超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第三話 きっとそれは遠い夢

──重…いかどうかはよく分からない瞼を開けて、目を覚ます。…あれ?目を覚ましたから、瞼を開ける訳で…だから逆かな…?…まぁ、いっか…。

 十秒か、二十秒か、ベットの中でうだうだとしてから、ゆっくりと身体を起こす。のんびりと、伸びをする。しっかり寝ても寝起きが眠いのは、一体何故なのか。起きて身体を動かせば眠気も霧散してくれるとはいえ、起きる必要があるから起きるのに、起きた瞬間から目が冴えた状態にならないのは、睡眠絡みの欠陥なんじゃないかと思う。……なんて、朝からしょうもない事を考えてしまっているのは、寝起きでまだ頭が働いていないから…だと、思う。多分。

 

「ふぁ、ぁ……」

 

 欠伸をしつつ、ベットから出る。服を着替えて、顔を洗ったり軽くベットを整えたりして、部屋から廊下へ。廊下からリビングへ。

 

「今日の朝ご飯は…あ、イストワールさんおはようございます」

「おはようございます、イリゼさん(´∀`*)」

 

 入ったところで早速自分より先に来ていた人物を見つけた私は、声を掛ける。ほぼ同時に気付いた人物…イストワールさんはにこりと笑って、柔らかな声で返してくれる。

 

「朝ご飯、すぐに作りますね」

「いつもイリゼさんに任せ切りですみません。わたしも出来る事なら、手伝いたいのですが……(´-ω-`)」

「大丈夫ですよ。それにイストワールさん、いつもテーブルの方の準備はしてくれるじゃないですか」

 

 申し訳なさそうにするイストワールさんに、ふるふると首を横に振る。イストワールさんが身体のサイズ的に手伝えない…というより、通常サイズの包丁や鍋を使って調理している姿を見ているとこっちが不安になってくるから、遠慮してもらっているというのが実際のところ。

 それから私は台所に入り、手を洗う。軽くイストワールさんと話もしながら、準備を始める。

 

「んー、と…ソーセージと、卵焼きと……」

 

 冷蔵庫の中身と今の気分からおかずを決めて、いつもの調子で朝ご飯を作っていく。作っている内に、良い匂いが香ってくる内に、薄っすらとしていた空腹感が増していく。

 

「ん、今日も良い出来」

 

 お菓子作りはそれなりに得意だけど、それ以外は平々凡々…なんて昔の事。今ではお菓子以外も大得意!…って程ではないけど、前よりは着実に上手くなっている……と、思う。

 段々上達しているのは、連日の様に作っているから…というのが一つ。そして、もう一つは……

 

「これでよし、っと。イストワールさん、朝ご飯出来ましたよー」

「みたいですね。ふふ、良い匂いです(о´∀`о)」

 

 完成したと私が言えば、わざわざイストワールさんは一度台所の方まで来て、良い匂いだと笑ってくれる。なんかもうそれだけで嬉しいというか、充実感が湧き上がってきて…こうやって言ってくれる人がいるんだもん。頑張ろう、もっと上手く作れるようにしようって思いにも、自然となるよね。って訳で、イストワールさんが良い匂いだと言ったから、今日は朝食記念日です…なんちゃって。…こほん。

 だから私は、ご飯を作る事を全く苦には思っていない。それに日課になってしまえば、「いつもやってる事だから」って調子で出来て…出来上がった朝食を食卓へと運ぶ中、また一人、リビングへとやってきた。

 

「丁度良いタイミングだったみたいね。おはよう、二人共」

「おはよ、セイツ」

「おはようございますセイツさん。…おや?(・・?)」

 

 ちらり、と私の置いたお椀を見て、リビングに入ってきたのはセイツ。投げ掛けられた朝の挨拶に、私とイストワールさんは続けて返し…イストワールさんは首を傾げた。すぐに私も、その意味を理解した。

 たった今、セイツは入ってきた。でも廊下にはまだ、何かいる。何かっていうか、まぁ大方予想は付いてるけど、セイツではない誰かの髪の毛がちょっぴり見えている。でもって、私とイストワールさんが見ている中…数秒程してから、その人物も姿を現す。

 

「お…おはよぉ…ござい、ますぅ……」

 

 眠たそうな、ぽわぽわ〜っとしている感じの…見た目は私と全く同じな女の子。入ってくるまでに時間が掛かっていたのは、多分廊下でうとうとしてたんだろうなぁ…と思いつつ、その女の子…もう一人の私であるオリゼに、ほんわかとした気持ちで挨拶を返した。

 

「二人共来ましたし、食べるとしましょうか」

「…いつも思うけど、イリゼってばイストワールにだけはずっと敬語よね。まあ、それも慣れたけど」

「わたし達からすると、イリゼさんが敬語じゃない方がちょっと違和感あるんですよね。勿論、変えても暫くすれば違和感はなくなるんでしょうが…(・ω・`)」

「別に、喋り方は変えなくたって姉妹である事は…家族な事は変わりませんもんね」

 

 前に敬語を外して話し掛けてみた時は、何だか恥ずかしくなっちゃったなぁ…なんて思い出しつつ、食卓に付く。家族で、食卓を囲う。

 白米に、豆腐とわかめとじゃがいもの味噌汁に、卵焼きとソーセージ、それにトマトやレタスや人参なんかを混ぜたサラダ。多分だけど、普通の家庭とそんなに変わらないだろうこのラインナップが、今日の朝食。

 

「それじゃあ、頂きます」

 

 手を合わせ、食事の挨拶。私の声を合図とするように、三人も同じように言って…ちょっと、待つ。箸を持ちつつも、私は三人が食べるのを、反応を待つ。

 

「…ふぅ。やっぱり神生オデッセフィアの朝は味噌汁よねぇ」

「そうなの?」

「そ、そうなんです…か?」

「そうなのか調べるだけ調べてみましょうか?

