超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第四十六話(コラボ最終話) 繋がりは、続いていく

 戦いの果て…何度も何度もどうしようもないような状況を味わって、追い詰められて、それでも諦めないで抗い続けて、進み続けて、遂に私達は勝利を掴み取った。仮想空間だから、ここでの怪我は…もっと言えば死は『終わり』ではないし、私やセイツにとっては手痛い損失になるとしても、バグ自体はデータもシステムも纏めて消去してしまえば処理出来る……そういう、「最悪失敗しても何とかなる」という中でも必死に、懸命に、全力で皆が戦ってくれたのは、力を尽くしたのは、それだけ仮想空間が現実染みている…仮想のものとは思えない空間だったからか。それとも皆の、やると決めたんだから最後まで貫くという思いから来る事なのか。…それを勘繰るのは、野暮ってものだと私は思う。

 その戦いは、終わった。終わりを迎える事が出来た。終わったからといってすぐに戻れた訳じゃなく、暫くの間は仮想空間に留まる事になって、その時間を利用(?)してライブをしたりもしたけど…結果から言うと、バグの影響が私達に及んでいる事はなく、仮想空間と装置の方も完全な正常化はまだ済んでいないとはいえ、一先ず最低限の修復も完了した…という報告を受けた。…そして、私達は帰還する。仮想空間から、現実の信次元へと。

 

「…ん……」

 

 目覚めの瞬間と似ているけど違う、独特の感覚を抱きながら、目を開く。身体を起き上がらせて、手をぐーぱーさせて、脇腹に触れて…それから、ふっとある言葉が口を衝く。

 

『戻ってこられたぁぁ……』

 

 安堵と脱力感が混ざり合ったような、深く息を吐くような声。本当にそれを、吐くように言って…言ってから、皆も同じ発言をしていた事に気付く。全員ではないけど、結構皆言っていて…お互い気付いた私達は、顔を見合う。見合って…くすりと笑う。

 

「皆さん、お疲れ様でした。本当に…本当に、お疲れ様です」

「あ、ネプギア…うー、ネプギアがいる…ネプギアで感じる、戻って来たんだっていう実感……」

「何を言ってるんですかネプテューヌさん…。…まぁ…気持ちは、分かりますけど……」

 

 私達と同じように…いやきっと、私達とは違う、『送り出す側』だったからこその安堵を表情に滲ませながら、ネプギアが言う。それにネプテューヌが返答し、ピーシェが軽く突っ込んで…続く「気持ちは分かる」という言葉に、内心私も同意した。これまでは声だけだったネプギアと、直接会って会話している…それもまた、戻って来たんだって事を感じさせてくれる。

 

「皆、もう何度も言ってるけど、私からももう一度言わせて。…お疲れ様、皆。最後まで私達と一緒に戦ってくれて、ありがとう」

「ほんとに何度も言われてるわねー。おねーさん、そこまで気にする…って言うか、引き摺るタイプだっけ?」

「イリゼの代弁をする訳じゃないけど、気にするわよ。理由はどうあれわたし達は招いた側で、誘った側で、巻き込んだ側だもの。…だからわたしからも、もう一度感謝を伝えさせて頂戴」

「気にするなよ、二人共。それはそうかもしれないが、それで言うなら俺達は来たいと思ったから応じた側で、自分の意思に従って自分から巻き込まれにいった側なんだからさ」

「えぇ、カイトくんの言う通りです。お二人やネプギア様の思いも理解出来ますが…信次元に来た事も、仮想空間で共に戦った事も、我々一人一人が自分達で決めた事。…少なくとも私は、後悔してなどいません」

 

 機材から離れ、全員を視界に収められる位置まで移動して、改めて私は皆に言う。セイツも隣にやってきて、感謝を示す。私自身、労いだろうと感謝だろうと何度も言えばいいってものじゃないと思ってはいるけど、どうしても言いたい思いがあって…それに対する二人の言葉で、心の中がじーんとなる。続く皆の頷きで、感極まってしまいそうになる。

 けどだからって、更に感謝を重ねたり、感激で泣いたりしたら、流石に皆もしつこいと思ったり、気を遣わせてしまったりすると思う。だから私達は『巻き込んでしまった』という思いに一度区切りを付け、代わりに皆へ笑みを見せた。

 

「うんうん、終わり良ければ全て良し、ってね。…あ、そーいえば皆、身体は大丈夫?」

「ご覧の通り、ピンピンしてるッスよ。あくまで『身体』はただ横になってただけッスしね」

「同じく大丈夫です、わたしはそもそも軽傷でしたし。…イヴさんは……」

「問題ないわ。今のところ特に痛みもないし…というか、ビッキィは何度か打撃を受けていた筈よね…?諸に喰らった瞬間もあった筈なのに、それを軽傷って言うなんて…貴女、凄くタフね……」

 

 一旦話は途切れ、そこから茜が大丈夫?と皆に問う。それに対するアイの回答通り、仮想空間に行っていたのは私達の意識だけで、形としては夢を見ていたようなものなんだから、当然無事ではあるんだけど…だとしても、一応私は全員に本当に大丈夫か確認をした。身体は大丈夫でも精神に何か悪影響が出ている可能性はゼロではないし、実際現実に戻ってくる前に、そういう事態も起こっていた。

 でも幸い、皆特にないとの事。気を遣って大丈夫なフリを…という事もあるかもしれないから、念の為気に掛けておくとして……さて。

 

「皆、ちょっといいかな?」

「お、どうしたイリゼ」

「言うまでもないと思うけど、装置はこれからバグの処理とか修復作業とか色々対応をしなきゃいけないし…というかしてもらう事になるし、そうでなくても事が事だから、仮想空間での活動はここまで…って事にしようと思うんだけど、いい?」

「いいも何も、当然の判断だね。…言い方が緊急メンテに入るソシャゲみたいなのはまあ気にしないにしても、私はそれに賛成だよ」

「わたしもそれでいいと思います。仮想空間での活動は中々面白かったですけど、イリゼさんの思いに反してまでやりたい訳ではないですからね」

 

