超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
学校に行くと決めてから、ビッキィちゃんはそれまで以上に勉強へ、知識を得る事への積極性が増した。次々と色々なものを覚えようとするから、名前がこんがらがっちゃったりした事もあったけど…学びに積極性が出るのは、凄く良い事。私は出来る限り訊かれた事に答えて、ものによっては「そうだね、ビッキィちゃんは何だと思う?」と訊き返す事で知識だけじゃなく、思考力も養えるようにやり取りを交わしてきた。
私も私で準備を進め、ビッキィちゃんが安心して、安全に学校へ通えるように取り計らった。そういう女神だからこそ出来る点は勿論、母親として雑巾を縫ったり、ビッキィちゃん用に筆記用具を買い揃えたり(これまでは私のを使わせていた)、普通の家庭なら当たり前の事もやって、編入の日へと向かっていった。
そして…今日がその、編入の日。今日は初めて、ビッキィちゃんが学校へ行く日。
「…着いたよ、ビッキィちゃん」
「う、うん」
手を握ったまま、学校の前で足を止める。既に一度、登下校の道筋確認の為に来ているから、ビッキィちゃんも見るのは初めてじゃないんだけど…やっぱり緊張しているようで、表情は硬い。
当たり前だけど、選んだのはビッキィちゃんが教会から歩いて通える学校。勿論車両を用いる…要は送迎有りの学校生活だって駄目じゃないけど、折角だからビッキィちゃんには『普通』の経験をしてほしいし、ビッキィちゃんも自分で通いたい、と答えてくれた。…まだどうなるかは分からないけど…ビッキィちゃんが友達の家に行く、或いは友達が来るって場合を考えても、子供が自力で行ける範囲である方が良い筈だと、私は思う。
「…学校、本当は嫌だったりしない?今ならまだ、そのまま帰ってもいいんだよ?」
「ううん。その、ドキドキするけど…いやじゃ、ないよ」
少し身を屈めて、ビッキィちゃんの方を向いて、訊く。勿論学校側としては「えっ?」ってなるし、親として謝る必要が出てくるけど…一番は子供の、ビッキィちゃんの気持ちを尊重する事。だから私は訊いて…だけどビッキィちゃんは首を横に振り、ぎゅっと私の手を強く握り返す。大丈夫、行けるよと私に示すように。
「じゃあ…入ろっか」
長手袋越しでも伝わる温かさを感じながら、私もまた手を握り返し、私達は敷地の中へ。まずは来客用の入り口から入り、事務を介して校長先生や担任となる先生、その他数人の人と面会。予め、女神ではなく編入する生徒の親として来るつもりだと伝えてはいたんだけど…うん、雰囲気は完全に『女神様がいらっしゃるぞ!』状態だね、はは…。
「オリジンハート様。お子さ…いえ、保護していらっしゃる方の安全には、最新の注意を払う事をお約束します」
「はい、お願いします。…ですが、どうかうちの子を『女神から預かっている少女』ではなく、普通の生徒の一人として見てあげて下さい。他の子に、不公平感を抱かせたくはないですし…ここに通う生徒も、貴方達先生方も、この国で生きる人全てが、私にとっては大切な人達ですから」
「…勿論です。我々も教育に携わる者として、精一杯…通う子全てが充実した学校生活を送れるよう、力を尽くしたいと思っていますから」
暫く話をし、担任の先生にビッキィちゃんを預けてから、改めて私は校長先生と言葉を交わす。ただの親として来ているんだから、と敬語を使いつつも女神の立場での発言をしちゃって、我ながらちぐはぐだとは思ったけど…結果私は、校長先生の、先生方の思いを聞けた。これは多分、私が親という立場になったからこそ聞けた、出来た会話で……ビッキィちゃんは、私に色々な事を教えてくれる。これまで私が教育をしてはきたけど、そのビッキィちゃんからも、色々な事を教えられる…そんな風に、私は思った。
「ではまた、下校の時間に迎えに来ますね」
今日ビッキィちゃんは、そのまま授業を受けて、昼食も学校で食べる事になっている。だから私は一度教会へと帰って、普通に仕事。ビッキィちゃんがいない事、これから学校のある日は基本そうなるんだという事に対し、ほんのり寂しさを感じたりもして…だけどこれはビッキィちゃんの望んだ事なんだからと、気を取り直して仕事に集中。…の、つもりだったんだけど……
