超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
次元を超えてイリゼさんと会うのは、これで何回目だろう。…っていうのは数えれば分かるっていうか、数え切れない程何度も会っている訳じゃないけど、もうこうして会うのは、一度や二度じゃなくて、ほんと何回も会っている。普通次元を超えるのって、それ自体が奇跡的な事の筈なんだけど…こう、イリゼさんと会うのはそこまで特別な事でもなくなってきてるみたいな、幻次元と信次元は割と近所なのかな?…って気がしなくもないような、そんな感じがわたしにはある。…まあ流石に、近くのお店とかは勿論、幻次元の他国に行くレベルでの気軽さはまだないけども。
それ位の感覚を抱く程度には会っているから、しかもわたしもイリゼさんも女神な訳だから、『変化』を感じる事はこれまであんまりなかった。ちょっとした違いはあっても、印象に残る変化なんて、これまではお菓子作りが得意になっていた事位だった。…だから、今の…守護女神になったイリゼさんには、ふとした時に感じる変化が幾つもあって、驚いた。驚いたし…これまでとは違う形で、活き活きとしているようにも見えた。ただ、全部が良い変化って訳ではなくて……仮想空間を残そうとする、その為に背負わなくても良かった筈のリスクを背負うイリゼさんには…国民の為っていう『貪欲さ』には、危うさも感じた。
悪い事だとは思っていない。それだけ国民を思う気持ちは立派だと思うし、その為に一切の妥協をしないのは、わたしの知ってるイリゼさんらしいとも思う。そう思う反面、不安もあって…結局それが、わたしもここに残った理由。あの場で言ったのも、本心ではあるけど…一番の理由は、これ。
「ねぇセイツ。セイツ的には、援護に回ってほしい感じ?」
「ううん、ガンガン攻めてもらって構わないわ。援護に徹するのは、柄じゃないでしょ?」
「まぁね、徹しようと思えば徹する事も出来るけど。でもそういう事なら、わたしも思うままにやらせてもらうわ」
塔の中、廊下を四人で見回しつつ進む。わたしがいるのは一番後ろで、すぐ前ではエスちゃんとセイツさんが言葉を交わしている。
今のところ、セイツさんが前衛、エスちゃんが中衛、わたしが後衛で、グレイブさんが遊撃っていう作戦を立てている。相手や状況によって変更する事もあるとは思うけど、取り敢えずはこれが一番安定感がある…と、思う。
「んー…んんん?」
「…どうかしました?」
「いや…廊下、長くね?」
『それは、確かに…』
二人が話している間、グレイブさんは特に周囲を見回していた。きょろきょろと見て、考え込んで…何だろうと思ってわたしが訊けば、返ってきたのは「長くね?」って言葉。廊下の長さに関しては、わたしも気になっていて…同じく気になっていたらしい二人と一緒に、こくりと頷く。
四つの塔はどれも見るからに大きかったし、中に廊下がある事はそんな変じゃない。…ん、だけど…やけに長い。もう結構な距離、わたし達は廊下を歩いている。幾ら大きいからって、凄く長い廊下があるっていうのは、何かおかしい。
「ひょっとして、長いんじゃなくて俺等が同じ場所を歩き続けてるんじゃねーか?とも思ったが、そうでもないみたいなんだよな」
「あぁ、それを確認する為に何度も見回してた訳ね。…まあ、あれじゃない?ゲームでもフィールド上のグラフィックの大きさと、中の広さが一致してない感じの施設とかダンジョンとかってよくあるでしょ?それと同じようなものよ、きっと。っていうか、そういうのは実際この仮想空間にもあったしね」
「ただでも、塔なのにやたら長い廊下…っていうのは変よね。わたしもそういう施設に入ったりはしたけど、広さはともかく構造自体は外見からそこまで乖離してなかった筈だもの」
歩きつつ腕を組んだセイツさんは、やっぱりおかしい、と返す。それもそうか、とエスちゃんも返しに納得したような顔を見せる。
多分、この長さは元々の仕様じゃなくて、何かしらの…それこそバグの影響か何かによるものなんだと思う。そしてこういう異常があるって事は、他にも何かおかしな事が起きていてもおかしくない訳で……そこでわたしは、あるものを見つけた。
「あれ?……え、蛇…?」
しゅるり、と物陰から出てきた、細長い何か。影の様な…あ、人の方じゃないですよ?…っていうのを、他の人もやってる気がする…こほん。…よく見えない、暗い外見をしているせいで分かり辛いけど、動きからして多分蛇。それが出てきたと思えば、こっちを向いて、鎌首をもたげて……次の瞬間、飛び掛かってくる。
「うぉっ…!」
「グレイブ君大丈…わぉ…」
「おう、大丈夫だぞー。…って、お…ぬぉ……!?」
弾かれるように突っ込んできた蛇は、グレイブさんに一直線。咄嗟にセイツさんは手を伸ばして…掴む。……セイツさんではなく、グレイブさんが。突っ込んできた蛇を、片手でぐっ、っと。
かなりの速度で…女神のわたしからしても、速いと思う位の速度で襲ってきた蛇。それを普通の人間な筈のグレイブさんが掴んで止めたっていうのは、ちょっと「えぇ…?」って思うものがあって、けろっとした顔のグレイブさんにはエスちゃんやセイツさんも同じような反応だった。
けど、そこからグレイブさんの表情が変わる。どういう訳かまだ勢いが消えていないのか、蛇を掴んだ手がぷるぷると震え始めて、段々蛇とグレイブさんの顔が近付いて……そこで振るわれたのは、一本の苦無。
「よっと。怪我はない?」
「ふぃー、助かったわ。まさかあの状態からまた迫ってくるとはな…ロケットか何かにでもなってんのか…?」
逆手持ちで振るわれた苦無、それを振るったのは勿論エスちゃん。顔のすぐ後ろ、多分首の辺りを下からエスちゃんは斬り上げて…斬られた蛇の頭は、赤い粒子になって消える。グレイブさんが掴んでいた首から下も、同じように霧散する。
