超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
これまで通り、極力本作のみでも楽しめるようにはしますが、出来る限りシリーズ順に読む事をお勧めします。ただ、非常に長いシリーズである為、全て読むのが億劫長い場合は、最低限各作品の人物紹介を読んで下さると、多少は理解出来ると思います。
また、お伝えしていた通り、本作から基本的に週一回、日曜日のみの投稿となる予定です。投稿ペースは落ちますが、作品としての熱量や文量は減らさずに書いていきますので、ご理解頂けると幸いです。
第一話 神生オデッセフィアの日常
目を、覚ます。重くもなければ軽くもない瞼を開けて、劇的ではないけど平凡…って訳でもない目覚めを迎えて、私は身体を起こす。
んっ…と声を漏らしながら伸びをして、時計を確認。アラームが鳴らないように止めて、数秒程ぼーっとした後、ベットから降りる。顔を洗って、着替えて、髪を整えてと、一通り身支度をしてから、部屋を出る。
「あ…おはようございます、イストワールさん」
「おはようございます、イリゼさん。今日もお早いですね(´・∀・`)」
「ふふ、イストワールさんこそ」
台所に繋がるリビングに行くと、そこにはもう私の姉が…イストワールさんがいた。いつも早いなぁと思いつつ私が台所へ入ると、何か手伝える事はあるか、とイストワールさんもふよふよ浮いて来てくれる。
そのイストワールさんに(出来る範囲で)手伝ってもらい、作るのは朝食。特別豪華って事はない、多分世間一般の朝食と大差ないメニューでてきぱきと作っていき、完成したところで現れたのはもう一人の姉。
「おはよう、二人共。んっ…良い匂いね」
「ふふ、丁度今出来たところだよ。よそうから、もう少し待ってね」
「いいわよ、それはわたしがやるから。あの子達を呼んできてあげて」
「そう?じゃ、お願いねセイツ」
にこりと微笑むもう一人の姉、セイツに頼んで、私は自分の部屋へと戻る。戻って奥に進み、まだ寝ていた可愛い家族へと声を掛ける。
「ライヌちゃーん、るーちゃーん、朝だよ〜。一緒にご飯食べよ〜?」
「ぬ、ぅ……ぬら…?」
「ちるる…ちるぅ〜…」
「わっ…ふふ、おはよう」
寝惚け眼で擦り寄ってくるライヌちゃんとるーちゃんを、私は軽く抱いてから撫でる。片やぷにぷに、片やふわふわの感触は、ただ触れているだけで癒しとなって……っと、いけない。二人が待ってるんだから、あんまり遅くならないようにしないと。
と、いう訳でライヌちゃんるーちゃんがばっちり目覚めるまで待ってから、リビングへと連れていく。ライヌちゃんを抱えれば、るーちゃんは定位置(?)である私の頭の上へと乗って、それだけでもご満悦なライヌちゃん達と共にリビングへ。
「これで全員揃いましたね( ̄∇ ̄)」
「えぇ。じゃ、頂きましょ」
「うん、召し上がれ」
私達三人とライヌちゃん、るーちゃんで食卓を囲み、頂きますをして食事を始める。談笑したり、TVでニュースを見たりしながら、皆で朝ご飯を食べていく。
「あれから少ししましたが、調子はどうですか?(・ω・`)」
「良いですよ。色々大変ではありますけど…凄く、充実してますから」
「だと思ったわ。だってイリゼ、表情も感情も、毎日生き生きしてるもの」
…楽しい。なんて事ない、ただの朝食の一幕だけど…家族と食卓を囲み、話しながら食事をしているというだけで凄く楽しいと私は思える。もしここにオリゼがいてくれたのなら、本当に文句無しだけど……今は叶わない。叶わないからこそ、そればかり考えて悲しむんじゃなく、ここにある喜びや幸せに目を向けていたい。
そうして朝食を終え、片付けもし、朝の内にやっておく事を全部済ませてから……私は仕事へ。
「…よしっ。今日も、頑張るよ!」
「ぬらっ!」
「ちるっ!」
意気込んだ私に呼応するように、ライヌちゃんとるーちゃんが鳴く。その反応に私はふふっと笑ってから、執務室の椅子に座る。特務監査官としての仕事ではなく、女神の……国の長である、守護女神としての仕事を始める為に。
