超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第三十三話 打ち砕きしは重なる力

 一体どんな相手が出てくるのか。ボスというからには、きっと強いんだろうけど、どれ程の強さの相手が現れるのか。そう思っていたわたしにとって、マジェコンヌ…の、再現データらしきものがボスだったのは、後から思えば、納得の存在でもあった。確かにマジェコンヌは、わたしにとってボスの様なもの。打ち倒さなくちゃいけない相手だったんだから。

 けど、同時にわたしは気付くべきでもあった。普通に気付ける筈だった。あの時…前にエディンで倒した時は、人の姿じゃなかったんだから。という事はつまり…ここまでのマジェコンヌらしき影は、あの姿での力を、温存してるって事なんだから。

 

「……っ…この、プレッシャーは…」

 

 一度は倒れた、やられた影。それが復活するようにして現れた、巨体の存在。そこから感じるのは…これまでとは一回りも二回りも違う、プレッシャー。

 

「…こいつ、は……」

「そうか、カイト君は知らなかったね。これは恐らく、嘗て私達がある次元で戦った強大な……」

「…いや、知ってます…俺も前に、ワイトさん達と戦った事がありますから。違う部分も多いですが…あの狂った笑みみたいな顔は、間違いない…!」

「…もしかして、あの時のおばさんじゃないのー?」

 

 あの時はいなかった…イリゼさんがあの時より前に出会った人の一人であるカイトさんへ、ズェピアさんが説明をしようとし…けれどカイトさんは、知っていると返す。その返答に小首を傾げたピーシェ様は、ちらりと巨大化した影を見て、不思議そうな顔をする。

 言われてみれば確かに違う。さっきまでの姿と、特徴的な胴体で「あの時のマジェコンヌ」だとばかり思っていたけど…明らかに、あの時変身したマジェコンヌより手足が太いし、顔も緊張感のなかったあの時とはかけ離れている。…って、事は……

 

「…わたし達の知っている、あの時のマジェコンヌと、カイトさんが戦ったっていう存在が、混ざり合っている…?」

「かもしれないね。だが、思い込みは良くない。絶対そうだ、ではなくそうかもしれない、という程度に留める方が──」

 

 融合か合体か合成かは分からないけど、とにかく別々の存在だったものが、一つになっている。そう言ったわたしに、ズェピアさんが同意をした…次の瞬間だった。それまではカイトさんの言う通りの、狂ったような笑みを見せるだけだった影が、一瞬でズェピアさんに迫り、腕を叩き付けたのは。

 

『ズェピアさんッ!』

「…全員、気を引き締め給え。ここから先、決着がつくまで、一瞬たりとも油断していい時間はなさそうだ…!」

 

 砕ける床と、巻き上がる煙。一瞬の後、その煙の中から跳び上がる形でズェピアさんが現れて、ズェピアさんはマントの端を影へと突き出す。影はそれを、振り下ろしたのとは逆の腕で受け止め防ぐ。

 

「この速さ…スターは一度戻って!バックス、レックス、もう一戦お願い!」

「カイトさん、カイトさんが戦ったっていうやつの特徴は!?」

「今の通り、パワーもスピードも桁違いだ!逆にビッキィ達の知ってるやつは、どんな攻撃をしてくるんだ!?」

「主にナス!」

「……な、ナス…?」

 

 凌がれた次の瞬間には、宙を滑るように影から距離を取るズェピアさん。それと同じタイミングでわたし達は散開し、走る。

 知っている事があるなら、まずは情報共有をしておきたい。そう思ったわたしはカイトさんに訊き、返しの問いには端的に答える。わたしはカイトさんの答えに、確かにそうだと思い、わたしの答えを聞いたカイトさんは……ぽかんとしていた。…うん、まぁ…ごめんなさいカイトさん。今のは普通にわたしが悪かったです。でも実際、その通りなので…ミサイルっぽいナスを撃ってきたり、ナスモンスターをけしかけて来たりしたので…。

…と、思っていたらぽかんとしていたカイトさんを影が強襲。辛うじてカイトさんは大剣の腹で防御をするも、衝撃で大きく飛ばされる。ほ、ほんとに申し訳ない…!

 

「えーいやーっ!…む、む…わわッ!」

「……!ほんとに、スピードもパワーも凄い…!」

 

 追い討ちを影が掛ける前に、ピーシェ様が突進からの拳を打ち込む。振り向いた影も腕を振るい、ピーシェ様の鉤爪と影の鋭利な爪がぶつかり合って…ピーシェ様が、パワーもスピードも持ち味なピーシェ様が押し負ける。続くバックスとレックスの連続攻撃も躱されて、逆に弾き返される。

 ならば、とわたしは床を蹴って影に飛び蹴り。でもやっぱりと言うべきか、影には避けられて…即座にわたしは手裏剣を打った。避けられるだろうと思っていたから、予め手の内に忍ばせておいた手裏剣を、飛び蹴りの体勢のまま回避先へと放ち…当たった。当たったけど…まるで小石か何かの様に、弾かれてしまう。……っ…装甲が、厚い…!

 

「あれ…ねぇビッキィ、今の音…!」

「うん…どうやら、ボディはナスじゃないらしい…!」

 

 後方からの愛月の言葉に、素早く返す。影の様な外見のせいで初めは分からなかったけど、手裏剣が当たった瞬間に鳴ったのは、金属音。少なくとも、前の柔らかいナスボディではない様子。

 スピード、パワー、それにタフさ。走攻守揃った、それぞれが厄介なんてレベルじゃない影。それに、恐らく…この影が能力の殆どを残したまま融合しているのなら……。

 

(……!やっぱり来た…ッ!)

