超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第四十五話 未来開くは人の意思

 駆けて、飛んで、振るって、撃って…力を合わせて、積み重ねた先。何度もどうしようもないような、どうにもならないような窮地に陥って、それでも耐えて、堪えて、一つ一つ覆してきた…諦めなかった、その先の光。それが闇を、視界を、この空間を眩く包み、照らしていく。

 それは女神の光であり、思いの光。身も蓋もない事を言えば、ここは仮想空間の中である以上、実際にはそれを再現した『データとしての演出』に過ぎないんだろうけど…そんな事を言うのは不粋ってもの。それにもしかすると、そういう現実的なものを超えて、新たな次元の可能性が芽生えているここに、本当に思いの光が差し込んでいたのかもしれない…そう思わせてくれる光が、ここにはあった。

 

「皆……」

 

 輝きが広がって、包み込んで、それからゆっくりと収まっていく中で、わたしは無意識の内に呟く。決して不安や心配がある訳じゃない。ただ自然と、イリゼ達を、皆の事を呼んで……光が、収まる。視界が元に戻って、わたしは見回す。見回し、見つける。地面に降り立った、イリゼ達五人を。イリゼ達をそれぞれの形で見つめる、皆を。どちらも、誰一人欠ける事なく…一名スライム状になっているとはいえ、全員が確かにそこにいて……最後に見つけたのは、光の粒子となって消え行く闇の巨体。

 力尽きた、闇の姿。それを見てわたしは、わたしも皆も確信する。勝ったんだと。終わったんだと。

 

「…ふー、ぅ…漸く、終わったみてーだな…」

「あぁ…強かった…。最初から最後まで、ずっと強かった…」

 

 片手を腰に当てたアイが、ゆっくりと、深く息を吐く。その言葉に、カイトが噛み締めるような声音で返す。言葉だけならもううんざりだという意味の様に聞こえる発言だけど、声音的にはむしろ、「大変だったが貴重な経験が出来た」と言っていそうな感じがあって…これにはアイも感心しているような呆れているような、そんなどちらともつかない顔になっていた。…というか、多分わたしもそういう顔をしている。ほんと、カイトは流石ね…彼らしいと言えば彼らしいけど…。

 

「あ、あの…皆、大丈夫…?」

 

 それからルナが、イリゼ達に呼び掛ける。ほんのりと不安を含んだ声で、イリゼ達へと呼び掛けて…その声に、五人は振り向く。静かに振り向いて…そして、こっちに向けてサムズアップ。笑って、ぐっと手を突き出して、サムズアップをした。……ディールちゃん以外の、四人が。

 

「……えっ?あ、あれっ?(あせあせ)」

「ディーちゃん…」

 

 一人だけ、普通に振り向いて頷いたディールちゃん。一拍置いてから他の四人が揃ってサムズアップをしている事に気付いたディールちゃんは、分かり易く慌てて同じポーズを取り…そんなディールちゃんに、わたし達は揃って苦笑い。その何ともまあ微笑ましい取り繕いに、苦笑しつつ内心ほっこり。

 それは緊張感の全くない、緩み切った一幕。けれどだからこそ、実感が持てる。この戦いの、決着を。

 

「っと、そうだ。ゲハバーンは……」

「消え始めてる…って事は、やっぱり……」

 

 思い出したように言うビッキィと、それに答える愛月君のやり取り。その言葉通り、突き立ったままだった多数のゲハバーンは、塵になるように消滅を始めていた。人の形をしていた闇を倒した時と違って、確かにゲハバーンも消え始めていた。

 女神にとって天敵そのものなゲハバーンの消滅に、わたしは重ねて安堵。それとほぼ同時に、意図的なものなのか、それとも限界時間を迎えただけなのか、シェアリングフィールドも消え始めて、空間が元に戻っていく。

 

「これにて一件落着、って言いたいところだけど…ここはまだ変化したまま、か…。これも次第に戻っていけばいいんだけど…って言ったら、フラグになるかな…?」

「そういうのは、何も言わなきゃフラグにゃならねーと思うぞイリゼ。…何も言わなきゃ、な」

「うぐっ…で、でもほらグレイブ君、先んじて言っちゃう事でフラグの成立を防げる事も…と思うけど、これ言い出したらキリないよね…はは……」

「んっと…ここって、どうやってでたらいーのかな?」

「おっと、その問題もあったね。我々が攻略した塔には最上階に扉があったが…さて、どうしようか?今のまま探してみるか、それとも暫く待ってみて、この空間が本来の…塔の状態に戻るかどうか確かめてから行動をするか…」

「そういう事なら、少し待つ…というか、休憩させてもらってもいいかしら…?流石に今は、くたくただわ…」

「わたしも流石にガス欠だわ…魔力とかシェアエナジーもそうだけど、体力的にもうキツ過ぎる……」

「ゲハバーンからの吸収を受け続けていた事を考えれば無理もありません。他な方々も疲労し切っているでしょうし、ここは暫く休憩した方が良いかと」

 

 それから何度かのやり取りを経て、ネプテューヌの発言を切っ掛けに一時休憩する事に決まる。実のところわたしも疲労困憊で、一度座ったら暫く立てないような気がする。そしてワイトからの呼び掛けに「ふむ、それもそうだね」と頷いたズェピアは、ぐるりと周囲を見回して…って、なんか彼だけ余裕そうというか、あまり戦闘開始時と変わってないわね…カイトの精神力は底抜けだけど、違う意味でズェピアも相当底が知らないというか、なんというか…。

 ともかくわたし達は女神化を解き、身体の力を抜く。さっきのアイの様に、わたしもゆっくりと息を吐いて…そこで不意に聞こえたのは、ディールちゃんの「あっ」という声。

 

『……?』

「いや、あの…あまり考えたくはないんですけど、というかここまでが大変過ぎて忘れてたんですけど…バグの元凶があれだった、という確証はないですよね……」

「あー…うん、そういえばそうだったね…ほんとに考えたくない……」

「同感だよ。これはもう一度ネプギア君に連絡してみた方がいいかもしれないね」

 

