超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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番外編 最後にもう一つ思い出を

 どうもおねーさんは、結局ずっと仮想空間で色々大変な羽目になった事を気にしていたみたい。わたし達は自分達で選んだ事なんだから、ってスタンスだし、おねーさん…それにセイツも、現実に戻った後のやり取りで、少しはそう思い直してくれたものだと思っていたけど、それはそれとしてやっぱり何かお詫びをしたい…そんな風に思ってたらしい。…ある意味融通が利かないわよねぇ。おねーさんらしいといえば、おねーさんらしいけども。

 で、そんなおねーさん達はどうしたか…っていうのが、今回のお話。ふぅ、何だか今日も賑やかになりそうね。

 

「エスちゃん、いきなりドラマCDみたいな語りを始めてどうしたの…?」

「え、ドラマCDっぽかった?…うーん、まぁ強いて言えば…何となく?」

 

 深い意味はないわよ?…とわたしが肩を竦めれば、ディーちゃんもそれで納得してくれる。実際深い意味なんてないし、いちいち深い意味とか理由とかを求めるなんて、そんなの疲れちゃうだけってものよ。

 

「に、しても…これは予想してなかったわね」

「うん。まさか、信次元に来てお祭りに参加する事になるなんて…ね」

 

 夜の、暗くなった神生オデッセフィアの街。前にちょっと寄った時は、夜は勿論昼もそこまで賑やかじゃなかったある地域が、今は騒がしい位に賑わっていて、熱気も活気もひしひしと伝わってくる。

 ここでは今、お祭りが開かれていた。おねーさんに誘われて、信次元での最後の思い出作りも兼ねて…わたし達は、このお祭りに来た。

 

「人が、沢山。わいわい、がやがや。…これから、お城で舞踏会?」

「あはは、違うよすーちゃん。…で、えー君えー君。この格好、どうかな?」

「見た目の割に動き辛くないな。収納性は見た目通りだが…」

「そうそう、ポケットがないのがちょっと難点…って、そういう事じゃないよっ!もー!」

 

 多分童話を連想しているイリスちゃんに違うよ、と言った後、旦那さんといちゃいちゃし出す茜。何故かノリ突っ込みをした茜は、もー、と腕を振って…その動きに合わせて、大きく広がった袖も揺れる。

 わたし達は、お祭りにお客として来た。お祭りは(常識の範囲内なら)どんな格好でも来ていいものだけど…折角だからって事で、おねーさん達はある服を用意してくれた。普段は着る事のない、お祭りってイベントにはぴったりな…全員分の、浴衣を。

 

「相変わらず怒り方が子供っぽいというか、なんというか…。…まぁ、あれだ…似合ってるよ、茜」

「…あぅ…一回思いっ切り外してからのそれはズルいよ……」

「…この二人、参加前からお祭りの熱に当てられてない?」

「いいじゃない、夫婦なんだもの。…というか、愛よ、愛だわ!溢れんばかりの愛が、愛情が、素敵で素敵に素敵だわっ!」

「…こっちも大分熱に当てられて…って訳じゃないわね、平常運転だったわね……」

「ところで誰か、ウチを呼んだッスかー?」

 

 しっかりいちゃついたり興奮したり、呆れて半眼になっていたりと、こっちもこっちでもう賑やか。でもイヴの言う通り、まだわたし達は近くに来ただけで、お祭りの輪の中には入っていない。

…え、浴衣の描写?えっと、大体皆形状は同じよ?だって浴衣だし。で、色はわたしが白地にピンクの水玉、ディーちゃんが白地に水色の水玉、おねーさんは白地に薄黄色の花柄で、セイツは薄黄色地に白の花柄。イリスちゃんは白地に赤と青の水玉で、ネプテューヌちゃんは薄紫と白のストライプで、ピーシェは藍色に少しだけ黄色の部分を混ぜたシンプルな浴衣。アイは赤地に白の花柄で、茜も赤地にオレンジの花柄、ルナは白黒黄色の三色柄に、ビッキィは黒字に黄色をあしらった柄で、イヴはオレンジと藍色のツートーン。皆、それぞれ自分で選んだ浴衣で……もっと詳細な見た目?どこがどう可愛いとか、どの辺りが大人っぽいとか、そういうのも描写してほしい?いや、そこまでするともう、わたしのキャラじゃないし…。…あー、でも……。

 

「こほん。女神としてはありがたい事に賑わってるお祭りだけど、この人数で賑わってる場に入ると集団行動なんてとても出来ないし、各々回るって形にしようと思うんだけど、良いかな?」

「各々っていっても、出来る限り単独行動はしないで頂戴ね。ここは教会からそこそこ離れてるし、万が一って事もあるから」

「いや、あの、イリゼにセイツさん…それは良いんだけど……」

「何を考えてるんですか、その浴衣は……」

『……?』

 

 いつものように仕切るおねーさんとセイツに対して、ルナとピーシェが投げ掛ける困惑の言葉。何を困惑しているかっていえば、間違いなく二人の着ている浴衣のデザイン。別に隠す事じゃないからはっきり言うけど…二人の浴衣には、裾の両側にやたら深いスリットが入っていた。なんか、マンダリンドレスみたいになっていた。しかも言われた二人は、「え、何か?」みたいな顔をしていて…そうまでしておねーさん達は脚を出したいのね…筋金入りっていうかなんていうか……。

 

「まあ、ともかく行くとしようか。再集合の場所も、ここで構わないかな?」

「よーし、まずはフランクフルトだな。んで次はチキンステーキで、当然かき氷も外せないよなー!」

「わっ、いきなり走らないでよグレイブ!単独行動はしないでって言われたばかりだよねぇ!?」

「人が多いんだから気を付け…って、言っても聞こえてないんだろうなぁ…。…気持ちは分かるけどさ」

 

