「あっつ......」
太陽が燦々と照りつける6月の昼。
エコバッグを体の横に寄せ、中にある野菜、にんじんなどに肌をつける。
周りから見れば1人ベンチに座って野菜に頬擦りする男。
変人だ。
スマホを持ってきておけば良かったな。
使いこなせないからと置いて来るべきでは無かった、手元にあれば薫━━ おじさんを呼べたのだが。
『車持ってねえよ!』
何処かからかおじさんの叫びが聞こえた気がする。
暑さでおかしくなってきているのは確実なようだ。
仕方ない、家に帰ってからにしたかったが、お釣りで買えたアイスを食べよう、としたその時。
「うぅ......」
背後から呻き声が聞こえた。
振り返ってみれば、そこには銀髪ロングの美しい髪を持つ、体操服の様な格好をした端正な顔立ちの少女が倒れていた。
すぐさま駆け寄り、声を掛ける。
「だ、大丈夫ですか?!」
「う...うぅ...」
だが、返事は朧げで頬はかなり赤い。
とりあえず日陰に移動しようと抱き抱えるが━━
「(軽い、40キロも無い?!)」
その体は病的なほどに細く、軽い。
荷物と合わせて持っても幾らか余裕があるほどだ。
日陰に置いてあった腰ほどのテーブルに、少女を乗せて首にアイスをつける。
見た感じ、この前テレビでやっていた熱中症だ。
エコバッグの底からロックアイス2袋を取り出し、脇に挟ませる。
「ふぅ...う...」
幾らか顔色が良くなってきた。
一旦彼女の元を離れ、スポーツドリンクを自販機で購入。
「飲めますか?」
「ん......」
蓋を開けてスポーツドリンクを渡すと、彼女はまだ虚ろな目ながらゴクゴクと飲み進める。
半分飲んだあたりで満足したのか口を離し、それを回収して蓋を閉める。
もう一度目を離して見ると、先程までの苦しそうな顔でなく安らかな寝顔がそこにあった。
「さて、と......」
寝てしまったのはいいが、待っていても起きる気配がない。
「ただいま。」
「遅え。
って、背中にいんのは何だ?」
「はは...... これは、その...」
貼り付けたような苦笑いをして、僕は不機嫌なおじさんに、理由を話す。
「ん、う......」
この時期には不自然な程の涼しさに、私は落ちていた瞼を開ける。
目に入って来たのは知らない天井と、そこから蔓下げられた明かり。
遅れて来たのは、鼻腔をくすぐる香ばしいコーヒーの匂い。
私がいたのは公園のはずだ。
「ここは...?」
起き上がってようやく、私の置かれていた状況を知った。
さっきまで首があったところには枕、冷えすぎないように掛け布団がお腹に掛けられている。
首を回して左を向いてみれば、湯気の立っているコーヒーを「あつっ、あつ......」と呟いて啜っている青年。
どうやらわたしが起きた事に気がついたようで、コーヒーカップを置きこちらへ歩いて来た。
「おはようございます。
気持ち悪いー...とかは、ないですか?」
「あ、だい、じょうぶ...です...」
「そうですか、良かった。」
辿々しく返事をすると、彼は微笑んでコップを手渡してくる。
わたしはそのコップを受け取り、少しだけ中の水を飲んだ。
「熱中症で倒れてたんですよ。
今度からは水をもっていてくださいね。」
「本当にすいません...
買い物をして帰ろうとしたら、飲み物を買うのを忘れていて...」
「でもまあ、しょうがない所はありますよね。
今日はとくに暑かったですし...」
ふと、時計を見る。
短針が11を、長針は30を差していた。
「...本当に、今日はありがとうございました。
次からは気をつけます...」
「ああ、帰るのなら送りますよ。」
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
わたしはそそくさと準備をして、勢いよく立ち上がった。
「いえ、大丈━━」
「おっと。」
視界が大きく揺れ、後ろへ倒れそうな所を彼に支えられた。
彼は着けていたエプロンを外し、苦笑いをしながら言う。
「......やっぱり、心配ですからついて行きますね。」
「...すいません...」
少しして、わたしは戸締りをした彼と共に家へ向かう。
互いの名前を知らないまま、少しの信頼を持って。