 げんなりとする茜の発言に軽く肩を竦めたズェピアは、続けてネプギアに連絡をと言う。それは一理ある事で、万が一の可能性を考えるなら、ここで連絡を取れるのなら取っておいたほうが良いのかもしれない。

 何せ、闇は散々、散々暴れ回ったんだから。特に最後は無差別の破壊を、データ破壊を行っていた以上、何がどうなっていてもおかしくない。あれが本来この塔のボスを担っていた存在を変質させたバグの元凶で、撃破によって問題解決に至ったなら良し、でももしそうじゃないなら、今の状況や状態を把握しておくに越した事はない。状況が悪化していた上に、連絡したせいでバグの流出が起こってしまった…なんてなったら目を当てられないけど……まだ終わっていないなら、皆ボロボロの状態でこの手探りの戦いを続ける事になってしまう。それだけは、避けないといけない。イリゼもきっと、そう思っている。

 

(仮にまだ終わりじゃない場合、わたし含め長期戦が出来る余裕なんてほぼほぼない。短期戦ならいけるって訳でもないけど、速攻で決めるようにしないといけないわね…)

「問題がなければ、連絡は私が取るよ。現状の説明もしておくから、君達はそのまま休んでい──」

 

 言い出しっぺだからという事なのか、ズェピアが歩きながらネプギアとの連絡を図る。その間わたしは、速攻で最大火力を叩き込む方法を……

 

 

 

 

 

 

 考えていた、時だった。静かな、いっそ小気味が良いとすら思える程の…何かを裂き、断つ音が聞こえたのは。

 

「…お…っと、これは…やられた、な……」

「ズェピア君?──ズェピア君ッ!?」

 

 これまでに聞いた事のない、憔悴を思わせるようなズェピアの声。それに振り向いたわたしは、わたし達は…目にする。──胸元を背後から貫かれた、ズェピアの姿を。

 空気が一変する中、貫いていた刃が引き抜かれる。それと共にズェピアは倒れ…弾かれたように、イリゼが駆け寄る。

 

「ズェピアさん!大丈夫ですかズェピアさんっ!」

「ちっ…折角戦勝ムードだったってのに…!」

「一体なんだってんだよ…ッ!」

 

 続けてルナもズェピアに駆け寄り、ほぼ同時にエストちゃんとアイがズェピアの背後にいた存在に…ズェピアを刺した何かへと攻撃を仕掛ける。

 放たれた魔力とシェアエナジーの遠隔攻撃。二つは爆発を起こし、イリゼとルナがズェピアを抱えて下がらせる。わたしは下がる二人の前に立ち、上がる煙に目を凝らす。

 塔の外から新たな存在が入っていたのか、それとも元々塔にいたボスとは別の存在が、塔が元に戻り始めた事で再度現れたのか、はたまたそれ以外なのか。身体と違ってまだちゃんと回る頭で思考を巡らせながら、わたしは神経を張り詰め…次第に煙が晴れていく。そしてわたし達は、現れた相手の正体に……目を、疑う。

 

「…嘘でしょ……」

 

 黒とは違う、明るさを…光を失ったような、淀みの末のような、濃縮された闇を思わせる姿。両の腕に持つ、二振りの剣。崩れかかって、今にも粉々になってしまいそうな身体。

 間違いない。この短時間で、忘れる筈がない。それは、その存在は…確かに一度倒した、もう消えた筈の……人型をした、変化する前の闇だった。

 

「まさか…わたし達が相手にしたのと同じ、二つの姿を行き来するタイプだったって事……?」

「いや、闇は確かにやられてた筈だ!けどまた現れたって事は、復活でもしたってのか…!?」

「だが、見た目は全快には程遠い。…まるで執念、或いは怨念だな…」

 

 倒した筈の相手が、あれだけ苦労して…何度も不可能を乗り越えて漸く倒した相手が、また現れた。その事実を前に、誰もが動揺していて…けれど確かに、聞こえていた影の言葉通り、この闇からはこれまでのような圧倒的プレッシャーを感じない。それどころかむしろ、弱々しさを抱かせる。儚い存在のようにすら思える。

 だとすればこれは新たな相手でも、復活した相手でもなく、倒し切れなかった…或いは消え切らなかった、闇の残滓。楽観視する訳ではないけど、そう捉える事も十分に出来る。その通りなら…満身創痍のわたし達でも、勝機はある。…そう、思ったけど……。

 

『……っ!しまっ……』

 

 先手必勝。これ以上何かされる前に、まだ碌に回復していない体力が尽きる前に終わらせる。わたしはそう思っていて、多分皆もそう考えていて…次の瞬間、闇の持つ刃が光を放つ。動こうとしたわたし達の前で、二振りの剣が……ゲハバーンが、暗く輝く。

 その光が目に届くのとほぼ同時に、全身から力が抜ける。脱力なんてものじゃない。身体を…シェアエナジーを内側からごっそりと抜き去られるような感覚に飲み込まれ、踏み出そうとした体勢のまま身体が倒れる。

 これまではシェアリングフィールドの力で相殺されていた…加えて闇の持つ二振りはずっと滅神形態だったからこその、『もう封神形態に無力化される事はない』という認識の落とし穴。そして今それに気付いても…もう、遅い。

 

「やりやがったな…氷淵!」

 

 身体を地面に打ち付ける中で聞こえたグレイブ君の声と、頬を撫でる冷気。何とか顔を動かして前を見れば、杭の様な複数の氷が地面に突き立っていて…闇は後方へと飛び退いていた。その動きも、前に比べれば明らかに遅く…それでも今のわたしには追い付かない。立ち上がる事すら敵わない。

 仮にシェアリングフィールドが限界時間を迎えた事で解除されたなら、どちらにせよこれは避けられなかった事。…だとしても、これは致命的過ぎる。こんな状態で、ただでさえ皆満身創痍な状況で、わたし達女神がまた揃って戦闘不能になるなんて…っ!

