超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第二話 違い一つで色々変わる

 守護女神奪還作戦…ネプギア達の姉を取り戻し、犯罪組織が蔓延る現状を覆す為の戦いは、熾烈を極めた。ギョウカイ墓場で戦う私達は勿論、各国の大陸でも作戦行動は進められて……少しずつ変化を始めていた信次元の『今』は、完全に変わった。でも、それを感じるようになったのは、戦いが終わってから少しした後の事で…少なくとも皆は、終わった直後は姉を取り戻せた事への喜びと、沢山の事を話したい、自分達の経験してきた事を伝えたいって思いで一杯だった。私にとっては、四人の守護女神全員が初対面だから、感動よりも「この人達がネプギア達の…」って感想が強かったけど…それでも喜び、安堵し、心からの笑顔を浮かべる皆を見てたら、ここまで頑張ってきて良かったと思えた。

 でも、これで全て終わった訳でも、解決した訳でもない。まだ犯罪組織…の残党だって、倒せていない四天王だって残っている。

 そんな現状を前に、守護女神の皆さんは早速(と言っても暫くは静養してたけど)女神としての活動を再開し、戦いを完全に終わらせるべく…平和を取り戻すべく、頭も身体も動かしている。その姿は立派で、やっぱり守護女神って凄いんだなぁと思わせてくれるもので…だけどネプギア達にとっては、もっと休んでくれても良いのに、根を詰めている…そんな風に映ったらしい。そしてそんなお姉ちゃん達に、何かしてあげられないかって話になって……ある息抜きの時間を、企画する事となった。

 

「皆、お姉ちゃん達の為に頑張るわよ!」

「うん!えいえい、おー!」

『おー!』

 

 意気込むユニの言葉に続いて、ネプギアが右手の拳を突き上げる。私とロム、ラムの三人で、後を追うように一緒に「おー!」と拳を上げる。

 今、私達がいるのはプラネタワーの厨房の一つ。そしてここにいるのは、私達だけじゃない。

 

「ふふっ、皆やる気満々ですね」

「ま、気持ちは分かるわ。幾ら女神は強靭とはいえ、私だってもう少し休んでも…って思ってたもの」

 

 私達が交わすやり取りを見ている視線は二つ。一つは微笑むコンパさんのもので、もう一つは肩を竦めるアイエフさんのもの。ネプギアと共に、私が初めて出会った…私がここまでずっとお世話になってきたお二人。お二人がここにいるのは、私達が協力を求めたからで…これから私達がするのは料理。それも、ただの料理ではなく…ケーキ作り。

 

「コンパさん、アイエフさん、宜しくお願いします」

「えぇ、任せて頂戴。…って言っても料理じゃコンパの方が一枚も二枚も上手だから、私はあんまり出番ないかもしれないけどね」

「そんな事ないですよ、あいちゃん。一緒に教えてくれる人がいるだけでも、すっごく心強いですから」

「ありがと、コンパ。…じゃ、早速始めましょ。皆、作りたいケーキは決めてあるんでしょ?」

 

 語先後礼で私が頭を下げると、アイエフさんは頷いた後にまた肩を竦める。でもコンパさんがアイエフさんの自嘲気味な発言を否定すると、アイエフさんは小さく笑い、話を進める。

 お二人の会話から感じるのは、付き合いの長さ。何でもお二人はネプギアのお姉さんが切っ掛けとなって知り合ったらしく、それ以降ずっと仲間として女神に協力してきたらしい。つまり、長年の付き合いとか、幼馴染みとかではないんだけど…それでも付き合いの長さを感じるのは、それだけ濃密な経験をしてきたって事なんだと思う。

 

「あ、はい。わたしはショートケーキを作りたいな、って思ってます。お姉ちゃんなら、どんなケーキでも喜んでくれそうですけどね」

「アタシはブルーベリーケーキの予定です。チョコケーキと迷いましたけど、何となくこっちの方がお姉ちゃんのイメージに合う気がしますし」

「わたしとロムちゃんはモンブランよ!だっておねえちゃんの名前が入ってるもんね!」

「うん。モンブランって名前、かわいい(にこにこ)」

「ショートケーキ、ブルーベリーケーキ、それにモンブランですね。イリゼちゃんは、何にするです?」

「えと、私はティラミスにしようかな…って思ってます。…私は守護女神の皆さんの事をまだ詳しくは知らないので、ティラミスのここが合う、って理由じゃないですけど…」

 

 問いに対し、私達はそれぞれに回答。予めレシピも調べておくようにと言われてあるから、ざっくりだけど作り方は頭の中に入っている。…って言っても、多分…いや絶対、お二人に色々教えてもらわなきゃ完成になんて至れないだろうけど…。

 

「ふむ…各々選んでおいて、って言ったこっち側のミスだけど…こうもばらけると、中々大変そうね…」

「大丈夫ですっ。確かに皆同じの方が、教えるのは楽ですけど…大変ならその分、やり甲斐があるです!」

「そう言ってくれると助かります。…けど、お二人はあくまで手伝ってくれるだけ。頑張らなきゃいけないのはアタシ達自身よ…!」

 

