超次元ゲイムネプテューヌ Origins Succession 作:シモツキ
イリゼや、信次元のイストワールと同じように、わたしもまたオリゼに…原初の女神に創り出された存在だった。当然普通の家族とは違うけど、オリゼはわたしの母に当たる存在で、イリゼは妹の、イストワールは姉の様な存在だったんだと、わたしは知った。それはわたしにとって青天の霹靂で、でもどこか納得出来る部分もあって、嬉しく…けど、嬉しいだけじゃ表し切れない、どれだけ言葉を尽くしてもきっと表現出来ないような、複雑な思いが胸にあった。
そして、それは同時に、わたしのルーツが信次元であると、信次元がわたしの故郷であるという事でもある。信次元に新たに生まれる、イリゼの国。再生し、過去から未来へ変わるオデッセフィア…その歩みに手を貸し、共に進む事に、迷いはなかった。皆が受け入れてくれるのなら、わたしも神生オデッセフィアの女神で在りたい…わたしは自然に、そう思った。
でもそれは、信次元の女神になるという事じゃない。わたしは信次元を、そこにいる事を、大切にしたいけど…神次元だって、それは同じ。神次元も、そこにいる人や友達も、紡いできた時間も…わたしには、全てかけがえのないものだから。
「ただいま、皆」
「お帰り〜セイツちゃ〜ん」
次元同士を繋ぐ扉を潜り、信次元から神次元にわたしは戻る。次元を超える、というと大仰に聞こえるけど、わたしのした事といえば、数歩歩いた程度。…まぁ、次元の扉の中にいる時は、色々感覚が曖昧になるから、本当に数歩かは分からないけれど、とにかく次元を超えた、という感じはあんまりない。
「お帰り、せーつ……で、いいの?せーつは元々信次元で生まれた女神なんだから、お帰りっていうのは……」
「もう、そんな寂しい事言わないでほしいわ。それは確かにそうだけど…わたしにとっては、こっちだって『わたしの次元』なんだから」
「…そっか。なら、お帰り」
一拍置いて、改めてピーシェはお帰りと言ってくれる。特別笑顔という訳でも、照れている訳でもない、言うなれば普段の表情をピーシェはしていて…けど、それがピーシェらしいわよね。それにわたしへの「お帰り」は、特別じゃない、普通の言葉。そう思うと、じんわりとした嬉しさが込み上げてくるってものよ。
「じゃ、セイツ。こっちの事は気にせず、ゆっくり休んでね?」
「イリゼさんには常日頃から言っていますが、セイツさんもちゃんと休んで下さいね?(´・∀・`)」
「ふふ、分かってるわよイストワール。それに…残念だけど、気にするなっていうのは無理な話ね、イリゼ。だって可愛い妹や愛らしい姉の事は、意識しなくたって自然と頭に浮かぶんだもの」
「いやそういう話じゃなくてだね…」
くるりと振り向けば、次元の扉と同じく二人の…それぞれの次元のイストワールが協力して作ってくれた、次元の窓(とでも言うべきもの)越しに、イリゼとイストワールが声を掛けてくる。
そう。わたしが神次元に戻ったのは、特段の事情があっての事じゃない。単に、「休みだしちょっと神次元に戻ろうかしら」と思っただけで、そんな軽い気持ちでの次元移動に力を貸してくれた二人のイストワールには、感謝をしなくちゃいけないわね。
「こほん。まあ今のは冗談じゃないにしても、こっちでは『これまで通りに』過ごすつもりだから安心して」
「それなら…って、冗談じゃないんだ…セイツって、真面目なようで割とふざけるよね…」
「せーつは前からそんな感じだよ?ねぷてぬとかはもっとボケるし、ぷるるとは天然だから、自然と突っ込みに回る事も多いけど」
「れ、冷静に解説するのは止めてピーシェ…そうされると、なんかちょっと恥ずかしいわ…」
「はは…では、そろそろ閉めますよ?
(´・ω・)」
何とも言えない恥ずかしさを味わう中、神次元のイストワールの言葉を受けて、わたし達は首肯。数秒後、次元の扉と窓は閉じ、信次元との直接の繋がりは一度消える。
「さって、戻ってきた事だし、まずは……」
軽い足取りで、わたしは歩き出す。まずは何をする気なんだろう、という皆の視線を受けながら、わたしが向かったのは…台所。
「うん、美味しい。やっぱりこっちと信次元とじゃ、微妙に味付けが違うのよねぇ」
「意気込んで何をするのかと思えば、早速食事?」
「いいじゃない、折角用意してくれてたんだもの。それとも、いきなり鉄火場にでも行った方が良かったかしら?」
「鉄カバ?メタルカバさん〜?」
「鉄火場ですよ、プルルートさん。…しかし、微妙に違う味付けですか…違う次元なのですから、違いがあるのは当たり前ですが、微妙に違う…というのは興味深いですね(。・ω・。)」
わたしの分のご飯も用意しておいてくれる、という話は予め聞いていた。だからそのご飯を食べつつ、わたしはうんうん、と頷きを返す。
違う次元という事はつまり、根本からして異なっているという事。イストワールの言う通り、違いがあるのが当然で、同じ事ばかりある方がおかしな話。けどその一方で、別次元というよりパラレルワールド…元々は一つの次元だったけど、遥か昔に何らかの事情で枝分かれしたのが、神次元と信次元、それに超次元なんだと言われても納得出来そうな位には、似ている点や共通点が多いのも事実。だから見た目も名前も同じ料理なのに、微妙に味付けが違うっていう、同じとも違うとも言えないものはちょっと不思議で興味深いとわたしも思う。…まあ、興味深いっていっても本格的に調査したり歴史を紐解いたりする程ではないけどね。
「ねぇねぇセイツちゃーん、ご飯の後は何するの〜?」
「そうねぇ、神次元に戻るのは久し振り…って程でもないし、普通に休みとしてのんびりしようかしら」
「じゃあ、一緒にお昼寝しよ〜」
「ふふっ、偶にはそれも良いかもね」
のんびり屋のプルルートは、趣味と言っても差し支えない程お昼寝が大好き。そして何をするか決めていなかったわたしは、それも良いかもしれないと言葉を返す。休みなんだから、気兼ねなくごろごろするのも悪くないし…何よりお昼寝しようとしてる時のプルルートは、眠気で気持ちが緩む事もあって、普段以上にほんわかした感情を見せてくれるんだもの!お昼寝なんて勿体ないと思うかもしれないけど、わたしにとっては魅力的な提案だわ…!
