超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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番外編 一時の出会い

 仮想空間にいるのは、私達現実から入ってきている人間だけじゃない。ピーシェ様達人ではない存在もいるから〜…的な意味じゃなく、現実から来ている訳じゃない存在もいる。

 要は、装置の方が用意した人間やモンスターが沢山いる…って事。ただそれだけの事で、仮想空間の中の人間にしろモンスターにしろ、システムに沿って動いているだけだから、そういう意味じゃ建物とか植物なんかとそんなに変わらない…の、かもしれない。

 現実から入ってきている私達と、実在はしない仮想空間の中だけの存在。その違いははっきりとしていて……けれど、そのどちらでもない存在もいた。いたのかもしれない。…その日わたし達は、そういう存在に、出会った。

 

「イヴさん、依頼されていた素材を全部集めてきました」

「ありがとう、助かったわ。…というか、相変わらず速いわね…」

 

 お店の中に入り、店主に声を掛ける。採ってきてほしい、と言われていた木材や鉱物を渡して、約束の報酬を受け取る。流れとしては至って普通の、ゲーム的に言えば採取クエスト又はお使いクエスト。ただ一つ違う点があるとすれば、依頼主がイヴさん…わたしや他の皆と同じ、プレイヤー側の人間だって事。

 

「えぇ、走りましたから。にしても直接身体を操作してみると、素材…というかアイテムを『データ』として運べるのは凄く便利ですね。現実と同じように運ぶってなると、大変なんてレベルじゃないですし」

「走ったとしても速いわよ…けどまぁ、そうね。ところで今は、ピーシェとは一緒じゃないの?」

「はい。流石にわたしも、常に一緒にいる訳じゃないですからね?(まあ、結構な割合で一緒にはいますけど…)」

 

 従者として、出来るだけピーシェ様と行動を共にするべし。…そう思っていたけど、実はちょっと前に「いや、流石に仮想空間の中まではいいからね…?」と苦笑気味に言われてしまった。考えてみたら、それもそうだった。だってここは仮想空間…言ってみれば、ゲーム内のキャラを同じくゲーム内のキャラで護衛しているようなものだから。

 という訳で、今わたしは単独行動中。取り敢えず噂になっていたイヴさんのお店に行って、依頼を受けて…で、次はどうしよう。

 

(何か、スニーキングのクエストとかあったりしないかな…又は、高速清掃のクエストとか……)

「へぇ、ここが…」

「あぁ、いらっしゃい」

 

 商品を眺めながらこの後の事を考えていると、店の扉が開いて、二人組の人が…ワイトさんとカイトさんが入ってきた。

 

「今日は買い物?それとも何か作成の依頼?」

「いや、君が開いたというお店を見てみたくてね。カイトくんに案内をしてもらったんだ」

「カイトに?…言ってくれれば、こっちから案内したのに…」

「さっき話してる時に、また噂が聞こえてさ。その流れで案内する事になったんだよ」

「え…噂って、まさか……」

「今度は『ちょっぴり大人可愛い店主の道具屋』になってたな」

「そ、そう…良かった、今度はまだ比較的マシな噂に……って、比較的マシって何よ…そういう問題じゃないでしょ私…」

 

 店主として問うイヴさんの言葉にワイトさんは答え、店内をぐるりと見回す。彼が店内を見ている間、イヴさんとカイトさんは会話をしていて…その会話の後、イヴさんはがっくりと肩を落としていた。…そういえばわたしも、ここの噂は聞いた気がする…ご愁傷様です、イヴさん…。

 

「…ふむ…中々独創的な物も多いけど、この辺りは実用性の高そうな物が揃っているね」

「あ、それわたしも思いました。逆にあっちの棚には、使う分には面白そうだけど…って物が多いんですよね」

「…まあ、ね。折角だから色々試してみたいのよ。実用的なものも、興味本位のものも、色々と…ね」

「ああ、それは分かるな。現実じゃ出来ない事を試すのもいいが、現実より自由な空間だって事を活かして、現実の予行練習をするのも……って、イリゼ?」

 

 分かる、と言って窓際のテーブルにあった商品の一つを手に取るカイトさん。それは武器じゃなくて何かの機械みたいで、何だろうとわたしも近付…いたところで、カイトさんはこの場にいない人物の名前を口にした。

 それからすぐに、わたしも気付く。窓から見える、外の道路。そこをイリゼさんが、通り過ぎていく事に。

 

「イリゼさん、ですね。イリゼさんもここに…って、訳じゃないみたいですけど……」

「…あれ、でも…確かイリゼ、今日仮想空間に入る前に、セイツと街の外に出て討伐と探索を…って感じの話をしていたような……」

 

 どこに行くんだろうなぁ…位に考えていたわたしだけど、イヴさんの呟きで途端に気になり始める。イヴさんが言った通りなら、街の中にはいない筈のイリゼさんがいる。早めに切り上げたとか、街の外で活動する為の準備中とか、あり得そうな理由は幾つかあるけど…それ含めて、ちょっと気になる。

 

「…あ、転んだ」

「こ、転んだね。仮想空間とはいえ転んだのを見過ごす訳にもいかないし、大丈夫か訊きに……」

「…え、あれ!?イリゼさん、泣き出してません!?」

『えぇ!?』

 

 わたし達が窓越しに見る中、突然イリゼさんは転倒。すてーんと転倒。それも驚きではあったけど、うつ伏せに倒れた状態から起き上がった数秒後、へたり込んだ体勢のままイリゼさんが泣き出した事で、わたしはぎょっとした。皆もわたしの言葉に仰天して、よく見て、泣いていると分かって、重ねてびっくりしていた。

 まさかの転倒して泣くという予想外の事態を前に、わたし達は慌てて店を出る。声を掛けるべく、わんわん泣いているイリゼさんの方へ走っていく。

 

「だ、大丈夫ですかイリゼ様!どこか怪我でも!?」

「顔面から転んだら痛いよな…イリゼ、立てるか?」

 

 駆け寄り、わたし達はそれぞれに呼び掛ける。特にワイトさんとカイトさんはイリゼさんの正面に回って、膝を折って問い掛ける。そしてわたし達から呼び掛けられたイリゼさんは、ぴたっと泣き声が止まり、わたし達を見上げ……

 

「──ふぇッ!?ふぇぇええええぇッ!?…あうぅッ!」

『はいぃ!?』

 

