超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
勢いで同意をした、カイトさんからの提案。カウンターとしてぶつける大技として選ばれた、カイトさん、ルナさんとの連携技。確かにこれは、全員が全力且つ絶妙な力加減でやらないと上手くいかない分、成功すれば絶大な威力になる攻撃だけど…よくよく考えると、前に使った時は、成功したとは言い難い結果だった。かなりダメージを与えられたのは間違いないけど、技として完遂する前に突破されかけて、それをイリゼさん達の機転と咄嗟の行動で補ってもらった部分も確かにあった。…だからもしかすると、勿論相手は違うけど、その時のリベンジも意識してこの技を選んだのかな…とも思った。
でも、前と同じように…マテリアライズ・エボリュートそのままで使うって方向性は、エスちゃんの「それならわたしも協力した方が、もっと強くて強固な結界を張れるわよね?」って言葉と、グレイブさんの「炎と雷だったら、俺等も黙っちゃいられないな」って発言から、大きく変わる事になった。カイトさんとルナさんが作り出す雷炎に加えて、グリモアキュレム
「これはまた、思ってた以上にきっつい、わね…!」
「力入れ過ぎないでね、エスちゃん…!」
氷結界の中で駆け巡る、二つの雷炎と追加の炎に雷。その力が逃げないように、中を何度も駆け巡るようにするのが多層構造の氷結界の役目で、内側から順に解ける事、解けた後は魔力に戻る事、その両方が雷炎のサポートを担っている。ただ、固い結界を作れば良い訳じゃない。力を削がないように、一秒間でも長く炎と雷の猛威が灼き貫くように氷結界を制御する事が、わたしとエスちゃんの務めの一つ。
そう。ただ制御する事だけが、わたし達の務めじゃない。そして、もう一つの務めは…ここから始まる。
「エスちゃん、決めるよ…!」
「えぇ、思いっ切りいくわよディーちゃん!」
何度も何度も駆け巡って、燃え盛り轟く。激しい光と音が、氷結界越しでもはっきり分かる。片方だけでも十分な威力を持った雷炎が二つ同時に迸って、更に炎と雷が加算された、本当に凄まじい力の嵐が氷結界の中では起きていて…だけど、無限に続く訳じゃない。当然だけど、何度も駆け巡る中で、少しずつ勢いは弱まっていく。
だからそれに合わせて、エスちゃんと息を合わせて、結界を凝縮していく。内側の空白を無くす事で、結界内に炎と雷が満ちている状態を維持する。更に多層構造の内側が全て消えて、一番外側のみになった段階からは、一気に凝縮速度を上げて、一気に圧縮していって……炸裂させる。中に残る炎と雷と、わたし達の魔力とを無理矢理融合させて、エネルギーの爆発を内側から起こす。
「はぁ、はぁ…今回は、最後まで上手くいった……!」
「そっか、これが…凄いね、皆」
爆発で白い煙が巻き起こる中、わたしは自分の息が荒くなっているのを感じながら左手をぐっと握る。前にやった時はここまでいかなくて……そこでわたし達に掛けられる、賞賛の声。その声の主はイリゼさんで…これを成功させる為に誘導を担ってくれたイリゼさん、それにアイさんと茜さんの三人が、わたし達の方にやってきた。
最後に落下した三人だけど、大きな怪我はなさそうに見える。それも含めて、一安心。…ふぅ…ほんとに上手くいって良かった…。
「けど、二人の消費も凄そうね。大丈夫?」
「そりゃそうよ…わたし達氷淵の方にも力送ってるし、そっちでもかなりの量の魔力を持っていかれるんだから……」
ネプテューヌさんの言葉に答えるエスちゃんに、わたしも頷く。もう完全に魔力切れって訳じゃないけど、物凄く消耗したのは事実。
そして、まだ油断は出来ない。前の時と違って最後まで、完璧に決まったとはいえ、こういう時に油断したら大概碌な事にならない。それにわたし達が前の塔で戦った時の様に別の姿があるのなら、まだ勝ったとは言い難──
「……──!」
『な……ッ!?』
……そう思っていた、次の瞬間だった。一瞬で…本当に、瞬きをしてから目をまた開けるまでの、刹那の合間に…闇が、わたし達の前まで肉薄していた。まだ白い煙がその場に残る、突進の風圧が煙を吹き飛ばすよりも速く……闇は大剣を振り上げていた。
反射的に、自分でも気付いたらそうしていたというレベルで本能的に、わたしは魔力障壁を展開。エスちゃんも氷の大剣を盾の様に突き出して…振り抜かれた大剣のゲハバーンに、障壁も氷の大剣も砕かれる。何とか二重の防御で直接斬られる事だけは防げて……でも二人纏めて吹き飛ばされる。
(…ぁ…これ、駄目だ……)
後方にあった岩に、激しく背中を打ち付ける。それ自体も痛い。かなり痛い。…けど、今はそんな事なんてすぐ頭の隅に弾かれていった。
分かる。次の攻撃はもう凌げないと。体勢が崩れて、衝撃で身体に痺れも感じる今の状態じゃ、防御も回避もしようがない。そして闇なら、今の距離なんて、さっきと同じように間違いなく瞬時に詰めてくる。そんな相手に、こんな状況で出来る事なんて、何も……いや、違う。一つだけある。防御も回避も、迎撃だって出来ないけど…エスちゃんを押す事位は出来る。エスちゃん一人なら、守れる。
そう思うと、少しだけほっとした。迷う理由なんてない。エスちゃんを守れるならそれで良い。だからわたしは自分の心に従ってエスちゃんを……
「させる──ものかッ!」
地を蹴り再び飛んだ闇に向けて放たれる、遠隔攻撃。そのどれもが闇には一歩届かず、闇の後ろを駆け抜けていく。みるみる内に闇との距離は縮まって、見える姿が大きくなっていって……次の瞬間、声が響く。闇の刃が届く間合いになる直前に声が響いて、間合いに入る寸前に…人よりも遥かに大きい『腕』が、闇の行先を遮った。
「(これって…)ぁぐ…ッ!」