(うぅ、ビッキィちゃんが心配であんまり集中出来なかった……)
これは私が心配性なだけか、それとも親なら皆そうなるものなのか。とにかく想定より進まなかった分はどこかで補わないとな、と思いつつ私は再び学校を訪れ、もう一度来客用入り口から校内に入る。もうすぐ帰りの会が終わるという事で、校長室にて待つ事になり…十数分程経ったところで、扉が開く。
「さ、入ってビッキィさん」
「はいっ」
先に先生の声が聞こえて、続けてビッキィちゃんが姿を現す。ビッキィちゃんは私を見るとすぐに側まで歩いてきて、そのビッキィへ私はお疲れ様と労う。
校長先生から二言三言質問され、それにビッキィちゃんが答え、最後に私と先生達とで少し話して会話は終了。互いに「明日も宜しくお願いします」と言い、私達は学校を出る。
「…ビッキィちゃん、さっき校長先生にも訊かれてたけど…学校、どうだった?」
「あ、うん。…すぅ……」
手を繋いで帰る道中、少し学校から離れたところで私は一度足を止め、ビッキィちゃんへと向き直りながら訊く。するとビッキィちゃんは一度頷いた後、大きく息を吸って……言った。
「学校は……すっごく、たのしかったよっ!」
言葉と共に輝く、満面の笑み。そっかそっか、と私が撫でると、ビッキィちゃんは嬉しそうに肩を竦め、続けて色々と話してくれる。今日は早速授業を受けたけど、ちゃんと付いていけたよとか、班ごとに机をくっ付けて給食を食べたんだよとか、その後のお昼休みには数人の子に学校の案内をしてもらえて、その中で色々な話を出来たよとか…そんな風に様々な話を、楽しそうに。
「それでねっ、それでねっ、明日はたいいく…ってじゅぎょうがあるのっ。グラウンド、っていう広いところで、いっぱいうごく……」
「うんうん、ちょーっとストップビッキィちゃん。ママの方から訊いておいて悪いんだけど、残りは帰ったら話そっか。ビッキィちゃん、まだまだ沢山話したいでしょ?」
「ふぇ?…あ…えへへ……」
止まらないビッキィちゃんの肩に手を置いて、落ち着かせるようにそう言うと、ビッキィちゃんは周りを見回した後にちょっと恥ずかしそうな顔で笑う。どうやらビッキィちゃん、話すのに夢中でまだ帰る途中だった事を忘れてしまっていたらしい。
「だけど、良かった。ビッキィちゃんが、一日で学校を好きになれたみたいで」
「…わたしがすきになれると、ママうれしいの?」
「うん、嬉しいよ。学校に行きたいって思ってたビッキィちゃんが、やっぱり嫌だ、学校は嫌なところだった…ってなっちゃったら悲しいし…だからそうならなくて、安心した…って感じもあるかな」
「そっか……あ、ママ!ママ!」
「どうしたの?ビッキィちゃん」
「わたし、がっこうすきだけど…ママのことは、もっとすきだよっ!」
安堵と喜び。その両方があるから嬉しいんだと伝えると、ビッキィちゃんは跳ねるようにして私を呼んでくる。そして、今度は何だろうと思って私が尋ねると……ビッキィちゃんは、言ってくれた。ママの事は、もっと好きだって。
──嗚呼、なんて母冥利に尽きる言葉だろうか。こんな事を言ってくれる程にまで、ビッキィちゃんは私を信頼してくれていたのか。…そう思うと、私は嬉しくて堪らず…その場でビッキィちゃんを、抱き締めてしまっていた。
「もー、ビッキィちゃんったら…私もビッキィちゃんの事、すっごく好きだよっ」
「わぷっ…く、苦しいよママぁ……」
帰る為にビッキィちゃんの言葉を止めておきながら、その場でぎゅーっと抱き締めるのは如何なものか。なんて思考はその時の私にはなく、ただただ感激で抱き締めていて…苦しいと言いつつも、ビッキィちゃんも声は何となく嬉しそうだった。……まあでも最初はともかく、段々ほんとに苦しくなってきたみたいで、それに気付いた私はすぐに離したんだけど、ね。
*
初めての登校、初めての学校生活は、ビッキィちゃんにとって大成功、大満足のものとなった。純粋に楽しみにしていた学校へ行けた事、学校が期待通りのものだった事、勉強に関してもちゃんと出来た事…色んな事が嬉しさに繋がって、大満足の初日になったんだと私は思う。
