奏で彩る7=16   作:チクワ

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幽霊怖し、10の友

 

 「ひえぁぁぁぁあ!??」

 

 トンネルの中、腹の底から捻り出した叫びがこだまする。

 それの元となったのは木の葉を踏み締めて行く虫だが、このトンネルの逸話を聞かされた後ではその音すらおばけの仕業かと思ってしまうものだろう。

 

 何度目かの叫びを出して憔悴しながらも、僕は何故このトンネルに来たのか思い出していた。

 

 初めは奏さんのスランプによる物。

 まあそれならいつもと違う所へ行ったり、気分転換をするとかでどうにかなっただろう。

 ただ、そこで待ってましたと手を挙げたのが暁山さん。

 思えばここでその行動を疑い、問い詰めておくべきだった。

 

 そんなこんなで集合した朝のシブヤ。

 眠そうな東雲さんにいつも通りの朝比奈さん、どこか申し訳無さそうな奏さんを僕が連れて、首謀者である暁山さんの指示した電車に乗った、までは良かったのだが。

 

 「今最も激アツな、心霊スポットでーすっ♪」

 

 「降ります。」

 

 完全にやられた。

 もはや降りることすらできず、首に縄をかけられた気分で歩く事しか、僕には許されていなかった。

 

 何故ここまでこのミステリーツアーにマイナスなのか。

 理由として、単純に僕はおばけがダメだ。

 普通に暗闇にぼうっと光る足のない人とか、死ぬほど怖いだろう。

 まあそれだけじゃなく、昔の友人とのアレも━━

 

 

 カサッ

 

 「ごめんごめんごめんごめん......!?」

 

 虫はダメだって、今全部の物事がおばけに見えるんだから。

 

 「咲、大丈夫......?」

 

 「だっだだだぁ大丈夫でふよ?

 でも今はこのまま手を繋がさせて欲しいなって......」

 

 こんな感じで、奏さんにも心配される程顔は引き攣っているし、奏さんの腕にピッタリとくっついていなければ碌に歩けないなんとも情け無い姿を僕は今晒している。

 

 マジで本当どうして朝比奈さんはそんな早く歩ける?

 それに追随していく暁山さんもわからない、怖いもの知らず過ぎないか?

 

 「いやあ、まさか咲がここまでとは......」

 

 「ただの古いトンネルなのに。」

 

 「本当に許さない。

 マジで不審者のが怖いし、おばけダメだよ......」

 

 もう敬語とか使えない。

 幸いなのは、東雲さんが僕と同じ感性を持っている事か。

 さっきから互いに視線を交わし、『ヤバいよね?!』『やばい。』と頷くだけでコミュニケーションをとっている。

 

 それを笑いながら見ていた暁山さんが、徐に口を開く。

 その悪戯に真面目を装った表情は、新しい恐怖が訪れることを予告していた。

 

 「そう言えば、ここに出るのは髪の長い幽霊なんだってさ━━」

 

 

 「なんでこう、恐怖を掻き立てるのさ......?」

 

 一連の話を聞き、さらに震え上がる。

 もう許してはくれないか、そう思いながらぎゅっと奏さんのジャージを握る。

 

 「ごめんごめん、でもほら出口が見えて来たよ!」

 

 その時、すぐ横でカランと音がする。

 前兆予兆一つなく、トンネル内に響き渡る金属音。

 シブヤの街中であればああ、そうと言った風にスルーも出来たが、ここは恐ろしき心霊スポット。

 そうはいかない。

 

 「きゃーっ!!

 なになに誰なになに!?」

 

 「〜〜〜!!??」

 

 「絵名?!

 急に暴れなっ...て、咲!?」

 

 パニックである。

 東雲さんはわちゃわちゃと暴れ、僕は声無き声を叫んで飛び退き、その先にあった旧トンネルなどに良くある扉へ激突した。

 けたたましい鉄の音がトンネル内を包む。

 ドリフターズのヒゲのテーマとか流したら、面白い絵面になると痛みの走る背中を押さえながら思った。

 

 「......タヌキ。」

 

 ......どうやら、タヌキが缶を蹴り飛ばした音、らしい。

 ある種の安心が体に張り詰めた糸を切り、のっそりと立ち上がった。

 が、今度は彼女がいない事に気づく。

 

 「奏さん、いない...?」

 

 「え、そんな事ある!?

 奏ー?! おーい!」

 

 返事が返って来ることはなく、ただ暁山さんの声がこだまするのみ。

 遠くには行っていないと思うが、迷っていたら大変だ。

 

 「僕とまふゆで見て来るよ!」

 

 「僕も行きます!」

 

 「咲は絵名を見てて。

 こっちは2人で大丈夫だから!」

 

 そうは言うが、僕は奏さんの彼氏だ。

 その関係性である以上、僕も探しに行きたいが━━

 

 「あー......」

 

 青ざめた顔でこちらを見つめる東雲さんを見捨てるほど、冷徹にはなりきれなかった。

 捜索は2人に任せ、こちらは固まっておばけに備える。

 

 ふと背後、出口の方を見れば、ゆらゆらと左右に動く人影。

 東雲さんは恐怖に怯えているが、僕の方は何故か震えが来ない。

 つまりこの人影は━━

 

 「な、なに、なに?!」

 

 「いや東雲さん、あれは...」

 

 「痛い......痛い......」

 

 「き、きゃあぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

 「絵名?!」

 

 「さ、咲の背中におば、おばけ...!」

 

 「いや、だからこれは━━」

 

 

 「奏さんをおんぶしてるだけですよ。」

 

 「え...?」

 

 「...驚かせて、ごめん。」

 

 

 トンネルおばけ騒動は無事ことなきを得て、ミステリーツアーは続く。

 神社を超え、廃校舎。

 巡っていくうちに段々とイメージがまとまって来て、今すぐにでもこのイメージを曲作りへ向けたい衝動に駆られる。

 

 でも、桜。

 あの桜を見る咲は、どこか儚くて。

 

 「桜、花の終わり......