 ぐっ、とコンパさんは胸の前で両手を握り、ユニはめらめらと闘志を燃やす。普段こういう事…女神の務めに関わる訳じゃない事だと、クールでちょっと斜に構えた感じの言動を見せる事が多いユニだけど、今回は違う。それは多分、姉の為にやる事だからで…それだけユニは姉の事を思ってるんだろうな、って私は思う。

…いや、ユニだけじゃない。 ネプギアもロムもラムも、表情はやる気に満ちている。助けた直後から分かっていた事だけど…ほんと皆、お姉ちゃんが大好きなんだね。

 

「皆さん、食材も用意してあるですね?」

「はい、大丈夫です。皆で買ってきたので、買い忘れとかもない筈です」

「それじゃあまずは、手を洗うですよ。これは料理じゃないですけど、欠かしちゃめっ、です」

『はーい』

 

 うんうん、と私達はネプギアの返答に首肯。続けて言われた通りに手を洗い、邪魔になったり食材が混ざったりしないようそれぞれ少し離れて、ケーキ作り開始。

 

「えーっと、まずはクリームチーズ…は、常温になってるから…これをボウルで混ぜて……」

 

 レシピを見ながら、順に食材を入れて混ぜる。ある程度入れていくと少しずつボウル内の抵抗が強くなって、混ぜるのが大変になるんだけど…女神パワーの前じゃ些細な差!今は人の姿をしているけど、女神化をすれば、今使ってるゴムベラでもハンドミキサー以上の力と速度だって……

 

「っとと……!」

「あ、力を入れ過ぎちゃったですか?固めたり、逆に形を崩したりする訳じゃないですから、力一杯やる必要はないですよ」

「で、ですよね…あはは……」

 

 勢い余って、危うくボウルから零しかけた私。それに気付いたコンパさんは助言をくれて、恥ずかしい姿を見せちゃったなぁと私は苦笑い。零す云々もそうだけど、この調子で力を誇示するような作り方してたら、パワー系女神みたいになっちゃうよ…。

 

「ふんふんふ〜ん♪」

「後はこれ位で……よし、ぴったりね」

「そういえば、ネプギアとユニは料理の経験がない訳じゃなかったわね。けど、困ったら遠慮せず訊く事。足りない分には追加すればいいだけだけど、多過ぎた場合は取り除こうにも取り除けないのが料理なんだから」

「ロムちゃんロムちゃん、これでもういいのかな?」

「んと…こ、コンパさん…(おろおろ)」

「これは…もうちょっと混ぜた方が良いですね。それとラムちゃん、クリームが外に落ちないように、ミキサーを持ち上げる時はボウルの内側で上げるようにするです」

 

 聞こえてくるのは、皆の声と調理の音。ネプギアは鼻歌を歌いながら進めていて、ユニは細かく計量中。どうやら二人の方は順調らしいけど、ロムとラムは混ぜ具合がよく分からなかったみたいで、さっきの私の様にコンパさんから言葉を受けていた。因みにロムとラムは、二人でモンブランを作ってるんだけど…戦闘の時と同じように、ここでも二人の連携はばっちりで、ラムがミキサーを使う間ロムはしっかりとボウルを押さえていた。……え、それだったら一人でも出来そう?…それは、まぁ…うん…。

 

(…って、皆を観察してる場合じゃないね。私も自分のケーキに集中しないと)

 

 視線も意識も手元に戻し、ティラミス作りに集中。今度は生クリームを入れたボウルにグラニュー糖を投入し、また混ぜる。その次はメレンゲを作る為に混ぜて、更にその次はコーヒーシロップ作りでまたまた混ぜて……って、さっきからずっと私何かしら混ぜてるよ…それがティラミスだって事なんだろうけど、ほんとに混ぜるものが多い…。

 とかなんとか思いながら、進める事数十分。全然料理なんてした事ないロムやラム、そもそも料理の経験があるかどうかすら謎の私は勿論、ネプギアやユニもケーキ作りは慣れてないから、まごつく事も少なからずあって、結構時間がかかってしまう。でもそれは、コンパさんやアイエフさんに見てもらう事はあっても、頼り切ってはいない証拠。

 

「ふー…あとは上にクリームをぐるぐる〜、ってやったらかんせーね!」

「…ラムちゃん、クリームにちっちゃいチョコとかのせるのは、どう…かな?」

「ユニちゃんも冷やす時間あるよね?」

「ま、アタシとネプギアのケーキは同系統だものね。イリゼもでしょ?」

「あ、うん。でも私はもうちょっとかかるかな…」

 

 苦労しながらも、ケーキ作りはいよいよ終盤。ケーキらしい形になっていくとやる気も増すというもので、後一踏ん張りだって気持ちになる。

 

「イリゼちゃんも皆も、最後まで慌てたり、急いだりしちゃ駄目ですよ?味は勿論ですけど、ケーキは柔らかいものですから、うっかりするとすぐに潰れちゃうです」

「…だって。イリゼ、最初みたいに力込め過ぎないようにね?」

「わ、分かってる。…って、混ぜてる時のあれ見てたの…!?」

 