 腕を組むように両袖へ手を突っ込みながら言ったズェピアの言葉を皮切りに、グレイブが飛び出していく。そのグレイブを愛月が追って、二人の様子に苦笑しながらカイトが着いていく。

 今回は、男の人達も浴衣姿。グレイブは黒と青、愛月は水色とえんじ色の浴衣で、カイトは青紫に赤のラインが、影は灰地に黒のラインが入った浴衣。ワイトは灰色…っていうよりライトグレーの浴衣で、ズェピアは黒にピンポイントで赤の入った浴衣と、こっちもこっちで色とりどり。これは男女関係ない事だけど…浴衣を着ると、皆雰囲気ちょっと変わるわよね。

 

「…って感じに、とにかく色んなお店があるんだよ。お店っていうか、屋台…だけどね」

「理解した。お祭り、楽しそう。でも、人が多い。人が多いと、迷子になる危険性高し。イリスはとても不安なので、ディールとエストに、一緒にいてほしい」

「いいわよ、イリスちゃん。…まあ、言われずとも普段からよく一緒に行動してる訳だけどね」

「ありがとう、エスト。イリス、まずはあれを食べてみたい。あれは、空の雲を取ってきたもの?」

 

 そう言ってイリスちゃんが指差したのは、綿菓子。確かに雲にも見える綿菓子は、お祭りの定番で…折角だから、わたしも買ってみる事にする。

 

「おぉ、これは甘…消えた?…ぅ、また消えた…イリス、口に入れたばかりなのになくなった…。…ディール、エスト、イリスの口の中に何かある?」

「あはは、綿菓子はそういう食べ物なのよ」

 

 言うが早いか口を開けるイリスちゃんに、わたしもディーちゃんも思わず笑ってしまう。綿菓子が無くなったように感じるのは分かるし、初めて食べたんだから驚くのも分かるけど…口の中に何か居て、それに食べられたのかもだなんて、ほんとイリスちゃんならではっていうかなんていうか…まあ、ほっこりはするわよね。

 

「……?ディールもエストも、何か楽しい事があった?」

「んー…まあ、そうかもね。ね、ディーちゃん」

「かも、ね」

 

 小首を傾げるイリスちゃんを見ながら、わたしとディーちゃんは笑い合う。それから自分の分の綿菓子を食べて…んっ、綿菓子って要は砂糖をそのまま食べてるようなものだけど、普通に美味しいわよね。ある意味これも、素材そのままの良さってやつ?

 

「ご馳走様。綿菓子、甘くて美味しかった。でも、あまり食べた気がしない……」

「じゃ、折角浴衣まで来てお祭りに来たんだし、色々食べたりやったりしましょ。代金は全部おねーさん持ちなんだし、ね」

「エスちゃん、それはそうなんだけど、そういうスタンスはどうかと思うよ…」

 

 呆れ気味なディーちゃんの指摘はスルーして、イリスちゃんと進む。イリスちゃんははぐれそうな気がするから、しっかり手を握っておく。

 おねーさん持ち、っていうのは本当の事。おねーさんの方から言ってくれた事。仮想空間での活動は信次元にとって利になる事だから、協力してくれる事への報酬…って体で、好きなだけ楽しんで、とわたし達はここに来る前に言われていた。…というか、それより前のお金が絡むあれこれも、纏めて協力への報酬って形にしてるんだとか。

 

「わたしは…まずは、かき氷かな」

「一つ目からかき氷?最初からデザート系?」

「エスちゃんだって最初から綿菓子だったじゃん…」

「いや、綿菓子はデザートっていうか、文字通りお菓子系でしょ?」

 

 いつものように、左右からそれぞれイリスちゃんと手を繋いで歩くわたし達。人混みの中ではとにかく周囲が見辛くて、魔法で大人モードにならずに来たのをちょっと後悔。ただでもよくよく考えれば、かなり背が高くなくっちゃ、大人モードになってもあんまり視界は変わらないのかもしれない。

 そう、こういう場でも視界が効くのは、普段から背丈が頭一つ抜けてるような……

 

「あ、ズェピア。…ルナも、いる?」

「え?…あ、そうだね。いつの間に前に……」

 

 人混みの中からでもちょっと飛び出る形で目立つ、金の長髪。それは確かにズェピアの頭で…隣には、ルナもいた。

 

「あれ、呼ばれたような…」

「うん、呼ばれたね。君達は三人かい?」

「えぇ、そうよ。そっちは二人?」

「あはは…どのお店から回ろうかな、って考えてたら出遅れちゃって……」

「ルナ君一人を置いていくのは忍びないからね。同行させてもらっているよ」

「そうだったのね。…あ、だったらわたし達も一緒にいい?ズェピアなら、仮にはぐれても見つけ易いでしょ?」

「おお、名案。それがいい、そうしよう、とイリスは言いました」

「はは、君達の役に立てるなら何よりだよ。…しかし、何故昔話風の言い方を…?」

 

 ディーちゃんやルナもそれでいいという事で、合流決定。目印としてもそうだけど、紳士を自称するだけあってか、ズェピアは自分が先頭を歩く事でわたし達が歩き易いよう道を作ってくれる。その道を通りながら、時々屋台で食べ物を買いながら、わたし達はお祭りの輪の中を進んでいく。

 

「ほんとに色んな屋台があるなぁ…食べ物以外のお店もあるし、回るだけでも楽しくなりそうだね。…回るだけで何も買えないのは悲しくなりそうだけど…」

「雰囲気だけでも楽しめる、という事だね。ところで君達は、カラーひよこやひよこすくいを知っているかい?」

『ひよこ…?』

 

 聞き覚えのない、ひよこと付いた二つの単語。流れからしてそういう屋台なんだろうけど、わたしもディーちゃん達も知らなくて、全員でズェピアに訊き返す。

 