「ぅぐ……ッ!」
直後、『腕』は肩の関節辺りから斬り落とされる。鉄の塊である腕が、いとも簡単に両断されて、遮られていた道が開く。今度こそ間合いに入った闇は、さっきと同じように剣を振り上げ……また、わたしの身体を衝撃が襲う。今度は横からの衝撃がお腹の辺りに走って…そのままエスちゃん共々押し飛ばされる。
「ちッ…たとえ落とせないとしても……ッ!」
「……っ…なんでいきなり私達から狙いを…」
「分からない、だが今はこれ以上自由にさせない事が先決だ…!」
初めにすぐ側から声がして、追い討ちを掛けるように迫ってくる二本のゲハバーンへ端末が攻撃を仕掛ける。放たれた光弾は刀身に弾かれて…端末は、そのまま突進。二基の端末が突っ込んで、損壊と引き換えにゲハバーンの軌道を大きく逸らす。
続けて茜さんとズェピアさんの声が聞こえて、ほぼ同時に魔術…わたし達の魔法とは似てるけど違う魔力の攻撃が闇へと飛んで、続けざまに射撃や斬撃、刃や炎や電撃なんかが次々と襲う。その近くでは、片腕を失った鉄騎…ワイトさんの機体が起き上がろうとしていて、それを見たのと殆ど同じタイミングで、身体が地面にぶつかった。押されたまま落ちて、そのまま勢いで地面を擦る。そうしてわたしは、わたし達は、何が…ううん、誰がわたし達を飛ばしたのか気付く。
「間一髪…君がいてくれて助かったよ、影くん…」
「こっちこそ助かった…全く、世話の焼ける双子な事だ……」
「せ、世話って…助けてくれた事は感謝するけど、あの状況と状態なら、誰だって同じ──」
スピーカー越しの声に応えた人物、影さんは、呆れ混じりの声で言う。茫然としていたエスちゃんはその言葉で我に返ったみたいで、そんな言われ方をされる筋合いはないとばかりに言い返し…かけて、言葉が止まる。言葉に、詰まる。
理由は、すぐに分かった。すぐに気付いた。ギリギリでわたし達を、小脇に抱える要領で掴んで離脱した影さん。その影さんの身体……太腿から先にある筈の脚が、ない。
「…そん、な……」
「……ッ、ディーちゃん治癒!力を貸してッ!」
背筋が凍る。全身に寒気が走って、胸が締め付けられる。わたしは一瞬、何も考えられなくなって…焦るエスちゃんの言葉で、今度はわたしが我に返る。
「…すぐに、治します…っ!わたしが、わたし達が……!」
「いや、いい。別に痛くはないし、二人に治せるようなものじゃない」
「馬鹿にしないでよね…!助けられて大怪我負わせて、挙句治せませんでしたなんて認められる訳ないじゃない…!脚の一本や二本、わたし達で絶対に……」
「だからそういう事じゃない、『治す』事は無理だって話だ」
まだ魔力が回復した訳じゃない。岩にぶつかったダメージも、今さっき地面を荒っぽくスライディングしたダメージもまだ残ってる。けど今は、そんな事どうでも良い。わたし達より、わたし達を身を挺して守ってくれた影さんの方がずっと重傷で…このままだったらどうなるかなんて、考えるまでもなく分かる。
だから、治してみせる。絶対に、わたし達で何とかする。写本グリモワールにストックしてる魔力でも、写本で無理矢理自分の中から魔力を引き出してでも。わたしもエスちゃんもそんな思いで、何が何でも治すんだって全力を……出そうとして、改めて止められた。止められ、含みのある言い方をされて…わたし達は気付く。影さんが平然としている理由に。どうしてわたし達じゃ治せないのかって事に。──切断面から覗く、コードや金属で出来た数々の部品に。
『あ……』
「…ご覧の通り、この場で『直せる』としたら、イヴ位だろうさ。尤もイヴにしたって、パーツも無しに直せるものかって話だろうが」
義足。イヴさんの左腕と同じ、生身じゃない身体。その事に気付いたわたし達は、一気に緊張の糸が解けて力が抜ける。よ、良かった……いや、良くはないけど…まだ戦闘中でもある訳だけど…。
「そうならそうと早く言いなさいよね…。…けど…両脚共って、貴方……」
「色々あってな。…しかし、どうしたものか…黒切羽の操作には問題ないとはいえ、流石にこれじゃまともな戦闘は出来ないな……」
「…影さん、イリスちゃんの側まで運びます。その遠隔操作端末を使う事は、影さんの判断に任せますが…暫くは、休んでいて下さい」
エスちゃんも頷き合って、どうこう言われる前に影さんを運ぶ。流石に今の状態で無理するつもりはないって事なのか、影さんは「悪いな」と言うだけで…運び終えたわたしは、ゆっくりと一つ息を吐く。
どうしようもなかった状況とはいえ、わたし達は大きな被害を影さんに負わせてしまった。…もう、同じ轍を踏む訳にはいかない。わたし達は勿論、誰かがそうなりそうになったとしても…同じ事なんか起こさせない。
「…気負うなよ?これは俺…それにワイトが勝手にやった事だ」
「別に気負ってなんかいないわよ。わたしはこれまで通り、やれる事とやりたい事をやるだけだもの…ッ!」
そう言って、エスちゃんは地面を蹴る。わたしも影さんの方を見て、一つ頷いて、エスちゃんの後を追う。
「皆さん、戻りました…!あの、茜さん……」
「えー君がだいじょーぶなのは分かってるよ!だから気にしないで!」
「あ、は、はい…!」
弾かれて飛んできた、地面に大剣を突き立てて減速した茜さんに声を掛けると、名前を呼んだ時点で即返答された。…と、同時にわたしはある事を思い出して、訊く。
「そうだ、そういえば…どうして急に、狙いがわたし達に…?」
「分からないけど、向こうも拘っていられる状況じゃなくなったとか、タガが外れたとか、そういう事じゃないかしら…ねッ!」
わたしの言った質問に答えてくれたのはセイツさんで、言いながら圧縮シェアエナジー弾を撃ったセイツさんは、そのまま真っ直ぐ飛んでいく。そのセイツさんの向かう先にいるのは、当然人の姿をした闇で……仕掛けられてからずっと、ちゃんと見る事が出来ていなかった闇の姿は、変わっていた。
