超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession   作:シモツキ

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第十話 姉対妹、砂上の対決

 女神の水着姿を見られる。何とも俗な話だけど、それをコンセプトにイベントが開催された。何をやってるんだ…と思う人もいるだろうし、それはそれでご尤もだけど、多くの人がそれを望んで…とまでは言わないにしろ、面白そうじゃないかと思ってくれた。だから、初日から多くの人が神生オデッセフィアに訪れ、イベントは盛り上がっている。

 ならば、女神である私は、私達はどうするべきか。このイベントが、最後まで滞りなく進むよう気を配る事は、勿論必要。もう終わっているけど、事前の準備や、終わった後の各種作業だって女神の出る幕は色々ある。でも、一番は…今すべきは……コンセプトである女神の水着姿を、もっともっとアピールする事。

 

「さーて皆。頑張るよー!」

『おー!』

 

 私の掛け声に応じて、女神候補生の四人も声を上げる。ネプギア、ユニ、ロムちゃん、ラムちゃん…私と同じく女神化している皆のやる気は十分で、中々に頼もしい。

 ここは、特設された舞台。これから私達が行うのは、その『女神の水着姿を見てもらう』為の、イベント内の企画の一つ。具体的には、バレー…それも水着である事と、下には砂が敷き詰められている事をを踏まえればビーチバレーで、私達の対戦相手は……

 

「この勝負、姉として勝利あるのみよ!」

 

 覇気とやる気に満ちた声で宣言するネプテューヌと、それに頷く三人の女神…そして、セイツ。この五人が、対戦相手。五対五、女神同士のバレー勝負であり…妹チーム対姉チームの対決でもある。

 

「負けないわよ、お姉ちゃん」

「残念だけど、それは叶わない話よ。だって勝つのは私達の方だもの」

「おねえちゃんとバレー、楽しみ…(わくわく)」

「うんうん!おねえちゃんにわたし達のれんけー、たっぷり見せてあげるわ!」

「そういや、二人とスポーツで勝負なんて殆どした事なかったな。…全力で来いよ?ロム、ラム」

 

 既に私達は全員コートイン済み。ただのバレーじゃない、姉妹対決であるバレーという事もあって、皆もそれぞれ言葉を交わす。

 

「……はぁ…」

「うん?ベール、どうかした?」

「いつものように、姉妹のやり取りとなると蚊帳の外ですわ…しかもこれまで仲間だったイリゼも、今やイストワールだけでなく、貴女という姉までもがいる身……」

「あ、あぁ…その辺りも神次元の貴女と同じなのね…。…それはそうと、女神の姿の貴女が気落ちしてる感情を、こんなタイミングで見られるなんて思わなかったわ…!いつもの冷静沈着なベールも良いけど、普段見られない今の感情も凄く素敵よ…!」

「…素敵と言われているのに、ここまで微妙な心境になる事があるだなんて、思いもしませんでしたわ……」

 

 そんな中、セイツとベールも言葉を交わしていたけど…何とも反応に困る内容だった。ベールの妹欲求もブレないけど、セイツの感情大好き具合も微塵もブレる気配がなかった。…って、あんまり気を散らすべきじゃないね。もう始まるんだし、集中しないと…。

 

(普通に考えれば、こっちが不利…連携の面で、それをどれだけ覆せるかが勝負の鍵かな……)

 

 司会の声を聞き、ネット越しに相手チームを見やりながら、私は考える。同じ女神とはいえ、球技となると全員が近接格闘主体な相手チームの方が普段の技術を活かし易いだろうし、背丈は跳躍力でカバー出来るとしても、手足の長さ…リーチの差はどうにもならない。つまり、個々の能力を足し算するだけだったら向こうの方が間違いなく優位で…だけど当然、個々の能力の違いが、戦力の決定的差という訳ではない。

 連携…この点においては、むしろ私達の方が間違いなく有利。何せこっちは何度も戦場で連携してきたのに対し、向こうにはまだ連携経験の乏しいセイツがいるんだから。セイツは神次元の皆と連携した事があっても、ネプテューヌ達にはない訳で…加えて連携の質でも、こっちと向こうとは違う。色々あったとはいえ、初めから仲間だったネプギア達は協力しつつも競い合う関係なのに対し、ネプテューヌ達は競い合う果ての協力とでも言うべき連携だからこそ、スポーツでも安定して連携出来るとは限らない。その点を突けば…きっと勝機は、ある。

 

「イリゼさん、お願いします」

「ああ、任されよう」

 

 初めのサーブは私達のものとなり、私はネプギアに頷きながらコートの外へ。

 バレーのルールは学んだとはいえ、経験は殆どないし、技術も同様。だからこそ…小手先の技術、付け焼き刃の技なんて使わない。慣れない技術ではなく、慣れている力で…女神の身体能力、直感をフル活用して……

 

(まずは一発、叩き込む…ッ!)