 ぐぐ、っと身体を解していたグレイブ君の返しに頷いた後、私は少し表情を引き締めて皆に問う。実のところ、嫌だと言われてもここまでにするつもりではあるけど、皆の思いを確認する為に私は訊き…まずはズェピア君が、続けてディールちゃんが、そして最終的には全会一致で理解を得る事が出来た。

 それ自体はありがたい。ありがたいけど…正直私は、残念でもある。激戦の果ての、諦めなかった末の勝利で締め括る形になったと言えば聞こえはいいけど、結局のところ仮想空間での活動は騒動で終わりになってしまう訳で…皆を招いたホストとして、皆と最後まで楽しく過ごしたかった私としては、どうしても残念でならない。

 

(…変に欲を出したから、なのかな……)

 

 仮想空間内にいた時はそれどころじゃなかったし、ここまでは安堵感の方が強かったけど、皆無事だと分かって段々冷静にもなってきた事で、次第に仮想空間での活動は程々にしておけばこうはならなかったんじゃないか…とか、もっと仮想空間の研究を進めてからやるべきだったんじゃないか…とか、完全に後の祭りなたらればを考えてしまう。程々にも何も予想出来ない事態だった訳だし、その研究を進める一環として今回皆に参加してもらった訳だし、後悔しても仕方ないといえば仕方ないんだけど…それでもやっぱり後悔してしまう。

 最後まで、楽しくやりたかった。面白い経験だった、って感想で終わらせたかった。だって…皆と信次元で過ごせる時間は、もうそう多くはないんだから。

 

「…ありがと、皆。えと…それでなんだけど、何か代わりになる事をこれから……」

「それにしても、ほんと色々凄かったよね。まさか、メガシンカとダイマックスを同時にする日が来るなんて…」

「凄かった。イリス、辛そうだった子を助けた。頑張った」

「考えてみると、イリスは要所要所で代えの効かない活躍をしていた気がするな…。…しかし、有人人型兵器のOSに、仮想空間ならではの義手換装…こうも未知の体験を出来るとは思ってもみなかった」

 

 仮想空間の事はもう仕方ない。だから埋め合わせる形で何かしたい、出来ないだろうか。そう思って私は問い掛けようとし…けれど気付く。私がごちゃごちゃ考えていた間に、皆は談笑していた事に。…あれ、なんだろう…一人で考えてたんだから仕方ないけど、そこはかとなく仲間外れ感が……。

 

「ピィー子の勢い任せっぽく見えて、でも実は鋭さばっちりの打撃って、印象に残るよねぇ…一回軽く、手合わせしてみたいかも」

「ウチの次元のピーシェもそうッスけど、迷いとか複雑な駆け引きとかがない分、隙のないごり押しみたいな感じになるんスよね。これは色んな意味で真似出来ないッス」

「…それ、褒めてます…?後、私的には考えて戦ってるんですけど……」

「っと、そうだディール、エスト。現実でも二人の力を借りた氷淵のフォルムチェンジが出来るか試してみたいんだが、時間ある時に頼んでもいいか?」

「え?…いいですけど、仮に出来てもこういう機会じゃない限り、実戦で使える場面なんてないですよね…?」

「それはそれとして、試してみたいって事でしょ。わたしも別にいいわよ?仮想空間で出来た事が、現実でも出来るのか…っていうのは、わたしも少し気になるし」

「いや、あの…皆…?」

「まだ何かあるのかい?イリゼ君」

 

 次から次へ、ぽんぽんと出てくる仮想空間での戦いの話。和やかに話す様子に、私は更に置いてけぼりになった気分で…そんな私へ、ズェピア君が目を閉じたまま視線を送ってきた。

 

「何か、っていうか…意外と皆、けろっとしてるな…って……」

「あぁ。まあ、そんなものではないかな?個人差はあるだろうが、ここにいるのは皆、非常事態や奇想天外な経験に慣れている者達の様だからね」

「それはそうだろうけど、なんていうかその…温度差が……」

「…もしかしてぜーちゃん、もっと皆が気落ちしてるって思ってた?」

 

 すぐ側まで来て、後ろで手を組みながら訊いてくる茜。その時に数秒逡巡した後、私はこくり、と茜に頷く。

 思い返せば…いや、わざわざ思い返すまでもなく、皆とはギリギリの戦いと、何とか打ち勝ち自分達の居場所へと帰ったっていう経験が、思い出がある。今となってはどれも良い思い出だし、その中で感じる事になった痛みや辛さより、そこで皆と出会えた喜びの方が、いつも上回ってはいたけど…だとしても、その時の戦いそのものを前向きには捉えていなかった…筈。ましてや今回は、皆休暇として、そのつもりで来ているんだから、にも関わらずこれだけの事が起きてしまえば、気落ちしたっておかしくない。だから皆にはまた、別の形で楽しめる何かをと私は考えていた。それは決して間違ってはいない、変な考え方ではないと思うんだけど…事実として、皆に落ち込んだ様子はない。それがどうしても、私には理解出来なくて……

 

『そーれっと』

「ぴゃぅあぁっ!?」

『おわぁ!?』

 

 いきなり私の膝の裏に走った衝撃と、一気に傾く私の上半身。デジャヴ感凄まじいその衝撃に、私は後ろへひっくり返りそうになり…反射的に手を突き出す。両手を床に突き、そこからバク転を掛けて後方に着地する。こ、これは…この唐突極まりない膝カックンは…ッ!

 

「アイだね!?アイでしょ!?アイなんだよねぇ!?なんでまたやるかなぁ!?」

「残念、今回はピーシェとのダブルアタックッス」

「あ、そうだったの…いや何故に!?なんでこんな事する訳!?」

「転ぶ直前から瞬時にバク転を掛けて転倒を避けるとは…やりますねイリゼさん。素直に凄いと思いました」

「というか、ピーシェ共々危うくイリゼにオーバーヘッドキックかまされるところだったッス…ウチに蹴りでドキリとさせるなんて、流石はイリゼッス」

「褒めて話を逸らそうとするんじゃなぁぁぁぁいッ!」

 

 動揺して変な三段活用をしてしまった私は、はぐらかそうとする二人へ猛烈に追求。その間、皆は苦笑してたり、或いは「おー…」と何か拍手をしていたりして、私一人が変なテンションになっている状態。むむ、むむむむぅ……!

