奏で彩る7=16   作:チクワ

31 / 60
緊急の願い、2人の時間

 

 「ふっ、はっ......」

 

 体育館。

 その内部は小学生の時に見たものより大きく、あの時の様にいくら手を伸ばしても変わらず天井には届きそうにない。

 カーテンは締め切られ、ステージにのみ照明の当たるこの場所に、僕たち2人は日野森さんの言うミスコンテストに惹かれて来たわけだ。

   

 それは結構本格的で、三部門に分かれている。

 『美女部門』、『元気部門』、『アイドル部門』の3つ。

 美女部門、アイドル部門はまだ分かる、元気部門って何だ?

 まあおそらく鳳さんの様な人のNo. 1を決める部門なのだろうが、見てて楽しいものだろうか?

 

 そう思っていたが、見てみると結構面白い。

 鳳さんが自分の出番でバク転でクルクル回る姿は、思わず会場全体から感嘆の声が上がるほどだ。

 結局元気部門は鳳さんが優勝したが、そりゃそうだという感想しか出てこない。

 あの運動神経を見ていると、いつだかテレビでやっていた置き引き先生の再現VTRを思い出してしまう。

 

 美女部門も終わり元気部門も終わり、次はいよいよアイドル部門が始まる。

 大トリが始まろうとする中、僕たち2人はどこにいるのかと言うと━━

 

 「咲、頑張れ......!」

 

 「ほら笑顔が崩れてる!

 やるって言った以上は頑張りなさい!」

 

 「━━きっつ!」

 

 ステージ横の袖で、ほぼスパルタな指導を受けながらステップを踏んでいた。

 何故こんなことをしているのか?

 それは1時間前に遡る。

 

 

 元気部門が終わり30分の休憩が放送により伝えられ、互いにトイレへ向かう。

 男性だから当たり前だが奏さんより早く用を足し、スマホをいじりながら彼女を待つ。

 待ち時間中、目の前で落としたハンカチを何処か見覚えのあるオレンジの髪をした男性に渡したりもした。

 

 「......どうしたんすか?」

 

 「いえ、知り合いの人に雰囲気が似ていたので。

 絵名さんって言う人に。」

 

 「...マジかよ......」

 

 相当苦い顔を彼はしていたが、何か地雷を踏んだだろうか?

 それはそれとして何事も無く2人席へ戻ろうとしたその時、ピンクの弾丸がまたも猛スピードで迫って来る。

 このままではまたお腹が破壊(わんだほい)されてしまうだろうが、2度も同じ技を食らう僕ではない!

 

 激突寸前で鳳さんの両手を掴み、ジャイアントスイングの形で回転して勢いを殺す。

 三半規管がやられふらつきこそしたが、どうにか激突は免れた。

 

 鳳さんは「すごーい!!」と大喜びである。

 

 「鳳さん、優勝おめでとう。」

 

 とりあえずこれ以上のダメージを避けるため、ステージを会話に持っていくことにした。

 幸いにも目論見は成功し、暗い体育館内を照らす様な眩しい笑顔がこちらに照りつける。

 

 「うん!!

 さっきねー、司くんたちにもおめでとうって言われたんだー!!」

 

 そう言った彼女の視線を追ってみれば、そこでは見覚えのある紫の髪がこちらへ向け手を振っている。

 その横には天馬さんと草薙さんもいる様だ。

 

 「鳳さん、急にどうしたの?

 流石に突撃しに来ただけじゃ無さそうだけど......」

 

 それはそれとして、何か用事があったのではと鳳さんへ聞いてみた。

 大概彼女が突撃してくるときは何かしらを伝えに来たときだ。

 

 予想は当たっていて、「あ!!!」と一際大きな声で何かを思い出した様だ。

 唐突な大声にふらついた奏さんを支えながら、不安そうな顔に変わった鳳さんの話を聞いてみる。

 

 「あのね、先輩が困ってて...

 寧々ちゃんにも聞いてみたんだけどダメって言われちゃって......

 助けてほしいの!」

 

 不安そうな顔と、少し潤んだ瞳がこちらへ訴えてくる。

 一瞬考えたのち、奏さんとアイコンタクトを取って2人で頷いた。

 鳳さんが誘ってくれなかったら、今ここに2人で楽しく遊びに来ていることもない。

 恩義に報いるべく、彼女の相談にイエスと答えた。

 

 先程までの表情とは一転、また表情が明るくなっていく。

 嬉しそうな彼女に僕と奏さんは手を引かれ、そのままステージの袖まで連れて行かれた。

 ただ一つ心配なのは、草薙さんが断る様な物事だと言うこと。

 

 きっと大丈夫だろうと楽観的な思考を回し、騒がしいステージ袖の扉を開けた。

 

 

 「━━あ! おねえちゃん!」

 

 「え、美雲ちゃん?

 何でここに......」

 

 ステージ袖に入ると、正門で別れたはずの美雲ちゃんが腰の辺りに抱きついてくる。

 倒れそうになったところを咲が支えてくれたおかげでことなきを得たが、彼も何故彼女がここにいるのか理解ができていない様子だ。

 

 「銀先輩!!

 連れてきました!!」

 

 鳳さんが外へ響く程の大声をまた吐き出すと、奥の方で頭を抱えていた女性が早歩きでこちらへ歩いてくる。

 薄紫の中に水色のメッシュを入れた髪を揺らす彼女の姿は、正門にて美雲ちゃんを抱き抱えこちらに会釈をした女性と同一の姿だ。

 彼女は抱きついている美雲ちゃんを諌め引き戻すと、興奮気味に鳳さんへ再確認をした。

 

 「鳳さん、こちらの方々が協力してくれるのね?!