そう。ここはこれまで私が住んでいたプラネテューヌじゃない。ここは神生オデッセフィア…私が建国した国の教会で、今の私は守護女神。国を守り、導く存在。
因みにライヌちゃんとるーちゃんを連れてきてるのは、まだ新居に慣れていないであろうライヌちゃん達を部屋に残していくと、不安な気持ちになってしまうと思ったから。その辺りの融通を利かせられるのは…守護女神の特権。
「さて、今日に午後から色々回るから……」
今日の予定を確認してから、デスクワーク開始。国の長としての仕事は大量且つ多彩で、悩むものもあるけど、本当に充実感がある。女神としての本能が、国という形で多くの人を助け、支えられている事に、喜びを感じている。
「イリゼさん、先程データでお送りした件の書面がこちらです。処理はしておきますので、サインを頂けますか?( ̄^ ̄)」
「あぁ、これがさっきの…分かりました、ここですね」
暫くしたところでイストワールさんが執務室を訪れ、持ってきた書類に私がサイン。
本来プラネテューヌの教祖であるイストワールさんが今ここにいるのは、私を…建国したばかりの神生オデッセフィアを手伝ってくれているから。勿論立場としても仕事としても、軽い調子で手伝いに来られるものじゃないけど…ネプテューヌもネプギアも、快く送り出してくれた。大陸含め、神生オデッセフィアはいーすん(さん)にとっても関わりの深い国なんだからって。イリゼ(さん)のお姉ちゃんなんだから、行ってあげてって。…まぁ、イストワールさん自身はネプテューヌに対して一抹の不安を感じていたけど…多分大丈夫だよね。ネプテューヌだって守護女神だし、最近はこれまでより仕事に積極的…らしいし。
そして、セイツがいるのも同じ理由。セイツも私と神生オデッセフィアを手伝う為に来てくれていて…落ち着いてきてからは、こっちと神次元を行き来するつもりなんだとか。信次元は自分のルーツで、家族もいるけど、神次元にだって愛着があるし、大切な友達や仲間だっているから…だからどっちも大事にしたいんだと、そう話してくれた。
「どうです?何か困っていたりしませんか?(・・?)」
「大丈夫ですよ。それこそイストワールさんや皆が助けてくれてますし」
「…イリゼさん…うぅ、なんだか感激です…。イリゼさんがそう言ってくれるのもそうですが…普段ネプテューヌさんを見ていると、本当に……(T ^ T)」
「あー…はは……」
何とも複雑な感動に、私は苦笑い。しかもこれ、ネプテューヌに関しては「ですよねぇ…」と思えてしまうものだから余計に苦笑い。…でも……
「…女神の在り方は、それぞれですよね。国…というか、信仰してくれる人達の『理想』自体がそれぞれで、共通する『正解」なんてそうそうない訳ですし」
「…えぇ、それはそうですね。ただ…そんなに大仰な話でもないですよ?ネプテューヌさんの場合は、シンプルにサボろうとするだけですから(´-ω-`)」
「…いや、まぁ…確かに……」
それもまた、一つの在り方なんじゃないか。そう思った私だけど…確かにこれに関しては、そんな大層な話じゃなかった気がする。おふざけが好きで真面目さに欠けるネプテューヌを好意的に見てる人は確かにいるだろうけど、サボりを推奨してる人は…まぁ、いたとしても極一部だろうし…。
とまぁ、そんな風に軽く会話した後、私達は各々仕事に戻る。その後も何度かセイツが来たり、職員さんが来たりはしたけど、これといって問題はなく…お昼の時間に。
「女神様、南地区で開いたお菓子屋知ってますか?今なら開店セール中で…って、女神様にセールを勧めるなんて変ですよね…はは……」
「あー、オレンジの屋根のだよね?知ってるよ、一回立ち寄った事もあるし」
「さっすが女神様。いやはやしかし、色んな店や施設が次々と開いていくのを日々目撃出来るのは今の時期だけですわな」
「それを楽しんでくれてるなら、私としても嬉しいよ。国として広がっていく、密度が上がっていく光景を見られるのは、今の神生オデッセフィアの魅力だって思ってるからね」
「あの、オリジンハート様。インタビューの打ち合わせの件ですが……」
「待った。急ぐ必要があるならいいけど…そうじゃないなら、今仕事の話はなしだよ。お昼休みは、ちゃんと休まないと…ね?」