 

 右手で軽くボールを放り、跳躍する。ネットを隔てた相手陣を見据え、形を作り…腕を、振り抜く。

 砲弾の如く飛ぶボール。私自身がネットよりも数段高く跳んでいた事で、ボールは曲線ではなく直線で飛び、相手陣へと襲い掛かる。

 きっと、相手チームが普通の人達なら、ほぼ確実に入っていた。でも、相手は…相手もまた、女神。

 

「っと、ぉ…!」

「ノワール!」

「えぇ!」

 

 飛来するボールへ、最も早く反応したのはセイツ。予想は付いていた、とばかりに飛来先へと躍り出て、重ねた両手で真正面からレシーブ。打ち上がったボールは元からセイツの近くにいたベールがトスし、ネット際へと飛んだところで走り込んだノワールがアタック。ノワールのアタックもまた、凄まじい勢いでこちらに迫り…それを飛び込んだユニが、伸ばした右手で辛うじて受ける。

 

「くっ…ネプギア!」

「うん!てぇいッ!」

 

 落とさないので精一杯だったユニの手からは、ボールが明後日の方向に飛ぶ。けどその飛んだ先へとネプギアが駆け込み、斜めに…ネット側に飛ぶようにトス。それに合わせて私は飛び、お返しのアタックを仕掛け……されど私のアタックを阻んだのは、堅牢な白き壁。

 

「お、っとと…やっぱプロセッサなしだと衝撃が諸に来るな」

「……っ…流石ブラン、ブロックはお手の物だね…」

 

 タイミングは悪くなかった。力だって込められている。でも、相手の…ブランのブロックを弾く事は出来なかった。弾かれたボールは砂を巻き上げながら落ち…次の瞬間、割れんばかりの歓声が私達を、コートを包む。

 衝撃が諸に来ると言いつつも、ネット越しにブランが浮かべるのは余裕の笑み。それに私は、内心で悔しさを滲ませながらも、表面的には小さく笑って、気持ちを切り替える。

 

「まずは一点先取、ね。ギャラリーも今の攻防で盛り上がってくれたみたいだし、幸先は上々ってところかしら」

「そうね。貴女はまだ何もしてないけど」

「う…わ、わたしはリーダーとして全体把握する事も役目だから良いのよ」

「あら?いつの間にネプテューヌがリーダーになったんですの?」

「わたしは別に構わねぇよ。自称、って前に付けるならな」

 

 先に点を取れたからか、姉組は全体としても余裕の雰囲気。ただ、今の時点でもう「誰がリーダーか」で一悶着ありそうな雰囲気もあって、それに参加していないセイツは冷静……かと思いきや、聞こえる声援、その根底にある興奮の感情に対し、恍惚とした表情をしていた。…どうしよう、うちの姉が一番見ていられない……。

 

「むむ〜…」

「おねえちゃんたち、やっぱり強い…」

「そうだね…でも、まだ勝負は始まったばっかりだよ」

「ネプギアの言う通りね。たかが…って表現は良くないけど、アタシ達の目標は先に一点取る事じゃなくて、お姉ちゃん達に勝つ事なんだもの」

 

 振り返ってみれば、ネプギア達も言葉を交わしている。ほんのりと悔しそうな雰囲気はあるけど、気落ちしている感じは微塵もなく…これなら何の心配もない。

 むしろ、考えるべきは作戦。決して悪くなかった今のアタックを止められた以上、策なしでブランの防御を突破するのは難しい。勿論、毎回ブロックされるとも限らないけど…防御を躱すなり打ち砕くなりする方法が、一つでもあるのとないのとじゃ全然違う。

 

「こほん。わたしが自称でも(笑)でもないリーダーだって事を、見せてあげるわ…!」

 

 向こうのサーブはネプテューヌ。リーダー云々と言いつつもネプテューヌの放つサーブは鋭く、速度は勿論初手からコートの端を狙ってくる。

 とはいえ、反応出来ない程じゃない。飛ぶ先を見切った私は左脚で地を蹴って跳び、右脚を突き立てるようにして正確に着地し、レシーブでボールを跳ね上げる。続けてユニがトスを行い、ネプギアがアタック。

 

「てぇいッ!」

「甘いですわ!」

 

 ブランのブロックを躱す為か、ネットから少し離れた位置でネプギアは打ち込む。結果ボールはブランの防御をすり抜けるものの、前に出たベールがそれをカバー。再び打ち上がったボールはセイツが打ち返し、返ってきたボールはユニが、今度は余裕を持ってレシーブ防御。

