超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第八話 新たなる輝き!マエリルハ誕生

 広がり澄み渡る、阻むものなど何一つない空。その空を疾駆するのは、鋼鉄の翼を広げ、噴射炎をなびかせる女神の使い。

 

「さてと、もうすぐね。…始めに言っておくけど、手を抜く気はないわよ?わたしも、皆も」

「ふっ、でなければ困る。本気で向かってくれなければ、得られるものも得られないのだから」

 

 彼方を飛ぶ鉄騎の姿を見やりながら、二人の女神は言葉を交わす。直接ではなく、電子越しに。そして彼女等は、意識を集中させる。これから始まる、戦いへ。

 

「間もなく会敵に入る。出来たばかりの組織とはいえ、油断は禁物だ」

「了解。…隊長、データではこちらと似たコンセプトの機体との事ですが……」

「あぁ。だがそれは、あくまで比較的だ。同じと思って相手をすれば、足元を掬われるぞ」

 

 オンミニド。プラネテューヌ国防軍が有する主力可変MGを駆りながら、パイロット達もまた言葉を交わす。

 油断はなくとも、余裕はある。プラネテューヌの国防軍人達はそんな様子であり…隊長が言葉を返した数秒後、各機のレーダーが相手を捉える。

 相手はモンスターではない。相手もまた、鋼鉄の翼を有する存在。交戦距離へと入った瞬間、双方挨拶代わりだとばかりに長射程のミサイルやビームカノンによる攻撃を放ち、それを回避し、迎撃する。

 

「まずは相手の動きを崩す!このままの陣形で突っ込むぞ!」

 

 攻撃を凌いだオンミニド部隊は加速し、航空形態下部に懸架するビームマシンガンや上部に備えられたビームカノンを用いて相手部隊を正面から叩く。

 対する相手部隊は、左右へ散開するように回避。しかしそれは想定内であったオンミニド部隊は、即座に追撃をかけようとし…しかしそこで、相手部隊も動きを見せた。

 

「この動き…変形ね!けど、変形速度はうちより遅い…って、違う…!?分離した…!?」

「しかも、これは……ッ!」

 

 相手機体の変形。それ自体は、別段驚く事ではない。可変機が主力であるプラネテューヌ国防軍からすれば、よく見る光景とすら言えるもの。しかし、彼等を驚かせたのはそこから先の挙動であった。

 機体上部…主翼に推進器、それに武装等を備える、やや平たい印象を持つ部位が丸ごと離れ、人型へと変形した下部と完全に分かれた相手機体群。単なる変形ではなく、合体変形であった事にまず驚かされ…直後、人型となった下部が上に、そのまま飛ぶ上部が下に回り、機体の両脚部で以って航空形態時の下部が上部に飛び乗った事で、プラネテューヌの国防軍人達は理解した。これが、相手のコンセプトなのだと。これこそが……神生オデッセフィア国防軍のMG、マエリルハという機体の持つ特徴だと。

 

「よし、このまま挟み込んで攻撃をかける!味方を撃つなよ!」

「プライマリー隊γはこのまま一撃離脱戦法に入るわ!各機、向こうのドッグファイトに付き合っちゃ駄目よ?航空形態の空戦能力じゃ、向こうが上手なんだから…!」

「よぉし、ここで俺達の活躍を女神様に見せて、女神様に胸を張ってもらおうじゃねぇか!」

 

 飛行の要であり、航空形態の上部を構成する無人支援戦闘機、ルヴァゴに搭乗した空戦形態のマエリルハ部隊は、二手に分かれて反撃開始。携行武装であるビームマシンガンや、左右腰部に装備されたビームシューター、それにルヴァゴ上部に備えるビームカノンを用いて遠隔攻撃を仕掛け、オンニミド部隊へ挟撃をかける。

 しかし、全機が変形した訳ではない。γ小隊は航空形態のまま数発撃つと一度離脱し、旋回の後再度の遠隔攻撃へ入る。空戦形態よりも最高速度に長け、正面からの被弾面積で勝る航空形態の利点を生かした一撃離脱攻撃で以って、味方部隊を支援していく。

 戦いの皮切りとなった長距離攻撃は互角。そこからの先手を取ったのはプラネテューヌ側であり、確かに一瞬有利であった。だが、マエリルハ…まだ限られた情報しか得られていなかった機体の特性による情報アドバンテージは、一瞬の有利を打ち消し、再度の互角、或いは神生オデッセフィア側の有利を生み出していた。

 

「ぐっ、やってくれる…ッ!」

「けど、変形だったら…こっちの本分なんだよぉッ!」

 

 されどプラネテューヌ側とて、そう簡単にやられる訳ではない。挟撃と一撃離脱の連携により突撃陣形こそ崩されるも、こちらもまた即座に散開し、自慢の推力で挟み撃ちから逃れたと思えば、人形形態に変形し側面や上方からお返しの射撃を放つ。オンニミドの変形速度はマエリルハのそれより速く、回避からの息つく間もない反撃に転じる。

 

「突出は避けろ!安定性ならこちらが上だ!」

「足を止めるな!機動力で翻弄出来れば、流れはこちらに向くッ!」

 

 双方各隊の隊長から指示が飛び、プラネテューヌと神生オデッセフィア、それぞれに違った機動をMGが見せる。マエリルハは陣形を組み直し、各火器による面制圧をかける一方、オンニミドはここで動く事により大きく広がり、マエリルハへ高機動戦を仕掛けていく。

 同じ航空形態への可変機構を持つ機体と言えど、有する能力や長所は違う。そしてそれが、少しずつ戦いに影響を及ぼす。

 

「……っ…振り、切れない…ッ!」

「貰っ…何!?」

 