( ̄▽ ̄)」

「じょ、冗談よ…二人は真顔で反応してしないで、イストワールも冗談だって分かってるなら調べようとしないで……」

「ふふふ。でも、美味しい味噌汁ですね。この味はほっこりします( ´ ▽ ` )」

「た、卵焼き…も、美味しい…ですっ!甘くて、あったかくて、私の好きな…卵焼き、です…っ!」

「でしょ?伊達にオリゼの複製体やってないからね」

 

 私の作った朝ご飯を食べて、皆は笑みを見せてくれる。美味しいと言ってくれる。そしてそれを見て、聞いてから、私も朝食に手を付ける。ついつい反応が気になっちゃうのが私の癖で…というか、こういう経験は皆ある筈。常日頃から使ってる人は、慣れで気にならなくなるんだろうけど、私の場合は中々慣れない。

 だけどこれは、皆の側にも一因があると思う。だっていつも、こうして反応してくれるんだから。

 

「…うん、ソーセージも美味し。サラダは……素材そのままの味、かなぁ…」

「まあ、味付けしてないサラダならそうよね。…あ、いや、切り方で味が変わったりはするのかしら……」

「味というか、食感は変わりますし、切った見栄えが綺麗なら、そうでないものより何となく美味しく感じる…という事はあるかもしれませんね

(´・ω・`)」

「切り方……あ…!も、もしかして…私、の料理が上手くいかないのは、切り方が……」

『それはどう(かな・かしら・でしょう)…』

 

 はっとした顔で言うオリゼに、私達は姉妹揃っていやいや…と否定。オリゼの事は極力肯定してあげたいけど、これは流石に…オリゼのトンデモ料理だけは何とも言えない。だって、色々あり得ないもん…食材も調理工程も無視して全く違う料理が出来上がるとか、料理じゃなくて錬金術だよ…。

 

「こ、こほん。ところで皆さん、今日は何か予定があるんですか?(´・ω・)」

「予定…え、えとえと、今日はお昼にお昼ご飯を食べて、夜は夜ご飯を食べて、お風呂にも入って……」

「いや毎日してる事じゃなくて、それ以外でやる事を訊いているんだと思うわよ…?というか、食事やお風呂は予定って言うの…?」

「あ、あはは…私は今日、出掛けようかなって思ってます。特に目的は決めず、ぶらぶらと」

「へぇ、街を見て回るの?」

「まぁ、そんなとこ。セイツとイストワールさんは?」

「わたしはクリアしたゲームの二周目を、って思ってたけど…んー、折角だしわたしも一緒に行っていい?」

「では、わたしもご一緒宜しいですか?わたしも今日は、少し買い物をしようと思っていたんです(*^◯^*)」

 

 今日は、休みの日。私も皆も、全員お休み。そして、明確に行き先を決めるんじゃなくて、散歩みたいな感覚で街を回る…っていうのが、今日の予定というか、やろうかなと思っていた事。それを私が話すと、セイツとイストワールさんが乗ってきて…そうなれば当然、視線はもう一人であるオリゼへと集まる。

 

「オリゼはどうする?さっきの口振りだと、特に決めてる事はないんだよね?」

「…わ、私も一緒にお出掛け…して、いいですか…?」

 

 問い掛ければ、オリゼは不安の浮かんだ瞳でこっちを見てくる。いつもと同じ、自信なさ気な様子で訊き返してくる。だから私達三人は、顔を見合わせた後…言った。

 

『勿論!』

 

 オリゼを、私達を創り出してくれた存在を拒否する理由なんてない。そうでなくても、皆で、家族でのんびり街を回るっていうのは、きっと楽しい筈だから。

 

「そうと決まったら、早くご飯を済ませて準備をしないとね」

「あ、駄目ですよセイツさん。作ってもらったご飯なんですから、感謝して食べないと…です(´-ω-`)」

「そ、そうですよセイツっ。お肉もお野菜も、それを作った人の努力が詰まっている、んですから…ちゃんと食べないと、許さない…です…!」

「いやいや、セイツは別に朝食を雑に済ませようとしてる訳じゃないと思うけど…後オリゼ、それだと某食堂のお婆さんのパチモン感が……」

 

 姉同然の存在と、親同然の存在にそれぞれ注意をされて、流石にちょっとわたわたするセイツ。それに私は苦笑しつつ助け船を出して…それからも私達は、談笑しながら朝食を食べた。食べて、その後はそれぞれで使った食器を洗って、一度部屋に戻って…そうして私達は、出掛ける。目的地は決めず、ぶらぶらと…家族四人、皆で。

 

 

 

 

「イリゼっ、セイツっ、イストワールっ。あ、あそこのお店、開いています…!行って、みましょう…!」

 

 言うや否や、オリゼは指差したお店へと駆けていく。その何ともオリゼらしい様子に私達は肩を竦めつつ、歩いてオリゼを追い掛ける。

 教会を出てから数十分。私達は今、街の人…国民の皆と交流もしながら、街の中を歩いている。

 