 アイコンタクトで意思疎通を交わし、私がトス。ボールはネットの間際に落下していき…そこに走り込むのはロムちゃんとラムちゃん。

 

「ふふん!わたしたちのひっさつ技、パート1を見せてあげるわ!ロムちゃん!」

「うん…っ!」

 

 並んで走り込んだ二人は、そのまま二人同時に跳び上がる。必殺技、という言葉にネプテューヌ達が反応する中、ロムちゃんは右手を、ラムちゃんは左手を振り上げる。

 そして振り抜かれる、二人の手。ロムちゃんによって打たれたボールは、相手陣の左斜め前方へと向かい…そのまま、落ちる。二人が一瞬のズレもなく、線対称の様に完全同期した動きを見せた事により、ネプテューヌ達はどちらが打つのか、どこに飛ぶのかを読み切れず…点を返す事に、成功する。

 

「いっえーい!だいせーこー!」

「上手くいった、ね…!(るんるん)」

「二人だからこそ出来る技ね。やるじゃない」

 

 着地後、二人は嬉しそうにハイタッチ。ユニは二人に賞賛を送り、ネプギアもうんうんと頷き微笑む。

 正に、二人だからこそ出来る…ロムちゃんラムちゃんだからこそ、ネプテューヌ達五人相手でも通用し得る撹乱技。単独じゃ成立しない以上、いつでも使える訳じゃないだろうけど…ある意味それで良いかもしれない。何せこういう「分からないから対応出来ない」系の技は、乱発によって情報を多く与えると、少しずつ対応され始めてしまうものだから。

 

「これで一対一ね…まだ序盤も序盤なのに、こんなに熱い勝負が繰り広げられるなんて…!」

「女神様同士の勝負ってだけでも、目が離せないもんね!…可愛い女神様に美しい女神様…昨日もだったけど、今日も変わらず水着姿が眩しいわ……」

「ここまでは互角、か…だが恐らく、まだお互い様子見の段階。下馬評の通りパープルハート様達が勝つか、それを覆してパープルシスター様達が勝つか…楽しみなものだ」

「うん、その話には同感だがお前は何キャラだよ…スポーツ物の定番である、観客席からの解説キャラを目指すつもりか…?」

 

 聞こえてくる観客の声。その声からは、セイツじゃなくたって感じられる。皆が私達の勝負を見て、楽しんでくれてるって。

 

「やったね、二人共。でも多分、これ一本じゃセイツ達には勝てない。何回もやれば読まれるだろうし…そもそも二人が揃って打てる状況を作らないように動いてくるだろうからね。…だから、もっと連携していくよ!」

『(はい・うん)っ!』

 

 私達側の、二度目のサーブ。その直前に今一度私は皆を鼓舞し、四人からの声を受け取る。

 そうして姉妹対決のバレーは続行。観客からも聞こえてきたけど、確かにここまでは様子見、小手調べであり…激化していくのはここから。本当に熱い…本当に面白い勝負になるのは、きっとここから先。

 

 

 

 

 守護女神の四人とセイツ…姉組とのバレー対決は、一進一退の攻防となった。向こうに点を取られればこっちも取り返し、逆にこちらが先行しても、すぐに向こうに追い付かれ、ヒリヒリとする勝負になった。身も蓋もない言い方をすれば、この企画におけるバレーは、目的ではなく水着の私達を見てもらう手段の一つだったんだけど…純粋にスポーツとしても、勝負としても、観客やTVの前の皆に楽しんでもらえてると、そう思える試合内容にする事が出来た。

…けど別に、まだ終わった訳じゃない。互いに点数を重ねながら、勝負は続き…今は、大詰め。

 

「ふー、ぅ…分かってた事だけど…やっぱり、強い…!」

「そうね…やればやる程、力を実感していってる気がするわ…」

 

 ゆっくりと息を吐き、前傾姿勢で軽く腰を落とした…レシーブに即移れる姿勢を取るネプギアと、手の甲で額を拭い、ネットの向こう側にいる相手チームを見やるユニ。私もまた、ビキニの胸元へと軽く指を入れ、動く中で少しずつ食い込んでいたトップスの布地を元に戻す。

 じわりと感じているのは汗。運動した事による熱と、白熱した勝負であるが故の緊張…恐らくはその両方によって滲んだ汗が、水着を身体に張り付かせる。普段女神の姿で身体を動かすとなると、身を包んでいるのはプロセッサユニットな訳で…どうしても、気になるんだよね…。

 

(不味いな…追い付けなくなってきてる……)

 