 一撃離脱の為航空形態のままであったマエリルハの内一機、その背後を同じく航空形態のオンミニドが取る。直後に撃ち込まれるビームマシンガンの連射を辛うじて避けるマエリルハだったが、航空形態での運動性で劣るマエリルハでは続く二門の機関砲による追撃を避け切れず、主推進器…人型形態での脚部に当たる部位へと被弾した事によって一気に失速。制御を失ったところへビームマシンガンの追い討ちを受け、そのままマエリルハは撃ち落とされる。

 一方別の場所では、人型形態のオンミニドによる集中砲火を受けていたマエリルハが、ルヴァゴから跳び上がるようにして回避。しかし飛行ユニットとして用いていた事で推力は落ち、人型形態でも高い推力を持つオンミニドの連続攻撃には、掲げたシールドで防御をするのが手一杯。少なくともオンミニドのパイロットからすればそう見える攻撃であり、一層火力を集中させる事で撃墜を狙う…が、次の瞬間後方から一条の粒子ビームが駆け抜け、右腕部を掠める。それ自体は装甲を灼くだけに留まったが、反射的にオンミニドのパイロットは機体を振り向かせてしまい…背面を向けたオンミニドへ、マエリルハのビームシューターが襲い掛かる。一瞬で形勢が逆転し、オンミニドの方が撃破へと追い込まれる。

 それは、後方からオンミニドへ放たれたのは、ルヴァゴの…マエリルハから分離した無人機による砲撃だった。マエリルハが防御に徹していたのは、為す術がなかったのではなく、自身を囮にするという作戦故の行動だった。

 

「戦況は、今のところ互角…ね」

「えぇ。まだあらゆる面で蓄積の少ない我々が、プラネテューヌ国防軍相手に互角…これならばきっと、各国に我々神生オデッセフィアの実力を示す事が……」

「…それは、どうかしら。確かに実力を示す事は出来るでしょうけど…『今は』互角なのよ?今の段階で互角である事は、手放しに喜べる事じゃないかもしれないわ」

 

 前線での衝突を緊張と共に見守るのは、空陸一隻ずつ展開した戦闘艦の内、陸上艦の艦長とその副官を務める二人。互角である事を肯定的に捉える副官だったが、艦長の浮かべる表情は明るくなく…返された言葉で、副官もまた理解する。

 そう。現時点で互角だからといって、以降も互角、或いはそれ以上に戦えるなどという保証はない。互角というのはあくまで結果であり、何故その結果が生まれているのかまで考慮しなければ、それは短絡的な思考でしかない。

 そして、神生オデッセフィア側には情報アドバンテージがあった。プラネテューヌのオンミニドは現行の最新主力機であり、初期型より多少のアップデートも恐らくされているとはいえ、神生オデッセフィア建国前から配備され、情報もそれなりに知れ渡っているのに対し、神生オデッセフィアのマエリルハは建国式典で先行配備された機体が警備に当たった事を除けば、他国の目に大々的に触れる機会はまだまだ少ない。その式典においても戦闘能力を発揮する場面はなかった為に、無人機との合体変形でプラネテューヌのパイロット達に衝撃を与える事が出来たのだが…逆にいえば、そのアドバンテージを活かしても尚、互角止まりなのが現状。更に言うならば、情報のアドバンテージは時間経過で薄れるものであり……艦長の懸念は、的中する。

 

「く、ぅっ…!プライマリー9、援護を!後一手、後一手さえあれば…ッ!」

「駄目ですっ!こちらも目の前の相手に対応するので手一杯で……ッ!」

 

 プラネテューヌ側が人型と航空、二つの形態を素早い変形を用いる事で駆使して戦えば、神生オデッセフィア側も空戦形態の安定性や、無人機との連携攻撃によって高機動戦に対抗していく。マエリルハの動きは決して悪くなく、中には地上へ降り、軽快な動きでオンミニドの対地攻撃を躱しつつ、自由となったルヴァゴを支援無人機として存分に活用するパイロットも散見される。

 だが…交戦開始直後は互角だった戦いは、プラネテューヌ側へと傾き始めていた。数はほぼ同数ながら、神生オデッセフィア側は抑え込まれ始めていた。

 上へ下へと縦横無尽に飛び回り、ビームマシンガンを中心に手数で攻めるオンミニド隊にマエリルハ各機は攻めあぐね、パイロット達は焦りを抱く。圧倒こそされていないものの、抑え込まれているという感覚は確かにあり…そこから数機のオンミニドが動く。

 

「よし、パールス5より各機へ!一気に突破するぞッ!」

『了解ッ!』

「ちッ…このまま易々と抜かれて堪るものか…ッ!」

 

 急上昇からの変形をかけた小隊長機に追随する形で、プラネテューヌ側の一個小隊が衝突する前線からの突破を図る。全体での抑え込みがこの突破の為だと即座に気付いた神生オデッセフィア側の小隊長の一人は、次々と襲う射撃の中でも機体を翻し、構えた携行火器…ビームマシンガンに追加バレルを装備したロングビームライフルの一撃で突破しよつもする内の一機を落とすも、それ以上の攻撃は十字砲火によって阻まれ、残りの機体には抜かれてしまう。そして、一個小隊が抜けた事で抑え込む力は弱まり、神生オデッセフィア側は盛り返すも、プラネテューヌ側はここまでの抑え込む動きから、回避を主体としつつも隙があれば即反撃に移る動きに移行する事により、プライマリー中隊を引き止める。

 戦況が動いた事により、両軍どちらも待機させていた戦力を展開。神生オデッセフィア側は突破した機体を迎撃する為、プラネテューヌ側は前線戦力の補強の為に、カタパルトより艦載機を放つ。

 

