セッ○スしないと出られない部屋に男女を閉じ込めるのが性癖の魔族に巻き込まれた話   作:柚香町ヒロミ

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少しだけグロテスクな表現があるので注意(登場人物が酷い目にあってるわけではありません)


十八組目 〜芸術家と葬儀屋〜

 

 

 

「さあ、お逝きなさい」

 

 黒い衣装を身に纏い衣装と同じく黒いヴェールで顔を覆った女が杖をトンと床に下ろす。目の前の男の死体がぼんやりと光り、光が粒子となって消えていく。それは男の現世に留まっていた魂であり未練であった。

 

「肉体よ。貴方もその役目を終えました。安らかに眠りなさい」

 

 女が柔らかい声で語りかける。すると肉体が黒の炎に包まれやがて骨となった。その様子に遺族達は息を呑む。ある者は恐れ、ある者は涙し、ある者は感心していた。

 

 それからしめやかに女は自らの役目を終え去る。女は死者を取り扱う葬儀屋だった。死者の姿を整え魂を死後の世界へと送る重大な役割を持っているのだが……。

 

「おいあの黒い服の女……」

 

「ああ、あれが例の。確かに陰気臭いな」

 

「ヴェールで顔まで隠してら。やべー顔なんかね」

 

「そもそも魂なんてものあるのかしら。インチキじゃないの?」

 

「バカ。呪われるぞ。あいつの悪口言ったやつが前腹を壊したらしい」

 

 いかんせん『死』を商売にしているため差別や無理解が多かった。加えてこの葬儀屋自体暗い性格のため誤解されっぱなしなのである。仕事終わりに表を歩いているだけで悪意と畏怖の視線がかのじょに突き刺さる。

 

(……うるせえ! ほっとけ! アタシを視界にいれるな話題に出すな! あと腹壊したのはアタシかんけーねえから!)

 

 そう怒鳴りつける度胸もないため葬儀屋はそそくさと人気のない路地へと早足で歩いていく。

 

 彼女は人間が嫌いだった。自分達では出来ない事を押し付けて後から好き勝手言う連中に嫌気が差していた。それでも仕事を続けているのは代々受け継いできた仕事であることと稀に感謝してくれる人がいるからだ。彼女の根は複雑にひん曲がっているが真面目なのだ。

 

(やっと静かになった……やっぱり一人が一番落ち着く。なんで早死しちゃうのよお父さんもお母さんも。引き継ぐのがアタシ以外居なくなっちゃったじゃない)

 

 根っからのボッチ体質の葬儀屋は裏通りを歩きながら流行り病で亡くなった両親に愚痴をこぼす。それが罰当たりで良くないことは分かってはいたがそうしないとやっていられなかった。

 

(次の依頼は一週間後。やっとゆっくりできるけど次の仕事は海難事故の被害者か……酷い事になってるんだろうな。体の原型が留めていなかったら遺族には見せずに骨に変えないと。あー、でもどんな姿でもいいから最後に一目見たかったって言う遺族だったらヤダなー。そういうやつに限って実際見たら吐くしなんで止めてくれなかったって喚いたりするんだよなー。下手したら慰謝料払えって言われるし………あー、面倒くせえ。何でこんなこと考えなくちゃならないのよ。人と関わるのホント嫌!!)

 

 勝手にマイナス思考を巡らせブチギレるという情緒不安定かつ器用な真似をしながら葬儀屋が人通りの少ない裏道を歩いていると後ろからポンと肩を叩かれる。それだけで葬儀屋は内心げっ、あいつだと辟易する。

 

「見つけた! 今暇か? よかったら一緒にご飯食べないか!?」

 

「……ど、どうも。……暇じゃないのでこれで………」

 

 陰気な葬儀屋と対照的に白い歯を輝かせながら太陽のような笑みを向けナンパしてくる男がいた。

 

 その男は以前葬儀屋が関わった仕事の遺族であり絵を描いたり彫刻を彫ったりと芸術関連の仕事をしている芸術家である。性格はハキハキとしており素直だが強引なところがあるまさに葬儀屋とは真逆の男であった。

 

 芸術家は葬儀屋の事を気に入っているようで事あるごとに声を掛けてきていた。最初はアタシと話していると変な噂が立つから止めたほうがいい、貴方や貴方の作品まで悪影響を受けるかもと警告していた葬儀屋だったが芸術家は「君自身も君の仕事も素晴らしい! よく知りもしないでつまらん事を言ってくる輩と関わらなくて済むならそれでいい!」と正面から言われてしまったのでなんだかんだ絆されていた。

 

 とはいえいつか離れていくかも……とネガティブ思考の葬儀屋は適切な距離を保とうと誘いを断りそそくさと離れようとする。しかし。

 

「君の仕事が一区切りついたことは知っている! 行くぞ! 美味い飯屋を見つけたんだ!」

 

「わぁ!? ちょっと!? てか何でアタシの仕事のスケジュール知ってるのよ!? 怖いんだけど!?」

 

