超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
そして今回(というかここからの数話)は、完全に原作とすべき作品が違う感じとなってしまっていますが、ご了承下さい。
…………。
………………。
……………………。
モンスター。伸ばしてモーンースーターー。逆に縮めて…どうなるかは、どれを略すか次第です。
ゲイムギョウ界には、様々なモンスターがいます。他の世界にも、沢山のモンスターが暮らしています。…まあでも、そんな事はいいのです。前置きはさらっと終わらせて、早速本編に入っていくのです。
それではこれから、登場人物が全体的に既視感のある物語の始まりです!夢と冒険と、ボケとネタとパロディの世界に、レッツゴー!
*
「イリゼ、イリゼー。起きなさーい」
ゆさゆさと、身体を揺すられる。目が覚めた私が目を開ければ、そこにあったのはセイツの姿。
「んー…セイツ……?」
「こら、セイツじゃなくてお母さんでしょ?」
「え、えぇー…?」
真顔で、お母さんでしょ?と言うセイツ。…うん、そうだ。そうだった。セイツはお母さん…なんかすっごい違和感というか、心が「姉でしょ?」って言ってくるっていうか…まあ、いいや。
「えーと…それで何、お母さん」
「……言っといてあれだけど、お母さんじゃなくてお姉ちゃんと呼ばれたい思いが湧き上がってきたわ…」
「ほんと、言っといてあれだね…」
「こ、こほん。イリゼ、今日は貴女が初めてお城に行く日でしょ?」
「あ、そっか…って違うよ!?お城行かないよ!?それは違うRPGだよ!?」
危うく勇者の道を歩みそうだった私はそれを回避し、でも今日は大事な日だったと思い出してベットから降りる。身支度をして、ご飯を食べて…家を、出る。
「行ってくるね、セイ…いやお母さ……いや、セイツ」
「やっぱそれがしっくりくるわね。…頑張ってらっしゃい、イリゼ」
見慣れた気がする私の町。民家と研究所しかないよ!?ここ町って言える!?生活成り立つ!?……とか余計な事を思ったけどそれは置いといて、研究所へと向かう。
え、草むら?行かないよ?だってほら、丸腰で行ったら何かあった時大変でしょ?何かあったら…私が私自身の戦闘能力で解決しちゃって、ストーリーが破綻する事になるし…。
「すみませーん、お邪魔しまーす」
呼ばれていた通りに研究所へ入り、声を掛ける。顔見知りの職員さんに挨拶しながら中を進んで…博士のいる場所に。
「うん?お、来たなイリゼ」
「おはようございます、カイト君…じゃなかった、カイト博士」
外見は私と同じ位、でもその正体は有名な博士。それがここにいる、同じ町に住んでいる、カイト博士。私は今日、このカイト博士に呼ばれていて…機械を操作していたカイト博士は、私の方に向き直る。
「イリゼ。イリゼは前から、旅をしてみたいと言ってたよな?」
「え?…言われてみたら、言ってたような…うん、言ってた。言ってました。…って事は、まさか……」
「あぁ。イリゼに頼みたい事があるんだ。…ポケモン図鑑を作る旅に、出てくれないか?」
「……!は、はい!勿論です!…でも、ポケモン図鑑って…」
「これだ」
ポケモン。この世界に数多く存在する、不思議な生き物。カイト博士はその研究をしていて、これまでも私は色々手伝ってきた。
そして今、私はカイト博士から直々に頼まれた。その研究の為に、旅に出てほしいと。それは私にとって、願ってもない頼み事で…けど、ポケモン図鑑というのは初めて聞いた。一体それは何なのか、そう思って私が見つめれば、カイト博士は近くの机の引き出しを開いて…ノートを一冊、取り出した。
「…って、まさかの手書き!?しかもこれ、スーパーとかコンビニとかでも売ってるようなノートですよね!?こ、こんなノートで図鑑作るんですか!?」
「はは、冗談だ。本物はこっちで、見つけたポケモンの情報を自動で収集、更新してくれる。そして…旅に出る以上、共に旅をしてくれる相棒が必要だよな?」
問い掛けるように言ったカイト博士は、更に奥へと私を招く。カイト博士に私は付いていき…そこで、出会う。これから始まる私の冒険、それを共に歩んでくれる、相棒と。
「まずは…スライヌのライヌちゃんだ」
「ぬら?ぬらぬら〜、ぬ〜」
「あ、ライヌちゃんおはよう。…え、ライヌちゃんですか?ライヌちゃん、あんまり旅には向いてそうにないっていうか、怖がりなライヌちゃんには負担が大きそうというか……」
「確かにな、だから相棒をどうするかはイリゼ次第だ。…こほん、次はチルットのるーちゃん…っとと」
「ちちるっ、ちーるぅ!」
「るーちゃんもおはよ、今日もるーちゃんは元気だね」
紹介されたのは、ぷにぷにの身体をしたライヌちゃんと、ふわふわの翼を持つるーちゃん。どっちも私がよくお世話してあげてる子で、どっちの子もとっても可愛い。
相棒はこのどっちか、って事なのかな?お互いよく知ってる相手の方が、ってカイト博士は考えたのかな?そんな風に私は思ったけど、カイト博士の紹介はまだ終わっていなかった。あ、なんだ、二択じゃなくて三択──
「最後は、イリスだ」
「おはよう、イリゼ。ぬらぬらー。ちるちるー」
「人間!?」
向こうから挨拶をしてくる、はっきりと人の言葉を発している、最後の子。…がっつり人だった。どう見ても人だった。ど、どういう事!?別に二人旅でも良いよね?バトルは直接行えば良いよね?って話なの!?