「着色したひよこを売っている屋台や露店だよ。マイナスの要素や評価が世間に広がったからか、最近のお祭りや縁日では見かけないけど、ね」

「へぇ、そんなお店が…わたしの次元のお祭りでもそういうのは見た事ないですし、当然買った事もないですね。ズェピアさんはあるんですか?」

「ふっ…私もだよ」

「なんでそんな、黒い仮面付けてそうな返しを……」

 

 何故か小さく笑みを浮かべて返したズェピアに、ディーちゃんが突っ込む。…やっぱりこの人の考えている事は、大体いつも分からない。

 

「…もしかして、ズェピアさんちょっと浮かれています?」

「はは、かもしれないね。騒がしいといえば騒がしいが、このお祭りの盛り上がりというのは嫌いじゃないんだ」

「ディーちゃんはあんまり得意じゃないわよね。人酔いしてない?」

「まだ大丈夫、かな」

「ディール、具合が悪くなったら言って。イリス、抱っこしてあげる」

 

 じっ、とディーちゃんを見つめて言うイリスちゃんの言葉に、またわたし達は小さく笑う。…なんかほんと、妹が出来たみたいな気分ね。イリスちゃんがわたし達…というか、ロムとラムに懐いているのも伝わってくるし、そのイリスちゃんとも明日には別れると思うと、やっぱりどうしても残念なものが……って、止め止め。折角のお祭りなのに、湿っぽい事考えるなんて勿体無いもの。

 

「イリスちゃんも、疲れたら言ってね?その時は私がおんぶしてあげるから」

「ありがとうルナ。……?」

「おわっ…イリスちゃん、どうかした?」

「気になるもの、見つけた」

 

 そうしてまた歩いていく中、不意に引っ張られた右手。何かと思って振り向けば、手を繋いでいるイリスちゃんが止まっていて…視線の先にあったのは、落書きせんべいの屋台。

 

「おや、あれを食べたいのかい?」

「落書き、せんべい…落書き、良くない。ブランに怒られる。ミナも、食べ物で遊んではいけないと言っている。…つまりあれは、非合法な屋台…?」

「そ、そんな人聞きの悪い事言っちゃ駄目だよイリスちゃん…落書きせんべいっていうのはね、大きいお煎餅にシロップを塗って、そこにザラメを落として、絵にしてから食べるものだよ」

「因みに使われているのはたこ煎餅というものだよ。あれは美味しいけど、口が乾くから食べ過ぎには注意だね」

 

 困惑しつつもディーちゃんが説明して、ズェピアが補足。聞いたイリスちゃんは興味を示して、わたし達は列に並ぶ。雑談しながら順番を待って、番が来たところで店主さんからたこせんべいと筆を受け取る。

 

「落書きなんて久し振りね。昔はよく、お姉ちゃんの本に落書きしたっけ…」

「今思うと、怒られて当然の事してたよね…何描こうかな…」

「…端から端まで全部塗れば、ザラメたっぷりのお煎餅に……」

「こらこらルナ君、淑女がそんな品のない事をしようとしてはいけないよ」

 

 イリスちゃんが黙々と描く中で、わたし達も描き進める。あまり凝ったものを描く気はない…っていうか画材(食材)的には出来ないけど、だからって丸やバツを幾つか描いて終わりじゃ芸がないし…んー……。

 

「こんなものか。皆もそろそろ出来たかな?」

「出来た。自信作が完成」

「わたしも出来ました、自信は…そこそこですけど」

「へぇ、ディーちゃん見せてっ」

 

 返答を待たずに、即横から覗き込むわたし。反射的にディーちゃんは隠そうとしてたけど、それより早くわたしは見て…って……

 

「…これ、もしかしてアイスマフィン?」

「あ…うん。割とシンプルなデザインだから、これなら…って思って描いたんだけど、よく分かったね」

「分かるわよ。だって…わたしも、同じだもの」

 

 言葉を返しながら、わたしもディーちゃんに見せる。わたしが描いたのも、アイスマフィン。ロムとラムが愛用している…わたしにとっても思い入れのある、帽子の絵。まさかディーちゃんと同じ絵だなんて思ってもみなかったけど…なんかちょっと、嬉しいわね。

 

「わっ、二人共上手だね」

「ま、さっきもちょっと言ったけど、昔はよく絵を描いてたからね。ルナは何描いたの?」

「わたしはどうにも思い付かなかったから、ネプギアの脳波コン描いてみたんだ。それも一個だと余白が多くなりそうだから、二つもだよっ」

「二つだと、ネプギアちゃんって言うよりネプテューヌさんの脳波コンな気が……」

「はっ…言われてみると、確かに…!」

 

 気付かなかった…!…って顔をするルナに、わたし達は軽く苦笑。頭絡みって意味じゃ、何気にルナも同じね。帽子とアクセサリーの違いはあるけど。

 

「ふふ、ルナ君も上手じゃないか。さて、それでは自信作らしいイリス君のも見せてもらおうかな?」

「見せる。イリスは、これ描いた」

 

 どっちにしろざらめをかけて貰う時に全員分見える訳だけど、何故かいつの間にか一人ずつ見せる流れになっていた。そんな中で、ズェピアがイリスちゃんに振る。振られたイリスちゃんは、こくんと頷いて見せてくれる。

 

「これは…ライヌちゃんとるーちゃん、だよね?」

「ルナ、大正解。イリス、ライヌちゃんとるーちゃん描いた。ライヌちゃんとるーちゃんは、ここでも一緒」

「へぇ、結構しっかり描いてるのね。じゃあザラメもお願いして、ライヌちゃんは水色、るーちゃんは黄色を掛けてもらう?」

「…出来る?」

 

 自信作、と言うだけあって、イリスちゃんの絵は中々上手。凄く上手い訳じゃないけど、それぞれの特徴をしっかり捉えてるっていうか、イリスちゃんがよく見てる、覚えてるって事が伝わってくる。

