴか。俺が総取りになるか、イヴが総取りになるか。緊張する、ヒリヒリする、ハラハラする。だが後悔はない、やり直したいとも思わない。ただ今は、自分の勝ちを信じるだけ。

 最後にイヴは俺を見る。俺とイヴとで視線が交錯する。そしてイヴは、ツボを開き……見えたのは、マークが一つだけの面を見せたサイコロ。一を出したサイコロと……

 

「…………」

「…………」

「…もう一個のサイコロ……」

「…下に、重なってるわね……」

 

 ぴったりとではない…だが出ている面が見えない程度にはもう一つが重なってしまった、二つのサイコロ。ここに来て起こった、ちょっとしたミラクル状態。それを目にした、想定していない形で出てしまった俺達は、また顔を見合わせ……言う。

 

『…これは、どうしよう……』

 

 無難な事を言えば、見えていない下側を動かさないようにしながら、上のサイコロを退かせば良いだけ。それで、ゲームやルール的には何の問題もなく勝敗を着ける事が出来る。だが俺が、そして恐らくイヴも、望んでいたのは開いた瞬間の決着と、その時駆け巡る感情であって……顔を見合わせた時の俺達は、それはもう何とも言えない感じの表情になっているのであった。

 

 

 

 

「ここでも皆、それぞれで楽しんでくれてるみたいね」

 

 カジノの中を、イリゼがゆっくりと回る。色々な勝負を見ながら、時には仕掛けられた勝負に応じながら、会場を巡っていく。

 そんな中で、イリゼに声を掛けたのはセイツ。掛けられたイリゼは振り返り、微笑む。

 

「ああ、良い事だ。このイベントを用意してくれたネプギア達には、感謝しかない」

「あ、今はそのそっちで通すのね…カジノ側としてはどうかしら?十分な利益を出せそう?それとも……」

「ふふ、今はお客であるセイツが気にする事ではないよ。それよりも、最後まで勝負を楽しんでほしい。もし相手が欲しいというのであれば、私が……」

 

 家族であるセイツに対してもイリゼが見せる、余裕と不敵さに満ちた笑み。それと共に告げられる言葉に、セイツも同じような笑みを浮かべ、二人による勝負が成立する……そう思われた次の瞬間、大きな金属音と悲鳴が響く。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁッ!?」

『……ッ!?』

 

 只事ではない音と悲鳴に、弾かれるように振り向く二人。聞き覚えのある声に、段々と迫る音に、二人が考えるのは何らかの事件。

一体何が起こったのかは、まだ分からない。だが何であろうと、友の悲鳴が聞こえた時点でやる事は決まっている。そんな思いを心に二人は駆け、角を曲がり……そして、目にした。──信じられない程のメダル、比喩ではなく本当に津波か何かにしか見えないような量のメダルが勢い良く通路を流れ、その波にルナが押し流されていく様子を。

 

『…え、えぇー……』

 

 予想外過ぎる光景に、イリゼもセイツも揃って唖然。状況からして、スロットで大当たりでもしたのだろう、という想像自体はどちらも出来たが…それにしても多い、多過ぎると目を点にしていた。ついでに言えば、イリゼはルナが妙な幸運…凄まじいまでの幸運の持ち主である事を思い出していた。

 

「何事ですか!?……え、何事ですか!?」

「一度目の『何事ですか』は何が起こったのって意味、二度目の『何事ですか』は一体何がどうしてこんな事にって意味かな?…うん、ほんとに何事なのかなこれは……」

「それはわたしも分からないわ…というか、ここって全部ポイントでやり取りになってたわよね…?一体どこからコインが出てきたの…?」

 

 同様に音と悲鳴を聞き付けてきたようで、方々から人が集まってくる。ビッキィが二度見ならぬ二度訊きをし、茜が冷静に分析…したかと思いきや、彼女も彼女で訳が分からないとばかりの表情を浮かべる。

 

「皆ー、大丈夫ー?」

「ネプテューヌ…ネプテューヌは確か、スロットコーナーに行っていたよな?…これは、もしや……」

「うん、ルナちゃんが大当たり…いや、もうこれは大当たりとかの次元じゃないけど…をした結果でね…。なんか、壊れたみたいにスロットからコインが出てきちゃって……」

「みたいってか、もう壊れてるとしか思えないよな…機材担当、どういう事だこりゃ」

「…え、私?私いつから機材担当に…?というか、スロットコーナーの管理はグレイブでしょ……」

「…うぅ、コインが…コインがぁ……」

 

 何か知っていそうだ、と駆けてきたネプテューヌに影が訊き、イヴがグレイブの視線にいやいやいや、と手を横に振る。

 そんな中、再度聞こえてきたルナの声。皆がそちらを向けば、彼女は目を回しながらアイとピーシェに肩を支えられており…何ともまあギャグの様な展開に、一行は揃って苦笑い。

 

「ルナは無事…みたい。良かった」

「だね、イリスちゃん。でも本当に、どうしてこんな事が起こったんだろう…。なんかまだ今も、じゃらじゃら出てる気がするし……」

 

