超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第三十五話 勝利の先の解放

 初めはイリゼ様たっての頼みという事と、多少の興味から始めた、シミュレーターでの神生オデッセフィア国防軍機操縦。その時点では、良い経験が出来たとしか思っていなかったが…まさか、こうも操縦を重ねていた事が…それなりに動かせるようになっていた事が、功を奏するとは思ってもみなかった。まさか…データ上とはいえ、それを実戦運用する事になるとは。

 

「とにかくまずは再生能力のレベルを調べたい。ワイト、手伝ってくれ…!」

「分かった。ネプテューヌ様、茜さん、そのまま撹乱をお願いします…!」

 

 ロングビームライフルのバレルを外し、ビームマシンガンモードでフルオート射撃。脚部、左右腰部、それにバックパックのスラスターを用いて機体を滑るように旋回させつつ、ビームカノンも同時に放つ。マシンガンで面の、カノンで点の攻撃を仕掛け、異形のモンスター擬きへ粒子ビームを浴びせていく。

 別方向からは、遠隔操作端末が縦横無尽に飛翔し砲撃。羽を模したような計八機の端末は、モンスター擬きの顔や腕、脚や尻尾…膨らんだ胴らしき場所から伸びる各部位を精密な動きで以って撃ち抜く。

 モンスター擬きは脆い。カノンは勿論、マシンガンでも大体の部位は体表を抜ける。…だが、それがダメージになっているような印象はない。まるで海に向けて攻撃をしているかのように、すぐさま元通りになってしまうというのは…どうにも焦燥感を抱いてしまう。

 

『せー、のッ!』

 

 針や触手による攻撃を掻い潜り、胴に二筋の大きな斬撃痕を作る大太刀と大剣。腕による、振り払うような反撃を躱してネプテューヌ様と茜さんは距離を取り、すぐさま次の攻撃に移る。

 それに合わせ、ビームカノンを一発。斬撃により裂けた部位が再生し切る前に高出力の一撃を喰い込ませ…しかしやはり再生される。

 

「イリス達が楽にしてあげる。だから、もう少し我慢、して」

「そうだね、早く楽にしてあげなきゃ…ね……!」

 

 思いを馳せるような言葉と共に、イリスさんが大槌…の様に変化させた腕を振るう。同調した茜さんは、紅い斬撃を遠距離から放つ。

 私には、この異形のモンスター擬きが怪物にしか見えない。生命として明らかにおかしい何かだとしか思えない。だが、茜さんには苦しみが見えるという。イリスさんには痛みが聞こえるという。…戦場において、そんなものが見えてしまえば、聞こえてしまえば、戦う事など出来なくなる。普通で、まともであればこそ、戦えなくなる。それでも尚戦う、戦える二人は、戦えるだけの背景があるという事なのか、或いは信念か。

 

(…それにしても…駄目だな、死角らしい死角がない……)

 

 回り込んでの砲撃をかけようとした、実際に回り込んだ瞬間に放たれた、散弾の様な針。それ自体はシールドで防いだものの、攻撃のタイミングを潰され、更にモンスター擬きが突進してきた事で回避を余儀なくされる。避けつつ射撃を行いはしたが、ただ当ててもすぐに再生されるだけ。

 素早く飛び回るネプテューヌ様と茜さんが撹乱をしてくれてはいるものの、効果は薄い。その理由は単純で…モンスター擬きの顔は、複数ある。単に複数あるのではなく、他の部位共々、適当に取って付けたかのように、バラバラの位置へ配置されている。その結果、一つ二つの顔は引き付けられても、別の顔は別の対象を見ている。更に言えば、このごちゃ混ぜ具合からして一般的なものとは違う感覚器官を有している可能性も十分にある。そしてその部位を潰そうにも、再生能力がそれを許さない。

 歪な見た目に反して、性質や能力の噛み合ったモンスター擬き。厄介極まりないが…それを嘆いても仕方ない。そういう相手として、戦い倒すしかない。

 

「やはり、ただ攻撃を重ねるだけでは無駄に消耗するだけか…」

「そのようだね。だがまだ、結論を出すには早いというもの…!」

「確かにな…!」

 

 暫し戦闘を続けたところで、影くんは端末を引き戻す。そこへ触手が次々と伸びるが、影くんは大きく後方宙返りを掛ける事で躱し、尚且つ上下逆の状態で銃剣を連射し触手を蹴散らす。

 そのタイミングで私も機体のスラスターを吹かし、大跳躍。モンスター擬きの上を取り、バックパック左側のユニット…そこから自推式高初速重徹甲榴弾を一発撃ち込む。放った徹甲榴弾はモンスター擬きの背に深く刺さり…炸裂。モンスターの胴体を斬り裂き、深く大きな穴を開ける。

 

「ネプテューヌ様!影くん!」

「了解よ!」

「そういう事か…!」

 

 直上を通り過ぎる前に機銃を数発放ち、外部用スピーカーで二人を呼ぶ。私の意図を察してくれたネプテューヌ様は巨大な剣…エクスブレイドを穴が塞がる前に落とし、広がった大きな傷口へ影くんが再射出した遠隔操作端末で一斉掃射。

 連撃により、更に広がる背中の穴。だが、更に私達は攻撃を重ねる。まだ、終わりではない。

 

「このまま私はこちらから捌きにかかります…!」

「なら私はこっちからかなッ!」

「同じくこちらから斬り裂くわッ!」

「イリスも、やってみる」

 

 マシンガンをビームサーベルに持ち替え、再びスラスターを吹かして突き立てる。逆側からはネプテューヌ様と茜さんがそれぞれの得物で急降下からの斬撃をかけ、更に別方向からは近付いたイリスさんが、両腕を大太刀と大剣に変化させて、それを持ち上げるようにして下から斬り裂く。

 穴から、或いは穴へと繋がる向きで、三方向からモンスター擬きの胴体を捌く。その間、影くんが複数の頭部を集中的に銃撃する事で、モンスター擬きからの反撃を潰してくれる。

 

(このまま、完全に切断する事が出来れば…!)

