超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
謎の異常な大当たりと、レースゲームの賭ける対象…仮想空間である以上、ただの演出に過ぎない筈のモンスターが暴れ出した事を受けて、わたし達は一度カジノから出る事になった。どちらにせよ、コインが散乱してる上モンスターが暴れてカジノ内が滅茶苦茶になってしまった訳だから、どちらにせよ一度は中断しなければならない状況になっていた。
「お待たせ、皆。ごめんね、事態が事態なのに待たせちゃって」
「いや、そんな長く待ってた訳でもないし、気にすんな」
全員を代表するように、イリゼさんが言う。待っていた人達の中で、始めにカイトさんが返してくれる。
店員としての衣装だったり、借りていたドレスだったりを脱いで、普段着に戻ってから、わたし達はカジノを出た。…ゆっくり着替えてる場合なのか?…いやまぁ、それはその通りですけど、幾ら仮想空間と言ったって、バニー衣装で街中に出るのはちょっと…。
「やっぱり皆、そういう格好の方がしっくりくるよねー。勿論ディーラーの服とかドレスとかも似合ってたけどさ」
「ウチもそう思うッス。ああいうのは偶に着るから良いんであって、普段から着てたら肩が凝って仕方がないッスよ」
「あはは…まあでもディーラーの服はともかく、ドレスは普段から着るようなものじゃないよね。…あ、でも女神は絶対セレブ側な訳だし、普段から着ててもおかしくはないのかも…?」
「でも普段から実際にドレス着てるのって、ベールさん位よね。ノワールさんの服もドレスらしいけど、あれは結構ラフなやつだし。…あ、服装といえば…イヴは着物じゃなくて良かったの?」
「着物…って、丁半やってたから?…いや、その為だけにディーラー衣装から切り替えたりしないわよ…第一あの場で和装なんてしたら、周りから浮くなんてレベルじゃないわ…」
普段着が一番!…という風に言うネプテューヌさんに、アイさんが同意。ルナさんが首を傾げれば、エスちゃんが返答しつつイヴさんに振って…その返しに、わたしはカジノ内で着物を着てディーラーをしているイヴさんを想像した。…確かに違和感が凄かった。
「さて、私はネプギアに確認を取るから、皆はちょっと待っててくれる?」
そう言って、一旦離れるのはイリゼさん。全員に関わる事なんだから、別に離れなくてもいいと思うんだけど…そういうところは、イリゼさんらしい。
(…あ、でも、何か内密に話したい事がある…って事も、あるのかな…?)
顎に手を当ててわたしがそんな事を考えている間も、会話は続く。…妙な事が起きた後としては、ちょっとのんびりし過ぎかもしれないけど、実際のところまた何か起こるかもしれないから皆で集まっていた方が良いし、同じ理由で下手な事は出来ないから、ここで取り敢えず会話してるのが実は一番無難な選択だったりする。
「そういえばディールちゃんもエストちゃん、最初会った時は着てなかったタキシードっぽい上着をさっきは着てたわよね。…やっぱり寒かったの?」
「あ、いえ。先程ワイトさんから上着をお借りした訳ですが、流石にあの格好には合わなくて……」
「けど何事もなかったみたいにしてるのも悪いかなーって思って、あの上着は返した上で、一枚羽織ったって訳。あれもあれで似合ってたでしょ?」
「えぇ、大人っぽさが増してたと思うわ」
セイツさんの言う通り、わたしとエスちゃんは丈の短い黒の上着を羽織っていた。大人っぽさが増していた、と言われたエスちゃんは、ちょっと気分が良さそうで…わたしも悪い気はしなかった。…まぁ、今は服装だけじゃなくて、外見も普段通りに戻ってる訳だけど。
…それにしても、仮想空間とはいえ、まさかバニーの格好をする事になるだなんて…。着る時も恥ずかしかったけど、今思うと、その姿をここにいる人皆に見られた訳でもあるんだよね…。うぅ、やっぱりあの時は流されず普通のディーラーの格好した方が……
《クエスト・スタート》
『え?』
──不意に、そんな風にわたしが思っていた時突然に、宙に浮かび上がったテキストウィンドウ。
クエスト・スタート。そこには確かにそう書かれていて……次の瞬間、現れたのはモンスター。
「…え、っと…え?これは、どういう……」
「って、言ってる場合じゃないみたいだよ…!」
突然な…あまりにも突然な展開に、わたし達は困惑。初めに声を上げたのは、きょとんとした顔の愛月さんで…けれどわたし達に、じっくり考える時間はなかった。
現れたモンスターは、わたし達を視認するとすぐに襲い掛かってくる。飛び掛かってきた初めの一体は、ピーシェさんが抜き放ったナイフの一撃で迎撃してくれたけど…それが起爆剤になったみたいに、他のモンスターも次々と襲い掛かってくる。
「んもう、どういう展開よこれ!話の途中だがモンスターだ、ってやつ?」
「ワールドマップ移動中の、唐突なエンカウント的なアレかもしれないッスよ?」
「結構余裕そうですね、お二人共…」
矢継ぎ早に飛び掛かってくるモンスターを、エスちゃんが魔力の衝撃波で叩き落とす。落下したモンスターが立て直す前に、刃を展開したブーツでアイさんが蹴…いや、斬…えっと……蹴り斬る。わたしもワイトさんが銃撃したモンスターへ氷弾の追撃を浴びせて、一体一体倒していく。
モンスターの数は多い。わたし達を囲うような形で現れたから、位置取り的には結構不利。…でも、劣勢ではない。全く以って、押されてる感じはない。だって……
「狙い撃ちだ、ウーパ!」
「ドッペル、シャドークロー!」
「ねっぷねぷにしてやんよー!ってね!」
「ふむ、ねっぷねぷとは状態異常か何かかな」
こっちも、結構な人数なんだから。離れているイリゼさんを抜いても、この場には十七人もいて…しかも全員が戦える訳だから。
「よ、っと。カイト、後は任せたわよ!」
「ああ、任せろッ!」
踏み込んで、派手な近接戦を行っていたセイツさん。その動きでモンスターの注意を引き付けていたセイツさんは、残りの数が少なくなってきたところで大きく後ろに跳んで…次の瞬間、集まっていたモンスターを業火が襲う。炎はあっという間に残るモンスターを包み、飲み込む。