変わったと言っても、違う形態になってる訳じゃない。外見は人の姿のままで…でも、分かる。かなりのダメージを負っている事が。身体の色んな部位にノイズが走ったり、闇の濃度が変化していたりして…無傷だったこれまでとは、明らかに違う事が。
(そっか…ちゃんと、効いてはいたんだ……)
あまりにも強力な反撃だったから、まさか…とは思っていたけど、闇には何も効いていなかったから、強力な反撃が出来た訳じゃないらしい。むしろセイツさんの言う通り、深手になったから向こうもなりふり構わなくなったんだと考える方が自然で…心なしか、動きも悪くなっているように思える。
「狙うは変化している部位だ!あれが負傷によるものならば、攻撃が通る可能性が高い!」
「簡単に言ってくれる…!」
「でも、目印があるのは良い事よ。特に今回は、誰にも見える訳だしね…ッ!」
言葉と共にズェピアさんが手を振れば、そこから赤黒く渦巻く突風が闇に迫る。斬撃を飛ばして闇がそれを両断すれば、地上からはビッキィさんが、空からはネプテューヌさんが仕掛け、連携して近接攻撃を打ち込んでいく。ゲハバーンに触れたら防御をしていてもお終いなネプテューヌさんは、数度打ち込んだところで下がって、そこに闇からの鋭い刺突が放たれて…滑り込んだグレイブさんのポケモン、つるぎが防御の技を展開して防ぐ。その防御が展開している内にエスちゃんが闇の上を取って、細い魔力ビームを立て続けに叩き込む。
「わたしも…!」
見えているって言っても、遠くからノイズの走っている部位へ正確に攻撃を当てるのは難しい。そう判断したわたしは、ダメージを与える事より妨害に徹する事を優先する。まずは持っている一本に加えて、もう二本杖を精製して、それを自分の左右に展開して、三本からそれぞれ氷の魔法を闇へと放つ。魔法陣じゃなくて杖を精製したのは、こっちの方が小回りが効くし、動き回りながらでも魔法を放ち易いから。その分杖の精製自体にも魔力を使うし、瞬時の展開は出来ないけど、今はこっちの方が状況に合う。
飛ばす魔法は、氷は氷でも凍結の魔法。上手く当てられて、凍結で一瞬でも動きを鈍らせられればそれだけで十分サポートになる。…と、思って飛び回りながら撃ち込んでいたら、外れて地面に当たった、そこで凍結する事で出来た小さな氷塊を足場に急激な方向転換を掛けたピーシェさんが、闇に一撃放って避けられた状態から素早く再攻撃を仕掛けていて…闇のノイズが走った部位を、鉤爪が斬る。深くではないけど、確かに捉える。
「やたっ、当たった!でぃーる、ありがとっ!」
「あ、は、はい…(あんないきなり、打ち合わせもなく出来た氷を蹴って攻撃に繋げるなんて…さらっととんでもないものを見せられた…)」
女神は皆センスというか、戦闘における直感が凄いものだけど、ピーシェさんは女神の中でも特にそういう、本能的な部分が凄い気がする。そんなピーシェさんの直感と、偶然と、ほんの少しだけど闇の動きが悪くなっている事が重なって、攻撃が届いた。それも今度は時間を掛けた準備無しに、連携だけで。
「まだまだいくよッ!カイト君、合わせられる?」
「合わせるッ!」
斬られた事をものともせず、ピーシェを蹴りで下がらせ自身も後退した闇の左右から、茜さんとカイトさんが迫る。茜さんは赤い粒子を、カイトさんは炎をなびかせながら加速し接近を掛けて、二人同時に大剣を振る。左右からの、加速を乗せた重い大剣の一撃を、闇は左右の剣で、片手ずつで受け止める。それどころか、押し返し始める。…けど、そこに駆けるのは紅白の一閃。
「直接が駄目だってなら…ッ!」
「間接的に叩き込むまでだッ!」
押し返される二振りの大剣に打ち込まれる、蹴撃と掌底。茜さんの大剣にはアイさんが、カイトさんの大剣にはイリゼさんが打撃を打ち込んで、力を伝えて、大剣を押し込む。押し返し返す。
それによって姿勢を崩した闇の真正面に、三本目の大剣が…杖を芯にしたエスちゃんの大剣が振るわれる。左右からの力を利用するように、押し出されるように闇は後ろに跳んでエスちゃんの縦斬りを避けたけど…エスちゃんの持つ氷の大剣が地面に触れた瞬間、そこから無数の氷が伸びる。氷は広がりながら闇を追って……足先を、取り込む。
「捉…えたぁッ!」
氷の端が足先を捉えた瞬間、エスちゃんは追加で魔力を流し込んで、発生させた氷の強度を上げる。捉えたといっても足先だけで、闇は斬撃で氷を砕いて即脱出してしまったけど…その一瞬は、凄く大きい。
光芒に、光弾に、突風が実体を持ったかのような槍。ワイトさんの機体の砲撃と、影さんが再展開した端末の一斉攻撃と、ズェピアさんの魔術が立て続けに闇を襲う。そしてその攻撃で巻き起こる爆炎に向けて、セイツさんとネプテューヌさんが突っ込む。
「どうせ殆ど、或いは全部凌いでくるんでしょう?だから……」
「こっちもそれを前提に動くだけよッ!」
言葉の通り、爆炎を斬り裂いて現れた闇に向けて、セイツさんが剣を振る。互いに振った剣同士でぶつかり合って、セイツさんは弾かれて、けどそこでセイツさんは弾かれた勢いで離脱しつつ、逆の手の剣を手放す。後を追う形で突っ込んでいたネプテューヌさんがそれを掴んで、そのまま突き出す。
刺突を闇は片手剣の腹で防御。大剣ならまだしも、片手剣の腹で刺突を防ぐというのは恐ろしい反射と精密さで…それでも勢いに乗っていたネプテューヌさんの刺突は、セイツさんとの奇策で不意を突けたようで、少しだけど体勢を崩す。そこにわたしが凍結魔法を撃ち込んで、躱されなかった一発が当たる。
「お願い、しますッ!」
「えぇ!」
「あいよッ!」