「ミサイル…!?…ぬぁっ、ナスの匂いが……!」

 

 まるでこっちの思考を読んだようなタイミングで、距離を取るわたし達へと放たれる多数の弾。追尾してくるそれをわたし達は躱し、撃ち落とし…けれど弾は爆ぜる度に、かなり強いナスの匂いを放出する。一つ二つならともかく、何発も爆ぜると匂いは相当なもので…わたし達はまだしも、初見のカイトさんはかなり衝撃を受けていた。

 これも影の様な外見のせいで分かり辛かったけど、ナス型ミサイル…いや、ミサイル風ナス…?…と、とにかくあのマジェコンヌの技で間違いない。そしてそうなると…中々倒し切れない要因だった、高い再生能力もあるかもしれない。速いせいでまず攻撃を当てるのも楽じゃないし、当たっても硬い…そこに加えて再生能力まであるんだとしたら、正直ちょっと強過ぎる。

 

「バックス、レックスのサポートに回って!レックスは無理に追わずに相手をよく見て!」

「よく見る…愛月君の言う通りだ諸君!如何に重い攻撃であろうと、当たらなければどうという事はない!回避行動を取ってくるという事は、全てではないにしろ、こちらの攻撃も全く通用しない訳ではない可能性が高い!」

「だから、まずは見切る事から…って訳ですか(それが出来れば苦労はしない、けど…勝つ為に苦労する、そんなの当然の事だ…!)」

 

 初めから楽に勝とうなんて思っていない。大変な目に遭いたくないなら、そもそも仮想空間に残ったりなんてしない。心の中で自分を鼓舞したわたしは、姿勢を低くし距離を詰め直す。別方向からはピーシェ様とズェピアさんも仕掛け、三方向から影へ仕掛ける。

 一番スピードのあるピーシェ様の、突進からの横薙ぎは横に跳ばれて躱される。床を踏み締め、強引に方向転換を掛けてそこへと走り込んだわたしの打撃は腕で防がれ、そのまま腕を振られて弾き返される。そんなわたしと入れ替わるように、防御からの弾き返しで足を止めた影に肉薄したズェピアさんは、至近距離から赤黒い旋風を放ち、旋風は影の巨体を叩く…も、よろけただけで次の瞬間には即反撃。振り上げられた脚に対し、ズェピアさんは回避を選ぶ。

 

「そこだッ!」

「バックス!」

 

 けれどまだ、わたし達の攻撃は続く。カイトさんによって側面から噴き上がるような火炎が襲い、影を包む炎に向けて、バックスが火炎球をボレーシュート。どうだ、これで焼きナスだ!…とでも言ってやりたいところだけど…切り裂かれるようにして振り払われた炎の中から、然程ダメージを負った様子もない影が出現。四散する炎に照らされた目…らしき場所は、爛々とした光を放っていて…次の瞬間、その光が揺れる。揺れたと思ったすぐ後、わたしの眼前にあったのは影の姿。

 

「ぐぅ……ッ!」

「……っ!フェザー、お願いっ!」

 

 咄嗟に、反射的に両腕を交差させた直後、両腕に衝撃が走る。振るわれた腕によってわたしの防御は崩され、追い討ちの打撃を諸に喰らう。痛いどころじゃない刺激が走って、尚且つわたしは跳ね飛ばされ、吹っ飛んだ先で背中から床に落ち……ると思った。けれどその直前、背中に柔らかい何かが触れて、少しだけわたしの吹っ飛ぶ速度は緩和された。僅かに姿勢も回復した。

 そのおかげで、辛うじてわたしは受け身を取る事に成功。受け身を取ったって、床に落ちれば痛い…けど、間違いなくダメージの軽減は出来た。わたしは何かに助けられた。

 

「間に合って良かったぁ…ビッキィ、大丈夫?」

「大丈夫じゃないけど、助かった…ありがとう、えっと…」

「フェザーだよ。モクローってポケモンのフェザー」

「ふろぉーぅ!」

 

 起き上がり、わたしはまず愛月へ、それからわたしの背を押さえてくれた、丸っこい梟の様なポケモンを見る。名前を聞いてから改めて感謝を伝えて、それからすぐに深呼吸。痛みはあるけど、身体は動く。なら、戦闘に支障はない。

 

「ふー…よし!」

「あ、待ってビッキィ!」

「うわっ…とと。…愛月、何?」

 

 力を込め直し、床を蹴って影へ…向かおうとした寸前に呼び止められて、転びかける。…まぁ、転ばなかったからそれは良いけど…戦況は良くない。わたしはまだ手を打ち尽くした訳じゃないし、皆もそうだろうとはいえ、有利不利で言えば今は不利。だからこそ、すぐ戻ろうとした訳で…でもそんな事を思いながら振り向いたわたしの目を、真っ直ぐと見て愛月は言う。

 

「僕、思うんだ。ピーシェは勿論だけど、皆も凄いパワーがある。でも、それじゃ足りないんじゃないか…って」

「…かも、ね。速い、硬い、おまけにまだ分からないけど、再生能力もあるかもしれない訳だし」

「うん。で、そういう時は、弱点を突くのが基本だと思うけど、あれの弱点が何なのか分からないし…だったら攻撃を重ねるしかない、と思うんだけど…どうかな?」

「攻撃を重ねる、か…」

 

 早く戻る必要はあるけど、この話も同じように重要。わたしはそう判断し、考える。考え、答える。

 

「…わたしもそう思う。けど、重ねるのも一筋縄じゃいかないんじゃない?相手は速いし、攻撃も苛烈なんだから」

「だよね。だから、誰かと誰かじゃなくて、皆で協力して…えっと、何で言えば良いかな…最初から最後までを、一つの連携にっていうか……」

「…全員で流れを作る、みたいな?」

「そう、それ!」

 

 単発の連携を何度もするんじゃなく、連携前提で戦闘を展開していく。それが愛月の言いたかった事の様で…理解はした。このまま戦うよりも、見切った先の戦いとしてそうしていく方が、ずっと可能性もあると素直に感じた。だから、わたしは愛月に頷き…今度こそ、床を蹴る。勢いを付け、最前線へ。

 

「ピーシェ様!ズェピアさん!カイトさん!戦いながらちょっと打ち合わせをする余裕は!?」

「打ち合わせ?…成る程、何か思い付いた訳か…!」

「余裕がある、とは言えないが…必要なら、やってみせる…!」

「よくわかんないけど、ぴぃはできるよー!」

「うーん、なんという不安の残る返答か…カイト君、炎の壁で目眩しを!」

 

 声を掛けると同時に、腰の辺りへ向けて回し蹴り。やはり影の身体は硬く、当たったのにまるでダメージを与えられた気がしない。

 とはいえ、今回の攻撃はダメージを与える事なんて二の次で、皆に愛月とのやり取りを伝える事の方が優先。だから碌に入らないと分かった時点でわたしは後ろに跳び、ちゃんと伝わったのかは分からないけどピーシェ様も下がってくれて…そこでズェピアさんの声が上がる。それを受けたカイトさんが、覇気の籠った声と共に大剣を振り抜いて…その大剣から放たれる形で、巨大な炎の壁が形成される。