「ここは…あ、書店なんだね」

「文具も扱っているみたいですね( ・∇・)」

 

 中に入り、ぐるりと見回す。チェーン店ではない、でもそれなりに大きい店舗の中には、確かに文具コーナーもあって、更にはブックカバーやブックライトみたいな、本に関連する物もそこそこ取り扱っていた。

 

「オリゼは…あ、いた」

 

 同じく見回していたセイツが、先に入っていったオリゼを発見。オリゼもキラキラとした目で店内を見ていて…けど恐らく、オリゼが見ているのは本でもお店の作りでもなく、働く店員とお客さん。まるで最初からここに来るのが目的だったみたいに、オリゼは楽しそうな顔で店内の人を……

 

「ぴぁっ!?あ、ぁ…!」

『わわ……っ!』

 

 見ながら歩いていたものだから、お勧めの本コーナーとして棚とは別に設置されていた段ボールラックに足を引っ掛けてしまった。

 半ば蹴られる形になり倒れるラック。ショックを受けるオリゼ。反射的に、そして慌てて私とセイツはその場へスライディング気味に飛び込み、載せられていた本をキャッチ。イストワールさんも間一髪でラックを掴んで、ギリギリ私達は事なきを得る。

 

「あ、あっぶなぁぁ…ランタン買った直後に落としかけた某キャンパーの気分になった……」

「本だから潰れる事はないと思うけど、危うく本を傷物にするところだったわね…」

「ぅ、あ、ご、ごめんなさい…!わ、私がちゃんと前を見て、歩いていなかったから…!」

「何とかなったのですから、大丈夫ですよ。…前を見て歩いた方が良いのは、その通りですけど…( ̄◇ ̄;)」

 

 表紙や背表紙が破けたり、曲がってしまったページがあったりしないか確認した後、私とセイツはほっと胸を撫で下ろす。ぺこんぺこん謝るオリゼ(どうも一冊だけ別方向に飛んだらしくて、それはオリゼがキャッチしていた)には、イストワールさんの言う通りではあるけど…と思いつつも頬を掻き、ラックと本を元に戻す。

 と、そこで何事か、と一人の店員さんが近寄ってきて、私達は起こった事を説明。今度は店員さんにオリゼがぺこぺこ謝っていて、その勢いに店員さんはむしろ困惑していて…私達は、苦笑い。…こう、何かとオーバーなところがあるんだよね、オリゼって…。

 

「うぅぅ…も、申し訳ない事を、しました……」

「まあまあオリゼ、店員さんは怒ってなかったんだから、ね?」

「イリゼの言う通りよ。それにオリゼがあんまり気にしたら、むしろそっちの方が、店員の人に変な気を遣わせちゃうんじゃないかしら?」

「ぁ……!」

 

 まだ気にしているオリゼを宥める中、セイツの言葉でオリゼははっとし、少なくとも表面上は切り替える。上手く誘導してくれたセイツに私がこっそりサムズアップすれば、セイツはふふんと自慢気に笑う。

 

「それで、どうする?もうちょっとお店の中を…っていうか、本見ていく?」

「わ、私、そうしたい…です」

「立ち寄ったのに、プチハプニングだけ起こして帰る…っていうのも、ね。わたしも賛成よ」

 

 ここまでは勿論皆で一緒に来たとはいえ、店内でまで一緒に行動する必要はない。そういう訳で私達は一旦別れ、各々興味のあるコーナーへ。

 私がまず向かったのは、料理コーナー。今の時代、レシピはネット環境があればそっちで十分事足りるけど、凡ゆるレシピがある訳じゃないし、本は目的じゃないものも色々載っているから、ついでに…って感じで、目的以外のレシピも意外と学べたりする。ネットだと気軽だし調べたいものだけを集中的に調べられるからこそ、目的なく適当に調べてる訳でもなければ、関係ないものは調べずそのまま終わっちゃうもんね。

 

「んー…そういえば、あんまりゼリー系は作った事なかったっけ……」

 

 暫くレシピ本を眺めた後、漫画や小説のコーナーへ移動。そこでセイツと一緒になって、雑談しながらまた少し眺める。

 それからまた、今度はセイツと二人で店内を歩く。さっきまでは本目当てだったけど、今はオリゼとイストワールさんを探している最中で…先に発見したのはオリゼ。見つけた場所は…絵本コーナー。

 

「ほぇぇ…ふむ、ふむ……」

 

 近付く事で聞こえてきたのは、興味深そうな声。今声を掛けるとびっくりしちゃう事は間違いないから、声を掛けずに足音を立てて、オリゼの方から気付いてもらう。

 

「あ…イリゼ、セイツ…お、お二人も、絵本が気になった…ん、ですか…?」

「んーん。参考になりそうな本はあった?」

「は、はい…!絵本は、読むのも楽しいですけど…参考にも、すっごく…なります…!」

 

 こくん、とセイツからの言葉にオリゼは頷く。参考、というのは絵本を書く上での事で…オリゼは趣味で、絵本を書いている。決してプロを目指してるとかじゃなくて、画材も特に凝ってる感じはないんだけど…だからこそ、純粋に作るのを楽しんでいるように、私は思う。

 

「絵本も今は多様性に溢れてるわよね。物語の内容は勿論だけど、視覚的に楽しめるのも多い訳だし」

「創意工夫、ってやつだよね。オリゼ、もう少し見る?」

「い、いえ。もう、大丈夫…です」

 