 次のサーブは向こうのチームで、私もレシーブの姿勢を取る。まだ私は動けるし、皆もバテてない。けど…正直、旗色は悪い。

 依然一進一退ではあるものの、少し前から点数で追い付けていない。たった数点の差だけど、最初は開いてもすぐ埋められていたその差が、今は埋まらない。

 理由は、分かってる。リーダー云々で軽くいざこざを起こしたりもしたネプテューヌ達だけど…五人は全員、例外なく負けず嫌い。その五人の相手となるのは私達…即ち妹であり、妹相手に接戦となれば、負けず嫌いな皆の心が燃え上がらない筈がない。そして恐らく、その心が連携を促進し…こっちが上回っていた連携が、今や互角。だから他の面で劣っている私達が、後一歩届かない状況に繋がっている。

 

「いきます、わよッ!」

 

 振り抜かれたベールの手よりボールが飛来。ネプギアがレシーブで弾き、ロムちゃんがトスで繋ぎ、ユニがスパイク。放ったボールはコートの端へと飛んでいき…でも落ちる直前、飛び込んだノワールが腕を横に振り抜く事で落下を阻止し、水平に飛ぶボールをブランがかち上げるようにして空へと打ち上げ、大きく跳躍したセイツが落ちる前に、高い位置からボールをこちらへ打ち下ろしてくる。

 バレーに慣れていないのは、向こうも同じ事。だから試合が進んだ今は、ルール違反にならない範囲で、今みたいな型破りのプレーが増えてきている。そうなれば反射と発想の勝負であり…でもそういう事なら、望むところ。

 

「ラムちゃん、お願い!」

「わ、わたし!?…えーいっ!」

 

 言うが早いか私は前へ。突然のお願いにラムちゃんは驚きながらも、私の求めに答えてくれて…セイツの一撃をレシーブで前に。重かったセイツのアタックでラムちゃんはよろけるものの、ボールは私の方へと飛んできてくれて…それを私は素早く打つ。ボールはネットを越え、軌道の先にはネプテューヌが向かい…でも次の瞬間、ボールは減速。強烈な逆回転により、動きが変わる。

 

「……!ごめん、わたしじゃ間に合わないわ!」

「みたい、だな…ッ!」

「……っ…(凌がれた…!)」

 

 ボールの下側を、掌ではなく指だけで叩く事によりかけた逆回転。普通なら上手く飛ばないそれを、女神の腕力で強引に成立させたアタックは、狙い通りレシーブしようとしたネプテューヌを躱す事に成功するも、ネット側にいたブランはその場からの低空背面跳びをかけ、地面と半ば平行に跳びながらボールをトス。上がったボールは即座にネプテューヌがアタックし、私がブロックで勢いを殺した後にネプギアが拾う…けど、一回目から私の策は破られてしまった。続くロムちゃんラムちゃんの連携アタックも、背の高い…つまりリーチも特に長いセイツとベールが、二人掛かりで先んじてブロックの壁を作る事により視界を塞ぎ、狙える位置を制限する。何とかラムちゃんが打ったボールはノワールにレシーブされ、こちらもまた決まらない。

 

「ふ…ッ!」

「たぁ!」

「せいっ!」

「えいや…ッ!」

 

 ベール、ネプギア、ノワール、ロムちゃん…一度に触れるのは三回までという基本的なルールの中で、何度も打ち合っては攻撃を阻む。お互い相手の動き、傾向が分かってきた事で、バレーボール自体にも慣れた事で、一点入るまでの時間も長くなった。これが吉と出るか、凶と出るか…っと……!

 

「ふんッ!」

「うぉ…ッ!」

 

 アタックの為に跳んだブランを追って、私も跳躍。大きく右手を動かす事で、そちらへと注意を引き…勿論そんな事でブランの動きを誘導出来るなんて思わないけど、意識させる事でほんのちょっぴりでも集中を削ぎ…直感のままに、左手を突き出す。一瞬の賭けに打ち勝ち、私は掌底で瞬時にボールを弾き返す。

 目を見開くブランの真正面で、私はにやりと笑う。ここまで防御されてきた事への辛酸は、熨斗付きで返す事に成功し…でもそれを、ネプテューヌが初手で返してくる。手刀の様に腕を振り、一手で跳ね返してきた。

 

「イリゼは驚くような動きをするのが十八番なんだもの、ならそれを踏まえて動くだけよ」

(やってくれる…!)