 

「おー!こんなすっごい炎をすぐ出せるなんて、かいとすごい!」

「範囲を重視したから、見た目程厚くはないけどな」

「あつくないの?じゃあ、ひんやり炎?」

「いやそれは『あつい』違い…って、もう突破しやがった…!」

「いいや、もう十分だよ」

 

 一息吐く間もなく、炎の壁を突破してくる影。さっきも炎に包まれた状態からその炎を四散させた事を思えば、そうあり得ない事でもなくて…けれど影が炎を突っ切ってきた次の瞬間、四足歩行の肉食獣や、猛禽類を連想する複数種類の動物…の様な、黒塗りの存在が影へと襲い掛かる。それが、どういう存在なのかは分からないけど…これがズェピアさんの仕込みである事、これの準備の為に目眩しを頼んだ事、それは考えるまでもなく分かった。

 

「これで少しは時間が稼げる。具体的にはどういう事か教えてくれるかな?」

「えぇ。愛月と話したのですが……」

 

 ゆっくりしている時間はない、とすぐにわたしは三人へ伝える。ピーシェ様も一旦人の姿になってくれたおかげで、話した内容自体はぱぱっと共有する事が出来た。

 むしろ問題は、どう動くか。一つの大きな連携を作るとなれば、一言二言で打ち合わせを終える事なんか出来ない訳で…頭をフル回転させて話し合う中、一体、また一体と、黒塗りの獣がやられていく。

 

「あわわ…これでもいけそうな気がするけど、どうかな…?」

「いや、念の為もう一手欲しいところ。だが、そこまでの時間はないようだね。仕方ない、ここは……」

「…いえ、その一手は決めておいて下さい。自分で言うのもアレですが…一手位なら、本能と直感で何となく合わせられます…!」

 

 仕方ない。そこから言葉を伝えようとしたズェピアさんを遮る形で、ピーシェ様が言う。最後は即興で合わせるから、と言い切り背を向け…再び女神化。ぐっ、と身を屈めて、床を蹴って、翼を広げて影へと突っ込んでいく。

 

「流石だな、ピーシェは。…よし」

「…カイトさん?」

「俺も行く。二人がかりなら、もう少し時間を稼げるだろうし…先に、少しだけ試しておきたいんだ。あの時にはまだ無かった力が…今の俺が、どれだけ通用するのかを…!」

 

 言うが早いか、カイトさんもまた影へと走っていく。どういう人で、どういう時どんな行動をするのか色々と知っているピーシェ様と違って、カイトさんの即断即決はわたしにとって「え?」案件で…けれどもう、行ってしまったのなら仕方ない。

 

「ふっ、ほっ、とりゃぁッ!」

「──そこだッ!」

 

 ピーシェ様の数度の打撃を影は防御し、突き上げる最後の一撃は後ろへ跳ぶ事で開始。そこへ踏み込んだのがカイトさんで、影の間合いに入った瞬間、影は鋭く腕を突き出してきた。予兆もなく、予想なんて殆どしようのない、いきなり腕が現れたような一撃がカイトさんに迫り……けれどそれを、カイトさんは躱す。

 それも、ただ躱した訳じゃない。ギリギリで、紙一重で…最小限も最小限、一切の無駄のない軌道で動いてすぐ側を貫く腕を躱していた。更にその直後、カイトさんは身体を捻るように回し、回転の最中で大剣から炎を噴かし、その炎で加速をかけて…回転斬りを、影の巨体へと叩き込んだ。影は一瞬蹌踉めき、すぐに立て直し、次の打撃で防御体勢を取ったカイトさんを弾き飛ばす……けど、確かに今、初めて今、巨体となった影に有効打が入った。…完全に、見切っていた。それも、恐らくは予想の部分なんてない…どこにどう攻撃が来るのかを、完璧に読み切った回避とそこからの反撃で…でなければ、あんな動きは出来ない。紙一重の回避…そこにはそれだけのものがある。

 

「…凄いな……」

「うん、凄い…二人が時間を稼いでくれてるんだもん、僕達もしっかり決めないと…!」

 

 初めて入った有効打。その意味の大きさを思いながら、わたしは二人と最後の詰めを話し合う。気付けば黒塗りの獣はもういなくて、ピーシェ様とカイトさんが持ち堪えてくれている中で、だからこそ安易に切り上げる事なく最後まで決め…そして、頷き合う。

 

「あぐ……ッ!」

「おっと。…立てるかい?」

「大丈夫、です。それより、話は……」

「ばっちりですよ。ピーシェ様と、カイトさんのおかげで…ね」

 

 飛ばされてきたカイトさんをズェピアさんが風の魔術で受け止め、膝を突いたカイトさんは気合いを入れ直すように立ち上がる。

 そんなカイトさんに向け、わたしは手の甲を見せる形でサムズアップ。ばっちりだ、と口角を上げる。

 

「さて、諸君。ここからはそれぞれの動くタイミングも重要になる。上手くいけばいく程、狂った時の立て直しは難しくなるだろう。だが、そう気負う事もない。リアルタイムでの脚本更新も、私が──」

「よーっし!みんな、がんばろー!」

「あぁ、ズェピアさんが何となく悲しそうな顔を……」

「はは…まあ、ともかく…逆襲開始だ…!」

 

 気遣う愛月の言葉に苦笑した後、わたし達は全員で影に向き直る。何を考えているのか、影も一度攻撃を止め、その歪んだ笑みのような顔でこちらを見ていて…気に食わない。マジェコンヌ関係なしに、あの顔は腹立たしい。

 でも、考えようによっては、むしろ好都合かもしれない。腹立たしい位の方がいいかもしれない。何せ…これからもう一度、影を叩きのめすんだから。

 

 

 

 

 ミスティック・ドライブがこの影に対しても通用するかどうか。それを確かめる為に、俺は一足先に戦闘に戻った。連携する上で、ミスティック・ドライブを武器に出来るかどうかを確かめておきたかった事が理由の半分で…もう半分は、純粋な興味。純粋に、試してみたいという思い。