ライヌちゃんとるーちゃんをイストワールさんに任せた私が今いるのは、教会の食堂。毎日ではないけど、私はお昼を食堂で食べる日を作るようにしている。お昼の時間に、昼食を取る中で…職員の皆と、話せるように。
その目的は、職員の皆と交流する事。話して、知って、親睦を深める事。共に仕事をする職員の皆の事を知るのは、私自身の為にもなるし…これは私からの、感謝でもある。
「そうそう、イリゼ様が休めって言ったんだから、ちゃんと休まないとな?というかむしろ、イリゼ様と食事出来るのに仕事を優先するとか、そりゃナンセンスってもんだ」
「ああ、全くだ。イリゼ様を思うなら、尚更今の時間を大切にしないと…な」
他の皆もだよ?…と言うように私が見回していると、その内の一人が言葉と共ににやりと笑い、もう一人が腕を組んでうんうんと頷く。その二人は、ここにいる中でも特に付き合いが長い男の人で…二人の言葉に、私も小さくくすりと笑う。
親衛隊長と副隊長。今の二人は、私の最初の信仰者である二人で…この二人以外にも、ここには、教会には、私の親衛隊の人達が多くいる。親衛隊の皆は、色々苦労する事が予想される中でも、社会として成熟したそれぞれの国から、発展途上ですらない…これから発展を始める段階の神生オデッセフィアについてきてくれると、私の力になってくれると言ってくれて、私としても皆は信頼出来ると分かっていたから、教会職員への登用を決めた。勿論親衛隊の人全員が職員になった訳じゃないし、親衛隊じゃない職員もいるけど…今の教会に、親衛隊の皆が多くいる事は間違いない。…って、今の私は守護女神だし、ここは教会だから、親衛隊って言うとほんとに紛らわしいね…。
「……あ、そうだ。ここの庭に、花壇があるでしよ?まだ何も植えてないし、華やかにしたいと思ってるんだけど、皆どんな花が良いとかある?私としては、薔薇とかフリージアとか良いなぁって思ってるんだけど……」
他にも椿とかも良いけど、椿は樹木だもんね…と思いつつ、皆に意見を募ってみる私。まぁ、急な質問だったからあんまり意見は出てこなかったけど…これは急務じゃないし、少しずつ進めていけばいい。その中で、多少なりとも皆の意見や希望を組み込む事が出来たら良いと思う。
そうして食事をしながらの皆との交流は、お昼休みが終わる少し前まで続いた。皆は喜んでくれていたし、私も楽しく話す事が出来た。とはいえ一度に全ての職員と話すのは無理な訳で…次は、今日話せなかった人とも話せるといいな。
*
昼食後の最初の仕事は、街の中を回る事。といっても、特定の場所や施設に向かう訳じゃなく、決めた範囲を散歩の様に回るだけ。
「おや、塗装が終わったようだね。君のところも、もうすぐ開店かな?」
「あ、お、オリジンハート様…!は、はい!開店に向けて、鋭意準備中です!」
「ならば開店の日を楽しみにするとしよう。…おっと」
「あ、女神さまこんにちはー!」
「こんにちは、女神さ……わっ、待ってよー!」
「ふふ、良い挨拶だね。けれど、走る時は前や足元を気を付けていないと危ないよ?」
降り立った先で一人の女性に声を掛け、走ってきた一組の子供を見送る。更に周辺の住人や通行人と挨拶を交わして、女神化状態の私は再び空へ。
業務に余裕がある限り、私は毎日、少しだけでもどこかしらに繰り出すようにしている。街を回って、神生オデッセフィアへ移住してくれた人と触れ合うようにしている。これもお昼休みと同様、交流する事が目的であり…同時に、私の姿を見てもらう事も目的の一つ。女神を感じてもらい、まだまだ色々なものが未熟な神生オデッセフィアでも、ちゃんと女神は国民を見ているんだと思ってもらえたのなら、きっと国民の皆が将来へ期待や希望を持つ事に繋がるから。
「…あ、女神様じゃーん。あたしの事、覚えてます?」
「うん?…あぁ、君とはクレープ屋の前で会ったね。あそこのクレープはどうだったかな?」
「へ?あ、えと、あそこは生地のもっちり具合が良くて…って、覚えてるんですか…?」
大方の建物よりは上、でも地上から人の目ではっきりと姿が見える程度の高度で飛行を続けていると、下から声をかけられる。呼び掛けてきたのは、若い女の子で…記憶を辿って言葉を返すと、その子はぱちくりと目を瞬かせる。