 それを見せてもらったわたしがザラメの事を言えば、イリスちゃんは早速店主さんに訊く。すると店主さんは、それを快諾してくれた。多分、イリスちゃん本人は無表情とはいえ、一生懸命描いている姿を見てたから…でしょうね。

 

「皆、納得のいく絵が描けたようで何よりだよ。それでは、ザラメを掛けてもらうとしようか」

「え?ズェピアさんは見せてくれないんですか?」

「いや、見てくれても構わないよ。ただ、これはシロップの段階だとよく分からないだろうと思ってね」

 

 唯一まだ見せていなかったズェピアは、そう言ってルナにたこせんべいを見せる。けど見せてもらったルナは「?」って顔をしていて、わたしも覗いてみたけど…確かに何を描いてあるか分からなかった。無色透明のシロップだから、複雑な絵を描かれると何がどうなっているのかよく分からない。

 という訳で、わたし達はザラメを掛けてもらう。イリスちゃんの分は、ちゃんと色分けをしてもらう。そうして改めて受け取った、ザラメで色付けされたたこせんべいのアイスマフィンは、よく見ると少し歪んでいて…うーん、ちょっと残念ね。まあ、どっちにしろ食べたらなくなる訳だけど。

 

「頂きます。…ん…甘じょっぱくて美味しいね」

「そーね。…あ、駄目よディーちゃん。幾らマフィンって名前だからって、アイスマフィンを食べちゃー」

「えぇ…?何その反応に困る冗談…って、イリスちゃん?食べないの?」

 

 予想通りの味と、予想通りだからある意味安心する美味しさ。それを味わいながら食べていたわたし達だけど…何故かイリスちゃんは受け取ったまま、一口も食べていなかった。そしてそれについてディーちゃんが訊くと、イリスちゃんはたこせんべいを見つめながら言う。

 

「…困った…イリス、ライヌちゃんもるーちゃんも好き。…食べられない……」

「そ、それはまたイリスちゃんらしいね…ええっと、じゃあ…帰ったらまた、今度はお絵かき帳とかスケッチブックとかに改めてライヌちゃんとるーちゃんを描くのはどうかな?ほら、食べないと用意してくれた店主さんも残念そうにしちゃうよ?」

「…それは、確かに。……うん、そうする。イリス、帰ったらもう一回描く」

 

 食べ物な事は最初から分かってたよね…?…なんていう事は一言も言わず、ルナはイリスちゃんへと提案をしてくれる。言われたイリスちゃんは少し考えて…それから頷き、一口ぱくり。咀嚼して、飲み込んで…美味しい、と言った。そこからは、ぱくぱくと食べ進めていった。

 ちっちゃくサムズアップをするわたしとディーちゃん。照れた顔で、えへへ…と後頭部を掻くルナ。結構ルナもイリスちゃんと接してるし、面倒を見てくれてる事に感謝…って、これじゃ保護者目線ね…。

 

「……ふふっ」

「……?ルナさん、どうかしました?」

「ちょっと、前の事を思い出したんだ。前にディールちゃん…それにイリゼ達と出会ったあの場所でも、色々大変だったけど、それはそれとして皆でゲームしたり、プールで遊んだりしたでしょ?」

「あぁ…今回も結局騒動が起きてしまいましたけど、あの時以上に色々な事をした…というか、今もしてますもんね」

「…エスト。二人は何の話をしてる?」

「んー…わたし達の知らない、ちょっとだけ昔の話…かしらね」

 

 懐かしいなぁ、と言うように二人は小さく笑い合う。それは、ルナやおねーさん達は知っていて、わたしは知らない経験の話。わたしが知っていて、皆の知らないディーちゃんとの経験の方が、ずっと多いに決まってるけど…それでもちょっぴりジェラシーだったり。

 

「…また、皆とこうして集まって、色々な事したいな……」

「ルナさん…。…少なくともそれは、まだお祭りを楽しんでいる段階で言う事ではないのでは…?」

「だ、だよねー…あはは、気が早過ぎるよね…」

「…でも、気持ちは分かります」

 

 だよね、と言いながら自虐気味にルナが笑う。けどそんなルナに、ディーちゃんは軽く肩を竦めてから、気持ちは分かると言って小さく微笑んだ。そしてそこに、ズェピアが続く。

 

「今が楽しいからこそ、という部分はあるだろうね。そして、ルナ君のその思いは大切なものだと思うよ。未来への期待は、日々を頑張る活力になるものだからね」

「日々を頑張る活力…やっぱりズェピアさんは、どんな方向からでも良い事を言いますねっ!」

「…ルナ、それって凄く遠回しに皮肉ってる…?」

「……?」

「…って、訳じゃないのね…何でもないわ、忘れて頂戴」

「ふふふ。では、そろそろ進むとしようか。食べながら歩くのは行儀が悪いが、人の流れがある中でいつまでも立ち止まっている、というのも良くないだろう」

 

 もしや、と思って訊いてみたけど、ルナはきょとんとした顔。これはちょっと勘ぐり過ぎたわね…って、そうだ。

 

「ズェピア、さらっと流そうとしてるけど、貴方の描いた絵って結局なんなの?」

「おっと、そういえば見せていなかったね。色が付いた状態で見るとあまり上手くは出来ていないし、出来れば拙い絵という前提で見てくれ給え」

「そうは言ってもズェピアさんの絵ですし、きっと上手ですよね。どれどれ……」

 

 今は食べないつもりなのか、貰ったビニール袋にたこせんべいを入れていたズェピア。それを指摘すると、ズェピアはわざとらしく袋からたこせんべいを出す。当然わたし達は、それを覗き込んで……

 

…………。

 

……………。

 

………………。

 

「…ええ、っと…これは、建物…ですよね?」

「これは屋根。これは壁。…見覚えがある。これは……教会?」

「流石はイリス君、ご明察だよ。何とか形にはしたが、やはり絵というのは難しいものだね」

 