 

「このエネルギー反応…なんだ…何をする気だ……?」

「何か分かりませんが、間違いなく不味い何かです…!グレイブ、愛月、二人のポケモンは…!?」

「ごめん、皆まだひんしじゃないけど……」

「まともに動ける体力が残ってるのは氷淵位だな…」

「くそ…大剣が、重い……!」

 

 距離を取った闇の背後に、歪んだ空間が生まれる。それはゆっくりとだけど広がっていく。

 それと共に、歪みとは別の靄の様なものが闇の周囲に立ち昇り揺らめく。二人に問いつつビッキィが打った手裏剣は靄に阻まれ、氷淵の攻撃は靄を吹き飛ばす事は出来ても闇自体には届かない。一度は吹き飛んだ靄も再集合するように戻っていき、攻撃の道はまた閉ざされる。

 きっと、今の闇にこれまでのような力はない。倒せないと思わせるような、絶対性はもう闇にない。…けれど、届かない。わたし達女神は力尽き、まだ動ける皆も体力は尽きる寸前で……後もう一歩、もう一歩分進めば今度こそ本当に勝てる筈なのに…その一歩が、一歩先が、あまりにも重く、遠い。

 

「…これまでだって、いうの…?ここまで来たのに…皆で、ここまで…ここまで来たのに……」

 

 悔しさの滲む、イリゼの声。その裏に感じる、認めるものかという思いと、思いに答えてくれない身体への無力感。それはきっと…いや間違いなく、女神全員が思っている。最後の最後でまた何も出来ない、何も守れない…それが何より悔しく、不甲斐ない。

 まだ何とか動ける皆は、それぞれ必死に闇を攻撃する。しようとする。それでもその悉くを防がれ、或いはそもそも闇まで届かず、得体の知れない歪みだけが広がっていく。そのままにするのは不味い、何としても止めなくちゃいけない。それは分かってるのに、そうしたいのに、わたし達女神は何も出来ず、皆もそれを実現する事は出来ず、ただただ歪みだけが広がり続け……

 

 

 

 

 

 

「──まだ、終わりじゃないわッ!」

 

 声が、響いた。決意と覚悟に満ちた、覇気と気力を籠らせた声が。その声が響いた直後…黒い髪が、噴射炎と共に宙でなびく。声は、宙を飛ぶその姿は、わたし達の上を飛び越え、駆け抜け……そして、闇へと肉薄する。肉薄し、靄が阻むよりも先に振るった一撃を叩き込む。

 放たれた一撃に対し、闇は交差させた二本の刃で防御。攻撃と防御はぶつかり合い、せめぎ合い……闇は、刃を振り抜く。押し返し、攻撃した側は…黒髪の少女はその場を飛び退く。緩い孤を描くように後ろへ飛び、わたし達の前で着地する。

 

「皆、ずっと力になれなくてごめんなさい。でも…その分は、今から取り返させてもらうわ」

「イヴ……」

 

 振り返らないまま、彼女は言う。その人物の名前を、呟くようにアイが言う。

 半壊した、複数の箇所で内部構造が露出したパワードスーツ。それを纏ったイヴは、アイからの呼び掛けに小さく頷き…()()()()()()()()

 

 

 

 

 戦いは、私が戦線離脱している間に終わった。終わったと思った。けどまだ終わりにはならなくて…私は、戦いに戻った。戦う為の準備が、無駄にならずに済んだ。

 それは良い事か悪い事かといえば…まあ、悪い。戦いは、早く終わる方がいいんだから。でも…終わらなかったからこそ、私にもまだやれる事が出来た。だから今度は…今度こそは、戦いを終わらせる。私が、終わらせる。

 

「…あれ…イヴさん、イヴさんの腕は……」

「えぇ。だから、改造した上で借りたのよ。…彼から、ね」

 

 防御し弾き返しこそしたけど、自分から仕掛けてはこない闇を見やる中での、背後からのビッキィの言葉。それに私はちらりと振り向いて、それから小さく笑みを浮かべる。

 そう。私の右腕、嘗て失った腕の代わりである義手は、闇との戦いの中で砕け散ってしまってもうない。だけど今、私の右腕に当たる場所には、義手がある。私の物ではない義手が……影の左腕であった義手が、今は私の右腕の代わりになっている。

 普通なら、そんな事は出来ない。言うまでもなく左右違うし、仮にそこが合っていたとしても、義手っていうのは一人一人に合わせて作る物。加えて私と影じゃ次元が違う…開発元が全くもって違う(というか私のは私のハンドメイドな)以上、義手のサイズ、接続方法に操作方法、受ける側…身体側の規格に義手の感度と何もかもが違うだろうし、そもそも『どこから先の義手か』って問題もある。肩から先の義手の代わりに、肘から先の義手を…なんてやったって使える訳がないし、逆もまた然り。難しいとか、時間がかかるとかじゃなくて、普通に無理。一から作る方が絶対早い。

 

(関節を反転させてるから、その分どうしても想像した動きとのズレはあるけど…贅沢は言っていられないわね)

 

 ただ、ここは仮想空間。色々作ったり改造する中で分かった事だけど、仮想空間…データの空間なだけあって、凡ゆる事柄が一つ一つ設定されているんじゃなく、ある程度は枠組みでの設定で…要は大雑把な設定で機能している。ゲームなら斬撃のダメージも打撃のダメージも、炎によるダメージだろうと毒によるダメージだろうと、全部『HPの減少』として処理され、同じ回復アイテムでそのリカバリーが出来るように、私の義手と影の義手も、正確な情報としてじゃなく、『義手』というカテゴリで設定されていた。

 だからこうして、影の左腕の義手を、私の右腕の義手として転用する事が出来た。勿論、改造と調整は施した上でだけど、ただ突き出したり強く握ったりはともかく、細かい挙動は上手くいかないけど…仮想空間である事が、これにおいては完全に味方をしてくれていた。

 