 

 笑い返すネプテューヌと、私の頭上を超えるボール。ルールで飛行は禁止にしている今、まだ宙にいる私は対応出来ず……だけど、皆と勝負しているのは私だけじゃない。

 

「……!ラムちゃん、ロムちゃん…ユニちゃん!」

 

 声を上げたネプギア、その声は合図。反応した三人の内、真っ直ぐボールへ突っ込んだのはラムちゃんで、ラムちゃんはボールを叩く。それ程(と言っても、普通の人からすれば中々の勢いだろうけど)強い返しじゃなかった事もあり、ラムちゃんは上に弾くのではなく横に飛ばし…その先へ滑り込んだロムちゃんが、更にまた横へ弾く。普通上に上げるバレーで、立て続けの横弾きが起こり…繋がったボールを決めようと、ユニがジャンプ。迎撃するようにノワール達が動き、壁を作り…けどそこでユニは、打つでも弾くでもなく、落とす。軽く触れる程度の動作で、指を引っ掛けるように上から押して……ネットを越えた直後の位置で、地面に落とした。

 

「激しい打ち合いになってたからこそ、緩急の緩がいきなり来ると対応出来ない…ですよね?皆さん」

 

 すたっ、と軽快に着地し、虚を突かれた姉達に向けてにこりと…私やネプテューヌが先程浮かべた事は違う、一見純粋な、でもその裏に小悪魔地味た雰囲気の滲む笑みを見せるユニ。それには姉のノワールも、他の四人も一瞬言葉を失い…それから五人も、笑みを見せる。この借りは返す、そう言わんばかりの覇気と共に。

 

「やったねユニちゃん!」

「熱くなるのも良いけど、クールな判断もしないと、ね。…ネプギアこそ、良い合図だったわ」

「うん。ネプギアちゃんの、合図のおかげだよ(にこにこ)」

「わたしにブロックを任せたのは、良いはんだんだったわね!」

 

 今のはただの一点じゃない。上手く出し抜いての一点であり、瞬時に判断と合図を下したネプギアと、名前だけで全て理解した三人による、連携の賜物でもある一点。だからこそ、ユニがネット際から戻ると四人は和気藹々と会話を交わし……まだいけると、薄くてもまだ勝機は消え去っていないと私は感じた。

 

(…私も、負けてられないな)

 

 私には、自負がある。一時的とはいえ、四人の指導役をしていたという自負が。セイツ達と同じ、近接戦主体の自分は、この妹チームにおいて欠かせない筈だという自負が。…けどここまで、私は大きな活躍をしていない。一応何度か点は取ってるし、防御もサポートもやってるけど、私自身はまだ満足出来ていない。

 だから…今こそ私が、もう一点取る。四人の連携に続く形で私も取り、逆転勝利の道を開く。

 

「はぁぁっ!」

 

 ポニーテールをなびかせながらの、ベールのアタック。カーブを掛けられたボールに翻弄されながらも、ギリギリでユニは上に飛ばして、今度は普通にネプギアがスパイク。ブラン、セイツとネプギアの攻撃は二手で返され、ロムちゃん、ユニ、ラムちゃんと三人で繋げてまた攻撃し、ボールは二つのコートを行き来する。

 もう全員、力任せのプレーじゃ対応されるどころかカウンターに繋げられると分かっているからこそ、仕掛けながらも相手の隙を伺っている。私含め、序盤から戦闘での技術や立ち回りを活用していたバレー対決ではあるけど、今は活用どころか完全に戦闘の雰囲気であり……そんな状況だからこそ、私は選ぶ。ここまで温存していた隠し球、それを使うなら今だ、と。

 

「せー」

「のっ!」

「越えるのは訳ない…けど…ッ!」

 

 息の合った、ロムちゃんラムちゃん二人のブロック。左右端にいた二人が揃って斜めに跳び、中央に寄りつつブロックする姿は否が応でも気になってしまう。だからかノワールのアタックは、二人の防御を上から躱しつつも威力に欠け…私は、走る。

 

「ネプギア!ユニ!ボールを高くへ!私が、決めるッ!」

『……っ!』

 

 返答はない。でも、私の言葉に呼応するように二人も動き、ネプギアか両手でしっかりと受ける。レシーブされた、ボールへ向けてユニが跳び、押し上げる形で更にボールを空へと飛ばす。

 ここまでの対決で、恐らく最高高度となったボール。走り込んだ私は四人を、仲間を見やり、皆からの視線を受け取って、砂の地面を踏み締め蹴る。空に浮くボールを目掛けて、目一杯の力で跳び上がる。

 眼下に見える光景の中で、セイツ達は散開し、防御の姿勢を見せている。高所から放たれる一撃の威力と速度に対応すべく、手抜きなしの防御態勢を展開している。でも、そんなのは分かり切っている事。そうする余裕を与えたのは私自身であり…私はそれを打ち砕くだけ。そして私はボールに、放つ先に、己自身に意識を集中させ、右腕を振り上げ、振り抜き……空振った。

 

『え……?』

 

 歓声で、はっきりとは聞こえない。でもセイツ達が…いや、ネプギア達も、全員が困惑の声を上げたのだと、そう分かった。…それはそうだ。ここまで大仰な事をしておきながら、空振ったんだから。失敗したんだから、…失敗したように、見えるんだから。