「イリゼ、違う。イリスはモンスター。ほら、ご覧の通り」
「わっ、手の形が変わった…人じゃなかったんだ…。……えぇっと、でも…これはどういう…」
「イリスは別件で来た子でな。イリゼの旅の話をしたら、折角だから自分も紹介してほしいって言われたんだ。因みに、旅はするならするし、しないならしないでも良いんだとさ」
「イリスはイリゼに会ってみたかった、それだけ。でも相棒になってほしいなら、イリス頑張る」
「そ、そうだったんだね…うーん……」
予想外過ぎる第三の選択肢を提示された私は、ちょっと考える。ライヌちゃん、るーちゃん、イリスちゃんを順番に見て、考えて……そして、決める。
「…うん。カイト博士、私はるーちゃんと行きたいなって思います。るーちゃん、良いかな?」
「ちるぅ?ちるっち、ちーっ!」
「あははっ、ありがとるーちゃん!」
「そう。では、イリスはライヌちゃんと遊ぶ事にする。ライヌちゃん、おいで」
「ぬーら、ぬぬ〜ら〜」
私の胸元に飛び込んできてくれたるーちゃんを抱き抱え、これから宜しくねと伝える。答えを聞いたイリスちゃんは、特に表情を変える事もなくライヌちゃんを呼んで、跳ねたライヌちゃんを私と同じように抱っこした。
またね、と言うように鳴くライヌちゃんと、普通に手を振るイリスちゃんに見送られ、私はカイト博士と外へ。旅の話は先に聞いていたのか、出るとセイツが旅の支度と共に待っていて、その荷物を私は受け取る。あれよあれよという内に、出発の時を迎える。…そっか…これから、私の旅が……。
「…う…流石に、緊張するっていうか…少し、不安にもなるな……」
「イリゼなら大丈夫だ。それは俺が博士として、沢山の事を手伝ってきてもらった人間として、保証する」
「困った事があれば、いつでも戻ってきなさい。イリゼの思うように進みなさい。それが、イリゼの旅になるんだから」
「カイト博士、セイツ…。……そうだよね…よし、決めた!二人共、期待してて!私、絶対に…楽しかったって言える旅をしてくるから!」
二人の言葉に背中を押され、私は歩み出す。期待と不安に満ちた、最初の一歩。それを腕の中から頭の上へ、綿帽子の様にちょこんと乗ったるーちゃんと一緒に、歩み出す。
「…あ、でもここでもう一回会うんだったら、『頑張ってらっしゃい』はこのタイミングで言うべきだったわね」
「そ、それは触れなくても良いんじゃないかな…私もそれは思ったけど……」
…妙に締まらない発言とその反応が、最後のやり取りになってしまった。カイト博士も苦笑いだった。…き、気持ちを切り替えよう、うん。
「さてと、図鑑は電源を入れておけば周囲にいるポケモンの情報を自動で収集してくれるみたいだけど、るーちゃんとの訓練も兼ねて、積極的に関わった方が良いのかな…?」
さっきはスルーした草むらを通って、道路を進む。まだ町の近くだから、見かけるのはよく知るポケモンが多い。けれど暫く進んだところで、見慣れないものを…見慣れない人を、発見した。
「大丈夫か?知識だけあっても、それを活かさなきゃ意味ねーぞ?」
「うぅ、分かってるって…」
近所じゃ見た事のない、男の子二人。その二人が、道の端で話していて…振り向く。何かなー、と見ていた私と、目が合う。
(うわっ、いきなり近付いてきた…な、何…?どういう事…?)
「ミニスカートのイリゼが 勝負を仕掛けてきた!」
「勝負仕掛けてないよ!?」
いきなり勝負を吹っ掛けられて、というかこっちから吹っ掛けてきた事にされて、私は仰天。な、何この子…後出来れば、大人のお姉さんとか、エリートトレーナーが良かったな…トレーナー歴数十分でエリートは早熟過ぎるけど……。
「とまあ、トレーナー同士で目が合ったら勝負になるのが俺達ポケモントレーナーの常識だ。悪いな、いきなり話し掛けて」
「あ、い、いや…うん、大丈夫…(どっちかっていうと、話し掛けた事よりその内容について謝ってほしい…)」
「…うん?ひょっとして、まだトレーナーとしては駆け出しか?」
「へ?…分かるの?」
「そういう雰囲気をしてるからな。駆け出しなら、あいつと…愛月と同じって訳だ。あぁ、んで俺はグレイブな」
「そ、そうなんだ…私はイリゼ、こっちはるーちゃん。宜しくね」
自己紹介をされて、私も返す。何でも愛月君はこれから旅立ちらしくて、ポケモントレーナー…ポケモンを育てたり、一緒に戦ったりする人としては先輩らしいグレイブ君が、最後の確認をしていたんだとか。…なんか、この二人だけは違和感全然ないな…具体的に何が?って言われたら何とも言えないけど…。
「えぇと、ごめんねイリゼ。グレイブ、トレーナーとしては凄いんだけど、いつも無茶苦茶だから…」
「聞こえてるぞー、愛月。…まあともかく…最後に一つ、ポケモンの捕獲について確認しとくか。折角だ、イリゼも見ていけよ」
「そういえば、実際に捕獲する場面は見た事ないかも…ボールが必要で、弱らせてからの方が上手くいき易いって事は知ってるけど…」
「そうそう、使うボールにもよるが、基本はポケモン同士のバトルで弱らせて、出来るなら麻痺とか眠り状態にもして、んで準備が整ったら…」