 葬儀屋の嘘を見抜いた芸術家は葬儀屋を俵担ぎし飯屋へと強制連行する。じたばたと葬儀屋が藻掻くが絵の具や彫刻の材料を自ら産地に赴いて購入もしくは作る超アグレッシブ芸術家の筋力の前では無力だった。

 

 ……とはいえ本気で嫌なら魔法を使っているはずなのでそういう事である。葬儀屋は素直ではないのだ。

 

 

「うまいうまい!」

 

(うるせえ……確かに美味いけど……)

 

 連れてこられた飯屋はひっそりとした町外れにあり客は少ないもののメニューは豊富だし味は美味しかった。知る人ぞ知る穴場というやつなのだろう。いちいちうまいうまい言う芸術家に呆れながらもしっかりと葬儀屋は完食していた。今はデザートを食べているところである。届いたパンケーキに普段は死んだ目を輝かせて黙々と口に運んでいた。

 

「気に入ったようで何よりだ!」

 

「ま、まあ、美味しいけど……それでなんか用……?」

 

「いや、さっきも言ったように美味い飯屋を見つけたから君と昼飯を食べたかっただけだが」

 

「……それだけ? アタシとご飯食べたいなんて相変わらず変わってるわね……前飯が不味くなるから帰れって言われたじゃない。貴方は猛抗議してくれたけど」

 

 以前もこうして芸術家に誘われ昼ご飯を共にする事があったのだがその時客の一人にお前みたいな奴が近くにいると飯が不味くなる!出ていけ!と面と向かって言われ内心罵倒しながらも仕方がないと芸術家に詫びを入れて去ろうとしたら芸術家が抗議し口喧嘩の末文句をつけた客共々店の人に追い出されてしまったのだが。

 

(まあ散々口論した後飲みに行くあたりコミュ強よね。アタシといて楽しいのかしら)

 

 パンケーキのシロップと生クリームを満遍なくパンケーキにつけながら口に入れるとシロップの甘さとふわふわしたクリームとパンケーキのホワホワ感に至福を感じる葬儀屋。その様子を芸術家は嬉しそうに眺めていた。

 

「君といると幸福を感じるんだ」

 

「……っ……本当に変な人」

 

「……よかったらこれを受け取ってほしい」

 

 芸術家の言葉に葬儀屋の青白い頬がほんのり赤くしていると手を握られ何かを手渡される。手を開いて見るとそこには輝く宝石が嵌め込まれた指輪があった。

 

「え?」

 

「これからも共にいたいんだ」

 

「な、何言って……罰ゲームか何か?」

 

「真剣だとも。だからその想いを形にしたんだ。受け取ってくれないか」

 

 それは婚約指輪そのものだった。確かに何度かデートじみた誘いを受けることはあったが好きだと直接言われた訳でもなかったためどういうつもりなのだろうと思っていた葬儀屋だったがハッキリと好意を形にされ戸惑っていた。

 

(へ!? そりゃちょっとはこいつアタシの事好きなんじゃね?とか調子乗った事はあるけど本当に好きなの!? 趣味悪っ。こいつならもっと他に女いるでしょ! ……そうよ。もっと他にいい相手がいるわ。こんな後ろ指差されるような奴じゃなくても)

 

「……ごめんなさ──────」

 

 勇気を振り絞り芸術家からのプロポーズを断ろうとした瞬間、『させるか! 自分の気持ちに素直になるんですぞ!』と謎の男の声が聞こえたと同時に葬儀屋と芸術家は飯屋から姿を消した。

 

 同時にテーブルには『あ、これお代です』と謎のメッセージと料金よりも多めの金が置かれ店の者は混乱したという。

 

 

 

 

 

 葬儀屋と芸術家が目を開いた時、『セッ○スしないと出られない部屋』という文字とともにピンクの内装の壁や寝具が視界に映る。そこに出口はなく完全なる密室だった。

 

「は?」

 

「ふむ……プロポーズしたその日に合体は展開が早すぎるな!」

 

「言っとくけどアタシじゃないからね。こんな趣味の悪い部屋……」

 

「分かっているとも。多分噂のアレだろう。ということは……さっきの返事はOKということか! やった!」

 

 両片想いの男女を拉致しセッ○スさせようとする魔族がいる。そんなアホの極みの噂だが例の部屋に行ったことがあるという体験者がそれなりにいる事が確認されているため信憑性の高いものであった。芸術家は大はしゃぎして葬儀屋を抱きしめる。

 

「ちょっと! アタシまだ何も言ってないでしょ! それにあんまり近寄らないほうが……香の匂いもあるし」

 

「ふむ……いい匂いだ。俺は好きだぞ」

 

 綺麗な死体ならまだいいが中には粉々になったり腐乱して原型のとどめていない惨い時もある。そういった死体を整えて形だけでも綺麗にする際に血や腐敗臭が染み付くのを避けるため仕事時は匂い消しの香を纏うのだ。その香の匂いは独特で線香に似たものでやはり『死』を感じさせるものだった。その匂いを葬儀屋は割と気に入っていたのだが芸術家もそうだと知るとなんだかソワソワして落ち着かない気持ちになる。抱きしめられている、というのもあるが。