 

「まあまあ落ち着きなよイリゼ。ほら、クッキーあげるからさ」

「そんなんじゃ私は騙されな…ってそれ私が作ったやつだよね!?返品!?要らなかったの!?」

「おっとまさかそう取られるとは…ほんと落ち着いてイリゼ、それはただの冗談だから…」

「…あぁ…これがしっかりしてるようでしっかりしていない一端なのね…」

「ぶ……っ!?」

 

 こんな感じなのか、と納得したように言うイヴの言葉に私はむせる。何故イヴがそれを知っているのか。誰かが伝えたのだとしたら、真っ先に浮かぶのは一人だけであり…ゆらりと振り向いた私が睨むと、アイは口笛を吹いていた。なんてベタな誤魔化し方を…。

 

「…はぁ…で、今度は何なの?何を思ってやった訳?」

「あ、ぜーちゃん前にもやられたんだ…だから『今回は』って訳ね」

「何を思っても何も、そこまで察せてるのに分からないんッスか?」

「…………」

「あー、これは分かってない顔ですね…」

 

 じっと見てくる二人に対して、私はこれだって言葉が出てこない。それに何か悔しさを感じつつも、どういう事?と視線で返せば、二人は肩を竦め、皆を見る。見られた皆も、セイツとイリスちゃん以外は分かっているようで苦笑い気味。そしてそんな状況に居心地の悪さを感じ始める中、やれやれ…と言った様子でピーシェが首を振り、それから言った。

 

「イリゼさん、立場的に気にするのは分かります。別に私は、トラブルを何とも思っていない訳ではないですし、多分それは皆も同じです」

「なら……」

「けど、それはそれ、です。今回は大変な目に遭いました。事故でも誰かの陰謀でもなく、イリゼさん達が欲をかいた結果な訳ですし、そこはきちんと反省してほしいです。…でも、それはそれとして──後悔なんて、微塵もないんですよ。イリゼさんの招待に応じて信次元に来た事も、仮想空間で色々な事をしたのも…自分の意思で、最後まで付き合うと決めたのも、全部」

「あ……」

 

 真っ直ぐ私を見つめる、ピーシェの言葉。全肯定する気なんて全くないと前置きした上で、「それはそれだ」と言って、後悔なんてないと言い切って…小さく、笑う。そのピーシェの後ろに見える皆…同じように信次元に来て、現実でも仮想空間でも沢山の事をして、離脱しても良かった筈の戦いにも最後まで力を尽くしてくれた皆も、そういう事だと言うように頷いていて……痛感する。本当に、本当に私は…肩に力が入り過ぎていたな、って。

 多分、普段の私なら…或いは前の私なら、もっと早く気付けた筈。皆の顔付きや様子から、そういう事なんじゃないかな…って想像出来てた筈。なのに今の私が気付けなかったのは、それこそ仮想空間の中で膝カックンをされた時と同じで、きっと女神として気負い過ぎているところがあったから。

 守護女神としての、招いた側としての、こっちの都合で起きた問題に巻き込んだ身としての責任感と負い目が、私やセイツと皆の間に、無意識に線を引いていた。友達として、これまでと同じように接している筈が、自分でも気付かない内に『信次元の守護女神の一人、神生オデッセフィアを統治するオリジンハート』として皆を見て、接していた。…だから、気付けなかったんだ。分からなかったんだ。皆は今も変わらず、優しくて芯のある皆なんだって事に。

 

(…まだまだだね、私は……)

 

 私は守護女神としてはまだまだ未熟で、女神としても国としても追い掛ける側。それは常々意識していた筈で、忘れた事もなかったのに…いつの間にか、一端の守護女神のつもりになっていた…の、かもしれない。変に謙遜するんじゃなく、堂々と…内心はそう思っていても、女神として周りに見せる姿は自信に満ち溢れた守護女神で在るべきだとは思うけど……ここにいるのは、皆友達。女神の皆には負けられない、互いの国の為に良い関係を保ちたい…なんて思ったり、何人かうちに移住する気はないか誘ったりした相手もいるけれど、友達として、対等の気持ちで接する事、触れ合う事は…見失いたく、ないよね。それはそれ、って気持ちで…さ。

 

「…ふふっ、ありがと皆」

「イリゼ、顔が良くなった。さっきまでのイリゼより、今のイリゼの顔の方が、イリス好き」

「うんうん。さっきまでの顔も普段とは違う素敵さがあったと思うけど、今のイリゼの方がほっとする…っていうか、やっぱイリゼはこれだよね、って感じがあるよね」

 

 自分でも、表情が柔らかくなったのを感じる。イリスちゃんの言葉に頷いたルナの言葉に、更に頷きや肯定が生まれる。

 今の私はもう、嘗ての私じゃない。皆だって、多かれ少なかれ変わっている部分がある…と、思う。やっぱイリゼはこれ、と言われても、ここにいるのは前とは違う私であって、そう言うルナも、皆も、100%私の知ってる皆ではなくて……だとしても変わらない部分も、変わっていない繋がりもあるからこそ、『これまで』から続く『今』がある。良いとか悪いとかじゃなくて…人も、女神も、皆、そういうものだ。

 

「…強さを、感じるわね。思いの強さ、繋がりの強さ…そんな皆との絆を育んできたイリゼが、わたしは誇らしいし羨ましいわ」

「セイツ……んもう、何言ってるの。皆の強さはその通りだと思うけど、セイツだってもう、皆とは『妹の友達や仲間』の間柄なんかじゃないでしょ?」

 

 一歩引いたような物言いをするセイツに肩を竦め、言葉を返した後に私は皆へと視線を向ける。そうだよね?と視線を送って…返事を受けた。

 内容は、言うまでもない。屈託のないものもあれば、苦笑気味のものもあって、そこはやっぱりそれぞれだったけど…私からの問いに、否定は一つもなかった。皆がセイツとの繋がりを、肯定してくれた。

 

「皆……」

「ね?皆が信次元に来るまでは、確かにそうだった。でも今は……」

「うぅ…感じる、感じるわっ!皆からの、わたしへの思いを!わたしを見て、わたしを思う、それぞれの感情を!十人十色だし、多分言葉にされたら『そんな風に思ってたの!?』って言いたくなるような感情もあるんだろうけど…それでも嬉しい、いやむしろそれ位多彩なのがより嬉しい!あぁ嘘やだ、こんな不意打ちでこんなにも感情見せられちゃったらわたし、わたしぃ…!」