さっきのエスちゃんよりもしっかりと闇を捉える氷。今度は砕かれるよりも早く、下方からはイヴさんの、上方…ブラストの上からはウーパの射撃が、二つの狙い済ませた一撃が闇を撃つ。どっちも正確に撃ち抜いて…反撃するように放たれた斬撃を、イヴさんは横に転がって、ウーパは同じように乗るグレイブさん諸共ブラストが急旋回を掛ける事で回避しもう一発撃つ。
「畳み掛ける…ッ!カーディナル・アスター!」
二度目の十時砲火は斬り払った闇へ迫る、赤い砲弾。死角から蹴り放たれた砲弾は、振り向く動きと共に紙一重で躱され、多少鈍っていても尚速い動きでアイさんに突撃を仕掛け……爆ぜる。──闇を背後から襲った、炎を纏った赤い砲弾が。
「へっ、ナイスだ愛月、それにバックスも…なッ!けど、本気で打ち込んだ一発を、こうも簡単に蹴り返されると少し凹むっつーかなんつーか……」
「あはは、今のがビームとか衝撃波だったら、バックスが吹っ飛ばされてたんじゃないかな。蹴られた『球』だったから、バックスは蹴り返せた…ボールの扱いなら、バックスはお手のものだからね!レックス、ドラゴンテール!」
爆風でつんのめるような形になった闇へ脚を振り抜いた後、軽やかに着地する、砲弾に炎を加えて蹴り返したバックスの様子に、小さく肩を落とすアイさん。それに苦笑しつつも愛月さんは指示を出し…蹴られて飛んでくる闇へ向けて跳んだレックスが回転。立て直した闇の攻撃と、振り出されたレックスの尻尾が衝動。互いに大きく飛ばされて……
「全力、全開…クレッセント・リフレイクッ!」
魔力を帯びた剣が下から上へ振り抜かれると共に、その軌道が実体化したように現れる、三日月の様な斬撃。輝きと共に飛ぶ斬撃に対し、闇も斬撃を飛ばして迎撃。二つの斬撃が宙でぶつかり…ルナさんの斬撃は、砕け散る。砕いた斬撃はそのまま飛んで、剣を振り上げた状態から防御に移ったルナさんは斬撃に押される。その時乗っていた岩から転がり落ちて……闇もまた、落ちる。闇の背後に現れた、闇の背後で再構成されたルナさんの斬撃に斬られて、膝を突く。
「今だよ、皆ッ!」
岩にも転がった先の地面にも身体を打って、見るからに痛そうな落ち方をしたのに、すぐさま起き上がってルナさんは声を上げる。
その声は合図。それに応えるように、空から圧縮シェアエナジーの武器が次々と飛来する。それもただの武器じゃない。宙で超低温の…氷淵のフリーズドライを受ける事で氷を纏った武器が飛来し闇を上から叩く。イリゼさんは種類の違う武器を展開する事で速度や軌道をばらけさせ、氷淵はシェアエナジーの武器を氷でコーティングする事でゲハバーンの吸収を阻む。結局氷は砕かれて吸収されてしまうけど…触れるだけで消えてしまう状態と、『砕く』のに力を必要とする状態だったら、簡単だったとしてもまるで違う。
そして、これは陽動。立て続けに飛来する凍結武器の全てを闇が凌いだ時……本当の『攻撃』が、駆け抜ける。
「喰らい…やがれッ!」
凌ぎ切るのとほぼ同時に、横でも後ろでもなく真正面から最高速度で懐へと飛び込んだアイさんの繰り出す、斬撃の様に鋭利な蹴り。すれ違いざまに、斬り裂くように叩き付け、その蹴りを受けながらも反撃で返そうとした闇の真上に、獄炎が現れる。跳び上がり、その勢いのままに突っ込んだ獄炎の拳が、炎と共に振り下ろされる。
続けざまに、打撃で前傾姿勢になった闇の真横に、跳躍からの超低空突進を掛けたバックスが迫る。ぶつかる直前に地面を踏んで、そこから前傾姿勢の頭に向けてサマーソルトキック。拳に続く、炎を纏った脚で闇を蹴り上げて…跳ね上がった闇の上体に、胴体にビッキィさんが打撃を放つ。捻りを加えた、捩じ込む一撃が、素手の一撃とは思えない程の音を立てながら闇の胴を強かに打って……跳ね飛ばす。
「まだ…終わりじゃないッ!」
パンチで飛ばされた闇を襲う衝撃波。それが忍術なのか、それともまさか拳を振るっただけで生み出したのかは分からないけど、飛ばしたのは確かにビッキィさん。更に宙からは赤い斬撃が…今度は本当にアイさんの蹴りによって、その軌跡が変化するようにして形となったシェアエナジーの刃が同時に迫る。衝撃が打ち、斬撃が斬り…左右から火炎が、回り込んだ獄炎とバックスの二つの炎が挟むように闇を包む。燃え上がって、広がって…闇は、振り払う。…きっと、アイさん達が予想した通りに。
炎が払われた時、アイさんとビッキィさんはもう肉薄していた。二人の蹴りと殴打が正面から打ち込まれ、離れた二人と入れ替わるように獄炎とバックスの打撃もまた放たれ…入れ替わり立ち替わり、絶え間ない攻撃が打たれ続ける。闇に反撃を許さないまま、素早く鋭く打ち込まれ続ける。…何度も何度も、闇の傷跡を打ちながら。ただ攻撃をぶつけているんじゃなくて、その勢いと連打で反撃を封殺しながら、圧倒的に…正確に。
「バックス!獄炎!」
「これで決めるぞッ!」
トレーナー二人の声を受けて、獄炎とバックスの放つ炎の火力が増す。直前に駆け抜けるような一撃を打ち込んでいたアイさんとビッキィさんも振り向き、四方向から同時に迫る。
攻撃の全てがノイズの走る場所に当たっていた訳じゃない。立て続けに攻撃を受けても尚、闇の動きは速い。迫るアイさん達に向け、闇は広げた二本の剣で回転斬りを仕掛け…けれど、見切る。バックスは飛び越え、ビッキィさんは斬撃の下に滑り込み、獄炎は地面に脚を突き立て一瞬の急ブレーキとそこからの再加速を掛け、アイさんは急上昇と宙返りで躱しながらも接近を続け…肉薄。次の攻撃、闇の反撃が来るよりも速く……腕を、脚を、振り抜く。
『クロスレンジ・オブ・ブライズレットッ!』