「よぉ〜し、それじゃあ今日は、皆でお昼寝大会だよぉ〜!」
「え、ぴぃ達も…?」
「わたしは別に眠くないのですが……
( ̄▽ ̄;)」
「なら、お夕寝にする?」
「時間帯の問題じゃないって……」
予想通りの事ではあるけど、ピーシェ達はしない様子。まぁ、仕事があるならどっちにしろお昼寝なんてしていられないでしょうし、要は寝るだけなんだから、こういう反応も仕方ないわね。…と、いうか…プルルートは今日、休みなのかしら…仕事について心配するなんて、今更過ぎる話だけど…。
ともかく、プルルートに付き合う事に決めたわたしは、ご飯を食べて、片付けて、流石に食べた直後に寝るのは気が引けたから、ピーシェも誘って三人で軽く散歩。何か変わった事はないか見つつ、のんびりと教会周辺を歩いて、帰ってからはプルルートと二人でリビングに入る。
「ところでプルルート。わたしは別にいいんだけど、プルルートとしては誰かと一緒にお昼寝するのって、楽しい事なの?」
「うん〜。好きな事は、誰かと一緒に出来たら楽しいでしょ〜?」
「あぁ、それは確かにね。…じゃ、どこで寝ようかしら…」
「ふふ〜。セイツちゃん、ここにおいで〜」
ふわりとした微笑みを浮かべて言うプルルートに、確かにそうだとわたしは頷く。それから程良い大きさのソファにするか、クッションを枕に柔らかいカーペットで寝るかを考え……ていたところで、プルルートから呼ばれる。
プルルートがいるのは、もたれかかれる程大きなクッションの上。そこに座ったプルルートは隣をぽふぽふと叩き、わたしを呼ぶ。ここで一緒に寝ようとわたしを誘う。
「よいしょ、っと」
「あー、セイツちゃんお年寄りみたいな声出してる〜」
「口癖になってるならともかく、偶に言う位普通だと思うけど…というかわたし、凄く長生きではあるのよ?その大半は眠っていた訳だから、体感的にはそこまででもないけどね」
「そういえばそんな話もしたねぇ。じゃあ、セイツお婆ちゃんって呼んだ方が良い〜?」
「お、お婆ちゃんはヤメテ…」
生きている…というか、存在している期間は桁違いでも、老いたつもりは微塵もない。だからお婆ちゃん呼びなんて堪ったものじゃないし、だからわたしが否定すると、プルルートはほわっとしたまま「ならこれまで通り、セイツちゃんって呼ぶね〜」と言っていた。…ほんと、マイペース具合はネプテューヌ以上よね、プルルートって。
(まあ、それでこそプルルートって感じだけどね)
気配り上手だったり、察しが良いプルルートなんて、想像も出来ないしきっと違和感が凄い。勿論、ズボラである事を肯定する訳じゃないけど…プライベートにおいては、のんびり屋でマイペースでも良いじゃないってわたしは思う。
そんな風に思いながら、わたしは背中をクッションに沈める。お昼寝好きなプルルートが普段使ってるだけあって、クッションは安定感を生み出しつつもわたしの身体を包んでくれて……
「ぎゅー」
「ふぇっ!?ぷ、プルルート…!?」
確かにこれは、寝たくなるクッションよね。そう思っている中で、不意にわたしの身体を包む、クッションとは違う感覚。細くも暖かいそれは、嬉しそうなプルルートの腕で…一気に顔が、熱くなる。突然過ぎて、唐突過ぎて、一瞬で思考が沸騰する。
「んふふ〜、セイツちゃんはあたしより大きいから、ねぷちゃん程抱き心地良くないけどぉ、これはこれで良いかも〜」
「か、かかっ、感想は聞いてないからっ!い、いきなり抱き着くのは止めて!びっくり、びっくりするからぁ!」
「そっかぁ。なら、一度離れてぇ…セイツちゃーん、ぎゅーってするね〜。ぎゅ〜」
「んなぁ…っ!?ち、違っ…いきなり抱き着くのは、とは言ったけどっ、そういう意味じゃないからぁ!抱き着く事自体…う、うぅぅ……」
わたしの動揺なんて露知らず、プルルートはわたしの抱き心地を堪能してくる。
密着したプルルートの身体、すぐ側で見える柔らかな表情、直に感じる体温と息遣い。逃れられない抱擁で思考がぐるぐるとしてしまう中、それでも何とかわたしは言葉を紡ぐ…けど、プルルートはわたしの心境までは汲み取ってくれず、一度離してくれたと思いきやすぐにまた抱き着いてきた。…む、無理…無理ぃ…!いきなりスキンシップを取られるだけでも落ち着いてなんかいられなくなるのに、しかもハグなんてされたら、まともに考える事なんて出来なくなっちゃうのぉぉ……っ!
