超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
皆が信次元に来た初めの日、わたし達は全員で集まって、同じ部屋で寝た。全員にそれぞれ、来客用の個室を用意していたんだけど、ふとした事からそういう流れになって…それからも、夜寝る時は皆集まって、同じ部屋で、という感じになった。
別に「この時間になったら全員ここに来て寝るように」と決めてる訳じゃなくて、各々寝ようと思ったら来て寝る…って感じだから、雰囲気的な縛りもない。だから、もう誰かいるかしら?…と思って行ったら誰もいなかったり、逆に寝る前にもう少し話したいなと思っていたのにもう皆寝ていてしまったりと、集まってるのに集まれない…みたいな事もあったりするけど、まぁどうしても話したい事、やりたい事があるなら予め伝えておけば良いだけ。
と、いう訳で…今日は皆に集まってもらった。ちょっと、面白い事をしたくて。
「イリゼ、セイツさん、今日はどうしたの?」
「うん、今日はちょっと面白いものを見つけてね。って言っても、厳密にはイリスちゃんが見つけて、私達はそれを教えてもらった訳だけど」
『面白いもの?』
敷いた布団の上に割座で座って、ルナが訊いてくる。それに答えたのはイリゼで、面白いものという言葉に、皆が首を傾げる。
この反応は、予想通り。というより、そういう反応を狙ってイリゼは言ったんだと思う。そして問われた私達は、一度揃って部屋を出て、ある装いに着替えて…戻ると共に、言う。
「じゃーん!」
「着ぐるみパジャマよ、全員分用意したから今日はこれを着てみない?」
ばっ、と左右に分かれて服装を…買ったばかりの着ぐるみパジャマを見せるわたし達。これまで大きく違う格好を見た皆は、ぽかんとしていて…イリスちゃんだけは、うんうんと頷いていた。
「着ぐるみパジャマって…また唐突ね……」
「まあね。でも、着ぐるみパジャマって前もって話すようなものかしら?」
「可愛いパジャマだとは思いますが…着るのはちょっと恥ずかしいような……」
「まあまあ取り敢えずは着てみてよ。話はそれから、ね?」
「恥ずかしいって言ってるのに…!?」
困惑気味のイヴにはわたしが、頬を掻くピーシェにはイリゼがそれぞれ返す。イリゼの返しは冗談半分とはいえ、実際ピーシェ以外にも恥ずかしがっていたり、乗り気ではない様子の面々が多くて……
「…イリス、これ、皆で着てみたい。駄目?」
『うっ……』
でもイリスちゃんの発言一つで、流れが変わった。流石はイリスちゃん、断らせない事に関しては他の追随を許さないわね。
「あぁ…イリスちゃんが見つけた、って言ってたわね…ならイリスちゃんが乗り気なのは当然か……」
「自分は割と元から乗り気だけどね。パジャマって事はこれ着て外出る訳じゃないんだし、試しに着てみない?」
そういえば、と呟くエストちゃんに続く形で、ネプテューヌが賛成を示してくれる。イリスちゃんの「駄目?」で断れない感じになったところでネプテューヌの賛成も入って、雰囲気も変わり始めて…「まぁ、着るだけ着てみる?」という空気に。そして、わたし達が全員分の着ぐるみパジャマを渡し、皆がそれに着替えて…わたし達は、着ぐるみパジャマガールズに。
「取り敢えず、着てみましたけど……」
「いざ着てみると、そんなに恥ずかしくないですね…本格的なコスプレって感じじゃなくて、動物っぽいデザインのパジャマって感じですし」
立って首を回し、自分の姿を確認するビッキィに、意外とこれは…って感じに、ちょっと好印象っぽい様子を見せてくれるディールちゃん。今ディールちゃんが言った通り、わたし達が用意した…出掛けた先でイリスちゃんが興味を示したのは、動物の着ぐるみパジャマ。それぞれケモミミ付きのフードと尻尾が付いた、ゆったりした感じのパジャマで、着るだけなら案外恥ずかしくない。勿論これを着て、動物の真似をしたりすれば、恥ずかしくなったりするかもしれないけど…それはまあ、着ぐるみパジャマ関係なしに恥ずかしいものね。
「ふふん、どうどう?似合ってる?」
「似合ってるよ、ねぷちゃん。ねぷちゃんは犬の着ぐるみパジャマ…うん、なんかイメージに合うかも」
元々乗り気なネプテューヌが腰を振り、尻尾を揺らせば、茜がうんうんと肯定を返す。
今茜が言った通り、ネプテューヌが着ているのは犬のパジャマ。それも薄紫と白という、ネプテューヌの普段着を思わせる色合いのパジャマで、私とイリゼも茜に頷く。というか、皆も頷く。ネプテューヌを動物に例えるなら、元気があり過ぎる位のわんこ…っていうのがわたしとイリゼで一致した意見で、実際違和感はほぼゼロなレベル。
更に、似合ってると言った茜のパジャマもわんこタイプ。淡い赤色のわんこパジャマで、茜もまたわんこのイメージ。明るく快活、人当たりが良くてでも割としっかりしている…って印象から自然と犬に繋がっていって、ネプテューヌに答えた後の茜はふと静かになった後、「えへへ〜」と頬を緩めていた。多分、影の事を考えているんでしょうね。この隠さない…というより隠しようがない感じの『好き』って感情は、いつ見ても良いわ…尊いわ……。
「お、イヴとはお揃いッスね。イヴが猫…案外『にゃー』って言ったら可愛いんじゃないッスか?」
「そんな可愛さを自分に求めた事はないわ…アイこそ語尾を『にゃ』にしてみたら?」
「いやいや、ウチの場合そうすると語尾のダブルブッキングになるッスから。そしてもし両立しようものなら、『〜〜にゃーッス』になって、何か違うものを連想……」
『……?』
「はっ…まさかこれは、このネタを思い付いたが為に……?」
『いやいやいやいや…それを(わたし・私)に訊かれても……』
まさか…と、ゆっくりこちらを見てくるアイに、わたし達は手を横に振る。一見愕然としているようだけど、表情の通りの感情を抱いているのか、それともそういうフリをしてふざけているだけなのかは、さっぱり分からない。