「そういう事か…両手共左手の……」

「まぁそうなるわね、我ながらこんな事をする日が来るなんて思いもしなかったわ。…こほん。一応エネルギーの回復も出来たし、違和感はあるけどちゃんと義手も動かせるわ。だから皆、後は私に任せて……」

 

 これまた呟くようなカイトの言葉を、さらっと返す。そこから私は咳払いを一つし、闇に向けて突進を掛けるような体勢を取って……けれど次の瞬間、闇の周囲に揺らめいていた、靄の様なものが増える。それは形を変え、実体を経て…闇の分身体の様な存在へと変わる。

 しかもそれは、一つや二つじゃない。次から次へと、染み出すように現れては増え、広がっていく。それ等は増えながら、こちらへ向けて動き始める。

 

「…なんか沢山出てきたが、任せちまっていいのか?」

「…前言撤回、私一人で皆を守りながら、アレを薙ぎ倒して闇を仕留めるのは流石に難しいわ。少しでいい、力を貸して」

 

 速攻で撤回する羽目になった事は少し恥ずかしいけど、今はそんな事言ってられない。まずは言ったグレイブを、それから倒れた皆を見て…私は振り返る。少しでも、ちょっとでもいいから力を貸してほしいと頼む。

 答えは待たない。というより、分身体が大挙してこっちに迫ってきている以上、仮に誰も力を貸してくれなかったとしても、やるしかない。

 

「そういう事なら…任せてよ、ゆりちゃん」

「茜、貴女……」

 

 後ろから横にかけて聞こえた声。それは茜のもので、私が見れば茜は笑う。もう大丈夫、いけるとばかりに、こちらへ向けてVサインを見せる。

 彼女だけじゃない。茜に続くように、ビッキィも私の隣に来てくれる。冷気が後ろから吹き抜けて、迫る分身体の最前列を凍結させる。

 

「…ありがとう、皆。正直、これで最後…なんて確証はないわ。それでも、今度こそこれで最後だって信じて…突っ切るわ!」

 

 小さく一つ深呼吸をして、構え直す。地を蹴り、推進機構を全開にして迫る分身体へと向けて突っ込む。

 バトルスーツの破損で、もう飛行は出来ない。勢いに乗せての跳躍は出来るけど、跳躍距離の限界はよく分からない以上、下手に分身体を飛び越えようとしたら、勢いが足りなくて大挙の中に突っ込む形になる可能性がある。万全じゃない状態で多数の相手に包囲されるのは、流石に避けたい。

 

(エネルギーはともかく、残弾は少ない。いつもの調子で動いたら、どこかイカれる可能性もある。極力ぶつかる訳にはいかない…!)

 

 一点に向けて、エネルギー弾を連射。侵攻を押さえる事は初めから望まないで、とにかく突破口を開く事と、そこを突っ切る事だけに専念する。アイ達の事は…皆に、任せる。

 

「援護するよ、ゆりちゃん!ふっ…はぁぁあぁッ!」

「氷淵も頼むぞ!…さぁて…俺もいっちょ、やるか…ッ!」

 

 撃ち抜いた分身体は、あっさりと倒れて消える。侵攻速度も大した事ないし、反撃も機敏じゃない。個々で見れば大した事はなくて、けれどとにかく数が多い。多いし次から次へと現れるせいで、前に進んではいる筈なのに進んでいる感じがない。

 そんな中で、背後から飛んできた赤い斬撃が私の左側にいた分身体を複数纏めて斬り裂く。続けて紫の光芒が、別方向から分身体を薙ぎ払う。私が真っ直ぐ進むのに合わせて、側面から挟まれるのを茜達が阻んでくれる。…心強い。前に、進む事に専念させてくれる援護が、本当に心強い。

 

「させるかよ…こっから先には、一歩も進ませたりはしねぇ…!」

「絶対に、持ち堪えてみせる…ッ!」

「僕だって…スター、もう少しだけ頑張って!」

 

 茜達だけじゃない。カイトにビッキィ、それに愛月はアイ達を守る事に回ってくれたみたいで、一つ一つの言葉に強い思いを感じる。それを聞きながら、前に進む。

 

「ふー……てぇいッ!」

「茜、本当に大丈夫!?それに皆も、無理はしないで…!」

「だいじょーぶ…!それに……」

 

 多分全快な状態だったら…全快でなくとも、もう少し前の段階だったら、余裕で突破出来たと思う。でも今は、全員が力を尽くした後。疲労困憊で、怪我もしていて、万全には程遠い状態。だからビッキィの言う通り、薙ぎ倒すというより持ち堪える、侵攻を何とか押し留めているという状態の様で…特に茜は、多分まだ体力が戻っていない。きっと少しだけしか回復していない状態で、無理して戦ってくれている。

 無茶でも何でもしなきゃ勝てない状況だった事は理解してる。それでも無理はしてほしくなくて、目の前の分身体を撃ち抜きながら声を上げ…初めに返ってきたのは、あまり大丈夫じゃなさそうな言葉。思わず足を止め、戻りたくなる思いに駆られて…けれどその直後、二つ目として返ってきたのは、銃撃の音。

 

「後ろは気にするな、何とかする」

「だから行くんだ、イヴさん!」

 

 別々の位置から聞こえる発砲音。それだけで分かる。見なくても、何をしているかが想像出来る。ワイトはともかく、影は今の状態からして、ある意味一番無茶してると言えるけど…もし戻ろうものなら、彼は遠慮なく呆れた溜め息でも吐きそうな気がする。逆に何かあっても、涼しい顔をしてる気がする。分担して義手を改造・調整する中で、彼がそういう人物だって事は軽くだけど分かった。

 それに…彼じゃなくたって、戻る訳にはいかない。私に戻る選択肢はない。私が行くと決めて、皆はそれに乗ってくれたんだから、私の道は二つだけ。失敗して終わるか…成功させて、今度こそ勝つかの二つのみ…!

 

(後少し…でもまだ早まるな、私達にリトライをする余裕はない…ギリギリまで耐える、耐えて見極める……!)

