セッ○スしないと出られない部屋に男女を閉じ込めるのが性癖の魔族に巻き込まれた話   作:柚香町ヒロミ

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今回は(比較的)シリアスめです。

騎士団エアプなのでご了承ください。




六組目 〜副団長と団長〜

 

 

 

 

 

 

「本気で言っているのか」

 

「はい」

 

「その道は地獄だ。戻れなくなるぞ」

 

「構いません」

 

「これまでの自分を捨てることになるのだぞ!!」

 

「それでもわたしは……この道を選びます」

 

 わたしは一つに括っていた金の髪を持っていたナイフで切り落とす。パサリと落ちた髪を一瞥した後わたしはお父様と代々伝わる家宝の剣の前に立つ。

 

「……お前は愚か者だ」

 

「……はい」

 

「いいか。これよりお前は男であらねばならぬ。男として生き、男として死なねばならぬ。それがどんなに辛くともだ」

 

「はい。お父様。……いえ父上。わたしは……私は男として生きましょう。このアルシュタインの剣に誓って」

 

 雄々しくて逞しくて厳格な父上。けれどその時の顔はとても辛そうで。わたしは父上を悲しませたくなくて渡された家宝の剣に誓いました。すると父上はもっと辛そうな顔になって困ってしまいました。違うのです。違うのです父上。これはわたしが背負うべきものなのです。だから自分をお責めにならないで。自分を嫌いにならないで。わたしは大丈夫です。これから先どんな事があろうともわたしは────。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

「あら隊長さん。起きたのかしら」

 

「ああ……寝ていたのか、私は」

 

「ええ。……何か悪い夢でも見たの? うなされていたけれど……」

 

「昔の夢を少し、な。大丈夫だ」

 

「ならいいけど……寝るならソファじゃなくてベッドにしなさいな。体に悪いわよ」

 

「ああ、そうだな。仕事が終わって一息つきたかったんだが……寝てしまっていた。気をつける。今日の予定に変更はあるか?」

 

「……もう。ないわよ」

 

 とある王国騎士団の一室で団長と副団長が話をしていた。ソファで仮眠を取っていた団長が目を覚ますために顔を洗っていると副団長はさり気なくタオルを手渡す。それに礼を言うそのやり取りは息を吸うように自然なもので二人の付き合いの長さを感じさせるものだった。

 

 女性と見まごうほど中性的な顔立ちで苛烈さを持ち合わせた団長とすらりとした長身と精悍な顔立ちで女性的な振舞いをする副団長。相反する二人であったが馬が合いとても仲が良かった。

 

「では昼、クレイトンに魔獣狩りだな。気を引き締めていこう」

 

「もちろん」

 

 トングーとは猪から進化した魔獣であり農作物を食い荒らし一度食事をすれば木の根っこすら残こる事はない。その上剣すら弾く強固な皮膚を持つ恐るべき害獣であった。そんなトングーの大きな巣がクレイトンの森にあると報告があり騎士団が討伐する事になったのだ。

 

 二人は昼時の魔獣トングーの討伐に備え部下達と合流し目的地であるクレイトンに向かうのだった。

 

 

 

 

 

「トングーは事前に説明した通り頭への衝撃に弱い! 重点的に頭を狙え!」

 

「「「了解!!」」」

 

「こいつらは瞬く間に繁殖する!! 一匹も逃がすな!! 囲め囲めぇー!!」

 

 騎士団によるトングーの討伐は瞬く間に終わった。統率が取れていたのはもちろんのこと団長自ら先陣に立ち怒濤の勢いで魔獣を一撃で蹂躪していったのだ。副団長もそれに続きほとんど怪我人が出ることなくトングーは殲滅された。

 

 殲滅されたトングーは解体され皮や骨は防具や武器となり肉は臭みを消した上で騎士団と領地に振る舞われる。害獣が一転して恵みをもたらすのである。 

 

 無事解体作業も終わり団長と副団長は部下達に指示をした後テントで一息ついていた。

 

「無事終わってよかったわね」

 

「ああ、そうだな。誰も犠牲にならずに済んでよかった」

 

「ホントにね。はいお水」

 

 副団長が団長に水の入った水筒を差出しそれを受け取った団長は喉が渇いていたのか一気に半分ほど飲んだ。

 

「あらいい飲みっぷり」

 

「お前も飲んだらどうだ」

 

「そうね」

 

 団長が差し出された水筒を副団長が受け取ろうとした瞬間、テントの中が光で包まれる。敵襲と思い臨戦態勢を取った二人だが……その光は転移の魔術であり発動した時点で抵抗など無意味であった。

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

「え……ウソでしょ……ここって……」

 

 二人が光で目を瞑った後目を開けるとそこは辺り一面ピンクの部屋だった。壁も、ハート型のベッドも、テーブルも、キッチンも部屋の至る所がピンクで構成されており出入り口のドアや窓は見当たらない。そして部屋で一番自己主張している掲示板にはデカデカと文字が書いてある。