 怪訝な顔を見せる愛月の言う通り、勢いこそ落ちたものの、まだコインの流れは止まっていない。光景的にはある意味で痛快さがあるものの、これが異常な状態である事には間違いない。

 何故、こんな事が起きたのか。これは大当たりという事でいいのか。やり取りをするまでもなく、全員がそれについて考え始め…だが次の瞬間、再び大きな音が、轟音が響いた。

 

『今度は何事…って、えぇ!?』

 

 また何か起きたのか、と一行は音のした方向に視線を向ける。機材や置き物等で正確には見えないものの、その方向からは煙が上がっており…直後、置き物である像が一つ砕かれる。砕かれた事で、視界が開け……姿を現したのは、巨大な生物。

 

「あれ…って確か、レースコーナーのモンスターじゃないのか?それにあっちには、同じコーナーのロボットも……」

「…つまり、賭ける対象のモンスターやらロボットやらが暴れ出したって事か?…どんなプログラム組んだらそんな事起きんだよ……」

 

 カイトとアイ、レースコーナーを見ている二人による発言。アイの指摘は全員が思うところではあったが、当然それに答えられる者はこの場におらず…それよりも、とセイツが声を上げる。

 

「何であれ、これは放っておけない状況よ。どうして、の部分は一旦置いといて、今は対処を……」

「いや、それには及ばないよ。原因はどうあれ、これはカジノ内で起きた問題。であればそれを収めるのもまた、私達の責務。…ズェピア君!舞台の用意を!」

「あぁ、協力させて頂こう」

 

 前に出ようとしたセイツを手で制し、代わりにイリゼが一歩前へ。それからイリゼは右腕を横に振り…彼女の言葉に応じる形で、ズェピアが軽く指を鳴らす。

 その瞬間、周囲は変化。直方体の光が広がり、それはイリゼ達店員…ディーラーの面々と暴れ出したモンスター達だけを包み、光は透明な壁となる。床にも光が灯り、ボードゲームのテーブルの様な模様へと変化。

 

「これは、一体……」

「バトルフィールド、というやつだろう。…何でこんな準備があるのかは、俺も分からないが…」

 

 困惑するワイトへ、影が答える。同じ店員でもバーの三人は違うらしく、モンスター達と対峙しているのは七人。

 

「早急に、早々に、事態を収束させるとしよう…!」

 

 状況を理解したのか、先頭にいた大型のモンスターが七人を襲う。真っ先にねらわれたのは、同じく先頭に立っていたイリゼであり…しかしイリゼは動じる事なく、どこからか…否、胸元から二枚のトランプを取り出すと、それを刃の様に両手に持ち、迫るモンスターに対し一閃。両の手より振るわれたトランプは、飛び掛かるモンスターを強かに斬り裂き、斬られたモンスターは着地もままならずに崩れ落ちる。

 それを皮切りに、モンスター達は次々と襲い始める。一方ディーラー達も、散開しそれぞれに迎撃を行う。

 

「二組四体のモンスター、ツーペアか…残念、こちらはスリーカードだよ」

 

 密集して襲い来る素早いモンスターに対し、ズェピアは笑う。すると彼の前に、役の揃った五枚のトランプが現れ…次の瞬間、謎の爆発がモンスター群の中央で炸裂。蹴散らされたモンスターに対してズェピアは何ら興味を示す事なく、すぐに次の対処へ向かう。

 

「シルバー…じゃなくて、ルーレットフラップ…!」

「ほいっと!…ディーちゃんのそれ、なんかちょっと坊主のZ戦士の得意技感があるわね…」

 

 二人一組の形で横に飛んだディールとエストは、それぞれに魔法を発動。エストは小さな鉄球を多数精製し、それを扇状に放つ事で面制圧。同様にディールもルーレットを思わせる円盤を精製し、それを飛ばして操る事で次々とモンスターを斬っていく。指摘でディールの操作は一瞬止まるが、すぐにそれはそれとして攻撃を続ける。

 

「まさかこんなところで戦闘になるとは、ね…!」

 

 自ら突っ込んでいったイヴは、手にしたサイコロを投擲。それは何に当たるでもなく、モンスターの足元に転がるが…次の瞬間、爆発。サイコロ型の爆弾であったそれは、イヴの狙った通りのタイミングで爆ぜ、モンスター群を飲み込む。それを免れたモンスターはイヴを狙うも、即座にイヴは銃器を振るい、引き金を引く。放たれた弾は見事にモンスターの頭部を直撃する…が、なんと弾は鉛ではなくトランプ。

 

「…あれはディーラーではなく、某マジシャン怪盗の武器では…?」

「というかイリゼ様もそうですが、何故トランプにあそこまでの斬れ味や威力が……」

「カジノ仕様よカジノ仕様、気にしないで頂戴。…気にされても、私も答えられないから…」

 

 ぼそり、と呟く様なピーシェとワイトの言葉に、微妙そうな顔でイヴは返答。その辺りは割り切っているらしく、彼女はそのまま更に銃撃。

 