 

 もう、押し寄せる分身体を抜けられるかもしれない。強引に突っ込めば、いける可能性はある。だけどゴールは、ここを抜ける事じゃない。抜けたとしても、闇本体を倒せなければ全部が台無し。だから目一杯の一撃を放つ為に、行けそうだから行くじゃなく、最大のチャンスを見極めて、そこを、その瞬間を突破する。

 まだ生きているセンサーをフル稼働させる。スーツ越しに見えるものも、得られたデータも全てに目を走らせて、耳も澄ませる。全感覚、全神経、何ならあるかどうかも分からない第六感にも可能性を込めて、目の前の戦いと、きっと来るチャンスに意識の全てを注ぎ込む。

 分身体が隊列を組んで、タイミングを合わせて動いている訳じゃない事はもう分かっている。瞬間瞬間で穴がある時もあれば、逆に侵攻が厚い瞬間もある。私が待つのは穴の瞬間、それも大きな穴と重なる瞬間。まだ違う、まだそれは来ていない…今もまだ違う、まだ焦っちゃいけない…。まだ、まだ…まだ…まだ……

 

「……──ッ!来た…ッ!」

 

 そして耐え続けた、全感覚と神経を注ぎ続けた末、視界が開ける。全身で、これまでとは違うと感じて…これまでで一番の穴に踏み込んで──ここだと、確信する。

 力一杯に、地面を蹴る。足回りのモーターの力で一気に空白の空間を駆け抜けて、その先へ炸裂弾を撃つ。残弾全てを叩き込んで、エネルギー弾も撃ち続けて……押し寄せる分身体を、抜ける。

 

「後は、これで……ッ!」

 

 もう一度地面を蹴って、今度は飛び上がる。推進機構をフル稼働させて、空に舞い上がる。真っ直ぐ突っ込まないのは、もう邪魔されない為。この距離なら、仮に途中で推進能力が駄目になっても、確実に届く。

 エネルギー弾を撃てるだけ撃って、宙返り。脚を前に振り出して、高度を上げながら後方宙返りをかける。そしてその最中に見えるのは、皆の姿。

 

「そら…よっとぉッ!」

「もういよいよシンプルに戦ってるねグレイブ!まぁいいけどさぁ!」

「はは、大したもんだっつーかなんつーか…ほんと、こっちも負けてられない…な…ッ!」

「えぇ、全くですね…ッ!ふーっ…幾らでも来い、最後まで相手してやる…ッ!」

 

 皆も、戦い続けている。普通に殴って蹴って分身体を倒しているグレイブに、スターを抱えながら走り回って、スターに攻撃だけに集中出来るように立ち回る愛月。大剣は手にせず、炎を纏った両手の拳で一体一体倒すカイトに、最後尾…倒れた皆の前で、最後の防御として分身体を前に立ち塞がるビッキィ。皆動きは良くない。既に底を突いている体力を何とか掻き集めて、きっといつ崩れ落ちてもおかしくないような状態で、それでも踏み留まって、『今』を繋ぎ止めている。

 

「これが最後のカートリッジ…これも撃ち切れば後は、割とほんとに喰らい付く位しかなくなるが……この際だ、なんだってやってやろうじゃないか…!」

「そこまでするえー君は見たくないよーな、むしろ見てみたいよーな…もしやるなら、言ってねえー君!えー君をおんぶする体力だけは、どんな手を使ってもどっかから引き出すから…!」

「はは、そのやり取りを聞いているとある意味気力が湧いてくるよ…!私もいざとなれば、石でも握って殴り掛かるとしようか…!」

 

 少し離れた位置では、岩を背にした…右腕以外の四肢を失った影が、そんな状態でも片手で拳銃のカートリッジを入れ替えて、分身体を撃つ。体力的に一番キツい筈の茜は何故か平常運転で、本当に体力が尽きてもどこかから引き出してきそうな感じがあって…落下後動けなくなったブランシュネージュ・ミラージュ、そのハッチを開いて上に立つワイトは、そこから分身体を撃ち下ろす。更にその上方では、氷淵が幾度も氷塊を落とす。

 誰も、本来の力は出せていない。消耗し切った末に、残ったものを駆使して何とか戦っている。それは一人一人の強さ、胆力があっての事だろうけど、自分が、自分達がここを防ぎ切ればっていう思いが…私への信用が、あるのかもしれない。今回信次元に訪れた人達の中で、唯一皆の誰ともほぼ面識のなかった私を、それでも信用して、期待を力に変えているのかもしれない。

 こうも都合良く、まだ長い付き合いなんて呼べない私を信用出来るような人達が集まるものなのか。それとも、そういう事が出来る…理由や捉え方に個人差はあれど、ここで私に託す選択を出来るような人達だから、次元を超えてまで集まったって事なのか。…まあ、どちらにせよ…こういうのは、嫌いじゃない。

 

(…それに、きっと…うん、皆だけじゃない)

 

 私に超能力なんてないし、第六感もまぁ多分ない。だけど感じる。何となく、感じる気がする。アイ達の、ゲハバーンの力で倒れた皆達の思いを。戦えない、立つ事も出来ない、今は守られるだけ…だとしてもせめて心だけは、そんな風に思いを、願いを届けてくれている。それが私の背中を押してくれている。…なんて思うのは、流石に少しロマンチックが過ぎるかしらね。

 宙返りの間は一瞬。その一瞬で色々なものが見えて、感じて…再び視界に、闇が映る。亡霊の様な存在が、倒すべき相手が。

 

「今度こそ、これで終わりよ…次は絶対に、貫いてみせる…ッ!」

 

 もうバトルスーツが完全に壊れてもいい。どっちにしろここは仮想空間なんだから、この一撃を…最後の一撃さえ決められるなら、どうなろうと構わない。

 空から私は闇を見下ろす。闇はこちらに向けて顔を上げる。構えるように義手の腕を引く、推進機構を限界まで稼働させる。そして私は闇に突っ込……もうとしたその時、靄がまた変化する。私と闇との間に流れ込んで、幾層もの障壁になって、私の攻撃を阻む。

 

(……っ、ここに来て…!でも、こんなもの…たとえどんな壁だろうと、この義手さえ残るなら…ッ!)