 

 幾ら再生能力が凄まじいモンスター擬きでも、完全に両断してしまえば、真っ二つにしてしまえば再生出来ないのではないか。仮に真っ二つになっても尚再生出来るとしても、それならそれで情報に、撃破の為に必要な攻撃能力の指標にはなる。とにかくまずは斬り裂き両断する、そして確かめる。…そう、思ってはいたが……

 

「……!不味い、離れろッ!」

『……っ!』

 

 裁き切る前に始まってしまう再生。高熱量のビームで断面を焼いても再生能力に変化は無く、両断にまでは至れない。

 更に、妨害していた影くんの発する、鋭い声。反射的に機体を下がらせた次の瞬間、モンスター擬きは唸りを上げながら回転する。身体が歪むような勢いで、自分自身の負荷を顧みないような強引な回転で各部位を振るい…そこから暴れ回る。予測の出来ない、不規則そのものな動きで私達の接近を封殺する。

 

「…う……」

「イリスちゃん、だいじょーぶ?どこか怪我したの?」

「転んだ…けど、大丈夫。…あの子達の方がもっと痛そう…あの子、あの子達……」

「イリスさん…?」

「…名前……」

 

 モンスター擬きは今、周囲を無差別に、やたらめったらと攻撃し暴れている。ならばと私達は一度集まり、私はマエリルハを片膝立ちにさせてシールドを構える。四人には機体の後方に集まってもらう。

 そこでイリスさんの発した、「名前」という単語。その言葉から感じられるのは、きちんとした呼び方を決めたい…という思い。

 であれば、モンスター擬きなどという仮称は勿論、怪物なんていう呼び方などは以ての外。しかし名前を付けるにしても、様々な要素が混ざっているが為に、特徴から決めるというのも難しい。…が…それならば、逆に……。

 

「…オムニバス、でどうかな?きちんと考えた名前ではないけど、ね」

「オムニバス…それで良い。何となく、格好良い…気がする」

「そうね、悪くない響きだと思うわ。…で、だけど…ここまで試してみて、どう?」

 

 調子を整えるように軽く肩を揺らしたネプテューヌ様からの問い。それは影くんに向けての言葉で…問われた彼は、一つ頷く。

 

「さっきも言ったが、ただ攻撃を続けても先にこっちがガス欠になるだろう。向こうも再生する度に体力なり何なりを消耗している可能性はあるが、そこに期待するのは希望的観測というものだ」

「再生速度が速過ぎるものね…やっぱりあの巨体を丸ごと飲み込むような一撃を叩き込むしかないのかしら」

「それで倒せるから良いが、正直ここまでの事を思うと、そういう攻撃をしても尚再生する可能性は否めない。普通はあり得ないが、モンスター擬き…もとい、オムニバスは普通の範疇じゃないからな。それに…そもそもあの巨体を飲み込めるような攻撃が出来るか?」

 

 実現可能か、という問いに肯定はない。茜さんイリスさんは首を横に振っていて、私も機体の武装的に不可能であるのはほぼ確実。ネプテューヌ様は考え込んでいるようだが…考え込んでいる時点で、少なくとも容易に出来る方法はないという事なのだろう。

 

「と、すれば…力技で無理矢理倒すんじゃなく、倒せる手段を用いて倒すしかない」

「…影、それはどういう意味?」

「弱点を突く、再生能力のからくりを暴く、再生出来ない類いの攻撃を仕掛ける…色々あるが、力技じゃなく頭や技術を使って倒すという事だ。…あー…虫歯を治す時も、昔は歯を引き抜くしかなかったが、今は虫歯だけを削る事が出来るし、そこから穴を埋める方法も色々とある…っていうのと似たようなもの、かな」

 

 ピンときていない様子のイリスさんへ、影くんは説明をする。一旦言ってから、虫歯に例えて説明し直す。

 その説明には、頷けるところがあった。というより、力技は余裕で出来る範囲なら単純で良いが、そうでないなら決して賢明な策ではない。他に策があるのなら、そちらを進めた方が確実というもの。…その、他の策があるのなら。

 

「…影くん。その見解には同意だが…具体的な方法は思い付いているのかい?」

「残念ながら、全く。というか、軍人のワイトなら分かると思うが、そもそも事前情報ほぼ無しの行き当たりばったり戦闘という時点で問題が……」

 

 肩を竦めながら、否定を示す影くん。しかし、そこから先の言葉は続かない。ここまでは落ち着いて話が出来ていたが…次の瞬間、ふと思い出したようにオムニバスの頭の一つがこちらを見やり、鼻をひくつかせるように揺れた直後、こちらを狙った、明確な意図のある攻撃が再開された。

 猛烈な勢いの突進を、スラスター全開で迎え撃つようにして受け止める。激突の直後、超至近距離から機銃の連射を浴びせかけるが、結果は一瞬穴が空いただけ。更に機体が押され始め、各関節に負担が掛かる。

 

(出来る事なら一時撤退して仕切り直したいところだが…どうせ無理なのだろう、な…ッ!)

 

 左右に分かれた四人が反撃を仕掛けてくれたおかげで、オムニバスの勢いが削られる。その隙に離脱し、距離を空けながらカノンとマシンガンで同時攻撃。それと共に各種センサーをフル稼働させ、少しでも何か情報を得られないか目を走らせる。

 勝敗は始まる前に決まっている…なんて言葉がある通り、情報と準備は勝敗に大きく影響する。だが、徹頭徹尾想定通りに進む戦闘なんていうものはそうそうないし、どんなに悪い状況であろうと、戦いになってしまったのなら切り抜ける他ない。少なくとも、今それを嘆いたとしても何の意味もない。

 

「ふ…ッ!…ちっ、これも駄目か…!」

「今思ったけど、天井を壊して瓦礫で押し潰すっていうのはどうかしら…ッ!」

「我々も巻き込まれる可能性がありますし、これだけの巨体となると、上手く完全に押し潰せるだけの破壊を出来るかどうかも分かりません。成功する可能性もあるとは思いますが、最終手段として捉えた方が良いかと…ッ!」

 

 投げ放たれた影くんの銃剣は、刺さった後少しの間はその位置に留まっていたが、次第に押し出され、オムニバスの身体から落ちる。それは恐らく、何かを身体に挟む事で再生を阻めるかどうかのテストで…生憎それも望めないらしい。

 ネプテューヌ様の提案には、今はまだその時じゃないと私が答える。それもそうね、とネプテューヌ様は軽く頷き、刺突するように迫った触手を左手で掴む。それからネプテューヌ様は触手を引っ張ったが、千切れるのみで何にもならない。千切れた方の触手は消え、代わりの触手がすぐに生える。

 

「……あ。今のでイリス、思い付いた。食べれば再生しない、かも?」

『食べる!?』

「そう。試しにイリス、あの柔らかそうな部分を……」

「た、食べちゃ駄目よ!?なんでそんな、防御力に極振りしてそうな発想を……」

「すーちゃんの発想には驚かされるね…ある意味これ位柔軟な考えの方が、突破口に繋がるの、かも…!」

 

 情報を得る為、攻撃を続ける。思い付いた事は、とにかく試してみる。幸い士気は落ちていない。それぞれが考えながら動く事が出来ている。故にまだ、最悪の状況などではない。

 

「ふ…ッ!はぁああぁぁ!」

 

 シールドを構え、撃ち込まれる針を弾きながら突進。近距離まで突っ込み、迎撃が針から脚の振り出しになった瞬間マシンガンとシールド裏に懸架していたバレルを接続しつつシールドバッシュ。掻い潜った先で近距離からまずは一発放ち、そのまま迫り…一射目で空けた穴に砲身を押し込む。トリガーを引き、体内へ直接ビームをぶち込む。最大出力での射撃を一発、二発と放ち…これ以上は危険だと感じた事で、ライフルを引き抜きながら離脱。これならばどうだ、と下がりながら射撃で空けた穴を見やる…が、これでも再生してしまうだけ。

