「......よし。」
昼ご飯を作り終わり机に並べ、またいつものように部屋の扉を叩く。
呼び出しから少ししてゆっくりと開かれた扉からは、睡眠から目覚めのそのそと歩く奏さんが現れた。
「ありがとう......」
「いえ、ご飯食べたらシャワーでも浴びてくださいね。」
いくらかまだ眠気の残る奏さんを椅子に座らせ、風呂場に代えのジャージとタオルを置いて僕はソファーに座る。
時計も見れるし、もそもそとご飯を食べる奏さんも見れるまさにベストポジションな場だ。
「せーつーなさーはー、この胸のアクーシアー......」
気の抜けた声で歌を歌いながら、その時を待つ。
手に持ったスマホには通販サイトが映っており、トップにはでかでかと『数量限定、あの時の子供達へ!』と書かれたバナーが目を引く。
まあなんというか、コレだけは欲しい。
9年前、僕が憧れていたヒーローの変身アイテムなのだ。
こう、ウッキウキで遊ぶわけではないが、お守りがわりに持っておきたい。
そんな事を考えていると、予約開始時刻になる。
出来うる限りの素早い動きでバナーを押し、予約画面へ移る。
結果は━━
「ご馳走様。」
「はい、シャワー浴びて少ししたら行きましょうか。」
食べ終わった奏さんから皿を受け取り、シンクに優しく置いた。
風呂場へ向かう奏さんが足を止めて、こちらへ振り返る。
「...何かいい事でもあった?」
「ええ、今さっき。」
いい事はあった。
2ヶ月後、届く日が楽しみでしょうがない。
奏さんがシャワーを浴びている間、黙々と皿を洗う。
着々と奏さんの食生活を改善できているだろうか。
以前までの食事はとんでもなかった、朝昼晩下手すればカップラーメンで、そこにエネルギーメイトやら缶詰やら...
『なんで?』と言いたくなるその食生活で倒れてもらっては困る。
「......咲、ちょっと...」
目線の横に映るカップラーメンの大群にため息を投げかけながら皿を洗っていると、申し訳無さそうな声が風呂場から聞こえて来た。
ちょうど皿洗いを終え、何事かと風呂場へ向かう。
「はい、なんです?」
「その、えっと......
下着が無い...」
ピシリと時が止まる。
たしかにジャージは置いておいたが、下着までは用意しなかった。
と言うか男が女性の下着を洗ったり普通に用意するのはマズイのでは?
そんな考えの元で揺れる心を律し、今できる対処を考える。
『僕がさも当然のように持って来て手渡す』か、『僕はリビングの方で目を閉じて、その間で奏さんに取りに行ってもらうか』だ。
後者しかないだろ。
「リビングの方で目を閉じてるので、ちょっと自分で取りに行けますか?
多分クローゼットの下に......」
「うん、わかった。」
リビングの方へ戻り、目を手で隠す。
それでも耳からは情報が入ってきて、水を含んだペタペタと言う足音が雑念を増幅させてくる。
「いいよ」と声がかかるまで、誰も知らない死闘が繰り広げられた事は誰も知らない。
知らない方がいい。
そんなこんなで今僕達はシブヤの一角、あるアパレルショップへ来ている。
ある人の誘いにより来たのだが、なんとも僕が来るには場違いな場所だ。
カラフルで可愛らしくて......
その中で無表情の男が椅子に座っていると言うのは、滑稽なものである。
「じゃーん!
どう、咲! 可愛く出来てるよね!」
まあここに来るよう僕達を呼んだ本人、暁山さんはいきいきと奏さんを着せ替え人形にして楽しんでるわけだが。
ストレス発散をしたかったのだろうか?
「どう、かな......」
だが、そのコーディネートは確かなものだ。
今までジャージ姿に慣れすぎていたと言うこともあるが、こうして可愛い服に身を包むとさらに魅力的に見える。
白のブラウスに紺のスカート、腰まで伸びる髪を涼しげにまとめたシュシュ。
これはもう。
「奏さん、すごい可愛いですよ。」
可愛い。
すごい可愛い。
「......うん。」
顔を真っ赤にして口を手で押さえ、恥ずかしがる姿も、何から何まで可愛いのはもはやずるいのでは?
ただ、後ろの方でニッコニコな暁山さんは......
まあ、今回はありがとうだ。
「じゃあ今度は咲の番だね!」
「なんで?」
なんで?
確かにこの店には男物もある。
だけど僕に似合うものがあるか?
申し訳無いが、本当に申し訳ないがこれはちょっと断らせてもら━━
「咲、やってもらおうよ。」
逃げようとした僕の背中に返しの付いた釣り針が刺さり、リールによって引き戻される。
好きな人を相手にして逆らえない。
「はい......」
僕は奏さんの声という手錠をかけられながら、のそのそと試着室へ入っていった。
「ありがとうございましたー!」
袋を持ち、店を出る。
結局奏さんは暁山さんに勧められたものを買い、僕は......
着させられたもの5着ぐらいの中から、4着買ってしまった。
ここに来ての金額使用量がすごい。
これからはちゃんと節制しなければ...
「じゃあ、地下道のほう通りながら帰りましょうか。」
「うん。」
まあでも。
「━━ふふっ」
自身の口を両指で吊り上げ、2人で笑い合う。
彼女のこの笑顔が見れるなら、もうしばらくは良いかな。