 

 最短距離は遮断された。けど迂回する気は、ましてや諦める気は微塵もない。とっくに覚悟は出来ている。なりふり構わず躊躇いも捨てれば、道は開ける。無理矢理にでも開いてみせる。その思いで、その意思で、私は一瞬たりとも迷う事なく、そのまま真っ直ぐ突進し…けれど、私が障壁に触れる事はなかった。触れる前に、ぶつかる前に、障壁は……消える。

 

「漸く完全に掌握出来たよ。…イヴ君!やつの防御をゼロにした、いけッ!」

 

 響く、芝居がかった…でもその上で感情が深く籠った声。何を、とかいつの間に、とか思う事は色々とある。ただそれは、後でいい。思う事、気になる事、全部後で幾らでも訊けばいいんだから。

 道は開いた。今度こそ本当に、阻むものは何もない。後は私が一撃を…この拳を、叩き込むだけ…ッ!

 

「はぁぁぁぁああああああッ!」

 

 障壁が消えた空間を、推進力全開で駆け抜ける。その場を動かない闇、その背後で空間を歪ませ続ける闇へ向けて、空から地へと飛翔する。

 既に、障壁がまだ健在だった時点で飛来を初めていた私が肉薄するまでに時間は掛からなかった。私は一瞬で距離を詰め、後一歩で拳が届く距離まで空から踏み込み…ゲハバーンが振るわれる。大剣と片手剣、二振りのゲハバーンが私を墜とす為に振るわれ、対する私はそれぞれの斬撃を目で捉え、義手に仕込まれていた機能を発動。斥力フィールドを展開し、斥力…弾き遠ざける力で片手剣の軌道を逸らさせる。そしてもう一つの斬撃、右手の大剣には……左腕を、突き出す。突き出して、食い込ませ…受け止める。

 迸る激痛。痛いなんてものじゃない、脳に直接杭を打ち込まれでもしたような刺激が迸り、一瞬頭が真っ白になる。斬り落とされてはいない、けど縦に裂かれている。だから痛みが広がる、今も斬られている、痛い痛い熱い冷たいいたいイタイ──何より、怖い。嘗て右腕を失った日の事を、恐怖と絶望の中でモンスターに右腕を噛み千切られたあの瞬間を思い出して、泣いてしまいそうになる。何も出来ない少女の様に、へたり込んで泣き喚いてしまいそうになる。……だけど…ッ!

 

「……──ッッ!いッ、けぇええええええええええッ!!」

 

 恐怖を振り切り、左腕すらも失う怖さを跳ね除け、義手を振り抜く。私の腕を捌かれながら、血の通わない、私のものですらない腕を、限界まで握り締めた拳を振り抜き、闇の胸に叩き込む。

 初めて触れる、人型の闇。ゲハバーンではない、闇本体。もし脆そうなのが外見だけだったらどうしよう。通用しなかったら、ここからまた別の姿になったら…そんな事は、何一つ考えなかった。ただ力の全てを、私と私に託してくれた皆の思いの全てをぶつける事だけを考えて、私は突き出し、振り抜き……闇の胸が、胴が、身体が崩れる。見た目通り、いや見た目以上にあっさりと、いとも簡単に闇は崩れ……拳が、貫く。

 

「はぁッ…はぁッ…く、ぅっ……!」

 

 固まった砂が崩れるように、煙が霧散するように、拳で貫いた箇所を起点に崩壊していく闇。それと共に、空間の歪みも消えていく。溶けるように、空間が元に戻っていく。これまでと同じように…いや、これまでより早く、闇の身体は全て消え去って、歪みも完全に消滅して、初めから何もなかったような、そんな空間だけがそこに残る。

 私は腕を振り抜き、着地をした姿勢のまま。自分の呼吸以外、何も聞こえない。何一つとして起こらない。感じるのは、左腕の痛みだけ。でもそれが、この痛みが、確かな『今』を感じさせてくれる。

 数十秒か、一分位か、もしかするとそれ以上か。暫くの間、私はずっと止まった姿勢のままで、痛みを感じながら呼吸し続け…それから、ゆっくりと振り向く。振り向けば、もう分身体の姿もなくて…私を見つめていた皆に、私は言った。

 

「……勝ったわ、皆」

 

 それはあまりにも、あんまりにも簡素で捻りのない言葉。言ってからすぐ、我ながらもう少し何かあるだろう、と思うような、単純にも程がある呼び掛け。そのせいか、数秒皆は沈黙し……誰かが、「終わっ…たぁぁ……」と安堵の声を漏らしながら、その場に座り込んだ。それを切っ掛けに緊張の糸が解けて、同じような安堵の声や、歓喜の声が聞こえてくる。私もまた、安心し…力が、抜ける。あれ、と思うのも束の間、どさりと前に倒れ込む。

 

「イヴさん大丈…夫ではないですよね!絶対大丈夫じゃないですよねえぇ!」

「落ち着けビッキィ、後愛月は見るな。見ちゃ駄目だ」

「どわっ!?ぐ、グレイブ何を……」

「…不味いな、まだディール様達は回復していない。止血するにしても、ここまでの重傷では……」

「ならば私に任せ給え。一先ずなんとかしてみせよう」

 

 あたふたしながらビッキィが駆け寄ってくる。グレイブは手で愛月の目を覆いつつ自身も目を逸らしていて、何か箱らしき物を持ったワイトもこっちに走ってくる。興奮状態だからか、それとも感覚が麻痺したのか、他の感覚諸共腕の痛みは薄れ始めていて…次の瞬間、私の側で男性が膝を突く。いつの間にか近くに来ていたズェピアか、私に治癒をかけ始める。

 