言うが早いか、グレイブ君は飛び出してきた野生のポケモンを相手に解説を始める。今回は本当に捕まえる訳じゃないから、とジェスチャーのみで進めて、最後は腕を掲げて……
「スカウトアタック!」
『ゲームが違うよ!?』
……なんか最後にふざけられたけど、取り敢えず捕獲の実演を見せてもらった私だった。因みに飛び出してきたポケモンは、グレイブ君が追い払った。
「こんな感じだな。捕まえるのに失敗したら、当然こっちが隙を晒す形になるから気を付けろよ?それと…バトルもそうだが、捕獲されるってのはポケモンにとっちゃ大きい意味を持つ。だから、捕まえたポケモンを雑に逃したりするんじゃないぞ?」
『はーい』
「よし、んじゃあ…ここで会ったのも何かの縁だ。愛月、イリゼ…記念に二人でバトルしたらどうだ?」
「バトル…愛月君と?」
「俺とじゃレベルが違い過ぎて勝負にならないからな。お互い初心者なんだ、良い経験になるとは思うぜ?」
「それは、確かに…イリゼはいい?」
グレイブ君から提案される、ポケモンバトル。少し考えた後、愛月君はやる気を見せ…私も、頷く。トレーナーとのバトルはまだした事がない。だったら、ここで経験しておくのはきっとプラスになる。
「よーし…るーちゃん、バトルだよ!」
「いっておいで、ケープ!」
ぱたぱたっ、とるーちゃんは私の頭の上から離陸。一方愛月君はボールを放って、中から黒くて小さな子を…悪狐ポケモンのゾロアを呼び出す。
見つめ合うるーちゃんとケープ。じわりと広がる緊張。私と愛月君もまた正対し、そして……
「ちぃる?ちる、るー。ちる〜!」
「きゅぬっ、こきゅっきゅ。きゅー!」
「ちーるー!ちるっるっ♪」
「ふきゅ、きゅうぅ〜♪」
「……えっと…な、仲良くなっちゃったね…」
「うん…早速お喋りしてるね…」
バトルは、始まらなかった。お互い鳴き合った後、すぐにるーちゃんとケープは仲良くなってしまった。これには私も愛月君もグレイブ君も…皆揃って、苦笑い。
「んまぁ、こういう事もあるわな。この勝負はドローって事にするか」
「え、いいの?ドローも何も、そもそも勝負してないよ?」
「いいも何も、勝負する気のない、したくないポケモンにバトルを強要するなんざ、トレーナーのする事じゃねぇよ。どんなに実力があっても、そんなやつを俺はトレーナーとは認めない」
だからこれでいいんだ、と愛月君に答える形でグレイブ君は言った。その言葉は、これまでで一番真面目な雰囲気で…今の言葉は、ちゃんと覚えておこう。そう、思った。
「うっし、良い事も言ったしそろそろ行くか。イリゼ、一歩一歩ステップアップしていけよー?」
「あ、うん。捕獲について教えてくれてありがとね」
「あいよ。んで、愛月は一回準備の為に戻ってから旅立ちだな。俺は先に行くが…俺の姿が見えないからって、また泣くんじゃないぞ?」
「な、泣かないよ!それに今は、ケープだっているんだし!」
「…愛月君。グレイブ君って、やたら先輩風吹かせてるけど、一体どういうトレーナーなの?」
「あれ、イリゼ知らないの?どうも何も…グレイブはポケモンリーグチャンピオンだよ?」
「そ、そうだったの…!?」
各地にある八つのジム。その全てを制覇し、ポケモンリーグへと辿り着き、そこでのバトルに勝ち切ったトレーナーだけが与えられる最強の称号、チャンピオン。バトルを重んずるトレーナーなら誰もが目指す座に君臨する存在。それがグレイブ君なのだと知った私は、当然驚き、愛月君は「言ったでしょ?トレーナーとしては凄いって」…と、どこか憧れを抱いた声で言う。そして歩き出していたグレイブ君は、くるりとこちらを振り向き……
「それじゃあ愛月、イリゼ。──
にっ、と口角を吊り上げ、グレイブ君は笑う。自信満々に、愉快そうに笑って…グレイブ君は歩いていった。
私の旅の目的は、図鑑を作り上げていく事。カイト博士に頼まれた、大事な仕事。でも具体的な行動までは指定されていないし、ジムを巡って、各地で沢山のトレーナーと戦っていけば、多くのポケモンと出会える事は間違いない。だったら…これも何かの縁として、目指してみるのも良いかもしれない。どこまで行けるか分からないけど……ポケモンバトルの、高みへと。
*
時に遠くから眺めて、時に触れ合って、時にバトルして…自然の中に棲む野生のポケモン達と交流をしながら、私は隣町まで行った。そこでるーちゃんを休ませたり、道具の買い出しなんかもしてから、また進んで、更に交流をして…人も施設も多い街へと、到着した。
ここには、興味を惹かれるものが色々とある。けどここに来た一番の目的は…ジムへの、挑戦。
「ようこそ、チャレンジャーさん。少し見させてもらいましたが…ジムトレーナー全員と戦ったんですね。戦わずに済む回り道には気付きませんでしたか?」
「いえ、戦ったのは訓練と、図鑑作成にプラスになるかなって思ったからです」
「図鑑…あぁ、カイト博士の。…訓練の為というのは、良い心掛けです。それと、見させてもらったと言っても、内容までは見ていないのでご心配なく。自分のホームで一方的に情報アドバンテージを得るのは、ジムリーダーの流儀に反しますからね」