「我々だけで直掩と艦二隻を相手にするのは流石に厳しい。よって、撃破よりもプレッシャーを与え続ける事を優先するぞ。いいな?」

「対艦装備も爆撃仕様の機体もないですからね。それでも、そこそこ直掩を削る位は…っと、おいでなすった…!」

「…うん?あの機体…式典に出ていた装備か…!」

 

 陣形を組み直したプラネテューヌ側の小隊…パールス隊βは、暫く飛んだ後に正面から接近する部隊を捕捉。方向からして間違いなく神生オデッセフィア側の迎撃であるそれの、パールス隊βは交戦に入ろうとし…しかしそこで目に留まったのは、その内の一機。殆どの機体は航空形態を取り飛んでいるのだが…その中には、味方機の上に乗って飛ぶ、他の機体よりも明らかに重装備な神生オデッセフィア機の姿もあった。

 

「向こうもあの数で勝負を決められるとは思っていない筈だ。だからこそそれを逆手に取り、慎重な手を取っている内に押し返すぞ!」

『はっ!』

 

 機体各部への装甲と多数の火器で構成された重装備…キエルバユニットを纏っているのは小隊長機。指示を出すと共に小隊長機は乗っている機体から離れ、航空形態のマエリルハが下方を通り過ぎた後にスラスターを吹かしつつも地上へ降下。部下の乗るマエリルハも変形をかけつつ、迫るオンミニドへの迎撃に入る。

 

「やはり陸戦装備…火力はあるようだが、飛べないのではなッ!」

 

 ビームマシンガンやシューターを用いて攻めるマエリルハと、上下左右に動き回る事で攻撃を躱していくオンミニド。小隊長のマエリルハはロングビームライフル及び、キエルバユニットの背部右側に備えられたビームカノンによって対空火力支援を行い、機動力で劣る味方を援護。

 それを厄介だと感じたのか、それとも陸戦機の方が手早く撃破出来ると考えたのか、プラネテューヌ側の一機が大回りなロールで回避をかけつつ目標をキエルバ装備のマエリルハに定める。

 人型形態に変形したオンミニドは、右腕部にビームマシンガンを、左腕部に携行状態となったビームカノンを構え、降下しながら対地攻撃。対する小隊長のマエリルハも、追加バレルをシールド裏に格納したビームマシンガンとビームカノンで迎え撃ち、空に陸にと粒子ビームの光が飛び交う。

 

「ふっ、予想通り動きは重い…一対一で大火力は必要ない以上、こちらが圧倒的に有利……」

「──ここだ…ッ!」

 

 機敏な動きでオンミニドが避ける一方、重装備のマエリルハは回避する動きに余裕がない。その挙動に確信を持ったオンミニドのパイロットがこのまま押し切ろうとする中、マエリルハは腕部追加装甲に内蔵されたグレネードを放ち、飛来するグレネードをオンミニドがフレキシブルスラスターの機銃で迎撃した事によって一瞬爆炎が視界で広がり……次の瞬間、迎撃された瞬間に、マエリルハは飛び上がる。

 

「なっ、まさか…ッ!」

 

 幾らスラスターの噴射で跳躍が出来るのだとしても、陸戦機が宙にいる空戦機へ、正面から飛んでいくのは無謀な選択。それを選んだ相手にオンミニドのパイロットは面食らいたじろぐが、ならば撃ち落とすだけだと機銃も交えて一斉射撃。

 これで決まりだ、と内心思ったオンミニドのパイロット。…だが、マエリルハは躱す。重い機体でありながら躱し、続く攻撃も流れるような動きで凌いでいく。流石に全弾回避とまではいかなかったが…そこは追加装甲を纏った機体。マシンガンや機銃が数発当たった程度では落ちず、カノンの射撃は確実に躱す事で、着実に距離を詰めていく。

 マエリルハがビームカノンで反撃すると共にマシンガンを腰部に掛け、肩部の付け根付近よりビームサーベルを抜き放つ中で、オンミニドのパイロットは気付く。この機体は他のマエリルハと共通する脚部スラスターだけでなく、背部の物、そしてビームシューターの代わりに装備された左右腰部の物と、それなり以上の規模を持つ推進器を各部に備えている事に。重量故の機敏さはなくとも、一度速度に乗ってしまえば十分動き回れる推力を有している事に。

 

「こ、のッ…空で、こっちが負ける訳には…いかないんだよッ!」

「いいや…終わりだッ!」

 

 遂に肉薄したマエリルハがビームサーベルを振るう中、オンミニドもまた前腕部よりビームサーベルを出力し、空で二機は斬り結ぶ。そこからオンミニドはスラスターを全開で吹かす事でマエリルハを押し返し、今度こそとビームカノンを向ける…が、押し返した時点でマエリルハ側のパイロットの術中。押し返した後の、姿勢の崩れたタイミングを狙ってマエリルハは背部左側の追加装備より巨大な杭をオンミニドに撃ち出し、杭がオンミニドの胴体を貫く。更に貫いた状態で杭は爆発し、完全にオンミニドを撃墜する。

 

「あのパイロットは手練れか…陸戦型は私が相手をする!持ち堪えろよ…ッ!」

「この動き…突出してきた隊の隊長なだけはある…ッ!」

 

 味方機の撃墜を受け、プラネテューヌ側の小隊長が動く。危険を承知で相対していた機体に接近し、すれ違いざまに斬撃一閃。マエリルハ側のビームマシンガンが肩部装甲を掠めるも戦闘には一切影響がなく、逆に前腕部より出力したビームサーベルでそのビームマシンガンを斬り飛ばし、攻撃能力を削りつつも空から陸へと突破をかける。

 射撃に重点を置きつつ降下していた先の機体とは対照的な、推力全開の急降下。迫るビームカノンの一撃はサーベルから切り替え展開したビームシールドで防ぎ、反撃としてビームマシンガンで三点バースト。小隊長のマエリルハもまたシールドで受けた事で、両者の距離は詰まり…叩き付けるように、再度出力したサーベルをオンミニドは振り下ろした。

