「大当たり〜!」
「ええ...?」
都心から少し離れた商店街。
マイバッグから覗くジャガイモやニンジンを揺らしながら、貰った福引券2枚をひらひら揺らす。
抽選会場にデカデカと描かれた大当たりは、カフェ新店舗無料券の文字。
......正直、その下にある絆創膏5箱セットの方が欲しいなと思いながら、福引券を手渡して回転抽選器、ガラガラを回した。
その結果、冒頭に戻る。
引いてしまったのだ、特賞と残念賞を。
ニコニコの担当者に渡されたのはティッシュ1箱とチケット5枚。
表にはバーコードと店名、『猫&兎カフェ C-ute』と書かれている。
ウサギは可愛くて好きだ、取り敢えずティッシュをエコバッグに、チケットを財布にねじ込み、帰路に着く事にした。
帰宅後、ナイトコードにて。
『そういえばさ、交差点を少し行ったところにできるカフェ、知ってる?』
『ああ、猫とウサギの?
えななん好きそうだもんね、出てた店内もかわいいし!』
『そうそれ、行ってみたいけど手持ちがね...
今月コスメとか多かったし...』
お誂え向きに、チケットの出番が来た。
幸いというか出来過ぎというか、ちょうど5枚ある。
「そこの無料券、ありますよ?」
『『え?!』』
「ちゃんと5枚。
福引で当たったので。」
『......ほんと、タイミング良いわね。』
『じゃあ今度の打ち上げはそこに行こうか!
雪やKには僕の方から確認を取っておくよ!』
そのまま流れるように、日程は決まり。
当日の朝。
「お邪魔します。」
渡されている合鍵を使い、宵崎家の扉を開ける。
いつもなら寝落ちしているはずの奏さんだが、今日は珍しく起きて玄関先をうろうろしていた。
ただ、その動きに何処か違和感を覚える。
「咲、おはよう。」
「はい。
......なんでそんな離れてるんですか?」
そう、今僕と奏さんの距離はかなり遠い。
一般的な家のリビングからトイレくらいの遠さか。
僕からの質問に、奏さんは恥ずかしさと申し訳なさの混在した表情で、小さく呟いた。
「......その、ここ2日曲作りに集中してて。
お風呂、入ってないから...」
あー。
そう言われればそうか。
ここ2日はナイトコードでも鬼の追い込みで、歌うだけの僕も大変だった。
ならば作って歌って投稿しての奏さんなんか、想像できないほどの激務だったろう。
その結果の風呂入り損ねなら、納得できる。
まあそれはそれとして。
「...? 咲?
なんでそんな無言で━━?!」
靴を脱ぎ玄関に揃え、奏さんの方に向き直って一歩一歩歩く。
無言。
頭にハテナを浮かべて後ずさる奏さんの脇下へ両手を突っ込み、逃げられないようにその軽い体を持ち上げる。
そのままフレーメン反応を起こした猫のように大人しくなった奏さんを近づけ、首筋へ顔を埋めた。
「......」
「......」
一瞬の静寂が流れる。
猫吸いならぬ
「━━臭くなかったですよ。
良い匂いでした。」
本当良い匂いだった。
オキシトシンの滝に撃たれたような多幸感が頭を染める。
恥ずかしさ故の反撃が奏さんから飛んでくるが、頬をつねられたくらいで僕は怯まない。
もう一度やってやろうかと思っていると、手は頬を掴まずそのまま耳へ向かった。
両耳がさらさらとした触り心地の奏さんの指にこねくり回される。
「あひゅっ?!」
瞬間、僕の体は崩れ落ちた。
右膝は地につき、崩れたバランスを補うために右拳で体を支える、いわゆる跪いた状態。
多分僕もゆでだこだ。
「......えい。」
「ひゃおっ?!」
無防備の右耳にまたも指が触れ、情け無い声が出た。
すぐさま立ち上がり、両手を耳のカバーにして、奏さんに向き直る。
「風呂の準備しますね!」
少し大きな声でそれだけ宣言し、逃げるように風呂場へ向かう。
奏吸いの代償に支払ったのは、弱点の露見だった。
「......」
ソファーの上でお風呂が沸くのを待ちながら、両手を合わせて先程の感触を思い出す。
柔らかくコリコリとした弾力が癖になる、耳。
あの声、真っ赤に染まった顔。
「ふふ。」
初めてみたかもしれない、あそこまで可愛らしい咲は。
それを見れたのはいいが、
幸いなのは、おそらくびくりと震えた事がバレなかった事。
......熱い。
こんなに体温が上がっていては、お風呂でのぼせてしまう。
セカイで幾らか頭を冷やす事にした。
「奏。」
「また来たの?」
「リン、さっきまでソワソワしてたのに...」
「おはよう、ミク、リン。」
白い髪のミクと所謂ツンデレのリンに軽い挨拶を済ませ、硬くも柔らかくも、熱くも冷たくもない床へ座る。
ふと2人の手元に注目すれば、見覚えのあるぬいぐるみ。
刺繍で作られた一色の目と、再現度の高い服。
「2人とも、そのぬいぐるみ......」
「これは、咲が作ってくれた。
メイコも持ってる。」
予想が当たった。
何故このセカイに咲が来れるのか。
音楽の再生を止めながら、出先で本人に聞く事を決めた。