 

『セッ○スしないと出られない部屋』

 

と。

 

「な……何を馬鹿な。私達は男同士だぞ」

 

 そう抗議するように団長は抗議の声をあげるが内心は冷や汗をかいていた。騎士団内でも噂になっているから知っているのだ。ここは、互いに思い合う『男女』が閉じ込められる部屋だと。

 

(拙い。ここは男女しか入れない場所だ。私が女である事がバレてしまう……それに……密かに想いを抱いていることも……)

 

 団長は表向きは男として振る舞っているが女であった。代々優れた騎士を輩出する名家、アルシュタインに生まれた彼女は幼い頃当主を継ぐ事を誓った。

 

 アルシュタインの当主となる条件は至ってシンプルだった。

 

 ──誰よりも強く、優れた男であること。

 

 彼女はアルシュタインに生まれた使命と己の贖罪のため当主を継ぎ実力を示した上で騎士団長へと上り詰め、その過程で副団長である彼と出会った。副団長は出会った時から女口調で驚いたものの強く聡明ですぐに仲良くなった。それが親愛から恋に変わったのはいつからかは彼女にもよく分かってはいなかったが。

 

「……知ってるわよ」

 

「なに?」

 

「アナタが女であることは知ってるわ。一目見た時から分かってた」

 

「えっ」

 

「でもワケアリなのも分かってたから黙っていたわ。それに……アナタは性別とか関係なしに強かった。実力も心もね。だから好きになっちゃったんだけど」

 

 団長が性別がバレていた事に動揺していたら更に心乱す事を告げられる。この部屋に閉じ込められた時点でもしや、と思っていたが本当にそうだと分かると団長のいつも涼やかな表情も赤く初々しいものへと変わる。

 

「お前は男が好きなのかと……」

 

「よく誤解されるけどアタシ女みたいな口調なだけで自分の事は男だと思ってるし普通に女の人が好きよ? この口調なのは小さい頃に母親が亡くなって寂しがる弟や妹のために母親のマネをしてたらそれが自然になっちゃっただけで」

 

「……そうだったのか」

 

「そうよ。紛らわしいってよく言われるわ」

 

「……そ、そうか」

 

 団長は副団長と仲がいいが性に関わるプライベートな事は自分の性別を隠している事もあって避けていた。色々と誤解していたなと反省していると副団長の距離が近くなる。

 

「それで、どうするの?」

 

「何がだ」

 

「シちゃう?」

 

「!?」

 

 副団長に腰を抱かれ引き寄せられてビクンと体が跳ねた。鎧越しとはいえここまで意図的に近い距離に詰められたのは初めてだったのだ。心なしかその視線は含みのあるもので団長の心拍数は上がっていく。

 

「……しかし……いや、そうするべきなのか。このままこの部屋にいるわけには……業務も滞る……皆に迷惑を掛けるわけには……」

 

『あ、その部屋にいる間は時の流れ止めて外への影響は無いようにしておきましたぞ。凄かろう』

 

 任務や使命を理由に身を委ねようと考えていたら魔族から暗に逃げるなと言われ自分が恥ずかしくなると同時に魔族への憤りを団長は感じた。

 

「何故その超技術をこんな事のために使うのだ!?!? 出せ!!」

 

『強いて言えば性癖ですな。ダメですぅ。ダシマセーン。はよ素直になれ。ここでは家とか使命とか重荷とかは無いんですぞ』

 

「…………」

 

 ありのままの自分になれと言われ団長は葛藤した。偽りだらけの人生だったからだ。不安になって副団長をちらりと見ると副団長は何も言わずに優しい眼差しを団長に向けていた。

 

(ああ……その目は狡いな。何もかも受け止めるというその目は……)

 

 相談した時や愚痴を溢した時向けられるその眼差しを見ると団長はこの上ない安堵を感じていた。それが心を許す事なのだと今になって痛感し団長は覚悟を決めた。

 

「副団長」

 

「なあに」

 

「少し昔の話をしたい」

 

「……ええ。どうぞ」

 

 団長がベッドに座ろうと副団長を誘うと副団長は団長の隣に座る。数秒の沈黙の後、団長が目を伏せながらぽつりぽつりと話し始めた。

 

「私には双子の兄がいた」

 

「……いた、なのね」

 

「ああ。仲のいい兄妹だったと思うよ。狩りにもよく行った。だが……ある日兄は死んだ。魔獣に襲われていたわたしを護ってな」

 

「……」

 

「その魔獣は……わたしが狩った魔獣の子どもの母親だった。わたしが許せなかったんだろうな。狩りの翌朝匂いを辿って護衛すら薙ぎ払いわたしに向かってきたんだ。その時の傷がこれだ」

 