纏う力こそあれど、それは全てただの殴打と、蹴撃。武器でもなければ魔法でもない、純粋な近接格闘攻撃。…それが、完全に、確実に闇を捉えた。二つの殴打と二つの蹴撃が、闇のノイズが走る場所を捉え……砕く。単純で純粋な力…それを突き止めたからこその強さが、闇を濃縮したようなその姿を、穿つ。
「…凄いわね。なんかこう…凄いわね……」
「エスちゃん、語彙が…って、言いたいところだけど…うん、わたしもそう思う」
勿論わたし達だって、のんびり眺めていた訳じゃない。一本も、一撃も宙を飛び回るゲハバーンが邪魔に入らないよう、蹴散らし続けていた。そしてそのゲハバーンが…今は、止まっている。落ちたり、地面や岩に突き刺さったりしたまま、動きを止める。
近くに降りてきたエスちゃんの言葉に、わたしは頷く。上手いとか、精密とか、表現出来ない事もないんだけど…しっくりくる言葉を探そうとすると、「凄い」しか出てこなくなる。…今の連撃は、本当にそういうものだった。
「おつかれっ、びっきぃ!えと…手ごたえ?…は、あった?」
「…えぇ、ありました。凄く体力と集中力を費やす事になりましたが…感じましたよ。確かな、感覚を」
そう言って、ビッキィさんは拳を握る。アイさん達も闇から離れていて、わたし達は闇を見つめる。
今の連撃でその身を大きく穿たれた闇は、動かなくなっていた。不気味な位に、全く動かず…緊張感が、募る。変に動くよりも、微動だにしない方が、何かありそうな恐ろしさがあって……けれど、闇の姿が崩壊する。動かなかった闇の身体が、固まっていた砂の様に、ぼろぼろと崩れ始める。
「これは、勝った…って事なのか……?」
「…いや、まだよ…まだ、何か……!」
一瞬の安堵と、口から零れたようなカイトさんの声。崩れていく闇の形を見れば、倒せたんじゃないかと思うのは普通の事で…でもここまでの強大さを思うと、崩れていく姿を見ても、半信半疑になってしまう。カイトさんの声からは、そんな感情が伝わってきて…わたしも同じ気持ちだった。けど崩壊が進むにつれて、少しずつ安心感が広がっていって……そんな中で、イヴさんが声を上げる。言われて気付く。闇が、何かをしようとしている事に。
何をしようとしているのか、何が出来るのか…何も、分からない。ただまだ何か、闇からは意思の様な…思いのようなものを感じられて…一歩、前に出る。砕けつつある脚で、確かに一歩前に出て……
(…ぁ……)
それを、その『行為』を目にした瞬間、わたしの中で警戒心が消えていた。倒さなければいけない存在じゃなくて…それとは違う、別のもののように思えた。だって──闇は、手を伸ばしていたから。わたし達の方に。或いは…闇にしか見えていない、『何か』の方に。もうゲハバーンを握っていない手で、今にも消えてしまいそうな身体で、手を伸ばして……闇は、崩れ去った。
*
影、ズェピア、それにアイとイヴの知人らしいもう一人の誰か。その三人の、恐らくは『可能性』が混ざり合った存在に、何とか勝つ事が出来た。…もしかすると、三人以外にも何か混ざっているのかもしれないけど…混ざっているかどうか、混ざっているならそれは何かっていうのは、そこまで重要な事じゃない。今、一番重要なのは……確かに、勝ったって事。
「な、何とかなったぁ…」
「お疲れ様、ルナ。あの時私達のサポートをしてくれて助かったよ」
「だな。ここ一番でのルナはやっぱ頼りになるわ」
「え、そ、そう?そうかなぁ?…えへへぇ……」
緊張感が解けて、その場でへたり込むルナの側に移動したイリゼとアイが、それぞれ感謝と信頼の言葉をルナに送る。言われたルナは、少しだけ驚いて…それからふにゃりとした笑みを浮かべる。見るからに嬉しそうな、感情が100%顔に出ていそうな雰囲気の笑みを。
「…逃がせなくてごめん、申し訳ない…ではなく、助かった、頼りになる…か。ここでそういう言葉が出てくる事もまた、カリスマ性の一つなんだろうね」
「ああ。そしてイリゼ様もアイ様も狙って言ったのではなく、素の言葉…自然な思いから出た言葉なんだろうと私は思うよ」
「えー君えー君大丈夫?おんぶする?」
「大丈夫だししなくていい。…しかし、先の塔での怪我は出た時点で回復していたが…これも直るのか…?」
どうなんだ?…という視線を影から向けられるわたし。どうかって言われると…どうなのかしら…。多分治る…もとい、直るとは思うけど、今のここは普通の状態じゃないし…。…あ、というか……。
「今、ここの塔ってどういう状態になっているのかしら」
「え?…あ、そうね。シェアリングフィールドを展開したままだと、分からないものね…解除はしようと思えば出来るけど、どうする?」
「解除してから実はまだ撃破出来てませんでした、ってなったら不味いですね。これがないと女神の皆さんは危険な訳ですし。って訳で、イヴさんとズェピアさんの負担次第ですが、出来るなら展開可能限界まで念の為維持してみる方が安全だとわたしは思います」
「んじゃ、ちょっと索敵してみるか?ブラスト、さっきから飛びっ放しなのに悪いが、空から頼むぜ?」
「索敵…じゃあ、私も」
力強く飛び上がるブラストに続いて、ルナも何かの魔法で探知を始める。影は端末で、茜は能力で、ワイトはマエリルハの各種レーダーとセンサーを駆使して、もう危険はないのかと調査をしていく。
わたし達女神も、ブラストと同じように空へ。手分けして周囲を調べてみるけど…これといって、気になるものは何もない。
「…やっぱり、倒せた…って事で間違いないんでしょうか」
「まあ、落ち着いて考えたら、倒せてるに決まってる…って感じだけどね。ディールちゃん達の連携技の時点で普通ならオーバーキルもいいところの威力でしょうし、その後もあれだけ喰らったんだもの。…あ、そういえば…さっき二人は、氷淵に力を送ってたって言ってたわよね?じゃああの後氷淵を再変身?…させなかったのは、その消耗が大き過ぎるから?」
