日向、人混みを避け、見知った道を歩く。
今日はネットで聞いて気になっていた曲の発売日。
いつもならスマホやパソコンなどで買うが、都合の悪いことにその曲はCD限定発売。
仕方がないと重い足を上げ、こうしてCDショップへ向かっている。
咲も誘おうと思ったが、先日のナイトコードにて「明日は予定が入っている」と先手を打たれてしまった。
それゆえに1人で向かっていたのだが......
「望月さん、本当に良かったの?」
「はい!
わたしも
道中ヘアカットとかヘアモデルとか言い寄られていた所を助けてくれた望月さんと、今はこうして2人で歩いている。
そういえば、望月さんへお礼を言うのを忘れていた。
色々あったが、望月さんのアドバイスがなければ今のわたしと咲の関係は無かっただろう。
「......その、あの時はアドバイスしてくれて、ありがとう。
おかげで、その人とうまくいったよ。」
「いえいえ、それを実行したのは宵崎さんです。
それに、家が綺麗になり始めて『あっ、上手くいったんだな』って思ってましたから。」
察されていたらしい。
少しの気恥ずかしさに心臓の音を早めながら、店内へ入って行く。
入ってすぐの注目コーナーには無い。
そこまで有名な人では無いため仕方がないか。
横を通り過ぎ、新曲コーナーへ目を移せば、3つ置いてあった。
ここまでの道のりが無駄にならなかった事を安堵し、1枚手に取ってレジへ向かった。
「お待たせしました、特性アップルパイ2つです。」
「ありがとうございます!」
暖かいオレンジの照明が店内を照らし、CDの入ったビニール袋がかさかさと少し音を立てた。
今わたしは、せっかくだからと望月さんに連れられて来たカフェの中でコーヒーに口をつけている。
目の前に座る望月さんは目をきらめかせ、目の前のアップルパイに目を向けている。
少し調べてみると、ここのアップルパイは最近有名になってきたものらしい。
たしかに、焼かれた生地の照りや網状の装飾の裏に見えるゴロゴロとしたりんごなど、美味しそうではある。
有名になるものにはそれだけの理由があるということか。
まあコーヒーは咲の淹れてくれた物の方が飲みやすくて美味しいが。
出されたものが温かいうちに、一口大に切り分けてフォークで突き刺し目の前に持ってくる。
2人同時に「いただきます」と開始の言葉を宣言し、パイを口へ運び込んだ。
「...美味しい。」
「ん、おいひい!」
さっぱりとした甘さと、サクサクとした楽しい食感。
確かに美味しい、が。
どちらかと言うと望月さんのあまりにも嬉しそうな顔に注目が行ってしまう。
あまりにも見すぎていたのか、こちらの視線に気付いて彼女は頬を染める。
口を抑えてその中にあるものを飲み込んでから、目を逸らして恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。
「恥ずかしいところを......」
「わたしは嬉しそうでいいと思うよ。」
「...ありがとうございます。」
そんな事がありながら食べ進めていると、ガラス越しの外に見覚えのある人影を見た。
その男性は神妙な顔をしながら、人混みの中をすり抜けていく。
手には土産袋を持ち、珍しく黒い服を着ていた。
見覚えのある人物、というか、ほぼ咲ではあるが断定はできない。
何故か、と言われれば、路地裏へ消えていく彼の髪型が咲とは似ても似つかないオールバックなのだ。
疑問に思いながら、アップルパイをまた一口。
「宵崎さん、今通って行った人、もしかして彼氏さんですか?」
「......ううん、違うよ。
あの人は、似てるけど彼じゃない。」
「要さん、土産です。」
「おっ、ありがと咲く...... いや、君は誰だい?」
「...僕は僕ですよ、今はまだ。
いつかは
それじゃ、今日はコレを渡しにきただけなので。」
「待...... 帰ったかぁ。」
机の上に肘を置き、要は首を振って俯いた。
その手には袋から取り出した土産、もみじ饅頭。
「...院長、仕事してください。」
「いやね、
僕は彼に、ひどい事を吹き込んじゃったかなって思ってさ。
彼にとって笑顔は薬じゃなくて毒だったんだろうね。
まあそれはそれとして今日飯行かない?」
「ご飯は付き合わせていただきますが、仕事を終えない事にはそれにすら行けませんよ。」
「ほんと!?
やった、女の人と初めてのご飯だ!
仕事なんてパパッと終わらせちゃうよ!」
「こんにちは、ミクさん。」
「...咲。」
今日は彼がセカイに来た。
その手にはリンとメイコのぬいぐるみがあり、驚くほど冷たい手でそれを手渡してくる。
「ありがとう、渡しておく。」
「じゃあ今日はこれだけなので、また━━」
「待って。」
何故わたしは今、彼を呼び止めたのか。
わからない、わからないが、彼の手から感じた寂しさ悲しみは、確かなもの。
「もう、少し、ここにいて。」
口をついて出たその言葉に、彼はひどく驚いている。
口に手を当て少し考えたのちに、いつものように変わらぬ表情で彼は口を開いた。
「......じゃあ、ここで寝ていいですか?
今家で寝ると、僕が消えそうなんです。」
コクリと頷くと、彼は横になって目を瞑り、寝息を立て始めた。
わたし1人では彼の寂しさはどうにもできない。
けど、まふゆや奏達ならきっと。
今わたしにできるのは、彼の周りにぬいぐるみを置いて少しでも寂しさを和らげることだけだった。
評価等よろしくお願いします。
次話は明日投稿できないかもしれません。