超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第四十三話 掴み取る可能性

 どうにもならなかった。本当に、どうしようもない存在だった。攻撃が、通らない訳だから。速過ぎて当たらないなら、避けられるってなら嵌めるなり引き付けるなり、最悪わざと一発受けて相手を捕まえるなりすればいい。攻撃が苛烈過ぎて反撃のチャンスがない場合も、何とかして凌げるのなら、耐えて堪えてチャンスを待ち続け、そのチャンスが来た瞬間に全力をぶつけてやればいい。…だが、攻撃が通らないんじゃどうにもならない。防御に穴がなく、攻撃が通用しないせいで大技を打ち込む為の時間や隙も碌に作れず、挙句その防御がどっかで途切れる見込みもないってなら…そりゃもう、勝ちようがない。純粋に能力差があり過ぎる場合と違って、何とか向こうの攻撃は避けられる、動きにも対応出来るっつーのも、全く歯が立たない訳でもないのに勝ち目がない事だけ意識させてくる分、逆にタチが悪い。根性でギリギリ戦い続けちゃいたが…やっぱ無理なんじゃねーのかって思いが、どっかでずっと渦巻き続けていた。

 だからこそ…まあ、爽快だったわな。そのどうしようもねぇ、女神が束になっても敵わない絶対の防御を、砲撃一発で…魔法の国の軍人が、魔法とはかけ離れてそうな現代兵器でぶち抜いてみせる姿は。

 

「当た、った…?」

 

 見るからに他の武装とは桁違いな巨砲の一撃が、壁を砕いた。続く射撃が、確かに巨大な闇へと届いた。その光景はワイトの意図を汲んで近付き過ぎないようにしつつ、左右から回り込むように展開していたウチ等にも見えていて…初めに声を上げたのはルナだった。どうにもならない状況が覆った…それに対して零れたのは、喜びっつーより驚きの声で…けど、見間違いじゃない。

 続けざまに撃ち込まれた二発目も、闇の中央辺りから伸びる、人型っぽい部位へと直撃する。当たると同時にワイトの機体は巨砲を戻しながらスラスターを吹かしてその場から飛び退き、直後に闇の腕が地面を叩く。

 

「壁の崩壊及び攻撃の着弾を確認。これより……」

「逆転開始、だなッ!」

「いや、なんでそれをグレイブが言うんだよ…」

 

 何故か破壊にゃ一切関わっていないにも関わらず自信満々に言うグレイブに、思わず突っ込みを入れた後、意識を切り替える。

 そう。ここまでは、勝ちようのない相手にひたすら粘る戦いだった。…が、こっからは違う。こっからは…もう一度ぶっ倒す為の戦いだッ!

 

「そらよッ!」

「でりゃぁッ!」

 

 脚を振り抜いて、シェアエナジーを斬撃の形に変えて飛ばす。逆方向からほぼ同じタイミングでエストも杖を真横に振って、氷の刃を放つ。ワイトを追って突き出された腕に、紅と青みがかった白の斬撃が挟撃を掛ける。更にセイツが、大剣状態にした剣で直上から斬り掛かり…その攻撃は、空を斬る。闇が後ろに跳んだ事で、急降下攻撃は躱される。

 

「ちッ…膜の壁は消えても、動きそのものは変わらないのね…!」

「それに、あまり攻撃も効いている感じがしないわね…まあ、大きさから考えればそれも当然なんでしょうけど…!」

「だけど、おいつけば当たるよねっ!ぴぃ、やるよーっ!」

 

 反撃の光線をセイツが低空飛行で避ける中、真後ろから迫ったネプテューヌが斬撃一閃。すれ違いざまに脚の一つを斬り付ける…が、倒れるどころか闇はぐらつく気配すらなく、セイツを狙うのとは別の光線の薙ぎ払いでネプテューヌを追い返す。ウチとエストが当てた攻撃も、大きなダメージになった様子がない。楽観視なんざ微塵もしちゃいなかったが…壁がなくなったからって、即勝てる訳じゃねーって事か…。

 そんな中で、攻撃が通るようになったからかこれまでよりやたらと放たれる光線の迎撃をものともせずに突っ込むのはピーシェ。急加減速に鋭いターンにバレルロールと隙のない軌道で肉薄を掛けたピーシェは、速度を落とさないまま闇の背面へ鉤爪を突き立てる。爪で引き裂きながら、同時にそれで減速をかけて、最後は蹴り付ける事で完全に勢いを殺す。ダメージを与えながら上手くブレーキを掛けたピーシェは、続けて背中を駆け上がるような軌道で連続パンチを打ち込んでいく。

 乱打を叩き込むピーシェの周囲に灯る光。ピーシェを狙おうとする光線の光。灯った光は強くなり…だが放たれるより先に、炎が包む。

 

『させ(るか・ない)よッ!』

 

 光の半数を炎で覆い尽くしたのは、カイトの一撃。残りの半分を焼いたのは、獄炎とバックスがそれぞれ拳と蹴りから放った炎。その間にもピーシェは打撃を続け、最後に鉤爪でのアッパーカットをぶち込み、その動きのまま連続後方宙返りで離脱をしていく。

 

(やってる事は単純だが…やっぱ鋭さは半端ねーな、ピーシェ。…さて……)

 

 シェアエナジーの砲弾を蹴り込んで、それで光線を弾きつつ突進を掛ける。大きく上に跳んだ闇に対し、こっちも砲弾を前転からの踵落としで炸裂させて…イリゼの加速に近い要領でその勢いを受けて、一気に追随。下から一発蹴りを浴びせ、踏むようにもう一発蹴って距離を取る。予想通り、ウチが離れた次の瞬間には氷塊と電撃が、更には圧縮シェアエナジーの弾が別々の方向から闇を叩く。

 膜の壁がなくなったおかげで、攻撃をぶつけられるようになった。巨体な分、壁さえなきゃ『今はまだ』割りかし当たる。…だが、当たるのとダメージが入るのは別。ウチの蹴りも、今の遠隔攻撃も…今んところ当たった攻撃は、ほぼ全部闇に効いている感じがない。…ま、当然だがな。サイズが違い過ぎて、現状じゃ表面を削ってるだけみたいなもんだ。

 じゃあ、どうするか。どうもこうも、もっと高威力で広範囲の攻撃をぶつけるのが一番単純で手っ取り早いが……

 

「わっ、わわっ!?」

「攻撃が苛烈になった…ここまでは手を抜いていたという事か、それとも壁を破壊された場合のプログラムも有していたという事か…!」

 

 宙でぐるりと回転し、全ての腕を広げ、掌からは大出力の、全身からは細いが数の多い光線を闇が降り注がせる。仕掛けようとしていた茜とワイトには特に集中的に光線が向けられ、二人共掌の光線を避けつつ、大剣の腹と左腕部のシールドで他の光線を防いでいく。そうしてウチ等の攻撃を打ち切らせた闇は、地を蹴りディールに突進を掛ける。

 即座にエストが魔力の光芒を脚に向けて撃ち込んだが、闇が止まる気配はない。やっぱ、一筋縄じゃいかねーわな…ッ!