「……折角、良い雰囲気だった筈なんだけどなぁ…」

「あはは…って、あれ?…そういえば、仮想空間で活動している間は、セイツさんのこういう部分を全然見なかったような……」

 

 感動している様子のセイツに笑いかける私。自分の大切な人達と、大切な姉が仲良くなったのだと思うと、それは私にとっても嬉しい事で……と、ここまでは良かったのに、そこからはこの有り様だった。自分の肩を抱くようにして身体をくねらせながら、セイツ節を全開にする自分の姉の姿は、何というかほんとセイツで…ある意味「やっぱセイツはこれだよね」って感じで…そこからふとディールちゃんが発した言葉に、私達全員「言われてみれば…」となった。確かに仮想空間では、一度もこうなったセイツを見ていない…気がする。

 

「…思い返すと、確かにそうね…うん、そうだわ。仮想空間にいる間はずっと、情動を感じていなかったというか……」

「まぁ、それは仮想空間だからだろうな。心がどこにあるのか、なんて話をする気はないが、データの空間…現実ではなく電子空間にいたが故の事だろうさ」

「つまり仮想空間にいる限りは、綺麗なセイツが見られるって訳ね」

「その言い方は酷くない!?」

 

 揶揄うようにエストちゃんが言えば、セイツはショックを受けつつ突っ込む。けどこの漫才みたいなやり取りには同情よりも笑いの方が集まって、セイツはがっくりと肩を落とす。

 そうして気付けば和やかな…本当に、全身全霊を尽くした激戦の後とは思えない(勿論それから暫く経った上で現実に戻った訳だけど)雰囲気に包まれていた。私もすっかり肩の力が抜けていて、友達として気兼ねなく皆と談笑を交わし…ただまあ心の持ちようはどうあれ、私は皆を招いたホスト。その役目を放棄するのは違う訳で、さてと…と仕切り直す。

 

「皆、そういう訳で仮想空間での活動は終了にするけど、この後はどうする?ここまでは折角皆でプラネテューヌに来てるのに、連日プラネタワーに籠ってたようなものだし、少し外に出る?」

 

 改めて皆の事を見回し、問い掛ける。まだ休むには少し早いし、何はともあれ全員で戻って来られたんだから、打ち上げ…ではないにしろ、何かやるのも良いかもしれない。そんな思いで私は問い掛けて、セイツからは首肯を受ける。そして私からの問い掛けを受け取った皆は、ゆっくりと顔を見合わせた後……言った。

 

『いや、普通にゆっくり休みたい…』

『で、ですよねー…』

 

 ご尤もな、本当にご尤もな、呟くような皆の返答。それを受けた私達は、乾いた笑いを漏らしながら、そうしようかと頷くのだった。…取り敢えず、皆に甘い物でも作って振る舞おうかな……。

 

 

 

 

 仮想空間での活動を終えてから数日。神生オデッセフィアに戻った私達は、それからもそれまでのように、全員で何かする事もあれば、個々で街に出たり他国まで足を伸ばしたりと、信次元での日々を過ごした。毎日毎日が濃ゆい、愉快だけど疲労が半端ない時間を皆と過ごした。

 これまでとは違う、自分達の居場所に帰る為の日々ではない、皆で楽しく過ごす為の日々。本当に毎日が充実していて…けれど世の中の多くのものと同じように、この日々だってずっと続く訳じゃない。決まっていた通り、分かっていた通り…終わりの日は、訪れる。

 

「皆、忘れ物はない?持ってきた物は勿論だけど、お土産とかも置き忘れてたりしない?」

「やり残した事もないかしら?今ならまだ、ちょっとした事なら出来るわよ?」

 

 皆が神生オデッセフィアに来た時と同じように、教会のある部屋に私達は全員集まった。…あ、でも違うか。皆が来た時点では、セイツはまだいなかった訳だし、同じく今はウィード君も来ているし…。

 

「大丈夫、忘れ物ない。お土産、ある」

「イリスちゃん、ずっと気になってたんだけど、それブランまんじゅうだよね…?多分それ、イリスちゃんの次元のルウィーにもあるものなんじゃないかな…」

「自分の顔の絵がプリントされたお土産をプロデュースするって、よくよく考えたら凄いよねぇブランさんって。ここの『ネプテューヌ』は言わずもがなだし、ノワールさんは信次元版セラフォルーさんだし、ベールさんはリアスちゃんや朱乃ちゃんとおんなじ位ないすばでーだし…なんかほんと、凄かったなぁ皆……」

 

 大丈夫、と言うイリスちゃんが抱えているのは、多くのお土産。その中にはブランまんじゅうの箱もあって、それに対するディールちゃんの突っ込みに私達は揃って苦笑。

 

「しかしほんと、長かったような、あっという間だったような…」

「長かったし、あっという間でもあった、でいいんじゃねーの?生きてる中じゃ、そういう事だってあるだろ」

「はは…とても少年の口から出てくるものとは思えない発言だね、グレイブくん」

 

 遠い目をする影君に、軽い調子でグレイブ君が返す。とても少年の言うような発言じゃない、ワイト君の突っ込みはこれまたその通りで、再び私達は苦笑を漏らす。

 今日で、これで最後だというのに、皆にそんな感じの雰囲気はない。昨日までと同じ調子で…でも確かに、皆は帰る。

 

「ま、ネプテューヌちゃんじゃないけど色々凄かったわね。うちと信次元は結構似てると思ってたし、実際似てるんだけど、しっかり観光すると案外違いもあるっていうか…。…あー、そういえば結局、ビヨンドフォームは見せてもらってなかったっけ…ねぇセイツ、ちょっとした事ならいいのよね?」

「そうは言ったけど、エストちゃんそれ『ちょっと』で終わる事…?」

「それで言うと俺も、イリゼへのリベンジは出来てないな…。…けどまあ、それはまた今度にするか。セイツには完敗したし、今はリベンジよりも、それが出来る位に強くならねぇと」

