超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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番外編 いつかまた、皆で

 そういえば、ゲイムギョウ界に来てから祭りに行った事はこれまであったか。イリゼ達に誘われた時、初めに思ったのはそれだった。なかったかもしれないな、とまず思って…次に思ったのは、ゲイムギョウ界にも祭りはあるのか、って事だった。ゲイムギョウ界は俺のいた世界と似ている部分が多いんだから、あっても不思議じゃないが…それでも少しだけ、驚いた。

 皆が帰る前の、最後のイベントとして、一緒に祭りに行く。…良いじゃないか。皆で賑やかな祭りを楽しんで、そこでもう一つ思い出を作る。イリゼはそういうのが好きだろうし…俺だって、好きだ。

 

「おっ、この焼きとうもろこし美味いな…皆も買ってみたらどうだ?」

「あ、一口あげるとかじゃないんだ…」

「だってこれ、普通に二口目いきたくなる美味さだぜ?なら一口あげるより、買うの勧めた方がいいだろ?」

 

 買った焼きとうもろこしに齧り付いた後、グレイブがそれを勧めてくる。焼きとうもろこしならではの香ばしい匂いはグレイブが買ってきた時点から漂ってきていて、ビッキィに対するグレイブの返しもきっとそうなんだろうな、って納得がいく。

 

「焼きとうもろこし、か…買ってみようかな」

「わたしもそうします。…と、思ったけど…どうしよう、隣の焼き鳥もなんか食べたくなってきた…両方買おうかな…」

「僕は…どうしよう。カイトさんはどうするの?」

「俺は焼き鳥にするかな。何なら半分ずつ食べるか?」

「それ良いかも、ありがとカイトさん!」

 

 という訳で、俺は焼き鳥を、ピーシェと愛月は焼きとうもろこしを、そしてビッキィは両方を買う事に決定。肉の旨みがばっちりとある焼き鳥と、匂い通りの甘じょっぱさを楽しめる焼きとうもろこしはどっちも美味しく、ボリューム的にも結構満足。これは買って正解だったなと思いつつ、俺は四人と祭りを回る。

 

「ふぅ、美味しかった…でもこの二つを食べた後だと、今度はばっちり甘いものが食べたくなるな…。甘いものといえば……」

「やはり綿菓子が定番では?水飴とかチョコバナナなんかも定番だけど…綿菓子なら、見た目通り軽く食べられますし」

「綿菓子…綿菓子と言えば、チルット…るーちゃんの羽は綿菓子みたいだよな」

『あー』

 

 ピーシェとビッキィのやり取りを聞いていたグレイブが挙げたのは、るーちゃんの名前。確かにるーちゃんの翼は綿雲の様で、綿菓子の様にもよく見える。チルタリスの姿の時より翼も身体全体も小さくて丸っこい分、なんなら翼だけじゃなくチルットの姿のるーちゃんは全体的にお菓子感がある。…それは分かる、分かるが……

 

「…何食べよう、って時にそんな事言うか…?」

「いや、ほら…グレイブ、そういう事は気にしないっていうか、頭に浮かびもしないタイプだから…」

『あぁー』

「おい、あぁーってなんだあぁーって…なんで三人共納得してんだ…」

「けど実際、浮かんでなかったんだろ?」

「…それは、まぁ」

 

見るからに不満そうなグレイブだったが、さらりと俺が返せば、否定は出来なかったようで認める。けどやっぱり顔はまだ不満そうで、そんなグレイブに俺達は苦笑い。

 駆け出して行ったグレイブと、追いかけて行った愛月について行く形で、俺はお祭りの輪の中に入っていった。二人共旅をしてるだけあって、見た目よりしっかりしている訳だが、それでも二人だけで行かせるのは少し不安があって、俺は一緒に回ろうと決めた。

 でもって、俺達三人とピーシェ、ビッキィの二人組が合流したのはついさっき。ある屋台の列に並んだら、前の客が見覚えのある後ろ姿をしていて、実はそれが二人だったっていう、完全に偶然の巡り合わせで合流をした。

 

「じゃあわたし、ぱぱっと綿菓子買ってきます!すぐ戻ります!」

「いや、別に急がなくても…って、人混みの中なのに速いなビッキィ…身のこなしも相変わらず軽やかだし……」

「知っての通り、ビッキィは体術が得意ですからね」

「体術…そうか、人の間を上手くすり抜けるのも、体術と言えば体術だよな…。……迷惑にならない程度に人混みに突っ込んでいけば、訓練の一環にもなるか…?」

「…カイトさんは、自己鍛錬に余念がないですね。グレイブと毎日朝練もしてるらしいですし」

「強くなりたい理由は色々とあるからな。でも、朝練に関しちゃ面白いから…って言うのも大きいぞ?何せグレイブ、毎回こっちの予想を超える事をしてくれるしさ」

 

 待っている間、ピーシェと話す。思い返せばピーシェと二人で話す事ってあんまりなかったと思うし、丁度良い機会かもしれない。…と、思った俺だが、特別話したい何かがある訳じゃなく、結局ただの雑談に。けど、それはそれで悪くない雑談が出来たと思うし、別に良いよな。

 

「お待たせしました、ふわふわです!後、出来立てなので温かいです!」

「ああ、報告ご苦労」

「はっ!…って、グレイブはわたしの上司じゃないでしょうが」

「と、言いつつ一回乗ってたよね、ビッキィ」

「いやそれはほら、それこそノリっていうか…」

 

 ちょっと笑いながら言う愛月に、ビッキィは頬を掻きつつ返す。三人のやり取りを、ピーシェは苦笑しつつ眺める。

 今回信次元に来て出会った俺と違って、四人はその前からの知り合いなんだとか。…前からの知り合い、といえば……。

 

「確か、四人が出会ったのは、ピーシェとビッキィの次元なんだよな?で、イリゼ達も一緒だったって聞いたけど、それって何がどうして飛ばされたんだ?」

『…さぁ?』

「あ、分かってないのか…」

 

 ふと思い出した事を訊いてみた俺だが、どうも全員分かっていない様子。それで良いのか、と思っていたら、俺の内心を察したようにピーシェが質問を返してきた。

 