でも、一日行くのと、毎日行くのじゃ大きく違う。だから学校に慣れてくる事で、楽しいだけが学校じゃないんだと分かってくる事で、やる気がなくなったりしないかと少しだけ懸念していたけど……それは、杞憂だった。慣れてきてはいるものの、毎日元気良く学校に行って、元気良く帰ってくるビッキィちゃんは、日々学校生活を謳歌していた。
そして、ある日がやってくる。ビッキィちゃんは勿論…私にとっても、少しドキドキする事になる日が。
「ママ、ただいまっ!」
「お帰り、ビッキィちゃん」
ノックの後、執務室の扉が開かれると同時に聞こえてきたのは、ビッキィちゃんの元気一杯な声。基本的に、私が仕事を終えるよりビッキィちゃんが帰ってくる方が早いから、いつも帰ってきたビッキィちゃんは、こうして執務室にやってくる。まぁ勿論、ビッキィちゃんの下校に合わせて仕事を終えられる時間配分に変えたって良いんだけど…そうしない理由は、別に変えないと困る訳じゃないって意外にも、一つある。
「ビッキィちゃん、今日は学校から家の人宛てのプリントがあったりした?」
「ううん、ないよ」
「じゃあ、宿題は?」
「今日はけいさんドリルと、本よみ!」
はきはき答えるビッキィちゃんに、私もうんうんと頷きを返す。手洗いうがいもしたというビッキィちゃんはいつも座る場所、ビッキィちゃんにとっての定位置に座り、早速宿題に取り掛かる。
これが、その理由。私も仕事をしている…つまり、親も机に向かっている環境の方が、「自分も頑張ろう!」って気持ちになれると思って、私は仕事の時間帯を変えていない。現にビッキィちゃんは、毎日自分から宿題をやっているし、私としてもちらりと視線を動かすだけでビッキィちゃんの頑張りが見える訳だから…これが、在宅ワークの長所だよね。在宅っていうか、厳密には家と同じ建物の中にある職場だけど。
「でーきたっ!ママ、本よみ…今からでいい?」
「大丈夫だよ。今日も昨日と同じところかな?」
暫くして計算ドリルを終えたビッキィちゃんは、本読みを開始。ビッキィちゃんの音読は、決して上手い訳じゃないけど、ちゃんと読めてるし、真面目さが伝わってくる。それに、真剣にやりつつも物語の風景を想像してか時々表情が緩むビッキィちゃんの姿は…とても可愛い。私にとって本読みの時間は、仕事中の良い息抜きになってると思う。
「……ために、たびに出ることになりました。たびのどうちゅう、色々な子があらわれて、きびだんごを下さいな、と言います。そんな子たちに、それならなかまになって、いっしょにたびをしてくれるかな?とかえします」
(うんうん、それでここから三匹の動物が仲間に……)
「そうして、からみてぃ、ふぉびどぅん、れいだーをなかまして、さらにたびを……」
「動物じゃなかった!?え、何故に後期GAT!?きび団子で仲間に出来るの!?そしてなら、主人公の旅って青き清浄なる世界でも目指してるの!?」
……息抜きどころか全力突っ込みを引き出されてしまったけど、ほんとに普段は息抜きになっている。なっている筈。そしてビッキィちゃんが読んでいたのも、教科書じゃない何かな筈。
「…ん、よく出来ました。サインするから、本読みカード出してね?」
「はーい……あっ!ママっ、わたし大事なおはなしがあるの!」
「大事なお話?」
「うんっ!あのね、わたし明日、ともだちとあそぶの!こうえんにしゅうごうで、そのあとわたしのいえに来てみたいって言われたんだけど…いい、かな…?」
カードを出したところで、ぱっと表情が変わるビッキィちゃん。何かな、と思って訊けば…何と明日、即ち休みの日に、友達と遊ぶと言う。そしてうちに招きたいとも言う。
ビッキィちゃんが学校外で友達と遊ぶだなんて初めての事。だから当然、友達を家に呼ぶのも初めての事。前者は勿論構わないし、普通に喜ばしい事なんだけど…問題は後者。
(招く事そのものは問題ないけど…子供達って皆、ビッキィちゃんが教会に住んでる事知ってるのかな……)