「こうやってセイツちゃんと一緒にお昼寝するのって、いつぶりだったっけぇ…?」
「こっ、こんな密着しながら寝た事なんてないわよぉ…!ほっ、ほんとに離して…はにゃしてぇ……!」
「あははー、セイツちゃん声が変になってる〜。…ふぁぁ……」
「ぷる、るーとぉ…!?う、嘘…まさかこのまま寝る気!?ねぇ、ねぇってばぁぁ…っ!」
思考だけじゃなく、呂律まで上手く回らなくなる中、わたしを抱き締めたままのプルルートが漏らしたのは欠伸。恐ろしい可能性に戦慄すら覚えたわたしは必死にプルルートへと呼び掛けるも、プルルートはもう完全にお昼寝体制。その意識は急速に眠りへと誘われていき……反応が、なくなる。寝入ってしまう。
「あぅ、あぅぅ…こんな、こんな事ってぇぇ……」
多分、側から見ればプルルートは微笑ましい寝顔をしてるんだと思う。微かに聞こえる寝息も、可愛らしく感じる。でも、抱き着かれている今、わたしの頭も心もテンパりMAXで、なんかもうほんとにどうしようもなかった。無理中の無理だった。
「ふぁー、ぁ…おはよーセイツちゃ〜ん」
「…………」
「あれ〜?セイツちゃん、まだ寝て…うぇえぇぇ〜!?セイツちゃん、燃え尽きてるー!?」
数分か、数十分か、数時間か。或いは数日とか、数ヶ月かもしれない。なんか変な気もするけど、分かんない。取り敢えず一杯時間経った。
「せ、セイツちゃん大丈夫…?地の文もなんだか、口調が変になってるよぉ…?」
「ここまでずっと抱き着かれたまま昼寝をされれば、こうもなろう…」
「そ、そっか…えっと、なんかごめんね…?」
漸くプルルートが離れてくれた事で、ショートしたままだった思考が戻ってくる。多分戻った、戻ってる筈。
「…いや、うん…わたしも隣に誘われた時点で、想定しておくべきだったわ……」
「…セイツちゃんって、どうして自分からは普通にぎゅーって出来るのに、誰かからされるとすぐにふにゃふにゃ〜ってなっちゃうのぉ?」
「ど、どうしてって…抱き着かれたら、誰だってドキドキするじゃない…しかもそれを不意打ちでだなんて、死角から心にドロップキックをされるようなものよ……」
「え、えぇー……」
段々落ち着いてきたと言っても、まだ恥ずかしい。だからその恥ずかしさを誤魔化すように、指で髪の毛をくるくるとしながらプルルートの問いに返していると、プルルートは「それをセイツちゃんが言う…?」みたいな顔でわたしを見ていた。……なんでそんな顔をされるのか、さっぱり分からないわ。だってほら、まだわたしは思考も心も回復の最中だし。
「それより…プルルート、お昼寝はもういいの?多分、そんなに長く寝てないわよ?」
「セイツちゃん、起きてたのに多分なんだ…。…んー、じゃあ二度寝しよ〜っと。セイツちゃんは、どうする〜?」
「わたしは…え、遠慮しておくわ。なんかもう、今は一人でも寝られそうにない気がするから……」
「う…ほんとにごめんねぇ、セイツちゃん…」
極度の精神的緊張により、今のわたしは完璧に目が冴えている。元から別に眠かった訳じゃないけど、今はもうびっくりする程のギンギン状態。だから遠慮すると、プルルートは申し訳なさそうな表情になり…けど、それは違う。わたしは首を、横に振る。
「ううん、プルルートが謝る事じゃないわ。…いや、まぁ、原因はプルルートなんだけど…信次元にはプルルートみたいな性格の子っていないから、さっきのでちょっと、『あぁ、神次元に戻ってきたなぁ』って感じた部分も実はあるし」
「そう?じゃあ、もうちょっとぎゅって……」
「それは遠慮するわねっ!全力で、全身全霊で、今日はここまでにしておくわっ!」
これもマイペース且つ天然な性格に起因しているのか、それとも女神としての性格に引かれて、実は狙って弄っているのか。今のプルルートの返しがどっちなのかは定かじゃないけど、どっちであろうと心が持たない自信があったわたしは全力で遠慮し、それから速攻で部屋を出た。これは逃げじゃないわ、戦術的撤退よ…!