 

「このっ…!近付かれると、躱し辛……くぅぅ…ッ!」

「ならまず脚を潰…うぉわッ!?」

 

 手に持つ一本と浮かせた二本、計三本からそれぞれ氷塊を飛ばしたディール。巨大な氷は三つ全て闇に直撃…したが、闇のスピードはまるで落ちない。ディールは飛翔しすれ違うように躱そうとするも、光線を集中される。それ自体は障壁で防いだようだが、集中砲火に押されて姿勢を崩す。

 そこからの追い討ちは、ウチ、ピーシェ、ネプテューヌの三人で突っ込んで、注意を引く事で潰すのに成功。合わせる形でビッキィも突っ込み、闇の下に潜り込んだ…は良いものの、どうも闇は後ろや真下にいる相手も認識出来るのか、激しく足踏み。巨体の足踏みでその場の地面が揺れ、ビッキィはよろける。イリゼが飛ばしたシェアエナジーの鎖を掴んで、引っ張ってもらう事で離脱しつつ大型手裏剣を脚の付け根に打っちゃいたものの、それもやっぱり効いている感じがない。

 

「ちまちま攻撃したってキリがねぇ!どうにかしてッ!デカい一撃をぶつけんぞッ!」

「ワイト君!さっきのレールランチャーもう一度撃てる!?」

「ええ、もう一発だけなら!ただ、先程の様に上手くいくかは……」

「であればこちらに誘導してくれるかな?単純だが、一つ策を用意した!」

 

 効果は薄いが無意味じゃねぇ、と抉るように数度蹴る。本能に従って、撃たれる前に後退する。撃つなら当たる、当てられる状況を作りたい、という声音でワイトがイリゼに言葉を返し、いつの間にかイリスや影の近くから移動していた、特に障害物もない位置にいたズェピアが声を上げる。

 一つ、と言われてもどんな策かは分からない。…が、口振りからしてそれなりに自信はあるんだろうとウチ等は判断し、視線を交わし、誘導する為の動きに移る。飛べる面子は闇の周りを飛び回る事で注意を引き付け、その間に他の面子はズェピアの指定した方向へと走る。

 

「よし…こっちへ、来い…!」

 

 レックスに乗った愛月の声を合図に、移動した面子が闇に向けて一切掃射。ギリギリまで闇に纏わり付いてからウチ等は離れ、一切掃射を闇に浴びせる。初めこそ諸に受けていた闇だったが、途中から腕を掲げて防ぎ、そこから押し返すように皆へと突っ込む。遠隔攻撃の雨霰を、散水ホースの水流程度の調子で受け止め前進するさまは、正直背筋が寒くなる。

…が、見事にこっちの策に嵌まってくれた。後はウチ等が回り込んで、注意を一ヶ所に引き付ければ……。

 

「首尾は上々…では、奈落を起動させるとしよう!」

 

 よく響くフィンガースナップと共に、水へ落とした墨汁の様に地面へ広がる暗闇。瞬く間に広がった、闇の足元を一気に覆った暗闇は、次の瞬間闇を落とす。地面を変質させたのか、それとも異空間を作ったのかは分からねーが、言葉通り奈落に落ちるように、闇の巨体は半分以上が沈み埋まる。当然闇は、すぐにそこから這い出そうとするが、暗闇は纏わり付いて逃さない。

 

「ズェピアさん、これって……」

「あぁ、何度かやった拘束と同質のものだよ。これだけの規模にするのには、少しばかり手間取ったが…その分、溜めた一撃をぶつける位の時間は稼げる筈だ。という訳で、君の出番だよカイト君」

「わたし達もいくわよディーちゃん!」

「幾ら巨体だろうと、この弾頭なら……!」

 

 即座に脱出する事は出来ないと見たのか、闇は無茶苦茶に光線を放ち始める。それを避け、躱し、蹴り払う。急降下からの飛び蹴りで、カイトに迫っていた、溜めの姿勢に入っていたカイトに迫る一撃を砕く。それからウチは頷き、離れ……突き出すような、高熱で白く見える程の火炎が闇に襲い掛かる。

 ディールとエストは、闇の直上に巨大な、これまででも最大サイズの氷塊を作り上げていく。機体を止めたワイトも、巨砲を再展開していく。他にも幾つかの攻撃が放たれ、又は溜められ、ウチはピーシェ達と連携して迎撃を叩き潰し、闇を一気に仕留めに掛かる。このまま倒せれば御の字、倒せねーとしても大きく削れりゃそれで良し。ここまで散々苦労させられたんだ、いい加減こっちも爽快に──。

 

「…待て、何かおかしい……──離れろッ!」

 

 攻撃が次々と闇を襲う中、更に重い一撃が放たれようとする中…不意に声を上げたのは影。ただ事じゃないその声に、反射的にウチ等は離れ……次の瞬間、咆哮が響き渡る。

 割れるような、闇の咆哮。比喩じゃない。本当に、音割れしているような異質な咆哮が響き渡り…ディールとエストが作り上げていた、今や闇の巨体を完全に押し潰せそうな程にまでなっていた巨大氷塊が、その半分以上が消失する。迫っていた他の攻撃も、奈落も、地面や空間すらも、ノイズになって砕け散る。まるで破損した映像データの様に、割れて歪んで欠損する。

 

「なんだよこりゃ…まだこんな奥の手を隠し持ってたってのか…?」

「奥の手っていうか…これもうほんとにデータごと壊してるよ!?強いとかの域じゃない、触れたら即お終いのデータ破壊だよ…!」

「まさか、今度はこれがずっと闇の周囲に…って事はないみたいだね!良かった良かった!全然良くないけど!きゃああっ!」

 

 戦慄した表情で、茜が言う。続けてルナが口にした最悪の可能性は、闇の咆哮が収まると同時に周囲へのデータ破壊も止まった事で否定されたが、十分なダメージを与える前に闇は自由を取り戻した。絶好のチャンスが、潰された。

 乱射される光線を魔法の障壁で防いでいる間に飛び掛かられたルナは、殴られ障壁を破壊されて吹き飛ばされる。咄嗟にウチは受け止めに入るも、すぐにそれがミスだと気付く。

 

『がふ……ッ!』

「え、ちょっ、またぁ!?」

 

 飛んできたルナを受け止めたのと、闇の追い討ちに気付いたのはほぼ同時。ルナが剣を掲げて防御してくれたおかげで、直接殴られはしなかったものの、衝撃を諸に受けて真後ろに飛ぶ。セイツの声が聞こえたと思った次の瞬間には何かと…ってかセイツと衝突し、三人纏めて地面に落ちる。くっそ、さっきの再現かよ…ッ!

