超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
不味い、っていう事は分かった。自分の中から、奥底から、危険だって感覚が怖気として上がってきた。ただでも、危ない、不味いって分かっても、どうしたら良いか分からなくて…そこですぐ行動に、今出来る最善の事を考えて動く事に繋げられるイリゼとアイは、本当に流石だなぁ…って思った。そう思ったし…ここで「それに比べて私は」だなんて自虐してたら何の意味もないって、ただ守られるだけになるって、私は心の中で踏み留まった。どうしたら良いかは分からないから、私に二人程の経験も判断力もないから…二人を信じる事にした。余計な考えは全部捨てて、イリゼの言葉に応えて、イリゼのシェアエナジーをアイに送った。出来る限り送り続けた。
そこから先の事は、よく覚えていない。力を吸われるとか、脱力感とか、そんなレベルじゃない。私の中で穴が空いて、そこから力がごっそり落ちていくような…イリゼからアイに送る為のシェアエナジーが削り取られるような、そんな感覚ばかりが私の中にあって…自分でも、よく分からなかった。どうして自分にこんな事が起きているのか、さっぱり分からなくて…分からない内に、意識が掠れていった。鮮明なのは、苦しさだけだった。苦しくて、苦しくて、苦しくて……だから凄く、暖かかった。満ちるような、包まれるような…煌めく、光が。
「ピーシェ様、皆さん、大丈夫ですか!?」
ピーシェとセイツと私で…三人で同時に受け止めてから押し返して、イリゼとアイが吹っ飛ばして、ネプテューヌとディールとエストの三人が遠距離攻撃で追い討ちを掛けた。その後全員で並び立って、あの人みたいな姿の闇にも、皆にも、見せ付けた。私達、全員復活!…ってね。
その私達に向けて、皆が駆け寄ってくる。真っ先に走ってきたのはビッキィで、ビッキィに向けてピーシェがサムズアップ。
「だいじょーぶ!もうぴぃ、元気いっぱいだよっ!」
「元気一杯って…凄いわね、ピーシェは……」
「うん…もうそんな事が言えるなんて、凄いタフだよね…」
心配ない、って伝えるように言うピーシェを見て、エストとディールがぽつりと呟く。…復活!…って今さっき地の文で言った私だけど…はい。正直言うと、私も二人側です…もう身体的には平気だけど、精神的にはまだ結構ダメージが残っているというか、何というか…。
(でも、今はそんな事気にしていられないよね。…まだ、勝てた訳じゃないんだから)
「皆様。確認させて頂きたいのですが、我々を気遣い空元気を出している…という訳ではないのですね?」
「心配しないで、ちゃんと中身のある元気よ。…自分で言っておいてアレだけど、中身のある元気って何かしらね……」
「本当に自分で言っておいてアレな事だな、ネプテューヌ…だが何にせよ、これで風向きは変わった」
「ああ。それに、闇へ一撃どころか、今ので何発もぶち当てられた。女神の攻撃でも無傷っていうのは、流石に信じられないが……」
「これは間違いなく、逆転の流れ…だな」
呆れ顔から真面目な顔に戻った影さんの言葉にカイトさんが、更にグレイブ君が応える。ダメージは入ってなさそうだけど、一歩前進だ。そんな風に二人は言って……
「確かに向こうの強靭さは桁外れみたいだね。…まあ私の場合、武器じゃなくて掌底だったから、っていうのも大きいけど……」
「倒すにゃ相当骨が折れそうだな。…ま、さっきのはダメージよりも、あの場から引き剥がす事を優先してた結果な訳だが」
「そもそもわたしだって、復活したてで全然本調子だった訳じゃないしー」
「そうなのよね。言っておくけど、自分の本気はこんなものじゃないわよ?」
……反撃を仕掛けた五人中、四人が「あれは全力じゃなかった」アピールをしていた。…あはは……。
「ふふ、これは頼もしい限りだね。残念ながら私は、この空間の維持に多くのリソースを費やさざるを得ない。無論、その分サポートはさせてもらうつもりだけど…いや、女神が全員復活したのだから、私程度の支援は不要というものかな?」
「ハードルを上げないで下さい…イヴさんは大丈夫ですか?」
「私?」
「詳しくは分かりません…が、これ程のシェアの力、そう簡単に出せるものではない筈です。だから……」
「何かリスクがあるんじゃないか、って事ね。それなら心配要らないわ。勿論、軽く使える訳じゃないのはその通りだけど」
私には分かる。これはズェピアさん、「油断しないでくれ給えよ?」…と釘を刺しつつも、実はちょっとふざけてもいるんだって。ズェピアさんは少し分かり辛いけどユーモラスな人だから、間違いない。
…と、私が考えている最中の、ディールとイヴォンヌさんのやり取り。赤黒い色をしていた空は、重苦しい感じのあった空間は、今は暖かい光に満ちていて…私は、気付く。
「…あれ…何か、動きがおかしいような……」
体勢が崩れたところから、女神五人の攻撃を受けたのに平然と立ち上がった人型の闇。私はその闇から目を離さないようにしていたから、どういう動きをしているのかも分かっていて…でもここまでは、何をしているのかよく分からなかった。あまり動きがなかったから、こっちの動きを伺ってるのかなとか、力を溜めてるのかもとか、そういう想像をするしかなかった。
でも今は違う。闇は動き出していて…けど、仕掛けてはこない。ふらふらと歩いたり、項垂れたり、何かを探すように見回したり…そんな戦闘とはかけ離れたような動きをしていて、気付いた私は声を上げる。
「ルナもそう思った?…ここまでの戦闘はほぼ見てないから、そういうものなのかもしれないけど…明らかに、戦いの為の動きじゃないわよね?」
「さっきまではちゃんと動いてたよ。ちゃんとっていうか、とんでもない動きっていうか…とにかくこんなんじゃなかった」
「なら、何が…。イヴ、このフィールドには相手を混乱させるみたいな効果もあるの?」
顎に指を当ててセイツさんが言えば、愛月君が応える。ネプテューヌが訊けば、イヴォンヌさんは首を横に振って返す。今の闇の状態は、皆も分からないみたいで…次に聞こえてきたのは、好都合って言葉。
「好都合?」
「理由は分からないが、仕掛けてこないというのであれば、落ち着いて伝えておくべき事を伝えられるからね」
その発言者はズェピアさんで、訊き返したのはイリゼ。皆も…っていうか私もどういう事?って風にズェピアさんを見て、皆からの注目を受けたズェピアさんは…言う。
