超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第三十七話 次元と世界を超えた融合

 蛇を使役する、基礎能力が桁違いの少女…の影。その影が変化した、巨大な龍。片や純粋に強くて、片や巨体な分多少はやり易くなったけどやっぱり強敵で、どちらも苦戦した。歯が立たない訳ではないけど、バグの元凶と対峙する前の前座と言うには、少し…いやかなり強過ぎると思うような存在だった。ただそれでも、勝てない相手ではない…そうわたしは感じていた。

 それを狂わせたのは、龍の姿から少女の姿への再変化。ゲームにおける大ボスの定番、第一形態から第二形態への変化だと思っていたものが、任意で切り替えられるそれぞれの姿に過ぎなかったんだという事実。その事に気付いた時、わたしは自分を恥じた。この塔の元々の要素、影の少女の胴をそれなりに深く斬り裂いた斬撃…状況的には『全力の姿』である第二形態に変わったんだろうと判断したくなる要因が色々あったとはいえ、安易な先入観で判断をしてしまった訳だから。そういう先入観を利用した戦術を持ち味とする存在が、わたしのすぐ側にだっているんだから。

 でも、まだ焦る段階じゃない。先入観から判断を誤りはしたけど、まだ致命的な状態ではないし…ここにいるのは、強大な二つの姿が相手だとしても、真っ向からぶつかっていける仲間達だと思っているから。

 

「やらせはしないわッ!」

 

 時に細かく、時に大胆な指示を次々と飛ばすグレイブ君に向けて、頭から突っ込んでいく影の少女へ横から仕掛ける。圧縮シェアエナジー弾の偏差射撃で進む先の空間を潰して、即座に斬り掛かる。

 接近と同時の、左剣での袈裟懸け。ひらりと横に回転する事で避け、お返しとして影が放ってきた殴打をギリギリで躱し、右剣で刺突。跳躍し、わたしの背後を取る形で躱す影を追う形で身体を捻り、脚のプロセッサに装填した圧縮シェアエナジーを解放する事で背後に蹴りを叩き込む。

 

「くっ…力も速度もあるけど…やっぱり、反応速度が並外れてるわね…ッ!」

「けど、全く追い付けないって訳でもねぇだろ?」

「そうそう、やりようはある…ってねッ!」

 

 振り出した蹴りは、交差した腕で受け止められて弾き返される。わたしは体勢が崩れて…でもそこで、影の背後へ獄炎が迫る。炎を纏った突進で肉薄し、そのまま影に肩から突っ込む。対する影は、振り向く事なく真上へ跳んで、空を蹴るように急転換からの突進返しを獄炎に仕掛け……ようとした瞬間に、影をエストちゃんが斬り上げた。…獄炎の背に隠れる形で同じく接近を掛けていたエストちゃんが。

 基礎能力が桁違いの影でも攻撃しようとしていた瞬間に仕掛けられれば対応し切れないようで、防御はされるけど姿勢が崩れる。そしてそこに、青白い光が次々と駆ける。

 

「姿が違うだけで、別の存在になってる訳じゃないなら…!」

「あぁ、氷が有効だろうな!断言は出来ねーけどよ!」

 

 光芒は、ディールちゃんの魔法とウーパの技。その内の一つが影の脚を掠めて、そこから影は凍結し始める。…と、思ったけど、影は腕の一振りで氷を振り払う。更に続く氷の遠隔攻撃を叩き落として、親指と人差し指を立てた左手を向ける。その指の先に光が灯り…光芒が放たれる。スケールは違う…でも龍の姿での砲撃を思わせる、赤黒い粒子の光芒を。

 

「……!今のは、ウーパの真似…か?」

「さぁね、にしても立て直しも早い…!」

 

 ディールちゃんとウーパが飛び退いた次の瞬間光芒は床へと直撃し、爆発。続けて逆の掌を上に向けると、そこから湧く出すように蛇が現れる。

 そう。影は攻撃も防御も単純だから、策を講じて連携もすれば、何とか攻撃は当てられる。けれど立て直しも早いものだから、少しのダメージや多少の体勢の崩れはいまいち意味を為さない。無駄ではないにしも、大きな一撃をぶつける事には繋がらない。

 

「エスちゃん達は攻撃を続けて!蛇はわたしが…!」

 

 言うが早いか、ディールちゃんは攻撃を範囲重視に切り替える。わたしは左右で一発ずつシェアエナジー弾を蛇へ撃ち込んで、それから宙に立つ影へと接近をする。

 連結剣を双刃刀形態に切り替え刺突。避けられれば避けた方向へ身体を捻り、二撃目の斬撃を影へ打ち込む。それを防がれた瞬間、別方向からエストちゃんが斬り込み、わたしとエストちゃんの刃をそれぞれ片手で受けた影と力比べ…の時間は長く続かず、二人同時に弾かれる。間髪入れずに、影はわたしの方を向き……避ける。その直後、斜め上方からの氷の杭が影のいた位置を鋭く貫く。

 

「ま、そりゃ避けるわな…!つるぎ、押し返せ!」

「サポート助かり、ますッ!」

 

 下ではディールちゃんに加え、グレイブ君も蛇を掃討中。つるぎの持つ(というか、身体の一部…?)盾で迫る蛇を立て続けに受け止め、集まったところで離脱しディールちゃんの攻撃に繋げる。ディールちゃんが氷塊で蛇を押し潰し、それを免れた個体は獄炎が炎で焼き、誘い出せなかった個体にはウーパが水流弾で一匹一匹着実に狙撃していく。

 あっちは問題ない。むしろ蛇の掃討の方が早いだろうし、ここは倒すまで持ち堪えた方が堅実…ではあるけど……本当にただ持ち堪えるだけじゃ、女神の名折れ…ッ!

 

「ぶつかり合いなら常に有利…だなんて思わない事ねッ!」

 

 宙でステップを踏むように細かく位置取りを変えながら、エストちゃんが球体を杖から振り出す。飛来する球体は影に触れる寸前で輝き、破裂するようにその内側から氷が突き出る。

 それを紙一重で躱した影の先にいるのはわたし。向こうから来てくれた影に対し、わたしは叩き付けるように二本を振るい…また、両腕で受け止められる。わたしの本気の打ち込みも、影は難なく受け止めて…だからわたしは、仕掛ける。振り出した状態で、受け止められた体勢から…圧縮シェアエナジー弾を、撃たずにそのまま解放する。

 

「今よッ!」

「そう思ってもう配置済みよ!」

 

 殆ど触れているような状態から、解放されたシェアエナジーの爆発を受けて影は体勢を崩す。わたしも同じように姿勢が崩れるけど、衝撃が来ると分かっていた分の余裕で脚を振り出し、影を蹴飛ばす。

 今のは砲身の中で弾頭が爆発したようなもの。普通の銃火器なら一発で火器が駄目になるし相手への衝撃もあまり与えられない、驚かせる程度の効果しかない奇策だけど…わたしの砲撃は、実体のある砲身ではなく、剣を芯に展開したシェアエナジーの砲身で行っている。だから炸裂と砲身の解除が同じタイミングになるよう調整すれば、十分威力のある『攻撃』とする事が出来る。

 そしてわたしが呼び掛ければ、その時にはもう新たな球体をエストちゃんが放っていた。シャボン玉が弾けるように、次々と氷に変わる球体が影を襲い、一歩一歩追い詰める。

 

「後ろへは、退かせない…!」

「待たせたな!氷淵、獄炎。バックアップ!そして…やってやれギルガルド!そのモヤッとしてそうな氷ごと、聖なる剣だ!」

『モヤッと!?』

 

 掃討完了したらしいディールちゃん達からも、絶好のタイミングで攻撃が入る。同じ氷魔法を下方からディールちゃんが放つ事で、完全に影の退路を奪い、下へ回り込んでいた氷淵が床から影の近くまで伸びる、氷のレールを作り上げる。そこへ浮遊しているつるぎが後ろ向きで乗った瞬間、盾を殴る形で獄炎が打ち出し……宙を舞ったつるぎが、その刃が一閃。グレイブ君の言葉通り、ダメージを与えつつ逃げ場を封じた氷ごと影を斬り裂き…狙い通りだと笑うグレイブ君の前に、つるぎは静かに着地する。