 そして、ミスティック・ドライブは…今の俺の力は通用した。俺一人で勝てる気はしないが、十分武器になると把握出来た。

 怖いとは、思わない。前は七人でギリギリ倒せた相手が、別の強敵と融合していて、しかも今は五人で戦わなきゃいけない…そんな状況でも、恐れはなかった。それは完全再現された訳じゃないからかもしれないし、俺があの時とは違うからかもしれない。ただ一つ、言えるのは……何であろうと俺は、皆と力を合わせ、全力を尽くすのみだって事。あの時も今も…それは、変わらない。

 

「さあ、次だ。ビッキィ君、風を踏んで走れるかな?」

「ふっ…えぇ、造作もありません」

 

 返答すると共に、ビッキィは影へと突撃を掛ける。そのビッキィに向けて、ミサイルの様なナス?…が次々と放たれ…次の瞬間、ビッキィの後方から吹き抜ける突風が、迫るナスを全て逸らし、或いは撃ち落とす。ただ当然、それだけの風が吹けば、ビッキィ自身も影響を受ける訳で……けどビッキィは体勢を崩す事なく、一気に影へ距離を詰める。自身の周りを吹く、竜巻の様な魔術を追い風にして、肉薄と共に右の拳を叩き込む。

 

「はんげきはッ!」

「させないよッ!」

 

 深く食い込むビッキィの拳。ここまでの戦闘で影が全身硬い訳じゃなく、柔らかい部位もあるという事は分かっていて…ビッキィが拳を叩き込んだのは、そんな部位。

 今のはダメージが入ったように見える…が、間髪入れずに影は腕を振るってくる。勢いのままに殴ったからこそ、ビッキィはすぐには下がれず…だが右の腕は、急降下で割って入ったピーシェが阻む。ならばと続けて振るわれた左腕も、唸りと共に飛び込んだレックスが受け止める。一撃浴びた直後の、その場での攻撃なら、一人や一匹でも防ぐ事は可能だって事で…次は、俺の番。

 

「燃えろ…ッ!」

 

 真正面から俺が突っ込み、ビッキィ達は入れ替わる形で離脱。俺が振るった大剣は腕で受け止められるが、そこからの反撃が来るより先に、俺は大剣を燃え上がらせる。斬撃で圧力を掛けながら、同時に炎を燃え移らせる。

 その炎ごと振り払うような、影の振り抜き。一瞬、耐えられるかもしれないとも思ったが、すぐに俺は力を抜き、そのまま吹っ飛ばされる。かもしれない、であって確証はなかったし…何より連携の終点は、まだここじゃない。

 

「レックス、バックスに向けてドラゴンテール!バックス、ブレイズキック!」

「ぴぃも、どーんッ!」

「おまけだ、これも受け取れ…ッ!」

 

 相手の力で後退する俺と更に入れ替わる形で、バックスが頭から飛び込む。レックスの吹っ飛ばす技を推進力にしたバックスの、ブレイズキック膝蹴りバージョンが影の顔面を強かに打ち、爆ぜるように炎が上がる。

 直後にバックスは頭を踏むように蹴って背後へ跳び、燃える顔面に向けてピーシェが鉤爪を突き立てる。ビッキィの放った手裏剣が、影の目に刺さる。顔への三連攻撃は流石に影も耐え切れなかったらしく、大きくその姿勢を崩し…そこへ向けて、炎弾を撃ち込む。このチャンスを逃さない為に、全員で集中砲火を影へ浴びせる。

 

「更に畳み掛ける…!カイト君、ビッキィ君、炎を!」

『はいッ!』

 

 影を捕えるような竜巻へ向けて、俺は振り上げた大剣から火炎放射を、ビッキィは火遁による火球を放つ。触れた炎は風に乗り、火災旋風の様な炎の渦を作り上げる。あれの内側がどうなっているかは…あまり想像したくない。

 

「…炎の渦、ってそんなに威力が高いイメージはないんだけど…こうやってみると、やっぱり凄いね……」

「これで黒焦げになってくれればありがたいんですが…」

「流石にこれで終わり、とはならないだろうね。しかし出来る限りこれで削るとしよう。そう簡単に破らせはしな──」

 

 そう簡単にはいかないだろう、とビッキィに返しつつも、ズェピアさんは竜巻の勢いを上げる。感じる風は強くなり、轟音が響き……

 

「…■…■■…■■■■■■ーーッ!!」

『……っ!?』

 

 それを掻き消すような、飲み込むような、形容し難い雄叫び。それが炎の渦の中から聞こえ…次の瞬間、竜巻が切り裂かれる。それも『斬る』ではなく『砕く』ように、力強く、荒々しく。

 

「…やぶらせたりはしない?」

「……すまない…だらしない吸血鬼で本当にすまない…」

「そんな事言ってる場合じゃないですよ二人共…!」

 

 ギロリ、と俺達を睨め付ける、影の目。直後、影はナスミサイルを乱射しながら突っ込んでくる。無茶苦茶な撃ち方で、爆風が自分にも来るような放ち方で…だがそんな事はお構いなしに、殴ってくる。

 突進とミサイルを、散開して躱す。着地と同時に炎を放つ。まずは素早く放射して、続けて構え直しながら接近を……

 

「■■■■ーーッ!」

(く……ッ!更に、速く…ッ!)

 

──しようとしたらその時には、影は俺に向けて突っ込んできていた。咄嗟に振るった大剣と影の横薙ぎは激突し、だが勢いの乗っていなかった俺は軽く弾かれ、背中から床に倒れる。転倒した俺のすぐ側、倒れていなければ腰の辺りだったのだろう場所をミサイルが駆け抜け、そのまま壁に当たって爆発する。

 不幸中の幸い…ってだけじゃない。更に速く、更に重くなった影の攻撃だが……今の攻撃からは、まるで知性を感じない。

 

「おわっ!バックス!ピーシェ!」

「あぅ!…あ、でもふわふわ…」

「これは、不味いな…こうなるとむしろ、読み辛い……!」

 

 俺へ追い討ちを掛ける事なく、別方向から肉薄をかけたバックスを影が跳ね飛ばす。飛ばされたバックスはピーシェに当たり、ピーシェは尻餅を吐く形で落下。割り込んだズェピアさんの足元に暗闇が広がり、そこから鋭利な杭が幾つも伸びる…が、影はそれを悉く砕く。最後の一本は蹴り上げで折られ、そのままズェピアさんも蹴り飛ばされる。

 やたらめったらに、次から次へと攻撃してくる影。さっきまでは、見えていた…直感的に読む事が出来ていた動きが、今は分からない。読み切れない。けど、それでも…!