 

「…茜。今思ったが、オムニバスに核の様なものは見えるか?」

「そこを壊せば倒せるよーな場所があるかって事?…そういうのはない、かなぁ…さっきも言ったけど、バラバラのまま一つになってるようなものだから…」

「…一つ、試したい事があるわ。少し力を溜めるから、その間任せてもいいかしら?」

 

 了解、と返すように頷いた影くんと茜さんは、左右に展開。影くんが射撃を行い、オムニバスの巨体がそちらに向いた瞬間茜さんが鋭く斬り込み、勢いそのままでの刺突からの斬り上げをかける。直後茜さんに反撃が向かえば、茜さんは避けずに壁状にした粒子で受け止め、茜さんの防御を迂回するように触手が伸び…た次の瞬間、今度は影くんが斬り込んだ。恐らく触手を操る部位に対してすれ違いざまの斬撃を浴びせ、駆け抜けた直後に反転からの発砲を仕掛け、更に影くんの攻撃で余裕の出来た茜さんは、大剣の斬っ先から深紅の光芒を放つ。床を踏み締め、薙ぎ払う。

 それぞれが卓越した技術を持つ、夫婦の連携。言わずとも分かる、伝わるを突きつめたような連携は、淀みなく続き…オムニバスの再生の前では、どれだけ質の高い連携をしても撃破には繋がらない。繋がらないが…注意を引く行動としては、十分だった。

 

「これだけ溜められれば…いけるわッ!」

 

 駄目押しとして、私もビームカノンとグレネードを同時発射。後方で力を溜めていたネプテューヌ様の方を向いた顔の一つを撃ち抜き、その付近の腕を抉り…次の瞬間、機体のすぐ側をネプテューヌ様が駆け抜ける。

 その手に持つ大太刀の刀身に揺らめくのは、莫大な熱量を持つ炎。防御するでも斬り払うでもなく、ネプテューヌ様は機敏且つ繊細な高速機動で迎撃を全て避けながら突っ込んでいく。それを影くんと茜さんが遠隔攻撃で援護し、私はスラスターを思い切り吹かす事で視覚的にも聴覚的にも意図的に目立って気を逸らし、最後の迎撃である鉤爪の一振りは、いつの間にか接近していたイリスさんが槌に変化させた手で付け根を殴る事で軌道を変え…ガラ空きとなった胴を、炎を纏った大太刀が斬り裂く。

 

「フレイムブレイドッ!」

 

 鋭く素早く大太刀が振り抜かれた直後、斬撃の跡が爆ぜるように燃え上がる。炎は迸り、一気に全体へ燃え移る。

 巨体を炎が包むまでの速度からして、通常の火炎ではない。魔法か、シェアエナジーによるものなのか、油が撒かれていたのかと思う程の速度でオムニバスは火だるまとなり……絶叫が、響き渡る。

 

『……っ…!』

「イリスさん、失礼するよ」

「茜も一度目を逸らせ。その間の観測は俺がする」

 

 肩を震わせる、茜さんとイリスさん。即座に私は期待を走らせ、左腕のマニピュレーターで慎重にイリスさんを掴んで後退。影くんも茜さんの前に立ち、大太刀を構えたままのネプテューヌ様と共に、三人で燃えるオムニバスを見る。

 炎により継続的に燃えている巨体。普通に考えば、この状態では再生などしようもない筈。周囲に水もなければ炎を振り解ける程の超速度も出せないであろうオムニバスは、このまま燃え尽きる他ない筈。期待混じりの評価ではあるが…この認識は、間違っていない筈。そう、私は思っていた。…だが……

 

「■■■■■■ーッ!■■■■■■■■■■ーーッ!!」

『な……ッ!?』

 

 何度も、何度も続く絶叫。苦しみが見えない、聞こえない自分ですら、痛みを感じてしまいそうな叫びが轟き……オムニバスは、膨張する。その身を包んだ炎、それを逆に飲み込むように、押し潰すように身体が広がり炎を消し去っていく。

 

「…幾ら何でも、これは予想外過ぎるわ…この調子だと、逆に凍らせても棘か針みたいになって攻撃に繋げてきたりしそうね…」

「ネタ発言をしてる場合か、と言いたいところだが…これだと何をしてきてももう不思議じゃないな…マジでどうしたものか……」

 

 二人の口から漏れる、焦燥の声。ネプテューヌ様も影くんもまだ心が折れてはいないようで、現状から改めて思考を巡らせているようだが…これでもまだ駄目なのか、という感情は伝わってくる。そして…それは、自分も同じ事。なまじ上手くいきそうな手段だったが為に、上手くいくんじゃないかと思っていたが為に…ショックが、大きい。

 

(…考えてみれば、そもそもこれはバグを相手にしているようなもの…ならば何か倒す方法がある筈、という考え自体が希望的観測だという事なのか…?)

 

 嫌な汗が頬を伝う。ここまでの…いや、この仮想空間に留まった理由や前提をひっくり返すような発想が脳裏をよぎり、不味いな…とそんな思考を振り解く。この思考に発展性はない。今は、無意味な思考に時間を割けるような状況ではないのだから。

 

「…ネプテューヌ様。先程は最終手段と言いましたが、炎さえ通用しないというのなら、押し潰す他ないかもしれません」

「同感よ。正直、それですら倒せるか怪しいところだけど…試してみるしかないわ」

 

 自身を焼く炎を飲み込むように鎮火しながら、オムニバスは宙をのたうち回る。炎の状態からして、完全に消えるまでは後十秒もないだろう。そうして消えた時、膨張した身体は元に戻るのか、そのままなのか…何れにせよ、次の手を打つしかない。

 最後の手段であった押し潰しを今挙げた理由は二つ。一つは、本当にそれ位しか可能性がないような相手である為で…もう一つは、一か八かでもすぐに動く必要がある為。今はまだ焦燥でも、次の策が…目的がないまま戦闘が続けば、士気が落ちてしまうのは明白。幸いにも、天井の破壊に使えるような武装はある。上手くオムニバスを誘導し、全身を完全に潰せる位置と規模で天井を崩落させれば……

 

「……?…オムニバス、声…少し、変わった…?」

「変わった…?」

 

 そんな時、不意に降ろしていたイリスさんが声を発する。それも、気になる声を、言葉を。

 

「うん、違う。…でも、どうして…?オムニバスの声、バラバラで分からない…」

「それは私にも…。…いや、待った…茜さん、オムニバスに何か変化は?これまでとは違う何かがあったりは?」

「え?…あれ、そういえば……よく見たら、ところどころ再生速度が遅い…?」

「遅い…?これまで通り再生しているようでいて、炎は何かしらの影響を及ぼしたという事か…?それとも膨張による弊害か?いや、それ以前に今になって急に再生速度が遅くなった、という考え方自体が早計の可能性も……」

「考えているところ悪いけど、向こうの再生が終わったみたいよッ!」

 