「カイトさんも、ルナやイリゼさん達と不思議な空間で出会ったんですよね?そっちは原因って分かってるんですか?」

「それなら全部終わった後にざっくりした説明を、黒幕の一人にされたな。で、最近…というか、今回信次元に来て、もっと細かい説明を受けた」

「イリゼからか?」

「いや、四人いた黒幕の内半分から」

『黒幕信次元にいたの(かよ)!?』

 

 揃ってびっくりした顔をする四人。まぁそりゃそうだよな、と俺は四人の反応に苦笑をしつつ、言葉を続ける。

 

「ちゃんと話すと長くなるが…要は、その黒幕と和解出来たって事だよ。黒幕全員とじゃなくて、行方知れずの黒幕もいるって話だけどな」

「それはまた…良かった、んですよね…?」

「あぁ、良かったよ。前の時は分からない部分も色々あったし、終わった事って言っても、ちょっと気になってたからさ」

「…寛容なんですね。その空間での出来事を、私は殆ど知りませんけど…黒幕がいたって事は、仕組まれた事…嵌められたって事なのに」

「まあ、俺も皆も二つ返事で許した訳じゃねぇよ。けど、二人共本気で謝ってくれたし…あの時二人にも言ったが、今俺がここにいるのも、皆と出会えたのも、あそこでの事があったからだからな。それを思えば…やっぱ、良かったって思えるんだよ」

「へぇ…前向きだな、カイトは」

「そうか?これに関しちゃ皆も同じような感じだったぞ?」

 

 前向きに考えようとしてそう結論付けた訳じゃない俺は、『前向き』と言われてもあまり実感がない。勿論、あの時は最終的に…今回の仮想空間と同じように何とかなったからこう考えられてる部分もあるとは思うが…今振り返っても、やっぱりそこまでの怒りは、ない。

 

「巡り合わせ…ってやつ、だよね?そういう事なら、僕達だってピーシェとビッキィの次元に飛ばされてなかったら、皆と出会う事もなかったと思うし」

「…いや、俺達に関しちゃその前にイリゼと出会ってる訳だし、仮に二人の次元に行ってなくても結局は出会ってたかもしれないんじゃないか?」

「グレイブ…それはそうかもしれないけど、すぐにそんな事言わないでよ……」

「……でも、そうだとしても…その時は出会い方も、出会う瞬間も変わっていた訳で…二人と皆との関係は、今とは違うものになっていたかもしれない…そうとも言えるんじゃない、かな」

 

 ばっさりと返すグレイブの言葉に、愛月はがっくり。容赦ないなぁ、と俺やビッキィは思わず笑い…けどピーシェは笑う事も肩を竦める事もなく、柔らかな顔をして愛月に言った。結局出会ってたかもしれないけど、そうだったらきっと違う形になっていたと、『今』には繋がらないだろうと、柔らかくも真剣な顔で。その言葉に、愛月は目を丸くして…それから、そうだよねと頷いた。今の出会い方が出来て良かった、今の関係を築けて良かった…そんな風に感じられる表情を浮かべて。

 

「今の関係は、あの時あの出会いがあったから…か…こういうのにぴったりな言葉がありましたよね。えっと…苺市へ、でしたっけ?」

「いや一期一会でしょう…なんですかその苺限定の市場って……」

「う…じょ、冗談ですからね…?」

 

 半眼で突っ込まれ、本気で言っていた訳じゃないと返すビッキィ。本当に冗談だったのか、誤魔化しただけなのかは分からないが…そこは掘り下げないでおこう。誤魔化しただけだったら、掘り下げるのはビッキィが可哀想だ。

 

「さて、この話はこれ位にしようぜ?祭りとは関係ないしな」

「まあ、それもそうですね。…次は何食べようかな…」

「俺はなんか、肉系が食べたい気分だな。さっきの焼き鳥屋…はもう離れちまったし、近くにそういう店は……おっ、射的屋だ。行ってみようぜ?」

((肉は…?))

 

 数秒前まで探していたものを速攻忘れたかのようなグレイブの発言に、俺達はぽかんとなる。グレイブが色々自由なのはもう十分分かっているが、分かっていても「え?」となるのがグレイブの行動で…けどまあ射的は俺も気になるから、取り敢えず後を追う事にした。

 

「射的かぁ…ワイトさんとか影さんとか、イヴさんとかは得意そうだよね」

「得意そうっていうか、実際銃器使ってるもんな。…やってくか?」

「やってきますか、面白そうですし」

 

 俺が問い掛ければ、ピーシェが答え、ビッキィも頷く。一番乗りのグレイブも勿論やる気で…俺達は全員、1ゲームやってみる事に。

 

「菓子にプラモ、TCGの構築済みデッキにゲーム機本体か…やっぱ高いの狙いたいところだが……」

「倒れないからね、基本。倒れて落ちないと駄目っぽいし」

 

 初めにやる事になったグレイブとビッキィが、銃にコルク弾を込める。台から身を乗り出して撃つのはアウトだが、多少身体を前に傾けて手を伸ばす位なら良いって事で、二人共アウトにならないギリギリまで銃を狙う対象へ近付ける。

 二人は何を狙うのか。小さいが幾つも置いてあるから『外れたけど別のに当たった』が意外と起きるし、軽いから当たれば大概落ちてくれるお菓子にするのか、目玉の商品に勝負を掛けるのか。俺達が見つめる中、真剣な顔を浮かべた二人は静かになり…銃を撃つ。コルク弾は飛んでいき……ゲーム機の箱に弾かれる。

 

「やっぱり重い、か……」

「あちゃー、ビクともしねぇ…ってか、ビッキィもあれ狙ったんだな」

「落とし易いのを狙ったって、それで狙った通りに落とせたって、面白くない…そうでしょ?」

「だな。よっし、ここはウーパになったつもりでもう一度…!」

 

 ハイリスクハイリターンを狙って失敗した二人だが、狙いも気持ちも変わっていないようで、そのままゲーム機を狙う。二人共集中力は流石と言うべきか、一発も外す事なく、途中で諦めて別の景品に変えたりする事なく、残弾ゲーム機の箱へと当てて……けれど、ゲーム機が落ちる事はなかった。多少の動いた…気はするが、獲得には程遠いまま、二人共弾が尽きてしまった。