 

『……ッ!』

 

 それを寸前で、左右腰部のスラスターを正面に向ける事で後退し避けたマエリルハは、直後に背部と脚部のスラスターで機体を戻してシールドを振るう。先端の衝角による打撃をかけ、オンミニドもまた脚部からの噴射で打撃を躱し……オンミニドはフレキシブルスラスターの機銃を、マエリルハは追加装備の頭部機銃をほぼ同時に発砲。互いに数発は受けるも、オンミニドは素早い挙動で回避し、マエリルハは追加装甲で弾く事によって互いに致命傷を避ける。

 尚も追撃しようとするマエリルハだが、下がるオンミニドの動きには追い付けない。通常装備ならまだしも、重量のあるキエルバ装備でオンミニドの加速性能に対抗するのは土台無理な話であり、ならばと機体を立て直す。オンミニドもまた変形し大きく距離を取った後にビームマシンガンをマエリルハへ向け、両小隊長は仕切り直して再度ぶつかる。

 

「速い…!航空形態だけじゃなく、人型でもここまで速いのがプラネテューヌの機体か…!」

「あんな飛び方じゃ良い的だと思ったけど…体勢に自由が効くのは厄介ね…!」

 

 航空形態のオンミニドはフレキシブルスラスターの向きを変える事で自在に空を飛び回り、それを同じく航空形態のマエリルハが、点の攻撃であるビームカノンと面の攻撃であるランチャーからのマイクロミサイルで追い立てる。独特の空戦形態を持つマエリルハが、高い安定性を持つが故に普通ならば姿勢の崩れるような姿勢での攻撃をかければ、オンミニドは空を滑るような、機敏ながらも滑らかさのある動きで躱して反撃を放っていく。

 双方機体の特性を活かした、一進一退の攻防。どちらの軍も少しずつ被撃墜数が増えていき、戦力的余裕が減っていく。それ自体は戦闘である以上、当たり前の事であり、局地的に見れば神生オデッセフィア側がほぼ互角の状態のまま持ち堪えているとも取れる戦況だが……戦場全体で見れば、神生オデッセフィア側が押されているのは明白だった。

──位置、である。両軍の主力部隊が衝突する地点が、開戦直後に比べて明らかに神生オデッセフィア側へ移ってるのだ。

 

「パンツァー隊を両翼に展開して!上空はナカツマキに任せて、私達は地上と低空の防御を固めるわよ!」

「…艦長。空陸で連携しての迎撃態勢を整える事は自分も賛成ですが…ここは我々も前に出るべきでは?多少危険はあろうとも、今押し返す事が出来れば、流れが変わる可能性は十分あります。逆にこのまま押され続けてしまえば前線部隊に我々を、母艦の防衛を必要以上に意識させてしまう筈です」

「…貴方もそう思う?ここで焦って動けばどこかに隙が生まれる、というのが私の考えだけど……」

 

 押されつつある戦況を考慮し、ナカツマキ…空中艦の艦長との意思疎通を図った陸上艦の艦長は、格納庫よりパンツァーシリーズの現行モデルを出撃させつつ、次の動きを考える。そこで副官が提言を口にし、それを受けた艦長は考える。

 どちらが正しい、などという事はない。未来は分からない以上、今ある情報から推測し、選ぶしかない。そしてその為の情報を艦長は頭の中で精査し、どちらにするか判断をしようとしたその時……艦のブリッジに、ある事を示す音が響く。

 

「……!もうそこまで経ってたのね…!だったら…!」

 

 ばっと顔を上げた艦長は、オペレーターにある通信を指示。すぐにそのオペレーターが回線を開けば、ブリッジ前方のモニタの一つに新たな窓が開き…映し出されるのは女神の姿。

 

「相談無しに回線を開いちゃって申し訳ないわ、中佐。でも……」

「ああ、構わない。こちらも同じ判断だったからな。…女神様。残念ながら、現在我々は劣勢です。その中でお呼びするのは心苦しいのですが……」

「いいや、気にする事はない。確かに今は劣勢かもしれないが…まだ、戦いは終わっていないのだから」

 

 空中艦艦長に最後まで言わせず、覇気ある笑みを浮かべた女神…オリジンハート。まだ終わりではないと告げる彼女の言葉に、二人の艦長は頷き…女神は、イリゼは言う。

 

「道は私が切り開こう。だが、間違いなく向こうも動いてくる筈だ。そうなれば私とて、圧倒するのは難しい。故に…そこから先は、君達に任せる」

 

 任せるというイリゼの言葉に、再び艦長達は…否、通信を聞いていた全ての者が強く首肯。他でもない国の長、主君であると同時に敬意の対象でもある彼女の信頼の籠った言葉は、それが直接のものではなくとも士気を上げるのに十分なだけの力を持ち…次なる指示が各艦で飛んだ次の瞬間、両艦の後方にイリゼは現れた。

 女神の姿の彼女は、猛烈な速度で艦の位置する座標を駆け抜け、最前線へと向かっていく。数機のマエリルハが護衛として追随し、暫しの飛行の後に突出していたプラネテューヌ側の部隊に迫る。

 

「あれは……く…ッ!」

 

 接近するイリゼに一機のオンミニドが反応するも、MGに比べれば遥かに小さい事、そして何より女神を狙う事への心理的抵抗から動きが鈍る。だが、数瞬の鈍りであろうと女神相手にそれは致命的であり…すれ違うと同時に、腰部の関節を一刀両断されてオンミニドは墜落。先の小隊長機がマエリルハに一撃与えた際と挙動こそ似ているものの、その結果は歴然なもの。