 じゃあ、と私達はオリゼとも合流し、イストワールさんを探す。多分絵本コーナーだろうな、と予想が付いていたオリゼと違って、イストワールさんはどこにいるのか全く分からず…端から順に回った末、私達は手芸コーナーで漸くイストワールさんを発見した。

 

「あ、い、いました。…手芸…?」

「イリゼ様?…だけでなく、イリゼさんにセイツさんまで…もしかして、待たせてしまいましたか?(・□・;)」

「そんな事ないですよ。でも、意外でした。イストワールさんが、手芸に興味あっただなんて」

「興味というか、わたしにとって手芸の本は実用書みたいなものなんです。基本的に身の回りの物は業者に頼んでいますが、自分で作れるものなら、自分でやった方が手っ取り早いですからねd(^_^o)」

『あー』

 

 イストワールさんの回答に、私達は揃って納得。それからイストワールさんがちょこんと座って手芸をしてる姿を想像してふふっとなり…ふと横を見たら、オリゼとセイツと似たような顔をしていた。考えていた事は同じみたい。

 

「…やっぱり、調べた通りこれが良さそうですね(*´ω`*)」

「調べた通り…って事は、もしかしてイストワール……」

「はい、元々本屋に行くつもりだったんです。でも、今買うと荷物になってしまうので、買うのは帰りにします(´・∀・`)」

「…因みにイストワールさん、イストワールさんの力なら買わずとも内容を全て把握出来るような気がするんですけど……」

「いやまあ、出来る事は出来ますけど、そういう使い方をするのはちょっと…(~_~;)」

「そうよイリゼ、それは普通に悪い使い方だし、しかも結構せこい使い方じゃない」

「うっ…き、訊いてみただけだからね…?」

 

 安易に質問をした結果半眼で見られ、私は弁明。それはその通りなんだけど、まさかそんな返しをされるとは思っておらず…がっくり。そんな私はオリゼに慰められながら、三人と一緒に本屋を出た。

 

「…って、いうか…本屋に行くつもりだったなら、さっき私が見ていく?って訊いた時に言ってくれても良かったのに…」

「すみません。でも、あの時は皆さん賛成でしたが、もしもう別の場所に行きたい人がいた場合、ここに目的が…と言うと、遠慮させてしまうかと思いまして…σ(^_^;)」

「……そういうの、良くないですイストワールさん」

 

 また街を歩いて回る道中、実はこう思ってまして、とイストワールさんは答えてくれた。…けど、それを聞いて私は、少しだけ不満を持った。それは違う、それは良くない、とイストワールさんを見つめ…オリゼとセイツが、私に続く。

 

「そうね、良くないわイストワール」

「え、と…あの、それは……」

「そ、そうですそうです。遠慮させてしまう、と思って遠慮されるのは…私、嫌…ですっ」

「う…ごめんなさい、それはそうですよね…」

 

 同調してくれたセイツからの、理由をはっきりと言ったオリゼの言葉で、イストワールさんは理解をしてくれる。

 こういうのは、良くない。遠慮させない為の遠慮、気遣いさせない為の気遣い…それは負担を抱える対象が変わるだけで、それじゃ意味がないんだから。ましてや私達はそんな事で遠慮したりはしない…訳じゃないけど、それ位負担にだなんて微塵も思わないんだから、それなのにイストワールさんが遠慮するってのは…やっぱり、違う。

 

「イストワールはわたしとイリゼのお姉ちゃんなんだから、変な気なんて回さず、もっと堂々と、わたしこそが姉ですが?…って位の態度をすれば良いのよ」

「いやセイツ、それはちょっとキャラ的にイストワールさんらしくないような…妹に遠慮なんてしないでよ、っていうのには同感だけどね」

「私にも、です。…ぁ、い、今のは私も妹、という事ではなくて、私にも遠慮は要らない、っていう意味で……」

 

 いやいや…と軽く突っ込みつつ、私はセイツに頷いた。立場的なものもあるんだろうけど、イストワールさんは普段から一歩引いたようなスタンスでいる事が多い。それが遠慮だけじゃなく、元々の性格による部分も多いって事も、常に遠慮してる訳じゃないって事も分かってるけど…こういう良くない遠慮、気遣いだけは、しないでほしい。…家族、なんだから。

 

「…そうですね。すみませんでした、皆さん。それと…ありがとう、ございます(*´꒳`*)」

「ん、分かったなら良し、よ。…因みにイリゼ、わたしはどう?イリゼから見てお姉ちゃんらしい?」

「それは……ど、どうだろう…」

「えぇ!?ど、どうだろうって…そんなお茶を濁さなきゃいけないレベルに感じてたの!?」

「あぁいやそういう事じゃなくて…ほんと、姉らしい?…って言われればそんな気もするし、でも姉らしくない?って言われてもそんな気がするっていうか……」

「イリゼ、その回答は全く以って中身がないわよ…」

 

 がっくり肩を落とすセイツに私は申し訳ない気持ちになる…けど、実際そういう感じなんだから仕方がない。気を遣って建前を言う事も出来たには出来たけど、たった今遠慮や気遣いの話をしたばっかりなのに…って思いもあって、私は正直に言った。言うしかなかったし…これに関しては、安易に訊いてきたセイツにも多少は責任がある…と、思う。