「嘘、女神様と知り合いなの?」
「う、ううん。一回ちょっと、軽ーく話した事があるだけで……」
「一度であろうと、短い時間であろうと、私の国民となってくれた相手の事は覚えているさ。君の事も…今会った、君の事もね」
「やっば…マジリスペクトだわ……」
話しかけてきた少女と友達らしきもう一人に微笑みかければ、二人は羨望の視線を返してくれる。その二人と私は分かれ、澄まし顔で少しの間飛んで…それから、自分に対して苦笑いをした。
だって、少し誇張的な表現をしたから。嘘は吐いてないけど、本当の事以上を想像させるような言い方をしたから。もしかするとあの二人は、まるで私がこれまであった全ての人を覚えてるみたいに思ってるのかもしれないけど…流石にそこまでは覚えてない。神生オデッセフィアで関わった人は一人一人覚えるよう心掛けてるし、そうじゃない人も出来る限り覚えられるようにはしたいけど…その道は、まだ長く険しい。これをさも当然の様に話していたオリゼは…本当に、流石だよ。
「さて…このままギルドにも寄ろうかな」
少しだけ速度を上げ、でも呼び掛けや振られた手にはきっちりと答えて、私はギルドへ。
建国に際して、ギルドも神生オデッセフィアへと進出してきた。現代においてギルドの存在は大きいから、ギルド側から来てくれたのはありがたい事で…そして神生オデッセフィアには、リーンボックスから移転する形でギルドの本部も置かれる事となった。
でもこれは、政治的な理由が大きい。神生オデッセフィアの発展は四大国家にとっても利益となるという事と、ギルドという大きな力を持つ組織の本部が、四大国家の内一つにあるというのは出来れば避けたい(けどこれまでは現実的な移転先がなかった)という事から、ギルドの存在によって社会活動が活発になる事が見込まれる…それでいて、ギルド本部があったとしても、今の信次元における国家間のパワーバランスを崩す事はないであろううちに、ギルド本部の移転が決まった。勿論ギルドは民間組織だから、女神の指示一つで移転させる事は出来ない(一応、後先考えなければ出来ない事もないかもだけど…)けれど、これに関してはギルド側も承諾してくれたから、本部の移転は滞りなく決まるに至った。…因みに、同様の理由でもう一つ、新設された大きな組織の本部が神生オデッセフィアに置かれる事になったんだけど…それはまた、別の話。
(国も政治も、色々と思惑が絡んでいくものなんだよね…)
連想する形で、私は国同士の関係に思いを馳せる。国と国の関係は、友達関係の様に真っ直ぐの付き合いだけで成り立つものじゃないし、多くの人の思惑が自然と入って絡んでくるもの。それは分かっていた事だし、私自身否定する気なんてなかったけど…いざ守護女神となり、そういう事柄と向き合った時には、色々な思いが心に生まれた。こういう関係を、ネプテューヌ達は日々重ねていたんだな…と、これまでは想像するに過ぎなかった事を、自分の事としてはっきりと理解もした。
良いとか悪いとかじゃない。ただ事実として、それが国の長、守護女神なんだって体感したというだけの話で……
「…全部引っくるめて、守護女神だもんね」
一度前進を止め、滞空状態から街を見回す。私の国であり、一歩一歩進む…ここに住まう人達と共に創り上げていく神生オデッセフィアを。
その先頭に立つのが、支えられながらも導き、時には後ろに下がって見守るのが、守護女神。私の歩み始めた、新たな道。その道は華やかな事柄ばかりじゃなくて、大変な事や厄介な事、胸を張れるか怪しいような事もあるけど…その先にあるのが、自分の国で国民が生き生きとしていて、一人一人が望む未来へ進めるのなら、支えながらそれを見続けられるのなら、私は断言出来る。──守護女神である事は誇りであり、幸せだって。
*
ギルドにも立ち寄り、その後ももう少し街を回って、それから私は教会に戻った。女神化を解除して中に入り、すぐに神生オデッセフィア国防軍…国と共に設立した軍の視察の為にまた外に出て、視察終了後に今度こそ私は教会へと帰ってきた。