 そこから他のオンミニドに阻ませる余裕すら与えず、護衛機諸共イリゼは突破。直後に一瞬だけ振り向き、マエリルハに…そのパイロット達へ「ここは頼んだ」とばかりに頷いてみせ、先を急ぐ。

 

「さぁ、退いてもらおうか…ッ!」

 

 イリゼの突撃は止まらない。女神の出現を聞いた本隊は多少無理をしてでも、と神生オデッセフィア側の攻撃を躱して迎撃に動くが、その悉くが鎧袖一触。即撃墜を免れた機体も護衛機による追撃で墜とされ、爆散や落下で散っていく。

 そんな中、落下するオンミニドの両脚部より放たれるマイクロミサイル。最後の力を振り絞るかのように飛翔するミサイルの束は、全てがイリゼへと向かい…だが多数の誘導兵器も、女神を捉え切るには至らない。激しくも華麗な、舞うが如き空中機動で全弾を振り切り、急上昇の頂点で優雅に後方宙返りを見せ…イリゼは、前線へと到達する。

 

「我が親愛なる戦士達よ!相手は四大国家が一角、プラネテューヌ!その正規軍に苦戦するのはなんら恥ではない!そして…勇気ある貴君等を導く事こそが、女神たる私の使命!私へ続け!我等の勝利の為に、栄光の為にッ!」

 

 得物である長剣を掲げ、高らかに声を響かせるイリゼ。その彼女を守るように、近衛の騎士の様に、イリゼの周囲で護衛機は人型形態へと変形し…雰囲気は一変する。まだ、戦況は変わっていない。戦線を押し返した訳ではない。されどそれだけで、戦いとは切り離せない「空気」が神生オデッセフィアの味方となった。

 

「後退せよ!一時的に押されたとしても構わない!とにかく今は耐えるのだ…ッ!」

「一気呵成だ!このチャンスを逃すなッ!」

 

 単独のMGはおろか、部隊単位でも圧倒される程の強さを持つ女神の参戦。カリスマ性を除いた、単独での戦闘能力を見ても別格な女神に対し、プラネテューヌ側は戦線を切り崩される前に、押し返されてでも被害を抑える事を選択。対する神生オデッセフィア側は一気に攻める事を選び、次々と攻撃を叩き付ける。これまでは反撃を意識し、それに対応出来るだけの余裕を持った上での攻撃が求められていたが、今は最前線でイリゼが注意を引きオンミニド部隊を翻弄する事により、反撃を気にせず仕掛ける事が出来ていた。

 

(よし…取り敢えずこれで、カウンターは成功した。それにこのままいけば、そう時間もかからず戦況は逆転する。…でも、今の内にもう少し…後少しだけでも撃破を……)

 

 少し遅れる形で増援も到着し、前線での戦いは神生オデッセフィア側に傾いた。突出していたプラネテューヌの小隊も孤立し、更にイリゼが現れる前から消耗しつつあった事もあり、迎撃部隊に損害を与えながらも全機墜とされ全滅する。

 素人目でも分かる優位。着実に押し返され始めた戦線。それによって神生オデッセフィア側の士気は一層高まりプラネテューヌ側を完全に防戦一方へと追い込む…が、最大戦力であるイリゼは焦りにも似た感情を抱いていた。十分な状況だとは思っていなかった。そして、射出した剣で相対するオンミニドの頭部メインカメラを貫き、追撃を仕掛けようとしたその時……プラネテューヌ側から飛来した巨大剣が、イリゼによる攻撃を阻む。

 

「悪いけど…これ以上戦線を引っ掻き回させはしないわッ!」

「来たか……ッ!」

 

 飛び退いた先へ斬り掛かる、紫の刃。それを長剣で受け止めたイリゼは、刃の主を……プラネテューヌの守護女神である、ネプテューヌの姿を正面から見据える。

 

「皆!神生オデッセフィアにオリジンハートがいるように、プラネテューヌにはわたしが…パープルハートがいるわ!だからこれで、戦況は互角…ううん、改めてわたし達プラネテューヌの優勢よ!」

 

 突進の勢いに自らの全力を乗せ、力技でイリゼを押し切ったネプテューヌは、空を踏み締めるように仁王立ちし、両翼を広げて言い放つ。イリゼの言葉を、空気を塗り替えるように声を響かせる。

 直後、弾かれていたイリゼは回り込むような機動で背後を取り、鋭く横薙ぎ。反射的に、本能的に身を翻す事でネプテューヌが躱せば、即座にイリゼは身体を回し、横薙ぎの遠心力も乗せる事で前進しながら更に追撃の回転斬りをネプテューヌに打ち込む。それを大太刀の腹で受けたネプテューヌは若干姿勢が崩れるも、口上を阻む事に間に合わなかったイリゼは歯噛み。

 

「思ったよりやるわね、まだまともな形になったばかりでしょうに…!」

「当然だ、彼等は勤勉且つ熱意のある者達だからな…ッ!」

 

 片手持ち、両手持ちを瞬時に、変則的に切り替えて変幻自在な連撃をイリゼが仕掛ければ、ネプテューヌは流れるような刀捌きでそれを逸らし、受け流して反撃。互いに素早く得物を振るうもその声や表情には余裕があり、探りを入れ合っているような状況。

 しかしそれでも、常人からすれば別格の戦闘。実際両軍のパイロットに介入の余地はなく、改めて双方の機体がぶつかり合う。

 

「ふふっ、けどまさかこんな日が来るとは…守護女神の貴女と、オリジンハートと戦う日が来るなんて思わなかったわッ!」

「それはお互い様だよ、ネプテューヌ…いや、パープルハート。ずっと私達は…最初から、仲間だったんだからね…ッ!」

 