隠す事じゃないし、隠さなきゃいけない事だとビッキィちゃんに思ってほしくもないから、ビッキィちゃんを教会が保護してる事は保護者さん達に伝えている。伝えているというか、先生に伝えてもらえるようお願いしてある。だけどそれを、子供達がどれだけ理解してるかは分からない。だから家に、教会に来る事でビッキィちゃんが凄い家の子なんだって分かって、友達の子が気後れしてしまうかもしれない…そう思うと私は不安で……でもビッキィちゃんは、期待の目で私を見ている。その瞳を見れば、分かる。友達を家に招いて一緒に遊ぶ…それをどれだけ、楽しみにしているかって事が。
「…うん、分かった。色んなところに出入りされたり、仕事をする場所に入られたりしたら困るけど…そういう事はしないって約束出来るなら、呼んでも良いよ」
「ほんと!?やったぁ、ママありがとう!」
表情を輝かせる、本当に気持ちが分かり易いビッキィちゃんに頬が緩むのを感じながら、私は柔らかなビッキィちゃんの髪を軽く撫でる。
友達と遊ぶ。学びでも何でもない、普通の事だけど…これだってビッキィちゃんにとっては、大きな経験。ならそれを良いものに出来るよう最大限協力したいっていうのが、私の思い。
「あ、それと公園に行く時はちゃんとママに言うんだよ?公園の場所は分かってる?待ち合わせの時間とかも話してある?」
「もー、だいじょうぶだよママ。わたしだって、もう学校にかよってるんだからっ!」
ふふん、と胸を張るビッキィちゃんに「あー、やっぱり可愛いなぁ…」と思うのも、「ほんとに大丈夫かな…念の為、こっそり尾行して…」と思うのも、きっと両方親心。というか、ビッキィちゃんが学校以外で一人で外に行く事自体、まだあんまりないんだから、これに関しては心配するのも当然…だと思う。
とまぁ、そんなやり取りをしたのが昨日の事。今日はビッキィちゃんの友達が来る当日で、ビッキィちゃんが出掛けたのが数十分前の事。
「…うぅ、駄目だ…どうもそわそわしちゃう……」
別に私が遊ぶ訳じゃないのに、自分の友達が来る経験なら何度もしてるのに、何故かそわそわしてしまう。何度も仲間と共に次元を救い、交友関係は別次元や別世界にも及び、今は国を治めてもいるこの私が、義理の娘の友達が来る位でそわそわするんじゃ面目が立たない……
「ママ、ただいま!ともだちをつれてきたよ!」
『おじゃましまーす』
「……!あぁ、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
──ぱっとリビングにビッキィちゃんが姿を現し、その後ろから二人の子も顔を見せた瞬間、完全に私は意識が切り替わり、完璧な女神スマイルでビッキィちゃんの友達を迎える事が出来た。…流石私、流石女神。……ゆっくりだからって、生首にはなってないよ?
「あ…えっと、シャットですっ」
「リンカで〜す」
「うん、シャットちゃんにリンカちゃんだね。二人共、何かアレルギーがあったりは…(……あれ?)」
名前だけの簡素な自己紹介を受けた私は、用意したおやつを食べられるか確認する為にアレルギーの事を…訊く途中、ある事が気になった。
遊びに来たのは二人共女の子で、シャットちゃんは青い髪をちっちゃなポニーテールにしている子。こっちの子は、普通に初対面。でも黄緑色の髪をしたリンカちゃんは、なんとなーく見覚え…というか、似た人を見た事があるような……。
「…ママ?」
「あ…うん、何でもないよ」
呼び掛けられて我に返った私は、改めてアレルギーを確認。問題ないと分かったところでここが仕事場と繋がっている事を伝えて、後はビッキィちゃんに任せる事に。
「よーし!じゃあビッキィ、ボクとオセロでしょうぶだ!」
「え、オセロ?」
「うん。学校にオセロがあるばしょがあってね、前にわたしかったの!」
「そのリベンジなんだって〜」
びしっ!…と勝負を申し込むシャットちゃん。対するビッキィちゃんは受けて立つよ、ってスタンスらしく、リンカちゃんの発言からしてオセロ勝負は元々決まっていた事らしい。
ビッキィちゃんが好き、って事でちょこちょこ私もオセロをやるけど…ビッキィちゃんはまあまあ強い。流石に大人相手でも余裕、って程じゃないけど、同年代の子とやればまあまず勝てるよね、って位の実力はあって…って、あれ?ビッキィちゃんもシャットちゃんでオセロをするってなると……
「リンカちゃんは、その間見てるだけ?私と何かする?」
「ううん、だいじょうぶ〜。わたし、のんびり見るのがすきだから」