女神は自分の仕事を、好きに決められる。時間も内容も、何なら仕事をするかどうかも女神の自由。とはいえ、信仰…シェアの為には、そして国の為には仕事をおざなりには出来ないし、女神だからこそ色んな事を行える。国の長、政治を司る者らしい事から、一見全然関係がなさそうな事まで…それこそ、自分の能力が届く限りに。
「最後はここを折って…じゃーん!お花の完成だよっ!」
「わぁぁ…っ!すごいすごいっ!」
「ねーねーめがみさまっ、もーいっかい!もーっかいおって!」
「ぼくしゅぃけん!しゅぃけんがいー!」
じゃーん、と自分で言いつつ折った折紙の花を見せる私。それに対して返ってくるのは…無垢で無邪気な、羨望の視線。私が使っていた机の周囲に集まる、その視線の主は……まだ物心がつくかどうかの、小さな子達。
そう。これが、私の…神生オデッセフィア独自の事業。教会の一角を保育施設として活用し、教会として保育事業を行っている。
「ぐーちょきぱーで、ぐーちょきぱーで、何作ろ〜、何作ろ〜♪右手はぱーで、左手もぱーで、はーとーさーん、はーとーさーん♪」
「ほぇ?はとさん、どこ…?」
「……あっ、ここはとさん!はとさんだよっ!」
「ほんとだ、はとさっ!はとさーっ!」
少し離れたところでは、セイツが手遊びの真っ最中。影で作られた、翼を広げた鳩の姿に、セイツの周りの子もきゃっきゃとはしゃいでいて……って、セイツそれは手遊びじゃなくて影絵だよ…。上手い事影を作ってるし、皆喜んでるみたいだから、別にいいけど…。
「おいぃんはーとさま!みてみて!おっきぃおうちー!」
「いぃえさまー、くぇよんあそこにはいっちゃったー。とって〜」
「っとと、待ってね〜。順番に、だよ?」
ここにいる子の全員が、私かセイツの下にきている訳じゃない。思い思いに遊んでいる子も勿論いて、私を呼びにきたその子達をそれぞれに撫でる。撫でてから右手の人差し指を立てて、順番に…って事を伝える。
当然だけど、これは私が保育をしてみたかったからやっている事じゃない。四ヶ国からの移住者…つまり神生オデッセフィアの国民を増やす為の支援や事業を色々と行っていて、教会による保育事業もその内の一つ。保育そのものが、親世代への支援だけど…一番の売りは、『女神が保育をする』という事。幼い頃から子供が女神と触れ合える、子供も親も保育を介して女神と関係を築けるというのは、絶対に大きな魅力だと踏んで…実際、この事業は高い満足を得ている。私自身をある種商品とした保育事業は、子供を使って親を釣っている、というのも事実ではあるけど……それはそれ、これはこれ。私は皆と真剣に向き合ってるし、この子達も国民として心から大事にしていると、胸を張って言える。
「女神様、お迎えのご家族が来ました。説明はこちらで済ませてしまえばいいですか?」
「あぁいや、熱を出しちゃったって事だし、私も行くよ。親御さんにも、その方が安心してもらえるだろうからね。…この中に、私が戻ってくるまでにさっき見せたお花を作れる人はいるかなー?いたら、凄いな〜!」
『……!』
呼び掛けた途端に目を輝かせ、我先にと折紙を始める皆。その様子に微笑み、別の職員さんに見ていてもらうよう頼んで、私は体調を崩してしまった子の親を迎えに行く。
保育業務以外にも色んな仕事があるし、統治だけじゃなく守護も私の務めだから、長い時間子供達を見てあげる事は出来ない。ここで働く保育士さんに任せてしまう事も多いけど、何とか毎日、少しでも携われるようにしていて…子供と接する事以外も、出来る限りするようにしている。ただ指示を出す、何かの命令だけをする…その先にあるのは現場を、実情を理解していない、上から押し付けるだけの政治になってしまうものだから。
「本日もありがとうございました。明日も宜しくお願いしますね」
「せんせー、めがみさま、またねー!」
「えぇ、また明日ね」
「気を付けて帰ってね」
言葉と共に向けられた、小さな手。セイツも私もその手と軽くタッチを交わし、親子を見送る。
今のが、今日来た最後の子。後は片付けと明日の準備であり…私達も、保育事業のエリアを後に。
「イリゼ、今日もお疲れ様。やっぱり子供の無垢な感情は、何度触れても心が満たされるわよね…!」