「…うん?今のは……」
「グレイブ君、どうかしたの?」
「や、ちょっとな。…てか、今のは何なんだ?道中の雑魚敵か?」
「雑魚敵っていうか、罠みたいな感じだったわね。そんなに大きい訳じゃないし、見逃して襲われる…なんて事がないようにしないと…」
確かに、とわたしは頷いて歩くのを再開。いつ襲われてもいいように…っていうか、襲われる前に倒せるように、右手に仕込み杖を握っておく。
そこからもまだ続く廊下。暫く進んだところで階段に行き着いて、登ってみたけど…その先にあったのもまた廊下。違和感が凄いけど…取り敢えずは、進むしかない。
そんな道中で、何度か蛇は出てきた。どの蛇も、こっちを認識した途端に襲ってきて、その度にわたし達は撃破した。バグの元凶が存在してる場所って事を考えれば、襲ってくるのも変ではなくて……
(…でも、何だろう…わたし達を阻む為に配置されてるにしては、色々雑なような……)
進みながら、わたしは長い廊下とは別の違和感を抱いていた。最初に出てきた一匹は、物陰にいた訳だけど、普通に廊下の真ん中を這いずってたり、こっちに背中…というか尾を向けていて、全然わたし達に気付かない個体もいた。小さいし速さはあるんだから、複数体同時に襲ってきたら大変だったと思うけど、そういう事は一度もなかった。
障害としては、徹底されていない感じのある蛇。だからわたしは、蛇は障害っていうか、ただここに生息してるだけって感じがして…そう思い始めたところで、今度はセイツさんが声を上げた。
「…皆。この階に来てからずっと廊下だけど…なんか、段々広くなってない?っていうより、明らかに広くなってるわよね?」
「あ、それはわたしも思いました。天井も、上がってすぐの時より遠くなってる気がしますし……」
脚を止めて振り返ったセイツさんに、わたしは首肯。多分だけど、もう上がった直後より倍位の幅に、高さになっている。何でそうなってるのかは、やっぱり分からないけど…広がっているのは、間違いない。
となると、ここから更に広がっていくのか。それともまた階段になるのか、階段以外の何かがあるのか。それだって、進んでみないと分からない。
「あ、グレイブ君。今更だけど、一匹か二匹はポケモン出しておいた方が良いんじゃないかしら?君なら蛇に対応出来るとはいえ、いつどこからどう襲われるか分からない訳だし」
「あー、まあな。…てか、こうして話してるとセイツもまともだよなー」
「こう話してると、って…わたしは元からまともで──」
いつもはあんなぶっ飛んでるのに。…みたいな発言が続きそうな、グレイブさんの言葉。それはセイツさんも感じ取ったみたいで、ちょっと不満そうな顔をしながら言葉を返していた……その時だった。
前兆も、何の前触れもなく、わたし達を囲うように噴出した、赤と黒の混じった光。それは何かの粒子の奔流で、粒子はドーム状に広がっている。それも広く……何か舞台を作るように。
『……セイツ(さん)…』
「えぇっ!?わ、わたしのせいなの!?」
全員からじとーっとした目で見られて、分かり易くショックを受けるセイツさん。フラグみたいな事言うから…という視線に対するセイツさんの反応は、妹のイリゼさんによく似ていて…って、そんな事考えてる場合じゃない…!
「皆、あそこに何かある…いや、いるわ!」
指差すエスちゃんに反応してそっちを見れば、そこにあったのは空間の歪み。何なのかは分からない、でも確かにエスちゃんの言う通り、そこから感じるのは『何か』というより『誰か』って感じで…宙に現れた歪みは、段々と形を持っていく。人の姿に変貌していく。
そして完全に人の姿に、蛇と同じ暗い色で覆われた存在になったそれは、ゆっくりと床に着地する。表情どころか、容姿が全く分からない…けれどそれでも感じるのは、わたし達へと向けられた視線。
「…女の、子…?」
着地してからは何もせず、ただ立っているだけの存在。その事に疑問を持つような声音で、セイツさんがぽつりと呟いた次の瞬間──セイツさんの、姿が消える。
『……ッ!?』
一瞬意味が分からなくて…でも、すぐにわたし達は気付く。まだ離れた位置にいた筈の、女の子の様な影が、今はすぐそばにいる事に。影は腕を突き出した格好をしていて…セイツさんは、殴り飛ばされたんだって事に。
腰の位置よりも長い髪に、わたしやエスちゃんより少し高い位の背丈。女の子っぽく見えたけど、髪の長い男の子とか、そもそも性別のない存在って可能性もある。…けど、今はそんな事どうでもいい。
警戒はしていた。いつ仕掛けてきてもおかしくない、と身構えてはいた。…なのに受けた、見切れなかった先手を前に、余計な事は考えていられない。
「でやぁぁぁぁッ!」
「ウーパ!」
「セイツさん、大丈夫ですか…!」
女神化と同時に杖へと氷の刃を纏い、影に向けて振り抜くエスちゃん。垂直跳びでそれを避けた影へ、グレイブさんが投げたボールから出てきたポケモン…二足歩行のトカゲやカメレオンみたいな姿をした、ウーパ(種族名はインテレオン、らしい)が指先から高圧力の水流を撃ち出す。同じく女神化をしたわたしは、床を蹴って吹き飛ばされたセイツさんの下へ。
「痛た…ギリギリ防御は間に合ったとはいえ、完全にやられたわ……」
「パワーも速度も凄まじいですね…。…あれ、というかここ……」
「え?…あ、そういえば…広くなっていたとはいえ、ここまで広くはなかったわよね……」
粒子の壁スレスレまで飛んでいたセイツさんは、幸い軽傷。そのセイツさんに、わたしは手早く治癒魔法を掛けて…そこで、気付く。わたしの記憶と位置の認識が正しければ、この辺りはもう壁か、壁の向こうの空間の筈だって。
思えば上も、廊下より高くなっているように見える。つまり…粒子のドームが廊下を飲み込んだって事…?それとも、空間自体が別の場所に転移している…?