「あ、そっか。それなら良いけど…(これは、後で一応ビッキィに言っておいた方が良いかな…)」
今回は…というか、リンカちゃんの場合は問題なかったけど、誰か一人だけ取り残される…有り体に言えば仲間外れになるような遊び方は良くない。勿論、常に全員が楽しめてるかどうか気を遣う、っていうのも変な話だし、そこまではしなくてもいいけど、三人なのに二人でやるゲームを早速やる…というのは、やっぱり気を付けるべきだと思う。まあでも、難しいよね。ビッキィちゃんも二人も、まだまだ他人との付き合い方を勉強中の子供なんだから。
「ボクのターン!ここにおいて、2つをロック!」
「ふふふー、引っかかったねシャット。わたしのターン、シャットがそこにおいてくれたおかげでかどをゲット!さらに1つをアンロック!」
「……!む、むぅぅ…!」
そうしてビッキィちゃんがオセロボードを持ってきた事で、二人は対戦開始。序盤は一進一退の攻防だったけど、段々ビッキィちゃんが優位になり始め、シャットちゃんが押される展開に。…楽しそうで何よりだけど、なんでカードゲームっぽい言い方してるんだろう…しかも
「このターンで決めるよ…!ここにおいて…とどめだー!」
「そ、そんな…うぅ、またまけたー!」
「わー、一気に白がふえちゃったね。やっぱりビッキィさんはすご〜い」
勝敗が決した事で残念そうにするシャットちゃんと、ほんわかした様子でぱちぱちと拍手をするリンカちゃん。ビッキィちゃんは照れた顔をしていて……うーん何だろう。やっぱりちょっと、リンカちゃんには既視感がある気がするなぁ…既視感があるけど、同時にこののんびり具合には違和感があるというか、もっとせっかちなイメージというか……。
「むむむ…リンカ、ボクの代わりにビッキィを…!」
「まかせて〜。シャットさんのかたきは、わたしがとるよ〜!」
「ふははー、来るなら来ーい!」
え、仇って…それだとシャットちゃん、死んだ事になっちゃうよ…?…と私が心の中で突っ込む中、謎の悪役ムーブをしているビッキィちゃんとリンカちゃんも対戦開始。…まぁ、一応後で仇の意味を誤解してないか確認するとして…その対戦を、私はシャットちゃんと見守る。
「…ね、シャットちゃん。学校でビッキィちゃんは、どんな感じ?」
「え?んーと…ふつう?」
「ふ、普通…?」
「うん、ふつー」
「…そっか。そっかそっか」
「……?」
やっぱりビッキィちゃん有利っぽい勝負の最中、私はシャットちゃんに、学校でのビッキィちゃんを…私が知らない間の姿を訊いてみる。良い事だろうと悪い事だろうと、私は学校での姿を知りたくて……でも反応は、「普通」の一言。思わず訊き返した私だけど、シャットちゃんの反応は変わらず…でも、それもそうかと私は思い直す。シャットちゃんだってまだ幼いんだから、ざっくりした問いに細かく具体的な返答を返すのは難しいだろうし…きっと普通の生活をしているシャットちゃんから見て「普通」なら、それは悪い事じゃないと思えたから。
「やーらーれーたー…」
「やったー、れんしょーだー!」
「そ、そんなリンカまで……こうなったらもう、たおせるのはビッキィのママしかいない…!」
「ふっ、任せてもらおうか…って、私がやるの?それだとシャットちゃんとリンカちゃん、二人して見てるだけになっちゃうよ?」
「あっ…それもそっか……」
「シャットさんはうっかりやさんだね〜」
「うんうん、シャットはうっかりや〜」
「えっへっへ〜。……あれ?これボク、ほめられてる…?」
ほんわかした雰囲気でやり取りをする三人の姿に、私も微笑む。ビッキィちゃんがこうして友達と遊べているのは嬉しいし、小さな二人の国民が楽しそうにしているのも嬉しい。私にとって今は幸せな時間で…でもあんまり、子供達が遊んでいるところに保護者がいるのは良くないかな。いや、別に悪い訳じゃないだろうけど、友達間と同じ距離にいるのはなんか変だし。
「さてと。ビッキィちゃん、私は少し離れるけど、教会の中にはいるから、何かあったら呼んでね?」
「大声で…?」
「うん、普通に呼びに来てほしいなぁ…」