 勿論だ、と普通に一度首肯してから、その発言の意味に気付いて二度見する私。するとユニは、悪戯っぽい笑みで面白そうにしていて…心の奥から、じわりと広がる恥ずかしさ。忘れていた序盤のミスを、まさかの形で掘り返される…これがほんとに、恥ずかしい。

 

「えー?どれくらい力こめてたの?」

「はやい!こぼれた!…ってなるくらい…?」

「それは違うお菓子だよロムちゃん…それに液体状じゃなかったから、びしゃってなる感じでもなかったかな」

「ネプギアまで…!?」

 

 さらりと判明する、ネプギアまで見ていたという事実。私だってちらっと皆の作る姿を見てたし、考えてみれば皆が見ててもおかしくはないんだけど…うぅ、ほんとなんで今なの…ネプギアに関しては、話の流れでつい、って感じもあるだろうけどさ……。

 

「…えーっと…イリゼ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です…うん、気にしちゃ駄目…気にしちゃ駄目だよ私……」

 

 アイエフさんから声を掛けられた私は、こういうのは気にすればする程恥ずかしくなると思って、自分に対して言い聞かせる。それから気を取り直し、言われた通りに最後まで急いだりしないよう心掛けて……遂に、私達全員望んだケーキが完成する。

 

「出来た〜…!…ふぅ…疲れたぁ……」

「わたしも…(くたくた)」

「皆さん、お疲れ様です。頑張った皆さんの為に、クッキーを用意しておいたですよ〜」

「え、ほんと?やったねロムちゃん!」

「けど、その前に片付けね。使った物は洗って仕舞うまでするのが料理ってものよ」

 

 最後の行程であるココアパウダーの振り掛けも済んだところで、私はふぅ…と息を吐く。コンパさんが出してくれた…多分予め作っておいてくれたっぽいクッキーを見てラムが真っ先に喜び、けどその前に…とアイエフさんは言う。それはそうだよね、と思いながら私達は器具を片付け…今度こそ、お終い。

…っていうのは、ちょっとだけ間違い。だってケーキは、作る事じゃなくて食べてもらう事が、食べてくつろいでもらう事が目的だもんね。

 

「はふぅ…がんばったあとのクッキーはカクベツね!…あ、ちょっとあまったクリーム付けてみよーっと」

「あ…ラムちゃんラムちゃん、おてて甘いにおいする、よ…?(くんくん)」

「やっぱりコンパさんの作るお菓子は美味しいなぁ…けど、すみません。協力してくれただけじゃなく、クッキーまで作ってもらっちゃって……」

「これはわたしが、きっと頑張ってくれる皆にご褒美をあげたくて用意したものです。だからそんな事は気にせずに、どんどん食べてくれて良いですよ」

 

 そう言って、コンパさんは柔らかな笑みを浮かべる。アイエフさんもいたとはいえ、私達五人を見て、アドバイスとかもするだけでも大変な筈なのに、予めクッキーを用意し、更に私達へのご褒美だと微笑んでくれるコンパさんは、なんかもう…あのネズミモンスター(?)じゃないけど、天使の様だった。…別に女神だから天使って表現した訳じゃないよ?

 

「…あ、そうだ皆。ケーキは勿論お姉ちゃん達に振る舞うんだけど…その時に、もう一つやりたい事があるの」

『やりたい事?』

 

 サクサクした食感とバターの風味を楽しむ中、提案があるんだと言ってくるネプギア。何だろうと思って私達が訊き返すと、ネプギアはふふっと笑った後に、一度厨房を後にする。

 何かを取ってくるのかな。それとも、何か用意しに行ったのかな。そんな事を話しながら、待つ事数分。軽快な足取りで、ネプギアは厨房へと戻ってきて……そのネプギアに、ネプギアの「やりたい事」に、私達は揃って目を丸くした。

 

 

 

 

 守護女神の皆さんにケーキを振る舞うのは、四人での会議が終わった後。会議って言ってもそこまできっちりしたものじゃなく、定期報告会みたいなもの…らしくて、それなら会議で決まった事、或いは結論の出なかった事が気になって、ケーキを楽しむ気持ちになれない…なんて事もないだろうと思い、このタイミングで振る舞う事にした。

 だけど、ただ作ったケーキをあげるだけじゃない。ネプギアが提案してきたのは、それにプラスα…の範疇には留まらないかもしれない行為。ケーキとその準備を万全にした上で、私達はプラネタワーの一室で待つ。

 

「おねえちゃん、来てくれるかな…(そわそわ)」

「そこは心配しなくていいでしょ。会議が終わったらすぐ帰るなんて話は聞いてないし、コンパさんとアイエフさんがこっちに誘導してくれるんだから」

「…ほんと、お二人には負んぶに抱っこだね。快く私達に協力してくれてる訳だし、感謝しなくっちゃ」

「うん、旅の中でもわたし達を支えてくれて……っと、皆。そろそろ来るみたいだよ…!」

 

 女神は人を助けるものだけど、コンパさんとアイエフさんは私達女神を助けてくれている。パーティーの皆もだけど、お二人にはほんとに沢山の感謝があって…と思っている中、アイエフさんから携帯端末でメッセージを貰ったネプギアが私達に教えてくれて、私達は配置に付く。…って言っても、ケーキを載せたお皿を用意して待つだけだけどね。