 

「ぐっ…こうなる可能性が高いとは思ってたが、やっぱ悔しいな……」

「うん、悔しい…けど、狙うって決めたのはわたし自身なんだから、これでいい」

「割り切ってんなぁ、ビッキィは。…あれ、でも待てよ…?イリゼは遠慮せず、好きなだけお祭りを楽しんでくれればいいって言ってたよな?じゃあ……」

「こら、それは男としてどうかと思うぞグレイブ」

「だよなー、そんな事しねぇって」

 

 言葉通り、グレイブはビッキィと共に銃を置いて下がる。次の番として、今度は愛月とピーシェが銃を持つ。最初の二人がやっている最中に愛月達とは少し話していたが、愛月とピーシェは大当たりより確実な景品ゲットを…って事で、軽いお菓子の箱を狙うらしい。

 

「えっと、弾を込めて、このバーを引いて…あれ?順番逆だっけ…?」

「逆だな。バーを操作する時、指挟んだりしないよう気を付けろよ?」

「だ、だよね。…よし、弾は込められたから、後はよく狙って……」

「愛月、銃の先にちょっと出っ張りがあるだろ?それを狙う時の参考にするといいぞ」

「そうなんだ。グレイブもカイトさんもありがとね」

 

 手早く準備を整えたピーシェに対して、愛月は慣れていない様子。とはいえ別に難しい作業がある訳でもないから、一回の説明で愛月は理解して射的を始める。話していた通り、二人はお菓子を狙い…早速景品を一つ獲得。二発目もまたお菓子を狙って、着実に獲得した景品を増やしていく。

 

「二人共楽しそうだな。ピーシェは必中必殺…いや殺、ではないが…で成功させてるのを楽しんでるっぽいし、愛月はもっと純粋に、撃って当ててを楽しんでるみたいだしさ」

「みたいですね。…に、しても…」

「うん?」

「いや、カイトさんは面倒見が良いんだなぁ…と思いまして。今回カイトさんが二人と一緒にいたのは、元々二人を気にかけて追い掛けたからでしょう?」

「あー…まぁ、な」

 

 そう言って小さく笑うビッキィに、まぁそうかもしれないと頷く。勿論自分が面倒見の良いタイプだ、とか自負してる訳じゃないが、つい心配して追い掛けちまったのは事実だしな。

 

「それで言うなら、ビッキィは…何だろうな。ピーシェの部下っていうか…従者?…なのは分かるけど、ちょっと友達みたいな感じもあるというか……」

「みたいな感じ?え、二人は友達だったんじゃないのか?」

「…そう見えてた?」

「見えてたも何も、上司と部下にしちゃお互い接し方が緩過ぎじゃねーか?ぶっちゃけ俺は上司部下の関係なんてよく分かんないけど」

「よく分からないのに言ったのか…けど、俺もグレイブに同感だな。ビッキィが一方的にじゃなくて、お互いにって意味でさ」

 

 元の世界での経験だったり、特命隊での活動を思い出しても、ビッキィとピーシェの関係はただの上下の繋がりじゃないというか、それよりお互い気兼ねなく話せているような…そんな気がする。イリゼやネプテューヌ達女神は立場や権力を鼻にかける事はしないし、ピーシェもそうだから、っていうのもあるんだろうが…そういうのを抜きにしても、二人は仲が良い…そういう風に、俺には見えている。そして、俺達から言われたビッキィはといえば……

 

「そ、そうですか?…そうですか…へぇ、そっか…そうなんだ……」

「…ビッキィって、分かり易いんだよなぁ」

「はは、みたいだな」

 

 にやにやとは違う、こう…にへら〜、って感じに口元を緩めて、嬉しそうにしていた。グレイブの言う通り、凄くビッキィは分かり易かった。

 

「ふぅ、最後の最後で一発外れちゃった…ピーシェは凄いね、全弾命中でしょ?」

「ふふ、今日は運が良かったみたいです。…ビッキィ?え、何その凄まじく変な顔……」

「へ、変な顔!?わたし変な顔してました!?」

『してたしてた』

「全員!?四人全員にそう思われるような顔だった!?」

 

 それまでとは一転したショック顔でビッキィは狼狽える。これもまた分かり易い反応で、俺達男三人はにやりと笑い…ピーシェも笑っていた。けどピーシェは俺達とは違って、どこか穏やかな…「全く、ビッキィったらほんと…」と言うような、言いそうな感じの顔だった。…やっぱ、仲良いんだな。

 

「…こほん。最後はカイトさんですね」

「最後なんだから、良いところ見せてくれよ〜カイト。折角だし、二丁持ちするとかしてさ」

「射的で二丁持ちって、そんなどこぞのペン回しが得意な主人公みたいな事を求められてもな…」

 

 無茶振り…かどうかも分からないグレイブの発言に返しながら、俺は前に出て銃を持つ。コルク弾を装填して、改めて景品を見る。

 

(一つ二つ菓子を狙うのも良いが…やっぱ、大物を狙いたいよな。問題はどうやって落とすかだが……)

 

 一番高い、一番の当たりは間違いなくゲーム機だが、グレイブとビッキィの結果から考えれば、全弾当てても恐らく落ちない。何回もプレイして、何十発と当て続ければ可能性はあるかもしれないが…そういうのはマナー違反ってもんだろう。

 じゃあ、何を狙うか。どうやって落とすか。狙う位置は真ん中より、上部左右の方がいいって聞いた事はあるが、それだけじゃ多分落とせない。確実に落としたいなら、落とせる可能性がそれなりにあって、尚且つ高めの、比較的当たりと言えるやつを狙って……

 

「…いや、そんな小難しく考える事でもねぇか。よし、決めた」

 

 深く考え始めようとしていたところで立ち止まり、一旦思考を止める。感覚で、これだってものを決める。

 狙うのは、プラモデル。箱のサイズの割に軽いから、大物の中じゃ落ち易いかもしれない。思考としてはこの程度で、後は何となく。けどそれで良い。俺が楽しみたいのは景品を取った後じゃなくて、射的そのものなんだから。