 増大した体格のまま、またこちらへと襲いかかってくるオムニバス。思考に耽りかけていた影くんはネプテューヌ様の言葉に反応して避け、そこへ私が側面から仕掛ける。どうせ再生されるだろうが、と思いながらビームカノンを一発撃ち…案の定再生される。増えた部分も、再生能力は変わらないらしい。

 だが…茜さんの認識が間違っていないのなら、全身全面全てが同じだけの再生能力を有している、という訳ではないという事になる。少なくとも、今は違うという事になる。

 

「じっくり考えたいところだが…今は案ずるより産むが易し、か…!茜、その再生が遅い場所を斬れ!援護する!」

「だったら自分が攻撃を重ねるわ!」

 

 左右腰部のスラスターを前に向け、オムニバスと正対しつつ蛇行するような機動で下がる。機銃を撃ち込みオムニバスを引き付け、その隙に茜さん達に動いてもらう。

 自分を追い掛けるオムニバスの背後から、茜さんが強襲。飛び乗らんばかりの勢いで突っ込み、大剣を突き立て、そのまま斬り裂いていく。同じ位置へ、茜さんに追随したネプテューヌ様も大太刀を刺し、再生が始まった傷口を開くようにして再度捌く。

 

「ここが、こうで…こうして、こうッ!」

「無茶苦茶な太刀筋ね…!単純な防御力は大した事なくて助かった、わ…ッ!」

 

 途中何度か妙な方向転換をしながらも斬り裂いていく大剣と、その後に続く大太刀。斬撃はオムニバスが無理矢理振り払おうと回転を始めた事で一瞬止まる…が、自分がそこへ突進を掛け、機体で直接ぶつかる事で逆に強引に止めさせる。影くんとイリスさんが、腕と触手の抵抗を阻む。

 気迫の籠った斬撃が、自分には見えない何かをなぞるように進んでいく。迷いなく、淀みなく、続く大太刀と共に大剣は進み続け…最後の一画を書いたかのように、オムニバスの身体から外へと振り抜かれる。茜さんが離脱すると同時に、同じ位置まで斬り裂いたネプテューヌ様の大太刀も引き抜かれる。大剣には赤い粒子が、大太刀には薄い青の光が刀身を延長するように収束していて……二人が宙で分かれて視線を落とす中、二人の刃が走った斬り口から、煙の様な靄が一瞬上がる。そして次の瞬間…オムニバスの巨体、その一部が落ちる。

 

「…再生、しない…という事は……」

「やったわ…漸く見えたわよ、皆!この戦いに勝つ…勝負を終わらせる、筋道が!」

 

 切断された断面(といっても内側もやはりよく見えないが)が、再生する気配はない。斬り落とされた部位も、再生する事なく霧散していく。ここにきて、ここまできて…遂に、明確な損害がオムニバスに表れる。

 呟いた私に続いて、ネプテューヌ様が声を上げる。まだ斬り落とせたのは一部分だけ。それでもこれが、大きな前進である事は、間違いない。

 

「恐らくだが、再生が遅かったのは各生物又はモンスターの接続面だ!複雑で不規則な繋げ方をしているせいで、これまでの攻撃では偶然上手い具合に接続面を断ち切る事が出来た、って状況にはならなかったんだろうな…!」

「混ざり合う箇所故に単独の部位より再生の難度が高く、速度に影響が出ていた、といったところか…何にせよ、タネは分かったんだ。後は……」

「接続してる場所をせーかくに斬っていけばいい訳だね!」

 

 一度散開し、その上で言葉を交わす。唯一接続面を見る事の出来る、茜さんの存在を主軸に据えた形で戦術を組み立てる。

 接続面以外を斬っても無駄になる。接続面を正確に断つのもかなりの緻密さを必要とする作業で、実際私には出来ない。相手が止まっているならともかく、動くとなると機体のサイズ的にも性能的にも無理があり過ぎる。だがそれならば、援護と支援に徹するまで。チームプレイ、集団行動というのは役割分担してこそその価値が発揮されるものであり、そして個々の技術と連携の徹底を行えば、突破口の見えた今は勝つ事も決して不可能では……

 

(…うん?これは…上方にエネルギー反応…!?)

 

 機体のセンサーがモニターへと表示を表す。それまではなかった反応の理由を確認するべく、視線を上げる。そして自分が見たのは……次々と影の様な靄が集まり実体化していく、多数のモンスター擬き。

 

「ネプテューヌ様!イリスさん!上です!」

「上?…ぁ…いつの間に…?」

「あれって、さっき斬り落とした部位が霧散した時の…というか、また上から来たわね…!」

 

 ネプテューヌ様は飛んで、イリスさんは走ってその場から離れた直後、天井すれすれの位置からモンスター擬きが降ってくる。即座に自分はマシンガンで蹴散らす…が、残った個体は一切の恐れなく、オムニバスと共に突っ込んでくる。

 

「げっ、もしかして斬り落とす度にこうやって出てくるの?一難去ってもう一難とは、正にこのこ…うん?あ、別に難が去った訳じゃないから、一難にまだ対処してる最中なのにもう一難…?」

「それじゃ長いし泣きっ面蹴ったり、辺りでいいんじゃないかしら?それよりも、さっさと片付けちゃいましょ!倒す度に出てくるのは厄介だけど、そういうものだって心構えが出来ていれば……」

 

 まともに受ける訳にはいかないオムニバスのタックルをすれ違うように躱し、そのまま推力を上げてモンスター擬きを撥ね飛ばす。一旦全員で、オムニバスを警戒しつつモンスター擬きの殲滅にかかる。

 ここに来てのモンスター擬きは厄介というもの。とはいえオムニバスと違い、モンスター擬きは普通に倒せる。動きも単純で、高い知性が生み出す複雑さもなければ、本能を前面に出した鋭さがあったりもしない。手間と難度は確かに上がっているが…何をしても無意味に終わっていたこれまでと比べれば、まだ今の方が遥かにいい。

…そう、自分は思っていた。一体ずつならわざわざ撃つまでもない、と突進でそのまま倒しながら、私は次の部位切断の事へ思考を移していた。だがそこで、影くんは言う。こちらにとって不利な…あまりにも不都合な気付きを、静かに示す。

 

「…いいや、残念ながらそんな単純な話じゃないらしい。出来る事なら、俺の見間違いであってほしいが…な」

 

 銃剣で上を指し示しながらの、気掛かりな言葉。その意味を知るべく、もう一度私は視線を上げ…すぐに、理解した。理解し…一瞬で、自分の中の楽観的思考が吹き飛んだ。

 見上げた視線の先にあったのは、暗い色の、煙の様な靄。つい先程、モンスター擬きを発生させた存在。それを私は、切断された部位がモンスター擬きとして再構成されたのだと思っていたが…違う。モンスター擬きを発生させた後も、その靄は残っている。ゆっくりとだが、再び何かを…モンスター擬きを生み出そうとしている。

 それが意味する事など、一つしかない。そして…もしもこれが、重なるのだとしたら。切断をする度に、霧散した部位が宙で集まり、濃くなっていくのだとしたら。その可能性は、考えたくもなかったが……目を逸らす事は出来ない。それが…戦場というものなのだから。