 

(…う、もう緊張してきた……)

 

 まだ振る舞う相手と対面してもいないのに、じわりと緊張感を抱き始める。でもきっと大丈夫。味見だってしたし、コンパさん達が協力をしてくれたんだから。そう思い、私は心を落ち着かせ……数秒後、私達のいる部屋…リビングに当たる部屋の扉が開く。

 

「所謂IFルートに、ねぷ子さんエントリー!」

「未だ嘗てない程まともさが吹っ飛んだ発言ね…いきなり何言ってるのよ…」

「このような発言、今更ではありませんの。ところで、IFと言うと、あいちゃんを連想しますわね」

「まあ、連想というかある意味そのままだものね…」

 

 入ってくるや否や、聞こえてきたのはびっくりな発言。続く発言はまともなのに、最初だけ…一人目だけぶっ飛んでるから、余計にそこだけ異質さが凄い。

 

「は、はは…ごめんなさいネプテューヌさん、私それになんて返したらいいかさっぱりです……」

 

 なんて表現したらいいか分からない雰囲気の中、思わず出てきた乾いた笑いと共に、私は率直な感想を返す。

 プラネテューヌの守護女神。紫の大地を治める存在であり、ネプギアのお姉さんでもある、パープルハート。…それが、この人。たった今、斜め上をすっ飛んでいくような発言をしたのが、パープルハートことネプテューヌさん。

 

(…ほんと、個性的な人だなぁ…人じゃなくて女神だけど…)

 

 女神は皆個性的だと思うけど、インパクトの強さで言えばやっぱりネプテューヌさんが断トツ。まだ他の三人…ノワールさん、ベールさん、ブランさんの事は何となく「こういう感じの人かなぁ…」位にしか分かってないけど、ネプテューヌさんだけは速攻で「あ、こういう人か…」と理解出来る位、とにかく個性の主張が強い。

 私はよく覚えている。守護女神の皆さんを直接見た時、四人全員が私やネプギア達とは一味も二味も違う雰囲気を、空気感を纏っていた事を。どこからどう見ても満身創痍なのに、息を呑む威風を皆さんの中から感じた事を。その内の一人、女神の姿のネプテューヌさんは、見た目も素振りも大人の女性って感じで、抱き着いたネプギアを優しく受け止める姿なんて素敵とすら思えた……ものだから、人の姿の性格にはほんと仰天した。幾ら何でも、ギャップがあり過ぎでしょう、って。

 

「ふふん、なんて返したらいいかって?それは勿論、『ここでも開口一番にメタ発言!?』的な突っ込みでオールオッケーだよっ!」

「今は妹達の友達って設て…こほん。妹達の友達にそんな妙なハードルの高い事を求めるんじゃないっての」

「ノワール、貴女も今メタ発言しかけなかった…?」

「ミイラ取りがミイラにならぬ、メタ指摘がメタに…ではありませんわね。今のは不要なメタ発言でしたし」

「…ロムちゃん、おねえちゃんたちが言ってる『めた』ってなぁに?」

「…よじん……?(はてな)」

「うん、絶対違うから。しかも今だと、メタ云々に引っ張られてパロディ発言してるみたいにもなるからね…?」

『……?』

 

 いやいやいや、と否定するユニの言葉に、ロムとラムはきょとんとした顔で小首を傾げる。一気に人数が増えたんだから当然、と言えばそれまでだけど…ネプテューヌさん達が来た瞬間から、流れが全然違うものへと変わっていた。

 

「ネプギア、ユニ、このままだとどんどん変な感じに……」

「だ、だね。皆、準備はいい…?」

「勿論。というか、元々準備万端で待ってたんだしね」

 

 小声で二人を呼び、頷きを得る。ネプギアの言葉でロムとラムもこっちを見て、私達は全員で頷き合う。

 

「…あぁそうだ、そういえば皆、ねぷ子達に用事があったんでしょ?」

「ほぇ?そうなの?」

 

 察した様子の、アイエフさんからのアシスト。何だろう、とこっちを見てくるネプテューヌさん達四人。それを受けた私達は、自分達の服を掴み……まるで怪盗が正体を現すかのように、用意した装いを披露する。

 

『いらっしゃいませ、(ご主人様・ごしゅじんさま)ー!』

 

 声を揃えて、笑顔を浮かべる私達五人。対するネプテューヌさん達は、私達を見て目を丸くする。…でも、それもその筈。私達の言葉が特徴的なのは勿論……今私達が身に纏っているのは、メイド服なんだから。

 

「あ、貴女達…その、格好は…?」

「えへへー、かわいいでしょー?」

「この服だけじゃ、ないんだよ?」

 

 ロムちゃんの言葉を合図とするように、私達はケーキも披露。ケーキを見た事で皆さんは更に目を丸くし…でも数秒後、発言と服装、それにケーキで私達が「何をしたいのか」に気付いたように表情が変わる。後何故か、ノワールさんだけはそれとは別に私達の姿をまじまじと見ていた。…何故……?