 驚いた。滅茶苦茶驚いた。いきなり目の前を何かが駆け抜けたのか、って位に驚いて、驚きのあまりひっくり返って……後頭部を、強打していた。顔に続いて、後頭部も路面に思い切りぶつけていた。…え、何この状況……。

 

「…ぅ、う…うぇぇぇぇっ!うぇええええぇぇ!」

「(し、しかも更に泣き出した…!?)…あ、あー…イヴさん、取り敢えずイリゼさんを、お店の中に連れて行ってもいいですか…?」

「そ、そうね…このまま外で号泣するイリゼなんて、見ていられないものね……」

 

 ぼろぼろ涙を流して泣くイリゼさんに改めて声を掛けて、何とか立ってもらって、わたしとイヴさんで手を引いてお店の中へ。

 いきなり転倒して、泣いて、声を掛けたらひっくり返って、更に泣いたイリゼさん……うん、訳が分からない。全く、全然、分からない。

 

「うぅぅ、ぅ…ご、ごめっ…ごめんなさい…ごめ、ご迷惑…を…おかけ、して……」

「い、いえ。この程度、お気になさらず…」

「これ位しかないけど、良かったら飲んで」

「あ、ありが、とう…ござい、ます…。……はふぅ…」

((あ、普通に表情が綻んだ…))

 

 椅子に座り、漸く少し落ち着いた様子のイリゼさん。声を掛けるワイトさんは、まるで泣く子を慰める親の様だった…というのはさておき、イヴさんから乳酸菌飲料っぽい物を受け取ったイリゼさんは、それを両手で持って一気に飲み……ほっこりとした顔になった。

 

「えぇと、それで…イリゼさんは、どうしてここに?」

「…ぁ、えと…み、皆さんに…案内、してもらって……」

「うん?…あ、違います違います。このお店にじゃなくて、この場にというか、街の外に行く予定だったんじゃ?という意味で……」

「……?」

 

 怪我はなさそうだという事で、乳酸菌飲料の残りを飲んでいたイリゼさんに訊くと、イリゼさんはきょとんとした後、外からここに…と指でジェスチャー。ただ勿論、わたしが訊いたのはそういう事じゃない訳で…というか、この勘違いは斜め上過ぎる…イリゼさんって、こんな天然だっけ…?

 

「…違うの?私には、そういう会話をしてるように聞こえたんだけど……」

「な、なんの…事、です……?」

「この反応…やっぱり、イヴの訊き違いか?」

「…いや、それ以前に……皆、少しいいかな」

 

 どうも違うらしい。カイトさんと同じような思考を、会話を聞きながら私は思っていて…けどそこで、二人と共にワイトさんに呼ばれる。呼ばれ、イリゼさんから少し離れる。

 

「ワイト、何か気付いたの?」

「気付いたというか…三人共。単刀直入に訊くけど、君達には彼女がイリゼ様に見えるかい?」

 

 真剣な面持ちでの、ワイトさんからの問い。その問いに、わたし達は顔を見合わせ…言う。

 

「そりゃ、どこからどう見てもイリゼ…と、言いたいところですが……」

「…雰囲気、違い過ぎますよね…顔面打って泣いてたとか、それを見られたとか、そういうのを差し引いてもイリゼさんらしくないっていうか……」

「うん、同感だよ。今のがイリゼ様の素で、私達が知っているのは表向きの性格だった…というのも考えたけど、流石にそれはないだろう。何せ、落ち着いたらしい今もあの様子だから、ね」

 

 ちらりと目をやるワイトさんにつられてわたしも見ると、イリゼさん…に見える女性は、物珍しそうに商品を見ていた。ぺたぺた触ったり持ったりしては目を輝かせるイリゼさんは…やっぱり、イリゼさんらしくない。

 

「となるとこれは、どういう事か。私は情報工学に明るい訳じゃないから、予想でしかないが…思い付く可能性は、二つ。彼女はイリゼ様に成り済ました偽者か、イリゼ様のデータを用いた仮想空間の住人か、だ」

「データを用いた仮想空間の住人、っていうと…俺達以外でこの仮想空間の中にいる、所謂NPCみたいな存在…って事です?」

「それはあり得るわね。けどそうなると、こっちに来てるイリゼ本人と、NPCとしてのイリゼが同時にいる状態になるわよ?そんな設定ミス、ネプギアがするかしら…」

「確かにそれはそうだね。けど成り済ましというのも、それこそイリゼ様自身が気付く筈では、という点から考え辛い。だからやはり前者では、と思うんだけど……」

『だけど?』

「…よく考えたら、現実にいるネプギア様に確認を取るのが一番手っ取り早い手段だったね…」

 

 そう言って、ワイトさんは自嘲気味に苦笑い。あー…とわたしも苦笑い。どちらにせよ、「イリゼさんじゃないっぽいイリゼさんがいる」というのは自然な状況じゃない訳だから、報告するのが正解なんだろう。そんな風に思いながら、わたしは苦笑した後頷いて……

 

「…あ、あ、あのっ…なんの、お話…を、しているん…ですか…?」

 

 連絡を取ろうとした直前、気付けば側に来ていたイリゼさん?…に呼び掛けられた。はっとしてわたし達がそっちを向けば、小動物感溢れる雰囲気のイリゼさんは、曇りのない目でわたし達を見ていた。

 

「あ、えぇと…す、好きな食べ物の話です…!」

「いやビッキィ、それは流石に誤魔化しが雑過ぎる──」

「食べ物の、話…わ、私は、甘いもの…が、好きです…!甘いものを、食べると…ふわふわ〜って、ふにゃふにゃ〜って気持ちになって…えへへ、ってなれ、ます…!」

((誤魔化せた!?))