「ふふ、なら挑戦してくれる時を待ってるよ?待ってるし…私も三度目の正直を実現させられるように、もっと頑張らなきゃ…かな」

「何か相談事があったら言ってね?イリゼが勝ったら、ちょっとはグレイブも大人しくなると思うし」

 

 これで皆帰るというのに、しんみりするどころか何故か話の流れはバチバチする感じに。…まぁ、私も人の事言えないけど。割と本気で、次こそ勝つ、リベンジを果たす…!…って思ってるんだけど。

 

「血気盛んだね。けど、良い事だ。やはり若者はやる気と向上心があってこそだよ」

「いや、過半数は女神ですけどね。女神に若いも何も、って話ですけどね。…あ、でも確かイリゼさんとセイツさんって、生まれてからの時間的には相当な……」

「こらこらぴぃちゃん、同性とはいえ女の子にそう言う事言うのはNGだよ。それに大事なのは、実年齢より心が何歳かだよ心が!そして私は永遠のじゅう……あ、えー君的には何歳位がいい?」

「いやほんとブレないッスね茜は…。…というか、この調子だといつまで経っても話が終わらないッスよ?」

「そうね。色々話したくなる気持ちは分かるけど、皆もそれぞれ戻ってからやる事があるでしょ?」

「いえ、その辺りは割と何とか……」

「ビッキィ、今それ言うのは違うって私でも分かるよ…」

 

 首肯から呼び掛けにさらっと返しかけたビッキィへ向けられる、ルナからのジト目。それにビッキィは「えっ?」となった後、周りの反応から自分がアウェーなんだと気付いて、イヴに申し訳ない…と恥ずかしそうにしながら謝罪。ただでも今の返しが素の反応だって事はイヴも分かっていたようで、別に構わないわと軽く返した。

 イヴは、気を遣ってくれたんだと思う。今日帰る事は決まっていたとはいえ、この雰囲気の中で「じゃ、自分はこの辺で」…と言って一足先に抜けるのは気が引けるだろうし、だから帰る為の流れを作ってくれた…そういう事だと思う。

…でも、正直…ちょっとだけ本音を明かしちゃうと、ビッキィみたいに「別にまだ大丈夫」って言ってくれる人がいる事を、私は期待していた。だってそうなれば、そういう人がいてくれれば、その人だけでも「またね」と言わなきゃいけない瞬間は先になるから。…こんなの、小っ恥ずかしいから口には出せないけどね。

 

「でも、あんまりあっさり帰るのも…ねぇ?やる事はあるけど、それだとおねーさんがしょんぼりしちゃうでしょ?」

『あー』

「あー!?満場一致のあー!?ちょっ、ひ、酷くない!?別に私、しょんぼりなんか……」

「しないのか?」

「…しちゃうけども…!あ、皆そんなに名残惜しくないんだ…って凹んじゃうけど……!」

 

 言わずに心の中に留めておく。そのつもりだったのに、隠す気だったのに、余裕でバレてて小っ恥ずかしいどころか赤っ恥の私。誤魔化せば良いのについグレイブ君の返しについ正直に答えちゃう私。そのあんまりにも恥ずかしい状況に、逃げたい気持ちすら湧いてきて…だけど私は、心を鎮める。

 

「…でも、大丈夫だから。また会えるって信じて、その為に頑張って、また会えたのが今回だから。これが最後なんかじゃない…そうでしょ?皆」

 

 勿論名残惜しさはある。凄くある。でも、私はまた会えるって分かってる。だから、私は決めていた。これまでもそうだったけど、今日はこれまで以上に、笑顔で皆を見送ろうって。また来たい、また来よう…そんな思いで、皆が帰れるようにしようって。

 

「…うん。これは最後じゃない…そうだよ、その通りだよイリゼ」

「その通りだよね。それじゃあ……」

「ちょっと待って!」

 

 深く頷いて、ルナが肯定してくれる。ネプテューヌも噛み締めるように頷いてくれる。それからネプテューヌは言葉を続けようとして…そこで愛月君が声を上げた。

 

「うん?どうかしたか愛月。忘れ物か?」

「ううん、そうじゃなくて…」

 

 忘れ物?と尋ねたカイト君へ首を横に振り、愛月君は荷物の一つを床に置く。あ、もしかして…ここにいる面々の内、ピーシェとビッキィの次元に飛ばされた皆(と、もしかするとイリスちゃんも)がそんな風に思う中、愛月君は複数のある物を取り出し、言う。

 

「これ、僕が作ったぬいぐるみなんだけど…良かったらこれ、貰ってくれないかな…?」

「これは…もしかして、私達かい?」

「ほー、これは中々…いや、ほんとよく出来てるッスね。良かったらも何も、こんな可愛いぬいぐるみを作ってくれたなら、喜んで受け取るッスよ」

 

 並べられた、幾つものぬいぐるみ。それは愛月君お手製の、今回初めて出会った皆のぬいぐるみ。自分達のぬいぐるみなのだと気付いた皆は目を丸くし…初めにアイが自分のぬいぐるみを、あいぐるみ(だと愛月君とややこしいからしのぐるみ…?)を両手で持つ。矯めつ眇めつしながら暫し呟き、それから感謝の言葉と共に笑みを浮かべる。

 

「うんうん、じょーずだねあい君!ふふっ、えー君のぬいぐるみもあるし、これはゆーちゃんが見ても喜ぶかもねっ」

「ぬいぐるみといえば、プルルートだけど…愛月の腕前も結構なレベルね。ありがと、大切にするわ」

「自分のぬいぐるみ、っていうのはちょっと恥ずかしいものもあるけど…でも、嬉しいね」

「まさかこんなプレゼントがあるとは…愛月は手先が器用なんだな」

 

 次々と上がる好評の声に、愛月君は嬉しそう。それは見ている私達もほっこりするような良い笑顔で…皆がそれぞれにぬいぐるみを持つ中では、喜びだけじゃなくて驚きの声も聞こえてきた。

 

「…あら?これ、ひょっとして……」

「ぬいぐるみの義手は取り外し出来るようになってるのか…凝ってるな……」

「ぬいぐるみなら、マジックテープで付けたり外したり出来るからね。…ほんとはワイトさんのぬいぐるみが乗れる、ブランシュネージュ・ミラージュ?…のぬいぐるみも作りたかったけど……」