 

「るなあいせーつだいじょうぶ!?」

「ひ、一つの名前みたいになってるじゃない…大丈夫、衝撃はあったけどわたしは無事よ」

「ウチもまあ、無事じゃねーが大丈夫だ」

「わ、私も…って言いたいところだけど…今手が凄く痺れてて、痛くはないけど暫く動かせない…かも……」

「それって…最悪骨にヒビが入ってるかもしれないわ、一度診てもらって。それとアイも、余裕があれば回復…く、ぅ……!」

 

 飛び込んできたピーシェに言葉を返しながら立ち上がる。同じくセイツも立ち上がり…だがルナは、痙攣する両手を見て表情を歪ませていた。

 言い切る前に、ネプテューヌは振り向き光線を斬り払う。そのネプテューヌに言われた言葉の意味が、一瞬分からなかったが…それを切っ掛けに、気付く。

 

(……っ…さっきのアレか…)

 

 二の腕に感じる、焼けるような痛み。受けた時も痛みはあったが、気力で堪えて反撃をしてからは、痛みを完全に忘れていた。だから今も、擦り傷程度だろうと思っていた…が、見ればプロセッサは完全に焼け落ち、肌どころか肉まで抉られている。とはいえ浅いし腕が動くなら問題ねーだろ、と試しに動かしてみた瞬間、まあまあ酷い痛みが走って思わず腕の付け根を押さえる。…不味いな…動かさなきゃいいっつっても、うっかりこっちの腕で殴ったら流石に痛みで動き止まるぞ…。

 

「では、私が診よう。アイ君も…」

「ウチは後でいい。どうも下がってる余裕はなさそうだからな…ッ!」

 

 止められる前に、地面を蹴って闇に突っ込む。追従してきたピーシェと迎撃を躱しながら接近を掛け、同時に打撃を仕掛けるが、腕の一本で防がれ振り抜きで真横に飛ばされる。上から仕掛けたネプテューヌは集中砲火で追い返され、足元に飛び込んだセイツも闇が横に跳んだ事で放った斬撃が空を斬る。

 

「これまでは、そもそもダメージを与えようがなかったから気付かなかったけど……」

「こいつ自体、呆れるような強さね…ッ!」

 

 イリゼとエストが遠隔攻撃で注意を引いている隙に、茜とイヴが地上から肉薄。茜が斬り付け、そこへ捩じ込むようにイヴが炸裂弾を撃ち、更に斬撃と銃撃をそれぞれ飛ばして駄目押しを掛ける。けどそれでも、闇に十分なダメージが…体力や戦闘能力を大きく削るような結果にゃ至っていなかった。

 二人の言う通り、攻撃が当たるようになった分、逆に脅威さを感じる。ゴールが見えない状態から、ゴールが見える状態にゃなったが、同時にそのゴールが遥か先にあると思い知らされた…例えるなら、そんなところ。

 

(やっぱ、デカい一撃ぶち込む他ねーか…?だが、単に拘束するんじゃさっきの二の舞だよな……)

「あぁ、鬱陶しい!もういっそ、崖の近くに誘い込んで、そこから崖崩れを起こして押し潰すのはどうです!?」

「それも悪くないけど…一つ、試したい事があるわ!」

「うん!一応の確認は、今出来たからね…!」

 

 光線はすぐには消えない上、それぞれが別の軌道で薙ぎ払ってくる事もある。そのせいでちょっとでも攻撃を集中されるとまともに接近も出来ない、とビッキィは苛立ちを見せつつ一つ提案の声を上げる。それに対し、イヴが反応した…が、どうも別の案がある様子で、そのままイヴは茜の背後に。茜が大剣を掲げ、そこにイヴも手を添えて、わざと大剣で光線を受ける事で、防御しながら離脱を図る。

 確認、っつーのがどういう事なのかは分からない。さっきの攻撃の中で確認していたんだろうなとは思うが、何を?の部分は全くの不明。…だが、声を聞きゃあ分かる。少なくとも二人は、それに自信を持ってやがる。

 

「試したい事…よく分かりませんが、何か案があるなら協力します、よッ!」

「私も手を貸そう、どうすればいいのかな?」

「考えとしては単純よ。あの中央、人型の部位を吹き飛ばす…!」

 

 迫る光線をビッキィは電撃を纏った拳で打ち砕き、ワイトは旋回するように機体を動かしながら射撃で闇に牽制を掛ける。そうしてイヴが言ったのは…確かに単純な、策っつーか狙い。

 

「人型…そうだ、そういえば……」

「見るからに本体、って感じだもんな。けどあそこが弱点かもって考えなら、流石にちっと単純過ぎねーか?」

「だよねー、弱点だったらあんな一番狙い易そうなところにある訳ないし。…でも、弱点じゃなくても、あそこなら他の部位を斬り落としたり潰したりするよりは上手くいきそうだって思わない?」

 

 思い当たる節のあるような声をイリゼが上げ、そんなシンプルでいいのか?とグレイブが返す。だがそれは二人も分かっていたようで、その上での狙いなんだと茜が構え直して言う。

 

「んとんと、じゃあどうするの?ひっこぬく?」

「抜けないでしょうし抜けたとしても相当エグい光景になるわよそれ…下手に拘束するとまたさっきみたいに全方位の破壊を行われる、だからそうじゃない方法で畳み掛ける、そうでしょ?」

 

 シェアエナジーの圧縮弾でワイトと共に牽制を仕掛けながら、セイツはちらりと二人を見やる。やるなら援護する、そんな声音でセイツは言い、接近と離脱を繰り返す事で光線の狙いを誘導しながら、イリゼもそれに賛同する。

 折角壁を破って良い流れが生まれたってのに、上手くいかず…じゃ士気は駄々下がりになる。逆に弱点だろうとなかろうと、中央の部位を吹っ飛ばせりゃ、大きく一歩前進だ。だとすれば、やる価値は十分にある。

 

「要は吹っ飛ばせる目算がある訳だな?だったらお膳立てしてやろうじゃねぇか…!」

「露払いは任せなさい!…露払いって、こういう使い方で合ってるわよね…?」

「その一言で凄く締まらなくなったわねネプテューヌちゃん……っとと!」

 

 アイコンタクトを交わしながら、また突っ込む。同時に突っ込む人数が多けりゃその分一人当たりに向けられる攻撃は減るっつー、単純だが実用的な策でウチ等は闇の注意と攻撃を宙へと向ける。迫る中でエストは障壁を張り、そこにディールが滑り込む事で防御を強化しつつ、敢えてその場でそのまま受ける事でそのまま自分達に光線の砲火を集中させる。

 その隙に、ウチはイリゼと左側から斬り込む。迎撃を真正面から蹴り、斬り…ある程度接近したところで左右に分かれて離脱。飛べる面々でそれを繰り返し、突っ込むより遠隔攻撃の方が手っ取り早い状況を作り続ける事で、注意を引くと共に闇を自分からその場へ留まらせて、巨大さからすれば信じられない程の機動力を潰す。目的がはっきりしていて、しかも攻撃を仕掛ける一歩手前までで良いってなら、ここまでとは余裕が桁違い。

 

「んじゃ、こっちも一つ試すか…!グレイブ、愛月!」

「あいよ!頼むぜつるぎ!」

「こっちも頼むよ、フェザー!」

 