道中のトレーナーと戦い、勝って進んだ私を最奥で待っていたのは、ジムリーダー。風格ある立ち姿の女性と私は正対し…ジムリーダーは、ぽんっと手を叩く。
「おっと、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はジムリーダーのピーシェ。これから、貴女の最初の壁になる者です」
「…トレーナーのイリゼです。その壁…越えてみせます」
柔らかな雰囲気から、ふっ…と臨戦体制の気配へと変わったジムリーダー、ピーシェ。緊張する、緊張するに決まってる。何せこれが、私の初めてのジム挑戦なんだから。
だけど、不安はない。初めてだからこそ、まだ実績なんてないからこそ、私は気負う事なく…ぶつかっていける。
目を合わせ、小さく頷き、るーちゃんに行ってもらう。タイミングを同じくして、ピーシェもボールを放り…ジムリーダーの手持ちが、現れる。
「ぴぃ!ぴぃ、ぴっぴっ!」
出てきたのは、ピンク色をしたちっちゃな子。るーちゃんに負けず劣らずのマスコット感あるその子は、元気良く鳴き……私は、ぽかんとなった。
「…え、いやあの…え?」
「どうかしました?」
「…あ、そ、そっか…ポケモンは見た目で判断するなという、ジムリーダーからの教え──」
「言っておきますが、この子が私の本気という訳ではありませんよ?勿論、ジムリーダーとしては本気で戦いますが…この子はあくまで、初めてのジム挑戦らしい貴女だからこその子です」
正直、強そうじゃない。るーちゃんもそうだけど、るーちゃん以上に強そう感がないジムリーダーのポケモンに困惑していた私だけど…返答を受けて納得。確かにまあ、そうだよね…ジムリーダーに本気出されたら、どうにもならないし…その面子はやり込みコンテンツの時に出してよ!?…ってなるし…。
「頑張ろうね、ぴぃかちゃん」
(ぴ、ぴぃかちゃん!?なんかすっごい、ジムリーダーの手持ちの名前とは思えない可愛さなんだけど…あれ?この人、クール系に見えて実は可愛いのが好き…?)
「…何か?」
屈んで呼び掛けるピーシェと、両手を上げて答えるぴぃかちゃんこと、星形ポケモンのピィ。それからこっちに向き直ったぴぃかちゃんはきりっとした顔になり、ピーシェも「どこからでもどうぞ」という眼差しで私とるーちゃんを見つめてくる。
イメージとかけ離れた、ジムリーダーのポケモン。だけどどんな見た目でどんな名前をしていたって、相手はジムリーダーで、これは私の今の実力を示すジムバトル。だから私達のやる事は一つ、全力を尽くして…勝ちに行くだけ。
「いくよ、るーちゃん!」
「ちぃっ、るー!」
こっちも呼び掛け、答えを受け取る。そして、私達の初めてのジムリーダー挑戦が、始まる。
*
人もポケモンも見た目によらない。勘違いではあったけど、それは正しかった。あまり強そうには見えないぴぃかちゃん…でも小さいからこそのちょこまかした動きは捉え辛く、中々攻撃が当たらなかった。……だけど。
「今だよるーちゃん!乱れ突き!」
「……!」
覚えたばかりの技を、手数が強みの攻撃をるーちゃんは放つ。一発で当たらないなら連発で。ただ攻撃するだけじゃ無理なら、逆に向こうから攻撃の為に近付いてきたタイミングを狙う事で。当たる攻撃を、当たる状況で繰り出す事で…私は、勝利を掴み取る。
「…お疲れ様、ぴぃかちゃん。…お見事です、イリゼさん」
戦闘不能になったぴぃかちゃんを労った後、ピーシェは私を見る。私はピーシェを見つめ返し…それから、息を吐く。…き、緊張したぁぁ……。
「ふぅ…るーちゃんもお疲れ様。やったね、勝ったよ!」
「えぇ、貴女達の勝ちです。…何か、このバトルで学べた事はありましたか?」
「…はい。バトルはごり押しじゃいけない。相手の動きをよく見て、仕掛けるタイミングを考えなくちゃ、強くなれない…それが、よく分かりました」
「上出来です。勝った事は勿論ですが、バトルの中で次に繋がるものを見つけられたのなら、貴女はきっと、もっと強くなれる。…これからも、頑張って下さいね?」
にこりと笑ったピーシェから差し出されるバッジ。ジムを攻略した事の証。それを受け取った私はるーちゃんに見せて、笑い合う。そして最後に、ピーシェと握手。
「……あ、ところでピーシェがピィを選んだのって、やっぱり…」
「…これからも、頑張って下さいね?」
「え?あの、ピーシェ?」
「…これからも、頑張って下さいね?」
「…ピーシェさーん…?」
「…これからも、頑張って下さいね?」
「いや、ちょっ…もしかして、同じ発言繰り返すNPC的反応で誤魔化そうとしてます!?だとしたら、まあまあ無理がありますからね!?微妙に表情が変わってたりしますし!」
名前で親近感を抱いたから?ニックネーム含め、結構単純なタイプ?…そう訊こうと思った私だったけど、結局ピーシェに押し切られてしまった。最後までピーシェは、同じ事しか言わなかった。……え、るーちゃんとライヌちゃんのニックネーム?私が付けさせてもらったんだよ?…い、いいじゃん単純で。単純だけど可愛いし、しっくりくるニックネームなんだから…!