「それもあるけど、あれやってる最中はわたし達満足に動けなくなるのよ。だから常時使用には向かないって訳」
少なくとも、バラバラに動いて調べてるわたし達へ仕掛けてくる存在はない。崩れ去った闇は、今はもう『人型の闇だったもの』でしかない。という事は、やっぱりもう、戦いは終わったって事でいいのかしら…。
「…あれ?」
「どうしたの?愛月君」
一度高度を下げたところで聞こえた、何かに気付いたような愛月君の声。何事かと思ってわたしが声を掛けると、愛月君はあるものを指差して…言う。
「…ゲハバーンは、消えないのかな…?」
「あ……」
その発言を聞いた瞬間、思考が止まる。一瞬、完全に思考の中で空白が生まれて…それからすぐに、思う。…そんな訳がないと。そんな筈がないと。
闇が使っていたゲハバーンは全て、闇自身が生み出したもの。振るっていたものも、飛ばしたものも、全て闇が発生させていたもの。現実の世界なら、完全に一つの『物』として独立するタイプの精製をした可能性も考えられるけど…ここの塔の事を考えれば、残るタイプのプログラムになっている可能性は低い。それなのに、まだゲハバーンが残ってるって事は……
「……っ!皆、気を付けて!多分まだ終わっていないわッ!」
声を上げて、既に一度見回ったこの場をもう一度見回す。確実に何かある。倒せてなかったのか、まだ別の存在が残っているのか、具体的な事は分からないけど…終わりでは、間違いなくない。
…そう思ってわたしが見回したのと、『それ』が起こったのは、ほぼ同時だった。
「わっ!なんかヘンになってる!」
聞こえた声と、指差すピーシェの姿。その指が示している先は、闇の残骸がある場所で…つい数秒か十数秒前まで、それは消えつつあった。少しずつ、消滅していた。それが今は、止まっていて…それどころか、崩れた時点で止まっていたノイズが、今は再び現れていた。
わたしか見ている間も、ノイズは広がっていく。広がり、闇の残骸を包み……周囲の空間も、飲み込んでいく。更に広がり、狂っていく。
「おいおい、こりゃまさか…第二形態か…?」
「…私達が初めに入った塔の存在も、第二形態があった。それを思えば、あり得ない事はない、が……」
「まだ真の姿じゃなかったとは、思いたくねーな……」
驚きを声に滲ませるグレイブ君の言葉に、ズェピアが応える。続くアイの呟きには、多分皆が心の中で同意をする。確かにわたしが戦った存在にも、二つの姿があった。あれの場合、もう一つの姿は一概に最初の姿より強い、って訳じゃなかったけど…そのパターンだったとしても、これだけ消耗した状態で、もう一戦というのは骨が折れる…なんてレベルじゃない。
でも、だからって相手が自重してくれる筈もない。この塔に入った時点で、わたし達にあるのは、戦って勝つか負けるかの二択。
「何かの形に…って、何だこれ…ワイトさんの機体よりずっと大きくないか…?」
「……冗談じゃ、ないわよ…ギョウカイ墓場みたいな場所って時点で、ずっと頭の片隅にはあったけど…これは、こいつは…」
周囲の空間を侵蝕するように広がるノイズは、MGのサイズを優に超える。広がるにつれて、ただの拡大から、明確な『形』へと変貌していく。まだはっきりとは分からない、ノイズのせいで輪郭もブレる…それでも『異形』であると分かる、何かの姿に。
その最中に、ぽつりとエストちゃんが呟く。どうやらエストちゃんは思い当たるものがあるみたいで…それもエストちゃんだけじゃない。イリゼ含め、他にも何人かが反応している。そして拡大が止まった時…ノイズの中央、或いはその少し下辺りが、蠢く。蠢き、歪み、そこに力が収束していく。
「くッ…まだ終わらないというのなら、終わる瞬間まで戦うのみ…!皆、戦えそうになかったら一度下がって!最悪私一人でも、皆が小休憩出来る位の時間は──」
手にした得物を構え直したイリゼは、ノイズから目を離さないまま呼び掛ける。まずは自分が、と意思を示す。それは何ともイリゼらしい言葉で…勿論、わたしの選択は決まってる。イリゼがその気なら、わたしも姉として、同じ女神として、前に出るだけ。加えてわたしは恐らくノイズの正体を分からない以上、どんな存在か把握するのも含めて、時間稼ぎをする事に徹して……
……そう、思っていた時だった。ノイズの中で収束した力が、一閃の光芒に…闇の閃光になって、わたしの横を駆け抜けたのは。
「……ぁ…ぇ…?」
警戒はしていた。攻撃かもしれないと、避ける準備は整えていた。それでも狙いがわたしじゃなかったからか、反応出来なかった。気付いた時には、放たれた闇が駆け抜けていて……茫然としたような、イリゼの声が聞こえてきた。何かあったのかと思って、わたしは反射的に振り向いて…目にする。目の当たりにする。イリゼの血を。直前に精製したんだろう、砕けた小盾を。──闇に左の脇腹を抉られた、イリゼの姿を。
「──イリゼさんッ!」
覚束ない足取りで、数歩下がる…下がってしまうイリゼ。一歩下がって、二歩下がって、後ろに倒れそうになって…弾けたような声と共に、飛び込んだディールちゃんが支える。次の瞬間、咳き込むようにイリゼは血を吐く。
皆が駆け寄る。ディールちゃんにエストちゃん、それに治癒が使える面々が血相を変えてイリゼの怪我を治し始める。けれど、イリゼの血は止まらない。脇腹に、欠けたような大きな穴が空いている以上、内臓諸共抉り取られている以上、そんな簡単には治らない。
そして、わたしに治癒は使えない。イリゼを癒す事は出来ない。だから……
「……ぁぁぁぁあぁああああああああああッ!!」
地を蹴る。目の前の空間全てを撥ね飛ばすようにして突進する。何に?…そんなの決まっている、わたしの『敵』に決まっている…ッ!