 だけど、そうじゃない。今のは失敗でもなければ…意図しない空振りでもない。私は空振ったところで止める事なく、動揺する事もなく、そのまま腕を振った勢いで身体を回し──一閃。渾身の力を込めた脚で、踵落としで、上昇の止まったボールを捉え……相手陣地に、叩き込む。

 

「驚くような事をする前提で動くなら、対応出来ると『思い込んでいる』ところに、その前提を超える一手を打ち込むだけだ。……脚技なら、絶好の手本がいるからね」

 

 砂へと突き刺さったボールと、自陣へ両の脚で着地する私。目を見開く皆に向けて、私は着地姿勢を解きながら、ゆっくりとそう告げる。…皆にはない知識と、皆にはない経験。私だけの武器を、心の中で誇りながら。

 

「…確かに、ルール上は蹴っても問題ないとはいえ……」

「こうも堂々と踵落としで入れられると、最早違う球技じゃねーかって言いたくなるな…」

 

 してやられた、とばかりに呟くベールとブランの声。でもベールの言った通り、私はルールから外れる事はしていない。故にこれは問題のない事だし…結局のところ、打つ部位を変えているだけだから、多分次やっても普通に対応される。この隠し球は、一回限りの奇策技。

 でも、それで良い。これ自体はもう通用しなくても…ユニに続いて、完全に相手を出し抜き強烈な一発を叩き込む事が出来たんだから。この終盤において、その事実は…それが生み出す力は大きなものだから。

 きっと、逆転への流れは生まれている。けどこの流れに乗れるか、断ち切られるかは、まだ分からない。それもまた、戦いと同じで…ならば、やるべき事は一つ。私自身で切り開いた道を駆け抜けるべく、私は、私達は…力を尽くす…ッ!

 

 

 

 

「──以上、女神様達によるバレー対決でした。皆さん、接戦を制した姉チームの方々は勿論、紙一重の勝負を繰り広げた妹チームの方々にも盛大な拍手を!」

 

 司会の声に、割れんばかりの拍手が返ってくる。その拍手に応えるべく、私達は観客の皆へと笑顔で手を振る。

 賞賛と感嘆の籠った拍手は心地良い。それは多分、女神関係無しに嬉しいもので……だけど同時に、悔しい。

 私達は、勝てなかった。連続得点の後は、確かに流れを掴む事が出来て、中々埋まらなかった数点の差を埋めるに至った。けど、そのまま逆転勝利とまではいかなくて、同点に至った事はセイツ達の負けるものかという思いを滾らせる事にも繋がってしまって…本当に、後一歩届かなかった。

 

「いやー、どっちも本当に凄いというか、格好良かったよね!」

「確かに、壮絶な勝負であった事は間違いない。…けど、興味な──」

「で、ですね!私も格好良かったと思います!」

 

 賑やかな声、さらりとこの場じゃまあまあ不味い事を言いかけた声、慌ててフォローを入れる声…司会と同じ方向から、三つの声が聞こえてくる。私達にとっての、馴染みの声が。

 イベントである以上、司会や進行役は必要。でもこの通り、女神の私達は対決をする訳だし、今日その四人は念の為と各国に留まっているから、司会進行を務める事は出来なくて…そこで私達は、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の四人に頼んだ。黄金の第三勢力(ゴールドサァド)なら知名度としても場慣れの面でも問題なく、現にここまでも上手く場を盛り上げ、進行してくれた。…まぁ、今さっきみたいに突っ込みどころのある瞬間もあったけど。

 そして当然、四人もまた水着姿。ビーシャは黒地にフリルとカラフルなハートの意匠が目を惹くワンピースタイプの水着を、ケーシャは草色でショーツがスカートタイプになっているビキニ水着を、エスーシャは黒のマイクロビキニと、白から桃色へのグラデーションを持つ色合いのクロスホルタービキニを組み合わせた水着を、拍手を呼び掛けたシーシャは首と胸の下、それぞれに巻かれたバンドを繋ぐようにして通された藍色の布地で胸を覆う独特の水着を見に纏っており、恐らく四人の姿も少なからず人の目を引いている…と、思う。だって皆も、可愛かったり綺麗だったりするからね。

 

「むぅぅ…後ちょっとだったのに……」

「うん…後少しで、かてそうだった…(しょんぼり)」

「相手はお姉ちゃん達だったとはいえ、大敗じゃなくて後一歩だったからこそ、余計に悔しいわね…」

「み、皆…えと、イリゼさん…!ここは何か、皆に言葉を……」

「やっぱり、もっと序盤から大盤振る舞いして、引き離しておくのが正解だったって事…?いやでも、皆の対応力を考えれば、次々と手札を見せていくのは得策じゃない筈だし……」