 

「モヤっとって…もうちょっとこう、表現の仕方があるでしょ…」

「けどそういう見た目してるだろ?それとも金平糖の方が良かったか?」

「その方がマシだけど、どっちにしろ緊張感がないっての…」

「緊張感云々で言うなら、このやり取り自体あんまり……」

 

 肩を落とすエストちゃんに対し、グレイブ君はあっけらかんとした顔。二人のやり取りに対しては、ディールちゃんが突っ込みを入れ…掛けたところで、残りの言葉と共に緩んでいた空気が消失。

 

「また変化するわよ、皆…って、前より速い…!?」

 

 再び緊迫状態となった理由は簡単、斬られた影が不自然な動きで…起き上がり小法師の様に起き上がり、粒子の球体に包まれたから。宙に浮くかその場かの違いはあれど、明らかに龍の姿へ変化した時と同じ動きで…ただ明らかに、変化の速度が違う。一瞬、ではないものの、包まれてから数秒と経たずにその球体は爆ぜ…少女の影は、巨大な龍の影へと変わる。

 

「結構いい感じに一発入ったと思ったんだが…まだ足りねぇって事か」

「むしろ逆で、大きいダメージが入ったからこっちの姿に変わったのかもしれないわ。最初に変化した時も、エストちゃんが一太刀浴びせた時だった…しッ!」

 

 先と同様、変化直後に放たれたのは超出力の砲撃…ではなく、曲射も交えた多数の光芒。それをわたし達は散開して交わし、二本の柄尻同士を連結。意図的に龍の視界内…だと思う範囲から出ない事で攻撃を引き付けて、その上で双刃刀形態の連結剣を投げ放つ。

 腕のプロセッサに装填していた圧縮シェアエナジーを解放し、膂力に上乗せしての投擲。放った連結剣は、高速回転で迫る光芒を斬り裂きながら龍へと迫り…けれど振るわれた腕で、その爪の一撃で弾き返される。ほぼ同じタイミングで放たれたディールちゃんエストちゃんによる同時攻撃も、逆の腕で防がれる。

 唯一当たったのは、ウーパの冷凍ビーム。ただそれも、氷淵による別方向からの竜の波動を避けた結果なようで、グレイブ君曰く効果抜群との事だけど…巨体故に、どの程度喰らっているのかは分からない。

 

「ディールちゃん!さっきの広範囲魔法、もう一度出来る?」

「出来ます、けどただ同じ事をしても、同じように小さくなって避けられるだけかと…!」

「同感よ!だから今度は…セイツ、試しに取り付いてみてちょーだい!」

「そんな天才チンパンジーにお使い頼むみたいなノリで言わないで!?…けど、試してみる価値はあるわね…!」

 

 急降下から速度を落とさず床に刺さった双刃刀を掴んで引き抜き、低空飛行で接近を掛ける。叩き付ける様な砲撃、ビームの爆撃がわたしを襲い…そこでわたしの頭上に魔力障壁が展開される。どうやらそれはディールちゃんのサポートらしくて、わたしは速度を落とさず避けられるものは避け、それが叶わないものは障壁を頼る事で巨大な龍へと肉薄する。

 迫るわたしへ突き出された爪。素早く、鋭く…でも巨体故に、予備動作は見えていた。分かっていたから、わたしは腕に沿うように、最小限の動きで回避し、龍へと取り付く。

 

「これで…って、わッ…わわ……ッ!」

「ま、そうなるわよねぇ。出来るだけ足止めしてみるから、踏ん張りなさい!」

「わたしも準備に入ります!さっきよりも密度を上げて、短時間でも拘束が出来れば…!」

 

 ヒットアンドアウェイじゃなく、継続的に近接格闘の距離を維持出来れば、龍は反撃出来ない筈。そんな見立てで接近したわたしだったけど、一撃与えようとした瞬間龍が高速での移動を図った事で状況が一変。咄嗟に振っていた双刃刀を突き刺した事で置いていかれる事態は免れたものの、剣を介して身体を固定した事でわたしは思い切り振り回される。くッ…パワーが違い過ぎて、すぐには立て直せない…!

 

(けど…この程度、でぇぇ…ッ!)

 

 柄を両手で握り、わたしは全力で耐える。仕切り直しは考えない。だって皆が、わたしをサポートしてくれようとしてるんだから。

 エストちゃんが足元に杖を突き立てた数瞬後、龍の前方の床から魔法陣が現れ、そこから巨大な氷塊が隆起。頭突きをするように龍が氷塊を破壊すれば、氷塊の後方に構えていたつるぎがキングシールドを展開。鉄壁の守りは、龍の突進でさえも破られる事はなく…だとしてもつるぎが弾かれる。シールドは健在でも、シールドごと押される事で姿勢が崩れ…横転したつるぎとシールドを飛び越える形で、獄炎が龍の懐に飛び込む。火の粉を散らし、炎を靡かせながら床を踏み切り、火炎を纏ったアッパーカットを龍の首元辺りへ叩き込む。

 食い込む、抉り込む拳。それでも龍は止まらない。止まらないけど…勢いは落ちる。勢いを、落とす。

 

「もういっちょかますぞ、氷淵!」

 

 駄目押しとして放たれる、氷淵の重音波攻撃。獄炎が下から首を、氷淵が上から頭部を狙う事で首を折る、詰まらせるような形となり…更にもう少しだけ、勢いが低下。龍自体も氷淵の攻撃を躱そうとしたのか、方向転換の兆候があって、それも減速に繋がっていた。

 連携によって、確かに龍の勢いは削がれた。今ならいける、今しかない。そう叫ぶ自分の直感に従って、わたしは翼を全開に広げる。身体を起こし、右手でしっかりと身体を支えて、左手で連結剣を双刃刀から大剣形態に組み直す。そしてその状態で、装填シェアエナジーを解放する事で加速し、剣を引き抜き……反転と共に、振り抜く。龍の進行方向とは逆に、突き刺し振り抜き龍の勢いもフル活用して…全力で、引き斬る…ッ!

 

「はぁぁぁぁああああああッ!」

 

 相手が自分から刃に突っ込んでくる形な分、ただ斬る以上によく斬れる。その反面、一瞬でも気を抜けば得物を持っていかれそうな程の衝撃と負荷が腕に掛かる。防御以上にキツい。関節がへし折れそうになる。

 でも、ここで耐えてこそ、負荷を捻じ伏せてこそ女神。わたしは声を上げ、目一杯柄を握り締め……長く巨大な龍の胴を、側面から深く斬り捌いた。

 

「パワーとスピードだけでいつまでもわたしを、わたし達を翻弄出来ると思ってるなら…大間違いよッ!」

「こっちも用意が出来ました…ッ!もう一度…今度は更に、捕らえます…ッ!」

 

 執念で最後まで、尾まで斬り裂いたわたしは、脚を振り出しターンを掛ける。巨体を思えば、これだけ捌いても致命傷にはなっていないんだと思うけど…このダメージはきっと無駄じゃない。

 更にそこで、ディールちゃんが言い放つ。さっきと同じように、床に輝く魔法陣が広がって、そこから氷の森が形成される。凍て付く樹が生まれ、青白い枝が次々と伸び、龍を覆う。

 先程のそれは、広い森が周囲ごと龍を囲っていた。けれど今は、龍の正面を中心に、さっきよりも狭い範囲に展開している。狭い分、木々は密集し、龍の進路を集中的に奪い去る。

 

『一斉攻撃(よ・だ)ッ!』

 

 同時に響く、エストちゃんとグレイブ君の声。それに応じる形で、わたしは大剣状態の連結剣から圧縮シェアエナジー弾を放つ。エストちゃんも魔法で精製した氷の大剣四本振りを放ち、グレイブ君の指示を受けた獄炎とつるぎはそれぞれ打撃と斬撃を、ウーパと氷淵は氷の遠隔攻撃を四方向から同時に打ち込む。