謎のボケ(天然なだけ…?)をかますリンカちゃんに、私は苦笑いしつつやんわりと突っ込み。これがパーティーの皆とかなら、「誰もそんな原始的な呼び方しろとは言ってないよ!?」…とか突っ込むところだけど、流石に小さい子にそれは出来ない。…まぁ、呼びに「来て」だから、結局ハイテクな呼び方ではないんだけども。
…と、そんなやり取りをした後に私はリビングを出て、自分の部屋に。今日は私も休みの日にしてあるから、何かあったら駆け付けられる心づもりでいながらも、のんびりと自分の時間を過ごす。
「〜〜♪……っと…んー、そろそろかな」
そうして暫く経ったところで、私は時間を確認して部屋を出る。リビングに戻るとビッキィちゃん達はいなくて…でも別に、問題はない。
リビングから繋がる台所へ入り、冷蔵庫を開ける。そして入れてあったスフレチーズケーキを取り出し、切り分けてお皿へ。
「ビッキィちゃーん。……あれ、いない…」
食卓に並べておやつの準備完了したところで、ビッキィちゃんを呼びに行った私。でも、ビッキィちゃんの部屋にはいない。うーん、リビングじゃないなら自分の部屋でゲームしてるのかなぁと思ったんだけど…ビッキィちゃん達、どこ行ったんだろう…。何も言わずに外に遊びに行っちゃう事はないだろうし……。
…なんて思いながら廊下を歩いていたところで、ふっと視界に入ったのはシャットちゃんらしき後ろ姿。え?と思ってそれが見えた方向、窓の外を見ると…ビッキィちゃん達は、教会の庭でボールを使って遊んでいた。
(あ、なんだそういう……)
確かに教会の庭、敷地内の場所であれば、言わずに出ていってもおかしくない。庭の場合でも声をかけるように、っていうのは…そうするか否か迷うところ。まあどちらにせよ見つける事は出来た訳だから、私も庭に出て三人を呼ぶ。
「皆〜、そろそろおやつにするのはどうかなー?」
「あ、ママ!うん、おやつ食べ……おわっ!?」
「び、ビッキィちゃん大丈夫…!?」
ボール遊びをしていた三人は私の声で振り向き、ビッキィちゃんは答えも返してくる……のは良いんだけど、丁度それはビッキィちゃんに向けてボールが飛んだタイミング。直撃こそしなかったものの、余所見している間にボールはビッキィちゃんのすぐ側に落ち、それにびっくりしたビッキィちゃんは飛び退いてしまい…着地失敗。尻餅をつき、更に両の掌も芝生に打ち付けるような形となってしまう。
「いたた…うん、だいじょーぶ…」
「ビッキィさん、ほんとに…?」
「ほねおれてたりしない…?」
「し、してないしてない…ほら、こんなに元気だからっ!」
駆け寄った全員に心配されたビッキィちゃんは、ぴょこんと跳ね起きてくるりと回る。どうも痛い云々とは別に、転んだ事への恥ずかしさもあるみたいで、よく見ればビッキィちゃんの顔は少しだけど赤くなっていた。
でもまぁ、元気なのは間違いない。だから私はほっとして、三人をリビングに連れていく。手洗いうがいをちゃんとしてもらって(ビッキィちゃんが洗う時はそれとなく二人の気を逸らして)、それから三人にケーキをどうぞ。ちゃんと味見もしてあるから、甘いのやチーズが苦手じゃないならきっと喜んでもらえる筈。
「いただきまーす!あむっ……わぁっ、おいしいっ!」
「うん、おいしい〜♪これ、ビッキィさんのお母さんが作ったの?」
「ふふ、そうだよ」
「ふふん、そうだよ〜」
目を輝かせ、美味しいと言ってくれる二人に私が微笑むと、真似するようにビッキィちゃんもそうだよと返す。…可愛い。自分が作ったんじゃないのに胸を張ってたり、私の真似をするような返し方をするうちの子はほんとに可愛い。
(この調子なら、最後まで楽しく遊べるかな)
心配だった…とまでは言わないけど、ビッキィちゃんは色んな事が普通の子とは違う訳だから、気にかけてあげないと…って思ってた。何かあれば、すぐ何とかしてあげないとって思って、休みにしていた。
だけどどうやら、杞憂だったらしい。これならきっと大丈夫だと私は感じ、安心感を抱き……
「……あれ?ビッキィ、その赤いの何?」
「へ?……あ…」
「……!」
──だけど、その時だった。シャットちゃんがビッキィちゃんの手を指差し、そう言ったのは。長手袋の一部が破れてしまっている事に、気が付いたのは。
(しまった…まさか、さっき転んだタイミングで……!?)