 

「これまでとは違う動きをしてきた…それは、そうする必要があるから…そうしたくなったからだ…ッ!」

 

 大剣の斬っ先を後ろに向け、走る。全速力になった瞬間に点火し、噴き出す炎を速度に変えて影へと突っ込む。間合いに入る前に影は振り向くが、俺の動きに気付かれるが、そのまま俺は突っ込み斬り上げる。

 炎の勢いを乗せた斬撃と、手を開き、爪をこちらに付けて振るう影の腕が激突。読み切れないが、全く何も分からない訳じゃない。だから分かる範囲の事を、感じられた範囲のものを信じ、振り抜き…今度は互いに弾かれる。すぐに俺は次の攻撃に移ろうとし、だが影の方が早く、逆の腕で先手を取られる。それを何とか躱し…切れず背中を浅く裂かれるが、走る痛みは無視して身体を捻り、二撃目を撃ち込む。三撃、四撃と続け…自分の中で、何かを感じる。

 

(…なんだ?速いけど、ただ速いだけじゃない…ただ速度が上がったのとは、違う何かが……)

 

 一発毎に感じる、何かが違うという感覚。出来る事なら突き止めたい。突き止めたいが、五撃目で俺は完全に押し負け、思い切り仰け反る形になり…なのに、影は無防備な俺へ拳や蹴りを打ち込んでこない。その前に振り向き、斜め上から飛び蹴りを仕掛けてきたピーシェの攻撃を阻む。影は腕を振って弾き、弾かれたピーシェはそれを利用し軽やかにムーンサルトし、着地と同時に床を蹴って…頭突き。ぶつかったのは硬い部分なのか、鈍い音がそこから響く。

 

「いったーいっ!むー、ぴぃおこったもんねー!」

「いやそれは……(うん…?)」

 

 子供っぽい悲鳴を上げ、頭を押さえたピーシェは、そこから怒りを露わに反撃…じゃ、ないな…今のは自分の頭突きのダメージだし…もとい、連撃開始。背後に回り込み、振り向きざまに鉤爪を振るい、連続攻撃を叩き込む。対する影も防御と破壊力ある腕の振り抜きで迎え撃ち、ピーシェであっても少しずつパワー負け始め……そんな中で、レックスが背後から飛び掛かった。

 それは、完全な不意打ち。だがそれに反応し、振り返り、逆にレックスの両腕を掴む影。それに俺は驚いた。その反応速度もそうだが…それは、普通ならあり得ない選択だったから。確かにレックスの不意打ちを潰していたが…同時にピーシェへ丸腰の背中を向けていた訳だから。そして当然、ピーシェの床を踏み締めた一撃が影の背中を打ち……俺は気付く。感じていた『何か』、その意味を理解する。

 

「そうか…そういう事か…ッ!」

 

 後ろへ大きく跳びながら、俺は大剣から左手を離し、力を込める。掌を影に向け、一発炎の弾を放つ。ピーシェの一撃で姿勢が崩れていた影は、レックスの拘束を解き、当然の様に腕の振りで炎弾を叩き落とし…唸りを上げたレックスの牙が、影の胸元を正面から裂く。

 

「やっぱりな…こいつは物理的に速くなったんじゃねぇ、反応速度が…対応が早くなっただけだッ!」

「対応?…確かに言われてみればそうだね。それに先程から、防御はしても回避は一切しなくなった…頭にでも血が昇ったか」

「だとすればまだ、付け入る隙はある…いいやむしろ、可能性はこれまでよりも開けている…ッ!」

 

 漸く分かった。直感か、本能か…とにかくそういう、思考より速い能力で影は反応しているから、即座にこっちの攻撃に気付いて動くから、速くなったように見えただけだと。そしてズェピアさんの言う通り、頭に血が昇るかなにかして、本能のままに戦っているからこそ、本当に反応速度は凄まじいが…状況や状態を考えた動きは、逆になくなっている。

 ならばそれを突くまでと、ビッキィが突進。走りながら、俺に視線を送ってきて…意図を感じ取った俺も走る。まずはビッキィが回し蹴りを放ち、続けて俺が大剣を突き出す。

 

「そこだぁッ!」

 

 回し蹴りは、防がれ、刺突は大剣自体を殴られ俺は真横に投げ出される。だがビッキィの本命はこの次で、近距離からの水遁が直撃。水流を浴びせつつビッキィは噴出の勢いで下がり、次の攻撃の…ズェピアさんによる電撃の為に道を差し出す。濡れているにも関わらず、影は防御を選択し…結果電撃が影の全身を迸る。

 最初は全員影が速くなったと思って、恐らく無意識に慎重になっていたからこそ、攻撃の手が甘くなり、影に自由に動かれた。連続攻撃が停滞してしまっていた。けど、そうじゃないってなら、もっと仕掛けられる。幾らタネが割れたって、一人じゃ反応速度という力を超えられはしないが……連携の力なら、超えられる。

 

「手数が必要なら…フェザー、葉っぱカッター!ドッペル、シャドーボール!」

「ピーシェ様!」

「いっくよー!」

 

 待機していたフェザーと、新たに出てきたドッペルによる、遠隔同時攻撃。鋭利な無数の葉っぱと、闇を凝縮したような球体が影へと迫り、影はそれをナスミサイルで迎え撃つ。

 その間に、ビッキィは突っ走り、ピーシェは駆け抜ける。接近する二人に視線が移った瞬間、俺は一発炎弾を放ち、僅かに注意をこちらに向けて…注意の逸れた一瞬で、二人は肉薄からの打撃を打ち込む。まだ両腕がフリーだった影は、それぞれの打撃を掌で受け止め…その瞬間にバックスが蹴り込む。続けてレックスがタックルを浴びせ、三撃目は炎弾の後すぐに駆け出していた俺の横薙ぎ。三連攻撃の全てを影に叩き込み…俺は言い放つ。

 

「次だッ!ここは俺に、任せろッ!」

 

 直後に影から離れる全員。唯一離れず、そのまま全力で大剣を食い込ませていく俺。全員離れた事で、仕掛けているのが俺一人になった事で、影の狙いも俺に定まり、上から叩き付けるようにして拳を振るわれる。

 拳を、迫る攻撃を、俺は見る。一番安全なのは即避ける事、速く対応する事なのは分かってる。分かってる上で俺は見て、見据えて……見切る…ッ!