 ディールちゃんも、ただ進路を阻んで止めただけじゃない。密集する樹は砕かれながらも突進を受け止め、左右の樹からは鋭利な枝が殺到する。わたし達四人の一斉攻撃が、止まった龍の巨体を叩き続ける。

 一つ一つは決して、巨大な存在に致命傷を与えられるようなものじゃない。それでも波状攻撃は龍を叩き、刺さり、抉って……

 

「■……■■■■■■ーーーーッ!!」

 

──次の瞬間、轟音と共に赤い閃光が迸った。割れんばかりの咆哮と、極大の光芒が轟かせる音…その両方が響くと共に、龍の口から放たれた砲撃が、射線上の氷を一瞬にして消し飛ばす。龍は首を振り、光芒で以って前方を阻む悉くを薙ぎ払う。

 それだけじゃない。これまでは手加減していたんだと言わんばかりに、連射ビームが全方位に向けて撃ち込まれる。曲射によって、位置や角度を問わずに赤い光が乱射される。

 

「……ッ!エスちゃん、皆さん、下がってッ!」

 

 攻撃に全力を傾けていたわたし達は、反応が遅れる。反射的に一発目は斬り払ったけど、わたしの方にだけでも何十もの光芒が押し寄せてきていて……直後、迫っていた光芒は拡散する。わたしに向けてのものだけじゃなく、全てのビームが、乱反射するように分かれて減衰してを繰り返し、その多くがわたし達へ届く前に消えていく。

 それは、ディールちゃんによるものだった。拡散が起こる直接、氷の森は蒸発するように霧状へと変わっていて…その霧が、ビームを拡散させていた。霧自体の効果なのか、霧に見えるのは全てが超々小型の魔力障壁で、それが少しずつビームを垂らしているのかは分からないけど…ディールちゃんの咄嗟にして的確な判断と対応が、龍の反撃を阻んでいた。

 

「はぁ、はぁ…ぎ、ギリギリセーフ……」

「助かったわ、ディーちゃん!でも、大丈夫!?」

「大丈夫、だけど…間に合わせる為に一気に魔力を注ぎ込んだから、流石にちょっと負担が……」

 

 杖を支えに立つディールちゃんへエストちゃんが駆け寄る。ビームの拡散と共に霧も消えていって、今はもう多少減衰するだけで霧の外まで攻撃が届く。そしてエストちゃんが障壁を張りつつディールちゃんを下がらせる中、龍の巨体は消え去り…その中から三度影の少女が現れる。障壁を張ったエストちゃんとディールちゃんに、指鉄砲を向ける。

 

「そうは……」

「させるかよッ!」

 

 二人を狙ったのは偶々か、それとも状態を理解しての事か。どっちだとしても、それを黙って見過ごすわたし達じゃない。

 発射の直前、間に合わせるようにわたしは突っ込み得物を振る。跳んで避けた影へ、ウーパが高圧水流の射撃を連射。更に氷淵が突撃を仕掛け、迫る氷淵の方を向きながら影は宙を飛び回る。わたしは宙での挟撃を仕掛けようとし…床を蹴ろうとしたところで、ふと気付く。

 

「そういえば…グレイブ君!あの影、氷淵にだけは念入りに警戒してるように思わない!?」

「あぁ、俺もそんな気はしてた!氷淵が攻撃する時は、他のは勿論ウーパの冷凍ビームやディール達の氷魔法よりもワンテンポ早く反応してる感じだったしな!やっぱ相性が良いのか、それとも同じドラゴンだからなのかは分からねーけど…!」

 

 やっぱり、とグレイブ君の返しで確信を得ながら、分離させた二振りで連続斬り。三度防がれ、四度目で弾かれ、そこでわたしが飛び退くと同時に、氷淵が竜の波動を付かず離れずの距離で撃つ。躱した影は自分から接近し、迫る影の頭を蹴飛ばすように氷淵も氷のレールから飛び出す。突進と飛び蹴りは、互いに掠め、多分どちらもほぼダメージにはならず…両方すぐに次の行動へ。

 

「それとセイツ!俺からも一つ確認したい事がある!」

「って、言うと…!?」

 

 左剣を真下から投げ放ち、避けさせる事で回避先へ斬り上げを仕掛ける。右剣を片手で振るい、圧縮シェアエナジー解放で影の押し返しに一瞬耐え…捻りを加えた軌道で側転するようにわたしは上昇。回転中に弾かれ落ちてきた左剣を掴み、上下逆さまの状態から影へ斬撃を叩き付ける。

 その最中での、グレイブ君からの言葉。二本をそれぞれ別の形でぶつけながらわたしは返し…グレイブ君は、言う。

 

「セイツ!その距離で、そいつの傷は見えるか!?」

「傷?そんなの、どこにも──」

 

 ない。見たままの答えをわたしは言いかけて…愕然とする。はっきりと見えているのに、見間違いなんじゃないかと見直してしまう。けど…ない。傷痕は、攻撃を受けた形跡は…どこにも、ない。

 

(……っ…まさか、回復してる…!?)

 

 外見が外見なせいで見辛くはあるけど、女神が近接格闘の距離で見えない以上、それはもうないと見て間違いない。そしてそれは…想定し得る中でも、最悪レベルの展開。少しずつダメージの蓄積はさせられていると、そう思ってわたしは…わたし達は戦っていたからこそ、これまで与えていたダメージが全て無に帰しているのだとしたら、とても平常心ではいられない。

 いや…それだけならまだいい。良くないけど、割り切る事は出来る。それよりも、それ以上に考えるべきは…この影の、倒し方。大技を当てる事が困難なこの影を相手に、大技で一気に仕留めるしかないのだとしたら…その時点でも、軽い詰み状態。

 

「くぁ……ッ!」

 

 意識が思考に向いたせいでほんの少し力が緩み、その瞬間にまた弾かれる。追い討ちは何とか躱して、そうしている内にディールちゃんを後退させたエストちゃんが復帰してくれたから、立て直しは出来たけど…このままじゃいけない。回復されているなら、このままじゃ間違いなくジリ貧になる。

 

「エストちゃん、もしかするとこれまでのダメージは……」

「全部回復されてるかもって事でしょ!ディーちゃんならともかく、わたしなら深手を完治させるなんてまあまあ大変だってのに、腹立つ事をしてくれるわ…ッ!」

 

 杖の先から魔力の刃を出力し、左手で短槍の様に振るうエストちゃんは、右手にも忍刀を構えて一槍一刀で影を攻め立てる。わたしも双剣のスタイルで、エストちゃんと共に手数で押す。

 でもわたしの思った通りなら、これはあまり意味がない。それは分かっているけど、今は今出来る事をするしかない。

 

「炎で焼き尽くすとか、完全に凍結させて砕くとかしかないかしら…!」

「それが出来たら苦労しないわね、特に龍の姿の時は…ッ!」

 

 剣と槍とで同時刺突。影は宙でバックステップするように下がって避け、次の瞬間には再接近して膝蹴りをしてくる。それを二人掛かりで受け止めれば、ウーパと氷淵による上と下からの十字砲火が、続けて跳び上がった獄炎とつるぎの打撃と斬撃が影を襲う。わたし達の攻撃も含めれば、三重の同時攻撃で…その全てを、影は躱し切った。身体能力に物を言わせたような、直角的な機動を立て続けに行い攻撃を避けて…両腕を振り抜く。それだけでも風圧が起こり、飛行能力のない獄炎とつるぎが落とされる。わたし達も一瞬動きが鈍り、その瞬間に反撃を受ける。散開しての回避を余儀なくされる。

 

「……!そうだセイツ、さっきの近距離で爆発させるやつ、もう一回やれる!?」

「何か思い付いたの!?」

「その剣突き刺した状態で内側からやれば流石に吹き飛ぶでしょ!龍の姿じゃない今がチャンスよ!」

「結構惨い事考えるわね!?やり方が某対ケイ素生命体用武装じゃない!」

「そもそも斬ったり刺したりしてる時点で惨いでしょうに!」

 