とまぁ、そんなこんなで私の初めてのジム挑戦は終わった。勝てたし、トレーナーとしての成長も出来た。その事に満足感を抱きつつ、私はるーちゃんを休ませて、私自身も休んで…旅を再開した。
基本はジムを巡る形での旅をしようと思っているけど、適度に寄り道なんかもしたいと思ってるし、当然全ての町や街にジムがある訳じゃない。ジムのない所も普通にあって…今私がいるのも、そんな町の一つ。
「へぇ、じゃあイリゼとるーちゃんとは長い付き合いなんだね」
「うん。トレーナーとしてはまだまだだけど、るーちゃんの事はよーく知ってるつもりだよ」
「ひめーっ、めっめっ!」
「ちちるぅ、ちる〜る〜」
のんびりした雰囲気の町を、話しながら歩く。今私が話しているのは、さっき出会ったルナっていう女の子で、ルナは子熊ポケモンのヒメグマを連れていた。連れていたというか、ぬいぐるみの様に抱えていた。
私とルナだけじゃなく、その子もるーちゃんと話している。勿論今るーちゃんがいるのは、私の頭の上。
「ヒメちゃん、るーちゃんとどんな話してたの?」
「ひめめっ、ひーめっ、ひめ〜♪」
「そっかぁ、仲良くお喋り出来て嬉しいね。ぎゅー♪」
「ルナもヒメちゃんと長い付き合いなの?」
「うん、そうだよ。毎日一緒にご飯を食べて、寝る時も一緒なんだよね〜」
強く抱き締められたヒメちゃんは、とっても嬉しそう。さっき触らせてもらったけど、ヒメちゃんの触り心地はほんとにぬいぐるみみたいで、抱き締めたくなるのもよーく分かる。
因みにルナは、遠出したりする事もあるけど、別にジムの制覇やリーグの挑戦を目指してる訳じゃないらしい。多くのトレーナーにとってチャンピオンは憧れの存在だし、ジムリーダーに勝ってバッジを得る事自体も、トレーナーのステータスになるから、挑戦する人は沢山いる…とはいえ、皆が目指す訳じゃない。ルナみたいに、興味を持たないトレーナーだって当然いる。
「あ、そうだルナ。これには私がこれまで出会ってきたポケモンのデータが記録されてるんだけど、この辺りに棲んでるポケモンの中で、まだ載っていないのっていたりするかな?」
「うーん、どうだろう…見てみるけど、あまり期待はしな……」
「あの、ちょっといいかしら?」
『え?』
出来るだけ色んな所に行ってポケモンと会えるようにはしてるけど、見落としがあるかもしれないし、あっても自分一人じゃ気付けない。だから私はルナに訊き…そこで、背後から声を掛けられた。
振り向く私とルナ。後ろにいたのは、一人の女性で…まあ間違いなく、呼んだのはこの人。
「いきなりごめんなさい。突然そんな事を言われても、って思うでしょうけど…貴女のヒメグマの手を、借してほしいの」
「ヒメちゃんの、ですか?…えぇと…何に…?」
「私はイヴォンヌ・ユリアンティラ。副業だけど、パティシエをしていてね。で、お菓子作りに使えそうな各地の果物とか、穀物なんかを普段探しているんだけど、ここの近くで採れるっていう蜜が中々見つからなくて……」
「ああ、だからヒメちゃんなんですね」
説明を途中まで聞いたところで、ルナは納得。続けて私も、ルナから野生のヒメグマは蜜を好んで集める習性がある事を聞いて、イヴことイヴォンヌが呼び掛けてきた理由を理解する。
そしてルナは、イヴからの頼みを快諾。何でも普段から、ヒメちゃんは近くの森に行くと蜜を探す事があるみたいで、ヒメちゃんに任せてっ!…とルナは自信満々な様子で言い切った。
「ヒメちゃん、いつもの蜜集め、する?」
「くま〜?くままー」
「歩き出したわね。伝わった…って事かしら」
「多分そうだと思うな。でも、他のものに興味を引かれちゃう事もあるので、その時は気が済むまで待ってあげてね?」
「勿論よ。こっちは頼んでる側だもの」
「るーちゃん、ヒメちゃんを手伝ってあげられる?」
「ちるっ!」
ぬいぐるみが歩き出すように、ちょこちょことヒメちゃんが森を進んでいく。るーちゃんも飛び立って、ヒメちゃんと話した後、空から探していく。多分だけど、ヒメちゃんが匂いと感覚で探して、ありそうな方向を地上からはヒメちゃんが、空からはるーちゃんが…って感じに分担してるんだと思う。
そのヒメちゃんを見失わないように、私達は付いていく。見つかるかどうかはヒメちゃん次第だし、運次第でもある。で、私達も見回して探しつつ付いていき……見事、ヒメちゃんは蜜を発見。
「…えっ、早っ。こんなあっさり、さらっと発見しちゃうの?」
「さらっと?何言ってるのイリゼ、探し始めてから結構時間経ってるよ?」
「い、いや、私が言ってるのはそうじゃなくて……」
確保した蜜を手に付けて、その手を舐めるヒメちゃんはご満悦そうな様子。るーちゃんも分けてもらって、美味しいよ〜と言うように鳴く。…ま、まぁアレだよね…しっかり描写したら、それだけで一話とかになっちゃいそうだから省略したとか、そういう事だよね…。
「うん、凄く甘い…甘いし、ほんのりとした酸味もある…これは良い蜜だわ」
「イヴォンヌさん、この蜜で良さそう?」
「えぇ、ばっちりよ。ありがとう、皆。少ないけど、これは謝礼……」
「わっ、待った待った!そんな、お金を払われる程の事なんて…少なくとも私とるーちゃんは、ほんと手伝っただけですし……」
「いやいや、それは私達もそうだよ。ヒメちゃんだって、嫌だったらもっと嫌そうにしてた筈だもん」
「…なら、これ位は受け取って頂戴。それと、良かったらいつか私のお店にいらっしゃい。その時は、たっぷりサービスするわ」