 

(もっと、もっとだ…引き出せ、俺の力を…俺の中にある、力の全てを…ッ!)

 

 意識を、神経を、心を研ぎ澄ます。イメージの中の自分の力、全力の底へと手を伸ばして、そこを掴んで、引っ張り上げる。底という蓋を引っ剥がして、更にその奥へも手を届かせる。

 そうして見えた、感じ取ったものに従い、俺は大剣から手を離して左斜め前へと身体を倒す。再び紙一重で避け、足を大きく踏み出し、倒れる直前から一気に身体を跳ね起こす。右手に炎を燃え上がらせ、その勢いのまま影の脇腹へと捻りを加えて叩き込む。振り払う為の腕の横薙ぎはバックステップで躱し、足払いは跳躍して避け…真下を刈る蹴りを、足裏で蹴る。蹴ってまた、懐へ飛び込む。

 

「くッ…らい、やがれッ!」

 

 高速で動く足場を踏んで跳ぶ。そんな事をすればバランスが崩れるのは当然の事で、危うく俺は自分の顔を自分の大剣で斬りかけた。俺が女神だったら、こんな事なくばっちり飛べていたんだろうが…俺は女神じゃないんだから、仕方ない。出来ない事より、出来る事をする。俺は俺の、戦いをするのみ。

 刃に頭を打ち付ける寸前で、右手で柄を掴む。右腕だけで倒れそうになる勢いを耐えて、力を込めて…食い込んだままの刀身に炎を灯す。一気に火力を上げ、影を身体の内側から焼く。

 

「すごいね、かいと!それじゃあ次は、ぴぃだよッ!」

「あい、よ…ッ!」

 

 さっきの渦でも倒せなかったんだから、外と中の違いはあっても、俺一人の火力で倒すのは厳しい。それは分かっていたし…俺一人で倒す必要もなければ、そんなつもりもない。

 炎を出したまま大剣を引き抜き、後転からの跳躍で離れる。まだ身体の各部から火の噴き出す、黒煙の上がる影の真正面に降り立ち、右の拳をボディに打ち込む。そこからピーシェは影との殴り合いに入り…改めて気付く。ピーシェの身体能力…超至近距離での打撃戦においての、飛び抜けた強さに。

 

(こっちも動きにまるで淀みがねぇ…イリゼやセイツとは違うタイプだが…ピーシェだって、凄い……!)

 

 破壊力とリーチは影の方が上。小回りと近接攻撃の多彩さはピーシェの方が上。そして反応速度は…ほぼ同じ、かもしれない。

 だがそのピーシェも、さっきまでは押し負けていた。今も互角って訳じゃないが、さっきまでよりやり合えている。それは何故か。それはピーシェが戦いの中で強くなったからか、或いは……

 

「…漸く、向こうの底が見え始めたか…もう一踏ん張りだ諸君!この舞台のクライマックスを、鮮やかに飾ろうではないか!」

「再生能力…はほんと分からないな、とことん見え辛い身体をして…!」

「そういう時の対処を、グレイブ風に言うなら…『回復される?だったら回復出来ねぇ位のダメージを与えれば良いだけだ!』…って感じかな…!」

 

 ズェピアさんからの、勝負を決めようという号令。続くビッキィの言葉通り、至近距離でも再生能力があるかどうかは分からない。腕辺りを吹っ飛ばしでもしないと、判別は付かないのかもしれない。…が、更に愛月の言う通り…押し切ってしまえばいいだけの事。

 丁度愛月が言い切ったタイミングで、突き出されたピーシェの鉤爪と、影の拳がぶつかり合う。一瞬のせめぎ合いを経て、両者共に弾かれ…ビッキィが、走る。

 

「まずはわたしが、切り込……」

「あっ、びっきぃおして!」

「へ?…えぇい!」

 

 突っ込もうとしたビッキィへいきなり掛けられる、ピーシェからのお願い。押して、という意図のよく分からない頼みに対し、ビッキィは困惑の声を出した後、すれ違いざまにピーシェを押す。勢いに乗った状態での押し出しは、半ば掌底の様になっていて…その分押し出されたピーシェは速かった。即座にビッキィを抜き去って、影に迫って…突き出される殴打の一撃を、超低空飛行で躱す。高度を下げ、腕の下を潜り抜け、今一度ボディーブローを胴体に叩き込む。

 

「よーい、しょーっ!」

「今度は、こっちだッ!」

「カイト君!」

「分かってます!」

 

 一発打って、すぐさまピーシェは蹴りで横薙ぎ。影に掴まれ、投げられ、ナスミサイルの斉射を掛けられるも、さっきのお返しとばかりにフェザーの葉っぱカッターが全て迎撃。された時を同じくして、ビッキィが近接攻撃を仕掛け、防がれ、反撃を何とか躱し…俺の炎とズェピアさんの魔術、別方向からの二段陽動で影を二度振り向かせ…生まれた隙を、ビッキィが突く。影の膝を踏み台に跳び上がり、顔面に拳と、続けざまに火遁を浴びせかける。

 

「君の番だよ、レックス!怒りをぶつけろ…逆鱗ッ!」

 

 反撃されるより前に退いたビッキィと入れ替わるように、レックスが影の前に立つ。そこまでは力強く走ってきていたレックスが、陰の目の前で一瞬止まり…次の瞬間、オーラを纏うようにレックスの身体がオレンジに輝く。その光が全身を包むと共に、レックスは咆哮を上げ…乱打。ピーシェの軽やかで回避も的確に織り交ぜていたものとは違う、本当にノーガードな殴り合いをレックスが影と繰り広げ……最後はレックスの体力、というか逆鱗の方が切れたのか、蹴り飛ばされる。飛ばされるが、レックス自身もかなりダメージを負っているが、その分影の方にも相当なダメージを与えられている…レックスの怒涛の連打からは、そう感じられるものがあった。

 そしてここまでも、これも、連携の一部。やってきた事の全てが、最後の瞬間…勝利の瞬間へ到達する為の、一歩一歩。

 

『たぁああああぁぁぁぁッ!』

 