地面に手を突いた瞬間、擦れて破れてしまったのか。その下にある手が、人間のものではなく、異形のそれとなっているのも、先程驚いた事で元に戻ってしまい、うっかりそのままにしてしまったという事なのか。…いや、理由や原因は二の次でいい。今、真っ先に考えなきゃいけないのは……二人への、説明。
「…あ、あの…これは、その……」
「ビッキィ…?」
「ビッキィさん…?」
見ればビッキィちゃんは青い顔になり、声もしどろもどろ。不思議そうに二人が見つめれば、ビッキィちゃんは俯き…今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
不味い、これは私が何とかしてあげなきゃいけない。だけど、どうやって?激しく動揺している今のビッキィちゃんじゃ、さっきのように気を逸らしている隙に腕を人のものへ…とはいかないだろうし、子供は案外鋭いから、下手な嘘は疑念を残してしまう。仮に誤魔化せても、今後ビッキィちゃんは常にその嘘を、それと矛盾が生じないような言動を心掛けなくちゃいけなくなる。そして…正直に話すのも、リスクが大きい。まず二人にちゃんと理解してもらえるか分からないし……もしも話した事が、ビッキィちゃんへの恐怖や嫌悪感に繋がってしまったら、それこそビッキィちゃんは酷く傷付くだろうから。
「…ぅ、ぁ…ぐすっ……」
「え…?び、ビッキィさん…?」
「び、ビッキィだいじょうぶ…?どこか…あっ、やっぱりさっきころんでいたかったの…?」
「じゃ、じゃあお手当てしないと…えっとえっと、こういう時は……」
私が判断に迷う中、いよいよビッキィは涙声に。でも、それに対する二人の反応は、困惑……だけじゃなかった。一番は困惑だろうけど…そこには心配の感情が、ビッキィちゃんを思う気持ちが確かにあった。
それを見た事で、一つ私は思い付く。これは二人の良心を信じるしかない…好奇心旺盛な年頃の子にとっては不服になるかもしれない方法だけど……信じられる。まだちょっとしか見ていない二人だとしても、この二人ならきっと…と、私の直感が答えている。だから私はまず、ビッキィちゃんを落ち着かせるように頭を撫でてから…二人に向き直り、言う。
「シャットちゃん、リンカちゃん。私もちゃんとは説明出来ないんだけど…ビッキィちゃんはね、大変な事があって、両腕が少しだけ変わってるの。普段は大丈夫なんだけど、凄く疲れてたり、びっくりしたりすると、皆とは違う感じになっちゃうの」
「…そうなの…?…あ、ビッキィさんが、長い手ぶくろしてるのって……」
「うん…せんせーが、いちばんさいしょににたようなこと言ってた……」
「そっか、そうだよね。…でもね、ビッキィちゃん、変な子じゃないでしょ?私は…ビッキィのお母さんは、元気で、優しくて、ちょっと慌てん坊だったりもするけど、とっても良い子だって、思うな。…二人は、違う?」
テーブルの向かいに座る二人を真っ直ぐに見て、私は語る。細かくではないけど、変に隠したりはせず…何より真剣に、ただの子供ではなく「ビッキィちゃんの友達」として。
そして、二人に問う。そんなビッキィちゃんを、どう思うか。ちゃんと私の気持ちも言ってから、二人に訊いて……それまで私を見つめていた二人は、ビッキィちゃんの方を向いて…それから首を横に振る。
「ううん、ちがわない。ビッキィとあそんでると、ボクたのしいもん!」
「わたしも…!わたしもビッキィさんは、やさしいって思う!」
「ぅ…シャット、リンカ……」
「うん。ありがとね、二人共。うちのビッキィちゃんを、そう思ってくれて」
きゅっ、と胸の前で両手の拳を握って、そんな事はないと言うシャットちゃん。それにうんうんと頷いて、同意を示すリンカちゃん。二人の言葉、二人の気持ちに、ビッキィちゃんはぴくっと肩を震わせて…私は二人に、感謝を伝える。私の家族を、私の子を友達として受け入れてくれている、好いてくれている二人へ向けて。
「…大丈夫だよ、ビッキィちゃん。誰もが、皆が気にしない…とは限らないけど、少なくとも二人は…シャットちゃんとリンカちゃんは、ビッキィちゃんのその『腕』じゃなくて、友達の『ビッキィちゃん』を見てくれているんだから」
「うん、うん…っ!ママ、わたし……っ!」
「よしよし…。…ビッキィちゃん、二人に何か…言いたい事、ある?」
それから私はビッキィちゃんに向き直り、頭を撫でる。ぽろぽろと落ちる数滴の涙を拭いてあげて、小さな声でビッキィちゃんへ言う。
数秒後、ビッキィちゃんが返したのは首肯。ならばと私が退けば、ビッキィちゃんは心配する二人をじっと見つめて、もう涙は止まっているようだけどぐしぐしと長手袋で目元を拭って、そうして二人に見せるのは笑顔。