 大上段からの振り下ろしを刀身で、斜めに滑らせる形で防いだネプテューヌは、逸らした斬撃の力で横にずれつつ蹴りを放つ。対するイリゼは逸らされ相手を失った斬撃の勢いを逆に利用し身体を前方へと引っ張らせる事で蹴撃を避け、長剣から片手を離すと身体を放ってネプテューヌへ裏拳。ネプテューヌは身を屈める事でそれを躱し、そのまま両者は前に飛ぶ事で距離を取る。直後に身体を反転させ、次なる攻撃の動きに入る。

 

「天舞参式……睡蓮ッ!」

「32式……エクスブレイドッ!」

 

 振り向いた二人の右手に輝くのは、シェアエナジーの光。イリゼはその光を水晶の様な巨大剣へ、ネプテューヌは半実体の巨大剣へと姿を変えて、突進と共に全力で振り抜く。

 

「……ッ!(やっぱり、まともにやり合ったら…)」

「──ッ!(そうそう勝負は付かない、な…ッ!)」

 

 周囲に衝撃波を及ぼす程の、巨大剣の激突。その打ち合いで、二人の女神は互いの実力、それにこのまま戦い続けた場合の結果を感じ取り…先に動いたのはネプテューヌ。打ち合いの状態から、自らエクスブレイドを解除し、捻り込むような機動でイリゼの巨大剣を交わすとブレイドの芯としていた大太刀で肉薄と同時に斬り掛かる。

 しかし意表を突く、思考の穴を狙う戦法はイリゼの十八番であり、大太刀が届く寸前に巨大剣のシェアを解放。爆発させる事を前提とした圧縮シェアエナジー程ではないにせよ、高密度のシェアエナジーにより形成された剣を解放する事によって全方位へと衝撃が生まれ、その力でネプテューヌの動きと斬撃を鈍らせる。それと同時に散った巨大剣の欠片を掴み、欠片を針状の武器に変えると、その針を振って刺突を狙う。

 ならば、と無理せず後退を選んだネプテューヌ。されどそこまでイリゼは想定済みであり、空振りとなった腕を逆側に振るう事で、手にした針を…否、棒手裏剣を投げ放つ。飛来する投擲武器をネプテューヌが大太刀で着実に叩き落とせば、動きの止まったところへ今度はイリゼが肉薄をかけ……

 

「なッ…狙撃……ッ!?」

 

──だがその攻撃は、一条の光芒によって阻まれた。先のエクスブレイドによる妨害、その再現をするように再びイリゼは遮られ…続けて多数の弾丸や光線がイリゼを襲う。

 

「おいおい、この距離且つ死角からの狙撃だぞ…?分かっちゃいたとはいえ、ほんと女神様の察知能力は無茶苦茶だな……」

「いえ、回避を選択させられただけで充分です。いきますよ…ッ!」

「りょーかい!」

「はーい!」

 

 ばら撒かれるような遠隔攻撃をイリゼが躱し、或いは斬り払って凌ぐ中、プラネテューヌ側の後方から現れたのは三機のMG。それぞれの有する火器でイリゼに仕掛けるその機体達は、オンミニドに近い外観をしながらもより高位の性能を持つ少数生産機…エース用のオンミニド・セーガであり、ある程度の距離まで近付くと航空形態の三機は散開。機敏な動きで位置取りを変えながら攻撃を続け、更に再び狙撃がイリゼを狙う。

 

「今の狙撃…それにこの機体って……」

「来たわね皆!じゃあ、この場は任せるわよ!」

 

 ライトグレー、スカーレット、ホワイト…国色である紫に加え、それぞれのカラーリングが目を惹く三機のオンミニド・セーガと狙撃にイリゼが目を見開く中、笑みを浮かべたネプテューヌはイリゼを交わして先へ、神生オデッセフィア側へと向かおうとする。当然イリゼはそれを止めようとするが、三機…それに狙撃手のオンミニド・セーガを加えた四機の集中砲火が道を塞ぎ、続けて一機がネプテューヌへと追従する。残る二機はイリゼへと距離を詰め、狙撃が仕掛ける二機を援護。

 

「ちょっ、ネプテューヌ!?トップエースを惜しみなく投入って、それは流石にズルくない!?」

「あら?本気で向かってくれなきゃって言ったのは、イリゼの方でしょ?」

「……っ、ネプテューヌ…!」

 

 思わず声を上げてしまったイリゼに対し、ネプテューヌは飄々と返答し飛び去っていく。意地でも追いたいイリゼだったが、相手はそのトップエース。一対三という事もあり、流石に一蹴とはいかない。

 

「いいね、三人がかりなら女神様だって止められる…ッ!」

「何とか時間稼ぎは出来る、って程度だろうけどな。ほんとに速ぇ…!」

「うぅ、わたしがねぷ子様に付いていきたかった…でもここで役目を果たせば、きっとねぷ子様に褒めてもらえる…!」

 

 航空形態でビームマシンガンと二門の機銃を話しながら突撃するのは、副会長機。上昇により回避したイリゼは通り過ぎていく副会長機に追い縋ろうとするも、またもや狙撃…ヴァシュラン機の援護がそれを妨害。直後にイリゼのいる場所をノーレ機の専用ビームサーベルが斬り裂き、それも躱したイリゼにノーレ機のビームランチャーとヴァシュランのビームスナイパーライフル…二つの高出力火器による十字砲火が迫り来る。

 

「やはり、良い動きをしてくれる…!…だがッ!」

 

 神生オデッセフィアの守護女神となる前はプラネテューヌに住んでいた事もあり、彼女等プラネテューヌのトップエース達の事は少なからず知っている。故に厄介だと思いつつも、イリゼは賛辞の言葉を送り…その上で、反撃に転じる。