 

「このケーキは、ギアちゃん達が頑張って作ったんですよ?」

「それも、レシピを調べたり材料を用意したりするところから、最後に使った物を片付けるところまで、徹頭徹尾全部自分達で、ね」

「そうだったのね…でも、どうして…?」

「…お姉ちゃん達に休んでほしい。ずっと大変だったんだから、ちょっとでもゆっくりしてほしい。……それが、皆の気持ちです」

 

 ここは自分が、と皆の気持ちを私が代弁。それを聞いたノワールさんは…ううん、四人全員が見回すように私達を見て、ネプギア達はにこりと微笑む。ユニだけは、ちょっと照れ臭そうだったけど…思いは、皆と同じ。

 それから私達はメイドさんの様に(と言っても半ばイメージ上のだけど)ネプテューヌさん達へ接しながら、ケーキを食べてもらう。皆は初め、ドキドキしてるような顔だったけど……美味しいと言ってもらえた途端に、緊張の表情は満面の笑みへ。

 

「あ、因みにネプギア達四人のやり取りは割愛だよ。OPの第百二十四話で既にやってるからね。だから、見たい人は一旦そっちへGO!」

「お姉ちゃん、さっきからメタ発言ばっかりだよ…」

「でも、ねぷねぷのこういう部分は変わっていないって思うと、何だか安心するです」

 

 この部分で安心するの…!?…と思って見たコンパさんの顔に、嘘や冗談を言っているような雰囲気はない。それどころかネプギアは苦笑いを、アイエフさんは呆れた表情をしながらも、それ自体を否定するような事はなくて…どうしよう、私には理解が及ばないよ…。

 ただまあ何であれ、皆の作ったケーキは好評。皆のケーキが喜んでもらえるのも、それで皆が喜んでいるのも、友達としてすっごく嬉しくて…それに、ネプテューヌさん達が美味しそうに食べている姿を見ていると、ちょっと親近感を抱く。これまではネプギア達から、ネプテューヌさん達の凄いところ、格好良いところばかりを聞いていたから、私が普通に接するのは畏れ多いのかもって思ってたけど…ネプギア達との、妹達との普通のやり取りを見ていると、守護女神の皆さんもネプギア達と同じなんだって、近寄り難い存在なんじゃないんだって思えてくる。そんな思いを抱きながら、私はそれぞれのやり取りを見回していて……でもその中に、どこか寂しそうな表情を浮かべている人が一人。

 

「…あの、ベールさん」

「……ふぅ…友の幸せを妬むなど、女神にあるまじき思いとはいえ…やはり物悲しさは拭えませんわね…」

 

 そう、ネプギア達は四人で、ネプテューヌさん達も四人だけど、全員が姉妹という訳じゃない。ロムとラムは双子、つまりブランさんの妹は二人な訳で…ベールさんだけは、妹がいない。

 

「ベールさん、ちょっといいですか…?」

「えぇ、えぇ、分かってますわよ?誰が悪い訳でもない事は、誰も悪くない事は。けれどこれでは、わたくし完全に蚊帳の外ではありませんの…」

「ベールさーん?聞こえてますー…?」

「はぁ、わたくしはどうしたらいいのでしょう…このまま立ち去るのは悲し過ぎますし、かといってここにいるのも居た堪れない……」

「べ、ベールさん?もしかして聞こえてません?今物凄く自分の世界に入っちゃってる感じです…?」

「いっそ妹になど興味を、憧れを抱かなければ楽だったというのに…そういう意味では、この悲しみは自らの心が生み出したもの──」

「いや幾ら何でも独り言言い過ぎじゃありません!?こうなるとむしろ、わざと感ありますよ!?独り言じゃなくて、その体のネタに見えてくるんですが!?」

「へ?」

 

 声を掛けども掛けども反応のないベールさん。初めはそれだけ傷心なんだろうなぁと思ってた私だけど…流石に何度目かの時には思い切り突っ込んでしまった。突っ込まざるを得なかった。

 

「…貴女、中々勢いのある突っ込みをするわね…」

「あ…こ、こほん。…ベールさん、少し良いですか…?」

「え、えぇ。なんでして…?」

 

 あまり嬉しくない部分をブランさんから評価された私は気を取り直すように咳払いをし、今一度ベールさんに呼び掛ける。流石に今度はちゃんと聞こえたようで、ベールさんはこっちを向き…しまった、これは悪手だった…。なまじ仕切り直すような流れを作ったせいで、大事な話をするみたいな雰囲気になっちゃった…もっとさらっと進めるつもりだったのに……。

 

(これならさっき、反応がない内にしれーっと済ませちゃえば良かった……)

「…セイツちゃん?」

「うぁっ、は、はい!…えと、ベールさん…」

 

 今度は逆に私が呼ばれ、思考中だった事もあって思わず慌ててしまう。でもやっぱり無し、なんて事はしたくないし…ええぃ、もうこうなれば勢いだよ!勢いでぱーっと……

 

……いや、駄目だ。皆には及ばないけど、私だって、私なりに思いを込めて作ったんだから。だったら、勢いじゃなくて…ちゃんと渡さなきゃ。そう思って、そう思い直して……私は、言う。

 