 

「この辺り、かな…!」

「あ、カイトさんはプラモデルを狙うんだね」

「少し下がった…けど、まだまだって感じだな」

 

 出来るだけ手がぶれないように撃った一発目は、狙い通りの位置に当たった…が、本当に少し下がっただけ。下がったというか、当たった位置から少しずれただけというか…とにかく地味な結果。

 狙う位置は間違ってない筈だ、と二発目を撃つ。二発目も大体狙った位置に当たり、また箱が下がる。

 

「…そういえば、揺れている間に当てれば揺れが大きくなって、当然その分倒れ易くはなりますよね」

「それはまぁ。でも、一発毎に弾を込め直さないといけない射的でそれを狙うのは…ね」

 

 現実的じゃない、とビッキィの言葉に返すピーシェ。そのやり取りを聞きながら、俺は三発目も撃ち…多分、最初よりは確かに下がってる。同じ位置を狙ってるから、斜めにもなっている。ただ…いけそうな感じはない。残りの弾数で何とかなる感じも…ない。

 さて、どうするか。諦めて別のを狙うか、一か八か狙い続けるか。このまま狙っても結局無駄になりそうな気はするが……まあ、だとしても後者しかないな。

 

(せめて倒す…倒してみせる…!)

 

 意識を景品に、的にだけに集中させる。剣や打撃と違って力を込めても威力は変わらない事に歯痒さを感じながらも、当てる事だけを考える。一発目から変わらない、狙って撃って、狙って撃ってを繰り返し…残りは、一発。

 

「さあ、次がカイト選手の最後の一発です。厳しい勝負ですね」

「はい。しかし彼の目は死んでいないようですよ」

「…グレイブもビッキィも何してるの…?」

「多分、放送席ごっこ…かなぁ」

 

 後ろで聞こえる妙なやり取りは気にせず、引き金に指を掛ける。ゆっくりと息を吐き……撃つ。

 

『……!ぐらついてる…!』

 

 当たり、弾かれるコルク弾。一方のプラモの箱は…これまでで一番、揺れていた。一度揺れたとかじゃなく、箱が前後に何度も揺れる。

 緊張する。一気に心拍数が上がる。まるでバスケのゴールリング上でボールが回っている時の様な、それか野球のアウト・セーフ判定を審判全員が集まって話している時の様な、期待と不安の混ざり合った感情が胸の中で渦巻く。そして、本来以上に長く感じる時間の末……箱が、倒れる。

 

「…やった…よっしゃあ!」

「やるな…俺やビッキィの狙ったゲーム機よりはずっと軽いだろうとはいえ、箱を倒しちまうとは……」

「成果ゼロを恐れて狙いを変えていたら、この結果は得られなかった……大したものです、カイトさん」

 

 色んな人がいる前だって事も忘れて、俺は嬉しさのあまりガッツポーズ。グレイブとピーシェからは驚き混じりの賞賛を受け、ありがとうと俺は返す。

 

「おめでとうございます。…けど…正直、悔しい…!こうなると、何も手に入らなかった事が後悔はなくても凄く悔しい…!」

「あはは、でも最後までゲーム機に挑戦してたビッキィはちょっと格好良かったよ?でも、ほんと凄いねカイトさん。これでカイトさんはプラモを……」

『……?』

 

 言葉通り悔しさを滲ませる…というか思いっ切り見せるビッキィに、俺達は苦笑い。それから俺は、改めてプラモの箱を…大物を倒した充足感を、じっくりと味わう。これは、挑戦したから味わえた感覚だ。この感覚は、小さいお菓子を確実に取っていった時の満足感より上回る…とは限らないが、少なくとも挑戦をしたからこその、挑戦した先だからこその充足感である事は、間違いない。

 そんな充足感を味わいながら、俺は愛月の言葉に頷こうとし…だがその直前に、愛月は止まる。何かに気付いたような顔で黙り、急になんだ?…と俺達が困惑する中……愛月は、言う。

 

「…えっと…これ、倒れたら獲得なんだっけ…?下に落とさないと駄目じゃないっけ…?」

『あ……』

 

 忘れていた…喜びのあまり失念していた、射的のよくあるルール。はっとして屋台の方に顔を向ければ、そこでは俺達が完全に獲得したつもりで話してたせいで言い辛かったのか、店主さんが苦笑気味の顔をしていて……自分の完全なぬか喜びに、自分で笑ってしまう俺だった。

 

 

 

 

 最後の思い出を作る。この表現は、正直好きじゃない。だってそれは、その思い出作りになる行為で終わりになる、って事だから。出来る事なら、最後にはならないでほしい…いっそ普段から簡単に行き来出来るようになればな、っていうのが私の本音だけど、流石にそれは無理ってもの。将来的にはそうなるようにしたいし、その為に頑張るつもりではあるけども、今はどうしようもない。

 ただでも、残念なのはどうにもならないにしても、その事をずっと考えているんじゃ楽しめるものも楽しめない。そして…最後の思い出が残念な気持ちばかりになってしまうのは…あまりにも、勿体無いよね。

 

「ところでぜーちゃん、これって何の祭りなの?」

「あぁ、それは私も気になっていたわ。これだけの規模のお祭りなんだから、ちゃんとした趣旨があるんでしょ?」

 

 チョコバナナの屋台の列に並んでいる最中、茜とイヴからこの祭りについて訊かれる。

 今私は、二人に影君を加えた三人とお祭りを回っている。最初はお祭りの賑わいをゆっくりと眺めていたイヴに私が声を掛けて、そこから二人纏めて茜に誘われて、それで四人組に…って感じ。

 

「うん、勿論あるよ。単純に大きいイベントを企画開催する事で、神生オデッセフィアへの観光客を呼ぼうっていう狙いもあるし、神生オデッセフィアで新しくお店や事業を始めた人は当然まだ知名度が低い場合が多いから、そういう人や組織に向けたアピールの場の提供…要は屋台を介して名前を知ってもらったり、飲食店なら自分達の技術や得意な事を用いた屋台にする事でアピールしてもらおうっていう考えもあるし、後は……」

