少し歩いて、ここはとある公園。
緑色の所々錆びた金網に寄りかかり、狭い公園内を見渡す。
この哀愁、もの悲しさが、目覚めてから長らく感じる事のなかった成長、と言うやつなのだろうか。
そんな感傷に浸っている僕の顔を、奏さんは帽子の影から見つめ続ける。
言わずとも、その確かな意志が宿った目が『勝手に消えないように見張る』という感情を教えてくれた。
そんなに心配しないでも良い、少なくとも今、僕は貴女の前から消えることは無いから。
さて、来たからには話さなければならないだろう。
自分の中の意思を一つにまとめ、無感情を装い彼女へ口を開く。
「今日、ここに来た理由は━━」
「ウワーッ!!」
と、その時。
ボールの跳ねる音と共に、勇ましい女の子の叫びが僕の言葉を遮った。
振り向けば、車道を挟んで向こう側に行ってしまったボールと、すぐ横から出てきて元気よく『すみません!』と謝罪をする少女がいる。
......まぁ、出鼻を挫かれたとは言えやる気を削がれるような出来事でも無い。
少女に笑顔で大丈夫、と手を振り、気を取り直そうとした、次の瞬間。
少女が渡る横断歩道に、どう見ても止まる気のない車が迫る。
彼女の方を見れば、恐怖からか足がすくみ動いていない。
これはまずい。
「っ! 危ない!!」
条件反射、駆け出した。
後ろから奏さんの静止が聞こえるが、もう走り出した足は止められない。
間に合わず10年前のように目の前で死なれるか。
間に合ったが9年前のように、自己犠牲を行うか。
どっちだ?
━━どちらでもない。
まだ僕は奏さんに救われて無い。
まだ死ぬわけには、行かなくなった!
車が迫るギリギリの瞬間、少女に飛びついてゴロゴロと地面を転がる。
車は轟音を響かせながらさも当然のように走り去った。
「咲、大丈夫?!」
駆け寄って心配をしてくれた奏さんに、力を込めたサムズアップを送る。
本当、危なかった。
もう少しで2人同時にお陀仏だったろう。
取り敢えず少女を抱えたままボールを取り、公園内に入って彼女を下ろした。
あんな事があったのだから当たり前というか、当然というか。
ひどく怯え、足元がおぼつかない様子だ。
どうしたものか。
「......あ。」
ふと彼女のズボンを見れば、見覚えのある刺繍。
女子が好きになるものだったか、と首を傾げながら、軽く肩に手を置いて彼女をある事に誘う。
「......ねえ、ウルトマン好き?」
「す、好き......」
「そっか。
じゃあ、車のことなんか忘れてなりきりごっこでもしよう!
そっちの方が楽しいよ!」
「...うん、する!」
「ゼス、ティウム!
こーせーん!!」
「うぉおおお!」
3回目くらいか、格闘戦の末に怪獣サーキーンは爆発四散!
彼女、加藤
...とまあ、彼女はすっかり元気になっている。
奏さんは日陰のベンチでこちらを見て微笑み、僕は流石に小学生のガッツにやられ、身体が痛みを訴え始めた。
普通の家族ってこんなのなのかな、そんな事を考えながら、一旦の休憩を取る。
すると公園の入り口から、歳をとった女の人が現れる。
六崎ちゃんはその人が来たことに気付くと、『母さん!』と走り抱きついた。
どうやら六崎ちゃんから色々聞いて僕達にも話があるようで、日陰で軽く休んでいたところへその人は申し訳なさそうに口を開いた。
「本当、すいません!
うちの六崎が飛んだご迷惑を...!」
「いえいえ、大丈夫です。
僕も昔を思い出して楽しめたので......」
ふと、母親の身につけたネックレスに既視感を感じた。
その既視感は電気信号に形を変え、脳内の引き出しをことごとく開けていく。
ああ、と腑に落ちる。
多分この機会は二度と訪れない、僕は手早く鞄から御守りの片方を取り出し、六崎ちゃんに渡す。
彼女はキョトンとしているが、そりゃそうか。
行動が先へ先へとなってしまったことに謝罪を入れ、ある事を話す。
「六崎ちゃん、最後に僕とある事をやってほしいんだけど、良いかな?」
「うん、変身?」
「そう!
