不意に書きたくなったから書いた妖夢短編集。十分掛からずサクッと読めます。

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妖夢「この前白楼剣を研ごうと思ったんですよ。ほら、楼観剣と比べて切れ味が悪いじゃないですか。でも、冥界に研ぎ師がいないので里に降りようと思ったわけです。え? 今までどうしてたのかって? 今までは私の祖父である妖忌が研いでいたんですけど、私に研ぎ方を教える前に行方をくらませてしまったので。それで研ぎ師を探して人里を歩いていたんですけどね。探せども探せども見つからないわけです。で、諦めて冥界に帰ろうとしていた矢先、香霖堂の店主がこのようなものをくださいまして。『しやぷなぁ』という道具だそうです。なんでもこの道具の溝に刃を入れて前後させるだけで切れ味が復活するという優れものらしく。随分とふっかけられましたがなんとか予算内で入手してですね。これから早速試してみようかと──」

紫「私がなんとかしてあげるから白楼剣をシャープナーで研ぐのはやめなさい」


妖夢さん、切ってください。

「妖夢ぅ~羊羹切ってー」

 

 縁側から気の抜けた声が聞こえてくる。

 妖夢は手に持っていた枝切鋏に付いた草を軽く払い、声の主の元へと急いだ。

 

「羊羹……とは言いますが、あるとは限りませんよ?」

 

 妖夢は履物を脱ぎながら縁側に座る幽々子に言う。

 それを聞いて幽々子は目を丸くした。

 

「あら、まさか妖夢羊羹切らしたの? 同じ『よう』が付く仲間じゃない」

 

「二文字音が同じなぐらいで同一視されても困るのですが……ですがまあ、わかりました。お茶とお菓子をお持ちしますね」

 

 妖夢は履物を揃えると、台所へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

「おや、白玉楼のところの……」

 

 幻想郷にある唯一の人間の里の大通りを歩いている最中、妖夢は不意に声を掛けられる。

 妖夢が横を振り向くと、里の寺子屋で子供たちを教えている慧音が妖夢に向かって手を振っていた。

 

「お久しぶりですね。里へは買い物に?」

 

 箒を片手に持っているところを見るに、子供たちが帰った後の掃除をしている最中のようだ。

 

「はい。幽々子様が季節のものを食べたいとおっしゃっていたので、何かいいものがないか探していたんです」

 

 妖夢は今日の昼食時に幽々子が駄々をこねたのを思い出し、少し苦笑いする。

 慧音は寺子屋の敷地に生えている桜の木を見上げながら言った。

 

「季節のものですか……もうすっかり桜の花も散ってしまいましたが、まだまだ暦は春真っ盛りですからね」

 

 妖夢は慧音につられて桜の木を見上げた後、その木の根元に目を向ける。

 土の上にはまだ綺麗な桜色をしている花びらと赤紫のガクが地面を染め上げていた。

 

「桜は綺麗ですけど、散り際の掃除が大変ですよね。雨が降る前に掃除しないと地面にへばりついてしまいますから」

 

「冥界ほどではないですけどね……っと、そうだ。旬のものといえば、タケノコなんてどうでしょう。知人が今朝山のように持ってきてくれたのですが、私一人で消化できる量ではなくて」

 

 慧音はそう言うや否や箒を寺子屋の壁に立てかけて中へと入っていく。

 そして、数分もしないうちに皮付きのタケノコを数本抱えて戻ってきた。

 

「貰ってしまってもよろしいので?」

 

 妖夢はタケノコと慧音を交互に見ながら確認する。

 慧音は半ば無理やり妖夢にタケノコを渡しながら言った。

 

「竹に旬と書いて『筍』。旬が食べたい白玉楼のお嬢様にはぴったりだと思いますよ」

 

 それにこのまま置いておいてはえぐみが出てきてしまいますから、と慧音は苦笑する。

 妖夢はそういうことならと、風呂敷で旬を包みこんだ。

 

 

 

 

 

「で、実際のところどうなんだ?」

 

 地平線に沈みかけている太陽が赤い鳥居を更に紅く染め上げているのを横目に、妖夢は首を傾げる。

 

「そもそも私はその『どう』が何を指しているのかわからないわ。一体何がどうなの?」

 

 妖夢は賽銭箱へと続く階段に腰かけている白黒の魔女、霧雨魔理沙を見下ろす。

 魔理沙はやれやれと肩を竦めながら言った。

 

「お前が普段振り回している刀って相当長いだろ? この前どうやって刀を抜いているのか霊夢と話してたんだ」

 

 魔理沙はそう言うと妖夢が背中に背負っている楼観剣を指差す。

 妖夢はそんなことかと内心ため息をついた。

 

「どうやっても何も、私が刀を抜くところなんて何度も見てるでしょ?」

 