「貴様ぁああああああッ!」
一対よりも多い腕と足。胴らしき場所で吊り上がる、巨大な口。その上部から伸びる、人型の何か。わたし達がイリゼに視線を移している間に、ノイズは消え、さっきまでと同じ暗闇形を得たような…けれどさっきまでとはまるで違う姿に、闇は変貌していた。
いや、同じ『闇』かどうかは分からない。バグによって別のものに変質したのかもしれない。…けど、そんな事はどうでも良い。事情なんて関係ない。
闇から放たれる、さっきのよりは遅い分数の多い光芒を、トップスピードのまま避ける。避けて、一気に近付いて、闇に剣を突き立……
「がッ、ぁ……!?」
──身体を襲う衝撃。巨大な鈍器で全身を殴られたような、激しい痛み。わたしは止まり…落ちる。地面に倒れ…気付く。闇の周囲を囲う、薄っすらと見える暗い膜の様なものに、わたしは衝突したのだと。
「…こ、んな…ものでぇぇ…ッ!」
開かれた手の一つから放たれた光線を、痛む身体を無理矢理動かしギリギリで躱す。転がって避け、跳ね起き、今度こそ連結剣を振るう…けど、また膜の壁に阻まれる。 ならばと近距離から圧縮シェアエナジーの弾を撃ち込んでも、壁は破れない。どうも幻術で壁に誘導されたとかじゃなく、本当に薄っすらとした…それでいて強固な壁があるらしい。
「ぐっ…だったら上から押し潰し……」
「落ち着きなさいセイツ!気持ちは分かるけど、怒りのままに戦っても勝てないわ!」
「わたしは冷静よネプテューヌ!わたしは冷静に、どうすれば八つ裂きに出来るか考えている…ッ!」
飛び上がって次の攻撃に移ろうとしたわたしは、後ろから肩を掴まれる。それはネプテューヌで、わたしを一喝してくる。そんなネプテューヌにわたしは言い返して、改めて攻撃しようとして…再び止められる。それも今度は、目の前を通り過ぎた端末によって。
「冷静だって言うなら、冷静だと思える言動をしろ。それと…姉の割に、案外イリゼの事を知らないんだな」
「何ですって…?…影、今のは聞き捨てならな……」
「たかだか胴に穴が空いただけだろうが。あんなもの、イリゼにとっちゃ致命傷でも何でもない」
駆け抜けた端末の主である、影の煽るような言葉。それにわたしは食ってかかりかけて…影の次の言葉に、はっとする。はっとして……その次に聞こえた、弱々しい…けれど確かな声に、振り向く。
「…はは…影、君が言うと…説得力が、違う…ね……」
横たわった状態で、最悪の顔色で、小さく笑うイリゼ。そんなイリゼを見て…心の中から、安堵が滲み出る。見るからに安心出来る状態じゃないけど…それでも「自分は冷静じゃなかった」と認められる位には、心の状態が変わる。
「ちょっ、おねーさん喋らないで!一応言っとくけど、これ普通に致命傷だから!おねーさん状況分かってる!?」
「致命傷は、致命傷でも…致命傷で済んだ、的な…?」
「嘘でしょ頭にまでダメージあるの!?回復間に合わないわよ…!?」
「いや、エスちゃん…今のは流石に冗談だと思うよ…?こんな状態で冗談言うとか、確かに正気を疑うけど、まともな思考が出来る状態じゃないのは事実だし……」
地上で交わされる、緊張感があるんだがないんだか分からないやり取り。それを見て、良い意味で気の抜けたわたしは、今度こそ本当に冷静な思考が……
「……──ッ!?ぐぅッ!」
「ぁぐ…ッ!」
直後、背後に感じた気配と危機。本能的に振り向き剣を構えれば、そこには異形の闇が…巨大でありながら、結構な高度にいた筈のわたしとネプテューヌのところにまで跳び上がってきていた闇の姿があって、闇は拳を振り抜く。咄嗟にわたしもネプテューヌも武器で防御をしたけど、弾き飛ばされ地面に墜落する。
「不味い…ディール君エスト君、治癒の続行を。イリゼさんは私が運ぶ…!」
「時間稼ぐっつった本人が稼いでもらう側になってどうすんだよイリゼ…だがそれはそれとして、やってくれるじゃねーか…ッ!」
全身を襲う二度目の衝撃で身体が軋む。その身体を起き上がらせる中、ズェピアは浮かぶ黒塗りの板の様なものにイリゼを乗せていて…アイの言葉と振り抜かれた脚からの砲弾を皮切りに、遠隔攻撃が闇へと殺到。次から次へと飛び、襲い…けれど全てが、わたしの時と同じように膜によって阻まれてしまう。
「注意して皆…!遠距離攻撃は勿論だけど、あれのせいで近付くのもままならないわ…!
「無理に突っ込んだら、さっきのセイツみたいになる訳か…」
「けど、常に展開してる訳じゃない筈よ…!少なくとも、近接攻撃の瞬間は展開していない筈…じゃなきゃ、わたしもセイツも殴られる前に押し除けられてる筈だもの…!」
ネプテューヌの言葉に、わたしも頷く。あの巨体が張りぼてでない限り、タフさは人型の闇と同じかそれ以上である事は間違いない。こっちは既に消耗しているのに、また同レベルのダメージを、それも今度は視認し辛い壁が消えている瞬間を狙って与えていかなきゃいけない。
ただそれでも、こうすれば通せるかもしれない…そう思える要素があるだけでも、ずっと違う。可能性があれば、気力は湧いてくる。…そう、思っていたわたしだけど…すぐに思い知らされる。それが、その思考が…異形の闇に対しては、楽観視に過ぎなかったのだと。
「とにかく固まっていたら危険よ!さっきよりずっと的は大きいんだから、積極的に散開して……きゃああぁぁッ!」
「ゆりちゃん!?くっ、ぅ…!何、この速さは……!」
着地していた闇に向けて射撃を掛けつつ、イヴは低空飛行で飛ぶ。放たれたエネルギー弾は闇の胴らしき場所に飛んで…当たる事なく、通り過ぎていく。幕の壁に阻まれる事もなく、壁に触れるよりも早く闇が地を蹴り、射撃を飛び越え襲い掛かった事で、イヴは吹き飛ばされる。それも直接殴られたんじゃなく、辛うじて躱した直後に、殴られ砕けた大地の破片に打たれて…余波に過ぎないダメージで、大きく飛ばされる。反応した茜の遠距離攻撃は壁で阻まれ、闇は茜に突進し…迎え討つように振るわれた大剣が、空を斬る。闇は茜を翻弄するように動き回った末、さっきわたしに放ったのと同じ光芒を撃ち込んで、茜に防御を強いて…そのまま接近すると共に蹴り飛ばす。二人共、あっという間に蹴散らされる。
「何なんだ…何なんだこの、最大レベルになった超覚醒持ちみたいな存在は……ッ!」
「駄目だ…機体が追い付かない……!」
連結させ大剣状態にした剣を叩き付けても、壁はびくともしない。阻まれると分かった上での攻撃で、ここから反撃を引き出して、その反撃に合わせる形で斬るつもりだったけど…間に合わない。消耗した状態で身体を二度も激しく打ち付けたせいで、自分で思っていた以上に動きが悪くて、反撃返しもまた阻まれて終わる。そこからも攻撃は続けるけど、上手くいかずに、狙いを変えた闇に振り切られてしまう。
聞こえてくるのは、ビッキィの焦燥の声と、ワイトの歯噛みするような声。…全員、返り討ちに合うか振り切られる。全くこっちの攻撃が届かない。
(冗談じゃないわ…なんでこんなに大きいのに、これだけ素早く動けるのよ……ッ!)
