奏で彩る7=16   作:チクワ

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熱暑と送りの11:30

 「あっつ......」

 

 太陽が燦々と照りつける6月の昼。

 エコバッグを体の横に寄せ、中にある野菜、にんじんなどに肌をつける。

 周りから見れば1人ベンチに座って野菜に頬擦りする男。

 変人だ。

 

 スマホを持ってきておけば良かったな。

 使いこなせないからと置いて来るべきでは無かった、手元にあれば薫━━ おじさんを呼べたのだが。

 

 『車持ってねえよ!』

 

 何処かからかおじさんの叫びが聞こえた気がする。

 暑さでおかしくなってきているのは確実なようだ。

 

 仕方ない、家に帰ってからにしたかったが、お釣りで買えたアイスを食べよう、としたその時。

 

 「うぅ......」

 

 背後から呻き声が聞こえた。

 振り返ってみれば、そこには銀髪ロングの美しい髪を持つ、体操服の様な格好をした端正な顔立ちの少女が倒れていた。

 

 すぐさま駆け寄り、声を掛ける。

 

 「だ、大丈夫ですか?!」

 

 「う...うぅ...」

 

 だが、返事は朧げで頬はかなり赤い。

 とりあえず日陰に移動しようと抱き抱えるが━━

 

 「(軽い、40キロも無い?!)」

 

 その体は病的なほどに細く、軽い。

 荷物と合わせて持っても幾らか余裕があるほどだ。

 

 日陰に置いてあった腰ほどのテーブルに、少女を乗せて首にアイスをつける。

 

 見た感じ、この前テレビでやっていた熱中症だ。

 エコバッグの底からロックアイス2袋を取り出し、脇に挟ませる。

 

 「ふぅ...う...」

 

 幾らか顔色が良くなってきた。

 一旦彼女の元を離れ、スポーツドリンクを自販機で購入。

 

 「飲めますか?」

 

 「ん......」

 

 蓋を開けてスポーツドリンクを渡すと、彼女はまだ虚ろな目ながらゴクゴクと飲み進める。

 半分飲んだあたりで満足したのか口を離し、それを回収して蓋を閉める。

 

 もう一度目を離して見ると、先程までの苦しそうな顔でなく安らかな寝顔がそこにあった。

 

 

 「さて、と......」

 

 寝てしまったのはいいが、待っていても起きる気配がない。

 公園(ここ)に置いていくわけにもいかないし、僕は一つ怒られる覚悟をして、彼女をおぶって歩き出した。

 

 

 

 「ただいま。」

 

 「遅え。

 って、背中にいんのは何だ?」

 

 「はは...... これは、その...」

 

 貼り付けたような苦笑いをして、僕は不機嫌なおじさんに、理由を話す。

 

 

 

 「ん、う......」

 

 この時期には不自然な程の涼しさに、私は落ちていた瞼を開ける。

 目に入って来たのは知らない天井と、そこから蔓下げられた明かり。

 

 遅れて来たのは、鼻腔をくすぐる香ばしいコーヒーの匂い。

 私がいたのは公園のはずだ。

 

 「ここは...?」

 

 起き上がってようやく、私の置かれていた状況を知った。

 さっきまで首があったところには枕、冷えすぎないように掛け布団がお腹に掛けられている。

 

 首を回して左を向いてみれば、湯気の立っているコーヒーを「あつっ、あつ......」と呟いて啜っている青年。

 どうやらわたしが起きた事に気がついたようで、コーヒーカップを置きこちらへ歩いて来た。

 

 「おはようございます。

気持ち悪いー...とかは、ないですか?」

 

 「あ、だい、じょうぶ...です...」

 

 「そうですか、良かった。」

 

 辿々しく返事をすると、彼は微笑んでコップを手渡してくる。

 わたしはそのコップを受け取り、少しだけ中の水を飲んだ。

 

 「熱中症で倒れてたんですよ。

今度からは水をもっていてくださいね。」

 

 「本当にすいません...

 買い物をして帰ろうとしたら、飲み物を買うのを忘れていて...」

 

 「でもまあ、しょうがない所はありますよね。

 今日はとくに暑かったですし...」

 

 ふと、時計を見る。

 短針が11を、長針は30を差していた。

 

 「...本当に、今日はありがとうございました。

 次からは気をつけます...」

 

 「ああ、帰るのなら送りますよ。」

 

 これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

 わたしはそそくさと準備をして、勢いよく立ち上がった。

 

 「いえ、大丈━━」

 

 「おっと。」

 

 視界が大きく揺れ、後ろへ倒れそうな所を彼に支えられた。

 彼は着けていたエプロンを外し、苦笑いをしながら言う。

 

 「......やっぱり、心配ですからついて行きますね。」

 

 「...すいません...」

 

 

 少しして、わたしは戸締りをした彼と共に家へ向かう。 

 互いの名前を知らないまま、少しの信頼を持って。

 

 

 

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