 

 あ、不味い!正直に言う訳にはいかない、誤魔化さないと!…そう思ってとっさに口にしたのは、イヴさんに言われるまでもなく無理のある誤魔化し。けど…なんと、誤魔化せた。誤魔化せてしまった。イリゼさんは、全体的に幼い感じで好きな食べ物の話をして…これで良いですよねっ、とばかりの表情を浮かべる。…まさか、上手く誤魔化せたのに動揺する羽目になる日が来るなんて……。

 

「えー…と、すみません。少し私は外で飲み物を買ってきますね、イリゼ様」

「ほぇ…?あ、は、はいっ!い、行ってらっしゃい、です…!……ぁ…」

「イリゼ様?」

「…お名前、聞いて、いませんでした…な、なんて名前、です、か…?」

 

 ぺこんっ、と深く頭を下げたイリゼさんは、何かに気付いた顔になり、それからワイトさんに訊く。ワイトさんが一瞬困惑した後答えると、イリゼさんの視線はこっちに向き…わたし達も、それぞれ答える。

 

「…名前を訊くなんて、成り済ましにしてはあまりにもお粗末よね…となるとやっぱり……」

「それ含めて、確認してもらうしかないな。…さて…なぁイリゼ、イリゼはどこに行こうとしてたんだ?」

「わ、私…ですか…?…私は…ど、どこに行こう、と…してたん、でしょう…?」

「そりゃ…俺に訊かれても分からないな…」

 

 アイコンタクトでワイトさんの意図を理解したわたし達は、意識をこっちに向けさせるべく、会話を続行。…しようとしたけど、一つ目の質問から妙な答えが返ってきた。

 

「で、です…よね…。…うぅ…す、すみません…私の事、なのに…カイトさんに、訊いてしまって…しかも、それで困らせて…う、うぅ…ふぇ……」

「い、イリゼさん…!?それより…というか行き先が分からないって事は、多分そこまで重要な用事がある訳じゃないんですよね?じゃあもう少し話をしましょう、質問があればお答えしますよっ!」

「ぐすっ…へ、ほ、本当ですか…?い、いいん、ですか…?」

 

 自責からの再び泣きかけるというびっくりムーブをかましてくるイリゼさん。ついまたわたしは勢いで乗り切ろうとし…今度もまた成功した。しかも今度はイリゼさん、今日は全員おかわり有りでカレーを食べて良いと言われた時ばりにぱぁっと表情を輝かせていた。…よく分からないけど、今のはイリゼさん的に嬉しい言葉だったらしい。

 

「い、イヴさんも、カイトさんも、いい、です、か?」

「うん?俺は構わないぞ」

「私も、非常識じゃない質問ならね」

「ひ、非常識じゃなけれ、ば…なんでも、訊いて、いいんですか…!?す、好きな食べ物、とか、得意な事、とか、最近あった事とか、いいですか…!?」

「それ位なら、まぁ…というか、かなり他愛無い質問な気が……」

「某ハードボイルド漫画がいつ最終話を迎えるかも、き、訊いて、いい…ですか…!?」

「それは訊かれても答えられないわ……」

 

 食い気味に確認を重ねるイリゼさんに、わたしとカイトさんは顔を見合わせ苦笑。まあそれはともかく、イリゼさんは訊きたい事が沢山あるらしい。だからわたし達は、質問に一つ一つ答えていく。答えるとイリゼさんは、答え一つ一つに表情を変え、目を輝かせて反応をした。食べ物にしろなんにしろ、内容は聞いていて面白いようなものじゃない筈なのに、イリゼさんは凄く嬉しそうに聞いていた。

 

「それに最近…って程最近じゃないですが、仕事をがらっと変えたんです。内容は変えても、目指すものは同じなんですけどね」

「て、転職…ですか…!?…ぁ…そ、それで良い職に就いたんです、ね…!転職で、天職…ですね…!」

「えっ?…あ、はい…転職というか、配属替えですか…まぁ、そんなものです…はは……」

 

 不意打ちの駄洒落、しかもわたし達がぽかんとする一方で、イリゼさん自身は決まった…とばかりにご満悦そうな顔をするという、なんか色々カオスな状況。ここまでくると、もう本当に分かる。確信出来る。この人は、わたしの知るイリゼさんでは、絶対にない。

 

「凄いですっ、み、皆さん凄い、ですっ。え、えとえと、じゃあ次、は……あ…!わ、ワイト、さん、お帰りなさい…です…!」

「はい、ただ今戻りました。皆、ペットボトルのお茶だけどいいかな?」

 

 次の質問をイリゼさんがしようとしたところで戻ってきたワイトさん。疑われない為か、ワイトさんは言った通り飲み物を買っていて…わたし達の分も買ってきてくれていた。

 

「ワイトさん、どういう事か分かりました?」

「待った、カイトくん。気持ちは分かるけど、出来ればイリゼ様の気が逸れてから……」

「あうぅ、ちょっと苦い、です…で、でも…これが、大人の味、です…よね……!」

「…逸れてますね、気」

「あはは…みたいだね…」

 

 一人で喋りながらちびちびとお茶を飲むイリゼさんを見て、男性二人は苦笑い。それからワイトさんはこほん、と一つ咳払いをして、声量を抑え気味にしながら言う。

 

「結論から言うと、よく分からないらしい」

「よく分からない?このイリゼさんの正体が、ですか?」

「いや、それ以前に異常らしき異常は見当たらないらしいんだ。勿論簡易的な確認をした限りでは、であって、より細かい確認はこれからしてくれるとの事なんだけどね」

「明らかにおかしいのに、簡易的とはいえ見当たらないなんて…かなり気になるわね…」

「ああ。それと、何かあった時にすぐ連絡が取れるよう、出来ればこのイリゼ様と行動を共にしてほしいとの事だった。という訳で、私はそうしようと思うけど……」

 

 分からない?見当たらない?どう見ても変なのに?…わたしもイヴさんと同意見でそう思っていたけど、わたしよりずっと詳しいんだろうネプギアさんがそう言うのなら仕方ない。

 そしてそこから、ワイトさんは「君達はどうする?」という視線を向けてくる。それを受けたわたしは、二人と顔を見合わせ…頷く。

 

「勿論、わたしも付き合いますよ。丁度何も予定がなかったところですから」

「俺もです。もし問題が起きたら、すぐに対応出来る人手は多い方がいい筈ですし」

「そうね、私も付き合うわ。これがどういう事なのか気になるもの」

「助かるよ、三人共。…そういえば、このイリゼ様は元々どこに行こうとしていたんだろうか……」

『あー、それは……』

 

 行き先は何故か本人も分かっていなかった、という事を伝えるわたし達。その後、律儀にこの場でお茶を全部飲んだイリゼさんから、ワイトさんも色々と質問を受けて、やっぱり他愛無い答えでもころころと表情を変えて聞く。わたし達の知るイリゼさんもそうだけど、このイリゼさんはそれ以上に表情豊かで…なんというか、見ていて飽きない。