「そ、そこまではしなくていいよ愛月くん…そこまでいくともう、趣味の域では明らかにないからね…」

「ははは…けど、俺までいいのか?」

「勿論!ウィードさんとセイツさんの分、それに他の人も作ったから、後で渡してあげて!」

「ほんとよく、このレベルの物をこんなに沢山作れたわね…ふふふっ、わたしの部屋に置いておくのも良いけど、イリゼのぬいぐるみと一緒の所に置くのも良いかも」

「なんか、作り出したら止まらなくなっちゃって…」

 

 義手の着脱ギミックに加えて、信次元の女神の皆の分までという、大盤振る舞いなぬいぐるみの数々に、私達は舌を巻く。好きこそ物の上手なれって言うし、私もお菓子作りが趣味だから気持ちは結構分かるけど、だとしても凄いものは凄い訳で……うん。これは、丁度良いタイミングかも。

 

「じゃあ…そんな愛月君に、私達からもプレゼントだよ」

「へ?」

 

 全て渡せてご満悦な愛月君に、私が呼び掛ける。きょとんとした顔で愛月君が振り向く中、私は『これ』に関わった皆と顔を見合わせ…私からも、ぬいぐるみを贈る。

 

「前に愛月君からぬいぐるみを貰った皆で、お返しをしようって話になってね。私達はそんなに裁縫が得意じゃないから、大部分はプロに作ってもらったんだけど…それでもちょっとずつ、私達の手でも縫って作ったんだ」

「そ、そうだったの?…わっ、わぁぁ……!」

 

 大体愛月君が作った物と同じ位のサイズのぬいぐるみを差し出せば、愛月君は目を輝かせ、本当に嬉しそうにしながら受け取る。今受け取った皆と同じように…或いはそれ以上に喜ぶ愛月君の様子を見ていると、むしろこっちが何かしてもらったような嬉しさが心の中から湧いてきて、私は皆と笑い合う。

 繋がりっていうのは、形じゃない。何もなくたって、見えなくたって、心の繋がりというものがある。でも…形ある繋がりだって、見て、手に持って感じられる何かがある事だってまた、それは凄く素敵なものだと私は思う。だから……

 

「…それから、もう一つ。これを皆に、受け取ってほしいの」

「え?これ、宝石…じゃなくて……」

「シェアクリスタル、では…?」

「うん、シェアクリスタル。私とセイツで精製したものだよ」

 

 私が取り出したのは、金や銀、プラチナなんかを用いて装飾品の様に仕上げたシェアクリスタル。目を瞬かせるエストちゃんとディールちゃんに私は頷き、セイツと二人で精製したものなのだと伝える。

 形に残る、皆との繋がりを感じられるものは何か。それを考えた末、私はシェアクリスタルに行き着いた。これなら、自分達で精製したシェアクリスタルなら、他にはない一点物を皆に贈る事が出来る。それが、シェアクリスタルにした理由の一つ。

 

「シェアクリスタルって…その気持ちは嬉しいですし、イリゼさんらしいとも思いますけど…流石にそれは、身を切り過ぎというか、比喩ではない意味で身を削り過ぎな気が……」

「大丈夫よピーシェ。見ての通り、小さいシェアクリスタルだし…こう言うとあれだけど、今のわたし達は、神生オデッセフィアは、国力の割にシェア率が高い状態だからね」

「幾つもの次元に及ぶ程の最終決戦に勝利した後の、建国初期だからこその状態、か。…だとしても、大盤振る舞いだな。これは…シェアエナジーは、イリゼ達が国と次元を守る為の力でもあるだろう?」

「だからこそ、だよ。シェアクリスタルは、私達の加護が詰まっているようなもの。皆に贈るお守りとしては、これがベストだって思ったんだ。それに…また皆のいる次元と接続する時にも、これなら目印の一つになるだろうからね」

「要は、イリゼがこれを贈りたくて仕方ないって事よ。…わたしも皆に、わたしとの繋がりを築いてくれた皆に、この思いを贈りたいの。…だから、受け取ってくれないかしら?」

 

 ただのプレゼントの域を超えているんじゃ?…そう思う気持ちは分かる。形に残るし、世界に一つだけだし、明確に自分に贈られたものだって分かるし、でも趣味で…好きで作ったんだろうなと分かる愛月君のぬいぐるみは本当に絶妙で、それに比べると軽くは受け取れないものだって事は分かってるけど、それでも私はこれを贈りたかった。私は…ううん、私達はプレゼントしたかった。

 そして私達は、その思いを伝えた。だから後は、皆がどうするかで…数秒の沈黙の後、初めにルナが受け取ってくれた。

 

「そ、それじゃあ…女神様お手製のシェアクリスタル、ありがたく頂戴致しますっ!えっと…ははーっ!」

「ルナ君、それではプレゼントというか、賜与になってしまうよ…。…女神が吸血鬼にお守りとは、また面妖な話だが…この思いを無碍にするなど紳士の名折れも良いところ。君達二人の思い、是非受け取らせてもらうよ」

「プレゼントとしちゃシェアクリスタルは重過ぎるんじゃないッスかねぇ…。…けどまぁお互い女神として、間違い続けなければそれなりに長生きする訳だろうし、それならそれで、重くなくなる位持ってりゃ良いって話ッスよね」

「女神の加護…イリゼが俺達の世界に来た時は面白い経験が沢山出来たし、こりゃ期待の出来るお守りだな。ありがとな、イリゼ、セイツ!」

 

 やたら仰々しく受け取ったルナを皮切りに、皆も一つずつ受け取ってくれる。素直に喜んでくれる人もいれば、ピーシェやアイの言うように…シェアエナジーがどれだけ大切なものか常に感じている女神の皆の様に、ちょっぴり躊躇いを見せた人もいたけど、だとしても全員受け取ってくれた。…それだけで、私は嬉しかった。嬉しかったし、ほっとした。一つ気掛かりなのは、シェアクリスタルが本当にお守りになってくれるかだけど…そこは信じようと思う。なんたって、それは私とセイツのシェアエナジーなんだから。

 