 ......━━。」

 

 彼が最後に何を言ったのかは分からなかった。

 だけどあの目は、どこか後悔と悲しみと諦めを宿した目。

 思えば神社の時もそう。

 

 姉妹の話に苦い顔を一瞬だけ見せて、次にこちらを向く時にはもうその表情は微笑みへ変わっていた。

 

 思えば、わたしは彼のことを何も知らない。

 藤田という名前のことも、何故16歳にして喫茶店で働いているのかも。

 きっと、彼も瑞希の話していた人達のように、救われていない人なんだ。

 

 ならば、とわたしは心に熱を入れる。

 わたしはわたしの曲作り(出来ること)で、彼を救ってみせる。

 一つの決意を抱いて、わたしは帰りの電車へ乗り込んだ。

 

 

 電車に揺られ、みんなとは一つずれた席の車窓から外を見る。

 特に変わり映えのしない景色ではあるが、今はそんな景色を好んで見ていたい気分だ。

 ふと後ろを覗けば、暁山さん以外は疲れからかすうすうと寝息を立てて、眠気に体を任せている。

 

 まあ今日は疲れただろう、そこそこ時間もあるし寝ていてもらっても構わない。

 視線を車窓の外へ移す。

 

 今日は、ああ、久方ぶりに叫んで久方ぶりに()()()()をしてしまった。

 神社の姉妹の話もそうだが、何よりもあの桜か。

 校舎、散る桜、夕焼け。

 

 1()0()()()を思い出さずにはいられない。

 僕がおばけを怖がる原因、泣かなくなった理由の大元。

僕が庇った事故ではなく、目の前で人の、本当の親友が死んだ事故だ。

 

 『お前が何故泣く!!

 泣きたいのは私たち、泣きたいのは━━』

 

 「シンゴなんだ、か......」

 

 一言呟いて、膝下に開いた手を見る。

 その手のひらの中心にはデフォルメされた口のような傷跡が見え、意識せずとも出る震えを止めるために左手で強く手首を掴んだ。

 

 これは先程までと違い恐怖からくる物ではない。 

 

 「一年後も見れるかな...」

 

 ふと、思いが口から溢れた。

 きっと何事もなければニーゴのメンバーは一年後も健在だろう。

 ━━でも、そこに僕はいるだろうか?

 

 わからない。

 わからないからこそ、僕は歌って人を救おう。

 奏さんの用意してくれたニーゴという舞台の上で、溶けて転がり落ちるまで。

 

 「暁山さん。」

 

 「? どうしたの、咲?」

 

 「僕たち、友達ですよね。」

 

 「━━そうかもね。」

 

 「じゃあまた一年後も、みんなで遊びに行きましょうね。」

 

 背中合わせで喋っている都合上、表情は見えない。

 この申し出が彼を気まずい顔にしていないことを祈るばかりである。

 

 「......そうだね、みんなの予定が合えば、また!」

 

 前向きな言葉を言ってもらって嬉しい限りだ。

 その言葉があれば、僕は頑張れる。

 そのあと駅に着くまで、一つの会話も車内で交わされることはなかった。

 

 

 

 「━━あ、咲。」

 

 「こんにちは、ミクさん。

 ......と、どなた...?」

 

 「リンと、メイコ。」

 

 セカイへの2度目の訪問。

 今回はミクさんだけでなく、リンさんメイコさんというバーチャルシンガーもいた。

 本当に1人じゃないんだなと安堵の息を漏らし、彼女の顔より少し大きいぐらいの、彼女を模したデフォルメぬいぐるみを渡す。

 

 「咲、ありがとう。」

 

 「どういたしまして。」

 

 表情が変わるわけではないが、気のせいかハイライトの消えた目が輝いた気がする。

 中に入ったワタをもふもふと楽しんだのち、ミクさんはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

 よろこんでくれたのなら、作り手冥利に尽きる。 

 

 さて、今回の用事はこれだけ。

 早々にスマホを取り出し、停止ボタンへ手をかけた。

 

 「今度は、リンさんとメイコさんのぬいぐるみも作って来ますね。」

 

 光と共に、僕の体が消えていく。

 きっとこの感覚は何回やっても慣れないのだろう。

 

 

 

 「ミク、知り合い?」

 

 「うん。

 きっと、まふゆも知ってる人。」

 

 「ならいいけど、あの子......」

 

 「メイコ、どうしたの?」

 

 

 「━━誰かが引き止めないと、消えそうね。」

 

 

 今日の夢は、悪夢(10年前)だった。

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