「ここ周辺…特に空き家が犯罪者の隠れ家になるのを避ける為、か」

「…それもそう、だね。偶にでも不特定多数の人が集まったり、その事前調査として私達が来る事があれば、そういう危険を予防出来るし。ただ、出店する人達に除草作業への協力を頼む事で、荒れ放題になるのを避けたり、出店側にしろお客側にしろ、訪れる事で『この辺りに住むのも良いかも』って思ってもらえるかもしれない機会を作る…みたいな事も狙いにしてたりはするよ」

「ごめんねぜーちゃん、えー君が盛り下がるような事言って」

「あはは…まぁ、間違ってはいないしね…」

 

 頬を掻きつつ、影君のフォローをする私。ただまぁ、私が言っている最中に挟み込んでまで言う事がそれ…?…とは思ったよね…いやほんと、そういう観点もあるし、正解ではあるんだけど、ほんとデリカシーがないというかなんというか…。

 

「貴方は遠慮がないわね、ほんと…」

「…まぁ、すまん」

「そんな事言うえー君には、チョコバナナ半分あげないからね?ぜーちゃんやゆりちゃんもあげちゃ駄目だからね?」

「俺は犬か何かか…」

 

 半眼で突っ込む影君の前で、茜はチョコバナナを大きくぱくり。そのやり取りに苦笑しつつ、私とイヴもチョコバナナを食べる。んっ、やっぱりチョコバナナって、チョコの濃厚な甘さと、バナナのまったりした甘さを同時に楽しめるのが良いんだよね。

 

「…うん?今の口振り…元々茜は半分あげるつもりだったのかしら」

「そういう事、なんじゃないかな?…あげてる光景なんて、台詞付きで容易に想像出来るし…」

「そうね…貴女よりずっと付き合いの短い私でも容易に想像出来るわ…」

 

 恐らく同じような光景を想像しつつ、また私達は苦笑い。すると茜はきょとんとした顔をした後、影君とやり取りをし…結局あげていた。端的に言うと、いちゃついていた。

 

「こほん。初日から今日まで色々と見てきたが、イリゼは精力的に国の運営をしているんだな。女神なんだから、当然と言えば当然だが」

「私もそれは感じたわ。イリゼは自分の国の『今』をかなりしっかり把握してるみたいでもあるし」

「ふっ…それが女神として、国の指導者として求められる事な以上、私は応え、国民の幸福に繋げるまで。神生オデッセフィアをより豊かで、より魅力的な国にするまでの事。…なんて、ね。でもやっぱり、それはうちが出来たばかりの国だから、っていうのも大きいかなぁ…他の国が何十年何百年…ううん、それ以上に積み上げてきた、国として積み重ねてきた経験や知識が、神生オデッセフィアにはない訳だから」

 

 頑張っている事自体は否定しないけど、という形で私は返す。まだ国として若い、生まれたばかりの神生オデッセフィアは、国家という道における新人の様なもの。ベテランなら分かってる、手際良くやれる事も、新人の場合は資料を一から読まなきゃいけなかったり、ちょっとした事でも手間取ったりしてしまうのと同じように、今はまだ任せちゃうより、女神である私やセイツが関わっていった方がいい事も多いし…私だって、女神だって、国の長としてはまだ新人。前は守護女神の皆が立場の割に仕事をしてないように思えた事もあったけど、それも皆が国の長としてベテランだからこそ。

 そんな今だからこそ、私は言える。忙しいのが、色んな仕事を積極的に女神がしている状態というのは、決してそれが在るべき女神の姿とは限らない…って。

 

「いやぁ、ほんとにぜーちゃんは国を守護する女神になったんだねぇ…うぅ、ぜーちゃんがこの位の頃から知ってるあかねぇは感慨深いよ…」

「この位って…それ普通に今の私の身長と同じ高さじゃん…言葉的にはそれで正しいけどさ……」

「自分と同じ位の高さまで手を上げて、『この位の頃から』なんて言う人初めて見たわ…」

「多分そうそう…別次元や別世界まで範囲を広げても、そうそういないんじゃないかな、そういう人は…。…ところで皆、遠慮してない?もっと色々買ってくれていいからね?」

「別に遠慮はしてないが、な」

 

 別に、と言いつつ影君はある屋台の方へ行く。向かった先は、チュロスの出店で…あ、チュロスも良いかも。私も買おっと。

 

「チョコチュロス…影君ってさ、チョコ好きだよね」

「私的には、甘い物が好きな事自体が少し意外だわ」

「あ、それは私も思った」

「確かにイメージとか雰囲気だけなら、えー君って好き嫌いがない…何でも食べるっていうより、食事自体を単なる栄養補給位に考えてそーな感じあるよねぇ」

「俺を何だと思ってやがる…それと、言っておくがチョコレートは優秀な食品だぞ?単に美味しく糖分補給出来るというだけじゃなく、高カロリー且つリラックス効果もあり、更には携帯にも向いている。伊達に非常食として選択肢に上がる食べ物じゃないって事だ」

『あ、うん…(結構しっかり返された…)』

 

 斜め上の返しに、私達は軽く困惑。ただまぁ、影君のチョコに対する熱意はよく分かった。そして私の買ったプレーンのチュロスも美味しかった。

 

「…あ…そういえば……」

「ゆりちゃんどうかしたの?」

「今思い出したけど…結局、仮想空間での活動の、『優勝者』は無し…って事にするの?」

「あー、そういえば…もしかしてゆりちゃん、実は別荘欲しかったの?」

「いや、思い出しただけよ。それに私の稼ぎじゃどっちにしろ優勝は無理だろうし」

 

 言われて初めて私も思い出す、優勝者についての件。言うまでもなく、活動はバグによって中止せざるを得なくなっちゃったし、途中で中止になった以上、優勝者なんていないに決まってるんだけど…再開はなし、代わりの勝負もなしで優勝者も決めない、優勝者無しだから景品も無い…って事にするのは、ちょっと不親切じゃないかと思う。

 でもそうなると、今度はどう順位を決めるのかが問題になる。中止の直前、カジノの終了時点での結果から…っていうのが一番分かり易くはあるけど、それもそれで「あの後も普通にやっていたら、誰かが逆転していたかもしれない」「あの時点で終わると分かっていたら、違う作戦を立てていた」…みたいな反論が成立する訳で…。