 

 

 

 

 やっと見えた突破口。私にとっては、文字通り『見えた』可能性。内心焦る中で見えた可能性に、私の心は高揚して…でもすぐに、上げてから落とされるように、新しい脅威が立ちはだかった。ゴールは見えているけど…そこに辿り着くまでの道は、凄く凄く困難なものだった。

 ここで傷付いても、死ぬ事はない。それでもやっぱり、ここは戦場で、しているのは戦いで…だから一度抱いた恐ろしさは、そう簡単には拭えない。

 

「はぁ、はぁ…ふー、ぅ。…はぁぁッ!」

 

 上がってきた息を少しだけ整えて、斬り込む。ねぷちゃんと協力して、掠る程度のダメージは無視して、二人で刃を突き立てて…接続面から、オムニバスの一部を斬り落とす。

 初めに接続面の存在に気付いて切断をしてから、もう同じ事を何度もしている。まだ大きいけど、初めに比べればオムニバスのサイズは小さくなっていて、ちゃんと結果が出ているって事が一目で分かる。

 でも余裕はない。体力的にもそうだけど、精神的にも余裕なんて全然ない。…えー君の、予想通りだったから。切断する度、煙みたいになった身体の一部が登っていって、上で合流して…より多くの、モンスター擬きを生み出してくるから。

 

「三人共、大丈夫?」

「大丈夫。オムニバス、まだ苦しそう。だから早く、何とかしてあげたい」

「私もだいじょーぶ、ではあるけど……」

「長期戦は避けないと不味いな…」

 

 降ってくるモンスター擬きを射撃しながら動き回る事で、ワイトさんが次から次へと撥ね飛ばす。一旦私はねぷちゃんと下がって、大丈夫?って言葉に三人で答える。

 えー君の言う通り、長期戦は不味い。遠距離攻撃したり壁にしたりする為の擬似魔力展開は勿論、必要な情報を素早く集中的に集めるのにも結構体力がいるから、もうかなり私は消耗してる。今はまだ大丈夫だけど、最後まで接続面を見抜く事を考えると、これ以上の擬似魔力の使用は出来る限り控えなきゃいけない。えー君だって燃費の良い方じゃないし…本気の戦闘からは長い間離れていたから、そういう面でも長引くと予想外のミスとかをしちゃう…かもしれない。

 

「…茜。ないとは思うけど、そこを斬ると一気に全身バラバラになるような部位は……」

「ないかなぁ。そもそも私は実際にある接続面を見てるだけで、別に死の線や点的なものを認識してる訳じゃないし…」

「…イリスもネプテューヌ達位飛べたら、一緒に出来る。でも……」

「出来ない事は出来ないんだ、仕方ないさ。それよりもイリス、今聞こえるオムニバスの声には、何か変化があったか?」

「今?……あ」

『……?』

「ちょっとだけ、最初よりオムニバスが言ってる事、分かる。まだはっきりとは聞こえない…けど、何か言ってるって、分かる」

「それって……」

 

 言われて初めて気が付いた、という風に言うすーちゃんの言葉に、ねぷちゃんと顔を見合わせる。それは多分、そこそこ切断して、オムニバスを構成する存在の数が減った事で、聞こえ易くなった…よーは、喋ってる声の数が減ったからって事なんだと思うけど…その発言を聞いたえー君は、数秒思考。それから「よし」と小声で言って、一つ頷く。

 

「ならイリス。イリスはここから攻撃に参加しなくていい。代わりに耳を澄ませて、オムニバスの声に集中してくれ。ちょっとでいい、何となくでもいい、オムニバスの声を聞き取って、何を考えているか…次にどんな攻撃をしようとしているか、見抜いてくれ」

「…聞くのに、見抜く?」

「うん、まぁ、それは言葉の綾というか…じゃあ、聞き抜いてくれ」

「分かった、イリス聞き抜く。…新しい言葉、また一つ覚えた」

 

 そう言って、すーちゃんは耳へ沿うようにして両手を当てる。オムニバスの声を、聞く事に集中する。……うん、後でそんな言葉はないよー、って訂正しておかないと…。

 

「えー君、何か策有り?」

「策というか、方針だな。全員多かれ少なかれ消耗している以上、限界まで無駄は省かなきゃ勝ち目はない。だから…ワイト!ワイトはここから、モンスター擬きの対処に専念してくれ!オムニバスの切断はしなくていい…というより、狙うだけ無駄だ!」

「はっきり言うわね、貴方…」

「事実だからな。ワイト…というかあの機体はオムニバス撃破に向いていない。だが逆に、物量で攻めてくるモンスター擬きに対しては、あの機体が一番上手く立ち回れる。それにワイトが下がっての戦闘に回ってくれれば……」

「君も積極的にオムニバスへ仕掛けられるという事だね。分かった、露払いは引き受けよう。イリスさんの護衛も含めて、ね」

「話が早くて助かる…!」

 

 ばっちり意図を理解してくれたワイトさんに大きく一つ頷いて、すぐにえー君は床を蹴る。突っ込むえー君と引き撃ちをするワイトさんの機体とがすれ違って…私達も、後を追う。

 

「今度はここからだよ!」

「そこね…!」

 

 突進の勢いでそのまま大剣を突き刺して、振らずに斬る。方向転換が必要な時には身体ごと振って、出来るだけ止まらずに接続面を割いていく。私一人だと、斬り落とす前に再生が始まっちゃうけど、絶妙なタイミングでねぷちゃんが同じ場所を斬ってくれるから、また一部位を切断する事に成功する。このねぷちゃんの合わせる力が、本当に心強い。

 

「茜、次の位置は!」

「えっと、そこ──きゃあ!」

 

 斬り落として、えー君に訊かれて、次の一番近い位置を指し示した次の瞬間、私はえー君に手首を掴まれてそっちにぐっと飛ばされる。えー君曰く、「どうせ切断すればする程モンスター擬きの発生量も増えるなら、速攻で全解体する方が負担は減る」って事らしい。それにしても、無言で掴んでぐいっ!…なんて…そういう大胆なところもあるのが素敵…!…って、思ってる場合じゃないんだよね…ッ!