 左右に回り込んだピーシェとビッキィの、タイミングを合わせた裏拳。防御される事前提のそれは、防がれた瞬間に二人が全力で身体を捻り、回転させ、腕を弾く。左右から、両腕を弾く事で、巨大な影の姿勢を崩す。

 

「これで終わらせる…ッ!愛月!」

「うんッ!バックス!ジャンプしてブレイズキック!そして、その力を全部込めて…最大火力で、火炎ボールッ!」

 

 二人が全体重を掛け、弾くと同時に姿勢を崩す程の勢いで大きな隙を作ってくれている間、俺は大剣を振り被っていた。持ち上げ、集中していた。意識を、炎を、残った力の全てを大剣に込めて。

 そうして俺の大剣から燃え上がる、炎の柱。宙を焼き、天井を溶かし、その先の空へと昇り続ける全力の炎。だが俺は、まだ振らない。更に強く、更に激しく燃え上がらせながら…待つ。

 俺の炎が周囲の空間を揺らめかせる中で、跳び上がったのは同じく力を溜めていたバックス。跳び上がるバックスの脚は赤く輝き、赤光は脚全体から下肢に集まっていき、一層の輝きを放って…収束した光の全てを解き放つように、バックスはオーバーヘッド火炎ボール。ブレイズキックの炎エネルギーを上乗せした火炎ボールはこれまで以上に燃え盛り、唸りを上げて飛来する。飛来するが…それは影に対してじゃない。飛来するのは…俺の、正面。

 

「熱いセンタリングだぜ、バックス…この炎、この一撃…必ず、届かせるッ!」

「いっけぇぇッ!キョクダイ……」

「豪ッ!炎ッ!球ッ!!」

 

 ミスティック・ドライブで研ぎ澄まされた、俺の感覚。その感覚、内側からの声が叫んだ瞬間、俺は振り抜く。大剣を、炎を、真っ直ぐに振り抜き…火炎ボールに叩き付ける。

 迸る衝撃波。舞い散る火花。俺の炎が火炎ボールを飲み込み、一瞬火炎ボールは姿を消し…次の瞬間、俺の炎は内側へ向けて渦巻く。激しく回り、次第に吸い込まれていき…代わりに姿を現したのは、俺が炎を注ぎ込んだ火炎ボール。全力全開の炎を纏った火炎ボールは巨大化…いいや極大化し、触れてすらいない床を焦がしながら影へ向けて突き進む。

 極大の炎が迫る中で、影は体勢を立て直していた。離れるピーシェとビッキィには目もくれず、炎を睨み、真正面から受け止めようという姿勢を見せる。だが、俺達からすれば巨大な影も……極大の炎を受け止めるには、あまりにも小さ過ぎた。

 

「■■■■■■■■■■ーーーーッ!!」

 

 一瞬の拮抗すら許さず、影を覆い尽くす炎。絶え間なく続く爆発の様に、周囲に火の帯を撒き散らしながら、炎は影を焼き続ける。響き渡る絶叫も、炎の轟音の前では霞んでしまう。

 今燃え上がっているのは、俺やバックスの制御からは離れた力。俺達自身にも、止める方法はないし、水か何かで鎮火させるのも、簡単じゃない。軽く消えるような、チャチな炎なんかじゃない。消える事があるとすれば、それは内側にあるものの全てを焼き尽くしたその時で……

 

「……っ!?…嘘…まだ、動けるっていうの…!?」

 

……だが、影はまだ終わっていなかった。間違いなく焼けている、燃えている…それでも、絶叫を上げながらも、炎の中から出ようとしていた。燃え尽きる前に、炎の中から脱しようとしていた。

 さっきの炎の渦と違って、拘束能力はない。そもそも極大の炎の中で動ける時点で無茶苦茶だが…動けるというなら、脱する事も不可能じゃない。

 

(……っ…だったら、もう一度…ッ!)

 

 全力を注いだ直後で脱力気味だった身体で力み、支えにしていた大剣を床から引き抜く。今すぐさっきと同じ火力をもう一度…なんて事は、出来やしない。けど、黙って影の脱出を許すつもりも、微塵もない。

 掬い上げるように、掻き集めるようにして、俺はもう一発炎を放とうとする。一秒でも、一瞬でも長く焼く為に、もう一手放とうとする。…そんな中で上がる、一つの声。

 

「…いいや、既にフィナーレだ。この炎により影は討たれ、演目は終わりを迎えた。故に、これ以上戦いが続く事はない。──幕引きだ、灯りを落とし給えッ!」

 

 強く、それでいて落ち着き払った声が響く。その声と共に、床が赤黒く染まる。水面に広がる波紋の様に、あっという間に床は埋め尽くされ…影の周囲に、薄暗い色をした木が生まれる。芽が生えてくるんじゃなく、埋まっていたものが出てくるかのように、次々と木が生まれ…薄暗い森が、影を隠す。

 そして、俺の横を通り過ぎたのは、ドッペル。小さなぬいぐるみの様な、可愛らしい…けどよくよく見れば不気味さを感じるポケモンが、ちょこまかとした動きで森に入り……次の瞬間、音が消える。それまで聞こえていた炎の轟音が、見えていた赤い光と共に認識出来なくなって…代わりに聞こえてきたのは、何かが砕ける音。くぐもった、何が起きているのか分からない音だけが森の中から聞こえ……それも暫くすると、聞こえなくなる。静寂が森を、大広間を包む。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 何が何なのか分からない出来事に、俺もピーシェもビッキィも言葉を失う。分かっているんだろう、ズェピアさんと愛月の方を見れば、ズェピアさんは自然な様子で佇んでいて、愛月は大仕事を終えた後の様な顔をしていた。

 数秒後、今度は波が引いていくように、床を覆っていた赤黒い色が消えていく。それの使う先は森で…赤黒い色が森に到達すると、森も周りから消えていく。溶けるように、散るように、薄暗い森がなくなっていき……完全に消えた時、その中心にいたのは、ドッペルだけだった。いた筈の、まだ動いていた筈の影は、倒れるどころか…その姿すら、消失していた。

 