 

「…うー、ん…いつかまた、皆でもう一度やる…それも可能ならデータを引き継ぐ形で、っていうのが一番無難かな…」

「その口振りだと、次元や世界を超える事はそんなハードルに感じてないみたいね…でも、それも良いんじゃないかしら?尤も皆なら、そもそもそこまで優勝に拘ってないっていうか、楽しめたからそれで十分…って言うと思うけどね」

「だよねー。それにしても、初めは皆と少し距離のあったゆりちゃんが、今や自分からそんな事を言うなんて…ゆりちゃんがこの位の頃から知ってるあかねぇとしては感慨深いよ…」

「え、それ私にもやるの…?」

 

 天丼ネタをしてきた茜に、「えぇ…?」って反応をするイヴ。でも、確かにイヴとの距離感は縮まったと思うし…仮想空間の問題が解決して以降、茜とイヴは更に仲良くなった気がする。詳しくは知らないけど、雨降って地固まる…的な事なんだと思う。多分。

 

「まぁ、イリゼのしたいようにすれば良いさ。それでまた何か問題があれば…気が向いたら、協力する」

「ふふっ、ありがとね影君。問題は起こらないのが一番だけど…何かあれば、頼りにさせてもらうね」

「…あいよ」

 

 気が向いたら、なんて素直じゃないなぁ。けど、それが影君だもんね。そう思って、私は笑みを浮かべて返す。すると影君も、一拍置いた後に、小さく笑みを浮かべてくれた。

 さっきからあんまりお祭りらしい話をしていない気がする。だけど別に、だからって気不味い訳じゃないし、楽しく話せればその内容に拘る必要なんてないよね。そんな風に考えながら、私は皆と歩き、見つけた屋台でりんご飴を購入する。

 

「うん、これも美味し♪でも垂れてベタつかないように気を付けないと…」

「…イリゼ、さっきから甘い物ばかり食べてない?」

「へ?…言われてみると、そうかも……」

「それに量も結構多いな。太るぞ」

「んな…っ!?ちょっ、え、影君!?幾ら何でも、それはデリカシーがなさ過ぎるよ!?」

『…………』

「…視線が痛い……」

 

 折角さっきは良い感じだったのに、今の発言で一気に台無し。これには茜とイヴも味方してくれて、無言の視線が影君へと向けられる。ふ、太るって…女の子に対して、甘い物を楽しんでる時にそれを言うだなんて…ほんっとに、もう…!

 

「ふーんだ…別次元はどうか分からないけど、信次元の女神は皆それなりに沢山食べるんだもんねー…本来シェアエナジーで賄ってるエネルギーの確保を普通の食事で代替してる以上、沢山食べないと賄えないだけだもんねー…」

「ほらもーぜーちゃん拗ねちゃったじゃん。えー君、謝らないと駄目だよ」

「この流れで怒ったと思いきや拗ね始めるのか…」

「話を逸らさないで謝った方が良いと思うわよ」

「あー、へいへい…悪いイリゼ、配慮が足らなかった」

「…そういうとこ、ほんと気を付けた方がいいからね?」

 

 ジト目で私が言えば、影君は「なんでこうなるかなぁ」と言いたげな顔をしながらも、一応は頷いた。意識しないで言ってるっぽいから、気を付けてどうにかなる事でもないのかもしれないけど…ちょっとは改善される事に期待しよう、うん。

 

「…まあ、それはそうとして…確かに私、甘い物ばっかり買ってるし、これの後は何かしょっぱい物にしよっかな…唐揚げとか、フライドポテトとか……あ、水飴…」

『りんご飴の後に水飴…?』

「あ、さ、流石にしないよ!?水飴も良いなぁと思ったけど、流石に次はしょっぱい物食べるつもりだからね!?」

「…だとしても、全体的にイリゼ、選ぶ食べ物が子供っぽいわね」

「うぐっ…そ、それに関しては、そもそもお祭りの屋台で取り扱うのが、基本子供に人気の出易い食べ物が多いだけだと思うんだけどなー…!」

 

 くすりと笑いながらはっされたイヴの言葉に、私は反論する…も、我ながら誤魔化してる感が凄い。お祭りの屋台は子供受けする物が多い、これは間違ってないと思うんだけど、ほんと言い方が悪い。うぐぐ…イヴにまで私の弄り方を把握されちゃ堪らないよ…!

 

「……って、私の弄り方って何!?それを自分から考えてる私も何!?」

『は、はい?』

「……こ…これで勝ったと思うなよーッ!」

『はい!?』

 

 自爆も自爆、盛大に自爆。有りもしない罠に引っ掛かって悪癖を発動し醜態を晒した事で、私は恥ずかしさが一気に募り……思わず捨て台詞を吐きながら逃げ出してしまった。人だかりの中でダッシュ…は、危ないし迷惑になるから、跳んで人混みから出てから疾走して数分程失踪してしまった。

 

「…うぅ、うぅぅ…自爆もそうだけど、そこからの行動が全部恥ずかし過ぎる…しかも何よ、疾走して失踪って…何地の文で駄洒落言ってるの私……」

「あ、良かったぜーちゃん戻ってきた…え、お面?」

 

 数分後、三人を探して合流した私は、色々困惑させてしまった事を謝罪。ただでも、まだ私はちょっと恥ずかしく…道中で見つけたお面の屋台で買った、兎のお面を頭に掛けておく事で軽く視線を逸らしていた。…被らないのか、って?いや、ほら…謝るのに顔を隠してたら、それは失礼だし…。

 

「なんか、こう…微妙に格好良さのある兎ね…しかもお面もちょっと厚みがあるみたいだし」

「あ、うん。このお面の屋台をやっていたのが工芸家の人でね、練習と宣伝を兼ねて自作のお面を売ってるらしいんだ」

「へぇ…そのお面、大丈夫?店名に『しあわせの』って付いてたり、今ぜーちゃんの名前が『オリジンハート・マスクス』になってたりとかしない?」

「そんな名前じゃないし、なってもいないよ…結構良いのが多かったし、皆も見てみる?」

 

