セッ○スしないと出られない部屋に男女を閉じ込めるのが性癖の魔族に巻き込まれた話   作:柚香町ヒロミ

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前回(一応)最終回と言いましたね?
あれは嘘だッ!!

というのは冗談ですが「未亡人と青年もいいですが男やもめと女性もよいものですぞ」と夢に現れた奴が囁いてきたので衝動に任せて書きました。

次のストックはありませんがこれからも衝動的に書きたくなりそうなので完結済みタグは消して不定期更新とさせていただきます。


十一組目 〜小説家と手紙屋〜

「今日もお仕事頑張ったぞ〜♪」

 

 軽快な鼻歌で空を飛ぶ鳥翼族の女性がいた。背中の大きな白い羽を羽ばたかせながら飛んでいる彼女は手紙屋であり近隣の町の空を飛び交いながら手紙を届ける仕事をしている。手紙屋は今日の分の手紙を届け終え自宅に帰ろうとしていた。

 

(せんせい、いるかな……)

 

 手紙屋はきょろきょろと視線を動かしながら目当ての人物を探す。彼女が探しているのは小説家の男であった。彼女が五年ほど前、手紙屋の仕事を始めたばかりの頃にミスをして落ち込んでいた時に出会い色々あって仲よくなった友人なのだ。人間の事、今住んでいる町の事、小説や物語の面白さ。種族差からか人とズレていた手紙屋に沢山の事を教えてくれた小説家の事を親しみを込めてせんせいと呼んでいた。

 

(また浜辺にいるんだろうな……)

 

 手紙屋は初めて出会った場所である浜辺に向かう。すると目当ての人物がいた。夕陽に照らされながら男は手紙の入った瓶を海に流す。その寂しげな背中を見ると手紙屋は声を掛けることが出来ない。彼が嵌めているキラリと光る左手の薬指の指輪を見ると尚更に。

 

(奥さんに手紙届いたかな。届いているといいな……)

 

 

 

 

 

 五年前、手紙屋が仕事のミスで落ちこみ夕陽の浜辺で項垂れていた時、後から来た痩せ細った男が海へと入っていった。

 

 ふらふらと歩くその只事ではない様子に命を絶とうとしているのではないかと手紙屋が慌てて止める。

 

 が、彼はただ海にメッセージボトルを流そうとしていただけだった。自分の早とちりである事に気づきずぶ濡れのまま謝る手紙屋とずぶ濡れのままいやこちらこそ紛らわしくてごめんねと謝る男。そんな忙しない出会いから二人の交流は始まった。

 

 男は主に恋愛小説を書く作家であり妻を亡くしていた。

 

 『旅行先で海難事故に遭ってね。帰らぬ人になったんだ。もしかしたら魂が海に残っているかもしれないと思って手紙を書いて海に流しているんだ。無駄な事かもしれないけど』

 

 そう話してくれた時、手紙屋はこんな悲しい手紙もあるのかと驚いた。彼女が手紙を手渡すと受け取った人はだいたい笑顔だったからだ。

 

 どこか影のある小説家に手紙屋は惹かれていった。彼の中には亡くなった妻がいると分かっていながらも想いは募るばかり。どうしようもない恋心にため息をつきながら今来たばかりだと装いつつ話しかけようとする。

 

 すると突然、謎の光に包まれ砂浜から見覚えのないピンク色の空間に景色が変わるのだった。

 

 

 

 

『セッ○スしないと出られない部屋』

 

 という文字が掲げられた部屋に閉じ込められたのだと気づくのにそう時間はかからなかった。

 

(嘘でしょ……そんなの無理に決まってるよ……)

 

「ここが噂の……ということはそうか……やっぱり僕は……」

 

 内心冷や汗をかく手紙屋に対し小説家は安堵と悲しみが混じり合ったような笑みを浮かべた。

 

「噂……? せんせい。なにか知ってるんですか?」

 

「とある魔族が好き合っているもののなかなか一歩が踏み出せない男女をこの部屋に攫うっていう噂があるんだよ」

 

「……え。そんなはずは……」

 

 何のために、という疑問が好き合う男女を攫うという言葉で塗りつぶされる。そんなはずはない。彼は今でも奥さんの事が好きなのにと左手の薬指の指輪を見つめる。

 

 小説家は手紙屋と同じように身につけている指輪を見つめ、一瞬だけ躊躇う仕草をしたあとゆっくりと外しテーブルの上に丁重に置いた。

 

「今日妻に書いた手紙はね。新しい人生を歩んでもいいだろうか、という内容だったんだ」

 

「新しい人生、ですか……?」

 

「うん。……僕は妻を愛している。これからもずっと」

 

「……はい」

 

「でも……妻以外に隣にいてほしい人が出来てしまった。少しおっちょこちょいで、元気で、頑張り屋な鳥翼族の女性に少しずつ惹かれていってしまったんだ」

 

「──え?」

 

「永遠に操を立てるつもりだったのに。何度も悩んだよ。あの冷たい海の中で失った、最愛の妻に数え切れないほど違う、違うんだと謝った。でも次第に妻の事を考えていた時間が君の事を考える時間に変わっていく。永遠の愛を誓ったはずなのに違う愛が生まれていく。なんて不義理な男なんだろうね」

 

「そ、そんな事……」

 

「妻のご両親にも申し訳なくてさ。謝りに行ったんだ。だけど……お義父さんもお義母さんもそれでいいと応援してくれた。新しい人生を歩む事は悪いことではないんだ、うちの娘を沢山愛してくれてありがとうって……本当にいい人達で……」