「ズェピアさん…いや、ズェピアさんも大丈夫なんですか…!?……って、あれ…ズェピアさん、怪我は…」

「それならばもう修復済みだよ。刺された時は流石に驚いたが、あの時点で既に向こうの力もほぼ消えかけていてね。君達に戦闘を任せている間に、タタリで空間を掌握し返していたという事さ」

(…こんなけろっとした様子で修復とかされると、何か色々居た堪れない気分になるわね……)

 

 目を瞬かせるカイトに、治癒魔術を続けながらズェピアが返す。仮想空間の中とはいえ、こっちは相当な覚悟で、思い出した過去の恐怖を必死な思いで押し返して一撃に繋げたのに、ズェピアはこうもあっさり言うものか。そう思うと、ほんと居た堪れない気持ちで…まぁ、いいわ。超常的な存在なんて、これまでも、信次元に来てからも、飽きる程見てきた訳だし…。

 そんな風に思いながら、私は黙って治癒を受ける。どうやらワイトが持ってきたのは機体備え付けの救急キットらしくて、見るも無惨な私の左腕へズェピアと共に応急処置をしてくれる。

 

「…にしても、物凄い無茶をするものですね…剣を腕で、それも大剣を受け止めるだなんて……」

「あの時は他に手がなかったからそうしただけよ。それに、一度目の攻撃を防御された時に、力が落ちているって事を把握出来てたし……あ…」

 

 ビッキィの言葉に内心その通りだと思いつつ、私は返答。無茶そのものではあったけど、あれしかないと思ったのも事実で…返答を終えると同時に、私は気付く。たった今そうなったのか、それとも少し前からそうなっていて、でも余裕のなかった私は気付いていなかっただけなのか…というのは分からないけど、とにかく荒れ果てた空間となっていたここが、気付けば塔に、変化する前の空間に戻っていた。

 という事はつまり、今度こそ本当に闇は倒せた、完全に撃破出来た…んだと思う。ただ、二度の復活を見たせいで、どうしても不安は残る。状況的に倒せたんだろうと思う反面、まだ何かあるんじゃという不安が心の中にはあって……けれどそれも、ある人物の言葉で払拭される事になった。

 

「皆さん!聞こえていますか、皆さんっ!」

「……!この声、ネプギアか?」

「そうです、わたしはネプギアです!」

 

 不意に聞こえてきた、興奮したような、逸る気持ちを抑え切れていないような声。聞き覚えのあるその声に、グレイブが反応して、声の主が、ネプギアがすぐに返す。…何故か凄く変な、変な感じの返答だったけど…多分、感情が先行しちゃってるんでしょうね…。

 

(ネプギアからの通信…って、事は……)

 

 それはさておき、私は考える。緊急時以外は行わない、と決めていた通信をネプギアの方からしてくるとしたら、可能性は二つある。話さずにはいられない程良い事があったか、絶対伝えなきゃいけない程悪い事があったかの二択。最高か最悪か、希望か絶望か。私の中で二つの可能性がそれぞれ浮かび……

 

「バグが…バグとそれによる異常が完全に止まったんです!勝ったんです、皆さん勝ったんですっ!」

『……っっ!』

 

 何ともハイテンションなネプギアの声。その声で発された『答え』に、私は…いやきっと私達の全員が、それに負けない位の高揚感を、やったっていう気持ちを抱いた。…まあ、正直言えば、こっちの可能性の方が高いとは思っていたけど…声音からして良い事なんだろうなとは思っていたけど……それでも、はっきりとその答えを聞くと安心する。恥ずかしいからやらないけど、心の中ではガッツポーズを取る位には、喜びが溢れる。

 

「よっ、しゃぁ!やっと、やっと勝ったんだな…!」

「やった、やったよ!やったね皆!」

「…うん、本当に…本当に皆、お疲れ様」

 

 晴れやかな顔をカイトが見せ、いつの間にか目隠しから解放されていた愛月が跳ねる。ここにいる全員の顔に笑みが浮かんで…それから聞こえたのは、労いの言葉。

 はっとしてそちらを見れば、イリゼが…倒れていた皆もこちらに来ていた。それぞれに肩を貸し合って、支え合いながら…それでも自分の足で歩いていた。

 

「皆様…すみません、皆様の安否確認を失念しておりました…」

「気にすんな、どう考えたってイヴの治療の方が重要だからな」

「それに見ての通り、無事…ではないですけど、大丈夫ですから」

 

 頭を下げるワイトに対して、アイは軽く、ディールはしっかりと言葉を返す。

 確かに皆、顔色は悪い。二度瀕死になっているようなものだし、顔色が悪いのも当然の事。そんな皆と一緒に、皆の側にいた茜と影も歩いてきていて…というか、茜は影をおんぶしていた。両脚と左腕がないんだから誰かに背負ってもらう必要があるのは事実だけど…本当におんぶをしていた。

 

「良かったわ。皆ボロボロだけど、本当に皆には大変な思いをさせちゃったけど…全員で、勝つ事が出来て本当に良かった…」

「…いりぜもせーつもなきそう?」

『うっ……』

「ネプギア、確認だが『止まった』という事は、完全に解決した訳じゃないのか?」

「あ…はい。まだ正常になった訳ではないんです。けど間違いなくバグの侵蝕は止まっていますし、元凶が消滅、或いは沈静化したのは確実です」

「つまり、冷房を切っても涼しくなった部屋がすぐ暑くなったりはしない…みたいな感じ、って事…?」

「お、多分この発言投稿が冬場だったら冷房じゃなくて暖房が例えに出てたんだろうな」

「あ、あはははは…まあ、ルナちゃんの言うような感じかな。冷房と違って、広がったバグや異常はそのままじゃ直らないものも多いだろうし、そこは一つ一つ対処していかなきゃいけないけど…それは任せて」

 

 影からの問いで、今の状況を知る。グレイブの妙な発言はともかく、元凶が消えても即全部元通りにはならない、というのは当たり前の事で…けどネプギアの「任せて」からは、後はこっちで何とかなるという雰囲気を感じた。この状況で、気休めを言うとは思えないし…本当に、何とかなったのね……。