 

(そういうところ含めて、ほんと幼い感じだな…実は中身だけ幼児退行したイリゼさんとか…?…あ、いや…女神だから、幼児も何もないのかな…)

「…人、同士で争うのは…凄く、凄く、悲しい事…です…。人は、皆尊くて…誰もが、素晴らしくて…何よりも崇高な、のに…あ、争い合うのは…辛い、です……」

「…はい。ですが、あまりイリゼ様が気に病まないで下さい。…訊かれたから答えたとはいえ、言った私がそれを言うのもどうかと思いますが……」

「い、いえっ。…それに、争い合うのは悲しい、ですが…それが人の望み、なら…それは良いもの、です。人が決めた事なら、私は応援、します。応援して、し、しっかり誰も怪我しないように、します…っ!」

『…………』

 

 幼いなぁ…なんてわたしが思っていた中で、質問と回答という形でワイトさんとやり取りをしていた中で、イリゼさんが言った言葉。

 争いは悲しいけど、良いものだし応援する。誰も怪我しないようにする。何の迷いも躊躇いも感じさせない、内容に反して全くの無垢を思わせる表情で言ったその言葉に、わたし達は呆気に取られ…オリゼさんは、きょとんとしていた。

 

「…ど、どうか…しました…?……あ、も、もしかして、私が質問ばっかりで、嫌な気分にしてしまい、ましたか…!?ご、ごめっ、ごめんなさい…!そ、そうですよね、質問ばっかりするなんて、そんな……」

「あぁいや、そういう訳じゃなくてだな……。…まだ何か、質問あるか?それとも何か、やりたい事でもあるか?俺達で良ければ、もう少し付き合うぜ?」

「や、やりたい事……あっ…み、皆さん、と…お散歩、したい、です…!」

 

 勘違いからまたまたイリゼさんは泣きそうになり、カイトさんが少し考えるような顔をした後話を逸らす。するとイリゼさんは散歩をしたいと言い、わたし達は店を出る。さっきの発言については…顔を見合わせ、触れない事にした。思うところはあるけど、別に今それについて言い返す必要は…ないと、思う。

 

「散歩、ね…どこか行きたい所があるの?それとも、適当に散策したいの?」

「し、しっかり散策、したいです…!」

「そ、そう。…適当に、っていうのは別に、雑にやろうって意味で言ったんじゃないんだけどね…」

「はは、さっきから思ってたが、この…ごほん。イリゼは面白いな」

「……?お、面白い…です、か…?…え、えへへ…カイト、さんが…楽しめて、いるなら…う、嬉しい、です…っ」

 

 どういう存在か分からない以上、こっちも「自分たちの知るイリゼさんとは違う何か」だと認識してる事は隠した方がいい。その考えの下、カイトさんは多少言い直し、それを聞いたイリゼさんは喜び笑う。

 行き先は決めてないようだから、取り敢えず表の路地を歩く。イリゼさんは観光客の様に、あっちこっちを見回し…歩き始めてから数十秒程したところで、くるりと振り向く。

 

「…あ、そ、そういえば…さっきの、道具屋さん…は、凄かった…です。い、一杯色んな、ものがあって…楽しい、ところ、でした」

「…ですって。良かったですね、イヴさん」

「うぇ…?…も、もしかして…イヴさん、が…あのお店の、店主さん…なん、ですか…?」

「まあね。気に入ってくれたのなら嬉しい──」

「す、すす、凄いですっ!あんなに良いお店を、作れるなんて、才能に溢れてます…!い、いえ、才能があって、しかも努力も、しっかりしたんです、よね…!凄いです、立派です、そんなイヴさんと出会えて光栄、です…っ!」

「…えぇ、っと…こちらこそ、貴女にそこまで言ってもらえて光栄よ…」

 

 何気ないやり取り…からの、イリゼさんによる怒涛の褒め連打。確かに凄い事は間違いないけど、にしたって褒め具合が凄まじい。何なら才能とか努力とか、予想で滅茶苦茶褒めている。褒められているんだから、悪い気はしないんだろうけど…これにはイヴさん、若干タジタジだった。

 

「み、皆さんも、す、凄いです…!ビッキィさんは、務めに懸ける思いがご立派、ですし、カイトさんは知らない次元に一人で来てしまった、のに、前向きに進んでいるのが立派です、し、ワイトさんは指揮官さん…教え、導き、責任を背負える立場にいる事を、何の気負いなく言えていたのが、ご立派です…!」

「…む、むず痒い……」

『同感だ(よ)、ビッキィ(さん)…』

 

 ベタ褒めのイリゼさんと、若干押されているイヴさんという、見ている分には面白いやり取り…と思っていたのも束の間、なんとこっちまでイリゼさんの褒めが飛んできて、むずむずしてくる。嫌ではない、嫌ではないけど…むずむずする…!後、語彙が少ないですねイリゼさん…!

 

「そ、それにそれにっ、皆さんは……」

「い、いいです!イリゼさんの気持ちは伝わりましたから、散策しましょう散策!時は金なり障子にブロリーです!」

「ビッキィさん、後半が丸っと要らない上に、その後半の状況が凄まじ過ぎるよ……」

「うっ…とにかく散策しましょう…?」

「…ビッキィ、褒められ慣れてないんだな」

「むぐぐ……」

 

 今日は運勢の悪い日なのか、どうにも慌ててばかりのわたし。挙句カイトさんに見抜かれ、それはもう恥ずかしい。恥ずかしいったら恥ずかしい。そんな思いで、恥ずかしさを振り切るように、わたしは先行するように早足で歩き……

 

「ぴぁう!?」

「わっ、ごめんねぜーちゃ……ぜーちゃん!?」

 

 唐突に聞こえた、驚愕混じりの悲鳴。反射的に振り返れば、イリゼさんはわたしが通り過ぎた直後の十字路にいて、そこには十字路から出てきたっぽい茜さんもいて…またもや、イリゼさんは泣きそうになっていた。

 

 

 

 

 街中で偶然知り合いとばったり会うと、凄いびっくりするよね。確率は…んーと、街の広さとか人口とか、条件によってかなり変わると思うから、どうなのかは分からないけど…とにかく凄い事だよね。凄い事だけど、多分誰でもそこそこの回数は経験する、意外となくはない事でもあるよね。