 描かれていたのは、しっかりと遠近感を表現した緻密な絵。全体的な形は勿論、装飾や細かい凹凸までもしっかりと書き込んである、筆一本、シロップのみで書いたとはとても思えないような…とにかく凄い絵。しかも考えてみれば、たこせんべいを手で支えながら描いている訳で…これをわたし達と大して変わらない時間で描いていたんだから、最早凄いを超えて恐ろしいレベル。

 というか、たこせんべいの中にしっかり収めようとしたからか、結構引きの絵になっていて、最初はディーちゃんと同じく建物としか分からなかった。イリスちゃんの言葉で、これが教会…神生オデッセフィアの教会だと分かった。ははぁ、ズェピアは教会を描いた訳ね。落書きせんべいで教会を、ありふれた筆とシロップとたこせんべいで教会を、お祭りの屋台でかなり緻密な教会を…って……。

 

『いや嘘でしょ!?上手ぁ!?』

 

 ほんともう、ぎょっとするレベルで驚くわたし達に対して、ズェピアは「ははは、褒めてもらえて光栄だよ」だなんて言ってくる。本心なのか、それともわたし達の反応を見てからかっているのか。そこのところはさっぱりだけど……本当に、訳が分からないスペックをしてるわね…。

 

 

 

 

 お祭りって、楽しいよね。賑やかなのも、色んなお店が出てるのも、夜に外を歩き回るのも、何から何まで楽しいよね。勿論騒がしいのが苦手な人とか、そもそもインドア派な人とかは、楽しめないのかもしれないけど…イベント好きにとっては、それこそ欠かせないイベントだよね。

 で、そのお祭りに来ている以上、楽しまなくっちゃ損ってもの。だって、このお祭りには楽しむ為に来てるんだから!

 

「チョコバナナ〜♪ベビーカステラ〜♪焼っきそば〜♪」

「いやぁ、お祭りを楽しむお手本レベルで満喫してるッスねぇ」

「勿論だよ!だって、楽しい時に楽しまないなんて、勿体無いでしょ?」

 

 両手に持って、持てない分は袋に入れて、食べたいと思ったものは片っ端から買っていく。冷めない内に、どんどん食べる。次に体重計に乗る時が少し怖くなりそうだけど…今はそんなの気にしない。

 

「ま、それには同感ッス。浴衣着てまで来たお祭りなのに楽しまず終わるなんて、何しに来たんだって話ッスからね」

「とはいえ、流石に次から次へと買い過ぎでは…?食べ切れますか…?」

「別腹だよ別腹っ」

「いや、あの…別腹も何も、今し方買った焼きそばは明らかにスイーツでは……」

「冗談ッスよ冗談。『ネプテューヌ』がそういうキャラな事は、ワイトも分かってるんじゃないッスか?」

「…まあ、それもそうですね」

 

 確かにそれもそうか、みたいな顔をしてワイトさんは納得する。シノちゃん(アイちゃんだと愛月君と被るし、何よりその呼び方はもっと相応しい相手がいる気がするんだよね)はワイトさんに言った後、自分もさっき買ってたトルネードポテトを食べ進める。シノちゃん、クールだよねぇ。言動的には別にそうでもないんだけど、考えとかの部分が何となくクールっていうか…掴みどころがない、ってやつ?それで言うなら、他にも何人かそこが見えない感じの人…人?…もいるけど。

 

(…あー、でも…掴めないっていえば……)

 

 流石にこれは焼きそばと食べる順番逆だったかな、と少し後悔しつつも美味しくチョコバナナを完食したところで、自分はちらりと後ろを見る。

 今ここにいるのは四人。自分と、シノちゃんと、ワイトさん、それに……

 

「〜♪〜〜♪」

「…セイツ、ずっとあの調子だよねぇ…」

「ですね…」

「そッスねぇ…」

 

 さっきから…お祭りの輪に入ってからずっと、ずーっとにっこにこしっ放しなセイツ。美味しい物を食べたとかじゃなくて、何もしてないのに一人で謎にお祭りを漫喫している…とにかく訳の分からない状態のセイツ。いやまぁ、理由の予想は付くよ?ここ…っていうかお祭りは人が集まっていて、活気もあって、全体的にテンションも高い…要は『強い感情』が溢れ返っている訳なんだから、セイツはそれを楽しんでるんだろうなぁっていうのは分かる。分かるんだけど…にしたって楽しみ方が異質過ぎるよ……。

 

「今はまだ…感情に浸ってる?…だけだからいいッスけど、その内興奮し過ぎて何かしでかさないか、ちょっと不安ッス…」

「何か…?」

「そこは各々の想像にお任せするッスよ」

「あー、各々の…ね」

「お二人共、それは誰に向けての会話をしているんです…?」

 

 そんなやり取りもしながら、のんびり自分達は歩く。因みに今回こうなったのは、最初に喋ってたシノちゃんとワイトさんに自分が話し掛けて、何となく三人で回る?…的な雰囲気になって、そこで更にテンションが上がりつつあったセイツと目が合って、そのままセイツもパーティーイン…みたいな感じ。

 

「まあそれはともかく、ワイトさんも何か食べないの?」

「食べますよ。取り敢えずフランクフルトを、と思っていたのですが…ああ、丁度良いところに」

「あ、じゃあウチの分もお願いしてもいいッスか?」

「えぇ、お任せ下さい。ネプテューヌ様はどうしますか?」

「うーん…うん、お願いしてもいいかな?」

 

 流れがあって自由には動けない中でも、しっかりとした足取りと動きでワイトさんは見つけた屋台に歩いていく。がっしりしてて背も高いワイトさんの後ろ姿は、待っている間も割と見えて…やっぱ背が高いのって、それだけでちょっと格好良いよね。自分も女神の姿になれば、今より背が高くなるけどさ。

 