 

「……茜、狙われてる…?オムニバス、最初はまず茜からだって、気付いてる…?」

「こっちの軸を見抜いてきたか…茜さん、その部位を切断した後は一度下がって口頭での指示を!茜さんが離れた状態で切断に成功すれば、オムニバスの混乱を誘えるかもしれない!」

「口頭?それは良いけど、これを言葉で上手くせつめーするのは自信が……」

「任せろ、曖昧な説明でもやってみせるさ…!」

「では、ネプテューヌ様は影くんのサポートを!」

 

 今度はえー君が後ろから続けて斬ってくれる。代わりにねぷちゃんが腕や触手を斬って反撃を潰してくれる。

 その中で聞こえた、ワイトさんの声。位置とか長さとか角度とか、言葉で説明するのは難しい事が多過ぎて、上手くやれる気がしなかったけど…えー君に任せろって言われたらもう、任せるしかない。それにねぷちゃんのサポートがあるなら、いけるかもしれない。

 だから私は切断した後すぐに、後ろに飛ぶ。節約の為に、オムニバスの攻撃は全部避けるか大剣で受けるかして、目を走らせる。今えー君のいる場所から一番やり易い接続面を探して…言う。

 

「まず足元十時の方向に私の大剣四本分!そこから二時の方向に一本分で、その後は四分二十五秒の時の長針の角度で八本分とぜーちゃん一人分!」

「最後だけ難易度高過ぎるだろ…!ええぃ、多分こんな感じだ…!」

「自分からすれば最初から難易度高過ぎだけどね、なんで今の指示でやれるのよ…!」

 

 私だって「ちゃんと伝える気ある!?」…って言われそうな指示だとは思ってるけど、そもそもが無茶な説明なんだから仕方ない。ちょっとでもタイミングが遅くなれば、オムニバスの位置や向きが変わって説明し直さなきゃならなくなっちゃうから、認識した切断面を思い付いたままに言う他ない。さらっと言ってくれたけど、ワイトさんがしたのは物凄い無茶振りなんだからね…!

 ただでもほんとえー君は流石っていうか、ちゃんと私の指示通りに斬ってくれる。ばつちりしっかり斬ってくれて、ねぷちゃんも続いてくれて、狙い通り私が離れたままでも部位の切断を……

 

(……っ、出来てない…!?浅い…!?)

 

 斬る部分はばっちりだった。そこを斬れば斬り落とせる、そういう場所を通っていた。でもえー君でも、そうするのが精一杯だったみたいで…ほんの少しだけ、刃の入りが浅かった。その結果、ギリギリ切断し切れてなくて…折角斬った部位は、再生する。再生されてしまう。

 

「駄目か…!…仕方ない、これまで通り茜さんが……」

「…いや、もう一度頼む!一つ、試したい事がある…!」

 

 混乱させられるならその方がいいけど、まず切断が出来なきゃ意味がない。だから私は飛行タイプのモンスター擬きを斬りながら前に戻ろうとしたし、ワイトさんも同感だったみたいだけど…もう一度、ってえー君は言う。

 声から感じるのは、自信じゃない。だけど、えー君自身は多分、その『試したい事』に可能性を感じている。だったら私は…信じるだけ!

 

「えー君、指示いくよ!」

 

 視界の邪魔なモンスター擬きを蹴っ飛ばして、もう一度どこをどう斬ればいいか言っていく。えー君は一度距離を開けていたから、まずは大体の位置を言って、えー君が肉薄する瞬間を待つ。その最中に、ワイトさんのマエリルハが私の真上に飛んできて、上から振ってくるモンスター擬きを受け止めてくれる。

 離れた状態から、小さく息を吐いてえー君は突撃をかける。同時に銃剣…スラッシュバレットMk-04'を手放して、代わりにメモリーカードをその手に掴んで……

 

Origin Heart

 

Arms drive singllized!

 

 次の瞬間、えー君の黒い装備に白と金のラインが走る。メモリーカードを持っていた手には、バスタードソードが現れる。そしてえー君はバスタードソードを突き刺し…斬り裂く。

 

「あの武器って…!」

「セブンソード…なんて、な…ッ!」

 

 ねぷちゃんが驚く中で、えー君はバスタードソードを必要な距離、必要な位置まで振り抜いて、手離す。周囲に展開した複数の刀剣、その内の片手剣を手に取って、私の次の指示に沿ってまた刺し、捌く。片手剣、曲刀、ナイフ、青龍刀、ファルシオン。武器を引き抜かずに、最初から引き抜く事を考えない、押し込むような斬撃を次々と放っていって…最後に掴んだのは大剣。それを思い切り振り抜いて、突き刺した位置から一気に斬り飛ばして…大きく弧を描くように、その場から飛び退く。そのすぐ後には、ねぷちゃんがまた斬っていき…同じように最後の一ヶ所を斬り抜いた直後、斬られた部位より先が落ちた。一度は失敗した、二人での切断が…今度こそ、成功する。そして、私のすぐそばに着地したえー君は、軽く口角を上げて……言った。

 

「……駄目だ、めっちゃ戦い辛ぇ…」

「いや、まぁ…それはそうだよえー君…。ぜーちゃんって別に、色んな武器が得意だからそういう戦い方してる訳じゃなくて、相手のペースを崩す手段として色んな武器を使ってるだけなんだから…」

 

 全然締まらないえー君の発言に「えぇー…」ってなりながらも、一応突っ込む私。まあ勿論、どの武器もそれなり以上に使える事は間違いないんだろうし、引き抜く動作を省略して、勝手に武器が消える事を活かして速度も深さも向上させたえー君の判断も正しかったとは思うけど…ぶっつけ本番で使った挙句、速攻そんな事言われちゃったらぜーちゃんが浮かばれないよ……。

 

「それが一体どういう原理の力は分からないけど…上手くいったのは事実ね。イリスちゃん、オムニバスはどう!?」

「オムニバス、びっくりしてる。オムニバス、慌ててる」

「好都合…!畳み掛けるぞ!」

 

 一度私が離れていたのは、オムニバスを混乱させる為。それが出来たんだからもう私が下がってなきゃいけない理由なんてなくて、えー君と一緒にまた前に出る。その時その時で私とえー君、私とねぷちゃんって感じに切り替えて、更にオムニバスの切断を進める。イリスちゃんの言葉通り、オムニバスは慌ててるみたいで忙しなく複数の頭を動かしている。

 

「くっ、流石に残弾が少なくなってきたな…イリスさん、少し五月蝿くなるけど、頑張ってくれるかい?」

「……?おぉ、おおぉ……!」

 

 切断と次の切断、その間の一瞬にちらりと視線を動かせば、マエリルハがシールドを装備した左腕のマニピュレーターにすーちゃんを乗せて、その状態で右腕のマシンガンを撃っていた。

 私もずっと集中しなきゃいけないから大変だけど、倒しても倒しても増えるモンスター擬きを殆ど一人で相手にしなきゃいけないワイトさんも、凄く大変なのは間違いない。すーちゃんを乗せたのは、自分と一緒にいてくれる方が、別々に動くより弾の節約が出来るからで…でもその分イリスちゃんが落ちないように気にかける必要もある訳だから、もしかしたら今一番集中しているのはワイトさんなのかもしれない。しかも、ワイトさんが持ち堪えられなくなったら、私達はモンスター擬きに邪魔されて切断を進められなくなる。そんな状況でも、常に周囲を見て、その場その場で指示も出してくれるワイトさんは…本当に流石。苦しみの声が常に聞こえ続けてる筈なのに、聞き分けて行動を読もうとしてくれてるすーちゃんだって、ここまで打ち合わせなしで的確に私達へ合わせた連携をしてくれるねぷちゃんだって、皆凄い。だから私も、負けられない。私だって…最後まで、必ず見抜く。