「…えー、っと…たおせた、の…?」

「そういう事になるね。いやはや、強大な敵だった。君達がいてくれて本当に良かったよ」

「…今のは、ドッペル…とズェピアさんの連携技、なのか…?」

「そうだよ。いつもは…っていうか、元々の技は、やった後相手が吹っ飛んでいくんだけど…まぁいっか。ドッペル、お疲れ様。皆もよく頑張ったね」

「ミミ〜♪」

 

 これにて一件落着、良かった良かった、とばかりの雰囲気を出す二人だが、俺やピーシェ、ビッキィからすれば困惑が止まらない。というか、最終的に消えていた事含め、正直ホラー感が凄い。…元々空間が歪んで現れた存在だって事を思えば、単にやられた事で今度こそ消えて、それが森で見えなかっただけなのかもしれないが…なんというか、微妙に釈然としない。

 

(…まあ、でもいいか。何にせよ倒せた事には変わりないんだしな)

「…ふぅ。一先ず勝利、ですね。…一応訊くけど、本当にあれ、普通の技なの…?」

「普通っていうか、必殺技…かな。名前は、うーんと…ぽかぼかフレンド…タタリZ?」

「…愛月君。因みに最後のZというのは……」

「Z技をズェピアさんとの連携でやったからだよ?」

「……うん、まぁ…良しとしよう」

「連携といえば、カイトさんとバックスの方も凄かったですね。やってる事は単純ですが、だからこそ凄まじかったというか…」

「だろ?けど、ビッキィとピーシェの連携も凄かったぜ?息ぴったりだったしさ」

 

 何はともあれ、俺達は勝った。かなり消耗したし、ダメージもあるが、強力な敵を倒す事が出来た。だから今はそれを喜び、讃え合う。

 皆の連携は本当に凄かったし、俺も我ながら良い連携が出来た。…にしても、名前か…サッカーっぽいし炎だし上から来たボールを放ってるし、結構ツインなブースト感もあるが…やっぱり俺とバックスの連携技の名前は、あのままにしておこう。

 

「…うん、やはり今度こそ倒せたようだね。後は他の三組も、上手くやれているといいのだが……」

「大丈夫でしょう。多少の差はあるかもしれませんが、どの組も十分な戦力ではあるんですから」

「むしろ案外、俺達が一番最後かもしれないな」

 

 念の為暫く周囲を確認していたが、もう何も起こらない。倒せたと確信した事で俺達は警戒を解き、ピーシェの言葉に、俺は軽く肩を竦める。実際のところ、最後かどうかは分からないが…不安はない。皆だって強いんだ、そう簡単に負ける訳がない。

 そうして進むべく、俺達は歩き出す。奥の扉に向けて歩みを進め…そこでふと思い出したように、ビッキィが呟く。

 

「…そういえば…どうしてあんな存在が出てきたんでしょうね。どちらもイリゼさんは知っている訳ですし、あり得ないとまでは言いませんが……」

「…推測だけど、あの存在は他の三組も含めた私達の記憶を読み取る形で作り出されたんじゃないかな」

『記憶から…?』

「あぁ。現に、愛月君もグレイブ君もポケモンを連れている訳だけど、信次元側にポケモンの知識は殆どない筈だろう?仮に情報を得ていたとしても、愛月君やグレイブ君と、二人の手持ちとの関係性までは知り得ている訳がない。我々の術や能力もそうで、そう考えると元々データとして入力されていた訳ではなく、接続している私達の記憶から再現している、と考えるのが自然だと思うよ」

 

 尤も、ただ再現しているのではなく、複数人の記憶を擦り合わせたり、この仮想空間に合うよう調整したりはしてるかもしれないけどね。そう言って、ズェピアさんは締め括った。本当にそうなのかどうかは分からない。だが、ズェピアさんの推測に説得力があるのは事実で…だから俺は思った。そんなもんかもしれないな、と。

 

「…この後も、っていうか全員がそれぞれの塔を攻略した後は、バグの大元と戦うんだよね…?」

「そうだよ。…もしかして、怖い?」

「こ、怖くはないよ?怖くはないけど…まだ戦いがあるなら、ちゃんと気は引き締めておかなきゃな、って…」

「勝って兜の緒を締めよ、だね。よい心掛けだよ」

「確かに愛月の言う通りだね。けど、分からないからこそ気を付けるべきだし…分からない内から恐れてちゃ、勝てもしないってわたしは思う」

「同感だ。確かにもっと強い相手なのかもしれないが…その時は、こっちも全員で戦うんだ。今の大体四倍…いや、きっとそれ以上の力で戦えるって思えば、怖くなんてないさ」

 

 連携の力は凄いんだからな、と俺が笑いかければ、愛月もそうだねと頷き…それからまた、「だから怖がってはいないんだって!」と顔を赤くして抗議する。その子供らしい反応に、俺達はまた笑う。

 この先に存在する相手、バグの発生源の事を思えば、今倒したのは中ボスってところ。あんなに強くても中ボス…そう考えれば恐れも抱くかもしれないが、俺はそうは思わない。確かに中ボス的な存在ではあるが…俺達は倒した、勝ったんだ。勝ったから、次に進める。勝ったから、解決へ一歩近付いた。そう思えば、何も悲観する事はない。ましてや今はあの時と、くろめ達が作り出した空間の時と同じように、あの時以上に多くの仲間が共にいる。だったら…負ける気なんて、これっぽっちもしないってものだ。…そうだろ?皆。




今回のパロディ解説

・装甲が、厚い…!
ガンダムビルドファイターズシリーズに登場する主人公の一人、イオリ・セイと登場人物のユウキ・タツヤの台詞の一つのパロディ。バトローグにて、お互いのガンプラに向けて発した言葉ですね。

・「〜〜風を踏んで走れるかな?」「ふっ…えぇ、造作もありません」
Fateシリーズに登場するキャラの一人(二人)、アルトリア・ペンドラゴンとディルムッド・オディナの台詞の一つのパロディ。台詞というか、Zeroにおける戦闘中の掛け合いです。

・「……すまない〜〜本当にすまない…」
NARUTOシリーズとFateシリーズ、それぞれに登場するキャラの一人、はたけカカシとジークフリードの台詞の一つのパロディ。二人の台詞を組み合わせてみた形のパロディです。

・ツインなブースト
イナズマイレブンシリーズに登場する必殺技の一つ、ツインブーストの事。もう一人加えてトリプルブーストにしたり、バックスが回転しながら蹴ってツインブーストFにしても良かった…かもしれません。
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