「あ、せーつ。…あれ?せーつ、ぷるるとと昼寝してたんだよね…?なのに、なんでさっきより疲れた顔してるの…?」
「一睡も出来ない状況だったからね…ピーシェはどこか出掛けるの?」
「ううん、ぴぃは今から軽く訓練」
「へぇ…なら、それに付き合ってもいいかしら?」
離脱してから数十秒後。ピーシェと廊下で鉢合わせし、訓練すると聞いたわたしは、折角だからと共に庭へ。なんでもピーシェは今、新しい技を編み出そうとしてるんだとか。
「…せーつ、向こうの二人に休んでって言われてたよね…?」
「言われたわね。でも、その時わたしは言ったでしょ?これまで通りに過ごす、って」
「うわ…それ、騙す前提だったって事じゃん…」
「騙すなんて人聞きの悪い。休みの日はのんびりする以外しちゃいけない、なんて事はないでしょ?」
ピーシェからの尤もな指摘を、軽い調子で躱していく。するとピーシェは納得した…訳じゃないようだけど、半ば諦めたようで、それ以上の事は言わなかった。
「ま、そういう事なら付き合ってもらうよ。相手がいる方が、色々試せるし」
「勿論。久し振りに稽古付けてあげるわ、ピーシェ」
「はいはい、宜しくお願いします…っと!」
鉤爪を内蔵した手甲を装着し構えたピーシェへ、わたしは薄く笑う。別にわたしはピーシェの師匠じゃないし、何ならピーシェの格闘技術はネプテューヌとの過激なじゃれ合いが元になってる部分もあると思うから、そういう意味じゃネプテューヌが師匠になるんだろうけど、わたしだってちょっと位は稽古やアドバイスも…とわたしが考える中、ピーシェは両手を軽くグーパーさせ……次の瞬間、合図もなしに突っ込んできた。
「おわ…っとと…!いきなり容赦ないわね、ピーシェ…!」
「あれ?せーつなら要らないと思ったんだけど、駄目だった?」
「ふふっ、言ってくれるわね…!」
先制攻撃として放ってきた飛び蹴りの狙いは、わたしの顔。本当に容赦のないそれを、わたしは後方宙返りで下がりつつ躱し、続く打撃の連打も短いステップで避けていく。
「速いわね。速いし正確…体術にかけては、もう間違いなく超一級じゃない、ピーシェ」
「っていう割には、余裕あるじゃん。…せーつは抜かないの?抜くまでもないって事?」
「まさか。慌てて抜いてもそこを突かれてやられるだけだと思っただけ、よッ!」
余裕ある、というピーシェだけど、そんな事はない。いきなり肉弾戦の距離に、ピーシェの得意距離に踏み込まれた事もあって、わたしは回避に専念する事を余儀無くされている。
とはいえわたしだって、稽古を付けてあげるなんて言った以上、そう簡単にやられる訳にはいかない。だから多少無理をしてでも余裕を演出し、業を煮やしたピーシェが大きく踏み込み、身体を捻っての重い一発を、これまでより隙のある殴打を放とうとした瞬間に、得物である二振りの剣を抜き、交差させる形で受け止める。
わたしの刃とピーシェの手甲が激突し、せめぎ合う。けど、片手のピーシェと二振りで受けて両手状態のわたしで力比べをすれば、当然勝つのはわたしの方で……二振りを斜め十時に振り抜く形で、わたしはピーシェを押し返す。
「…さて、試すって話だったけど、防御してるだけじゃピーシェも自分の分析が出来ないでしょ?だから、今度はこっちからいくわよ…!」
「望むところ…!」
仕切り直すようにわたしもピーシェも構え直し、言葉通りにわたしは突撃。突進の勢いのまま、左の剣で刺突をかけ、右の剣は回避やカウンターに対する二の矢として……
「せぇいッ!」
「……!」
突き出した剣に対し、ピーシェは防御でも回避でもカウンターでもなく、右手甲の前腕部分で刃を滑らせるようにして逸らし、同時に再び懐へと飛び込んできた。躊躇いなく、迷いなく…わたしの二の矢を、最適解で潰してくる。
(迂闊だった…そうよね、よく使う手は特徴も性質も理解されてるわよね…!)
懐に入っての打撃を、右の剣の刀身ではなく柄尻で、最短距離でぶつける事で辛うじて防御。尚且つわたしは後ろに跳び、一度ピーシェから距離を取る。
今の刺突は、わたしが狙う反応を引き出す為に、わざと少しだけ甘く打ち込んだ。普通刺突に対して突っ込むなんて選択はしないから、右の剣は横なら後ろなりへ距離を取る動きに対する攻撃を想定していた。そして、その両方の穴を突いたのが、ピーシェの行動。何度も共に戦ってきた、手の内を知っている仲間だからこそ出来る行動であり…けれどそれは、わたしも同じ。
「逃がさな…うわっ!?」
「安心してピーシェ、逃げてなんかいないからッ!」
即座に追撃してこようとしたピーシェの足元に左剣を投げ放ち、地を蹴ったわたしは反射的に横へ跳んだピーシェに最初のお返しの飛び蹴りを仕掛ける。ピーシェが両腕を交差させればその両腕を、手甲を蹴り付けた足で踏み台にし、再びの後方宙返りをかけて着地と同時に横薙ぎ一閃。連続攻撃で防御が崩れたところへ目掛けて、空いている左手での掌底を叩き込んだ。
わたしだって、ピーシェの戦い方は知っている。得意な事、苦手な事、選択の傾向…そういうのをお互い知っているからこそ、読み合いになる。
「せーつって、全体的には正々堂々としてるけど、微妙に正々堂々としてないよね…ッ!」
「それは奇策の事を言ってるのかしら?それで言うなら、ピーシェは根っこの部分と同じで、戦い方も素直よねッ!素直ではあっても、単純ではない…けどッ!」
得物の時点で色んな連結方法があったり、そこからブーメランの要領で投げたりもするんだから、奇策って思われても当然だし、その自覚もある。因みにイリゼも…というか、イリゼはわたし以上に奇策を使いこなしている訳だから、わたし達の親に当たるオリゼが奇策を意識したのかもしれない。当のオリゼは奇策なんて必要ない位の強さな訳だけど、むしろ自分自身は有り余るシェアエナジーを前提にした戦い方をするからこそ、それが出来ないわたしやイリゼには別の強みを…って、こんな事考えてる場合じゃないわね。付き合うって言ったのは、わたしの方なんだから…!