 言われてみればその通りな返答を受けながら、圧縮シェアエナジーを左右同時に、挟むようにして放つ。二振りを大剣状態に連結させ、降下して避けた影に斬り掛かる。

 実際のところ、エストちゃんの言う手段を実行するのは難しい。シェアエナジー弾は剣から出力してるんじゃなくて、手甲部分に装填したものを剣を芯にしたバレルから撃ち出している訳だから、直接内側に放つなんていう芸当は出来ないし、内側に弾頭を食い込ませてから炸裂させられるような状態なら、そのまま剣を振り抜いて相手を真っ二つにする方が早い。

 

(…けど、一か八か試してみる?内側からぶち込む事は出来なくても、例えば突き刺したまま床に押し込んで、そこからありったけ撃ち込めば或いは……)

 

 とても女神らしくない、優美さも気高さもゼロな方法だけど、今はそんな事言っていられないのも事実。それに体力にしろ何にしろ無限じゃないんだから、可能性があるならまともに動ける内にやった方がいい。上手くいくかどうかは分からないとしても、他にも案がない今であれば、やってみる価値は……そこまでわたしが考えたところで、下方から響く声。

 

「…よし、作戦会議だ!セイツ、頼みがある!」

「頼み…?」

「今から俺は、勝つ為の作戦会議をする!だから…時間稼ぎを頼む!」

「勝つ為の……えぇ、分かっ…って、えぇ!?」

 

 決めた!とばかりに声を上げたグレイブ君からの、問いではなく断言。頼めるか?じゃなくて頼む、って言い切る辺りは何ともグレイブ君らしくて…元々イリゼから人となりを聞いていた事もあって、分かる。その言葉が、無根拠なものではなく、彼なりに可能性を持った上でのものなんだと。

 だからわたしは、小さく笑みを浮かべながら頷…こうとして、気が付いた。作戦会議の為の時間稼ぎって…わたし不参加なの!?それは決まってるの!?

 

「任せたわよ、セイツ!」

「ちょっと!?ね、ねぇわたしは!?まさかわたし、作戦会議に出ても役に立たないお馬鹿キャラだとでも思われてるの!?」

「いやそういう事じゃねぇよ。だが、向こうが作戦会議の間待ってくれる訳がねぇし、二人には訊きたい事がある。それに……あいつと真正面からぶつかって持ち堪えられるのは、セイツしかいねぇだろ」

「…口が上手いわね、グレイブ君。女神が人にそんな事を言われたら…応えるしかないじゃない…!」

 

 にぃ、と口角を吊り上げるグレイブ君。女神の在り方、性を理解しての事なのか、そうじゃないのかは分からないけど…彼は今、わたしを頼りにし、期待もしてくれている。なら、それに応えるのがわたしであり…女神ってもの。

 置き土産としてエストちゃんが放った氷塊を影が避ける中、わたしは一度着地。得物を双剣に戻して、仕切り直すように軽く振る。難なく氷塊を躱した影をしっかりと見据えて…そのわたしの左右に、ウーパ、獄炎、つるぎが並び立つ。

 

「援護を頼んだぜ、皆?…セイツ、指揮は出来るか?」

「当然。それじゃあ皆、少しの間…わたしに手を貸してもらうわよ!」

 

 一人で時間を稼ぐつもりだったわたしにとって、これは何ともありがたい味方。氷淵がこっちに来ない理由は…多分、作戦会議に関わっているんだろうと思う。

 さて…時間稼ぎとはいえ、半分近い戦力が離れた以上、ここからは一層厳しい戦闘になる。でも…だからってわたしが怖気付くと思う?変に気負うと思う?…まさか。ここに来て、腰を据えるような作戦会議をって事なら、きっと終わった時には勝利への筋道が見えている筈。なら…それに期待をして、全力でその為の時間を作るまで…ッ!

 

 

 

 

 いきなり作戦会議って聞こえた時には、急に何を…と思ったけど、闇雲に戦っても勝てそうにないのはもう分かってる。会議の為の時間を作れるならそうした方が良い訳で、わたしはセイツに任せて後退。ディーちゃんのいる所まで下がって、それで?…と同じく下がったグレイブに訊く。

 

「まずは確認したいんだが、二人共まだまだ戦えるか?」

「見ての通り、まだいけるわ。ディーちゃんも少しは回復した?」

「うん、もう大丈夫。…作戦会議と言っても、一から話そうって事ではない…ですよね?何か思い付いたんですか?」

 

 それなら良かったと返すグレイブに、ディーちゃんが尋ねる。わたしとしては、訊くまでもなくそうじゃないだろうと思っていたけど、ちゃんと訊く辺りは真面目なディーちゃんらしくて……けれどグレイブは、首を横に振る。

 

「いや、そんな思い付いてない。向こうの反応からして、何となく氷淵が勝利の鍵になりそうな気はするんだけどな」

「そんなふわっとした程度でセイツさんに時間稼ぎを任せたんです…?」

「即断即決ってやつだ。迷ってる間も戦いは続くし、良い案を思い付いても疲れ切ってちゃ実行出来ねぇ、そうだろ?」

 

 完全に見切り発車だったらしいと分かってわたしは呆れる…けど、続く言葉はまあまあ筋が通っていた。…あー…こういう行動は無茶苦茶なのに頭は回るタイプって、結構厄介なのよね…。

 

「…エスちゃんもどっちかって言うとそっちのタイプだよね…?」

「え?わたしはちゃんと筋道立てて行動してるじゃない。まあ偶に説明を後回しにする事もあるけど」

 

 偶に?…っていう視線を、ジト目を向けてくるディーちゃん。それにわたしが「それより会議よ会議、向こうも頑張ってくれてるんだから」と返すと、ディーちゃんはちょっと不服そうだったけど頷いて、わたし達は話に戻る。

 

「こほん。ならわたしもちょっと思い返してみたんだけど、あの影が傷を回復させてる瞬間ってこれまでに見た?」

「うん?それは…見てないな」

「シルエットみたいな見た目のせいで分かり辛いけど、わたしも見てない…と、思う」

「そうよね?けど、実際のところ回復はしてる。ってなると、可能性としてあげられるのは三つよ」

 

 三つ、と言ってわたしは指を三本立てる。ありそうだって思ってるのは、三つ中一つだけなんだけど…とにかく順番に言っていく。

 

「まず一つ目は、意識してなきゃ分からない位の超スピードで回復してるって可能性。でも確か、セイツがさっき胴体を思いっ切り斬った時は、傷が残ってたと思うのよね。少なくともわたしが見た瞬間はあったんだから、これはない。で、二つ目は回復してるんじゃなくて、魔法か何かで傷が見えないようにしてるだけって可能性だけど…それなら流石に、ダメージとか損壊で動きが鈍る筈なのよね。まあ、仮想空間の存在だから、現実の当たり前が通用しない可能性もあるけど…それを言ったら色々キリがないし、取り敢えずこれもないって事にしておくわ」

「…じゃあ、三つ目は?」

「…変化の最中、或いはもう一方の姿になっている間に回復…って可能性よ」

 

 そう言った上で、わたしは更に後者を押す。前者は少女の姿からドラゴンの姿になる間は明確に「姿が見えない」状態があるけど、ドラゴンから少女の姿になる時は違うし、確かドラゴンの姿も二度目に現れた時は傷がなかった筈だから、この線は薄い。

 少女の姿の時はドラゴンの姿の傷が、ドラゴンの姿の時は少女の姿の傷が、ゲームで言う控えメンバーみたいな感じで回復している…そういう事なら、回復中の姿が見えなくたっておかしくはない。

 

「つまり、エスちゃんの考えは、変化を封じる事が出来れば、回復させずに押し切れるかも…っで事?」

「そういう事。その上で提案だけど…姿がドラゴンに変わる時って、毎回周りの粒子を取り込むようにしてるわよね?なら、それが尽きたら…っていうかなくしちゃえば、いけると思わない?」

 