そう言って、イヴはラッピングされたお菓子をくれた。そのお菓子は、甘いけどくどさはない、一個食べたらすぐ次のを食べたくなる味で、私達は勿論、るーちゃん達も気に入ってくれた。
そうして町に戻ったところで、私達はイヴと別れた。立ち去るイヴを見送りながら…私達は、言う。
「…ラッピング、可愛かったね」
「だよね。女の子って感じのラッピングだったよね。…お店では、エプロンとか付けてるのかなぁ…」
私からの言葉に、ルナはうんうんと頷いた。…その内、イヴのお店に行ってみたいな。ほんと、お菓子美味しかったし…どんな格好してるか、割と気になるし。
*
町で出会ったルナと、少しの間だけど一緒に旅をした。ルナと別れてからも私は旅を続け、次のジムがある町にも到着し…無事、二つ目のバッジを得る事が出来た。更に旅を続けて、三つ目のジムでも勝つ事が出来た。二つ目のと三つ目、どちらのジム挑戦も大変だったけど、私もるーちゃんも成長してる、レベルアップしている…どっちもそれを感じられる勝利だった。
「うーん、次のジムへの最短ルートはこっちだけど…この街にも行ってみたいんだよね…るーちゃんはどう?」
「ちるぅー?…ちちっる、ちるちち〜」
地図を見ながら、次の目的地を考える。答えてくれたるーちゃんが何と言っているのかはさっぱり分からないけど、返答があるだけでも嬉しいもの。だからそれに微笑みつつ、私はどうするかもう少し深く考え…ようとしたところで、視界の端で知り合いを発見する。
「…あれ?もしや、愛月君?」
「へ?あ、イリゼ!」
通りがかった愛月君と、私は再会。どうやら愛月君も三つのジムを攻略したようで、前に会った時とは少し雰囲気が違う。なんというか…ちょっとだけど、自信を纏っているような感じがする。
でももしかすると、それは私も同じかもしれない。少なくとも、成長はしている筈なんだから。
「そういえば、あれからグレイブ君とは会ったの?」
「ううん。今どこにいるかさっぱり分からないし…けどグレイブの事だから、色んな所に行ってるんじゃないかなぁ」
「あー…ちょっとしか会ってない私でも、それは想像出来るかも」
「でしょ?…ところでさ、イリゼ。もし、嫌じゃなければだけど…今度こそ、バトルしてみない?」
じっと私を見つめ、愛月君はバトルの提案をしてくる。それに私は少し驚いて…でも、頷く。
前の時は、そもそもバトルにならなかった。でも今は、お互いそれなりにバトルの経験を重ねていて、ジム攻略も進めていて、決して初心者ではなくなってる。だからこそ…誘われた時、私の中にも生まれた。愛月君と、バトルしてみたいという思いが。
「るーちゃん、今回はやれそう?」
「るっちる!」
やる気を見せてくれるるーちゃん。そのるーちゃんの頭を軽く撫でた後、私は離れ、愛月君にこっちの準備は出来ていると示す。
対する愛月君も、少し離れてから振り返る。ボールを手にして、小さく笑って…相棒を、繰り出す。
「ケープ、バトルの時間だよ!」
「くぁああぁんっ!」
すたっ、と軽快に降り立った、黒い身体が特徴的なポケモン。でも私もるーちゃんも、現れた『ケープ』を見た瞬間、驚いた。
ケープ、と呼ばれて出てきたんだから、あの時るーちゃんと仲良くなった子なのは間違いない。けど、今のケープは四足じゃなく、後ろ足の二足で立っている。身体もかなり大きくて、顔立ちも凛々しくなっている。大きく成長したような、そんな姿に変わっている。
「もしかして…進化、したの?」
「うん、進化したばっかりのケープを見せたかったんだ。…強いよ?今のケープは」
進化。多くのポケモンが持つ、より強い姿へと変わる現象。種族的にいえば、ゾロアから化け狐ポケモンのゾロアークへと変わっていて…分かる。愛月君の言う通り…きっと進化したケープは、強い。
だけど、だからってバトルを止める気はない。強そうだからやっぱなしで、なんて格好悪いし…勝てないと決まった訳じゃないんだから。
「るーちゃん、ピーシェとのバトル覚えてる?ケープは進化して、るーちゃんよりずっと大きくなってる。だったら…小さいるーちゃんだからこその戦い方が、あるよね?」
緊張してる様子のるーちゃんに呼び掛ける。るーちゃんには伝わったようで…まだ緊張は消えてないけど、同時にやる気も消えていない。
驚きはあったけど、依然として準備は万端。向こうも既に臨戦体勢。そして、初めて会った時は出来なかったバトルが始まり……
「これで終わりだよ、辻斬り!」
「ちるぅぅぅぅっ!」
素早く振るわれた爪の一撃が直撃し、るーちゃんは吹っ飛ぶ。地面に落ちて、そのまま戦闘不能になり…私達は、負ける。
「やったぁ!お疲れ様っ、ケープ」
「くぁーう」
私がるーちゃんに駆け寄り抱き上げる中、愛月君とケープはハイタッチ。その時のケープは、柔らかい…ゾロアの時の無邪気さを感じさせる顔をしていて、進化してもケープはケープなんだなって私は思った。
「…よく頑張ったね、るーちゃん」
「ちる…ちるぅ……」
負けてしまったるーちゃんは、しょんぼり顔。全く何も出来ない訳じゃなかった。出来る限りケープに近付いて、距離を離さない事で、ある程度はケープに攻撃し辛い立ち回りが出来た。途中、ケープは焦ったそうな顔をしていたし、作戦としては決して間違ってはいなかったと思う。