(…いや、それも今は重要じゃない)
立ち上がって女神化したセイツさんは、エスちゃんとウーパの連続攻撃を次々避ける影へと向かっていく。わたしも広さの事は一旦置いておいて、氷弾を影に向けて放つ。
「エストちゃん!挟撃を掛けるわよ!」
「はいはい任せて!」
二振りの剣を広げて突進するセイツさんは、氷弾を躱した影に向けて斬撃。それも躱した影を、セイツさんは追い掛けるように跳んで、エスちゃんは後方から上を取る形で急降下を掛けて、双剣と氷の大剣で下と上から同時攻撃。三つの刃が同時に宙で振るわれて…その全てが、空を斬る。影は宙を蹴るようにして、二人の攻撃を更に避ける。
そこへまた撃ち込まれた、高圧水流の射撃。避けた先を狙い撃つ、偏差射撃をウーパが放って…ここで初めて、影に攻撃が届いた。けど、ダメージは多分入っていない。腕の一振りで弾かれて、水流弾は明後日の方向に飛んでいってしまったから。
「やるな…当たりゃ何とかなると思ってたが、こんなあっさり弾かれるとはな…」
めげずに射撃を続けるウーパに指示を出した後、グレイブさんは頭を掻く。どうしたもんかなぁ、と言うように呟いて…動き回る影を、エスちゃんとセイツさんが追う。
「はぁぁッ!」
「そこぉッ!」
「まだよッ!」
「まだまだぁッ!」
セイツさんの、突進からの左の刺突。避けた影を追うエスちゃんの魔力弾。追い立てられた先へセイツさんが飛び蹴りを仕掛け、更に避けられればエスちゃんが一気に突っ込んで大剣で横薙ぎ。複雑ではないけど、次々と繋がる連携を二人はしていて…何度目かの突進、何度目かの斬撃をセイツさんが放った瞬間、影もセイツさんへ蹴りを放った。剣と蹴りはそれぞれ振るわれた状態で当たって…セイツさんが弾き返される。蹴りが斬撃に勝って、そのまま影は半回転。後ろから仕掛けようとしていたエスちゃんの方を向くと、間髪入れずに掌底…ではなく、防御体勢を取ったエスちゃんを突き飛ばした。ただの突き飛ばしでも結構な威力で、落下したエスちゃんは両脚と右手を床に突いた状態で大きく滑る。わたしはエスちゃんの前に飛び込んで、展開した二つの魔法陣から氷弾と魔力弾をそれぞれ連射で影に撃ち込む。
「エスちゃん、立て直せる?」
「吹っ飛ばされただけよ、ダメージはないわ。…けど、無茶苦茶ねアイツ……」
「…身体能力の話?」
「それもそうだけど、動きが雑過ぎるのよ。雑過ぎるっていうか、技術も何もあったもんじゃないっていうか…それでひょいひょい躱された挙句吹っ飛ばされたんだから、腹立たしいっていうかやってらんないっていうか……」
弾幕を張りつつわたしが言えば、立ち上がったエスちゃんも氷弾で遠隔攻撃。近接戦でセイツさん相手に優位を保ちながら、わたし達の魔法も全て避ける影に向けて、不満に満ちた声を出す。
言われてみれば確かに、影は凄いパワーとスピードをそのまま振るっているだけで、駆け引きどころか、自分に有利な間合いを取るとか、吹っ飛ばした相手に素早く追い討ちを掛けるみたいな、基本的な事すらしていない。細かくは分からないけど、打撃に関しても、技術の伴わない「ただ拳を振ってるだけ」「ただ脚を振り出しているだけ」のものなんじゃないかと思う。それは身体能力が凄いから、技術や作戦なんか必要としないだけの能力があるからなのかもしれないけど……
「…でもそれなら、付け入る隙は十分あるって事でしょ?」
「まぁ、ね。…セイツ、さっきはああ言ったけど、一旦わたしは援護に回るわ!どっちにしろ、相手がそのサイズじゃ複数人での近接戦闘もし辛いだろうし、ねッ!」
魔法を放ちながら飛び上がるエスちゃん。大剣を振って魔力の斬撃を一太刀放った後、エスちゃんは杖から氷の大剣を解除して、素早く氷弾を撃つ。影が斬撃をチョップで両断して、氷弾を軽く躱せば、次の瞬間には側面からセイツさんが袈裟懸けを仕掛けて…影は腕で受け止める。剣と腕とで、斬り結ぶような形になる。
「白羽取りならまだしも、脚といい腕といい耐久力まで並外れてるわね…だけどッ!」
「両手が塞がったなッ!狙い撃て、ウーパッ!」
「うぉれおん…!」
受け止められた直後、セイツさんは逆の剣でも仕掛ける。それも同じく逆の手で止められるけど、そのタイミングでウーパが真下へ滑り込み、滑りながら影へ狙いを付けて撃つ。
完全に仰向けになりながら、真上へ向けて突き上げられた指鉄砲。そこから放たれた、一発の水の弾丸。高圧水流以上の速度を感じさせる弾丸を、影は避けようとして…けれど一瞬、本当に僅かな差ではあったけど、弾丸の方が速かった。掠めるだけではあるけど、確かに弾丸は影の顔を捉え、その顔から粒子を散らす。
「流石よグレイブ君、ウーパ。でも……」
「畳み掛けるなら今、です…!」
止まる事なく水の弾丸がドームの天井へと飛んでいく中、躱し切れなかった影は後方宙返り。それをセイツさんが猛烈な勢いで追い掛けて、肉薄しながら剣を縦連結。突進の勢いそのままに、大剣状態になった剣を大上段から振り下ろす。
攻撃が見えていたのか、後方宙返りの最中に影は軌道を逸らして避ける。避けて…その先を、氷塊が襲う。…わたしの放った、一工夫凝らした氷塊が。
「エスちゃん!」
「任せてッ!」
迫る氷塊に対して向き直る影。わたし自身、そして影よりもよりずっと大きい氷の塊を、影は真正面から殴り付けようとして…それよりも早く、エスちゃんの手から放たれた光が、魔力が宙を駆け抜ける。
でもそれは、エスちゃんが狙うのは、影じゃない。魔力は、何の威力もないただの光は、わたしの放った氷塊の真ん中に当たって……次の瞬間、氷塊は分裂する。十以上の大きな破片に分かれて、影のパンチは空振って…直後、映像を巻き戻すようにして、分裂した氷塊は集まっていく。それも、氷塊は分裂状態でほんの少しだけ進んでいて、その状態で集まる事で、分裂した位置より少し前…丁度影が中心になる位置で、影へ殺到するようにして再生する。