「そういえばピーシェ、ここ最近のプルルートはどう?大丈…夫ッ!?」
「大丈夫、だよッ!っていうかせーつ、今日みたいにちょこちょこ帰ってきてるんだから、わざわざ訊く必要ある?それも、このタイミング…でッ!」
「まぁ、それはそうなんだけどね。今訊いたのは…丁度プルルートがいなかったから、ってだけ…よッ!」
手甲から鉤爪を展開し、距離を取らせまいとするピーシェと、逆にわたしの距離…剣なら届いても、拳や鉤爪は届かない距離で立ち回らんとするわたし。お互い手数に重きをおくスタイル(わたしの場合、今は…だけど)だからこその、素早いステップや回り込みを多用した打ち合いを何度も重ね、金属音を響かせる。
そしてその中で、わたしは改めて感じる。手甲と内蔵された鉤爪を武器とするピーシェは、怒涛のインファイト戦法こそが持ち味で…けれどピーシェの真の強みは、その基盤となる突進力。それは物理的な行動としては勿論、精神的な…相手や戦況に物怖じする事なく、自分の強みや得意を全力でぶつけられる胆力を含めての事であり……ほんっと、ピーシェは素敵な子よね…ッ!ピーシェも小さい頃から色々あって、辛い時もあったでしょうに、こんなに真っ直ぐで自分を信じられる、強い子になったんだもの…ッ!
「ふッ……でぇぇいッ!」
「はぁあぁぁぁぁッ!」
左右から挟み込むような刺突を、ピーシェは跳躍して避ける。そこからピーシェは空中で身体を捻り、遠心力を生み、更に落下の勢いも乗せる事による全力の打撃をわたしへと『落とす』。
対するわたしは、ピーシェが真上に跳んだ時点でその攻撃を感じていた。抱いた感覚を、直感を信じて、引き戻した二振りの柄尻を連結させ、双刃刀形態の得物を回転しながら振り上げる。斜め上への勢いを生み出し、回転斬りで下から上へと迎撃する。
わたしが連結剣を抜いた瞬間の様な、再びの激突。刃と鉤爪、そして腕越しにわたしとピーシェの視線は交錯し…叩き込んだ力は、ほぼ互角。
『……っ!』
数瞬の激突の末、ふっ…とピーシェの力が緩む。それに合わせ、わたしは力尽くでピーシェを押し飛ばし、反動を用いて後ろに跳ぶ。
これは、わたしが押し勝った…という訳じゃない。ただわたしは、アイコンタクトで伝えられたピーシェからの合図に応じただけ。このまま押し合えば、お互い身体を痛めかねない…そう判断したからこその、仕切り直し。
「よ、っと。…前から思ってたけど、それって使い辛くない?下手に振ったら自分にも当たりそうだし、刃が互い違いの向きをしてるから、手首を回転させるとかしないと連続攻撃しても峰側をぶつける事になりそうだし」
「でも、強そうに見えるでしょ?某赤のFAITHや
「え、まさかそんな理由…?」
「そんな理由、よ。強そう、っていうのはそれだけで相手に威圧感を抱かせる事が出来るし…それに使い辛い武器っていうのは、往々にして相手を翻弄する事に長けているのよね。プルルートの蛇腹剣だってそうでしょ?」
唖然とするピーシェに対し、わたしは肩を竦めながら返す。使い易いっていうのは、相手にとっても動きを予想し易かったり、そもそも相手をする経験があったりする事が少なからずあり…使い辛い武器は、当然その点においては逆となる。双刃刀に限らず、使い辛い武器の多くはその『相手から見た部分』が長所になる。……まぁ、使い辛い割に読まれ易い武器もあるんでしょうけど…ゲームだって存在する武器や技のバランスを完璧に取れる訳じゃないんだから、現実に長所と短所の釣り合わない武器が存在したって何もおかしな事はないわよね。
「…さて、ピーシェ。わたしはこのまま続けても良いんだけど…普段こんな事はしないんだもの。お互い、もう少し本気を出さない?」
「それって…。…せーつこそ、良いの?本気のぴぃが手加減苦手な事は、知ってるよね?」
「勿論。…と、いうか…手加減しないとって心配してるの?なら……少しばかり、わたしを舐め過ぎね。わたしを…人々と共に、暴虐を尽くすキセイジョウ・レイを討ち滅ぼした、レジストハートを」
「……っ…」
一度言葉を区切り、それからほんの少しイリゼやオリゼを…女神の姿の際に見せる、威風堂々とした声音を真似てみるわたし。するとピーシェは、ぴくりと肩を震わせて…表情が、変わる。
それからわたし達は、互いに女神化。ゆっくりと、静かに構え直し……次の瞬間、殆ど同時に地面を蹴る。
「せーつ、いっくよーッ!」
「ふふふっ、来なさいピーシェ!今の実力を、今の思いを、もっとわたしに見せて頂戴ッ!」
殴打の延長となる鉤爪の突き出しを、身体を捻りながら左斜めへ出る事で躱す。すれ違った直後に振り向き、ピーシェの背中に袈裟懸けを仕掛ける。ピーシェもピーシェで、止まらず突進を続ける事でわたしの剣の間合いから離れ…た直後、やや大回り気味の旋回で再度わたしに接近してくる。恐らく大回りしたのは、突進の勢いを維持する為で、その速度はさっきよりも速い。
(そういう、事なら…ッ!)