「わぁ…ほんとにカイトさんの炎は凄いね…」
「少しの溜めでこの火力…常人の範疇じゃないな」
燃え、力尽きていくモンスターと炎を見て、ルナさんと影さんが感想の言葉を口にする。もう他にモンスターの姿はなく…燃え盛る炎が消えると同時に、突然始まった戦闘は終わる。
「ふぅ…取り敢えず一件落着、ですかね?」
「殲滅出来た、って意味ではそうね。けど、何でいきなり現れたのかはまだ……」
気配や敵意ももう感じられないという事で、わたしはこの空間で作ってもらった仕込み杖を降ろす。皆も一先ずは片付いた、と緊張を解く。
けど、ビッキィさんの言葉にイヴさんが返した通り、戦闘以前の問題が残っている。どうしていきなり戦闘…というか、クエスト?…が始まったのか。そういうトラップなのか、それとも何かのイベントなのか。もし何かを切っ掛けにこのクエストが始まったなら、同じ事が起きないようにその切っ掛けが何なのかも調べて把握しないといけない。直接的な危険は勿論戦闘の方が上ではあるけど、十分戦力が揃ってる事を考えると、むしろ『何故こんな事に?』を調べる方が、難易度的には高いのかも。……そう、思った時だった。
《クエスト・スタート》
『……!?』
再び宙に現れた、さっきと全く同じウィンドウ。直後に周囲へ現れたのは、位置も種類も大体の数も一緒に見えるモンスターの群れ。
まるでさっきの再現の様な、多分完全に同じ流れ。一度目だって驚いた。でも…今は違う。二度目である今は、驚きの意味が根本から違う。
「皆!え、何!?何事!?」
「それはわたし達も訊きたいです…!」
起きているのは、明らかにおかしい事態。でも敵意を向けてくるモンスターがいる以上、まずはそっちの対応をしなきゃいけなくて…そこで飛んできたのはバスタードソード。わたしが飛んできた方向に目を向ければ、イリゼさんが走ってきていて…イリゼさんも加わった十八人で、改めてわたし達はモンスターを片付けていく。
「よしっ、今度こそ終わり──」
《クエスト・スタート】
『えぇ!?』
モンスターの行動パターンはさっきと同じ。今さっき戦ったばかりだから対応は容易で、しかもイリゼさんの加入もある訳だから、殲滅まではさっきよりもずっと早い。
でも…殲滅した後、今度は全部倒した直後に、三度目のウィンドウが出て、三度モンスターの群れが出現。わたし達の驚きは深くなり…同時にわたしは、何か恐ろしさも感じ始める。罠とかそういう事じゃない、もっと異常で異様な何かが、正に今起こっているんじゃないか…って。
「これは手を抜…いていた訳じゃないが、出し惜しみしている場合でもなさそうだな…。再スタートになる瞬間を調べたい、茜イリゼ援護頼んだ…!」
「だよね、任せて!」
「あ、ちょっ…援護はいいけどこっちの状況も…って言っても聞いてないんだもんなぁ…!」
「範囲攻撃だったら、私も…!」
「…イリスは、集める。オーライ、オーライ」
そんな中で、影さんが動く。遠隔操作端末…らしき物を射出して、多方向からモンスターへ集中砲火を浴びせていく。その影さんに振られた二人の内、茜さんはすぐに動けていたけど、数体のモンスターを同時に相手していたイリゼさんにはそこそこ無理な呼び掛けで…でも文句を言いつつも、女神化して一気に片付けたイリゼさんは、やっぱりイリゼさんだなぁ…と思った。
というのはさておき、全体としても広範囲攻撃の流れになっていく。ルナさんが左手から電撃を迸らせ、いつも通りの調子なイリスちゃんが集めたモンスターの頭上へ、わたしとエスちゃんで氷塊を落とす。
(今はまだ皆余裕がある。でも、そろそろ何とかしないと……)
十八人という人数と、広範囲攻撃が組み合わさる事で、一気にモンスターの数が減っていく。まだまだわたしも皆さんも息切れには程遠くて、例えばもう数回繰り返される位だったら、ちょっと大変だったで終わらせられる。…けど、それで終わらなかったら?数回どころか十回、二十回、三十回…何度も何度も続いたら、どこかで息切れはする。そして、もう異常事態である事は間違いない。もしもその、異常事態の中でやられたら…その時どうなるかなんて、分からない。
そうして三度目のモンスターも、残り一体。影さんは最後の一体を攻撃せずに、端末を周辺警戒に当たらせる。その意図を汲んだのか、最後の一体へ仕掛けにいくのはイリゼさんで…イリゼさんの斬撃は、そのモンスターを斬り裂いた。斬り裂いたけど…戦いは、終わらない。
《クエス ト・スタート」
「……っ!ピーシェ様、今……」
「えぇ…今、明らかにイリゼさんが倒す前に……」
それに、ただ続いただけじゃない。最後の一体を倒す前、刃が触れる直前に、あのウィンドウが表れた。全て倒した直後に表れるのも、倒す直前に現れるのも、その後の事を考えれば大した違いじゃない。…どんどんおかしくなっている、異常さが増しているという事から、目を逸らして考えるなら。
「影君、今ので何か分かった事は?」
「悪い、さっぱりだ」
「そうか…皆さん、ここは一時撤退する事を提案します!終わりの見えない消耗戦は避けるべきです!」
「同感!無限湧きする敵はスルーするのが一番だよ!」
飛び掛かってきたモンスターの頭を拳銃のグリップ、その底面で殴り付けたワイトさんの、撤退提案。それに真っ先に答えたのはネプテューヌさんで…ゲームで例えるような言い方ではあるけど、正直言ってその通り。もしも何十回ってレベルですらない、本当に無限に湧いてくるモンスターなんだとしたら、無視してその場から離れるのが一番。
ワイトさんの提案に、反対する人は誰もいなかった。とにかく今は一度ここから離れよう。皆がそう思っていた。そして撤退の為の道は、カイトさんと、炎の扱いに長けるポケモンに交代したグレイブさん、愛月さんが同時攻撃で開いてくれて……
[クエスト・スタタート》
《クエスト・スタート》
【クエス■■スタート 』
《クヱスト?スタ■ 〉
《■■■■■■■■■》
【■エストBORGト》 『クエスラッシュチャレ■■』