そんなアイは、茜より鮮やかな赤色の猫パジャマ。耳がピンと立ったにゃんこパジャマ。自由な感じで掴みどころがない…でも親しみ易さと良い意味での軽さを併せ持つアイは、わたしもイリゼもにゃんこ感があるとすぐに思った。…後、動きもしなやかだし。
一方イヴも同じくにゃんこのパジャマだけど、イヴのパジャマの色は黒。黒猫タイプの着ぐるみパジャマ。クールっぽい、でも決して大人しい訳じゃないっていうイヴの印象と黒猫とは合っている気がして…でもクール、じゃなくてクールっぽい、なのがミソ。質問攻めにされた時は結構あたふたしてたし、イヴって意外と猫みたいに可愛らしいところがあるのよね。
「わたし達もお揃いみたいね。で、狐なのは…自分で言うのもアレだけど、結構イメージに合うのかも」
「うん。わたし達…というか、ブランさんのイメージと合うもんね。特に神次元のブランさんは」
「折角だし、こんこんってやってみる?こんこんきーつね、とか」
「それは狐は狐でも、オタク狐だよ…白いしそういう意味ではイメージに合わなくもないのかもだけど……」
両手で狐ポーズを作りつつふざけるエストちゃんに、ディールちゃんが半眼で突っ込む。でも突っ込みつつもちょっとやりたくなったのか、ディールちゃんも右手で小さく狐を作っていた。…可愛い。
同じ動物の着ぐるみパジャマ、というパターンは幾つかあるけど、色を含めて完全に同じなのはディールちゃんとエストちゃんだけ。完全にお揃いなのは、勿論二人が双子だからで、ディールちゃんの言った通り、二人にパジャマの選択には、ブランの存在も少なからず影響してる。でも、それ抜きにも似合うわよね。小さくて可愛い感じ見た目通りの部分と、でも結構しっかりしている…抜け目ないとも言える部分は、狐に通じる感じがあるし。
因みに、白い色のパジャマにするって案もあった。あったけど、普通の狐色パジャマにした。どうして、って…そんなの、狐色の方が二人の飴色の髪と合うからに決まってるじゃない。
「その大きい尻尾…もしかして、ルナはリス?」
「うん、そうみたい。ピーシェは…黄色い狸?」
「みたいだね…狸って…なんで犬とか猫とかもいるのに、私だけ狸……」
「え、だってピーシェ、小さい頃はよく狸の服を好んで着てたじゃない」
「あー…いやあれは蜂なんですけど!?」
『えっ…?』
「アイさんまで…!?」
狐につままれたような(ディールちゃんとエストちゃんじゃないわよ?)反応をわたし…それにアイが見せると、ピーシェは唖然とした顔をした後に肩を落とす。基本ちょっと冷めてる感じのピーシェだけど、わたしの知ってるピーシェもここにいるピーシェも、冷めてるのは表面だけなのは同じなのよねぇ…なんて事を思いつつ、わたしはアイと互いにウインク。
実を言えば、ピーシェが好んでいたのは狸じゃなくて蜂をモチーフにしていた服…っていうのは知っていた。でも蜂モチーフの着ぐるみパジャマは流石になくて、だからちょっと冗談も込めて狸のパジャマをわたし達は選んだ。…けど、単にふざけただけじゃない。丸っこいケモミミと楕円を思わせる尻尾はどっちも可愛らしいし、色は勿論ピーシェに合わせて黄色にした。のんびりしてるようで実は臆病っていうギャップのある性格も、冷めてるようで実はそうでもないピーシェのギャップと合ってると思う。
でもって、ルナのリスパジャマもピーシェの狸パジャマと同じく黄色。でもピーシェのパジャマは濃い黄色なのに対して、ルナのパジャマは白よりの…私やイリゼの髪に近い色の黄色パジャマ。好奇心が…好きなものや気になる何かに対する勢いが強いルナはリスのイメージとぴったりで、今もルナは自分のパジャマの尻尾の感触を楽しんだり、皆のパジャマ姿に機嫌の良さそうな顔をしたりしている真っ最中。…因みに犬も選択肢には上がったけど…うん、やっぱりリスで正解だったわ。
「ネプ姉さんと茜さんは犬で…イリスも犬?…あれ、でもその色……」
「そう。これは、スライヌパジャマ。ライヌちゃんと、お揃い。スラ丸、スラ吉、スラ太、スラ子とも、お揃い」
「き、聞いた事のない名前が次々と…でもなんだろう、聞いた事ないのに何となくどういう存在なのか分かる気が……」
「…ビッキィも、犬…じゃ、ない?」
「ふっ…これは犬ではなく、狼パジャマ…孤独にして孤高、気高い狼の──」
「ビッキィ。一匹狼なんて言葉もありますけど、基本狼って群れで行動する動物ですよ?」
「えっ?」
「そーよ?状況によっては一匹になる事もあるって位らしいしね」
「え…?」
ぽかんとした顔でピーシェとエストを見つめるビッキィに、わたし達もうんうんと頷く。思わず笑ってしまいそうになるのを何とか堪え、平静を装う。
ライヌちゃん達とお揃い、と言った…わたし達と一緒に出掛けていたイリスちゃんのパジャマは、言葉通りスライヌを思わせる水色の犬パジャマ。スライヌをモチーフにデザインされたのかは分からないけど、ルナとはまた別方面で好奇心旺盛なイリスちゃんは子犬っぽい感じがあつて、スライヌ関係なしにも似合ってる感じ。それに表情こそ変わってないけど、ちょっとした動作一つ一つから喜んでいるのが伝わってくる。
そしてビッキィは、孤高の一匹狼…ではなく、基本群れを作る狼の着ぐるみパジャマ。黒とオレンジの、色味的に暖かそうな印象の狼パジャマ。ビッキィの顔が段々赤くなっていってる事には触れないであげるとして…実際ピーシェを筆頭に、割といつも誰かと行動しているというか、ちょっとズレてるところはあるけど積極的に周りと関わるビッキィは、やっぱり狼と合っているんじゃないかってわたしは思う。
「…ふふ。ほんとに、前より柔らかくなりましたよね」
「うぅ…それ、褒めてます…?」
「勿論。…割と弄りに弱いのは、前からですけど」