 こくり、とディーちゃんに頷いて、これならどう?と訊く。もしかしたら…っていう仮定に過ぎない事を前提にした作戦だけど、今のままただ戦うよりはずっとマシ。それに少なくとも、ドラゴンの姿になる時は粒子を引き寄せてるんだから、その粒子を消し去る事が出来れば、変化だけでも封じられる筈。…そう、思っていたわたしだけど……

 

「いーや、そりゃ厳しいだろうな。なんせ、あの粒子は無限か、無限に思える位大量っぽいからな」

「…そう思う理由は?」

「蛇がちょっと強い理由の話をした時、エストがこのフィールドの効果かも、って言ったろ?それはあるかもなって思って、あの後俺は皆にドームへの攻撃をちょいちょい指示してたんだよ。けど、それなりにやって散らした筈なのに、全然減ってる様子がねぇ。てか、影が取り込んだ後も、全くドームの状態は変わってねぇ。って事はつまり、無限かそれに近いかって事じゃねぇのか?」

 

 無限じゃないにしても、消し飛ばすのはかなり難しいだろう。そう締めたグレイブの言葉に、わたしは黙る。そういう事なら仕方ない…けど、そうなると変化を封じるのも困難になるって訳で、正直聞きたくなかった事実。聞いてなきゃ失敗する作戦を実行しちゃっていた以上、文句はないけど…なら、どうすればいいのって話。

 

(変化させない方法…球体になったところで凍結させる?…いや、中から砕かれて終わりでしょうね…だったら粒子を取り込もうとしたところで、粒子の流れを障壁が何かで堰き止め…って、流石にそんなんじゃ無理でしょ…影がドームに密着する形で変化しようとしたら止められないし……)

 

 色々思い付きはする。でも、全部即自分で却下してしまえる程、上手くいくビジョンが見えない。いっその事、ほんとにセイツにシェアエナジー弾で吹き飛ばしてもらうか、その時わたしも一緒に魔力の刃を突き刺して、その魔力を爆発させるのが一番現実的なんじゃないかと思う位、良い案が出てこない。

 どうもそれはグレイブも同じなようで、頭を捻っては違うな、とかこれも無理だ、とか呟いている。もう会議は停滞状態で、だったら一度戦闘に戻って、セイツ達の負担を減らした方が…そんな風にわたしが思い始めた時、黙っていたディーちゃんがぽつりと呟く。

 

「…ねぇ、エスちゃん、グレイブさん。影って、これまで立て続けに変化する事はなかった…よね?変化したら、暫くははそのままだったよね?」

「うん?…そういやそうだな…」

「それって、偶々なのかな?それとも…すぐには再変化出来ない、しない理由があるからなのかな…?」

「それは……あ」

 

 尋ねるような、でも何かに気付いてるようなディーちゃんの問い掛け。それを受けて、わたしも気付く。ある可能性に、思い当たる。

 一回変化をしたら、再変化…前の姿になるまでは、一定の間隔が必要なのかもしれない。その可能性も、勿論ある。でも、出来ないじゃなくて、しない…って可能性も、あるように思える。──もしも回復が、瞬時に済むものじゃないとしたら?回復にはそれなりに時間が必要で、十分な時間無しで再変化した場合、傷が癒え切ってない状態になってしまうんだとしたら?或いは、どっちかじゃなくて……回復し切るまでは、再変化自体出来ないとしたら?

 

「…あるかもしれねぇな」

「同感よ。けどその場合、まず大ダメージを叩き込んで、変化を誘った上で、変化後の姿にも即大ダメージを与えなきゃいけないわよね?」

「ううん、それだけじゃないよ。少女の姿は攻撃自体当て辛い事を考えると、即大ダメージを与えなきゃいけない変化後はドラゴンの姿の方にしなきゃいけないし、ドラゴンの姿は大きいから、特に強い大技か、大技を連続してぶつけるかしないと、倒すのは厳しいと思う」

「一歩前進だけど、進んだ結果でっかい障害が見えてきたってパターンね…」

 

 折角良さそうな案が出てきたのに、とわたしは頭を掻く。実現不可能って訳じゃないけど、結局難しいのは難しい訳で…そこで今度は、拳で手を叩く音が聞こえてくる。

 

「そういう事なら、問題ねーな。むしろ、俺が何となく感じてたものとぴったりじゃねぇか」

『ぴったり?』

 

 今度こそ何か策がありそうなグレイブの面持ち。ぽふり、と氷淵の頭を軽く撫でたグレイブは、それからわたし達二人を見て…ある考えを口にする。グレイブ曰く、氷淵とわたし達…わたしとディーちゃんだからこそ出来るかもしれない、とびきりの考えを。

 

「…それ、本気で言ってるの?」

「おう、本気だ」

「偶然の一致というか、その程度の共通点じゃ上手く行く気がしないんですけど…」

「かもな。けど、人生はチャレンジだ、って言うだろ?俺はそれ言った人物に会った事ないけどよ」

 

 ただの思い付きレベルに過ぎない事を、こうまで言い切れる自信はどこからくるのか。本当は根拠があるのか、それともそういう性格ってだけか。…ただ、まあ…もし本当にやれるんだとしたら…どの程度上手くいくかは分からないけど、可能性があるなら…やってみても、良いかもしれない。

 

「…はぁ、分かったわよ。けど、氷淵がどうなっても知らないわよ?」

「気にすんな、氷淵は柔じゃねぇし…むしろ二人こそ、パワー全部持ってかれねぇよう気を付けろよ?」

「そこまで言うなら、わたしもやるだけやってみます。じゃあ取り敢えず、決まった事をセイツさんに……」

「……!ディーちゃん!」

 

 伝えよう。そうディーちゃんが言い掛けたところで、タイミング良く(?)セイツがわたし達の方に吹っ飛んでくる。思い切り飛ばされたのか、女神のわたしでもぎょっとするレベルの勢いで…魔法で上手い事、安全に受け止めるのは間に合わないと思ったわたしは、咄嗟にディーちゃんを呼ぶ。ディーちゃんと二人で、セイツを受け止める。

 

「……っ…!セイツさん、お怪我は……」

「大丈夫、軽傷よ…軽傷だけど…わたしこれで、吹っ飛ばされるの何回目よ……」

「いやそれは知らないわよ…」

 

 二人掛かりでも踏ん張らなきゃ止められない程の衝撃を何とか受け止めて、勢いを殺す。腕を回して、しっかりとセイツの胴を掴んで……結果感じる、大きく柔らかい感触。…くっ…おねーさんもそうだけど、元からそれなりにあるのに、女神化すると更に一回り大きくなるなんて、そんなのズルくない…!?

 

「あ、あの…エストちゃん…?なんか段々、手の力が強くなってるような……」

「あー、悪いわねセイツ。それと作戦が決まったわ。今から勝つ為の準備をするから、もう少し持ち堪えて頂戴」

「また!?ちょっ、流石にそれはちょっとキツい……」

「おねーさんのおねーさんなんだから、それ位はしてみせてよね!ほら、沢山たっちしてあげるから…!」

「痛たたたた!いや、たっちって言うか握り締めてる、握り潰そうとしてるじゃない!…あ、でも回復はしてる……」

 

 無茶振りだって自覚はあるし、せめてものサポートとしてわたしは端的に作戦を伝えながらセイツを癒す。…え、私怨が混じってる?局地的に攻撃してる?…まっさかー、気のせいよ気のせい。セイツだって回復してるって言ってるし。

 

「はい回復完了!頼んだわよセイツ!万が一の事があっても、今度はディーちゃんがあたふたしながらふっかつだよってしてくれるから!」

「出来れば蘇生が必要になる前に何とかしてほしいんだけど!?あーもう!だったらこの借りはデートで返してもらうからね!」

「え、借りも何も、皆で勝つ為の策なんだけど…」

「あぁ、つれない…!」

「仲良いなぁ、二人は」

「いや、まぁ、なんというか…はは……」

 

 思いっ切り冷めた声を出してみれば、セイツは不満そうな顔をして…けれど床を蹴り、ウーパ達の攻撃を防いで反撃していた影へと向かって飛んでいった。…無茶振りしても全力で応えようとしてくれる辺りは、ほんとおねーさんの姉よね。……さて。