 闇の背後からは、炎の噴射で走りながら左右へのスライドも掛けてカイトが突進。横移動で光線を掛けつつ近付き、勢いのままに火炎斬撃。振り抜き、回転し、次の瞬間反撃の拳が打ち下ろされ…それをつるぎが、まるでカイトが背負っているような位置で追従していたつるぎが飛び上がると共にバリアを展開し、殴打を阻む。続けてカイトの肩に止まっていたフェザーがやけに可愛らしく鳴き…別の腕による、掬い上げるような打撃がカイトを襲った。大剣でガードしたカイトだったが大きく飛ばされ、そのカイトを獄炎とバックスの炎コンビが受け止めた。その後まで見ている時間はなかったが…聞こえてきた声からして、カイトは軽傷で済んだらしい。

 

「カイトさん大丈夫!?」

「痛ってぇ…防御する気で踏ん張ってもこれなんだから、マジで真正面から一人で受ける時は腕持ってかれる覚悟でやるしかねぇな…」

「サイズが違い過ぎるもんな。…んで、フェザーの『鳴き声』の効果はありそうだったか?」

「…正直、そもそものパワーが高過ぎてよく分からねぇ」

『あー……』

 

 何やら攻撃能力を下げられるかどうかを確かめていたっぽいが、結果は謎。よく分からねぇ、で終わるんじゃ無駄に体力を消耗しただけとも言えるが…偶然にも、上手い事タイミングが合った事で、その攻撃はアシストとなった。

 

「……!ゆりちゃん、今ッ!」

「そうね…ッ!」

 

 吹っ飛ばしたカイトへと追い討ちを闇が仕掛けようとした結果、イヴと茜は闇の背後に付く形になった。ウチ等で上に注意を引いたところからの、背後からのカイトの攻撃を受けた事で、その対応に動いた事で、二人は完全にノーマーク状態となっていた。

 今だ、と茜がイヴの両肩を背後から掴みつつ言い、イヴはバトルスーツので飛んで突撃。赤い粒子が煌めいたかと思えば二人は加速し、一気に闇との距離を詰める。

 

「成功させて下さい、ねッ!」

「えぇ!」

「うん!」

 

 後一歩の距離まで接近したところで闇は気付いたのか、振り向く事なく光線を放つ。だが光線が届くより先に、地面から岩が隆起し、攻撃を阻む。恐らくビッキィが土遁で支援をし…尚且つその岩を二人が踏み台にする事で、地上から空に飛び上がる。

 初めの迎撃が防がれた事で、闇は振り向く。恐らくは、正面に捉えて叩き潰そうって魂胆だろうが…そいつは二人が狙った反応。

 

「全弾同じ位置に当てるよッ!私のは弾、じゃないけどねッ!」

 

 振り向いた闇の人型部分、その真正面にいるのは二人。手始めに茜が斬撃を飛ばし、すぐさまイヴがエネルギー弾で攻撃を重ねる。固まった赤い粒子を蹴り、宙で踏み込んだ茜が刺突を仕掛け、そこに嵌めるように炸裂弾を一発撃ち込む。

 一撃一撃は、まあそこまで大したものじゃない。だが茜の言葉通り、二人の攻撃位置に狂いはない。入れ替わり立ち替わりで動きながら仕掛けている、当然闇も動いているって状態ながら、一撃たりとも別の位置へ攻撃が当たる事はない程に…二人の攻撃は、正確無比。

 

(二人だからこそ、ってとこか…)

 

 バトルスーツの内側で、得られる情報を感覚ではなく『データ』として把握出来るイヴと、見えている範囲の情報を得る事にゃ他の追随を許さない茜。その二人だからこそ出来る連撃は、着実に闇を抉っていく。闇も二人を振り払おうとするが、それを全て最小限の動きで躱して攻撃を続ける。その場から跳んで距離を取ろうとした時は、ウチ等の攻撃で押し留める。

 

「……ッ!次で決めるわよッ!」

 

 片腕でエネルギー照射の薙ぎ払いをし、続けざまに逆の腕でもう一発炸裂弾を叩き込む。鋸で木を切るように、初めは表面を裂くに過ぎなかった攻撃は、何度も重なる事で穿ち、抉り、削り取る。そして最後に振り出されるのは…茜の大剣。

 

『反転紅橙・百撃穿荊ッ!』

 

 ここまで作り上げてきた連撃の痕を、丸ごと両断するような一閃。それが闇を斬り裂き、捌き……紅い大剣に、橙色の義手が重ねられる。イヴの義手が、茜の大剣の柄を掴み、二人の力が重なって…刃が、振り抜かれる。

 その瞬間、次の瞬間、一瞬止まる闇の巨体。確かに斬撃が振り抜かれ、確実に斬り裂き……斬り裂かれた場所から微かに光が漏れた直後、人型の部位から膨大な闇が煙の様に噴き上がる。

 

「これは…茜、どうなってる!?」

「ちょ、ちょっとすぐには分からないかも!でも…効いたのは、間違いないよっ!」

 

 弾かれるように影が上げた声に対して、茜が動揺混じりの声で返す。ある程度離れているウチだって一瞬驚くような噴出を、茜…それにイヴは間近で見る形になってんだから、そりゃ動揺するのも当然の事。

 その上での、効いたのは間違いないという言葉。茜がそう認識した、出来たっつーならそれこそ間違いはない筈。茜自身は勿論、その判断を受けたイヴも、まだ噴出を続ける闇の前から離脱を……

 

『…──え?』

 

 血が噴き上がるように噴出する闇の粒子。それを押し除けるようにして、覆い被さるようにして闇の腕の全てが突き出され…その内の一本が、二人を捕らえる。

 

『がッ、ぁ……!』

「茜ッ!」

「止め給え影君、今の君が動いてどうなる!それとイヴ君も忘れないであげてほしい!」

 

 反射的にウチが突っ込む中、聞こえた声。何が起こったかは分かった、そしてそっちは気にする程の事でもない。

 回避は二の次で、とにかく突っ込む。迎撃が背中を掠った気がするが、んな事はどうでも良い。とにかく今は、腕か指をへし折って二人を……──そうしようしていたウチの視界の端に映ったのは、巨木の様な闇の腕。別の、拳。

 

「ちぃ…ッ!邪魔を……ッ!」

 

 何とか、辛うじて蹴りが間に合ったおかげで、ウチから見て横に迫った殴打は防ぐ事が出来た。…が、衝撃で吹っ飛ばされて二人と二人を捕らえた腕から引き離される。

 同じように突っ込んでいたピーシェやイリゼも、打撃と連射される光線で押し除けられる。というより、ウチ含め一直線に二人へ向けて動いた結果、二人を狙った攻撃に自分から突っ込む形になっていた。くっそ…そのまま突っ込みゃ次の攻撃とかち合う事位、ちっと冷静に考えりゃ分かる筈だっただろうが…!

