「ギリギリまで、love Forever!」
「もだえるほど、うーたーえばー!」
「「魂は、鳥栖を巻きー、yeah!」」
今日は宮女の文化祭当日。
家を出てちょっと歩いた、車のよく通る道の歩道を奏さん、僕、そして先程知り合ったばかりの女の子で進んでいる。
宮女到着後に人混みがあるのは目に見えているので、今日の服装は動きやすいものを着てきた。
奏さんは最後の最後まで外向きのおしゃれな服を着るかジャージを着るかを迷っていたが、結局僕に迷惑をかけるならとジャージを着用している。
で、今車道側の僕と歩道内側の奏さんの間にいる少女。
彼女は
宮女に向かう道にて泣きそうになっているところを保護して同一の目的地である宮女へ共に向かう、いわゆる迷子の子だ。
そんな彼女だが、その歳からは考えつかない程記憶力が良い。
誕生日占いの結果、365日を全て覚えているなんて、凄いにも程があるだろう。
好きこそ物の上手なれ、と言う言葉がある様に、その歳ぐらいの時は好きな物に熱中して熱中して、他人から引かれる程の知識を有している、なんて人は僕が5歳くらいの時もいた。
それで歌も上手いのは、ある種の嫉妬を集めそうなものだ。
ちなみに彼女の覚えている誕生日占いによれば、僕は
『あなたは愛の形が非常に犬に近いです!
一度好きになった彼、彼女にずっと思いを寄せ、報われても報われなくても愛した人を追い続けるでしょう。
その愛があなたの相手に伝わるのを祈るばかりです!』
らしい。
犬って......
流石に犬より節度は守っていると思う。
僕の愛というのは側から見たらそんな犬みたいなものだろうか
ギリギリ普通の愛だろう
動物的な愛と人間的愛は越えてはいけないボーダーラインである。
ちなみに奏さんは『捨て猫みたい』だそうだ。
まあ幸薄な雰囲気あるし、わからなくもない。
そんな感じで歌いながら歩くと、目の前にちょっと大きめの正門が見えた。
門の横には『宮益坂女子学園』と校名が彫られている。
「着いたけど、お姉ちゃんいるかい?」
「うーんと...... あっ!!」
一度美雲ちゃんから手を離し、同じ目線まで下がって聞く。
彼女が言うには親が両方仕事で、でも姉の文化祭に参加したかったらしく1人で来ていたらしい。
この子にそんな尊敬されている姉だ、さぞ彼女の事を心配しているだろうと見回していると、わかりやすくソワソワと歩き回っている女学生を見つけた。
彼女が駆け寄っていくと、女学生は心底安心した顔で美雲ちゃんを抱き上げた。
見つかって本当によかった、彼女の身内でもないのに何とも心地よい安堵が心を撫でる。
女学生はこちらをみて軽く会釈すると、他の学生に呼ばれ人混みへと消えていった。
「良かった...」
「ええ、本当良かった。」
個人的にはあの姉妹が羨ましい。
願わくばあの関係が続く様、深く澄んだ青空へと祈った。
「えっと、鳳えむさんに呼ばれて来た四宮と宵崎何ですけど......」
「━━はい、確認できました!
文化祭、楽しんでいってくださいね!」
元気に挨拶を返してくれた受付の人の元を離れ、首から入校許可証を掛けて校内へ入る。
流石進学校、お嬢様校と呼ばれているだけはある。
在校生に招かれた人だけが入れるようにして、ちゃんと不審者が入って来ないよう対策をしているのか。
奏さんに被せていた帽子を返してもらい、屋内では必要無いと畳んで繋いでいない手で握る。
「......どこ行きましょうか。」
来たは良いが、僕は全然この建物のことを知らない。
ちょっと入り口に置いてあったマップを取りに行こうと振り返るが、人混みに押され奏さんの方を引き寄せはぐれないようにするのが精一杯だ。
結局自由に動けるようになったのは、昇降口を過ぎて一階廊下に弾き出されてからだった。
どうしたものか、左手で奏さんを身体に引き寄せたまま頭を掻いた。
すると抱き寄せて密着した奏さんから、服を引っ張ると言う意思表示を受けてそちらの方を見る。
「......マップ、取っておいたよ。」
「おお、ありがとうございます!