 団長は守り以上に自分を大きく見えるための堅牢な鎧を脱ぎ上着のボタンを開ける。団長の胸元には痛々しいまでの大きな爪痕が三本刻まれていた。

 

「その時兄が助けてくれて……相討ちだった。あの日わたしが狩りに出ようと誘わなければ……子どもを狩らなければ……兄に護られずともわたしが強ければ兄は命を落とさずにすんだのだ。両親は自分達がもっと実力のある護衛をつけなかったのが悪いと言ってくれたがわたしはわたしが赦せなかった」

 

 当時の事を思い出しているのか団長は拳を強く握り締める。悔やんでも悔やみきれない後悔である事を感じ取った

 

「アルシュタインの当主は代々男がなるのがしきたりだった。しかし残されたのは女のわたしだけ。だからわたしは言ったのだ。死んだのを妹に、『わたし』にしましょうと」

 

「……それは」

 

「当然父も母も怒ったよ。けれど同時に揺らいでもいた。特に父は兄が死んだと聞いた際何故お前の方がと洩らしていたからな。先祖代々繋いできたものを自分達が途切れさせてしまうのが怖かったのだろう。わたしは両親を説き伏せ男として……兄として生きることを決めた」

 

「じゃあ表向きは妹さんは……本当のアナタは死んだってこと……?」

 

「ああ。死んだはずだった。だが……私はお前の事が好きだ。男として、兄として生きる事を誓っていた私がただの女としてお前と共に生きたいと願うくらいに」

 

「団長……」

 

「……この部屋にいる間だけでいいんだ。……私をお前の女にしてくれないか」

 

「……ええ。分かったわ」

 

 団長の狂おしいまでの決意に副団長は頷き優しく唇を重ねる。そしてそのままベッドへと押し倒した。

 

「……アナタの本当の名前を教えてくれる?」

 

「ああ。わたしの本当の名前は──。」

 

 団長がその名前を口にすると副団長は愛おしげにその名で団長を呼んだ。久しぶりにその名を呼ばれ団長は涙を流しながら副団長を抱きしめた。ベッドの上にいるのはただの想い合う二人の男女だった。

 

 

 

 

 

「そろそろ出よう」

 

 女は乱れた髪を整え衣服と鎧を身に纏いベッドから降りる。その瞬間、女は団長へと戻っていた。その事を男も認識しており分かったわと副団長へと戻る。それを確認した上で団長は副団長に向き直る。

 

「私は男だ。これからもずっと」

 

「……そう」

 

 副団長はもうやめてしまいなさい、男のフリも戦う事も似合ってないのよと言ってしまいたい気持ちをグッと堪える。なぜならそう告げる団長の顔は副団長にとって息を飲むほど美しかったからだ。美しいものを美しいまま愛する事が彼の信条であり誇りだった。

 

「……女としてお前に愛されるのは幸せだった。諦めていた女としての幸せを感じられた。魔族の悪趣味な戯れがきっかけなのは癪だが……私は後悔していない。だが私はアルシュタインを継ぐものとして……そして騎士団長として生きていきたい」

 

「それならアタシが支えるわ。アタシは副団長ですもの」

 

「ああ。ありがとう。その言葉があればわたしは私として生きてゆける」

 

 そう微笑む団長の顔はとても晴れやかで副団長は喜びと少しの哀しみを混じえながら微笑み返す。一度交わった男女が背を預ける戦友へと形を戻し部屋から出ていく。

 

 ──それがたとえ心から愛し合った者同士だとしても。

 

 

 

 

 

『……これでよかったんでしょうか』

 

「んー、なにが?」

 

『あの二人は結ばれたのに結ばれていません』

 

「そうかな? あれも一つの愛のカタチとも言えますぞ」

 

『……愛、ですか』

 

「ただ恋仲になる事だけが幸せって事じゃないんですぞ。まあ俺もどちらかというと団長クンと副団長クンがストレートにくっついてくれた方がメシウマでしたが」

 

『彼女達は幸せなのでしょうか。互いの気持ちに蓋をして』

 

「それを決めるのは俺達じゃないですからな。団長クンが女として生きるには……責任感と罪悪感を取り除かなきゃならない。んでその方法はお兄さんを蘇らせるしかない。」

 

『そんな事が出来るのですか』

 

「俺がどんなに強くて、どんなに金持ちで、どんなに優秀でもそれは無理ですな。……そんな事が出来たら俺だって」

 

『……?』

 

「……とにかく。俺はそこまで万能じゃないんですな。団長クン達がこれからどうなるかは団長クン達次第なわけ」

 

『……ならばせめてこの先の二人が幸福であって欲しいです』

 

「そうだね。俺もそう思うよ」

 

 魔族と水晶玉は遠い、遠い王国に思いを馳せる。願わくば団長と副団長の行く末が幸せなものであるようにと。 

 

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