「イヴ君には少し話したけど、この空間に満ちていたのは私のものと同種の力だ。その力は本来私…いや、ワラキアの夜そのものであり、流れ込んだ感情の濁流にも、私は心当たりがある」
「それは、つまり……」
「ああ。──あれは私だよ。少なくとも、あの存在を構成する要素の一つは…この、私だ」
こくり、と私の言葉に頷いて、ズェピアさんは続けた。言い切った。あの闇は、自分なんだって。
一瞬、訳が分からなかった。だって、ズェピアさんはここにいるんだから。ズェピアさんなら、襲ってくる理由が思い付かないから。でも皆は、納得…って程じゃなくても、言ってる事が理解出来なくはないって感じで…そこからワイトさんが、声を上げる。
「構成する要素の一つ…とは?」
「言葉通りの意味だよ。あれからは確かに『私』を感じるが、私だけではない。他にも何かが混ざっている。流石にそれが何かまでは、分からないけど……」
「別にそれを考える必要はないさ。…考えるまでもなく、混ざってるものの一つは俺だろうよ。尤も、俺自身というより、俺の可能性…IFの一つなんだろうが、な」
「えー君…」
けど、その先を制するように、影さんも言う。静かに、感情の分からない顔で言って…茜が、見つめる。
「感覚的に分かる。どこで間違えたのか、或いは間違えなかった末路なのか…まあどちらにせよ、要領としては他の塔と同じだろう。今のところ、自分と戦っている感覚はないがな」
「ズェピア君に影君、か…他の塔がどうだったのかは分からないけど、また凄い融合をしてるね…凄いというか、厄介というか……」
「それで言うなら、ウチにもあるな。心当たり」
『え?』
あ、厄介って言っちゃうんだイリゼ…当人ここにいるのに…なんて私が思っていると、今度はアイが声を上げる。もしかして、あの闇にはアイの要素も?…流れからそう思って私達が訊くと、いやちげぇよ、とアイは首を横に振って、片手を腰に。
「心当たりはあるが、別にウチって訳じゃねーよ。…イヴも、薄々勘付いてんだろ?」
「…まあ、ね。確信はないけど、私達のある知り合いの要素も混ざり合ってるんじゃないかと思うわ。ギョウカイ墓場みたいな場所といい、ゲハバーンの大剣といい…ね」
色々思うところがありそうな顔で言うイヴォンヌさんの返しに、アイは頷く。ズェピアさん、影さん、それに二人の知る人物…ここまで上がったのは三人で、ズェピアさんは勿論凄いし、影さん…もまだよく分からないところがあるけど茜の評価通りなら凄い人物な筈だし、アイ達の様子からして、そのもう一人もきっと相当な人物なんだと思う。となるとキャッチコピーは、全員悪人ならぬ全員強力…かな?…なんて…はは……。
…ま、まあとにかく、これはちょっと有利かも、って思った。だって、相手が知り合い…というか、内二人はその人そのものなんだから、弱点とか気を付けなきゃいけない点は勿論、上手くいけば次に何をしてくるか…みたいな事も分かるかもしれないんだから。それに私でもすぐこの程度思い付くんだから、皆はもっと色々思い付いているかもしれない。目的の分からない行動を繰り返している事は、少し不安…っていうか不気味でもあるけど、だとしても有利かも、って事には変わらない。
「まだ、うろうろしてるね。えっと…こんだくたーたくと?…をおとしたのかな?」
「うん、それを言うならコンタクトレンズだね。それだと某ピアニストさんだし、コンタクトレンズを落とした訳でもないと思うよピーシェ…」
「理由はさっぱりですが、このまま無防備に彷徨ってくれているなら絶好のチャンスです。最大火力を叩き付けて一気に仕留めるのが得策かと」
「仮想空間で再現されたような存在とはいえ、仲間相手でも容赦ないのね…けど、同感よ。もうゲハバーンに吸収される感覚なんか味わいたくないし、一気に決めましょ」
小首を傾げたピーシェに私が突っ込んだところで、ワイトさんが提案。それにネプテューヌが同意して、私達もその提案に首肯する。
この場から全員で仕掛けても、攻撃同士がぶつかっちゃう…って事で、私達は半円状に広がる。私もこの辺りかな、って位置で足を止めて、全力攻撃の為に集中を始める。
「…うん?また少し、動きが変わったような……」
「確かに…一旦様子を見ます?それともさっさとケリを……」
少しずつ力を溜めていた中で聞こえた、愛月君の声。え?と思って意識を自分の内側から闇に戻すと、確かに何か違う。ここまでは何をしてるのか本当に分からなかったけど、今はいつの間にか二本のゲハバーンを落としていて、ゆっくり、ゆっくり歩いていて、ゲハバーンを落とした手はどこか、何かに伸ばしているように見えて……
『……──ッ!?』
止まった。私が見ている最中、闇は数歩歩いて、立ち止まった。また項垂れて、伸びていた手もだらんと落ちて……次の瞬間、闇の姿は禍々しい竜巻に包まれる。まるでそこに、いきなり台風が発生したみたいな轟音と暴風が響いて、竜巻は爆ぜる。爆ぜた竜巻の内側に…闇の姿は、ない。
(……っ!どこに……)
「つぁ……ッ!」
驚いた私が見回したのと、イリゼが地面を転がったのはほぼ同時。そのイリゼのすぐ側には、腕を振り抜いた格好の闇がいて…落としていた筈の二本のゲハバーンは、いつの間にか握られていた。
「ぜーちゃん大丈…ぅあっ!?」
「速い…皆が押されてた理由がよく分かるわ…ッ!」
イリゼは斬られる直前で自分から横に転がって避けたみたいで、怪我はない。けどそれにほっとしてる余裕なんてなくて、気付けば闇は次の攻撃を、今度は茜に向けて打ち込んでいた。
掲げた大剣に片手剣がぶつかって、茜が大きく仰け反る。そこにセイツさんが斬り込んで、飛び込むように右手の剣を振り抜いて…闇は躱す。避けると同時に上を取って、大剣を振り返す。
「吹っ飛ばせ、獄炎!」
「スター!スピードスターで追い掛けて!」
それぞれポケモンの背に乗るグレイブ君と愛月君の指示。弾かれるようなバックステップでセイツが大剣を避けるのとほぼ同時に獄炎が炎を纏ったパンチを振り出して、躱した闇を幾つもの星型の弾が追っていく。その弾は闇を追尾して、避けた先にも飛んでいって…全弾、斬り裂かれる。振り向きざまに放った飛ぶ斬撃で殆どが撃ち落とされて、残る数発も全部がゲハバーンで両断される。…って、見てる場合じゃない…!