 

「押し、返せない……ッ!」

「少し…少しでも、力が緩まれば…!」

「少しでも…だったら、さっきのカイト君達みたいに……セイツ!着いてきて頂戴!」

「え、あ…えぇ、分かったわッ!」

 

 後ろ向きに回って、両脚を地面に突き立てるようにして一気に減速。すぐにまた動こうとしたが…脚が重い。今さっき蹴って防御した時に、脚をやられたのかと一瞬思った…が、違う。感覚的に分かる。これは一発のダメージじゃねぇ。疲労、負荷、重傷でなくとも負い続けてきた大小のダメージ…それが積み重なった末の、身体の鈍り。

 

(早めに決めねーとこうなるとは思ってたが…よりにもよって、今かよ…ッ!)

 

 だったら、とウチは地面に手を突け、脚を開きながら逆立ちになる。そこから身体を捻って回転し、脚も振って加速を掛けて、左右の脚で一発ずつ、計二つのシェアエナジー斬撃を飛ばす。何か策のありそうなネプテューヌとセイツの援護に移る。

 ネプテューヌは回り込む事なく、真っ直ぐ飛んでいた。同然攻撃が当たりそうになるが、横にエクスブレイドを作り、それを自分と同じ速度で飛ばす事で、迎撃に対する盾にする。それで光線を防ぎ、二人に近付き…振り抜かれた、エクスブレイドを一瞬で砕いた拳を大太刀で受ける。それと同時に声を上げ…ネプテューヌの背後、すぐ真後ろを追従していたセイツが前に出た。拳を受け止めるネプテューヌの大太刀の柄を踏み台に前に飛び出て、更に圧縮シェアエナジーによる加速も掛け…イヴ達を掴む腕に、肉薄する。すれ違いざまに、大剣状態の双剣で手首を斬り付ける。

 

「ありがとうせーちゃん!これなら、何とか…いけるッ!」

 

 振り抜いた直後、セイツは身体を回して大剣の斬っ先を手首に向け、駄目押しの砲撃。どの程度ダメージが入ったのかは分からない…が、目論見は成功し、僅かに二人を掴む力が緩む。

 直後。闇の腕の内側から放出される赤い粒子。初めは漏れ出る程度に見えたものが、次の瞬間爆ぜるような勢いに変わり…握られていた手が、広がる。内側からこじ開けられる。そして、すぐさま二人は離れるが…その二人の前で輝くのは、闇の掌に集まるエネルギー。

 

「……ッ!こッ、のぉぉおおおおぉッ!」

 

 間に合わない。誰も間に合いようがない。そんな中で、イヴは右腕の義手を突き出す。放たれる大出力の光線を、殴るようにイヴは突き出し…展開されたバリアと光線が衝突。それぞれのエネルギーが周囲に撒き散らされ、眩しく光る。

 

「つぁ……っ!」

「ビッキィ、そっち任せるわよ!」

「そっちこ、そッ!」

 

 至近距離からの光線は、バリアのエネルギーと揃って拡散を続けた末に、爆発。闇の腕は押し返され、イヴと茜も吹き飛び…その先へ、エストが飛んでビッキィが走る。エストは茜を空中で受け止めて、ビッキィは落ちたイヴを滑り込んでギリギリでキャッチ。その二人に向けてディールが風の魔法を放ち、追い風を受けてすぐさま距離を取っていく。

 一先ず、二人を助ける事には成功した。手痛い反撃を受けたが、人型部分に大きなダメージを与える事も出来た。だが……

 

「…ごめん、皆…私、暫くは無理かも……」

「…私は、まだ大丈夫よ。まだ囮になる位は……」

「馬鹿言え、そんなんじゃ囮にもならねーだろ。無理せず下がれ」

 

 エストに受け止められた時にはもう、茜の装備は消えていた。本人の言動からして、完全に体力が尽きてしまったようで…イヴもバトルスーツの損害が酷い。そして何より、義手がさっきの防御で完全に吹き飛んでいて、右腕がない。

 そんな状態でもまだ大丈夫だというイヴをビッキィから受け取る形で抱え上げて、茜も抱えて、一度下がる。皆にゃ悪いが…少しだけ、休ませてもらう事にする。

 でなきゃ、どっかで総崩れになる。重傷を誤魔化しているイリゼや、何回身体を岩や地面に叩き付けられているか分からないセイツは勿論、全員が大きな負荷を抱えたまま戦い続けてる。ウチの場合は、自分の危機に直結しないタイミングでその弊害が出てきたが…もしそうじゃない時に、誰かにそれが起きたら、フォロー出来るだけの余裕のある人間がいなきゃ取り返しが付かなくなる。

 

「うぅ…もう少し、やれると思ったんだけどな……」

「無茶するな。俺もそうだが、茜も長期戦にゃ向いてないんだ。ましてやあんな巨大な相手は、俺にしても茜にしても火力の面で分が悪い」

「巨大…そういえばあの機体は、この場で用意をしたのよね?仮想空間とはいえ、こんな場であれだけ動ける機体を作るなんて……」

 

 最低限でいい、と念押しをした上で、ズェピアから治癒を受ける。その中でイヴの言った、あの機体というのは、勿論ワイトが操る…名前は確か、ブランシュネージュ・ミラージュ。ブラン、ね…と思いつつ、その動きを…サポートに徹しているとはいえ、イリゼ達女神と普通に肩を並べている、女神の動きに追従している戦闘機動を見ていると、イヴの発言を影が否定した。

 

「いいや、勿論飛び抜けた性能を持っているのは確かだが、それはワイトの操縦技術ありきだ。恐ろしいというなら、それは機体よりもワイトの方だな」

「…そこまでなのか?」

「そもそもあの機体はシステム面が穴だらけの未完成品だ。そんな機体であれだけの機動をするなんて、俺からすれば本来片手で一体動かすタイプの人形を、六体同時に動かしつつ、人形劇のナレーションも行い、更に観客の反応をつぶさに把握してアドリブもかましているようなもんさ」

「…とても人間業とは思えないわね」

「全くだ。正直、MJP機関が関わっているとか、思考と反射の融合を果たしてるとかいわれても驚かないぞ」

 

 んな無茶苦茶な…と言いたいところだが、ワイトの立ち回りが凄まじいのは事実。…だが、ブランシュネージュにしても火力が足りない。あの巨砲以外は機体変更前とそこまで変わらねー以上、ウチ等と同じように、機動力で喰らい付く事は出来ても、パワーが足りな過ぎる。

 

「もう十分だ、助かった!」

「いや、十分も何も殆ど休息を…はぁ、彼女といいイリゼさんと言い、どうしてこう……」

 

 殆ど休んでねーだろ、という返しに尤もだと思いつつも、ウチは飛んで戦闘に戻る。焦ってる訳じゃねーが…その必要性を、ひしひしと感じていた。

 広げた腕全てで大口径の光線を放ち、全身からも撃ちまくる闇。誰かが近付きゃ腕を振り回し、暴れ回る巨体。崩れた人型部分から、今も粒子が噴き出ている闇は…これまでより攻撃が苛烈になってんじゃねーか…ッ!

