セッ○スしないと出られない部屋に男女を閉じ込めるのが性癖の魔族に巻き込まれた話   作:柚香町ヒロミ

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二十六組目 〜人形と人形師〜

 ──大切にしたものには魂が宿る。

 

 それは人形師である彼女が子どもの頃に祖母に教えられた教えであった。それを心から信じていた訳ではない。だが魂が宿るかもしれないものを粗末にするのはもったいないな、と思いそれ以来彼女は色んなものを大事にするようになった。

 

 それから時が流れ、現在。

 

 彼女は一人前の人形師として独立し街で人形を作り生計を立てていた。彼女の人形は作りが丁寧でまるで生きているようだと評判で売上も好調だった。順風満帆と思われる彼女だがとある一つの問題に直面していた。

 

「おはよう。朝だよ」

 

「わぁ!? 起こさなくていいって言ってるじゃない!」

 

 ベッドで熟睡していた彼女を起こすのは一目見れば誰もが振り向くであろう美貌を持つ金髪碧眼の青年であった。

 

 人並み外れた容貌である青年にまるで人形のようだ、と評す者もいるだろう。実際、彼女に寄り添う青年に直接言う者もいた。

 

 ……厄介な事にそれは的外れな表現ではなかった。というのもその青年は本当に人形であったからだ。

 

 人形師である彼女が「仕事忙しくて彼氏なんて出来ねーしめっちゃ好みの奴つくろ」という不純な動機で持てる技術全てを注ぎ作った人形。それが彼である。

 

 会心の作である人形に毎日大好き、今日もかっこいいね、愛してるよー、とめちゃくちゃ愛でまくる日々を送っていたらある日、人形師がいつものように愛の言葉を言いながらキスをしたら「僕も大好きだよ」と抱きしめ返された。それどころか意思を持つように話し動くようになったのだ。

 

 祖母の言っていた教え。大切にしたものには魂が宿る。それが本当の事だとは思いもしなかった彼女は腰を抜かしそうになるほど驚いた。しかも動くようになってからの人形の姿は人そのものになっており陶器の肌は柔らかさと熱を持っていたし球体関節も無くなっていた。

 

 誰がどう見ても彼は人間にしか見えなかった。自ら作り、人形であった彼を知る彼女以外は。

 

 それから人形師と人形は共に暮らし始めた。人形は彼女がそうしたように毎日愛の言葉を贈り好意を伝えてきた。

 

 家の中以外でもところ構わず抱き寄せたり好きだ、愛していると伝えてくるため近所の人は人形師と人形は仲のいい恋人同士であると誤認していた。もっとも周囲の人間は彼を人形と認識していなかったが。

 

「寝癖ついてるよ。可愛い」

 

「可愛くないの! 自分でやるから」

 

 人形に起こされ人形師は慌てながらも髪を櫛で梳かす。息を吸うように好意を示す彼に真っ赤になりながらタジタジになっていた。人形師は色恋に無縁な人生を送っていたためめちゃくちゃ好みの男に口説かれるのに耐性が無いのだ。

 

「可愛いのに」

 

「っ……あー、もうっ。着替えるから部屋から出て!」

 

「手伝うよ?」

 

「ばっ、ばか! 必要ないから部屋から出なさい!」

 

「はーい」

 

 さらっととんでもない事をいう人形に人形師はへにゃへにゃした声で怒ると人形は渋々部屋から出ていった。

 

「はあ……心臓が保たないわよ……」

 

 朝から超絶美形に起こされただけでなく髪まで優しく触れられ人形師の頭はパンク寸前であった。

 

(あれは人形あれは人形あれは人形あれは人形あれは人形あれは人形……)

 

 人形師はそう自分に言い聞かせながら着替える。着替え終わったあとに部屋から出ると焼けたパンとベーコンの香りがして寝起き直後で空のお腹がぐぅと鳴く。

 

「おはよう。朝ご飯出来てるよ」

 

「う、うん……いつもありがとう……」

 

 人形が作った二人分のトースト、ベーコンエッグにサラダがテーブルに並べられ人形師は席につく。好みの焼き加減のトーストやベーコンエッグに上機嫌になりながらふと向かいに座り同じ食事を取る人形を見つめた。

 

「それにしても不思議よね。人形なのに食事出来るなんて」

 

「君が食事の時に僕を向かい側の席に座らせてくれただろう? 美味しそうに食べる君を見て一緒に食事したいなって思ったからきっと神様が叶えてくれたんだと思う」

 

「……その話は言わないでよ恥ずかしいから…………」

 