「私達もやるよ、月光剣!」
「相手が人間サイズでもロックオンは可能…ならばッ!」
相棒を強く握り締めて、下から斜め上に振る。魔力を帯びた斬撃を飛ばす。私のほぼ逆方向からは、ワイトさんのロボットが撃ったミサイルが飛んでいく。斬撃とミサイルで私達は挟み撃ちを掛けて、でも闇はそれも軽々凌ぐ。斬撃は真正面から斬られて、ミサイルも放たれた斬撃と斬られたミサイル自体の爆発で撃ち落とされて…その瞬間、イリゼ、ピーシェ、アイ、それにネプテューヌが四方向から囲うように闇へと迫った。剣に刀にパンチにキック、別々の攻撃が闇に迫って…四人は弾かれる。いきなり発生した、さっきと同じような竜巻が闇を包んで、接近していた四人を攻撃諸共弾き返す。
「さっきのは何だったんだって位、また普通に動き始めたな…!」
「半端な攻撃では突破出来ない、か。だがそれなら……茜、タイミング頼んだ!」
「任せて!……今だよッ!」
竜巻に向けてもう一度斬撃を放ってみた私だけど、触れた瞬間に斬撃は木っ端微塵。カイトさんの炎や影さんの射撃も吹き飛ばされたり飲み込まれたりして、竜巻の勢いは衰えない。
と、そこで飛んでいくのは、影さんの操作する端末。羽根みたいな端末は竜巻の周りを飛び回って、影さんは茜にタイミングを訊いて…茜が声を上げたのと同時に、竜巻が消えたのと完全に同じタイミングで、端末が一斉攻撃。闇からすれば竜巻の外側は見えてなかった筈で、でも完璧に全部避けて…その背後に、もう一つの端末が回り込んでいた。多分、他の端末は全部陽動ってやつで、その端末は完全に背後を取っていて……貫く。──飛来したゲハバーンが、闇を撃ち抜く直前だった端末を。
「んな…ッ!?」
「ゲハバーン!?更に出してきたって言うの…!?」
「いいや、違うようだよイヴ君。これは……!」
高く後方宙返りをするようにしてその場から離れた闇に集まっていく、何本…ううん、何十本ものゲハバーン。それ等は一つの生き物みたいに、乱れない動きで周囲を回る。その状態で、闇は左手のゲハバーンを横に振って…直後、ゲハバーンは散開。弾けたみたいに広がって…襲い掛かってくる。
猛烈な勢いで飛んでくるゲハバーンを、私は跳んで回避。外れたゲハバーンは地面に突き刺ささっ…たと思ったのに、地面を斬ってまた飛んでくる。そっちを気にしている内に、真上から別のも飛んできて、避け切れないと思った私は月光剣を振り上げて受ける。何とか逸らして凌いだけど…重い…!
(…って、あれ…そっか、このゲハバーンって……)
見回せば、これまで地面に突き立てられていたゲハバーンが全部なくなっている。つまり、今飛んでるのは全部、刺さってたゲハバーンだって事。…まあ、それを分かったって、だから何って話なんだけどね…!
「どわわわわっ!?レックス、ダッシュ!ダッシュダッシュー!」
「愛月、それを言うならサッカー繋がりでレックスじゃなくてバックスの方がいいんじゃねーのか!?」
「別に歌ってる訳じゃないんだけどぉ!?」
人も女神もポケモンも関係なく、ゲハバーンは襲ってくる。こっちも気絶してるイリスちゃんを除いた十七人っていう大人数だから、同時に襲ってくるのはせいぜい数本だけど、速いし切れ味も凄いし凌ぐだけでも一苦労。おまけに闇自体も普通に動いている訳で、アイが斬撃の連発で追い立てられる。そこにゲハバーンも飛んで、ゲハバーンを避けた先にまた斬撃が飛んでくるっていうコンボが迫る。
「こういう時は、端末の方から撃破するのが定石…ッ!イリゼ!」
「了解ッ!」
突然のゲハバーンに私含めた皆が対応に追われる中、反撃に動くイリゼとセイツさん。避けながらセイツさんが呼び掛けると、イリゼは錐揉み回転でゲハバーンを躱しながらセイツさんの方へ飛んで、セイツさんもゲハバーンを引き付けるように細かい方向転換を何度もしながらイリゼの方へ向かっていって、二人はすれ違う…と同時にターン。脚を振って、背中合わせの体勢になって、イリゼは両手に持った圧縮シェアエナジーの短剣を投げる。セイツさんも広げた二本の剣から、圧縮シェアエナジーの弾を撃ち出す。短剣と弾、それぞれの向かう先には、二人が誘き出したゲハバーンがあって……
『なッ!?…ちッ!』
どちらも、直撃した。確かに当たりはした。…でも、触れた瞬間に、一瞬の内に、ゲハバーンに取り込まれて消滅した。
何の妨害も受けなかったみたいに、ゲハバーンは背中合わせの二人へと飛ぶ。舌打ちしながら二人は離れて、今度は一本に向けて二人で攻撃を放ったけど、結果は同じ。
「念の為と思って回避に徹してたけど、やっぱり飛んでも効果は変わらないのね…!確認だけど、もしあれに斬られたらどうなるの!?この空間内でも斬られるのは不味いと思う?」
「間違いなく不味いね!輝き方からして、今のゲハバーンは全部が滅神形態!この空間の影響はなんとも言えないけど、それを抜きに考えるとすれば、私達は全員掠るだけでもお終いだよ!さっきの私の短剣みたいになっても…おかしく、ない…ッ!」
「さっきの短剣って…当然本体の持ってる方もそうだよな?…はっ、ならウチ等は防御されるだけでもアウトって訳か、スリル満点にも程があるわな…ッ!」
躱しながら低空飛行に入ったイリゼは、一直線に飛びながら手にした長剣で岩の一つを斬り裂く。すれ違いざまに斬って、直後に振り向きながら岩を蹴って、背後を追っていたゲハバーンに岩を叩き付ける。それは多分、シェアエナジー絡みの動きは攻撃も防御も通用しないから、って事での対処で…岩に深々と突き刺さったゲハバーンは動きが止まる。岩の方もゲハバーンに飛んでたからか、さっき私が避けた物より深く刺さっていて……けど数秒もしない内に、別のゲハバーン数本がその岩に飛んできた。次々と突き刺さって、何本もゲハバーンが刺さった岩は砕けて、止まっていた一本も動き出す。
「シェアエナジー系統の攻撃はほぼ無意味な上に、対応も早いと来たか…カイト、援護する。お前ならいけそうか?」
「やってみなきゃ分からない、ってところだな!」
「ディーちゃん、攻撃全部魔力オンリーに切り替えるわよ!」
「そうするしかないよね…!ルナさん、攻撃重ねてもらえますか…!」
「ま、任せてっ!」
援護として周囲を飛ぶ影さんの端末がゲハバーンの攻撃を引き付ける中、カイトさんが走る。自分に向けて突っ込んでくるゲハバーンに対して、跳躍からの上段斬りを炎と共に叩き込む。