 

「皆、後少し…後少しだよ…ッ!」

 

 殆どのモンスター擬きはワイトさんが対処してくれてるけど、やっぱりどうしてもこっちに襲い掛かってくる個体もある。でもそれをいちいち倒してる余裕なんてない。天井付近で現れて、即私の方に来たモンスター擬きを、私は宙に作り出した擬似魔力の足場で止めつつ、上下逆さまの状態から足場を蹴って急降下からオムニバスを刺突。一息で、オムニバスの接続面を捌いていって、息を止めたまま次の位置にも刃を突き立てる。変な動きをしても、どんな軌道でも、えー君とねぷちゃんなら合わせてくれると信じて、私は自分のやるべき事に意識を全部注ぎ込む。そうして何度も、何度も続けて……遂に、その時が来る。

 

「……っ!次で、最後だよッ!接続面は後一つ、後一回で……くぁ…!」

「茜!ちっ…向こうも必死という訳か…!」

 

 見える接続面は一つだけ。それは最初に比べれば、ずっと小さくなったオムニバスに残る、最後の接続面。でも、遂に最後だと思って、思わず見間違いじゃないか必要以上にオムニバスを注視していた私は、飛行するモンスター擬きに気付けず横から激突される。すぐにその個体はえー君が倒してくれたし、鎧のおかげで『痛い』と思っただけで済んだけど…今のは危ない。後一息だと思っている時と、倒した直後は、油断し易い分凄く危険。

 立て直して、構え直す。改めてオムニバスを見ようとして…モンスター擬きに、遮られる。気付けばこの広い空間の半分は埋め尽くしてしまいそうな…実際のところはともかく、感覚的にはそれ位に思えるような、凄まじい数のモンスター擬きに。

 

「ここまで多いと、もう笑えてくるわね…本当に負常モンスターさながらじゃない…!」

「正直、この数ではもうどうにもなりません。まともに立ち回る前に、弾薬が尽きます」

「となれば、選択肢は二つだな。後一歩というところで諦めて押し潰されるか……」

『最後の力で正面突破、でしょ?』

 

 押し寄せてくるモンスター擬きを、私は擬似魔力の障壁で、ねぷちゃんはエクスブレイドを壁みたいにする事で誘導して、えー君とワイトさんの射撃で何とか押し留める。でも撃破より迫る勢いの方が上で、もう対策を練っている時間はない。

 そういう中での、えー君の提案。人差し指を挙げながら一つ目の選択肢を言って…中指を挙げたところで、今度は私が言う。同じタイミングで、ねぷちゃんも言う。

 元からモンスター擬きを完全撃破出来るなんて思ってない。最初から、本体を倒すのが私達の狙いで…もうそれは、後一歩のところまできている。最後に高い壁が私達の道を阻んでいるけど…それはきっと、越えられない壁じゃない。

 

「乾坤一擲…力を振り絞るとしようか」

「後少しだから、イリスもフルパワーで頑張る。皆も、頑張って。えいえい、おー」

「あはは、えいえいおー」

「そうね、えいえいおー」

 

 無表情でえいえいおー、とやるすーちゃん。それは凄くシュールな光景で、私はちょっと笑いながら、すーちゃんに乗って拳を上げる。ねぷちゃんも、同じようにする。えー君とワイトさんはしなかったけど…まあ、それはそうだよね。壁を作った私達と違って、二人は射撃し続けてる訳だし。

 ともかくこれで、最後にやる事は…最後の一手は決まった。だから私達は頷き合って…勝負を、掛ける。

 

「まずはこの波を切り崩す…ッ!影くん!」

「了解だ…ッ!」

 

 壁を解き、射撃も止める。当然すぐにモンスター擬きは殺到してきて…その中でワイトさんのマエリルハが正面に立つ。床を蹴ったえー君が、その上に陣取る。

 そこからワイトさんはビームマシンガン、機銃、バックパックのビーム砲と杭みたいな弾頭を、えー君も二つのスラッシュバレットの銃口と、左右に展開した八基の遠隔操作端末、黒切羽を、その全てをモンスター擬きの波へと向ける。次の瞬間、二人の一斉掃射が同時に行われて、無数の弾丸とビームが駆け抜ける。撃ち抜いて、貫いて、モンスター擬きを蹴散らしていく。

 それだけじゃ終わらない。連射から照射に切り替えたえー君は、モンスター擬きを薙ぎ払って…その合間で、マエリルハは各部の装甲をオープン。装備の内側から、多数の小型ミサイルが姿を現し…それを前腕のグレネードと一緒に全弾発射。視界を埋め尽くしそうな程の煙を靡かせながら、ミサイルとグレネードは殺到するモンスター擬きに対抗するようにぶつかっていって、幾つもの火の玉を作り上げる。爆発は重なって、モンスター擬きの大群を飲み込んで……決着への道、その始まりを築く。

 

「風穴を開けるわ!デュアライド…デルタスラッシュッ!」

 

 まだ、オムニバスには届かない。まだモンスター擬きの壁は越えられない。

 だから、ねぷちゃんが動く。大太刀の刃に紫の光を、シェアエナジーを纏わせたネプちゃんは、翼を広げて舞い上がり、響くような声と共に大太刀を振り抜く。三度、煌めく刃を振るって…解き放たれた光は、飛翔する斬撃に変わる。繋がった三つの斬撃が、道を奥へと開いていく。

 凄まじい威力の斬撃が、あっという間にモンスター擬きを両断する。斬り裂いていく。…それでも、足りない。ねぷちゃんの攻撃でも、オムニバスへ届く前に…後少しのところで消えてしまう。──ねぷちゃんの、予想通りに。

 

「これで最後だ…届けッ!」

「えいやー」

 

 シェアエナジーの刃が消えた瞬間、その瞬間に叩き込まれる、もう一つの三つの斬撃。マシンガンとシールドを放棄して、二本のビームの刃を抜いたワイトさんのマエリルハと、手を大きく長い剣に変えたすーちゃんが、ねぷちゃんの攻撃の後を追って…届かなかった『後少し』を、引き継ぐ。今度こそ、本当に…道を、切り開く。

 

「行けッ!影くん、茜さんッ!」

「任せて、皆!えー君、最後は単純!思いっ切り縦と横に斬り裂くだけたから、縦は任せたよッ!」

「そうか、だったら…全力で頼む…ッ!」

 

 なんでそうなのかは分からないけど、最後に残った部分だけは特殊で、十字に斬る必要がある。だから私とえー君は、私達のとっておきを選ぶ。開いた穴、オムニバスへ繋がる道へ飛び込んで、モンスター擬きが道を埋め尽くす前に駆け抜けて、オムニバスの前に躍り出る。そして二人でオムニバスを見据えて…踏み切る。

 

「緋影双撃……」

 