「あ、駄目だ…皆とは違う方向性だけど、イリゼさんもイリゼさんで凄い気にしてる……」

 

 退場し、観客の目が届かない場所へと移る私達。どうやったら勝てていただろうか、それを考えている最中に呼び掛けられたものだから、私は質問内容がよく分からず…何だったのか訊くと、ネプギアは苦笑と共に肩を竦めていた。…本当に、何だったんだろう…。

 

「ふふ、この対決でのMVPとエース賞はわたしで間違いないわね」

「いや何よエース賞って…後エース云々を言うと、某ビーチバレー界のアイドルに反感持たれるわよ?」

「言っとくが、MVPならわたしだって…っと、ロム、ラム、それに皆もお疲れさん」

 

 何かしら問われた十数秒後、私達は別ルートで退場した五人と合流。何やら向こうはまたちょっと張り合ってるようで…けど、それもいつも通り。それを含めて連携するのが、連携出来るのが、ネプテューヌ達四人。

 

「こう言うと、皮肉みたいになるかもだけど…皆、凄く良かったわよ。身体の動きも…感情の、揺れ動きもっ!」

「あ、ど、どうも…セイツさんは、いつもブレませんね…」

 

 ぐっ、と右手を握り熱弁するセイツの姿に、返答したユニは勿論、私達も苦笑い。かく言うセイツも、無理に四人の連携についていこうとはせず、着実に繋いだりチャンスがあれば打ったりと、上手く立ち回っていた印象で…セイツが語る最中、軽く回すようにベールが肩を、胸を揺らした。

 

「それにしても、やはり水着では胸が辛いですわね」

「あ、分かる。プロセッサと違って、とにかく揺れて衝撃が来るもんね」

「そういう意味じゃ、スポーツブラタイプを選んだ方が楽だったかもしれないわね。まあ、この水着もわたしとしては結構気に入ってるけども」

「…………」

「…………」

 

 大きいと、こういう時に困る。そんな風に言うベールに、私は分かる、と頷いた。

 サーブの時、アタックの時、ブロックの時…バレーでは跳ぶ場面が多く、普通の水着じゃその度に胸が揺れてしまう。跳ばなくても、素早く切り返したりすればそれだけでも揺れて、それに身体が引っ張られる…なんて事は流石にないにしても、激しく揺れればそれ相応の衝撃もある。そしてそれが、試合中何度も何度もあるとなれば、ネプテューヌの言う通りスポーツブラタイプの方が、って気持ちも生まれる訳で…セイツやノワールも、確かになと首肯していた。

 

……うん、まぁ…二組程、物凄く恨めしそうな視線もあったけど…そこは深掘りしないのがお互いの為だよね…。

 

「…こ、こほん。でもほんと、何から何までありがとね。神生オデッセフィアの建国前から始まった企画なのに、うちを中心にするようなイベントにしてくれて」

「もう、それは色々考えて、神生オデッセフィア含めたこれからの五国家の関係をより良くする為にベストな判断をしただけって言ったでしょ?」

「…ま、そういうこった。感謝の気持ちは分かるし、だから言葉は受け取るが…過剰に恩義を感じる必要はねぇよ」

 

 気を取り直すように咳払いをした私は、皆が集まってるから…と感謝を伝える。イベントのメイン開催地となる…それはつまり、負担も大きいけど利益も最も大きくなるという事で、それを譲ってくれた皆には感謝しかない。ノワールの言う通り、四ヶ国全ての力を合わせて勝った戦いを発端とするイベントなのに、四ヶ国のいずれかをメインの開催地にするのは良くない、って判断があるのだとしても、それは神生オデッセフィアにとって凄くありがたい判断な訳で……なんて思いながら伝えると、肩を竦めたノワールとブランに説き伏せられてしまった。他の皆も「そうそう」と頷いていて、セイツは柔らかく微笑んでいて…だからこそ、これからもっと頑張りたいなと思った。競合相手にもなる新国家の歩みを、こんなにも温かく後押ししてくれる皆の思いを、絶対無下にはしたくないから。

 

「よっ、皆。見ててわくわくするような試合を見せてくれてありが…っと、取り込み中だったか?」

「あ、うずめさん」

「俺とくろめもいるぞー」

 