「ふぅ、ルナさんの技を参考にしてみたけど、悪くないかも。…名前は……」
「地爆ならぬ、氷爆天星とかか?」
「いやわたし瞳術に目覚めた訳ではないですから…それと…!」
『分かってる(わ)ッ!』
再び一つになった巨大氷塊を、わたしは魔力とシェアエナジーを同時使用して押さえ込む。元々これは、分裂もわたしのタイミングで、わたしの意思で行う事も出来た。それをエスちゃんに任せたのは、エスちゃんの方が良い位置にいたから。エスちゃんがタイミングを決めてくれた方が、より影を中心に閉じ込められると思ったから。そしてそう思った通り、わたしは影を氷塊の中心に閉じ込める事に成功して…でも、今は押し込めているだけ。ただのモンスターならそのまま押し潰せたんだろうけど、影に対しては一時的な拘束にしかならない。今も内側から、どんどん亀裂が走っている。
だからわたしは声を上げる。上げた次の瞬間、氷塊は粉々に砕け…そこを狙う三連撃。ウーパの高圧水流が回避を誘って、エスちゃんの魔力ビームが防御を強いて、最後を担うセイツさんの刺突が届……かなかった。ギリギリで、影は防御からの回避行動を取って、刺突は躱されて…けどそこで、連結状態だった二本の剣の内、先の一本が爆ぜるような勢いで外れ、飛ぶ。連結していた剣は、一本の片手剣に戻って…手元に残ったもう一本を両手で掴んだまま、小回りが効くようになった剣をセイツさんが振り抜く。斬っ先が回避行動を続けて、セイツさんの本命も避けようとする影の胴を、浅くではあるけど斬り裂く。
「……っ…逃がすかッ!」
影を捉えた、二度目の攻撃。でもセイツさんはもっと深く斬り裂けると思っていたようで、歯噛みと共にもう一振り。宙で跳ぶように避けられれば剣の斬っ先を影に向けて、炸裂する圧縮シェアエナジー弾を撃ち込む。援護する形で、ウーパも軽快に走り回りながら射撃を続ける。
「力任せの戦い方しか出来ないなら、嵌める手段は色々あるけど……」
「嵌めても対応してダメージを抑えてくるのって、かなり厄介だね…でも、この調子なら少しずつ削っていって勝てそうかも?」
「いや、ディーちゃんそれフラグ……」
飛び回る影に、わたしとエスちゃんも魔法を放つ。二人で回避先を潰すように攻撃しながら、言葉を交わす。
二回共(見た目のせいで分かり辛いけど)軽傷で済まされたとはいえ、当たってはいる。逆にこっちは最初の一撃以外特にダメージもないし、まだ温存している力も色々とある。だから、この調子なら大丈夫かもしれない…そうわたしが思った、次の瞬間だった。
「捉え…きゃっ!?」
『……!』
直上を取った、セイツさんの回転斬り。叩き付けるような一撃は、防がれるけど宙にいた影の高度を落とす事に成功して…直後、影は腕を振った。落ちながら腕を振り…細い何かが、幾つもセイツさんに向けて飛ぶ。
それは、蛇だった。廊下で複数回遭遇したのと同じ蛇がセイツさんに襲い掛かって、仕掛けようとしていた追い討ちを潰す。その隙に影は跳んで、蛇を凌いだセイツさんを蹴り飛ばす。
「…ほら、ディーちゃんがフラグ建てるから……」
「わ、わたしのせい…!?…って、わたしさっきのセイツさんみたいな事を……」
また吹っ飛ばされたセイツさんを更に攻撃されないよう、エスちゃんはセイツさんと影の間を狙うように攻撃。その直前、エスちゃんはわたしにジト目を向けてきて…これ、わたしのせいなの…?セイツさんの時は、勢いでわたしもエスちゃん達に乗ったけど…。
…なんて、緊張感のない事を考えている余裕はない。進路を阻まれた影は狙いをエスちゃんに変えて、急接近からの打撃をエスちゃんが躱せば、影の顔はわたしを見る。即座に影の攻撃が迫る。
「……ッ!」
「ディーちゃん!」
「させっかよッ!」
反射的に、わたしは杖を振る。エスちゃんと似た要領で、杖に鋼の刃を纏わせて、刀状にして影へと振り抜く。
振った刀と影の拳がぶつかって、弾かれる。力負けしたわたしは、無理せずそのまま後ろに転がって距離を取る。わたしを追おうとしていた影だったけど、そこに魔法と射撃が別方向から放たれた事で、攻撃よりも回避を選ぶ。全員から離れるような位置に飛んで…今度は両手から、次々と蛇が宙を飛ぶ。
「皆、気を付けて!この蛇、ここに来るまでの個体より少し強いわ!」
「っと、みたいだな…!獄炎!」
後転から立ち上がったわたしは、飛んできた蛇を小型の魔力障壁で受け止める。障壁を動かす事で床に叩き付けて、杖の刀で頭を突き刺す。続けて飛んできた二匹目は、刺した刀を振り上げて即撃破…しようと思ったけど、触れた瞬間、刀身を噛まれて防がれる。すぐに刀に魔力を流して、電撃魔法で倒したけど…確かに、ちょっと強い。一匹一匹なら楽に倒せる…けど、立て続けに何匹も襲ってきたり、影との同時攻撃をされたりしたら、ちょっと強い程度でも油断出来ない脅威になる。
視線を走らせれば、エスちゃんは杖の代わりに両手に持った二本の苦無で迫る蛇を捌いている。セイツさんは仕掛けてきた内の一匹を掴んで、それを短い鞭の様に振って別の蛇に打ち付けている。そしてグレイブさんは、ウーパが一匹を撃ち抜いて、別の蛇はしゃがむ事で躱して…更にしゃがんだ状態から、ボールを一つ放る。投げられたボールからは、二足歩行の猪の様なポケモンが出てきて…飛んできた蛇を、正面から掴む。握り締めると同時に炎が噴出して、蛇は一瞬で燃え上がる。
「なんでちょっと強いのかしら、ねッ!強化版なのか、それともこのフィールドに強化効果があるのか…!」
「ま、取り敢えずこの影みたいなやつが蛇を作ってたって事っぽいな」
「かもしれませんが、使役してるだけで発生させているのは別の何かという可能性もあります、よ…ッ!」