「そういえばシノちゃんって、結構ワイトさんと仲良い…っていうか、よく話してるよね。どーゆーご関係?」

「ブランちゃんを愛でる会の仲間ッス」

「そ、そうなの?」

「嘘ッスよ?」

「えぇ…?確かブラン…は、女神の一人だよね?…詳しくは知らない人を絡めたネタは、流石のねぷ子さんでも対応し切れないよ…」

「おっと、これはウチの失態ッス。まぁ愛でる会は嘘だとしても、ブランちゃんが好きって共通点があるッスからね。だからそれ絡みで話す機会がまあまあある…ってところはあるかもしれないッス」

 

 待っている間はシノちゃんと雑談。別にシノちゃんはワイトさんとばっかり話してる訳じゃなくて、他の人と話してたり遊びに出掛けてたりする事も多いんだけど、ワイトさんとの絡みは今日含めてちょっと「どういう組み合わせ?」…って感じだったから、気になってたんだよね。

 とかなんとか話していたら、ワイトさんが戻ってきた。フランクフルトを五つも持った、ワイトさんが。

 

「どもどもッス。…って、うん?ウチにネプテューヌ、それにセイツの分も買ったとしても、一本余るッスよね?二本食べるんッスか?」

「いえ、三本です。勿論セイツ様が食べたいという事でしたら、一本お譲りしますが」

「さ、三本食べるの?同じの三本なんて、結構いくね…」

 

 美味しそうな匂いを漂わせるフランクフルトは結構大きくて、一本でも満足しそうな感じ。それを二本どころか三本っていうのは、中々アグレッシブで…色々買ってる自分が言うのもアレだけど、がっつり食べる気満々だね、ワイトさん。

 

「頂きま〜す。…うっ、熱っ…!」

「た、確かに熱々ッスね、それがいいっちゃいいんスけど。…おぉ、肉汁もたっぷりでこれは中々……」

「フランクフルトに限らず、普段から食べられるような物もそれなりにあるのがお祭りというものですが…こういう場で食べるからこその良さがあるというものですね。…とはいえやはり、串系は下の部分が食べ辛い……」

「あ、分かる。焼き鳥なんかもそうだよね…って……」

「もう一本目を食べ終わりかけてるんスか…?は、速いッスね…」

 

 熱々で自分もシノちゃんもふーふーしながら食べてるフランクフルトをあっさりと一本完食したワイトさんに、自分達はびっくり。そして自分達が食べ終わる時、ワイトさんは三本目の残り半分まで食べ進めていた。ほんとに速い…。

 

「次は何食べよっかな…ちょっと喉乾いたし、トロピカルジュースも良いなぁ」

「トロピカルジュースって、ちょっと技の名前っぽいッスよね」

「言われてみると確かに…プロレスラー辺りの技にありそうですね、トロピカルジュース」

「決まったーッ!猛攻からのトロピカルジュースーッ!…みたいな?」

「そうそうそんな感…おわぁ!?セイツいつの間に我に返ったの!?」

 

 言われてみるとそれっぽい、トロピカルジュースの技名感。ワイトさんの発言に乗って、実況っぽい事を言ったセイツの言葉に自分は頷いて…それからセイツが普通に会話に入ってきた事に仰天した。フランクフルトに続いてまた驚かされた。

 

「ついさっきよ?」

「我に返った、って表現は別にいいんだ…もう感情に浸るのはいいの?」

「いい訳ないじゃない。感情は千変万化、わたしの好きだって気持ちも尽きる事はないし、ましてや飽きる事なんて有り得ないもの。けど…わたしは思ったのよ。感情にひたすら心を躍らせるのも良いけれど、お祭りで盛り上がる人達の感情に浸る事と、皆と一緒に楽しむ事…両方出来た方が、ずっと良い…ってね」

「セイツ……良い事言ってる感じの雰囲気ッスけど、内容的にはそんなでもないッスね」

「べ、別にいいでしょ?ネプテューヌの質問に答えただけなんだから…」

 

 口を尖らせるセイツをワイトさんが宥めれば、そこまで気にしていなかったらしいセイツは気を取り直す。そうしてセイツも普通にお祭りを楽しみ始めて、自分達は更に食べ歩く。

 

「ん〜♪やっぱりクレープはチョコと生クリームがたっぷりあってこそよね♪」

「セイツもイリゼと同じで甘い物が好きッスねぇ。…なんかウチも食べたくなってきたッス…」

「もうさっきの屋台からは離れちゃったし、別のクレープ屋も近くにはないし、何なら一口食べる?」

「いいんスか?それじゃあお言葉に甘えて…んっ、確かにクリームたっぷりッスね」

「あ、自分にもちょーだい!」

「いいわよ。あ、ワイトも食べる?」

「あぁいえ、私は遠慮しておきます」

「あら、ひょっとして間接キスを気にしてる?流石に女神三人がそれそれ食べたばっかりのクレープは、貴方でも躊躇っちゃうのかしら?」

「そうではなく、私まで食べてはセイツ様の分がかなり減ってしまうのでは、と思ったからです。無論、セイツ様の言う点においても、恐れ多いとは思っていますが……」

 

 にやり、とちょっと悪戯っぽく笑うセイツ。見るからにセイツはワイトさんを揶揄っている、ここからの反応を楽しみにしているって感じで…でもワイトさんは、冷静に返した。誤魔化すとかじゃなく、本当にそう思っていたんだって感じの返答をしていて…これにはぽかーんとしちゃうセイツだった。

…因みにクレープを一口貰った自分だけど、先に同じく甘いトロピカルジュースを飲んでたから、思っていたより甘く感じられなかった。むむぅ…。

 