さぁ、今度はどうする。一瞬よりも短い時間で、わたしはその思考を巡らせ…剣を、手放す。
防御でも回避でも迎撃でもない武器の投棄に、目を見開いたピーシェ。勢いは一切落ちないながらも、その動きには隙が生まれ…そこを突くべく、わたしは自ら身体を倒す。後ろに倒れる事でパンチを躱し、尚且つ開いた両手を地面に突いて、杭打ちのように両足でピーシェを蹴り上げる。
「おわわっ!?」
カウンターにより打ち上がるピーシェの身体。とはいえピーシェの反応も早く、突き出していたのとは逆の腕の手甲で蹴りを受ける事によって、ダメージを最小限に抑えている。やっぱり、女神化したピーシェは本能的な部分の伸びが凄まじい。
そして今一度作り出される、わたしが地上、ピーシェが空中という構図。立ち上がる挙動の中で二振りを掴み直したわたしは、プロセッサ前腕部に装填しておいた圧縮シェアエナジーを、剣をバレルとする事でピーシェへと射出。炸裂弾となったシェアエナジーでの対空攻撃を図るも、ピーシェは機敏な動きで炸裂前に弾頭を躱し、そのまま急降下をかけてくる。
「せーい、やッ!とりゃー!」
「っと、こっちもまだまだいくわよッ!」
一回転からの踵落としを下がって避ければ、ピーシェは地面に叩き付けた脚を軸に、その脚で地面を抉るように蹴って即座に前へ。捻りを加えた鋭い殴打をわたしに放ち、わたしはそれを右剣を横に振るって防御。続けてその遠心力を活かした左剣での斬撃を用いてピーシェを後退させ、二振りの剣を上下で連結。ここまでは速度と手数に長ける(その割には一撃も中々重いんだけど、ね)ピーシェに対応して、同じく手数に長ける双剣状態を主体にしていたけど、相手に合わせた戦い方っていうのは一つじゃない。速度に速度で対抗するのも手だし、逆にパワーやリーチで…違う長所で迎え撃つのも一つの手。
その後もわたし達は、ピーシェの満足がいくまで手合わせを続ける。確かにこれじゃ休めてはいないし、イリゼ達が聞いたらどう思うかは分からないけど…それはあくまで身体の話。休日にスポーツをするのと同じように、身体を動かすのは心のリフレッシュになるし…何よりわたしは女神だもの。であればこういう手合わせは、楽しいに決まってるってものよね…ッ!
*
「ん〜♪甘〜い〜♪」
口からフォークを離し、言葉なんてなくても感想が分かる程の笑みを浮かべるプルルート。そのプルルートの前に、テーブル上に置かれているのは、切り分けられたタルト・タタン。
教会の庭での手合わせを終えてから数時間後。わたし達は遊びに来たノワール達と共に、イリゼが作ってくれたタルト・タタンを食べていた。
「確かに甘い…けど、くどくない甘さね。貴女の妹、中々良い腕してるじゃない」
「でしょう?イリゼはお菓子作りが趣味だから、普段から時々こういうのを食べれるのよ?どう?羨ましいでしょ?」
「見るからに羨ましがってほしそうな顔ね…」
「くぅっ、思い通りになってしまうのは少々悔しいですけど、羨ましいですわ…!妹謹製のタルト・タタン…タルト・タタンならむしろ、お姉ちゃんが作ってあげるものではなくて!?」
「いやそんな事ないでしょ…わたしもイリゼもムジカートじゃなくて女神なんだから……」
小さく笑みを浮かべ、ノワールはイリゼの腕を評価してくれる。それにわたしが気を良くすれば、ブランは呆れ混じりの声を上げて…ベールはなんというか、今日もベールらしい事を言っていた。
因みにこの三人がいるのは、プルルートが呼んだから。ほんと、久し振りに帰ってきた訳じゃないし、わざわざ呼ばなくても…と思ったけど、それもプルルートらしさよね。後、皆にもイリゼの腕を知ってもらえたのは嬉しいし。
「イリゼさんも、お料理が上手なんですね」
「あ、ううん。確かに一通りは出来るし、大概は美味しいけど、全面的に得意って訳じゃないわよ?お菓子類はこの通りだけど、総合的な技術で言ったら、コンパの方が上手いんじゃないかしら」
「一通り出来て美味しいなら、それはもう上手で良いんじゃない?まぁ確かに、レベルの高いコンパと比較して…って事なら、そういう言い方も理解は出来るけど」
「これ以外のいりぜの食事を食べた事ないのに、その口振り…ほんとあいえふはこんぱの事好きだよね」
「んなっ!?べ、別に今の言葉に他意なんてないわよ!」
「ふふっ、わたしはあいちゃんの事好きですよ〜。あいちゃんも、ぴーちゃんも、大好きです〜」
仲の良さが伝わるようなやり取りを交わす、ピーシェ、コンパ、アイエフの三人。小さい頃から三人を見てきた事もあって、そのやり取りを皆は温かく見守る。…わたし?それは勿論、胸を打たれて思わず「はうぁ…っ!」…ってなってたに決まってるじゃない。だって、赤ちゃんの頃からの幼馴染みだからこそある、本当に気兼ねのない感情の交流がそこにはあるのよ!?まるで姉妹の様な、けど本当の姉妹とはまた少し違う感情、心の繋がり…これを見て胸を打たれなかったとしたら、それは間違いなくわたしの偽者よ!精度の低い劣化コピー以外の何者でもないわ!あー、もう惜しいっ!もう少し早く目覚めてたら、三人が赤ちゃんだった頃から見てあげられたのに!その頃の三人にも触れ合えたのに!…あ、けどその場合、レイの復活ももう少し早かったって事になるわね。ずっと眠り続けるかそのまま朽ち果ててくれるかしたら一番だったんだから、早めに目覚めるのはむしろありがたくないわ。ふんっ。