 

「なんで大ダメージ受けてんのに動きが激しくなってんだよ!どこぞのアマゾネス冒険者かっつーの…ッ!」

「そんなの私達に言われても分からないよ!実は見た目以上にダメージを…それこそ本当にあの部位が弱点で、追い詰められてなりふり構わなくなったと思いたいところだけど……」

「…或いは、あの人型の部位は制御を司っていたが為に、ダメージで制御が効かなくなった…暴走状態になったという事かも、しれません…ッ!」

「…ってことは、あかねといゔの、やらかし?」

『纏め方が容赦なさ過ぎる…!』

 

 加減速を繰り返して光線を避けながら言ったワイトの言葉に、ピーシェが真上へ回り込みながらさらっと返す。これには流石に苦笑い…の一つでもしたいところだが、そんな余裕なんざない。確かにワイトの言う通り、攻撃の精度は落ちている感じがあるが…そのせいで逆に読み辛くなった部分もあって、回避難度は対して変わらない。

 

(くそ、遠いな…確かに見えてんのに、前にも進んでんのに…遠い……ッ!)

 

 イヴと茜の連携で、決して倒せない相手じゃない、勝ち目はある、っつー希望ははっきりとした。ワイトが切り開いた勝利への道は、二人が確かに繋いだ。…だが、それでもまだ遠い。弱音なんざ吐きたくはないが…走り切れるかどうかも、分からない。

 それでも、出来る事はある。さっきは一瞬脚が重くなったが、まだ飛べる。まだ戦える。やれる事がある…諦めない理由には、それだけあれば十分……

 

「…っておい!グレイブ前に出過ぎだ!」

「分かってる!けど、ここで……ぐぁ…ッ!」

 

 闇を挟んで向かい側に見えたのは、ブラストに乗って接近を掛けるグレイブの姿。愛月共々前に出るべきじゃねぇグレイブの急接近に、思わずウチは声を上げ…直後、ブラストが躱し切れなかった、ブラスト自身は躱せてもグレイブまでは射線から逃れられなかった光線の一つが、グレイブを掠めてブラストから落ちる。

 落下していくグレイブに対し、飛び込むワイト。落下速度を合わせる事で、ワイトは機体の腕で掬うようにしてグレイブを掴み、無防備なワイトが狙われないようウチ等は全力で突っ込む。

 

「何をしているんだ君は!今の攻撃、後少しでも位置が違えば君は……」

「悪ぃ、ワイト。…けど、必要だったんだよ。どうしても、確かめなきゃいけない事があったんだ」

「確かめなきゃいけない事…?」

 

 スラスターを吹かし下がりながら、ワイトはグレイブに一喝。だがグレイブは言葉を遮るように謝罪し、神妙な声でワイトに返す。そして、訊き返したワイトに…いや、ウチ等全員に向けて、言う。

 

「あぁ、勝つ為の確認を、な。んで、答えは見えた。勝てるって分かった。だから…こっからは、答え合わせだッ!」

 

 ブランシュネージュ・ミラージュがある程度の高度まで下がったのを見て、グレイブは機体の手から飛び降りる。なんで結構スピード出てた機体から普通に飛び降りてんだ…というのはさておき…着地し、人差し指を立てた右手を突き上げたグレイブの顔には、自信が…普段のとは違う、確かな『確信』を得た自信の表情が浮かんでいた。

 

 

 

 

 どうしたらいい?どうすればいい?…ずっと、そんな状態だった。あまりにも相手が大き過ぎて、パワーも無茶苦茶で、スピードもあるせいで、どうやったら勝てるのか分からなかった。ちょっとずつちょっとずつ、進んでいる気もしたけど…後どれ位進めば勝てるのか、それが全く見えなかった。

 フェザーとスターは、やっぱりまだまだ成長途中な分、この戦いじゃ力不足。出来る事はあっても、その瞬間は中々やってこなかったり、何もしないよりはマシだけど…って位でしかなかったりが殆ど。バックス、レックス、ドッペルは必死に戦ってくれてるけど、もう皆かなり疲れてきている。イリゼ達も含め、もっと余裕があった時から有利な時間より不利な時間の方がずっと多いんだから、疲れてきてる今は余計に不利だなんて事位、考えなくても…誰だって分かる。

 そんな中でグレイブが言い切ったのは、勝ちへの確信。僕からすればもう呆れる程見てきた…チャンピオンの、言葉。

 

「さっきはごめんな、ブラスト。あれは俺のミスだ、ブラストは悪くねぇ」

「グレイブ…って、頭!いや、おでこ…?…いやどっちにしろ、血!血が出てるよ!」

「気にすんな、少し痛いだけだ。…少なくとも、俺よりもっと傷だらけでも戦ってる皆と比べりゃ、どうって事ねぇよ」

 

 着地して、飛んできたブラストにまた乗って、僕の近くで降りたグレイブは、申し訳なさそうなブラストを撫でる。それから僕は出血に気付いて慌てて、慌ててその事を伝えたけど、グレイブはあっさりと血を袖で拭って…それからにやりと笑う。

 

「よっし、んじゃあ一足飛びに勝利まで一直線といくか、愛月」

「えぇ、何そのリミットが無さそうな発言……って、うん?その言い方…僕もなの?」

「愛月もだぞ」

 

 当然だろ、とばかりに返してくるグレイブに、当然僕は困惑。…駄目だ、どういう事か本当に分からない…。

 

「…え、っと…グレイブの思い付いた作戦を、僕達でやる…って事…?」

「むしろそれ以外あると思うか?」

「いや普通に説明してよ…ポケモンと特訓する時は、ちゃんと分かり易いよう説明するじゃん…」

「あー、はいはい。まあそれより…愛月も、思わなかったか?デカい相手には、こっちもデカさで対抗したいよなー、ってさ」

 

 絶対心に響いてないな、と思わせるような返しをした後、真面目な顔になったグレイブは訊いてくる。

 巨大な相手には、こっちも巨大な存在で対抗したい。そう思ったかどうかでいえば…勿論、思ってる。大きさが違い過ぎる、ってずっと思っていたし……キョダイにはキョダイで対抗なんて、これまで何度も見てきたから。僕にとってそれは、馴染み深いものだから。

 

「…もしかしてグレイブ、ダイマックスの事を言ってる?でも、それは……」

 

 思い浮かんだ可能性を、確認するように僕は言う。でもそれは、って言葉を返そうとする。

 ダイマックス。説明すると長くなるけど、それはポケモンを巨大化させる戦法…っていうか、現象の事。それが出来れば、確かに対抗出来るかもしれないけど……そもそもダイマックスにはガラル粒子ってものが必要で、ガラル粒子はガラル地方にしかないんだから、ここで出来る訳がない。やれる筈がない。…そう、思っていたけど……

 

「今は出来ない筈?…これを見ても、そう思うか?」

「え…こ、これって……」

 