何故か宙を飛ぶ蛇を、影は次々放ってくる…なんて事はなく、一頻り放った後はまた突っ込んでくる。その狙いはグレイブさんで、ウーパの射撃を躱し、肉薄し…獄炎が横から炎を纏った掌底を放つ。それは一歩影を下がらせ、けれど防御からの反撃で逆に獄炎が体勢を崩して…でもその数瞬で、ウーパが影の懐にまで接近。顔、それも眉間の辺りに向けて指を向けて、超至近距離からの射撃を放つ。
常人離れ…どころか、女神でもぎょっとするレベルのバク転で、影は超至近距離からの攻撃を回避。ただそれでも、影に距離を取らせる事は成功していて…さっきパージした剣を回収し、左右それぞれで順手持ちと逆手持ちを組み合わせた双剣状態に戻ったセイツさんが影を強襲。わたしも回り込んで、援護の魔法を叩き込む。
「くっ…防御を崩す為には連結させたいところだけど、連結状態じゃスピードに対応し切れない…なんて言うと思ったかしらッ!」
わたしの魔法とセイツさんの斬撃を、影は同時に凌ぐ。表情が全く見えないから、これが余裕なのか、それとも何とかギリギリ凌いでいるのかが分からない。ただ、「凌がれている」という事は事実で…わたしもセイツさんも押し切れていない。
けどセイツさんは、それも織り込み済みだった。左手の剣による縦の振り下ろしは、影にバックステップで避けられて……でも避けられた瞬間に、逆手持ちの右手の剣と左手の剣の柄尻同士を連結。振り下ろしの流れから、押し出すように刺突へと移行する。
双刃刀の様になった剣での、両手持ちでの刺突。着地直後にそれを防御した影は防御を崩して…次の瞬間、振り向いたセイツさんから送られる視線。直感的にその意味を理解したわたしは踏み込んで、風の魔法を放つ。突風で、影を吹き飛ばす。
「幾ら力があっても、飛ばすだけなら関係ない…ッ!」
「ナイスアシスト、ディーちゃん!」
打ち込んだ風で飛ばした先にいるのはエスちゃん。苦無から大きな手裏剣に持ち替えていたエスちゃんは、飛んでくる影に向かって床を蹴り、打たずに手裏剣で斬り掛かる。影が上に跳んで避けたところで、身体全体を捻るような動きでエスちゃんは手裏剣を影へと打つ。
飛来する大型手裏剣を、影は蹴って弾く。反撃するように、手から蛇を複数出して襲い掛からせる。…でも、そうはいかない。蛇が見えた時点で、わたしは自分の周囲に鋼の刃…突きに特化した細剣を何本も作り出していて、それを一斉に発射。斜め下から蛇を全部撃ち落として、突き刺しエスちゃんと影の間の空間から押し出して、もう一度エスちゃんをアシストする。
更にわたしのアシストへ、シェアエナジーの弾頭…それに、凄まじい勢いで飛ぶ片手剣が続く。勿論シェアエナジー弾はセイツさんが撃ったもので…片手剣を放ったのは、獄炎だった。知らぬ間にセイツさんから片方を借りていたらしい獄炎が、それをフルスイングしたんだろう体勢になっていて…二つの攻撃を同時に防御した影は、ダメージを防ぐのと引き換えに大きく体勢を崩す。そしてそこに飛び上がるエスちゃんの手にあるのは…柄まで全てが魔力で作られた、氷の大剣。
「今度は…外さないッ!」
すれ違いざまに振り抜かれる、幅広の刃。それは確かに、ここまでで一番深い形で、防御の間に合わなかった影を斬り裂く。そこからエスちゃんは大きく弧を描くようにして着地し、胴体を斬られた影は落ちる。
わたしも接近戦はそこそこ出来るけど、近接格闘だったらエスちゃんの方が上だろうし、経験だってエスちゃんが上。そのエスちゃんが、絶好のタイミングで斬れたんだから、ダメージが入った事は間違いない。でも…何となくだけど、感じる。この戦いは…この影との一戦は、これじゃまだ終わらない…って。
*
「やったわね、エストちゃん」
「ふふっ、これがわたしの実力よ。…と、言いたいところだけど…ギリギリで反応されたわ。結構ダメージは入ったと思うけど、まだ致命傷じゃない」
片方の剣と知らぬ間に手放していた杖、それぞれを拾い上げた二人が言葉を交わす。セイツが微笑めば、エストは勝気な笑みを返して…でもすぐに、真剣な顔に戻る。
確かにエストの言う通り、氷の大剣は影を真っ二つに出来る位のサイズはあった。でも、影は両断されちゃいない。致命傷じゃないっていうのも、斬ったエスト自身が言うなら多分間違っていない。
「そういう事なら……」
同じように真剣な顔をしたディールの頭上に浮かぶ氷塊。先の尖ったそれは、影の方に飛んでいって…押し潰す。ひゅぅ、倒れてる相手に容赦ねーな。
と、思ったが…次の瞬間、氷塊は砕ける。砕けて、倒れて…その下から、髪の長い影が姿を現す。
「傷は…よく分からないな」
「外見からの情報が得られないのって、意外と面倒ね…」
そう言ってエストは軽く肩を竦める。ダメージの具合は分からない…が、氷塊を砕いて立ち上がる体力がまだあるのは事実。こりゃまだまだ苦労しそうだと思いながら、俺はウーパと獄炎に指示を出そうとし…そこで影が浮かび上がる。最初は単に跳んだだけかと思ったが…何か、違う。
浮かび上がった影の周囲に、ドームから赤と黒の粒子が集まる。流れ込むように、影の身体を包み込んでいく。
「これは、もしかして……」
「第二形態に変化のパターンね。ディーちゃん、今の内に一撃ぶつけてやるわよ!」
「そうだね。押し潰すか、貫くか……」
「え…変身中に攻撃する気…?」
二人が魔法で攻撃しようとしているのを見て、信じられないとばかりの顔をするセイツ。まあ、気持ちは分からんでもないが…チャンスだしな、そりゃ攻撃出来るならするさ。つーか仮面のライダーとか、トライなバトル部とか、変身中に攻撃されたりしてるパターンも結構あるしよ。…あ、いや、後者は変身じゃなくて合体中か…まあいいや。
って訳で、俺はウーパと獄炎に攻撃準備を整えた状態での待機を指示。その間に二人は二つの巨大な氷塊を作り出し、二人同時に影…を包んだ球体へ放つ。氷塊は猛烈な勢いで飛び、二つがぶつかり合わない角度で迫り、完全に同じタイミングで直撃し……止まる。