「…せ、セイツさん大丈夫ですか…?さっきから無言のまま、表情だけが何度も急変してますよ…?(・□・;)」
「あ…大丈夫よ、イストワール。ちょっと心がジェットコースター状態だっただけだから」
『えぇ……?』
呼び掛けられ我に返ったわたしは、気持ちを一度落ち着けて返答。その結果、「何その状態…」とばかりの表情で皆に見られてしまったけど…仕方ないじゃない。実際そういう状態だったんだもの。
(…キセイジョウ・レイ……)
それは、わたしが討つべき…嘗ては当時の人の皆と、復活してからはここにいる皆と倒した、人に仇為す女神の名前。仕留め切れていなかったらしいレイは、先の戦い…最終的に幾つもの次元に関わる事となった戦いでもまた敵となり、戦い……けどそのレイは、オリゼに討たれた。今度こそ完全に倒され…けれど滅される事はなかった。その直前に七賢人の皆とピーシェが割って入り、更にクロワールが乱入し、レイの女神の力を強奪した事で…女神としてのレイがいなくなった事で、レイは一命を取り留めた。他でもないオリゼが、女神ではなく人なのだからと、それまでとは態度を一変させた事によって。
わたしとしては、複雑な思いがある。わたしの手で討ち取りたかった…って気持ちもあるにはあるけど、一番の理由は『人に戻ったレイが生きている』から。勿論人のレイを討つつもりなんか微塵もないし、未だ目を覚まさないレイだけど、回復に向かってほしいとも思う。けど、だとしても…それでもレイの暴虐を、人々への裏切りを見てきたわたしとしては、もう人なんだから、とすっきり割り切る事はまだ出来なくて……って駄目駄目。折角皆がいるのに、こんな事考えてたら勿体ないわよね。ここはイリゼのタルト・タタンで心を一杯にして、気持ちを切り替えないと。
「ところでセイツ。貴女は原初の女神の複製体、イリゼの姉に当たるらしいけど、同時に信次元のイストワールの妹にも当たるのよね?なら、ここにいるイストワールに対しても思うところがあったりするの?」
「あ、それはぴぃも思ってた。名前だけじゃなくて見た目もそっくりだし、やっぱり姉といる感じなの?」
「あー…それに関しては、そんな事はない…って感じかしらね。確かにこっちのイストワールに対して、『自分の姉の同一人物』って意味での思うところはあったりするけど、姉といる感じは正直ないわ。姉といる感じがないっていうか、逆にイストワールやイリゼに感じるものがあるっていうか、わたしも上手くは言えないんだけど…」
「血の繋がりはなくても、家族の繋がりはある…という事かもしれないわね。実際ロム…超次元のロムも、わたしを見て自分の姉…超次元のわたしとは、何となく違うと感じていたようだし」
砂糖、バター、林檎…それぞれの甘さに舌鼓を打つ中、ノワールがわたしに問い掛けてきた。そこからわたしの姉妹関係の話となり…更にベールが、踏み込むようにわたしへと問う。
「では、わたくしからも質問を一つ。…セイツはこれから、どうする気ですの?」
「どう、って…休みの間は、こっちでこれまで通りに生活しようと思ってるけど…そういう事じゃなくて?」
「えぇ、違いますわ。わたくしが訊いたのは、女神としての事。神生オデッセフィアが国としての軌道に乗った後の事ですわ」
一度食べる手を止め、じっとわたしを見るベール。その問いに、皆もわたしの方を見やり…わたしもまた、皆を見回す。投げ掛けられた質問、そこにある意味を考え…そして、答える。
「勿論、今の目標は神生オデッセフィアを国として安定させる事よ。けど…それを果たしたら、もうそれきりになんてするつもりはない。わたしは自分を、神生オデッセフィアの女神の一人だと思ってるし…神生オデッセフィアの皆が望んでくれるのなら、これからもわたしは信次元の女神の一人でいるつもりよ」
考えるまでもなかった。わたしが答えたのは、ずっとわたしが思っていた事。これまではどこかの国の女神ではなく、神次元全体の為に戦ってきたし、そこにも確かに充実感があったけど…国の長の一角として、国を作り、人を導き、皆と共に進むのもまた、女神としての幸せを感じられた。
けどそれはあくまで、神生オデッセフィアの…人々の思いありき。皆が望んでくれるのなら、わたしは喜んで続けるし、望まないというのなら、その時は素直に身を引こうと思う。…でなければ、レイと同じなのだから。
「…そっか…そう、だよね…信次元には、セイツちゃんの家族がいるんだもん、ね……」
皆が沈黙する中、プルルートが悲しそうな声を漏らす。それを聞いて、寄り添うようにピーシェがプルルートの肩へと手を乗せる。…けど、違う。そうじゃない。
わたしは首を横に振る。プルルートの反応に対し、否定を示し…言葉を続ける。
「違うわよ、プルルート。今日こっちに戻ってきた時、言ったでしょ?こっちだって、わたしの次元だ…って」
「……!じゃあ……」
