奏で彩る7=16   作:チクワ

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寝過ごして25時投稿が出来ませんでした。
すいませんでした。


愛の圧と、10時の答え

 今日もまた、気怠い体を起こして店に出る。

 顔を洗って歯を磨いて、服を着てエプロンを着けて。

 

 あの日から数日が経ったが、あれ以来僕はナイトコードへログインしていない。

 単純に気まずいのだ。

 一応『しばらく出れない』とはメッセージで伝えてあるし、無断欠席とはなっていないだろう。

 

 加えて、笑顔は僕の顔から消え去った。

 毎朝毎朝、鏡の前で作ろうとしても残るのは虚しさだけ、そこに何もありはしない。

 

 宵崎さんの家に行くなんてもってのほかだ。

 誰が振った男に世話されて嬉しいものか。

 

 ......結局、僕は前の生活に戻ったのだ。

 起伏なくただ仕事をこなす生活。

 むしろ笑顔を作れ無くなったから、退化しているか。

 

 『━━正解は、AXIA!

 クイズ王、ギリシャ語すらも射程圏内ー!』

 

 テレビでは、先日のクイズ番組の再放送をやっている。

 特に面白味もないが、耳だけは傾けておく。

 

 ああ、何も、何も━━

 

 「楽しくない。」

 

 

 

 今日も何事も無く仕事が終わりそうだ。

 花壇に水をあげるため、ジョウロに水を入れる。

 

 ......手元に目を向けると、火傷の跡があるのに気付いた。

 昨日の時点では無かったものだ、おそらく今日できたものだろう、気づかなかった。

 熱いと感じた事が無かったし、あまり印象が無い。

 いつやってしまったか、記憶を思い出しながら外へ出て、花壇に水をやる。

 

 多分カレーをよそっていた時だろうか、なんて考えていると、不意に後ろから確かめる様な声で話しかけられた。

 

 「......もしかして、()()くん?」

 

 藤田。

 その言葉を聞いて僕はジョウロを傾けるのをやめた。

 

 藤田 咲と言うのは、僕の古い名前だ。

 この名前を知ってるのはおじさん、元親、元妹、担当医。

 他に知っているかもしれない人と言われれば......

 

 「誰...ですか?」

 

 わからない、誰だ?

 

 

 「私だよ!

  ()()()()の時にあなたが庇ってくれた、篠田 凛(しのだ  りん)だよ!」

 

 ああ、と納得した。

 彼女は僕が子供の頃、ものすごい圧で『将来結婚する』と約束させられ、色々あって事故から庇った女性。

 

 篠田さんだ。

 

 ......名前はわかったが、いかんせん何故彼女がここにいるのか。

 どのツラ下げてきたのだろう。

 僕が怪訝な顔して聞くより早く、彼女が口を開く。

 

 「いやあ、探したんだよ?

 お見舞いに行こうと思ったら、ちょうどリハビリでいないって言われ続けて、結局あなたはどこか行っちゃって!

 ...今日はね、約束を果たしにきたんだ!」

 

 彼女は僕の後ろを見てニヤリと笑ってから、少し声を大きくして言った。

 

 「わたしと付き合ってよ。

 結婚...は流石に気が早いと思ってさ、付き合うからなら良いかなーって!」

 

 なんだなんだと、周りの家から人が現れる。

 ......この人は何をしたいのか、僕には全く持って分からない。

 

 別に怒りとか、そう言うのを向けたりと言うわけじゃ無くて、本当に何がしたいのか分からないのだ。

 宵崎さんを振った時にも行ったが、僕はラブもライクも分からない。

 彼女の言う約束... 結婚、とかは僕の同意があって結ばれたものじゃなくて、彼女の『大好き大好き大好き!』って感じの感情の留めどころ、いわゆる逃げ場を作っただけだ。

 

 正直に言って最低だが、小学生卒業までには彼女の愛も他人へ移り、僕へ向かうことも無くなるだろうと思っていた。

 まあそんな事は無く、今目の前にいる彼女はその矢印を未だ僕に向けているわけだが。

 

 とは言え、ちょっと狡猾では無いだろうか。

 言質を不特定多数に聞かせる様に大声をだして野次馬を呼び、今彼女は笑顔で僕の返事を待っている。

 

 ...僕は今、非常に好き嫌いに対してセンシティブだ。

 9年ぶりに出会って唐突に好きの返事を求められ、他人を使った方法でがんじがらめにしようとしてくる。

 

 好きでは無い、その方法は。

 