 幸せな記憶のように話す人形に反して人形師は羞恥心を抱いていた。いい大人が等身大の人形をいそいそと運びこうするの新婚みたーい☆と妄想しながら食事を取っていたのが今にしてみると小っ恥ずかしいのだ。

 

 ちなみに添い寝とかその他諸々もしている。彼女は割と行動派であった。ただその人形が意思を持ってしまったため大部分は黒歴史になっているが。

 

「ねえ」

 

「なに?」

 

「好きだよ」

 

「むぐっ……!? ごほっ、ごほっ」

 

 朝食を食べている真っ只中に告白され人形師は動揺してパンを喉に詰まらせそうになり咳き込む。

 

「わっ、大丈夫かい? はい牛乳」

 

 人形は空になったグラスに牛乳を注ぎ人形師に手渡すと人形師は一気にそのグラスに入った牛乳を飲み干した。

 

「いい飲みっぷりだね」

 

「ありがとよ! ……じゃなくて! そういう事急に言うのやめて言ったでしょ!」

 

「……? 愛してるって言うのは控えたけど」

 

「……っ……好きも愛してるも似たようなものでしょ! 心臓が破裂しかねないから言わないでよ……」

 

 意識しすぎてこのままだと死ぬわ自分と人形師が深呼吸しているといつの間にか人形が傍に近寄り抱きしめてきた。

 

「大丈夫、ちょっと鼓動は早いけど正常だよ」

 

 人形は耳を人形師の胸辺りにポスンとつけその心音を聴く。幸せそうに目を細める人形に人形師は更に真っ赤に頬を染めた。

 

「どさくさに紛れて何してるのよスケベ!」

 

「心臓が破裂しそうって言うから大丈夫か確認してるだけだよ」

 

 と言いつつもちゃっかりと頬擦りして胸の感触を堪能している人形に人形師はばか、えっち、すけべとプンスカ怒りながら人形を胸から引き剥がそうとする。その瞬間、眩い光が二人を包んだ。

 

 

 

 

 

「は?」

 

 人形師が意識を取り戻した瞬間、目に映るのはピンクの天井だった。

 

「な、何ここ……というかなんか重い……って!?」

 

 ずしりと体に重みを感じ視線を天井から落とすと人形が自分の体に覆いかぶさった状態であった。抱きついた体勢で飛ばされたせいで押し倒すような形になっていたのだ。しかも顔は胸に埋もれたまま。

 

「ん……なんか暗い……あと柔らかい…………」

 

 状況をまだ理解出来ていない人形はもぞもぞと動く。その際に手がベッドから人形師の体へと動きそのふくらみに触れる。

 

「ひゃあ!? ちょっと! どこ触ってるの!」

 

「え……あ。ごめん」

 

 人形としても意図していないものだったのか珍しく頬を赤らめている。が、決して胸から手は離さずむしろ何度も指を動かしている。

 

「謝りながら揉むなばか!」

 

「ごめん。理性より欲望が勝っちゃった」

 

「勝つな! んっ……やめてってば……変な感じになるでしょ……っ」

 

「んー、でも変な雰囲気の方がいいみたいだよ?」

 

「え」

 

 人形が指差す方に視線を送るとそこには『セッ○スしないと出られない部屋』という文字が掲げられていた。

 

「……これ、あんたの悪戯じゃないわよね?」

 

「そんなわけないじゃないか。こんな手の混んだ部屋用意するよりも君を夜這いした方が早いし」

 

「……まあそうね」

 

 毎晩一緒に寝ようと人形がベッドに入り込むのを阻止している人形師としては納得のいく返答に頬を熱くしながら頷く。すると人形は人形師の額に唇を寄せる。ちゅっというリップ音と共に額に柔らかい感触が伝わった。

 

「どうする?」

 

 その囁きは熱を孕むものだった。既に火照る体と引きずられる心を理性で押し留めながら人形師は口を開く。

 

「そ、そもそも……あんたそういうこと出来ないでしょ!」

 

「……出来ない?」

 

「だって私あんたを作った時…………ペニ……せ、性器作らなかったもの!」

 

 人形師は男の体については人形を作るため筋肉や骨や皮膚などの表面上のものは研究していたがそういったプライベートな部分の知識は皆無であった。そのため理想の恋人的人形を作る時も悩みはしたもののそういった機能をつけることをやめたのだ。

 

「そうだったね。でも僕が動けるようになってからなんか生えたんだ」

 

「生えた!? 何言ってるの!?」

 

「ほら」

 

「え……わー!?」

 