えらい!」
つい先程まで美雲ちゃんに接していたテンションのまま、奏さんの頭を撫でてしまう。
気づいてやめた頃には、耳を赤くした奏さんが僕と彼女の腕を組んで『行こう』と強く引っ張られ、進んでいた。
「ここ、かな。」
「えっと、家庭科室ですか。
......結構並んでますね、人気なのかな?」
まず最初に来たのは、1番場所の近かった家庭科室。
家庭科部が作った料理を提供しているらしい。
まあ別に1番近かったから、と言う理由だけで来たわけじゃ無い。
今の時間は昼時。
僕たち2人は昼ごはんを食べていないのだ。
正直顔を取り繕ってはいるが、すごいお腹減ってる。
「あの後、曲作りの方はどう?」
「楽しいですよ。
2つ作って、うち一つはさっき美雲ちゃんと歌ってたやつです。」
「この前絵名さん達に髪弄られて、可愛くなったやつが写真であるんですけど見ます?
2人が満足げだったので残しておいたんですけど。」
「! 見る、ナイトコードで画像を送って。」
他愛無い話をしながら並び、良い香りに期待を膨らます。
自分達の番が近づくたび、腹の音を我慢するのが難しくなっていくのを感じた。
と言うか盛大に鳴った。
奏さんのが。
「あっ......」
「...あ、あー、腹減ったなぁ、早く順番来ないかなぁ。」
とりあえず庇う事で事なきを得たが、まあちょっと恥ずかしかったし、背後からボソボソとこちらを話題にした会話が聞こえるようになって来た。
部分的にしか聞こえなかったが、綺麗とか、髪のツヤ凄いとか。
おそらく奏さんのことだろう。
ちょっと誇らしいと言うか、張り合いたくなると言うか。
他人にこの美人さを知ってもらえると言うのは『そうだよ、僕の彼女は綺麗なんだ』と自分のことのように嬉しい、が。
同時に『僕だけが知る奏さんをずっと見ていたい』と言う嫉妬の心も顔を出す。
葛藤に頭を悩ませていると、僕たちの番が来た。
茶髪の、どこか母性を感じる女性がどうぞとこちらを呼ぶ。
歩いて近づくと、奏さんと茶髪の女性がほぼ同時に『あ。』と口を開いた。
首を振って2人を交互に見るが、関係性が見出せない。
「宵崎さん、そちらが例の......?」
「うん、わたしの好きな人。」
「わぁ、可愛くて優しそうな方ですね!」
「か、奏さん?
ちょっと状況がわからない......」
「そう言えば咲は会ったこと無かったね。
彼女は望月さん、わたしの家の家事手伝いをしてくれている人。」
「━━え!?
咲さんって男の方なんですか?!
髪型からてっきり女性かと...」
「ですよねー。
やっぱり今日が終わったら髪切ろうかな......」
食事を終え、休憩時間になった望月さんと2人会話をする。
とは言っても踏みいった話をしているわけでは無い、奏さんの食の好みとか、家庭の知恵とかそんな話だ。
その中でも奏さんがシチューを口の横に付けた話は結構盛り上がった。
当の本人は居心地が悪そうに『う゛う゛......』とうなっていたが。
椅子から立ち上がり、空の容器をゴミ箱へ捨てる。
とても美味しい肉じゃがだった、満腹だ。
奏さんに引っ張られるようにして家庭科室を後にする去り際、望月さんに呼び止められた。
振り向けばそこには、真面目な顔をした望月さんの姿。
「......その、宵崎さんはすぐご飯を抜きますし、部屋もその...お世辞にも綺麗とは言えません。
だからこそ、身の回りの世話や弱音を吐き甘えられる相手の咲さんが、宵崎さんには必要なんだと思います。
彼女を幸せにしてあげてくださいね。」
その言葉からは、彼女なりに奏さんの事を心配している気持ちが伝わってくる。
もちろん、僕としても
初めて全てを吐露し、分かり合えた人。
僕は彼女と歩んで行きたい。
「はい、もちろん!」
今できる自然な笑顔の限界で微笑み、背を向けて歩き出す。
奏さんと付き合う意味を反芻し、幸せにすると言う決意を抱きながら。
「......ふう、良い人で良かった。」
「穂波ー? 片付けしよー!」
「うん! 今行くね!
......ふふ、宵崎さんのあんな顔、初めて見たな。」