 私が誘い、皆が頷き、私達はそのお面屋へ。因みにもう役目を果たしたお面だけど、勿論返却したり捨てたりする気はない。これを被った状態でライヌちゃんやるーちゃんに呼び掛けたら、どんな反応するかな…。

 

「へぇ、高いけど確かに良い感じのお面が多いね。こういうのの方が、ゆーちゃんのお土産にはいいかな?」

「どうだろうな。…しかし、仮面…いや、お面か……」

『……?』

「いや、何でもない。少し、まだ若かった頃を思い出しただけだ」

 

 ずらりと並べられたお面を物色する事数分。茜は夕ちゃんへのお土産に加えて、自分が気に入った物も一つ購入し、更にイヴも私と茜が似合いそうだって勧めたお面を、少しの間考えて購入。そうして茜とイヴも買ったお面を頭に装着して、浴衣と合わせ私達は更にお祭りっぽい格好にチェンジ。

 

「お面なんて子供の玩具だと思ってたけど…気に入った物があると、案外付けたくなるものなのね」

「…って事は、そのお面気に入ってくれたんだね」

「そう言ってもらえると、勧めた甲斐があるよねぇ」

「う……ま、まぁ…否定は、しないわ…」

 

 にこーっと私達が笑えば、イヴはちょっぴり恥ずかしそうに目を逸らす。普段クールなイヴだけど、割とこういう流れに持っていくと可愛い反応を見せてくれる事が多いっていうか…普通の女の子だな、って感じられる。

 そしてそれは茜も、他の皆だってそう。能力、経歴、人間関係…それぞれ普通の域を超えてる私達だけど、だからって普通の女の子らしい部分、女の子っぽさがない訳じゃ、ないんだよね。元から普通の女の子ではない、初めから『女神』として創られた私がその表現をするのはちょっと変な話だし、同じく女神として生まれた皆にも同じ事が言える訳だから、『普通じゃない部分』と、『普通の女の子と同じような部分』の両方があるんだ、って表現の方がより正確なんだろうけど、ね。

 

(もし仮に、私も皆も普通の女の子だったら…その場合でもこうして一緒にお祭りに来たり、遊んだりしたのかな…)

 

 普通の女の子ならそもそも次元や世界を超える事はないだろうから、出会う事もない…なんて野暮だけど当然の事は考えないとして…どうなんだろうな、って私は思った。実際のところ、どうなのかなんて分からないし、考えたって…仮に結論を出せたとしてもそれには何の意味もない訳だから、無意味な事ではあるけど……もしそうだったら、なんか嬉しいよね…なんて思った私だった。

 それからまた暫く、私達は途中で屋台に寄りつつお祭りを回り…ふとたこ焼きの屋台を見つけた時、思い出す。

 

「あ、そういえば…前に愛月君とイリスちゃんが信次元に来た時も、たこ焼き食べたなぁ…。あの時はイリスちゃん、初めて食べるたこ焼きを危険な物と誤解してたっけ」

「あはは、すーちゃんらしいね。…えー君はお面、ざーちゃんはたこ焼き…私も何か、お祭りの中で思い出すような事ないかな……」

「何か思い出せないかどうか、思い出してみるって…凄く特異な事してるわね、茜……」

「まあ、茜は基本的に独特だからな」

 

 ほんのり懐かしさを感じながら私が言えば、茜が変な事を言い出して…それに対するイヴと影君の言葉に、小さく苦笑い。そうして茜が思い出そうとしているのを見やりつつ、私は思う。

 今私が思い出したのは、偶々。偶然あの時たこ焼きを食べていたから、ってだけの事。でもその偶々が起こる可能性は、積み重ねで…皆との思い出を沢山作る事で、思い出が増える事で、自然と上がっていく。だからなんだって話ではあるけど……これからも、私のその可能性は高まる。誰だって、高まり続ける。だって、そうでしょ?思い出は、意識して作る事も出来るけど…同時に意識なんかしなくたって、日々の中で自然に増えていくものなんだから。

 

 

 

 

 バラバラに分かれて、思い思いにわたし達はお祭りを巡った。それぞれに食べて、遊んで、楽しんだ。それから決めていた時間の通りに、集合をした。

 集まったのは、帰る為じゃない。その前に一つ、もう一つ皆でしたい事があって…それが、今から始まる。

 

「あの、本当にまだ何かあるんですか?ひょっとして、お祭りとは関係のない事を、ここでやろうって話だったり…?」

「ううん、違うよディールちゃん。お祭りの最後にぴったりな事が、これから…っと、時間だね」

 

 お祭りの賑わいから少し離れて、わたし達はある程度の高さがある場所にまで移動した。何人かは予想が付いているみたいだけど、これから何をするかは敢えて秘密にしていて…イリゼが時間だね、と言ったのとほぼ同時に、高い音が聞こえてくる。遠くで聞こえ、一瞬聞こえなくなり…次の瞬間、夜空が輝く。

 

「……!花火…!」

「そっか、花火もお祭りの醍醐味の一つだもんね…!わぁぁ、凄い…」

 

 大きな音と共に夜空に咲く、光の花。打ち上がった花火が開いた瞬間、ルナが目を輝かせ、愛月君も感嘆の声を漏らす。

 勿論二人だけじゃない。一発だけでなく、次々と上がる色取り取りな花火を皆が見上げ、見つめている。

 

「花火、か…仮想空間でライブをやった際にも、演出として花火の様に炸裂するミサイルを使ったが…なんというか、今はそれ以上の迫力を感じるな……」

「仮想空間と現実、虚構と本物の違い…なんて、仮想空間側を下に見るような考え方はしたくないけど……職人が作った、花火のプロによる花火だから、というのはあるかもしれないわね」

「別にそんな小難しく考える必要はねぇと思うけどなー。どっちも綺麗だし、どっちも凄い。それで良くないか?」

「はは、雑な纏め方ではあるけど…どちらが、ではなくどちらも良い、という受け取り方は素晴らしいと思うよ、グレイブ君」

 