「意識したことなかったからさ」

 

「そうねぇ……ほら、手を横に伸ばしてみて」

 

 妖夢は両手を水平に上げて真横に伸ばす。

 魔理沙も少し首を傾げながら手を横に伸ばした。

 

「理論上はこの長さまでの刀なら抜けるの。大体両手を伸ばした時の長さが身長と同じぐらいだから、自分の身長と同じぐらいの刀なら何の問題もないわ」

 

「そりゃ理屈の話だろ? ちょっと貸して見ろよ」

 

 魔理沙は真横に伸ばしていた右手を妖夢の方に伸ばす。

 妖夢は少し思案したあと、背中に背負っていた楼観剣を魔理沙に手渡した。

 

「いいけど、落とさないでよ? いくら楼観剣が妖怪が鍛えた刀だからって、刃こぼれしないわけじゃないんだから」

 

 普段だったら妖夢が他人に刀を渡すというのはありえない。

 だが今回、相手は魔理沙だ。

 自分で試してみるまで諦めないどころか、力ずくで刀を奪われかねない。

 だったらまだ、こちらから素直に刀を渡し、納得してもらう方がリスクが低いと妖夢は判断したのだった。

 

「っとと、結構重いな」

 

 魔理沙は楼観剣を腰に当てると、普通の刀を抜くように右手を伸ばし始める。

 だがすぐに腕の長さの限界に達し、楼観剣が抜けきれることはなかった。

 

「んぐぐぐぐ……ほら、やっぱり抜けないじゃないか! 私でこれなんだ。もっと身長が低いお前じゃ相当厳しいんじゃないか?」

 

 魔理沙は抜くのを諦めると楼観剣を妖夢に返してくる。

 妖夢は楼観剣を受け取ると、一歩下がってからいとも容易く楼観剣を抜いてみせた。

 

「すごいな。今のどうやったんだ?」

 

 妖夢は一度刀を鞘に戻すと、今度はゆっくり抜いてみせる。

 楼観剣を握る妖夢の右手と左手がゆっくりと離れていき、一番遠くへきた瞬間、楼観剣の切っ先が鞘から顔を出した。

 

「とまあ、こんな感じね。実際にはもっと色々と刀の抜き方があるんだけど、その辺は秘伝だから」

 

「なるほどな」

 

 魔理沙はジロジロと妖夢と楼観剣を観察する。

 そしてぼそりと呟いた。

 

「この長さが妖夢の限界ってことか」

 

 妖夢はその言葉に肩をピクリとさせる。

 そして軽く咳払いしながら言った。

 

「べ、別にそんなことないけど。私ならもっと長い刀でも自在に操れるわ」

 

「ほう?」

 

 妖夢がそう言った瞬間、魔理沙がシメたと言わんばかりに指を鳴らす。

 その瞬間、本殿の陰から目を輝かせた早苗が顔を出した。

 

「ほらやっぱり! 私の言う通りですね!」

 

「いや待て、強がりを言ってるだけかもしれん」

 

 魔理沙は結論を急ぐ早苗に釘を刺す。

 妖夢は事情を飲み込めず首を傾げた。

 

「一体なんの話をしてるのよ」

 

「いやなに、簡単な話さ。早苗が神社の倉庫からとてつもない長さの太刀を見つけてな。実際に使えるのかどうかって話になって、賭けをしたんだよ」

 

 妖夢は楼観剣を背中に背負いなおしながら大きなため息をつく。

 今までの流れは、このための布石だったようだ。

 

「で、実際に私に抜かせてみて、確かめようということですか」

 

「話が早いな」

 

 魔理沙が合図をすると、早苗は本殿の裏へと走っていく。

 そして刀身だけで七尺(2.1m)はありそうな大太刀を肩に抱えて戻ってきた。

 

「さあ、妖夢さん!」

 

 早苗は目を輝かせながら大太刀を妖夢に手渡す。

 妖夢は長さを確かめるように自分の横に大太刀を立てた。

 

「……これ、私の身長の倍はあるんだけど」

 

「な? 無理だろ? 私もそう言ったんだ。でも早苗のやつがなぁ……」

 

「外の世界の作品ではもっと長い刀を自由自在に振り回して戦う剣士が沢山いるんです! これもきっと周囲の敵を一掃するために作り出されたものに違いありません!」

 

 早苗はそう言って目を輝かせる。

 妖夢は二貫(7㎏)以上はありそうな刀を器用に持ち替えると、刀身を少し引き抜き観察した。

 

「ああ、なるほど」

 

 なんてことはない、魔理沙の言う通り、この刀は実用的な造りをしていない。

 これは守矢の神社に奉納された奉納刀なのだろうと、妖夢は判断した。

 