『……っ!?』
目の前の光景に、俺は…いや、俺達は息を呑む。サイズといい速度といい、氷塊が結構な威力を持っていたのは間違いない。それが二つ同時なんだから、仮に受けるのがタイプ的に有利な獄炎だったとしても、俺なら防御ではなく回避を選択していたところ。…それが、その氷塊二つが止まったんだ、驚かない筈がない。
だが、それだけじゃなかった。球体にぶつかって止まった氷塊は、球体を潰す事も、その場で落ちる事もなく…ヒビが入る。球体の内側から、『何か』が掴んで…その先端を、握り潰す。そこから連鎖的に、ヒビの入った場所から氷塊が砕けていく。
そして氷塊が砕けると同時に、暴風が巻き起こるようにして球体が爆ぜる。衝撃に、咄嗟に俺は腕で顔を覆い……腕を下ろすと同時に、目にする。再び現れた、影の姿を。影に包まれたような──巨大な龍を。
「…まさか、それぞれ片腕で掴まれて止められた…?」
「…どうかしらね。でも、さっきまでと同じかそれ以上のパワーがある事は間違いなさそうだわ」
(…龍…赤い粒子……)
身体の長い、蛇に手と脚が生えたようなタイプの龍。ゆっくりと身体を揺らす影の龍を前に、ディールとエストは緊張の籠った声で会話を交わす。
その最中、俺は考えていた。この龍は、何かに似ている気がすると。何か引っ掛かると。だが当然、俺が考えている間、龍がのんびり待ってくれる訳もなく…がばり、と龍は口を開く。次の瞬間、龍の胸の辺りから暗い光が漏れ出し…口の前に、赤い粒子が収束していく。
「……ッ!つるぎ、キングシールドッ!」
本能的に感じたヤバさ。俺は即座にボールを抜き放ち、中のポケモン…剣と盾の姿をした、ギルガルドのつるぎを出す。つるぎに防御の指示を出し、ほぼ同じタイミングで動いたディールがキングシールドの前に青白い障壁を展開する。
その直後、放たれる光芒。収束した赤い粒子は、ビームとなって俺達を襲う。重なったキングシールドと障壁へ直撃し、衝撃と音が周囲に轟く。
「……っ…なんて威力なの…!?」
もし防御が間に合わなかったら全員消し飛んでたんじゃないかと思う砲撃に、セイツが目を見開く。俺もこの攻撃には目を見開いていて…だが俺が驚いたのは、威力に関してじゃない。威力も驚きだが…それ以上の理由がある。
俺はこの攻撃を知っている。この技を、見た事も使った事もある。あぁ、そうだ。これは間違いなく…ダイマックス砲だ。だとしたら、こいつはやっぱり……
「…ムゲンダイナ、か……」
『…ムゲンダイナ?』
「あの龍の名前だ。ちっこい方の姿は何なのかよく分からねーが…この技を使えるのは、ムゲンダイナしかいねぇ」
暫くの間、強烈な光を発し続けた末、少しずつ細くなっていくダイマックス砲。重なる形で展開していた障壁はもう破られていたが、その裏のキングシールドは何とか持ち堪えていて…攻撃が収まったタイミングで、俺は呟いた。今ここにいる、あの龍の正体を。少なくとも、その一部を。
「グレイブ君が知っているって事は…ポケモン、よね?どんなポケモンなの?」
「滅茶苦茶強ぇな、伝説になってるポケモンだしよ。んで、今のはダイマックス砲…ムゲンダイナの得意技みたいなもんだ。それともう一つ、リスクはあるがダイマックス砲より強い技もあるから気を付けろ」
「これより強い技って…リスクありきだとしても、出来れば使わせたくな……」
使わせたくない。多分そう言おうとしたセイツだったが、その瞬間に龍が再びビームを…今度はダイマックス砲より細い砲撃を連射してきた事で、俺達は全員散開。セイツは上に飛び、ディールとエストは左右に分かれて回避する。
俺も俺で、まずは普通に回避。ただまあ俺は三人の様に飛び回って避ける事は出来ない訳で、代わりに皆に迎撃を頼む。ウーパにはビームを撃ち抜いてもらい、獄炎には炎の拳で撃ち落としてもらい、つるぎにはソードフォルム…攻撃形態に変化からの、身体を振っての斬撃で斬り落としてもらう。
『曲射!?』
「火力が高い…けど、図体はさっきよりずっと狙い易いわッ!」
避けた三人を追うように、放たれるビームは直進から曲射へと変化。迫るビームを、ディールはまた障壁で防ぎ、エストは大剣での防御と斬り払いを使い分ける。そしてセイツは…セイツだけは防御に転じる事なく、凄まじい速度で飛びながら、イリゼの様に加速をしながら、避けつつ龍に突っ込んでいく。
大剣状態に組み替えての、急接近からの斬撃。それは龍の身体を軽く裂いた…が、軽くしか裂けなかった。斬られる直前、龍がその場から急加速しての移動をした事で、斬っ先以外は避けられる。
「あ、悪ぃ。言い忘れてたが、ムゲンダイナは素早さも結構高いポケモンだぞ」
「それは先に言ってほしかったわ!ぐぅぅッ!」
「ほんと悪い!だからお詫び…じゃねぇがもう一つ情報だ!ディールエスト、これまでみたいに氷で攻めろ!ムゲンダイナ…ってか、ドラゴンタイプは氷が弱点だ!って訳でウーパ、冷凍ビーム!」
周囲に風圧を巻き起こしながら戻ってきた龍に突進され、大剣で防御しながらも吹っ飛ばされるセイツに謝る。確かにこれは俺が悪い…が、俺も隠してた訳じゃない。そもそもじっくり説明出来ない状況なんだから仕方ない。
水の弾丸から氷の一撃に切り替えるようウーパに言いつつ、俺は走る。もしムゲンダイナそのものなら、氷以外にも幾つか弱点はあるが…二人は氷魔法が得意っぽいし、ならそれで仕掛けるのが一番。
更に俺は思う。ムゲンダイナは強敵だが…ドラゴンタイプの相手って意味じゃ、むしろ幸運じゃないか、と。二つあるタイプの内、その両方でドラゴンの弱点を突ける…ムゲンダイナと同じ「伝説ポケモン」がこっちにも丁度いるんだからな、と。
「っと、サンキューな獄炎、つるぎ。んじゃ…ここからはポケモンバトルといこうじゃねぇか!」