 

「セイツ達に無理させてるんだから、こっちも最速で準備を整えるわよ」

「わっ、切り替え早い……けど、そうだね」

「だな。んじゃ…やるぞ!」

 

 杖を構えるわたしとディーちゃん。斜め前に立つ氷淵。そこからわたし達は、力を溜め始める。力を溜め、意識を集中させる。

 これからやるのは、これまでに経験のない事。上手くいくかどうかも怪しい作戦。だとしても、やると決めた以上は…やる。

 

「つるぎはウーパの前に!ウーパはつるぎに防御を任せて狙撃!セイツ、ちっとばかし獄炎下げるぞ!獄炎、ニトロフルチャージだ!本気の速度を見せてやれッ!」

 

 会議自体は終わった事で、グレイブはポケモンの指揮に戻る。やっぱりトレーナーの彼の存在は大きいのか、グレイブが指揮に戻った事で、ウーパ達の動きと連携がさっきまでより機敏になる。ただそれでも、減った戦力で持ち堪えるっていうのは厳しい訳で……癒したセイツの身体に、また細かい傷が出来ていく。

 だとしても、焦る訳にはいかない。無理を強いているんだからこそ…一発で成功させる事が、わたし達の使命。

 

「…ふー、ぅ…(難しいのは、ここからね…)」

 

 ゆっくりと息を吐いて、次の段階へと移る。構築した即席の魔法を氷淵に向けて展開し、わたしと氷淵との間に力の経路を形成する。

 取り敢えず、ここまでは上手くいった。でも、わたしの感覚が確かなら、今作った経路は脆い。多少知っているとはいえ、わたしにとっては色々未知な存在を相手に、単なる強化や回復とは違う力の供給をしようって言うんだから、徹底的に補強と最適化をしなくちゃ、簡単に繋がりは途切れる。

 求められるのは細かい作業。わたしの魔法使いとしての感覚をフル回転させて、わたしは繋がりをより強固に、途切れないものに変えていく。

 

「…冷気…順調みたいだな」

「順調なんて、簡単に言わないでほしいけどね…」

「…でも、出来る…そんな気がする……」

 

 ディーちゃんの声に、小さく頷く。半信半疑で始めた事だけど…わたしにもそんな感覚がある。わたし達次第で上手くいく、そんな気がする。逆にいえば、わたし達の実力が足りなかったりヘマをしたりすれば、失敗に終わりそうな気もするんだけど…そこについては、何も不安なんてない。だって、わたしとディーちゃんだもの。わたし達なら、上手くやれるに決まってるじゃない。

 

(そう、わたしとディーちゃんなら……!)

 

 心にある自信、確信、そして信頼。それを信じて、わたしは経路を完全なものに、完璧なレベルに完成させる。セイツ達が作ってくれた時間で、勝つ為の準備を…完了させる。

 

「……っ!いけるわよ、グレイブ!」

「こっちも大丈夫です!」

「よっしゃあ!だったらまずはエストからだ!やるぞ、氷淵ッ!」

 

 その瞬間、グレイブが声を上げ、氷淵が吼えた次の瞬間、氷淵の背後に魔法陣が現れる。魔法陣は輝いて…わたしの力が、凄まじい勢いで吸収され始める。

 力を貸すとか、分けるとか、そんなレベルじゃない。気を抜けば根こそぎ吸い尽くされて意識も消し飛びそうな程の吸収が、経路を介してわたしに掛かる。覚悟していたとはいえ、相当な負担で…それをわたしは、気力で耐える。耐えて、氷淵に与え続ける。

 それに、これまでとは違うエネルギーに気が付いたのか、わたし達の方を見る影。横から突っ込んだセイツの攻撃を躱して、一直線にわたし達の方へ…氷淵の方へ突っ込んでくる。構えも何もない、ただ速いだけの…ただそれだけなのに桁違いな殴打と共に氷淵に迫って、対する氷淵は避ける事も構える事もせず、わたしからの力を受け続け──

 

 

 

 

「──ヴァーニキュラムッ!」

「……!?」

 

 巻き起こる衝撃、散る氷片。影の拳は、確かに氷淵の身体に当たって……そして、止まった。…氷淵が、受け止めた事で。左の腕で、そこから床に伸びる氷を支えにする事で…拳を掴んで、真正面から受け止める。

 

「……──ッ!来た、キタキタキターッ!そうだよこれだよ、この姿だよッ!さぁ見やがれ影ッ!やってやれ氷淵ッ!これが氷淵の…キュレムが真実の龍炎を纏った姿!それをエストが再現した存在!その名もホワイト…いいや、グリモアキュレムW(ホワイト)ッ!」

 

 高揚感に満ちた声をグレイブが上がると共に、氷淵が再び吼える。途端に吹雪みたいな冷気が影を襲って、影は後ろへ素早く飛び退く。

 それを追い立てる氷淵の姿は、これまでと違う。身体が前に伸びていたこれまでと違う、上体を上げた姿で、身体を支える脚もこれまでよりがっしりとしていて…何より違うのは、左半身を中心に揺らめく炎。氷の身体を燃やす事も、逆に消される事なく共存する炎が今の氷淵にはあって……下がる影に、氷淵は追い付く。左腕を叩き付け、影は横に跳んで躱し…振るわれた腕の軌跡から、炎が燃え上がる。それが影の身体を掠めて…燃え移った箇所が、一瞬の内に凍り付く。

 

「逃がすかよ…竜の波動!」

 

 それでも距離を取る影に対して、氷淵は竜の波動で薙ぎ払う。続けて両腕から伸びる翼の様な部位から氷の杭を次々と放って、それ等は床や粒子のドームに当たった瞬間その場に炎を巻き起こす。勿論、相性的な面もあるんだろうけど…わたしの力を得た氷淵は、単騎で影を追い詰めていく。…わたしの力を、ごっそりと持っていきながら。

 

「調子に乗らないで、さっさと決めてよね…!」

「あぁ、分かってるさ!ウーパ、狙い撃ち!つるぎ、キングシールド!獄炎…大地、創造ッ!」

 

 燃え盛る氷に押されながらも、影は反撃の機会を狙っている。動きからしてそれは分かる。…でも、そのチャンスは訪れない。一対一ならともかく…今戦っているのは、氷淵だけじゃないんだから。

 氷淵が振るった右腕から飛ぶ氷の刃を回避した先、影が着地をした瞬間を狙った、絶妙な連携。撃ち込まれた水の弾丸が着地の瞬間の、どうしても体勢が崩れ易いタイミングを的確に狙って、姿勢を崩しながらも離れようとした先を防御の壁が先回りで塞いで、叩き付けられた拳に呼び起こされたような巨岩の杭が、影を弾く。防御しても抑え切れない衝撃で、影を飛ばして…そこへ氷淵が肉薄する。左腕で掴んで、氷と炎を同時に浴びせながら、影を真上に投げ放つ。

 

「続けて頼むぜ、ディールッ!──氷淵の持つ姿は、これだけじゃねぇ!キュレムのもう一つの姿、理想の龍雷を纏った姿も!それをディールが再現した存在も見せてやる!フォルムチェンジだ氷淵ッ!迸れ、グリモアキュレムB(ブラック)!」

 

 一気にドームの頂点付近まで影が飛んでいく中、わたしは一度経路を閉じて、ディーちゃんと交代する。わたしの時と同じように、今度はディーちゃんの魔法陣が展開して、輝いて、ディーちゃんの力を氷淵が取り込んでいく。直後にディーちゃんはふらついたけど、そこからしっかりと床を踏み締めて、氷淵へ力を流し込む。

 そうして変わる、氷淵の姿。溶けるように炎は消えて…代わりに電撃が宙に走る。腕の翼と入れ替わるように肩口から翼が現れて、右腕と右翼に雷が走る。氷が雷を、雷が氷を煌めかせて…咆哮と共に氷淵が右腕を振るえば、雷電が影に向かって飛ぶ。一瞬で放たれた雷が影を撃ち抜いて、そこから再び氷結する。