…なんて事を考えていたら、オリゼとイストワールさんが、私達を見てくすくすと笑っていた。親と姉に微笑ましく思われていた。…ちょ、ちょっと恥ずかしい…。

 

「こ、こほん。まあ別に、姉という立場に拘ってる訳でもないしね?それに姉妹の垣根を感じさせてないとも言えるし、うん」

「ポジティブですね…あ、こんにちは( ´ ▽ ` )ノ」

 

 気を取り直したっぽいセイツにイストワールさんが苦笑…したところで私達は店外で作業をしていたそこの従業員の人に挨拶をされ、にこりと笑いながら挨拶を返す。

 

「そういえば、今日は晴れて良かったね。雨が降ってたら、こうして出掛ける気にはならなかったかもしれないし」

「雨の中、傘を差しながら皆で歩く…っていうのも、それはそれで粋だと思うけどね。ほら、土砂降りの中で歌いながらタップダンスを踊るのが人気だったりもするし」

「それは映画の話かと……(−_−;)」

「わ、私は雨の中を歩く時の、ぱちゃぱちゃ…って音、好きで……」

『……?』

 

 話の途中で、いきなり黙り込むオリゼ。それどころか立ち止まったオリゼに何だろう、と私達が振り向くと、オリゼはあるお店のショーウィンドウを見つめていた。…ショーウィンドウの中にある、ぬいぐるみを見つめていた。

 

「はわ、はわわぁ……」

「あ、可愛い…じゃなくて、オリゼ?オリゼー?」

「…はっ…!あ、あ、あのっ。ふわふわでっ、くりくりでっ、もふもふでっ……」

「お、落ち着いて下さいイリゼ様。…寄っていかれますか?(。・ω・。)」

「ま、ますっ!」

 

 食い気味に擬音を並べるオリゼに対し、イストワールさんが訊けば、オリゼはぶんぶんと…ヘドバンでもしているのかって位に首を縦に振って肯定を示す。

 確かに、ショーウィンドウの中にいたクマのぬいぐるみは、何か特別な要素がある訳じゃないけど、シンプルに可愛い。思わず呟いちゃう位には可愛さがあって、言うが早いかお店の中に入っていったオリゼに続いて、私も内心期待を膨らませつつ中に入る。

 

「え、えと、えと…ありました…!」

「ぬいぐるみコーナーに一直線ね…あ、でも結構種類多い…」

 

 お目当てのゲームを買ってもらえる事になった子供がゲームショップに来た時は、こういう動きをするんじゃ?…と思う程軽快に向かっていくオリゼの後を追って、私達もぬいぐるみコーナーへと到着。ピンクや黄色を使った棚には、サイズも種類も様々なぬいぐるみが並べてあって……どれも可愛い。ふわふわの毛、くりくりの瞳、触らなくても分かるもふもふの感触…心惹かれる空間が、そこにはあった。

 

「はぅあ…!いぬさん、ねこさん、うさぎさんにぱんださん、りすさんひよこさんにさっきのとは違うくまさん、いるかさんえりまきとかげさんたつのおとしごさん──」

「い、イリゼ様?わざわざ一つ一つ呼ぶ必要は…というか、最後かなり変わったものまでありませんでした…?(・・;)」

「確かにあんまり見ないようなぬいぐるみもあるわね…けど、可愛い…どれも可愛い……」

「うん、小さいのも可愛いけど、あっちの大きいのも可愛い……」

 

 私達は、じーっとぬいぐるみを見る。一つ一つを眺めて、触って、撫でる。

 

…………。

 

………………。

 

……………………。

 

「…えーと、あの……暫くここに留まる、という事でいいですか…?( ´△`)」

『あっ……』

 

 数十秒か、それとも数分位経っていたのか。何れにせよ、私は…私達は、我を忘れるようにぬいぐるみを眺め、見つめていた。

 

「ご、ごめんなさいイストワールさん…ここがお店だって事、忘れてました…」

「い、いえ。イリゼさん達がぬいぐるみ好きな事は知っていますから…けど、セイツさんもそうだったんですね(´∀`=)」

「ま、まぁ…うん。でも、女の子なら大体は可愛いもの好きじゃない?」

「それもまあ、否定はしませんが(´・ω・`)」

 

 幸い近くに他のお客さんはいないから、邪魔になっていた…って事はない様子。その事に私はほっとし、セイツはイストワールさんとのやり取りでちょっぴり頬を赤くしていて……

 

「は、はいっ。今日は、家族でお出掛け…ですっ。さっきは、ほ、本屋さんに…行って、ですね……」

 

……オリゼだけは、まだぬいぐるみに夢中の状態から戻っていなかった。こっちのやり取りは全く気付かず、ぬいぐるみと会話(?)をしていた。

 

「…どう、しようか…凄い楽しそうだけど……」

「特に迷惑にはなってないし、大丈夫…じゃないかしら、多分…」

 

 側から見たら危ない光景だけど、オリゼ自身はぬいぐるみとの会話…を楽しんでるし、大声で話してる訳じゃないから、今のところはオリゼが我に返るまで待っていてもいいかもしれない。だって、オリゼが楽しそうにしているなら嬉しいし、そんな姿を眺めているだけでも、こっちはほっこりしてくるから。…自分と同じ見た目の存在を見てほっこり、っていうのもよく考えたら少し変だけど。