ほぼ同じタイミングで、ディールとエストが魔法攻撃。ディールは鋼の剣を、エストは手裏剣を次々と作ってはゲハバーンに向けて撃ち込んでいって、そこへ私も電撃を放つ。私の電撃魔法は刃から刃に伝導して、電撃のネットがゲハバーンの道を塞ぐ。い、勢いで任せてって言ったけど、重ねるってこういう事で合ってるのかな…?……あ、エストがサムズアップしてる…合ってたかどうかは分からないけど、良い感じだったみたい…。
「……っ、硬ぇ…!」
「嘘、全然効いてない…!?」
これでどうだ、と思っていた私だったけど、手裏剣は弾かれ鋼の剣も多少軌道が逸れただけで、私の電撃も効果が出ているようには見えない。逆にカイトさんの一撃は、思い切りゲハバーンを弾き飛ばしていて…でもそっちも折れてはいない。
皆も苦戦している。茜は赤い粒子の斬撃で、イヴォンヌさんはエネルギー弾を撃ち込んで破壊を試している。グレイブ君と愛月君も、ポケモンの連続攻撃をぶつけている。一番凄いのはピーシェで、飛んでくるゲハバーンを何度も避けた末に、その内の一本の柄を掴んで、それを近くの岩に叩き付けた。ただ、刃を立てて叩き付けていたものだから、岩がすぱっと斬れちゃって、ゲハバーン自体は無傷も無傷、大無傷。
「むむ…びっきぃ!」
「畏まり、ましたぁッ!」
掲げたゲハバーンに向けて打ち込まれる、ビッキィの飛び蹴りならぬ跳び打撃。幾ら女神じゃないとはいえ、拳で直接刃の腹に触れるビッキィの度胸は凄まじい。凄まじいけど、そんなビッキィの攻撃でも、やっぱりゲハバーンは折れないし、欠けたりヒビが入ったりもしない。
「恐ろしい程の強度…ワイト君、君の機体でも難しいかい?」
「私の場合、そもそも当てる時点で困難なものでね…!」
「…ご尤も。ふむ…エーテライトも通じない辺り、ゲハバーンも何か強化なり変質なりしている可能性が高い、か…」
エーテライト?…が絡み付いたゲハバーンは動きが悪くなるけど、岩の時と同じように別のゲハバーンが飛んできて、糸の様なエーテライトを宙で斬る。すぐ出せる攻撃じゃ破壊出来ない、溜めが必要になる攻撃はそもそも溜める余裕がない私は一度攻撃を止めて、回避に専念する。
ここまで全然狙われなかったからあまり意識していなかったけど、闇自身も激しく動いて攻撃を続けている。今もまたアイが狙われていて、そこに割って入ろうとしたイリゼとネプテューヌには近くに展開していたゲハバーンを一気に向かわせ…るだけじゃなくて、更にイリゼには闇自身にも突っ込んでいく。イリゼが作り出した、いつもの長剣より倍以上長そうな剣は、闇が軽く振った大剣に触れただけで消滅して、防御の出来ないイリゼはとにかく下がる。立て直したアイと、突っ込んできた茜にブラストに乗ったグレイブ君の三方向同時攻撃も、アイのは避けて、茜のは大剣で受けて、グレイブ君は片手剣の飛ぶ斬撃で追い返して、そのまま大剣で茜をアイの方に飛ばす。そしてその背後に迫るのは、ゲハバーンを振り切ったネプテューヌ。
「これなら、どうかしらッ!」
(え、斬り結べてる…?…って、あの色の刀は……)
振り向いた闇の大剣と、ネプテューヌの振った大太刀が激突。普通に考えれば、さっきのイリゼみたいに刀が消えて、そのまま斬られる流れで…でも、今度は消えない。…ネプテューヌの持っている剣は、黒と紫の大太刀じゃない。
夜の帳が形になったような、人型の闇とは違う暗さを感じる大太刀。私はそれを見るのは初めてだけど、何となく感じるものがあって、振り向く。振り向いた先、私が見たのはズェピアさんで…そのズェピアさんの足元に突き立てられているのは、複数の武器。
「シェアエナジーを吸収されるなら、それ以外の武器で戦えば良い…当たり前だけど、確かに対策としてはそれが一番よね…!ズェピア、わたしの剣も作れるかしら!?」
「そう思って既に作成済みだよ。ただ、あまり過信は……」
ズェピアさんが軽く手を振った先にあるのは、二振りの剣。飛び回るゲハバーンの隙間を縫うように急降下してきたセイツさんは、それまで持っていた双剣を手放すと同時に二本に手を掛けようとして……その足元に、飛んできた刀の斬っ先が刺さる。
「す、数度打ち合っただけで折れた…!?ちょっと、これ脆過ぎない!?」
「…しないでくれるかな。即席な上、シェアリングフィールドとの融合である程度持ち直したとはいえ、今の私は十全の状態ではないんだ。その状態の刀剣を女神の膂力で振るわれれば、数度の打ち合いでも折れるというものだよ」
「そういう説明は先にしてくれないと困るんだけど…!?あぁ、また折れた…!」
気付けばネプテューヌの大太刀は、鍔から先がほぼない状態。その大太刀…だったものをネプテューヌは投げ捨てて、さっきのイリゼと同じようにとにかく下がって闇の間合いから離れていく。
「まあそれでも、余程変な振り方や受け方をしない限り、一度や二度は耐えてくれる筈だ。ネプテューヌ君の予備も、イリゼさんの分もあるから一先ず緊急用にでも使ってくれ給え」
「ウチの分は?」
「取り敢えず足のサイズを教えてくれれば、レッグガードの要領で作れるよ」
「じゃ、要らねーわ」
「…なら、ナイフか何かでも作っておこう…ピーシェ君も、要らないかい…?」
「ちょーだい!」
(あ、ちょっと嬉しそうになった…)
あっさりばっさり断ったアイの返しに、微かにがっくりとなるズェピアさんの肩。けどピーシェの屈託のない「ちょーだい」で持ち直していて…うん、まあ、分かる。アイの吊り目とドライな声音で即断られたら、刺さるものがあるよね…そのクールな感じが格好良くもあるんだけど。凄く格好良いんだけど。
…と、この時私は、ちょっぴり呑気に思っていた。言い方を変えれば…少し、油断していた。
「ごめん皆、ちょっとだけお願いッ!」
「分かりました、押さえ込み…って、速い…!」
「だったら…って、スルーされた…!?」
作り出された武器を受け取る為に、イリゼ達が飛んでくる。元々武器や攻撃の問題がなかったディールとエストが変わる形で前に出て、ディールは遠距離から、エストは氷の大剣を構えて接近する事で闇を足止めしようとする。
でも、闇は二人に攻撃せず、回避と加速に専念する事で一気に二人の迎撃を躱す。まだイリゼ達はズェピアさん製の武器を掴んでなくて、ぐんぐん闇は距離を縮めていく。そして、私はズェピアさんに近い位置にいる訳で……
(こ、これ…私が何とかするしかない状況じゃない…!?)