 そう言って、グレイブが見せてきたのは二つのモンスターボール。ポケモンを捕まえる為のアイテム。…でも、ただのモンスターボールじゃない。ボールの中からは、微かに赤い粒子が漏れ出ていて…それは間違いなく、ガラル粒子。

 

「へへ、実は俺がセイツ達と戦ったのが、ムゲンダイナと何かが混ざったっぽい相手でよ。んで、周りにずっとガラル粒子みたいなエネルギーのドームがあったから、勝った後消える前にちょっとばかし貰っといた」

「そ、そんな事が…っていや、おかしくない!?取り敢えずガラル粒子の事は、まあ一応理解出来るけど…なんでモンスターボールに入ってるの!?モンスターボールでガラル粒子って保管出来たっけ!?」

「ま、普通は無理だろうな。けど、ここは仮想空間だろ?で、俺達の世界の情報なんか全然ないだろうから、機械の側が空のモンスターボールをただの容器だと認識してくれたんじゃねーかな」

「む、無茶苦茶過ぎる…そんなの有りなの…?」

「出来たんだから有りなんじゃね?…てか、今はそんな事どうでもいいだろ。愛月が使わないってなら、俺が両方使うだけだ」

 

 どうするんだよ、と真剣な目でグレイブは見てくる。使うなら渡す、使わないならいい、そんな風に真面目に…本気で勝利だけを目指した瞳で、僕を見据える。

…うん、そうだ。ほんと無茶苦茶だとは思うけど…今はそれより重要な事がある。勝利に繋がりそうな可能性があって、それを掴めるのは僕とグレイブだけ。だったら……やる事は、一つじゃないか。

 

「…使うよ、グレイブ。僕だって…勝ちたいんだ」

「そうこなくっちゃな。…突っ込んで分かったが、あの人型の部位をやられてから、あいつは動き回らなくなった。いや、動いちゃいるが、さっきまでみたいにあっちこっちに行きまくる事はなくなった。だったら…正面からの殴り合いが大得意な、新入り達の出番だと思わねぇか?」

 

 僕がボールを受け取ると、グレイブは愉快そうにまた笑う。それから中指で眼鏡を軽く上げて、空のとは別の…中にポケモンのいるボールを出す。

 新入り達。そう言われて、確かにぴったりだと僕は思った。パワーもタフさも並外れた、でも高速戦闘には向かないから、ここまではずっと温存してきた最後のポケモン。だけど、闇が動き回らなくなったって事なら…いけるかもしれない。

 

「よし…出番だよ、塞牙!」

「待たせたな、存分に暴れていいぞ山激!」

 

 ほぼ同時に放ったボールから、それぞれ現れるポケモン。鋼の鎧を纏ったみたいな、本当に鋼鉄の硬さと角を持っている僕のポケモン、ボスゴドラの塞牙と、同じく鎧で全身を覆っているような…でもこっちは鉄っていうより岩みたいなゴツゴツさを持ったグレイブのポケモン、バンギラスの山激。今の僕達の手持ちの中で一番大きい、見るからにパワー勝負なら負けないって感じの塞牙と山激は、地面を鳴らしながら着地して、僕達を振り返って……睨み付ける。…僕達ではなく、振り返った時に気付いた、お互いの事を。

 

「ちょ、ちょっと!?今は喧嘩してる場合じゃないよ!?」

「…まぁ、こうなるわな」

 

 出てきて早々殴り合いを始めそうな塞牙と山激を慌てて僕は仲裁するけど、どっちも全然聞いてくれない。

 なんでいきなり睨み合ったかっていうと、それは塞牙と山激が、元々争っていた仲だから。どっちもイリゼが僕達の世界に来た時、色々あって捕まえたんだけど…最初からすこぶる仲の悪い塞牙と山激だから、捕まえてからそこそこ経った今も、顔を合わせるとすぐこうなる。でもほんと、今は味方同士で睨み合ってる場合じゃなくて……

 

「お、っととぉ!?」

「おわわっ!?あ、塞牙っ!」

 

 そんな中、気付けば距離を取っていた筈の闇が、すぐ近くに突っ込んできた。滅茶苦茶に攻撃をしながら突っ込んできていて、打撃で塞牙も山激も跳ね飛ばされる。とびきり重い塞牙達でも、闇の打撃の前じゃ簡単に跳ね飛ばされて、近くの岩に激突する。

 

「さ、塞牙大丈夫!?…って、あ……」

「ったく…分かったろ山激。今倒さなきゃいけねぇのは、塞牙じゃねぇ。…こんなあっさり吹っ飛ばされて、黙ってる訳にゃいかないよな?」

 

 いきなりやられて色々心配になった…それこそキョダイマックスっていう、特殊なダイマックスが出来るバックスに任せた方が良いのかもって一度は思った僕だけど、崩れた岩の瓦礫を跳ね除けるようにして立ち上がった塞牙の姿を…グレイブの言葉を借りるなら、こんなあっさりやられて終われるか、って顔を見て、考え直す。早速味方と喧嘩しかけたとはいえ、一度は僕が決めて選んだ塞牙を、何もしない内から下がらせようとするなんて…そんなの、トレーナーのする事じゃない。まだ喧嘩しようとしてるならともかく、塞牙も山激ももう「やるべき事は何か」を分かった顔をしてるんだから…信じるのが、僕の役目。

 

「グレイブ、愛月、なんか思い付いたみたいだがいけるのか!?」

「あぁ、ちょっとごたついたがいける!さぁて、んじゃ改めて…やるぞ!」

「うん!」

 

 中々動かない僕達をフォローしに来てくれたカイトさんは、グレイブの返事一つですぐに切り返していく。グレイブのたった一言で信用してくれたカイトさんに感謝をしながら、僕はダイマックス用の道具、ダイマックスバンドを腕に嵌める。塞牙と頷き合って、一度モンスターボールに戻す。

 それから受け取ったボールを開く。開いた瞬間、中から物凄い量のガラル粒子が溢れ出して…ダイマックスバンドが輝く。そこからエネルギーが、塞牙のボールへと流れ込み…ボールは大きなエネルギー体へと変わる。そして、思いっ切りボールを…投げるッ!