「あはは…セイツこそお疲れ様。…って言っても、まだ雑務があるんだけどね」
「…今はまだやらなきゃいけない事が多いし、国を興した以上は仕方ない事だけど、ちゃんと休みも取らなきゃ駄目よ?イリゼの信仰者だって、イリゼが働き詰めになる事なんて望んでない筈だもの」
「うん、分かってるよ。セイツやイストワールさんにも手伝ってもらってるんだし…それに精神面は疲れてるどころかむしろ充実してる位だから、大丈夫!」
「こーら。それはそれ、これはこれで、普通に休んだりリフレッシュしなきゃ駄目よ?…ま、そういう事含めて、わたしが見てあげてるんだけどね〜」
「ふぎゅっ…ひょ、ひょっとぉ…!」
廊下を歩きつつ話す中、私の前に出たセイツは「こーら」と言いながら私の頬を引っ張ってくる。痛くはないけど、セイツの表情は明らかに楽しんでいて…むぅぅ…!セイツ、姉妹だって分かって以降ちょくちょくお姉さん風を吹かしてくるんだから…!……まぁ別に、嫌じゃないけども…。
「うぅ……あ、そうだ…職員の皆にも訊いたんだけど、セイツはあそこの花壇に植えるなら、何の花が良いと思う?」
「え?そうねぇ…折角だから、ユキシロシズカソウとか?」
「そ、それはちょっと…宗教自治区のある山まで探しにいく必要とかありそうだし……」
何とか物理的な弄りから脱した私は、窓の外を指差しつつセイツにも花壇の件を訊いてみる。するといきなりふざけられてしまったものの、その後は割と真剣に考えてくれた。というか、セイツも花は好きなようで、何にしようかって話で少し盛り上がった。…え、宗教自治に関しては、五ヶ国全部そうだろうって?…それは、まぁ…ご尤も。
と、そんな会話もしつつ、執務室に戻った私は雑務に取り掛かる。セイツも自分の執務室へ行き、残りの仕事を片付けていく。
「ライヌちゃん、るーちゃん、もう少しで終わるから、もうちょっと待っててね〜」
「ちるちる〜、ちるるっ」
「ぬらら〜!」
可愛い鳴き声にほっこりしてから、もう一踏ん張り。各部署から上がってきた報告に目を通して、ものによっては承認のサインをしたり逆に明日修正をしてもらうよう記入をしたりして、今日最後の仕事を終わらせる。
「これでよし、っと。今日も一日、お疲れ様でした…なんてね」
仕事用端末の電源を落とし、机の上を片付けて、ライヌちゃんるーちゃんと執務室を出る。勿論今のは独り言で、実は執務室にもう一人いたとか、特にそういう事じゃない。
「本日もお疲れ様です、イリゼさん、セイツさん。お夕飯は、何にするおつもりなんですか?(´∀`*)」
「今日は塩焼きそばの予定です。理由は…私が単に、そうしたいなって思ったからなんですけど」
「料理人が作りたい物を作る、それが一番よね。手伝うわ、イリゼ」
教会としてのエリアから、居住エリアへ移動するだけで済む私の帰宅。一回自分の部屋に戻ってから、同じく居住エリアに戻っていたセイツと一緒にリビングへ入って、朝ぶりに家族がリビングで集まる。勿論『家族』だから、ライヌちゃんやるーちゃんも一緒。
そうして私達は夕飯の準備に取り掛かる。家事は人を雇っても良いんだけど、世間一般の感性とずれないように生活するのは大事だし、何より折角家族で生活してるんだから、こういう事は自分でやりたい。そう思うのが、私の気持ち。
さっきセイツに言ったけど…疲れたって感じはしない。それはやっぱり、守護女神としての務めに充実感があるからで…それに加えて、こういう家族との時間があるから、それが心に潤いをくれるからだって、私は思う。
*
「そういえば、今日みたいにイストワールさんが一番早く戻ってるのは珍しいですよね」
「言われてみるとそうですね。まあ、だからといって普段はお二人と戻る時間に大きな差がある、という訳でもないですが…
(´・ω・)」
「…そういえば、といえば…イリゼとイストワールって、呼び方や話し方がずっと変わらないわね。イストワールに関しては、元から誰に対しても敬語だけど…」
「あー…前にイストワールさんとも話したけど、もうさん付け且つ敬語で慣れちゃったっていうか、これがしっくりきてるからね。別に姉妹のやり取りはこうあるべきだ、なんてルールもないし」