「加護、か…今の俺には過ぎたものと言うべきか、ある意味これ以上ない皮肉と言うべきか……」

「もー、えー君ってばすぐそーゆー事言う…んーでも、身に付けていれば二人の力でちょっとは明るくなる、かな?」

「それは流石に何とも言えないかな…そういう事なら、もっと大きいやつじゃないと効果ない気もするし……」

「何の話をしてるんですか…けど、まさかこのタイミングで渡されるとは…むむ、今わたしから返せるのは、このクッキー位しか……」

「それうちのお土産のお菓子じゃん…しかも序盤のネプテューヌのネタと天丼じゃん…こほん。そういう事なら、代わりに一つだけお願いしても、いいかな?」

「…もしかして、写真か?」

 

 すっ…とうちのお土産の箱を出したビッキィに突っ込みを入れた後、私は皆を見回す。前にも経験しているからか、すぐにカイト君が察して、それに私は首肯を返しつつ、これで…と携帯端末を取り出す。

 写真を撮るのは、ある意味恒例の事。特に今はこれまで出会った全員がいるし、しかも新たに出会った人もいるんだから、ここで撮らない選択肢はない。

 

「それなら、教会の正面出入り口をバックに撮るのが良さそうッスね。さ、セイツ。妹を可愛く撮ってあげるッス」

「えぇ、任せて頂戴。イリゼのベストショットを撮ってみせるわ」

 

 自分の携帯端末をセイツに渡し、自信を窺わせるセイツと共に、皆に見送られて私は外へ。そして出入り口の前に立って、セイツにばっちりな写真を……

 

「…って、違ぁうッ!」

「わぁ、パスタを作ってる会社のお父さんみたいな突っ込み…」

「イリゼ、良い写真撮れた?イリス、写真見たい」

「いや撮ってない撮ってない!撮っていたとしたらそれ自撮りだから!人の手を借りる自撮りなだけだから!なんで毎回こうなるかなぁ!?」

「というかイリゼ様、その様子だとわざわざ本当に外まで…?」

 

 蜻蛉返りで戻ってきた私は、変な感想を口にするルナをスルーしイリスちゃんの発言に突っ込む。撮ってない、撮る訳がない、撮ってどうするんだって話。なんでほんと、これまでセットで恒例というか、お約束みたいになるのかなぁ…!?…くっ…ワイト君の言う通りではあるけど、こういうのは振られたらばっちり乗ってからじゃないと突っ込めない…何か突っ込めない気がするんだよ…!

 

「まあ、それはさておき撮りましょうか。記念写真は私も賛成ですし」

『はーい』

「さておかないでよ!?っていうか皆、外行くの!?教会前で撮るの!?じゃあ私は何の為に戻ったって言うのよぉ!?」

「…イリゼ、今日も絶好調ね…わたしイリゼのそういうところ、本当に大好きよ!」

「ありがとねセイツ!全く嬉しくないけどねッ!」

 

 ピーシェの呼び掛けでぞろぞろと歩いていく皆に私は叫ぶも、叫びは虚しく消えていく。私、完全に大損である。…うぅ…なんで私、こんな扱いされてるのに皆と友達やってるんだろう…。……いや、だからって絶交する気なんて微塵もないけど。

 

「弄ってやる…いつか皆を思いっ切り弄り倒してやるぅ……」

「残念ながらイリゼさん、そんな未来は恐らく一生訪れない。少なくとも、私の見える範囲でそんな未来は存在していないよ」

「こういう部分も含めてイリゼの魅力っていうか、良いところだと思うけどねー。よーし、センターはこのねぷ子さん!…と言いたいところだけど……」

「ここはホストが中心よね。二人が招いてくれたから、私達はここで過ごせたんだもの」

「…だってさ、二人共。じゃ、俺がセットするからその間に並んでくれるか?」

 

 非常に不服な紆余曲折の末、今度こそ私は皆と写真撮影。ウィード君がカメラのタイマーをセットし、教会内で見繕った丁度良い台の上に携帯端末を置いている間に、私達は全員がちゃんと映るように並んで、端にウィード君も駆け込んで、全員が揃った写真を撮る。その後は私以外も何人か携帯端末を取り出して、ルナは自分のカメラを出して、追加で記念写真を撮っていく。

 これもまた、形に残る繋がり。形になった、確かな思い出。そして記念写真を撮り、部屋に戻り……今度こそ本当に、終わりの時は訪れる。

 

「これから順番に次元の扉を開きます。皆さん、宜しいですね?(´・ω・`)」

「大丈夫よ。…って、わたしが答えるのも変な話だけどね」

 

 それは確かに、とイストワールさんの問いに対するセイツの言葉に肩を竦めるけど、皆もう準備は出来ているから問題ない。後は本当に帰るだけで…私達と皆は、向かい合う。

 

「今回は…いえ、今回もありがとうございました。本当に、本当に…楽しかったです」

「今度はまた、幻次元に来てよね。おねーさんは勿論、セイツやウィードだってその時は歓迎するわ」

 

 初めて出会った別の次元の存在であるディールちゃんと、次に出会ったエストちゃん。二人とはもう何度も会っていて…でもやっぱり帰ってしまうのは寂しいし、それ以上に楽しかった。また会いたいと、心から思える。

 

「うちにもまた来てね。また色んな話をしたいし、きっとその時には今より大きくなってるゆーちゃんと、ぜーちゃん達には会ってほしいもん」

「さっきも言ったが、次会う時はきっと…いや絶対に、もっと強くなっていてみせる。だから、楽しみにしていてくれよ?」

「私これ、大切にするね!それから、次に会う時は、あの後こんな事があったんだーっていう話を沢山用意しておくから、期待しててっ!」

「またその内、休暇として訪れる事が出来るよう頑張ります。私は異なる次元の、ルウィーの軍人ですが…これからも神生オデッセフィアが繁栄する事を、祈っています」

「今度はウチの次元に招待するッスよ。国を守る女神の先輩として…友達として、ウチの次元と皆を、たっぷりと紹介するッス」

 

 別次元でも次元の狭間でもない、特異な空間で出会った皆。再びこうして集まれた事は幸せで…でもこの幸せは、一度切りなんかじゃない。私はもう決めている。皆が望んでくれる限り、これは二度、三度、四度…もっともっと、続けていくと。

 