「えぇ、わたしは皆が望んでくれるなら、これからも神生オデッセフィアの女神でいるつもりよ。だけど、それはもうこっちに戻らないって事じゃない。信次元には家族がいるし、信次元がわたしの故郷だった訳だし、今は神生オデッセフィアが…わたしが共に歩みたい国もあるけど、神次元だってわたしの居場所、なんだもの。今も、昔も、神次元には沢山の思い出があって、大切な皆もいて、わたしを信仰してくれる人だっている。信次元にわたしの『これから』があるとしたら、わたしの『これまで』は…今ここにいるわたしを作り、わたしがわたしで在れるようにしてくれたのは、神次元なんだもの。…だから…わたしは両方の女神で在りたいわ。どちらかではない、どちらでもある女神…それがわたしの、レジストハートの、目指す道よ」
我ながら、長く語っているなと思う。けど、省略なんてする気はない。全部わたしの本心であり、全部大切な事だから。信次元も、神次元も…向こうの皆も、ここにいる皆も、両方大事なんだから。皆大好きなんだから。
両方を望む事を、欲張りだなんて思わない。むしろ、両方大切なら、両方選ばなくてどうするとわたしは声を大にしたい。だって、わたしは女神なんだもの。女神が大切なものに順位を付けるなんて、取捨選択するなんて…それこそが間違いってものよ。そんな道は、真っ平御免だわ。
「セイツちゃん…うん、それが良い…!あたしもそれが、一番だって思うな…っ!」
「どちらでもある、ね…良いんじゃない?元々セイツは私達の収める国と、国に属さない人達の橋渡しをしてたんだから、今度は神次元と信次元を行き来するってスタンスの方が、むしろしっくりくる位でしょ」
「それが貴女の望む道なら、そうするのが一番だと思うわ。何かに気を遣ったり、妥協したりする女神より、自分を貫く女神の方が信用だって出来るもの。…まぁ、楽な道でもないと思うけど…ね」
「大変だとしても、自分が願い、望んだ道であれば、突き進む事が出来ると思いますわよ。それに…友が定期的に戻ってきてくれるのなら、それは嬉しいというものですわ。そうではなくて?」
「…レジストハートの道、か…偶には格好良い事言うじゃん、せーつ。…だったらぴぃは、応援するよ」
これからのわたしの、決意表明。それを皆は、微笑み肯定してくれた。身も蓋もない事を言えば、わたし達は対等な関係なんだから、否定される筋合いはない訳だけど…そういう事じゃない。わたしの決意に、そうしたいと思う道に、頑張れってエールを送ってくれる皆は優しく…だからわたしは、神次元が好きなんだ。神次元も、信次元も、心から誰かを応援出来る人に溢れているから…きっと、こんなにも素敵なんだ。
「ふぅ…ありがとね、皆。わたし、嬉しくて…というか皆の素敵過ぎる思いを感じて、正直ハグして回りたい気分よ」
「あぁ、またいつもの発言を…って、表情が普段と変わってない…!?え、何…?感情が昂り過ぎて、メーター振り切れちゃってるような状態…?」
「あ、あはははは…割とありそうな気がするです……」
「はぁ…格好良いと思って損した。やっぱりせーつは、いつもいつでも変態だね」
「ちょ、ちょっと…折角良い雰囲気なんだから、そんな事言わな……って、なんで皆頷いてるの!?ぜ、全会一致なの!?しかもプルルートやイストワールまでって…うぅ、なんでこの流れでアウェーになるのよぉぉ……っ!」
酷い、あんまりよ…!…とわたしは抗議の叫びを上げるも、「自業自得でしょ」という取り付く島もない視線を受けて轟沈。わたしが項垂れれば、皆はくすくすと笑っていて…不服な反面、悪い気はしないのがちょっと悔しかった。…あ、違うわよ?アウェーな状況に興奮してるとかじゃなくて、ここにはいつも通りの日常が、皆がいる…的な、もっと良い意味での思いなんだからね…?
…まだ、これからどうなるか分からない。そもそも神生オデッセフィアが国として安定するまでに、どの程度かかるか分からないし、皆が受け入れてくれるかどうかも分からない。現状じゃイストワールに頼らないと次元移動出来ないっていうのもあるし、これから先で何が起こるか分からないっていうのもある。それでも、今わたしの中にある思いは、意思は事実であり真実。そして、わたしが望む道を歩めるよう…これからも、頑張らなくちゃいけないわよね。
今回のパロディ解説
・「お、お婆ちゃんはヤメテ…」
色づく世界の明日からのサブタイトルの一つのパロディ。お婆ちゃんネタといえば、アンジュ・ヴィエルジュのアニメ版でもありましたね。
・某赤のFAITH
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、アスラン・ザラの事。(シュペール)ラケルタ・ビームサーベル アンビデクストラス・ハルバートモードの事ですよ!
・
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかのヒロインの一人、ティオナ・ヒリュテの(二つ名の)事。ですが彼女の武器は、双刃刀且つ大剣でもある感じですね。
・ムジカート
Takt op.に登場する兵器の事。兵器と言っても、人ですね。そしてタルト・タタンといえば、勿論運命のあの姉妹の事です。