自分がやるしかない、そう気付いた私の中で一気に緊張感が高まる。これまで私はほぼ狙われてなくて、最初に斬り結んだ時もピーシェとセイツさんがいたから押し返せたけど、今は違う。女神の皆でも圧倒される程の相手に、私が真正面からぶつかれるのか…って、どうしても不安が湧いてくる。
だけど間違いなく、今一番近いのは私。迷ってる暇はないし、最初とは違う。言われなくても、何をすれば良いか、今私に出来るのが何かなんて、分かってる。…だから、私は…地面を蹴る。
「……ッ!ただで、通させは…しないッ!」
横から来るゲハバーンを何とか躱し…切れずにコートが裂かれるけど、そんな事は気にせずもう一段階踏み込む。踏み込んで、飛んで…目一杯の力を込めて、凄まじい勢いで迫る闇に向けて月光剣を縦に振り抜く。
瞬間的な激突と、即座に片手剣で弾かれる月光剣。弾かれた衝撃で私も大きくのけぞって、逆に闇はこれっぽっちも速度が落ちない。一瞬すら、私の斬撃じゃ稼げない。……けど、それは分かっていた。予想出来ていた。だから私は、バランスを崩した体勢のまま…もう一手、放つ。
「プラズマ…ブレイクッ!」
至近距離からの、フルパワーの一撃。元から威力と範囲に長けている、だから逆に状況をよく見て使わないと周りへの被害も凄い事になっちゃう電撃の、加減ゼロでの最大放出。元々バランスが崩れていた私は、プラズマブレイクの反動で頭と背中を地面に打つ。当然受け身も取れてない訳で、かなり痛い。
さっきの電撃魔法は、ゲハバーンに通用しなかった。だけどあれとは違う。正真正銘、これは私の、全力の一撃で……それをすぐ側で受けた筈なのに、やっぱり闇は無傷のまま。もしかしたら二振りで防御したとか、斬撃を飛ばして電撃へぶつけてたとかかもしれないけど…どっちだったとしても、悔しい。悔しいけど…作戦は、成功した。だって闇は、私の攻撃を防ぐ為に、その場で止まったんだから。一瞬でも良いから時間を稼ぐ、その思いで放った攻撃で、一瞬どころか数秒足止め出来たんだから。
「オラぁッ!」
「とりゃーっ!」
防ぎ切ってまたイリゼ達を追おうとした闇を横から襲う、アイとピーシェのダブルドロップキック。吹っ飛んだ状態から回転して立て直した闇を、ワイトさん、影さん、イヴォンヌさん、それにウーパの集中砲火が瞬く間に叩く。イリゼ達も突っ込んでいって…頭をさすりながら立ち上がった私の下に、降りてきてくれたのはディールとエスト。
「ルナさん、お怪我は…あ、たんこぶが……」
「背中も打撲か何かしてるかもしれないわね。ぱぱっと治すから、少しだけ動かないでね?」
「では、私も手を貸そう」
「お、おぉー…痛みがみるみる引いてく……」
女神の二人に加えてズェピアさんまで治癒をしてくれて、凄い勢いで楽になっていく。なんていうか、こう…暑い外から冷房がばっちり効いた部屋に入った時みたいな心地の良さがあって、ついつい気持ちが緩んでしまいそうになる。でも気を緩められる状況じゃない訳で…痛みが完全に引いたところで、私はもう大丈夫だと言って構え直す。
「…やるわね、ルナ。すぐ弾き返されたとはいえ、躱されはしなかった訳だし、その後もばっちり電撃叩き込んでたし」
「あはは、無我夢中でやった事が上手くいった感じ…かな」
まぐれだよ、って感じに私は返して、小さく息を吐く。…実際、さっきのは運が良かった部分もあると思う。次また同じ状況になったとしても、上手くいく自信はないし…だとしても私は、無我夢中でやるしかない。…ううん、やるしかないっていうか…無我夢中でいきたいと思う。
余計な事は考えない。出来ない事を無理にやろうとは思わないけど、出来るかもと思った事、私がやらなくちゃと感じた事は、迷わず貫きたい。それが私に出来る事だから。まだ全然、どうやったら勝てるかは分からないけど…そうやって、私は皆と、勝ってみせる…!
*
「獄炎、ニトロチャージ!ウーパ、狙い撃ち!氷淵は引き付けた上で…フリーズドライ!」
正面から獄炎を突っ込ませつつ、回り込むように走るウーパにも攻撃を指示。宙に伸びる氷のレール状を走る氷淵には、飛び回るゲハバーンを凍結させる。
闇は獄炎の突進を飛び越え、ウーパの狙撃も片手剣で全て斬り裂く。フリーズドライでゲハバーンの内数本は止まる…が、すぐにゲハバーンを覆った氷は砕かれまた動き出す。まー、びっくりする位こっちの攻撃が通用しない。前の塔の影もやたら強かったが…間違いなくこの闇は、それ以上。
「グレイブ君、お願いッ!」
「あいよッ!ブラスト、燕返し!」
全速力で飛んでくるイリゼとすれ違う俺。飛び去るイリゼを追っていたのは数本のゲハバーンで、それに向けて俺は、乗っているブラストへと迎撃を頼む。
刃の様な鋭さで振るわれたブラストの翼が、ゲハバーンを一本残らず捉えて弾く。ゲハバーンは弾かれただけでどれ一つ折れちゃいなかったが…その隙にイリゼは反転。今度は逆に、後ろから俺を抜いていって、ゲハバーンの後ろから猛追していた闇に仕掛ける。ズェピアの作った長剣と、闇の大剣が激突し…イリゼが、体勢を崩す。
「くッ、ヒビが…だがッ!」
翼を広げてイリゼが堪えた次の瞬間、影と茜が闇の左右斜め後ろから同時に強襲。銃剣と大剣が挟み込むように振るわれ、闇を掠める…が、多分ダメージはない。闇は真上に勢い良く上昇する事で避け、宙返りし、急降下からの刺突を茜に放ってくる。茜は大剣で防ぐが、衝撃で突き飛ばされるように落下する。
「まだだッ!畳み掛ける…!」
「バックス!ドッペル!ワイトさんを援護するよ!」
その茜と入れ違いになるように、ビームの刃を抜いたワイトのマエリルハが飛翔する。迫るゲハバーンはバックスとドッペルが、炎と影の球が邪魔をし、巨大な機体の斬撃が闇に向けて放たれる。それを闇は、大剣で受け…そのまま受け流す。
(不味いな…割とマジでジリ貧だぞ…?)