じゃあ、あの空の向こう、天国に向けて!」
大きく息を吸い込み、御守りにしていた変身アイテムを2人天に掲げ、叫んだ。
「ガイアァァァ!!」
「ジィィィド!!」
強く巻き上げるように、風が吹く。
ありがとうと言う様に頬を撫でていった風は、さよならの感触を残して消えた。
「ありがとう。
これは君のお兄さんが最後に望んだ事。
10年越しになっちゃったけど、出来て良かった。
それは、君にあげるよ。」
「慎五兄さんの事、知ってるの?」
「ああ、もちろん。
僕は一応、彼の親友だったから。」
血相を変えた母親が彼女の手をひき、『帰るわよ!』と声を荒げて連れ帰る。
「ありがとー!!」
元気よく振られた手に応える様に、吹っ切る様に、僕も力強く手を振る。
六崎ちゃんと、その後ろに見えた慎五へ向けて。
背中合わせで設置されたベンチに横になり、天井に塞がれた空を見上げる。
横を見ればこちらに背を向けて座る奏さん。
まるで、初めて会った時のシチュエーションだ。
それこそ立場が逆とか、色々差異はあるが。
「すいません、結局こんな時間になって。」
「ううん、大丈夫。
咲がやりたい事だったんでしょ?」
だんだんと落ちて来た日が、寝転がっていた僕の目を焼いた。
その眩しさに嫌気が刺し、太陽に背を向ける様に奏さんの隣へ座り、六崎ちゃんに遮られた話を再開することにした。
「......今日ここに来た理由は、僕の墓まで持っていくつもりだった秘密を話そうと思って来ました。
言ってしまえば脅しです。
こんなやつなんだぞ、貴女が救おうとしてるのはって言う...」
「...教えて。」
「じゃあ、遠慮なく。」
僕は全てを話した。
9年前の事故、9年間の植物状態、その間に起きた両親の離婚と絶縁など。
ペラペラと喋ってしまったのは、彼女が聞き上手だと言うところもあるだろう。
「......これでも、こんな男を救うと言えますか?」
「舐めないで。
その話をされたから咲を見捨てる様なら、最初から貴方を好きになって告白なんてしていない。」
ああ、嬉しいな。
ずっと諦めていた事なのに、9年の溝を埋めることなんて。
今目の前にいる白髪青目綺麗な彼女となら、僕の中の
━━ぼろぼろと涙が落ちる。
上手く息が出来ない、顔も作れない。
でも彼女はこんな僕をこうやって抱きしめてくれる。
甘えても良いのかな、今だけは。
「うん、良いよ。
ここにはわたし達以外、誰も居ないから。」
「あり、が、とう。」
辿々しく言葉を紡ぐ。
溜まり溜まったものを吐き出す様に泣いた。
泣き叫んだ。
痛みを知る、ただ1人として。
彼女の胸に顔を埋めて泣いていると、上着のポケットから声が聞こえる。
聞き覚えのある3人の声。
涙としゃっくりを落ち着かせ、奏さんの背中に回した腕を戻しポケットからスマホを引っこ抜くと、そこにはナイトコードの画面。
通話欄には、雪、えななん、Amiaの3名。
奏さんの方を見れば、忘れていたと言わんばかりの焦り顔。
「......何やってんですか。」
『あっ、バレた!?
いや咲これはね、僕たち友達と言うか仲間なわけで、ちょーっと聞きたかっただけと言うかー......』
『ふゔっ... ざぎぃ、ごめん...
わるぎ、なぐでぇ......』
『......』
『雪は黙ってるし、えななんは号泣してるけど、僕たちも奏も悪気があったわけじゃ無いから!』
「...これはわたしが、良いよって言っちゃっただけだから......」
「━━ふふっ。」
自分で自分の口を押さえる。
もしかして、今僕は、
......どうやら、僕はもうすでにニーゴに救われていたらしい。
「咎めようって気はないですよ。
......でも、25時より少し前にセカイに来てください。
絶対に。」
「『...わかった。』」
『ゔん...』
『う、うん、わかった!』
その日の夜、セカイへ入る。
するとやけにかしこまった絵名さんと瑞希さんが出迎えてくれた。
もちろんまふゆさんと奏さん、ミクさんも一緒だ。
「じゃあ、これ。」
それぞれに別々の袋を渡し、そわそわしながら開けるのを見守る。
皆が一斉に開けた袋の中身は、ニーゴメンバーとこのセカイにいるバーチャルシンガーのぬいぐるみ。
すでにニーゴメンバーのは渡していた奏さんには、ちょっと大きめのデカミクさんクッションをプレゼントだ。
「わぁ、可愛い!」
「うんうん!
まふゆもこれは嬉しいんじゃない?」
「...わからない。」
「咲、ありがとう。
みんなのぬいぐるみ、とても嬉しい...」
みんなが喜んでくれて多幸感に包まれる中、奏さんは1人、別の事で喜んでいる様だ。
「......咲、改めて、ニーゴにようこそ。」
彼女の手の中には、僕を模したぬいぐるみがあった。
━━そう、僕は今まで自分を正式なメンバーとは、心のどこかで違うと思っていた。
だからこそこう言うものをあげる時は僕を入れなかった、が。
数日後、奏さんの家で苦手なヘッドホンを付け、収録。
「...それじゃあ、『M八七』、行きます。」
微かに笑い、
友を、家族を失った痛みを知るものを救える━━
ただ一人であれ。
もう少し続きます。
主人公なはずなのに咲の見た目に関する描写を全然入れていなかったので、後書きに書かせていただきます。
四宮 咲
髪色は暗めの赤、目の色は黄色。
顔は童顔であり、髪を伸ばせば女性に見える中性的なところもある。
身長は166センチ。
体つきは普通よりちょっと細いくらい。
という感じです。
お目汚し、失礼致しました。