{ID・133329)
『な、ぁ……ッ!?』
……けれど、撤退の判断は…少しだけ、遅かった。少しずつおかしくなっていった…そう見えていたのは表面的な部分で、その裏では異常が深刻なレベルに、どうしようもない程にまで進んでいた。
宙に、周囲に、次々と表れるウィンドウ。その表示も、ウィンドウの形も、明らかに崩壊していて、最早原形すらないものまで表れている。続けて表れるモンスターも、表れたのに動かなかったり、姿に激しいノイズがかかっていたり、まともな状態じゃない個体ばかりに変容している。
「おいおいおいおい、流石にこれはちょっと…いやかなり不味いだろ…!」
「ほんとに不味いよぜーちゃん!ちょっ、もうバグってるなんてレベルじゃない…!もっと何か──」
聞こえたのは、グレイブさんの焦りの声と、何かを理解したのか戦慄を孕んだ茜さんの声。その間にも表示の崩壊は進んでいて…ううん、違う。今はもう、見える光景や建物すらも歪み、崩れ、狂っている。
どうすればいい?もう戦闘どころじゃない。最早戦闘は成立しない。さっきまでしようとしていた撤退だって、どこへ行けば良いのか分からない。
ただでもまだ、遠くは崩れていない…ような気もする。これからどうするにしても、まずはそこまで移動して、状況を整理して……そう、わたしは思っていた。きっと皆さんも、似たような考えでいたと思う。…でも、その瞬間は訪れない。幾つも幾つも、崩れた表示が無数に表れた末に──空が、壊れた。
【クェストトスタト》《K@エスト84ート」
『"%○アウレクエ]《スタスタス☆タスタ】
[ミッショクエs〒}【【【【【【ス》】》】
(h KkMWWyvAー』〈&rU(○'◇'○)thaン〕
《クエスト・スタート》
《クエスト・スタートクエスト・スタートクエスト・スタートクエスト・スタートクエスト・スタートクエスト・スタートクエスト・スタートクエスト・スタート《クエスト《クエスト・スタート《クエスト・スタート》クエスト・スタ《クエスト・スタートクエスト・スタート》クエスト・スタートクエストスタートクエストスタートクエストスタートクエストスタートクエストスタートクエストスタートクエストスタートクエストスタートクエストスタークエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエストクエスクエスクエスクエスクエクエクエクエクエクエクエクエクエクエスクエクエストクエストククエストクエストクククククククククククククククククククククククククククククククククエストククエエエエスススススススススストクエストククエストクエストクエストククククエスエスエストトトトトクエスエストトエクエスクエエエエエエエエエクククククエススススエストトエ
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*
「つぁ……ッ!」
深い水の中から浮かび上がったかのように、追い詰められたギリギリの状態から逃げ延びたかのように…そんな感覚を抱きながら、目を覚ます。
いや…今私は『目を覚ます』という表現をしたけど、それが正しいのかは分からない。ただ、今の私はそんな風に感じていた。そうとしか、表現出来なかった。
「皆、無事!?」
「私は大丈夫、皆は…!?」
聞こえたセイツの声に、反射的に答えながら、私自身も皆に訊く。それと共に、見回し皆の無事を…皆の存在を確かめる。
「と、取り敢えず大丈夫…です」
「僕も、大丈夫…」
初めに返ってきた返答は、ディールちゃんのもの。次は愛月君で…そこから次々と声が、或いは目の合った私に対する頷きが返ってくる。そうして全員の無事が分かった事で、一先ずだけど私は安堵。
(ここは……)
皆が無事だと分かって、私の意識は周囲へと移る。私の目に映ったのは、壁も床も天井も白い、何もない空間で…思い出すのは、今回の仮想空間での活動を始める時、一番最初に入った場所。そこと似ている…というか、恐らく同じ空間。
「皆さん、聞こえていますか?わたしです、ネプギアです…!」
「え、ネプギア…?」
と、そこで聞こえたネプギアの声。急いているようなネプギアの声に、ネプテューヌが反応して…それで安心したのか、ネプギアはほっとしたような吐息を漏らす。
「これは…イリス、知ってる。これが噂の、心に直接語り掛けているという……」
「いや違う違う、普通に呼び掛けてくれてるから…というかそういうボケは、それこそ自分の領分……」
「イリスは物凄く天然だもんなぁ」
「…イリス、天然じゃない。イリスはどちらかというと、養殖」
『……?』
何気なく言ったのであろうグレイブ君の発言と、それに対するイリスちゃんの訂正。そして、私達の頭の上に浮かんだ疑問符。…取り敢えず、イリスちゃんが何か勘違いしてるのは間違いないけど…え、どうしようこの微妙な空気…。
「あ、あのー…皆さん、割と今は本当に切羽詰まってるんですが……」
「おっと、これは失礼。…つい先程まで仮想空間内の街にいた筈の我々が、今は待機エリアの様なこの場所にいる。仮想空間内で起きた事も含め、説明はして頂けるのかな?」
困ったようなネプギアの声に、私達は気を引き締める。ちょっと緩い雰囲気になってしまったけど、今がのんびりしていられる状況じゃない事は、バグの具合からして火を見るよりも明らか。
そこから発せられた、ズェピア君からの問い。それにネプギアは、神妙な声で答える。
「…はい。もう皆さん、お分かりかと思いますが…今、仮想世界形成装置は、深刻なバグを抱えています。…いえ、違いますね…今ではなく、かなり前から少しずつバグが起こっていたんです」
「少し前から?そうだったかしら…」
「解析して分かった事なんですが、これまで発生していたのは一目で分かるバグじゃなく、もっと軽微だったり、自由度の高い仮想空間ならではの仕様にも思えるバグだったんです。心当たりは、ありませんか?」
「そういえば、ワイトさん達としたレースの時は最後明らかにおかしかったよな…やっぱりあれは、バグだったのか…?」