 

「逃がさないと言ったろッ!」

 

 動こうとした、氷淵の真上から離れようとした影に向けて、掲げられた左腕から氷塊が飛ぶ。氷塊が次の行動を阻んで、その隙に氷淵は飛翔する。力強く、一気に影へ迫っていく。

 距離が縮む中、これまでの攻撃で身体が凍結していく中、影が氷淵に向けた腕。その手は指鉄砲の形を取っていて……けれど、撃ち込まれた光芒は当たらない。発射の寸前にセイツが撃ち込んだシェアエナジー弾の炸裂が腕を揺らして、狙いを逸らして、粒子の光は紙一重の位置を駆け抜ける。

 そして至近距離に踏み込むと共に、氷淵が向ける右腕。大きく広げる翼。その瞬間、閃光が迸って……轟く氷が、影の身体を埋め尽くす。

 

「どうだ!これが氷淵の力だッ!」

「やるじゃない、皆!…でも、ここからよッ!本当の勝負は……」

「分かってるよ!だから……」

 

 雷鳴を響かせ冷気を放ちながら、何度も影を叩いた氷と雷。氷淵が飛び退いた時、影の身体の大半は凍り付いていて、そのまま身動きもせずに落下して……風が吹き込むように、旋風が巻き起こるように、ドームから粒子が影に流れ込む。球体になって、姿が見えなくなって…それが爆ぜると共に、巨大な龍に変貌する。…傷のない、完全な状態の龍の姿に。

 龍が叫びを上げる中、グレイブは振り返る。まだやれるかと訊くように…じゃ、ないわね。まだやれるよな、と一方的に笑みを浮かべて、見やってくる。その自信満々っぷりにちょっとだけ呆れながら…わたしは当然だと強く返す。ディーちゃんも、強い眼差しを浮かべて頷く。

 ついさっき、わたしは経路を閉じた。でも閉じただけで、切断した訳じゃない。だからわたしはもう一度開いて、もう一度力を流し込む。今度はわたしのじゃない、ディーちゃんのでもない…わたしとディーちゃん二人の力を、二人揃って氷淵へ届ける。

 

「さぁ、クライマックスだ!これまでは再現だった、氷淵が元から持ってる力を出しただけだった。けど、こっからは違ぇ!こっからは龍氷と女神と魔導の融合…氷淵とディールとエストの力だッ!頂点ぶち抜けッ!グリモアキュレム……」

G(グレイ)S(スノー)ッ!!』

 

 宙に立つ氷淵が上がる、三度目の咆哮。わたしとディーちゃん、二つの魔法陣が重なって、二つの光が氷淵を包んで、更に氷淵は変化する。再び腕にも翼が伸びて、炎が灯って…左には氷炎を携え、右には氷雷を構えた新たな姿となって、龍の前に顕現する。

 対峙する二つの龍。氷淵は龍を見据えて、多分龍も氷淵を睨め付ける。次の瞬間、龍は極大の粒子ビームを放って…氷淵は、舞い上がるようにして躱す。広がった尻尾から炎と雷を噴射しながら、龍より高い位置に飛び上がる。

 それを追うように放たれた、無数の光芒。殺到する光を前に、氷淵は何も動じずに…グレイブが、言う。

 

「凍える世界の中で、そんなもんが届くかよ。氷淵、フリーズドライ」

 

 静かな声音でそう言うと共に、氷淵から濃密な冷気が広がる。それに触れた瞬間、ビームの全てが凍り付く。一瞬で、力が逆流するように凍っていって、逆に氷が龍の身体に到達をする。

 それだけじゃない。床も、周囲の空間も、龍の周りが一斉に凍結していく。龍がどれだけ巨体でも関係ないとばかりに、氷の世界へと変えていく。そしてグレイブは腕を振り上げ…振り下ろす。

 

「グリモアキュレムの一撃を、最大最高の技を…喰らい、やがれッ!炎天雷光…絶氷ッ!境界ッ!!」

 

 響く声に応えるように、氷淵は腕を、翼を広げる。左翼には炎が、右翼には雷が輝き、氷淵の正面にわたしとディーちゃんの重なった魔法陣が現れる。

 集まる力、収束する光。氷淵自身を軽く包めてしまいそうな輝きが、氷淵の前で煌めいて…そして、極光が如き光芒として放たれる。目標に向けて、龍に向けて。

 力を送ったわたし自身も、思わず目を見開いてしまうような閃光。氷と、炎と、雷と、魔力が混ざり合って一つになった、眩い光そのものが、龍を燃やして、貫いて、凍て付かせる。余波の様に膨大な冷気を放ちながら、龍も視界も真白く染める。完全に…飲み込む。

 

「…壮観、ね」

「…うん」

 

 わたしは呟く。ディーちゃんも答える形で小さく言う。光は強く、激しく、綺麗だった。自分で言うのもアレだけど…とにかく凄かった。

 照射され、その巨体に沿う形で放たれていった光は、頭から尾まで全てを撃ち抜くまで消えなかった。たっぷりとその光を、力を浴びせ続けて、飲み込み続けて……

 

「■ッ…■■……■■■■…っ!」

 

……それでも、龍は倒れなかった。ボロボロで、今にも崩れ落ちそうな程で、これまではあった威圧感が見る影もなく…そんな姿でも尚、まだ健在だった。光が消えた時にあったのは、尚も宙に存在する龍の姿だった。

 

「…おい…おいおい、嘘だろ…氷淵の、グリモアキュレムの最大の一発だぞ…それを、耐えるなんて…耐えられるなんて、そんなタフな相手を倒す事なんて……ッ!」

 

 まだそこにある龍を前に、グレイブが零す唖然とした声。ここまでの、全くもって揺るがなかった自信が、心が折れたかのような、震える声をグレイブが出す。そしてその中で、そのグレイブを見下ろすようにしながら、龍は最後の力を振り絞るように渦巻き……

 

「……なーんて、なッ!」

 

──グレイブが、笑う。わたしの位置からは見えないけど、多分…いや間違いなくしてやったりとばかりの笑みを浮かべて、まだ手があるんだと声で示す。

 そう。わたし達の用意した手は、これだけじゃない。まあこれで倒せるとは思っていたけど、より確実に、絶対の勝利を現実にする為に、わたしもディーちゃんも思いっ切り力を持っていかれながら、少しだけ余力を残していて…それをもう、届けていた。宙で翼を、翼の様に掲げた二振りの剣を広げた、完全に準備を整えたセイツに。

 

「セイツさん!」

「決めなさい、セイツ!」

「さっき言ったダイマックス砲以上の技をやろうとしてやがる!だからその前に、やっちまえセイツッ!」

「えぇ、わたしが…終わらせるわッ!」

 

 爆ぜるシェアエナジーの力を受けて、セイツは舞う。その手に持つ二つの刃、それぞれにわたし達の力を纏って…双剣を巨大な二本の氷剣に変えて、龍に迫る。

 渦の様になった龍に収束する赤黒い光。最後の力と言うにはあまりにも強過ぎる、そう感じる何か。けどそれが放たれる事は、輝く事はない。加速する、加速を続ける、宙を疾駆するセイツは、わたし達の言葉を受けて、言葉に応えて、力を解き放とうとする龍に肉薄し……二本の刃を、振り抜く。

 

「真巓解放・信頼…交凛雪華ッ!!」

 

 無防備だった、きっと防御をする余裕も余力もなかった龍を斬り裂く氷剣。セイツの全身全霊を込めた一撃が、二振りの双撃が、放たれようとしていた龍の最後の攻撃を止める。止めて、刃は深く、深くに食い込んでいく。

 そして氷剣は、炸裂する。龍の巨体を斬り裂いて、巨大な刀身から光を放って、炸裂と共に内側から氷の破片を舞い上がらせる。破片といっても、一つ一つが半端な剣以上の大きさを持つ刃の数々で、龍の身体を刻んでいく。もう力尽きかけていた龍に、最期の時を与えていく。

 斬り裂いた後の、立っていく氷はまるで花びら。それがセイツと龍の周囲を舞って、降りていって……最後の氷片が、雪の様になった氷が床に落ちて消えた時、龍の姿も消えていた。

 

「…つっ…かれたぁ……」

「わたしも……」

 

 完全にいなくなった事を、倒せた事を確信して、わたしはその場に座り込む。女神化を解いて、同じように座り込んだディーちゃんと、背中を肩を預け合う。

 

「よう、セイツに二人もお疲れさん。皆もよく頑張ったな」

「グレイブさんは余裕そうですね…」

「まあ、体力的にはな。けど俺だって、集中力の面で疲れてるんだぜ?」

 

 疲れてると言いつつも、答えたグレイブは「へっへっへ…」と笑いながら、消滅していくドームに向けて走っていく。何故かそこで走り回る。…ほんとに何がしたいのよ、体力有り余ってるんじゃないの…?