 ぬいぐるみは勿論、他にも面白そうなものはある。だからオリゼがまだ暫く喋ってるようなら、のんびり眺めながら待とう。…と、思っていたけど…案外早く、オリゼの意識は戻ってくる。

 

「ほぇ?あ、そ、そうですっ。あそこにいるのが、イリゼとセイツとイストワールと……あっ…」

 

 こちらを向いて、ぬいぐるみに私達の事を紹介しようとして、気付いたオリゼは動きが止まる。無事戻ってきてくれたオリゼだけど…いざこういう流れで我に返られると、こっちも反応に困ってしまう。で、私達が反応に困れば、オリゼもわたわたし始めてしまうのは必然で…そこからは何か変な感じに。

 

「…こ…この子はですねっ、お耳が可愛いんですっ!お耳の可愛さ、は、この子もチャームポイントだと思って…いるん、ですっ!」

『そ、そう…』

「こっちの子は、抱き心地が素敵、です…っ!こ、こうやって抱っこ、すると、丁度良い感じ…に、なります…っ!」

『丁度良い感じ…?』

「そ、それからこの子は、ちっちゃくて可愛……あれ?」

「い、イリゼ様わたしです!ぬいぐるみじゃなくてわたしですー!(><)」

 

 慌てなくたっていいのに、普通にすれば良いのに、謎の誤魔化しを図った結果、余計に訳の分からない状態に。挙句慌てたオリゼは、両手で抱えるようにしてイストワールさんを本ごと抱き寄せて…これにはイストワールさんも目を白黒させていた。

 

「と、取り敢えず落ち着いて頂戴、オリゼ。でも確かに、イストワールならここの棚に腰掛けてても違和感ないかも…」

「あ、それは私も思う。前にイストワールさんと花鳥園に行った時も、イストワールさんが花の妖精に見えたりしたし…」

「そういう見た目である事は否定しませんが、当然のように話を続けないで下さい……(;´д`)」

 

 うんうん、と頷いていた私達への、イストワールさんのご尤もな返し。それに私達は苦笑いし…気になっていた事を、訊く。

 

「それで、オリゼ。ぬいぐるみ、どれか買う?」

「…えっと……」

 

 私の問いを受けたオリゼは、視線をぬいぐるみへと戻す。さっきまでとは違って、今度はゆっくりとぬいぐるみを見回していく。

 金銭的な問題はない。複数購入どころか、この棚にあるぬいぐるみを全部買う事だって難なく出来る。…けど、そういう事じゃない。オリゼにとってぬいぐるみは、ただの可愛い玩具じゃなくて、対話の出来る…そう認識している存在だから。

 端から端まで、オリゼはじっ…と見つめるようにして見ていく。私達も、それを待つ。そしてオリゼは、私達へ振り向いて言う。

 

「…今日は、いい…です。み、皆さん、ここが好き…みたい、なの…で」

「そっか。じゃあ、また会いに来ようね」

「はいっ…!…あ、で、でも、もうちょっとお喋り、してても…いい、ですか…?」

「えぇ、良いわよ。わたしももう少し、ぬいぐるみを見ていたいし」

 

 また来よう。そう返すと、オリゼは本当に嬉しそうな顔をして頷いた。…頷いてくれて、私も嬉しかった。これで、またオリゼと出掛ける約束が出来たから。折角だから…その時はまた、家族皆で来られたら良いな。

 

「〜〜♪」

「ご機嫌ですね、イリゼ様(o^^o)」

「え、えへへ…ぬいぐるみさん達と、一杯お話、出来て…楽しかった、です…っ!」

「それなら良かった。…あっ、そうだ。特に目的は決めず…って言ったけど、ここの近くには確か新しく開いたレストランがあるんだ。休憩も兼ねて、少し寄ってみない?」

「ナイスタイミング、丁度甘いものが食べたいな…って思ってたところよ。流石イリゼ、わたしとは以心伝心ね」

「いや、そういう訳じゃないんだけど…まぁいっか。オリゼとイストワールさんは?」

「わ、私も賛成、ですっ」

「ここまで結構歩きましたもんね。…わたしは歩いていませんけど…( ̄◇ ̄;)」

 

 お店でオリゼはたっぷりと、私達も結構ぬいぐるみを堪能した後、外に出たところで、あるお店の音を思い出した私は三人に提案。賛成を貰った事で私は先頭になって歩き、お目当てのレストランへと案内する。行って、そこでスイーツと飲み物を注文して、店内をゆっくりと眺めながらこれまたゆっくりとスイーツを食べつつ談笑をする。

 目的を決めないお出掛けは、全体的にふわっとしたまま終わる事もある。目的がない、それは言い換えれば「何をするか」の決定を後の自分に丸投げしている訳で、結果一日を無駄にする事だってあり得る。でも、間違いなく今日は楽しめている。行き先は決めていないけど、家族で気ままにお出掛けするっていう気持ち面での目的は初めから決まっていたおかげで、ここまでしっかり楽しめたし…この後も私達は、充実した一日を過ごす事が出来た。

 

 

 

 

 夜。夕飯を食べて、暫くのんびりして…それから私達は、偶には…って事で皆でお風呂に入る事にした。折角今日は一日一緒に過ごしてたんだから、お風呂も皆で、まったり入ろう…って。

 

『はふぅぅ……』

 

 髪を洗い、身体を洗い、湯船に浸かって吐息を漏らす。私とオリゼとセイツは普通に入って、イストワールさんはお湯を入れた桶に浸かって、温かさに包まれながら寛ぐ。

 