 迫る十字砲火は、空中での宙返りにより、光芒を高跳びが如く背面で回避。続く副会長機の、ビームブレードによる接近と斬撃もまた無駄のない動きで避け、更にふり抜かれた直後の副会長右前腕部を足場にイリゼは急加速。二刀流の構えを見せるノーレ機に向けて突進をかけ、同じくスラスターを吹かす事で突進していたノーレ機と交錯。バレルロールと共にイリゼはノーレ機の脇をすり抜け…本体と左側のフレキシブルスラスターとを接続するアームが、斬り落とされた。

 

「まだ、まだぁッ!」

「そこぉ!」

 

 自らの攻撃は空振り、逆に一太刀浴びる事になったノーレだが、勢いは衰えない。イリゼが鋭く振り返り、次なる攻撃を仕掛けようとする一方、彼女もまた機体を反転させる。大きさの関係から回転速度はイリゼの方が断然上であり、普通なら振り向いたところで間に合う筈のない状況だったが…ノーレは機体右脚部のスラスターを全開。同時にNLEシステムの力で関節部にかかる負荷を逃がし…振るわれた長剣を、右膝部に搭載されたアンカーの刃で受け止める。

 数瞬の激突と、そこからノーレが選んだ後退。追撃しようとしたイリゼには副会長機からの一斉掃射が叩き込まれ、狙撃も続く。これまでよりやや狙いは甘い…だがその分光芒と実体弾が次々と撃ち込まれる狙撃がノーレ機の立て直す時間を作り、三機はイリゼの足止めを続ける。少しずつ攻撃を受け、足止めの限界へと近付いていくも、オンミニド・セーガは女神へ喰らい付く。

 

「三人…って言っても一人は狙撃手だから、どっちにしろそう簡単にはやられないと思うけど…とにかく副会長達が墜とされれば、間違いなく士気が落ちるわ。だから、急ぐわよ…!」

「はい…!」

 

 足止めを任せて先を行くネプテューヌと、もう一機のオンミニド・セーガであるリヨン機は、他の戦闘には目もくれず、一直線に神生オデッセフィアの母艦を狙いに行く。ネプテューヌはもとより、リヨンもまた相当な実力者であり、迎撃を巧みに躱して進んでいく。

 そんな二人を止めんとするのは、補給を終えた先の迎撃部隊。距離を詰められればその時点で抜かれる、という判断から今は全機がビームマシンガン用の追加バレルを装備しており、分離をせずにそのまま変形。ルヴァゴを背負った状態の人型、滞空形態でロングビームライフルによる長距離迎撃を仕掛け…しかし、女神とオンミニド・セーガは止まらない。

 

「やはり、か…だが、そう易々と抜かせるものか…ッ!」

「……ッ!パープルハート様ッ!」

 

 長距離迎撃にはキエルバ装備の小隊長機も加わり、ライフルとカノンを撃ち込んでいたが、殆ど速度は変わっていない。その時点で小隊長は、この場で止める事がほぼ不可能だと感じていたが…それでも、とスラスターを吹かせる事で跳躍し、その目で、機体のメインカメラでネプテューヌとリヨン機を見据える。

 そして次の瞬間、展開する各部追加装甲。その内側には何十ものマイクロミサイルが搭載されており、それを小隊長は一切掃射。全身からミサイルが空へと舞い上がり、噴射炎の尾を引きながら両者に迫る。

 だが、対するリヨンの反応も早い。これは容易には…今までの調子では躱し切れないと即座に判断し、自機を人型の形態へと可変。相手の小隊長の様に、リヨンは迫るミサイルを見据え…こちらもまた、備えるマイクロミサイルを放つ。下腿部、上腿部、それに背部のマイクロミサイルポッド全てを開き、多数のマイクロミサイルを同じく多数のマイクロミサイルで以って真正面から迎え撃つ。

 

『……──ッ!』

 

 ミサイルとミサイルがぶつかり合い、その爆発に周囲のミサイルも巻き込まれ、爆裂が広がる。プラネテューヌ側と神生オデッセフィア側を隔てるような爆炎が空へと広がり……次の瞬間、ネプテューヌとリヨン機がその爆発の上を駆け抜けていく。爆風を味方とするかのように、高度を上げて迎撃部隊を乗り越えていく。

 

「まさか、わたしだけじゃなく貴女も続いてくるなんてね。可変機だし、竜鳥飛びの使い手を名乗れるかもしれないわよ?」

「い、いえ…流石にエンジンは切っていないので…それよりもパープルハート様。目標は、もうすぐです」

「えぇ、そうね。斬り込むわ、援護して頂戴!」

 

 ネプテューヌからの軽い冗談を否定するも、リヨンの表情は悪くない。しかし真面目な彼女らしくすぐに表情を引き締めると、ネプテューヌにもうすぐだと言い…同じく真面目な顔付きに戻ったネプテューヌは、まだ遠い…しかし確かに視界に捉えた戦闘艦に向けて、最高速度で飛び込んでいく。

 迫るネプテューヌへと上がる、対空砲火。戦闘艦に加え展開したパンツァー部隊も砲撃を行う事によって濃密な迎撃網が形成されるも、相手は女神。素通しこそ許さないが、追い返すまでには至らず…火力がネプテューヌへと集中している隙を突いて、リヨン機がパンツァー部隊を撃破していく。光実連装のマシンガン、機銃二基、それに背部二門のビームカノンを用いて、攻撃と可変を素早く繰り返して、対空砲火を減らしていく。

 逃げられる筈もない艦隊は、全力の迎撃をかける。その砲火故に正面に出られない直掩機も、左右からネプテューヌを挟みにかかる。そこでは誰もが…否、全ての場所で全ての者が、今自分に出来る全力を尽くす。誇りの為に、勝利の為に、力を振り絞る。そして──。

 

 

 

 

 プラネテューヌの象徴であり、政府機関でもあるプラネタワー。教会としての機能以外にも、様々な設備を有するそのプラネタワーの一角で、私は眼を覚ます。

 