 で、その経験を、この仮想空間では割としてる。それは多分、広くても多くは行く必要のない場所で、実質的な行動範囲は私も皆もかなり限定的だから…だと思うけど、今日もそれがあった。しかも今日は、二回あった。一度目は、いぶ君とあい君で…二度目は、ぜーちゃん達。

 

「ごめんねー、ぜーちゃん。きぃちゃんが見えたから声を掛けようと思ったんだけど、まさか私が角を出るタイミングと重なっちゃうなんて……」

「だ、大丈夫…です。む、むしろ私が不注意、でした…!すみません、すみません茜さん…!」

 

 凄い勢いでぺこぺこ謝ってくるぜーちゃん…っぽいけど実はそうでもないらしい、でもやっぱり見た目はぜーちゃんと変わらない女の子に、いやいやいや、と私は手を振る。お互いびっくりしただけで怪我とかはしなかったんだから、ここまで謝る事はないのに……。

 

「そ、それと、これありがとうござい、ました…!甘くて、サクサクしてて、美味しかった…です…!も、もしかしてこれは、影さんが作っ……」

「いや、普通に市販品だ」

「市販品…数ある食べ物の中から、これを選び出せる…なんて、す、凄いです…!」

「褒め方が斜め上過ぎる……」

 

 続けてぜーちゃんっぽい子はびっくりして泣きそうだったところでえー君から貰ったメイトのチョコ味のお礼を言って、そのセンスを褒める。私でも流石にやらないような方向性の評価には、えー君も反応に困っていて…ゆりちゃん達四人は、揃って苦笑。あー、四人はもうこれ経験済みなんだ…。

 

「でもほんと、イリゼと全然違うね。メイトを見ても変な反応してなかったし…」

「ポケモンだったら、メタモンにミュウ、ゾロアにゾロアーク、後はラティアス辺りを疑うが……」

「けど目が黒丸だったり無口だったりはしないし、ここは水の都でもないしね…そういうので判別出来ないのもいるけども」

「てかそもそも、ここに俺達が連れてきた以外のポケモンがいるか、って話だな」

 

 ぜーちゃんには聞こえないようにして、トレーナー二人が会話を交わす。因みにぜーちゃん達はお散歩中って事だから、私達は今それに同行している。

 

「ところで、四人は何をしてたんだ?というか、茜と影、グレイブと愛月はいつもの組み合わせだけど、その二組で…っていうのは珍しいな」

「二人とは偶々会ったんだー。で、私達は…デート、かな」

「で、デートだったんですか!?」

「違う、とまでは言わないが、俺達は街を見歩いていただけだ。少なくとも、浮ついたようなものじゃない」

「俺等は定番の、『新しい街に来たら取り敢えず住民全員に話し掛ける』を試してたところなんだが…割と早い段階で飽きたな」

「あぁ、確かにそれは定番……って、定番は定番でも、そりゃゲームの定番だろ…。…ほんとにやってたのか…?」

「すぐ飽きてくれたとはいえ、ほんとにやったんだよグレイブ…入れる建物にも片っ端から入っていくし、相変わらず無茶苦茶過ぎる……」

 

 苦労人の顔をするあい君に、私達は苦笑い。で、それを聞いていたぜーちゃんは、それにも凄い、と言っていた。行動力の事なのか、大胆さの事なのか、それとも付いていったあい君な事なのか、って訊いたら…全部だった。

 

「〜〜♪」

「…ご機嫌ですね、イリゼ様。散策は、好きなのですか?」

「ふぇ…?え、えと、違います、よ…?」

「うん?では何か、良いものでも見つけましたか?」

「それは…は、はいっ」

 

 さっき私とぶつかりかけた事はもう気にしていない様子で、今はぜーちゃんが先頭を歩く。楽しそうな理由を訊かれると、こくんっ、と勢い良く頷いて…それから、立ち止まって私達の方をじっと見てくる。今ここにいる、私達八人全員の事を。

 

「…もしかして、わたし達に出会えた事が嬉しいとか、そういう…?」

「そ、そういう、ですっ!」

「わぁ、物凄く屈託のない笑顔…」

「…眩しいな、普段感じてるのとは別の意味で……」

「いや、眩しいというか…まぁ、うん…そうかもね…」

 

 まさか…と訊くきぃちゃんの言葉に、それはもう嬉しそうに、嬉々とした感情100%でぜーちゃんは笑う。あい君の言う通り、物凄く屈託のない笑顔で答える。…うん、分かる…分かるよえー君、ゆりちゃん。なんかこう、このぜーちゃんは私達の知ってるぜーちゃんとは、違う意味で眩しさが凄いよね。今なんて、後ろから光が出てそうな感じ、あるもんね。

 

「…凄い、嬉しい、か…」

「…カイト君、どしたの?」

「いや、評価される内容はともかく、こんなにも軽く…なんて事ないように、人を褒めたり相手と出会えた事の喜びを口に出来たりするのも、凄い事なんじゃないか…って思ってさ。そりゃ、口にするだけなら難しくはないが…どう見てもイリゼ、全部本心から言ってるだろ?」

「あー、確かに。嘘吐いてる感じはない…ってか、嘘なんて吐けそうにないしな。…全部演技だったら、それはそれで凄いけど」

「…それに、そういうとこはイリゼ…俺達の知ってるイリゼとも、変わらない気がするよ。普通の時の性格とか、評価の基準とかは全然違うイリゼだが、案外根っこの部分はどっちも同じ…だったりしてな」

 

 そんなぜーちゃんに感じたものがあるみたいで、カイト君は眺めるようにしてぜーちゃんを見ながら言う。形だけなら誰でも出来る、でも全部本心で言うのは意外と難しい…気持ちの部分だから意識しても中々出来ない事を、何でもないように出来るのは凄いんじゃないか、って。でもって、そういう部分は『ぜーちゃん』っぽいって。

 ぽつり、と横から聞こえたのは、「そう思える、それをさらっと言えるのも、大したものだと思うけど、な」…っていう、えー君らしい言葉。それに私は、だねぇ…と一言返して…気付いた。重ねて言った部分は聞かれないよう声を抑えていたけど、そこより前は別に聞かれても問題ないからか、普通に喋っていた事に。がっつり聞こえていたぜーちゃんが、それはもう恥ずかしそうにしていた事に。