 

「どうしてアタシの事をそんなに……アタシは好かれるような女じゃないのに」

 

「そうだな……好意を持ったきっかけは祖父が死んだ時仕事で来た君と話した事だな。最初は葬儀屋というものに少しばかり恐れがあった。死人ばかりを相手しているおどろおどろしい連中だと周囲から聞いてしまっていたのもある」

 

「……でしょうね」

 

「そして君がやってきた。君は黒い衣服を身に纏い顔もヴェールに包んでいてまさに『死』そのものだった。儀式そのものも粛々と執り行う姿は死神のようだとも思った。だが同時に興味も湧いた。俺と同じくらいの年の女性がどんな気持ちで仕事をしているのかと。その答えが何にせよ作品に活かせると思ったんだ」

 

「あの時の質問そういう意図があったの? 本当になんでも芸術に結びつけるわね……」

 

「興味本位、好奇心。そんな不純な気持ちで君に近づいて訊ねた。どうして葬儀屋をしているのかと。そしたら君は言った。「家業だから。……でもそれ以外もある。今回の貴方の祖父の様に愛されて沢山の人に見送られる人もいるけれど中には一人寂しく死んだ人、事故で見るも無惨な姿で死んだ人、憎まれて殺された人。沢山の死がある。それらの死に平等に接しあの世に導くのがアタシの役目だから」と。その時に思ったんだ。なんて素晴らしい人なんだろうと」

 

 その時感じた想いを思い出しているのか芸術家は感極まったように頷いている。そんな芸術家に葬儀屋は過去の自分の発言に恥ずかしくなっていた。本心から言った言葉ではあるがカッコつけ過ぎたのではないかと黒歴史的にむず痒さを感じていた。

 

「そういえばまだ直接的な言葉を伝えていなかったな。好きだ! 結婚してくれ!」

 

「……っ……アタシ結婚したとしても今の仕事続けるわよ」

 

「問題ないぞ。葬儀屋としての君に惹かれたわけだからな。ただ仕事ばかりだと寂しいので休みも取ってくれ」

 

「……それアタシ側が言うセリフじゃない……? ……結婚するっていうなら浮気したら呪うから」

 

「いいぞ! その時はちょん切ってくれ!」

 

「そこまでしないわよ……はぁ。なんか馬鹿馬鹿しくなってきた……。分かったわよ。貴方に振り回されて平気な女なんて………アタシくらいのものでしょ」

 

「やった! 幸せにするぞ!」

 

 芸術家は葬儀屋を抱きかかえて部屋の中を犬のように走り回ると満足したのかベッドの側でピタリととまり葬儀屋を丁重におろした。

 

 二人は唇を重ね合うがまだ結婚の約束したばかりだしそういうのは早いわよ、と葬儀屋が躊躇うので一緒にベッドに横になるだけだったもののなんだかんだいい雰囲気になって若さが暴走しそのままゴールインするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「最高だった!!」

 

「感想はいらないのよバカ!! あーもう! なんで最後までしちゃうのよ! キスまでって約束だったはずでしょ!」

 

 事後の最初の一言がムードぶち壊しのものだったため葬儀屋は芸術家の頭を軽く叩くとぺちん、とへにょへにょした音がした。

 

「すまん! 我慢しようと思ったがムラムラして無理だった! だがなんだかんだ君も受け入れていたよな? 可愛かったぞ! あ、裸婦画描いていいか!? プライベート用にするから!」

 

「駄目に決まってるでしょ! バカ! 待ての出来ないおバカ犬!」

 

 そんな口論(?)をしながら二人はなんだかんだ仲良く部屋をあとにする。葬儀屋と芸術家の左手の薬指にはキラリと指輪が輝いていた。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 

「よし!! くっつきましたな!!」

 

『楽しそうで何よりです』

 

「闇属性の子をやかましいほど照らす光属性の子ってイイヨネー」

 

『闇属性の方が満更でもないのがいいですね』

 

「そうそう。なんか捻くれた事言ってもストレートな好意が返ってきてタジタジになるやつぅ〜。好き〜」

 

『わかりみ』

 

「!?」

 

『同意をする時の言葉ですよね? 合っていますか?』

 

「う、うん。合ってる合ってる。……水晶玉クンはどんどん成長していきますなぁ……嬉しいような切ないような……」

 

 何も話さなかった頃やカタコト喋りだった頃の水晶玉の事を思い出したのか感慨深げにする魔族。そんな魔族を尻目に水晶玉は次の被害者もといターゲット候補を検索していた。

 

『花屋の男とアルラウネが該当しています。花の魔物であるアルラウネと森で出会い時々密会しているようですがアルラウネが話せない事と種族の差からなかなか踏み出せないようです』

 

「ほうほう……話をkwsk!!」

 

 しんみりモードから両片想い男女拉致くっつけヒャッハーモードに切り替わった魔族は水晶玉に詳しい話を聞くのだった。

 

 


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