 私が心の中でまた一つ意思を固める中、不意に明るい声で呼び掛けられる。ネプギアが反応した通り、それはうずめの声であり…ウィード君とくろめも姿を現す。

 最早言うまでもないだろうけど、やっぱり三人も今は水着。うずめとくろめ、どちらも選んだのはバンドゥビキニで、うずめは水色主体の布地に黄色のリボンが付いた水着を、くろめは黒地に橙色寄りの黄色リボンが付いた水着を着用している。明るく快活、それでいて普段の装いはラフというか、胴回りの露出をあまり気にしていないうずめがバンドゥビキニを着ると、より快活な…それでいて可愛らしさもバッチリとある印象になる一方、普段はどちらかといえば冷ややかなタイプで、上下共に露出の少ないくろめは水着姿そのものがギャップ、いつもは隠してるとも言える少女らしさが前面に出てくるという、同じタイプのビキニでも全く違う魅力を表現するに至っており、尚且つ二人共それなりにメリハリのある体格だからこそ、可愛らしさだけでなく女性的な色香も同時に醸し出されていた。

 因みに、一見二人で揃えたように見えるその水着だけど、実は全くの偶然、合わせるつもりなんてないのに別々で用意したら被ってしまったというのが真実らしく、そこで二人には一悶着が……え、ウィード君の水着?深い青色の、ルーズタイプの水着で、上に開襟シャツを着てるけど…皆、詳しく知りたい…?

 

「豪華な試合だったよ。これを間近で見られた人達は、さぞや幸運……」

『…くろめ(さん)?』

「…このイベントの切っ掛けとなった戦いの、原因側のオレが『さぞや幸運』とか、皮肉を超えて単なるゲス発言だな…はは……」

「いやどんなネガティヴ思考してるんだよ…流石に今のは悪く考える必要のない発言だろ……」

 

 いきなり落ち込み始めたくろめに「えぇ…?」となる私達。うずめも呆れた表情で突っ込んでおり、ウィード君も慰めるようにくろめの肩を軽く叩く。…けど、普段は触れる事のない素肌の肩だからか、触れた後ちょっとだけウィード君は頬を赤くしており…うずめはむむ…って顔をしていた。……うずめとくろめは立場的にも女神化の面でも複雑な部分が多いから、このイベントでは女神として人前に出る機会はなくて、三人で色々回ってるみたいなんだけど…どうしよう、その一部始終がちょっと気になる…。

 

「…くろめ、さん…だいじょうぶ…?」

「もー、何なのよきゅーに」

「…すまない、少し取り乱した…。……ところで、ここでゆっくりしてていいのかい?ねぷっち達は、この後もやる事があるんだろう?」

「っと、そうだったわね。行きましょ、皆」

「だね。三人共、最後まで楽しんでってよ?」

 

 そうだった、と手を打つネプテューヌに呼応し、私は神生オデッセフィアの守護女神として三人に笑い掛ける。それにうずめとウィード君は力強く、くろめは少しだけ伏し目がちな表情をした後、それでも二人に続く形で頷いてくれて…それを見てから、私は皆と共に移動する。

 今日はまだ、大きな企画が残っている。まだすぐにじゃないけど、この後は水着から水着の意匠を組み込んだ衣装(駄洒落じゃないよ?)に着替えて、今日のメインイベントであるコンサートをする事になっている。今回はセイツも出演する事になっていたり、コンサート内の企画としてバンドをやってみる事にもなっていて、私はドラムを叩く予定。つまりどういう事かっていうと、まだまだこのイベントには楽しい事が、魅力的な企画があるって事で…楽しみなのは、私達だって同じ事。

 もう何回こういう表現をしてるか分からないけど、やっぱり『水着の女神」をコンセプトにしたイベントっていうのは、かなり攻めてるというか、アレな部分が多いと思う。でも、これは目的であると同時に切っ掛けでもあり、真に私達が望むのは、このイベントの中で、皆に楽しんでもらう事。楽しい時間を過ごしてもらう事。そして、それこそが一番大事だと…それが叶っているのなら、間違いなくこれは大成功だと、私は思う。企画した側も、運営や出店してる側も、参加している側も…皆が楽しめるイベントならば、それ以上の事はないんだから。




今回のパロディ解説

・「〜〜わたしたちのひっさつ技、パート1〜〜」
仮面ライダー電王に登場するキャラの一人、モモタロスの代名詞的な台詞の一つのパロディ。ラムの事なので、2以降がある訳でもないのにパート1と言っているかもですね。

・〜〜個々の能力の違い〜〜訳ではない。
ガンダムシリーズ(宇宙世紀)に登場するキャラの一人、シャア・アズナブルの名台詞の一つのパロディ。これ、見返してみると案外分かり辛いパロになってたかもです。

・某ビーチバレー界のアイドル
はるかなレシーブに登場するペアチームの一つ、綾紗・成美(なるあや)ペアの事。反感云々の通り、より正確には遠井成美を指したパロディとなっています。




 次話(と、恐らくその次)は、これまでとは少し違う趣向の話を投稿する予定です。ただ、まだ確定ではありません。
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