「うぐっ……」
何やらわたし達にはよく分からない会話を交わし、ピーシェは小さく笑う。言われたビッキィは撃沈する。ビッキィに柔らかくなったと言ったピーシェだけど…そのピーシェの顔も、わたしからすれば凄く柔らかなものだった。
「うんうん、独断と偏見で買った着ぐるみパジャマだけど、皆ぴったりだったわね」
「結局皆普通に着てくれたし、やっぱり用意して正解だったね」
「…イリゼさん、セイツさん。お二人のそれは…兎、ですよね?」
「うん、そうだよ。可愛いでしょ?」
「兎といえば脚力だし、アイやビッキィに…とも思ったけど、わたしとイリゼで合わせるんだったら兎一択だと思ったのよね。皆もそう思うでしょ?」
良かった良かったと言葉を交わす中でディールちゃんに問われ、わたし達は答える。ふふん、とイリゼと並んで肩を揺らす。
イリゼとお揃いの、白うさぎパジャマ。ぺたんとしているウサミミと、まんまるふわふわな尻尾はどっちも可愛くて、兎パジャマのイリゼなんて見てるだけでほっこりとする。更に自分で言うのもあれだけど、ただ可愛いだけじゃなくて…何というか、ほんのり色香もあると思う。そこは兎というか、バニー的なイメージによるものだけど…愛らしさと色っぽさが共存している、それもわたしとイリゼのイメージでしょ?…え、そうでしょ?そこは譲らないわよ?……こほん。
ただ一つ残念なのは、何となくわたし達以上に似合いそうなオリゼには現状着てもらえない事で…でもそれは仕方のない事。だからこの心残りは心の片隅に取っておく事にして、代わりにわたしは胸を張る。皆も似合っているけど、わたし達だってぴったりでしょ、と皆にアピールするように、余裕たっぷりに笑みを浮かべて……
「あー、確かにおねーさんってば寂しいと死んじゃいそうだもんね」
「んなぁ!?ちょっ、いや、死なないよ!?…確かに寂しいとちょっと元気なくなるかもだけど…死にはしないからね!?」
「元気なくなる事は認めるんだ…でも正直、確かにそういう意味でもぜーちゃんに兎ってぴったりかも」
「それで言うと、セイツにもぴったりッスねぇ」
「え?わたしは寂しいからって死んだりしないわよ?そりゃ、全く動じない訳じゃないけど、そんなの誰だって同じ……」
「いやそうじゃなくて、よく言うじゃないッスか。兎は常に発情期だって」
『あー』
「ちょっとぉ!?だ、誰が常時発情期よ!そんなところでぴったりだとか思わないでくれる!?後皆も、あーって何!?何を納得してるの!?」
……酷い言われようだった。それはもう、酷い言われようだった。発情期がぴったりって…わたしのどこが発情期なのよ、わたしのどこが!……とは言えないけども!流石にわたしもそこまで自分が分からない女神ではないけども!…だとしても、常時発情期ではないわよ…ただ、老若男女皆の感情の煌めきが好きなだけだもの…。
「あぁ、セイツさんがいじけちゃった…」
「まあ、言われた内容が内容だものね。同情するわ」
「…ルナ、イヴ、気に掛けてくれるのは嬉しいけど…二人もさっき、『あー』って言ってたわよね…?」
「……それにしても、着ぐるみパジャマってこんなに色々あるんだね。私も行けば良かったなぁ」
「もしうずめがいたら…可愛いのは柄じゃないって言いつつも、一人でこっそり着たりしそうね…」
「話の逸らし方があからさま過ぎない!?」
すーっ…と横を向いて全然違う事を言い出す二人に、わたしは突っ込んだ後がっくりと肩を落とす。わたし程ではないにしろダメージを受けていたイリゼと顔を見合わせ、二人揃って溜め息を吐く。
「あー、っと…わたしはその、普通に似合ってると思いますよ…?…こんな時間ですけど、マシュマロでも食べます…?」
『ディールちゃん…兎だからって、太らせてから食べる気!?』
「なんでそうなるんですか!?お二人共本当に落ち込んでます!?」
「それで言うと、ここじゃビッキィの一強かな?逆に最弱はイリゼかセイツ…か、ルナ?」
「…ビッキィ、食べないでね?」
「いやいや……というか、何この地味に返しが難しい話題…」
落ち込んでいても、冗談を言えそうなタイミングならトライする。それが女神ってものよね。弄られっ放しなのも不服だし。
と、いう訳でわたし達がふざける中、ネプテューヌ達も何やら話していた。他の皆も各々話していて…そこでわたし達は、今度はピーシェから一つ問われる。
「ところでこのパジャマ、上下一緒のタイプじゃないんです?そこそこ丈はありますし、ワンピースタイプのパジャマだって事なら納得ですけど…」
「あ、うんそうだよ。皆だって、パジャマの時はゆったりしたいでしょ?」
「流石にトップスだけ渡した訳じゃないから安心して頂戴。まあパジャマだし丈も長いし、ボトムス履く位ならトップスだけでも良いと思うけどね」
『…………』
『……?』
「……前々から思ってたけど…おねーさんって、ちょっと脚限定で露出狂の気がない…?」
「セイツも普段履いてるニーハイの通気性が凄過ぎるし、足のところはトレンカ仕様だし、姉妹揃ってそういう……」
急に皆黙り込んでどうしたのかしら。そう思ってわたしがイリゼと顔を見合わせていると、何やら皆はひそひそ話していた。エストちゃんとイヴの発言に、皆は「そう、なのかも…」的な顔をしていた。…ほんとに何をこそこそ話してるのかしら…イリスちゃんは何故か耳を塞がれてるし……。
「そ、それよりもさ二人共、この格好で何したいの?」
『え?』
「え?…もしかして、特に何もない…?」
気を取り直すように訊いてきたネプテューヌだけど、その問いにわたしもイリゼも目を瞬く。何もない?と更に問われて、イリゼと顔を見合わせ、ネプテューヌに頷く。
「何もないっていうか…わたし的には、着る事、着てもらう事自体が目的だったっていうか……」
「そ、そうなんだ…じゃあ、イリスちゃんは何かある?」