でも、やっぱり能力の差は埋め切れなかった。パワーもスピードも進化したケープの方がずっと上で、一度距離を離されてからは中々追い付けず、ケープからの攻撃は一つ一つがるーちゃんにとっては重かった。最後も、距離を離してからの急接近で、るーちゃんが対応する前に決められたって感じで…善戦は出来た。出来たけど…悔しい。
「凄かったね、愛月君もケープも。完敗だよ」
「イリゼとるーちゃんだって凄かったよ。最初なんて、全然攻撃を当てられなかったし。…そうだよね…もうケープは大きくなったんだから、小さいポケモンと戦う時の作戦も考えておかないとだよね…」
「こっちも、素早いポケモンへの対策を用意しておかなきゃかな…」
負けてしまった。けど、学びはあった。良い経験を得る事が出来た。そしてそれは、勝った愛月君も同じみたいで…だから、価値あるバトルになった事は間違いない。
それから私達は、一緒にるーちゃんとケープを休ませた。バトルをした訳だけど、るーちゃん達の仲が険悪に…なんて事はなくて、また仲良くお喋りをしてくれた。
「愛月君も、次は四つ目のジム挑戦を目指すんだよね?どっちの道を行く気なの?」
「僕はこっちかなぁ。…あ、そうだ。イリゼ、クロケット団って知ってる?」
「クロケット団?…グレープアカデミー所属で、漫才協会の四天王と呼ばれる?」
「それは色々間違ってるよイリゼ…間違ってるしややこしいよ…。…クロケット団、僕も詳しくは知らないんだけど、気を付けた方が良さそうだよ。何でも火事とか異臭騒ぎとかを起こしてるらしくて、そのクロケット団のアジトだって噂されてる場所から出てきたポケモンは、具合が悪そうにしながらどこかに行っちゃった…なんて話もあるし」
「えぇ…?…その話全体が噂なら、間違った情報とかも混じってるのかもしれないけど…確かに覚えておいた方が良さそうだね」
聞き覚えのない名前…というか組織?…だけど、愛月君がこんな冗談を言うとは思えない。それにここまでの旅で私が出会ってきたのは、皆良い人だけど、全ての人がそうじゃないって事は…悪事を働こうとする人だって世の中にはいる事位は、私だって分かってる。だからその名前はきちんと覚えておく事にして…暫くは愛月君と過ごした後に、私達はまた別れる。
「イリゼはそっちに行くんだね」
「愛月君と一緒に旅するのも良さそうだけど…リベンジ、したいからね。一緒に旅してたら、お互いどう成長するかが分かっちゃうでしょ?」
「そっか。ふふふ、次だって勝利を譲る気はないよ?」
お互い相手の手の内を知った上でバトル…っていうのもそれはそれで面白そうだけど、やっぱり「こんなに成長を…!?」って思わせたい、そう思わせた上で勝ちたい。
とはいえきっと、次に会う時は愛月君も強くなっている筈。だから私達は、それよりもっと強くならなくっちゃ。
「るーちゃん、目指せリベンジだよ。一緒に、もっともっと強くなろうね?」
「ちる!ちっるー!」
ぐっ、と私が胸の前で拳を握れば、るーちゃんも翼を広げて強く鳴く。私とるーちゃんの気持ちは同じ。それならきっと、頑張っていけばきっと…強く、なれるよね。
*
負けを知った事で、これまでよりも強くなりたいって気持ちが増した。敗北が、これまで以上の原動力を生み出してくれた。だけど当然、気持ちだけじゃ強くなれない。戦いは、気持ちだけで勝てたりはしない。
私は振り返った。敗北だけじゃなくて、これまでのバトルを。これまでに出会ってきたポケモンを。これにはポケモン図鑑が凄く役に立って、私はポケモンがそれぞれに持つ特徴を考えるようになった。大きいとか、素早いとかだけじゃなくて、種族ごとの違いを、強みと弱みを意識するようになった。そうして個々の差別化をする中で、他のポケモンと比較した、るーちゃんの強みと弱みもこれまで以上に理解していった。
気持ちもそう。努力もそう。研究もそう。強くなるには色々な事が必要で、色々な道もあって……強くなろうとする中で、その為の道を探し、自分達で歩む中で、遂にるーちゃんの可能性が、花開く。
「良い作戦だな。動きも良い。けど…俺はジムリーダーだ。まだまだやられるつもりはない!」
「くっ…大丈夫だよるーちゃん。焦らないでいこう、しっかり動きを見て戦おう!」
四つ目のジム挑戦。相手は桜ポケモンのチェリム。天候によって姿を変えるそのポケモンは今、強い日差しの中で晴れやかな顔をしていて…その明るい顔とは裏腹に、強烈で容赦のない攻撃を次々と仕掛けてきている。
(既にある程度のダメージは入ってる。一気に攻勢をかければ、押し切れるかもしれない。けど、向こうの攻撃も強烈だし、下手に攻めれば逆に押し切られる可能性もある。でも、だからって慎重になり過ぎても、強い攻め手でじわじわ削られる事になる…)
一気に攻めるか、慎重にいくか。どっちにもそれぞれリスクがある。この状況ではどっちが正解かなんて、後にならなきゃ分からない。そして分からないとしても、私は決めなきゃいけない。それが、トレーナーの役目というもの。
幸いまだ焦るような状況じゃない。じっくり、しっかり見て、判断をする余裕がある。だから私はるーちゃんに呼び掛けると共に、自分自身にも焦らなくて良いと言い聞かせ、バトルに目をやり…そんな中、一つの鳴き声が聞こえてきた。
「ちるーっ!るー、ちるるち、ちーるぅぅっ!」
「……!…るーちゃん……」
気合いか、熱意に、思いに満ちたるーちゃんの声。その意味は分からない、言葉は通じない。だけど分かる、伝わってくる。るーちゃんの気持ちが…やれるっていう、意思が。
