奏で彩る7=16   作:チクワ

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猫とウサギ、思いがけない184

 

 猫とウサギ。

 それぞれに分けられた場所の中で、わたしは猫じゃらし一本を持ち座っている。

 柵の向こうを見れば絵名がウサギの横まで顔を近づけ、スマホのシャッターで最高の一瞬を切り取り。

 丸くて黒い目を輝かせながら一心不乱にニンジンを食べる姿に、瑞希は無邪気に笑っている。

 

 一方の猫コーナー。

 わたしとまふゆは隣り合って座っているが、いくら猫じゃらしを振ろうと寄ってくる気配はない。

 興味を持つどころか、目の前でつまらなそうにあくびをされている始末だ。

 

 「......」

 

 「...まふゆ、大丈夫?」

 

 最初は外向きの顔で猫じゃらしを振っていたまふゆもだんだんと視線が下がっていき、今はもう目の光が消えてしまいそうだ。

 ここまでわたしたちの所に猫が来てくれないのは、目の前にいる彼のせいもあるだろう。

 

 「あー頭の上に乗らないでー...

 いたた、舐めるの結構痛いな。」

 

 猫になすがまま、されるがまま。

 ここにいる半数以上の猫が、咲の元へ集まっている。

 ...羨ましさ、というのはあるが、それ以上に身動きが取れなさそうだ。

 

 すると、こちらの視線に気づいた彼が頭、両肩、両手に猫を連れてこちらへ来た。

 なんだか少し面白い光景である。

 この前音楽目当てで見たアニメで出ていた、ロボットの様な見た目に失笑を漏らした。

 

 「何か猫を独占しちゃってるみたいで、すみません。」

 

 「...うん、ちょっとやり過ぎかな。」

 

 「......なんでもいいよ。」

 

 『そんな事ないよ』と言おうとしたが、やめた。

 事実彼が猫を独占しているし、猫が彼を独占しているこの状況も好ましくない。

 浅ましい嫉妬ではある。

 

 彼はわたしとまふゆの言葉を受け、右手に持った猫を膝に乗せてから、右手を顎に当てて考え込み始めた。

 少しして、彼はこちらに顔を近づけてある要求をする。

 

 「ちょっと僕の髪をかき上げてくれませんか?

 多分これで猫も離れてくれると思うんです。」

 

 「? いいけど......

 じゃあ行くよ?」

 

 「はい。」

 

 言われるがまま咲の髪に指を入れ、後頭部に向けて髪をかき上げてオールバックの形にした。

 彼の目がこちらを見る。

 猫は既に彼の体を駆け下り、わたしとまふゆの足元に逃げ込んだ。

 

 目の前にあるもう見慣れたはずの赤の強い髪と、黄色の目ですら、彼の物なのか分からない。

 それほどまでに雰囲気、彼の周りを流れる空気が変質している。

 

 えもいわれぬ不安から、彼の髪の毛より手を離す。

 すると、彼の周りを取り巻くものが咲へと戻っていく。

 

 「......これでオッケーですね。」

 

 その言葉を合図にするように、足下にいた猫達が膝に登って鳴き始める。

 太々しく座るモコモコの猫が逃げないよう優しく慎重に、灰色の背中を撫でた。

 

 「......柔らかい。」

 

 人工物では感じられないその柔らかさに、次へ次へと撫でる手を止められない。

 この感触は連日の作業の中で疲れた頭を癒し、新たな次元へと連れて行ってくれる。

 

 「まふ━━」

 

 この感触はまふゆが感情を取り戻すきっかけの一つになるかもしれないと思い、まふゆの方を向くと。

 

 そこには無情に空を切る猫じゃらしと、もう完全に曇りきったまふゆの顔があった。

 横に座っている咲と共に、目の前にあるこの光景に戦慄する。

 

 「何の意味も...んむっ。」

 

 何かを言おうとしたまふゆの顔に、焦った顔の咲から猫の腹が繰り出された。

 まさか咲もまふゆの元に1匹も来ないとは思っていなかったらしい。

 

 まふゆは顔にしがみついた猫を両手で掴み、顔から離して目の前に置く。

 キョトンとした顔のまま、くるまって膝に居座った猫を撫で始めた。

 

 「どうです、癒されますか?」

 

 「......わからない。」

 

 「多分それが癒されるってことです。

 悪い気分ではないでしょう?」

 

 

 

 ひとまずは事なきを得た。

 少ししてから絵名と瑞希と入れ違いでウサギコーナーへ向かった咲の隣へ腰を下ろす。

 またも彼の周りには大量のウサギが押し寄せている。

 先程とは違い、今度は何をせずともわたしの方に数匹来てくれた。

 

 「ねえ、咲。」

 

 「顔舐めないで......

 え、何ですか、奏さん?」

 

 ウサギを撫でながら、彼に直球の質問をぶつける。

 遠回しに言ってもいつかの日のようにお互いわからないままになってしまう。

 ならばさっさと本題に入った方が、結果的に良いだろう。

 

 「セカイって知ってる?」

 

 互いに撫でる手を止めて目を見つめ合う。

 彼は一旦目を下へ向け、ウサギの感触を顔全体で満喫してから口を開いた。

 

 「......はい、知ってますし、行ってます。

 と言うかそうなんだー...」

 

 「それは何の納得なの?」

 

 「いえ、ミクさんが言ってた『みんな』っていうのが、リンさんやメイコさんだけじゃ無くて奏さんもだったのかって言う......」

 

 そう言えば、彼は知らないのか。

 ニーゴのメンバーがセカイに行ける事を。

 考えてみれば、よくニーゴメンバーと遭遇しなかったものだ、

 

 彼はまた顎に手を当てて考え込み、暗い表情を一瞬見せてからこちらを向いた。

 持ち上げたウサギを口まで持ってきて、腹話術のように話し始める。

 

 「じゃあ今日の25時、セカイに来てください。

 色々と話したいこともあるので!」

 

 「うん、わかった。」

 

 とりあえず聞きたかった事は聞けた。

 ならば今はただ、こうして2人でもそもそとニンジンを食べるウサギを眺めている時間を、幸せを享受しよう。

 

 「可愛い......」

 

 「奏さんも可愛いですよね。」

 

 「......もう。」

 

 

 

 

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