 一人一人抱く感想や言葉に籠る感情は違っている。だけど、同じものを見て、同じように心が動いている。思いを共有している。そしてわたしは、そんな皆の気持ちに、踊り出したくなる程気分が舞い上がっているところだけど…今は何とかそれを内側に押し留めている。ただ皆の思いに酔い痴れるだけじゃなくて、わたしも皆と思いを共有したいから。それに…本当に、意識を逸らしてしまうのが勿体無いと感じる程に、打ち上がる花火が綺麗だから。

 

「…この音、びっくりする。音は、少し苦手。でも…花火は、良い。凄く綺麗で…イリス、好き」

「ふふっ、私も。ただの火で、ただの爆発なんだけど…音も光も、全部心に響くよね」

「咲くのは一瞬、長くても数秒で、それが終わったら消えてしまう…その儚さは、ちょっぴり悲しくもありますけど…ね」

「…だが、心には残るな。火薬の塊なんだ、使い方一つで簡単に悲劇を生み出せるが、一方で儚くも美しい花を作り上げられるというのは…色々と、考えさせられる」

「言いたい事は分かるし、同感でもあるけど…ピーシェも影も、深く受け止め過ぎじゃない?…そういうの含めて花火は凄い、とも言えるけどね」

 

 わたし達が呟いたり、静かに言葉を交わす中でも、次から次へと花火は上がる。単発、連発、絵を描くタイプにスターマイン。色々な花火が上がって、綺麗に広がり輝いて、消えていく。

思いを共有する。でも、全く同じ事を考えて、感じてる訳じゃない。同じものを見ても、違う感想を抱くなんて、普段から当たり前にある。…だとしても、同じ部分は確かにあるのよね。花火を凄いと、綺麗だと思っている…それはきっと、ここにいる全員が同じように感じている筈だもの。

 

「…でも、うん…花火自体の儚い悲しさもそうだけど…花火が上がると、お祭りもそろそろ終わりなんだ、って感じるな……」

「花火は祭りのフィナーレを飾る物だしな。けどそれも、最後は盛大に、パーっと派手にやって終わろうぜ、って事なんじゃないか?」

「そうそう、カイト君の言う通りだよビッキィ。クライマックスこそ目一杯凄いの出したいだろうし、見たいもんね。…やっぱ、良いなぁ…皆でお祭りに来て、楽しんで、最後は花火を見上げるって…なんかこう、充実感に満ちてるよね!」

 

 最後の一言はなかった方が良い台詞になったんじゃ?…とネプテューヌの発言に苦笑しつつ、でもそこまでの言葉には心から同意する。

 段々と、終わりの時間が近付いてくる。花火もそうだし、お祭りもそうだし…皆との時間も、明日には終わる。それは寂しいもので、悲しいもので、もっと続いてほしいけど、そうはいかない。…だからこそ、最後まで楽しみたい。心置きなく、心残りなく、最後まで楽しんだ…そう言えるように、したい。

 

「色々気にし過ぎ、気負い過ぎだって思ってたッスし、それ自体は今も変わらないッスけど…それはそれとして、このお祭りに来た事で存分に楽しめたのには、感謝するッスよ」

「どう致しまして。…でも、わたしだって…わたし達だって、存分に楽しめたわ。でしょ?イリゼ」

「うん。だから私こそ、皆来てくれてありがとう…って気持ちだよ」

 

 ちらり、と横を見ながら言えば、イリゼは微笑み、皆へと向けた感謝を告げる。それに対する明確な返答はなかったけど、皆心の中で感謝を返していたと思う。…それは、皆の感情を感じて、そこから把握した事じゃない。わたしは何となく心を感じている…自分で言うのはあれだけど、感じてる気がする程度であって、心が読める訳じゃないんだから。それでも、分かる。今のわたしになら、皆がきっと感謝を返してるって言える。だって、皆はそういう人達だから。自信を持ってそう思える位には…わたしも皆と、繋がりを築く事が出来たから。

 

(わたしは皆と初めましてだった。今回の事があって、初めて皆との繋がりが出来た。…でも、これからは違う。次はもう、初めましてじゃなくて……久し振り、だもの)

 

 ちょっと気が早いかもしれないけど、ひょっとしたら久し振り、なんて言葉は合わない程短期間の内にまた再会するかもしれないけど…わたしは思う。期待に胸を膨らませる。今日まで築いた皆との繋がり、その続きに。心で信じる、皆との『いつか』に。

 だけど…まだ終わってはいない。夜空に煌めく満開の花々も、皆と過ごす時間も、もうすぐ終わってしまうけど、まだ続いていて…続いている限り、まだ楽しめる。だからわたしは…ううん、わたし達は楽しむ。わたし達の──皆との、今を。




今回のパロディ解説

・「〜〜どこぞのペン回しが得意な主人公〜〜」
あっちこっちの主人公、音無伊御の事。射的での二丁持ちって、意外と創作ではないですよね。まあ、そもそも射的というイベント自体、よくあるものではないので当然といえば当然ですが。

・「……こ…これで勝ったと思うなよーッ!」
まちカドまぞくの主人公、吉田優子の代名詞的な台詞の一つのパロディ。これ自体は他にも色んなキャラが言ってるでしょうが、代名詞レベルなのはやはり彼女でしょう。

・「〜〜店名に『しあわせの』って付いて〜〜」
ゼルダの伝説 時のオカリナ及びムジュラの仮面に登場するキャラの一人、幸せのお面屋の事。(仮面ではなくお面ですが)仮面を売っているキャラやお店といえば、やっぱりこれですよね。

・「〜〜『オリジンハート・マスクス』〜〜」
カードファイト‼︎ヴァンガードにおけるカード(名称)群の一つのパロディ。ああいうマスクを付けたキャラ達は見てみたいですね。前やったTCGネタと絡めると、グルグオリジン・マスクス…もあるかもです。




 前回お伝えした通り、今回の番外編を以って、一先ず番外編含めた今回のコラボストーリーは終了とします。参加して下さった方も、読んで下さった方も、ここまで付き合って下さり、本当にありがとうございました。
 そして、次話はOS合同コラボのあとがきとなります。これまで同様、ただただ私が語るだけの内容となりますが、もし良ければ読んで下さい。
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