全員動きは悪くない。連携だって出来てるし、常に飛んでくるゲハバーンにゃ気を付けなきゃいけないが、それでも攻撃は重ねられている。…だが、まだ大きいダメージは与えられていない。何発か当たってはいるが、闇が消耗している感じはない。それも前の塔と同じ流れっちゃ流れだが…あの時より、時間がかかっている。
「…これは…もしかしてあれか?ギミック系か?」
「ギミック?」
「なんか仕掛けを起動させたり、条件を満たしたりしないとクリア出来ない〜、ってやつだよ。ゲームだったら、って話だけどな」
見えない角度からの攻撃は俺が見て言う事で、ブラストに確実な回避をさせながら、俺は視線を走らせる。そのタイミングで近くに飛んできたイヴからの声に、ゲームだったら…と付け加えながら答える。よくあるギミックは、それを解決しないとそもそも戦えない、相手のある場所に行けないってパターンだが…今みたいなパターンも、なくはない筈。
「成る程な。外部から強化装置でパワーを得てる…みたいな事はあってもおかしくねーよ。少なくともウチは、そういう経験がある」
「お、マジか。じゃあどうやって解決したよ?やっぱその装置探してぶっ壊したか?」
「いや、解決っつーか……」
何か言いかけたアイだったが、その続きは聞けなかった。横から目にも止まらぬ速度で斬り込んできた闇にぶっ飛ばされて、アイと入れ替わるように闇が俺の近くへ立つ。
咄嗟に俺は、ブラストに燕返しで攻撃させた。結果大剣で受け止められて弾き返されたが、敢えて俺はブラストに翼を畳ませ、そのまま地上すれすれまで落ちる事で距離を取る。
「(…追ってこない、な。俺はそんな脅威に見えないってか?それとも…いや、それは後だな)根拠はねーが、何かしらギミックがあるかもしれねぇ!そこんとこどう思うよ、頭脳派二人!」
ブラストと共に再度飛び始めた俺は、ズェピアと影に向けて声を上げる。…わたしは?私は?…みたいな視線が幾つか来たが…まあ、それは気にしない。
「ギミック、か…。…あるとすれば、今は飛んでるこのゲハバーンだろうな」
「…説明の通りなら、ゲハバーンはシェアエナジーを無効化したり消滅させたりするものではなく、吸収するもの、だったね。となると、あまり考えたくはないが…その吸収されたシェアエナジーは、どこに行ったのか…という事だろう」
「まさか、イリゼ達の吸われたシェアエナジーが、全部向こうの力になってる…って事か…?」
思い切り大剣を振り、火炎を扇状に何度も放ってゲハバーンを蹴散らしながら「まさか」って言うカイトの言葉に、二人は「かもしれない」と小さく頷く。確かにそれなら、イリゼ達を揃って限界ギリギリまで弱らせる程吸収した力を丸ごと自分のものにしてるなら、こんだけ強いのも頷ける。…けど、そういう事なら……。
「…それなら、どこかで尽きるのでは?もうピーシェ様達は、吸収されてない訳、ですしッ!そぉいッ!」
「ピーシェ達は、な。確かに今は、何も吸収されていないように見える。だがもし、今も吸収自体は起きているとしたら?…ふッ…!…今はこのフィールドが吸収を肩代わりしているだけだと、したら?」
「…そうだった場合、このフィールドを展開し続ける限り向こうにシェアエナジーを供給し続けてしまうという事になるね。けど、かと言ってフィールドを切れば、また女神様達は行動不能になる」
「私もまた力が削がれるね。…だがこれは確定ではない。時には『かもしれない』レベルでも実行に移す必要はあるが…リスクを考えれば、安易に切るべきではないよ…!」
同じ事を思ったらしいピーシェの言葉への返しで、ゲハバーンによる吸収の件が単純にゃ解決出来ない…かもしれない、って事が明らかになる。もしこのフィールドを切ったら、また戦力ががくっと下がる。闇はフィールドを張る前から強かったし、イヴ自身が「軽く使える訳じゃない」とも言っている。つまり今フィールドを切ったら、相変わらず倒せる気配がないのに、こっちはまたピンチになって、しかも再展開は不可能なんていう、最悪の状況にもなりかねない。…だったらまあ、その手を使う訳にゃいかねーな…。
けど、だったらどうするよって話でもある。向こうがガス欠する可能性もゼロじゃないが、ガス欠しそうな様子もない以上、このままただ戦うのは良くない訳で…と、そう俺が思っていた時、何かの崩れる音が響く。
「だーッ!なんなんだよアイツは!さっきからウチばっかり狙ってきてんじゃねーかッ!」
それと共に聞こえた声に振り向けば、どうもさっきぶっ飛ばされて砕けた岩の下敷きになってたっぽいアイが、その瓦礫を跳ね飛ばしていた。手には砕けたナイフがあって、さっきはあれでギリギリ防いだんだろうなって予想出来る。…ウチばっかり…言われてみれば、確かによくアイは狙われてる気がするな…けど、アイ一人ってより……
「え?私は私の方が狙われてる気がするんだけど…!」
「私も同感!でもぜーちゃんがって言うより、私がよく狙われてない!?」
((…うん?))