「イリスは…この格好で、ライヌちゃん達と遊びたい」
「あ、うん…確かにそれも、やりたい事といえばやりたい事だね…」
皆とやりたい事ではないんだ…と、苦笑気味に呟くルナ。ただでも言われてみればそれもそうで、ネプテューヌの「これで終わり?」って意図も分かる。ファッションにいちいち目的や用途を求めるのはナンセンスだけど…折角皆に着てもらってはいお終い、後は各々寝るなり好きな事するなりしてねー、じゃわたしだって味気ないと思う。
(でも、じゃあどうするって話よね…パジャマに合わせたごっこ遊び、なんて流石に恥ずかし過ぎるし……)
全員でやるとしたら何かしら、と頭を捻る。それに合わせてウサミミがぴこぴこ動く…なんて事はない。だって、ただの服だもの。
別に、これで解散でも良いのかもしれない。味気ないとは思うけど、各々楽しめば良いんだし。でも早々に終わらせるんじゃなくて、少しは考えてみようっていうのがわたしの心情で……そんな風にわたしが考える中、茜が声を上げた。
「あ、じゃあさじゃあさ、パジャマ全然関係ない事でも良いかな?」
「って、いうと?」
「枕投げ、私一回やってみたいと思ってたんだ!」
そう言って、茜は枕を一つ持つ。これやろっ、と娘のいる母親とは思えない程屈託のない笑みを浮かべながら言う茜は、本当に心からやりたそうで……枕投げ。これは、悪くないかもしれない。
「枕投げかぁ…確かにこれだけ人数がいれば、結構盛り上がりそうですね」
「確かに二人や三人より、多人数でやってこそ…な気がするッスねぇ、枕投げというと」
「…良いかも…うん、枕投げ良いかも。私は賛成っ」
初めに答えたのはビッキィで、アイに続いてイリゼも答える。答える…というか、やりたそうな表情を浮かべる。段々分かってきた事だけど、イリゼってばこういう遊びに憧れっぽい感情を持ってるのよね。うーん、可愛い。感情も妹としても可愛いっ!……こほん。
「じゃあ、枕投げ…してみる?」
ちょっと自分もやりたくなってきたわたしは、皆に問う。するとイリゼの他にも、ネプテューヌやエストちゃんは賛成みたいで、逆にどっちでも、みたいな反応はあっても、自分はやりたくない…みたいな反応はなくて(イリスちゃんはそもそも知らなかったようで、説明を受けてたけど)……わたし達着ぐるみパジャマガールズは、枕投げをする事となった。
*
枕投げなんて、やるのはいつぶりか。…っていうか、私やった事あったっけ…?…と、思う位には、自分にとって枕投げは馴染みのない遊び。性質的には、誰にとっても大概は久し振りの、日常的にやってる人なんて滅多にないような、遊びと言うべきかスポーツと言うべきかも謎の…って、いけないいけない。これじゃ枕投げdisりみたいになってる…。……あ、因みに結構本格的な大会があるらしいです、枕投げ。しっかりルールやポジションなんかもあるんだとか。
「それじゃあ皆、言うまでもないけど範囲はこの部屋のみ。誰かを集中的に狙ったり、誰かと連携したりしても良いけど、これは『遊び』だって忘れない事。そして勝利条件は、存分に楽しんで満足する事…いいかな?」
『はーい』
ルール…って程でもない取り決めをイリゼさんが確認し、私達は緩く答える。こういうルールだから、沢山当てれば良いって訳でもないし、当たったからアウトで場外へ…なんて事もない。そういう意味じゃ、決めたのは『勝負』の為のルールじゃなくて、それこそ『遊びとして楽しむ』為のルール、かな。
「イリゼ、当たっても続けていいって事だけど、疲れて休憩したくなった場合とかはどうすればいいかな?死んだフリとかしてた方がいい?」
「むしろ倒れてたら危ないでしょ、ルナ…多分皆動き回るんだから…。…んー、と…じゃ、その辺りに何枚か布団を敷いて、休憩スペースって事にしておく?当然そこは狙っちゃ駄目で、狙っちゃ駄目なのを利用する為に近付く…っていうのも無しにしてさ」
「部屋の外に出た方が…とも思いましたけど、それだと観戦は出来ませんもんね。わたしもそれで良いと思います」
こくん、とイリゼさんの提案にディールさんが頷き、追加のルールも確定。引っ掛かると危ないから、という事で端に退かしておいた布団数枚を使って休憩スペースを設置し…準備は完了。最後に各々枕を持って、大体一定の間隔を取る。
「落ちたのとかキャッチしたのとかも使っていいんだよね?そこに積んである枕も使ってOKなんだよね?」
「そこのもそうだし、マイ枕がある人はそれ使っても良いわよ?…あ、でも破いたりはしないように扱ってね?」
「そら当然ッスね。ルールを守って楽しく枕投げ、ッス」
ネプテューヌさんの問いに纏わるやり取りが済んだところで、部屋の中は静かになる。遊びだし枕投げだし、そこまで身構える必要なんてないんだけど…面子が面子だからか、既にまあまあ緊張感がある。かくいう私も、少なくとも一方的にやられるつもりなんてない。
初めは全員枕を一つ持った状態でスタート。唯一イリゼさんだけは二つ持っているけど、それは開始の合図用。全員をゆっくりと見回した後、イリゼさんは真上へ緩く枕を投げ、天井近くまで上がった枕はゆっくりと床に落ち……枕投げ合戦が、始まった。
『……ッ!』
落ちたのとほぼ同時に、幾つかの枕が飛んだ。私は投げずに横へと飛んだ。先手必勝、という言葉はあるけど、あれは相手が準備の出来ていない時に仕掛けられれば…っていう意味であって、こういう試合形式の時はあんまり意味はない。
それに今は皆、枕を一つしか持っていない。つまり、そのままだと攻撃出来るのは一度だけという事で、外れて落ちた枕を拾うにしろ山から補充するにしろ、その瞬間は隙を晒す事になる。自分の時は危険に、誰かの時は狙うチャンスになる。
だから、まず私は避ける事を選んだ。万全の状態での攻撃を、万全の状態で避けた。そして、今投げた…無防備になった人の内、一番高い相手を狙う…ッ!