速さと機敏さはトレードオフ。大きければ大きい程小回りが効かないのは当然の事。…その筈なのに、闇はわたし達より遥かに大きいのに、動きで翻弄してくる。反応は出来るけど、巨体と桁違いなパワーがありながら機動性も高いなんてなったら…それはもう、脅威なんてレベルじゃない。
それでも、やらなきゃいけない。勝つ為には、イリゼ達の為には、やるしかない。
「ピーシェ!ネプテューヌ!何とかチャンスを作るわよッ!」
「そうね…ッ!」
「うんッ!」
休む暇はない以上、個の力の低下は、皆の力を借りて補うしかない。わたしが呼び掛け、二人も動き…わたし達の援護をするように、カイトが炎を、ルナが電撃を放ってくれる。どっちも幕の壁に悉く弾かれてるけれど、それが逆に炎と電撃の拡散に繋がって、目眩しにはなっている…筈。
「俺等も行くぞ、愛……ぐぉ…ッ!」
「ぐ、グレイブ大丈夫!?」
「問題ねぇ、この程度擦り傷だ…!」
遠近織り交ぜて、三人で立て続けに仕掛ける。阻まれ躱され押し返されて、連携が丸ごと無駄になるけど、歯を食い縛って攻撃を続ける。その中で放たれた光芒の一つが、流れ弾の様にグレイブ君を掠めて、イヴの時と同じように…イヴより破片は小さかったとはいえ、生身のグレイブ君を襲うけど、気にするなとばかりに言ってグレイブ君は愛月君と共にポケモン達へ指示を出す。
皆の士気は低くない。これがわたしにとっては救いで、士気が低くないなら何とか戦える。戦闘継続出来るし、チャンスを狙う事が出来る。そして、その士気を維持しているものの一つは…可能性に、他ならない。
「……!ねぷてぬ、せーつ、くるよッ!」
幾度目かの連携攻撃の直後、わたし達全員が闇の正面にいる状態となった瞬間に、闇は突進からの殴打を放ってくる。真っ先にピーシェが反応し…わたしはここだ、と確信する。
わたしはピーシェの前に出す形で、大剣状態の連結剣を掲げる。それで察してくれたネプテューヌは、大剣に大太刀を重ねてくれて、ピーシェも二本の剣を支える。その体勢が出来た直後に、振るわれた二つの拳が激突し、凄まじい衝撃が身体を走る。吹っ飛びそうになる。…でも……ッ!
「今よ、ワイトッ!」
「喰らえ……ッ!」
翼を広げ、全力を込めて、わたしは…わたし達は踏み留まる。その一撃を、受け止める。受け止め…声を上げる。
それに応じるのは鉄騎。わたし達が闇の正面にいた時、背後に回り込んでいたワイトのマエリルハ。既にビームサーベルは抜いている。今の時点で、ワイトは斬撃の間合いに入っている。何より闇は今、攻撃状態。近接攻撃の為に、壁を解除した筈の状態。MGをも大きく超える巨体の前じゃ、一撃で倒す事なんて困難だろうけど…それでも一撃入れば、可能性を実現すれば、わたし達は一歩良い方へ……
「……──ッ!?…馬鹿、な……」
……いくと、思っていた。いけると、思っていた。…けれど、可能性は崩れ去る。原理が分からない。理解が出来ない。ただ事実として、目を背けられない現実として……ビームサーベルが、粒子の刃が阻まれていた。わたし達は押し除けられていないのに、背後からの攻撃は膜の壁に止められていて…背後へ向けられた別の腕からの光線が、マエリルハの両脚部も撃ち抜く。続けて後ろへ突き出された蹴りが、マエリルハを吹き飛ばす。
(…そんな……)
信じられない攻撃に力の緩んだわたし達は、三人纏めて弾かれる。三度目の衝撃は、岩に背を打ち付けた事で巻き起こって…流石にもう、ダメージを無視出来ない。…けど、それ以上に今は…冷静な、思考が出来ない。
今も皆が、蹴散らされている。これまでよりもハイペースで、皆が押されている。誰かを助けようとして、自分が傷付いたり、或いは助けられずに纏めて闇に吹き飛ばされる。わたしはまだ、諦めてなんかいない。諦められる訳がないし、気力だってまだまだ絞り出せる。…けど…見えない。わたしの目には、映らない。こんな消耗した状態で、今も押されてる状況で、ダメージどころかこちらからの攻撃を触れさせる事すら叶わないのかもしれない相手に……こんな圧倒的な差を前にして、それでも尚勝つ方法が。
今回のパロディ解説
・幻術で壁に誘導された
・「〜〜致命傷で済んだ、的な…?」
ネットスラングの一つのパロディ。ネットスラングとしては比喩としての使い方ですが、イリゼは文字通りの意味で言っていますね。まあでも信次元の女神なので、致命傷ならまだセーフです。
・「〜〜最大レベルになった超覚醒持ち〜〜」
バトルスピリッツにおけるスピリットの一つ、幻羅星龍ガイ・アスラ(のレベル4)の事。ガイ・アスラと闇の第二形態のモチーフである、ネネプテューヌシリーズのあるキャラって見た目似てるんですよね。