 

「あ、あぅあぅあぅあぅ…わ、わた、私褒められ、たんですか…!?そ、そそ、そんな事で褒められちゃって、いいん、です、か…!?」

「お、落ち着いて下さいイリゼさん。これまで以上に言葉がたどたどしくなってますよ…?」

「自分は凄い低いハードルで褒めるのに、自分が褒められたら『そんな事で』って言うんだな…自分に厳しく他人に甘く、ってやつか?」

「そう言うと立派だけど…彼女の場合、何か違う気もするね。何がどう、とまではまだ何とも言えないけども」

 

 ただ恥ずかしがってるんじゃなくて、嬉し恥ずかし状態のぜーちゃん。散歩…ではあるんだけど、さっきからどっちかっていうとお喋りがメインで…だけど、皆楽しんでるしいいよね。

 と、思っていたら、急にぜーちゃんが足を止める。何かな、と思ってぜーちゃんを観察すると、ぜーちゃんはゲームセンターの店頭にあるバスケゲームの筐体を見ていた。

 

「ぜーちゃんぜーちゃん、あれやりたいの?」

「あ…は、はい。で、でも、皆さんを待たせて、しまうのはいけない…ので、あれはまた今度、一人…一人……」

『……?』

「…い、今は皆さんがいて、楽しい…のに、今度来る時は一人、って思うと…う、ぅ…ぐじゅっ……」

「ええぇ!?あ、えと…ぼ、僕もやりたいな!皆はどう!?」

 

 遠慮…どころかいきなり悲しい思考を始めて涙声になる、突然過ぎて多分えー君すら全く予想出来なかっただろう、ぜーちゃんのテンション急降下。それに慌ててあい君が声を上げて、私達もすぐに賛成。するとぜーちゃんは「いいんですか…?」と言うように私達を見つめて、それから分かり易く喜んで…す、凄まじいね、ぜーちゃんのテンションの変わり具合……。

 

「じゃ、まずは手本代わりに俺が……」

「と、言いつつ実は自分もやりたかっただけだったり?」

「あ、バレた?まぁな」

「ごめんね?イリゼがやりたいって言ってたのに、グレイブが先にやろうとして……」

「い、いえっ!み、皆さんが、やりたい…のなら、皆さんがやるべき、です…!私は、眺めてる…だけ、でも…いいので…!」

「それじゃ本末転倒だろうに…グレイブ、結果がどうあれ二度目をやりたいならイリゼより後にするんだな。流石にそれは分かってると思うが…」

 

 バレる?バレるかー、みたいな調子できぃちゃんに返しつつ、早速いぶ君がボールを持つ。バスケゲームっていっても、ちゃんとした勝負じゃなくて、単にボールを投げるだけ…要はバスケ仕様の球入れで、スタート同時にカウントが始まる。

 それを見てすぐに、いぶ君は一球目をスロー。緩いほーぶつ線を描いて飛んだボールはリングの縁に当たって軽く跳ねてから、すぽんとゴールのリングに入る。

 

「よっし、ばんばん入れてやるぜ!」

「んー、普通に上手いねぇ」

「だな。…見てると俺もやりたくなって……」

「じゃ、じゃあ次はカイトさん、です、ね…!」

 

 時々外れるけど、いぶ君は次々ボールを投げていって、得点を重ねていく。その最中、ぽつりと呟いたカイト君の言葉に速攻でぜーちゃんが反応して、私達はまた苦笑い。

 そうしていぶ君がやり終えた後は、思いっ切り譲られたカイト君がプレイ。その後もぜーちゃんはやりたい人はいないか訊いて、あい君ときぃちゃんもやる事になって…ぜーちゃんの番は、結局最後。だけどぜーちゃんは一人一人のプレイをやっぱりべた褒めしながら見ていて、待ちくたびれた感じはなかった。

 

「今のところ、一位はカイトくん、二位と三位は僅差だけどグレイブくんとビッキィさん…だね。愛月君も順位こそ四位だけど、後半の伸びは凄かったと思うよ。…では、イリゼ様どうぞ」

「よ、よーし…頑張り、ます…ね…!」

 

 両手でボールを持って、ぜーちゃんは意気込む。新しいゲームを買った直後の子供みたいなわくわく感が、ぜーちゃんの顔には浮かんでいて…ゲームが始まると同時に、ぜーちゃんはスロー。ぜーちゃんの一球目はちょっと強めで、後ろのボードに当たって…大きく跳ね返る。

 

「あ…コースは良かったけど、勢いが付き過ぎだったわね」

「あぅ…で、でも、今ので必要な力…は、分かりました…!」

 

 もしかして、外れた事でしょぼんとしちゃうかも…?…と思った私だったけど、ぜーちゃんのやる気は消えていない。むしろやる気は増していて…二球目は、ばっちりゴール。三球目も、しっかりゴール。言葉通り、どれ位力を入れたらいいのか一球で把握したみたいで、ペースは早くないけどかなりの精度でボールがゴールのリングに入っていく。そして、残り一秒となったところで、またぜーちゃんはボールを投げて…終了のブザーがなると同時に、最後の一球がネットを揺らす。

 

「お、ブザービーターとはやるな、イリゼ。俺も最後狙ってみたけど、ちょっと遅くて点数にならなかったんだよな…」

「え、えへへ…ぁ…も、もしかして、最後のポイントなので、一億ポイント位に、なっていたりは……」

「いやしないでしょ、バラエティのクイズじゃないんだから…」

 

 カイト君から褒められて嬉しそうにしたぜーちゃんは、変な期待をして、ゆりちゃんに突っ込まれる。でも、その最後の一球はしっかりゴールとしてカウントされていて…結果は二位。そのスコアにぜーちゃんはぱぁっと表情を輝かせ…けど次の瞬間はっとした顔になったと思えば、すぐにきぃちゃん達の方を向く。

 

「あ、あ、あのっ。今回は、偶々、運良く私の方が、ちょっとだけ良いスコア…でした、けど…グレイブさん、は型を意識せずにやっていた…と思いますし、愛月さん、もワイトさんの言う通り、後半の伸びが凄かった…ので、つ、次やればもっと良い結果になる、と、思います。それに、ビッキィさん…は、途中からポイントより、色んな投げ方を試す事を重視して…いたんです、よね…?み、皆さんまだまだ伸び代がある、と思うので…きっとこれからはもっともっと、上手くいき…ます…!」