 人形がズボンを下ろすとそこには男の象徴であるソレがしっかりとあった。しかもなんかちょっと『反応』している。初めて見るソレに人形師は餌をもらう金魚のように口をパクパクと開閉する。

 

「……わぁ……」

 

「うん。だから出来るよ」

 

「……で、でも人形だし……あんたとそういう事は…………」

 

「どうして? 前は動けない僕を横に寝かせながら僕の名前を呼んで果てていたりしたじゃないか。僕に愛される妄想をしながら自分を慰めていたんじゃ」

 

「そ、そそそそそんな事もあったけど! しちゃったけど! でもあんたが私を好きなのは私があんたに好き好き言って構い倒してたからでしょ! 今はそうでももっと外の事を知ったら……」

 

「他の人を好きになるかもしれないって?」

 

「……うん」

 

 人形師が人形に心惹かれながらも拒絶していた理由。それは人形が外の世界を知ったら、沢山の事を知ったら自分を見なくなるのではないかという恐怖心であった。口に出すのは情けなくて今まで口に出していなかった弱音を吐くと人形はため息をついた。そのため息に人形師はビクリと体を震わせる。

 

「僕は君から沢山の愛を貰った。そんな君を愛しいと心から思っているからこうやって生きているんだ。君への愛が失われたら僕は再び物言わぬ人形に戻るだろう。僕の魂は君への愛で出来ているんだよ」

 

「あ、愛って」

 

「話したい、触れたい、傍に居たい、一つになりたい。欲望とも言うのかな。君にとってこの感情が迷惑だというなら……僕は元の姿に戻るけど」

 

 しゅんと眉を下げ離れようとする人形に人形師は慌てて抱きしめる。

 

「迷惑なわけないでしょ! 普段つい離れてとか恥ずかしい事言わないでって言っちゃうけど全部照れ隠しだから! 本当は私だってあんたのこと……好きだから。だから……」

 

 必死に愛情を伝えようとする人形師に人形は嬉しそうに微笑み今度は額ではなく唇にキスをする。そしてそのまま押し倒した。

 

「嬉しいな。じゃあ……僕が君のことをどれくらい好きか教えてあげるね」

 

「え」

 

 それから人形師はまさに溺れるほどの愛情を教えられくたくたになって動けなくなってしまい、そんな人形師の世話をいそいそとしながら人形は人形師をお姫様抱っこで抱え部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

「いやー、人形に魂が宿って実際に動くなんてスゴイですな。長く生きてきたけどここまで人らしく振る舞う無機物は初めて見ましたぞ」

 

『……はい。大変珍しいケースかと。他の方が知ったら大騒ぎになるでしょうね』

 

「まあ彼女が言わないかぎりバレようがないので大丈夫でしょ。なんの禁術も無しに魂を宿らせるなんてねぇ。凄い愛ですな。人形師クンと人形クン、両方の愛あってこそでしょうな!」

 

 奇跡って凄いですなあとはしゃぐ魔族に水晶玉は躊躇いながらも話しかける。その声は少し震えていた。

 

『そうですね。……あの。お聞きしたいことがあるのですが』

 

「何ですかな?」

 

『私は今回の人形と同様に生き物ではありません。ただの水晶玉なのに何故意思を持っているのですか』

 

 それが当たり前のことであったため疑問にも思っていたかった事を水晶玉は魔族に問う。自分が自ら考え話すことが出来るのは何故なのか。自分は何者なのかと。その言葉に魔族は真顔になり天井を見上げる。

 

「水晶玉クンが疑問に思うのも無理ないですな」

 

『はい。様々なデータベースを検索しましたが私のような無機物が意思を持ち話すという事柄に対する答えを見つけることは出来ませんでした』

 

「そっか。そうだろうね。君が意思を持っているのは禁術の影響だから」

 

『禁術……?』

 

「そう。とある魔族が禁術を用いて魂を水晶玉に移したんだ。もっともその時には魔族は弱っていて魂も朽ちかけていたから一部しか宿せなかったようだけど」

 

『その水晶玉が私……言われてみればデータにない女性の映像や声を感じる事が何度かありました。その方が私に魂を……どんな方なのですか?』

 

「……名前はエレノア。俺と同族の淫魔で──」

 

 

 

 

「俺の婚約者だよ」




次回からは最終章 魔族と水晶玉編となり今までの○○組目〜という表記ではなくなります。

最終章は魔族の過去と水晶玉の謎が明かされる章であり物語のコンセプトであるセッ○スしないと出られない部屋とそこに閉じ込められた男女が登場しませんのでご了承ください。
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