「レースといえば、ウチ等がやったレースも最後はちょっと変な気がしたんッスよね。これもバグだったって事ッスか?」
「…あ、ビッキィ。カード勝負した時、何故かエクストラウィン出来なかった瞬間があったよね?あれはそんな効果ないですよパターンかと思ってたけど、ひょっとして……」
ぽつりぽつりと挙がる、バグらしき可能性。実際にバグなのかどうかは分からないにしろ、私にも思い当たる節はあって…そうなると、気になる点は二つ。
「…ネプギア。じゃあ仮想空間では…今回の仮想空間を形成して以降は、早い段階から装置にバグが生じていたって事?」
「だと、思います。…すみません、逐一モニタリングしていたのに、全然気付く事が出来なくて……」
「…今はそれより、状況の把握を優先したい。続けてくれるか?ネプギア」
「あ…は、はい」
言葉通り、申し訳なさそうな声音で言うネプギアに対し、それよりも、と返したのは影君。その影君を見る茜は、小さく微笑んでいて…非や責任の話が始まる前に、話を元の流れに戻した。それはつまり…きっと、そういう事なんだろう。
「わたしの気付かない中で、少しずつ仮想空間でのバグは発生していました。それは少しずつ蓄積して、バグの影響も大きくなっていました。ただでも、これまでは局地的な、何かおかしい程度だったんですが…バグが蓄積していった結果、カジノでのあるバグによって一線を越え、ダムが決壊したように、一気に局地的だったバグが仮想空間全体に影響を及ぼすレベルになってしまったんです」
「カジノでのあるバグ……って、まさか私の…?」
説明により、少しずつ経緯が分かっていく。その中での『あるバグ』という言葉に反応したのはルナで…さぁっとルナの顔は青くなる。
「ご、ごごごめんね皆…!まさか私のとんでもない大当たりが、もっととんでもない事を引き起こしてたなんて…でも私、そんなつもりじゃ……」
「ち、違うよルナちゃん!確かに最後の一手になったのはルナちゃんの大当たりだけど、わたしが気付いてなかった以上早かれ遅かれ起きてた事だし、そもそもルナちゃんだって意図的にバグを引き出した訳じゃないでしょ?だからルナちゃんは、タイミングが悪かっただけっていうか……」
「…らしいよ、ルナ。というかあれは側から見たらルナも半分被害者みたいなものだし、気にする必要はないんじゃないかな」
「そッスよ。責任云々を言うのであれば、仮想空間っていう現場にいながら全く気付いていなかった、イリゼやセイツこそ問われるべきッスし」
『えぇ…!?』
責任を感じるルナに、ネプギアもピーシェもそんな事はないとフォローする。アイもそれに続いて…そこからなんと、私とセイツに責任が飛び火。当然私もセイツも唖然とした訳だけど…意図は、分かる。これもある意味、アイからの信頼だと思うし…責任がないとも、思っていない。ネプギアが何も言ってこないから大丈夫だろう…そんな風に思って、油断していた私達の責任は確かにあるんだから。
「…私からも、一つ訊いていいかしら。ネプギアは、仮想空間の中をモニタリングしてたのよね?でも、ここまでバグに気付く事が出来なかった。…ネプギアが一つも気付けない程のバグって、ただのバグなの?」
「それは……。…イヴさんの言う通り、わたしはモニタリングをしていましたが、先程イリゼさんに報告を受けて、カジノの各種ログを洗い直すまで、全く気付く事が出来ませんでした。これはチェックの甘かったわたしの責任です。…ですが…わたしは、その指摘通りだとも思っています」
ネプギアが置く、一拍分の沈黙。含みのある言い方に私達も黙る中、ネプギアは…言う。
「…まだ、確定ではありません。あくまで可能性の域ですが──今その仮想空間は、一つの新たな『次元』になろうとしています」
発せられた、ネプギアの言葉。それに、私達は息を呑む。状況からして、並々ならぬ事が起きているのは明白だったけど…一つの新たな次元になろうとしている、その言葉は私の予想を遥かに越えていた。
「新たな次元って…それ、本気で言ってるの?比喩とかじゃなくて?」
「違います。…あ、いや、全く違うって訳でもないっていうか、仮想空間…電子的な空間が、擬似次元とでも言うべきものになりつつあるというか……」
「ややこしい言い方をするわね…あー、いや…むしろ逆か、ネプギアがややこしい表現をしたんじゃなくて、そういうややこしい空間って事か……一応理解はしたわ」
「…理解出来た?」
「まあ、なんていうか…仮想空間の中に、仮想空間じゃない…全然違う世界みたいなのが出来始めてる、って思えばいいと思うぞ。多分、ネプギアも正確に説明出来る訳じゃないっぽいしな」
俄には信じ難い。多分皆そう思っていて、代表するようにエストちゃんが問う。はっきりした答えは返ってこなかったけど、はっきりした答えでない事が答えだとエストちゃんは捉えて…愛月君は、小首を傾げていた。訊かれたカイト君は、肩を竦めつつ答えていたけど…多分、そういう認識で合ってると思う。
「そんな事ある?…って言いたいけど…色んな次元や世界から人が集まってて、しかもここは幾つもの次元が関わってる仮想空間だーって事を考えたら、それもあり得ない話じゃないのかもね。…ってゆーか、私達が出会ったのも、すっごく特殊な空間だった訳だしさ」
「あ、そう言えばそうでしたね…じゃあつまり、これまでのバグは、仮想空間の中で新しい次元が生まれようとする影響だった…って、事…?」
「恐らく、そういう事です。そして予兆程度だったものが、本当に一つの次元としての形が生まれ始めた事で、異物を抱えた仮想空間が大量のバグを吐き始めた…わたしはそう見ています」
顎に手を当てて言ったディールちゃんの発言を、ネプギアが肯定。そうして私達は、理解をした。一体仮想空間で何が起きているのかを、そして何故それが起こったのかを。
「…全て理解出来た訳ではありませんが、一先ず状況は分かりました。して…私達は、どのようにすれば良いですか?」
「うん、そこよね。…ネプギア、皆を現実の方に戻せそう?」