左右から迫ってきたビームをきっちりと防いでくれた獄炎とつるぎに感謝をして、俺は龍の正面に到達。わざわざ前に出たのは、戦術…とかじゃない。出たのは単なる矜持、ってやつだ。相手がポケモンなら、正面切って戦うのがチャンピオンだから、な。
そして俺は、ボールを放る。中から呼び出す。ムゲンダイナが伝説となっているガラルとは別の地方…イッシュ地方の伝説である、キュレムの氷淵を。
「■■■■ーー!」
「まずはこいつだ!氷淵、竜の波動!」
「ヒュルリララ…!」
出てきた瞬間に撃ち込まれる、細い光芒。それを前に、俺は氷淵に指示を出す。氷淵は口を開き、竜の力の籠った紫の光芒を放ち…それぞれの咆哮と共に、赤の光と紫の光が衝突。だがすぐに竜の波動が上回り、一気に押し込む。
「うっし早速一発ヒット!…と言いたいところだが…あんま効いてる感じはねーな…!」
「グレイブ君、援護出来るかしら?それとも、わたしが氷淵の援護をした方がいい?」
「いーや、任せろ。こっちは数で勝負が出来るからよッ!」
撃ち合いで勝ったとはいえ、押し込む中で竜の波動も威力が落ちていたらしく、龍はピンピンしている。だがまあいい。俺だって、今の一発で倒せるなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
氷淵には突撃を、ウーパにはセイツの援護に向かう事を指示。俺自身は獄炎、つるぎと移動しつつ、全体の動きを見る。
「よ、っと。ディーちゃん、わたしも斬り込むから宜しく!」
「気を付けてね…!」
ビームの連射でセイツを追い立てる龍の向こう側には、ディールとエストの姿。ディールは周囲に幾つもの氷塊を作り出していて…エストはまた杖に氷を纏わせる。その状態で床を蹴って、龍の胴体辺りへ突っ込む。
振るわれる氷の大剣は、龍がまた動いた事で空を斬る。…が、エストは悔しがる様子もなく、その理由を示すように、ディールの周囲の氷が次々と飛んでいく。その内半分は外れ、残りの半分も殆どは連射ビームで砕かれる…が、最後の一つは撃退出来ず、龍の横っ面へと直撃。更に龍へ追い縋ったエストが、今度は龍の尻尾の辺りに一撃浴びせ、更に大剣から離した右手で氷弾を撃つ。
宙では氷淵とセイツが同時に攻撃。氷のレールで宙を滑る状態で、氷淵は前に向けた翼から氷の杭を打ち込み、セイツは再び大剣状態の剣で斬る。ディール、エスト、氷淵、セイツ…どの攻撃も龍へと当たり…だが、龍は動き回る。当たってはいるが、ダメージも多分ある筈だが、普通に動いて次から次へと赤いビームを俺達へ放つ。
(ちっこい姿の時点でパワーもスピードも半端なかった分、こっちの姿の方がむしろ戦い易いってところか。特にパワーなんざ、元からまともに受けられるもんじゃなかったしな)
どっちにしろ高パワーなんだから、基本攻撃は避けるって戦法は変わらない。速さに関しちゃ、さっきより速くなってるとしても、さっきの何倍以上も身体が大きくなっている分、むしろ厄介さが減っている…のかもしれない。少なくとも、攻撃を当てるって点で言えば、さっきまでより今の方が楽だろう。
けど、だからって有利な訳じゃない。現に氷系の攻撃も複数回当たっているのに、全く動きが変わっていない。当たってるのに全然当たってる感じがねぇってのは…精神的に、凄く良くない。
「…ま、そういう時は大技が定番だよな。ちょっとずつ削るのも悪くはねぇが、ここは大きいのを一発狙ってみようぜ!」
「同感よ!それで仕留められるかどうかは別にしても、巨体相手に小技を重ねるだけじゃキリがないわ!」
「今のは別に小技ではないんですが…そういう事なら……!」
何か案があるのか、跳んで後退したディールは杖を床に突き立てる。ディールを中心とする形で、足元に魔法陣が現れる。
なんかやろうとしてるって事は、それだけで分かった。だったら、と俺は氷淵に龍の気を引くよう伝え、飛翔するセイツやエストと頷き合う。
「ほぉら、こっちよドラゴン…っと、とぉ…!」
「二人掛かりでも、押し切られるとはね…ッ!」
横から突っ込んだ二人の斬撃が、振るわれた腕とぶつかる。一瞬攻撃は拮抗した…が、すぐに二人は纏めて押し返される。追い討ちの尻尾による薙ぎ払いは、それぞれ上と下に飛んで回避し、二人で龍に付き纏う。ディールの案の為に、時間を稼ぐ。
「獄炎、距離を取ったままじゃ獄炎の力は発揮出来ねぇ。つるぎ、サポート頼むぞ」
「ブルゥ!」
「……!」
俺が言えば、すぐに獄炎とつるぎは別行動に移ってくれる。俺の事を気にして離れないんじゃなく、俺なら大丈夫だと思って離れてくれた…きっと、そういう事だ。へっ、ほんとに頼れる仲間達だぜ。
勿論俺も、完全無防備って訳じゃない。残りの手持ちをすぐ出せるようにしつつも、俺は狙われないよう、龍の視界から外れるように走って氷淵達へ指示を出す。
前衛としてセイツとエストが突っ込んでくれるおかげで、こっちは動き易い。だから俺はとにかく攻撃をぶつけて、龍の邪魔をする。二人に掛かる負担を減らす。
「ニトロチャージだ、獄炎!つるぎの鋭さを教えてやれ!」
攻撃すると共に素早さを上げられるニトロチャージを加速の為だけに使い、つるぎを抱えさせた上で獄炎には懐に飛び込んでもらう。そこから獄炎にはつるぎを投げてもらい、投げられる事で一気に接近したつるぎが腹の辺りへ斬撃を浴びせる。続けてウーパにも冷凍ビームを斬った位置へ撃ち込んでもらった…が、相変わらずな影ボディのせいで、斬った位置へのピンポイント攻撃が出来たかどうかは分からない。
だけどまあ、ぶっちゃけ成功かどうかは二の次。今重要なのは当てられるかどうか、少しでも気を引けるかどうかであり…龍が獄炎とつるぎを身体で押し潰そうとした事からして、結果は成功。獄炎達はギリギリだが龍の下から離脱した事で、回避も成功し……そこで上がる、ディールの声。
「お待たせしました、皆さん!」
