セッ○スしないと出られない部屋に男女を閉じ込めるのが性癖の魔族に巻き込まれた話   作:柚香町ヒロミ

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十七組目 〜蛇神と巫女〜

 

 

 

「巫女様。どうか我らに導きを」

 

「巫女様。先視をしていただきたいと国からの依頼が」

 

「巫女様。私の未来をお教えください……!」

 

「巫女様」

 

「巫女様」

 

「巫女様」

 

 代わる代わるやってくる大人達。絶え間なく乞われる『未来』への先視。それらを淡々とこなしているのは代々占いを生業としている一族の末裔である巫女だ。巫女は幼い頃に『先視』という未来を凄まじい精度で感知する能力に目覚め一族の始祖、初代様の君臨だと祭り上げられてきた。

 

 厳しい修行に多忙な毎日。その事に思うところが無かったわけではないが大人になった今ではそれも日常になっていた。

 

「やっぱり仕事の後のポテチは格別だわ」

 

 巫女の住む家に帰ったあとゴロゴロとポテチを貪る程度には息抜きという名の堕落を覚えていた。そこには神秘性の欠片もない。

 

「巫女服のままポテチを食うでない! 汚れたら染みになるだろうが!」

 

 完全にオフモードでパリポリと巫女装束を着たままポテチを貪っていた巫女を叱る者がいた。巫女と対照的な白髪に金の瞳を持つその者は蛇神。巫女が仕えている主である。

 

 蛇神が長い年月の果てに信仰が薄れ消えかけていたところに巫女と出会い契約を交わした事で形を得ていた。

 

 蛇神は麗しい人の姿をしており肌の所々に銀色の鱗が生えていた。もっとも巫女を叱るその姿はオカンそのものである。

 

「全く誰が洗濯すると思っているんだ。寛ぐにしても着替えろ」

 

「はーい」

 

「今脱ぐな! 我が部屋から出てからにしろ! 全く近頃の若者は慎みが……」

 

 蛇神の言葉に渋々巫女が頷き服を脱ぎ始めたため蛇神はくるりと背を向け部屋から出ようとする。

 

 蛇神が部屋の扉に手を掛けた瞬間、部屋全体に光が満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の光が消え周囲を見渡すとそこは別空間であった。見覚えのないピンク色の内装。ハート型の大きなベッド。そして『セッ○スしないと出られない部屋』と掲げられた文字。蛇神はあまりの突拍子の無さにポカンとしていた。

 

「ふーん。セッ○スしないと出られないんだって」

 

「おい。仮にも巫女が下品な事を言うな」

 

「どうして? セッ○スは下品な言葉ではないと思うけど。そもそもセッ○スは遺伝子を残すうえでも愛を伝えるうえでも必要なことでそれを卑猥だの隠すべきことだの言うのはセッ○スに失礼なんじゃない。だってセッ○スは「やかましい! 何度も連呼するな!」」

 

 窘める蛇神に巫女はマイペースな持論を展開すると蛇神は言葉を重ねて遮る。遮られた巫女は少し不満げにした後ゴロンとベッドに寝そべった。その間に蛇神は部屋の内部を調べるが出口が見つからず舌打ちをする。

 

「それでセッ○スするの?」

 

「するわけないだろうが!」

 

「……何をするわけがないの?」

 

「……何を言わせようとしているんだお前は」

 

「貴方が『セッ○ス』って俗物的な言葉を発するのが聞きたい」

 

「何を言っとるんだお前は……」

 

「あと貴方とセッ○スしたい」

 

「は?」

 

「やらないか」  

 

「やらんわ!!」

 

 巫女服を肌蹴けさせストレートに誘い受けする巫女に蛇神は断固拒否の姿勢を貫きそっぽ向く。しかしそっぽ向いた蛇神の耳が赤く染まっているのを巫女は見ていた。

 

「私じゃ嫌?」

 

「嫌も何もお前は巫女だろうが! 巫女が率先して純潔を無くそうとしてどうする!」

 

「私は先視が求められているのであって処女を求められているわけじゃない。そういう事もする渡り巫女とかいるし。それに相手が神だから寧ろ神事のようなもの。むしろ神聖。問題なし」

 

「お前の貞操概念はどうなっているんだ!?」

 

「至って普通。愛している人……いや、神か。愛している神様と結ばれたいだけ」

 

「……………………は?」

 

「好き。貴方のことが」

 

「はあ!? 何を血迷えばそうなる!?」

 

 表向きはクールで神秘的な巫女だが自分の前だけ見せるフリーダムな、甘えるような振る舞いに蛇神は自分に心を許しているのだと内心喜んでいた。しかしそれが自分への好意故とは欠片も思っていなかったので驚愕して縦長の瞳孔が丸く開く。

 

「ある日未来が視えたの」

 

「み、未来? 突然何の話だ?」

 

「ええ。貴方と私がこの部屋でまぐわっている未来」

 

「は……?」

 

「私今まで何でも視えていた。最初は凄い力だってはしゃいでたけれど何でも視えるってことは何でも知っているって事でしょう? すぐに楽しい気持ちが失せて退屈になってしまったの。でもある日突然自分の未来が視えた。一瞬視えたあの幸せそうな私と私に優しい眼差しを向けている知らない男の人の未来を視て……私、会ってもいない貴方のことを好きになった」

 

「お前、何を言っている……!?」

 