夕食後、私達はリビングでまったり。TVを見たり、ライヌちゃんるーちゃんと遊んであげたりしながら、夜の時間をゆったりと過ごす。のんびりしてるだけだから、特別楽しい訳じゃないけど…普通の幸せが、ここにはある。
「…ね、イリゼ。イリゼはこれから、どういう国にしていくつもり?」
「え?」
明日の朝食のおかずは何にしようか、休みには何をしようか…そんな事を考えていた中で、不意にセイツから向けられた問い。あまりにも唐突だったから、私もイストワールさんも目を瞬かせ…セイツは軽く肩を竦めた。
「あ、別に重く受け止める必要はないわよ?ただちょっと、今のイメージを訊いてみたくなっただけだから」
「うーん、と…それは精神的な話?それとも、国の方向性の話?」
「後者ね。より新しいものを求めるプラネテューヌ、より使い易いものを作るラステイション、技術融合と派生に長けるリーンボックス、魔法っていう独自の持ち味を有するルウィー…取り敢えず技術面の例を挙げたけど、そういう国がある中で、神生オデッセフィアはどんな道を進むのか…それは、大事な事でしょ?」
ただの雑談としつつも、その内容は真剣なもの。どんな国にするかという観点において、他国との比較は重要で…確かにそこがはっきりしていないと、強みのない国になってしまいかねない。
「そうだね…まず、現状で言える持ち味は資源の豊富さと特殊性だし、資源国って方向性もあるけど……」
「特殊性は問題ありませんが、量そのものは単に神生オデッセフィア…いえ、この浮遊大陸に、まだまだ手の付けられていない地が多いというだけですからね。面積自体は他国より少ない訳ですし、量だけを強みにするのは不安が残る選択肢だと思います( ̄^ ̄)」
「ですよね。だから観光だったり、四ヶ国が一つになった大陸の上空を周回してる事を活かして貿易面で…っていうのも考えてるんだけど……」
『だけど?』
「…この方向性だと、最悪リーンボックスと競合しちゃう危険性があるんだよね…。見た目…というかスタイルの面でも私とベールは近いし、方向性が近いとなれば、当然積み重ねのあるリーンボックスの方が何かと有利だから、これも強みの一つには出来るけど、主力には出来ないかな…」
一つ一つ、強みに出来る事を挙げていく。その上で、一つ目はイストワールさんが、二つ目は私自身で、懸念事項も口にする。
これは本当に重要且つ、難しい事。今は私を信仰してくれている人以外にも、目新しさを求めている人や、一から新たな人生を歩みたい人、国家には属したいけど四ヶ国のどれにも不満がある人なんかが移住してきてるから、人口増加は右肩上がりだけど、これはいつまでも続くものじゃない。女神は国の顔だけど、私ではなく、新たな国家という要素でもなく、『神生オデッセフィア』そのものの強みがなければ、四ヶ国と張り合えるだけの魅力がなければ…私の国に、未来はない。
だからこそ、強みは見つけなきゃいけないし、作らなきゃいけないし…ちゃんと、考えている。
「…だから、現代で、これからの信次元で、神生オデッセフィアは『拠点』としての強みを持っていきたいと思ってる」
「拠点…それは、何に対しての?」
「色々、だよ?さっきも言った通り、この大陸は大体一定のペースで四大陸の上空内側を周回してるから、空路に限定されちゃうけど、国家間を何度も渡り歩く場合は神生オデッセフィアに拠点を置くのが一番高効率で行動出来る。加えて周回軌道は基本的に四大陸の生活圏外に位置してるから、圏外調査や開拓の拠点としても活用出来る。それに…多分だけど、別次元との交流、もっと言えば次元間貿易においても、この大陸の性質は強みになると思うの」
私は言う。信次元における拠点としてだけじゃなく、別次元との…謂わば次元の外側との関係においても、神生オデッセフィアは拠点になり得ると。
元々この大陸は、くろめとレイの力によって生み出され、オリゼの《女神化》で今の形へと変わったもの。複数の次元に跨がる戦いの中で生まれた、次元に干渉する程の力を持つレイと、時間を超えて現れたオリゼと、事象の改変と言っても過言ではない能力を有するくろめによって作られた大陸だからか、幾つか特殊な性質があって…だから次元間交流の拠点にもなり得ると、私は見ている。まだ研究が進みつつある、の段階だけど、実際次元に関する特殊な性質がありそうだって、そういう調査結果も出始めている。