「全然待ってないわよディーちゃん!」
「ありがと、エスちゃん!なら、これで捕らえる…!フリージング・テリトリア…ッ!」
間髪入れずに答えたエストの声が合図になったかのように、ディールの足元から一気に広がる魔法陣。輝く魔法陣は、一気に床を覆っていき……次の瞬間、氷の森が生み出される。幹も、枝も…全てが氷で出来た、幻想的な魔法の氷がドームの中に森を作り出す。
「これが、ディールちゃんの……」
「…凄いな、こりゃ……」
「どーよ、ディーちゃんの実力は!…って言いたいところだけど、このチャンスに感動してないでよねッ!」
幾つもの氷の樹が、龍を囲っていく。樹から伸びる枝が、周囲の樹と、或いは枝同士と繋がる事で、龍が動く為の空間を奪い去っていく。
芸術ってのはよく分からないが、この魔法が綺麗だって事は、見た瞬間から思っていた。だがエストの言う通り、今はこれを眺めてる場合じゃない。そして高度を上げていくエストを見て、俺はその狙いを…俺に求められている事を理解する。
「連撃かけるぞッ!」
「えぇッ!」
自身の自由を奪う氷の森を、すぐさま龍は破壊し始める。腕や脚で、尻やビームで、全身で次から次へと樹や枝を壊していく。樹は折れ枝は砕けていく…が、逆に言えば、そうしている間は龍も森から出られない。龍は機動力を封じられ……そこへ、俺達が仕掛ける。
真横から、胴体を狙う形で氷淵が竜の波動と氷の杭を同時発射。光芒からは、ウーパが冷凍ビームで狙撃。更に正面へはつるぎと共に獄炎が突っ込み…踏み切って跳ぶ。同じく上昇したつるぎが、自分の盾を足場にする事で、獄炎は宙でもう一段上がる。そうして真正面、龍の顔の目の前に躍り出て…全力の殴打を叩き込む。
それとほぼ同時に、宙のセイツはシェアエナジーの弾を発射。大剣状態の剣から放たれた、見えない弾が背中へと撃ち込まれ…炸裂する。四方向から、それぞれの攻撃を龍へとぶつけ、龍の身体を遂にぐらつかせ……最後に飛来するのはエスト。
「今度のは、さっきより痛いわよ…ッ!」
真っ直ぐに、落ちるように急降下を掛けるエストの手にあるのは大剣。杖に氷を纏わせた大剣と…もう一つ、氷そのもので出来た大剣。左と右、それぞれの手に大剣を持った状態でエストは宙を掛け…龍の、首を狙う。
まだ龍は氷の森から抜けていない。ディールが更に力を込めたのか、まだ折れていない樹と折れた樹の残り…その両方から再度枝が伸びて、龍の動きを妨害する。
ぐらついた龍の身体。まだ逃さない氷の森。今ここにある、絶好のチャンス。そしてエストが狙う、龍の首元。エストの持つ二本の大剣が輝き、急降下の勢いを全て乗せた斬撃が振るわれ……
──何も無い空間を、斬った。左の大剣、右の大剣…その両方が、龍のいなくなった空間を。
「え……?──な…ッ!?」
大剣が空振りと共に交差する中、エストが見せる茫然とした顔。だが次の瞬間、エストの顔は驚愕に変わり…俺も、気付く。一瞬にして、消え去った龍…だが決していなくなった訳でも、動いて避けた訳でもない事に。氷の樹と樹の間……その空間に、影の様な少女が立っている事に。
「ちょっ、どういう事…くぁ……ッ!」
「……っ、エスちゃん…!」
再び現れた影のパンチ。氷の大剣を手放し、杖の状態を戻しながらガードしたエストは落とされ、すぐさまディールは影に向けて枝を伸ばす。伸ばすが枝はすぐに砕かれ、影は床に着地する。
巨体の龍と違って小柄な影の少女相手じゃ有効じゃないって事なのか、解除され消える氷の森。その中に立つ影は…やっぱり、龍が変化する前の少女で間違いない。
「やってくれたわね…けど、これは何なの…?第二形態かと思ったら最初の姿にって、どこの天魔王よ…」
「ダメージを受けて、変化を維持出来なくなった…って、訳でもないわよね?ダメージも何も、エストちゃんの攻撃は当たってなかった筈だし……」
「…ひょっとして、さっきのドラゴンの姿は別のフォルム…第二形態じゃなくて、フォルムチェンジだったって事じゃないのか?」
「…だとしたら、凄く厄介ですね…自由に切り替えられるなら、状況に合わせて変化する事も、今みたいに緊急回避に使う事も出来る訳ですし……」
思い浮かんだ可能性を口にすれば、三人共表情を曇らせる。そりゃそうだ。一方通行の変身じゃないなら、両方の事を考えて戦わなきゃならねぇんだから。俺だって、凄く厄介だなって思ってる。
……けど、まぁ…凄く厄介ではあるが…別に怖くもないし、勝てる気がしない…なんて事も思わない。何故って?そんなの…俺がチャンピオンに決まってるからだろ。強敵相手に勝って勝って勝ち続けて…色んな強さを体験して、それを乗り越えてきたからに決まってる。だから…これまで通り、今回も勝ってやるさ。それに…皆だって、厄介だなって顔はしているが…どう見ても諦めちゃいないんだからな。
今回のパロディ解説
・「地爆ならぬ、氷爆天星とかか?」、「いやわたし瞳術に〜〜」
NARUTOシリーズに登場する瞳術の一つ、地爆天星のパロディ。特に効果とかはないと思いますが、女神は女神化すると瞳に電源マークの模様(守護女神と女神候補生で若干違う)が浮かぶんですよね。
・仮面のライダー
仮面ライダーシリーズの事。このシリーズは割と、変身中に攻撃を受けたり、その対策が用意されてたりする事もあるんですよね。長期シリーズだから、そういう場面も自然と出てくる…のかもしれませんが。
・トライなバトル部
ガンダムビルドファイターズトライに登場する、トライ・ファイターズの事。具体的には、ビルドバスターズ戦における、トライオン3合体時の事ですね。
・「〜〜どこの天魔王よ…」
ドラクエシリーズに登場するモンスターの一体、オルゴ・デミーラの事。一度目は人型からドラゴン型になる一方、二度目はドラゴン型から人型になるんですよね。二度目は更にその後もある訳ですが。