「私は必死になって一瞬見えた貴方の事を探した。外見から蛇の神様なのは分かったけどどこにいるか分からなくて資料を漁ったり先視しまくったのよ。やっとの思いで貴方を見つけて契約を交わし、傍にいてと縛り付けた。巫女なんて面倒な役割だってこなし続けた。あの未来のためにひたすら耐えたの。でもいつ、どこであの未来が訪れるのか分からなくて内心焦っていたんだけれど……やっと今日、その日が来た」

 

 巫女の告白と言うには強すぎる執着に蛇神は言葉を失う。告げられた言葉を咀嚼して、何とか飲み込む頃には時間がだいぶ経っていたが巫女は辛抱強く蛇神の返事を待っていた。

 

「我はこの部屋の主やお前の思い通りにならぬ」

 

「え? 私を抱いてくれないの? どうして? 私の事好きでしょう?」

 

「何故そうなる! 決めつけるな!」

 

「……え……? 未来が間違っていたってこと……? 私の事好きじゃないの……?」

 

 予知していたがために断られると思っていなかったのか巫女はガクリと肩を落とす。蛇神と結ばれるために続けていた努力が、未来への希望が間違いだったのかと涙まで滲ませている。

 

「……泣くことないだろう」

 

「だって……だって……」

 

「……はぁ……お前は愚直過ぎる。嫌いとは一言も言っていないだろうが」

 

「でも……私大切な人に嫌われてるし……神様だってそうなんじゃないかなって……」

 

「…………姉の事を言っているのか? 確かにあいつは家を出たがお前を嫌っているわけではない。ただ……これ以上共にいて己を嫌悪する事に耐えられないから離れただけだ。去り際もお前の事を頼みますと我に頭を下げてきた」

 

 巫女には年の近い姉がいた。幼い頃はとても仲が良かったが巫女が『先視』の能力に目覚めてからというもの大人達は妹である巫女の方に構いきりになり姉はおざなりにされてしまった。

 

 姉も優れた能力を持ってはいたが驚異的精度の未来予知たる先視ほどではなかったのだ。姉はごめんね、これ以上ここにいたら私は私じゃいられなくなるからと去り巫女は心に深い傷を負った。自分のせいで姉を追い詰めてしまったのではと姉から手紙が届く度巫女は思い悩んでいた。

 

「嫌いな相手に文など書かんわ。我とてそうだ。嫌いな相手に世話など焼かん」

 

「……じゃあ好きなの……? ならなんで抱いてくれないの……? あの時確かに私、貴方に抱かれる未来を見たのに……」

 

「……先視とは厄介なものだな。過程ではなく結果を先に見せるものだからどうしてそうなるか思考する能力を失わせている」

 

「……どういう事……?」

 

「我は好いた者に求められたからとはいえはい喜んでと抱くような獣ではない。そういった事は強制されてするものではないし心を通わせてからするものだ」

 

 蛇神は泣く巫女を抱き寄せる。その眼差しは人と神の垣根を超えた深い絆を感じさせる優しいものであった。

 

「……好き」

 

「そうか」

 

「私が伝えたんだからそっちも言って」

 

「……さっき言ったようなものだろう」

 

「ずるい。たった今私が新しい『好き』を言ったでしょ」

 

「……好きだとも。怠け者で、俗物で、面倒くさがりのくせに人々のためになんだかんだ頑張るお前のことが」

 

「なんか貶されてない?」

 

「貶しつつ愛でている」

 

「えー。100%愛でてほしい……」

 

「……いいのか? 今、この状況でそんなことを言って」

 

「……わっ……!? あれ……手を出さないのでは……?」

 

 甘えるように胸元に頭を擦り付ける巫女を蛇神はとさりとベッドに押し倒し覆いかぶさる。このままお預けな流れだと思っていた巫女は喜びつつも困惑していた。

 

「……気が変わった」

 

「もしかして誘ってたの意外とクリーンヒットして………えっ、顔赤いけどまさか図星……むぐっ!?」

 

 巫女のからかいの言葉は蛇神の長い舌によって塞がれなんだかんだ二人は濃密な時を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「どうした。呆けて」

 

「蛇の交尾が長いって本当だったんだなあと。あと本当に二本あった……」

 

「お前はまたそんな事を……」

 

「凄かった……凄く凄かった……」

 

「語彙力やばいぞ大丈夫か」

 

「うごけないからだっこ……」

 

「はぁ……仕方のない奴だ……」

 

 数時間どころか一日以上愛し合った二人は男は元気にキビキビと移動し、女は男に抱えられ脱力しながら部屋を去ったのだった。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 

「……すんごいものを見ましたな」

 

『はい……すんごいものでした……朝昼晩ずっと繋がってましたね……』

 

「ああいう男って一度手を出すと結構躊躇しなくなりますからな。これから巫女様は大変かもしれませんな」

 

『背中を押すどころか飛び膝蹴りしておいてその言い草……貴方様は本当にふてぶてしいというか……』

 

「まあね☆ しかし世の中狭いですな。姉妹揃ってこの部屋の拉致対象になるとは……」

 

『……これで共通の話題が出来ましたね。巫女の方が手紙で今回の事書くと思います』

 

「えっ、もしかしてわざとなの水晶玉クン!? やだ策士……恐ろしい子っ!!」

 

 どんどん情報を吸収し人の心を理解していく水晶玉に嬉しい反面ちょっとビビる魔族なのであった。


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