(ぜーちゃん…)

 

 大丈夫、上手くいく。そう言って、三人を励ますぜーちゃん。これまでのぜーちゃんの言動を思えば、それは納得の励ましで…だけど別に、三人は悔しがる感じはあっても、落ち込んでる感じはちっともない。それなのに、自分から励ますのは…なんていうか、それがぜーちゃんなのかなぁ…なんて、そんな風に、私は感じた。

 

「…で、この後はどうするんだ?もう一度やりたいというなら、それでも良いが…或いは中に入るか?」

「わ、私は満足した、ので、大丈夫…です…!」

「…あ、ならちょっといいか?このクエスト、全員でやって山分けすれば、結構稼ぎになるんじゃねーかな、って思うんだが…」

 

 次はどうする?というえー君の問いにぜーちゃんが答えたところで、いぶ君があるクエストを見せてくれる。それは討伐クエスト…じゃなくて、けーしき的にはシミュレーターでのテストみたいなもの(この空間自体がシミュレーターみたいなものだけど)で、一定時間内に倒したモンスター分の報酬を得られる…って感じみたい。確かにここには八人、ぜーちゃん入れれば九人いる訳で、かなりの数を倒せるのは間違いない。

 

「へぇ、面白そうだな。俺は構わないぞ」

「うん、私も良いよ。ぜーちゃんはどう?」

「…や、やり、ますっ。私、やります…!」

 

 そういえば、ぜーちゃんは私達と違って稼ぐ必要ないんじゃ?…と思って訊いてみると、ぜーちゃんはバスケゲームと同じか、それ以上にやる気な様子。他の皆もやってみようか、って感じになって、私達はそのクエストを行える施設へ。そこに入って、準備を整えて、バトルフィールドに。

 

「仮想空間の中の仮想空間…どこぞの殺意の世界みたいだな」

「とにかく時間一杯まで撃破を続ければいいんだよな?だったら炎での範囲攻撃を重視して……」

「……いえ。皆さん、には…今日、沢山お世話に…なり、ました。だ、だから…ここは、私に…任せて、もらえませんか…?」

 

 遠くにモンスターが凄い勢いで現れる中、ぜーちゃんが一歩前に出る。これまでと変わらない、たどたどしい…けどこれまでより落ち着きを感じる声で言って、私達の方を一度振り向いて……それから、ぜーちゃんの身体はシェアエナジーの光に包まれる。そしてその光が収まった時、そこにいたのは…もう一つの姿の…女神としての姿のぜーちゃん。

 

「──驚かせてしまっただろうか。いや…私の名を知っていた事を思えば、そして君達の聡明さを踏まえれば、そう驚いてもいないのだろう」

「ぎゃ、ギャップが…さっきまでの、ギャップが……こほん。…イリゼさん、これは倒せば倒すだけ報酬が増えるクエストです。制限時間もありますし、誰かに任せるより全員で掛かる方が……」

「いいや、不要だよ。一体どれだけ現れるのかは分からないが…幾ら出てこようと、結果は変わらないのだから」

 

 そう言って、ぜーちゃんは私達に背を向ける。翼を広げて、ゆっくりと飛び上がって……次の瞬間だった。ぜーちゃんの周囲に、私達の頭上に…信じられない程の武器が現れたのは。

 これは知っている。私達の知るぜーちゃんもやる攻撃の一つだから。でも、数が違う。桁が違う。数えなくなって段違いだって分かる程の武器が、あっという間に展開されて…それをぜーちゃんは一斉掃射。どの武器も唸りを上げて宙を駆け抜け、モンスターの大群を襲う。爆弾でもないのに爆撃をかけたみたいな轟音が、遠く離れた私達の所まで響く。

 

「お、おいおい…マジかイリゼ……」

「凄まじい、な…。だが、これは…この力は……」

 

 乾いた笑いを漏らすいぶ君に、考え込むえー君。その間も…っていうか、撃ってからすぐにぜーちゃんは次の武器を作って、また撃ち込む。撃っては作って、作っては撃って、広範囲への連射を続ける。

 一発一発が、普通のモンスターなら過剰な位の威力。それをぜーちゃんは、乱射している。質より量を重視した弾幕位の感覚で、高威力の射出を行い続ける。多分それが、数分位は続いて…でも、すぐに私達は知る。ぜーちゃんからすれば、これは「手始めの攻撃」でしかなかったんだって。

 

「──消し飛べ」

 

 小さくぜーちゃんは呟いた。…と、思った次の瞬間には、もうぜーちゃんはいなかった。殆ど瞬間移動と変わらないような、速いなんてレベルじゃない速度で、圧倒的な勢いで一気にモンスターの大群に強襲し……また、轟音が響く。次から次へと物凄い量が現れている、シミュレーター仕様的に殲滅なんて不可能っぽい大群を、その発生速度を超えてるんじゃないか…って位のペースで薙ぎ払い、言葉通り消し飛ばしていく。

 

「…まさか、これがイリゼの本気だって言うの…?信次元の女神は、ここまでの力が……」

「う、ううん。それは違うよ、ゆりちゃん。少なくとも、こんな力は私も見た事ないもん…」

 

 カウント機能が壊れたのかと思う程、撃破数の表示は恐ろしい勢いで増えていく。遠目に見ているだけでも分かる。これは戦闘なんかじゃない。何もする事なく、現れた次の瞬間には、群れ単位でモンスターが消えていく、ぜーちゃんに撃破される…一方的過ぎる、完全な蹂躙。

……まさか、私が把握し切れない状況があるなんて、思っても見なかった。見えてはいるけど、能力的には把握出来ているけど…早過ぎで、私の頭の方が追い付かない。一瞬の内に起こる事が多過ぎて、訳が分からなくなる。…それ程の事を、ぜーちゃんはしていた。他の皆はぜーちゃんの姿も、何をしたのかも見えないんじゃないか…本気でそう思う程の、殲滅劇だった。

 そして、クエストは終わる。結局誰も手を出さないまま…本当にその必要がないまま、ぜーちゃんが薙ぎ払い続けて…終わった。

 