『これまで』の事は分かった。だからこそ、次に必要なのは『これから』の事。そして、気にするべきは、皆が戻れるかどうか…安全を確保出来るか否かに決まっている。
これには正直、不安がある。状況的には、色んなところに問題や不具合が生じていそう…というか、生じている筈なんだから。であれば準備に時間が掛かるとかならいい方で、最悪の場合はその手立てがないって事も……
「戻せます。既に準備は出来てますので、皆さんに懸念がなければ今すぐにでも」
『……えっ、出来る(の・んですか)?』
「へ?あ、はい。……え…?」
……なかった。なんとネプギア…というか機材の調整や今回のシステム構築をしてくれた皆は、ばっちり安全確保をしていてくれた。…いや、まぁ…万一に備えた対策を色々してある事は、知っていたけど…。
「な、何か駄目でした…?」
「いや、駄目じゃないし普通に助かるけど…ほら、こういうのってクリアするまで脱出不可能になるのがお決まりじゃん…?」
「というか、あれだけ酷いバグが発生してるのに、そんなすぐに戻れるんですか…?」
「酷い状態でも皆さんの無事を確保出来るように、敢えて通常のプログラムとは別系統の、バックドアに近い脱出経路を複数用意しておいたんです。その内幾つかはバグの影響を受けていますが、まだ無事な脱出経路も残っています。バグの影響でこっちから仮想空間に入る事は出来ないので、一方通行の道ですが…今ならまだ、安全に戻れます」
出来るの?とビッキィが問えば、すぐにネプギアが答える。その自信を感じられる回答に、私はほっとし…けれど同時に、ある言葉が引っ掛かった。
「…今なら?」
「今なら、です。…これを、見て下さい」
現実の側で何か操作をしたのか、何もなかった白い空間に、ウィンドウが一つ開く。それは映像用のウィンドウで……映し出されたのは、至る所にノイズが走り、正常な形や色を失い、人や施設が異常な挙動を繰り返す街。大地や空すら崩壊し…嘗てうずめ達のいた次元を思わせる程にまで狂ってしまった、仮想空間。
「…酷い有り様ね…まだ少ししか経ってないのに、もうここまでバグが広がっているなんて……」
「…いえ、違います。一応今は、バグの広がりが緩くなった…というか、何とか緩和させられた状態で…わたしが皆さんを今の空間に緊急避難させてから、数時間経っています」
イヴの言葉を否定したネプギアが口にした、驚きの事実。数時間経っている、その発言に私達は皆驚き、同時に不可解さを覚える。街にいた最後の瞬間から、この空間に移動するまでは、一瞬じゃなかったのかと。いつの間に、数時間経ったのかと。
でも、すぐに合点がいった。思い出せば、私は最初、目を覚ました時の様な感覚があった。あの時はそこまで深く考えなかったけど…実は数時間意識が途絶していたのなら、数時間してあの時意識が戻ったって事なら、あの感覚に関しては説明が付く。
「すみません。緊急避難は少し強引な方法なので、安全の為に一度意識データの更新をストップさせてもらったんです。それでその後は、こっちから仮想空間の被害を抑えようと今出来る手を片っ端から打ったり、皆さんの仮想空間でのデータにバグが及んでいないかチェックしている内に、結構な時間が経ってしまって……」
「そういう事であれば仕方ないね。…今はまだ無事な経路も、バグの進行が完全に止まった訳ではない以上、いつ侵されてしまうか分からない。だから、今ならまだ…という事か」
そんなに時間が経っていたとは、と驚いたけど、それについては初めから文句なんてない。ズェピア君の解釈も合っているようで、即時の脱出に対する反対もない。
良かった。安心した。こうなってしまった時点で、皆には改めて謝罪しないといけないけど…最悪な結果だけは、避けられそうだから。…なら……。
「…ネプギア、今は進行を遅らせるのが手一杯なんだよね?じゃあ、どうしようもないって事?もうこの件に対しては、打つ手なし?」
「なし…では、ありません。バグだけを何とかするのは無理ですが……この仮想空間諸共、装置内の全データを纏めて消去してしまえば、バグは止められます。そうすれば、バグが外部に広がる事も、生まれつつある次元が未知の『何か』を起こす事も防げます」
「って事は、一応何とかはなるんだね。ふぅ、一時はどーなるかと思ったけど、それなら良かっ……」
全てデータを消してしまえば、初期化ではなく完全に消し去ってしまえば、これ以上の事は起こらずに済む。その答えに茜が安堵の吐息を漏らし、皆も同じような雰囲気を纏う。そして、ネプギアからの答えを聞いた私は…言った。
「…分かった。ネプギア、皆の帰還準備を進めて。──私は、バグを止められないか試してみる」
「分かりまし…え?」
予想外だとばかりに、分かったと言いかけてからネプギアは訊き返す。皆からも、唖然とした視線を向けられる。…まあ、それはそうだよね。でも、それは…これは、必要な事。
「ごめんね皆、こんな事になっちゃって。この埋め合わせは、今度必ず……」
「い、いやちょっと待った!え、い、イリゼ今なんて…?」
「うん?…ごめんね皆、こんな事に……」
「そのもう一個前!イリゼ、止められないか試すって言わなかった…?」
ストップをかけてきたのはルナ。どういう事?…とルナの瞳は言っていて…そう思われるのは、当然の事。だから私はルナの問いに頷いて、皆の方を向き直る。
「うん、言ったよ。私は試すと言った。…私はこの仮想空間のデータを、得られたものを、失う訳にはいかないから」
「…何か、事情がありそうだな」
何が理由だ、という声音で言う影君にも、私は頷く。別に、隠すつもりはない。私がこれからしようとしている事の理由は、口外出来ない事じゃないし…皆は部外者でもないんだから。
「皆はもう分かってると思うけど、ここはただの仮想空間じゃ、シミュレーターの作り出した空間じゃない。今はまだ手探りだけど、条件や設定を限定する形でしか実効出来ないけど、もっと研究とテストを繰り返せば、もっと緻密で、もっと繊細な仮想空間を作り出せるようになると思うし、いつかはきっと現実と遜色ないレベルまで至れる。その上で、自由に要素の追加や削除が出来る…凡ゆる可能性を試す事も観測する事も出来る、そんな装置になるかもしれないの」