「…ありがとう。ここで…神生オデッセフィアと信次元で、俺は大切なものを色々と見られた。少しクサい言い方だが…掛け替えのない経験が出来た…ような、気がするよ」

「またな、イリゼ、セイツ、ウィード。俺はこれからも勝ち続けるから、その内信次元にも『チャンピオン・グレイブ』の噂が流れてくるかもしれないぜ?」

「実はもう、次にまた会う時が楽しみだったり…ここに来る前にも言ったけど、るーちゃんとライヌちゃんにも、また会おうねって伝えておいてくれると嬉しいな」

「イリス、皆に沢山話す。また楽しい事が一杯あったって。イリス、友達増えたって」

 

 こっちから迷い込む形だったり、逆に信次元に迷い込む形だったり、或いは何かの縁を感じさせるような形だったりで出会った四人。普通だったら友達になるどころか出会う事すら…その可能性すらなかった皆との絆は、私の宝物。絶対に無くしたくないし、絶対に無くさない。

 

「神生オデッセフィアが順風満帆に繁栄するかは分かりませんし、個人として皆さんが平穏無事に過ごせるかも分かりません。…ですが、もし何かあれば言って下さい。…私程度の力なら、貸しますから」

「わたしも力になります。ピーシェ様の部下云々は関係なく…友達ですし、またこうして愉快な時間を皆さんと過ごしたいですから」

「こうしてまた、一つの物語が幕を閉じる…といったところかな。…この舞台とキャストで描かれた物語は、良いものだった。だから続編を作るつもりがあるのなら、いつでも呼んでくれ給え」

「帰ったらまた大変だろうけど…負けたりなんてしないよ。皆とハッピーエンドを迎えたいし…こんなに楽しい時間をこれ切りにするなんて、絶対に嫌だからねっ!」

 

 色々な次元や世界から、一つの次元に集まった…その時からの、友達。もしかすると、次はまた、トラブルで再会する羽目になるかもしれない。だけど、大丈夫。そうなったとしても、私達なら…皆となら、きっと乗り越えられる。

 

「私は正直、ここで学びというか、私の目指す先に役立つものを得る為に来たんだけど…今はもう、そんな事関係なく楽しかったって、来て良かったって思ってるわ。だから…また会いましょ。私は、また会えるって信じるわ」

 

 そして、新たな出会い。再開と共に私が得た、新たな絆。出会い方、出会った場所、それから過ごした時間…それぞれ違うけど、そこに上も下もない。信次元の皆も、別次元や別世界の皆も、等しく大切な人達で……だからまた会うんだ。また会いたいんだ。

 

「今回の事があって、わたしは皆と出会った。知って、皆と友達になった。だから次は、皆との再会よ。また招きたいし…いつだって、どこだって、呼んで頂戴。それがどんな理由だとしても…わたしは、必ず駆け付けるわ!」

「次の時は、もっとじっくり色んな話をしてみたいな。…ああ、そうだ…絶対あるさ、次の時は。あり得ないような再会も、あり得なくなんてない…繋がりは、どんなに遠く離れても消えたりしない…俺は、そう断言出来る」

「…またね、またね皆!私も楽しかった、来てくれて嬉しかった、皆と過ごせて幸せだった!だからまた私は皆と会うよ!何度だって会って、楽しい時間を過ごすんだから!別次元とか別世界とかは関係ない…それが、友達だからっ!」

 

 最後に私達は、私達も思いを伝える。また会おうと、言葉にする。言うまでもない事かもしれないけど…大切な思いは、大切な思いなら、ちゃんと伝えなくっちゃいけない。私はそう、思うから。

 そうして、次元の扉は開かれる。それぞれの居場所への扉が順に開き、皆はそこを潜って、帰っていく。帰っていて…この長くもあっという間だった、幸せだった日々が幕を閉じる。

 

「…帰っちまったな、皆」

「…うん」

「また会えるように…また会える日まで、頑張らなくっちゃいけないわね」

「…うん!」

 

 二人の言葉に、どちらも頷く。帰ってしまったのは事実、また会えるように頑張るのもまた事実。これも、私の歩みであり…続いていく、私達の道。

 

(期待じゃない。誰かに任せっ放しの希望じゃない。次もまた、自分の意思で、自分達の思いで、また皆と会うんだ。…そうだよね?皆)

 

 皆と撮った写真に、皆と作った数々の思い出に思いを馳せながら、私は気持ちを新たにする。気持ちを、更に強いものとする。

 神生オデッセフィアから…私の国から見える、信次元の空。晴れやかな、澄んだその空は──今日もこれまでと変わらない、これからも私達が守り、続いていく、優しい光に包まれていた。




今回のパロディ解説

・「アイだね!?〜〜なんだよねぇ!?〜〜」
原作シリーズの一作目における、ネプテューヌの特徴的な台詞の一つのパロディ。パロディ、と評するには微妙なラインですが、解説はした方がいいかな、と思いここに書きました。

・「〜〜綺麗なセイツ〜〜」
ドラえもんに登場するキャラクターの一人、ジャイアンこま剛田武の姿の一つ(?)のパロディ。でも、綺麗なセイツだと個性に欠けてしまいますね。やはり個性的であってこそです。

・「〜〜永遠のじゅう〜〜」
声優である、井上喜久子こと熊本喜久子さんの代名詞の一つであるワードのパロディ。でも原作シリーズは、女神は勿論それ以外のキャラも大概時が経っても外見が変わらない…と、指摘するのは野暮ですね。

・「…って、違ぁうッ!」「わぁ、パスタを作ってる会社のお父さん〜〜」
株式会社アイエイアイのCMの一つのパロディ。アイエイアイはパスタとトランプタワーを作っている会社です。…すみません、嘘です。これもCMのネタです。


 コラボに参加して下さった皆様、コラボストーリーにここまで付き合って下さった皆様、ありがとうございました。これまでで一番参加人数の多い、話数も期間も長い、それはもう大変なコラボとなりましたが…それに見合うだけの楽しさのある、やった甲斐があると心から思えるコラボになりました!本当に、ありがとうございました!
 ですがまだ、ORの時と同様、番外編としてもう少しコラボストーリーは続きます。どうぞ、番外編もお楽しみ下さい。
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