「見事に返されたッスね、セイツ」

「うっ…でも気遣い故の遠慮って事自体は別に悪い気がしないっていうか…なんかこう、安心感があるわよねワイトって…」

「あー、それはウチも思うッス。ブランちゃんが近衛の隊長にワイトを任命してるのも納得ッスよね」

「あの、お二人共…そう思って頂けるのは非常に光栄なのですが、出来ればそういう話は私に聞こえないよう話して頂けないでしょうか……」

「……!ワイトいいわっ、今の貴方の照れの感情…普段は見られない貴方の一面、凄く素敵よっ!」

「いいじゃないッスか別に、ウチ等は女神としても個人としても信頼出来るーって話をしてるだけなんッスから」

 

 折角貰ったのに…と自分がちょっぴり残念に思っていたら、やり取りはまだ続いていた。今度こそワイトさんが揶揄われていた。あー、でも照れてるって言われてる割にワイトさんそんな顔が赤くなってもいないし、駄弁りの延長線上って感じかな。

 

「…ごほん。話は変わりますが、もう少しで屋台の列も終わる様子です。どうしますか?引き返しますか?」

「あ、確かにそれはそうね。引き返さなきゃお祭りの輪からは出るだけだし、一度戻って別方向に…あら?あれは……」

 

 戻ろう、と返している途中で、ぴたりとセイツが足を止める。セイツは列が途切れる手前、お祭り全体からすると端っこの方にあった屋台の一つに目を向けていて…そこにあったのは、ゆっくりと回る大きなお肉。

 

「これってドネルケバブってやつだよね?セイツ、あのお肉を丸ごと買っちゃう?」

「そんなどこぞの美食屋みたいな事はしないわよ…けど、ドネルケバブは一つ買おうかしらね」

 

 見つけたセイツがまず歩いていって、シノちゃんとワイトさんも後に続く。あれ?今度はワイトさん、皆の分も買ってくるとは言わないんだ、と思って訊いたら、「自分が言い出したものならともかく、そうじゃない物まで『なら自分が買ってくる』と言ったら、逆に皆様に気を遣わせてしまうから」…って説明をしてくれた。いやぁ、ほんと気遣いの人だね、ワイトさんって。

 

「良い匂いね、これは味にも期待が出来るわ。えっと、ソースは…」

「チリソースなんてどうッスか?やっぱり肉にはピリッとした味付けの方が合うと思うッスよ?」

「チリソース、ね…わたし辛いのは苦手だけど、確かチリソースって甘いタイプもあるのよね?そういうのだったらわたしも……」

「お待ち頂けますか、セイツ様。チリソースもまあ選択肢としては存在するのでしょうが、ケバブにかけるならこのヨーグルトソースでしょう」

「ヨーグルトソース?…ヨーグルトって、肉料理と合うの…?」

「合いますよ、そもそもヨーグルトソースというのはプレーンのヨーグルトに塩胡椒やにんにくを加えた、色々なものに合うソースですからね」

 

 注文して、待っている間にセイツはソースを見る。シノちゃんからチリソースはどう?と言われて、ソースの入ったボトルを見て、出来上がったドネルケバブを受け取っ…たところで、横から不意に止められる。すっ…とワイトさんにヨーグルトソースを差し出され、セイツは二人の意見に挟まれる。

 

「意外ッスねぇ、ワイトは辛いの好きなタイプかと思ってたッスけど」

「食べ物にはそれぞれ合う味、合う調味料というのがありますからね」

「ま、それはそうッスけども。で、セイツはどうするんッスか?」

「うー、ん…ごめんなさいね、アイ。勧めてくれたのは嬉しいけど、やっぱりこの赤さには一抹の不安を感じるから今回はヨーグルトソースにするわ」

「ヨーグルトソースの良さを理解して頂けた事、感謝しますよセイツ様」

 

 結局ヨーグルトソースを選んだセイツは、それをドネルケバブに掛けた。どっちかっていうと消去法で選んでた感じだけど…本人的には、ヨーグルトソースの味にも満足してるみたいだった。…にしても、シノちゃんがチリソース勧めて、ワイトさんがヨーグルトソース勧めるって…何だろう、この後いきなり襲われたりしないかな……。

 

「…っていうか、何気に二個買ったのね、ワイト…」

「ほんとに沢山食べるッスねぇ」

「えぇ、まあ。アイ様やネプテューヌ様の言っていた通り、来た以上は楽しまないと損ですからね」

「ワイトさんって、結構ノリもいいよねぇ。もしかして今は皆の前だから我慢してるだけで、いつものお祭りならお酒もばんばん飲んじゃったり?」

「それについては、が想像にお任せしますよ」

 

 割とほんとにどっちなのか分からない返しをしてくるワイトさん。二人もさっぱり分からないみたいで、少し頭を捻った後に自分はどっちか考えるのを放棄。それより…と、これまで三人が食べてきたものを、それぞれなんとなーく思い出す。

 

「…当たり前だけど、皆好きなものって違うよね」

「ほんとに当たり前な事を言うわね…急にどうしたのよ」

「いやほら、セイツは甘いもの、シノちゃんは味が濃いもの、ワイトさんはがっつりしたものって感じに、食べてきたものの方向性が違うでしょ?勿論そうじゃないものも食べてるけど、やっぱり傾向として違いがあるなぁ…なんて思ってさ」

「そういう事ッスか。…でも、それで言うとネプテューヌはあんまり方向性感じられないッスね。無秩序、っていう方向性ッスか?」

「んーん、自分は目に付いたものの中で、これだって感じたものを片っ端から食べてる感じかな」

「それはやはり無秩序なのでは…?」

「そうかなぁ…?」

 

 自分としては無秩序とは違うつもりだったけど、ワイトさんの言葉にはセイツもシノちゃんも頷いていた。無秩序、無秩序かぁ…何者にも縛られない、我が道を行く女神ネプテューヌ……あ、そう考えると結構良いかも。お祭りでその方向性に至った、っていうのはあんまり締まらないけど。

 