「…私も、ティラミスを作ってみたんです。もし、良かったら…食べてくれませんか?」

「……!…い、いいんですの…?」

「はい。…と、いうか…元からそのつもりでしたし、ね」

 

 今日一番の、まん丸の目。それを浮かべたベールさんの問いに、私は首肯で返す。…実を言えば、私がティラミスを作ったのは、妹のいないベールさんにケーキを作ってあげる人がいないのは可哀想だから、っていうのが一番の理由で、だからいいも何も、って話なんだけど…それを言ったんじゃ、色々と台無しだもんね。

 

「う、うぅ…胸が一杯になりますわ……」

「え…ベール、まだ一口も食べてないよね…?」

「気持ちの問題ですわッ!」

「あ、はい……」

 

 さっきまで丸くなっていた目をくわっと見開き、ベールさんはネプテューヌさんの指摘を一蹴。いや、今のはネプテューヌさんの反応の方が普通じゃ…なんて思った私だけど、何だか凄い雰囲気のベールさんに、そんな事を言う勇気はなかった。

 それからティラミスに向き直ったベールさんはフォークを持ち、まるでこれから大事な事でもするかのように深呼吸。一度私の方を見てから、ティラミスへと視線を戻し、静かな声で頂きますと言い…一口、食べる。

 

「…………」

「…………」

「……あ、あの…どう、ですか…?」

「……感無量、ですわ…!」

 

 否が応でも緊張してしまう無言の時間。それに耐え切れず私が訊けば、ベールさんは小さく息を吐いた後に私を見て、感激したように…というか、明らかに感激した様子で、感無量だと言った。……いや、まぁ…なんというか…ど、どうしよう…ここまで感動されると、逆に反応し辛い……。

 

「ベールさん、イリゼちゃんのティラミス…そんなに、おいしかったの…?」

「美味しいですわ…それはもう、本当に本当に美味しいのですわ…!空腹は最大のスパイスなどと言いますけれど、わたくしは声を大にして言いたいですわ…!真のスパイスは空腹ではなく、喜びであると…!」

「なんかそれっぽい事言ってるけど、何を言い出してるんだ感凄いわよ貴女……」

「どう思われようと構いませんわ…!これはイリゼちゃんからの愛が籠ったティラミス。そしてネプギアちゃん達妹が姉にケーキを振る舞うこの場において、このティラミスの存在は、イリゼちゃんがわたくしの妹になってくれるという事と同義…!」

『いやいやいやいや…』

 

 美味しいと思ってほしい。そう思って作ったのは事実だし、喜んでくれたのなら嬉しい。でも、流石に愛までは込めていない。ましてやこのティラミスは、姉妹になる事と同義でもない。そりゃそうだよ。そりゃそうでしょ。…って、いうか…ベールさんキャラ変わり過ぎじゃない…?いつもの上品で物腰柔らかなベールさんはどこに行ったの…?

 

「えぇ、と…ベールさんの言っている事はともかく、喜んでもらえて良かったですね、イリゼちゃん」

「そ、そうですね…喜んでくれた事自体は、ほんとに嬉しいです…」

「イリゼちゃんイリゼちゃん、実際うちに来るのはどうでして?わたくしは勿論歓迎致しますし、女神の在り方の面でも、国のない状態より明確にどこかの女神、という立場を有していた方が良いと思いますわよ?それに女神候補生のいないリーンボックスであれば、他国よりも受け入れられるハードルは低い筈……」

「はいはいベール様、妙に据わった目で説き伏せようとするのは止めて下さいね。…それに、別に妹じゃなくたって……」

 

 一理あるような気もする語りをベールさんから受ける中、それをアイエフさんが止めてくれる。ベールさんが口を尖らせ不満そうにしても、アイエフさんは一貫した態度で制止して……ると思ったけど、その後ちょっぴりアイエフさんも不満そうな顔になって、小さな声でぶつぶつと何か言っていた。それにベールさんが目を瞬かせると、更にアイエフさんは不満そうになったけど…肝心の声がよく聞こえないから、どういう事なのかは分からない。

 

「…ね、イリゼちゃん」

「……?どうかしました?ネプテューヌさん」

「や、別にどうって事はないんだけどね。ただちょっと気になったっていうか…イリゼちゃんは、皆と仲良くやれてる?」

 

 何だったんだろうか…と思っている中で、不意にかけられる声。それはネプテューヌさんからの呼び掛けで、私が問いを返すと、ネプテューヌさんは軽く笑った後に私へと訊いてくる。皆と…ネプギア達との、関係を。

 一瞬、質問の意味が分からなかった。質問そのものの意味は分かるけど、何故そんな事を訊くのかが分からなかった。でも、ネプテューヌさんの顔を、私を見つめる柔らかな表情を見て、理解する事が出来た。心配…って事じゃないと思うけど、私の事を気に掛けてくれてるんだって。

 それに、ネプテューヌさんだけじゃない。気付けばノワールさんもベールさんもブランさんも…守護女神の皆さん全員が私を見ていて、私からの言葉を待っている。こうやって注目されるのには少し恥ずかしさもあって…でもちゃんと、私は答える。答えたいと、そう思った。皆さんからの思いに、ネプギア達との日々の事を。