「う、外れた…枕、枕……」
(って、一番近いのは一番狙い辛い相手だったぁぁぁぁ…!)
反射神経のままに投げようとしていた私は、直前で踏み留まる。イリスさんの小さな背中に投げ掛けていた手を、止める。戦いに甘さは不用。やれる時にやるのが鉄則。…だとしても、これは狙える訳ないでしょう…!?こんな無防備そのものの背中に枕ぶち当てるとか、得るものより失うものの方が多過ぎる…!
「ピーシェ、ボディーがお留守みたいねッ!」
「く……ッ!」
何とか踏み留まった次の瞬間、横からエストさんの声と枕が同時に迫る。私はそれを見る事なく、直感のまま前転を掛けて間一髪躱す。
掠った気がする。多分掠った。でも、私はほぼノーダメージ。対照的に今投げた、私と同じように開始時点では投げずにいた様子のエストさんは、間違いなく今枕を持っていない。一方的に反撃するチャンス。
…と、思ったのも束の間、エストさんは既に逃げていた。恐らく、投げた時点で退避と枕の回収に動いていた。…当然だ。普通の戦闘だったとしても、攻撃した後のんびりその場に留まっていたら反撃されるだけだし、今のエストさんは「一回攻撃したら終わり」なのが誰から見ても分かる状態だったんだから。
「でも、それなら…ビッキィ!挟み討ちに……」
「あ、すみません!わたし今さっき投げちゃって今枕ないです!」
「意外と連携し辛い…!」
思い付いた連携は、一瞬で無理だと判明。でも考えてみたらこれも当然の事で、チーム戦じゃないんだから常に全方位への警戒が必要になる以上、連携の余裕なんてそうそうない。とにかく攻撃手段が枕だけ、その枕も沢山持って動く事は出来ないこの『枕投げ』は、いつもとは大きく違う考え方で動くしかない。
(考えてみたら、今ある枕はこの一つだけど、山には沢山あるし、そもそもこの部屋から枕が…攻撃手段がなくなる事はない。なら、慎重になり過ぎる必要も……)
必要もない。そこまで思考がいった瞬間、横跳びで誰かからの枕を避けた瞬間、ネプテューヌさんと目が合う。合うというか、同じく動いていたネプテューヌさんと、いきなり至近距離になって…咄嗟に私は、枕を投げる。
サイドスローで投げ放った枕。咄嗟ながら、投げた枕は真っ直ぐに飛び…ほぼ同じタイミングでネプテューヌさんが投げていた枕と、枕同士ですれ違う。触れるか触れないかの距離で、二つの枕が飛び交い……
「へぶっ!」
「あぶっ!」
直撃した。顔に直撃した。ネプテューヌさんの顔にも…私の顔にも。まあまあ痛い、枕だけど投げたのが女神だから結構衝撃があった。
「痛た…んもう、ピィー子本気で投げたなー?」
「それはお互い様でしょう…。…さて、隙有り!」
「ねぷぅ!?や、やったねピィー子!」
「ふっ、甘いですねネプテューヌさん。既にネプテューヌさんの枕も回収済み……」
「貴女も隙有りよ、ピーシェ」
しゃがみ、拾い上げると同時に下から落ちた枕を投げた私。尚且つもう一つの、さっき私が投げていた枕も拾い上げていた事で、完全にネプテューヌさんに対して優位に立つ。
このチャンスを逃す手はない。すぐさま二つ目を投げて、今当たった一つ目をまた回収して、至近距離だからこそ出来る二つの枕での連続攻撃を……しようとした瞬間、背中に枕を当てられた。
「ふっふっふー、油断したねピィー子。トドメの一撃は、油断に最も近いって忘れちゃ駄目だよ?」
「なんでネプテューヌさんが偉そうにしてるんですか…おっと」
「あら残念、流石に二回も三回もそのまま受けてはくれないのね」
「まあ、遊びとはいえばかすか当てられるのは嫌ですから」
続けて飛んできた二つ目を、振り向きざまにキャッチする。投げてきたのはイヴさんで、どちらかと言えばクールなタイプ…だと思う彼女だけど、枕投げは普通に楽しんでいる様子。…というか、私も結構そうかも…ここまで凄く頭を回転させて、色々考えてるし…。…さて……。
「…………」
「…………」
「なら、正々堂々勝負…と言いたいところだけど、人の姿といっても、女神と正面からぶつかるのは勘弁ね。ここは逃げさせてもら……」
「よし、ここは一時休戦だよ!」
「えぇ、そうしますか。やり返させてもらいますよ、イヴさん…!」
「え、ちょっ…何でいきなり休戦!?自分で言う事じゃないけど、私そうせざるを得ない程の相手じゃないわよ…!?」
無言で頷き合い、キャッチした物と当てられた物、元々は私達がそれぞれ持っていた物で合わせて四つの枕を、ネプテューヌさんと二つずつ持つ。両手に枕を構えて、びっくりした様子のイヴさんに仕掛ける。ここで一時休戦に応じた理由は…特にない。
「とりゃー!」
「そこッ!」
「わっ、きゃっ…うっ……!」
「あ……」
「おわっ、お腹にクリーンヒット…容赦ないね、ピィー子……」
一つ目を同時に投げて姿勢を崩し、ネプテューヌさんの二発目で防御を誘ってもらって、ガラ空きになった胴体に私がシュート。上手い事連携が機能した結果、気持ち良い位ばっちり枕が当たって……しまった。…すみません、イヴさん…でも、そういう遊びなので…。
「…ネプテューヌさん、枕って結構持てるんですよね。うん、片手で三つ位なら普通に持てる。これならもう一つを右手で持って投げられる……」