自分の方が狙われている。そんな二人の返しに、違和感を抱く。別に、誰かが嘘吐いてんじゃねーのか?…っていう意味での違和感じゃない。むしろ俺は三人がそれぞれ言ってる事の方がしっくりくるというか……あぁ、そうだ。三人共間違っちゃいないんだ。俺の記憶が正しければ…俺や他の皆より、この三人の方がよく狙われてるんだから。
「…これ、もしかして……」
「俺が考えてたのとは関係なさそうだが…これはこれで、使えるかもな…!」
『へ…?』
呟くように言うディールに頷き、俺は見回す。周りからも、頷きが返ってくる。当の本人、イリゼ達三人はよく分かってない様子だが…当人だから逆に分からないって事もあるんだろう、多分。
「…けど、なんでイリゼ達三人なのかな…?三人に共通…ううん、三人にだけ共通してる要素があるようには……」
「…もしかして、過激派アイドルオタク属性……」
『……?』
「…こ、こほんっ!流石にそれはないよねっ!なんでだろうねっ!?」
「分からないけど、他にやれそうな事もないでしょ?だったら一か八か…カウンターを仕掛けてみても、いいんじゃない?」
「同感よ。ここまで相手が速いし一撃一撃も重過ぎるせいで、こっちは大技を当てるチャンスがなかったけど…攻撃を誘導出来るなら、可能性はある筈だもの」
愛月の言葉に謎の反応をしていたルナはともかく、エストとネプテューヌは大いに乗り気。となると後は、何をぶつけるかだが…今度はカイトが声を上げる。
「だったら、試したい技がある。今と似たような戦いをした時に、凄まじく強い相手を追い詰めた実績のある技が、な。だろ?ディール、ルナ」
「私とディール?…って事は……」
「あれ、ですか。…分かりました、やってみましょう」
「三人の連携技?それは良いけど…これだけいるのに、三人だけっていうのは少し物足りないんじゃない?」
そりゃあそうだ、とエストの言葉に同意し、俺達はカイトのやろうとしている事を聞く。そして、そこから策を組み立て…行動に、移す。
「イリゼ様、アイ様、茜さん!結論から言います。我々で目一杯援護しますので…全力で、あの闇を引き付けて下さい!」
「引き付ける、って…言われるまでもなく今も狙われてるんだけどな…ッ!」
返ってきた言葉の通り、俺等がゲハバーンを躱しつつ話している間もずっと、やっぱり三人は集中的に狙われていた。こっちからは接近しても攻撃を打ち込んでも瞬間的な対応をするだけで、三人以外を積極的に狙ってくる様子は全くない。三人からすりゃ、勘弁してほしい状況だろうが…そのおかげで、こっちは準備が出来る。
「皆さんは私達で守ります。力を溜めるのに専念して下さい」
「ぴーこにおまかせっ!」
「ありがとな。んじゃ、頼むぞ皆!」
ファイティングポーズを取って背中越しに言うビッキィと、ばっちり胸を張るピーシェに答えて、カイトは大剣を地面に突き刺す。ルナも同じようにして、ディール…それにエストも溜めに入る。俺も氷淵を呼び寄せ、獄炎達にサポートを任せ、俺自身はブラストと共にイリゼ達の援護に向かう。
宙では三人が狙われながらも連携し、ヒットアンドアウェイの要領で入れ替わりながら仕掛けていた。迫る闇をアイが躱し、茜が仕掛け、迎撃で弾かれたところで逆方向からイリゼが突っ込み…ぶつけられた大剣の横薙ぎで、長剣が折れる。だがイリゼはその折れた剣先を掴み、残った長剣とで俺でもびっくりな双剣アタック。これには闇も反撃に移れず、二本の剣で防御を選び…イリゼはその横を駆け抜けていく。
「ひゅぅ、やるなぁイリゼ。けどそのまま斬ったりはしないんだな!ブラスト、インファイトッ!」
「刃そのまま掴んで叩き付けたら、持ってる手の方が先に使いものにならなくなるからねッ!」
「だから代わりに、わたしが仕掛けるの、よッ!」
全速力で突っ込ませたブラストの、連打攻撃。駆け抜けたイリゼと入れ違いでセイツも突っ込み、両手の剣を十字に振り抜く。だがそれまでインファイトを大剣の腹で受け止めていた闇は、セイツの斬撃の直前で受け止めるのを止め、連打の衝撃で後ろに飛び、その動きでセイツかはの攻撃を避ける。反撃が来るか、と思って内心俺は身構えたが、避けた後の闇はすぐさまイリゼに向けて斬撃を飛ばした。だったら、と俺とセイツももう一度距離を詰めようと動くが、今度はゲハバーンが飛んできて、そっちの対応をしている間に闇はイリゼに接近を掛ける。
「いかせないわ…ッ!」
「向かってこないというなら、反応させるまで…ッ!」
地上からの光芒と弾丸が闇を追う。更にそこへ、ネプテューヌのエクスブレイドが襲い掛かる。一瞬、シェアエナジーで作った大剣を飛ばしたって…と思った俺だが、闇が片手剣の一振りでエクスブレイドを吸収するのを見て理解。確かにシェアエナジー絡みの攻撃は全部、吸収されてお終いではあるが、吸収の為にはゲハバーンをぶつける必要がある。って事はつまり、ダメージは与えられなくても「対応」の為に時間を使わせる事は出来るって訳か…!
「そー、れッ!あい君、回収お願いッ!」
「分かった!レックス、茜さんの大剣、思いっ切り投げちゃって!」
ワイトとネプテューヌの連続攻撃で足を止めた闇に向けて、茜が斬撃を飛ばす。続けて大剣を振り抜いた状態から回転して、その勢いで大剣自体も投げ飛ばす。斬撃は躱され、大剣はゲハバーンの大剣で斬り払われて地面に落下…したが、茜が声を上げればすぐさま愛月が動いて、愛月の乗るレックスが大剣を掴んで、それを茜に投げ返す。ついでにフェザーの葉っぱカッターとスターのスピードスターも、愛月の左右から空の闇に向けて飛んでいく。
次から次へと来る攻撃を、悉く闇は避けて、弾いて、振り切る。肉薄を掛けたイリゼの貫手とアイの回し蹴りも、宙を蹴るような動きで後退して避け、二振りの剣でそれぞれ突き刺そうと闇は動くが、イリゼとアイは互いに互いを手で押す事によって、紙一重で躱す。これでもかって攻撃しても、何度やっても闇は対応してくるが、唯一数だけはこっちが圧倒的。ただ戦うんじゃジリ貧だが…狙いがあっての持ち堪えなら、十分に、十二分にやれる。
「狙ってくるなら、狙ってきやがれ…ッ!」
「だがその刃に、もう私達が屈する事などない…ッ!」
たった数秒ながら、攻撃も防御も振れれば即アウト、武器も今は折れて無いという状況で闇と近接戦を行う二人。凄いもんだが危険中の危険である事には変わりない訳で、僅かな隙を突く形で俺も割って入る。ネプテューヌも動いて、更にはワイトが機体丸ごと突っ込んでくる。俺は凌がれるし、ネプテューヌも触るとアウトな以上下手に深く踏み込む事は出来ないし、サイズ差で反撃を避け切れなかったワイトの機体は脇腹辺りの装甲が斬り裂かれるが……そこで聞こえてきたのは、待っていた声。