「シャット、リンカ…わたしをこわがらないでくれて、ありがとう…!…わたし、二人とちがうところがいっぱいあって、まだ知らないこともたくさんあるけど…でも、これからも……」
「うんっ!ビッキィさんは、わたしの友だちだよ〜!」
「ボクも友だちだからねっ!」
「……っ!ふ、二人ともぉぉぉぉっ!」
『わわぁ!?』
にこりと笑った二人の『友達』という言葉に感極まったように、ビッキィちゃんは二人へ駆け寄ると纏めて抱き締める。抱き締めるというか、抱き着くというか…とにかく勢いのあるそのハグに、二人共目を白黒させていて…でもその後は、笑う。楽しそうに、嬉しそうに。
(…やっぱり、良いよね。友情って)
きゃっきゃとはしゃぐ三人を見て、私はそんな事を思う。友情の良さなんて、当事者としても第三者としても、何度も見てきたし感じてきたけど…まさか親としてそう思う日が来るだなんて思ってもみなかったし……悪い気はしない。しないどころか、普通に嬉しい。
「…さ、残りのスフレも食べて食べて。おやつを食べた後も、まだ遊ぶでしょ?」
『うんっ!』
揃って頷く三人を見て、私は微笑む。それから三人がまた食べ始めたところで、私はビッキィちゃんの長手袋、その変えを取りに行く。もう二人との関係は…いや、最初から二人とは問題なかったみたいだけど、もしまた外で遊ぶなら、念の為として必要だからね。
「はふぅ…ママ、ごちそーさまっ!」
「ビッキィのママ、ごちそーさま!」
「さいごまでおいしかったです〜」
「ふふふっ、お粗末様。皆が美味しそうに食べてくれて、私も嬉しかったよ」
完食し、満面の笑みを浮かべる三人に私も嬉しかったよと言葉を返す。…ひょっとしたら、今後もまたこんな風に、ビッキィちゃんの友達にお菓子を振る舞う事があるんだろうか。もしそうなら…腕が鳴るよね。
そうしてビッキィちゃん達はまた遊び、帰るその時まで大いに楽しみ笑い合った。思いっ切り楽しんでいる…誰が見てもそう分かる程、三人は今日という日を満喫していた。
「ビッキィ、また学校でね!」
「またね〜!」
「うんっ!二人とも、ばいばーい!」
二人を教会の敷地外まで見送ったビッキィちゃん。もしかしたら、帰ってしまうのを寂しく思うかな…と思ったけど、そんな様子は見受けられない。…やっぱり、すぐにまた学校で会えるから、かな?
「ビッキィちゃん、楽しかった?…って言うのは、訊くまでもなさそうだね」
「えへへぇ…でもねわたし、もっと成長しなきゃな…って思ったの」
「成長?…あぁ、そっか…」
建物の中に戻ったところで、自分の両手を見るビッキィちゃんの姿に、私は理解。確かに今回は何とかなったけど、そうならなかった可能性もあるし…頑張りたいと思っているなら、応援するのが親というもの。
「それとね、ママ」
「うん?何かな、ビッキィちゃん」
変化させてる以上、何があっても元に戻らない…というのは難しいかもしれない。だからそれよりは、動揺してもすぐに戻せる練習の方が現実的かな…なんて思っていた中で、更にビッキィちゃんからかけられる言葉。それに対し、私は何気なく訊き返し…ビッキィちゃんは、言った。
「ママ。またわたしを助けてくれて、ありがとねっ!」
「ビッキィちゃん…」
にっこりと笑うビッキィちゃんに、きゅーんとなる私の心。当然私はビッキィちゃんを撫で…ビッキィちゃんも、心地良さそうな表情を浮かべる。
今日みたいな事以外にも、これからもビッキィちゃんには大変な事やハプニングはあると思う。今日は私がいたから良かったけど、私のいない場で…って事も十分あり得る。だからこそ、ビッキィちゃんの『成長』は必要な事だし…その上で、思う。大変な事があっても、同じ位…ううん、それ以上に今日の様な楽しい事や嬉しい事があれば、きっと乗り越えられるって。二人の様に信じられる友達がいれば…ビッキィちゃんは、大丈夫だって。
今回のパロディ解説
・「〜〜青き清浄なる世界〜〜」
ガンダムSEEDシリーズに登場する団体、ブルーコスモスのスローガンの事。勿論カラミティ、フォビドゥン、ライダーというのはMSの名前ですよ。
・「〜〜ゆっくりしていってね」
インターネットスラング(アスキーアート)のパロディ。昨今においては、東方Projectのキャラを使った動画のイメージの方が強そうですね。
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カードファイト!!ヴァンガードにおける効果の一つ(二つ)の事。裏返したり表に戻したり、白と黒だったりする事を考えると、やはりこのネタが合いそうだと思う私です。