「あー、脇に抱えるとそうだよね…って全部回収されたぁ!?ちょっ、ズルく…はないね、流石にズルくはなかったよごめん!」
「あ、はい。では、覚悟」
ちょ、ちょっと休むわ…と言って休憩スペースに向かうイヴさんにもう一度心の中で謝りつつ、私は四つの枕を回収し……ネプテューヌさんに圧を掛けた。速攻逃げていくネプテューヌさんに一つ投げ、続けざまにもう一つ投げようとして…しゃがむ。しゃがんだ次の瞬間、頭上を枕が駆け抜けていく。
「よく避けたわね、ピーシェ…!」
「セイツさんですか…!」
後転し、その勢いのまま跳ね起きてバックステップをしつつ枕を投げてきた相手を見る。その時にはもう投げてきた相手、セイツさんが持っていたもう一つの枕を投げる体勢に入っていて、私もさっき投げ損ねていた二つ目を放つ。さっき、ネプテューヌさんと一騎討ちになった時はすれ違った枕だけど、今度はぶつかって、両方が落ちる。
「そちらの手持ちはゼロ、こちらは二つ。もう一つを投げるのが早過ぎましたね」
「ふふ、それはどうかし…らッ!」
「な……っ!」
枕の数では完全有利。でも女神相手じゃ避けられるか受け止められる可能性も十分ある訳で、私は焦らず揺さぶりを掛ける。でもそれに対し、セイツさんは小さく笑い…なんと突っ込んできた。
逃げるでも動き回って狙いを付けさせないでもないまさかの接近に、逆に私が動揺させられる。ぐっ…でも近付けば近付く程、回避もキャッチも難しくなる…ここは落ち着いて、真正面から思い切り……
(…いや、ここは……)
「投げないで逃げるの?ピーシェ、案外逃げ腰なのね」
「そりゃ、変態が迫ってきたら普通逃げますって」
「んなぁ!?こ、これは普通の戦法でしょ!?」
後ろに跳び、私はセイツさんと正対しつつ逃げる。投げずに下がる私へセイツさんが挑発してきたけど、逆に私は煽り返してむしろセイツさんの集中力を削ぐ。
後ろに神経を集中して、壁や誰かにぶつからないようにしつつ逃げ続ける。同時に顔はセイツさんの方を向いたまま、目だけで周囲を確認していく。そして……
「追い詰めたわよ、ピーシェ!」
「そうですね、追い詰められました。…追い詰められたのは、貴女ですけどね…ッ!」
「……!」
追い詰めた、そう言いながらセイツさんは姿勢を下げ、指先で摘むようにして落ちていた枕を拾う。そのまま投げるというか、下から放るような軌道で投げようとする。
それを、私は言葉で制する。わざと、ちょっと芝居掛かった言い方をして、セイツさんに気付かせる。そして、次の瞬間…二つの枕が、ほぼ同時にセイツさんを襲う。
「あっ…!」
「わっ…!」
左右からセイツさんへ迫ったのは、ルナとディールさんが投げた枕。でもそれは、セイツさんを狙ったものじゃない。セイツさんは狙われたんじゃなくて、二人の射線上に入っただけ。逃げると見せかけて、私がそこに誘導しただけ。この為に、私は視線を走らせていた。そして狙い通り、セイツさんは絶好のタイミングで二人の射線に入ってくれた。
わざと声を掛けたのも、気付かせたのも、作戦の内。気付いていない状態だと、女神の本能と反射神経で思考抜きに避けつつ更に突っ込んでくる可能性があったから、気付かせる事で、『意識的な対応』を強いた。
けど、見事に左右から同時ヒット…とはいかなかった。床に素足を突き立てるようにして急減速したセイツさんは、拾った枕を手放すと共に両腕を左右に開く。広げて、突き出して…二つの枕を、二つ共片手で受け止める。
「…まんまと乗せられたわ…やけに逃げ回るから、何か狙っているとは思っていたけど……」
流石に焦った様子のセイツさんを見ながら、私は枕を構える。セイツさんも、今は両腕を広げたままだけど、恐らくすぐに投げられる筈。だから私は、セイツさんのいる方向をじっと見て…もう一つ、手を打つ。
「セイツさん、一つ提案があります」
「提案?」
「ここで勝負するのも悪くありませんが…私の後ろに絵が飾ってありますよね?万が一その絵に当たって落ちたら折角盛り上がっているのが台無しですし、一旦お互い矛を…いや枕ですけど…収めて、移動しませんか?」
「…確かに、そうした方が良さそうね。でも、そう言いつつ狙ったりするのは無しよ?」
「勿論、私から狙うような事はしませんよ。これで証明になりますか?」
持っていた枕二つをその場に落とす。それを見たセイツさんは頷いて、自分もキャッチした二つを手放す。お互い枕無しになったところで私は頷き、セイツさんも頷いて、それからセイツさんはこの場から離れるべく振り向き……
「──先に謝っておきますね。すみません、セイツさん」
「え……ふぶっ!?」
枕が、ものの見事に顔へと当たった。ぱーん!…と小気味いい音と共に、セイツさんがふらつくレベルで顔面にジャストミートした。…待ち構えていた、ビッキィの枕によって。
「う、ぐ…騙したわね、ピーシェ……」
「騙したなんてそんな、私が投げた訳じゃないですし、ビッキィに関して何も言及しなかっただけですよ?」
「……っ…中々、悪どいじゃない…けど、わたしには分かる、分かるわ…ばっちり作戦勝ち出来た事を喜ぶ反面、姑息な事をしたのも、それにビッキィを巻き込んだ事も、内心申し訳なく思っている、貴女の誠実さ溢れる気持ち…が……」
「え、ぜ、絶命したぁ!?」