「まあ、それはいいんだよ別に。そこは重要なところじゃないし」

「じゃ、何か他に伝えたい事があるの?」

「それもまあ、あるかないかで言えばないけどね」

「えぇ…?じゃあ、どこが重要なのよ…」

「セイツ、何でもかんでも重要性を求める必要なんてないんだよ」

「重要って言葉を先に出したのはネプテューヌでしょ…!?」

 

 狙った通りの反応をしてくれたセイツに、自分は満足。ふざけてるだけだって察したセイツは、不服そうな顔をこっちに向けてきて…その顔を見てから、自分は「でもまぁ」と続ける。

 

「こういうところでも、感じるよね。仲良くなるのに、共通点なんて必要ないって」

「それは……そうね。…何よ、結局重要なところがあるじゃない…」

「別に重要なところなんかじゃないよ?仲良くなりたいって気持ちがあれば…ううん、そんな気持ちすらなくったって、友達にはなれるだなんて、重要じゃなくて普通の事でしょ?」

「それも…うん、その通りね……」

「一本取られたッスね、セイツ」

「くぅ…言ってる内容は文句なしに良い事だから、言い返すにも言い返せない…というか、言い返す必要がないのが凄くこう…こう、なんていうか……」

「さっきの良い事言ってる風で実はそうでもないセイツとは真逆ッスもんね」

「まさかの追撃!?」

 

 何か慰めてあげるのかな?…と思ったら、慰めるどころか追撃をかけたアイ。…でも、気持ちは分かる。だってセイツ、イリゼと同じで反応が面白いし。…あ、別に馬鹿にしてる訳じゃないよ?むしろこっちがしっかりふざけたら、その都度しっかり返してくれるのって、凄く嬉しいもん。

 

「ううぅ、酷い…わざわざ蒸し返してまで弄ってくるなんて……」

「ま、まあ気を取り直して下さいセイツ様。…たこ焼き、美味しいですよ?」

「ありがとう、ワイト…というか、いつの間にかたこ焼きも買っていたのね……」

「すみません、最終的な支払いはセイツ様とイリゼ様にいくというのに、つい…」

「あ…ううん、そういう事じゃないわ。むしろそこを遠慮されちゃ、そっちの方が悲しいもの。…熱っ!で、出来たへにぇ……」

 

 今度こそ慰められたセイツは、はふはふしながら…ほんとにはふはふしながらたこ焼きを食べる。自分とシノちゃんも一つ貰って、やっぱりはふはふ。

 

「た、確かに凄い熱いね…っていうか、何気にシノちゃんも結構食べてない?」

「多分育ち盛りッスからねー」

「多分なんだ…。……お互い、もうちょっと成長したいよね…」

「…したいッスね…」

 

 ちらり、とセイツを…自分達より発育の良いセイツを見て、自分達は小さく呟き合う。でも、この思いは引き摺ったりしない。だって今は、まだ自分達は、賑やかで楽しいお祭りの中にいるんだから。

 とまあ、こんな感じのやり取りなんかもしつつ、ケバブの屋台に寄った後は来た道を引き返していた。引き返して、暫く前に通り過ぎた分かれ道の所に辿り着く。

 

「さっきは全然見てなかったけど、こっちの道も沢山屋台が出てるね…セイツ、シノちゃん、ワイトさん、まだ体力は大丈夫?まだまだどんどん、色んな屋台を回っちゃうよ?」

「構わないッスよー?ウチだって、まだまだ楽しむつもりッスからね」

「勿論わたしだって大丈夫よ。神生オデッセフィアのお祭りを、隅から隅まで楽しんで頂戴」

「では、私も最後までお供しますよ」

 

 くるっと振り返った自分が言えば、シノちゃんはにっと笑って、セイツも神生オデッセフィアのお祭りを、と胸を張る。ワイトさんも2パック目のたこ焼きを片手に持ちながら、穏やかな声で返してくれる。

 割と適当な流れで一緒に回る事になった自分達。他の皆と回ってたら全然違う会話をしてただろうし、別の楽しみや面白さもあったと思う。でも、だからってそういう事を想像しても全然惜しい気持ちにはならない位、この三人と回るのも楽しいし、適当に組んだからこその、知れた事や分かった事もあると思う。それに、まだお祭りは終わっていない。自分は今言った通り、皆とまだまだどんどん回って、楽しんで…って……

 

『いや、ほんとに沢山食べる(わ・ッス)ね、ワイト(さん)……』

 

 色々知ったと思うけど、理解を深められたと思うけど、なんだかんだ一番印象に残ったのは、ワイトさんはかなりの大食い、って事かもしれない。割とほんとにそう思いながら、セイツやシノちゃんと一緒に苦笑いをする自分だった。




今回のパロディ解説

・「〜〜それがいい、そうしよう、とイリスは言いました」
かさこじぞうに登場するキャラの一人、お婆さんの発言のパロディ。…いやまあ、何も間違ってはいませんからね?昔話も創作である以上、こういう解説をするのも間違ってはいない筈です。

・「〜〜黒い仮面付けて〜〜」
SYNDUALITY Noirに登場するキャラの一人、黒仮面の事。一応作中でも名前は出てきています…が、公式サイトでの名前は「黒仮面」なので、こちらの名称で書かせて頂きました。

・「〜〜どこぞの美食屋〜〜」
トリコの主人公、トリコの事。グルメタウンでのワンシーンのパロディですね。ただの作中で多数あるネタの一つですが、これが凄く印象に残っている私です。

・シノちゃんがチリソース〜〜襲われたりしないかな……。
ガンダムSEEDシリーズの登場キャスの一人(二人)、カガリ・ユラ・アスハとアンドリュー・バルドフェルドのやり取りのパロディ。ワイトは勿論、アイも髪の色や立場的な意味でのパロネタになっています。




 OS合同コラボの番外編は、次話での終了を予定しております。そしてその後はあとがきを投稿する予定です。あとがき含めて残り二話、含めなければ残りは一話になるであろうコラボをどうぞ、最後までお楽しみ下さい。
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