「だからその為の、ここまでに得られたデータを失うのは惜しいという事か。…データのバックアップはないのかい?」
「全くない訳ではないんですが…少なくとも、皆さんが協力してくれた活動のデータは、現状この装置の中にしかありません。元々この装置…いえ、信次元単体で完結している仮想空間ではない関係で、別の機材や記録媒体にバックアップしても、正常なデータとしては保存出来ないんです」
「そういう事。それにこれは、皆の…ううん、各次元からの協力を受けて初めて成り立つ以上、再挑戦は容易じゃない。加えて全てのデータを消しちゃったら、当然システムを一から組み直さなきゃいけない訳だから、やっぱり再挑戦は難しくなる。…また今度、やり直せばいい…そういう話じゃないの、今回の件は」
この仮想空間と形成装置がどれだけの可能性を持つものなのか、今回の事で得られたデータがどれだけ貴重なものなのかを、私は話す。
ただでも、これだけじゃ皆は納得しないと思う。そして私の思った通り、私はエストちゃんから怪訝な視線を向けられる。
「…まあ、この仮想空間が物凄く価値のあるものだって事は分かったわ。けど…おねーさんは、こういうものにそこまで価値を見出すタイプだったっけ?少なくとも、科学技術の発展に精を出すタイプではなかったでしょ?」
「同感ッス。それに今のイリゼは国の長ッスよね?そのイリゼが、どう考えても危険な事を、やらざるを得ない訳でもないのにやるんッスか?もしこれに、誰かの命がかかってるってなら分かるッスけど…」
「…国の長、だからだよ。神生オデッセフィアは…新興国で発展途上でもある私の国は、四ヶ国から色んな支援や援助を受けてるの。これまでも受けてきたし、これからもまだまだ必要で…それと引き換えに行っている事の一つが、今回の件。信次元全体の利となる事を、神生オデッセイフィアが主導する事で、責任も全て負う事で、神生オデッセフィアの発展の足掛かりにしてるの。だからこれを、失敗で終わらせる訳にはいかない。神生オデッセフィアの為に、絶対結果を残さなきゃいけない。…それに…最初は冗談半分で言った、新たなる世界の創世が、その可能性が今現れているんだよ?信次元は…いや私達は、創世への道、そのスタート地点に立てたのかもしれない。なら、尚更この可能性を消す訳にはいかない……それが私の、オリジンハートの意思だ」
何を馬鹿な、と思うのかもしれない。何をそこまで急く必要がある、と言われるかもしれない。
だけどこれは、私にとって本当に必要な事だから。急がば回れというけれど、それはその通りだと思うけど、回るなら回るで全力疾走すると、私は建国に踏み切ったその時から決めているから。いつかの未来ではなく、現実味のある『今の先』に、皆に希望を持ってほしいから。
「創世への道、って…最早理想ではなく野望に聞こえますよ、イリゼさん」
「どう聞こえるかは大した問題じゃないよ、ピーシェ。私はそれに価値を、意義を感じている。だから遥か遠い可能性だとしても、この手の内に収めておきたい…私は心から、そう思っているんだから」
「イリゼさん、でも……」
「大丈夫、別に気負ってる訳じゃないから。…けど、もしも私が何とかする前に、取り返しが付かなくなりそうになったら、その時は全データを消去して。その結果どうなろうと、責任は神生オデッセフィアが…私が取るから」
「…どうなろうと…?…ネプギア、もし誰かが仮想空間の中にいる状態でデータ消去をしたら、どうなるんだ?中にいる人は、無事で済むのか?」
「それは…分かりません。もしかしたら、何事もなく済むかもしれませんが…意識を現実の身体に戻すのではなく、強制的に断ち切ってしまう以上、精神に何が起きてもおかしくないと思います。…最悪の場合、意識が戻らない事だって……」
真剣な表情を浮かべたカイト君の問いに、ネプギアは答える。その瞬間、皆の視線が一気に私へと向けられる。
一瞬、「ネプギア、それは…」と制止する事が頭に浮かんだ。…けど、それは不誠実だ。これから私が背負おうとする危険を、関わってきた皆に隠したままにしようとするのは、凄く不誠実な行為で…それは、ネプギアに対しても同じ事。もしそうなった時、データ消去を実行するのはネプギアなのに、ネプギアは私の事を案じてくれているのに、危険性を隠させるなんて、そんな事はしちゃいけない。
「…ほんと、こんな事になっちゃってごめんね皆。でも、私は別に、理想の為に自分を使い潰そうとか、そんな事は思ってないよ?あくまで最終手段について触れただけで…私は100%、何とかする気でいるんだから」
「いやでもイリゼさん、だとしても……」
「だとしても、危険は危険でしょ?…だから、わたしも付き合うわ。同じ神生オデッセフィアの女神として、イリゼの姉として、イリゼ一人に背負わせたりしない。っていうか、そんなのお姉ちゃんが了承しないわ」
「セイツ…けど万が一の事を思えば、セイツには戻ってもらわないと……」
「100%、何とかする気なのよね?なら良いじゃない。…それに…この仮想空間を、描ける可能性を広げていきたいのは、わたしも同じだもの。わたしも、イリゼも、イストワールも……わたし達家族、皆の望みでしょ?」
「…そう、だね…うん、分かった。頼りにしてるよ、セイツ」
このまま残るのは、私一人のつもりだった。何かあった時の為に、セイツには戻ってもらおうと思っていた。…でも、こう言われてしまったら…姉として、家族として言われちゃったら、私には断りようがない。それに一人と二人じゃ、やれる事の幅が大きく違う訳で……セイツがいてくれるなら、凄く心強い。
そんな思いでセイツに頷いた私は、改めてネプギアに呼び掛けようとし…それより一瞬早く、ネプテューヌに呼ばれる。
「じゃあさイリゼ、具体的にはどうする?固まって動く?それとも皆で手分けして探す?」