「ふ、ぅぅ…あ、の、どう…でした…?…ぁ、えとえと、報酬…?…は、み、皆さんで、分けて、下さい…ね…!」

 

 信じられないものを見せられた後の、またちょっと「あれは何だったの…?」感ある中での、女神化を解いたぜーちゃんの言葉。また女神化前の調子に戻ったぜーちゃんは、私達を見ていて…とーぜん、私達には訊きたい事が沢山ある。でもそれを訊こうとしたところで、仮想空間の外から全員にメッセージが入る。

 

「一度仮想空間全体を調べてみたいから、一旦戻ってほしい…これは……」

「うん、そういう事…だろうね」

 

 小声で内容を読み上げたあい君に、ワイトさんが頷く。あれ、でもそうなるとぜーちゃんはここに置いてっちゃっていいの?…とも思ったけど、ギアちゃんだったら問題があればそれについて触れるだろうし、それがないって事はやっぱり、その必要はない…んだと、思う。多分。

 

「えーっと…ぜーちゃん。私達少し用事が出来たから、お散歩はここまでにしたいんだけど…いいかな?」

「悪いな、いきなりで」

「そ、そうなんです…か…?…わ…分かり、ました。それじゃあ、私…は…ぬいぐるみさん、が一杯いるお店…に行ってみたい気持ちなので、そうします…ね」

 

 何となく、このぜーちゃんはネガティヴな部分もあるのかな?って感じだったから、もしかしたらまた泣いちゃうかも…と思ったけど、意外にもすんなり(ちょっぴり残念そうだったけど)分かってくれて、だったら…と私達は現実世界へ戻りにかかる。

 ひょっとしたら、これでこのぜーちゃんに関して何か分かるかもしれない。システムのバグとか、何かの異常だったら嫌だけど…そういう事を抜きに考えれば、ここにいるぜーちゃんも、変わってるけど良い子だった。だから私としては、出来ればこれからも仲良くしたく…

 

「…皆さんっ。今日は、ありがとう…ございました…!わ、私…皆さんと過ごせて、とってもとっても…楽し、かったです…!だから、またいつか……()()()()()()()、出会いましょうね…!」

『え……?』

 

 意識が現実に戻る直前、その寸前、聞こえたぜーちゃんの言葉。反射的に振り向けば、ぜーちゃんは私達を見送るように笑っていて……そして意識は、現実へ帰る。最後の言葉の意味も、何をどこまで理解していたのかも分からないまま…私達は、目を覚ます。

 

「いきなりすみません、皆さん。本当は、休憩のタイミングでやりたかったんですが……」

「大丈夫だよ、ネプギア。皆の安全が第一だもん。…うん、全員戻ってきてくれたみたいだね」

 

 機材から身体を起こすと、ギアちゃんとやり取りをするぜーちゃんの声が聞こえてくる。その言葉通り、全員戻ってきていて…私達が離れるとすぐに、ギアちゃんと職員さん数人が点検を開始する。だけど……

 

「うーん…やっぱりそれらしきものは見つからないんですよね…。こうやって調べても出てこないってなると、そもそもの考え方が間違ってるとかなのかな……」

「本当に、何もないのですか?仮想空間にいた私達からすれば、明らかに普通ではない事態だったのですが……」

「それは、分かってるんですけど…あの、もう一度状況を訊かせてもらってもいいですか?」

「いいよー。私達は……」

 

 訊かれた事について答えようとした私。えっと、私達が遭遇したのはきぃちゃんとぶつかりそうになった後で……と、そこまで考えた私は、気付く。

 

 

 

 

──あれ?私、その後何をしてたんだっけ?誰に、何に、遭遇したんだっけ…?

 

「…皆?どうかしたの?あんまり顔色が良くないわよ?」

「…茜、確認したいんだが、茜は……」

「うん、私も思い出せない…なんかゲームしたり、クエストしたりしたのはちょっとずつ思い出してきてるんだけど…もっと重要な部分が、すっぽり抜けちゃってるみたいな……」

「思い出せない…?私がネプギアから聞いた話だと、私のデータか何かっぽい存在に遭遇したって事らしいんだけど…違うの?」

「イリゼの、データ……あぁっ!」

「な、何か思い出せたのか?」

「…駄目だー、こういう反応したらノリで何か思い出せるかと思ったが、やっぱ全く思い出せねぇ…」

「や、ややこしい事は止めてよグレイブ君…」

 

 せーちゃんから訊かれる中で、私はえー君と確認し合う。まるでそこだけ切り取られたような、変な記憶。しかも今は思い出そうとしてるから、抜け落ちてる事が変に思えてるけど…何で思い出せないんだろうとか、他の皆は何かなかったのかなとか、それ以外の事を考え始めると、段々違和感が薄れてくる。

 そして結局、ギアちゃん達が念入りに調べても、何の異常も見つからなかった。試しにギアちゃんとぜーちゃん達で仮想空間に入ってみても、仮想空間は何の変哲もない状態だった。思い出そうとしないでいると、違和感が薄れる…変だって認識自体もなくなっちゃう事もあって、何かに遭遇していた私達自身が「気のせいか勘違いだったのかも」って意見に変わっていって、それもあって仮想空間での活動は続く事になって……最終的には何だったんだろうねー、位の話に収まってしまった。

 正直、今の私は、この件を「まあどうでも良いかな〜」的な風に捉えている。だって、実際そういう心境だもん。でも、なんていうか…記憶には残っていないけど……それでも私は、それにきっと皆も、心ではこう感じていた。──私達が遭遇した何かは、決して嫌なものじゃなかった、って。




今回のパロディ解説

・「某ハードボイルド漫画〜〜」
ゴルゴ13の事。なんでもゴルゴ13は、単一シリーズとしての単行本の数がギネス記録になっているらしいですね。継続は力なり、長い間続けられる力というのは、本当に凄いものだと思います。

・「〜〜障子にブロリー〜〜」
DRAGON BALLシリーズに登場するキャラの一人、ブロリーの事。障子にブロリーを想像してみて下さい。凄まじく、本当に凄まじくシュールで訳の分からない光景ですね。

・「〜〜どこぞの殺意の世界〜〜」
ID:INVADED イド:インヴェイデッドに登場する要素の一つ、イド及び、イドの中のイドの事。仮想空間の中の仮想空間…どういう状態なのか考えようとすると、逆によく分からなくなりそうです。

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