 とか思っていたら、人の姿で歩いてきたセイツはわたし達の近くで座り込んだ。…まあ、セイツはほんとに疲れてるわよね。後でまた治癒魔法かけてあげようかしら。

 

「二人共…それに氷淵もだけど、凄かったわね」

「最初は出来るか疑ってたので、あれはわたしもびっくりです」

「ほんとよねー。…まあでも、良い経験にはなったかも?」

 

 こんな経験、こういう出来事がなきゃまずやる事はなかったと思う。そんな思いでわたしが言うと、ディーちゃんも「だね」と軽く肩を竦めて、わたし達は笑い合う。セイツもわたし達を見て頬を緩める。

 疲れた。凄く疲れた。だけど、やり切ったって感じがあって…その上で勝ったんだから、気分は良い。まだ解決はしてないんだけど…それはそれ、これはこれ。

 

「ふー…んで、どうするよ?暫く休憩してから行くか?」

「そうさせて頂戴。ある程度でも体力を回復させておかないと、万が一の事に対して対応出来ないわ…」

 

 満足気な顔で走ってきて、ポケモン達をボールに戻したグレイブは、粒子のドームが消えた事で見えるようになった廊下の奥、そこに見える扉を軽く指し示しながら言う。けど当然、まだわたし達は疲れてる訳で…セイツの言う通り、わたし達はまず休む事にした。暫く休んでから、わたし達は扉に、その先に向かう事となった。

 

「…他の塔は、突破を阻む存在も違うのかな?」

「んー、多分違うんじゃない?多分だけど、ね」

 

 で、しっかり休んでわたし達は扉に向かう。その最中に、元々の事を考えれば、同じ存在が相手って事はない筈…って思いながら、ディーちゃんからの問いに答える。

 

「…皆、一応気を付けておいて」

 

 そうして扉を開ける直前、扉に触れたセイツがわたし達の方に振り返る。それにわたし達は首肯して…セイツが、扉を開ける。

 開かれた扉の先に広がっているのは…空。あまり登った感覚はないけど、わたし達がいるのはもうかなり高い場所。

 

「うへー、こんな高いのに手摺りなしって、ワイルドな作りだな」

「いや、ワイルドっていうかなんていうか…あ」

 

 中央の建造物に向けて伸びる通路から下を覗くグレイブに、わたしは苦笑い。それからその建造物の近くに、皆が…他のメンバーがいるのを見て、わたしは声を掛けようとする。

 けど、そこで二つの事に気付く。一つは、建造物が壊れている事。そしてもう一つは…皆が、全員が同じ方向を向いている事。

 

(……?向こうに何かあるのかしら……)

 

 妙な光景を前にして、困惑する。ただまあ当然だけど、そんな皆を見たってそうしている理由は分からない訳で…何を見ているんだろうって、わたしは何の気なしに同じ方向を見た。視線をそっちに向けて、その方向にあるものを見て……絶句、した。

 

「な……ッ!?」

 

 考えてみれば、そこにあるのは塔の筈。他三つと同じような塔がある筈で…確かにあった。あったけど…違う。

 そこに存在していたのは、禍々しい塔。わたし達のが今までいたのを含む、他三つより明らかに高い、闇色に染まった異様な塔。目を凝らせば、細部は違うけど、大雑把な形は他三つの塔と同じで……これが新たに発生したものじゃなく、これまであった塔が何かしらの理由で変質した、そうなってしまった塔だった事は、そこまで分かれば一目瞭然。

 

「ちょ、ちょっと!?これはどういう事!?何があったって言うの!?」

「わ、分かりません。私達が来た時にはもう、こうなっていて……」

「……っ!そういえば、イリゼさん達は…!?」

 

 同じように変質した塔を見ていたディーちゃん達と共に、わたしは慌てて皆に合流。走りながら声を掛ければ、ピーシェが答えてくれて…直後、ディーちゃんが声を上げる。言われてわたしも見回せば…確かにおねーさん達のチームがいない。それに…わたしの記憶が確かなら、そのおねーさん達四人が向かったのは……あそこの塔。

 

(まさか……)

 

 浮かぶのは、最悪の可能性。それが浮かんだ瞬間、一気に背筋が凍り付いて…わたし達は知る。先に来ていた皆も、同じ可能性を抱いていたんだと。わたし達が来るのを待って、それからあの塔への突入を図ろうとしていたんだと。

 けど、三つの塔と違って、あの塔に扉は見えない。通路は伸びているけど、闇に包まれた塔には出入り出来そうな場所なんてどこにもなくて……

 

『……!』

 

 そんな中で、不意に塔の一部に穴が開く。通路に繋がる位置に、一つの穴が開いて、そこから人影が姿を現す。そして、わたしの目に映ったのは……ロボットの様な、何か。

 

「……良かった…皆は、無事なのね…」

「その声は…!」

 

 え?…とわたし達が固まる中、ロボットの様な存在が発した声。それにネプテューヌちゃんが反応して…姿が変わる。ロボットだと思っていた身体が外れて、中から女性が……イヴが姿を現す。

 

「イヴさん、無事ですか…!」

「何とか、ね。でも……」

 

 すぐに駆け寄るわたし達。座り込んだイヴにビッキィが声を掛ければ、イヴは小さく頷く。

 ここにはいない内の一人が出てきてくれた事で、少し安心した。けど…現れたのは、イヴだけ。おねーさんもアイもルナもいなくて、塔の穴も塞がってしまう。そしてその事に、またわたしの中で不安感が込み上げてくる中…イヴは、言う。

 

「──ごめんなさい…私は何も、出来なかったわ…」

 

 何も、出来なかった。その言葉と、イヴ一人だけがここにいる事実。それを前に、その事を前に……わたし達は、言葉を失った。




今回のパロディ解説

・「〜〜モヤっとしてそうな〜〜」
脳内エステ IQサプリにて登場する道具、モヤッとボールのパロディ。IQサプリの代名詞的な道具(アイテム)でもあるかもしれません。因みにエストが出したのは、もっと巨大で鋭利な氷です。

・「〜〜ちょーだい!」「そんな天才〜〜頼むみたいなノリで〜〜」
天才!志村どうぶつ園における、パン君のお使いコーナー及び、その際にトレーナーの宮沢厚さんが発する台詞の事。セイツは…ジェームズの代わりに、ライヌちゃんを連れてお使いにでも行くんでしょうか。

・「〜〜某対ケイ素生命体用武装〜〜」
蒼穹のファフナーシリーズに登場する武装の一つ、ルガーランスの事。作中でも触れていますが、セイツの圧縮シェアエナジー弾は剣から出してる訳ではないので、同じような事は出来ません。

・「〜〜人生はチャレンジ〜〜ないけどよ」
プロレスラー、ジャンボ鶴田こと鶴田友美さんの名台詞及び、彼の台詞を用いた、同じくプロレスラーのタイチこと牧太一郎さんの台詞のパロディ。所謂二重構造のパロディネタですね。

・「逃がさないと言ったろッ!」
機動戦士ガンダムSEED destinyの主人公の一人、シン・アスカの台詞の一つのパロディ。割と有名な、「アンタは俺が討つんだ!今日、ここでッ!」…と同じ回での台詞です。
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