「なんでそんな仰々しく……え、大丈夫ですよね?演技ですよね…?」
ゆっくりと振り返り、静かにわたしへ告げた後、ばたんと仰向けに倒れるセイツさん。仰天した顔で私達のやり取りを見ていたルナが駆け寄って、同じくディールさんもちょっと不安になった様子で側に寄り…ビッキィは、ちょっと動揺していた。もしかしてわたし、やり過ぎました…?という目で私を見ていた。
「あー…ごめんなさい、セイツさん。でも、嵌めた私が言うのもアレなんですが、このままだとビッキィが本気で負い目を感じちゃいそうなので、復活してもらえます…?」
「あ、そうなの?それはごめんね、ビッキィ」
「へ?…あ、ほ、ほんとに演技だった…?…い、いやまぁそんな事だとは思ってましたけどね!予想通りですけどねっ!」
『…………』
頬を掻きながら近付いて、しゃがんで声を掛けると、それは申し訳ない事をした、とばかりにあっさりとセイツさんは復活。その姿にビッキィはぽかんとし…それから物凄く、物凄く分かり易い感じで誤魔化しに掛かった。これにはこの場にいた全員が、思わず半眼になってしまった。
数秒後、恥ずかしさから逃げるように、枕も拾わずビッキィは離脱。このまますぐ再開だ!…っていう気分にはなれなかったのか、ルナとディールさんも肩を竦め合った後に離れていって、私はどうしたものかと思考を巡らせ……
「ふぅん、ビッキィと協働してセイツを嵌めるだけじゃなくて、ビッキィの状態を利用して気不味くなりそうな雰囲気も乗り切るなんて、かなりの策士家じゃない。そのやり方は、アノネデス辺りから教わったのかしら?」
「えぇ…確かに嵌めたのはその通りですし、ビッキィを出汁にしたのも事実ですけど、そんな言い方します…?」
「ふふっ、冗談よ冗談。でも実際上手い策略だったとは思ったし、実はかなりノリノリで枕投げしてたり?」
「…まぁ、我ながら結構楽しんでるな、と思っているのは認めます」
いつの間にか近くに来ていたエストさんにちょっと驚きつつ、会話する。訊くまでもなくエストさんは楽しんでいるようで、表情が明るい。
枕をぶつけ合う、戦闘的な要素がありながらも、枕だから基本怪我する事もないし、皆で一人を集中狙いなんて事でもしなければ、ギスギスするような事もない。さっきみたいな悪役ムーブも、枕投げだからこその部分があって……問い掛けには認めます、なんて言い方をしたけど、正直ほんとに結構楽しんでいる。そう思うと、自然に頬が緩んで、それを見たエストさんは「やっぱりね」とこっちも笑って、その後私に勝負を挑むように、エストちゃんの身の丈位ある巨大な枕を両手で構えた。
「…って、なんですそれ!?武器!?何かの武器!?」
「え、抱き枕だけど?」
「あぁ、抱き枕……抱き枕有りなんです!?」
「だって枕じゃない」
「枕ですけど!ですけどもっ!」
「問答無用!」
「ちょっ、待っ…痛ぁ!?」
ぶんっ!と振り抜かれた枕を咄嗟に腕で防御するも、諸に入った衝撃で姿勢が崩れる。何とか反撃を、と思った私だけど、さっき枕を手放してしまった私に反撃の手段はなく、そのまま二撃目を叩き込まれる。
痛かった、フルスイングだから結構痛かった。…よ、容赦ない…反撃出来なかったのは私側に理由があるから仕方ないけど、それにしたって容赦ない……。
「ふふん、どうかしら?あ、流石にこれで乱打とかはしないから安心して頂戴」
「エスちゃん…イリスちゃん、ルナさん、エスちゃんに抱き枕で暴れられると姉妹として皆さんに申し訳なくなるので、わたしに協力してもらえますか?」
「……?よく分からないけど、分かった。イリス、協力する」
「さっきまで勝負してたディールちゃんと共闘…ちょ、ちょっと格好良い展開かも…!」
「え、あれ…なんかわたし、急に悪役っぽくなってる…?」
呆れたような声が聞こえたかと思えば、これまたいつの間にか戻っていたルナにディールさん、それにイリスさんが枕を構えてこっちを…より正確には、エストさんを見ていた。まさかこんな展開になるとは思っていなかったようで、エストさんは呆気に取られ…その隙に私は離脱する。枕の山まで走った、欲張らずに素早く二つ手に取って、戦いに戻る。さて、次はどう立ち回る……
「とりゃりゃりゃりゃー!同じわんわんパジャマを纏う者として、茜には負けないよッ!」
「やるねぇねぷちゃん、でもねぷちゃんこそ…私の見切りを超える事が出来るかなッ!?」
「捉えた…ッ!アイ、貰っ……」
「よっとぉッ!」
「どわぁぁ!?なっ、ら、ラリアット!今ラリアットしたよねぇ!?普通に打撃仕掛けてくるとか何考えてんの!?」
「何言ってるんスかイリゼ、今のは腕枕ッス」
「相手に向けて振り出す腕枕なんてあるかぁいッ!枕って付けば何でも良いと思ったら大間違いだよ!?そして私だったから良かったものの、他の誰かだったら大顰蹙だからね!?避けられてなかったら大惨事だからね!?」
「何言ってるんスかイリゼ。ウチがこんな事するのは、こんな事したいと思えるのは…イリゼだけに、決まってるじゃないッスか!」
「何て嬉しくない特別感…!えぇい、そっちがその気ならこっちにも考えがあるんだからね!」