 

『ダイ…マックス!』

 

 再び出てきた塞牙と山激が纏う、赤い光。シェアリングフィールドの中で、同じ色の雲が渦巻いて、その真下で塞牙と山激がキョダイ化していく。どんどん、どんどん大きくなっていて……ダイマックスボスゴドラとダイマックスバンギラスが、並び立つ。

 

「グガァアアアアァァァァッ!」

「ゴォオオオオォォォォッ!」

『……っ!で…デカぁ!?』

 

 響き渡る、山激と塞牙の咆哮。ビリビリと空気が揺れるような咆哮と、巨大な闇に負けない位の大きさにまでキョダイ化した塞牙達の姿に、皆は仰天する。ほんと皆びっくりとしていて…闇も、塞牙達の方へ向き直る。

 

「残念だったな!デカさはそっちだけのもんじゃねぇんだよッ!」

 

 グレイブの声に応える形で、山激が動き出す。一歩毎に地鳴りを立てながら、闇へと向かって突進する。突っ込んで、殴り掛かって、それを闇は交差させた腕で受ける。

 ただ腕がぶつかり合っただけでも起こる衝撃。振り抜かれた拳は、一度は確かに闇の防御を押して…けれど闇も二つの腕を外側に振り抜くようにして、弾き返す。

 

「ちっ、やっぱ即終了とはいかないか…!」

「塞牙、行って!最初っから、全力で!」

 

 押し返されてよろける山激の背後から回り込む形で、塞牙も突進。腕の届く一歩前で塞牙は踏み切って、自慢の角での突きを描ける。対する闇は、今度は腕を突き出す形で塞牙の肩を掴んで、受け止めに入って…逆側から、また山激が襲う。巨大な身体でジャンプして、上から腕を叩き付ける。

 

「おぉー!なんかすっごい、なんかすっごいね!」

「え、えぇ…完全に大怪獣バトルというか、なんというか……」

「これは圧巻だね、観客がいれば大盛り上がり間違いなしの演出だよ。…けど……」

 

 思っていた通りの、真正面からのぶつかり合い。これまでは誰も出来なかった、やりようのなかった闇との殴り合いを、塞牙は山激と一緒に繰り広げ……だけど、数回激突したところで、気付く。

 

(……っ…ダイマックスした塞牙でも、敵わない…?)

 

 元々パワー自慢の塞牙と山激が巨大になった事で、殴り合いは成立してる。グレイブの判断した通り、闇はスピードで翻弄する…みたいな事はしてこない。…でも、足りない。ぶつかり合いは出来てるけど…押されてる。

 

「…ううん、まだだ…バックス、レックス、ドッペル、フェザー、スター…皆、塞牙を援護し……」

「おっと、まだ慌てる時じゃないぜ愛月。それに、新入りの出番を奪う先輩なんて悲しいだけだぜ?」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?連携は大事だし、そもそも何かまだ考えが……」

「ある!」

 

 最後まで言わせず遮ったグレイブが取り出す、ダイマックスバンドとは別の腕輪。ダイマックスバンドに埋め込まれたねがいぼしとは別の石、キーストーンと呼ばれる石が埋め込まれた…ダイマックスとは別の力を引き出す為のアイテム。

 

「ま、まさか…でも、そんな事……」

「普通に考えりゃ無理だろうな。間違いなくポケモンに滅茶苦茶な負担がかかるから、俺だって試した事はねぇ。けど、ここは仮想空間だ。だったら一か八か、やってみるしかねぇだろ!」

「…グレイブは、ほんっと…けど、そうだね…そうだなっ!」

 

 防御体勢を取った塞牙と山激が、同時に押し込まれる。その中で、ダイマックスでも敵わない中で…僕は頷く。やった事はないけど、やれるか分からないけど…やれないって決まった訳でもないじゃないかって、自分のキーストーンも取り出し装着する。そして…叫ぶ。

 

「塞牙!」

「山激!」

『メガシンカいく(よ・ぞ)ッ!』

 

 腕を突き上げる。キーストーンがダイマックスバンドとは別の光を放って塞牙と山激が中に浮かぶ球体へと包まれる。

 今度は何を、っていう皆からの視線。球体の中からは光が溢れ出て、その光はどんどんと強く、激しくなっていって…球体へ向けて、闇が襲い掛かる。左側の腕全てで塞牙を、右側の腕全てで山激を包んだ球体を叩き潰そうと、握られた拳を放ってくる。

 

「不味い…ッ!これじゃ……」

「いいやッ!」

「大丈夫ッ!」

 

 攻撃に対して飛び込もうとしてくれたセイツさんに、グレイブも僕もはっきりと言い切る。なんでなのか、根拠は何か、って言われたら上手く答えられないけど…大丈夫だって確信があったから。塞牙ならいけるって、心の底から思ったから。

 ダイマックスしてなきゃ一発で跳ね飛ばされる、ダイマックスしても押される、闇の巨大な拳。それが一気に振るわれて、球体へと届いて……球体は、爆ぜる。中の光が全て解き放たれるように、弾けて爆ぜて──闇を、跳ね返す。

 

「──ダイシンカ…いや、メガマックスだな」

「もうこれ以上、好きになんてさせない…闇は僕とグレイブで、塞牙と山激で、真っ正面から押さえ込むッ!」

 

 地響きと共に降り立つ巨体。元から頑強そうだった見た目が、鋼と岩の様だった身体が更に厚くなった、本当に要塞と山の様にすら見える姿になった…ダイマックス状態でメガシンカをした、塞牙と山激。…僕には見えていた。塞牙と山激が、球体が爆ぜるのと同時に拳を受け止めて、弾き返したのを。パワーで、真正面から押し返したのを。

 遂に、闇がよろけた。二対一ではあるけど、塞牙と山激は完全に力で闇を上回って…巨大な姿になってから、初めて闇が大きく姿勢を崩した。それを見ながら、グレイブの隣で僕は言う。メガマックスした塞牙達でも、絶対勝てるとは言い切れない。だから僕達全員で…皆で、勝つんだ…ッ!




今回のパロディ解説

・「〜〜MJP機関〜〜」
銀河機攻隊マジェスティックプリンスに登場する組織の一つ、MJP機関の事。ロボット物は色々とありますし、この流れで出せそうなネタも多くありますが、初めに思い付いたのがこの作品でした。

・「〜〜思考と反射の融合〜〜」
機動戦士ガンダム00に登場する人物の一人、アレルヤ(ハレルヤ)・ハプティズム及び、登場する組織、超人機関の目標の事。上記のネタもそうですが、ワイトは人の手の加えられた存在…ではないと思います。

・「〜〜どこぞのアマゾネス冒険者〜〜」
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかに登場するヒロインの一人、ティオナ・ヒリュテとその姉、ティオネ・ヒリュテの事。しかし闇はどう見ても冒険者に倒されるボス側ですね。

・「〜〜一足飛びに勝利まで一直線〜〜」
WIXOSS DIVA(A)LIVEのOP、D-(A)LIVEのフレーズの一つのパロディ。これに対する愛月の突っ込みも、主人公達のチーム、No Limitを指しています。

・「〜〜大怪獣バトル〜〜」
ウルトラシリーズの一つ、大怪獣バトル ULTRA MONSTERS及びその関連作品の事。バンギラスもボスゴドラも怪獣っぽい見た目ですし、巨大化したらウルトラシリーズの怪獣に見えそうな気もします。


 展開的にお分かりの方もいるとは思いますが、今回のコラボも大詰めです。ですがORでの合同コラボと同様、最終話の後に盤外編として追加の話を入れる事も出来ますので、リクエストがありましたらお伝え下さい。現実でのリクエストは勿論、仮想空間の要素を活かしたリクエスト(例・仮想空間内の特殊クエストとして、○○が魔法少女の格好をしてるのを見てみたい)も、可能な範囲でやってみようと思います。
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