 

「…ネプギアは、何も覚えてなくて、不安が一杯だった私の、最初の友達になってくれました。ユニは女神とはどういうものなのか、どんな道を歩むものなのかを教えてくれました。ロムは私と一緒に、色んなものを知って、知識も感じた思いも共有してくれました。ラムは私が記憶喪失だって事を一切気にしないで、普通に女神として…対等の相手として接してくれました。皆々優しくて、私を思ってくれて、力になってくれて……」

『…………』

「…だから皆は、私にとってかけがえのない友達です。私は皆に出会えて、友達になれて、凄く幸せです。仲良くやれてるかどうかで言えば……ばっちり、仲良しです!」

 

 皆との日々を思い出しながら、その時々で感じた思いを想起しながら、私は語る。そして、私は言い切り…笑う。皆と友達になれて幸せだと、目一杯の気持ちを込めて。

 

「うぅ…イリゼちゃん、わたしも…わたしもイリゼちゃんと友達になれて幸せだよっ!」

「わわっ!?ね、ネプギア!?」

「イリゼちゃん。これからもなかよく、しようね?(にこにこ)」

「ま、イリゼってばおちょこっちょいだものね。だからこれからも、わたしもなかよくしてあげるわ!」

「それを言うならおっちょこちょいでしょ…ふふっ。そこまで言ってくれるなら、悪い気はしないわよ。イリゼ」

 

 飛び込むような勢いで横から抱き着いてきたネプギアにびっくりする私。続けてロムは柔らかな、ラムは自信満々な、そしてユニはちょっぴり悪戯っぽい笑みを浮かべていて……私は、思った。あぁ、やっぱり…友達って、いいなって。

 

「…そんな気はしてたけど…やっぱり素直で良い子じゃない、イリゼって」

「そうね。貴女と同じ位の背格好だし、そういう意味じゃ少し浮いてるけど…友情の前には関係ない事ね。…っていうか、ほんとにノワール並みのスタイルね…くっ……」

「くぅっ、やはりイリゼちゃんをうちにお迎えしたいですわ…!…あ、勿論ネプギアちゃん達も魅力的ですわよ?」

「要らないよそんな補足…こほん。それじゃあ答えてもらった訳だし、わたしからも言わないとね。…これからも、ネプギアと…ネプギア達と仲良くしてね!」

 

 思いを口にした私の答えは皆さんを安心させるのに十分だったようで、ネプテューヌさんはにこりと笑う。お三人も、うんうんも頷く。

 私は、ネプギア達女神候補生の事は、それなりに知っている。旅の中で、知る事が出来た。でもネプテューヌさん達守護女神の事は、まだあまり知らない。だから…少しずつ、知っていきたい。同じ女神として…ううん。女神云々を抜きにしても、ネプギア達や、パーティーの皆さんの様に、ネプテューヌさん達とも親睦を深められるように。

 

「…あ、そうだ。折角だから記憶喪失の先輩として、イリゼちゃんに一つアドバイスをあげよう!」

「え!ほ、ほんとですか!?」

「ほんとほんと。でも別に、凄い事じゃないよ?わたしが言える事なんて、記憶喪失でも死んだりはしない、って事位だしねー」

「お、お姉ちゃん…それは流石にアドバイスでもないんじゃ……」

「あー、やっぱりー?でもさ、記憶喪失だって美味しいものは美味しいし、楽しい事は楽しいし、友達だって沢山作れるんだから、悲観ばっかりしなくてもいい…っていうか、もっと前向きにいた方が良いと思うんだよね」

「それはネプテューヌが超マイペースだから言える事でしょ」

「イリゼみたいな真っ当な子には向かない話ね」

「あ、ノワールもブランも酷ーい!…あぁそうそう、元々わたし達四人は争ってたみたいなんだよね。それが今じゃ友達なんだから、案外『記憶喪失が紡ぐ友情』っていうのもあるかもしれないよー?」

 

 おまけみたいな感覚で伝えられた、記憶喪失の先輩(?)からのアドバイス。何とも斜め上なアドバイスに、私は初めぽかんとしてしまったけど…意外とそうかもしれないと、同じ守護女神のお三人を見ながらふふんと胸を張るネプテューヌさんを見ている内に、私は思った。だって、実際そうだから。記憶喪失でも美味しい、楽しいって感情は感じられてるし、皆と友達や仲間になれたんだから。私は記憶を取り戻したいけど…記憶のない『今』が、悲観するような日々だなんて事は微塵もないから。

 

「…ネプテューヌさん、アドバイスありがとうございます。ちょっぴりですけど、心が軽くなったような気がします」

「ふっ…それに誰だって、記憶を持って生まれる訳じゃないんだよ、イリゼちゃん。人は皆、空のデッキケースを持って生まれてくるんだから…ね」

「いや、他人の台詞で格好付けるんじゃないっての」

「ねぷねぷが決め顔しても、ちょっとふざけてる感が拭えないですね…」

「えぇー、そう…?まあでも、イリゼちゃんは可愛い妹の友達だからね。女神とか記憶喪失とか関係なしに、何かあったら頼ってくれて構わないよ!」

「うんうん、こう見えてお姉ちゃんは物凄く頼りになるんだからね、イリゼちゃん!」

「こ、こう見えてって…ネプギア、さらっと姉をdisってない…?…まあ、でも、とにかく…ネプギア達も、ネプテューヌさん達も…これからも、宜しくお願いしますっ!」

 