「…ふー、ぅ……」

 

 寝起きにも近い、でも単なる起床とは何となく違う感覚を抱く中、カプセル状の機材が開く。私は身体を起こし、そこから出て…吐息を漏らした。普通とは違う疲労感…それに心の中で滲む、敗北の悔しさを漏らすように。

 

「お姉ちゃん、イリゼさん、お疲れ様です」

「お二人共、気分はどうですか?(・ω・`)」

「大丈夫よ、いーすん。…けど、凄いわねこれ。軍のシュミレーターと完全に同期して、完璧に…とまではいかなくても、仮想空間で自由に動けるんだから」

「同感だよ。それ相応の設備が必要とはいえ、画期的である事は誰もが認める技術じゃないかな」

 

 こくりとネプテューヌの言葉に首肯し、私は女神の姿のままで振り向く。自分が使っていた…プラネテューヌ主導で、神生オデッセフィア含む五国家全ての力を結集して開発された、仮想世界形成装置を。

 それは読んだ字の如く、仮想空間を作り出し、そこでのシミュレーションを可能とするもの。とはいえただ意識を仮想空間に飛ばす、というものじゃなく、電子的に形成、再現された世界を稼働させるもの。分かり易く表現すると、一切の制限がない…現実の世界と変わらない自由度で、設定した条件で進められるシミュレーションゲームみたいなもので、最初の設定さえしておけば、後は機械の側に全て任せる事も出来る。仮想世界の住人に、自由に生活してもらえる。…まあ尤も、その為には膨大なデータの蓄積が必須だから、暫くは今日みたいに現実の人が意識を飛ばして、仮想空間の中で活動する事によるデータ収集が必要だって事だけど。

 そしてそのデータ収集を兼ねて今日、神生オデッセフィアとプラネテューヌによる模擬戦闘が行われた。別室ではうちとプラネテューヌの軍人がそれぞれシュミレーターを使用していて、更に別室ではそれを各国の人が見ていて…そこで私は、神生オデッセフィアは負けた。何とかトップエースを退けて、あの後プラネテューヌ側の艦隊にも迫ったけど、先にプラネテューヌに勝利条件を満たされてしまった。所詮模擬戦とはいえ、経験を始め多くの面でうちが不利だったとはいえ…それでも、悔しい。悔しいし、悲しい。皆に、頑張ってくれた軍人達に、勝利の喜びを感じさせてあげられなかったという事が。

 

「…イリゼ」

「え?あ…何?」

 

 自分でも気付かない内に、少しだけ俯いていた私。そこへネプテューヌから声をかけられ、私はネプテューヌの方を見やる。

 

「今回の事は、良い経験になったと思うわ。わたし個人としても、軍の皆としても、絶対プラスになったと思う」

「それは…うん、プラスになったのはこっちも同じだよ。むしろうちの方こそ、ありがたい話だったとも言える訳だし」

「そう思ってくれるなら嬉しいわ。こういうのは、お互いの為になってこそだもの」

 

 落ち着いた、凛とした雰囲気のあるネプテューヌの言葉に、こっちだってと私も返す。お世辞でも、社交辞令でもない。良い経験になったのは間違いのない事で、負けたという事実に対してただ不貞腐れるか、それすらも糧にするかで今後の神生オデッセフィアは大きく変わる。

 であるならば、ネプテューヌから言い出してきたのは、守護女神の先輩として気を遣ってくれたからかもしれない。そんな風に思いながら、私がネプテューヌを見ていると…表情を緩めたネプテューヌは、言った。

 

「だから…ありがとね、イリゼ。わたしと、プラネテューヌと、模擬戦をしてくれて」

「あ……。…なら、私こそありがとうネプテューヌ。でも…次は負けないよ?」

 

 感謝の言葉と、差し出される右手。それで大事な事を思い出した私は、一瞬止まり…それから感謝を返して、握手に応じる。その上で、笑みと共に次は負けないと言い…ネプテューヌも、受けて立つわと意思を示した。その表情に、不敵な笑みを浮かべながら。

 握手を交わす私達を、穏やかな表情でイストワールさんとネプギアが見ている。私達が意識を仮想空間に飛ばしている間、データの確認や各種操作をしてくれていた二人にも感謝を伝えた後、私が向かうのは部屋の出入り口。

 

「一足先に、私は行くね」

「あれ?イリゼさん、お急ぎですか?模擬戦は時間通りに進みましたが…」

「急ぐっていうか…まぁ、そうだね。…頑張ってくれた皆を、早く労いたいからさ」

 

 ネプギアの言葉に振り向いた私は肩を竦め、部屋を出る。皆のいる部屋へと向かう。

 悔しさはある。これを糧にしようという気持ちもある。でも、ネプテューヌが私に言ったように…まずは感謝をしなくっちゃ。頑張ってくれた、協力してくれた、皆に言葉を…思いを伝えなくっちゃ。だって皆は、私を信じて戦ってくれたんだから。私はそんな皆の…女神、なんだから。




今回のパロディ解説

・新たなる輝き!マエリルハ誕生
機動武闘伝Gガンダムにおける、第二十四話のサブタイトルのパロディ。MG主役回におけるタイトルパロシリーズですね。…マエリルハが誕生したのはもっと前ですが。

・「いいね、三人〜〜止められる…ッ!」
ポケットモンスター アルファサファイアにおける、アクア団下っ端の一人の台詞のパロディ。オメガルビーで同じ場所にいるマグマ団下っ端とは、内容が違うんですよね。

・竜鳥飛び
マクロスPLUSの主人公、イサム・アルヴァ・ダイソンの飛行技術の一つの事。エンジン云々もパロディの一部ですね。…何気に無人機(遠隔操作)側の台詞になってますが。
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