「ブラック、ジャック!」

「あ、あれは…ってそれ、フラップジャックじゃない!プロレス技じゃない!…響きは似てるけど!」

「グレイブの トリック!グレイブはモンスターと、ダイナマイトを入れ替えた!」

「ダイナマイト!?なんでダイナマイトなの!?」

「いやほら、トムアンドジェリーって出てきたし、トムジェリといえばダイナマイトかなー、と」

 

 そのイヴより更に前に出ているビッキィは、突っ込んできた二足歩行のモンスターを担ぎ、後方に叩き付ける。同じく最前線のグレイブは何故か持っていたダイナマイトを相手に押し付け、爆発を浴びせる。ネプテューヌの突っ込みに軽い調子で返したかと思えば、今度は「グレイブの イカサマ!」と言って背後から襲ったモンスターを即座に返り討ち。更にそこで二人は向かい合うと…同時に頷く。

 

「私に合わせられる?グレイブ」

「はっ、お前が合わせろ!…なーんて、な!」

「8切り!」

「7渡し!」

『そして…階段革命ッ!』

「いや、女神の従者が革命をやったらクーデターじゃねーか…って、前話でも似たような事言ったな……」

 

 手刀で持って斬り付ける。再びダイナマイトを渡して爆発させる。そして跳躍したビッキィとグレイブは拳を突き出し、同時攻撃で飛行するモンスターを叩き落とす。その際、アイはビッキィを見ながら半眼で突っ込みを入れていたがらビッキィ自身は素知らぬ顔。というより、彼女には全く聞こえていない様子。

 普段とは違う、しかし普段通りの(一部妙な部分もあったが)実力を発揮しモンスターを制圧していくディーラー達。そうして残るは最後の一体。最も大きい、一機のロボット。

 

「ラスト…!ディールちゃん!エストちゃん!」

「はい!行くよ、エスちゃん!」

「えぇッ!」

 

 同時に床を蹴る三人。三方向からロボットへ迫る三人は再び床を蹴り、宙へ舞う。そこからディールとエストは魔法による加速を掛け、イリゼはフィールドの天井まで跳ぶとそこで今一度蹴り、三度目は天井を蹴る事で勢いを増し…超高速急降下からの、踵落としを叩き込む。

 

「ラビット!」

「ラピット!」

「ラディアント!」

 

 片や女神の力、片や身体能力強化に更なる力を乗せた、三人同時の踵落とし。それは、その蹴りはロボットの装甲へ食い込み、砕き……一撃で以って、三人の一撃で、ロボットは沈む。

 

「これにて終了。失礼したね、お客様の方々」

 

 恭しく、イリゼはセイツ達へと頭を下げる。同じように、六人のディーラーも頭を下げ…舞台は終わったとしますように、壁が消える。

 

「…なんていうか…凄かったね、皆!なんかちょっと、演目みたいだったし、最後のイリゼ達の連携はほんとにばっちりだったし!」

「ふふっ。まあ、二人とは…特にディールちゃんとは長い付き合いだからね」

「実際良い蹴りだったじゃねぇか。…ところで、状態的にカジノの続行は出来そうにねぇとして……あれは結局、どういう扱いになるんだ?」

『あ……』

 

 まるで何かの演目を見たみたいだ、と嬉々とした声を上げるルナに、イリゼは柔らかな…嬉しそうな笑みで返す。同じように、アイもまた軽く口角を上げながら、評価の言葉を口にし…それから再び、もう一つの件、異様な程出てきたコインの件を指差し上げる。

 すっかり忘れていた全員の、「あ……」という声。そして、それについては、最終的にコインがポイント換算されるとなった結果……カジノの破産級の損失と、この場におけるルナの尋常ならざる一人勝ちが確定するのだった。




今回のパロディ解説

・「〜〜一方的に勝つに決まってる〜〜」
デュエル・マスターズの呪文(ツインパクト)カードの一つのパロディ。ただこれ自体、クリーチャー面でもあるサガーンのフレーバーテキストが元になってますし、それが大元のパロディと言えますね。

・トニカクカワイスギディーラー
トニカクカワイイ及び、カワイスギクライシスのパロディ。同じ時期に似たような名前(カワイイ、の位置は違いますが)のアニメが…というのは、何とも意外なものです。

・「〜〜坊主のZ戦士の得意技〜〜」
DRAGON BALLシリーズに登場するキャラの一人、クリリン及び、気円斬の事。ただでも彼以外にも、割とこの技は他のキャラも使ってたりするんですよね。

・某マジシャン怪盗
まじっく快斗の主人公である、怪盗キッドこと黒羽快斗の事。作中で触れているのは、彼の使うトランプ銃ですね。そしてトランプと怪盗といえば、怪盗ジョーカーも連想する私です。

・トムジェリ
カートゥーン作品、トムとジェリーの事。因みにカクテルとして出てきた「トム・アンド・ジェリー」とギャグアニメのトムとジェリーは、特に関係がないらしいです。

・「はっ、お前が合わせろ!〜〜」
メガトン級ムサシの主人公、一大寺大和の台詞の一つのパロディ。特別印象に残る台詞でもないのかもしれませんが、CMでも使われている分、私としては割と覚えている台詞だったりします。
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