実際、上手くいくかは分からない。今はまだ、可能性の話でしかない。でも……この可能性は、必ずや掴みたい。
「拠点、ね…うん、確かに良いと思うわ。それ単体でやっていけるかは分からないけど…別に、それ一本でやってくつもりじゃないでしょ?」
「勿論。歴史ある…というか、オデッセフィア時代の建物や環境は当然他の国にないものだから、それも強みにしていきたいし、他にも出来る事、出来そうな事は何でも試してみるつもりだし……だけど一番は、皆がどうしていきたいかだよね。私の理想と、国民である皆の理想…どっちかじゃなくて、どっちも大切にしなくっちゃ」
「そうですね、それが良いと思います。未成熟な段階こそ意欲的に動かなくては、小さく纏まっただけの国になってしまうものですから( ̄∀ ̄)」
ずっと信次元の歴史を記録しているイストワールさんと、別次元の歴史や政治を知るセイツの二人に肯定してもらえると、やっぱりほっとする。本当に、心強い家族だって、心から思う。
「別次元との交流…ほんと、素敵だと思うわ。だってまだ見ぬ人、全然違う次元に生きる人と出会える、そんな人達の心に触れられる場所だって思うと、それだけで胸が踊るもの!あぁ、考えるだけでドキドキするわ…!」
「セイツさーん…?主旨と少しズレてますよー…?( ̄▽ ̄;)」
「大丈夫、承知の上よ!…あ、そうだ。イリゼ、今日は何か出会いがあった?」
「え、出会い?」
想像でテンションを上げるセイツは、ふと思い付いたように私へ訊く。私が訊き返せば、そうよと柔らかな表情を浮かべて頷く。…出会い、かぁ……。
「…うん、あったよ」
「やっぱりなのね。投稿日的に、精霊?」
「いや会ってない会ってない。そんな物語の始まり的な出会いじゃなくて……普通の、何気ない出会いだよ」
いやいやいや…と否定した私は、それから肩を竦め、でも小さく笑みを浮かべて言う。あったのはそういう劇的なものじゃない、普通の出会いだって。街を回る中で、新たに移住してきた人や、これまで会った事のなかった人と出会ったんだって。
本当に何でもない…多分誰にでもある、ありふれた出会い。次にその人と会うのはいつか分からない、これきりになるかもしれない、儚い出会い。…でも、私はこれも幸福に思う。だって…私の国で出会った、私の国に住む人との出会いだから。どんなにか細くても、これも一つの繋がりだから。
「…やっぱり、良いね。女神であるって。女神でいられるって」
「ふふっ、そうね。わたしも、そう思うわ」
「イリゼさんやセイツさんがそう思えているのなら、わたしも嬉しいです(*´ω`*)」
最後の言葉に、セイツもイストワールさんも微笑んでくれる。多分話の内容は分かってないんだろうけど、ライヌちゃんやるーちゃんもにこっとしている。…これが、今私のいる場所。こんな日常があるのが、神生オデッセフィアで……こうして重ねていくのが、私の国の日々。
(明日は、何があるかな。どんな出会いが、あるのかな)
当然、良い事ばかりじゃない。女神である以上、大変な事だってあるし、今は平和だけど…またいつか、大きな災いに立ち向かわなきゃいけない事もあると思う。
でも、だからって日々の幸せが消える訳じゃないし、霞む訳でもない。大変な事があったとしても、きっと私のこの思いは変わらない。それが、私。それが、オリジンハート…原初の女神の複製体である、神生オデッセフィアの守護女神だから。
今回のパロディ解説
・ユキシロシズカソウ、宗教自治区のある山
SCARLET NEXUSに登場する花及び、登場するフィールドの一つ、ヒエノ山の事。ゲイムギョウ界なら、ルウィーのどこか辺りには咲いているかもしれませんね。
・「〜〜投稿日的に、精霊?」
デート・ア・ライブに登場するヒロインの一人、夜刀神十香の事。パロディネタであり、メタネタですね。四月十日に投稿だと気付き、これは入れなくては!となりました。