「ちなみに、いくら賭けたの?」

 

「負けたほうが酒を奢る。そういう約束だぜ」

 

 心底どうでもいいことを聞いてしまったと、妖夢は言ってから後悔する。

 だがまあ、幻想の存在に夢見る少女の期待に応えて見せようではないか。

 

「まあ、いいか。それじゃあ抜くからね」

 

「ちょっと待った。地面に鞘を置いて刀を引っこ抜くとか、そういうのは無しだぜ? そうだな……これで居合をしてみてくれよ」

 

 魔理沙はそう言うと懐を探り大きめのキノコを取り出す。

 

「私がこれを投げるから、地面に落ちる前に切れたら早苗の勝ちってことで」

 

「なんでもいいけど……」

 

 妖夢は鞘を左手で握りこむと、力任せに水平にし、腰の位置へ持ってくる。

 そして魔理沙から少し距離を取ると、右手を大太刀の柄に添えた。

 

「妖夢さん! 切ってください!」

 

 期待がこもった早苗の視線が妖夢に注がれる。

 魔理沙は妖夢の準備が整ったと判断すると、自分が斬られないように少々大きくキノコを放り投げた。

 魔理沙は放り投げたキノコを目で追う。

 次の瞬間、宙を舞っていたキノコは綺麗に二つに分かれると、それぞれ同時に地面に落ちた。

 

「あれ? 今切ったか?」

 

 魔理沙は慌てて少し遠くにいる妖夢に視線を向ける。

 だが、そこにいる妖夢は既に一仕事終えたと言わんばかりに大太刀を早苗に返していた。

 

「嘘だろ……どうやったんだよ」

 

「どうって、今見せた通りだけど」

 

 妖夢は早苗に大太刀を返しながら魔理沙の問いに答える。

 

「私にはキノコが勝手に切れたようにしか見えなかったぜ。そもそも、これは奉納刀だろ?」

 

 魔理沙が早苗の抱える大太刀を指差して言う。

 そう、魔理沙はこの刀が実戦で使われることのない刀だと知っていて早苗に賭けを仕掛けたのだ。

 

「さっき身長以上の刀は理論上抜けないって言ってたじゃないか。それ以上は手を伸ばしても抜けないからって……」

 

「ええ、だから自分が前進して鞘から刀身を抜いて、キノコを切って、鞘が地面に落ちる前に鞘に納めたんですよ」

 

「滅茶苦茶だぜ」

 

 

 

 

「お茶を淹れますけど、熱いのと冷たいのどちらが良いですか?」

 

「あ、冷たいので」

 

 妖夢はある程度物が片付いた倉庫の中で寛ぎながら藍にそう伝える。

 藍は少々お待ちくださいと言うと、倉庫の中から出ていった。

 一人残された妖夢は改めて倉庫の中を見回す。

 倉庫の中には幻想郷では珍しい外の世界のもので溢れていた。

 

「ツウハンバングミのせいで物が増えたって言ってたけど、なんのことだろう」

 

 妖夢は近くにあった細長い棒を手に取る。

 棒の先端には箱状の機械が取り付けられており、妖夢にはその用途がまるで想像出来なかった。

 これもツウハンバングミで増えた物なのだろうか。

 

「ん? これ、『入』と『切』って書いてある」

 

 妖夢は棒の持ち手に付けられたつまみを『入』側に動かす。

 その瞬間、妖夢が手に持っていた機械、サイクロン式コードレス掃除機が音を立てて空気を吸い込み始めた。

 

「およよ! 動き出した!」

 

 妖夢はコードレス掃除機の持ち手を掴み、刀のように構える。

 その瞬間、倉庫の入り口から藍が顔を覗かせた。

 

「えっと何をされてるんです?」

 

「あの、その……っっっっ」

 

 妖夢は顔を赤くすると、コードレス掃除機を下げる。

 その時、コードレス掃除機のヘッドが妖夢のスカートの裾に当たり、コードレス掃除機が妖夢の服を吸い込み始めた。

 

「うわ! 噛まれた!?」

 

「妖夢さん、切ってください」

 

「はい……っ!」

 

 妖夢は慌てて近くにあった楼観剣を掴むと、目にも止まらぬ速さで抜き放つ。

 そして藍が制止する間もなくコードレス掃除機を両断した。

 

「電源を……」

 

 藍は上下に分かれて地面に転がっているコードレス掃除機だったものを見下ろす。

 妖夢はバッテリーからの電力の供給が絶たれて大人しくなったコードレス掃除機に油断なく楼観剣を構えていた。




というわけで妖夢短編集でした。
普段はハリー・ポッターと東方projectのクロス作品を書いているので、そちらもよかったら是非ご一読ください。

https://twitter.com/hexen165e83

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