「今日は、色んなところに行ったわねぇ…」

「行ったねぇ…ふふふっ、やっぱり今の神生オデッセフィアは変化が多くて楽しいな…」

 

 気持ちにつられて声まで緩くなっているのを感じながら、今日の道のりを思い出す。

 新たな国である神生オデッセフィアは、新しいお店が開いたり、他国から移り住んでくる人の割合だったりが、比較的多い。これは今だからこその状態で、それを…変化を多く感じられる事も、今の神生オデッセフィアにある確かな良さ。

 

「み、皆さんがこれまでと変わらずに、いてくれるのも…良いもの、です…よ?」

「そうですね。変わっていく良さもあれば、変わらない…変わらずいてくれる良さもある。当たり前ですけど、どちらも大切なものだと思います(・∀・)」

 

 変わらない良さもある。それだって、勿論分かる。だってそれを、今私は感じているから。家族が変わらずいてくれる、この良さ、嬉しさ、安心感は、何ものにも代え難いものだから。

 

「…でもほんと、最近はほっとするよ。オリゼが、こうして過ごす事も受け入れるようになってくれてさ」

「同感です。嘗てのイリゼ様なら、一蹴していたような生活ですもんね( ̄^ ̄)」

「う…い、今と昔は、違います…から。昔には昔、の…今には今、の…望まれ方、求められる在り方…があるって、もう分かっています…から」

 

 私とイストワールさんからの言葉を受ければ、オリゼは少し表情を変えて、応える。嘗ては…オデッセフィアの守護女神である『イリゼ』は常に、人の為だけに奔走し続ける存在だったけど、今は違うと。今ここにいる、神生オデッセフィアの『オリゼ』は、人の為を思う気持ちは同じでも、それを果たす形は違う…と。

 今日だってそう。今日はただ皆でお出掛けしたんじゃなくて、お出掛けの中で、街を見て回った。国民と、国を見て、確かめて、交流をした。今日した事は、私達家族の楽しみであると共に、国を守り、導く立場としての活動でもあった訳で…多分、嘗てのオリゼだったら、こういう事はしなかったと思う。こんな形での行動は、女神の在り方として認めてはいなかった…そんな気がする。

 

「そうなのよね。時代が違えば価値観も、女神に望むものも変わる…当たり前の事なんだけど、時代と共に歩んできた訳じゃなくて、一足飛びに未来に来たような形になると、まるで違う次元に来たかのような感覚になるものだわ」

「セイツさん…そうでしたね、セイツさんも…(´ω`)」

「けど、変わるものばかりじゃないわ。変わらないもの、変わらない思いも確かにある…今日だってそうよ。楽しいばかりでも、希望に満ちたばかりでもない、単なる日々…それでも皆、それなりに楽しんで、希望って程でなくても期待を持って生活している、それを思い出せば……あぁっ、胸の高鳴りが止まらないわっ!今日一緒に過ごした三人も、見てきた皆も、とっても良い思いを抱いていたんだものっ!」

「…セイツって、相変わらず良い事言っても最後で自分からひっくり返しちゃうよね……」

 

 遠くを見る…遥か彼方に思いを馳せるような表情で語るセイツ。今よりずっと昔の神次元で目覚め、その時代で役目を果たして眠りに就き、長い時間を経て再び目覚めたセイツもまた、オリゼと似たような経験をしている。だからこそ言える事がセイツにはあって、言葉には重みも穏やかさもあって……でも最後で興奮して身体をくねらせるものだから、良い感じの雰囲気が台無しだった。これには私もオリゼもイストワールさんも、ただただ苦笑する他なかった。

 

「…でも、そうだね。さっきの話に戻るけど、変わる良さも、変わらない良さもある…皆そうなんだよね、きっと」

 

 変わる事が良いものもある。変わらない事が良いものもある。それは千差万別で、人にも時代にも左右されて、決まった答えなんかない。けど、敢えて言うなら、今その時、その場で直面している人が、良いと思えるかどうか…そして良いと思えたら、少なくともその人にとっては正解なんだ。…って、それも当たり前か。

 そんな風に思いつつ、私は両手の指を絡ませ伸びをする。ぐぐっと伸ばして、リラックスして、またゆっくりと身体を湯船に預けて……

 

「…じゃあ、イリゼ…イリゼ、は…今を、皆でいる事を…どう、思っていますか…?こ、こうやって過ごす今が…続いて、ほしいですか…?それとも、変わってほしい…ですか?」

「え?」

 

 唐突な…流れ的にはそこまで変じゃないけど、それでも唐突に感じた、オリゼからの問い。何故そんな事を?…と、初めに思った私だけど、オリゼは私をじっと見ていて…その問いが、真剣なものなんだって事は分かった。だから私は、目を閉じて、考えて…それから目を開き、オリゼを、イストワールさんを、セイツを順番に見て、言う。

 

「変わらないで、ほしいな。私は今、幸せだから。心から、こんな今が大切だって思うから。…でも、何も変わらないでほしいって訳じゃなくて…これからもっと仲良く、もっと楽しく皆で過ごせたら…皆と日々を重ねていけたら、もっと良いって…そう、思う」

 

 これが、私の本心。変わらないでほしいと共に、もっと良い、もっと幸せな日々になってほしいと…そうしていきたいと、心から思う。何の変哲もない、ありふれた答えだろうけど…それで良い。自分の思い、自分の願いに、見栄を張る必要なんてないんだから。