 

 その時の事を思い出したのか瞳を潤ませる小説家に手紙屋もつられて涙が出る。

 

「……僕は妻を忘れられない。それでも君と、新しい人生を歩んでいけたらと思うんだ。君の事が好きだ。僕と結婚してくれないか」

 

 小説家は手紙屋の手を握りじっと瞳を見つめる。その瞳はまっすぐで少しの揺らぎもなかった。

 

「わ……私でいいんですか……? 私早とちりだし、すぐ泣くし歌うしうるさいですよ。こんな大きな羽とかあるから邪魔くさいですよ!?」

 

 手紙屋は自身のバサァと自慢ではあるが室内では不便な白い翼を大きく広げる。それだけで一、ニ枚の羽が舞い「ほらー!掃除とか面倒ですよ!」と謎のマイナスポイントをアピールする。あとでやっぱり嫌だと思われるのが怖いのだ。そんな手紙屋の心を感じ取ったのか小説家は落ちた羽を拾いキスをした。

 

「コロコロ表情が変わるところも、その綺麗な翼も愛しいよ」

 

「ふぉお……あわぁ……あばばばば……」

 

 飾らない口説き文句に手紙屋は真っ赤になった顔を翼で覆い隠した。

 

「見せてよ顔」

 

「い、嫌です! 今の私ヘンテコな顔をしてますから……」

 

「でもそのままだとキスが出来ないよ」

 

「えええ!? き、キスって……んっ……」

 

 驚いて思わず顔から翼を離した瞬間、二人の唇が重なる。その口づけは離れる事なく手紙屋は小説家の背に手を回す。

 

「あの……この部屋から出たら奥さんのお墓に行ってもいいでしょうか」

 

「ああ。二人で挨拶しに行こう。……一つ頼みがあるんだけどいいかな?」

 

「なんですか?」

 

「僕より出来るだけ……長く生きてほしい」

 

 その言葉は頼みというより祈りだった。最愛の人に先立たれた苦しみが痛いほど伝わる、重い言葉。

 

 必ず叶えるなどと簡単に言えるわけがない。こんな意味の分からない部屋に閉じ込められたように人生何が起こるなんて自分には分からないのだから。そう考えながらも手紙屋は頷いた。

 

「……私、長生きします。せんせいよりも、一秒でも長く生きられるよう頑張ります」

 

「……うん。ありがとう。僕も長生き出来るよう頑張るからね」

 

 新しい誓いを立てた二人は顔を見合わせ躊躇うように、待ち望んでいたようにその体を重ね合わせるのだった。

 

 

 

 

 

『生きて。私の分まで幸せになってね』

 

 新婚旅行で乗った船。突然の嵐。船を飲み込む波。船の破片になんとかしがみつこうと彼女と手を取りながら藻掻くが二人分の体重を浮かす事が出来ず沈む板。

 

 ──そして生きて、と微笑みながら自分から手を離し波に飲み込まれていく彼女の姿。

 

 声が枯れるほど泣き叫んでも、神に祈りを捧げても二度と浮かび上がる事はなく再び出会う事が出来た時には変わり果てた姿になっていた。それでも彼女だと分かったのは自分が贈った左手の薬指の指輪を嵌めていたからだった。

 

「……エレノア。僕は幸せになるよ」

 

 小説家は五年間幾度も苛まれてきた別離の夢から目覚め隣で幸せそうに眠る手紙屋の髪を撫でた。向日葵のように明るい金髪がサラリと揺れる。

 

 妻の名前を呼ぶ彼の姿はどこか吹っ切れたように前を向いていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

『……どうしたんですか。黙り込んで』

 

「……よかったなあって」

 

 奇声を上げず、興奮もせずホッと胸を撫で下ろす様子の魔族に珍しいものを見たと水晶玉は思った。

 

『今回は妻を失った寡男とそれに惹かれる女性。結ばれてよかったですね』

 

「うん。ずっと操を立てるべきと思う気持ちと新しい恋に板挟みになる葛藤……前の奥さんの影に打ちひしがれながらも健気に想う子……結ばれてよかった……」

 

『なんだかいつも以上に浸っていますね』

 

「ちょっとね。長い事生きていると色々あるんですぞ」

 

『……なるほど』

 

 どこか遠くを見る魔族に水晶玉はますます珍しいと驚く。今回の魔族のしおらしさ(?)にやり辛さを感じながら水晶玉はそういえば、と話を切り出す。

 

『そういえば小説家の方が前妻の名を呼んだ際に私を撫でる手が止まりましたが……知り合いの方だったのですか?』

 

「いや違うよ。……知り合いと名前が一緒だったんだ」

 

『なるほど。確かにどこか懐かしい響きです。聞き覚えがあるような……』

 

「水晶玉クンは沢山の情報を取り扱っているからね〜。まっ、過去よりも大事なのは今ですぞ。次のカップルになりそうでならない男女を探すぞい!」

 

『……了解です』

 

 露骨に話を逸らされ水晶玉は無機質に新たなターゲットを検索する。

 

(『エレノア』……珍しい名前ではないから私のデータベースにいくつか候補がいるけれど……どれも違うと根拠のない確信がある。何故だろう。私は『エレノア』を知っている気がしてならない……)

 

 水晶玉はいつものようにターゲットを絞り込みながらも膨大な情報を持つ自分でも解決できない内なる疑問に困惑するのだった。

 

 

 

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