 ......自己紹介が遅れたわね、私は3ーB( の )文化祭実行委員会の美雲 (ぎん)

 その節は妹の芽衣留(めいる)が迷惑をかけたわ、ありがとう。」

 

 「いえ、大した事は...」

 

 していない、と咲が謙遜の言葉を言おうとすると、彼女は人差し指で唇を閉じさせ、それを遮った。

 

 「年上からの感謝は素直に受け取っておくものよ?

 ......それじゃあ鳳さんから概要は聞いてると思うけど、協力してほしい事を言うわね。」

 

 

 

 「━━え、奏さんがアイドル部門に出るんですか?!」

 

 「......鳳さん、ちゃんと伝えてから連れてきたの?」

 

 「ごめんなひゃい......」

 

 銀さんから伝えられたのは、わたしにアイドル部門へ出てもらうということ。

 もちろんそんなこと言われて付いて来たわけではないわたしは芽衣留ちゃんを膝に乗せて座ったまま固まり、咲はオーバー気味に驚き、鳳さんは目を><(不等号)にして頬をつねられている。

 

 どうやら出る予定だった人が怪我をしてしまったらしく、銀さん自身も喉の療養のため出られない。

 クラス内でも呼びかけたらしいが当日に言ったところで手を挙げるものはおらず、藁にもすがる思いで鳳さんに頼んだとのこと。

 

 まあ確かに、わたしも咲も歌は歌えるが。

 踊りなどやったことが無い。

 

 絵名や瑞希ならわからないだろうが、わたしに関しては躍る以前の問題だろう。

 ここにまふゆがいたら『やってみたら? いい運動になると思うよ。』なんて言いそうだが、いい運動どころかフルマラソンの様なものだ。

 

 鳳さんの頬から手が離され、ふらふらと銀さんが壁へ寄りかかる。

 そこに追撃を加える様に咲からの「奏さんは運動神経どっか行っちゃってるんですよ、ダンスは出来ない。」

 と言う言葉が刺さった。

 

 ......それは別に言わなくてもいいだろう。

 帰ったら耳掃除どころか耳を舐めてやろうか、その光景を録画してやろうか。

 そんな言わなくていい事を言ったことに対する仕返しを考えていると、膝下の芽衣留ちゃんが姉とは逆の水色に紫が少し入った髪を揺らして駆け出した。

 

 その行き先は銀さんで、しゃがんで考えている彼女に何かを吹き込んだ様だ。

 すると銀さんは力強く目を開き、腰に手を当てて立っている咲へ視線を移す。

 

 「芽衣留、それ本当なの?」

 

 「うん、お兄ちゃんすごいよ!」

 

 一言確認を取り、彼女は無言のまま咲に近づいてその顔を物色する。

 咲は何事かと焦っている様子で逃げようとしたが、すかさず銀さんが両手首を強く掴んで止める。

 こちらへ『助けて』と視線を送ってきたが、近寄るだけ近寄って助けはしない。

 軽い仕返しだ。

 

 「髪は言わずもがな、顔も中性的、声も高め......

 あなた!」

 

 「はいっ!?」

 

 物色を終えると銀さんはその目力を咲の瞳へ向け、一際強くその手を握った。

 咲はと言うと唐突な大声に驚き、裏返った声を返す。

 

 「━━アイドル部門に出てくれるわね!?」

 

 「......僕男ですよ!?」

 

 

 ......まあその後色々あって、僕はアイドル部門に出ることになった。

 仮にも部外者なのだから大丈夫なのか、と銀さんに聞いてみたが、ルール上は問題ないらしい。

 ただやろうとした人がいなかっただけで。

 そうして冒頭に戻り、黙々と踊りの動画を見ながらステップなどの練習に励んでいた。

 

 本番前。

 

 「美雲さん、曲なんですけど......」

 

 「あら、これを流すの?

 ちょっと待ってて、放送係に渡してくるわ。」

 

 僕のスマホを持ち階段を上がっていく美雲さんを見送ると、背中にツンツンと突くような刺激があった。

 振り返れば、そこには奏さんの姿。

 どうかしたのかと口を開こうとすると無言で腕を引かれ、椅子に座らせられる。

 

 そうして膝の上に軽く柔らかいものが乗った。

 下を見れば奏さんがこちらを見上げている。

 

 特に何を考えていたわけでは無い。

 が、無心のままただ引き寄せられる様に彼女の首元へ優しく顎を乗せた。

 声を上げる事こそなかったが、彼女の身体が跳ね上がり僕の歯と歯ががちりと勢いよくぶつかった。

 

 互いに目を合わせれば彼女の目には口を抑えた僕が、僕の目には首を押さえた彼女が映る。

 可笑しい事は何も無いはずなのに、互いに笑ってしまった。

 

 「━━ふふっ。」

 

 「━━あはは。」

 

 少しの間笑い合うと、ねえ、と彼女が口を開く。

 

 「緊張、解けた?」

 

 「ええ。

 もう向こうにいる観客は全員、朝比奈さんだと思う様にします。」

 

 「......それはそれで、怖いけど。」

 

 「確かに。

 ...こんなこと言ってるのがバレたら、セカイで説教されちゃいますね。」

 

 「その時は一緒だから。」

 

 彼女を後ろから抱き、幸せな2人の時間が過ぎる。

 この時間を過ごせるだけで、こうしてただ純情を持つ僕に戻れただけで、ここに来た意味があったと思う。

 それはどうやら奏さんも同じ様だ。

 




 
 テスト期間なので更新が滞るかもしれません。
 楽しみにしてくださっている皆様にはご迷惑をおかけします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。