「どう、か…安全性を考えれば固まってた方が良いけど、時間に余裕がある訳じゃない以上、手分けした方が……って、え?皆で、って…ネプテューヌ、何を……?」
「何を?そんなの、自分も協力するって事に決まってるじゃん」
あっけらかんと、雑談位の調子で言い切るネプテューヌ。その様子に、私は思わず呆気に取られ…けどすぐに我に返る。返って、言葉を返す。
「いや、それは…そうはいかないよ、ネプテューヌ。気持ちはありがたいけど、ならお願いね、なんて言えない。女神として、皆を誘って、迎えた側として、皆にまで危険を冒させる事は……」
「そんな理由で、自分が引き下がると思う?友達が、信念を持って何かをしようとしている。危険を承知で、そこに飛び込もうとしている。それを知ってるのに、その友達が目の前にいるのに、何もせず自分は戻るなんて…そんなの自分には出来ないし、したくないよ。イリゼの友達の『ネプテューヌ』は、そんな事をすると思う?」
「それ、は……」
真っ直ぐ私を見て、真っ直ぐな瞳で、ネプテューヌは言う。迷いのないその言葉に、私は次の言葉を返せなくなる。
あぁ、そうだ。ネプテューヌはそういう女神だ。ここにいるネプテューヌは、信次元のネプテューヌとは違うけど…友達思いで、友達の為ならいつでも全身全霊になれる、本当に真っ直ぐな在り方はどっちも変わらないんだから。
それからネプテューヌは、にこっと笑う。だから、一緒に頑張ろ?というかのように、柔らかく無邪気に。……これも、私は返せない。これを突っ撥ねる術なんて、私の中からは出てこない。
「だな。ちゃっちゃと何とかしてやろーぜ、イリゼ」
「ぐ、グレイブ君まで…?」
「イリゼ、僕にも手伝わせて。…僕は前に、信次元でイリゼに凄く助けられたから…その時のお返しを、僕にさせて」
「愛月君……」
うん?当然俺も残るが?…とばかりな顔でグレイブ君は言い切り、愛月君もじっと私を見上げてくる。ネプテューヌに続いて、二人まで残ると宣言をして…そこからも、次々と私は呼び掛けられる。
「では、私も残らせてもらおう。この件に関して私は、巻き込まれただけ…とも言い切れないからね。自分の責任の尻拭いは、きちんとさせてもらうよ」
「私も残らせて。ネプギアも皆も、私の責任じゃないって言ってくれたけど…そうかもしれないけど、それでもただ戻るのは嫌だから。それに…イリゼが望む事なら、私も力になりたい。私の力なんて、ちょっぴりしかないけど…協力したいの。…駄目、かな…?」
「勿論私もきょーりょくするよ、ぜーちゃん。だって、ぜーちゃんにもしもの事があったら、私は凄く悲しいから。出来なかったじゃなくて、しなかった後悔はしたくないから。…だよね、えー君」
「いや、俺は……いいや、そうだな。ズェピアじゃないが、俺も全くの無関係という訳でもない。…何より、失うのはもう沢山だ。これ以上、手の届く筈だったものを取り零して堪るものか」
それぞれの思いで、皆は言ってくれる。自分も残ると、協力してくれると。…嬉しい、凄く嬉しい。心強いっていうのもそうだけど…そう思ってくれる事が、私を思ってくれる事が、何よりも嬉しくて…だからこそ、迷う。皆の思いで、私の心が揺らぐ。
「…ここまでの話は、イリスには難し過ぎた。でも…イリゼは今、頑張ろうとしている?なら、イリスも手伝う。助け合いは大事だって、イリスは教わった。だからイリス、友達のイリゼを助ける」
「イリスちゃんまで…でも、ほんとに良いの…?何が起こるか分からないって事は、何が起きてもおかしくないって事なんだよ…?」
「観念した方が良いですよ、イリゼさん。…と、いうか…もし逆の立場なら、イリゼさんだって迷わず協力するって言いますよね?断固として譲りませんよね?なら、皆の…わたし達の協力も受けないと、不公平じゃないですか?」
「んもう、ディーちゃんってばまたそういう遠回しな言い方をして…。でも、ディーちゃんの言う通りよ?立派な女神のおねーさんは、わたし達が協力するって言ったら、自分の筋を通す為に断ったりなんてしないわよね?」
「ま、そういう事ッスよ。ウチがここで素直に戻ると思ってるなら大間違いッス。それに全員で戻って、ここは全部消去してお終いっていうのも後味が悪いッスし、ここは一つ、力を合わせて大団円を目指そうじゃないッスか」
ある意味一番真っ直ぐな目でイリスちゃんからも言い切られる。ディールちゃんやエストちゃんからは、「私だったら」という話で断る道を塞がれ、アイからは力を合わせる道を示される。
「俺も同じだ。俺に出来る事があるなら、俺はそれをしたい。何が起きてもおかしくない…それはつまり、上手くいく可能性もきっとあるって事だろ?可能性があるなら、俺はそれに賭けるさ」
「私も協力させてもらうわ。…皆程、心に響きそうな事は言えないけど…それでも、今日まで一緒に色々な事をして、価値あるものも見せてもらった相手が危険を冒そうとしている時に、それを黙って見過ごす程私は薄情じゃないつもりだもの」
「そうですよ、イリゼさん。わたしは協力する気満々です。生半可な説得だったら即跳ね除けます。なら、それに時間を費やすより、協力を受けて解決への時間を確保する方が良いと思いませんか?」
「…らしいですよ?私としては、そもそもそんな危険は冒すな、自分を大事にしろと言いたいところですが…イリゼさんが頑固なのは分かってますからね。……イリゼさんの信念と、皆さんの思いに力を貸します。私も、女神ですから」
本当に…本当に、皆優しい。自分の安全よりも、私の事を思ってくれる。そして…最後に声を上げたのは、ワイト君だった。
「…自分も、助力させて頂きたいと思います。ただ…グレイブくんや愛月くん、イリスさんまで残る事には待ったをかけさせて下さい。彼等はまだ子供です。勿論、他は全員大人かと言われれば、全員が全員そうだと断言出来る訳ではないですが……」
「俺等は特に子供だから、か?おいおい、そりゃねーぜワイト。大人なら良くて子供なら駄目、ってのは不公平だろ。そういう法律だってならともかく…ってか、そこんとこ信次元じゃどうなんだよ?」