トレーナーは、状況を冷静に判断して、的確な指示を出す事が大切。自分のやりたい事ばかりを優先してたら、勝てるものも勝てなくなる。でも…一番大事なのは、一番大切なのは、ポケモンの気持ち。一緒に戦ってくれるポケモンの、思いに答える事が大事。だから私は…るーちゃんを、信じる。
「分かったよ、るーちゃん。…うん、やろうっ!」
「ちーるっ!ちーるぅぅううううううっ!」
「きゅわわ…きゅわぅ!?」
「来るぞリゥム、引き付けて迎え…って、これは…!」
るーちゃんの思いに私が応え、私の呼び掛けにるーちゃんが応え、るーちゃんは翼を広げて突撃する。こっちの攻勢に対し、チェリムのリゥムは反撃の体勢を見せ……次の瞬間、るーちゃんの身体が光に包まれる。
何か技を指示した訳じゃない。これは私の意図したものでもなくて、だから私も驚いた、ただ、るーちゃんだけは分かっていた…或いは本能的に理解したようで、更に強く鳴きながら、羽ばたきながら突進を続け……輝きが解き放たれた時、そこにるーちゃんの姿はなかった。
いや、違う。成鳥の如き身体。純白の翼。体色も、鳴き声の響きも、私が間違える筈のないもの。そう、そこにいるのはチルットではなく、チルタリス。進化した──るーちゃんそのもの。
「るーちゃん、いっけぇぇぇぇっ!」
力強く羽ばたいたるーちゃんは加速。進化前より向上した素早さで、一気にリィムとの距離を詰め…全力の攻撃を叩き込む。進化した事で強くなった能力に加えて、チルットの時との能力差が意表を突く効果を産んでくれた結果、るーちゃんの攻撃はリィムへと直撃する。
元々飛行というタイプを持つるーちゃんは、草タイプのリゥムには有利だった。そのおかげもあって、ある程度ダメージを与えられていた。そしてそこに、進化によって高くなった能力での一撃が直撃した事で、リィムは大きく飛んで……勝敗は、決する。
「やった…勝ったよ、るーちゃん!私達の、勝利!」
「ちぃーる〜ぅ!ちちっる、ちちるぅ〜!」
喜びと共に私が呼べば、るーちゃんはいつものように飛んでくる。これまではそれをキャッチするように抱き締めていたけど、進化によって大きくなった今のるーちゃんとは、抱き締め合うような形になる。…もう腕の中に収まらないんだって思うと、ちょっと残念だけど…抱き締め合えるようになったのは、凄く嬉しい。
「きゅわ〜…」
「お疲れ、リィム。今日も格好良かったぞ。…さて…おめでとう、チャレンジャーイリゼ。バトル中に進化なんて、良いものを見せてもらったよ」
「あ…はい。こちらこそ、ありがとうございました。天候、フォルムチェンジ、特性…色々な要素を組み合わせる事で、そのポケモンにしか出来ない戦法を作り出す……私にとって、貴方との…ウィードとのバトルは、凄く学べるものの多いジムバトルになったと思います」
「そう言ってくれるなら、ジムリーダー冥利に尽きるな。…イリゼはこれでジムバッジ四つだったか。なら、ジム挑戦はここで折り返し。こっからもっと大変になると思うが…イリゼとるーちゃんならきっと、最後まで行けるさ」
「えぇ、行ってみせます。私とるーちゃんで…私達で」
ジムリーダーに認められた証、バッジを受け取って、握手もして、私達はジムを出る。るーちゃんを休ませて、私も休んで…旅を、続ける。
今言われた通り、ここからはジム挑戦も後半戦。まだまだ行った事のない場所も多いし、きっとまだ出会えていないポケモンも沢山いる。ジム挑戦だって、もう半分終わったんじゃない。まだ、半分なんだ。もっともっと、私達の旅は続くんだ。
「よーし、行くよ〜るーちゃん!」
「ちるー!」
まったりしていたるーちゃんを呼び、私はまた歩いていく。次に出会うもの、この先にあるものへの、期待を胸に。そしてこれまでと同じように……るーちゃんを、頭に乗せて。
「…って、るーちゃん乗るの!?うわっ…く、首が……!」
「るちる〜?」
「…う、うん…乗りたいよね…進化したって、るーちゃんはるーちゃんだもんね……」
進化して、大きくなって、重くもなったるーちゃん。でも相変わらず、私の頭の上に乗りたいみたいで…なんだかこれからは、大分首が鍛えられそうな気がする私だった。
今回のパロディ解説
・夢と冒険とモンスターの世界に…?
ポケモンシリーズにおける、冒頭のシーンのお約束のパロディ。しかし今回の話の冒頭でも出ている通り、夢と冒険とモンスターではなく、ボケとネタとパロディの世界ですね、これは。
・「〜〜今日は貴女が初めてお城に行く日でしょ?」
ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…に登場するキャラの一人、主人公の母親の台詞のパロディ。間違えてそっちの旅に出てしまったら、それはそれで長い話になりそうです、
・「スカウトアタック!」
ドラクエモンスターズシリーズにおける、モンスターを仲間にする際の台詞(というか表示)のパロディ。スカウトアタック!…と言われても、ポケモンからすれば「?」ってなるだけでしょうね。
・「〜〜俺は先に行く〜〜なくんじゃないぞ?」
マクロスfrontierの登場人物の一人、クラン・クランの台詞の一つのパロディ。これに対するミシェルの返しもパロディとしていれようかな、とも思いましたが、不自然になりそうでしたので止めました。
・「〜〜グレープアカデミー〜〜四天王と呼ばれる?」
お笑いコンビ、ロケット団の事。クロケットではなくロケットです。グレープアカデミーではなく、グレープカンパニーです。漫才協会は合っています。ごちゃごちゃなネタですね。