 ぺこんっ、と私は頭を下げる。友達も、旅の仲間も、その友達のお姉さん達も…一つ一つが、私の持つ繋がり。この繋がりを、私は大切にしたい。

 それに、まだ戦いは終わってない。まだ犯罪組織の脅威は過ぎ去ってないし、それが過ぎ去ったとしても、女神はお役御免になんかならない。だから…頑張らないとだよね。私も、皆と一緒に…皆を、支えられるように。

 

 

 そうして、賑やかなままにネプギア達とネプテューヌさん達を労う企画は終わりを迎える。当然ケーキはお店に出せるレベルじゃないし、メイドさんらしい言動もやってたのは最初だけっていう凄く中途半端なものになっちゃったけど…それでも喜んでもらえたし、皆楽しい思いを抱けてたって、私は思う。

 

 

 

 

「ふふっ、どうですイリゼさん。今回は、こんな感じの内容だったんですよ」

 

 仮想空間生成装置のログは、映像として見られる訳じゃない。一応設定次第で展開を文章化出来るらしいけど、何もかもを表示してくれる訳じゃない。…と、いうより何もかも表示するとなると気が遠くなる程の情報量になっちゃうから、こっち側から表示するデータを制限して、それで確認するのが今現在の基本になっている。

 それを今、私はネプギアと確認していた。今回行った、仮想空間での活動のログを。

 

「どう、って言われると…色々興味深いよね。私の目覚めが遅くなった結果、私も一緒にケーキ作りをする側になって、私の代わりにコンパとアイエフが教えてるだなんて」

「イリゼさんがお菓子作りをするようになったのって、マジェコンヌさんとの戦いが終わった後でしたっけ?」

「そうだよ。でも、犯罪組織が台頭するより前だから、現実とは違う感じになったんだね」

 

 やっぱり、気になったのは立場の変化。ネプギア達は私との関係以外ほぼ違わないのに対し、私のポジションは大きく変わっていて、更にコンパやアイエフが関わっていた今回の結果からは、まるで創作における歴史改変みたいな印象を抱かされる。

 

「…それに、気になるっていうか…まさか、こうもがっつりベールから妹にしようとされるとは、ね……」

「あはは…でもこれ、このままシミュレーションを続けた場合、多分いーすんさんがイリゼさんの姉だって事が判明したり、セイツさんが現れたりもしますよね?その時、ベールさんはどうするんだろう…」

「さぁ…?…シミュレーションしてみる?」

「いえ、止めておきます。長期のシミュレーションだと必要になるデータも膨大になりますし、ところどころでデータが不足したままシミュレーションをしても、変な展開になっちゃう可能性が高いですからね」

 

 そう。シミュレーションはあくまで蓄積されたデータと、入力された設定を元に行われるもの。だから当然、データにない事柄は出現させる事も再現する事も出来ないし、データは地図や設計図みたいなものだから、一部が欠けているだけでも問題が発生したり、最悪シミュレーションの続行自体が出来なくなる。将来的には蓄積されたデータを元に、人や物、出来事なんかを自動生成して進める事も出来るみたいだけど…まだ、今はその段階じゃないからね。

 

「…さてと。それじゃあシミュレーションも終わった事だし……あ、そうだ。ネプギア、今何か食べたいものある?」

「へ?…どうしてですか?」

「別に深い理由はないよ。ただ…ログを見て、前に皆のケーキ作りを手伝った時の事を思い出したら、何だか作りたくなってきちゃってね」

 

 きょとんとするネプギアを前に、私は肩を竦める。お菓子作りは私の趣味であり、私にとって楽しい事。だからこんな感じに、ふとした顔でやりたくなる。

 お菓子作りが趣味で、ネプギア達に教えた現実の私。お菓子作りなんて全くした事がなくて、コンパとアイエフに教えてもらった仮想空間の私。この間には、現実と仮想空間のシミュレーションには、違いが幾つもあって…だけど、同じ事もある。変わらない事だってある。

──気持ちを込めて作ったものを、美味しいと思ってもらえれば嬉しい。そう思う、そう感じる心は、どっちの私も変わらない。




今回のパロディ解説

・「はやい!こぼれた!〜〜」
ポケモンシリーズにおけるミニゲームの一つ、ポフィン作りで出てくる表示の一つのパロディ。読んで字の如く、早く回し過ぎた場合に出てくるテキストですね。

・めた、よじん
アズールレーンに登場する名称のパロディ。それぞれMETA、余燼、ですね。METAはネプテューヌシリーズ(が関わる作品)でいうカオス…とも違いますね、えぇ。

・「〜〜人は皆〜〜生まれてくる〜〜」
ビルディバイドのアニメに登場するキャラの一人、樋熊万里生の名台詞のパロディ。記憶喪失と絡めて、タイムリー…であろうネタを入れてみました。
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