「仮に信次元…というか各国の法律において君達が大人だとしても、だよ。自分は成熟した大人だなんて微塵も思わないけど、君達がまだまだ成長途中なのは間違いない。そして成長途中の少年少女をみだりに危険に晒したりしないのが、大人の責務なんだ」
「…そういう事言える大人って、格好良いよな。けど、嫌だ。それによ、さっきネプギアが言ってたが、外から入る事はもう出来ないんだろ?なら、後もう一人いれば、後少し戦力があれば…そうなる可能性だってあるんだから、全員の安全を考えるなら、やっぱ俺等もいた方が良いとは思わねぇか?」
「確かにそうかもしれないね。けど、それは『かもしれない』だ。確定している『何が起こるか分からない』と『かもしれない』は、同じではないんだよ」
彼等までは巻き込めない。そう言うワイト君の気持ちは分かる。私は自分自身の来歴も、皆との出会い方も特殊だから、同じ意見ではないけど…ワイト君の主張は、何も間違っていない。でもグレイブ君の言っている事もまた、間違ってはいなくて…どちらも、引き下がらない。引き下がらないまま、お互い数秒黙って…でも次に上がったのは、そのどちらでもない声。
「…ですよね…分かります、ワイトさんの言う通りだと思います」
「へ?…愛月……?」
「すまないね、愛月くん。大人の責務云々も、所詮はエゴだ。それは理解している。ただそれでも、私は……」
「…だけどっ!僕は、嫌なんだ…困ってた僕を助けてくれた、帰れるように協力してくれた、イリゼの力になりたいんだ…!だから、お願いします…!僕達にも、協力…させて下さい…!」
「…愛月、君……」
だけど。その言葉でワイト君を遮った愛月君は、頭を下げる。ワイト君の言っている事を、その通りだと受け止めた上で、頭を下げて頼む。子供として、大人に願う。
それをじっと見ていたイリスちゃんも、隣に立って頭を下げた。グレイブ君も、軽く頭を掻いて、「…ここで俺が何もしなかったら、愛月の思いが台無しだもんな」と呟いた後、二人に続いた。三人が、ワイト君に頭を下げた。
再び、沈黙が訪れる。視線は自然と、ワイト君に集まる。そして注目を受ける…大人としての選択を求められたワイト君は、小さく息を吐いて……
「…君達が私の子なら、或いは私が教師ならば、それでも止めていただろう。だが、そうでない私が、ここまでされても尚拒絶するのは、大人と言えど分不相応…か。…三人共、頭を上げてほしい。私こそ、申し訳なかった。君達はまだ子供だが、子供の一言で全て片付けて良い訳ではない…それを私は忘れていたよ」
求められた三人が頭を上げると同時に、ワイト君が頭を下げる。それはきっと、謝罪と敬意。思いを受け入れ、その上で大人の在り方を…グレイブ君の言う、格好良い大人の姿を選んだ、ワイト君の答え。
「…まさか、こうも言われちゃうなんてね。…どうする?イリゼ。皆との付き合いは基本イリゼの方が長いんだから、ここはイリゼの思いを尊重するわ」
「そっ、か。なら……」
セイツに言われ、私は見回す。ゆっくり見回し、皆からの視線を受け、一人一人と目を合わせる。そうして私は女神化をし…言う。
「──前言を撤回させてもらう。ここには、私にとって失う訳にはいかないものが、絶対に消えてほしくない理由がある。だからこそ…私は君達に、皆に、頼みたい。どうか皆──私に、力を貸して!」
『(はい・うん・えぇ・おう)!』
力強い、気持ちの良い、皆の答え。私の思いに答えてくれる、皆の思い。それは強く、優しく、温かいもので……私は誓う。必ずバグを、異常を何とかし、皆で成功させると。こうして良かったと、皆が思える結果を掴むと。
「…分かりました。皆さんがそこまでの思いを胸に残るというなら、わたしも出来る限りのサポートをします。…頑張って、下さいね」
「ありがと、ネプギア。私達の決断を受け入れてくれたネプギアに、後悔なんてさせないからね。…よーし、それじゃあ皆!健康第一安全第一、死なない程度に行動開始だよ!」
「おー…って、なんか締まりの悪い掛け声ッスね…」
「まあでも、おねーさんらしくはあるんじゃない?」
「えぇ…?私に対するその評価はちょっと不服なんだけど……」
気分の昂った私は、取り敢えず思い付いた掛け声を口にしたものの、返ってきたのは何ともまあつれない反応。けど、それは良い。そんな事は、今は気にしない。
皆がいてくれるなら、凄く心強い。でも、上手くいく確証はない。リスクが軽減された訳でもない。…だけど、それはいつだってそう。だからこそ、いつものように、いつも通りに、私は皆を信じる。信じて……望む先へと至る為に、突き進む。
今回のパロディ解説
・「〜〜話の途中だがモンスターだ〜〜」
FGOにおける、各種イベントのパロディ。とはいえFGOに限らず、ソシャゲ全体における「あるある」のパロディというのが正確なところですね。昨今の、というより少し前の、ですが。
・「ワールドマップ中〜〜的なアレ〜〜」
原作シリーズの一つ、新次元ゲイム ネプテューヌVⅡにおけるシステムの一つの事。しかし別に、クエストではありませんね。ネプテューヌシリーズでクエストっていうと別の意味になりますし
・BORG
私の作品の一つ、双極の理創造にて登場する組織の一つの事。こっそり混ぜてみました。これに気付いた人は…いないかもしれませんが、いたら嬉しいです。
・「〜〜心に直接語り掛けている〜〜」
ネットやSNSにおけるスラングの一つのパロディ。しかしこの場面、全員仮想空間にいる(=意識体の様なもの)事を考えると、心に直接…もまるっきり間違いという訳ではないかもしれないです。
・「〜〜健康第一安全第一〜〜」
永久少年 Eternal Boysにおける掛け声の一つのパロディ。厳密には再放送という形になりますが、今期のアイドル系作品の中では、ある意味これが一番楽しんで見ているかもしれません。
・「〜〜死なない程度に行動開始だよ!」
魔法少女マジカルデストロイヤーズの主人公、オタクヒーローの台詞の一つのパロディ。前話のメガトン級ムサシのパロディネタの時も書きましたが、やはりCMで使われる台詞は記憶に残り易いですね。