 

「はふぅ…もうおんぶする力しか残ってないから、まだ何かあったらどうしようって思ってたけど…本当に、終わったんだねぇ……」

「漸く、ですね。…しかしイヴさんのパワードスーツは本当に大したものだよ。私の次元にも似たようなものはあるけど、ここまでの機能と性能があり、尚且つ活動時間も十分に確保しているとは……」

「色んな次元の技術を取り入れる事が出来たからこそよ。活動時間に関しては、一度ディールとエストの魔法でチャージしてもらってるしね」

「あぁ…あの時のイヴさん、凄かったですね…幾ら弱めたとはいえ、わたし達の電撃魔法を浴び続けてたのに呻き声一つ出さないなんて……」

 

 下がっている間にそんな事を?…という皆からの視線に対し、まぁねと私は軽く答える。前にも一度電撃でエネルギー充填を行った事があるとはいえ、今回は破損のせいでバトルスーツを解除出来なかった…というより、解除したら再展開出来ない可能性があったから、装備したまま、破損の関係で所々身体が出てしまっている状態のまま、私は二人の魔法でチャージをしてもらった。

 勿論痛かった。バトルスーツにエネルギー充填を行うなんて当然二人も初めてな訳で、電流の一部はスーツに流れて、当然私は感電した。けど、躊躇ってなんていられなかったから。感電への恐ろしさより、戦えずに皆を見つめるだけの方が嫌だったから。それにさっきの一撃と同じように、覚悟を決めてしまえばどんなに痛くても案外乗り越えられるもので……

 

「でも、終わった時涙目になってたわよね?充填完了した後ありがとうって言ってたけど、その時は声も身体もぷるぷる震えてたし、その後一回『ぐすっ…』って言ってもいなかった?」

「え、エスちゃん…何も今、皆がいる前で言わなくたって……」

 

……し、仕方ないでしょ!?乗り越えられるとしても、痛いものは痛いんだから…!身体の反応はどうしようもないんだから…!

 ほ、本当にそれだけよそれだけ。ちょっと思ってたより痛くて、でも『ここでやれる事をしなかったら、絶対に後悔するから。だから、お願い』…って言って頼んだ手前、痛がったりするのも何か恥ずかしくて、本当はただ耐えるしかなかった…とか、そういう事じゃないんだから…!

 

「こ、こほん。それじゃあ私達は、もう現実に戻っても大丈夫なの?」

「それは少し待ってもらえますか?安全の為、特に深刻な状態の場所だけは、仮の修復作業を先にしておきたいんです。それに、接続解除関連のシステムもバグの影響がないか、もう一度確認しておきたいですし……」

 

 念の為、暫く待ってほしいというネプギアの言葉に、私達は納得。取り敢えずバグの影響がない場所に転送してくれるって事だし、まぁここまでの事を思えば、暫く待つ位はなんて事ない。多分皆そう思っていて……そこで一つの足跡が、それに声が聞こえてきた。

 

「ディール、エスト。イリゼ、愛月、グレイブ。セイツ、ルナ、ネプテューヌ、茜、アイ、ピーシェ、ビッキィ、イヴ、カイト、ワイト、影、ズェピア」

「おおぅ、全員の名前を…ってその声、イリスちゃん!?」

「そう、イリス。…全員、いる。全員、起きてる」

 

 駆け寄ってきた、小さな足跡。それは、これまでずっとスライム状態になっていた、気絶していたイリスの足跡。ルナに呼ばれたイリスは、全員の顔をじっと見て…それから胸を撫で下ろした。無表情のまま、ジェスチャーだけで安心したような素振りを見せる。

 

「イリスちゃん…良かった、目が覚めたんだね」

「ごめんなさいイリスちゃん、貴女の事放置しちゃっていたわ…」

「放置?…イリス、よく覚えていない。イリスがあの球?…を壊した後、どうなった?」

「どう…って言われても、話すと長くなるが…まあ見ての通りだ。俺達は、勝ったんだよ」

「戦いも大変だったが、そもそもイリスがいなきゃ俺達は何も出来なかった。そういう意味じゃ、勝てたのはイリスのおかげだな」

「……?…つまり…イリス達大勝利?希望の未来へレディ・ゴー?」

『それは、まぁ…そうかも…?』

 

 ほっとした顔の愛月と謝るネプテューヌに、イリスは首を傾げる。その問いにはグレイブが答え、カイトが笑い……どこで知ったのか、イリスは独特な結論に辿り着いていた。ただまあ確かに勝ったのは間違いないし、違うと返すのも何か違うような気がして…結果、全員揃って何とも言えない反応をする形になってしまった。にも関わらず、イリスは満足気で…完全に緩んだ雰囲気に、くすりと誰かが笑う。それにつられて、笑みが広がっていく。

 そうして、その雰囲気の中で…改めて私達は、感じるのだった。…やっと、終わったんだって。




今回のパロディ解説

・「〜〜両手共左手の……」
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズに登場するキャラの一人(二人)、J・ガイルとエンヤ・ガイルのパロディ。そういえば丁度、この作品に出てくるジョセフも片腕が義手でしたね。

・「〜〜やつの防御をゼロにした、いけッ!」
サマーウォーズに登場するキャラの一人、陣内侘助の台詞の一つのパロディ。最後の一撃と、そのサポートのシーンはこのパロディ含め、かなり前から考えていました。

・「そうです、わたしはネプギアです!」
芸人でありタレントである、志村けんこと志村康徳さんの持ちネタの一つである、変なおじさんの代名詞的な台詞の一つのパロディ。変な感じの発言でしょう?

・「〜〜イリス達大勝利?希望の未来へレディ・ゴー?」
機動武闘伝Gガンダム最終話における、サブタイトルのパロディ。ガンダムはどの作品も色々なワードが有名ですが、サブタイトルとして有名なのは、これがトップクラスかな、と思います。
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