 オリゼは勿論、イストワールさんやセイツも私を見返して、静かに聴いてくれていた。言い終わった後は、頷いてくれて、それから微笑んでれた。そして……

 

「…では、これからも頑張らないとですね(*´ω`*)」

「もっともっと頑張らないとね。…ううん、違うわ。一緒に、頑張りましょ」

「期待しています、から…ね。な、なんたって、今のイリゼは…神生オデッセフィアの、守護女神…なんです、からっ!」

「皆…うんっ!私頑張る、頑張るよ!頑張って…願いを、思いを叶えてみせるんだから!」

 

 姉からの、親からの、家族からの温かく、心強いエール。それを受け取った私はしっかりと頷いて、宣言する。これまでも頑張ってきた。だけど、だから、これからはもっと頑張る。それが望みを叶える事に繋がるから。そうして自分の思いも、皆の思いも叶えていく先に、笑顔でいられる未来があると、そう信じているから。

 でも、今はまだ入浴中。家族皆で、まったりとお風呂中なんだから、今暫くは家族で仲良く、この時間を過ごそう。そう思って私は、皆と一緒に微笑むのだった。

 

 

 

 

 今日も私は、仮想世界形成装置のデータ蓄積作業に付き合っていた。付き合っていたというか、自分から協力した。この装置は私の望む未来へ至る、その為の力の一つにきっとなってくれるから。

 そうして今、今回の仮想空間での活動が終了した。そう気付いたのは、私が目覚め、現実にいると認識したからに他ならない。

 

「ん、んっ…ふぅ……」

 

 身体を起こして、軽くストレッチするように上半身を捻る。側にいた、モニタリングをしていたネプギアからのお疲れ様という言葉に返事をして、それから私は立ち上がる。

 

「今回も、何をしてたか全く覚えてないや…夢もそうなんだけど、思い出せないのってもやもやするよね。何かあった筈なのに、それははっきりと分かるのに、内容は一切出てこないのって…」

「あー、分かります。何かしら忘れ物した気がする、けどそれが何か分からない時ももやもやしますよね」

「そうそう、だったらいっそ『何かあった筈』って事すら覚えてなきゃ良いんだけど…って、忘れ物の場合それは不味いか…」

 

 他愛のない雑談を、ネプギアと交わす。その間も何だっけ…と仮想空間での事を思い出そうとするけど、やっぱり思い出せない。仮想空間での活動を思い出せないのは、そういう仕様なんだ…っていうのは分かってるけど、それでももやもや感から、何とか思い出そうとしたくなる。…まぁ、ほんと無理なんだけど。

 

「で、ネプギア。今回は、どんな内容だったの?」

「それは……秘密です」

「え、なんで…?」

「いや、なんというか…これは知らない方が良いと思うんです」

「知らない方がって……ま、まさか凄惨な内容だったの…?」

「あ、いえ、全然そんな事はないというか、むしろその逆って感じですけど…だからこそ、ただ知るのは違うんじゃないかって、そう思ったんです」

「えぇ…?…まぁ、ネプギアがそう言うなら、聞かないでおくけど…それに今回はライヌちゃんとるーちゃんも連れてきてるし、待ってると思うから、今無理に聞き出そうともしないけど……」

「ライヌちゃん、るーちゃん…あ、そういえば……」

「……?」

 

 何故か教えてくれないネプギアだけど、別に悪ふざけで隠してるとかじゃない事は分かった。だから、余計もやっとする感じはあるけど、一先ずは訊かないでおく事にして、ライヌちゃん達がいる部屋へ…プラネタワーで(私が持っていった物を除けば)そのままにしておいてくれている、神生オデッセフィアに移る前に私が暮らしていた部屋へ行く事にする。

 

「…あ、そうだイリゼさん。秘密にしておいて訊くのはアレですけど…今、どんな気分ですか?」

「どんな気分?どんな気分って言われると……」

 

 そんな中、部屋を出る直前に、ネプギアから投げ掛けられた問い。いきなりの問いに正直困惑した私だけど、少しだけ考えて…それから、言った。

 

「…女神として頑張りたい、頑張らなきゃ…って気持ち、かな」

 

 何故そんな気持ちなのかは分からない。元々そう思ってはいるけど、今は普段以上に思っている…分からないながらも、そういう思いがある事は確かで…うん、そうだ。分からないけど、分かる。私はこれからも頑張るんだ。だって私には、頑張りたい理由があるんだから。




今回のパロディ解説

・イストワールさんが良い〜〜朝食記念日
サラダ記念日に纏わる短歌のパロディ。イストワールさんが 良い匂いだと 言ったから 今日は朝食 記念日です。…うーん、最初の字余りが気になりますね。

・「〜〜ランタン買った〜〜某キャンパー〜〜」
ゆるキャン△の主人公、各務原なでしこの事。ぶつけたり手を滑らせたりして飛んだ物を落ちる前にキャッチした瞬間の、「あ、あっぶなぁぁ…!」って感覚は、分かる人が多いかな…と思います。

・「〜〜土砂降りの中〜〜タップダンスを踊る〜〜」
ミュージカル映画、雨に唄えばの名シーンの一つの事。これが何のネタなのか分かる人は、殆どいないんじゃないかな、と思います。勿論作品は名作ですけども。
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