「じゅんびかんりょー!」
「いやなんでピーシェが言うのよ…けど完了よ!だから後は、誘導…お願いね?」
「簡単に言ってくれるな、おい…ま、やってやるけどな…ッ!」
ちゃんと説明した訳じゃないのに状況から理解したのか、三人は散開。アイコンタクトを受けた俺達が多少の時間を稼いでいる間に距離を取り、そこから誘導を開始する。
集中的に狙われている事を逆手に取った、闇の誘導。パワーもスピードも桁違い、おまけに女神はゲハバーンに触れるだけでアウトって中じゃ、普通は誘導なんて出来ない。誘導ってのは余裕があるから出来るもんで、余裕もないのにやろうとすりゃ、成功なんてする筈がない。…だからそれを、三人は協力し合う事で、誘導しつつも狙いを三人の間で上手く分散する事によって一人一人の負担を減らしている。俺達もただ眺めてる訳じゃなく、全力でゲハバーンを引き付ける。一本たりとも三人の方へ飛ばないよう、こっちはこっちで誘導する。
「後、少し…後は……茜ッ!」
「任されたッ!──ここぉッ!」
斬撃をすれすれで、身を翻すようにしてイリゼが躱した直後、茜が闇の真正面から突進。大剣を打ち込んで、斬り結んで、弾かれて…そこから更に前に出る。大剣の腹をぶつけるように前進して、対する闇は脚を振り上げ蹴り返す。吹っ飛ばされた茜は、その背後に回っていたイリゼとアイを巻き込んで、三人纏めて落下していく。
三人からすれば大ピンチ。闇からすれば大チャンス。当然闇は地面に向けて斜めに落ちていく三人を追う。落ちる速度より遥かに速く闇は飛び、空を駆け抜け、三人に迫り……
「へっ、掛かったな!獄炎、大地創造ッ!」
二振りの剣を振り上げた闇の真正面に、岩の巨大槍が出現した。獄炎が地面を撃ち、獄炎の力で隆起した大岩が、闇へ向かって襲い掛かった。
次の瞬間、闇が振り抜く大剣と片手剣。巨大槍の先端と、横並びで重ねるように振るわれた二本のゲハバーンが激突し、一度は闇もその斬撃も止まり…だが闇の斬撃は、大地創造を上回る。隆起した岩を、両断する。
真正面から打ち破られた、獄炎の大技。特訓を重ねて編み出した技をこうも破られると、まあ悔しい。凄く悔しい。凄まじく悔しいが……狙い通り。
『今(だ・よ)ッ!』
「あぁ、後は任せようッ!」
闇が打ち破った瞬間、真っ二つに斬った瞬間、そこへ撃ち込まれた二発の弾丸。影とイヴ、それぞれが放った弾丸は、闇…ではなく斬られて二つになった岩に当たり、爆ぜる。爆発し、至近距離から岩の破片が闇を襲う。
普通ならこれも攻撃として成り立つが、闇相手じゃ多分効かない。これは一瞬動きを妨害出来るかどうかって程度。…けど、初めからそれで十分。端から一瞬止める為だけの攻撃で……その一瞬でズェピアが、暫く使ってなかった地面からの拘束で、闇を捕らえる。拘束は縛った直後にまず両腕の部分が引き千切られ、そこから瞬く間に斬られていくが…捕らえられた時点で、そこを躱せなかった時点で、もう遅い。
「さぁて、やるぞ皆!」
『(おう・はい・うん・えぇ)ッ!』
よく通る声と共に、カイトの突き刺した大剣から噴き上がる炎。周囲の地面を丸ごと焼き尽くしそうな程の火炎が、豪炎が噴き上がり、その炎が闇へと向かって走る。
だが、それだけじゃない。カイトとは別の地点から、カイトと同じようにルナが突き刺した剣からは、周囲の空間を纏めて焦がしそうな程の電撃が、雷電が迸り、炎へ向かって駆け抜ける。火炎と電撃はぶつかり、火炎が飲み込み、電撃が貫き…二つの力は、融合する。一つの力に、紫に煌めく雷炎へと姿を変え、獅子の咆哮が如き轟音が響く。
「ははははッ!これでもかって位ド派手だな!けどこっちだって負けてられねぇ…いくぞ氷淵!力借りるぞ、ディール!エスト!」
雷炎が闇は喰らい付く中、俺も強く声を上げる。振り向き、氷淵、ディール、エストを順に見て、全員から頷きを受け取る。
空に向けて吼える氷淵。その背後に現れる、二つの魔法陣。魔法陣を、術式を介して、ディールとエスト、二人の力が流れ込み…氷淵は雷と炎を纏う。ブラックでもない、ホワイトでもない、ディールとエストの力を受けたからこその姿…グリモアキュレム
左腕には炎、右腕には雷、二つの力を宿した両腕を合わせる氷淵。その両腕の中で炎と雷は合わさり、混ざり合い…もう一つの力が、白く輝く雷炎が、氷淵が腕を広げると共に闇へ向かって強く駆ける。
「もう一踏ん張りいくわよディーちゃん…!双王……」
「氷帝、雷炎…ッ!」
紫と白、二つの雷炎が駆け抜ける。燃え盛る炎の牙が、疾駆する雷の爪が、闇へ喰い付き喰い込む。闇を介して二つの雷炎が衝突した瞬間、衝撃が周囲を叩いて、だが打ち消し合ったりはしない。それぞれの雷炎はそれぞれの雷炎のまま、閃光と轟音を響かせて……更に、青白い光が周囲を揺らめく。魔力の光は氷になり、何層もの壁となって闇を閉じ込める。闇を逃さず、雷炎の拡散も阻む結界となる。そしてその直前…二人の作り出す氷結界が完成する直前、その真上に跳ぶ二つの影。
「これも……」
「おまけだッ!」
愛月の声を合図にオーバーヘッドキックで打ち込む、バックスの火炎ボール。振り抜いた腕から放たれる、ビッキィの雷遁。二つの雷炎が煌めき輝く中へ、滑り込むようにもう一つ炎と雷が飛び込み…結界が、完成する。
隙間一つない空間の中で、炎と雷が迸る。単体でも非常識レベルの威力を持って雷炎が二つ、そこにもう一対炎と雷が加わった中で、その力が氷の結界によって逃げる事なく、何度も何度も、何重にも駆ける。炎に雷、それに氷が合わさった力が……俺達の前で、轟き続ける。
今回のパロディ解説
・全員悪人ならぬ全員強力
アウトレイジシリーズ(特に一作目)のキャッチコピーのパロディ。…まあ、ある意味悪人でもあるのかなぁと思います。影にしろズェピアにしろ純粋な善人ではないですし、もう一人も…という感じです。
・「〜〜某ピアニストさん〜〜」
takt op.の主人公、朝雛タクトの事。ネプテューヌシリーズとは、擬人化繋がりのあるパロディ…とか考えた訳ではありません。単に思い付いたから入れたパロディです。
・「〜〜ダッシュ!ダッシュダッシュー!」
キャプテン翼のOPの一つ、燃えてヒーローのフレーズの一つのパロディ。グレイブが指摘している通り、サッカー繋がりを意識するならバックス(エースバーン)の方がそれっぽくなりますね。
・「ぴーこにおまかせっ!」
バラエティ番組、アッコにおまかせ!のパロディ。書いている時は気付きませんでしたが、「ぴぃ」ではなく「ぴーこ」と言っているとはいえ、これ単体だとパロディだとは分かり辛いですね…。