 「......今、答えは出せません。

 そもそも衆人環視の状況で()()に答えたくありませんし、今は仕事中なので帰ってもらえると━━」

 

 会話の最中ではあるが、野次馬を退かせる為に振り返る。

 振り返った視線の先、いの一番に目に入ったのは、こちらを見る白髪の髪。

 彼女は気付かれるや否や、脇目も振らず逃げていく。

 

 「っ! 宵崎さん!」

 

 気づけば他人の目も気にせず、名を呼び追いかけていた。

 

 「......ふーん。 

 まあ、いっか。

 どうせ彼と彼の持つ物は、私の物になるんだし、ねえ?」

 

 

 

 「......いな、い。」

 

 息を切らして壁に寄りかかる。

 焦りすぎたか、ことごとく道にあった障害物に引っかかり転んだ。

 茶色に汚れたシャツをはたき、きた道を戻って行く。

 肘を見れば袖を捲っていたせいで守るものがなく、転んだ拍子にしたであろう怪我が痛々しく目を刺した。

 

 言い訳をしようってんじゃ無い。

 ただ、ごめんと言いたかった。

 

 あんな顔をさせて、勇気を出して言ってくれた告白を僕の都合で切り捨ててしまって。

 許されないとしても、ただ謝りたかったのだ。

 

 ......だからこそ、逃げられたと言う事実はセンチメンタル

になっていた僕の心をガリガリと削る。

 

 「......辛い、な。」

 

 既に閉店時間は過ぎている。

 足早に、けれど心は重く店へと戻った。

 

 

 『今日はありがとう!

 また来るね!』

 

 肘の怪我を流水で洗いながら、テーブルの上に置かれたメモ用紙を見る。

 どうせ篠田さんが置いていった物だろう。

 さっさとゴミ箱に捨て、服を着替える。

 

 もう眠い。

 いつもならもう寝ているだろうが、今日はある人に連絡を取ることにした。

 ひさびさにスマホの電話アプリを開き、『主治医』と書かれた部分をタップする。

 

 電子音が光る板から流れ始め、2コールで人の声が耳へ通ってきた。

 

 「もしもし、要さん。」

 

 『おお、もしもし!

 久しぶりだぁねえ、咲くん!』

 

 「ちょっとうるさいね。」

 

 『酷くない?!

 ......で、君が連絡してくるって事は、何かあったのかい?』

 

 「...うん、少しね。」

 

 やはり、と言うかなんというか。

 9年も寝ている僕を見ていれば、声色で多少のことは分かるらしい。

 僕はこの世に2人しかいない、気軽にことを話せる人間にここ最近のことを話した。

 

 『......うーむ、何というか。

 ラブとライク、愛と友情は難しいね。

 君に関しては親から受けるはずの愛をほぼ受けてこなかったから、より難しい。』

 

 「......僕は、どうやって答えるのが正解だったのかな。」

 

 『正解と言えるものは無いと思うよ、愛とかの話題に関しては。

 ...正解なんてあったら、僕はこの歳で独り身じゃないと思うし!

 何でかなぁ...?』

 

 「話長くなる?」

 

 『ああ大丈夫。』

 

 画面の向こうで深く息が吐かれ、一転真面目な声色が聞こえてきた。

 

 『結局、その人が君にとって何なのか。

 そこに尽きるね。

 今もその子に未練がある、一緒にいて癒されていくと言うのなら、それは愛、Loveなのかも。

 例を挙げるなら、僕と君の関係性は信頼と友情、likeだ。』

 

 「...そうなんだ、なら、僕の思いは━━」

 

 

 通話を切り、メモ帳アプリを起動して文を打ち込む。

 あの日曜の前に送られてきたメロディーに合わせる様に、思いの丈を書き込んでいく。

 

 担当医、と言うか(かなめ)さんには感謝してもしきれない。

 今度店に来た時にでも、コーヒーをサービスしよう。

 

 書き終わってベッドに身を投げ出す。

 スマホがブーと鳴った。

 

 見てみれば、確認をとりたかったことが要さんからメッセージアプリで送られてきた。

 一通り見て、軽くため息をついた。

 

 既に1時を過ぎているが、心の昂りが体を休めることを許さず眠らせてくれない。

 あまりに暇なため、棚を開き箱を取り出した。

 

 「......やるか。」

 

 箱を開けば、そこにはぬいぐるみ作りの簡単セット。

 気合いを入れて開始して、終わる頃にはもう朝日が昇る。

 

 

 「眠い。」

 

 あの日見た笑顔が、最後の笑顔になるかもしれない。

 でも、僕は答えを伝えたいから。

 

 

 

 

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