 私が構えた大剣の上に、軽やかにえー君が乗る。踏み切り、踏み締めた私は、オムニバスに向けて大剣を、えー君を振り抜く。

 バランスを崩さずに、えー君は宙を舞う。オムニバスを飛び越えるように。オムニバスの注意を、自分自身に引き付けながら。飛んだままえー君はスラッシュバレットを構えて、自分自身でも加速しながらオムニバスに迫って…けれど迫るのはえー君だけじゃない。えー君が注意を引き付ける中で、えー君に注意が向かうように飛ばした上で…私も迫る。残った体力の全部を突っ込むつもりで、オムニバスへ肉薄する。

 成功するかどうか。これがオムニバスに通用するかどうか。それは、私にだって見えない。それは分からないけど…えー君の事なら、なんだって分かる。見なくたって知ってるし…そのえー君となら、負ける気がしない。しかもねぷちゃん、すーちゃん、ワイトさんも一緒にここまで来たんだから…勝てる気しかしない。だから私は、私達は……全身全霊の、最後で最大の一撃を重ねて…叩き込む。

 

「閃紅十文字ッ!」

 

 正面からの、私の横一文字。上から背後に駆ける、えー君の縦一文字。二つの斬撃は、全力は、その中心で重なり合って…断ち切る。最後の接続面を、戦いを続けさせる最後の一点を。そしてえー君が着地し、私が振り抜いた大剣を、降ろした瞬間……オムニバスは、崩れ去った。生まれ続けていたモンスター擬きと、産み続けていた宙の靄…その全てと、共に、一緒に。

 

「…勝っ、たぁぁ……」

「お疲れ様です、皆さん。…ビーム以外の火器はほぼ全て弾切れ…最後に大盤振る舞いしたとはいえ、ギリギリの戦いだったな……」

 

 変身を解いて、私は脱力。もうへとへと、体力的にも集中力的にもへっとへと。

 でもその分、達成感はある。やり切った、って感じがある。まだこれは途中で、この先にも倒さなきゃいけない存在がいる訳だけど…それはそれ、これはこれ。今を喜んだ者にのみ、明日が来る…なーんて事はないけど、喜べる時は素直に喜んでおいた方が前向きに……

 

「…待って…まだよ、まだオムニバスは消えてないわ…!」

『……!?』

 

…そう、思っていた中での、ねぷちゃんの言葉。それに弾かれるように、私は振り向いて…そこにあった、まだ残っていたオムニバスに、一度は緩んでいた緊張が再び高まる。

 もう、脅威は感じない。見るからに弱々しい、残滓みたいな状態のオムニバス。それでも確かに、まだオムニバスは残っていた。放っておいても消えそうだけど…まだ、完全に消えてはいなかった。

 残っているなら、今度こそ倒さなきゃいけない。何かされる前に、確実に終わらせなきゃいけない。そう判断したのはえー君やワイトさんも同じで、二人共攻撃体勢に入っていて……けれど二人が撃つよりも前に、多分誰よりも先に、すーちゃんが動いていた。すーちゃんは駆け出して、駆け寄って…オムニバスを、抱える。

 

「…すーちゃん…?」

「よしよし。もう痛くない、もう大丈夫。オムニバス、よく頑張った。…よしよし…」

 

 優しく、労わるように…慈しむように、抱き抱えたすーちゃんは、オムニバスを撫でる。無表情でも、抑揚のない声でも分かる、オムニバスへの思いを込めて。

 普通に考えれば、危ない事。無防備に抱えるなんて、普通ならやっちゃいけない。でも、私達は知っている。すーちゃんはその為に、オムニバスへの思いで戦っていたんだって事を。倒すんじゃなくて、苦しみからの解放を目指していたんだって。

 だから私とねぷちゃんは、それで良いのかは分からないけど…何もしない事を選ぶ。えー君とワイトさんも、攻撃体勢はそのままだけど、撃ちはしない。皆が見守る中で、すーちゃんは静かに撫で続けて……そうしてその末に、オムニバスは消える。…最後の最後で、絶叫じゃない…安心したような、鳴き声を上げて。

 

「……皆、ありがとう。イリス、オムニバスを楽にしてあげられた」

「…そう、ね。イリスちゃんが、最後まで諦めなかったおかげよ」

「うん。オムニバス、最後は落ち着いてたって…そう、思うな」

 

 皆に向けてお礼を言うすーちゃんを、私とねぷちゃんは撫でる。最後の最後に残ったのは、一体の生物とかじゃなくて、欠片みたいな存在で、だから表情を見る事も出来なかったけど…それでも私は、すーちゃんの思いが伝わってたんじゃないかって…そんな風に、思った。

 

「ふぅ…それじゃ、行こっか。あ、それかここで休憩してからにする?」

「そうですね。ただ、他のチームの事も気になりますし、この場で取るのは最低限の休憩とし、あの扉の先に移動してから改めて休息を取る事を提案します」

「イリスもそう思う。皆の事、気になる」

「だよね。…そういえば…さっきはどうして、オムニバスの声が変わった…っていうか、変わった事にすーちゃんが気付けたのかな?」

「最初の気付きの件か?…予想だが、炎で全身へのダメージが入ったからだろう。部分的なダメージなら、痛みの声を上げる顔と、それ以外の叫びを上げる顔があるだろうが、全身燃えていれば声の方向性も同じになる。バラバラからある程度同じになった事で、その変化をイリスが気付けた…とかだろう」

「ふむふむ、つまり自分の大手柄って事だね!…と、言いたいところだけど…どの顔も頭を叫んでたから、って理由だったら、喜べないなぁ…はは……」

 

 何とも微妙そうな顔をするねぷちゃんに、私達は苦笑。それから私達は腰を下ろして、ワイトさんも機体から降りて、少しの間休憩する。休憩して、扉を開けて、先へ向かう。

 この先にいる、最後に待っているのが、バグの元凶的存在。どんな姿で、どんな強さで、どうやって倒せば良いのか…それは全て、これからの事。まだ分からない事。でも全力を尽くす事、自分の出来る戦いをする事、皆と力を合わせる事……勝つ為の秘訣は、きっと変わらないよね。




今回のパロディ解説

・「〜〜防御力に極振りしてそうな発想〜〜」
痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。及び、主人公であるメイプルこと本条楓のある行動のパロディ。作中描写から分かると思いますが、オムニバスは食べても普通に再生します。

・「〜〜凍らせても棘か針みたいになって攻撃〜〜」
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズに登場する幽波紋(スタンド)の一つ、イエローテンパランスの事。残念ながら、この戦闘において逃げるという策は出てきませんでした。

・「〜〜死の線や点的なものを認識〜〜」
TYPE-MOON作品に登場する魔眼の一つ、直死の魔眼の事。流石に茜でもそういうものは見えないと思います。死の線や点は物理的なものではなく、一種の概念的なものですし。

・「セブンソード…なんて、な…ッ!」
機動戦士ガンダム00に登場するMSの内、主人公刹那・F・セイエイの機体のコードネームや武装に関する単語の事。このシーン、少しだけ対アルヴァトーレ(アルヴァアロン)戦を意識してたりもします。
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