明らかに枕投げの域を超えた、お互いどう見ても全力を振るっている状態のネプテューヌさんと茜さんに、最早しばき合いに発展しているイリゼさんとアイさん。前者も凄いけど、後者に至っては膝枕と言ってダブルニーキックをしたり、枕がない時は手を枕代わりにするからと言って張り手をしたり、挙句カッチカチの氷枕までどこからか持ち出してと、ある意味やりたい放題だった。…あれには参加したくない…したくなさ過ぎる…。
「床に散らばった枕を低姿勢から、次から次へと投げて反撃を許さないネプテューヌさんと、言葉通り的確に見切って、まだ動きに余裕を見せる茜さん…この二人、シンプルに楽しんでいるように見えて、その実かなりの緊張感ありますね…」
「アイとイリゼの方は…もうほぼ攻撃手段が限られてるだけの戦闘になってるわね…しかもお互い相手以外が巻き込まれたりしないよう立ち回ってるっぽい辺り、凄いけど全然見習いたくはならないわ…」
「はは……。…あ、復活したんですねイヴさん」
何やら解説の様な声が聞こえてきてそちらを見れば、ビッキィとイヴさんも二組の勝負を見ていた。というか全体的に、凄い勝負をしているなぁ…というような雰囲気になっていて……
「…よし。ピーシェ様…ビッキィ、行きます!」
「女神としてこれは見逃せない勝負、ねッ!」
「おわっと!ここに来てきぃちゃんとせーちゃんか…でも相手にとって不足無し、なーんてね!」
「ふー、流石に大きいだけあって振り回すと疲れるわね…ちょっと休憩したら、わたしも少し行ってみようかしら」
(…改めて考えると、血気盛んな面々が結構多いな……)
近付くのは危険な組は言うまでもなく、ネプテューヌさんと茜さんの勝負も下手に近付くのは避けたいところ。ここは様子見し、漁夫の利を狙う方が良いような戦い。そう思っていた私だけど、そうは思わない面々もいて…ビッキィとセイツさんは仕掛けに行っていた。エストさんも、普通にやる気だった。
でも別に、悪いとは思わない。止めた方がいいとは思うけど、どうするかは各々の自由だし、遊びなんだから、ルールとマナーの範囲でやりたいようにやるのが一番。だから私もまた、周囲を見回し…取り敢えず休憩スペースに行く事にした。
「あれ?ピーシェも休憩?」
「そうですよ。あっちのペースが落ちてきたタイミングで狙えば、あの場の全員に優位を取れますからね」
「わぁ、やる気満々…私もここからは、もっと動いてみようかな…」
「わたしは…うん、止めとこ…へろへろになるのは嫌だし…」
「ディールは、静かにしてる?なら、イリスもそうする。共にへろへろ回避」
先を見据えた一時後退。同じく休憩スペースに来ていたルナ達と軽く会話しつつ、離れた位置の激戦を眺める。途中で言葉通り、そこにエストさんも加わって、更に激しい勝負になって…頃合いを見て、私も仕掛けた。相手が相手だから、消耗している筈なのに全員強く…でもまあ、それで良かったと思う。だって、動けない相手に一方的に枕をぶつけるんじゃ、何も枕投げとして楽しくないから。
そうして、枕投げは長く続いた。かなり長く続いて…結局、最終的な勝利者は誰なのかよく分からない状況になってしまった。でも、勝利条件的に考えるなら…割と皆、勝者かもしれない。
『つ、つっかれたぁ……』
布団の上に座り込んだり、或いはごろんと転がったりする私達。楽しかったのは間違いないし、けれどこれでもかと言う程に疲れた。明らかに寝る前の活動としては、過剰過ぎる程の枕投げだった。
そんな枕投げを終えた私達は、枕を片付け、布団を元に戻す。並べて、寝られる状態にして、そして疲労感を感じながら……全員、その日二度目の入浴をするのだった。汗をかき過ぎて、とてもそのまま寝られるような状態ではなかった。…寝る前に、激しい運動はしない。極々当たり前で、誰でも分かっているような事を、揃いも揃ってうっかり忘れていた私達は…苦笑いしながら、着ぐるみパジャマ姿で浴場へと向かうのだった。
今回のパロディ解説
・「〜〜『〜〜にゃーッス』になって、何か違うものを連想……」
ポケモンシリーズに登場するポケモンの一匹、ニャースの事。勿論ニャース自身の語尾はにゃーッスじゃないですが。アニポケのニャース(ロケット団)も「ニャ」ですが。
・「〜〜こんこんきーつね、とか」、「それは狐は狐でも、オタク狐〜〜」
Vtuber白上フブキ及び、彼女の代名詞的な挨拶の一つの事。ゲームにおいてブランのアクセサリーの中には、狐のお面もあったと思いますし、ほんと合うと思うんですよね。
・『〜〜兎だからって、太らせてから食べる気!?』
童話であるきつねのおきゃくさまにおける、あるシーンのパロディ。きつねのおきゃくさまは国語の教科書に載っていたりもしますし、割と知っている人は多いのかな、と思います。
・「〜〜ボディーがお留守みたいねッ!」
KOFシリーズの主人公の一人、草薙京の台詞の一つのパロディ。しかしボディーがお留守と言っても殴ったりはしていません。後々エストは別の枕で殴ってたり、他のキャラも近接戦してたりしますけども。
・「ふぅん、ビッキィと〜〜辺りから教わったのかしら?」
アーマード・コアⅥに登場するキャラの一人、エアの台詞の一つのパロディ。この場合は取引を持ちかけた側が逆になっていますけどね。それにバトルロイヤル方式なので別に悪い事した訳でもないですし。